TヘルパーエピトープおよびB細胞エピトープを含む新規な免疫原性リポペプチド
本発明は、Tヘルパー及びB細胞の共直線エピトープを含む合成免疫原性リポペプチド分子、それらの製造方法、一次及び二次免疫応答の発生における使用、並びに特定の抗原に対する動物被験体のワクチン接種における使用を提供する。より具体的には、本発明は、脂質部分が内部リジン又はリジン類似体の末端側鎖基(好ましくは内部ジアミノ酸残基の末端側鎖基)に結合している、高度に可溶性のリポペプチドを提供する。好ましくは、内部リジン又はリジン類似体は、Tヘルパーエピトープ及びB細胞エピトープの間、又はTヘルパーエピトープ内部に位置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に免疫学の分野に関し、より詳細には、ペプチド免疫原に対して抗体および/または細胞性応答を発生させる試薬、ならびに被験体の免疫応答を高める前記試薬の使用方法、あるいは被験体のワクチン接種のための前記試薬の使用方法に関する。さらにより詳細には、本発明は、免疫原性活性が増強された新規リポペプチド、例えば、薬学的に許容される担体または賦形剤と組み合わせた前記リポペプチドを含む製剤およびワクチン組成物、ならびに本発明の製剤およびワクチン組成物の製造および使用の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1.概記
本明細書は、要約書の後ろに、PatentIn Version 3.1を使用して作成されたアミノ酸配列情報を含む。各配列は、配列表中で数値標識とそれに続く配列識別子(例えば、<210>1、<210>2など)によって区別されている。各配列の長さおよび供給源生物は、それぞれ数値標識フィールド<211>および<213>中に提供される情報によって示される。本明細書中で参照する配列は、「配列番号」とそれに続く配列識別子によって定義される(例えば、配列番号1は、<400>1と命名された配列である)。
【0003】
本明細書で使用する「由来する」という用語は、指定された完全体(integer)を特定の供給源から、必ずしもその供給源から直接に得なくても、得ることができることを示すものと解釈すべきである。
【0004】
本明細書を通して、特別な場合を除いて、「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」、「含むこと(comprising)」などの変形形態は、規定されたステップまたは構成要素または整数、あるいはステップまたは構成要素または整数のグループを含むことを意味するが、他のステップまたは構成要素または整数、あるいは構成要素または整数のグループを排除するものではないことを理解されたい。
【0005】
本明細書に記載する本発明は、具体的に記載されたもの以外の変更形態および改変形態が可能であることを当業者であれば理解しうる。本発明は、このような変更形態および改変形態のすべてを含むと理解すべきである。本発明は、本明細書中で参照するまたは示すステップ、特徴、組成物および化合物のすべてを個々にまたは包括的に含み、前記ステップまたは特徴のあらゆる組合せまたは任意の2つ以上も含む。
【0006】
本発明は、本明細書に記載する具体例によって範囲が限定されるべきではない。機能的に等価な生成物、組成物および方法が、本明細書に記載する本発明の範囲内にあるのは明らかである。
【0007】
本願に引用するすべての参考文献を参照により本明細書に援用する。
【0008】
本発明は、特に示さない限り、分子生物学、微生物学、ウイルス学、組換えDNA技術、溶液中でのペプチド合成、固相ペプチド合成および免疫学の従来技術を使用して、過度の実験を行うことなく実施される。このような手順は、例えば、参照により本明細書に援用する以下のテキストに記載されている。
【0009】
【0010】
関連技術の記載
免疫療法またはワクチン接種は、多様な障害、例えば、ある種の感染症、癌などの予防または治療に有用である。しかし、このような治療の適用および成功は、標的抗原の免疫原性が低いためにある程度制限を受ける。多数のペプチド、糖ペプチド、脂質、リポペプチド、炭水化物などは免疫原性が低い。ペプチド免疫原に対する被験体の免疫応答を高めるためにいくつかの技術が使用されている。
【0011】
例えば完全フロイントアジュバント(CFA)などのペプチド免疫原に対して外来的なアジュバント製剤を利用して、ペプチド免疫原に対する被験体の免疫応答を高めることが知られている(すなわち、使用前に免疫原と混合される)。しかし、現在利用可能なアジュバントの多くは、ヒトに使用するには毒性が強すぎるか、単に無効である。さらに、このタイプのアジュバントは、投与直前にペプチド免疫原と予め製剤化することを必要とする。このような製剤は、可溶性が低く、または不溶性であることが多い。
【0012】
アジュバントとして作用することが知られている脂質部分がペプチド免疫原に共有結合しているリポペプチドは、外来的なアジュバントの不在下で、さもなければ免疫原性の低いペプチドの免疫原性を高めることができる[Jung et al.、Angew Chem、Int Ed Engl 10、872、(1985);Martinon et al.、J Immunol 149、3416、(1992);Toyokuni et al.、J Am Chem Soc 116、395、(1994);Deprez、et al.、J Med Chem 38、459、(1995);およびSauzet et al.、Vaccine 13、1339、(1995);Benmohamed et al.、Eur.J.Immunol.27、1242、(1997);Wiesmuller et al.、Vaccine 7、29、(1989);Nardin et al.、Vaccine 16、590、(1998);Benmohamed、et al.Vaccine 18、2843、(2000);およびObert、et al.、Vaccine 16、161、(1998)]。適切なリポペプチドは、アジュバント製剤に伴う有害な副作用を示さず、リポペプチドに対して抗体と細胞の両方の応答が認められる。
【0013】
脂質部分に使用される様々な脂肪酸がいくつか知られている。代表的な脂肪酸としては、これらだけに限定されないが、パルミトイル基、ミリストイル基、ステアロイル基およびデカノイル基が挙げられ、より一般的には、あらゆるC2〜C30飽和、一不飽和または多価不飽和の脂肪アシル基が有用と考えられる。
【0014】
リポアミノ酸のN−パルミトイル−S−[2,3−ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]システインは、Pam3CysまたはPam3Cys−OHとしても知られ(Wiesmuller et al.、Z.Physiol.Chem.364(1983)、p593)、グラム陰性菌の内膜から外膜に及ぶブラウンのリポタンパク質のN末端部分の合成品である。Pam3Cysは、式(I)の構造を有する:
【化1】
【0015】
Metzgerらの米国特許第5,700,910号(1997年12月23日)は、合成アジュバント、Bリンパ球刺激薬、マクロファージ刺激薬または合成ワクチンとして使用されるリポペプチドの調製において中間体として使用されるいくつかのN−アシル−S−(2−ヒドロキシアルキル)システインを記載している。Metzgerらは、Pam3Cys−OHの合成におけるこのような化合物の中間体としての使用(Wiesmuller et al.、Z.Physiol.Chem.364、p593、1983)、およびN末端にこのリポアミノ酸またはその類似体を含むリポペプチドの使用も教示している。
【0016】
Pam3Cysは、適切なエピトープに結合すると、インフルエンザウイルス感染細胞に対してウイルス特異的細胞傷害性リンパ球(CTL)応答を刺激することができ(Deres et al.、Nature 342、561、1989)、口蹄疫に対する感染防御抗体を誘発すること(Wiesmuller et al.、Vaccine 7、29、1989;Jung et al.の米国特許第6024964号、2000年2月15日)が示されている。
【0017】
最近、Pam3Cysの類似体であるPam2Cys(ジパルミトイル−S−グリセリル−システインまたはS−[2,3−ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]システインとしても知られる)が合成され(Metzger,J.W.、A.G.Beck-Sickinger、M.Loleit、M.Eckert、W.G.Besser、and G.Jung.1995.J Pept Sci 1:184)、マイコプラズマから単離されたマクロファージ活性化リポペプチドMALP−2の脂質部分に相当することが判明した(Sacht,G.、A.Marten、U.Deiters、R.Sussmuth、G.Jung、E.Wingender、and P.F.Muhlradt.1998.Eur J Immunol 28:4207:Muhlradt,P.F.、M.Kiess、H.Meyer、R.Sussmuth、and G.Jung.1998.Infect Immun 66:4804:Muhiradt,P.F.、M.Kiess、H.Meyer、R.Sussmuth、and G.Jung.1997.J Exp Med 185:1951)。Pam2Cysは式(II)の構造を有する:
【化2】
【0018】
Pam2Cysは、Pam3Cysよりも強力な脾細胞およびマクロファージの刺激物質であると報告されている(Metzger et al.、J Pept.Sci 1、184、1995;Muhlradt et al.、J Exp Med 185、1951、1997;およびMuhlradt et al.、Infact Immun 66、4804、1998)。
【0019】
所与の抗原に対して抗体応答を発生させるためには、強いTヘルパー細胞応答を発生させる必要がある。したがって、抗原を少なくとも1個のTヘルパー細胞エピトープとともに投与することが望ましい(Vitiello et al.、J.Clin.Invest 95、341〜349、1995;Livingston et al.、J.Immunol.159、1383〜1392、1997)。しかし、Tヘルパー細胞応答は、抗原提示細胞(APC)表面上のMHCクラスII分子としてペプチド抗原断片を認識するCD4+ T細胞によって付与されるので、加工された形のペプチド抗原の大部分は、MHCハプロタイプの1個または少数の対立遺伝子によってのみ提示される。これによって、所与の抗原性ペプチドに対するTヘルパー応答が、個体の厳密な遺伝的制御下に置かれることになる。
【0020】
ある抗原に対する所与の個体集団の免疫応答における大きな遺伝的変異を防止するために、ある範囲のTヘルパーエピトープを有する大きなタンパク質とともに抗原を投与する。
【0021】
あるいは、乱交雑または許容的Tヘルパーエピトープ含有ペプチドを抗原とともに投与する。乱交雑または許容的Tヘルパーエピトープ含有ペプチドは、圧倒的多数がMHCクラスIIハプロタイプとして提示されるので、非近交系ヒト集団の大多数において強いCD4+ Tヘルパー応答を誘発する。乱交雑または許容的Tヘルパーエピトープの例は、破傷風トキソイドペプチド、プラスモディウム・ファルシパルム(Plasmodium falciparum)pfg27、乳酸デヒドロゲナーゼおよびHIVgp120である(Contreas et al.、Infect.Immun、66、3579〜3590、1998;Gaudebout et al.、J.A.I.D.S.Human Retrovirol 14、91〜101、1997;Kaumaya et al.、J.Mol.Recog.6、81〜94、1993;およびFern and Good J.Immunol.148、907〜913、1992)。また、Ghosh et al.、Immunol 104、58〜66、2001および国際特許出願第PCT/AU00/00070号(WO 00/46390)は、イヌジステンパーウイルス(CDV−F)融合タンパク質に由来するTヘルパーエピトープを記載している。ある種の乱交雑Tヘルパーエピトープは、所与の抗原に対する強いB細胞応答を誘発し、ある種のハプロタイプに限定された免疫応答を回避することができる(Kaumaya et al.、J.Mol.Recog.6、81〜94、1993)。
【0022】
ワクチン製剤は、常に、Tヘルパー細胞エピトープおよび抗原エピトープを含むポリペプチドの混合物を含むが、Tヘルパーエピトープと抗原エピトープの両方を含む単一ポリペプチドを投与することも知られている(例えば、Ghosh and Jackson、Int.Immunol.11、1103、1999)。
【発明の開示】
【0023】
本発明に至る研究において、本発明者らは、脂質部分と、免疫応答が望まれるTヘルパーエピトープと抗原性B細胞エピトープの両方を含むポリペプチド部分とを有する高免疫原性リポペプチドを製造しようとした。本発明のリポペプチドは、ポリペプチド部分の内部リジンまたは内部リジン類似体、例えば、オルニチン、ジアミノプロピオン酸、ジアミノ酪酸などの末端側鎖アミノ基を介して結合している脂質部分を有する。これは、既報のN末端結合ともC末端結合とも異なる(Grass-Masse et al.Vaccine、14、375、1996)。
【0024】
したがって、前記1個または複数のリジン残基またはリジン類似体残基をペプチド合成中にポリペプチド内の所定の位置に置くことによって、脂質の結合部位を容易に指定することができる。したがって、リポペプチド中の脂質部分の位置は、ワクチンまたはアジュバント製剤用最終産物の有用性を高めることを目標に決定される。
【0025】
驚くべきことに、本発明者らは、Tヘルパーエピトープと抗原の各アミノ酸配列間に位置する内部リジン残基の側鎖ε−アミノ基または内部リジン類似体残基の末端側鎖基を介して脂質部分が結合すると、多くの例においてリポペプチド産物の可溶性が高くなることを見出した。
【0026】
本発明のリポペプチドによって提供される1つの利点は、これらのリポペプチドを含むワクチン製剤中に外来的なアジュバントを含めることが一般に不要なほどに十分な免疫原性を有することである。
【0027】
本発明が、Tヘルパーエピトープまたは抗原のアミノ酸配列中に存在する内部リジン残基のε−アミノ基または内部リジン類似体残基の末端側鎖基を介した脂質部分の結合を包含することは明白であり、唯一の要件は脂質部分がペプチドのN末端にもC末端にも結合していないことである。本明細書に例示するとおり、本発明者らは、例えば、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置するリジンのεアミノ基に脂質が付加したリポペプチドと比較して、対象リポペプチドの免疫応答発生能力を損なわずに、Tヘルパーエピトープ内の内部リジン残基のεアミノ基に脂質が結合できることを明確に示した。
【0028】
「内部」とは、Tヘルパーエピトープおよび抗原性B細胞エピトープを含むポリペプチドのN末端またはC末端以外の位置を意味する。
【0029】
脂質部分は、Tヘルパーエピトープと抗原性B細胞エピトープの各アミノ酸配列間に位置するリジン残基のεアミノ基、または内部リジン類似体残基の末端側鎖基を介してペプチド部分に結合することが好ましい。
【0030】
当業者には知られているとおり、商業ベースでワクチン製剤を製造するためには、抗原の可溶性は極めて望ましい。この点で、本発明者らは、本発明の最も有効なリポペプチドが高度に可溶性であることを見出した。外部アジュバントの不在下で抗体応答を誘発する本発明のリポペプチドの相対能力は、未成熟樹状細胞(DC)上のMHCクラスII分子の表面発現をアップレギュレートする能力によって示された。
【0031】
本明細書に例示するとおり、脂質部分の構造は、得られるリポペプチドの活性には本質的ではなく、パルミチン酸、ラウリン酸、ステアリン酸またはオクタン酸を含む脂質部分を、免疫原性を損なうことなく使用することができる。したがって、本発明は、特に指定しない限り、または特段の必要性がない限り、脂質部分の構造に限定されるべきではない。
【0032】
同様に、複数の脂質部分をペプチド部分に付加することは一般に不要であるが、特に指定しない限り、または特段の必要性がない限り、本発明に包含される。本明細書に例示するとおり、ペプチド部分、例えば、Tヘルパーエピトープ内部の位置、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間の位置などへの複数の脂質部分の付加は、単一の結合脂質部分しか持たないペプチドと比較して、リポペプチドのIgG産生刺激能力に悪影響を及ぼさない。
【0033】
ポリペプチドが好都合には単一アミノ酸鎖として合成され、そのため両方のエピトープを組み込む合成後の改変が不要であることは以上のことから明らかである。
【0034】
場合によっては、例えば、TヘルパーとB細胞エピトープの間などの脂質部分が結合する内部リジンまたはリジン類似体のどちらか一方の側に、アミノ酸スペーサーを付加してもよい。
【0035】
本明細書に例示するとおり、本発明者らは、合成ペプチド部分中のTヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する内部リジン残基の露出したε−アミノ基に、スペーサーとともにまたはスペーサーなしで脂質部分を結合させることによって本発明のリポペプチドを製造した。この状況において特に好ましいスペーサーは、セリン二量体、三量体、四量体などである。
【0036】
従来の任意のタイプのスペーサーを、脂質部分とポリペプチド部分の間に付加することもできる。本発明において特に好ましいスペーサーは、アルギニン、またはセリン二量体、三量体、四量体などである。あるいは、6−アミノヘキサン酸スペーサーを使用することができる。
【0037】
別のスペーサーも企図される。例えば、スペーサーを、脂質部分に付加する前に、内部リジンの露出したεアミノ基、または内部リジン類似体の末端側鎖基に付加することができる。
【0038】
あるいは、式(III)または(IV)のリポアミノ酸を、内部リジン残基のεアミノ基、または内部リジン類似体の末端側鎖基に直接付加することができる。
【0039】
やはり本明細書に例示するとおり、本発明のリポペプチドは、動物被験体に投与すると、B細胞エピトープ部分に対する高力価抗体の産生を、類似の抗体価を得るためにアジュバントを必要とすることなく誘導する。この有用性は、対象リポペプチドの投与後に樹状細胞の成熟が促進される(すなわち、脂質がN末端に結合したリポペプチドと比較して抗原提示が増強される)ことによって裏付けられる。
【0040】
やはり本明細書に例示するとおり、LHRHの抗原性B細胞エピトープを含む本発明のリポペプチドは、不妊を誘発すべき他の哺乳動物を代表するマウスモデルにおいて、不妊を誘発することができる。本発明のリポペプチドによってLHRHに対する抗体が持続的に産生されることは、液性免疫の誘導における対象リポペプチドの一般的有用性、およびワクチン製剤中の活性剤としての対象リポペプチドの一般的有用性を示している。
【0041】
やはり本明細書に例示するとおり、A群ストレプトコッカス(Streptococcus)(本明細書では「GAS」)のMタンパク質の抗原性B細胞エピトープを含む本発明のリポペプチドは、GASに対するワクチン接種が必要なヒトおよび他の哺乳動物の代表であるマウスモデルにおいて保護作用を誘導することができる。本明細書が提供するデータによれば、本発明のリポペプチドは、GASに対する抗体(血清IgGと唾液および糞便IgAの両方)の持続的産生、およびGASのオプソニン化を誘導することができ、その後のGAS曝露に対して動物を延命させることができる。これらのデータは、液性免疫の誘導における対象リポペプチドの一般的有用性、およびGASに対するワクチン製剤中の活性剤としての対象リポペプチドの一般的有用性を示している。
【0042】
やはり本明細書に例示するとおり、ガストリン(「ペンタガストリン」)の抗原性B細胞エピトープを含む本発明のリポペプチドは、胃酸分泌の阻害が必要な他の哺乳動物のマウスモデルにおいて、ガストリンおよび/またはコレシステキニン(cholecystekinin)に対する抗体の持続的産生を誘導することができる。本明細書が提供するデータは、ガストリンに対する液性免疫およびガストリンの免疫中和を誘導し、それによって、高ガストリン血症、ゾリンジャーエリソン症候群、胃酸の過剰および無秩序な分泌による胃潰瘍または十二指腸潰瘍に罹患している動物における胃酸分泌を遮断し、膵臓または十二指腸におけるガストリン依存性腫瘍の形成を抑制または防止(すなわち、ガストリノーマの予防および/または治療)する対象リポペプチドの一般的有用性を実証している。
【0043】
当業者には明白であるとおり、TヘルパーおよびB細胞エピトープの性質は、本発明においては重要でない。構築体のポリペプチド部内の1個または複数の内部リジン残基またはリジン類似体残基のεアミノ基に脂質部分を結合させる新規な手法は、広範な応用分野を有する。したがって、本明細書が提示する結果に基づいて、多様なTヘルパーエピトープおよびB細胞エピトープをリポペプチド構築体に使用できることを理解されたい。
【0044】
実際に、本明細書が例示する広範な応用例は、抗原性B細胞エピトープに対する免疫応答の発生が必要なヒトおよび他の哺乳動物においていくつかの様々な症状の予防および治療における本発明のリポペプチドの一般性を示している。したがって、本発明は、特定の症状、不調または病態の治療だけに限定されない。
【0045】
図面の説明
図1は、合成ペプチドおよびリポペプチド(左)の構造、ならびに生理食塩水中のこれらのペプチドおよびリポペプチドの相対的な可溶性(右)を示した図である。ペプチドを以下のとおり命名した:
(1)インフルエンザウイルス赤血球凝集素の軽鎖(配列番号1)またはCDV−Fに由来するペプチドP25(配列番号24)からのCD4+ Tヘルパーエピトープから構成される[Th]、
(2)LHRHの残基1〜10(配列番号2)、LHRHの残基2〜10(配列番号3)、またはLHRHの残基6〜10(配列番号4)からなるB細胞エピトープ;A群ストレプトコッカスのMタンパク質のB細胞エピトープ(「ペプチドJ14」;配列番号101);あるいはガストリンのC末端5残基内に含まれるガストリン(すなわち、「ペンタガストリン」)のB細胞エピトープ(配列番号102)から構成される[B]、
(3)(1)と(2)を有するポリペプチド(例えば、配列番号5、103、104、105、107、109または111)から構成される[Th]−[B]、および
(4)リジン残基によって分離された(1)と(2)を有するポリペプチド(例えば、配列番号7、9、13、106、108、110または112)から構成される[Th]−Lys−[B]。
【0046】
リポペプチドを以下のとおり命名した:
(1)上記ペプチド[Th]−[B]のN末端(すなわち、例えば、配列番号5、103、104、105、107、109または111のいずれか1個のN末端)にコンジュゲートされた式(I)の脂質から構成されるPam3Cys−[Th]−[B]、
(2)上記ペプチド[Th]−[B]のN末端(すなわち、例えば、配列番号5、103、104、105、107、109または111のいずれか1個のN末端)にコンジュゲートされた式(III)のリポアミノ酸から構成されるPam3Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]、
(3)上記ペプチド[Th]−[B]のN末端(すなわち、例えば、配列番号5、103、104、105、107、109または111のいずれか1個のN末端)にコンジュゲートされた式(II)の脂質から構成されるPam2Cys−[Th]−[B]、
(4)上記ペプチド[Th]−[B]のN末端(すなわち、例えば、配列番号5、103、104、105、107、109または111のいずれか1個のN末端)にコンジュゲートされた式(IV)の脂質から構成されるPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]、
(5)ペプチド[Th]−Lys−[B](例えば、配列番号7、9、13、106、108、110または112のいずれか1個)と前記ペプチドの内部リジン(Lys)のε−アミノ基にコンジュゲートされた式(I)の脂質とから構成される[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]、
(6)ペプチド[Th]−Lys−[B](例えば、配列番号7、9、13、106、108、110または112のいずれか1個)と前記ペプチドの内部リジン(Lys)のε−アミノ基にコンジュゲートされた式(II)の脂質とから構成される[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]、および
(7)内部リジン(Lys)のεアミノ基を介してセリンホモ二量体(すなわち、Ser−Ser)、次いで式(II)の脂質に順次コンジュゲートされたペプチド[Th]−Lys−[B](例えば、配列番号7、9、13、106、108、110または112のいずれか1個)から構成される[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]。したがって、この分枝リポペプチドを製造するために、リジン残基のε−アミノ基に2個のセリン残基を付加した後に脂質部分を結合させた。
【0047】
インフルエンザウイルス赤血球凝集素Tヘルパーエピトープ(配列番号1)およびLHRH1〜10 B細胞エピトープ(配列番号2)に基づくペプチドおよびリポペプチドの低可溶性(−)から高可溶性(++++)までの相対的な可溶性を図の右側に示す。
【0048】
図2は、図1において[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B](左)およびPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B](右)と命名されたリポペプチドの可溶性を示す写真である。ここで、ポリペプチド部分は、それぞれ配列番号7および配列番号5で示されるアミノ酸配列を有する。両方の溶液は、約1mg/mlのリポペプチド生理食塩水である。リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]を含む溶液の高い透明性は、リポペプチドPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]よりも高度に可溶性であることを示している。
【0049】
図3は、図1に示すペプチドおよびリポペプチドの各々を用いて得られる抗LHRH抗体価を示すグラフである。ここで、ポリペプチド部分は、配列番号5または配列番号7で示されるアミノ酸配列を有する。Pam3Cys−Ser−Lys4で示される陰性対照リポペプチドは、アミノ酸配列がSer−Lys−Lys−Lys−Lys(配列番号17)のペプチドのN末端にコンジュゲートされた式(I)の脂質から構成された。一次接種(白丸)と二次接種(黒丸)の両方ですべてのペプチドおよびリポペプチドを生理食塩水に溶解して皮下(s.c.)投与した。2個の非脂質付加ペプチド[Th]−Lys−[B]および[Th]−[B]を、一次接種では完全フロイントアジュバント(CFA)に入れて、二次接種では不完全フロイントアジュバント(IFA)に入れて投与した。ペプチド[Th]−[B]をリポペプチドPam3Cys−S−Lys4と組み合わせて投与する場合には、ペプチドを生理食塩水に溶解し、図示したように1:1または1:5モル比でリポペプチドと混合した。投与したペプチド免疫原およびリポペプチド免疫原の用量は20nmolであった。すべての場合において、対照動物グループには、初回抗原刺激ではCFAに乳化した生理食塩水、および二次接種ではIFAに乳化した生理食塩水を投与した。
【0050】
図4は、リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B](配列番号7)の接種後の二次抗体応答中に得られたまたは誘発された、各抗LHRH抗体アイソタイプ(すなわち、IgM、IgA、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3および総Ig)(横軸)に対する抗LHRH抗体価(log10)(縦軸)を示すグラフである。2回目の用量のリポペプチドワクチンの生理食塩水溶液を皮下(白四角)または鼻腔内(黒四角)投与してから2週間後にマウスから採血した。
【0051】
図5は、図1に示したペプチドおよびリポペプチド(すなわち、配列番号5または配列番号7)が、樹状細胞表面上のMHCクラスII分子の発現を増強させる相対能力を示すグラフである。ペプチドおよびリポペプチドを図1の命名法に従って各パネル中に示す。各ペプチドまたはリポペプチドに対して、8×104個のD1細胞を4.5fmolのペプチドまたはリポペプチドに暴露し、終夜インキュベートした。細胞を回収し、FITC複合抗l−Ek,dモノクローナル抗体で染色後にMHCクラスII分子発現をフローサイトメトリーによって測定した。各試料について約3×104個のD1細胞を分析した。示したデータは、4回の独立した実験の代表的なものであり、リポペプチド、特にリポ多糖(LPS)に曝露されたD1細胞で認められるレベルに近いD1成熟速度を誘導するリポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]の投与後のモノクローナル抗体による染色性の向上(すなわち、D1細胞成熟の促進)を示している。非脂質付加ペプチド[Th]−Lys−[B]を用いて得られるデータは、ペプチド、リポペプチドまたはLPSを添加しない培地中でインキュベートしたD1細胞の場合と実質的に同じであり、これは約26%の自然成熟速度である。
【0052】
図6は、脂質付加[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]によって誘発される抗LHRH抗体応答を示すグラフである。ここで、[Th]は、インフルエンザ赤血球凝集素の軽鎖に由来するCD4+ T細胞エピトープ(配列番号1)からなり、[B]は、LHRH1〜10(配列番号2)またはLHRH6〜10(すなわち、LHRHのC末端5残基;配列番号4)であり、脂質部分とペプチド部分の間に位置するセリンスペーサー(Ser−Ser)が存在してもしなくてもよい。リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys)−GlyLeuArgProGlyは、[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]に構造的に類似しているが、このリポペプチドは、配列番号2の代わりに配列番号4を含む。
【0053】
図7は、TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。ここで、ペプチド部分は、配列番号9で示されるアミノ酸配列を有し、脂質部分は、(1)Pam2Cys、(2)Ste2Cys、(3)Lau2Cysおよび(4)Oct2cysからなる群から選択される。以下の様々なスペーサー、すなわち(1)Ser−Ser、2個のセリン残基;(2)Arg−Arg、2個のアルギニン残基;および(3)Ahx、6−アミノヘキサン酸、も脂質部分とペプチド部分の間に位置した。リポペプチドの構造を左カラムに示す。各リポペプチドのHPLCクロマトグラムを中間のカラムに示す。質量スペクトルを図の右カラムに示す。
【0054】
図8は、ペプチドと脂質部分の間にSer−Serスペーサーを有する図7の説明に示すリポペプチドの免疫原性を示すグラフである。ここで、脂質部分は、(1)Pam2Cys、(2)Ste2Cys、(3)Lau2Cysおよび(4)Oct2cysからなる群から選択される。BALB/cマウス(6〜8週齡)の各グループに、一次と二次ワクチン接種の両方でペプチド免疫原20nmolを皮下接種した。すべてのリポペプチドを生理食塩水に溶解して投与した。対照として、非脂質付加ペプチド[Th]−Lys−[B]をCFAに入れて投与した。一次ワクチン接種後4週目(白丸)および二次ワクチン接種後2週目(黒丸)に採取した血液から血清を得た。
【0055】
図9は、脂質部分とペプチド部分の間に位置する様々なスペーサーを有する図7のリポペプチド免疫原の免疫原性を示すグラフである。特に、スペーサーは、セリンホモ二量体(Ser−Ser)、アルギニンホモ二量体(Arg−Arg)または6−アミノヘキサン酸(Ahx)からなる。BALB/cマウス(6〜8週齡)の各グループに、一次と二次ワクチン接種の両方でペプチド免疫原20nmolを皮下接種した。すべてのリポペプチドを生理食塩水に溶解して投与した。対照として、非脂質付加ペプチド[Th]−Lys−[B]をCFAに入れて投与した。一次ワクチン接種後4週目(白丸)および二次ワクチン接種後2週目(黒丸)に採取した血液から血清を得た。
【0056】
図10は、リポペプチド構築体[Th](Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]の品質管理データを示すグラフである。ここで、脂質部分は、配列番号103で示されるペプチドのヘルパーT細胞エピトープ内の内部リジン残基(Lys−14)のε−アミノ基に結合(pendant)している。リポペプチドの構造を左カラムに示す。リポペプチドのHPLCクロマトグラムを中間のカラムに示す。質量スペクトルデータを図の右カラムに示す。
【0057】
図11は、図10の説明に記載したリポペプチド免疫原の免疫原性を、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する内部リジン残基に付加した脂質部分を有するリポペプチド免疫原と比較して示すグラフである(すなわち、脂質部分が、配列番号9で示すアミノ酸配列に付加しており、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に付加した内部リジンを有する点で配列番号103とは異なる)。配列番号9で示されるアミノ酸配列を有する対照の非脂質付加ペプチド(すなわち、[Th]−Lys−[B])も対照として用いた。BALB/cマウス(6〜8週齡)の各グループに、一次と二次ワクチン接種の両方でペプチド免疫原20nmolを皮下接種した。すべてのリポペプチドを生理食塩水に溶解して投与した。対照の非脂質付加ペプチド[Th]−Lys−[B]をCFAに入れて投与した。一次ワクチン接種後4週目(白丸)および二次ワクチン接種後2週目(黒丸)に採取した血液から血清を得た。リポペプチド構築体[Th](Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]は、ヘルパーT細胞エピトープ内のリジン残基(Lys−14)のε−アミノ基に結合した脂質部分を有する。リポペプチド構築体[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]は、2個のペプチドエピトープ間に位置するリジン残基のε−アミノ基に結合した脂質を有する。
【0058】
図12は、TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびA群ストレプトコッカスB細胞エピトープ(「J14」;配列番号101)を含み、配列番号106のアミノ酸配列、ならびに1個または2個の脂質部分を有するリポペプチドのマウスにおける血清IgG誘導能力を示すグラフである。すべての試験リポペプチドにおいて、リポアミノ酸部分Pam2Cys−Ser−Serは、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する内部リジンに付加した。リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[J14]においては、これが唯一の脂質部分であるのに対して、リポペプチドPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[J14]においては、別のリポアミノ酸部分Pam2Cys−Ser−SerをTヘルパーエピトープのN末端アミノ基に付加した。他の免疫原は以下のとおりであった。すなわち、J14 B細胞エピトープ含有ペプチド(配列番号101)からなる非脂質付加ペプチドJ14、Tヘルパーエピトープ(配列番号24)とJ14ペプチド(配列番号101)からなり、配列番号106のアミノ酸配列を有する非脂質付加ペプチド[Th]−[J14]、Tヘルパーエピトープ(配列番号24)とLHRH B細胞エピトープ含有ペプチド(配列番号3)からなり、配列番号9のアミノ酸配列を有する脂質付加ペプチド、ならびにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)であった。4〜6週齡の非近交系クァッケンブッシュ(Quackenbush)雌マウス(15/グループ)にペプチドを主体とするワクチン60μgを総量30μlのPBSに溶解して鼻腔内接種した。マウスにワクチンを21日間隔で3回投与した。最終投与から7日後に、マウスの尾静脈から採血し、J14特異的血清IgGを測定した。いずれかのJ14含有リポペプチドを与えたマウスは、対照グループよりも有意に高い(P<0.05)血清IgG力価を示した。
【0059】
図13は、図12の説明に示した非脂質付加ペプチドおよびリポペプチドによって誘発される抗血清のオプソニン化能力を示すグラフである。4〜6週齡の非近交系クァッケンブッシュ雌マウス(15/グループ)に、ペプチドを主体とするワクチン60μgを総容積30μlのPBSに溶解して鼻腔内接種した。マウスにワクチンを21日間隔で3回投与した。間接的な殺菌アッセイを実施して、免疫マウスから得た血清がM1 GAS系統をインビトロでオプソニン化するまたは「死滅させる」かどうかを判定した。いずれかのJ14含有リポペプチドで免疫されたマウスから採取した血清は、対照ペプチドまたはリポペプチドまたはPBSで免疫されたマウスから採取した血清よりもGASを有意に死滅させることができた(P<0.05)。
【0060】
図14は、図12の説明に示した非脂質付加ペプチドおよびリポペプチドがマウスにおいて唾液IgAを誘発する能力を示すグラフである。4〜6週齡の非近交系クァッケンブッシュ雌マウス(15匹/グループ)に、各ペプチドを主体とするワクチン60μgを総容積30μlのPBSに溶解して鼻腔内接種した。マウスにワクチンを21日間隔で3回投与した。最終投与から8日後に、個々のマウスから唾液を採取し、J14−特異的唾液IgA平均抗体価を標準ELISAによって求めた。いずれかのJ14含有リポペプチドを接種したマウスは、対照ペプチドまたは対照リポペプチドまたはPBSで免疫された対照グループよりも有意に高い力価を示した(P<0.05)。
【0061】
図15は、図12の説明に示した非脂質付加J14含有ペプチドおよびJ14含有リポペプチドがマウスにおいて糞便IgAを誘発する能力を示すグラフである。4〜6週齡の非近交系クァッケンブッシュ雌マウス(15匹/グループ)に、ペプチドを主体とするワクチン60μgを総容積30μlのPBSに溶解して鼻腔内接種した。マウスにワクチンを21日間隔で3回投与した。抗原の最終投与から6日後に糞便IgAを求めた。脂質部分がTヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する単一脂質付加J14含有ペプチド(すなわち、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[J14])を接種したマウスのみが、有意(P<0.05)な糞便IgA力価を示した。
【0062】
図16は、図12の説明に示した非脂質付加ペプチドおよびリポペプチドを接種した後の細菌を用いた生存試験に対するマウスの能力を示すグラフである。抗原の最終投与から2週間後に、M1 GAS系統をマウスに鼻腔内投与し、その後様々な時点で生存しているかどうかを確認した。脂質部分がTヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する単一脂質付加J14含有ペプチド(すなわち、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[J14])を接種したマウスは、投与後最も良い生存率を示した。
【0063】
図17は、ガストリンに基づくリポペプチド免疫原の免疫原性を示すグラフである。BALB/cマウス(6〜8週齢)のグループ(5動物/グループ)に、ペプチド免疫原20nmolを尾の付け根に皮下接種した。使用したペプチドは、ガストリン−17(配列番号113);ペンタガストリンが(配列番号102)で示されるガストリンのC末端配列GWMDFである[P25]−Lys−[ペンタガストリン](配列番号110);および[P25]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[ペンタガストリン](脂質が内部リジン残基に付加した配列番号110)であった。すべてのリポペプチドをPBS溶液として投与し、非脂質付加ペプチドをCFAに入れて投与した。陰性対照は、CFAで乳化した生理食塩水であった。免疫から4週後にマウスから血清を得た。同時に、ほぼ同じ用量の2回目の抗原をマウスに投与した。2回目の抗原投与から2週間後に2回目の採血を行い、ペプチドガストリン−17配列と反応可能な抗体をELISAによって検出した。結果を抗ガストリン−17抗体力価として表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
リポペプチド
本発明の一態様は、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含む単離リポペプチドを提供する。ここで、
(i)前記ポリペプチドは、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列およびB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、ならびに
(b)内部リジンまたは内部リジン類似体のε−アミノ基または末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々が共有結合するための1個または複数の前記内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含むアミノ酸配列を含み、
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個または複数の内部リジン残基のε−アミノ基または前記内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的または間接的に共有結合している。
【0065】
本明細書で使用する「リポペプチド」という用語は、直接的または間接的にコンジュゲートされた1個または複数の脂質部分と1個または複数のアミノ酸配列とを含む任意の非天然組成物を意味する。前記組成物は、非特異的なコンジュゲートされていない脂質またはタンパク質を実質的に含まない。
【0066】
「直接的に」とは、脂質部分とアミノ酸配列がスペーサー分子によって分離されていないことを意味する。
【0067】
「間接的に」とは、脂質部分とアミノ酸配列が、1個または複数の炭素含有分子、例えば、1個または複数のアミノ酸残基などを含むスペーサーによって分離されていることを意味する。
【0068】
アミノ酸配列は、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの両方の官能基の要件によって制約される任意の長さにすることができる。
【0069】
本明細書で使用する、「内部リジン残基」という用語は、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの両方を含むポリペプチド中のリジン残基を意味し、前記リジンは前記ポリペプチドのN末端アミノ酸残基でもC末端残基でもない。これは、脂質部分が結合する内部リジン残基が、Tヘルパー細胞エピトープのアミノ酸配列、または抗原のアミノ酸配列中に存在する残基であることを意味する。また内部リジン残基は、TヘルパーエピトープともB細胞エピトープとも異なることができ、その場合には、内部リジン残基は、ポリペプチドのこれらの2個のエピトープを連結しなければならない。
【0070】
同様に、「内部リジン類似体残基」という用語は、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの両方を含むポリペプチド中のリジン類似体残基を意味し、前記リジン類似体は前記ポリペプチドのN末端アミノ酸残基でもC末端残基でもない。リジン残基が「内部」であるかどうかを確認する判定基準は、リジン類似体が内部であるかどうかの判定を準用する。
【0071】
「リジン類似体」とは、アミノ側鎖を有するアミノ酸類似体または非天然アミノ酸を含めて、脂質部分が結合できる適切な側鎖を有するペプチドの内部に組み込むことができる合成化合物を意味する。好ましいリジン類似体としては、以下の一般式(V)の化合物などがある:
【化3】
【0072】
〔式中、nは0〜3の整数であり、Xは、NH、OおよびSからなる群から選択される、前記内部リジン類似体残基の末端側鎖基である。より好ましくは、nは1〜3の整数である。より好ましくは、Xは、アミノ基であり、リジン類似体はジアミノ化合物である。特に好ましい実施形態においては、リジン類似体は、2,3ジアミノプロピオン酸(Dpr)、2,4−ジアミノ酪酸(Dab)および2,5−ジアミノ吉草酸[すなわち、オルニチン(Orn)]からなる群から選択される〕。
【0073】
当業者は、「ε−アミノ基」という用語の意味を知っているはずである。
【0074】
「末端側鎖基」という用語は、前記類似体のα炭素の遠位にあるリジン類似体の側鎖上の置換基、例えば、Dprのβ−アミノ、Dabのγ−アミノ、Ornのδ−アミノなどを意味する。
【0075】
本発明者らは、最も有効なリポペプチドは高度に可溶性であることを見出した。外部アジュバントの不在下で抗体応答を誘発する本発明のリポペプチドの相対能力は、未成熟樹状細胞(DC)、特にWinzler et al J Exp Med 185、317、1997)に記載されたD1細胞上のMHCクラスII分子の表面発現をアップレギュレートし得ることによって示された。
【0076】
当業者には公知のとおり、リジンのεアミノ基は、このアミノ酸の側鎖の末端アミノ基である。リジンのεアミノ基またはリジン類似体の末端側鎖基を脂質部分への架橋に使用すると、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの両方を組み込んだ共直線アミノ酸配列としてのポリペプチド部分の合成が容易になる。脂質がリジン残基のεアミノ基、またはリジン類似体の末端側鎖基を介して結合したリポペプチドと、リジンのαアミノ基を介して結合した脂質を有するリポペプチドとの構造上の違いは明白である。というのは、後者のリポペプチドは、N末端残基にコンジュゲートされた脂質部分しか有することができないからである。
【0077】
したがって、脂質部分が結合する少なくとも1個の内部リジン残基または内部リジン類似体は、免疫学的に機能するエピトープを分離するようにポリペプチド部分内に位置することが特に好ましい。例えば、内部リジン残基または内部リジン類似体残基は、各エピトープ間のスペーサーおよび/または連結残基として作用することができる。内部リジンまたは内部リジン類似体がTヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する場合には、ポリペプチドのアミノ酸配列から分枝が形成されるにもかかわらず、脂質部分がこれらのエピトープ間の位置に結合することは言うまでもない。単一の内部リジン残基または内部リジン類似体を使用してB細胞エピトープとTヘルパーエピトープを分離することが好ましい(例えば、配列番号7、9、13、106、108、110または112のいずれか1個)。この場合には、脂質部分は、Tヘルパーエピトープと抗原性B細胞エピトープの各アミノ酸配列の間に位置するリジン残基のεアミノ基、またはリジン類似体の末端側鎖基を介して結合する。
【0078】
内部リジンのεアミノ基、またはリジン類似体の末端側鎖基は、他のアミノ酸のα−アミノ基および側鎖官能基を保護するために使用される化学基と直交性の化学基によって保護することができる。このようにして、リジンのεアミノ基またはリジン類似体の末端側鎖基を選択的に露出させて、εアミノ基または末端側鎖基の特異的な脂質含有部分などの化学基を適宜結合させることができる。
【0079】
Fmoc化学を利用したペプチド合成の場合には、適切な直交性に保護されたリジンのε基は、修飾アミノ酸残基Fmoc−Lys(Mtt)−OH(Nα−Fmoc−Nε−4−メチルトリチル−L−リジン)によって与えられる。類似の適切な直交性保護側鎖基、例えば、Fmoc−Orn(Mtt)−OH(Nα−Fmoc−Nδ−4−メチルトリチル−L−オルニチン)、Fmoc−Dab(Mtt)−OH(Nα−Fmoc−Nγ−4−メチルトリチル−L−ジアミノ酪酸)およびFmoc−Dpr(Mtt)−OH(Nα−Fmoc−Nβ−4−メチルトリチル−L−ジアミノプロピオン酸)が、本明細書で企図される様々なリジン類似体に利用可能である。側鎖保護基Mttは、リジンまたはリジン類似体のαアミノ基上に存在するFmoc基が除去される条件では安定であるが、トリフルオロ酢酸の1%ジクロロメタン溶液で選択的に除去することができる。Fmoc−Lys(Dde)−OH(Nα−Fmoc−Nε−1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロへキシ−1−イリデン)エチル−L−リジン)またはFmoc−Lys(ivDde)−OH(Nα−Fmoc−Nε−1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロへキシ−1−イリデン)−3−メチルブチル−L−リジン)も本発明において使用することができる。ここで、Dde側鎖保護基は、ペプチド合成中にヒドラジンで処理して選択的に除去される。
【0080】
Boc化学を利用したペプチド合成の場合には、Boc−Lys(Fmoc)−OHを使用することができる。側鎖保護基Fmocは、ピペリジンまたはDBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン)で処理して選択的に除去することができるが、トリフルオロ酢酸を用いてα末端からBoc基を除去するときには所定の位置に残留する。
【0081】
本発明のリポペプチドにおけるTヘルパーエピトープとB細胞エピトープの最適距離、したがって、内部リジンまたはリジン類似体残基の正確な位置および数は、Tヘルパーエピトープ、B細胞エピトープおよび脂質の各組合せに対して経験的に容易に決定される。合成ペプチドおよびポリペプチドの場合には、ポリペプチドを調製するのに使用される合成方法の制約によって、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの実現可能な分離、内部リジンまたはリジン類似体残基の数および位置をある程度決めることができる。
【0082】
好ましくは、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープは、単一の内部リジン残基またはリジン類似体残基を含めて、少なくとも1個、2個、3個、4個または5個のアミノ酸残基によって分離される。
【0083】
本発明は、ポリペプチド部分に対する複数の脂質部分の付加を明確に企図する。これを達成するために、ポリペプチドは、複数の内部リジン残基または複数の内部リジン類似体残基またはそれらの組合せを含むことができる。複数の内部リジンまたはリジン類似体残基がより近くに位置する場合には、脂質を付加する際に立体障害が起こり、それによって最終生成物の混合物が製造され、または収率が低下する恐れがある。
【0084】
この考察に関連して、Tヘルパーエピトープを含むアミノ酸配列全体、またはB細胞エピトープを含むアミノ酸配列全体が免疫機能を有する必要はない。したがって、前記アミノ酸配列は、前記エピトープを含みながら、Tヘルパー細胞活性またはB細胞エピトープを含まない配列をさらに有することができる。このような追加の配列が1個または複数の内部リジンまたはリジン類似体残基を含む場合には、このような残基の末端側鎖基は、脂質部分の結合部位として働くことができる。Tヘルパー機能およびB細胞エピトープ機能を保持することが必須であることは言うまでもない。
【0085】
脂質部分が結合する内部リジン残基または内部リジン類似体の位置も、脂質部分の結合が、リポペプチドを投与する被験体におけるTヘルパーエピトープまたはB細胞エピトープの免疫機能を妨げないように選択すべきである。例えば、脂質部分の選択によっては、B細胞エピトープ内の前記脂質の結合が抗原提示の立体障害になり得る。
【0086】
内部リジンまたは内部リジン類似体がTヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する本発明のリポペプチドの一般化された好ましい形態は、一般式(VI)によって示される:
【化4】
【0087】
〔式中、
エピトープは、TヘルパーエピトープまたはB細胞エピトープであり、
Aは、存在しても存在しなくてもよく、約1〜約6アミノ酸長のアミノ酸スペーサーからなり、
nは、1、2、3または4の整数であり、
Xは、NH、OおよびSからなる群から選択される末端側鎖基であり、好ましくはNHからなり、
Yは、存在しても存在しなくてもよく、約1〜約6アミノ酸長のスペーサーからなり、前記スペーサーは、アルギニン、セリンまたは6−アミノヘキサン酸を含むことが好ましく、
Zは、脂質部分、好ましくはPam2Cys、Pam3Cys、Ste2Cys、Lau2CysおよびOct2Cysからなる群から選択されるリポアミノ酸部分である〕。
【0088】
当業者は、Ste2Cysが、S−[2,3−ビス(ステアロイルオキシ)プロピル]システインまたはジステアロイル−S−グリセリル−システインとしても知られ、Lau2Cysが、S−[2,3−ビス(ラウロイルオキシ)プロピル]システインまたはジラウロイル−S−グリセリル−システイン)としても知られ、Oct2Cysが、S−[2,3−ビス(オクタノイルオキシ)プロピル]システインまたはジオクタノイル−S−グリセリル−システイン]としても知られることを知っているはずである。
【0089】
Tヘルパーエピトープは、特定の標的被験体(すなわち、ヒト被験体、あるいは特定の非ヒト動物被験体、例えば、ラット、マウス、モルモット、イヌ、ウマ、ブタまたはヤギ)において免疫応答を高めるための当業者に公知の任意のTヘルパーエピトープである。好ましいTヘルパーエピトープは、少なくとも約10〜24アミノ酸長、より一般的には約15〜約20アミノ酸長である。
【0090】
乱交雑または許容的Tヘルパーエピトープは、化学的に容易に合成され、複数のTヘルパーエピトープを含むより長いポリペプチドを使用する必要がないので特に好ましい。
【0091】
本発明のリポペプチドに使用するのに適した乱交雑または許容的Tヘルパーエピトープの例は、以下からなる群より選択される:
(1)破傷風トキソイドペプチド(TTP)のげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ、例えば、TTPのアミノ酸830〜843など(Panina-Bordignon et al.、Eur.J.Immun.19、2237〜2242、1989)、
(2)プラスモディウム・ファルシパルムpfg27のげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ、
(3)乳酸デヒドロゲナーゼのげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ、
(4)HIVまたはHIVgp120エンベロープタンパク質のげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ(Berzofsky et al.、J.Clin.Invest.88、876〜884、1991)、
(5)既知のアンカータンパク質のアミノ酸配列から予測される合成ヒトTヘルパーエピトープ(PADRE)(Alexander et al、Immunity 1、751〜761、1994)、
(6)麻疹ウイルス融合タンパク質のげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ(MV−F;Muller et al.、Mol.Immunol.32、37〜47、1995;Partidos et al.、J.Gen.Virol.、71、2099〜2105、1990)、
(7)イヌジステンパーウイルス融合タンパク質(CDV−F)の少なくとも約10個のアミノ酸残基、例えば、CDV−Fのアミノ酸位置148〜283からの残基を含むTヘルパーエピトープ(Ghosh et al.、Immunol.104、58〜66、2001;国際公開特許第00/46390号)、
(8)MUC1ムチンの細胞外直列型反復ドメインのペプチド配列に由来するヒトTヘルパーエピトープ(米国特許出願第0020018806号)、
(9)インフルエンザウイルス赤血球凝集素(IV−H)のげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ(Jackson et al Virol.198、613〜623、1994、および
(10)口蹄疫ウイルス(FMDV−01カウフボイレン(Kaufbeuren)系統)のVP3タンパク質の残基173〜176、あるいは別の系統のFMDVの対応するアミノ酸を含むウシまたはラクダTヘルパーエピトープ。
【0092】
当業者には知られているとおり、Tヘルパーエピトープは、様々な種の1種類または複数の哺乳動物によって認識されうる。したがって、本明細書に記載のTヘルパーエピトープの名称は、エピトープが認識される種の免疫系に限定されると考えるべきではない。例えば、げっ歯類Tヘルパーエピトープは、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、または他のげっ歯類、あるいはヒトまたはイヌの免疫系によって認識される。
【0093】
より好ましくは、Tヘルパーエピトープは、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含みうる:
(1)IV−HのGALNNRFQIKGVELKS(配列番号1);
(2)IV−HのALNNRFQIKGVELKS(配列番号18);
(3)MV−FのLSEIKGVIVHRLEGV(配列番号19);
(4)CDV−FのTAAQITAGIALHQSNLN(配列番号20);
(5)CDV−FのIGTDNVHYKIMTRPSHQ(配列番号21);
(6)CDV−FのYKIMTRPSHQYLVIKLI(配列番号22);
(7)CDV−FのSHQYLVIKLIPNASLIE(配列番号23);
