説明

VLA−4によって媒介される白血球接着を阻害するピリミジニルアミド化合物

VLA−4を結合する化合物を開示する。また、これらの特定の化合物は、白血球接着、特に、VLA−4によって媒介される白血球接着を阻害する。このような化合物は、ヒトまたは動物対象の炎症性疾患、例えば、喘息、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化、エイズ認知症、糖尿病、炎症性腸疾患、クローン病、関節リウマチ、組織移植、腫瘍転移および心筋虚血症の治療で有用である。また本化合物は、多発性硬化症などの炎症性脳疾患を治療するために投与することもできる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、同時継続中の米国仮特許出願第60/722,358号(2005年9月29日出願)に対する、米国特許法第119条(e)の下の優先権を主張する。この米国出願は、その全体が、本明細書中で参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、白血球接着、特にα4インテグリン(ここで、α4インテグリンは好ましくはVLA−4である)によって媒介される白血球接着を阻害する化合物に関する。本発明はまた、このような化合物を含む医薬組成物、ならびに、本発明の化合物または医薬組成物を用いる、例えば炎症などの治療方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(参考文献)
以下の刊行物は、上付き数字として本願に引用されている。
1 HemlerおよびTakada,欧州特許出願公開第330,506号(1989年8月30日公開)
2 Elices,ら,Cell,60:577584(1990)
3 Springer,Nature,346:425434(1990)
4 Osborn,Cell,62:36(1990)
5 Vedder,ら,Surgery,106:509(1989)
6 Pretolani,ら,J.Exp.Med.,180:795(1994)
7 Abraham,ら,J.Clin.Invest.,93:776(1994)
8 Mulligan,ら,J.Immunology,150:2407(1993)
9 Cybulsky,ら,Science,251:788(1991)
10 Li,ら,Arterioscler.Thromb.,13:197(1993)
11 Sasseville,ら,Am.J.Path.,144:27(1994)
12 Yang,ら,Proc.Nat.Acad.Science(USA),90:10494(1993)
13 Burkly,ら,Diabetes,43:529(1994)
14 Baron,ら,J.Clin.Invest.,93:1700(1994)
15 Hamann,ら,J.Immunology,152:3238(1994)
16 Yednock,ら,Nature,356:63(1992)
17 Baron,ら,J.Exp.Med.,177:57(1993)
18 vanDinther−Janssen,ら,J.Immunology,147:4207(1991)
19 vanDinther−Janssen,ら,Annals.RheumaticDis.,52:672(1993)
20 Elices,ら,J.Clin.Invest.,93:405(1994)
21 Postigo,ら,J.Clin.Invest.,89:1445(1991)
22 Paul,ら,Transpl.Proceed.,25:813(1993)
23 Okarhara,ら,Can.Res.,54:3233(1994)
24 Paavonen,ら,Int.J.Can.,58:298(1994)
25 Schadendorf,ら,J.Path.,170:429(1993)
26 Bao,ら,Diff.,52:239(1993)
27 Lauri,ら,BritishJ.Cancer,68:862(1993)
28 Kawaguchi,ら,JapaneseJ.CancerRes.,83:1304(1992)
29 Konradi,ら,PCT/US00/01686(2000年1月21日出願)
上記のすべての刊行物は、それぞれの個々の刊行物の内容が具体的かつ個別にその全体が引用により援用されるよう記載されたのと同じ程度まで、その全体が引用により援用される。
【0004】
(背景技術)
HemlerおよびTakada(特許文献1)によって最初に同定されたVLA−4(α4β1インテグリンおよびCD49d/CD29とも呼ばれる)は、細胞表面レセプターのβ1インテグリンファミリーのメンバーである。その各々は、2つのサブユニット、α鎖およびβ鎖を含んでいる。VLA−4は、α4鎖およびβ1鎖を含有する。少なくとも9つのβ1インテグリンが存在し、これらはすべて同じβ1鎖を共有し、それぞれ異なるα鎖を有する。これらの9つのレセプターはすべて、種々の細胞マトリックス分子の異なる補体(例えば、フィブロネクチン、ラミニン、およびコラーゲン)に結合する。例えば、VLA−4は、フィブロネクチンに結合する。VLA−4はまた、内皮細胞および他の細胞によって発現される非マトリックス分子にも結合する。これらの非マトリックス分子としてはVCAM−1が挙げられるが、これは、培養物中のサイトカイン活性化ヒト臍静脈内皮細胞上で発現される。VLA−4の別のエピトープは、フィブロネクチン結合活性およびVCAM−1結合活性を担っており、各活性は、独立して阻害されることが明らかになっている(非特許文献1)。
【0005】