(8)CDV−FのKLIPNASLIENCTKAEL(配列番号24);
(9)CDV−FのLIENCTKAELGEYEKLL(配列番号25);
(10)CDV−FのAELGEYEKLLNSVLEPI(配列番号26);
(11)CDV−FのKLLNSVLEPINQALTLM(配列番号27);
(12)CDV−FのEPINQALTLMTKNVKPL(配列番号28);
(13)CDV−FのTLMTKNVKPLQSLGSGR(配列番号29);
(14)CDV−FのKPLQSLGSGRRQRRFAG(配列番号30);
(15)CDV−FのSGRRQRRFAGVVLAGVA(配列番号31);
(16)CDV−FのFAGVVLAGVALGVATAA(配列番号32);
(17)CDV−FのGVALGVATAAQITAGIA(配列番号33);
(18)CDV−FのGIALHQSNLNAQAIQSL(配列番号34);
(19)CDV−FのNLNAQAIQSLRTSLEQS(配列番号35);
(20)CDV−FのQSLRTSLEQSNKAIEEI(配列番号36);
(21)CDV−FのEQSNKAIEEIREATQET(配列番号37);
(22)CDV−FのSSKTQTHTQQDRPPQPS(配列番号38);
(23)CDV−FのQPSTELEETRTSRARHS(配列番号39);
(24)CDV−FのRHSTTSAQRSTHYDPRT(配列番号40);
(25)CDV−FのPRTSDRPVSYTMNRTRS(配列番号41);
(26)CDV−FのTRSRKQTSHRLKNIPVH(配列番号42);
(27)CDV−FのTELLSIFGPSLRDPISA(配列番号43);
(28)CDV−FのPRYIATNGYLISNFDES(配列番号44);
(29)CDV−FのCIRGDTSSCARTLVSGT(配列番号45);
(30)CDV−FのDESSCVFVSESAICSQN(配列番号46);
(31)CDV−FのTSTIINQSPDKLLTFIA(配列番号47);
(32)CDV−FのSPDKLLTFIASDTCPLV(配列番号48);
(33)MUC−1のSTAPPAHGVTSAPDTRAPGSTAPP(配列番号49);
(34)MUC−1のGVTSAPDTRPAPGSTASSL(配列番号50);
(35)MUC−1のGVTSAPDTRPAPGSTASL(配列番号51);
(36)MUC−1のTAPPAHGVTSAPDTRPAPGSTAPPKKG(配列番号52);
(37)MUC−1のSTAPPAHGVTSAPDTRPAPGSTAPPK(配列番号53);
(38)FMDV−VP3タンパク質のGVAE(配列番号54);
(39)FMDV−VP3タンパク質のTASGVAETTN(残基170から179)(配列番号55);および
(40)FMDVのTAKSKKFPSYTATYQF(配列番号56)。
【0094】
本明細書に開示するTヘルパーエピトープは、単に例示のためにすぎない。当業者に公知の標準ペプチド合成技術を用いて、本明細書に言及するTヘルパーエピトープを異なるTヘルパーエピトープと容易に置換して、本発明のリポペプチドを異なる種での使用に適合させることができる。したがって、標的種において免疫応答を誘発または増大するのに有用であることが当業者に知られている別のTヘルパーエピトープを除外すべきではない。
【0095】
別のTヘルパーエピトープは、詳細な分析によって、適切な配列を特定するための成分タンパク質、タンパク質断片およびペプチドのインビトロでのT細胞刺激技術を用いて特定することができる(Goodman and Sercarz、Ann.Rev.Immunol.、1、465、(1983);Berzofsky、In:「The Year in Immunology、Vol.2」page 151、Karger、Basel、1986;およびLivingstone and Fathman、Ann.Rev.Immunol.、5、477、1987)。
【0096】
B細胞エピトープは、好都合には、限定されるものではないが、哺乳動物被験体、または細菌、真菌、原生動物、または前記被験体に感染する寄生生物に由来する抗原を含むウイルス、原核生物または真核生物の免疫原性タンパク質、リポタンパク質または糖タンパク質のアミノ酸配列に由来する。免疫応答が望まれるイディオタイプおよび抗イディオタイプのB細胞エピトープが特に含まれ、脂質で修飾されたB細胞エピトープも含まれる。あるいは、B細胞エピトープは、炭水化物抗原、例えば、ABH血液型抗原、移植抗原(例えば、Galα1−3Galβ1−4GlcNAc;Sandrin et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90、11391〜11395、1993;Galili et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84、1369〜1373、1987;Schofield et al.、Nature 418:785〜789、2002)またはそれらの複合体とすることができる。
【0097】
B細胞エピトープは、哺乳動物に投与すると抗体、好ましくは中和抗体、より好ましくは高力価中和抗体の産生を誘導することができる。
【0098】
ペプチド合成を容易にするために、より短いB細胞エピトープが好ましい。
【0099】
B細胞エピトープの長さは、約30アミノ酸長を超えないことが好ましい。より好ましくは、B細胞エピトープ配列は、約25アミノ酸残基以下、より好ましくは20アミノ酸残基未満、さらにより好ましくは約5〜20アミノ酸残基長からなる。
【0100】
ペプチドは、B細胞エピトープが由来する天然のポリペプチドのコンホメーションを模倣したコンホメーションをとることが好ましい。
【0101】
寄生生物に由来する好ましいB細胞エピトープは、リーシュマニア、マラリア、トリパノソーマ症、バベシア症、または住血吸虫病に関連するB細胞エピトープであり、例えば、以下からなる群より選択されるB細胞エピトープである:
(1)プラスモディウム・ファルシパルム(NANP)3のB細胞エピトープ(Good et al.、J.Exp.Med.164、655 1986)、
(2)サーカムスポロゾア(Circumsporozoa)のB細胞エピトープ(Good et al.、Protein Sci.、235、1059、1987)、
(3)リーシュマニア・ドノヴァニ(leishmania donovani)反復ペプチドのアミノ酸残基326〜343を含むB細胞エピトープ(Liew et al.、J.Exp.Med.172、1359(1990))、
(4)トキソプラズマ・ゴンヂ(Toxoplasma gondii)P30表面タンパク質のB細胞エピトープ(Darcy et al.、J.Immunol.149、3636(1992))、および
(5)シストソーマ・マンソニ(Schistosoma mansoni)Sm−28GST抗原のB細胞エピトープ(Wolowxzuk et al.、J.Immunol 146:1987(1991))。
【0102】
好ましいウイルス特異的B細胞エピトープは、ロタウイルス、ヘルペスウイルス、コロナウイルス、ピコルナウイルス(例えば、アフトウイルス(Aphthovirus))、呼吸器シンシチウムウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ポックスウイルス、I型ウシヘルペスウイルス、ウシ下痢ウイルス、ウシロタウイルス、イヌジステンパーウイルス(CDV)、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)、ウマ鼻炎Bウイルス(ERBV)、口蹄疫ウイルス(FMDV)、麻疹ウイルス(MV)、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、肝炎ウイルスなどに由来し、かつ/またはこれらに対する抗体を産生することができる。適切なウイルスのB細胞エピトープとしては、限定されるものではないが、以下からなる群より選択されるエピトープが挙げられる:
(1)HIV gp120 V3 loop、アミノ酸残基308〜331(Jatsushita et al.、J.Virol.62、2107(1988))、
(2)HIV gp120アミノ酸残基428〜443(Ratner et al.、Nature 313:277(1985))、
(3)HIV gp120アミノ酸残基112〜124(Berzofsky et al.、Nature 334、706(1988))、
(4)HIV逆転写酵素のB細胞エピトープ(Hosmalin et al.Proc.Natl Acad.Sci.(USA)87、2344(1990))、
(5)インフルエンザウイルス核タンパク質アミノ酸残基335〜349(Townsend et al.Cell 44、959(1986))、
(6)インフルエンザウイルス核タンパク質アミノ酸残基366〜379(Townsend et al.Cell 44、959(1986))、
(7)インフルエンザウイルス赤血球凝集素アミノ酸残基48〜66(Mills et al.、J.Exp.Med.163、1477(1986))、
(8)インフルエンザウイルス赤血球凝集素アミノ酸残基111〜120(Hackett et al.、J.Exp.Med 158、294(1983))、
(9)インフルエンザウイルス赤血球凝集素アミノ酸114〜131(Lamb and Green、Immunology 50、659(1983))、
(10)エプスタインバーLMPアミノ酸残基43〜53(Thorley-Lawson et al.、Proc.Natl Acad.Sci.(USA)84、5384(1987))、
(11)B型肝炎ウイルス表面抗原アミノ酸残基95〜109(Milich et al.、J.Immunol.134、4203(1985))、
(12)B型肝炎ウイルス表面抗原アミノ酸残基140〜154、
(13)B型肝炎ウイルスPre−S抗原アミノ酸残基120〜132(Milich et al.、J.Exp.Med.164、532(1986))、
(14)単純ヘルペスウイルスgDタンパク質アミノ酸残基5〜23(Jayaraman et al.、J.Immunol.151、5777(1993))、
(15)単純ヘルペスウイルスgDタンパク質アミノ酸残基241〜260(Wyckoff et al.、Immunobiol.、177、134(1988))、
(16)狂犬病糖タンパク質アミノ酸残基32〜44(MacFarlan et al.、J.Immunol.133、2748(1984))、
(17)FMDV血清型O1のVP1キャプシドタンパク質の少なくともアミノ酸残基134〜168または137〜160または残基142〜160または残基137〜162または残基145〜150、あるいは別の血清型、例えば、血清型A、C、SAT1、SAT2、SAT3、ASIA1などの対応するアミノ酸残基を含む主要FMDVエピトープ(米国特許第5,864,008号および同第6,107,021号)、および
(18)C型肝炎ウイルス(HCV)変異体AD78のE2タンパク質の超可変領域−1(HVR1)(Zibert et al.、J.Virol.79、4123〜4127、1997)。
【0103】
好ましい細菌特異的B細胞エピトープは、パスツレラ(Pasteurella)、アクチノバシラス(Actinobacillus)、ヘモフィルス(Haemophilus)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、大腸菌(E.coli)、シゲラ(Shigella)などに由来し、かつ/またはこれらに対する抗体を産生することができる。適切な細菌B細胞エピトープとしては、限定されるものではないが、以下からなる群より選択されるエピトープが挙げられる:
(1)マイコバクテリウム・ツベルキュローシス(Mycobacterium tuberculosis)65Kdタンパク質アミノ酸残基112〜126(Lamb et al.、EMBO J.、6、1245(1987))、
(2)マイコバクテリウム・ツベルキュローシス65Kdタンパク質アミノ酸残基163〜184(Lamb et al.、EMBO J.、6、1245(1987))、
(3)マイコバクテリウム・ツベルキュローシス65Kdタンパク質アミノ酸残基227〜243(Lamb et al.、EMBO J.、6、1245(1987))、
(4)マイコバクテリウム・ツベルキュローシス65Kdタンパク質アミノ酸残基242〜266(Lamb et al.、EMBO J.、6、1245(1987))、
(5)マイコバクテリウム・ツベルキュローシス65Kdタンパク質アミノ酸残基437〜459(Lamb et al.、EMBO J.、6、1245(1987))、
(6)マイコバクテリウム・ツベルキュローシスESAT−6タンパク質残基3〜15(Morten et al.、Infect.Immun.66、717〜723、1998)、
(7)マイコバクテリウム・ツベルキュローシスESAT−6タンパク質残基40〜62(Morten et al.、Infect.Immun.66、717〜723、1998)、
(8)マイコバクテリウム・スクロフラセウム(Mycobacterium scrofulaceum)α抗原残基279〜290(Mikiko et al.、Microb.Path.23、95〜100、1997)、
(9)スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)ヌクレアーゼタンパク質アミノ酸残基61〜80(Finnegan et al.、J.Exp.Med.164、897(1986))、
(10)大腸菌耐熱性エンテロトキシンのB細胞エピトープ(Cardenas et al.、Infect.Immunity 61、4629(1993))、
(11)大腸菌易熱性エンテロトキシンのB細胞エピトープ(Clements et al.、Infect.Immunity 53、685(1986))、
(12)シゲラ・ソンネ(Shigella sonnei)I型抗原のB細胞エピトープ(Formal et al.、Infect.Immunity 34、746(1981))、
(13)A群ストレプトコッカスに由来するB細胞エピトープ、好ましくはMタンパク質に由来するB細胞エピトープ、より好ましくはMタンパク質のC末端半分に由来するB細胞エピトープ、ならびにより好ましくはMタンパク質の保存C末端半分に由来し、らせん状の折りたたみ、および最小、らせん状、非宿主交差反応性ペプチド内で示される抗原性を維持するように設計された非Mタンパク質ペプチドを含む最小、らせん状、非宿主交差反応性ペプチドに由来するB細胞エピトープ。例えば、非Mタンパク質ペプチド(例えば、ペプチドJ14)は、アルカン骨格から懸垂する個々のペプチドすべてが免疫原を示すことを可能にする化学を用いて、1個または複数の血清型Mタンパク質ペプチドに連結することができ、それによって優れた免疫原性および保護作用が得られる(米国特許第6,174,528号;Brandt et al.、Nat.Med.6:455〜459、2000)、
(14)コレラ(Cholera)毒素Bサブユニット(CTB)、例えば、Kazemi and Finkelstein Mol.Immunol.28、865〜876、1991に記載されたコレラ毒素BサブユニットのB細胞エピトープ、
(15)バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis)(炭疽)のタンパク質のB細胞エピトープ、例えば、250kDa糖タンパク質などの炭疽の外側の外膜タンパク質に由来するB細胞エピトープ(Sylvestre et al.、Proc.4th Int.Conf.Anthrax、St John's College Annapolid、Mayland、CA 2001年6月10〜13日、Abstract 31 B、および
(16)破傷風のタンパク質、例えば、破傷風トキソイドタンパク質などに由来するB細胞エピトープ。
【0104】
哺乳動物被験体から得られる好ましいB細胞エピトープは、腫瘍抗原に由来し、かつ/または腫瘍抗原に対する抗体を産生することができる。腫瘍抗原は、通常、生来の抗原または外来の抗原であり、その発現は腫瘍の発生、成長、存在または再発と相関がある。腫瘍抗原は、正常組織から異常組織を区別するのに有用であるので、治療介入の標的として有用である。腫瘍抗原は当分野で周知である。実際、いくつかの例が詳細に分析され、現在、腫瘍特異的療法を作成する上で大きく注目されている。腫瘍抗原の非限定的な例は、癌胎児性抗原(CEA)、前立腺特異抗原(PSA)、メラノーマ抗原(MAGE、BAGE、GAGE)およびMUC−1などのムチンである。
【0105】
あるいは、哺乳動物被験体に由来する好ましいB細胞エピトープは、ヒト、またはブタなどの他の哺乳動物のZP3(Chamberlin and Dean Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)87、6014〜6018、1990)、ZP3a(Yurewicz et al.、Biochim.Biophys.Acta 1174、211〜214、1993))などの透明帯タンパク質に由来する。このカテゴリー内の特に好ましいB細胞エピトープとしては、ヒトZP3のアミノ酸残基323〜341(Chamberlin and Dean Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)87、6014〜6018、1990)、ブタZP3aのアミノ酸残基8〜18または残基272〜283または残基319〜330(Yurewicz et al.、Biochim.Biophys.Acta 1174、211〜214、1993)などがある。
【0106】
哺乳動物被験体から得られるさらに好ましいB細胞エピトープは、ペプチドホルモン、例えば、満腹ホルモン(例えば、レプチン)、消化ホルモン(例えば、ガストリン)、または生殖ペプチドホルモン[例えば、黄体形成ホルモン−放出ホルモン(LHRH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG;Carlsen et al.、J.Biol Chem.248、6810〜6827、1973)、あるいは、ホルモン受容体、例えば、FSH受容体(Kraaij et al.、J.Endocrinol.158、127〜136、1998)に由来し、かつ/またはこれらに対する抗体を産生することができる。このカテゴリー内の特に好ましいB細胞エピトープとしては、LHとは抗原性的に非交差反応性であるb−hCGのC末端部分(CTP)などがある(Carlsen et al.、J.Biol.Chem.248、6810〜6827、1973)。
【0107】
特に好ましい実施形態においては、B細胞エピトープを含むペプチドは、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む:
(1)LHRHに由来するEHWSYGLRPG(本明細書では「LHRH1〜10」と称する;配列番号2)、
(2)LHRHに由来するHWSYGLRPG(本明細書では「LHRH2〜10」と称する;配列番号3)、
(2)LHRHに由来するGLRPG((本明細書では「LHRH6〜10」と称する;配列番号4)、
(3)リーシュマニア・メジャー(Leishmani major)に由来するEAEEAARLQA(配列番号57)、
(4)以下からなる群から選択されるFMDVの非構造タンパク質3A、3Bまたは3Cに由来する配列(米国特許第6,048,538号):
FRERTLTGQRACNDVNSE(配列番号58)、
NPLETSGASTVGFRERTL(配列番号59)、
IRETRKRQKMVDDAVNEY(配列番号60)、
AKAPVVKEGPYEGPVKKPV(配列番号61)、
AGPLERQKPLKVKAKAPVV(配列番号62)、
KVRAKLPQQEGPYAGPLER(配列番号63)、
GPYTGPLERQRPLKVRAKL(配列番号64)、
VGRLIFSGEALTYKDIVV(配列番号65)、
TKHFRDTARMKKGTPVVGV(配列番号66)、および
SGAPPTDLQKMVMGNTKPV(配列番号67);
(5)FMDV VP1主要エピトープに由来するNKYSASGSGVRGDFGSLAPRVARQLPASFNYGAIK(米国特許第6,107,021号;配列番号68)、
(6)LYTKVVHYRKWIKDTIVANP(配列番号69)、AVKVMDLPQEPALGTTCYA(配列番号70)、IVGGWECEKHSQPWQVLVAS(配列番号71)、CAQVHPQKVTKFML(配列番号72)、YLMLLRLSEPAELTDDAVKVM(配列番号73)、LLKNRFLRPGDDSSHDLMLLY(配列番号74)およびILLGRHSLFHPEDTGQVFQVY(配列番号75)からなる群から選択される前立腺特異抗原に由来する配列(米国特許第6326471号)、
(7)b−hCGに由来するTCDDPRFQDSSSSKAPPPSLPSPSRLPGPSDTPILPQ(配列番号76)、
(8)FSH受容体に由来するCQDSKVTEIPTLPRNAI(配列番号77)、
(9)ヒトZP3タンパク質に由来するNKGDCGTPSHSRRQPHVMS(配列番号78)、
(10)WLCFPLCLALP(配列番号79)LGGLYCGPSSF(配列番号80)、GSITRDSIFRLR(配列番号81)、SALPVNIQVFTL(配列番号82)、ELQIAKDERYGS(配列番号83)およびVKLLREPIYVEV(配列番号84)からなる群から選択されるブタZP3aタンパク質に由来する配列、
(11)癌胎児性抗原(CEA)に由来するPPAQYSWLIDGN(配列番号85)、
(12)ANASQTDNGVNRSGSEDPTV(配列番号86)およびPETKHPKKGVEKYGPEASAF(配列番号87)からなる群から選択されるブドウ球菌ヌクレアーゼに由来する配列(Cone et al.、J.Biol.Chem.246、3103〜3110、1971)、
(13)LVLLDYQGMLPVCPL(配列番号88)およびTKPSDGNCTCIPIPS(配列番号89)からなる群から選択されるB型肝炎ウイルス表面抗原の配列(Kobayashi and Koike、Gene 30、227〜232、1984)、
(14)B型肝炎ウイルス前駆体表面抗原に由来するMQWNSTTFHQALL(配列番号90)、
(15)AAFEDLRVSSFIRGT(配列番号91)およびSNENMETMDSSTLE(配列番号92)からなる群から選択されるインフルエンザウイルス核タンパク質に由来する配列(Gregory et al.、J.Gen.Virol.82、1397〜1406、2001)、
(16)HPLILDTCTIEGLIYGNPS(配列番号93)、YQRIQIFPDT(配列番号94)およびIQIFPDTIWNVSYSGTSK(配列番号95)からなる群から選択されるインフルエンザウイルス赤血球凝集素に由来する配列、
(17)FMDVエンベロープ糖タンパク質VP1に由来するCKYSASGSGVRGDFGSLAPRVARCLPASFNTGAIKNKY(配列番号96)、
(18)EQQWNFAGIEAAA(配列番号97)およびAAAWGGSGSEAYQGVQQKWDATA(配列番号98)からなる群から選択されるマイコバクテリウム・ツベルキュローシスESAT−6タンパク質に由来する配列、
(19)HCVに由来するGGPTRTIGGSQAQTASGLVSMFSVGPSQK(配列番号99)、
(20)マイコバクテリウム・スクロフラセウムα抗原に由来するKFQDAYNAAGGH(配列番号100)、
(21)A群ストレプトコッカスのMタンパク質(すなわち、本明細書で「J14」と命名されたペプチド)に由来するKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号101)、および
(22)ガストリンに由来するGWMDF(配列番号102)(すなわち、ガストリンC末端の5個のアミノ酸残基からなるペンタガストリン)。
【0108】
これまでの記載から、対象リポペプチドのポリペプチド部分が好都合には単一アミノ酸鎖として合成され、それによって、合成後に両方のエピトープを組み込む改変が不要であることが明白である。
【0109】
インフルエンザウイルス赤血球凝集素のTヘルパーエピトープ(例えば、配列番号1)またはCDV−FのTヘルパーエピトープ(例えば、配列番号20、24、26または44)のどちらかに結合したLHRHの高免疫原性B細胞エピトープ(例えば、配列番号2または3または4)を含むポリペプチド部分、例えば、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが特に好ましい:
(1)GALNNRFQIKGVELKSEHWSYGLRPG(配列番号5);
(2)EHWSYGLRPGGALNNRFQIKGVELKS(配列番号6);
(3)GALNNRFQIKGVELKSKEHWSYGLRPG(配列番号7);
(4)EHWSYGLRPGKGALNNRFQIKGVELKS(配列番号8);
(5)KLIPNASLIENCTKAELKHWSYGLRPG(配列番号9);
(6)AELGEYEKLLNSVLEPIKEHWSYGLRPG(配列番号10);
(7)TAAQITAGIALHQSNLNKEHWSYGLRPG(配列番号11);
(8)PRYIATNGYLISNFDESKEHWSYGLRPG(配列番号12);
(9)KLIPNASLIENCTKAELKGLRPG(配列番号13);
(10)AELGEYEKLLNSVLEPIKGLRPG(配列番号14);
(11)TAAQITAGIALHQSNLNKGLRPG(配列番号15);
(12)PRYIATNGYLISNFDESKGLRPG(配列番号16);
(13)KLIPNASLIENCTKAELHWSYGLRPG(配列番号103);および
(14)KLIPNASLIENCTKAELGLRPG(配列番号104)。
【0110】
特に好ましい実施形態においては、LHRHエピトープ(すなわち、配列番号2で示されるLHRH1〜10、配列番号3で示されるLHRH2〜10、または配列番号4で示されるLHRH6〜10)は、C末端グリシン残基が露出し、または内部にならないように位置する。したがって、配列番号5、7または9〜16のいずれか1個で示される配置が特に好ましい。
【0111】
例として示す一実施形態においては、LHRH1〜10は、インフルエンザウイルス赤血球凝集素のTヘルパーエピトープ(すなわち、配列番号1)にコンジュゲートされて配列番号5または7で示される配列によって記載され、LHRH2〜10またはLHRH6〜10は、CDV−FのTヘルパーエピトープ(すなわち、配列番号24)にコンジュゲートされて配列番号9、13、103または104で示される配列で記載される。他の組合せが可能であることも明白であり、本発明に包含される。
【0112】
別の実施形態においては、CDV−F(例えば、配列番号24)またはインフルエンザウイルス赤血球凝集素(例えば、配列番号1)のTヘルパーエピトープに連結された、A群ストレプトコッカスのMタンパク質の高免疫原性B細胞エピトープ(例えば、配列番号101で示されるJ14ペプチド)を含むポリペプチド部分、例えば、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが特に好ましい:
(1)KLIPNASLIENCTKAELKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号105);
(2)KLIPNASLIENCTKAELKKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号106);
(3)GALNNRFQIKGVELKSKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号107);および
(4)GALNNRFQIKGVELKSKKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号108)。
【0113】
さらに別の実施形態においては、CDV−F(例えば、配列番号24)またはインフルエンザウイルス赤血球凝集素(例えば、配列番号1)のTヘルパーエピトープに連結された、ペンタガストリンの高免疫原性B細胞エピトープ(例えば、配列番号102)を含むポリペプチド部分、例えば、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが特に好ましい:
(1)KLIPNASLIENCTKAELGWMDF(配列番号109);
(2)KLIPNASLIENCTKAELKGWMDF(配列番号110);
(3)GALNNRFQIKGVELKSGWMDF(配列番号111);および
(4)GALNNRFQIKGVELKSKGWMDF(配列番号112)。
【0114】
当業者は、配列番号5〜16のいずれか1個または配列番号103〜112のいずれか1個のTヘルパーエピトープおよび/またはB細胞エピトープを、例えば、配列番号18〜56のいずれか1個で示されるTヘルパーエピトープ、配列番号57〜102のいずれか1個で示されるB細胞エピトープなど別のTヘルパーエピトープまたはB細胞エピトープで置換することによって、本明細書に例示するポリペプチド部分に加えて、対象リポペプチドに使用する別のポリペプチド部分を容易に合成することができる。さらに、免疫応答が求められる標的種および抗原に応じて、適切なTヘルパーエピトープとB細胞の組合せを選択することは、本明細書の開示から当業者には容易なはずである。
【0115】
配列番号5〜16および配列番号103〜112で示される例示的なポリペプチドを含めて、本明細書に記載するポリペプチド部分のアミノ酸配列は、特定の目的のために、当業者に周知の方法によって、それらの免疫機能に悪影響を及ぼさずに改変することができる。例えば、免疫応答を高めるか、またはペプチドを他の作用物質、特に脂質に結合させるために、特定のペプチド残基を誘導体化するか、または化学的に修飾することができる。ペプチドの全体構造または抗原性に支障を与えずにペプチド中の特定のアミノ酸を変えることも可能である。したがって、そのような変化は「保存的」変化と称され、残基の親水性または極性に依拠する傾向にある。側鎖の大きさおよび/または変化も、どの置換が保存的であるかを決定する関連要因である。
【0116】
生物学的機能が等価なタンパク質またはペプチドの定義に固有なのは、分子の規定された部分内でなされ、かつ許容される等価レベルの生物活性を有する分子を依然としてもたらし得る変化の数には限りがあるという概念であることを当業者は十分理解しうる。したがって、生物学的機能が等価なペプチドは、特定のアミノ酸を置換することができるペプチドと本明細書では定義される。特定の実施形態は、ペプチドのアミノ酸配列における1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上の変更を含む変異体を包含する。異なる置換を含む複数の異なるタンパク質/ペプチドを本発明に従って容易に調製し、使用できることは言うまでもない。
【0117】
当業者は、以下の置換、すなわち、(1)アルギニン、リジンおよびヒスチジンを含む置換、(2)アラニン、グリシンおよびセリンを含む置換、ならびに(3)フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンを含む置換が許容できる保存的置換であることを十分承知している。このような保存的置換を組み込んだペプチドは生物学的機能が等価であると本明細書では定義する。
【0118】
相互作用性の生物学的機能をタンパク質に付与する上で疎水性親水性アミノ酸指標が重要であることは当分野では一般に理解されている(Kyte & Doolittle、J.Mol.Biol.157、105〜132、1982)。ある種のアミノ酸は、類似の疎水性親水性指標またはスコアを有する他のアミノ酸を置換することができ、かつ類似の生物活性を維持できることが知られている。アミノ酸の疎水性親水性指標も、機能的に等価な分子を生成する保存的置換を決定する際に考慮することができる。各アミノ酸は、その疎水性および電荷特性に基づいて、以下の疎水性親水性指標が割り当てられている。イソロイシン(+4.5)、バリン(+4.2)、ロイシン(+3.8)、フェニルアラニン(+2.8)、システイン/シスチン(+2.5)、メチオニン(+1.9)、アラニン(+1.8)、グリシン(−0.4)、トレオニン(−0.7)、セリン(−0.8)、トリプトファン(−0.9)、チロシン(−1.3)、プロリン(−1.6)、ヒスチジン(−3.2)、グルタミン酸(−3.5)、グルタミン(−3.5)、アスパラギン酸(−3.5)、アスパラギン(−3.5)、リジン(−3.9)およびアルギニン(−4.5)。疎水性親水性指標に基づいて変化させる際には、疎水性親水性指標の指数が+/−0.2以内のアミノ酸置換が好ましい。より好ましくは、置換は、疎水性親水性指標の指数が+/−0.1以内、より好ましくは約+/−0.05以内のアミノ酸を含む。
【0119】
類似したアミノ酸の置換は、この場合(例えば、米国特許第4,554,101号)のように、特にそれによって生成される生物学的機能が等価なタンパク質またはペプチドを免疫学的な実施形態に用いようとする場合には、親水性に基づいて有効に行われることも当分野では十分理解されている。米国特許第4,554,101号に詳細に述べられているように、以下の親水性値(hydrophilicity value)が各アミノ酸残基に割り当てられている。アルギニン(+3.0)、リジン(+3.0)、アスパラギン酸(+3.0+/−0.1)、グルタミン酸(+3.0+/−0.1)、セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、グリシン(0)、トレオニン(−0.4)、プロリン(−0.5+/−0.1)、アラニン(−0.5)、ヒスチジン(−0.5)、システイン(−1.0)、メチオニン(−1.3)、バリン(−1.5)、ロイシン(−1.8)、イソロイシン(−1.8)、チロシン(−2.3)、フェニルアラニン(−2.5)、トリプトファン(−3.4)。親水性値が類似していることに基づいて変化させる際には、親水性値が互いに好ましくは約+/−0.2以内、より好ましくは約+/−0.1以内、さらにより好ましくは約+/−0.05以内であるアミノ酸を置換する。
【0120】
免疫原として使用するのに適切なペプチドが特定された場合には、ペプチド構造の重要な部分を模倣するように他の立体的に類似した化合物を調製できることも企図される。ペプチドミメティックと称することができるこのような化合物は、本発明のペプチドと同様に使用することができ、したがって機能的に等価なものである。構造上機能的に等価なペプチドは、当業者に公知のモデリング技術および化学設計技術によって製造することができる。このような立体的に類似した構築体はすべて本発明の範囲内にあることを理解されたい。
【0121】
改変ペプチドの「同等性」を決定する別の方法は機能的手法である。例えば、所与のペプチドを使用してモノクローナルまたはポリクローナル抗体を産生する。次いで、これらの抗体を使用して、数千または数十万の他のペプチドを含む縮重ペプチドのライブラリをスクリーニングし、それによって、少なくともある程度免疫学的に等価な構造を特定する。言うまでもなく、これらの構造は、抗体の産生に使用されるペプチドとある一次配列相同性を有することもできるが、まったく異なっていてもよい。
【0122】
ポリペプチド部分は、メリフィールド(Merrifield)合成方法(Merrifield、J Am Chem Soc、85、2149〜2154、1963)、無数の利用可能な同技術の改良法(例えば、Synthetic Peptides:A User's Guide、Grant、ed.(1992)W.H.Freeman & Co.、New York、pp.382;Jones(1994)The Chemical Synthesis of Peptides、Clarendon Press、Oxford、pp.230);Barany,G.and Merrifield,R.B.(1979)in The Peptides(Gross,E.and Meienhofer,J.eds.)、vol.2、pp.1〜284、Academic Press、New York;Wunsch,E.、ed.(1974)Synthese von Peptiden in Houben-Weyls Methoden der Organischen Chemie(Muler,E.、ed.)、vol.15、4th edn.、Parts 1 and 2、Thieme、Stuttgart;Bodanszky,M.(1984)Principles of Peptide Synthesis、Springer-Verlag、Heidelberg;Bodanszky,M.& Bodanszky,A.(1984)The Practice of Peptide Synthesis、Springer-Verlag、Heidelberg;Bodanszky,M.(1985)Int J.Peptide Protein Res.25、449〜474などの標準技術を用いて容易に合成される。
【0123】
脂質部分は、任意のC2〜C30飽和、一不飽和または多価不飽和の線状または分枝脂肪アシル基、好ましくはパルミトイル、ミリストイル、ステアロイル、ラウロイル、オクタノイルおよびデカノイルからなる群から選択される脂肪酸基を含むことができる。
【0124】
リポアミノ酸は、本明細書において特に好ましい脂質部分である。本明細書で使用する、「リポアミノ酸」という用語は、アミノ酸残基、例えば、システインもしくはセリンまたはリジンもしくはその類似体に共有結合した1個または2個または3個以上の脂質を含む分子を指す。特に好ましい実施形態においては、リポアミノ酸はシステインを含み、1個または2個以上のアルギニンまたはセリン残基を場合によっては含んでいてもよく、あるいは、6−アミノヘキサン酸を含む。
【0125】
脂質部分は、好ましくは、一般式(VII)の構造の化合物である:
【化5】
【0126】
〔式中、
(i)Xは、硫黄、酸素、ジスルフィド(−S−S−)、メチレン(−CH2−)およびアミノ(−NH−)からなる群から選択され、
(ii)mは、1または2の整数であり、
(iii)nは、0〜5の整数であり、
(iv)R1は、水素、カルボニル(−CO−)およびR’−CO−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
(v)R2は、R’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
(vi)R3は、R’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
R1、R2およびR3の各々は同じでも異なっていてもよい〕。
【0127】
置換基によっては、一般構造VIIの脂質部分は、完全体R1およびR2に直接的または間接的に共有結合した炭素原子が非対称の右旋性または左旋性(すなわち、RまたはS)立体配置である鏡像異性分子でもよい。
【0128】
好ましくは、Xは硫黄であり、mおよびnはともに1であり、R1は水素およびR’−CO−(式中、R’は7〜25個の炭素原子を有するアルキル基である)からなる群から選択され、R2およびR3はR’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は7〜25個の炭素原子を有するアルキル基である)からなる群から選択される。
【0129】
好ましくは、R’は、パルミトイル、ミリストイル、ステアロイル、ラウロイル、オクタノイルおよびデカノイルからなる群から選択される。より好ましくは、R’は、パルミトイル、ステアロイル、ラウロイル、オクタノイルおよびデカノイルからなる群から選択される。
【0130】
前記脂質部分の各完全体R’は同じでも異なっていてもよい。
【0131】
特に好ましい実施形態においては、Xは硫黄であり、mおよびnはともに1であり、R1は水素またはR’−CO−(式中、R’は、パルミトイル、ステアロイル、ラウロイルおよびオクタノイルからなる群から選択される)であり、R2およびR3はそれぞれR’−CO−O−(式中、R’は、パルミトイル、ステアロイル、ラウロイルおよびオクタノイルからなる群から選択される)である。R’がパルミトイルである特に好ましい化合物は、上記式(I)および式(II)で示される。
【0132】
脂質部分は、以下の一般式(VIII)を有することができる:
【化6】
【0133】
〔式中
(i)R4は、(i)約7〜約25個の炭素原子からなるα−アシル脂肪酸残基、(ii)α−アルキル−β−ヒドロキシ脂肪酸残基、(iii)α−アルキル−β−ヒドロキシ脂肪酸残基のβ−ヒドロキシエステル(エステル基は、好ましくは、8個を超える炭素原子を含む直鎖または分枝鎖である)および(iv)リポアミノ酸残基、からなる群から選択され、
(ii)R5は、水素、またはアミノ酸残基の側鎖である〕。
【0134】
好ましくは、R4は、約10〜約20個の炭素原子からなり、より好ましくは約14〜約18個の炭素原子からなる。
【0135】
R4がリポアミノ酸残基である場合には、完全体(integer)R4およびR5の側鎖は共有結合を形成することもできる。例えば、R4が、リジン、オルニチン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン誘導体、オルニチン誘導体、グルタミン酸誘導体およびアスパラギン酸誘導体からなる群から選択される場合には、アミノ酸または誘導体の側鎖は、アミド結合またはエステル結合によってR5に共有結合する。
【0136】
好ましくは、一般式VIIIで示される構造は、N,N’−ジアシルリジン;N,N’−ジアシルオルニチン;グルタミン酸のジ(モノアルキル)アミドまたはエステル;アスパラギン酸のジ(モノアルキル)アミドまたはエステル;セリン、ホモセリンまたはトレオニンのN,O−ジアシル誘導体;およびシステインまたはホモシステインのN,S−ジアシル誘導体からなる群から選択される脂質部分である。
【0137】
両親媒性分子、特にPam3Cys(式(I))の疎水性を超えない疎水性を有する両親媒性分子も好ましい。
【0138】
式(I)、式(II)、式(VI)または式(VIII)の各脂質部分は、1個または複数のスペーサー分子、好ましくは炭素を含むスペーサー、より好ましくは1個または複数のアミノ酸残基の付加によって、合成中または合成後にさらに改変される。これらを、従来の縮合、付加、置換または酸化反応において末端カルボキシ基を介して脂質構造に付加することが有利である。このようなスペーサー分子の効果は、脂質部分をポリペプチド部分から分離して、さもなければリポペプチド産物の免疫原性を低下させ得る立体障害効果を弱めることである。
【0139】
アルギニンまたはセリン二量体、三量体、四量体など、あるいは、6−アミノヘキサン酸は、この目的に特に好ましい。
【0140】
このようなスペーサーは、改変リポアミノ酸が後でポリペプチドに容易にコンジュゲートされるように末端保護アミノ酸残基を含むことが好ましい。
【0141】
この実施形態によって製造される代表的な改変リポアミノ酸は、式(III)および(IV)で表され、それぞれ式(I)および(II)にセリンホモ二量体を付加することによって容易に得られる。本明細書に例示するとおり、式(I)のPam3Cysまたは式(II)のPam2Cysは、この目的で、式(III)のリポアミノ酸Pam3Cys−Ser−Serまたは式(IV)のPam2Cys−Ser−Serとして合成することが有利である。
【化7】
【化8】
【0142】
スペーサーを脂質部分に付加する代わりに、ポリペプチド部分の内部リジン残基のεアミノ基またはリジン類似体の末端側鎖基に、短いペプチド、例えば、アルギニンまたはセリンホモ二量体、ホモ三量体、ホモ四量体などとして、あるいは、アミノ酸残基の連続的付加によってスペーサーを付加し、それによって分枝ポリペプチド鎖を生成することができる。この手法は、スペーサー付加における特異性を得るために、内部リジン残基上のεアミノ基またはリジン類似体の末端側鎖基の改変された性質を適宜利用する。当然、連続的なスペーサー付加を防止するために、スペーサーの末端アミノ酸残基は、脱保護によって分枝ポリペプチドへの脂質部分のコンジュゲートが容易になるように、好ましくは保護すべきである。
【0143】
あるいは、従来の求核置換反応によって、ポリペプチドの非改変εアミノ基にスペーサーを付加することができる。しかし、ポリペプチドが、単一の内部リジンまたはリジン類似体残基、およびブロッキングされたN末端を含むアミノ酸配列を含む場合には、この手法に従うことが好ましい。
【0144】
脂質部分は、従来の合成手段、例えば、米国特許第5,700,910号および同第6,024,964号に記載の方法、あるいは、Wiesmuller et al.、Hoppe Seylers Zur Physiol.Chem.364、593(1983)、Zeng et al.、J.Pept.Sci 2、66(1996)、Jones et al.、Xenobiotica 5、155(1975)、またはMetzger et al.、Int.J.Pept.Protein Res.38、545(1991)に記載の方法によって調製される。当業者は、このような方法を容易に改変して、ポリペプチドへのコンジュゲートに使用される所望の脂質を合成することができる。
【0145】
本発明のリポペプチドに使用される様々な脂質の組合せも企図される。例えば、1個または2個のミリストイル含有脂質またはリポアミノ酸を、内部リジンまたはリジン類似体残基を介してポリペプチド部分に結合させ、場合によっては、スペーサーによってポリペプチドから分離させてもよい。他の組合せも除外されない。
【0146】
本発明のリポペプチドは、診断目的で容易に修飾される。例えば、本発明のリポペプチドは、天然または合成ハプテン、抗生物質、ホルモン、ステロイド、ヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸、酵素、酵素基質、酵素阻害剤、ビオチン、アビジン、ポリエチレングリコール、ペプチドのポリペプチド部分(例えば、タフトシン、ポリリジン)、蛍光マーカー(例えば、FITC、RITC、ダンシル、ルミノールまたはクマリン)、生物発光マーカー、スピン標識、アルカロイド、生体アミン、ビタミン、毒素(例えば、ジゴキシン、ファロイジン、アマニチン、テトロドトキシン)または錯形成剤を付加することによって修飾される。
【0147】
本明細書に例示するとおり、(i)インフルエンザウイルス赤血球凝集素の軽鎖に由来するCD4+ Tヘルパーエピトープのアミノ酸配列(Jackson et al.Virol.198、613〜623、1994;すなわち、アミノ酸配列GALNNRFQIKGVELKS;配列番号1)、またはCDV−Fタンパク質に由来するペプチド(配列番号24)と、(ii)黄体形成ホルモン−放出ホルモン(LHRH;Fraser et al.、J.Endocrinol.63、399(1974);Fraser and Baker、J.Endocrinol.77、85(1978);すなわち「LHRH1〜10」、アミノ酸配列EHWSYGLRPG;配列番号2;「LHRH2〜10」、アミノ酸配列HWSYGLRPG;配列番号3、または「LHRH6〜10」、アミノ酸配列GLRPG;配列番号4)、A群ストレプトコッカス(GAS)Mタンパク質(すなわち、配列番号101)およびペンタガストリン(すなわち、配列番号102)のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むB細胞エピトープ含有ペプチドと、(iii)前記CD4+ Tヘルパーエピトープと前記B細胞エピトープの間に位置するリジン残基と、場合によっては、(iv)前記CD4+ Tヘルパーエピトープ内に位置するリジン残基、とを含むポリペプチドの内部リジン残基のεアミノ基を介してコンジュゲートされた式(I)のPam3Cys、または式(II)のPam2Cys、またはSte2CysまたはLau2CysまたはOct2Cysを含む高免疫原性可溶性リポペプチドが提供される。
【0148】
リポペプチドの調製
本発明の第2の態様は、
(i)以下の(a)および(b):
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列およびB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基とを含むアミノ酸配列、
を含むポリペプチドを製造するステップ、ならびに
(iii)前記1個または複数の脂質部分の各々を直接的または間接的に、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に共有結合させて、前記内部リジン残基のεアミノ基に結合した脂質部分を含む、または前記内部リジン類似体残基の末端側鎖基に結合した脂質部分を含むリポペプチドを製造するステップ、
を含む、リポペプチドを製造する方法を提供する。
【0149】
この方法はさらに脂質部分の製造も含むことが好ましい。
【0150】
本明細書で参照する従来の化学合成は、ポリペプチド部分および脂質部分を製造する好ましい手段である。
【0151】
ブロッキング基(例えば、Mtt)を末端側鎖基、特に末端側鎖アミノ基から選択的に除去して内部リジン残基または内部リジン類似体を改変して、リポアミノ酸を含めて、アミノ酸残基、スペーサーまたは脂質部分がその位置に付加できるようにすることが好ましい。
【0152】
脂質をポリペプチドに結合させる場合には、ポリペプチドの官能基を、これらの基において望ましくない反応が有効な反応速度で確実に起こらないように、ペプチド合成分野で既知の方法で保護することが有利である。
【0153】
既知のカップリング法によって、ポリペプチドをポリマー(例えば、メリフィールド樹脂)などの固体担体または可溶性担体上で合成し、スペーサー、アミノ酸または脂質にコンジュゲート可能にする。例えば、内部リジンのεアミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基をいくつかの保護基の1個で保護する。(保護基またはマスキング基とも呼ばれる)ブロッキング基を使用して、カップリング反応に関与する活性カルボキシル基を有するアミノ酸のアミノ基を保護し、またはカップリング反応に関与するアシル化アミノ基を有するアミノ酸のカルボキシル基を保護する。カップリングを起こす場合には、ペプチド結合、またはペプチドの別の部分に結合した任意の保護基を切断せずにブロッキング基を除去しなければならない。
【0154】
固相ペプチド合成の場合には、伸長するペプチド鎖のアミノブロッキング基の除去に必要な反復処理に安定であり、かつアミノ酸カップリングの繰り返しに必要な反復処理に安定なブロッキング基を使用してアミノ酸側鎖を保護する。また、ペプチドC末端を保護するペプチド樹脂の足場(anchorage)は、樹脂からの切断が必要になるまで合成プロセスを通して保護されなければならない。したがって、直交性に保護されたα−アミノ酸を慎重に選択することによって、脂質および/またはアミノ酸が、樹脂に付着したまま伸長するペプチドの所望の位置に付加される。
【0155】
好ましいアミノブロッキング基は、容易に除去可能であるが、カップリング反応および他の操作、例えば、側鎖基の修飾などに対する残存条件(survive conditions)に十分安定である。好ましいアミノブロッキング基は、(i)室温常圧の接触水素化によって、またはナトリウムの液体アンモニア溶液および臭化水素酸の酢酸溶液を用いて容易に除去されるベンジルオキシカルボニル基(Zまたはカルボベンゾキシ)、(ii)t−ブトキシカルボニルアジドまたはジ−tert−ブチルジカルボネートを用いて導入され、弱酸、例えば、トリフルオロ酢酸(50%TFAのジクロロメタン溶液)、HClの酢酸/ジオキサン/酢酸エチル溶液などを用いて除去されるt−ブトキシカルボニル基(Boc)、(iii)弱塩基、非加水分解条件下、例えば、第一級または第二級アミン(例えば、20%ピペリジンのジメチルホルムアミド溶液)を用いて切断される9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)、(iv)2−(4−ビフェニリル)プロピル(2)オキシカルボニル基(Bpoc)、(v)2−ニトロ−フェニルスルフェニル基(Nps)、および(vi)ジチア−スクシオニル基(Dts)からなる群から選択される。
【0156】
側鎖保護基は、合成するペプチドを形成するアミノ酸の官能基側鎖に応じて変わる。側鎖保護基は、一般に、Bzl基またはtBu基に基づいている。側鎖にアルコールまたはカルボン酸を有するアミノ酸は、Bzlエーテル、Bzlエステル、cHexエステル、tBuエーテルまたはtBuエステルとして保護される。Fmocアミノ酸の側鎖を保護するには、理想的には塩基に安定であり弱酸(TFA)に不安定なブロッキング基が必要である。例えば、リジンのε−アミノ基は、Mttによって保護される(例えば、Fmoc−リジン(Mtt)−OH)。あるいは、酸に対する高い安定性が必要な場合には、CIZなどのハロゲン化ベンジル誘導体を使用してリジン側鎖を保護する。シスチンのチオール基、ヒスチジンのイミダゾール、またはアルギニンのグアニジノ基は、一般に特別な保護を必要とする。多種多様なペプチド合成用保護基が記載されている(The Peptides、Gross et al.eds.、Vol.3、Academic Press、New York、1981)。
【0157】
最も広く用いられている2つの保護方法は、Boc/Bzl法およびFmoc/tBu法である。Boc/Bzlでは、Bocをアミノ保護に使用し、様々なアミノ酸の側鎖をBzlまたはcHexを基にした保護基を用いて保護する。Boc基は、触媒水素化条件下で安定であり、多数の側鎖基を保護するためにZ基とともに直交性に使用される。Fmoc/tBuでは、Fmocをアミノ保護に使用し、tBuを基にした保護基を用いて側鎖を保護する。
【0158】
ペプチドは、当分野で周知の方法によって脂質付加される。標準の縮合、付加、置換または酸化(例えば、内部リジンまたは内部リジン類似体上の末端アミノ基と、導入されるアミノ酸またはペプチドまたはリポアミノ酸カルボキシ末端基とのジスルフィド架橋形成またはアミド結合形成)反応によって、脂質がポリペプチドに付加される。
【0159】
別の実施形態においては、免疫原として使用される本発明のペプチドを化学選択的連結または化学結合によって製造する。このような方法は、当分野では周知であり、個々のペプチド成分を化学手段または組換え手段によって製造し、その後、適切な配置またはコンホメーションまたは順序で化学選択的に連結する(例えば、参照により本明細書に援用するNardin et al.、Vaccine 16、590(1998);Nardin et al.、J.Immunol.166、481(2001);Rose et al.、Mol.Immunol.32、1031(1995);Rose et al、Bioconjug.Chem 7、552(1996);およびZeng et al.、Vaccine 18、1031(2000))。
【0160】
リポペプチド製剤
リポペプチドは、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤、例えば、水性溶媒、非水性溶媒、塩、防腐剤、緩衝剤などの無毒賦形剤中に有利に処方される。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、およびエチルオレイン酸エステルなどの注射用有機エステルである。水性溶媒としては、水、アルコール性溶液、水溶液、食塩水溶液、塩化ナトリウムなどの非経口ビヒクル、リンゲルのデキストロースなどがある。防腐剤としては、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなどがある。医薬組成物中の様々な成分pHおよび正確な濃度は、当分野の常法に従って調節される。
【0161】
リポペプチド製剤への外来的なアジュバントの添加は一般に不要であるが、やはり本発明に包含される。このような外来的なアジュバントとしては、すべての許容される免疫賦活性化合物、例えば、サイトカイン、毒素、合成組成物などがある。例示的なアジュバントとしては、IL−1、IL−2、BCG、水酸化アルミニウム、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thur−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(CGP 11637、nor−MDPと称する)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(CGP)1983A、MTP−PEと称する)、脂質A、MPL、細菌から抽出される3成分を含むRIBI、モノホスホリル脂質A、トレハロースジミコレート、細胞壁骨格(MPL+TDM+CWS)の2%スクアレン/Tween80エマルジョンなどがある。
【0162】
生物反応修飾物質(BRM)とリポペプチドを同時投与して、サプレッサーT細胞活性をダウンレギュレートすることが望ましい場合もある。例示的なBRMは、シメチジン(CIM;1200mg/d)(Smith/Kline、PA、USA)、インドメタシン(IND;150mg/d)(Lederle、NJ、USA)、低用量シクロホスファミド(CYP;75、150または300mg/m2)(Johnson/Mead、NJ、USA)などであるが、これらだけに限定されない。
【0163】
免疫におけるリポペプチドの使用
本発明の新規リポペプチドは、可溶性および免疫原性が高く、追加のアジュバントを投与しなくても免疫応答を誘発できる点で、抗原の公知のリポペプチド複合体とは本質的な面で異なる。したがって、本発明のリポペプチドの特別な有用性は、抗体製造、合成ワクチン製剤、抗体および抗体リガンドを使用する診断法、ならびに動物およびヒト医療用免疫療法の分野にある。
【0164】
より具体的には、本発明のリポペプチドは、動物被験体に投与すると、類似の抗体価を得るためにアジュバントを必要とせずに、B細胞エピトープ部分に対する高力価抗体を特異的に産生する。この有用性は、対象リポペプチドの投与後に樹状細胞の成熟が進むことによって裏付けられる(すなわち、N末端に脂質が結合したリポペプチドよりも抗原提示が増大される)。
【0165】
したがって、本発明の第3の態様は、抗原性B細胞エピトープに対する抗体の産生を誘導する方法であって、前記抗原性B細胞エピトープに対する抗体の産生を誘導するのに十分な時間および条件下で、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含む単離リポペプチドを前記被験体に投与するステップを含む方法を提供する。ここで、
(i)前記ポリペプチドは、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列およびB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合している。
【0166】
抗体産生に使用される有効量のリポペプチドは、免疫原性B細胞エピトープの性質、投与経路、免疫化に使用する動物、および求める抗体の性質に応じて変わる。このような変数はすべて、当分野で認められた手段によって経験的に決定される。
【0167】
本明細書で参照する抗体は、単独のまたは他の部分と複合されたポリクローナルおよびモノクローナル抗体全体およびその一部などである。抗体部分としては、FabおよびF(ab)2フラグメント、単鎖抗体などがある。抗体は、適切な実験動物においてインビボで製造することができ、あるいは、人工抗体(単鎖抗体、SCABSなど)の場合には、インビトロでの組換えDNA技術を用いて製造することができる。
【0168】
本発明のこの態様によれば、抗体を、被験体を免疫するために産生することができ、その場合には、B細胞エピトープに結合する高力価抗体または中和抗体が特に好ましい。免疫に適切な被験体が、免疫する抗原性B細胞エピトープに応じて決まることは言うまでもない。本発明は、多様な動物、例えば、家畜(例えばウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ヒヨコ、カモ、シチメンチョウなど)、実験動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ)、愛玩動物(ネコ、イヌ、トリなど)、野生化したまたは野生の外来動物(例えば、オポッサム、ネコ、ブタ、バッファロー、野生のイヌなど)およびヒトの免疫に広範に適用できることが企図される。
【0169】
あるいは、抗体は、市販または診断目的でもよく、その場合には、リポペプチドを投与する被験体は、実験動物または家畜である可能性が最も高い。抗血清の製造には広範な動物種が使用される。一般に、抗血清の製造に使用される動物は、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ウマまたはヒヨコである。ウサギは、血液量が比較的多いので、ポリクローナル抗体を製造するのには好ましい。しかし、当業者には知られているように、マウスなどの小動物とは対照的に、大きい動物から高い抗体を得るためにはより多量の免疫原が必要である。このような場合には、免疫動物から抗体を単離することが望ましい。
【0170】
抗体は高力価抗体であることが好ましい。「高力価」とは、診断または治療に使用するのに適切な十分に高い力価を意味する。当分野では知られているとおり、「高力価」の考え方にはばらつきがある。ほとんどの用途では、少なくとも約103〜104の力価が好ましい。より好ましくは、抗体価は、約104〜約105であり、さらにより好ましくは約105〜約106である。
【0171】
より好ましくは、病原体、ウイルスまたは細菌に由来するB細胞エピトープの場合には、抗体は中和抗体である(すなわち、B細胞エピトープが由来する生物の感染力を中和することができる)。
【0172】
抗体を産生するには、リポペプチド、場合によっては、任意の適切なまたは所望の担体、アジュバント、BRM、または薬学的に許容される賦形剤とともに製剤化されていてもよいリポペプチドを、注射用組成物の形で投与することが有利である。注射は、鼻腔内、筋肉内、皮下、静脈内、皮内、腹腔内、または他の既知の経路とすることができる。本発明のリポペプチドは、鼻腔内投与すると効力を示す。静脈内注射の場合には、1個または複数の液体および栄養補充物を含めることが望ましい。抗体を調製しそれを特性決定する手段は当分野で周知である。(例えば、参照により本明細書に援用するANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL、Cold Spring Harbor Laboratory、1988を参照されたい)。
【0173】
リポペプチドの抗体産生効力は、実施例に示すように、動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ウマ、ウシ、ヤギまたはブタを、リポペプチドを含む製剤で免疫し、次いでB細胞エピトープに対する免疫応答をモニターすることによって確認される。一次と二次免疫応答の両方をモニターする。抗体価は、従来のイムノアッセイ、例えば、ELISAまたは放射性免疫測定法などによって測定される。
【0174】
ポリクローナル抗体の産生は、免疫後様々な時点で免疫動物の血液を採取することによってモニターすることができる。必要に応じて、第2の追加免疫注射を与えて所望の抗体価を得ることができる。追加免疫と滴定のプロセスは、適切な力価が得られるまで繰り返される。所望のレベルの免疫原性が得られたときに、免疫動物から採血し、血清を単離し、保存し、かつ/または動物を使用してモノクローナル抗体(Mab)を生成する。
【0175】
モノクローナル抗体(Mab)の製造には、いくつかの周知の技術のいずれか1つ、例えば、参照により本明細書に援用する米国特許第4,196,265号に例示する手順を使用することができる。
【0176】
例えば、有効量の本発明のリポペプチドを用いて、抗体産生細胞を刺激するのに十分な条件下で、適切な動物を免疫する。マウス、ラットなどのげっ歯類は好ましい動物である。しかし、ウサギ、ヒツジまたはカエルの細胞を使用することも可能である。ラットの使用はある種の利点を提供することもあるが、マウスが好ましい。常法に従って最も使用され、一般に高い割合で安定な融合が得られる動物としてBALB/cマウスが最も好ましい。
【0177】
免疫後に、抗体、特にBリンパ球(B細胞)を産生することができる体細胞を選択して、MAb産生プロトコルに使用する。これらの細胞は、生検によって得られた脾臓、扁桃腺またはリンパ節、あるいは末梢血液試料から得ることができる。脾臓細胞および末梢血細胞が好ましい。というのは、脾臓細胞は、分裂している形質芽細胞段階にある抗体産生細胞の豊富な供給源であり、末梢血細胞は、末梢血液が容易に入手できるからである。一団の動物が免疫され、最も抗体価の高い動物の脾臓が取り出されることが多い。脾臓リンパ球は、脾臓をシリンジを用いてホモジナイズすることによって得られる。一般に、免疫マウスから得られる脾臓は約5×107〜2×108個のリンパ球を含む。
【0178】
次いで、免疫動物から得られるB細胞を、リポペプチド製剤で免疫された動物と同じ種に通常由来する骨髄腫不死化細胞の細胞と融合する。ハイブリドーマ作製融合手順に使用するのに適した骨髄腫細胞系は、好ましくは、抗体非産生性であり、高い融合効率と、所望の融合細胞、すなわちハイブリドーマのみの増殖を支援するある種の選択培地中でその後増殖できなくする酵素欠乏を有する。いくつかの骨髄腫細胞のいずれか1個を使用することができ、これらは当業者に公知である(例えば、ネズミP3−X63/Ag8、X63−Ag8.653、NS1/1.Ag 4 1、Sp210−Ag14、FO、NSO/U、MPC−11、MPC11−X45−GTG 1.7およびS194/5XX0;またはラットR210.RCY3、Y3−Ag 1.2.3、IR983Fおよび4B210;ならびにU−266、GM1500−GRG2、LICR−LON−HMy2およびUC729−6)。好ましいネズミ骨髄腫細胞は、NS−1骨髄腫細胞系(P3−NS−1−Ag4−1とも称される)であり、NIGMS Human Genetic Mutant Cell Repositoryから受託番号GM3573で容易に入手可能である。あるいは、8−アザグアニン耐性であるネズミ骨髄腫SP2/0非産生細胞系を使用する。
【0179】
抗体産生脾臓細胞またはリンパ節細胞と骨髄腫細胞のハイブリッドを生成するためには、細胞膜融合を促進する(化学的または電気的)薬剤の存在下で、それぞれの体細胞を約20:1〜約1:1の割合で骨髄腫細胞と混合する。センダイウイルスを用いた融合方法が、Kohler and Milstein、Nature 256、495〜497、1975およびKohler and Milstein、Eur.J.Immunol.6、511〜519、1976に記載されている。37%(v/v)PEGなどのポリエチレングリコール(PEG)を用いた方法が、Gefter et al.、Somatic Cell Genet 3、231〜236、1977に詳記されている。電気的に誘発される融合方法を使用することも適切である。
【0180】
ハイブリッドは、組織培養培地中でヌクレオチドの新規合成を遮断する薬剤を含む選択培地中で培養することによって増幅される。例示的な好ましい薬剤は、アミノプテリン、メトトレキセートおよびアザセリンである。アミノプテリンおよびメトトレキセートは、プリンとピリミジンの両方の新規合成を遮断するのに対し、アザセリンはプリン合成のみを遮断する。アミノプテリンまたはメトトレキセートを使用する場合には、ヌクレオチド源としてヒポキサンチンおよびチミジンを培地に添加する(HAT培地)。アザセリンを使用する場合には、ヒポキサンチンを培地に添加する。
【0181】
好ましい選択培地はHATである。というのは、ヌクレオチド再生経路を作動させることができるハイブリドーマのみがHAT培地では生存することができるが、骨髄腫細胞は、再生経路に重要な酵素(例えば、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ、すなわちHPRT)を欠いており、生存することができないからである。B細胞は、この再生経路を作動させることができるが、培養寿命が限られており、一般に約2週間以内に死滅する。したがって、この選択培地中で生存することができる唯一の細胞は、骨髄腫とB細胞から形成されたハイブリッドだけである。
【0182】
増幅されたハイブリドーマは、例えば、免疫測定法(例えば、放射性免疫測定法、酵素免疫測定法、細胞傷害アッセイ、プラークアッセイ、ドット免疫結合アッセイなど)などによって、抗体特異性および/または力価について機能的選択に供せられる。
【0183】
選択されたハイブリドーマを連続希釈し、個々の抗体産生細胞系にクローン化し、次いでそのクローンを無期限に増殖させてMAbを得ることができる。これらの細胞系を2つの基本的な方法でMAb製造に利用することができる。通常、体細胞と骨髄腫細胞を最初の融合に供するために使用したタイプの組織適合性動物にハイブリドーマ試料を腹腔内注射する。注射された動物は、融合細胞ハイブリッドによって産生される特異的モノクローナル抗体を分泌する腫瘍を生じる。次いで、血清、腹水などの動物の体液を採取して高濃度のMAbを得る。個々の細胞系はインビトロで培養することもでき、MAbは培地中に自然に分泌され、そこから高濃度で容易に得られる。どちらかの手段で製造されたMAbを、所望であれば、ろ過、遠心分離、およびHPLC、アフィニティークロマトグラフィーなどの様々なクロマトグラフィー法を用いてさらに精製することができる。
【0184】
本発明のモノクローナル抗体は、当分野で周知の方法によって製造される抗イディオタイプの抗体も含む。本発明に用いるモノクローナル抗体は、モノクローナル異種複合体(すなわち、2個以上の抗体分子のハイブリッド)とすることもできる。別の実施形態においては、本発明に用いるモノクローナル抗体はキメラモノクローナル抗体である。一手法においては、プロモーター、リーダー、マウス抗PSA産生細胞に由来する可変領域配列、およびヒト抗体遺伝子に由来する定常領域エキソンを含む組換えDNAをクローニングすることによってキメラモノクローナル抗体を操作する。このような組換え遺伝子によってコードされた抗体がマウス−ヒトキメラである。その抗体特異性は、マウス配列に由来する可変領域によって決まる。定常領域によって決まるそのアイソタイプはヒトDNAに由来する。
【0185】
別の実施形態においては、本発明に用いるモノクローナル抗体は、当分野で周知の技術によって製造される「ヒト化」モノクローナル抗体である。すなわち、マウス相補性決定領域(「CDR」)がマウスIgの重V鎖および軽V鎖からヒトVドメインに移され、その後それらのネズミ対応部分のフレームワーク領域中の一部のヒト残基が置換される。本発明による「ヒト化」モノクローナル抗体は、インビボでの診断方法および治療方法に使用するのに特に適切である。
【0186】
上述したとおり、本発明に用いるモノクローナル抗体およびそのフラグメントは、当分野で周知のインビトロおよびインビボでの方法によって増幅される。インビトロでの増幅は、ウシ胎児血清などの哺乳動物血清、または微量元素および増殖維持補助剤、例えば、正常マウス腹膜しん出細胞、脾臓細胞、骨髄マクロファージなどのフィーダー細胞を添加してもよいダルベッコ改変イーグル培地、RPMI 1640培地などの適切な培地中で実施される。インビトロ製造によって比較的純粋な抗体調製物が提供され、スケールアップして多量の所望の抗体を得ることができる。組織培養条件下での大規模ハイブリドーマ培養技術は当分野で公知であり、均一な懸濁培養(例えば、エアリフト反応器中、または連続攪拌反応器中、あるいは固定化細胞培養または捕捉細胞培養)を含む。
【0187】
多量の本発明のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞をインビボで増幅することによっても得ることができる。細胞クローンを、親細胞と組織適合性がある哺乳動物(例えば、同系マウスに注射して抗体産生腫瘍を増殖させる。場合によっては、注射する前に炭化水素、特にプリスタン(テトラメチルペンタデカン)などの油で動物を初回抗原刺激してもよい。
【0188】
本発明によれば、本発明のモノクローナル抗体フラグメントは、上述したように製造されたモノクローナル抗体から、ペプシン、パパインなどの酵素による消化、および/または化学還元によるジスルフィド結合の切断を含む方法によって得られる。
【0189】
本発明のモノクローナル複合体は、当分野で公知の方法、例えば、グルタルアルデヒド、過ヨウ素酸塩などのカップリング剤の存在下で酵素を用いて、例えば、上述したように調製されたモノクローナル抗体を反応させることによって調製される。フルオレセインマーカーとの複合体は、これらのカップリング剤の存在下で、またはイソチオシアネートとの反応によって調製される。金属キレートとの複合体も同様に製造される。抗体が結合し得る他の部分としては、放射性核種、例えば、3H、125I、32P、35S、14C、51Cr、36Cl、57Co、58Co、59Fe、75Se、152Euなどがある。本発明の放射能標識モノクローナル抗体は、当分野で周知の方法によって製造される。例えば、モノクローナル抗体は、ヨウ化ナトリウムまたはヨウ化カリウム、および次亜塩素酸ナトリウムなどの化学酸化剤またはラクトペルオキシダーゼなどの酵素酸化剤と接触させることによってヨウ素化される。本発明によるモノクローナル抗体は、配位子交換方法、例えば、パーテクネート(pertechnate)をスズ溶液で還元し、還元されたテクネチウムをセファデックスカラム上にキレート化し、このカラムに抗体を適用することによって、または直接標識技術によって(例えば、パーテクネート、SNCl2などの還元剤、ナトリウム−カリウムフタレート溶液などの緩衝液、および抗体をインキュベートすることによって)テクネチウム99で標識することができる。
【0190】
任意の免疫測定法を使用してリポペプチド製剤による抗体産生をモニターすることができる。最も簡単で直接的な免疫測定法は結合アッセイである。ある種の好ましい免疫測定法は、当分野で既知の様々なタイプの酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および放射性免疫アッセイ(RIA)である。組織切片を用いた免疫組織化学的検出も特に有用である。しかし、検出はこのような技術だけに限定されず、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、FACS分析なども使用できることは容易に理解される。
【0191】
アッセイによって定量的な結果が得られることが最も好ましい。例えば、抗体は、簡単な競合アッセイにおいて試験される。B細胞エピトープに結合する既知の抗体試料と試験抗体を、B細胞エピトープを含む抗原組成物、好ましくは自然抗原とともにインキュベートする。本明細書で使用する「抗原組成物」とは、利用可能な形の様々なB細胞エピトープを含むあらゆる組成物を意味する。ELISAプレートの抗原被覆ウェルが特に好ましい。一実施形態においては、抗原組成物を使用する前に、既知の抗体を様々な量(例えば、1:1、1:10および1:100)の試験抗体とある時間混合する。既知の抗体の1個が標識されている場合には、抗原に結合した標識を直接検出することが可能である。アッセイによって、純粋な試料と比較して、試験抗体による競合、したがって、交差反応性が求められる。あるいは、既知抗体または試験抗体のどちらかに特異的である二次抗体を用いて、競合を判定することができる。
【0192】
抗原組成物に結合する抗体は、既知の抗体の結合に対して有効に競合することができ、したがって、既知の抗体の結合をかなり減少させるはずである。試験抗体の不在下での既知の抗体の反応性が対照になる。試験抗体の存在下で反応性がかなり減少すれば、試験抗体がB細胞エピトープに結合したことを示している(すなわち、試験抗体が既知の抗体と交差反応する)。
【0193】
例示的なELISAにおいては、B細胞エピトープに対する抗体は、ポリスチレンマイクロタイタープレート中のウェルなどタンパク質親和性を示す選択表面上に固定される。次いで、B細胞エピトープを含む組成物をウェルに添加する。結合させ、洗浄して非特異的に結合した免疫複合体を除去した後に、結合エピトープを検出することができる。検出は、一般に、B細胞エピトープに結合することが知られており検出可能な標識に連結された二次抗体を添加することによって実施される。このタイプのELISAは、簡単な「サンドイッチELISA」である。検出は、前記二次抗体を添加し、その後二次抗体に対して結合親和性を有し検出可能な標識に連結された三次抗体を添加しても実施することができる。
【0194】
不妊の誘発
生殖ホルモンまたはホルモン受容体の抗原性B細胞エピトープを含む適切に構成された本発明のリポペプチドは、被験体において不妊を誘導する能力がある。
【0195】
したがって、本発明の別の態様は、被験体において不妊を誘導する方法であって、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含む単離リポペプチドを前記被験体に投与するステップを含む方法を提供する。ここで、
(i)前記ポリペプチドは、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、および生殖ホルモンまたはホルモン受容体のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合しており、
(iii)前記リポペプチドを、前記抗原性B細胞エピトープに対する液性免疫応答を誘発するのに十分な時間と条件下で投与する。
【0196】
リポペプチドは、本明細書に記載する有利なリポペプチド製剤の形で投与することができる。
【0197】
「液性免疫応答」とは、卵形成、精子形成、受精、着床または胚発生を阻止するのに十分なB細胞エピトープに対する二次免疫応答が発生することを意味する。
【0198】
発生する液性免疫は、被験体中のB細胞エピトープに対する持続的なレベルの抗体を含むことが好ましい。「持続的なレベルの抗体」とは、卵形成、精子形成、受精、着床または胚発生を阻止するのに十分なレベルの、B細胞エピトープに対する循環抗体を意味する。
【0199】
抗体レベルは、免疫された雌被験体の少なくとも単一の生殖サイクルの間持続することが好ましく、少なくとも約6カ月間または9カ月間または12カ月間または2年間持続することがより好ましい。
【0200】
B細胞エピトープは、黄体形成ホルモン−放出ホルモン(LHRH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、ヒトもしくはブタなどの他の哺乳動物のZP3、FSH受容体ZP3aなどの透明帯タンパク質のアミノ酸配列に由来することが好ましい。
【0201】
このカテゴリー内の特に好ましいB細胞エピトープとしては、β−hCGのC末端部分(CTP)、ヒトZP3のアミノ酸残基323〜341、ブタZP3aのアミノ酸残基8〜18または残基272〜283または残基319〜330などがある。
【0202】
さらにより好ましくは、B細胞エピトープは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号76、配列番号77、配列番号78、配列番号79、配列番号80、配列番号81、配列番号82、配列番号83および配列番号84からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0203】
Tヘルパーエピトープは、配列番号1、配列番号20、配列番号24、配列番号26および配列番号44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことが好ましいが、配列番号1または18〜56のいずれか1つを使用することもできる。
【0204】
本発明の特に好ましい実施形態においては、Tヘルパーエピトープは、配列番号1、配列番号20、配列番号24、配列番号26および配列番号44のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含み、B細胞エピトープは、配列番号2または配列番号3または配列番号4で示されるLHRHのアミノ酸配列を含む。このような好ましい実施形態によれば、ポリペプチドは、配列番号5〜16、103または104からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。また、この好ましい実施形態によれば、脂質部分が、(1)Pam2Cys、(2)Ste2Cys、(3)Lau2Cysおよび(4)Oct2Cysからなる群から選択されるリポアミノ酸を含むことが(必須ではないが)好ましい。
【0205】
本発明のリポペプチドによってLHRHに対する抗体が持続的に産生されることは、対象リポペプチドが、不妊を誘発するワクチン製剤中の有効成分、または避妊薬として一般に有用であることを示している。
【0206】
したがって、本発明の別の態様は、薬学的に許容される希釈剤と、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされた単離ポリペプチドを含むリポペプチドとを含む避妊薬を提供する。ここで、
(i)前記ポリペプチドは、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、および生殖ホルモンまたはホルモン受容体のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合している。
【0207】
本発明のワクチン/避妊薬は、本明細書の上記「リポペプチド製剤」の項に記載する1種または複数の担体または賦形剤または他の薬剤を含むことができる。
【0208】
同様に、被験体へのワクチン/避妊薬の投与は、本明細書の上記手段によって行われる。被験体は、ヒト、または動物被験体、例えば、家畜、実験動物、愛玩動物、野生化した動物、もしくは野生の外来動物が好ましい。
【0209】
A群ストレプトコッカスに対する免疫化
A群ストレプトコッカス(GAS)は、比較的軽度の疾病、例えば、「連鎖球菌咽喉炎」および膿か疹、ならびにより稀な重症かつ生命にかかわることもある疾患、例えば、壊疽性筋膜炎および連鎖球菌毒素性ショック症候群の細菌病原体である。生命にかかわることもある重度のGAS疾患は、血液、筋肉または肺など細菌が通常存在しない体の部分に細菌が侵入したときに起こり得る「侵襲性GAS疾患」と称する感染症である。最も重篤な形態の侵襲性GAS疾患のうちの2つは、壊疽性筋膜炎および連鎖球菌毒素性ショック症候群(STSS)である。壊疽性筋膜炎は、筋肉組織、脂肪組織および皮膚組織を破壊する。STSSは、血圧を急激に降下させ、器官(例えば、腎臓、肝臓、肺)を衰えさせる。壊疽性筋膜炎患者の約20%、STSS患者の半分以上が死亡する。他の形態の侵襲性A群ストレプトコッカス疾患患者の約10%〜15%が死亡する。米国だけで1999年の侵襲性GAS疾患は約9,400例であった。
【0210】
侵襲性GAS感染症は、細菌が感染した個体の防御を通過したとき、例えば、細菌が組織に侵入できる傷または他の皮膚損傷を負ったとき、あるいはHIV/AIDSを含めて慢性疾病または免疫系に影響を及ぼす疾病のために感染防御力が低下したときに一般に起こる。また、GASのいくつかの溶菌系統は、他よりも重度の疾患を起こす可能性が高い。癌、糖尿病、腎臓透析などの慢性疾病患者、およびステロイドなどの薬物を使用している人はリスクがより高くなる。
【0211】
本明細書に例示するとおり、A群ストレプトコッカス抗原、好ましくはタンパク質Mの抗原性B細胞エピトープを含む適切に構成された本発明のリポペプチドによって、GASに対する免疫が動物宿主に付与され、より具体的にはGASのMタンパク質に対して血清IgG、唾液IgAおよび糞便IgAが誘発され、その後のGASへの暴露に対する防御免疫応答も付与され、それによってGASによる死亡率を減少させることができる。
【0212】
したがって、本発明の別の態様は、被験体中のA群ストレプトコッカス抗原に対する免疫応答を誘発する方法であって、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含む単離リポペプチドを前記被験体に投与するステップを含む方法を提供する。ここで、
(iv)前記ポリペプチドは、
(b)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびA群ストレプトコッカス抗原のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(c)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(v)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合しており、
(vi)前記リポペプチドを、前記抗原性B細胞エピトープに対する液性免疫応答を誘発するのに十分な時間と条件下で投与する。
【0213】
リポペプチドは、本明細書に記載する有利なリポペプチド製剤の形で投与することができる。
【0214】
「液性免疫応答」とは、B細胞エピトープを含むペプチド、および/またはその後のA群ストレプトコッカスの暴露に対する防御免疫を提供するペプチドに対する血清IgG、唾液IgAまたは糞便IgAを誘発するのに十分なB細胞エピトープに対する二次免疫応答が発生することを意味する。
【0215】
発生する液性免疫は、被験体中のB細胞エピトープに対する持続的なレベルの抗体を含むことが好ましい。「持続的なレベルの抗体」とは、引き続く暴露後のA群ストレプトコッカスによる感染の蔓延を防止し、かつ/またはその後A群ストレプトコッカスに暴露された被験体の罹患率もしくは死亡率を低下させるのに十分なレベルの、B細胞エピトープに対する循環抗体を意味する。
【0216】
抗体レベルは、少なくとも約6カ月間または9カ月間または12カ月間または2年間持続することが好ましい。
【0217】
B細胞エピトープは、A群ストレプトコッカスのMタンパク質アミノ酸配列に由来することが好ましい。
【0218】
このカテゴリー内の特に好ましいB細胞エピトープとしては、配列番号101で示されるアミノ酸配列を含むペプチドなどがある。
【0219】
Tヘルパーエピトープは、配列番号1、配列番号20、配列番号24、配列番号26および配列番号44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことが好ましいが、配列番号1または18〜56のいずれか1個を使用することもできる。
【0220】
本発明の特に好ましい実施形態においては、Tヘルパーエピトープは、配列番号24で示されるアミノ酸配列を含み、B細胞エピトープは、配列番号101で示されるアミノ酸配列を含む。このような好ましい実施形態によれば、ポリペプチドは、配列番号105〜108からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。また、この好ましい実施形態によれば、脂質部分が、式(I)または(II)のリポアミノ酸を含むことが(必須ではないが)好ましいが、本明細書に記載するあらゆる脂質が有用である。
【0221】
本発明のリポペプチドによってJ14ペプチドに対する抗体が持続的に産生されることは、対象リポペプチドが、A群ストレプトコッカスに対する防御免疫を与えるワクチン製剤中の有効成分として一般に有用であることを示している。
【0222】
したがって、本発明の別の態様は、薬学的に許容される希釈剤および1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされた単離ポリペプチドを含むリポペプチドを含むA群ストレプトコッカスに対するワクチンを提供する。ここで、
(iii)前記ポリペプチドは、
(b)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびA群ストレプトコッカス抗原のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(c)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(iv)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合している。
【0223】
本発明のワクチンは、本明細書の上記「リポペプチド製剤」の項に記載する1種または複数の担体または賦形剤または他の薬剤を含むことができる。
【0224】
同様に、被験体へのワクチンの投与は、本明細書の上記手段によって、好ましくは鼻腔内経路によって行われる。被験体は、ヒト、または動物被験体、例えば、家畜、実験動物、愛玩動物、野生化した動物、もしくは野生の外来動物が好ましい。
【0225】
過剰で無秩序な胃酸分泌の阻害または予防
ガストリンは壁細胞による胃酸分泌を刺激することが知られている。またその活性は、ガストリンとガストリン受容体またはコレシステキニン受容体との結合によって媒介される。ガストリン末端の4〜5個のアミノ酸残基は、完全長タンパク質と同じ受容体特異性および活性をもたらす。ガストリン末端の5個のアミノ酸残基は「ペンタガストリン」と称される。無秩序なガストリン発現または分泌は高ガストリン血症を生じ、過剰で無秩序な胃酸分泌の結果、ゾリンジャーエリソン症候群、胃および十二指腸潰瘍の形成、あるいは膵臓または十二指腸におけるガストリノーマをもたらす恐れがある。ガストリンに対する抗体を用いてガストリンを免疫中和すると、ガストリンペプチドの胃内分泌に応じて胃酸の分泌が遮断されることも知られている。
【0226】
本明細書に例示するとおり、ガストリンペプチドの抗原性B細胞エピトープを含む適切に構成された本発明のリポペプチドは、ガストリンまたは胃酸分泌の阻害が必要な他の哺乳動物のマウスモデルにおける過剰なガストリン産生の作用に対して動物宿主を免疫することができる。本明細書が提供するデータは、ガストリンに対する液性免疫、およびガストリンの免疫中和を誘発し、それによって過剰で無秩序な胃酸分泌による高ガストリン血症、ゾリンジャーエリソン症候群、胃潰瘍または十二指腸潰瘍に罹患している動物における胃酸分泌を遮断するか、あるいは膵臓または十二指腸におけるガストリン分泌腫瘍の形成を減少または防止する(すなわち、ガストリノーマの予防および/または治療)対象リポペプチドの一般的有用性を示している。
【0227】
したがって、本発明の別の態様は、被験体中のガストリンペプチドに対する免疫応答を誘発する方法であって、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含む単離リポペプチドを前記被験体に投与するステップを含む方法を提供する。ここで、
(vii)前記ポリペプチドは、
(c)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびガストリンペプチド抗原のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(d)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(viii)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合しており、
(ix)前記リポペプチドを、前記抗原性B細胞エピトープに対する液性免疫応答を誘発するのに十分な時間と条件下で投与する。
【0228】
リポペプチドは、本明細書に記載する有利なリポペプチド製剤の形で投与することができる。
【0229】
「液性免疫応答」とは、B細胞エピトープを含むガストリンペプチドに対する血清IgGを誘発するのに十分なB細胞エピトープに対する二次免疫応答が発生することを意味する。
【0230】
発生する液性免疫は、被験体中のB細胞エピトープに対する持続的なレベルの抗体を含むことが好ましい。「持続的なレベルの抗体」とは、ガストリンに応答した過剰または無秩序な胃酸分泌を防止するのに十分なレベルの、B細胞エピトープに対する循環抗体を意味する。
【0231】
抗体レベルは、少なくとも約6カ月間または9カ月間または12カ月間または2年間持続することが好ましい。
【0232】
B細胞エピトープはペンタガストリンペプチド内に含まれることが好ましい。このカテゴリー内の特に好ましいB細胞エピトープとしては、配列番号102で示されるアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられるが、B細胞エピトープを含む完全長ガストリンタンパク質またはその任意の免疫原性断片も使用することができる。
【0233】
Tヘルパーエピトープは、配列番号1、配列番号20、配列番号24、配列番号26および配列番号44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことが好ましいが、配列番号1または18〜56のいずれか1個を使用することもできる。
【0234】
本発明の特に好ましい実施形態においては、Tヘルパーエピトープは、配列番号24で示されるアミノ酸配列を含み、B細胞エピトープは、配列番号102で示されるアミノ酸配列を含む。このような好ましい実施形態によれば、ポリペプチドは、配列番号109〜112からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。また、この好ましい実施形態によれば、脂質部分が、式(I)または(II)のリポアミノ酸を含むことが(必須ではないが)好ましいが、本明細書に記載するあらゆる脂質が有用である。
【0235】
本発明のリポペプチドによってペンタガストリンまたはガストリンに対する抗体が持続的に産生されることは、それを必要とする被験体においてガストリンの有害作用を軽減するワクチン製剤中の有効成分としての対象リポペプチドの一般的有用性を示している。
【0236】
したがって、本発明の別の態様は、薬学的に許容される希釈剤および1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされた単離ポリペプチドを含むリポペプチドを含む、被験体における過剰なガストリン分泌によって誘発される疾患または症状に対するワクチンを提供する。ここで、
(v)前記ポリペプチドは、
(c)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびガストリンペプチド抗原のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(d)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(vi)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合している。
【0237】
本発明のワクチンは、本明細書の上記「リポペプチド製剤」の項に記載する1種または複数の担体または賦形剤または他の薬剤を含むことができる。
【0238】
同様に、対象ワクチンの投与は、本明細書の上記手段によって行われる。被験体は、ヒトであることが好ましい。
【0239】
本発明を、以下の非限定的な実施例および図面を参照してさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0240】
材料および方法
化学物質
別段の記載がないかぎり、化学物質は、分析グレードまたはそれと同等のグレードであった。N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、ピペリジン、トリフルオロ酢酸(TFA)、O’ベンゾトリアゾール−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)およびジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)およびジイソプロピルカルボジイミド(DIPCDI)を、Auspep Pty.Ltd.、Melbourne、AustraliaおよびSigma−Aldrich Pty.Ltd.、Castle Hill、Australiaから入手した。O’ベンゾトリアゾール−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)を、Bachem、(Bachem AG、Switzerland)から入手した。ジクロロメタン(DCM)およびジエチルエーテルをMerck Pty Ltd.(Kilsyth、Australia)から入手した。フェノールおよびトリイソプロピルシラン(TIPS)をAldrich(Milwaulke、WI)から、トリニトロベンジルスルホン酸(TNBSA)およびジアミノピリジン(DMAP)をFlukaから、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)をSigmaから、パルミチン酸をFlukaから入手した。
【0241】
式(I)の脂質部分の合成
Pam3Cysを、Zeng et al.、J Pept Sci 2,:66(1996)に記載の方法によって改変されたWeismuller et al.、Hoppe Seylers Z Physiol Chem 364、593(1983)に記載された方法によって調製した。リポアミノ酸Pam3Cysを、Zeng et al.(上記)によって記載された手順に従ってリジンの露出したε−アミノ基に結合(couple)させる。簡単に説明すると、2倍過剰のPam3Cys、TBTUおよびHOBtをDCMに溶解し、3倍過剰のDIPEAを添加した。次いで、この溶液を、樹脂に結合したペプチドに添加して、リポペプチドを製造した。
【0242】
式(II)の脂質部分の合成
Pam2Cysおよびその誘導体Fmoc−Pam2Cys−OHを、Jones et al.、Xenobiotica 5、155(1975)およびMetzger et al.、Int J Pept Protein Res 38、545(1991)に記載の方法によって調製した。
【0243】
リポペプチドの合成
Pam2Cys、Ste2Cys、Oct2CysまたはLau2Cysを、Jones et al.、Xenobiotica 5、155(1975)およびMetzger et al.、Int J Pept Protein Res 38、545(1991)に記載の方法の変法を用いてペプチドに結合させた。
【0244】
I.S−(2,3−ジヒドロキシプロピル)システインの合成:
トリエチルアミン(6g、8.2ml、58mmol)を、L−システイン塩酸塩(3g、19mmol)と3−ブロモ−プロパン−1,2−ジオール(4.2g、2.36ml、27mmol)の水溶液に添加し、その均一溶液を室温で3日間保持した。その溶液を真空中40℃で濃縮して白色残渣とし、それをメタノール(100ml)とともに煮沸し、遠心分離して、その残渣を水(5ml)に溶解した。この水溶液をアセトン(300ml)に添加し、遠心分離して沈殿物を単離した。この沈殿物を、アセトンを用いて水から数回沈殿させて精製して、白色アモルファス粉末のS−(2,3−ジヒドロキシプロピル)システイン(2.4g、12.3mmol、64.7%)を得た。
【0245】
II.N−フルオレニルメトキシカルボニル−S−(2,3−ジヒドロキシプロピル)システイン(Fmoc−Dhc−OH)の合成:
S−(2,3−ジヒドロキシプロピル)システイン(2.45g、12.6mmol)を、9%炭酸ナトリウム(20ml)に溶解した。フルオレニルメトキシカルボニル−N−ヒドロキシスクシンイミド(3.45g、10.5mmol)のアセトニトリル(20ml)溶液を添加し、その混合物を2時間攪拌し、次いで水(240ml)で希釈し、ジエチルエーテル(25ml×3)で抽出した。その水相を濃塩酸でpH2に酸性化し、次いで、酢酸エチル(70ml×3)で抽出した。その抽出物を水(50ml×2)および塩化ナトリウム飽和溶液(50ml×2)で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水し、蒸発乾固させた。エーテルおよび酢酸エチルから−20℃で再結晶させて無色粉末(2.8g、6.7mmol、63.8%)を得た。
【0246】
III.樹脂に結合したペプチドへのFmoc−Dhc−OHのカップリング:
Fmoc−Dhc−OH(100mg、0.24mmol)を、DCMおよびDMF(1:1、v/v、3ml)中でHOBt(36mg、0.24mmol)およびDICI(37ul、0.24mmol)を用いて0℃で5分間活性化した。次いで、その混合物を、樹脂に結合したペプチド(0.04mmol、0.25gアミノ−ペプチド樹脂)を含む容器に添加した。2時間振とうした後に、溶液をろ過して除去し、樹脂をDCMおよびDMF(各3×30ml)で洗浄した。TNBSA試験を用いて反応終了をモニターした。必要に応じて、カップリングを2回実施した。
【0247】
IVa.Fmoc−Dhc−ペプチド樹脂の2個のヒドロキシ基のパルミトイル化:
パルミチン酸(204mg、0.8mmol)、DICI(154ul、1mmol)およびDMAP(9.76mg、0.08mmol)をDCM 2mlおよびDMF 1mlに溶解した。樹脂に結合したFmoc−Dhc−ペプチド樹脂(0.04mmol、0.25g)をこの溶液に懸濁し、16時間室温で振とうした。ろ過して溶液を除去し、次いで樹脂をDCMおよびDMFで十分洗浄して尿素の残渣を除去した。Fmoc基の除去を2.5%DBUを用いて実施した(2×5分)。
【0248】
IVb.Fmoc−Dhc−ペプチド樹脂の2個のヒドロキシ基のステアロイル化(stearoylation):
ステアリン酸(約0.8mmol)、DICI(154ul、1mmol)およびDMAP(9.76mg、0.08mmol)をDCM 2mlおよびDMF 1mlに溶解した。樹脂に結合したFmoc−Dhc−ペプチド樹脂(0.04mmol、0.25g)をこの溶液に懸濁し、室温で16時間振とうした。ろ過して溶液を除去し、次いで樹脂をDCMおよびDMFで十分洗浄して尿素の残渣を除去した。Fmoc基の除去を2.5%DBUを用いて実施した(2×5分)。
【0249】
IVc.Fmoc−Dhc−ペプチド樹脂の2個のヒドロキシ基のラウロイル化(lauroylation)
ラウリン酸(約0.8mmol)、DICI(154ul、1mmol)およびDMAP(9.76mg、0.08mmol)をDCM 2mlおよびDMF 1mlに溶解した。樹脂に結合したFmoc−Dhc−ペプチド樹脂(0.04mmol、0.25g)をこの溶液に懸濁し、室温で16時間振とうした。ろ過して溶液を除去し、次いで樹脂をDCMおよびDMFで十分洗浄して尿素の残渣を除去した。Fmoc基の除去を2.5%DBUを用いて実施した(2×5分)。
【0250】
IVd.Fmoc−Dhc−ペプチド樹脂の2個のヒドロキシ基のオクタノイル化(octanoylation)
オクタン酸(約0.8mmol)、DICI(154ul、1mmol)およびDMAP(9.76mg、0.08mmol)をDCM 2mlおよびDMF 1mlに溶解した。樹脂に結合したFmoc−Dhc−ペプチド樹脂(0.04mmol、0.25g)をこの溶液に懸濁し、室温で16時間振とうした。ろ過して溶液を除去し、次いで樹脂をDCMおよびDMFで十分洗浄して尿素の残渣を除去した。Fmoc基の除去を2.5%DBUを用いて実施した(2×5分)。
【0251】
ペプチド合成
ペプチド合成に使用される一般的な手順は、Jackson et al.、Vaccine 18、355(1999)に記載されている。CD4+ T細胞エピトープとB細胞エピトープの間に脂質が結合するのを可能にするために、Fmoc−リジン(Mtt)−OHを、樹脂に結合したペプチドのほぼ中央の2個のエピトープ間に挿入した。ペプチド内の別の位置、例えば、配列番号24のLys−14残基に脂質を付加させる場合には、Fmoc−リジン(Mtt)−OHもその位置に挿入した。ペプチド合成終了後に、1%TFAのジクロロメタン溶液を連続して流しながら30〜45分間洗浄してMtt基を除去して、リジン残基のεアミノ基を露出させた。2個のセリン残基をスペーサーとして使用する場合には、2個のセリン残基をこのεアミノ基に結合させた。あるいは、2個のアルギニン残基をスペーサーとして使用する場合には、2個のアルギニン残基をこのεアミノ基に結合させた。あるいは、6−アミノヘキサン酸をこのεアミノ基に結合させた。続いて、脂質部分、例えば、Pam3Cys、Pam2Cys、Ste2Cys、Oct2Cys、またはLau2Cysのカップリングは上述した。
【0252】
すべての樹脂結合ペプチド構築体を、固相支持体から試薬B(88%TFA、5%フェノール、2%TIPS、5%水)を用いて2時間かけて切断し、Zeng et al.、Vaccine 18、1031(2000)に記載されたように逆相クロマトグラフィーによって精製した。
【0253】
分析用逆相高圧液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)を、Waters HPLCシステム中に組み込まれたVydac C4カラム(4.6×250mm)を用いて実施し、0.1%TFA水溶液および0.1%TFAのCH3CN溶液を限界溶媒(limit solvent)として用いて流量1ml/分で展開した。すべての生成物は、分析用RP−HPLCによって主要な単一ピークとして現れ、遅延イオン抽出(delayed ion extraction)を備えたBruker BIFLEX装置を用いたMALDI−TOF質量分析法によって分析したところ、予想どおりの質量であった。免疫原の最終定量を、ペプチド構築体中のトリプトファン残基およびチロシン残基の存在を利用して280nmにおける吸収を測定することによって実施した(モル吸光係数6.6×103)。
【0254】
Pam3Cys含有ペプチドおよびPam2Cys含有ペプチドのペプチドと脂質部分の間に2個の残基を組み込むことによるセリンの効果を検討するために、2個のセリン残基を順次ペプチドに付加してから、脂質部分を共有結合させた(その構造を図1に示す)。分析用RP−HPLCおよび質量分析法によって実施したそれらの特性をまとめて表1および2に示す。
【0255】
免疫手順
6〜8週齡の5匹のBALB/c雌マウスの各グループを0日および再度28日に接種した。あるいは、4〜6週齡の非近交系クァッケンブッシュ雌マウスを鼻腔内免疫し、21日間隔の一次免疫により追加免疫した。皮下(s.c.)接種(100μl容量/用量)の場合には、リポペプチド構築体を生理食塩水中に調製し、非脂質付加ペプチドを一次注射の場合には等容量の完全フロイントアジュバント(CFA)、二次接種の場合には等容量の不完全フロイントアジュバントのエマルジョンとして処方した。鼻腔内(i.n.)接種の場合には、ペントレン吸入によって麻酔したマウスの鼻孔にペプチド(生理食塩水中)50μlを投与した。血清を、一次接種から4週間後および二次接種から2週間後に採取した血液から調製し、あるいは、最終免疫から7日後に尾から採血して調製した。
【0256】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)
血清試料について、被覆抗原として免疫抗原(例えば、LHRH、J14またはペンタガストリン)を用いて、基本的にGhosh et al.、Int Immun.11、1103、(1999)に記載されたとおりELISAアッセイを実施した。抗体力価を、0.2のODが得られる血清の最高希釈度の逆数として表す。これは、抗体不在下のバックグラウンド結合の約5倍である。Ghosh et al.、Int Immun.11、1103、(1999)に記載されたように、LHRHまたはJ14に特異的な抗体のアイソタイプを、マウスIgM、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3またはIgAに対するウサギ抗血清(ICN Pharmaceuticals Inc.、Costa Mesa、CA)を用いて求めた。
【0257】
受胎能試験
ペプチド免疫原を接種し、雄マウスに暴露した後に、雌マウスが同腹子を産めるかどうか試験した。CFA中の生理食塩水で免疫した雌マウスのグループを対照として使用した。雄マウスを、2匹または3匹の雌性のマウスを飼育するケージに入れ、各ケージ間を雄マウスを循環させて各グループの雌マウスをすべての雄に暴露した。オスおよびメスを一緒に合計3週間飼育し、その最後に雄を除去し、雌を観察しつづけた。
【表1】
【表2】
【0258】
樹状細胞培養
樹状細胞(DC)を、完全IDDMに基づく培地中で培養した。これは、25mM HEPESを含みα−チオグリセロールまたはL−グルタミン(JRH Bioscience、Lenexa、USA)を含まず、10%(v/v)熱失活(56℃、30分)ウシ胎児血清(CSL Ltd.、Parkville、Victoria、Australia)、ゲンタマイシン(24μg/mL)、グルタミン(2mM)、ピルビン酸ナトリウム(2mM)、ペニシリン(100IU/mL)、ストレプトマイシン(180μg/mL)および2−メルカプトエタノール(0.1mM)を添加したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)からなるものとした。DC産生の場合には、培養NIH/3T3細胞から得られる30%上清、およびGM−CSF遺伝子をトランスフェクトしたAg8653細胞から得られる上清の形態の5%GM−CSFを完全IMDMにさらに添加した(DC培地)。
【0259】
未成熟樹状細胞の培養方法は、Winzler et al.、J.Exp Med.185、317(1997)に基づくものであった。BALB/cマウスから得た脾臓細胞を3ml DC培地中に1.5×106細胞/55mmシャーレ(Techno−Plas、S.A.、Australia)で播き、37℃、5%CO2でインキュベートした。培養に使用した装置はすべて発熱性物質を含んでいなかった。培地を4日ごとに交換し、全細胞をシャーレに戻した。12日目に、懸濁した細胞と弱く接着した細胞の両方を強制的にピペットで回収し、次いで培地を吸引した。この手順をPBS 2mlを用いて繰り返した。残りの強く接着した細胞は廃棄した。回収した細胞を遠心分離によってペレットにし、新しいシャーレに再度播いた。引き続き、4日ごとの培地交換と継代の交互サイクルで細胞を維持した。連続培養1カ月後に、浮遊細胞および半接着細胞が出現し、未成熟DCの染色特性を呈し、D1細胞と呼ばれるようになる。これらの継代条件下で、培養D1細胞の大多数が、中程度の発現レベルの細胞表面MHCクラスII分子を特徴とする未成熟表現型を維持する。
【0260】
D1細胞のフローサイトメトリー分析
D1細胞(1×105細胞/試料)を、DC培地1mlを含む新しいシャーレに播き、リポペプチド0.0045nmolとともにインキュベートし、完全IMDM培地に溶解した。大腸菌(E.coli)血清型O111:B4から精製されたリポ多糖(Difco、Detroit、Michigan、USA、Dr.E.Margot Anders、Department of Microbiology and Immunology、University of Melbourneの好意による)を5μg/mLでDC成熟の陽性対照として使用した。終夜インキュベートした後に、細胞を収集し、1%FCSを含むPBSで1回洗浄した。FCγRII/IIIへの非特異的結合を防止するために、細胞を正常マウス血清20μLとともに5分間室温でプレインキュベートした。次いで、細胞をFITC複合モノクローナル抗体14−4−4S(IgG2a、抗l−Ek,d;Ozato et al.、J.Immunol、124、533、1980)に氷上で30分間暴露した。インフルエンザウイルス赤血球凝集素に特異的であるモノクローナル抗体36/1(Brown et al.、Arch Virol 114、1 1990)をアイソタイプ対照として使用した。すべての抗体を2.5μg/mLで使用した。試料を、1%FCSを含むPBSで1回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを含むPBSを用いて氷上で15分間かけて固定した。フローサイトメトリー分析をFACSort(Becton Dickinson、San Jose、USA)を用いて実施し、データをFlowJoソフトウェア(Tree Star,Inc.、San Carlos、CA、USA)を用いて分析した。
【実施例2】
【0261】
LHRH B細胞エピトープを含むリポペプチドの試験
LHRHを含むリポペプチドの可溶性
LHRHを含む様々なリポペプチド調製物の目視検査によれば、それらは可溶性が著しく異なる(図2)。可溶性の増加は、脂質が、分子のほぼ中央にある2個のエピトープ間に結合した場合に最も明らかである。リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]および[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]は、生理食塩水に少なくとも8mg/ml(これよりも高い濃度は試験しなかった)の濃度で溶解したのに対して、配列のN末端に脂質が結合した構築体は、わずか0.25mg/mlの濃度で乳光色の溶液を形成した。
【0262】
脂質部分とペプチド部分の間に2個の親水性セリン残基を取り込むことによって(すなわち、Pam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]およびPam3Cys−Ser−Ser−[Th]−[B])、N末端に結合した脂質を含むペプチドの可溶性をさらに高めようとする努力は失敗に終わった。実際に、リポペプチドPam3Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]は、不溶性過ぎて、他のリポペプチドに使用した条件下ではRP−HPLCによって精製することができなかった。本発明者らは、この構築体の不溶性は、実用的なワクチン製造案を考慮する上で支障があると考えた。
【0263】
LHRH B細胞エピトープを含むリポペプチドの免疫原性
3個のリポペプチドPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]、[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]および[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]は、生理食塩水に溶解してs.c.投与すると、高レベルの抗LHRH抗体を誘発した。実際に、これらのリポペプチドを2回投与した後に誘発される抗体価は、[Th]−[B]または[Th]−Lys−[B]をCFAに入れて投与したときに得られる抗体価と類似していた(図3)。Pam3Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]またはPam2Cys−[Th]−[B]を与えたマウス血清中の抗LHRH抗体の力価はわずかに低かった。2個の可溶性リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]、[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]は、一次接種後に、他の低可溶性リポペプチド構築体の10〜100倍高いレベルの抗LHRH抗体を誘発した。[Th]−[B]とPam3Cys−Ser−(Lys)4を1:1または1:5で混合して与えた5匹のマウスの2つのグループは、有意なレベルの抗LHRH抗体を誘発しなかった。この知見は、Pam3Cys−Ser−(Lys)4をアジュバントとして用いて報告された他の結果(Jung,G.、and W.G.Bessler.(1995)「Immunological recognition of peptides in medicine and biology」、N.D.Zegers、W.J.A.Boersma、and E.Claassen(編)CRC Press、Boca、New York、London、Tokyo、p.159)とは対照的である。
【0264】
様々なリポペプチドを用いて二次接種した2週間後に実施した受胎能試験の結果を表3に示す。
【0265】
生理食塩水中の2種類の可溶性リポペプチド構築体[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]または[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]、あるいはCFA中の2種類の非脂質付加構築体[Th]−[B]または[Th]−Lys−[B]を投与したマウスは妊娠しなかった。Pam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]を与えたグループのうちの1匹のマウス、およびPam3Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]またはPam2Cys−[Th]−[B]を与えたグループのうちの2匹のマウスは同腹仔を生んだ。CFA中の生理食塩水、またはPam3Cys−S−(Lys)4と混合したペプチド[Th]−[B]を投与した対照マウスグループのすべてのマウスが同腹仔を生んだ。
【0266】
ペプチドワクチンの2回目の投与から7カ月まで抗体レベルを追跡した。リポペプチドの初回刺激を受けたマウス、およびCFA中の非脂質付加ペプチドによる初回刺激を受けたマウス中に存在する抗LHRH抗体の力価は、26週間で1/4〜1/20に低下する。二次接種から3カ月後に、すべてのマウスについて実施した受胎能試験は、免疫後2週間の試験と類似した結果であった。生理食塩水中の可溶性リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]または[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]、またはCFA中の非脂質付加[Th]−[B]および[Th]−Lys−[B]を与えたマウスは不妊のままであった。