VLA−4および他の細胞表面レセプターによって媒介される細胞間接着は、多くの炎症応答と関連している。傷害または他の炎症性刺激部位において、活性化された血管内皮細胞は、白血球に接着する分子を発現する。白血球が内皮細胞に接着する機構には、一つとして、白血球上の細胞表面レセプターが、内皮細胞上の対応する細胞表面分子を認識し結合することが含まれる。一旦結合すると、その白血球は、血管壁を横切って移動して傷害部位へ入り、化学メディエーターを放出して感染に対抗する。免疫系の接着レセプターの総説については、例えば、Springer(非特許文献2)およびOsborn(非特許文献3)を参照されたい。
【0006】
炎症性脳障害、例えば、実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)、多発性硬化症(MS)、および髄膜炎などは、内皮/白血球接着機構が、さもなければ健常な脳組織を破壊する中枢神経系障害の例である。これらの炎症性疾患に罹患した対象では、多数の白血球が脳血液関門(BBB)を越えて移動する。白血球は、広範囲な組織損傷をもたらす毒性メディエーターを放出し、神経伝達障害および神経麻痺を引き起こす。
【0007】
他の器官系において、組織損傷は接着機構を介しても起こり、白血球の移動または活性化をもたらす。例えば、心臓組織に対する心筋虚血後の初期障害は、損傷組織へ白血球が侵入することによりさらに複雑化し、さらなる障害を引き起こす可能性があることが知られている(Vedderら)(非特許文献4)。接着機構により媒介される他の炎症症状または病的症状としては、例えば、喘息6〜8(非特許文献5〜7)、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化9〜10(非特許文献8〜9)、エイズ認知症11(非特許文献10)、糖尿病12〜14(非特許文献11〜13)(急性若年性糖尿病を含む)、炎症性腸疾患15(非特許文献14)(潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む)、多発性硬化症16〜17(非特許文献15〜16)、関節リウマチ18〜21(非特許文献17〜20)、組織移植22(非特許文献21)、腫瘍転移23〜28(非特許文献22〜27)、髄膜炎、脳炎、卒中、および他の大脳外傷、腎炎、網膜炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、心筋虚血、および急性白血病媒介性肺損傷(成人呼吸窮迫症候群において生じる肺損傷など)が挙げられる。
【0008】
一分類としての置換アミノピリミジンは、VLA−4のVCAM−1への結合を阻害し、したがって、抗炎症特性を示すことが開示されている29。これらの化合物は、このような結合に対してアンタゴニスト特性を有し、これらの化合物のバイオアベイラビリティが高まるとそれらの効果は増大する。
【特許文献1】欧州特許出願公開第330,506号明細書
【非特許文献1】Elices,ら,Cell,60:577584(1990)
【非特許文献2】Springer,Nature,346:425434(1990)
【非特許文献3】Osborn,Cell,62:36(1990)
【非特許文献4】Vedder,ら,Surgery,106:509(1989)
【非特許文献5】Pretolani,ら,J.Exp.Med.,180:795(1994)
【非特許文献6】Abraham,ら,J.Clin.Invest.,93:776(1994)
【非特許文献7】Mulligan,ら,J.Immunology,150:2407(1993)
【非特許文献8】Cybulsky,ら,Science,251:788(1991)
【非特許文献9】Li,ら,Arterioscler.Thromb.,13:197(1993)
【非特許文献10】Sasseville,ら,Am.J.Path.,144:27(1994)
【非特許文献11】Yang,ら,Proc.Nat.Acad.Science(USA),90:10494(1993)
【非特許文献12】Burkly,ら,Diabetes,43:529(1994)
【非特許文献13】Baron,ら,J.Clin.Invest.,93:1700(1994)
【非特許文献14】Hamann,ら,J.Immunology,152:3238(1994)
【非特許文献15】Yednock,ら,Nature,356:63(1992)
【非特許文献16】Baron,ら,J.Exp.Med.,177:57(1993)
【非特許文献17】vanDinther−Janssen,ら,J.Immunology,147:4207(1991)
【非特許文献18】vanDinther−Janssen,ら,Annals.RheumaticDis.,52:672(1993)
【非特許文献19】Elices,ら,J.Clin.Invest.,93:405(1994)
【非特許文献20】Postigo,ら,J.Clin.Invest.,89:1445(1991)
【非特許文献21】Paul,ら,Transpl.Proceed.,25:813(1993)
【非特許文献22】Okarhara,ら,Can.Res.,54:3233(1994)
【非特許文献23】Paavonen,ら,Int.J.Can.,58:298(1994)
【非特許文献24】Schadendorf,ら,J.Path.,170:429(1993)
【非特許文献25】Bao,ら,Diff.,52:239(1993)
【非特許文献26】Lauri,ら,BritishJ.Cancer,68:862(1993)
【非特許文献27】Kawaguchi,ら,JapaneseJ.CancerRes.,83:1304(1992)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
本発明は、VLA−4媒介性疾患を治療するための化合物、その薬学的に許容可能な塩、その組成物、その合成、および方法を提供する。
【0010】
一実施形態では、本発明は、式I:
【0011】
【化4】

(式中、
は、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、ヘテロアリールおよび−N(R)(R)からなる群から選択され、ここで、RおよびRは、水素、C〜Cアルキルからなる群から独立して選択されるか、RおよびRは、それらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成しており;
は、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、およびC〜Cアルキニルからなる群から選択され;
およびRは、独立してC〜Cアルキルであるか、RおよびRは、これらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成している)
の化合物;またはその薬学的に許容可能な塩、エステルもしくはプロドラッグを提供する。
【0012】
別の実施形態では、本発明は、式II:
【0013】
【化5】

(式中、
は、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキルまたはヘテロアリールであり;
は、C〜Cアルキルであり;
およびR10は、独立してC〜Cアルキルであるか、RおよびR10は、これらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成している)
の化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、エステルもしくはプロドラッグを提供する。
【0014】
別の実施形態では、本発明は、式III:
【0015】
【化6】

(式中、
11およびR12は、独立してC〜Cアルキルであるか、R11およびR12は、これらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成しており;
13は、C〜Cアルキルであり;
14およびR15は、独立してC〜Cアルキルであるか、R14およびR15は、これらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成している)
の化合物;またはその薬学的に許容可能な塩、エステルもしくはプロドラッグを提供する。
【0016】
本発明はまた、表4の化合物を提供する。
【0017】
【表4−1】