【表3】
【0267】
Pam2CysはPam3Cysよりも強力なアジュバントである
図3および表2に示す結果によれば、2個の分枝リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]および[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]は、免疫原Pam2Cys−[Th]−[B]、Pam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]およびPam3Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]よりも高度に可溶性であるだけでなく、高い抗体価も誘発し、特に一次抗体応答において高い抗体価を誘発する。
【0268】
これをさらに検討するために、本発明者らは、[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]および[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]の免疫原性に対する用量減の効果を調べた。10nmolおよび1nmolの用量では、[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]は、[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]よりも高い抗体価が得られた(表4)。より著しい相違が交尾試験で認められた。すなわち、[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]を10nmolおよび1nmolを与えたそれぞれ5匹のマウスのうち1匹、および5匹のマウスのうち0匹しか同腹仔を生まなかったのに対して、これらの用量の[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]を与えた5匹のうち3匹、および5匹のうち5匹のマウスが同腹仔を生んだ(表4)。これらの結果は、Pam2Cys含有ペプチドがPam3Cys含有ペプチドよりも優れた免疫原であることを示している。
【0269】
2個の追加のセリン残基をPam2Cys含有免疫原に入れる効果は、動物の受胎能状態に対してほとんどまたはまったく影響を及ぼさなかったが、2回目の投与後に生じる抗体価が改善された(表4)。
【表4】
【0270】
鼻腔内(i.n.)免疫後の全身的抗体応答
本発明者らは、生理食塩水中の[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]およびPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]を鼻腔内経路で接種した。同じワクチンを皮下経路でも接種し、全身的抗LHRH抗体応答を測定した。[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]の接種に使用した溶液は透明であり、Pam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]の接種に使用した溶液は乳光色であり、2つの調製物間の可溶性の違いを示している。
【0271】
2回の鼻腔内接種後に、各ワクチンは、皮下接種後の力価よりもやや低い類似した血清抗LHRH抗体力価をもたらした(表5)。可溶性の高い[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]は、単回投与から4週間後に、可溶性の低いPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]よりもかなり高レベルの抗LHRH抗体を誘発した(p=0.00007)。実際に、これは、皮下接種後に得られる結果に類似していた。受胎能試験によれば、Pam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]を鼻腔内投与したマウスでは5匹のうち3匹が妊娠したのに対して、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]の2回の鼻腔内接種ではすべてのマウスが妊娠しなかった。
【0272】
2つの異なる経路によって投与された2個の構築体によって誘発される応答の長さの比較も表5に示す。2回目のワクチン投与から26週間後には、すべてのマウスの抗体レベルは、2回目の投与から2週間後に観測された抗体レベルよりも低下した。しかし、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]を皮下投与したグループにおける抗LHRH抗体の低下は極めて小さく、Pam2Cys−Ser−Serが分子のほぼ中央に結合した配置がこの状況において優れていることをやはり明確に示している。
【表5】
【0273】
本発明者らは、可溶性リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]を2回皮下または鼻腔内投与した動物から得られた、LHRHに対する個々の抗体アイソタイプの力価も測定した(図4)。鼻腔内接種によって誘発される全Ig量は少なかったが、鼻腔内接種は、皮下接種よりも高レベルのIgG3、IgG2bおよびおそらくIgMを誘発すると考えられた。
【0274】
DCをペプチドおよびリポペプチドに暴露すると、様々なレベルの細胞表面MHCクラスII分子が誘発される
樹状細胞による二次リンパ器官中の未処置CD4+ T細胞の初回抗原刺激後に抗原暴露するとDCが成熟した。この成熟は、DC表面上のMHC産物および共刺激分子のアップレギュレーションを特徴とする。したがって、本発明者らは、これらのワクチン候補の様々な免疫原性を説明するために、様々なペプチドおよびリポペプチドが樹状細胞を示差的に活性化できるかどうかを判定した。
【0275】
一連の未成熟DC、すなわちD1細胞をペプチドに暴露し、MHCクラスII分子の表面発現について染色し、次いでフローサイトメトリーで分析した実験の結果によれば、DC成熟には、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]が最も有効であり、Pam2Cys−[Th]−[B]が最も有効でなかった(図5)。[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]のクラスII発現をアップレギュレートする能力は、細菌のリポ多糖(LPS)およびPam2Cys−Ser−Ser[Th]−[B]および[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]に近接し、中間の活性化レベルを示した。非脂質付加ペプチドは、D1細胞の成熟を培養では自然に起こる26%を超えて誘発することができなかった。リポペプチドがD1細胞の成熟を誘発する能力は濃度に依存した(データは示さず)。これらのリポペプチドがD1細胞の成熟を誘発する相対能力は、それらの抗体誘発能力を直接反映しており、免疫原性の違いに対して考えられる機序を提供するものである。
【0276】
LHRHのC末端ペンタペプチドに対する抗体応答
図6に示すように、[Th]がインフルエンザ赤血球凝集素の軽鎖に由来するCD4+ T細胞エピトープ(配列番号1)からなり、[B]がLHRH1〜10(配列番号2)またはLHRH6〜10(すなわち、LHRHの最終C末端5残基;配列番号4)である脂質付加[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]によって、脂質部分とペプチド部分の間に位置するセリンスペーサー(Ser−Ser)が存在してもしなくても、ほぼ同等の抗体応答が誘発される。これらのデータは、リポペプチドの有用性が、免疫抗原として使用される任意の特定のアミノ酸配列に限定されないという提案を支持するものである。
【0277】
Pam2Cys以外の脂質はリポペプチド構築体に有用である
BALB/cマウス(6〜8週齡)の各グループに、配列番号9で示されるアミノ酸配列にコンジュゲートされた脂質部分Pam2Cys、Ste2Cys、Lau2CysまたはOct2Cysを含む図7に示すペプチド免疫原(すなわち、配列番号3で示されるLHRH2〜10にコンジュゲートされた配列番号24のCDV−F Tヘルパーエピトープを含み、内部リジン残基がこれらのエピトープ間に位置するペプチド)20nmolを、一次と二次ワクチン接種の両方で皮下接種した。ペプチド構造を図7に示す。すべてのリポペプチドを生理食塩水に溶解して投与した。対照として、非脂質付加ペプチドをCFAに入れて投与した。一次ワクチン接種後4週目および二次ワクチン接種後2週目に採取した血液から血清を得た。
【0278】
図8に示すデータによれば、リポペプチド構築体中の別の脂質部分をPam2Cys部分で置換すると強い一次および二次抗体応答を得ることができる。
【0279】
様々なスペーサーを使用してリポペプチド中のペプチドから脂質を分離することができる
BALB/cマウス(6〜8週齡)の各グループに、配列番号9で示されるアミノ酸配列にコンジュゲートされ、セリンホモ二量体、アルギニンホモ二量体または6−アミノヘキサン酸からなるスペーサーを用いてそれから分離された脂質部分Pam2Cysを含む図7に示すペプチド免疫原20nmolを皮下接種した。ペプチド構造を図7に示す。すべてのリポペプチドを生理食塩水に溶解して投与した。対照として、非脂質付加ペプチドをCFAに入れて投与した。一次ワクチン接種後4週目および二次ワクチン接種後2週目に採取した血液から血清を得た。
【0280】
図9に示すデータによれば、多種多様なスペーサーを用いてリポペプチド構築体中のペプチド部分からPam2Cys部分を分離したときに、強い一次および二次抗体応答を得ることができる。
【0281】
脂質部分は、Tヘルパーエピトープ内部の内部リジン残基に結合することができる
脂質部分が結合する内部リジン残基の位置決定要件の厳密性を明確にするために、本発明者らは、Tヘルパーエピトープ内の内部リジン残基に脂質が結合したリポペプチド構築体の免疫原性も試験した。BALB/cマウス(0週齢および4週齡)の各グループに、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間の配列番号9で示されるアミノ酸配列にコンジュゲートされた、あるいは、Tヘルパーエピトープ内部のLys−14の位置において配列番号103で示されるアミノ酸配列にコンジュゲートされた脂質部分Pam2Cysを含むペプチド免疫原20nmolを皮下接種した。ペプチド構造を図7および10に示す。すべてのリポペプチドを生理食塩水に溶解して投与した。対照として、非脂質付加ペプチドをCFAに入れて投与した。一次ワクチン接種後4週目、および二次ワクチン接種後2週目に採取した血液から血清を得た。
【0282】
図11に示すデータによれば、脂質部分がどちらの位置に結合しているリポペプチドでも強い抗体応答を得ることができ、内部リジンの厳密な配置、およびその結果の脂質部分の厳密な配置は免疫原性に重要なものではないことを示唆している。
【0283】
考察
この研究において、本発明者らは、CD4+ T細胞エピトープ、1個または複数のB細胞エピトープを含む自己ペプチドLHRH、およびPam3CysまたはPam2Cysから構成される様々なリポペプチド免疫原の構築について述べる。
【0284】
脂質をほぼ中央に位置決定する必要性に対する厳格な要件を並べることなく、本発明者らは、脂質を、より一般的なN末端の位置の代わりに、T細胞エピトープとLHRHの間のペプチド免疫原のほぼ中央に配置することによって、得られるワクチンの可溶性が大きく改善されることを見出した。接種に必要な濃度の透明生理食塩水溶液を、これらの分枝構造によって容易に得ることができる。これに対して、脂質がN末端に結合した免疫原は可溶性が低く、濁ったまたは乳光色の生理食塩水溶液が得られた。抗体応答の検討、およびその後の受胎能試験によれば、水溶性リポペプチドは、一次接種から4週後に高い抗体価をもたらし、脂質がN末端に結合した可溶性の低いリポペプチドよりも効率的に妊娠を抑制した。水溶性自己アジュバント作用(self−adjuvanting)ワクチンは、一部可溶性材料または不溶性材料よりも明らかな利点があり、製造プロセスを単純化でき、用量の計量もより正確にできる。
【0285】
脂質部分の位置決定要件の厳密性の検討によれば、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間ではなくTヘルパーエピトープ内に脂質が位置するときでも免疫動物における抗体応答が観察されたことから、ある程度の自由度が予想される。
【0286】
リポペプチド用量を変える効果の検討によれば、Pam2Cys含有リポペプチドは、Pam3Cys含有ペプチドよりも優れた免疫原であることが示された。しかし、他のリピドペプチド(lipidopeptide)、例えば、Ste2Cys含有リポペプチド、Lau2Cys含有リポペプチド、およびOct2Cys含有リポペプチドも強い抗体応答を発生させるのに有用であった。
【0287】
本発明者らは、脂質部分とペプチド配列の間に2個のセリン残基または2個のアルギニン残基を挿入すると、得られるPam2Cys含有免疫原の効力が増大することを本研究で見出した。脂質がN末端に結合しているときには、2個のセリン残基は、脂質とペプチド配列の間の不活性スペーサーとして、またはTヘルパー細胞エピトープの延長部分として働き、おそらく免疫学的活性を調節しうるものとなる。脂質がリジン残基のε−アミノ基に分子の中央で結合する場合には、不活性スペーサーである、6−アミノヘキサン酸から類似した結果が得られるので、2個のセリン残基または2個のアルギニン残基はスペーサーとして働く。
【0288】
本発明者らは、リポペプチド構築体の免疫原性が、使用したTヘルパーエピトープまたはB細胞エピトープの特定のアミノ酸配列に依存しないことも見出した。これは、様々な抗原性B細胞エピトープに対する広範なリポペプチドをいくつかの異なる動物宿主において製造するために採られる手法が一般に有用であることを示すものである。
【0289】
マクロファージは、細胞表面受容体に結合する微生物産物によって刺激され、この結合現象から生じるシグナルはToll様受容体を介して伝達され、炎症誘発性サイトカインおよびケモカインの産生をもたらすと理解されている。これらの受容体はDC集団中にも存在し、結合すると、細胞の成熟および遊走のためのシグナル、ならびに効率的抗原提示に必要な分子の産生のためのシグナルを伝達する。
【0290】
この研究に使用される様々な合成リポペプチドワクチンは、DC成熟を評価するために使用されるマーカーである、未成熟DC表面上のクラスII MHC分子のアップレギュレーションを誘発することが判明した。これに対して、非脂質付加ペプチド構築体は、DCを成熟させることができず、このことは、脂質部分がその効果に寄与することを示している。リポペプチドによって誘発されるDC成熟の階層は、ペプチド構築体によって示される免疫原性の階層を反映したものであり、DCの成熟と相互作用し誘発するワクチンの能力が、おそらくは、成熟し排液性リンパ節に移動するシグナルを受けたDCによるCD4+ T細胞初回抗原刺激の効率を増加させることによって、より良好な免疫応答を導くことを意味している。
【0291】
リポペプチドは、追加のアジュバントの不在下で免疫応答を誘発することができ、したがって、非経口以外の経路によって送達することができる。したがって、本発明者らは、Pam2Cys含有ペプチドの鼻腔内接種後の抗体応答について検討した。ここで得られた結果によれば、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]またはPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]の鼻腔内接種は全身的抗LHRH抗体の力価を、皮下経路接種によって誘発されるそれよりも低下させ、免疫グロブリンのアイソタイププロファイルも異なっていた。可溶性リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]の鼻腔内接種は、皮下免疫よりも高レベルのIgG2bおよびIgG3を誘発し、低レベルのIgG1およびIgG2aを誘発する。これは、2つの免疫経路がある程度異なるサブセットのT細胞を誘発し、異なる部位で生じる異なるDC集団に部分的に起因する抗体産生を促進し得ることを示していると考えられる。これは、形状が異常な分子に対して樹状細胞が有する優先傾向を反映しているとも考えられる。
【0292】
水溶性ペプチド構築体[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]の鼻腔内接種は、1回目のワクチン投与から4週間後の抗LHRH抗体価が不溶性Pam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]よりも有意に高くなった。これらのマウスを用いて実施した受胎能試験によれば、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]の鼻腔内接種のみが繁殖を完全に防ぐことができたことが示された。2回目の抗原投与後の両方のグループのマウスにおける抗体価は明らかに類似していたが、抗体の高力価は、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]に対する一次応答中にのみ誘発された。したがって、免疫的避妊ワクチンが有効であるためには、抗体の高力価が存在する時間が効力の重要な決定因子である可能性がある。
【0293】
まとめると、抗体価の測定および受胎能試験の結果によれば、B細胞エピトープとTヘルパーエピトープの間の、完全な合成ペプチドワクチンのほぼ中央におけるPam2Cysの配置は、可溶性とワクチンの免疫原性を高めることが示された。この改善された免疫原性は、これらの分枝ペプチドワクチンの脂質とペプチド配列の間に2個のセリン残基を導入することによってさらに改善される。脂質、自己アジュバント部分を、ペプチドを主体とするワクチンの異なる位置に組み込むと、生理学的、免疫学的および生物学的特性が大きく変わるという知見は、好結果を生むワクチン設計のための別の戦略を提供するものである。
【実施例3】
【0294】
A群ストレプトコッカスのMタンパク質に由来するB細胞エピトープを含むリポペプチドについての研究
複数の脂質の効果
リポペプチドの免疫原性が、ペプチドにコンジュゲートされた脂質の数によって決まるかどうかを試験するために、また、様々な抗原性B細胞エピトープ含有ペプチドに対して有効なリポペプチドを製剤化できることを実証するために、本発明者らは、CDV−F P25TヘルパーエピトープおよびA群ストレプトコッカスB細胞エピトープJ14を含むペプチド部分(すなわち、ペプチド部分は配列番号105のアミノ酸配列を有する)と、1個または2個の脂質部分とを含むリポペプチドを製造した。リポアミノ酸部分Pam2Cys−Ser−Serは、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する内部リジンに付加され、1個の構築体中で、別のリポアミノ酸部分Pam2Cys−Ser−SerもTヘルパーエピトープ中のN末端のリジンに付加された。
【0295】
4〜6週齡の非近交系クァッケンブッシュ雌マウス(15/グループ)に、ペプチドを主体とするワクチン60μgを総量30μlのPBSに溶解して鼻腔内接種した。マウスにワクチンを21日間隔で3回投与した。抗原の最終投与から6日後に糞便IgAを測定した。最終投与から7日後にマウスの尾静脈から採血し、J14−特異的血清IgGを測定した。間接的な殺菌アッセイも実施して、免疫マウスから得た血清がM1 GAS系統をインビトロでオプソニン化するまたは「死滅させる」かどうかを判定した。最終投与から8日後に個々のマウスから唾液を採取し、J14特異的唾液IgA平均抗体価を標準ELISAによって求めた。抗原の最終投与から2週間後にM1 GAS系統をマウスに鼻腔内投与し、その後様々な時点で生存しているかどうかを確認した。
【0296】
図12のデータによれば、非脂質付加ペプチドまたはPBSと比較して、どちらのリポペプチドを用いても有意な(P<0.05)血清IgG力価が誘発され、リポペプチド構築体がTヘルパーまたはB細胞エピトープの選択に依存せず、単一または複数の脂質部分を含むリポペプチドを使用して鼻腔内免疫後に高い血清IgGレベルを誘発することができることを示している。
【0297】
図13のデータも、1個または2個の脂質部分を有するJ14含有リポペプチドで免疫されたマウスから採取した血清が、対照の非脂質付加ペプチドまたはPBSで免疫されたマウスから採取される血清と比較して、やはり有意に(P<0.05)GASを死滅させることができたことを示している。
【0298】
図14のデータによれば、1個または2個の脂質部分を有するJ14含有リポペプチドを接種したマウスは、対照の非脂質付加ペプチドまたはPBSで免疫された対照グループよりも有意に(P<0.05)高い唾液IgA力価を示した。しかし、単一脂質付加ペプチドは、鼻腔内投与による唾液IgAレベルの誘発において、二脂質付加ペプチドよりもはるかに優れていた。
【0299】
TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に脂質部分が位置する単一脂質付加J14含有ペプチド(すなわち、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[J14])を接種したマウスのみ、最終免疫から6日後に、PBSまたは非脂質付加ペプチドと比較して有意な(P<0.05)糞便IgA力価を示したことは興味深い(図15)。これは、唾液IgAまたは血清IgGレベルを測定する前に糞便IgAが測定されたので、タイミングの結果かも知れない。あるいは、これは鼻腔内投与経路の結果かもしれない。他の説明も現時点では排除できない。
【0300】
図16に示すように、脂質部分がTヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する単一脂質付加J14含有ペプチド(すなわち、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[J14])を接種したマウスは、二脂質付加ペプチドまたは非脂質付加ペプチドと比較して、GASを鼻腔内投与した後の生存率が最も高かった。しかし、二脂質付加ペプチドおよび非脂質付加ペプチドの両方で、J14ペプチド単独またはPBSと比較して、ある程度の防御免疫が得られた。
【0301】
要約すると、実施例2および3に示すデータによれば、本発明のリポペプチド製剤は、様々なTヘルパーエピトープおよびB細胞エピトープを用いて、動物、特にネズミモデルにおいて強い抗体応答を誘発するのに広範に適用可能である。また、リポペプチド製剤は、鼻腔内経路によって強いIgGおよびIgA応答が得られるので、特に鼻腔内投与に適している。しかし、本発明者らのデータによれば、少なくともJ14免疫原の場合には、一脂質付加ペプチドは、複数の脂質部分を含むリポペプチドよりも良好な粘膜アジュバントとして働くことができる。
【実施例4】
【0302】
ガストリンに由来するB細胞エピトープを含むリポペプチドについての研究
ガストリンに基づくリポペプチド免疫原の免疫原性を判定した。BALB/c雌マウスの尾の付け根にペプチドまたはリポペプチド免疫原20nmolを皮下接種した。すべてのリポペプチドをPBS溶液として投与し、非脂質付加ペプチドをCFAに入れて投与した。CFAで乳化した生理食塩水を陰性対照として用いた。使用したペプチドは、ガストリン−17(配列EGPWLEEEEEAYGWMDF;配列番号113)、ペンタガストリンがガストリン−17のC末端配列GWMDF(すなわち、配列番号102)である[P25]−Lys−[ペンタガストリン](配列番号110)、および[P25]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[ペンタガストリン]であった。免疫後4週目にマウスから血清を得た。同時に、ほぼ同じ用量の2回目の抗原をマウスに投与した。2回目の抗原投与からさらに2週間後に2回目の採血を行い、ペプチドガストリン−17配列と反応可能な抗体をELISAによって求めた。結果を抗ガストリン−17抗体力価として表す。
【0303】
図17に示すように、CFA中のガストリン−17を接種したマウスは、陰性対照のCFA中の生理食塩水と同レベルの抗ガストリン−17抗体を含んでいた。非脂質付加ペプチド[P25]−Lys−[ペンタガストリン]による免疫によって、極めて低レベルの抗ガストリン−17抗体が誘発されたが、リポペプチド[P25]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[ペンタガストリン]を投与したマウスは、CFA中のペプチドで免疫した後に誘発されるのと類似した高い抗体価を示した。これらのデータも、本発明のリポペプチド製剤が、様々なTヘルパーエピトープおよびB細胞エピトープを用いて、動物における強い抗体応答を誘発するのに広範に適用可能であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0304】
【図1】合成ペプチドおよびリポペプチド(左)の構造、ならびに生理食塩水中のこれらのペプチドおよびリポペプチドの相対的な可溶性(右)を示した図である。
【図2】図1において[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B](左)およびPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B](右)と命名されたリポペプチドの可溶性を示す写真である。
【図3】図1に示すペプチドおよびリポペプチドの各々を用いて得られる抗LHRH抗体価を示すグラフである。
【図4】リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B](配列番号7)の接種後の二次抗体応答中に得られたまたは誘発された、各抗LHRH抗体アイソタイプ(すなわち、IgM、IgA、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3および総Ig)(横軸)に対する抗LHRH抗体価(log10)(縦軸)を示すグラフである。
【図5】図1に示したペプチドおよびリポペプチド(すなわち、配列番号5または配列番号7)が、樹状細胞表面上のMHCクラスII分子の発現を増強させる相対能力を示すグラフである。
【図6】脂質付加[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]によって誘発される抗LHRH抗体応答を示すグラフである。
【図7a】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。
【図7b】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。
【図7c】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。
【図7d】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。
【図7e】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。
【図7f】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。
【図7g】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。
【図7h】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。
【図8】ペプチドと脂質部分の間にSer−Serスペーサーを有する図7の説明に示すリポペプチドの免疫原性を示すグラフである。
【図9】脂質部分とペプチド部分の間に位置する様々なスペーサーを有する図7のリポペプチド免疫原の免疫原性を示すグラフである。
【図10】リポペプチド構築体[Th](Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]の品質管理データを示すグラフである。
【図11】図10の説明に記載したリポペプチド免疫原の免疫原性を、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する内部リジン残基に付加した脂質部分を有するリポペプチド免疫原と比較して示すグラフである。
【図12】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびA群ストレプトコッカスB細胞エピトープ(「J14」;配列番号101)を含み、配列番号106のアミノ酸配列、ならびに1個または2個の脂質部分を有するリポペプチドのマウスにおける血清IgG誘導能力を示すグラフである。
【図13】図12の説明に示した非脂質付加ペプチドおよびリポペプチドによって誘発される抗血清のオプソニン化能力を示すグラフである。
【図14】図12の説明に示した非脂質付加ペプチドおよびリポペプチドがマウスにおいて唾液IgAを誘発する能力を示すグラフである。
【図15】図12の説明に示した非脂質付加J14含有ペプチドおよびJ14含有リポペプチドがマウスにおいて糞便IgAを誘発する能力を示すグラフである。
【図16】図12の説明に示した非脂質付加ペプチドおよびリポペプチドを接種した後の細菌を用いた生存試験に対するマウスの能力を示すグラフである。
【図17】ガストリンに基づくリポペプチド免疫原の免疫原性を示すグラフである。BALB/cマウス(6〜8週齢)のグループ(5動物/グループ)に、ペプチド免疫原20nmolを尾の付け根に皮下接種した。
【配列表】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に免疫学の分野に関し、より詳細には、ペプチド免疫原に対して抗体および/または細胞性応答を発生させる試薬、ならびに被験体の免疫応答を高める前記試薬の使用方法、あるいは被験体のワクチン接種のための前記試薬の使用方法に関する。さらにより詳細には、本発明は、免疫原性活性が増強された新規リポペプチド、例えば、薬学的に許容される担体または賦形剤と組み合わせた前記リポペプチドを含む製剤およびワクチン組成物、ならびに本発明の製剤およびワクチン組成物の製造および使用の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1.概記
本明細書は、要約書の後ろに、PatentIn Version 3.1を使用して作成されたアミノ酸配列情報を含む。各配列は、配列表中で数値標識とそれに続く配列識別子(例えば、<210>1、<210>2など)によって区別されている。各配列の長さおよび供給源生物は、それぞれ数値標識フィールド<211>および<213>中に提供される情報によって示される。本明細書中で参照する配列は、「配列番号」とそれに続く配列識別子によって定義される(例えば、配列番号1は、<400>1と命名された配列である)。
【0003】
本明細書で使用する「由来する」という用語は、指定された完全体(integer)を特定の供給源から、必ずしもその供給源から直接に得なくても、得ることができることを示すものと解釈すべきである。
【0004】
本明細書を通して、特別な場合を除いて、「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」、「含むこと(comprising)」などの変形形態は、規定されたステップまたは構成要素または整数、あるいはステップまたは構成要素または整数のグループを含むことを意味するが、他のステップまたは構成要素または整数、あるいは構成要素または整数のグループを排除するものではないことを理解されたい。
【0005】
本明細書に記載する本発明は、具体的に記載されたもの以外の変更形態および改変形態が可能であることを当業者であれば理解しうる。本発明は、このような変更形態および改変形態のすべてを含むと理解すべきである。本発明は、本明細書中で参照するまたは示すステップ、特徴、組成物および化合物のすべてを個々にまたは包括的に含み、前記ステップまたは特徴のあらゆる組合せまたは任意の2つ以上も含む。
【0006】
本発明は、本明細書に記載する具体例によって範囲が限定されるべきではない。機能的に等価な生成物、組成物および方法が、本明細書に記載する本発明の範囲内にあるのは明らかである。
【0007】
本願に引用するすべての参考文献を参照により本明細書に援用する。
【0008】
本発明は、特に示さない限り、分子生物学、微生物学、ウイルス学、組換えDNA技術、溶液中でのペプチド合成、固相ペプチド合成および免疫学の従来技術を使用して、過度の実験を行うことなく実施される。このような手順は、例えば、参照により本明細書に援用する以下のテキストに記載されている。
【0009】
【0010】
関連技術の記載
免疫療法またはワクチン接種は、多様な障害、例えば、ある種の感染症、癌などの予防または治療に有用である。しかし、このような治療の適用および成功は、標的抗原の免疫原性が低いためにある程度制限を受ける。多数のペプチド、糖ペプチド、脂質、リポペプチド、炭水化物などは免疫原性が低い。ペプチド免疫原に対する被験体の免疫応答を高めるためにいくつかの技術が使用されている。
【0011】
例えば完全フロイントアジュバント(CFA)などのペプチド免疫原に対して外来的なアジュバント製剤を利用して、ペプチド免疫原に対する被験体の免疫応答を高めることが知られている(すなわち、使用前に免疫原と混合される)。しかし、現在利用可能なアジュバントの多くは、ヒトに使用するには毒性が強すぎるか、単に無効である。さらに、このタイプのアジュバントは、投与直前にペプチド免疫原と予め製剤化することを必要とする。このような製剤は、可溶性が低く、または不溶性であることが多い。
【0012】
アジュバントとして作用することが知られている脂質部分がペプチド免疫原に共有結合しているリポペプチドは、外来的なアジュバントの不在下で、さもなければ免疫原性の低いペプチドの免疫原性を高めることができる[Jung et al.、Angew Chem、Int Ed Engl 10、872、(1985);Martinon et al.、J Immunol 149、3416、(1992);Toyokuni et al.、J Am Chem Soc 116、395、(1994);Deprez、et al.、J Med Chem 38、459、(1995);およびSauzet et al.、Vaccine 13、1339、(1995);Benmohamed et al.、Eur.J.Immunol.27、1242、(1997);Wiesmuller et al.、Vaccine 7、29、(1989);Nardin et al.、Vaccine 16、590、(1998);Benmohamed、et al.Vaccine 18、2843、(2000);およびObert、et al.、Vaccine 16、161、(1998)]。適切なリポペプチドは、アジュバント製剤に伴う有害な副作用を示さず、リポペプチドに対して抗体と細胞の両方の応答が認められる。
【0013】
脂質部分に使用される様々な脂肪酸がいくつか知られている。代表的な脂肪酸としては、これらだけに限定されないが、パルミトイル基、ミリストイル基、ステアロイル基およびデカノイル基が挙げられ、より一般的には、あらゆるC2〜C30飽和、一不飽和または多価不飽和の脂肪アシル基が有用と考えられる。
【0014】
リポアミノ酸のN−パルミトイル−S−[2,3−ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]システインは、Pam3CysまたはPam3Cys−OHとしても知られ(Wiesmuller et al.、Z.Physiol.Chem.364(1983)、p593)、グラム陰性菌の内膜から外膜に及ぶブラウンのリポタンパク質のN末端部分の合成品である。Pam3Cysは、式(I)の構造を有する:
【化1】
【0015】
Metzgerらの米国特許第5,700,910号(1997年12月23日)は、合成アジュバント、Bリンパ球刺激薬、マクロファージ刺激薬または合成ワクチンとして使用されるリポペプチドの調製において中間体として使用されるいくつかのN−アシル−S−(2−ヒドロキシアルキル)システインを記載している。Metzgerらは、Pam3Cys−OHの合成におけるこのような化合物の中間体としての使用(Wiesmuller et al.、Z.Physiol.Chem.364、p593、1983)、およびN末端にこのリポアミノ酸またはその類似体を含むリポペプチドの使用も教示している。
【0016】
Pam3Cysは、適切なエピトープに結合すると、インフルエンザウイルス感染細胞に対してウイルス特異的細胞傷害性リンパ球(CTL)応答を刺激することができ(Deres et al.、Nature 342、561、1989)、口蹄疫に対する感染防御抗体を誘発すること(Wiesmuller et al.、Vaccine 7、29、1989;Jung et al.の米国特許第6024964号、2000年2月15日)が示されている。
【0017】
最近、Pam3Cysの類似体であるPam2Cys(ジパルミトイル−S−グリセリル−システインまたはS−[2,3−ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]システインとしても知られる)が合成され(Metzger,J.W.、A.G.Beck-Sickinger、M.Loleit、M.Eckert、W.G.Besser、and G.Jung.1995.J Pept Sci 1:184)、マイコプラズマから単離されたマクロファージ活性化リポペプチドMALP−2の脂質部分に相当することが判明した(Sacht,G.、A.Marten、U.Deiters、R.Sussmuth、G.Jung、E.Wingender、and P.F.Muhlradt.1998.Eur J Immunol 28:4207:Muhlradt,P.F.、M.Kiess、H.Meyer、R.Sussmuth、and G.Jung.1998.Infect Immun 66:4804:Muhiradt,P.F.、M.Kiess、H.Meyer、R.Sussmuth、and G.Jung.1997.J Exp Med 185:1951)。Pam2Cysは式(II)の構造を有する:
【化2】
【0018】
Pam2Cysは、Pam3Cysよりも強力な脾細胞およびマクロファージの刺激物質であると報告されている(Metzger et al.、J Pept.Sci 1、184、1995;Muhlradt et al.、J Exp Med 185、1951、1997;およびMuhlradt et al.、Infact Immun 66、4804、1998)。
【0019】
所与の抗原に対して抗体応答を発生させるためには、強いTヘルパー細胞応答を発生させる必要がある。したがって、抗原を少なくとも1個のTヘルパー細胞エピトープとともに投与することが望ましい(Vitiello et al.、J.Clin.Invest 95、341〜349、1995;Livingston et al.、J.Immunol.159、1383〜1392、1997)。しかし、Tヘルパー細胞応答は、抗原提示細胞(APC)表面上のMHCクラスII分子としてペプチド抗原断片を認識するCD4+ T細胞によって付与されるので、加工された形のペプチド抗原の大部分は、MHCハプロタイプの1個または少数の対立遺伝子によってのみ提示される。これによって、所与の抗原性ペプチドに対するTヘルパー応答が、個体の厳密な遺伝的制御下に置かれることになる。
【0020】
ある抗原に対する所与の個体集団の免疫応答における大きな遺伝的変異を防止するために、ある範囲のTヘルパーエピトープを有する大きなタンパク質とともに抗原を投与する。
【0021】
あるいは、乱交雑または許容的Tヘルパーエピトープ含有ペプチドを抗原とともに投与する。乱交雑または許容的Tヘルパーエピトープ含有ペプチドは、圧倒的多数がMHCクラスIIハプロタイプとして提示されるので、非近交系ヒト集団の大多数において強いCD4+ Tヘルパー応答を誘発する。乱交雑または許容的Tヘルパーエピトープの例は、破傷風トキソイドペプチド、プラスモディウム・ファルシパルム(Plasmodium falciparum)pfg27、乳酸デヒドロゲナーゼおよびHIVgp120である(Contreas et al.、Infect.Immun、66、3579〜3590、1998;Gaudebout et al.、J.A.I.D.S.Human Retrovirol 14、91〜101、1997;Kaumaya et al.、J.Mol.Recog.6、81〜94、1993;およびFern and Good J.Immunol.148、907〜913、1992)。また、Ghosh et al.、Immunol 104、58〜66、2001および国際特許出願第PCT/AU00/00070号(WO 00/46390)は、イヌジステンパーウイルス(CDV−F)融合タンパク質に由来するTヘルパーエピトープを記載している。ある種の乱交雑Tヘルパーエピトープは、所与の抗原に対する強いB細胞応答を誘発し、ある種のハプロタイプに限定された免疫応答を回避することができる(Kaumaya et al.、J.Mol.Recog.6、81〜94、1993)。
【0022】
ワクチン製剤は、常に、Tヘルパー細胞エピトープおよび抗原エピトープを含むポリペプチドの混合物を含むが、Tヘルパーエピトープと抗原エピトープの両方を含む単一ポリペプチドを投与することも知られている(例えば、Ghosh and Jackson、Int.Immunol.11、1103、1999)。
【発明の開示】
【0023】
本発明に至る研究において、本発明者らは、脂質部分と、免疫応答が望まれるTヘルパーエピトープと抗原性B細胞エピトープの両方を含むポリペプチド部分とを有する高免疫原性リポペプチドを製造しようとした。本発明のリポペプチドは、ポリペプチド部分の内部リジンまたは内部リジン類似体、例えば、オルニチン、ジアミノプロピオン酸、ジアミノ酪酸などの末端側鎖アミノ基を介して結合している脂質部分を有する。これは、既報のN末端結合ともC末端結合とも異なる(Grass-Masse et al.Vaccine、14、375、1996)。
【0024】
したがって、前記1個または複数のリジン残基またはリジン類似体残基をペプチド合成中にポリペプチド内の所定の位置に置くことによって、脂質の結合部位を容易に指定することができる。したがって、リポペプチド中の脂質部分の位置は、ワクチンまたはアジュバント製剤用最終産物の有用性を高めることを目標に決定される。
【0025】
驚くべきことに、本発明者らは、Tヘルパーエピトープと抗原の各アミノ酸配列間に位置する内部リジン残基の側鎖ε−アミノ基または内部リジン類似体残基の末端側鎖基を介して脂質部分が結合すると、多くの例においてリポペプチド産物の可溶性が高くなることを見出した。
【0026】
本発明のリポペプチドによって提供される1つの利点は、これらのリポペプチドを含むワクチン製剤中に外来的なアジュバントを含めることが一般に不要なほどに十分な免疫原性を有することである。
【0027】
本発明が、Tヘルパーエピトープまたは抗原のアミノ酸配列中に存在する内部リジン残基のε−アミノ基または内部リジン類似体残基の末端側鎖基を介した脂質部分の結合を包含することは明白であり、唯一の要件は脂質部分がペプチドのN末端にもC末端にも結合していないことである。本明細書に例示するとおり、本発明者らは、例えば、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置するリジンのεアミノ基に脂質が付加したリポペプチドと比較して、対象リポペプチドの免疫応答発生能力を損なわずに、Tヘルパーエピトープ内の内部リジン残基のεアミノ基に脂質が結合できることを明確に示した。
【0028】
「内部」とは、Tヘルパーエピトープおよび抗原性B細胞エピトープを含むポリペプチドのN末端またはC末端以外の位置を意味する。
【0029】
脂質部分は、Tヘルパーエピトープと抗原性B細胞エピトープの各アミノ酸配列間に位置するリジン残基のεアミノ基、または内部リジン類似体残基の末端側鎖基を介してペプチド部分に結合することが好ましい。
【0030】
当業者には知られているとおり、商業ベースでワクチン製剤を製造するためには、抗原の可溶性は極めて望ましい。この点で、本発明者らは、本発明の最も有効なリポペプチドが高度に可溶性であることを見出した。外部アジュバントの不在下で抗体応答を誘発する本発明のリポペプチドの相対能力は、未成熟樹状細胞(DC)上のMHCクラスII分子の表面発現をアップレギュレートする能力によって示された。
【0031】
本明細書に例示するとおり、脂質部分の構造は、得られるリポペプチドの活性には本質的ではなく、パルミチン酸、ラウリン酸、ステアリン酸またはオクタン酸を含む脂質部分を、免疫原性を損なうことなく使用することができる。したがって、本発明は、特に指定しない限り、または特段の必要性がない限り、脂質部分の構造に限定されるべきではない。
【0032】
同様に、複数の脂質部分をペプチド部分に付加することは一般に不要であるが、特に指定しない限り、または特段の必要性がない限り、本発明に包含される。本明細書に例示するとおり、ペプチド部分、例えば、Tヘルパーエピトープ内部の位置、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間の位置などへの複数の脂質部分の付加は、単一の結合脂質部分しか持たないペプチドと比較して、リポペプチドのIgG産生刺激能力に悪影響を及ぼさない。
【0033】
ポリペプチドが好都合には単一アミノ酸鎖として合成され、そのため両方のエピトープを組み込む合成後の改変が不要であることは以上のことから明らかである。
【0034】
場合によっては、例えば、TヘルパーとB細胞エピトープの間などの脂質部分が結合する内部リジンまたはリジン類似体のどちらか一方の側に、アミノ酸スペーサーを付加してもよい。
【0035】
本明細書に例示するとおり、本発明者らは、合成ペプチド部分中のTヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する内部リジン残基の露出したε−アミノ基に、スペーサーとともにまたはスペーサーなしで脂質部分を結合させることによって本発明のリポペプチドを製造した。この状況において特に好ましいスペーサーは、セリン二量体、三量体、四量体などである。
【0036】
従来の任意のタイプのスペーサーを、脂質部分とポリペプチド部分の間に付加することもできる。本発明において特に好ましいスペーサーは、アルギニン、またはセリン二量体、三量体、四量体などである。あるいは、6−アミノヘキサン酸スペーサーを使用することができる。
【0037】
別のスペーサーも企図される。例えば、スペーサーを、脂質部分に付加する前に、内部リジンの露出したεアミノ基、または内部リジン類似体の末端側鎖基に付加することができる。
【0038】
あるいは、式(III)または(IV)のリポアミノ酸を、内部リジン残基のεアミノ基、または内部リジン類似体の末端側鎖基に直接付加することができる。
【0039】
やはり本明細書に例示するとおり、本発明のリポペプチドは、動物被験体に投与すると、B細胞エピトープ部分に対する高力価抗体の産生を、類似の抗体価を得るためにアジュバントを必要とすることなく誘導する。この有用性は、対象リポペプチドの投与後に樹状細胞の成熟が促進される(すなわち、脂質がN末端に結合したリポペプチドと比較して抗原提示が増強される)ことによって裏付けられる。
【0040】
やはり本明細書に例示するとおり、LHRHの抗原性B細胞エピトープを含む本発明のリポペプチドは、不妊を誘発すべき他の哺乳動物を代表するマウスモデルにおいて、不妊を誘発することができる。本発明のリポペプチドによってLHRHに対する抗体が持続的に産生されることは、液性免疫の誘導における対象リポペプチドの一般的有用性、およびワクチン製剤中の活性剤としての対象リポペプチドの一般的有用性を示している。
【0041】
やはり本明細書に例示するとおり、A群ストレプトコッカス(Streptococcus)(本明細書では「GAS」)のMタンパク質の抗原性B細胞エピトープを含む本発明のリポペプチドは、GASに対するワクチン接種が必要なヒトおよび他の哺乳動物の代表であるマウスモデルにおいて保護作用を誘導することができる。本明細書が提供するデータによれば、本発明のリポペプチドは、GASに対する抗体(血清IgGと唾液および糞便IgAの両方)の持続的産生、およびGASのオプソニン化を誘導することができ、その後のGAS曝露に対して動物を延命させることができる。これらのデータは、液性免疫の誘導における対象リポペプチドの一般的有用性、およびGASに対するワクチン製剤中の活性剤としての対象リポペプチドの一般的有用性を示している。
【0042】
やはり本明細書に例示するとおり、ガストリン(「ペンタガストリン」)の抗原性B細胞エピトープを含む本発明のリポペプチドは、胃酸分泌の阻害が必要な他の哺乳動物のマウスモデルにおいて、ガストリンおよび/またはコレシステキニン(cholecystekinin)に対する抗体の持続的産生を誘導することができる。本明細書が提供するデータは、ガストリンに対する液性免疫およびガストリンの免疫中和を誘導し、それによって、高ガストリン血症、ゾリンジャーエリソン症候群、胃酸の過剰および無秩序な分泌による胃潰瘍または十二指腸潰瘍に罹患している動物における胃酸分泌を遮断し、膵臓または十二指腸におけるガストリン依存性腫瘍の形成を抑制または防止(すなわち、ガストリノーマの予防および/または治療)する対象リポペプチドの一般的有用性を実証している。
【0043】
当業者には明白であるとおり、TヘルパーおよびB細胞エピトープの性質は、本発明においては重要でない。構築体のポリペプチド部内の1個または複数の内部リジン残基またはリジン類似体残基のεアミノ基に脂質部分を結合させる新規な手法は、広範な応用分野を有する。したがって、本明細書が提示する結果に基づいて、多様なTヘルパーエピトープおよびB細胞エピトープをリポペプチド構築体に使用できることを理解されたい。
【0044】
実際に、本明細書が例示する広範な応用例は、抗原性B細胞エピトープに対する免疫応答の発生が必要なヒトおよび他の哺乳動物においていくつかの様々な症状の予防および治療における本発明のリポペプチドの一般性を示している。したがって、本発明は、特定の症状、不調または病態の治療だけに限定されない。
【0045】
図面の説明
図1は、合成ペプチドおよびリポペプチド(左)の構造、ならびに生理食塩水中のこれらのペプチドおよびリポペプチドの相対的な可溶性(右)を示した図である。ペプチドを以下のとおり命名した:
(1)インフルエンザウイルス赤血球凝集素の軽鎖(配列番号1)またはCDV−Fに由来するペプチドP25(配列番号24)からのCD4+ Tヘルパーエピトープから構成される[Th]、
(2)LHRHの残基1〜10(配列番号2)、LHRHの残基2〜10(配列番号3)、またはLHRHの残基6〜10(配列番号4)からなるB細胞エピトープ;A群ストレプトコッカスのMタンパク質のB細胞エピトープ(「ペプチドJ14」;配列番号101);あるいはガストリンのC末端5残基内に含まれるガストリン(すなわち、「ペンタガストリン」)のB細胞エピトープ(配列番号102)から構成される[B]、
(3)(1)と(2)を有するポリペプチド(例えば、配列番号5、103、104、105、107、109または111)から構成される[Th]−[B]、および
(4)リジン残基によって分離された(1)と(2)を有するポリペプチド(例えば、配列番号7、9、13、106、108、110または112)から構成される[Th]−Lys−[B]。
【0046】
リポペプチドを以下のとおり命名した:
(1)上記ペプチド[Th]−[B]のN末端(すなわち、例えば、配列番号5、103、104、105、107、109または111のいずれか1個のN末端)にコンジュゲートされた式(I)の脂質から構成されるPam3Cys−[Th]−[B]、
(2)上記ペプチド[Th]−[B]のN末端(すなわち、例えば、配列番号5、103、104、105、107、109または111のいずれか1個のN末端)にコンジュゲートされた式(III)のリポアミノ酸から構成されるPam3Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]、
(3)上記ペプチド[Th]−[B]のN末端(すなわち、例えば、配列番号5、103、104、105、107、109または111のいずれか1個のN末端)にコンジュゲートされた式(II)の脂質から構成されるPam2Cys−[Th]−[B]、
(4)上記ペプチド[Th]−[B]のN末端(すなわち、例えば、配列番号5、103、104、105、107、109または111のいずれか1個のN末端)にコンジュゲートされた式(IV)の脂質から構成されるPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]、
(5)ペプチド[Th]−Lys−[B](例えば、配列番号7、9、13、106、108、110または112のいずれか1個)と前記ペプチドの内部リジン(Lys)のε−アミノ基にコンジュゲートされた式(I)の脂質とから構成される[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]、
(6)ペプチド[Th]−Lys−[B](例えば、配列番号7、9、13、106、108、110または112のいずれか1個)と前記ペプチドの内部リジン(Lys)のε−アミノ基にコンジュゲートされた式(II)の脂質とから構成される[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]、および
(7)内部リジン(Lys)のεアミノ基を介してセリンホモ二量体(すなわち、Ser−Ser)、次いで式(II)の脂質に順次コンジュゲートされたペプチド[Th]−Lys−[B](例えば、配列番号7、9、13、106、108、110または112のいずれか1個)から構成される[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]。したがって、この分枝リポペプチドを製造するために、リジン残基のε−アミノ基に2個のセリン残基を付加した後に脂質部分を結合させた。
【0047】
インフルエンザウイルス赤血球凝集素Tヘルパーエピトープ(配列番号1)およびLHRH1〜10 B細胞エピトープ(配列番号2)に基づくペプチドおよびリポペプチドの低可溶性(−)から高可溶性(++++)までの相対的な可溶性を図の右側に示す。
【0048】
図2は、図1において[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B](左)およびPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B](右)と命名されたリポペプチドの可溶性を示す写真である。ここで、ポリペプチド部分は、それぞれ配列番号7および配列番号5で示されるアミノ酸配列を有する。両方の溶液は、約1mg/mlのリポペプチド生理食塩水である。リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]を含む溶液の高い透明性は、リポペプチドPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]よりも高度に可溶性であることを示している。
【0049】
図3は、図1に示すペプチドおよびリポペプチドの各々を用いて得られる抗LHRH抗体価を示すグラフである。ここで、ポリペプチド部分は、配列番号5または配列番号7で示されるアミノ酸配列を有する。Pam3Cys−Ser−Lys4で示される陰性対照リポペプチドは、アミノ酸配列がSer−Lys−Lys−Lys−Lys(配列番号17)のペプチドのN末端にコンジュゲートされた式(I)の脂質から構成された。一次接種(白丸)と二次接種(黒丸)の両方ですべてのペプチドおよびリポペプチドを生理食塩水に溶解して皮下(s.c.)投与した。2個の非脂質付加ペプチド[Th]−Lys−[B]および[Th]−[B]を、一次接種では完全フロイントアジュバント(CFA)に入れて、二次接種では不完全フロイントアジュバント(IFA)に入れて投与した。ペプチド[Th]−[B]をリポペプチドPam3Cys−S−Lys4と組み合わせて投与する場合には、ペプチドを生理食塩水に溶解し、図示したように1:1または1:5モル比でリポペプチドと混合した。投与したペプチド免疫原およびリポペプチド免疫原の用量は20nmolであった。すべての場合において、対照動物グループには、初回抗原刺激ではCFAに乳化した生理食塩水、および二次接種ではIFAに乳化した生理食塩水を投与した。
【0050】
図4は、リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B](配列番号7)の接種後の二次抗体応答中に得られたまたは誘発された、各抗LHRH抗体アイソタイプ(すなわち、IgM、IgA、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3および総Ig)(横軸)に対する抗LHRH抗体価(log10)(縦軸)を示すグラフである。2回目の用量のリポペプチドワクチンの生理食塩水溶液を皮下(白四角)または鼻腔内(黒四角)投与してから2週間後にマウスから採血した。
【0051】
図5は、図1に示したペプチドおよびリポペプチド(すなわち、配列番号5または配列番号7)が、樹状細胞表面上のMHCクラスII分子の発現を増強させる相対能力を示すグラフである。ペプチドおよびリポペプチドを図1の命名法に従って各パネル中に示す。各ペプチドまたはリポペプチドに対して、8×104個のD1細胞を4.5fmolのペプチドまたはリポペプチドに暴露し、終夜インキュベートした。細胞を回収し、FITC複合抗l−Ek,dモノクローナル抗体で染色後にMHCクラスII分子発現をフローサイトメトリーによって測定した。各試料について約3×104個のD1細胞を分析した。示したデータは、4回の独立した実験の代表的なものであり、リポペプチド、特にリポ多糖(LPS)に曝露されたD1細胞で認められるレベルに近いD1成熟速度を誘導するリポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]の投与後のモノクローナル抗体による染色性の向上(すなわち、D1細胞成熟の促進)を示している。非脂質付加ペプチド[Th]−Lys−[B]を用いて得られるデータは、ペプチド、リポペプチドまたはLPSを添加しない培地中でインキュベートしたD1細胞の場合と実質的に同じであり、これは約26%の自然成熟速度である。
【0052】
図6は、脂質付加[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]によって誘発される抗LHRH抗体応答を示すグラフである。ここで、[Th]は、インフルエンザ赤血球凝集素の軽鎖に由来するCD4+ T細胞エピトープ(配列番号1)からなり、[B]は、LHRH1〜10(配列番号2)またはLHRH6〜10(すなわち、LHRHのC末端5残基;配列番号4)であり、脂質部分とペプチド部分の間に位置するセリンスペーサー(Ser−Ser)が存在してもしなくてもよい。リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys)−GlyLeuArgProGlyは、[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]に構造的に類似しているが、このリポペプチドは、配列番号2の代わりに配列番号4を含む。
【0053】
図7は、TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。ここで、ペプチド部分は、配列番号9で示されるアミノ酸配列を有し、脂質部分は、(1)Pam2Cys、(2)Ste2Cys、(3)Lau2Cysおよび(4)Oct2cysからなる群から選択される。以下の様々なスペーサー、すなわち(1)Ser−Ser、2個のセリン残基;(2)Arg−Arg、2個のアルギニン残基;および(3)Ahx、6−アミノヘキサン酸、も脂質部分とペプチド部分の間に位置した。リポペプチドの構造を左カラムに示す。各リポペプチドのHPLCクロマトグラムを中間のカラムに示す。質量スペクトルを図の右カラムに示す。
【0054】
図8は、ペプチドと脂質部分の間にSer−Serスペーサーを有する図7の説明に示すリポペプチドの免疫原性を示すグラフである。ここで、脂質部分は、(1)Pam2Cys、(2)Ste2Cys、(3)Lau2Cysおよび(4)Oct2cysからなる群から選択される。BALB/cマウス(6〜8週齡)の各グループに、一次と二次ワクチン接種の両方でペプチド免疫原20nmolを皮下接種した。すべてのリポペプチドを生理食塩水に溶解して投与した。対照として、非脂質付加ペプチド[Th]−Lys−[B]をCFAに入れて投与した。一次ワクチン接種後4週目(白丸)および二次ワクチン接種後2週目(黒丸)に採取した血液から血清を得た。
【0055】
図9は、脂質部分とペプチド部分の間に位置する様々なスペーサーを有する図7のリポペプチド免疫原の免疫原性を示すグラフである。特に、スペーサーは、セリンホモ二量体(Ser−Ser)、アルギニンホモ二量体(Arg−Arg)または6−アミノヘキサン酸(Ahx)からなる。BALB/cマウス(6〜8週齡)の各グループに、一次と二次ワクチン接種の両方でペプチド免疫原20nmolを皮下接種した。すべてのリポペプチドを生理食塩水に溶解して投与した。対照として、非脂質付加ペプチド[Th]−Lys−[B]をCFAに入れて投与した。一次ワクチン接種後4週目(白丸)および二次ワクチン接種後2週目(黒丸)に採取した血液から血清を得た。
【0056】
図10は、リポペプチド構築体[Th](Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]の品質管理データを示すグラフである。ここで、脂質部分は、配列番号103で示されるペプチドのヘルパーT細胞エピトープ内の内部リジン残基(Lys−14)のε−アミノ基に結合(pendant)している。リポペプチドの構造を左カラムに示す。リポペプチドのHPLCクロマトグラムを中間のカラムに示す。質量スペクトルデータを図の右カラムに示す。
【0057】
図11は、図10の説明に記載したリポペプチド免疫原の免疫原性を、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する内部リジン残基に付加した脂質部分を有するリポペプチド免疫原と比較して示すグラフである(すなわち、脂質部分が、配列番号9で示すアミノ酸配列に付加しており、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に付加した内部リジンを有する点で配列番号103とは異なる)。配列番号9で示されるアミノ酸配列を有する対照の非脂質付加ペプチド(すなわち、[Th]−Lys−[B])も対照として用いた。BALB/cマウス(6〜8週齡)の各グループに、一次と二次ワクチン接種の両方でペプチド免疫原20nmolを皮下接種した。すべてのリポペプチドを生理食塩水に溶解して投与した。対照の非脂質付加ペプチド[Th]−Lys−[B]をCFAに入れて投与した。一次ワクチン接種後4週目(白丸)および二次ワクチン接種後2週目(黒丸)に採取した血液から血清を得た。リポペプチド構築体[Th](Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]は、ヘルパーT細胞エピトープ内のリジン残基(Lys−14)のε−アミノ基に結合した脂質部分を有する。リポペプチド構築体[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]は、2個のペプチドエピトープ間に位置するリジン残基のε−アミノ基に結合した脂質を有する。
【0058】
図12は、TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびA群ストレプトコッカスB細胞エピトープ(「J14」;配列番号101)を含み、配列番号106のアミノ酸配列、ならびに1個または2個の脂質部分を有するリポペプチドのマウスにおける血清IgG誘導能力を示すグラフである。すべての試験リポペプチドにおいて、リポアミノ酸部分Pam2Cys−Ser−Serは、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する内部リジンに付加した。リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[J14]においては、これが唯一の脂質部分であるのに対して、リポペプチドPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[J14]においては、別のリポアミノ酸部分Pam2Cys−Ser−SerをTヘルパーエピトープのN末端アミノ基に付加した。他の免疫原は以下のとおりであった。すなわち、J14 B細胞エピトープ含有ペプチド(配列番号101)からなる非脂質付加ペプチドJ14、Tヘルパーエピトープ(配列番号24)とJ14ペプチド(配列番号101)からなり、配列番号106のアミノ酸配列を有する非脂質付加ペプチド[Th]−[J14]、Tヘルパーエピトープ(配列番号24)とLHRH B細胞エピトープ含有ペプチド(配列番号3)からなり、配列番号9のアミノ酸配列を有する脂質付加ペプチド、ならびにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)であった。4〜6週齡の非近交系クァッケンブッシュ(Quackenbush)雌マウス(15/グループ)にペプチドを主体とするワクチン60μgを総量30μlのPBSに溶解して鼻腔内接種した。マウスにワクチンを21日間隔で3回投与した。最終投与から7日後に、マウスの尾静脈から採血し、J14特異的血清IgGを測定した。いずれかのJ14含有リポペプチドを与えたマウスは、対照グループよりも有意に高い(P<0.05)血清IgG力価を示した。
【0059】
図13は、図12の説明に示した非脂質付加ペプチドおよびリポペプチドによって誘発される抗血清のオプソニン化能力を示すグラフである。4〜6週齡の非近交系クァッケンブッシュ雌マウス(15/グループ)に、ペプチドを主体とするワクチン60μgを総容積30μlのPBSに溶解して鼻腔内接種した。マウスにワクチンを21日間隔で3回投与した。間接的な殺菌アッセイを実施して、免疫マウスから得た血清がM1 GAS系統をインビトロでオプソニン化するまたは「死滅させる」かどうかを判定した。いずれかのJ14含有リポペプチドで免疫されたマウスから採取した血清は、対照ペプチドまたはリポペプチドまたはPBSで免疫されたマウスから採取した血清よりもGASを有意に死滅させることができた(P<0.05)。
【0060】
図14は、図12の説明に示した非脂質付加ペプチドおよびリポペプチドがマウスにおいて唾液IgAを誘発する能力を示すグラフである。4〜6週齡の非近交系クァッケンブッシュ雌マウス(15匹/グループ)に、各ペプチドを主体とするワクチン60μgを総容積30μlのPBSに溶解して鼻腔内接種した。マウスにワクチンを21日間隔で3回投与した。最終投与から8日後に、個々のマウスから唾液を採取し、J14−特異的唾液IgA平均抗体価を標準ELISAによって求めた。いずれかのJ14含有リポペプチドを接種したマウスは、対照ペプチドまたは対照リポペプチドまたはPBSで免疫された対照グループよりも有意に高い力価を示した(P<0.05)。
【0061】
図15は、図12の説明に示した非脂質付加J14含有ペプチドおよびJ14含有リポペプチドがマウスにおいて糞便IgAを誘発する能力を示すグラフである。4〜6週齡の非近交系クァッケンブッシュ雌マウス(15匹/グループ)に、ペプチドを主体とするワクチン60μgを総容積30μlのPBSに溶解して鼻腔内接種した。マウスにワクチンを21日間隔で3回投与した。抗原の最終投与から6日後に糞便IgAを求めた。脂質部分がTヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する単一脂質付加J14含有ペプチド(すなわち、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[J14])を接種したマウスのみが、有意(P<0.05)な糞便IgA力価を示した。
【0062】
図16は、図12の説明に示した非脂質付加ペプチドおよびリポペプチドを接種した後の細菌を用いた生存試験に対するマウスの能力を示すグラフである。抗原の最終投与から2週間後に、M1 GAS系統をマウスに鼻腔内投与し、その後様々な時点で生存しているかどうかを確認した。脂質部分がTヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する単一脂質付加J14含有ペプチド(すなわち、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[J14])を接種したマウスは、投与後最も良い生存率を示した。
【0063】
図17は、ガストリンに基づくリポペプチド免疫原の免疫原性を示すグラフである。BALB/cマウス(6〜8週齢)のグループ(5動物/グループ)に、ペプチド免疫原20nmolを尾の付け根に皮下接種した。使用したペプチドは、ガストリン−17(配列番号113);ペンタガストリンが(配列番号102)で示されるガストリンのC末端配列GWMDFである[P25]−Lys−[ペンタガストリン](配列番号110);および[P25]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[ペンタガストリン](脂質が内部リジン残基に付加した配列番号110)であった。すべてのリポペプチドをPBS溶液として投与し、非脂質付加ペプチドをCFAに入れて投与した。陰性対照は、CFAで乳化した生理食塩水であった。免疫から4週後にマウスから血清を得た。同時に、ほぼ同じ用量の2回目の抗原をマウスに投与した。2回目の抗原投与から2週間後に2回目の採血を行い、ペプチドガストリン−17配列と反応可能な抗体をELISAによって検出した。結果を抗ガストリン−17抗体力価として表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
リポペプチド
本発明の一態様は、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含む単離リポペプチドを提供する。ここで、
(i)前記ポリペプチドは、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列およびB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、ならびに
(b)内部リジンまたは内部リジン類似体のε−アミノ基または末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々が共有結合するための1個または複数の前記内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含むアミノ酸配列を含み、
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個または複数の内部リジン残基のε−アミノ基または前記内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的または間接的に共有結合している。
【0065】
本明細書で使用する「リポペプチド」という用語は、直接的または間接的にコンジュゲートされた1個または複数の脂質部分と1個または複数のアミノ酸配列とを含む任意の非天然組成物を意味する。前記組成物は、非特異的なコンジュゲートされていない脂質またはタンパク質を実質的に含まない。
【0066】
「直接的に」とは、脂質部分とアミノ酸配列がスペーサー分子によって分離されていないことを意味する。
【0067】
「間接的に」とは、脂質部分とアミノ酸配列が、1個または複数の炭素含有分子、例えば、1個または複数のアミノ酸残基などを含むスペーサーによって分離されていることを意味する。
【0068】
アミノ酸配列は、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの両方の官能基の要件によって制約される任意の長さにすることができる。
【0069】
本明細書で使用する、「内部リジン残基」という用語は、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの両方を含むポリペプチド中のリジン残基を意味し、前記リジンは前記ポリペプチドのN末端アミノ酸残基でもC末端残基でもない。これは、脂質部分が結合する内部リジン残基が、Tヘルパー細胞エピトープのアミノ酸配列、または抗原のアミノ酸配列中に存在する残基であることを意味する。また内部リジン残基は、TヘルパーエピトープともB細胞エピトープとも異なることができ、その場合には、内部リジン残基は、ポリペプチドのこれらの2個のエピトープを連結しなければならない。
【0070】
同様に、「内部リジン類似体残基」という用語は、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの両方を含むポリペプチド中のリジン類似体残基を意味し、前記リジン類似体は前記ポリペプチドのN末端アミノ酸残基でもC末端残基でもない。リジン残基が「内部」であるかどうかを確認する判定基準は、リジン類似体が内部であるかどうかの判定を準用する。
【0071】
「リジン類似体」とは、アミノ側鎖を有するアミノ酸類似体または非天然アミノ酸を含めて、脂質部分が結合できる適切な側鎖を有するペプチドの内部に組み込むことができる合成化合物を意味する。好ましいリジン類似体としては、以下の一般式(V)の化合物などがある:
【化3】
【0072】
〔式中、nは0〜3の整数であり、Xは、NH、OおよびSからなる群から選択される、前記内部リジン類似体残基の末端側鎖基である。より好ましくは、nは1〜3の整数である。より好ましくは、Xは、アミノ基であり、リジン類似体はジアミノ化合物である。特に好ましい実施形態においては、リジン類似体は、2,3ジアミノプロピオン酸(Dpr)、2,4−ジアミノ酪酸(Dab)および2,5−ジアミノ吉草酸[すなわち、オルニチン(Orn)]からなる群から選択される〕。
【0073】
当業者は、「ε−アミノ基」という用語の意味を知っているはずである。
【0074】
「末端側鎖基」という用語は、前記類似体のα炭素の遠位にあるリジン類似体の側鎖上の置換基、例えば、Dprのβ−アミノ、Dabのγ−アミノ、Ornのδ−アミノなどを意味する。
【0075】
本発明者らは、最も有効なリポペプチドは高度に可溶性であることを見出した。外部アジュバントの不在下で抗体応答を誘発する本発明のリポペプチドの相対能力は、未成熟樹状細胞(DC)、特にWinzler et al J Exp Med 185、317、1997)に記載されたD1細胞上のMHCクラスII分子の表面発現をアップレギュレートし得ることによって示された。
【0076】
当業者には公知のとおり、リジンのεアミノ基は、このアミノ酸の側鎖の末端アミノ基である。リジンのεアミノ基またはリジン類似体の末端側鎖基を脂質部分への架橋に使用すると、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの両方を組み込んだ共直線アミノ酸配列としてのポリペプチド部分の合成が容易になる。脂質がリジン残基のεアミノ基、またはリジン類似体の末端側鎖基を介して結合したリポペプチドと、リジンのαアミノ基を介して結合した脂質を有するリポペプチドとの構造上の違いは明白である。というのは、後者のリポペプチドは、N末端残基にコンジュゲートされた脂質部分しか有することができないからである。
【0077】
したがって、脂質部分が結合する少なくとも1個の内部リジン残基または内部リジン類似体は、免疫学的に機能するエピトープを分離するようにポリペプチド部分内に位置することが特に好ましい。例えば、内部リジン残基または内部リジン類似体残基は、各エピトープ間のスペーサーおよび/または連結残基として作用することができる。内部リジンまたは内部リジン類似体がTヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する場合には、ポリペプチドのアミノ酸配列から分枝が形成されるにもかかわらず、脂質部分がこれらのエピトープ間の位置に結合することは言うまでもない。単一の内部リジン残基または内部リジン類似体を使用してB細胞エピトープとTヘルパーエピトープを分離することが好ましい(例えば、配列番号7、9、13、106、108、110または112のいずれか1個)。この場合には、脂質部分は、Tヘルパーエピトープと抗原性B細胞エピトープの各アミノ酸配列の間に位置するリジン残基のεアミノ基、またはリジン類似体の末端側鎖基を介して結合する。
【0078】
内部リジンのεアミノ基、またはリジン類似体の末端側鎖基は、他のアミノ酸のα−アミノ基および側鎖官能基を保護するために使用される化学基と直交性の化学基によって保護することができる。このようにして、リジンのεアミノ基またはリジン類似体の末端側鎖基を選択的に露出させて、εアミノ基または末端側鎖基の特異的な脂質含有部分などの化学基を適宜結合させることができる。
【0079】
Fmoc化学を利用したペプチド合成の場合には、適切な直交性に保護されたリジンのε基は、修飾アミノ酸残基Fmoc−Lys(Mtt)−OH(Nα−Fmoc−Nε−4−メチルトリチル−L−リジン)によって与えられる。類似の適切な直交性保護側鎖基、例えば、Fmoc−Orn(Mtt)−OH(Nα−Fmoc−Nδ−4−メチルトリチル−L−オルニチン)、Fmoc−Dab(Mtt)−OH(Nα−Fmoc−Nγ−4−メチルトリチル−L−ジアミノ酪酸)およびFmoc−Dpr(Mtt)−OH(Nα−Fmoc−Nβ−4−メチルトリチル−L−ジアミノプロピオン酸)が、本明細書で企図される様々なリジン類似体に利用可能である。側鎖保護基Mttは、リジンまたはリジン類似体のαアミノ基上に存在するFmoc基が除去される条件では安定であるが、トリフルオロ酢酸の1%ジクロロメタン溶液で選択的に除去することができる。Fmoc−Lys(Dde)−OH(Nα−Fmoc−Nε−1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロへキシ−1−イリデン)エチル−L−リジン)またはFmoc−Lys(ivDde)−OH(Nα−Fmoc−Nε−1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロへキシ−1−イリデン)−3−メチルブチル−L−リジン)も本発明において使用することができる。ここで、Dde側鎖保護基は、ペプチド合成中にヒドラジンで処理して選択的に除去される。
【0080】
Boc化学を利用したペプチド合成の場合には、Boc−Lys(Fmoc)−OHを使用することができる。側鎖保護基Fmocは、ピペリジンまたはDBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン)で処理して選択的に除去することができるが、トリフルオロ酢酸を用いてα末端からBoc基を除去するときには所定の位置に残留する。
【0081】
本発明のリポペプチドにおけるTヘルパーエピトープとB細胞エピトープの最適距離、したがって、内部リジンまたはリジン類似体残基の正確な位置および数は、Tヘルパーエピトープ、B細胞エピトープおよび脂質の各組合せに対して経験的に容易に決定される。合成ペプチドおよびポリペプチドの場合には、ポリペプチドを調製するのに使用される合成方法の制約によって、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの実現可能な分離、内部リジンまたはリジン類似体残基の数および位置をある程度決めることができる。
【0082】
好ましくは、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープは、単一の内部リジン残基またはリジン類似体残基を含めて、少なくとも1個、2個、3個、4個または5個のアミノ酸残基によって分離される。
【0083】
本発明は、ポリペプチド部分に対する複数の脂質部分の付加を明確に企図する。これを達成するために、ポリペプチドは、複数の内部リジン残基または複数の内部リジン類似体残基またはそれらの組合せを含むことができる。複数の内部リジンまたはリジン類似体残基がより近くに位置する場合には、脂質を付加する際に立体障害が起こり、それによって最終生成物の混合物が製造され、または収率が低下する恐れがある。
【0084】
この考察に関連して、Tヘルパーエピトープを含むアミノ酸配列全体、またはB細胞エピトープを含むアミノ酸配列全体が免疫機能を有する必要はない。したがって、前記アミノ酸配列は、前記エピトープを含みながら、Tヘルパー細胞活性またはB細胞エピトープを含まない配列をさらに有することができる。このような追加の配列が1個または複数の内部リジンまたはリジン類似体残基を含む場合には、このような残基の末端側鎖基は、脂質部分の結合部位として働くことができる。Tヘルパー機能およびB細胞エピトープ機能を保持することが必須であることは言うまでもない。
【0085】
脂質部分が結合する内部リジン残基または内部リジン類似体の位置も、脂質部分の結合が、リポペプチドを投与する被験体におけるTヘルパーエピトープまたはB細胞エピトープの免疫機能を妨げないように選択すべきである。例えば、脂質部分の選択によっては、B細胞エピトープ内の前記脂質の結合が抗原提示の立体障害になり得る。
【0086】
内部リジンまたは内部リジン類似体がTヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する本発明のリポペプチドの一般化された好ましい形態は、一般式(VI)によって示される:
【化4】
【0087】
〔式中、
エピトープは、TヘルパーエピトープまたはB細胞エピトープであり、
Aは、存在しても存在しなくてもよく、約1〜約6アミノ酸長のアミノ酸スペーサーからなり、
nは、1、2、3または4の整数であり、
Xは、NH、OおよびSからなる群から選択される末端側鎖基であり、好ましくはNHからなり、
Yは、存在しても存在しなくてもよく、約1〜約6アミノ酸長のスペーサーからなり、前記スペーサーは、アルギニン、セリンまたは6−アミノヘキサン酸を含むことが好ましく、
Zは、脂質部分、好ましくはPam2Cys、Pam3Cys、Ste2Cys、Lau2CysおよびOct2Cysからなる群から選択されるリポアミノ酸部分である〕。
【0088】
当業者は、Ste2Cysが、S−[2,3−ビス(ステアロイルオキシ)プロピル]システインまたはジステアロイル−S−グリセリル−システインとしても知られ、Lau2Cysが、S−[2,3−ビス(ラウロイルオキシ)プロピル]システインまたはジラウロイル−S−グリセリル−システイン)としても知られ、Oct2Cysが、S−[2,3−ビス(オクタノイルオキシ)プロピル]システインまたはジオクタノイル−S−グリセリル−システイン]としても知られることを知っているはずである。
【0089】
Tヘルパーエピトープは、特定の標的被験体(すなわち、ヒト被験体、あるいは特定の非ヒト動物被験体、例えば、ラット、マウス、モルモット、イヌ、ウマ、ブタまたはヤギ)において免疫応答を高めるための当業者に公知の任意のTヘルパーエピトープである。好ましいTヘルパーエピトープは、少なくとも約10〜24アミノ酸長、より一般的には約15〜約20アミノ酸長である。
【0090】
乱交雑または許容的Tヘルパーエピトープは、化学的に容易に合成され、複数のTヘルパーエピトープを含むより長いポリペプチドを使用する必要がないので特に好ましい。
【0091】
本発明のリポペプチドに使用するのに適した乱交雑または許容的Tヘルパーエピトープの例は、以下からなる群より選択される:
(1)破傷風トキソイドペプチド(TTP)のげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ、例えば、TTPのアミノ酸830〜843など(Panina-Bordignon et al.、Eur.J.Immun.19、2237〜2242、1989)、
(2)プラスモディウム・ファルシパルムpfg27のげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ、
(3)乳酸デヒドロゲナーゼのげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ、
(4)HIVまたはHIVgp120エンベロープタンパク質のげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ(Berzofsky et al.、J.Clin.Invest.88、876〜884、1991)、
(5)既知のアンカータンパク質のアミノ酸配列から予測される合成ヒトTヘルパーエピトープ(PADRE)(Alexander et al、Immunity 1、751〜761、1994)、
(6)麻疹ウイルス融合タンパク質のげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ(MV−F;Muller et al.、Mol.Immunol.32、37〜47、1995;Partidos et al.、J.Gen.Virol.、71、2099〜2105、1990)、
(7)イヌジステンパーウイルス融合タンパク質(CDV−F)の少なくとも約10個のアミノ酸残基、例えば、CDV−Fのアミノ酸位置148〜283からの残基を含むTヘルパーエピトープ(Ghosh et al.、Immunol.104、58〜66、2001;国際公開特許第00/46390号)、
(8)MUC1ムチンの細胞外直列型反復ドメインのペプチド配列に由来するヒトTヘルパーエピトープ(米国特許出願第0020018806号)、
(9)インフルエンザウイルス赤血球凝集素(IV−H)のげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ(Jackson et al Virol.198、613〜623、1994、および
(10)口蹄疫ウイルス(FMDV−01カウフボイレン(Kaufbeuren)系統)のVP3タンパク質の残基173〜176、あるいは別の系統のFMDVの対応するアミノ酸を含むウシまたはラクダTヘルパーエピトープ。
【0092】
当業者には知られているとおり、Tヘルパーエピトープは、様々な種の1種類または複数の哺乳動物によって認識されうる。したがって、本明細書に記載のTヘルパーエピトープの名称は、エピトープが認識される種の免疫系に限定されると考えるべきではない。例えば、げっ歯類Tヘルパーエピトープは、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、または他のげっ歯類、あるいはヒトまたはイヌの免疫系によって認識される。
【0093】
より好ましくは、Tヘルパーエピトープは、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含みうる:
(1)IV−HのGALNNRFQIKGVELKS(配列番号1);
(2)IV−HのALNNRFQIKGVELKS(配列番号18);
(3)MV−FのLSEIKGVIVHRLEGV(配列番号19);
(4)CDV−FのTAAQITAGIALHQSNLN(配列番号20);
(5)CDV−FのIGTDNVHYKIMTRPSHQ(配列番号21);
(6)CDV−FのYKIMTRPSHQYLVIKLI(配列番号22);
(7)CDV−FのSHQYLVIKLIPNASLIE(配列番号23);
(8)CDV−FのKLIPNASLIENCTKAEL(配列番号24);
(9)CDV−FのLIENCTKAELGEYEKLL(配列番号25);
(10)CDV−FのAELGEYEKLLNSVLEPI(配列番号26);
(11)CDV−FのKLLNSVLEPINQALTLM(配列番号27);
(12)CDV−FのEPINQALTLMTKNVKPL(配列番号28);
(13)CDV−FのTLMTKNVKPLQSLGSGR(配列番号29);
(14)CDV−FのKPLQSLGSGRRQRRFAG(配列番号30);
(15)CDV−FのSGRRQRRFAGVVLAGVA(配列番号31);
(16)CDV−FのFAGVVLAGVALGVATAA(配列番号32);
(17)CDV−FのGVALGVATAAQITAGIA(配列番号33);
(18)CDV−FのGIALHQSNLNAQAIQSL(配列番号34);
(19)CDV−FのNLNAQAIQSLRTSLEQS(配列番号35);
(20)CDV−FのQSLRTSLEQSNKAIEEI(配列番号36);
(21)CDV−FのEQSNKAIEEIREATQET(配列番号37);
(22)CDV−FのSSKTQTHTQQDRPPQPS(配列番号38);
(23)CDV−FのQPSTELEETRTSRARHS(配列番号39);
(24)CDV−FのRHSTTSAQRSTHYDPRT(配列番号40);
(25)CDV−FのPRTSDRPVSYTMNRTRS(配列番号41);
(26)CDV−FのTRSRKQTSHRLKNIPVH(配列番号42);
(27)CDV−FのTELLSIFGPSLRDPISA(配列番号43);
(28)CDV−FのPRYIATNGYLISNFDES(配列番号44);
(29)CDV−FのCIRGDTSSCARTLVSGT(配列番号45);
(30)CDV−FのDESSCVFVSESAICSQN(配列番号46);
(31)CDV−FのTSTIINQSPDKLLTFIA(配列番号47);
(32)CDV−FのSPDKLLTFIASDTCPLV(配列番号48);
(33)MUC−1のSTAPPAHGVTSAPDTRAPGSTAPP(配列番号49);
(34)MUC−1のGVTSAPDTRPAPGSTASSL(配列番号50);
(35)MUC−1のGVTSAPDTRPAPGSTASL(配列番号51);
(36)MUC−1のTAPPAHGVTSAPDTRPAPGSTAPPKKG(配列番号52);
(37)MUC−1のSTAPPAHGVTSAPDTRPAPGSTAPPK(配列番号53);
(38)FMDV−VP3タンパク質のGVAE(配列番号54);
(39)FMDV−VP3タンパク質のTASGVAETTN(残基170から179)(配列番号55);および
(40)FMDVのTAKSKKFPSYTATYQF(配列番号56)。
【0094】
本明細書に開示するTヘルパーエピトープは、単に例示のためにすぎない。当業者に公知の標準ペプチド合成技術を用いて、本明細書に言及するTヘルパーエピトープを異なるTヘルパーエピトープと容易に置換して、本発明のリポペプチドを異なる種での使用に適合させることができる。したがって、標的種において免疫応答を誘発または増大するのに有用であることが当業者に知られている別のTヘルパーエピトープを除外すべきではない。
【0095】
別のTヘルパーエピトープは、詳細な分析によって、適切な配列を特定するための成分タンパク質、タンパク質断片およびペプチドのインビトロでのT細胞刺激技術を用いて特定することができる(Goodman and Sercarz、Ann.Rev.Immunol.、1、465、(1983);Berzofsky、In:「The Year in Immunology、Vol.2」page 151、Karger、Basel、1986;およびLivingstone and Fathman、Ann.Rev.Immunol.、5、477、1987)。
【0096】
B細胞エピトープは、好都合には、限定されるものではないが、哺乳動物被験体、または細菌、真菌、原生動物、または前記被験体に感染する寄生生物に由来する抗原を含むウイルス、原核生物または真核生物の免疫原性タンパク質、リポタンパク質または糖タンパク質のアミノ酸配列に由来する。免疫応答が望まれるイディオタイプおよび抗イディオタイプのB細胞エピトープが特に含まれ、脂質で修飾されたB細胞エピトープも含まれる。あるいは、B細胞エピトープは、炭水化物抗原、例えば、ABH血液型抗原、移植抗原(例えば、Galα1−3Galβ1−4GlcNAc;Sandrin et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90、11391〜11395、1993;Galili et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84、1369〜1373、1987;Schofield et al.、Nature 418:785〜789、2002)またはそれらの複合体とすることができる。
【0097】
B細胞エピトープは、哺乳動物に投与すると抗体、好ましくは中和抗体、より好ましくは高力価中和抗体の産生を誘導することができる。
【0098】
ペプチド合成を容易にするために、より短いB細胞エピトープが好ましい。
【0099】
B細胞エピトープの長さは、約30アミノ酸長を超えないことが好ましい。より好ましくは、B細胞エピトープ配列は、約25アミノ酸残基以下、より好ましくは20アミノ酸残基未満、さらにより好ましくは約5〜20アミノ酸残基長からなる。
【0100】
ペプチドは、B細胞エピトープが由来する天然のポリペプチドのコンホメーションを模倣したコンホメーションをとることが好ましい。
【0101】
寄生生物に由来する好ましいB細胞エピトープは、リーシュマニア、マラリア、トリパノソーマ症、バベシア症、または住血吸虫病に関連するB細胞エピトープであり、例えば、以下からなる群より選択されるB細胞エピトープである:
(1)プラスモディウム・ファルシパルム(NANP)3のB細胞エピトープ(Good et al.、J.Exp.Med.164、655 1986)、
(2)サーカムスポロゾア(Circumsporozoa)のB細胞エピトープ(Good et al.、Protein Sci.、235、1059、1987)、
(3)リーシュマニア・ドノヴァニ(leishmania donovani)反復ペプチドのアミノ酸残基326〜343を含むB細胞エピトープ(Liew et al.、J.Exp.Med.172、1359(1990))、
(4)トキソプラズマ・ゴンヂ(Toxoplasma gondii)P30表面タンパク質のB細胞エピトープ(Darcy et al.、J.Immunol.149、3636(1992))、および
(5)シストソーマ・マンソニ(Schistosoma mansoni)Sm−28GST抗原のB細胞エピトープ(Wolowxzuk et al.、J.Immunol 146:1987(1991))。
【0102】
好ましいウイルス特異的B細胞エピトープは、ロタウイルス、ヘルペスウイルス、コロナウイルス、ピコルナウイルス(例えば、アフトウイルス(Aphthovirus))、呼吸器シンシチウムウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ポックスウイルス、I型ウシヘルペスウイルス、ウシ下痢ウイルス、ウシロタウイルス、イヌジステンパーウイルス(CDV)、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)、ウマ鼻炎Bウイルス(ERBV)、口蹄疫ウイルス(FMDV)、麻疹ウイルス(MV)、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、肝炎ウイルスなどに由来し、かつ/またはこれらに対する抗体を産生することができる。適切なウイルスのB細胞エピトープとしては、限定されるものではないが、以下からなる群より選択されるエピトープが挙げられる:
(1)HIV gp120 V3 loop、アミノ酸残基308〜331(Jatsushita et al.、J.Virol.62、2107(1988))、
(2)HIV gp120アミノ酸残基428〜443(Ratner et al.、Nature 313:277(1985))、
(3)HIV gp120アミノ酸残基112〜124(Berzofsky et al.、Nature 334、706(1988))、
(4)HIV逆転写酵素のB細胞エピトープ(Hosmalin et al.Proc.Natl Acad.Sci.(USA)87、2344(1990))、
(5)インフルエンザウイルス核タンパク質アミノ酸残基335〜349(Townsend et al.Cell 44、959(1986))、
(6)インフルエンザウイルス核タンパク質アミノ酸残基366〜379(Townsend et al.Cell 44、959(1986))、
(7)インフルエンザウイルス赤血球凝集素アミノ酸残基48〜66(Mills et al.、J.Exp.Med.163、1477(1986))、
(8)インフルエンザウイルス赤血球凝集素アミノ酸残基111〜120(Hackett et al.、J.Exp.Med 158、294(1983))、
(9)インフルエンザウイルス赤血球凝集素アミノ酸114〜131(Lamb and Green、Immunology 50、659(1983))、
(10)エプスタインバーLMPアミノ酸残基43〜53(Thorley-Lawson et al.、Proc.Natl Acad.Sci.(USA)84、5384(1987))、
(11)B型肝炎ウイルス表面抗原アミノ酸残基95〜109(Milich et al.、J.Immunol.134、4203(1985))、
(12)B型肝炎ウイルス表面抗原アミノ酸残基140〜154、
(13)B型肝炎ウイルスPre−S抗原アミノ酸残基120〜132(Milich et al.、J.Exp.Med.164、532(1986))、
(14)単純ヘルペスウイルスgDタンパク質アミノ酸残基5〜23(Jayaraman et al.、J.Immunol.151、5777(1993))、
(15)単純ヘルペスウイルスgDタンパク質アミノ酸残基241〜260(Wyckoff et al.、Immunobiol.、177、134(1988))、
(16)狂犬病糖タンパク質アミノ酸残基32〜44(MacFarlan et al.、J.Immunol.133、2748(1984))、
(17)FMDV血清型O1のVP1キャプシドタンパク質の少なくともアミノ酸残基134〜168または137〜160または残基142〜160または残基137〜162または残基145〜150、あるいは別の血清型、例えば、血清型A、C、SAT1、SAT2、SAT3、ASIA1などの対応するアミノ酸残基を含む主要FMDVエピトープ(米国特許第5,864,008号および同第6,107,021号)、および
(18)C型肝炎ウイルス(HCV)変異体AD78のE2タンパク質の超可変領域−1(HVR1)(Zibert et al.、J.Virol.79、4123〜4127、1997)。
【0103】
好ましい細菌特異的B細胞エピトープは、パスツレラ(Pasteurella)、アクチノバシラス(Actinobacillus)、ヘモフィルス(Haemophilus)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、大腸菌(E.coli)、シゲラ(Shigella)などに由来し、かつ/またはこれらに対する抗体を産生することができる。適切な細菌B細胞エピトープとしては、限定されるものではないが、以下からなる群より選択されるエピトープが挙げられる:
(1)マイコバクテリウム・ツベルキュローシス(Mycobacterium tuberculosis)65Kdタンパク質アミノ酸残基112〜126(Lamb et al.、EMBO J.、6、1245(1987))、
(2)マイコバクテリウム・ツベルキュローシス65Kdタンパク質アミノ酸残基163〜184(Lamb et al.、EMBO J.、6、1245(1987))、
(3)マイコバクテリウム・ツベルキュローシス65Kdタンパク質アミノ酸残基227〜243(Lamb et al.、EMBO J.、6、1245(1987))、
(4)マイコバクテリウム・ツベルキュローシス65Kdタンパク質アミノ酸残基242〜266(Lamb et al.、EMBO J.、6、1245(1987))、
(5)マイコバクテリウム・ツベルキュローシス65Kdタンパク質アミノ酸残基437〜459(Lamb et al.、EMBO J.、6、1245(1987))、
(6)マイコバクテリウム・ツベルキュローシスESAT−6タンパク質残基3〜15(Morten et al.、Infect.Immun.66、717〜723、1998)、
(7)マイコバクテリウム・ツベルキュローシスESAT−6タンパク質残基40〜62(Morten et al.、Infect.Immun.66、717〜723、1998)、
(8)マイコバクテリウム・スクロフラセウム(Mycobacterium scrofulaceum)α抗原残基279〜290(Mikiko et al.、Microb.Path.23、95〜100、1997)、
(9)スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)ヌクレアーゼタンパク質アミノ酸残基61〜80(Finnegan et al.、J.Exp.Med.164、897(1986))、
(10)大腸菌耐熱性エンテロトキシンのB細胞エピトープ(Cardenas et al.、Infect.Immunity 61、4629(1993))、
(11)大腸菌易熱性エンテロトキシンのB細胞エピトープ(Clements et al.、Infect.Immunity 53、685(1986))、
(12)シゲラ・ソンネ(Shigella sonnei)I型抗原のB細胞エピトープ(Formal et al.、Infect.Immunity 34、746(1981))、
(13)A群ストレプトコッカスに由来するB細胞エピトープ、好ましくはMタンパク質に由来するB細胞エピトープ、より好ましくはMタンパク質のC末端半分に由来するB細胞エピトープ、ならびにより好ましくはMタンパク質の保存C末端半分に由来し、らせん状の折りたたみ、および最小、らせん状、非宿主交差反応性ペプチド内で示される抗原性を維持するように設計された非Mタンパク質ペプチドを含む最小、らせん状、非宿主交差反応性ペプチドに由来するB細胞エピトープ。例えば、非Mタンパク質ペプチド(例えば、ペプチドJ14)は、アルカン骨格から懸垂する個々のペプチドすべてが免疫原を示すことを可能にする化学を用いて、1個または複数の血清型Mタンパク質ペプチドに連結することができ、それによって優れた免疫原性および保護作用が得られる(米国特許第6,174,528号;Brandt et al.、Nat.Med.6:455〜459、2000)、
(14)コレラ(Cholera)毒素Bサブユニット(CTB)、例えば、Kazemi and Finkelstein Mol.Immunol.28、865〜876、1991に記載されたコレラ毒素BサブユニットのB細胞エピトープ、
(15)バチルス・アンスラシス(Bacillus anthracis)(炭疽)のタンパク質のB細胞エピトープ、例えば、250kDa糖タンパク質などの炭疽の外側の外膜タンパク質に由来するB細胞エピトープ(Sylvestre et al.、Proc.4th Int.Conf.Anthrax、St John's College Annapolid、Mayland、CA 2001年6月10〜13日、Abstract 31 B、および
(16)破傷風のタンパク質、例えば、破傷風トキソイドタンパク質などに由来するB細胞エピトープ。
【0104】
哺乳動物被験体から得られる好ましいB細胞エピトープは、腫瘍抗原に由来し、かつ/または腫瘍抗原に対する抗体を産生することができる。腫瘍抗原は、通常、生来の抗原または外来の抗原であり、その発現は腫瘍の発生、成長、存在または再発と相関がある。腫瘍抗原は、正常組織から異常組織を区別するのに有用であるので、治療介入の標的として有用である。腫瘍抗原は当分野で周知である。実際、いくつかの例が詳細に分析され、現在、腫瘍特異的療法を作成する上で大きく注目されている。腫瘍抗原の非限定的な例は、癌胎児性抗原(CEA)、前立腺特異抗原(PSA)、メラノーマ抗原(MAGE、BAGE、GAGE)およびMUC−1などのムチンである。
【0105】
あるいは、哺乳動物被験体に由来する好ましいB細胞エピトープは、ヒト、またはブタなどの他の哺乳動物のZP3(Chamberlin and Dean Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)87、6014〜6018、1990)、ZP3a(Yurewicz et al.、Biochim.Biophys.Acta 1174、211〜214、1993))などの透明帯タンパク質に由来する。このカテゴリー内の特に好ましいB細胞エピトープとしては、ヒトZP3のアミノ酸残基323〜341(Chamberlin and Dean Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)87、6014〜6018、1990)、ブタZP3aのアミノ酸残基8〜18または残基272〜283または残基319〜330(Yurewicz et al.、Biochim.Biophys.Acta 1174、211〜214、1993)などがある。
【0106】
哺乳動物被験体から得られるさらに好ましいB細胞エピトープは、ペプチドホルモン、例えば、満腹ホルモン(例えば、レプチン)、消化ホルモン(例えば、ガストリン)、または生殖ペプチドホルモン[例えば、黄体形成ホルモン−放出ホルモン(LHRH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG;Carlsen et al.、J.Biol Chem.248、6810〜6827、1973)、あるいは、ホルモン受容体、例えば、FSH受容体(Kraaij et al.、J.Endocrinol.158、127〜136、1998)に由来し、かつ/またはこれらに対する抗体を産生することができる。このカテゴリー内の特に好ましいB細胞エピトープとしては、LHとは抗原性的に非交差反応性であるb−hCGのC末端部分(CTP)などがある(Carlsen et al.、J.Biol.Chem.248、6810〜6827、1973)。
【0107】
特に好ましい実施形態においては、B細胞エピトープを含むペプチドは、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む:
(1)LHRHに由来するEHWSYGLRPG(本明細書では「LHRH1〜10」と称する;配列番号2)、
(2)LHRHに由来するHWSYGLRPG(本明細書では「LHRH2〜10」と称する;配列番号3)、
(2)LHRHに由来するGLRPG((本明細書では「LHRH6〜10」と称する;配列番号4)、
(3)リーシュマニア・メジャー(Leishmani major)に由来するEAEEAARLQA(配列番号57)、
(4)以下からなる群から選択されるFMDVの非構造タンパク質3A、3Bまたは3Cに由来する配列(米国特許第6,048,538号):
FRERTLTGQRACNDVNSE(配列番号58)、
NPLETSGASTVGFRERTL(配列番号59)、
IRETRKRQKMVDDAVNEY(配列番号60)、
AKAPVVKEGPYEGPVKKPV(配列番号61)、
AGPLERQKPLKVKAKAPVV(配列番号62)、
KVRAKLPQQEGPYAGPLER(配列番号63)、
GPYTGPLERQRPLKVRAKL(配列番号64)、
VGRLIFSGEALTYKDIVV(配列番号65)、
TKHFRDTARMKKGTPVVGV(配列番号66)、および
SGAPPTDLQKMVMGNTKPV(配列番号67);
(5)FMDV VP1主要エピトープに由来するNKYSASGSGVRGDFGSLAPRVARQLPASFNYGAIK(米国特許第6,107,021号;配列番号68)、
(6)LYTKVVHYRKWIKDTIVANP(配列番号69)、AVKVMDLPQEPALGTTCYA(配列番号70)、IVGGWECEKHSQPWQVLVAS(配列番号71)、CAQVHPQKVTKFML(配列番号72)、YLMLLRLSEPAELTDDAVKVM(配列番号73)、LLKNRFLRPGDDSSHDLMLLY(配列番号74)およびILLGRHSLFHPEDTGQVFQVY(配列番号75)からなる群から選択される前立腺特異抗原に由来する配列(米国特許第6326471号)、
(7)b−hCGに由来するTCDDPRFQDSSSSKAPPPSLPSPSRLPGPSDTPILPQ(配列番号76)、
(8)FSH受容体に由来するCQDSKVTEIPTLPRNAI(配列番号77)、
(9)ヒトZP3タンパク質に由来するNKGDCGTPSHSRRQPHVMS(配列番号78)、
(10)WLCFPLCLALP(配列番号79)LGGLYCGPSSF(配列番号80)、GSITRDSIFRLR(配列番号81)、SALPVNIQVFTL(配列番号82)、ELQIAKDERYGS(配列番号83)およびVKLLREPIYVEV(配列番号84)からなる群から選択されるブタZP3aタンパク質に由来する配列、
(11)癌胎児性抗原(CEA)に由来するPPAQYSWLIDGN(配列番号85)、
(12)ANASQTDNGVNRSGSEDPTV(配列番号86)およびPETKHPKKGVEKYGPEASAF(配列番号87)からなる群から選択されるブドウ球菌ヌクレアーゼに由来する配列(Cone et al.、J.Biol.Chem.246、3103〜3110、1971)、
(13)LVLLDYQGMLPVCPL(配列番号88)およびTKPSDGNCTCIPIPS(配列番号89)からなる群から選択されるB型肝炎ウイルス表面抗原の配列(Kobayashi and Koike、Gene 30、227〜232、1984)、
(14)B型肝炎ウイルス前駆体表面抗原に由来するMQWNSTTFHQALL(配列番号90)、
(15)AAFEDLRVSSFIRGT(配列番号91)およびSNENMETMDSSTLE(配列番号92)からなる群から選択されるインフルエンザウイルス核タンパク質に由来する配列(Gregory et al.、J.Gen.Virol.82、1397〜1406、2001)、
(16)HPLILDTCTIEGLIYGNPS(配列番号93)、YQRIQIFPDT(配列番号94)およびIQIFPDTIWNVSYSGTSK(配列番号95)からなる群から選択されるインフルエンザウイルス赤血球凝集素に由来する配列、
(17)FMDVエンベロープ糖タンパク質VP1に由来するCKYSASGSGVRGDFGSLAPRVARCLPASFNTGAIKNKY(配列番号96)、
(18)EQQWNFAGIEAAA(配列番号97)およびAAAWGGSGSEAYQGVQQKWDATA(配列番号98)からなる群から選択されるマイコバクテリウム・ツベルキュローシスESAT−6タンパク質に由来する配列、
(19)HCVに由来するGGPTRTIGGSQAQTASGLVSMFSVGPSQK(配列番号99)、
(20)マイコバクテリウム・スクロフラセウムα抗原に由来するKFQDAYNAAGGH(配列番号100)、
(21)A群ストレプトコッカスのMタンパク質(すなわち、本明細書で「J14」と命名されたペプチド)に由来するKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号101)、および
(22)ガストリンに由来するGWMDF(配列番号102)(すなわち、ガストリンC末端の5個のアミノ酸残基からなるペンタガストリン)。
【0108】
これまでの記載から、対象リポペプチドのポリペプチド部分が好都合には単一アミノ酸鎖として合成され、それによって、合成後に両方のエピトープを組み込む改変が不要であることが明白である。
【0109】
インフルエンザウイルス赤血球凝集素のTヘルパーエピトープ(例えば、配列番号1)またはCDV−FのTヘルパーエピトープ(例えば、配列番号20、24、26または44)のどちらかに結合したLHRHの高免疫原性B細胞エピトープ(例えば、配列番号2または3または4)を含むポリペプチド部分、例えば、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが特に好ましい:
(1)GALNNRFQIKGVELKSEHWSYGLRPG(配列番号5);
(2)EHWSYGLRPGGALNNRFQIKGVELKS(配列番号6);
(3)GALNNRFQIKGVELKSKEHWSYGLRPG(配列番号7);
(4)EHWSYGLRPGKGALNNRFQIKGVELKS(配列番号8);
(5)KLIPNASLIENCTKAELKHWSYGLRPG(配列番号9);
(6)AELGEYEKLLNSVLEPIKEHWSYGLRPG(配列番号10);
(7)TAAQITAGIALHQSNLNKEHWSYGLRPG(配列番号11);
(8)PRYIATNGYLISNFDESKEHWSYGLRPG(配列番号12);
(9)KLIPNASLIENCTKAELKGLRPG(配列番号13);
(10)AELGEYEKLLNSVLEPIKGLRPG(配列番号14);
(11)TAAQITAGIALHQSNLNKGLRPG(配列番号15);
(12)PRYIATNGYLISNFDESKGLRPG(配列番号16);
(13)KLIPNASLIENCTKAELHWSYGLRPG(配列番号103);および
(14)KLIPNASLIENCTKAELGLRPG(配列番号104)。
【0110】
特に好ましい実施形態においては、LHRHエピトープ(すなわち、配列番号2で示されるLHRH1〜10、配列番号3で示されるLHRH2〜10、または配列番号4で示されるLHRH6〜10)は、C末端グリシン残基が露出し、または内部にならないように位置する。したがって、配列番号5、7または9〜16のいずれか1個で示される配置が特に好ましい。
【0111】
例として示す一実施形態においては、LHRH1〜10は、インフルエンザウイルス赤血球凝集素のTヘルパーエピトープ(すなわち、配列番号1)にコンジュゲートされて配列番号5または7で示される配列によって記載され、LHRH2〜10またはLHRH6〜10は、CDV−FのTヘルパーエピトープ(すなわち、配列番号24)にコンジュゲートされて配列番号9、13、103または104で示される配列で記載される。他の組合せが可能であることも明白であり、本発明に包含される。
【0112】
別の実施形態においては、CDV−F(例えば、配列番号24)またはインフルエンザウイルス赤血球凝集素(例えば、配列番号1)のTヘルパーエピトープに連結された、A群ストレプトコッカスのMタンパク質の高免疫原性B細胞エピトープ(例えば、配列番号101で示されるJ14ペプチド)を含むポリペプチド部分、例えば、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが特に好ましい:
(1)KLIPNASLIENCTKAELKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号105);
(2)KLIPNASLIENCTKAELKKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号106);
(3)GALNNRFQIKGVELKSKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号107);および
(4)GALNNRFQIKGVELKSKKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号108)。
【0113】
さらに別の実施形態においては、CDV−F(例えば、配列番号24)またはインフルエンザウイルス赤血球凝集素(例えば、配列番号1)のTヘルパーエピトープに連結された、ペンタガストリンの高免疫原性B細胞エピトープ(例えば、配列番号102)を含むポリペプチド部分、例えば、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが特に好ましい:
(1)KLIPNASLIENCTKAELGWMDF(配列番号109);
(2)KLIPNASLIENCTKAELKGWMDF(配列番号110);
(3)GALNNRFQIKGVELKSGWMDF(配列番号111);および
(4)GALNNRFQIKGVELKSKGWMDF(配列番号112)。
【0114】
当業者は、配列番号5〜16のいずれか1個または配列番号103〜112のいずれか1個のTヘルパーエピトープおよび/またはB細胞エピトープを、例えば、配列番号18〜56のいずれか1個で示されるTヘルパーエピトープ、配列番号57〜102のいずれか1個で示されるB細胞エピトープなど別のTヘルパーエピトープまたはB細胞エピトープで置換することによって、本明細書に例示するポリペプチド部分に加えて、対象リポペプチドに使用する別のポリペプチド部分を容易に合成することができる。さらに、免疫応答が求められる標的種および抗原に応じて、適切なTヘルパーエピトープとB細胞の組合せを選択することは、本明細書の開示から当業者には容易なはずである。
【0115】
配列番号5〜16および配列番号103〜112で示される例示的なポリペプチドを含めて、本明細書に記載するポリペプチド部分のアミノ酸配列は、特定の目的のために、当業者に周知の方法によって、それらの免疫機能に悪影響を及ぼさずに改変することができる。例えば、免疫応答を高めるか、またはペプチドを他の作用物質、特に脂質に結合させるために、特定のペプチド残基を誘導体化するか、または化学的に修飾することができる。ペプチドの全体構造または抗原性に支障を与えずにペプチド中の特定のアミノ酸を変えることも可能である。したがって、そのような変化は「保存的」変化と称され、残基の親水性または極性に依拠する傾向にある。側鎖の大きさおよび/または変化も、どの置換が保存的であるかを決定する関連要因である。
【0116】
生物学的機能が等価なタンパク質またはペプチドの定義に固有なのは、分子の規定された部分内でなされ、かつ許容される等価レベルの生物活性を有する分子を依然としてもたらし得る変化の数には限りがあるという概念であることを当業者は十分理解しうる。したがって、生物学的機能が等価なペプチドは、特定のアミノ酸を置換することができるペプチドと本明細書では定義される。特定の実施形態は、ペプチドのアミノ酸配列における1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上の変更を含む変異体を包含する。異なる置換を含む複数の異なるタンパク質/ペプチドを本発明に従って容易に調製し、使用できることは言うまでもない。
【0117】
当業者は、以下の置換、すなわち、(1)アルギニン、リジンおよびヒスチジンを含む置換、(2)アラニン、グリシンおよびセリンを含む置換、ならびに(3)フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンを含む置換が許容できる保存的置換であることを十分承知している。このような保存的置換を組み込んだペプチドは生物学的機能が等価であると本明細書では定義する。
【0118】
相互作用性の生物学的機能をタンパク質に付与する上で疎水性親水性アミノ酸指標が重要であることは当分野では一般に理解されている(Kyte & Doolittle、J.Mol.Biol.157、105〜132、1982)。ある種のアミノ酸は、類似の疎水性親水性指標またはスコアを有する他のアミノ酸を置換することができ、かつ類似の生物活性を維持できることが知られている。アミノ酸の疎水性親水性指標も、機能的に等価な分子を生成する保存的置換を決定する際に考慮することができる。各アミノ酸は、その疎水性および電荷特性に基づいて、以下の疎水性親水性指標が割り当てられている。イソロイシン(+4.5)、バリン(+4.2)、ロイシン(+3.8)、フェニルアラニン(+2.8)、システイン/シスチン(+2.5)、メチオニン(+1.9)、アラニン(+1.8)、グリシン(−0.4)、トレオニン(−0.7)、セリン(−0.8)、トリプトファン(−0.9)、チロシン(−1.3)、プロリン(−1.6)、ヒスチジン(−3.2)、グルタミン酸(−3.5)、グルタミン(−3.5)、アスパラギン酸(−3.5)、アスパラギン(−3.5)、リジン(−3.9)およびアルギニン(−4.5)。疎水性親水性指標に基づいて変化させる際には、疎水性親水性指標の指数が+/−0.2以内のアミノ酸置換が好ましい。より好ましくは、置換は、疎水性親水性指標の指数が+/−0.1以内、より好ましくは約+/−0.05以内のアミノ酸を含む。
【0119】
類似したアミノ酸の置換は、この場合(例えば、米国特許第4,554,101号)のように、特にそれによって生成される生物学的機能が等価なタンパク質またはペプチドを免疫学的な実施形態に用いようとする場合には、親水性に基づいて有効に行われることも当分野では十分理解されている。米国特許第4,554,101号に詳細に述べられているように、以下の親水性値(hydrophilicity value)が各アミノ酸残基に割り当てられている。アルギニン(+3.0)、リジン(+3.0)、アスパラギン酸(+3.0+/−0.1)、グルタミン酸(+3.0+/−0.1)、セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、グリシン(0)、トレオニン(−0.4)、プロリン(−0.5+/−0.1)、アラニン(−0.5)、ヒスチジン(−0.5)、システイン(−1.0)、メチオニン(−1.3)、バリン(−1.5)、ロイシン(−1.8)、イソロイシン(−1.8)、チロシン(−2.3)、フェニルアラニン(−2.5)、トリプトファン(−3.4)。親水性値が類似していることに基づいて変化させる際には、親水性値が互いに好ましくは約+/−0.2以内、より好ましくは約+/−0.1以内、さらにより好ましくは約+/−0.05以内であるアミノ酸を置換する。
【0120】
免疫原として使用するのに適切なペプチドが特定された場合には、ペプチド構造の重要な部分を模倣するように他の立体的に類似した化合物を調製できることも企図される。ペプチドミメティックと称することができるこのような化合物は、本発明のペプチドと同様に使用することができ、したがって機能的に等価なものである。構造上機能的に等価なペプチドは、当業者に公知のモデリング技術および化学設計技術によって製造することができる。このような立体的に類似した構築体はすべて本発明の範囲内にあることを理解されたい。
【0121】
改変ペプチドの「同等性」を決定する別の方法は機能的手法である。例えば、所与のペプチドを使用してモノクローナルまたはポリクローナル抗体を産生する。次いで、これらの抗体を使用して、数千または数十万の他のペプチドを含む縮重ペプチドのライブラリをスクリーニングし、それによって、少なくともある程度免疫学的に等価な構造を特定する。言うまでもなく、これらの構造は、抗体の産生に使用されるペプチドとある一次配列相同性を有することもできるが、まったく異なっていてもよい。
【0122】
ポリペプチド部分は、メリフィールド(Merrifield)合成方法(Merrifield、J Am Chem Soc、85、2149〜2154、1963)、無数の利用可能な同技術の改良法(例えば、Synthetic Peptides:A User's Guide、Grant、ed.(1992)W.H.Freeman & Co.、New York、pp.382;Jones(1994)The Chemical Synthesis of Peptides、Clarendon Press、Oxford、pp.230);Barany,G.and Merrifield,R.B.(1979)in The Peptides(Gross,E.and Meienhofer,J.eds.)、vol.2、pp.1〜284、Academic Press、New York;Wunsch,E.、ed.(1974)Synthese von Peptiden in Houben-Weyls Methoden der Organischen Chemie(Muler,E.、ed.)、vol.15、4th edn.、Parts 1 and 2、Thieme、Stuttgart;Bodanszky,M.(1984)Principles of Peptide Synthesis、Springer-Verlag、Heidelberg;Bodanszky,M.& Bodanszky,A.(1984)The Practice of Peptide Synthesis、Springer-Verlag、Heidelberg;Bodanszky,M.(1985)Int J.Peptide Protein Res.25、449〜474などの標準技術を用いて容易に合成される。
【0123】
脂質部分は、任意のC2〜C30飽和、一不飽和または多価不飽和の線状または分枝脂肪アシル基、好ましくはパルミトイル、ミリストイル、ステアロイル、ラウロイル、オクタノイルおよびデカノイルからなる群から選択される脂肪酸基を含むことができる。
【0124】
リポアミノ酸は、本明細書において特に好ましい脂質部分である。本明細書で使用する、「リポアミノ酸」という用語は、アミノ酸残基、例えば、システインもしくはセリンまたはリジンもしくはその類似体に共有結合した1個または2個または3個以上の脂質を含む分子を指す。特に好ましい実施形態においては、リポアミノ酸はシステインを含み、1個または2個以上のアルギニンまたはセリン残基を場合によっては含んでいてもよく、あるいは、6−アミノヘキサン酸を含む。
【0125】
脂質部分は、好ましくは、一般式(VII)の構造の化合物である:
【化5】
【0126】
〔式中、
(i)Xは、硫黄、酸素、ジスルフィド(−S−S−)、メチレン(−CH2−)およびアミノ(−NH−)からなる群から選択され、
(ii)mは、1または2の整数であり、
(iii)nは、0〜5の整数であり、
(iv)R1は、水素、カルボニル(−CO−)およびR’−CO−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
(v)R2は、R’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
(vi)R3は、R’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
R1、R2およびR3の各々は同じでも異なっていてもよい〕。
【0127】
置換基によっては、一般構造VIIの脂質部分は、完全体R1およびR2に直接的または間接的に共有結合した炭素原子が非対称の右旋性または左旋性(すなわち、RまたはS)立体配置である鏡像異性分子でもよい。
【0128】
好ましくは、Xは硫黄であり、mおよびnはともに1であり、R1は水素およびR’−CO−(式中、R’は7〜25個の炭素原子を有するアルキル基である)からなる群から選択され、R2およびR3はR’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は7〜25個の炭素原子を有するアルキル基である)からなる群から選択される。
【0129】
好ましくは、R’は、パルミトイル、ミリストイル、ステアロイル、ラウロイル、オクタノイルおよびデカノイルからなる群から選択される。より好ましくは、R’は、パルミトイル、ステアロイル、ラウロイル、オクタノイルおよびデカノイルからなる群から選択される。
【0130】
前記脂質部分の各完全体R’は同じでも異なっていてもよい。
【0131】
特に好ましい実施形態においては、Xは硫黄であり、mおよびnはともに1であり、R1は水素またはR’−CO−(式中、R’は、パルミトイル、ステアロイル、ラウロイルおよびオクタノイルからなる群から選択される)であり、R2およびR3はそれぞれR’−CO−O−(式中、R’は、パルミトイル、ステアロイル、ラウロイルおよびオクタノイルからなる群から選択される)である。R’がパルミトイルである特に好ましい化合物は、上記式(I)および式(II)で示される。
【0132】
脂質部分は、以下の一般式(VIII)を有することができる:
【化6】
【0133】
〔式中
(i)R4は、(i)約7〜約25個の炭素原子からなるα−アシル脂肪酸残基、(ii)α−アルキル−β−ヒドロキシ脂肪酸残基、(iii)α−アルキル−β−ヒドロキシ脂肪酸残基のβ−ヒドロキシエステル(エステル基は、好ましくは、8個を超える炭素原子を含む直鎖または分枝鎖である)および(iv)リポアミノ酸残基、からなる群から選択され、
(ii)R5は、水素、またはアミノ酸残基の側鎖である〕。
【0134】
好ましくは、R4は、約10〜約20個の炭素原子からなり、より好ましくは約14〜約18個の炭素原子からなる。
【0135】
R4がリポアミノ酸残基である場合には、完全体(integer)R4およびR5の側鎖は共有結合を形成することもできる。例えば、R4が、リジン、オルニチン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン誘導体、オルニチン誘導体、グルタミン酸誘導体およびアスパラギン酸誘導体からなる群から選択される場合には、アミノ酸または誘導体の側鎖は、アミド結合またはエステル結合によってR5に共有結合する。
【0136】
好ましくは、一般式VIIIで示される構造は、N,N’−ジアシルリジン;N,N’−ジアシルオルニチン;グルタミン酸のジ(モノアルキル)アミドまたはエステル;アスパラギン酸のジ(モノアルキル)アミドまたはエステル;セリン、ホモセリンまたはトレオニンのN,O−ジアシル誘導体;およびシステインまたはホモシステインのN,S−ジアシル誘導体からなる群から選択される脂質部分である。
【0137】
両親媒性分子、特にPam3Cys(式(I))の疎水性を超えない疎水性を有する両親媒性分子も好ましい。
【0138】
式(I)、式(II)、式(VI)または式(VIII)の各脂質部分は、1個または複数のスペーサー分子、好ましくは炭素を含むスペーサー、より好ましくは1個または複数のアミノ酸残基の付加によって、合成中または合成後にさらに改変される。これらを、従来の縮合、付加、置換または酸化反応において末端カルボキシ基を介して脂質構造に付加することが有利である。このようなスペーサー分子の効果は、脂質部分をポリペプチド部分から分離して、さもなければリポペプチド産物の免疫原性を低下させ得る立体障害効果を弱めることである。
【0139】
アルギニンまたはセリン二量体、三量体、四量体など、あるいは、6−アミノヘキサン酸は、この目的に特に好ましい。
【0140】
このようなスペーサーは、改変リポアミノ酸が後でポリペプチドに容易にコンジュゲートされるように末端保護アミノ酸残基を含むことが好ましい。
【0141】
この実施形態によって製造される代表的な改変リポアミノ酸は、式(III)および(IV)で表され、それぞれ式(I)および(II)にセリンホモ二量体を付加することによって容易に得られる。本明細書に例示するとおり、式(I)のPam3Cysまたは式(II)のPam2Cysは、この目的で、式(III)のリポアミノ酸Pam3Cys−Ser−Serまたは式(IV)のPam2Cys−Ser−Serとして合成することが有利である。
【化7】
【化8】
【0142】
スペーサーを脂質部分に付加する代わりに、ポリペプチド部分の内部リジン残基のεアミノ基またはリジン類似体の末端側鎖基に、短いペプチド、例えば、アルギニンまたはセリンホモ二量体、ホモ三量体、ホモ四量体などとして、あるいは、アミノ酸残基の連続的付加によってスペーサーを付加し、それによって分枝ポリペプチド鎖を生成することができる。この手法は、スペーサー付加における特異性を得るために、内部リジン残基上のεアミノ基またはリジン類似体の末端側鎖基の改変された性質を適宜利用する。当然、連続的なスペーサー付加を防止するために、スペーサーの末端アミノ酸残基は、脱保護によって分枝ポリペプチドへの脂質部分のコンジュゲートが容易になるように、好ましくは保護すべきである。
【0143】
あるいは、従来の求核置換反応によって、ポリペプチドの非改変εアミノ基にスペーサーを付加することができる。しかし、ポリペプチドが、単一の内部リジンまたはリジン類似体残基、およびブロッキングされたN末端を含むアミノ酸配列を含む場合には、この手法に従うことが好ましい。
【0144】
脂質部分は、従来の合成手段、例えば、米国特許第5,700,910号および同第6,024,964号に記載の方法、あるいは、Wiesmuller et al.、Hoppe Seylers Zur Physiol.Chem.364、593(1983)、Zeng et al.、J.Pept.Sci 2、66(1996)、Jones et al.、Xenobiotica 5、155(1975)、またはMetzger et al.、Int.J.Pept.Protein Res.38、545(1991)に記載の方法によって調製される。当業者は、このような方法を容易に改変して、ポリペプチドへのコンジュゲートに使用される所望の脂質を合成することができる。
【0145】
本発明のリポペプチドに使用される様々な脂質の組合せも企図される。例えば、1個または2個のミリストイル含有脂質またはリポアミノ酸を、内部リジンまたはリジン類似体残基を介してポリペプチド部分に結合させ、場合によっては、スペーサーによってポリペプチドから分離させてもよい。他の組合せも除外されない。
【0146】
本発明のリポペプチドは、診断目的で容易に修飾される。例えば、本発明のリポペプチドは、天然または合成ハプテン、抗生物質、ホルモン、ステロイド、ヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸、酵素、酵素基質、酵素阻害剤、ビオチン、アビジン、ポリエチレングリコール、ペプチドのポリペプチド部分(例えば、タフトシン、ポリリジン)、蛍光マーカー(例えば、FITC、RITC、ダンシル、ルミノールまたはクマリン)、生物発光マーカー、スピン標識、アルカロイド、生体アミン、ビタミン、毒素(例えば、ジゴキシン、ファロイジン、アマニチン、テトロドトキシン)または錯形成剤を付加することによって修飾される。
【0147】
本明細書に例示するとおり、(i)インフルエンザウイルス赤血球凝集素の軽鎖に由来するCD4+ Tヘルパーエピトープのアミノ酸配列(Jackson et al.Virol.198、613〜623、1994;すなわち、アミノ酸配列GALNNRFQIKGVELKS;配列番号1)、またはCDV−Fタンパク質に由来するペプチド(配列番号24)と、(ii)黄体形成ホルモン−放出ホルモン(LHRH;Fraser et al.、J.Endocrinol.63、399(1974);Fraser and Baker、J.Endocrinol.77、85(1978);すなわち「LHRH1〜10」、アミノ酸配列EHWSYGLRPG;配列番号2;「LHRH2〜10」、アミノ酸配列HWSYGLRPG;配列番号3、または「LHRH6〜10」、アミノ酸配列GLRPG;配列番号4)、A群ストレプトコッカス(GAS)Mタンパク質(すなわち、配列番号101)およびペンタガストリン(すなわち、配列番号102)のアミノ酸配列からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むB細胞エピトープ含有ペプチドと、(iii)前記CD4+ Tヘルパーエピトープと前記B細胞エピトープの間に位置するリジン残基と、場合によっては、(iv)前記CD4+ Tヘルパーエピトープ内に位置するリジン残基、とを含むポリペプチドの内部リジン残基のεアミノ基を介してコンジュゲートされた式(I)のPam3Cys、または式(II)のPam2Cys、またはSte2CysまたはLau2CysまたはOct2Cysを含む高免疫原性可溶性リポペプチドが提供される。
【0148】
リポペプチドの調製
本発明の第2の態様は、
(i)以下の(a)および(b):
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列およびB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基とを含むアミノ酸配列、
を含むポリペプチドを製造するステップ、ならびに
(iii)前記1個または複数の脂質部分の各々を直接的または間接的に、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に共有結合させて、前記内部リジン残基のεアミノ基に結合した脂質部分を含む、または前記内部リジン類似体残基の末端側鎖基に結合した脂質部分を含むリポペプチドを製造するステップ、
を含む、リポペプチドを製造する方法を提供する。
【0149】
この方法はさらに脂質部分の製造も含むことが好ましい。
【0150】
本明細書で参照する従来の化学合成は、ポリペプチド部分および脂質部分を製造する好ましい手段である。
【0151】
ブロッキング基(例えば、Mtt)を末端側鎖基、特に末端側鎖アミノ基から選択的に除去して内部リジン残基または内部リジン類似体を改変して、リポアミノ酸を含めて、アミノ酸残基、スペーサーまたは脂質部分がその位置に付加できるようにすることが好ましい。
【0152】
脂質をポリペプチドに結合させる場合には、ポリペプチドの官能基を、これらの基において望ましくない反応が有効な反応速度で確実に起こらないように、ペプチド合成分野で既知の方法で保護することが有利である。
【0153】
既知のカップリング法によって、ポリペプチドをポリマー(例えば、メリフィールド樹脂)などの固体担体または可溶性担体上で合成し、スペーサー、アミノ酸または脂質にコンジュゲート可能にする。例えば、内部リジンのεアミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基をいくつかの保護基の1個で保護する。(保護基またはマスキング基とも呼ばれる)ブロッキング基を使用して、カップリング反応に関与する活性カルボキシル基を有するアミノ酸のアミノ基を保護し、またはカップリング反応に関与するアシル化アミノ基を有するアミノ酸のカルボキシル基を保護する。カップリングを起こす場合には、ペプチド結合、またはペプチドの別の部分に結合した任意の保護基を切断せずにブロッキング基を除去しなければならない。
【0154】
固相ペプチド合成の場合には、伸長するペプチド鎖のアミノブロッキング基の除去に必要な反復処理に安定であり、かつアミノ酸カップリングの繰り返しに必要な反復処理に安定なブロッキング基を使用してアミノ酸側鎖を保護する。また、ペプチドC末端を保護するペプチド樹脂の足場(anchorage)は、樹脂からの切断が必要になるまで合成プロセスを通して保護されなければならない。したがって、直交性に保護されたα−アミノ酸を慎重に選択することによって、脂質および/またはアミノ酸が、樹脂に付着したまま伸長するペプチドの所望の位置に付加される。
【0155】
好ましいアミノブロッキング基は、容易に除去可能であるが、カップリング反応および他の操作、例えば、側鎖基の修飾などに対する残存条件(survive conditions)に十分安定である。好ましいアミノブロッキング基は、(i)室温常圧の接触水素化によって、またはナトリウムの液体アンモニア溶液および臭化水素酸の酢酸溶液を用いて容易に除去されるベンジルオキシカルボニル基(Zまたはカルボベンゾキシ)、(ii)t−ブトキシカルボニルアジドまたはジ−tert−ブチルジカルボネートを用いて導入され、弱酸、例えば、トリフルオロ酢酸(50%TFAのジクロロメタン溶液)、HClの酢酸/ジオキサン/酢酸エチル溶液などを用いて除去されるt−ブトキシカルボニル基(Boc)、(iii)弱塩基、非加水分解条件下、例えば、第一級または第二級アミン(例えば、20%ピペリジンのジメチルホルムアミド溶液)を用いて切断される9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)、(iv)2−(4−ビフェニリル)プロピル(2)オキシカルボニル基(Bpoc)、(v)2−ニトロ−フェニルスルフェニル基(Nps)、および(vi)ジチア−スクシオニル基(Dts)からなる群から選択される。
【0156】
側鎖保護基は、合成するペプチドを形成するアミノ酸の官能基側鎖に応じて変わる。側鎖保護基は、一般に、Bzl基またはtBu基に基づいている。側鎖にアルコールまたはカルボン酸を有するアミノ酸は、Bzlエーテル、Bzlエステル、cHexエステル、tBuエーテルまたはtBuエステルとして保護される。Fmocアミノ酸の側鎖を保護するには、理想的には塩基に安定であり弱酸(TFA)に不安定なブロッキング基が必要である。例えば、リジンのε−アミノ基は、Mttによって保護される(例えば、Fmoc−リジン(Mtt)−OH)。あるいは、酸に対する高い安定性が必要な場合には、CIZなどのハロゲン化ベンジル誘導体を使用してリジン側鎖を保護する。シスチンのチオール基、ヒスチジンのイミダゾール、またはアルギニンのグアニジノ基は、一般に特別な保護を必要とする。多種多様なペプチド合成用保護基が記載されている(The Peptides、Gross et al.eds.、Vol.3、Academic Press、New York、1981)。
【0157】
最も広く用いられている2つの保護方法は、Boc/Bzl法およびFmoc/tBu法である。Boc/Bzlでは、Bocをアミノ保護に使用し、様々なアミノ酸の側鎖をBzlまたはcHexを基にした保護基を用いて保護する。Boc基は、触媒水素化条件下で安定であり、多数の側鎖基を保護するためにZ基とともに直交性に使用される。Fmoc/tBuでは、Fmocをアミノ保護に使用し、tBuを基にした保護基を用いて側鎖を保護する。
【0158】
ペプチドは、当分野で周知の方法によって脂質付加される。標準の縮合、付加、置換または酸化(例えば、内部リジンまたは内部リジン類似体上の末端アミノ基と、導入されるアミノ酸またはペプチドまたはリポアミノ酸カルボキシ末端基とのジスルフィド架橋形成またはアミド結合形成)反応によって、脂質がポリペプチドに付加される。
【0159】
別の実施形態においては、免疫原として使用される本発明のペプチドを化学選択的連結または化学結合によって製造する。このような方法は、当分野では周知であり、個々のペプチド成分を化学手段または組換え手段によって製造し、その後、適切な配置またはコンホメーションまたは順序で化学選択的に連結する(例えば、参照により本明細書に援用するNardin et al.、Vaccine 16、590(1998);Nardin et al.、J.Immunol.166、481(2001);Rose et al.、Mol.Immunol.32、1031(1995);Rose et al、Bioconjug.Chem 7、552(1996);およびZeng et al.、Vaccine 18、1031(2000))。
【0160】
リポペプチド製剤
リポペプチドは、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤、例えば、水性溶媒、非水性溶媒、塩、防腐剤、緩衝剤などの無毒賦形剤中に有利に処方される。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、およびエチルオレイン酸エステルなどの注射用有機エステルである。水性溶媒としては、水、アルコール性溶液、水溶液、食塩水溶液、塩化ナトリウムなどの非経口ビヒクル、リンゲルのデキストロースなどがある。防腐剤としては、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなどがある。医薬組成物中の様々な成分pHおよび正確な濃度は、当分野の常法に従って調節される。
【0161】
リポペプチド製剤への外来的なアジュバントの添加は一般に不要であるが、やはり本発明に包含される。このような外来的なアジュバントとしては、すべての許容される免疫賦活性化合物、例えば、サイトカイン、毒素、合成組成物などがある。例示的なアジュバントとしては、IL−1、IL−2、BCG、水酸化アルミニウム、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thur−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(CGP 11637、nor−MDPと称する)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(CGP)1983A、MTP−PEと称する)、脂質A、MPL、細菌から抽出される3成分を含むRIBI、モノホスホリル脂質A、トレハロースジミコレート、細胞壁骨格(MPL+TDM+CWS)の2%スクアレン/Tween80エマルジョンなどがある。
【0162】
生物反応修飾物質(BRM)とリポペプチドを同時投与して、サプレッサーT細胞活性をダウンレギュレートすることが望ましい場合もある。例示的なBRMは、シメチジン(CIM;1200mg/d)(Smith/Kline、PA、USA)、インドメタシン(IND;150mg/d)(Lederle、NJ、USA)、低用量シクロホスファミド(CYP;75、150または300mg/m2)(Johnson/Mead、NJ、USA)などであるが、これらだけに限定されない。
【0163】
免疫におけるリポペプチドの使用
本発明の新規リポペプチドは、可溶性および免疫原性が高く、追加のアジュバントを投与しなくても免疫応答を誘発できる点で、抗原の公知のリポペプチド複合体とは本質的な面で異なる。したがって、本発明のリポペプチドの特別な有用性は、抗体製造、合成ワクチン製剤、抗体および抗体リガンドを使用する診断法、ならびに動物およびヒト医療用免疫療法の分野にある。
【0164】
より具体的には、本発明のリポペプチドは、動物被験体に投与すると、類似の抗体価を得るためにアジュバントを必要とせずに、B細胞エピトープ部分に対する高力価抗体を特異的に産生する。この有用性は、対象リポペプチドの投与後に樹状細胞の成熟が進むことによって裏付けられる(すなわち、N末端に脂質が結合したリポペプチドよりも抗原提示が増大される)。
【0165】
したがって、本発明の第3の態様は、抗原性B細胞エピトープに対する抗体の産生を誘導する方法であって、前記抗原性B細胞エピトープに対する抗体の産生を誘導するのに十分な時間および条件下で、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含む単離リポペプチドを前記被験体に投与するステップを含む方法を提供する。ここで、
(i)前記ポリペプチドは、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列およびB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合している。
【0166】
抗体産生に使用される有効量のリポペプチドは、免疫原性B細胞エピトープの性質、投与経路、免疫化に使用する動物、および求める抗体の性質に応じて変わる。このような変数はすべて、当分野で認められた手段によって経験的に決定される。
【0167】
本明細書で参照する抗体は、単独のまたは他の部分と複合されたポリクローナルおよびモノクローナル抗体全体およびその一部などである。抗体部分としては、FabおよびF(ab)2フラグメント、単鎖抗体などがある。抗体は、適切な実験動物においてインビボで製造することができ、あるいは、人工抗体(単鎖抗体、SCABSなど)の場合には、インビトロでの組換えDNA技術を用いて製造することができる。
【0168】
本発明のこの態様によれば、抗体を、被験体を免疫するために産生することができ、その場合には、B細胞エピトープに結合する高力価抗体または中和抗体が特に好ましい。免疫に適切な被験体が、免疫する抗原性B細胞エピトープに応じて決まることは言うまでもない。本発明は、多様な動物、例えば、家畜(例えばウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ヒヨコ、カモ、シチメンチョウなど)、実験動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ)、愛玩動物(ネコ、イヌ、トリなど)、野生化したまたは野生の外来動物(例えば、オポッサム、ネコ、ブタ、バッファロー、野生のイヌなど)およびヒトの免疫に広範に適用できることが企図される。
【0169】
あるいは、抗体は、市販または診断目的でもよく、その場合には、リポペプチドを投与する被験体は、実験動物または家畜である可能性が最も高い。抗血清の製造には広範な動物種が使用される。一般に、抗血清の製造に使用される動物は、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ウマまたはヒヨコである。ウサギは、血液量が比較的多いので、ポリクローナル抗体を製造するのには好ましい。しかし、当業者には知られているように、マウスなどの小動物とは対照的に、大きい動物から高い抗体を得るためにはより多量の免疫原が必要である。このような場合には、免疫動物から抗体を単離することが望ましい。
【0170】
抗体は高力価抗体であることが好ましい。「高力価」とは、診断または治療に使用するのに適切な十分に高い力価を意味する。当分野では知られているとおり、「高力価」の考え方にはばらつきがある。ほとんどの用途では、少なくとも約103〜104の力価が好ましい。より好ましくは、抗体価は、約104〜約105であり、さらにより好ましくは約105〜約106である。
【0171】
より好ましくは、病原体、ウイルスまたは細菌に由来するB細胞エピトープの場合には、抗体は中和抗体である(すなわち、B細胞エピトープが由来する生物の感染力を中和することができる)。
【0172】
抗体を産生するには、リポペプチド、場合によっては、任意の適切なまたは所望の担体、アジュバント、BRM、または薬学的に許容される賦形剤とともに製剤化されていてもよいリポペプチドを、注射用組成物の形で投与することが有利である。注射は、鼻腔内、筋肉内、皮下、静脈内、皮内、腹腔内、または他の既知の経路とすることができる。本発明のリポペプチドは、鼻腔内投与すると効力を示す。静脈内注射の場合には、1個または複数の液体および栄養補充物を含めることが望ましい。抗体を調製しそれを特性決定する手段は当分野で周知である。(例えば、参照により本明細書に援用するANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL、Cold Spring Harbor Laboratory、1988を参照されたい)。
【0173】
リポペプチドの抗体産生効力は、実施例に示すように、動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ウマ、ウシ、ヤギまたはブタを、リポペプチドを含む製剤で免疫し、次いでB細胞エピトープに対する免疫応答をモニターすることによって確認される。一次と二次免疫応答の両方をモニターする。抗体価は、従来のイムノアッセイ、例えば、ELISAまたは放射性免疫測定法などによって測定される。
【0174】
ポリクローナル抗体の産生は、免疫後様々な時点で免疫動物の血液を採取することによってモニターすることができる。必要に応じて、第2の追加免疫注射を与えて所望の抗体価を得ることができる。追加免疫と滴定のプロセスは、適切な力価が得られるまで繰り返される。所望のレベルの免疫原性が得られたときに、免疫動物から採血し、血清を単離し、保存し、かつ/または動物を使用してモノクローナル抗体(Mab)を生成する。
【0175】
モノクローナル抗体(Mab)の製造には、いくつかの周知の技術のいずれか1つ、例えば、参照により本明細書に援用する米国特許第4,196,265号に例示する手順を使用することができる。
【0176】
例えば、有効量の本発明のリポペプチドを用いて、抗体産生細胞を刺激するのに十分な条件下で、適切な動物を免疫する。マウス、ラットなどのげっ歯類は好ましい動物である。しかし、ウサギ、ヒツジまたはカエルの細胞を使用することも可能である。ラットの使用はある種の利点を提供することもあるが、マウスが好ましい。常法に従って最も使用され、一般に高い割合で安定な融合が得られる動物としてBALB/cマウスが最も好ましい。
【0177】
免疫後に、抗体、特にBリンパ球(B細胞)を産生することができる体細胞を選択して、MAb産生プロトコルに使用する。これらの細胞は、生検によって得られた脾臓、扁桃腺またはリンパ節、あるいは末梢血液試料から得ることができる。脾臓細胞および末梢血細胞が好ましい。というのは、脾臓細胞は、分裂している形質芽細胞段階にある抗体産生細胞の豊富な供給源であり、末梢血細胞は、末梢血液が容易に入手できるからである。一団の動物が免疫され、最も抗体価の高い動物の脾臓が取り出されることが多い。脾臓リンパ球は、脾臓をシリンジを用いてホモジナイズすることによって得られる。一般に、免疫マウスから得られる脾臓は約5×107〜2×108個のリンパ球を含む。
【0178】
次いで、免疫動物から得られるB細胞を、リポペプチド製剤で免疫された動物と同じ種に通常由来する骨髄腫不死化細胞の細胞と融合する。ハイブリドーマ作製融合手順に使用するのに適した骨髄腫細胞系は、好ましくは、抗体非産生性であり、高い融合効率と、所望の融合細胞、すなわちハイブリドーマのみの増殖を支援するある種の選択培地中でその後増殖できなくする酵素欠乏を有する。いくつかの骨髄腫細胞のいずれか1個を使用することができ、これらは当業者に公知である(例えば、ネズミP3−X63/Ag8、X63−Ag8.653、NS1/1.Ag 4 1、Sp210−Ag14、FO、NSO/U、MPC−11、MPC11−X45−GTG 1.7およびS194/5XX0;またはラットR210.RCY3、Y3−Ag 1.2.3、IR983Fおよび4B210;ならびにU−266、GM1500−GRG2、LICR−LON−HMy2およびUC729−6)。好ましいネズミ骨髄腫細胞は、NS−1骨髄腫細胞系(P3−NS−1−Ag4−1とも称される)であり、NIGMS Human Genetic Mutant Cell Repositoryから受託番号GM3573で容易に入手可能である。あるいは、8−アザグアニン耐性であるネズミ骨髄腫SP2/0非産生細胞系を使用する。
【0179】
抗体産生脾臓細胞またはリンパ節細胞と骨髄腫細胞のハイブリッドを生成するためには、細胞膜融合を促進する(化学的または電気的)薬剤の存在下で、それぞれの体細胞を約20:1〜約1:1の割合で骨髄腫細胞と混合する。センダイウイルスを用いた融合方法が、Kohler and Milstein、Nature 256、495〜497、1975およびKohler and Milstein、Eur.J.Immunol.6、511〜519、1976に記載されている。37%(v/v)PEGなどのポリエチレングリコール(PEG)を用いた方法が、Gefter et al.、Somatic Cell Genet 3、231〜236、1977に詳記されている。電気的に誘発される融合方法を使用することも適切である。
【0180】
ハイブリッドは、組織培養培地中でヌクレオチドの新規合成を遮断する薬剤を含む選択培地中で培養することによって増幅される。例示的な好ましい薬剤は、アミノプテリン、メトトレキセートおよびアザセリンである。アミノプテリンおよびメトトレキセートは、プリンとピリミジンの両方の新規合成を遮断するのに対し、アザセリンはプリン合成のみを遮断する。アミノプテリンまたはメトトレキセートを使用する場合には、ヌクレオチド源としてヒポキサンチンおよびチミジンを培地に添加する(HAT培地)。アザセリンを使用する場合には、ヒポキサンチンを培地に添加する。
【0181】
好ましい選択培地はHATである。というのは、ヌクレオチド再生経路を作動させることができるハイブリドーマのみがHAT培地では生存することができるが、骨髄腫細胞は、再生経路に重要な酵素(例えば、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ、すなわちHPRT)を欠いており、生存することができないからである。B細胞は、この再生経路を作動させることができるが、培養寿命が限られており、一般に約2週間以内に死滅する。したがって、この選択培地中で生存することができる唯一の細胞は、骨髄腫とB細胞から形成されたハイブリッドだけである。
【0182】
増幅されたハイブリドーマは、例えば、免疫測定法(例えば、放射性免疫測定法、酵素免疫測定法、細胞傷害アッセイ、プラークアッセイ、ドット免疫結合アッセイなど)などによって、抗体特異性および/または力価について機能的選択に供せられる。
【0183】
選択されたハイブリドーマを連続希釈し、個々の抗体産生細胞系にクローン化し、次いでそのクローンを無期限に増殖させてMAbを得ることができる。これらの細胞系を2つの基本的な方法でMAb製造に利用することができる。通常、体細胞と骨髄腫細胞を最初の融合に供するために使用したタイプの組織適合性動物にハイブリドーマ試料を腹腔内注射する。注射された動物は、融合細胞ハイブリッドによって産生される特異的モノクローナル抗体を分泌する腫瘍を生じる。次いで、血清、腹水などの動物の体液を採取して高濃度のMAbを得る。個々の細胞系はインビトロで培養することもでき、MAbは培地中に自然に分泌され、そこから高濃度で容易に得られる。どちらかの手段で製造されたMAbを、所望であれば、ろ過、遠心分離、およびHPLC、アフィニティークロマトグラフィーなどの様々なクロマトグラフィー法を用いてさらに精製することができる。
【0184】
本発明のモノクローナル抗体は、当分野で周知の方法によって製造される抗イディオタイプの抗体も含む。本発明に用いるモノクローナル抗体は、モノクローナル異種複合体(すなわち、2個以上の抗体分子のハイブリッド)とすることもできる。別の実施形態においては、本発明に用いるモノクローナル抗体はキメラモノクローナル抗体である。一手法においては、プロモーター、リーダー、マウス抗PSA産生細胞に由来する可変領域配列、およびヒト抗体遺伝子に由来する定常領域エキソンを含む組換えDNAをクローニングすることによってキメラモノクローナル抗体を操作する。このような組換え遺伝子によってコードされた抗体がマウス−ヒトキメラである。その抗体特異性は、マウス配列に由来する可変領域によって決まる。定常領域によって決まるそのアイソタイプはヒトDNAに由来する。
【0185】
別の実施形態においては、本発明に用いるモノクローナル抗体は、当分野で周知の技術によって製造される「ヒト化」モノクローナル抗体である。すなわち、マウス相補性決定領域(「CDR」)がマウスIgの重V鎖および軽V鎖からヒトVドメインに移され、その後それらのネズミ対応部分のフレームワーク領域中の一部のヒト残基が置換される。本発明による「ヒト化」モノクローナル抗体は、インビボでの診断方法および治療方法に使用するのに特に適切である。
【0186】
上述したとおり、本発明に用いるモノクローナル抗体およびそのフラグメントは、当分野で周知のインビトロおよびインビボでの方法によって増幅される。インビトロでの増幅は、ウシ胎児血清などの哺乳動物血清、または微量元素および増殖維持補助剤、例えば、正常マウス腹膜しん出細胞、脾臓細胞、骨髄マクロファージなどのフィーダー細胞を添加してもよいダルベッコ改変イーグル培地、RPMI 1640培地などの適切な培地中で実施される。インビトロ製造によって比較的純粋な抗体調製物が提供され、スケールアップして多量の所望の抗体を得ることができる。組織培養条件下での大規模ハイブリドーマ培養技術は当分野で公知であり、均一な懸濁培養(例えば、エアリフト反応器中、または連続攪拌反応器中、あるいは固定化細胞培養または捕捉細胞培養)を含む。
【0187】
多量の本発明のモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ細胞をインビボで増幅することによっても得ることができる。細胞クローンを、親細胞と組織適合性がある哺乳動物(例えば、同系マウスに注射して抗体産生腫瘍を増殖させる。場合によっては、注射する前に炭化水素、特にプリスタン(テトラメチルペンタデカン)などの油で動物を初回抗原刺激してもよい。
【0188】
本発明によれば、本発明のモノクローナル抗体フラグメントは、上述したように製造されたモノクローナル抗体から、ペプシン、パパインなどの酵素による消化、および/または化学還元によるジスルフィド結合の切断を含む方法によって得られる。
【0189】
本発明のモノクローナル複合体は、当分野で公知の方法、例えば、グルタルアルデヒド、過ヨウ素酸塩などのカップリング剤の存在下で酵素を用いて、例えば、上述したように調製されたモノクローナル抗体を反応させることによって調製される。フルオレセインマーカーとの複合体は、これらのカップリング剤の存在下で、またはイソチオシアネートとの反応によって調製される。金属キレートとの複合体も同様に製造される。抗体が結合し得る他の部分としては、放射性核種、例えば、3H、125I、32P、35S、14C、51Cr、36Cl、57Co、58Co、59Fe、75Se、152Euなどがある。本発明の放射能標識モノクローナル抗体は、当分野で周知の方法によって製造される。例えば、モノクローナル抗体は、ヨウ化ナトリウムまたはヨウ化カリウム、および次亜塩素酸ナトリウムなどの化学酸化剤またはラクトペルオキシダーゼなどの酵素酸化剤と接触させることによってヨウ素化される。本発明によるモノクローナル抗体は、配位子交換方法、例えば、パーテクネート(pertechnate)をスズ溶液で還元し、還元されたテクネチウムをセファデックスカラム上にキレート化し、このカラムに抗体を適用することによって、または直接標識技術によって(例えば、パーテクネート、SNCl2などの還元剤、ナトリウム−カリウムフタレート溶液などの緩衝液、および抗体をインキュベートすることによって)テクネチウム99で標識することができる。
【0190】
任意の免疫測定法を使用してリポペプチド製剤による抗体産生をモニターすることができる。最も簡単で直接的な免疫測定法は結合アッセイである。ある種の好ましい免疫測定法は、当分野で既知の様々なタイプの酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および放射性免疫アッセイ(RIA)である。組織切片を用いた免疫組織化学的検出も特に有用である。しかし、検出はこのような技術だけに限定されず、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、FACS分析なども使用できることは容易に理解される。
【0191】
アッセイによって定量的な結果が得られることが最も好ましい。例えば、抗体は、簡単な競合アッセイにおいて試験される。B細胞エピトープに結合する既知の抗体試料と試験抗体を、B細胞エピトープを含む抗原組成物、好ましくは自然抗原とともにインキュベートする。本明細書で使用する「抗原組成物」とは、利用可能な形の様々なB細胞エピトープを含むあらゆる組成物を意味する。ELISAプレートの抗原被覆ウェルが特に好ましい。一実施形態においては、抗原組成物を使用する前に、既知の抗体を様々な量(例えば、1:1、1:10および1:100)の試験抗体とある時間混合する。既知の抗体の1個が標識されている場合には、抗原に結合した標識を直接検出することが可能である。アッセイによって、純粋な試料と比較して、試験抗体による競合、したがって、交差反応性が求められる。あるいは、既知抗体または試験抗体のどちらかに特異的である二次抗体を用いて、競合を判定することができる。
【0192】
抗原組成物に結合する抗体は、既知の抗体の結合に対して有効に競合することができ、したがって、既知の抗体の結合をかなり減少させるはずである。試験抗体の不在下での既知の抗体の反応性が対照になる。試験抗体の存在下で反応性がかなり減少すれば、試験抗体がB細胞エピトープに結合したことを示している(すなわち、試験抗体が既知の抗体と交差反応する)。
【0193】
例示的なELISAにおいては、B細胞エピトープに対する抗体は、ポリスチレンマイクロタイタープレート中のウェルなどタンパク質親和性を示す選択表面上に固定される。次いで、B細胞エピトープを含む組成物をウェルに添加する。結合させ、洗浄して非特異的に結合した免疫複合体を除去した後に、結合エピトープを検出することができる。検出は、一般に、B細胞エピトープに結合することが知られており検出可能な標識に連結された二次抗体を添加することによって実施される。このタイプのELISAは、簡単な「サンドイッチELISA」である。検出は、前記二次抗体を添加し、その後二次抗体に対して結合親和性を有し検出可能な標識に連結された三次抗体を添加しても実施することができる。
【0194】
不妊の誘発
生殖ホルモンまたはホルモン受容体の抗原性B細胞エピトープを含む適切に構成された本発明のリポペプチドは、被験体において不妊を誘導する能力がある。
【0195】
したがって、本発明の別の態様は、被験体において不妊を誘導する方法であって、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含む単離リポペプチドを前記被験体に投与するステップを含む方法を提供する。ここで、
(i)前記ポリペプチドは、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、および生殖ホルモンまたはホルモン受容体のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合しており、
(iii)前記リポペプチドを、前記抗原性B細胞エピトープに対する液性免疫応答を誘発するのに十分な時間と条件下で投与する。
【0196】
リポペプチドは、本明細書に記載する有利なリポペプチド製剤の形で投与することができる。
【0197】
「液性免疫応答」とは、卵形成、精子形成、受精、着床または胚発生を阻止するのに十分なB細胞エピトープに対する二次免疫応答が発生することを意味する。
【0198】
発生する液性免疫は、被験体中のB細胞エピトープに対する持続的なレベルの抗体を含むことが好ましい。「持続的なレベルの抗体」とは、卵形成、精子形成、受精、着床または胚発生を阻止するのに十分なレベルの、B細胞エピトープに対する循環抗体を意味する。
【0199】
抗体レベルは、免疫された雌被験体の少なくとも単一の生殖サイクルの間持続することが好ましく、少なくとも約6カ月間または9カ月間または12カ月間または2年間持続することがより好ましい。
【0200】
B細胞エピトープは、黄体形成ホルモン−放出ホルモン(LHRH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、ヒトもしくはブタなどの他の哺乳動物のZP3、FSH受容体ZP3aなどの透明帯タンパク質のアミノ酸配列に由来することが好ましい。
【0201】
このカテゴリー内の特に好ましいB細胞エピトープとしては、β−hCGのC末端部分(CTP)、ヒトZP3のアミノ酸残基323〜341、ブタZP3aのアミノ酸残基8〜18または残基272〜283または残基319〜330などがある。
【0202】
さらにより好ましくは、B細胞エピトープは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号76、配列番号77、配列番号78、配列番号79、配列番号80、配列番号81、配列番号82、配列番号83および配列番号84からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0203】
Tヘルパーエピトープは、配列番号1、配列番号20、配列番号24、配列番号26および配列番号44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことが好ましいが、配列番号1または18〜56のいずれか1つを使用することもできる。
【0204】
本発明の特に好ましい実施形態においては、Tヘルパーエピトープは、配列番号1、配列番号20、配列番号24、配列番号26および配列番号44のいずれか1つで示されるアミノ酸配列を含み、B細胞エピトープは、配列番号2または配列番号3または配列番号4で示されるLHRHのアミノ酸配列を含む。このような好ましい実施形態によれば、ポリペプチドは、配列番号5〜16、103または104からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。また、この好ましい実施形態によれば、脂質部分が、(1)Pam2Cys、(2)Ste2Cys、(3)Lau2Cysおよび(4)Oct2Cysからなる群から選択されるリポアミノ酸を含むことが(必須ではないが)好ましい。
【0205】
本発明のリポペプチドによってLHRHに対する抗体が持続的に産生されることは、対象リポペプチドが、不妊を誘発するワクチン製剤中の有効成分、または避妊薬として一般に有用であることを示している。
【0206】
したがって、本発明の別の態様は、薬学的に許容される希釈剤と、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされた単離ポリペプチドを含むリポペプチドとを含む避妊薬を提供する。ここで、
(i)前記ポリペプチドは、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、および生殖ホルモンまたはホルモン受容体のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合している。
【0207】
本発明のワクチン/避妊薬は、本明細書の上記「リポペプチド製剤」の項に記載する1種または複数の担体または賦形剤または他の薬剤を含むことができる。
【0208】
同様に、被験体へのワクチン/避妊薬の投与は、本明細書の上記手段によって行われる。被験体は、ヒト、または動物被験体、例えば、家畜、実験動物、愛玩動物、野生化した動物、もしくは野生の外来動物が好ましい。
【0209】
A群ストレプトコッカスに対する免疫化
A群ストレプトコッカス(GAS)は、比較的軽度の疾病、例えば、「連鎖球菌咽喉炎」および膿か疹、ならびにより稀な重症かつ生命にかかわることもある疾患、例えば、壊疽性筋膜炎および連鎖球菌毒素性ショック症候群の細菌病原体である。生命にかかわることもある重度のGAS疾患は、血液、筋肉または肺など細菌が通常存在しない体の部分に細菌が侵入したときに起こり得る「侵襲性GAS疾患」と称する感染症である。最も重篤な形態の侵襲性GAS疾患のうちの2つは、壊疽性筋膜炎および連鎖球菌毒素性ショック症候群(STSS)である。壊疽性筋膜炎は、筋肉組織、脂肪組織および皮膚組織を破壊する。STSSは、血圧を急激に降下させ、器官(例えば、腎臓、肝臓、肺)を衰えさせる。壊疽性筋膜炎患者の約20%、STSS患者の半分以上が死亡する。他の形態の侵襲性A群ストレプトコッカス疾患患者の約10%〜15%が死亡する。米国だけで1999年の侵襲性GAS疾患は約9,400例であった。
【0210】
侵襲性GAS感染症は、細菌が感染した個体の防御を通過したとき、例えば、細菌が組織に侵入できる傷または他の皮膚損傷を負ったとき、あるいはHIV/AIDSを含めて慢性疾病または免疫系に影響を及ぼす疾病のために感染防御力が低下したときに一般に起こる。また、GASのいくつかの溶菌系統は、他よりも重度の疾患を起こす可能性が高い。癌、糖尿病、腎臓透析などの慢性疾病患者、およびステロイドなどの薬物を使用している人はリスクがより高くなる。
【0211】
本明細書に例示するとおり、A群ストレプトコッカス抗原、好ましくはタンパク質Mの抗原性B細胞エピトープを含む適切に構成された本発明のリポペプチドによって、GASに対する免疫が動物宿主に付与され、より具体的にはGASのMタンパク質に対して血清IgG、唾液IgAおよび糞便IgAが誘発され、その後のGASへの暴露に対する防御免疫応答も付与され、それによってGASによる死亡率を減少させることができる。
【0212】
したがって、本発明の別の態様は、被験体中のA群ストレプトコッカス抗原に対する免疫応答を誘発する方法であって、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含む単離リポペプチドを前記被験体に投与するステップを含む方法を提供する。ここで、
(iv)前記ポリペプチドは、
(b)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびA群ストレプトコッカス抗原のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(c)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(v)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合しており、
(vi)前記リポペプチドを、前記抗原性B細胞エピトープに対する液性免疫応答を誘発するのに十分な時間と条件下で投与する。
【0213】
リポペプチドは、本明細書に記載する有利なリポペプチド製剤の形で投与することができる。
【0214】
「液性免疫応答」とは、B細胞エピトープを含むペプチド、および/またはその後のA群ストレプトコッカスの暴露に対する防御免疫を提供するペプチドに対する血清IgG、唾液IgAまたは糞便IgAを誘発するのに十分なB細胞エピトープに対する二次免疫応答が発生することを意味する。
【0215】
発生する液性免疫は、被験体中のB細胞エピトープに対する持続的なレベルの抗体を含むことが好ましい。「持続的なレベルの抗体」とは、引き続く暴露後のA群ストレプトコッカスによる感染の蔓延を防止し、かつ/またはその後A群ストレプトコッカスに暴露された被験体の罹患率もしくは死亡率を低下させるのに十分なレベルの、B細胞エピトープに対する循環抗体を意味する。
【0216】
抗体レベルは、少なくとも約6カ月間または9カ月間または12カ月間または2年間持続することが好ましい。
【0217】
B細胞エピトープは、A群ストレプトコッカスのMタンパク質アミノ酸配列に由来することが好ましい。
【0218】
このカテゴリー内の特に好ましいB細胞エピトープとしては、配列番号101で示されるアミノ酸配列を含むペプチドなどがある。
【0219】
Tヘルパーエピトープは、配列番号1、配列番号20、配列番号24、配列番号26および配列番号44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことが好ましいが、配列番号1または18〜56のいずれか1個を使用することもできる。
【0220】
本発明の特に好ましい実施形態においては、Tヘルパーエピトープは、配列番号24で示されるアミノ酸配列を含み、B細胞エピトープは、配列番号101で示されるアミノ酸配列を含む。このような好ましい実施形態によれば、ポリペプチドは、配列番号105〜108からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。また、この好ましい実施形態によれば、脂質部分が、式(I)または(II)のリポアミノ酸を含むことが(必須ではないが)好ましいが、本明細書に記載するあらゆる脂質が有用である。
【0221】
本発明のリポペプチドによってJ14ペプチドに対する抗体が持続的に産生されることは、対象リポペプチドが、A群ストレプトコッカスに対する防御免疫を与えるワクチン製剤中の有効成分として一般に有用であることを示している。
【0222】
したがって、本発明の別の態様は、薬学的に許容される希釈剤および1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされた単離ポリペプチドを含むリポペプチドを含むA群ストレプトコッカスに対するワクチンを提供する。ここで、
(iii)前記ポリペプチドは、
(b)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびA群ストレプトコッカス抗原のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(c)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(iv)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合している。
【0223】
本発明のワクチンは、本明細書の上記「リポペプチド製剤」の項に記載する1種または複数の担体または賦形剤または他の薬剤を含むことができる。
【0224】
同様に、被験体へのワクチンの投与は、本明細書の上記手段によって、好ましくは鼻腔内経路によって行われる。被験体は、ヒト、または動物被験体、例えば、家畜、実験動物、愛玩動物、野生化した動物、もしくは野生の外来動物が好ましい。
【0225】
過剰で無秩序な胃酸分泌の阻害または予防
ガストリンは壁細胞による胃酸分泌を刺激することが知られている。またその活性は、ガストリンとガストリン受容体またはコレシステキニン受容体との結合によって媒介される。ガストリン末端の4〜5個のアミノ酸残基は、完全長タンパク質と同じ受容体特異性および活性をもたらす。ガストリン末端の5個のアミノ酸残基は「ペンタガストリン」と称される。無秩序なガストリン発現または分泌は高ガストリン血症を生じ、過剰で無秩序な胃酸分泌の結果、ゾリンジャーエリソン症候群、胃および十二指腸潰瘍の形成、あるいは膵臓または十二指腸におけるガストリノーマをもたらす恐れがある。ガストリンに対する抗体を用いてガストリンを免疫中和すると、ガストリンペプチドの胃内分泌に応じて胃酸の分泌が遮断されることも知られている。
【0226】
本明細書に例示するとおり、ガストリンペプチドの抗原性B細胞エピトープを含む適切に構成された本発明のリポペプチドは、ガストリンまたは胃酸分泌の阻害が必要な他の哺乳動物のマウスモデルにおける過剰なガストリン産生の作用に対して動物宿主を免疫することができる。本明細書が提供するデータは、ガストリンに対する液性免疫、およびガストリンの免疫中和を誘発し、それによって過剰で無秩序な胃酸分泌による高ガストリン血症、ゾリンジャーエリソン症候群、胃潰瘍または十二指腸潰瘍に罹患している動物における胃酸分泌を遮断するか、あるいは膵臓または十二指腸におけるガストリン分泌腫瘍の形成を減少または防止する(すなわち、ガストリノーマの予防および/または治療)対象リポペプチドの一般的有用性を示している。
【0227】
したがって、本発明の別の態様は、被験体中のガストリンペプチドに対する免疫応答を誘発する方法であって、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含む単離リポペプチドを前記被験体に投与するステップを含む方法を提供する。ここで、
(vii)前記ポリペプチドは、
(c)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびガストリンペプチド抗原のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(d)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(viii)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合しており、
(ix)前記リポペプチドを、前記抗原性B細胞エピトープに対する液性免疫応答を誘発するのに十分な時間と条件下で投与する。
【0228】
リポペプチドは、本明細書に記載する有利なリポペプチド製剤の形で投与することができる。
【0229】
「液性免疫応答」とは、B細胞エピトープを含むガストリンペプチドに対する血清IgGを誘発するのに十分なB細胞エピトープに対する二次免疫応答が発生することを意味する。
【0230】
発生する液性免疫は、被験体中のB細胞エピトープに対する持続的なレベルの抗体を含むことが好ましい。「持続的なレベルの抗体」とは、ガストリンに応答した過剰または無秩序な胃酸分泌を防止するのに十分なレベルの、B細胞エピトープに対する循環抗体を意味する。
【0231】
抗体レベルは、少なくとも約6カ月間または9カ月間または12カ月間または2年間持続することが好ましい。
【0232】
B細胞エピトープはペンタガストリンペプチド内に含まれることが好ましい。このカテゴリー内の特に好ましいB細胞エピトープとしては、配列番号102で示されるアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられるが、B細胞エピトープを含む完全長ガストリンタンパク質またはその任意の免疫原性断片も使用することができる。
【0233】
Tヘルパーエピトープは、配列番号1、配列番号20、配列番号24、配列番号26および配列番号44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むことが好ましいが、配列番号1または18〜56のいずれか1個を使用することもできる。
【0234】
本発明の特に好ましい実施形態においては、Tヘルパーエピトープは、配列番号24で示されるアミノ酸配列を含み、B細胞エピトープは、配列番号102で示されるアミノ酸配列を含む。このような好ましい実施形態によれば、ポリペプチドは、配列番号109〜112からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。また、この好ましい実施形態によれば、脂質部分が、式(I)または(II)のリポアミノ酸を含むことが(必須ではないが)好ましいが、本明細書に記載するあらゆる脂質が有用である。
【0235】
本発明のリポペプチドによってペンタガストリンまたはガストリンに対する抗体が持続的に産生されることは、それを必要とする被験体においてガストリンの有害作用を軽減するワクチン製剤中の有効成分としての対象リポペプチドの一般的有用性を示している。
【0236】
したがって、本発明の別の態様は、薬学的に許容される希釈剤および1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされた単離ポリペプチドを含むリポペプチドを含む、被験体における過剰なガストリン分泌によって誘発される疾患または症状に対するワクチンを提供する。ここで、
(v)前記ポリペプチドは、
(c)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびガストリンペプチド抗原のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(d)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(vi)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合している。
【0237】
本発明のワクチンは、本明細書の上記「リポペプチド製剤」の項に記載する1種または複数の担体または賦形剤または他の薬剤を含むことができる。
【0238】
同様に、対象ワクチンの投与は、本明細書の上記手段によって行われる。被験体は、ヒトであることが好ましい。
【0239】
本発明を、以下の非限定的な実施例および図面を参照してさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0240】
材料および方法
化学物質
別段の記載がないかぎり、化学物質は、分析グレードまたはそれと同等のグレードであった。N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、ピペリジン、トリフルオロ酢酸(TFA)、O’ベンゾトリアゾール−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)およびジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)およびジイソプロピルカルボジイミド(DIPCDI)を、Auspep Pty.Ltd.、Melbourne、AustraliaおよびSigma−Aldrich Pty.Ltd.、Castle Hill、Australiaから入手した。O’ベンゾトリアゾール−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)を、Bachem、(Bachem AG、Switzerland)から入手した。ジクロロメタン(DCM)およびジエチルエーテルをMerck Pty Ltd.(Kilsyth、Australia)から入手した。フェノールおよびトリイソプロピルシラン(TIPS)をAldrich(Milwaulke、WI)から、トリニトロベンジルスルホン酸(TNBSA)およびジアミノピリジン(DMAP)をFlukaから、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)をSigmaから、パルミチン酸をFlukaから入手した。
【0241】
式(I)の脂質部分の合成
Pam3Cysを、Zeng et al.、J Pept Sci 2,:66(1996)に記載の方法によって改変されたWeismuller et al.、Hoppe Seylers Z Physiol Chem 364、593(1983)に記載された方法によって調製した。リポアミノ酸Pam3Cysを、Zeng et al.(上記)によって記載された手順に従ってリジンの露出したε−アミノ基に結合(couple)させる。簡単に説明すると、2倍過剰のPam3Cys、TBTUおよびHOBtをDCMに溶解し、3倍過剰のDIPEAを添加した。次いで、この溶液を、樹脂に結合したペプチドに添加して、リポペプチドを製造した。
【0242】
式(II)の脂質部分の合成
Pam2Cysおよびその誘導体Fmoc−Pam2Cys−OHを、Jones et al.、Xenobiotica 5、155(1975)およびMetzger et al.、Int J Pept Protein Res 38、545(1991)に記載の方法によって調製した。
【0243】
リポペプチドの合成
Pam2Cys、Ste2Cys、Oct2CysまたはLau2Cysを、Jones et al.、Xenobiotica 5、155(1975)およびMetzger et al.、Int J Pept Protein Res 38、545(1991)に記載の方法の変法を用いてペプチドに結合させた。
【0244】
I.S−(2,3−ジヒドロキシプロピル)システインの合成:
トリエチルアミン(6g、8.2ml、58mmol)を、L−システイン塩酸塩(3g、19mmol)と3−ブロモ−プロパン−1,2−ジオール(4.2g、2.36ml、27mmol)の水溶液に添加し、その均一溶液を室温で3日間保持した。その溶液を真空中40℃で濃縮して白色残渣とし、それをメタノール(100ml)とともに煮沸し、遠心分離して、その残渣を水(5ml)に溶解した。この水溶液をアセトン(300ml)に添加し、遠心分離して沈殿物を単離した。この沈殿物を、アセトンを用いて水から数回沈殿させて精製して、白色アモルファス粉末のS−(2,3−ジヒドロキシプロピル)システイン(2.4g、12.3mmol、64.7%)を得た。
【0245】
II.N−フルオレニルメトキシカルボニル−S−(2,3−ジヒドロキシプロピル)システイン(Fmoc−Dhc−OH)の合成:
S−(2,3−ジヒドロキシプロピル)システイン(2.45g、12.6mmol)を、9%炭酸ナトリウム(20ml)に溶解した。フルオレニルメトキシカルボニル−N−ヒドロキシスクシンイミド(3.45g、10.5mmol)のアセトニトリル(20ml)溶液を添加し、その混合物を2時間攪拌し、次いで水(240ml)で希釈し、ジエチルエーテル(25ml×3)で抽出した。その水相を濃塩酸でpH2に酸性化し、次いで、酢酸エチル(70ml×3)で抽出した。その抽出物を水(50ml×2)および塩化ナトリウム飽和溶液(50ml×2)で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水し、蒸発乾固させた。エーテルおよび酢酸エチルから−20℃で再結晶させて無色粉末(2.8g、6.7mmol、63.8%)を得た。
【0246】
III.樹脂に結合したペプチドへのFmoc−Dhc−OHのカップリング:
Fmoc−Dhc−OH(100mg、0.24mmol)を、DCMおよびDMF(1:1、v/v、3ml)中でHOBt(36mg、0.24mmol)およびDICI(37ul、0.24mmol)を用いて0℃で5分間活性化した。次いで、その混合物を、樹脂に結合したペプチド(0.04mmol、0.25gアミノ−ペプチド樹脂)を含む容器に添加した。2時間振とうした後に、溶液をろ過して除去し、樹脂をDCMおよびDMF(各3×30ml)で洗浄した。TNBSA試験を用いて反応終了をモニターした。必要に応じて、カップリングを2回実施した。
【0247】
IVa.Fmoc−Dhc−ペプチド樹脂の2個のヒドロキシ基のパルミトイル化:
パルミチン酸(204mg、0.8mmol)、DICI(154ul、1mmol)およびDMAP(9.76mg、0.08mmol)をDCM 2mlおよびDMF 1mlに溶解した。樹脂に結合したFmoc−Dhc−ペプチド樹脂(0.04mmol、0.25g)をこの溶液に懸濁し、16時間室温で振とうした。ろ過して溶液を除去し、次いで樹脂をDCMおよびDMFで十分洗浄して尿素の残渣を除去した。Fmoc基の除去を2.5%DBUを用いて実施した(2×5分)。
【0248】
IVb.Fmoc−Dhc−ペプチド樹脂の2個のヒドロキシ基のステアロイル化(stearoylation):
ステアリン酸(約0.8mmol)、DICI(154ul、1mmol)およびDMAP(9.76mg、0.08mmol)をDCM 2mlおよびDMF 1mlに溶解した。樹脂に結合したFmoc−Dhc−ペプチド樹脂(0.04mmol、0.25g)をこの溶液に懸濁し、室温で16時間振とうした。ろ過して溶液を除去し、次いで樹脂をDCMおよびDMFで十分洗浄して尿素の残渣を除去した。Fmoc基の除去を2.5%DBUを用いて実施した(2×5分)。
【0249】
IVc.Fmoc−Dhc−ペプチド樹脂の2個のヒドロキシ基のラウロイル化(lauroylation)
ラウリン酸(約0.8mmol)、DICI(154ul、1mmol)およびDMAP(9.76mg、0.08mmol)をDCM 2mlおよびDMF 1mlに溶解した。樹脂に結合したFmoc−Dhc−ペプチド樹脂(0.04mmol、0.25g)をこの溶液に懸濁し、室温で16時間振とうした。ろ過して溶液を除去し、次いで樹脂をDCMおよびDMFで十分洗浄して尿素の残渣を除去した。Fmoc基の除去を2.5%DBUを用いて実施した(2×5分)。
【0250】
IVd.Fmoc−Dhc−ペプチド樹脂の2個のヒドロキシ基のオクタノイル化(octanoylation)
オクタン酸(約0.8mmol)、DICI(154ul、1mmol)およびDMAP(9.76mg、0.08mmol)をDCM 2mlおよびDMF 1mlに溶解した。樹脂に結合したFmoc−Dhc−ペプチド樹脂(0.04mmol、0.25g)をこの溶液に懸濁し、室温で16時間振とうした。ろ過して溶液を除去し、次いで樹脂をDCMおよびDMFで十分洗浄して尿素の残渣を除去した。Fmoc基の除去を2.5%DBUを用いて実施した(2×5分)。
【0251】
ペプチド合成
ペプチド合成に使用される一般的な手順は、Jackson et al.、Vaccine 18、355(1999)に記載されている。CD4+ T細胞エピトープとB細胞エピトープの間に脂質が結合するのを可能にするために、Fmoc−リジン(Mtt)−OHを、樹脂に結合したペプチドのほぼ中央の2個のエピトープ間に挿入した。ペプチド内の別の位置、例えば、配列番号24のLys−14残基に脂質を付加させる場合には、Fmoc−リジン(Mtt)−OHもその位置に挿入した。ペプチド合成終了後に、1%TFAのジクロロメタン溶液を連続して流しながら30〜45分間洗浄してMtt基を除去して、リジン残基のεアミノ基を露出させた。2個のセリン残基をスペーサーとして使用する場合には、2個のセリン残基をこのεアミノ基に結合させた。あるいは、2個のアルギニン残基をスペーサーとして使用する場合には、2個のアルギニン残基をこのεアミノ基に結合させた。あるいは、6−アミノヘキサン酸をこのεアミノ基に結合させた。続いて、脂質部分、例えば、Pam3Cys、Pam2Cys、Ste2Cys、Oct2Cys、またはLau2Cysのカップリングは上述した。
【0252】
すべての樹脂結合ペプチド構築体を、固相支持体から試薬B(88%TFA、5%フェノール、2%TIPS、5%水)を用いて2時間かけて切断し、Zeng et al.、Vaccine 18、1031(2000)に記載されたように逆相クロマトグラフィーによって精製した。
【0253】
分析用逆相高圧液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)を、Waters HPLCシステム中に組み込まれたVydac C4カラム(4.6×250mm)を用いて実施し、0.1%TFA水溶液および0.1%TFAのCH3CN溶液を限界溶媒(limit solvent)として用いて流量1ml/分で展開した。すべての生成物は、分析用RP−HPLCによって主要な単一ピークとして現れ、遅延イオン抽出(delayed ion extraction)を備えたBruker BIFLEX装置を用いたMALDI−TOF質量分析法によって分析したところ、予想どおりの質量であった。免疫原の最終定量を、ペプチド構築体中のトリプトファン残基およびチロシン残基の存在を利用して280nmにおける吸収を測定することによって実施した(モル吸光係数6.6×103)。
【0254】
Pam3Cys含有ペプチドおよびPam2Cys含有ペプチドのペプチドと脂質部分の間に2個の残基を組み込むことによるセリンの効果を検討するために、2個のセリン残基を順次ペプチドに付加してから、脂質部分を共有結合させた(その構造を図1に示す)。分析用RP−HPLCおよび質量分析法によって実施したそれらの特性をまとめて表1および2に示す。
【0255】
免疫手順
6〜8週齡の5匹のBALB/c雌マウスの各グループを0日および再度28日に接種した。あるいは、4〜6週齡の非近交系クァッケンブッシュ雌マウスを鼻腔内免疫し、21日間隔の一次免疫により追加免疫した。皮下(s.c.)接種(100μl容量/用量)の場合には、リポペプチド構築体を生理食塩水中に調製し、非脂質付加ペプチドを一次注射の場合には等容量の完全フロイントアジュバント(CFA)、二次接種の場合には等容量の不完全フロイントアジュバントのエマルジョンとして処方した。鼻腔内(i.n.)接種の場合には、ペントレン吸入によって麻酔したマウスの鼻孔にペプチド(生理食塩水中)50μlを投与した。血清を、一次接種から4週間後および二次接種から2週間後に採取した血液から調製し、あるいは、最終免疫から7日後に尾から採血して調製した。
【0256】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)
血清試料について、被覆抗原として免疫抗原(例えば、LHRH、J14またはペンタガストリン)を用いて、基本的にGhosh et al.、Int Immun.11、1103、(1999)に記載されたとおりELISAアッセイを実施した。抗体力価を、0.2のODが得られる血清の最高希釈度の逆数として表す。これは、抗体不在下のバックグラウンド結合の約5倍である。Ghosh et al.、Int Immun.11、1103、(1999)に記載されたように、LHRHまたはJ14に特異的な抗体のアイソタイプを、マウスIgM、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3またはIgAに対するウサギ抗血清(ICN Pharmaceuticals Inc.、Costa Mesa、CA)を用いて求めた。
【0257】
受胎能試験
ペプチド免疫原を接種し、雄マウスに暴露した後に、雌マウスが同腹子を産めるかどうか試験した。CFA中の生理食塩水で免疫した雌マウスのグループを対照として使用した。雄マウスを、2匹または3匹の雌性のマウスを飼育するケージに入れ、各ケージ間を雄マウスを循環させて各グループの雌マウスをすべての雄に暴露した。オスおよびメスを一緒に合計3週間飼育し、その最後に雄を除去し、雌を観察しつづけた。
【表1】
【表2】
【0258】
樹状細胞培養
樹状細胞(DC)を、完全IDDMに基づく培地中で培養した。これは、25mM HEPESを含みα−チオグリセロールまたはL−グルタミン(JRH Bioscience、Lenexa、USA)を含まず、10%(v/v)熱失活(56℃、30分)ウシ胎児血清(CSL Ltd.、Parkville、Victoria、Australia)、ゲンタマイシン(24μg/mL)、グルタミン(2mM)、ピルビン酸ナトリウム(2mM)、ペニシリン(100IU/mL)、ストレプトマイシン(180μg/mL)および2−メルカプトエタノール(0.1mM)を添加したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)からなるものとした。DC産生の場合には、培養NIH/3T3細胞から得られる30%上清、およびGM−CSF遺伝子をトランスフェクトしたAg8653細胞から得られる上清の形態の5%GM−CSFを完全IMDMにさらに添加した(DC培地)。
【0259】
未成熟樹状細胞の培養方法は、Winzler et al.、J.Exp Med.185、317(1997)に基づくものであった。BALB/cマウスから得た脾臓細胞を3ml DC培地中に1.5×106細胞/55mmシャーレ(Techno−Plas、S.A.、Australia)で播き、37℃、5%CO2でインキュベートした。培養に使用した装置はすべて発熱性物質を含んでいなかった。培地を4日ごとに交換し、全細胞をシャーレに戻した。12日目に、懸濁した細胞と弱く接着した細胞の両方を強制的にピペットで回収し、次いで培地を吸引した。この手順をPBS 2mlを用いて繰り返した。残りの強く接着した細胞は廃棄した。回収した細胞を遠心分離によってペレットにし、新しいシャーレに再度播いた。引き続き、4日ごとの培地交換と継代の交互サイクルで細胞を維持した。連続培養1カ月後に、浮遊細胞および半接着細胞が出現し、未成熟DCの染色特性を呈し、D1細胞と呼ばれるようになる。これらの継代条件下で、培養D1細胞の大多数が、中程度の発現レベルの細胞表面MHCクラスII分子を特徴とする未成熟表現型を維持する。
【0260】
D1細胞のフローサイトメトリー分析
D1細胞(1×105細胞/試料)を、DC培地1mlを含む新しいシャーレに播き、リポペプチド0.0045nmolとともにインキュベートし、完全IMDM培地に溶解した。大腸菌(E.coli)血清型O111:B4から精製されたリポ多糖(Difco、Detroit、Michigan、USA、Dr.E.Margot Anders、Department of Microbiology and Immunology、University of Melbourneの好意による)を5μg/mLでDC成熟の陽性対照として使用した。終夜インキュベートした後に、細胞を収集し、1%FCSを含むPBSで1回洗浄した。FCγRII/IIIへの非特異的結合を防止するために、細胞を正常マウス血清20μLとともに5分間室温でプレインキュベートした。次いで、細胞をFITC複合モノクローナル抗体14−4−4S(IgG2a、抗l−Ek,d;Ozato et al.、J.Immunol、124、533、1980)に氷上で30分間暴露した。インフルエンザウイルス赤血球凝集素に特異的であるモノクローナル抗体36/1(Brown et al.、Arch Virol 114、1 1990)をアイソタイプ対照として使用した。すべての抗体を2.5μg/mLで使用した。試料を、1%FCSを含むPBSで1回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを含むPBSを用いて氷上で15分間かけて固定した。フローサイトメトリー分析をFACSort(Becton Dickinson、San Jose、USA)を用いて実施し、データをFlowJoソフトウェア(Tree Star,Inc.、San Carlos、CA、USA)を用いて分析した。
【実施例2】
【0261】
LHRH B細胞エピトープを含むリポペプチドの試験
LHRHを含むリポペプチドの可溶性
LHRHを含む様々なリポペプチド調製物の目視検査によれば、それらは可溶性が著しく異なる(図2)。可溶性の増加は、脂質が、分子のほぼ中央にある2個のエピトープ間に結合した場合に最も明らかである。リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]および[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]は、生理食塩水に少なくとも8mg/ml(これよりも高い濃度は試験しなかった)の濃度で溶解したのに対して、配列のN末端に脂質が結合した構築体は、わずか0.25mg/mlの濃度で乳光色の溶液を形成した。
【0262】
脂質部分とペプチド部分の間に2個の親水性セリン残基を取り込むことによって(すなわち、Pam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]およびPam3Cys−Ser−Ser−[Th]−[B])、N末端に結合した脂質を含むペプチドの可溶性をさらに高めようとする努力は失敗に終わった。実際に、リポペプチドPam3Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]は、不溶性過ぎて、他のリポペプチドに使用した条件下ではRP−HPLCによって精製することができなかった。本発明者らは、この構築体の不溶性は、実用的なワクチン製造案を考慮する上で支障があると考えた。
【0263】
LHRH B細胞エピトープを含むリポペプチドの免疫原性
3個のリポペプチドPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]、[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]および[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]は、生理食塩水に溶解してs.c.投与すると、高レベルの抗LHRH抗体を誘発した。実際に、これらのリポペプチドを2回投与した後に誘発される抗体価は、[Th]−[B]または[Th]−Lys−[B]をCFAに入れて投与したときに得られる抗体価と類似していた(図3)。Pam3Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]またはPam2Cys−[Th]−[B]を与えたマウス血清中の抗LHRH抗体の力価はわずかに低かった。2個の可溶性リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]、[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]は、一次接種後に、他の低可溶性リポペプチド構築体の10〜100倍高いレベルの抗LHRH抗体を誘発した。[Th]−[B]とPam3Cys−Ser−(Lys)4を1:1または1:5で混合して与えた5匹のマウスの2つのグループは、有意なレベルの抗LHRH抗体を誘発しなかった。この知見は、Pam3Cys−Ser−(Lys)4をアジュバントとして用いて報告された他の結果(Jung,G.、and W.G.Bessler.(1995)「Immunological recognition of peptides in medicine and biology」、N.D.Zegers、W.J.A.Boersma、and E.Claassen(編)CRC Press、Boca、New York、London、Tokyo、p.159)とは対照的である。
【0264】
様々なリポペプチドを用いて二次接種した2週間後に実施した受胎能試験の結果を表3に示す。
【0265】
生理食塩水中の2種類の可溶性リポペプチド構築体[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]または[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]、あるいはCFA中の2種類の非脂質付加構築体[Th]−[B]または[Th]−Lys−[B]を投与したマウスは妊娠しなかった。Pam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]を与えたグループのうちの1匹のマウス、およびPam3Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]またはPam2Cys−[Th]−[B]を与えたグループのうちの2匹のマウスは同腹仔を生んだ。CFA中の生理食塩水、またはPam3Cys−S−(Lys)4と混合したペプチド[Th]−[B]を投与した対照マウスグループのすべてのマウスが同腹仔を生んだ。
【0266】
ペプチドワクチンの2回目の投与から7カ月まで抗体レベルを追跡した。リポペプチドの初回刺激を受けたマウス、およびCFA中の非脂質付加ペプチドによる初回刺激を受けたマウス中に存在する抗LHRH抗体の力価は、26週間で1/4〜1/20に低下する。二次接種から3カ月後に、すべてのマウスについて実施した受胎能試験は、免疫後2週間の試験と類似した結果であった。生理食塩水中の可溶性リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]または[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]、またはCFA中の非脂質付加[Th]−[B]および[Th]−Lys−[B]を与えたマウスは不妊のままであった。
【表3】
【0267】
Pam2CysはPam3Cysよりも強力なアジュバントである
図3および表2に示す結果によれば、2個の分枝リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]および[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]は、免疫原Pam2Cys−[Th]−[B]、Pam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]およびPam3Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]よりも高度に可溶性であるだけでなく、高い抗体価も誘発し、特に一次抗体応答において高い抗体価を誘発する。
【0268】
これをさらに検討するために、本発明者らは、[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]および[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]の免疫原性に対する用量減の効果を調べた。10nmolおよび1nmolの用量では、[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]は、[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]よりも高い抗体価が得られた(表4)。より著しい相違が交尾試験で認められた。すなわち、[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]を10nmolおよび1nmolを与えたそれぞれ5匹のマウスのうち1匹、および5匹のマウスのうち0匹しか同腹仔を生まなかったのに対して、これらの用量の[Th]−Lys(Pam3Cys)−[B]を与えた5匹のうち3匹、および5匹のうち5匹のマウスが同腹仔を生んだ(表4)。これらの結果は、Pam2Cys含有ペプチドがPam3Cys含有ペプチドよりも優れた免疫原であることを示している。
【0269】
2個の追加のセリン残基をPam2Cys含有免疫原に入れる効果は、動物の受胎能状態に対してほとんどまたはまったく影響を及ぼさなかったが、2回目の投与後に生じる抗体価が改善された(表4)。
【表4】
【0270】
鼻腔内(i.n.)免疫後の全身的抗体応答
本発明者らは、生理食塩水中の[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]およびPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]を鼻腔内経路で接種した。同じワクチンを皮下経路でも接種し、全身的抗LHRH抗体応答を測定した。[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]の接種に使用した溶液は透明であり、Pam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]の接種に使用した溶液は乳光色であり、2つの調製物間の可溶性の違いを示している。
【0271】
2回の鼻腔内接種後に、各ワクチンは、皮下接種後の力価よりもやや低い類似した血清抗LHRH抗体力価をもたらした(表5)。可溶性の高い[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]は、単回投与から4週間後に、可溶性の低いPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]よりもかなり高レベルの抗LHRH抗体を誘発した(p=0.00007)。実際に、これは、皮下接種後に得られる結果に類似していた。受胎能試験によれば、Pam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]を鼻腔内投与したマウスでは5匹のうち3匹が妊娠したのに対して、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]の2回の鼻腔内接種ではすべてのマウスが妊娠しなかった。
【0272】
2つの異なる経路によって投与された2個の構築体によって誘発される応答の長さの比較も表5に示す。2回目のワクチン投与から26週間後には、すべてのマウスの抗体レベルは、2回目の投与から2週間後に観測された抗体レベルよりも低下した。しかし、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]を皮下投与したグループにおける抗LHRH抗体の低下は極めて小さく、Pam2Cys−Ser−Serが分子のほぼ中央に結合した配置がこの状況において優れていることをやはり明確に示している。
【表5】
【0273】
本発明者らは、可溶性リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]を2回皮下または鼻腔内投与した動物から得られた、LHRHに対する個々の抗体アイソタイプの力価も測定した(図4)。鼻腔内接種によって誘発される全Ig量は少なかったが、鼻腔内接種は、皮下接種よりも高レベルのIgG3、IgG2bおよびおそらくIgMを誘発すると考えられた。
【0274】
DCをペプチドおよびリポペプチドに暴露すると、様々なレベルの細胞表面MHCクラスII分子が誘発される
樹状細胞による二次リンパ器官中の未処置CD4+ T細胞の初回抗原刺激後に抗原暴露するとDCが成熟した。この成熟は、DC表面上のMHC産物および共刺激分子のアップレギュレーションを特徴とする。したがって、本発明者らは、これらのワクチン候補の様々な免疫原性を説明するために、様々なペプチドおよびリポペプチドが樹状細胞を示差的に活性化できるかどうかを判定した。
【0275】
一連の未成熟DC、すなわちD1細胞をペプチドに暴露し、MHCクラスII分子の表面発現について染色し、次いでフローサイトメトリーで分析した実験の結果によれば、DC成熟には、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]が最も有効であり、Pam2Cys−[Th]−[B]が最も有効でなかった(図5)。[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]のクラスII発現をアップレギュレートする能力は、細菌のリポ多糖(LPS)およびPam2Cys−Ser−Ser[Th]−[B]および[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]に近接し、中間の活性化レベルを示した。非脂質付加ペプチドは、D1細胞の成熟を培養では自然に起こる26%を超えて誘発することができなかった。リポペプチドがD1細胞の成熟を誘発する能力は濃度に依存した(データは示さず)。これらのリポペプチドがD1細胞の成熟を誘発する相対能力は、それらの抗体誘発能力を直接反映しており、免疫原性の違いに対して考えられる機序を提供するものである。
【0276】
LHRHのC末端ペンタペプチドに対する抗体応答
図6に示すように、[Th]がインフルエンザ赤血球凝集素の軽鎖に由来するCD4+ T細胞エピトープ(配列番号1)からなり、[B]がLHRH1〜10(配列番号2)またはLHRH6〜10(すなわち、LHRHの最終C末端5残基;配列番号4)である脂質付加[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]によって、脂質部分とペプチド部分の間に位置するセリンスペーサー(Ser−Ser)が存在してもしなくても、ほぼ同等の抗体応答が誘発される。これらのデータは、リポペプチドの有用性が、免疫抗原として使用される任意の特定のアミノ酸配列に限定されないという提案を支持するものである。
【0277】
Pam2Cys以外の脂質はリポペプチド構築体に有用である
BALB/cマウス(6〜8週齡)の各グループに、配列番号9で示されるアミノ酸配列にコンジュゲートされた脂質部分Pam2Cys、Ste2Cys、Lau2CysまたはOct2Cysを含む図7に示すペプチド免疫原(すなわち、配列番号3で示されるLHRH2〜10にコンジュゲートされた配列番号24のCDV−F Tヘルパーエピトープを含み、内部リジン残基がこれらのエピトープ間に位置するペプチド)20nmolを、一次と二次ワクチン接種の両方で皮下接種した。ペプチド構造を図7に示す。すべてのリポペプチドを生理食塩水に溶解して投与した。対照として、非脂質付加ペプチドをCFAに入れて投与した。一次ワクチン接種後4週目および二次ワクチン接種後2週目に採取した血液から血清を得た。
【0278】
図8に示すデータによれば、リポペプチド構築体中の別の脂質部分をPam2Cys部分で置換すると強い一次および二次抗体応答を得ることができる。
【0279】
様々なスペーサーを使用してリポペプチド中のペプチドから脂質を分離することができる
BALB/cマウス(6〜8週齡)の各グループに、配列番号9で示されるアミノ酸配列にコンジュゲートされ、セリンホモ二量体、アルギニンホモ二量体または6−アミノヘキサン酸からなるスペーサーを用いてそれから分離された脂質部分Pam2Cysを含む図7に示すペプチド免疫原20nmolを皮下接種した。ペプチド構造を図7に示す。すべてのリポペプチドを生理食塩水に溶解して投与した。対照として、非脂質付加ペプチドをCFAに入れて投与した。一次ワクチン接種後4週目および二次ワクチン接種後2週目に採取した血液から血清を得た。
【0280】
図9に示すデータによれば、多種多様なスペーサーを用いてリポペプチド構築体中のペプチド部分からPam2Cys部分を分離したときに、強い一次および二次抗体応答を得ることができる。
【0281】
脂質部分は、Tヘルパーエピトープ内部の内部リジン残基に結合することができる
脂質部分が結合する内部リジン残基の位置決定要件の厳密性を明確にするために、本発明者らは、Tヘルパーエピトープ内の内部リジン残基に脂質が結合したリポペプチド構築体の免疫原性も試験した。BALB/cマウス(0週齢および4週齡)の各グループに、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間の配列番号9で示されるアミノ酸配列にコンジュゲートされた、あるいは、Tヘルパーエピトープ内部のLys−14の位置において配列番号103で示されるアミノ酸配列にコンジュゲートされた脂質部分Pam2Cysを含むペプチド免疫原20nmolを皮下接種した。ペプチド構造を図7および10に示す。すべてのリポペプチドを生理食塩水に溶解して投与した。対照として、非脂質付加ペプチドをCFAに入れて投与した。一次ワクチン接種後4週目、および二次ワクチン接種後2週目に採取した血液から血清を得た。
【0282】
図11に示すデータによれば、脂質部分がどちらの位置に結合しているリポペプチドでも強い抗体応答を得ることができ、内部リジンの厳密な配置、およびその結果の脂質部分の厳密な配置は免疫原性に重要なものではないことを示唆している。
【0283】
考察
この研究において、本発明者らは、CD4+ T細胞エピトープ、1個または複数のB細胞エピトープを含む自己ペプチドLHRH、およびPam3CysまたはPam2Cysから構成される様々なリポペプチド免疫原の構築について述べる。
【0284】
脂質をほぼ中央に位置決定する必要性に対する厳格な要件を並べることなく、本発明者らは、脂質を、より一般的なN末端の位置の代わりに、T細胞エピトープとLHRHの間のペプチド免疫原のほぼ中央に配置することによって、得られるワクチンの可溶性が大きく改善されることを見出した。接種に必要な濃度の透明生理食塩水溶液を、これらの分枝構造によって容易に得ることができる。これに対して、脂質がN末端に結合した免疫原は可溶性が低く、濁ったまたは乳光色の生理食塩水溶液が得られた。抗体応答の検討、およびその後の受胎能試験によれば、水溶性リポペプチドは、一次接種から4週後に高い抗体価をもたらし、脂質がN末端に結合した可溶性の低いリポペプチドよりも効率的に妊娠を抑制した。水溶性自己アジュバント作用(self−adjuvanting)ワクチンは、一部可溶性材料または不溶性材料よりも明らかな利点があり、製造プロセスを単純化でき、用量の計量もより正確にできる。
【0285】
脂質部分の位置決定要件の厳密性の検討によれば、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間ではなくTヘルパーエピトープ内に脂質が位置するときでも免疫動物における抗体応答が観察されたことから、ある程度の自由度が予想される。
【0286】
リポペプチド用量を変える効果の検討によれば、Pam2Cys含有リポペプチドは、Pam3Cys含有ペプチドよりも優れた免疫原であることが示された。しかし、他のリピドペプチド(lipidopeptide)、例えば、Ste2Cys含有リポペプチド、Lau2Cys含有リポペプチド、およびOct2Cys含有リポペプチドも強い抗体応答を発生させるのに有用であった。
【0287】
本発明者らは、脂質部分とペプチド配列の間に2個のセリン残基または2個のアルギニン残基を挿入すると、得られるPam2Cys含有免疫原の効力が増大することを本研究で見出した。脂質がN末端に結合しているときには、2個のセリン残基は、脂質とペプチド配列の間の不活性スペーサーとして、またはTヘルパー細胞エピトープの延長部分として働き、おそらく免疫学的活性を調節しうるものとなる。脂質がリジン残基のε−アミノ基に分子の中央で結合する場合には、不活性スペーサーである、6−アミノヘキサン酸から類似した結果が得られるので、2個のセリン残基または2個のアルギニン残基はスペーサーとして働く。
【0288】
本発明者らは、リポペプチド構築体の免疫原性が、使用したTヘルパーエピトープまたはB細胞エピトープの特定のアミノ酸配列に依存しないことも見出した。これは、様々な抗原性B細胞エピトープに対する広範なリポペプチドをいくつかの異なる動物宿主において製造するために採られる手法が一般に有用であることを示すものである。
【0289】
マクロファージは、細胞表面受容体に結合する微生物産物によって刺激され、この結合現象から生じるシグナルはToll様受容体を介して伝達され、炎症誘発性サイトカインおよびケモカインの産生をもたらすと理解されている。これらの受容体はDC集団中にも存在し、結合すると、細胞の成熟および遊走のためのシグナル、ならびに効率的抗原提示に必要な分子の産生のためのシグナルを伝達する。
【0290】
この研究に使用される様々な合成リポペプチドワクチンは、DC成熟を評価するために使用されるマーカーである、未成熟DC表面上のクラスII MHC分子のアップレギュレーションを誘発することが判明した。これに対して、非脂質付加ペプチド構築体は、DCを成熟させることができず、このことは、脂質部分がその効果に寄与することを示している。リポペプチドによって誘発されるDC成熟の階層は、ペプチド構築体によって示される免疫原性の階層を反映したものであり、DCの成熟と相互作用し誘発するワクチンの能力が、おそらくは、成熟し排液性リンパ節に移動するシグナルを受けたDCによるCD4+ T細胞初回抗原刺激の効率を増加させることによって、より良好な免疫応答を導くことを意味している。
【0291】
リポペプチドは、追加のアジュバントの不在下で免疫応答を誘発することができ、したがって、非経口以外の経路によって送達することができる。したがって、本発明者らは、Pam2Cys含有ペプチドの鼻腔内接種後の抗体応答について検討した。ここで得られた結果によれば、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]またはPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]の鼻腔内接種は全身的抗LHRH抗体の力価を、皮下経路接種によって誘発されるそれよりも低下させ、免疫グロブリンのアイソタイププロファイルも異なっていた。可溶性リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]の鼻腔内接種は、皮下免疫よりも高レベルのIgG2bおよびIgG3を誘発し、低レベルのIgG1およびIgG2aを誘発する。これは、2つの免疫経路がある程度異なるサブセットのT細胞を誘発し、異なる部位で生じる異なるDC集団に部分的に起因する抗体産生を促進し得ることを示していると考えられる。これは、形状が異常な分子に対して樹状細胞が有する優先傾向を反映しているとも考えられる。
【0292】
水溶性ペプチド構築体[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]の鼻腔内接種は、1回目のワクチン投与から4週間後の抗LHRH抗体価が不溶性Pam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B]よりも有意に高くなった。これらのマウスを用いて実施した受胎能試験によれば、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]の鼻腔内接種のみが繁殖を完全に防ぐことができたことが示された。2回目の抗原投与後の両方のグループのマウスにおける抗体価は明らかに類似していたが、抗体の高力価は、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]に対する一次応答中にのみ誘発された。したがって、免疫的避妊ワクチンが有効であるためには、抗体の高力価が存在する時間が効力の重要な決定因子である可能性がある。
【0293】
まとめると、抗体価の測定および受胎能試験の結果によれば、B細胞エピトープとTヘルパーエピトープの間の、完全な合成ペプチドワクチンのほぼ中央におけるPam2Cysの配置は、可溶性とワクチンの免疫原性を高めることが示された。この改善された免疫原性は、これらの分枝ペプチドワクチンの脂質とペプチド配列の間に2個のセリン残基を導入することによってさらに改善される。脂質、自己アジュバント部分を、ペプチドを主体とするワクチンの異なる位置に組み込むと、生理学的、免疫学的および生物学的特性が大きく変わるという知見は、好結果を生むワクチン設計のための別の戦略を提供するものである。
【実施例3】
【0294】
A群ストレプトコッカスのMタンパク質に由来するB細胞エピトープを含むリポペプチドについての研究
複数の脂質の効果
リポペプチドの免疫原性が、ペプチドにコンジュゲートされた脂質の数によって決まるかどうかを試験するために、また、様々な抗原性B細胞エピトープ含有ペプチドに対して有効なリポペプチドを製剤化できることを実証するために、本発明者らは、CDV−F P25TヘルパーエピトープおよびA群ストレプトコッカスB細胞エピトープJ14を含むペプチド部分(すなわち、ペプチド部分は配列番号105のアミノ酸配列を有する)と、1個または2個の脂質部分とを含むリポペプチドを製造した。リポアミノ酸部分Pam2Cys−Ser−Serは、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する内部リジンに付加され、1個の構築体中で、別のリポアミノ酸部分Pam2Cys−Ser−SerもTヘルパーエピトープ中のN末端のリジンに付加された。
【0295】
4〜6週齡の非近交系クァッケンブッシュ雌マウス(15/グループ)に、ペプチドを主体とするワクチン60μgを総量30μlのPBSに溶解して鼻腔内接種した。マウスにワクチンを21日間隔で3回投与した。抗原の最終投与から6日後に糞便IgAを測定した。最終投与から7日後にマウスの尾静脈から採血し、J14−特異的血清IgGを測定した。間接的な殺菌アッセイも実施して、免疫マウスから得た血清がM1 GAS系統をインビトロでオプソニン化するまたは「死滅させる」かどうかを判定した。最終投与から8日後に個々のマウスから唾液を採取し、J14特異的唾液IgA平均抗体価を標準ELISAによって求めた。抗原の最終投与から2週間後にM1 GAS系統をマウスに鼻腔内投与し、その後様々な時点で生存しているかどうかを確認した。
【0296】
図12のデータによれば、非脂質付加ペプチドまたはPBSと比較して、どちらのリポペプチドを用いても有意な(P<0.05)血清IgG力価が誘発され、リポペプチド構築体がTヘルパーまたはB細胞エピトープの選択に依存せず、単一または複数の脂質部分を含むリポペプチドを使用して鼻腔内免疫後に高い血清IgGレベルを誘発することができることを示している。
【0297】
図13のデータも、1個または2個の脂質部分を有するJ14含有リポペプチドで免疫されたマウスから採取した血清が、対照の非脂質付加ペプチドまたはPBSで免疫されたマウスから採取される血清と比較して、やはり有意に(P<0.05)GASを死滅させることができたことを示している。
【0298】
図14のデータによれば、1個または2個の脂質部分を有するJ14含有リポペプチドを接種したマウスは、対照の非脂質付加ペプチドまたはPBSで免疫された対照グループよりも有意に(P<0.05)高い唾液IgA力価を示した。しかし、単一脂質付加ペプチドは、鼻腔内投与による唾液IgAレベルの誘発において、二脂質付加ペプチドよりもはるかに優れていた。
【0299】
TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に脂質部分が位置する単一脂質付加J14含有ペプチド(すなわち、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[J14])を接種したマウスのみ、最終免疫から6日後に、PBSまたは非脂質付加ペプチドと比較して有意な(P<0.05)糞便IgA力価を示したことは興味深い(図15)。これは、唾液IgAまたは血清IgGレベルを測定する前に糞便IgAが測定されたので、タイミングの結果かも知れない。あるいは、これは鼻腔内投与経路の結果かもしれない。他の説明も現時点では排除できない。
【0300】
図16に示すように、脂質部分がTヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する単一脂質付加J14含有ペプチド(すなわち、[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[J14])を接種したマウスは、二脂質付加ペプチドまたは非脂質付加ペプチドと比較して、GASを鼻腔内投与した後の生存率が最も高かった。しかし、二脂質付加ペプチドおよび非脂質付加ペプチドの両方で、J14ペプチド単独またはPBSと比較して、ある程度の防御免疫が得られた。
【0301】
要約すると、実施例2および3に示すデータによれば、本発明のリポペプチド製剤は、様々なTヘルパーエピトープおよびB細胞エピトープを用いて、動物、特にネズミモデルにおいて強い抗体応答を誘発するのに広範に適用可能である。また、リポペプチド製剤は、鼻腔内経路によって強いIgGおよびIgA応答が得られるので、特に鼻腔内投与に適している。しかし、本発明者らのデータによれば、少なくともJ14免疫原の場合には、一脂質付加ペプチドは、複数の脂質部分を含むリポペプチドよりも良好な粘膜アジュバントとして働くことができる。
【実施例4】
【0302】
ガストリンに由来するB細胞エピトープを含むリポペプチドについての研究
ガストリンに基づくリポペプチド免疫原の免疫原性を判定した。BALB/c雌マウスの尾の付け根にペプチドまたはリポペプチド免疫原20nmolを皮下接種した。すべてのリポペプチドをPBS溶液として投与し、非脂質付加ペプチドをCFAに入れて投与した。CFAで乳化した生理食塩水を陰性対照として用いた。使用したペプチドは、ガストリン−17(配列EGPWLEEEEEAYGWMDF;配列番号113)、ペンタガストリンがガストリン−17のC末端配列GWMDF(すなわち、配列番号102)である[P25]−Lys−[ペンタガストリン](配列番号110)、および[P25]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[ペンタガストリン]であった。免疫後4週目にマウスから血清を得た。同時に、ほぼ同じ用量の2回目の抗原をマウスに投与した。2回目の抗原投与からさらに2週間後に2回目の採血を行い、ペプチドガストリン−17配列と反応可能な抗体をELISAによって求めた。結果を抗ガストリン−17抗体力価として表す。
【0303】
図17に示すように、CFA中のガストリン−17を接種したマウスは、陰性対照のCFA中の生理食塩水と同レベルの抗ガストリン−17抗体を含んでいた。非脂質付加ペプチド[P25]−Lys−[ペンタガストリン]による免疫によって、極めて低レベルの抗ガストリン−17抗体が誘発されたが、リポペプチド[P25]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[ペンタガストリン]を投与したマウスは、CFA中のペプチドで免疫した後に誘発されるのと類似した高い抗体価を示した。これらのデータも、本発明のリポペプチド製剤が、様々なTヘルパーエピトープおよびB細胞エピトープを用いて、動物における強い抗体応答を誘発するのに広範に適用可能であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0304】
【図1】合成ペプチドおよびリポペプチド(左)の構造、ならびに生理食塩水中のこれらのペプチドおよびリポペプチドの相対的な可溶性(右)を示した図である。
【図2】図1において[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B](左)およびPam2Cys−Ser−Ser−[Th]−[B](右)と命名されたリポペプチドの可溶性を示す写真である。
【図3】図1に示すペプチドおよびリポペプチドの各々を用いて得られる抗LHRH抗体価を示すグラフである。
【図4】リポペプチド[Th]−Lys(Pam2Cys−Ser−Ser)−[B](配列番号7)の接種後の二次抗体応答中に得られたまたは誘発された、各抗LHRH抗体アイソタイプ(すなわち、IgM、IgA、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3および総Ig)(横軸)に対する抗LHRH抗体価(log10)(縦軸)を示すグラフである。
【図5】図1に示したペプチドおよびリポペプチド(すなわち、配列番号5または配列番号7)が、樹状細胞表面上のMHCクラスII分子の発現を増強させる相対能力を示すグラフである。
【図6】脂質付加[Th]−Lys(Pam2Cys)−[B]によって誘発される抗LHRH抗体応答を示すグラフである。
【図7a】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。
【図7b】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。
【図7c】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。
【図7d】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。
【図7e】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。
【図7f】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。
【図7g】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。
【図7h】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびLHRH2〜10(配列番号3)に基づく様々なリポペプチド構築体の構造データ、HPLCおよび質量スペクトルデータを示すグラフである。
【図8】ペプチドと脂質部分の間にSer−Serスペーサーを有する図7の説明に示すリポペプチドの免疫原性を示すグラフである。
【図9】脂質部分とペプチド部分の間に位置する様々なスペーサーを有する図7のリポペプチド免疫原の免疫原性を示すグラフである。
【図10】リポペプチド構築体[Th](Pam2Cys−Ser−Ser)−[B]の品質管理データを示すグラフである。
【図11】図10の説明に記載したリポペプチド免疫原の免疫原性を、TヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間に位置する内部リジン残基に付加した脂質部分を有するリポペプチド免疫原と比較して示すグラフである。
【図12】TヘルパーエピトープP25(配列番号24)およびA群ストレプトコッカスB細胞エピトープ(「J14」;配列番号101)を含み、配列番号106のアミノ酸配列、ならびに1個または2個の脂質部分を有するリポペプチドのマウスにおける血清IgG誘導能力を示すグラフである。
【図13】図12の説明に示した非脂質付加ペプチドおよびリポペプチドによって誘発される抗血清のオプソニン化能力を示すグラフである。
【図14】図12の説明に示した非脂質付加ペプチドおよびリポペプチドがマウスにおいて唾液IgAを誘発する能力を示すグラフである。
【図15】図12の説明に示した非脂質付加J14含有ペプチドおよびJ14含有リポペプチドがマウスにおいて糞便IgAを誘発する能力を示すグラフである。
【図16】図12の説明に示した非脂質付加ペプチドおよびリポペプチドを接種した後の細菌を用いた生存試験に対するマウスの能力を示すグラフである。
【図17】ガストリンに基づくリポペプチド免疫原の免疫原性を示すグラフである。BALB/cマウス(6〜8週齢)のグループ(5動物/グループ)に、ペプチド免疫原20nmolを尾の付け根に皮下接種した。
【配列表】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含むリポペプチドであって、
(i)前記ポリペプチドが、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列およびB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、ならびに
(b)内部リジンまたは内部リジン類似体のε−アミノ基または末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々が共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含むアミノ酸配列を含み、
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々が、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に共有結合している、
上記リポペプチド。
【請求項2】
前記脂質が前記リジン残基のε−アミノ基に結合している、請求項1に記載のリポペプチド。
【請求項3】
脂質部分が結合している前記内部リジン残基が、前記Thエピトープと前記B細胞エピトープの間に位置する、請求項1または2に記載のリポペプチド。
【請求項4】
脂質部分が結合している前記内部リジン残基が、前記Thエピトープ内に位置する、請求項1または2に記載のリポペプチド。
【請求項5】
2個の脂質部分を含む、請求項1または2に記載のリポペプチド。
【請求項6】
脂質部分が結合している内部リジン残基が、前記Thエピトープと前記B細胞エピトープの間に位置し、脂質部分が結合している内部リジン残基が前記Thエピトープ内に位置する、請求項5に記載のリポペプチド。
【請求項7】
前記脂質部分が一般式(VII):
【化1】
(式中、
(i)Xは、硫黄、酸素、ジスルフィド(−S−S−)、メチレン(−CH2−)およびアミノ(−NH−)からなる群から選択され、
(ii)mは、1または2の整数であり、
(iii)nは、0〜5の整数であり、
(iv)R1は、水素、カルボニル(−CO−)およびR’−CO−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
(v)R2は、R’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
(vi)R3は、R’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
R1、R2およびR3の各々は同じでも異なっていてもよい。)
の構造を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項8】
Xが硫黄であり、mとnがともに1であり、R1が水素およびR’−CO−(式中、R’は7〜25個の炭素原子を有するアルキル基である)からなる群から選択され、R2およびR3がR’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は7〜25個の炭素原子を有するアルキル基である)からなる群から選択される、請求項7に記載のリポペプチド。
【請求項9】
R’が、パルミトイル、ミリストイル、ステアロイル、ラウロイル、オクタノイルおよびデカノイルからなる群から選択される、請求項8に記載のリポペプチド。
【請求項10】
R’が、パルミトイル、ステアロイル、ラウロイル、オクタノイルおよびデカノイルからなる群から選択される、請求項9に記載のリポペプチド。
【請求項11】
前記脂質が、Pam2Cys、Pam3Cys、Ste2Cys、Lau2CysおよびOct2Cysからなる群から選択されるリポアミノ酸部分内に含まれる、請求項7から10のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項12】
前記リポアミノ酸部分が、Pam2Cys、Ste2Cys、Lau2CysおよびOct2Cysからなる群から選択される、請求項11に記載のリポペプチド。
【請求項13】
前記リポアミノ酸部分が、式(II):
【化2】
の構造を有する、請求項11に記載のリポペプチド。
【請求項14】
前記脂質部分が、以下の一般式(VIII):
【化3】
(式中、
(i)R4は、(i)約7〜約25個の炭素原子からなるα−アシル脂肪酸残基、(ii)α−アルキル−β−ヒドロキシ脂肪酸残基、(iii)α−アルキル−β−ヒドロキシ脂肪酸残基のβ−ヒドロキシエステル、および(iv)リポアミノ酸残基、からなる群から選択され、
(ii)R5は、水素、またはアミノ酸残基の側鎖である。)
を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項15】
前記脂質部分が前記ペプチド部分からスペーサーによって分離されている、請求項1から14のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項16】
前記スペーサーが、アルギニン、セリンまたは6−アミノヘキサン酸を含む、請求項15に記載のリポペプチド。
【請求項17】
前記スペーサーがセリンホモ二量体からなる、請求項15または16に記載のリポペプチド。
【請求項18】
前記スペーサーがアルギニンホモ二量体からなる、請求項15または16に記載のリポペプチド。
【請求項20】
前記スペーサーが6−アミノヘキサン酸からなる、請求項15または16に記載のリポペプチド。
【請求項21】
前記内部リジンまたは内部リジン類似体が、免疫原性の低い合成アミノ酸配列内に入れ子状に置かれている、請求項1から20のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項22】
前記Tヘルパーエピトープが、インフルエンザウイルス赤血球凝集素のTヘルパーエピトープ、またはイヌジステンパーウイルスF(CDV−F)タンパク質のTヘルパーエピトープである、請求項1から21のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項23】
前記インフルエンザウイルス赤血球凝集素のTヘルパーエピトープが、配列番号1または配列番号18で示されるアミノ酸配列を含む、請求項22に記載のリポペプチド。
【請求項24】
前記インフルエンザウイルス赤血球凝集素のTヘルパーエピトープが、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む、請求項23に記載のリポペプチド。
【請求項25】
前記CDV−Fタンパク質のTヘルパーエピトープが、配列番号24で示されるアミノ酸配列を含む、請求項22に記載のリポペプチド。
【請求項26】
前記B細胞エピトープが、ウイルスの免疫原性タンパク質、リポタンパク質または糖タンパク質に由来する、請求項1から25のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項27】
前記B細胞エピトープが、原核生物の免疫原性タンパク質、リポタンパク質または糖タンパク質に由来する、請求項1から25のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項28】
前記B細胞エピトープが、A群ストレプトコッカスのMタンパク質に由来する、請求項27に記載のリポペプチド。
【請求項29】
前記B細胞エピトープが、配列番号101で示されるアミノ酸配列を含む、請求項28に記載のリポペプチド
【請求項30】
前記B細胞エピトープが、真核生物の免疫原性タンパク質、リポタンパク質または糖タンパク質に由来する、請求項1から25のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項31】
前記真核生物が寄生生物である、請求項30に記載のリポペプチド。
【請求項32】
前記真核生物が哺乳動物である、請求項30に記載のリポペプチド。
【請求項33】
前記B細胞エピトープが、哺乳動物のペプチドホルモンに由来する、請求項32に記載のリポペプチド。
【請求項34】
前記ペプチドホルモンが、消化ホルモンまたは生殖ペプチドホルモンである、請求項33に記載のリポペプチド。
【請求項35】
前記消化ホルモンが、ガストリンまたはペンタガストリンである、請求項34に記載のリポペプチド。
【請求項36】
配列番号102または配列番号113で示されるアミノ酸配列を含む、請求項35に記載のリポペプチド。
【請求項37】
前記生殖ホルモンが、黄体形成ホルモン−放出ホルモン(LHRH)またはその断片である、請求項34に記載のリポペプチド。
【請求項38】
配列番号2または配列番号3または配列番号4で示されるアミノ酸配列を含む、請求項31に記載のリポペプチド。
【請求項39】
前記ポリペプチドが、
(xv)GALNNRFQIKGVELKSEHWSYGLRPG(配列番号5);
(xvi)GALNNRFQIKGVELKSKEHWSYGLRPG(配列番号7);
(xvii)KLIPNASLIENCTKAELKHWSYGLRPG(配列番号9);
(xviii)KLIPNASLIENCTKAELKGLRPG(配列番号13);
(xix)KLIPNASLIENCTKAELHWSYGLRPG(配列番号103);
(xx)KLIPNASLIENCTKAELGLRPG(配列番号104);
(xxi)KLIPNASLIENCTKAELKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号105);
(xxii)KLIPNASLIENCTKAELKKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号106);
(xxiii)GALNNRFQIKGVELKSKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号107);
(xxiv)GALNNRFQIKGVELKSKKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号108);
(xxv)KLIPNASLIENCTKAELGWMDF(配列番号109);
(xxvi)KLIPNASLIENCTKAELKGWMDF(配列番号110);
(xxvii)GALNNRFQIKGVELKSGWMDF(配列番号111);および
(xxviii)GALNNRFQIKGVELKSKGWMDF(配列番号112)。
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1から38のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項40】
未成熟樹状細胞(DC)上でのMHCクラスII分子の表面発現をアップレギュレート可能である、請求項1から39のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項41】
前記DCがD1細胞である、請求項40に記載のリポペプチド。
【請求項42】
1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含むリポペプチドであって、
(i)前記ポリペプチドが、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列およびB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、ならびに
(b)1個または複数の内部リジン残基のε−アミノ基を介して前記脂質部分の各々が共有結合するための1個または複数の内部リジン残基、
を含むアミノ酸配列を含み、
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々が、前記1個または複数の内部リジン残基のε−アミノ基に共有結合しており、
(iii)前記リポペプチドが一般式(VI):
【化4】
(式中、
エピトープは、TヘルパーエピトープまたはB細胞エピトープであり、
Aは、存在しても存在しなくてもよく、約1〜約6アミノ酸長のアミノ酸スペーサーからなり、
nは、1、2、3または4の整数であり、
Xは、NH、OおよびSからなる群から選択される末端側鎖基であり、
Yは、存在しても存在しなくてもよく、約1〜約6アミノ酸長の、アルギニン、セリンまたは6−アミノヘキサン酸を含むスペーサーからなり、
Zは、Pam2Cys、Pam3Cys、Ste2Cys、Lau2CysおよびOct2Cysからなる群から選択されるリポアミノ酸部分である。)
を有する、上記リポペプチド。
【請求項43】
Aが存在しない、請求項42に記載のリポペプチド。
【請求項44】
前記B細胞エピトープが、配列番号2または配列番号3または配列番号4で示されるアミノ酸配列を含む、請求項43に記載のリポペプチド。
【請求項45】
(i)前記B細胞エピトープが配列番号101で示されるアミノ酸配列を含み、(ii)Yが存在し、かつセリンホモ二量体からなり、(iii)ZがPam2Cysからなる、請求項43に記載のリポペプチド。
【請求項46】
前記Tヘルパーエピトープが配列番号24で示されるアミノ酸配列を含み、前記脂質部分が配列番号24内のリジン残基のε−アミノ基を介して前記ポリペプチドに結合している、請求項45に記載のリポペプチド。
【請求項47】
前記脂質部分が、配列番号24のLys−14を介して前記ポリペプチドに結合している、請求項45に記載のリポペプチド。
【請求項48】
(i)前記B細胞エピトープが配列番号102で示されるアミノ酸配列を含み、(ii)Yが存在し、かつセリンホモ二量体からなり、(iii)ZがPam2Cysからなる、請求項43に記載のリポペプチド。
【請求項49】
未成熟樹状細胞(DC)上のMHCクラスII分子の表面発現をアップレギュレート可能である、請求項42から48のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項50】
前記DCがD1細胞である、請求項49に記載のリポペプチド。
【請求項51】
(i)以下の(a)および(b):
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列およびB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含むアミノ酸配列を含むポリペプチドを製造するステップ、ならびに
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々を直接的または間接的に、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に共有結合させて、前記内部リジン残基のεアミノ基に結合した前記脂質部分を含む、または前記内部リジン類似体残基の末端側鎖基に結合した前記脂質部分を含むリポペプチドを製造するステップ、
を含む、リポペプチドを製造する方法。
【請求項52】
前記ポリペプチドを化学合成手段によって合成する、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記脂質部分を製造するステップをさらに含む、請求項51または52に記載の方法。
【請求項54】
前記脂質部分をリポアミノ酸として合成するステップを含む、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
スペーサーを前記リポアミノ酸のアミノ酸部分に付加するステップをさらに含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記脂質が、アルギニンホモ二量体またはセリンホモ二量体または6−アミノヘキサン酸を含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
縮合、付加、置換または酸化反応を実施するステップを含むプロセスにおいて、前記スペーサーを末端カルボキシ基を介して前記リポアミノ酸に付加するステップを含む、請求項55または56に記載の方法。
【請求項58】
前記スペーサーが、前記リポアミノ酸のポリペプチドへのコンジュゲートを促進する末端保護アミノ酸残基を含む、請求項55から57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記スペーサーの前記末端保護アミノ酸を脱保護するステップと、前記リポアミノ酸をポリペプチドにコンジュゲートするステップとをさらに含む、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
求核置換反応を実施するステップを含むプロセスにおいて、スペーサーを、前記ポリペプチドの非修飾εアミノ基に付加するステップを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項61】
前記ポリペプチドが、単一の内部リジンまたはリジン類似体残基とブロッキングされたN末端とを含むアミノ酸配列を有する、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記脂質が、アルギニンホモ二量体またはセリンホモ二量体または6−アミノヘキサン酸を含む、請求項60または61に記載の方法。
【請求項63】
請求項1から50のいずれか一項に記載のリポペプチドと、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤とを含む組成物。
【請求項64】
生物反応修飾物質(BRM)をさらに含む、請求項63に記載の組成物。
【請求項65】
被験体中の抗原性B細胞エピトープに対する抗体の産生を誘発する方法であって、請求項1から50のいずれか一項に記載のリポペプチド、または請求項63もしくは64に記載の組成物を、前記抗原性B細胞エピトープに対する抗体の産生を誘発するのに十分な時間および条件下で前記被験体に投与するステップを含む、上記方法。
【請求項66】
前記リポペプチドを前記被験体に鼻腔内投与する、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記リポペプチドを注射によって前記被験体に投与する、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
高力価抗体の産生を誘発するステップを含む、請求項65から67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
前記抗原性B細胞エピトープが病原体に由来し、前記病原体に対する中和抗体を産生させるステップを含む、請求項65から68のいずれか一項に記載の方法。
【請求項70】
前記抗原性B細胞エピトープに対するモノクローナル抗体を産生させるステップをさらに含む、請求項65から69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
被験体において不妊を誘導する方法であって、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含むリポペプチドを前記被験体に投与するステップを含み、
(i)前記ポリペプチドが、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、および生殖ホルモンもしくはホルモン受容体のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(c)前記1個または複数の脂質部分の各々が、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合しており、
(ii)前記リポペプチドを、前記抗原性B細胞エピトープに対する液性免疫応答を誘発するのに十分な時間と条件下で投与する、上記方法。
【請求項72】
前記リポペプチドを、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤とともに投与する、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記被験体における卵形成、精子形成、受精、着床または胚発生を阻止するのに十分な前記B細胞エピトープに対する二次免疫応答を発生させる、請求項71または72に記載の方法。
【請求項74】
抗体レベルが、免疫された雌性被験体の少なくとも単一生殖サイクルの間持続される、請求項71から73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項75】
前記B細胞エピトープが、黄体形成ホルモン−放出ホルモン(LHRH)のアミノ酸配列に由来する、請求項71から74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項76】
前記B細胞エピトープが、配列番号2または配列番号3または配列番号4で示されるアミノ酸配列を含む、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
前記Tヘルパーエピトープが、配列番号1または配列番号24で示されるアミノ酸配列を含む、請求項71から76のいずれか一項に記載の方法。
【請求項78】
前記脂質部分が、(i)Pam2Cys、(ii)Ste2Cys、(iii)Lau2Cysおよび(iv)Oct2Cysからなる群から選択されるリポアミノ酸を含む、請求項71から77のいずれか一項に記載の方法。
【請求項79】
前記リポペプチドを製造するステップをさらに含む、請求項71から78のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
前記被験体からあらかじめ採取した試料中の抗体レベルを測定するステップをさらに含む、請求項71から79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
前記被験体の受胎能力を決定するステップをさらに含む、請求項71から80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項82】
請求項1から50のいずれか一項に記載のリポペプチドを含む避妊薬であって、前記B細胞エピトープが生殖ホルモンまたはホルモン受容体に由来するものである、上記避妊薬。
【請求項83】
請求項44に記載のリポペプチドを含む避妊薬。
【請求項84】
動物被験体における受胎能を低下させる避妊薬の製造における、請求項44に記載のリポペプチドの使用。
【請求項85】
被験体中のA群ストレプトコッカス抗原に対する免疫応答を誘発する方法であって、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含むリポペプチドを前記被験体に投与するステップを含み、
(i)前記ポリペプチドが、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびA群ストレプトコッカス抗原のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(c)前記1個または複数の脂質部分の各々が、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合しており、
(ii)前記リポペプチドを、前記抗原性B細胞エピトープに対する液性免疫応答を誘発するのに十分な時間と条件下で投与する、上記方法。
【請求項86】
前記リポペプチドを、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤とともに投与する、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
A群ストレプトコッカスによる感染の蔓延を防止し、かつ/またはそれに続くA群ストレプトコッカスへの暴露後の被験体の罹患率もしくは死亡率を低下させるのに十分な、前記B細胞エピトープに対する二次免疫応答を発生させる、請求項85または86に記載の方法。
【請求項88】
前記B細胞エピトープが、A群ストレプトコッカスのMタンパク質のアミノ酸配列に由来する、請求項85から87のいずれか一項に記載の方法。
【請求項89】
前記B細胞エピトープが、配列番号101で示されるアミノ酸配列を含む、請求項88に記載の方法。
【請求項90】
前記Tヘルパーエピトープが、配列番号1または配列番号24で示されるアミノ酸配列を含む、請求項85から89のいずれか一項に記載の方法。
【請求項91】
前記脂質部分がPam2Cysを含む、請求項85から90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項92】
前記リポペプチドを製造するステップをさらに含む、請求項85から91のいずれか一項に記載の方法。
【請求項93】
前記被験体からあらかじめ採取した試料中の抗体レベルを測定するステップをさらに含む、請求項85から92のいずれか一項に記載の方法。
【請求項94】
請求項1から50のいずれか一項に記載のリポペプチドを含むワクチンであって、前記B細胞エピトープがA群ストレプトコッカスのMタンパク質に由来するものである、上記ワクチン。
【請求項95】
請求項45に記載のリポペプチドを含むワクチン。
【請求項96】
動物被験体における受胎能を低下させる避妊薬の製造における、請求項45に記載のリポペプチドの使用。
【請求項97】
被験体中のガストリンペプチドに対する免疫応答を誘発する方法であって、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含むリポペプチドを前記被験体に投与するステップを含み、
(i)前記ポリペプチドが、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびガストリンペプチド抗原のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(c)前記1個または複数の脂質部分の各々が、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合しており、
(ii)前記リポペプチドを、前記抗原性B細胞エピトープに対する液性免疫応答を誘発するのに十分な時間と条件下で投与する、上記方法。
【請求項98】
前記リポペプチドを、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤とともに投与する、請求項97に記載の方法。
【請求項99】
それを必要とする動物において胃酸分泌を阻害または遮断するのに十分な前記B細胞エピトープに対する二次免疫応答を発生させる、請求項97または98に記載の方法。
【請求項100】
前記動物が、高ガストリン血症、ゾリンジャーエリソン症候群、胃潰瘍、十二指腸潰瘍およびガストリノーマからなる群から選択される症状に罹患している、請求項99に記載の方法。
【請求項101】
前記B細胞エピトープが、ペンタガストリンのアミノ酸配列に由来する、請求項97から100のいずれか一項に記載の方法。
【請求項102】
前記B細胞エピトープが、配列番号102で示されるアミノ酸配列を含む、請求項101に記載の方法。
【請求項103】
前記Tヘルパーエピトープが、配列番号24で示されるアミノ酸配列を含む、請求項97から102のいずれか一項に記載の方法。
【請求項104】
前記脂質部分がPam2Cysを含む、請求項97から103のいずれか一項に記載の方法。
【請求項105】
前記リポペプチドを製造するステップをさらに含む、請求項99から104のいずれか一項に記載の方法。
【請求項106】
前記被験体からあらかじめ採取された試料中のガストリンに対する抗体レベルを測定するステップをさらに含む、請求項97から105のいずれか一項に記載の方法。
【請求項107】
請求項1から50のいずれか一項に記載のリポペプチドを含むワクチンであって、前記B細胞エピトープがガストリンポリペプチドに由来するものである、上記ワクチン。
【請求項108】
請求項46に記載のリポペプチドを含むワクチン。
【請求項109】
動物被験体における受胎能を低下させる避妊薬の製造における、請求項46に記載のリポペプチドの使用。
【請求項110】
前記抗体が、IgM、IgAおよびIgGからなる群から選択される免疫グロブリンを含む、請求項65から70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項111】
前記免疫グロブリンがIgMである、請求項110に記載の方法。
【請求項112】
前記免疫グロブリンがIgAである、請求項110に記載の方法。
【請求項113】
前記免疫グロブリンがIgGである、請求項110に記載の方法。
【請求項114】
前記IgGが、IgG1、IgG2a、IgG2bおよびIgG3からなる群から選択される、請求項113に記載の方法。
【請求項1】
1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含むリポペプチドであって、
(i)前記ポリペプチドが、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列およびB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、ならびに
(b)内部リジンまたは内部リジン類似体のε−アミノ基または末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々が共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含むアミノ酸配列を含み、
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々が、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に共有結合している、
上記リポペプチド。
【請求項2】
前記脂質が前記リジン残基のε−アミノ基に結合している、請求項1に記載のリポペプチド。
【請求項3】
脂質部分が結合している前記内部リジン残基が、前記Thエピトープと前記B細胞エピトープの間に位置する、請求項1または2に記載のリポペプチド。
【請求項4】
脂質部分が結合している前記内部リジン残基が、前記Thエピトープ内に位置する、請求項1または2に記載のリポペプチド。
【請求項5】
2個の脂質部分を含む、請求項1または2に記載のリポペプチド。
【請求項6】
脂質部分が結合している内部リジン残基が、前記Thエピトープと前記B細胞エピトープの間に位置し、脂質部分が結合している内部リジン残基が前記Thエピトープ内に位置する、請求項5に記載のリポペプチド。
【請求項7】
前記脂質部分が一般式(VII):
【化1】
(式中、
(i)Xは、硫黄、酸素、ジスルフィド(−S−S−)、メチレン(−CH2−)およびアミノ(−NH−)からなる群から選択され、
(ii)mは、1または2の整数であり、
(iii)nは、0〜5の整数であり、
(iv)R1は、水素、カルボニル(−CO−)およびR’−CO−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
(v)R2は、R’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
(vi)R3は、R’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
R1、R2およびR3の各々は同じでも異なっていてもよい。)
の構造を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項8】
Xが硫黄であり、mとnがともに1であり、R1が水素およびR’−CO−(式中、R’は7〜25個の炭素原子を有するアルキル基である)からなる群から選択され、R2およびR3がR’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は7〜25個の炭素原子を有するアルキル基である)からなる群から選択される、請求項7に記載のリポペプチド。
【請求項9】
R’が、パルミトイル、ミリストイル、ステアロイル、ラウロイル、オクタノイルおよびデカノイルからなる群から選択される、請求項8に記載のリポペプチド。
【請求項10】
R’が、パルミトイル、ステアロイル、ラウロイル、オクタノイルおよびデカノイルからなる群から選択される、請求項9に記載のリポペプチド。
【請求項11】
前記脂質が、Pam2Cys、Pam3Cys、Ste2Cys、Lau2CysおよびOct2Cysからなる群から選択されるリポアミノ酸部分内に含まれる、請求項7から10のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項12】
前記リポアミノ酸部分が、Pam2Cys、Ste2Cys、Lau2CysおよびOct2Cysからなる群から選択される、請求項11に記載のリポペプチド。
【請求項13】
前記リポアミノ酸部分が、式(II):
【化2】
の構造を有する、請求項11に記載のリポペプチド。
【請求項14】
前記脂質部分が、以下の一般式(VIII):
【化3】
(式中、
(i)R4は、(i)約7〜約25個の炭素原子からなるα−アシル脂肪酸残基、(ii)α−アルキル−β−ヒドロキシ脂肪酸残基、(iii)α−アルキル−β−ヒドロキシ脂肪酸残基のβ−ヒドロキシエステル、および(iv)リポアミノ酸残基、からなる群から選択され、
(ii)R5は、水素、またはアミノ酸残基の側鎖である。)
を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項15】
前記脂質部分が前記ペプチド部分からスペーサーによって分離されている、請求項1から14のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項16】
前記スペーサーが、アルギニン、セリンまたは6−アミノヘキサン酸を含む、請求項15に記載のリポペプチド。
【請求項17】
前記スペーサーがセリンホモ二量体からなる、請求項15または16に記載のリポペプチド。
【請求項18】
前記スペーサーがアルギニンホモ二量体からなる、請求項15または16に記載のリポペプチド。
【請求項20】
前記スペーサーが6−アミノヘキサン酸からなる、請求項15または16に記載のリポペプチド。
【請求項21】
前記内部リジンまたは内部リジン類似体が、免疫原性の低い合成アミノ酸配列内に入れ子状に置かれている、請求項1から20のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項22】
前記Tヘルパーエピトープが、インフルエンザウイルス赤血球凝集素のTヘルパーエピトープ、またはイヌジステンパーウイルスF(CDV−F)タンパク質のTヘルパーエピトープである、請求項1から21のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項23】
前記インフルエンザウイルス赤血球凝集素のTヘルパーエピトープが、配列番号1または配列番号18で示されるアミノ酸配列を含む、請求項22に記載のリポペプチド。
【請求項24】
前記インフルエンザウイルス赤血球凝集素のTヘルパーエピトープが、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む、請求項23に記載のリポペプチド。
【請求項25】
前記CDV−Fタンパク質のTヘルパーエピトープが、配列番号24で示されるアミノ酸配列を含む、請求項22に記載のリポペプチド。
【請求項26】
前記B細胞エピトープが、ウイルスの免疫原性タンパク質、リポタンパク質または糖タンパク質に由来する、請求項1から25のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項27】
前記B細胞エピトープが、原核生物の免疫原性タンパク質、リポタンパク質または糖タンパク質に由来する、請求項1から25のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項28】
前記B細胞エピトープが、A群ストレプトコッカスのMタンパク質に由来する、請求項27に記載のリポペプチド。
【請求項29】
前記B細胞エピトープが、配列番号101で示されるアミノ酸配列を含む、請求項28に記載のリポペプチド
【請求項30】
前記B細胞エピトープが、真核生物の免疫原性タンパク質、リポタンパク質または糖タンパク質に由来する、請求項1から25のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項31】
前記真核生物が寄生生物である、請求項30に記載のリポペプチド。
【請求項32】
前記真核生物が哺乳動物である、請求項30に記載のリポペプチド。
【請求項33】
前記B細胞エピトープが、哺乳動物のペプチドホルモンに由来する、請求項32に記載のリポペプチド。
【請求項34】
前記ペプチドホルモンが、消化ホルモンまたは生殖ペプチドホルモンである、請求項33に記載のリポペプチド。
【請求項35】
前記消化ホルモンが、ガストリンまたはペンタガストリンである、請求項34に記載のリポペプチド。
【請求項36】
配列番号102または配列番号113で示されるアミノ酸配列を含む、請求項35に記載のリポペプチド。
【請求項37】
前記生殖ホルモンが、黄体形成ホルモン−放出ホルモン(LHRH)またはその断片である、請求項34に記載のリポペプチド。
【請求項38】
配列番号2または配列番号3または配列番号4で示されるアミノ酸配列を含む、請求項31に記載のリポペプチド。
【請求項39】
前記ポリペプチドが、
(xv)GALNNRFQIKGVELKSEHWSYGLRPG(配列番号5);
(xvi)GALNNRFQIKGVELKSKEHWSYGLRPG(配列番号7);
(xvii)KLIPNASLIENCTKAELKHWSYGLRPG(配列番号9);
(xviii)KLIPNASLIENCTKAELKGLRPG(配列番号13);
(xix)KLIPNASLIENCTKAELHWSYGLRPG(配列番号103);
(xx)KLIPNASLIENCTKAELGLRPG(配列番号104);
(xxi)KLIPNASLIENCTKAELKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号105);
(xxii)KLIPNASLIENCTKAELKKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号106);
(xxiii)GALNNRFQIKGVELKSKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号107);
(xxiv)GALNNRFQIKGVELKSKKQAEDKVKASREAKKQVEKALEQLEDKVK(配列番号108);
(xxv)KLIPNASLIENCTKAELGWMDF(配列番号109);
(xxvi)KLIPNASLIENCTKAELKGWMDF(配列番号110);
(xxvii)GALNNRFQIKGVELKSGWMDF(配列番号111);および
(xxviii)GALNNRFQIKGVELKSKGWMDF(配列番号112)。
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1から38のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項40】
未成熟樹状細胞(DC)上でのMHCクラスII分子の表面発現をアップレギュレート可能である、請求項1から39のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項41】
前記DCがD1細胞である、請求項40に記載のリポペプチド。
【請求項42】
1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含むリポペプチドであって、
(i)前記ポリペプチドが、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列およびB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、ならびに
(b)1個または複数の内部リジン残基のε−アミノ基を介して前記脂質部分の各々が共有結合するための1個または複数の内部リジン残基、
を含むアミノ酸配列を含み、
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々が、前記1個または複数の内部リジン残基のε−アミノ基に共有結合しており、
(iii)前記リポペプチドが一般式(VI):
【化4】
(式中、
エピトープは、TヘルパーエピトープまたはB細胞エピトープであり、
Aは、存在しても存在しなくてもよく、約1〜約6アミノ酸長のアミノ酸スペーサーからなり、
nは、1、2、3または4の整数であり、
Xは、NH、OおよびSからなる群から選択される末端側鎖基であり、
Yは、存在しても存在しなくてもよく、約1〜約6アミノ酸長の、アルギニン、セリンまたは6−アミノヘキサン酸を含むスペーサーからなり、
Zは、Pam2Cys、Pam3Cys、Ste2Cys、Lau2CysおよびOct2Cysからなる群から選択されるリポアミノ酸部分である。)
を有する、上記リポペプチド。
【請求項43】
Aが存在しない、請求項42に記載のリポペプチド。
【請求項44】
前記B細胞エピトープが、配列番号2または配列番号3または配列番号4で示されるアミノ酸配列を含む、請求項43に記載のリポペプチド。
【請求項45】
(i)前記B細胞エピトープが配列番号101で示されるアミノ酸配列を含み、(ii)Yが存在し、かつセリンホモ二量体からなり、(iii)ZがPam2Cysからなる、請求項43に記載のリポペプチド。
【請求項46】
前記Tヘルパーエピトープが配列番号24で示されるアミノ酸配列を含み、前記脂質部分が配列番号24内のリジン残基のε−アミノ基を介して前記ポリペプチドに結合している、請求項45に記載のリポペプチド。
【請求項47】
前記脂質部分が、配列番号24のLys−14を介して前記ポリペプチドに結合している、請求項45に記載のリポペプチド。
【請求項48】
(i)前記B細胞エピトープが配列番号102で示されるアミノ酸配列を含み、(ii)Yが存在し、かつセリンホモ二量体からなり、(iii)ZがPam2Cysからなる、請求項43に記載のリポペプチド。
【請求項49】
未成熟樹状細胞(DC)上のMHCクラスII分子の表面発現をアップレギュレート可能である、請求項42から48のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項50】
前記DCがD1細胞である、請求項49に記載のリポペプチド。
【請求項51】
(i)以下の(a)および(b):
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列およびB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含むアミノ酸配列を含むポリペプチドを製造するステップ、ならびに
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々を直接的または間接的に、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に共有結合させて、前記内部リジン残基のεアミノ基に結合した前記脂質部分を含む、または前記内部リジン類似体残基の末端側鎖基に結合した前記脂質部分を含むリポペプチドを製造するステップ、
を含む、リポペプチドを製造する方法。
【請求項52】
前記ポリペプチドを化学合成手段によって合成する、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記脂質部分を製造するステップをさらに含む、請求項51または52に記載の方法。
【請求項54】
前記脂質部分をリポアミノ酸として合成するステップを含む、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
スペーサーを前記リポアミノ酸のアミノ酸部分に付加するステップをさらに含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記脂質が、アルギニンホモ二量体またはセリンホモ二量体または6−アミノヘキサン酸を含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
縮合、付加、置換または酸化反応を実施するステップを含むプロセスにおいて、前記スペーサーを末端カルボキシ基を介して前記リポアミノ酸に付加するステップを含む、請求項55または56に記載の方法。
【請求項58】
前記スペーサーが、前記リポアミノ酸のポリペプチドへのコンジュゲートを促進する末端保護アミノ酸残基を含む、請求項55から57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記スペーサーの前記末端保護アミノ酸を脱保護するステップと、前記リポアミノ酸をポリペプチドにコンジュゲートするステップとをさらに含む、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
求核置換反応を実施するステップを含むプロセスにおいて、スペーサーを、前記ポリペプチドの非修飾εアミノ基に付加するステップを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項61】
前記ポリペプチドが、単一の内部リジンまたはリジン類似体残基とブロッキングされたN末端とを含むアミノ酸配列を有する、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記脂質が、アルギニンホモ二量体またはセリンホモ二量体または6−アミノヘキサン酸を含む、請求項60または61に記載の方法。
【請求項63】
請求項1から50のいずれか一項に記載のリポペプチドと、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤とを含む組成物。
【請求項64】
生物反応修飾物質(BRM)をさらに含む、請求項63に記載の組成物。
【請求項65】
被験体中の抗原性B細胞エピトープに対する抗体の産生を誘発する方法であって、請求項1から50のいずれか一項に記載のリポペプチド、または請求項63もしくは64に記載の組成物を、前記抗原性B細胞エピトープに対する抗体の産生を誘発するのに十分な時間および条件下で前記被験体に投与するステップを含む、上記方法。
【請求項66】
前記リポペプチドを前記被験体に鼻腔内投与する、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記リポペプチドを注射によって前記被験体に投与する、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
高力価抗体の産生を誘発するステップを含む、請求項65から67のいずれか一項に記載の方法。
【請求項69】
前記抗原性B細胞エピトープが病原体に由来し、前記病原体に対する中和抗体を産生させるステップを含む、請求項65から68のいずれか一項に記載の方法。
【請求項70】
前記抗原性B細胞エピトープに対するモノクローナル抗体を産生させるステップをさらに含む、請求項65から69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
被験体において不妊を誘導する方法であって、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含むリポペプチドを前記被験体に投与するステップを含み、
(i)前記ポリペプチドが、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、および生殖ホルモンもしくはホルモン受容体のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(c)前記1個または複数の脂質部分の各々が、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合しており、
(ii)前記リポペプチドを、前記抗原性B細胞エピトープに対する液性免疫応答を誘発するのに十分な時間と条件下で投与する、上記方法。
【請求項72】
前記リポペプチドを、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤とともに投与する、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記被験体における卵形成、精子形成、受精、着床または胚発生を阻止するのに十分な前記B細胞エピトープに対する二次免疫応答を発生させる、請求項71または72に記載の方法。
【請求項74】
抗体レベルが、免疫された雌性被験体の少なくとも単一生殖サイクルの間持続される、請求項71から73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項75】
前記B細胞エピトープが、黄体形成ホルモン−放出ホルモン(LHRH)のアミノ酸配列に由来する、請求項71から74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項76】
前記B細胞エピトープが、配列番号2または配列番号3または配列番号4で示されるアミノ酸配列を含む、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
前記Tヘルパーエピトープが、配列番号1または配列番号24で示されるアミノ酸配列を含む、請求項71から76のいずれか一項に記載の方法。
【請求項78】
前記脂質部分が、(i)Pam2Cys、(ii)Ste2Cys、(iii)Lau2Cysおよび(iv)Oct2Cysからなる群から選択されるリポアミノ酸を含む、請求項71から77のいずれか一項に記載の方法。
【請求項79】
前記リポペプチドを製造するステップをさらに含む、請求項71から78のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
前記被験体からあらかじめ採取した試料中の抗体レベルを測定するステップをさらに含む、請求項71から79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
前記被験体の受胎能力を決定するステップをさらに含む、請求項71から80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項82】
請求項1から50のいずれか一項に記載のリポペプチドを含む避妊薬であって、前記B細胞エピトープが生殖ホルモンまたはホルモン受容体に由来するものである、上記避妊薬。
【請求項83】
請求項44に記載のリポペプチドを含む避妊薬。
【請求項84】
動物被験体における受胎能を低下させる避妊薬の製造における、請求項44に記載のリポペプチドの使用。
【請求項85】
被験体中のA群ストレプトコッカス抗原に対する免疫応答を誘発する方法であって、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含むリポペプチドを前記被験体に投与するステップを含み、
(i)前記ポリペプチドが、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびA群ストレプトコッカス抗原のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(c)前記1個または複数の脂質部分の各々が、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合しており、
(ii)前記リポペプチドを、前記抗原性B細胞エピトープに対する液性免疫応答を誘発するのに十分な時間と条件下で投与する、上記方法。
【請求項86】
前記リポペプチドを、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤とともに投与する、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
A群ストレプトコッカスによる感染の蔓延を防止し、かつ/またはそれに続くA群ストレプトコッカスへの暴露後の被験体の罹患率もしくは死亡率を低下させるのに十分な、前記B細胞エピトープに対する二次免疫応答を発生させる、請求項85または86に記載の方法。
【請求項88】
前記B細胞エピトープが、A群ストレプトコッカスのMタンパク質のアミノ酸配列に由来する、請求項85から87のいずれか一項に記載の方法。
【請求項89】
前記B細胞エピトープが、配列番号101で示されるアミノ酸配列を含む、請求項88に記載の方法。
【請求項90】
前記Tヘルパーエピトープが、配列番号1または配列番号24で示されるアミノ酸配列を含む、請求項85から89のいずれか一項に記載の方法。
【請求項91】
前記脂質部分がPam2Cysを含む、請求項85から90のいずれか一項に記載の方法。
【請求項92】
前記リポペプチドを製造するステップをさらに含む、請求項85から91のいずれか一項に記載の方法。
【請求項93】
前記被験体からあらかじめ採取した試料中の抗体レベルを測定するステップをさらに含む、請求項85から92のいずれか一項に記載の方法。
【請求項94】
請求項1から50のいずれか一項に記載のリポペプチドを含むワクチンであって、前記B細胞エピトープがA群ストレプトコッカスのMタンパク質に由来するものである、上記ワクチン。
【請求項95】
請求項45に記載のリポペプチドを含むワクチン。
【請求項96】
動物被験体における受胎能を低下させる避妊薬の製造における、請求項45に記載のリポペプチドの使用。
【請求項97】
被験体中のガストリンペプチドに対する免疫応答を誘発する方法であって、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含むリポペプチドを前記被験体に投与するステップを含み、
(i)前記ポリペプチドが、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびガストリンペプチド抗原のB細胞エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(c)前記1個または複数の脂質部分の各々が、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合しており、
(ii)前記リポペプチドを、前記抗原性B細胞エピトープに対する液性免疫応答を誘発するのに十分な時間と条件下で投与する、上記方法。
【請求項98】
前記リポペプチドを、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤とともに投与する、請求項97に記載の方法。
【請求項99】
それを必要とする動物において胃酸分泌を阻害または遮断するのに十分な前記B細胞エピトープに対する二次免疫応答を発生させる、請求項97または98に記載の方法。
【請求項100】
前記動物が、高ガストリン血症、ゾリンジャーエリソン症候群、胃潰瘍、十二指腸潰瘍およびガストリノーマからなる群から選択される症状に罹患している、請求項99に記載の方法。
【請求項101】
前記B細胞エピトープが、ペンタガストリンのアミノ酸配列に由来する、請求項97から100のいずれか一項に記載の方法。
【請求項102】
前記B細胞エピトープが、配列番号102で示されるアミノ酸配列を含む、請求項101に記載の方法。
【請求項103】
前記Tヘルパーエピトープが、配列番号24で示されるアミノ酸配列を含む、請求項97から102のいずれか一項に記載の方法。
【請求項104】
前記脂質部分がPam2Cysを含む、請求項97から103のいずれか一項に記載の方法。
【請求項105】
前記リポペプチドを製造するステップをさらに含む、請求項99から104のいずれか一項に記載の方法。
【請求項106】
前記被験体からあらかじめ採取された試料中のガストリンに対する抗体レベルを測定するステップをさらに含む、請求項97から105のいずれか一項に記載の方法。
【請求項107】
請求項1から50のいずれか一項に記載のリポペプチドを含むワクチンであって、前記B細胞エピトープがガストリンポリペプチドに由来するものである、上記ワクチン。
【請求項108】
請求項46に記載のリポペプチドを含むワクチン。
【請求項109】
動物被験体における受胎能を低下させる避妊薬の製造における、請求項46に記載のリポペプチドの使用。
【請求項110】
前記抗体が、IgM、IgAおよびIgGからなる群から選択される免疫グロブリンを含む、請求項65から70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項111】
前記免疫グロブリンがIgMである、請求項110に記載の方法。
【請求項112】
前記免疫グロブリンがIgAである、請求項110に記載の方法。
【請求項113】
前記免疫グロブリンがIgGである、請求項110に記載の方法。
【請求項114】
前記IgGが、IgG1、IgG2a、IgG2bおよびIgG3からなる群から選択される、請求項113に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図7e】
【図7f】
【図7g】
【図7h】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7a】
【図7b】
【図7c】
【図7d】
【図7e】
【図7f】
【図7g】
【図7h】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2006−513140(P2006−513140A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−526517(P2004−526517)
【出願日】平成15年8月12日(2003.8.12)
【国際出願番号】PCT/AU2003/001018
【国際公開番号】WO2004/014956
【国際公開日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【出願人】(500057995)ザ カウンシル オブ ザ クイーンズランド インスティテュート オブ メディカル リサーチ (6)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成15年8月12日(2003.8.12)
【国際出願番号】PCT/AU2003/001018
【国際公開番号】WO2004/014956
【国際公開日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【出願人】(500057995)ザ カウンシル オブ ザ クイーンズランド インスティテュート オブ メディカル リサーチ (6)
【Fターム(参考)】
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