【0018】
【表4−2】

【0019】
【表4−3】

【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(発明の詳細な説明)
上記のように、本発明は、白血球接着、特に、少なくとも部分的にα4インテグリン(好ましくは、VLA−4)により媒介される白血球接着を阻害する化合物に関する。しかし、本発明をさらに詳細に記述する前に、まず、以下の用語を定義する。
【0021】
(定義)
特に明記しない限り、本明細書および請求項で用いている以下の用語は、以下に示す意味を有する:
本明細書中で使用する「アルキル」とは、特に定義しない限り、好ましくは1個〜4個の炭素原子、より好ましくは1〜3個の炭素原子を有する直鎖、分枝鎖および環式のアルキル基を意味する。この用語は、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、シクロプロピル、シクロブチルおよびメチレン−シクロプロピルなどの基が例として挙げられる。
【0022】
「アルケニル」は、2〜4個の炭素原子、好ましくは2〜3個の炭素原子と、少なくとも1か所、好ましくは1か所のアルケニル不飽和を有する直鎖および分枝鎖のアルケニル基を意味する。このようなアルケニル基の例としては、ビニル(−CH=CH)、アリル(−CHCH=CH)、n−プロペン−1−イル(−CH=CHCH)、n−ブテン−2−イル(−CHCH=CHCH)などが挙げられる。シスおよびトランス異性体、またはこれらの異性体の混合物はこの用語に含まれる。
【0023】
「アルキニル」は、2〜4個の炭素原子、好ましくは2〜3個の炭素原子と、少なくとも1か所、好ましく1か所のアルキニル不飽和を有する直鎖および分枝鎖のアルキニル基を意味する。このようなアルキニル基の例としては、アセチレニル(−C≡CH)、プロパルギル(−CHC≡CH)、n−プロピン−1−イル(−CH≡CHCH)などが挙げられる。
【0024】
「アリール」または「Ar」は、単一の環(例えば、フェニル)または複数の縮合環(例えば、ナフチルまたはアントリル)を有する6〜14個の炭素原子からなる1価の芳香族炭素環式基を意味し、この場合、縮合環は芳香族であってもなくてもよいが(例えば、2−ベンゾオキサゾリノン、2H−1,4−ベンゾオキサジン−3(4H)−オン−7−イルなど)、ただし、結合点は、芳香族環原子において存在する。好ましいアリールとしては、フェニルおよびナフチルが挙げられる。
【0025】
「置換アリール」は、ヒドロキシ、アシル、アシルアミノ、アシルオキシ、アルキル、置換アルキル、アルコキシ、置換アルコキシ、アルケニル、置換アルケニル、アルキニル、置換アルキニル、アミノ、置換アミノ、アミノアシル、アリール、置換アリール、アリールオキシ、置換アリールオキシ、カルボキシル、カルボキシルエステル、シアノ、チオール、チオアルキル、置換チオアルキル、チオアリール、置換チオアリール、チオへテロアリール、置換チオへテロアリール、チオシクロアルキル、置換チオシクロアルキル、チオ複素環、置換チオ複素環、シクロアルキル、置換シクロアルキル、ハロ、ニトロ、ヘテロアリール、置換へテロアリール、複素環、置換複素環、ヘテロアリールオキシ、置換へテロアリールオキシ、ヘテロシクリルオキシ、置換ヘテロシクリルオキシ、アミノスルホニル(NH−SO−)、および置換アミノスルホニルからなる群から選択される、1〜3個、好ましくは1〜2個の置換基で置換されているアリール基を意味する。
【0026】
「ハロ」または「ハロゲン」は、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードを意味し、好ましくは、フルオロまたはクロロのいずれかである。
【0027】
「ハロアルキル」は、1〜5個のハロ基を有するアルキル基を意味する。好ましくは、このような基は、1〜3個のハロ基と1〜2個の炭素原子を有する。特に好ましいハロアルキル基としては、トリハロメチル(例えばトリフルオロメチル)およびトリハロエチル(例えば2,2,2−トリフルオロエタ−1−イル)が挙げられる。
【0028】
「ヘテロアリール」は、環内の2〜10個の炭素原子と酸素、窒素および硫黄から選択される1〜4個のヘテロ原子との芳香族炭素環式基を意味する。このようなヘテロアリール基は、単一の環(例えば、ピリジルもしくはフリル)または複数の縮合環を有していてもよく、この場合、縮合環はアリールまたはヘテロアリールであってもよい。このようなヘテロアリールの例としては、例えば、フラン−2−イル、フラン−3−イル、チエン−2−イル、チエン−3−イル、ピロール−2−イル、ピロール−3−イル、ピリジル(2−、3−、および4−ピリジル)などが挙げられる。一実施形態では、ヘテロアリールの硫黄および/また窒素原子は、酸化されていてもよい(すなわち、−S(O)−もしくは−S(O)−、および/またはN−オキシド)。
【0029】
「複素環」または「複素環式」は、その環内に1〜10個の炭素原子と窒素、硫黄または酸素から選択される1〜4個のヘテロ原子のある、単一の環または複数の縮合環を有する飽和または不飽和の基を意味し、この場合、縮合環系では、1個または複数の環は、アリールまたはへテロアリールであってもよい。一実施形態では、複素環の硫黄および/または窒素原子は酸化されていてもよい(すなわち、−S(O)−もしくは−S(O)−、および/またはN−オキシド)。
【0030】
「薬学的に許容可能な担体」とは、一般に、安全かつ非毒性であり、生物学的にまたはそれ以外でも不適切ではない、医薬組成物を調製する際に有用な担体を意味し、これには、ヒトの医薬品用途だけでなく獣医学の用途にも許容可能な担体が含まれる。本明細書および請求項で使用される「薬学的に許容可能な担体」には、1種および複数のこのような担体が含まれる。
【0031】
「プロドラッグ」は、対象に投与したときに、本発明の化合物またはその活性代謝体または残留物を直接的または間接的に提供することができる、本発明の化合物のすべての薬学的に許容可能な誘導体を意味する。特に好ましい誘導体およびプロドラッグは、(例えば、より簡単に血液中に吸収されるように化合物を経口投与することによって)このような化合物を対象に投与した場合に、本発明の化合物のバイオアベイラビリティを高めるものであるか、生体上の区域(例えば、脳またはリンパ系)への親化合物の送達が親の種よりも強化されたものである。プロドラッグには、本発明の化合物のエステル型が含まれる。エステルプロドラッグの例としては、ギ酸誘導体、酢酸誘導体、プロピオン酸誘導体、酪酸誘導体、アクリル酸誘導体、およびエチルコハク酸誘導体が挙げられる。プロドラッグの一般的な総説は、T.HiguchiおよびV.Stella、「Pro−drugs as Novel Delivery Systems」、A.C.S.Symposium Seriesの14巻、ならびにEdward B.Roche編、Bioreversible Carriers in Drug Design、American Pharmaceutical Association and Pergamon Press、1987年(これらは両方とも引用により本明細書に援用するものとする)に記載されている。
【0032】
「薬学的に許容可能な塩」は、本発明の化合物の生物学的有効性および特性を保有しており、生物学的にまたはその他の点で不適切ではない塩を意味する。多くの場合、本発明の化合物は、アミノ基および/またはカルボキシル基あるいはそれに類似の基の存在により、酸および/または塩基の塩を形成することができる。
【0033】
薬学的に許容可能な塩基付加塩は、無機および有機塩基から調製することができる。無機塩基から誘導される塩としては、ほんの一例として、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩が挙げられる。有機塩基から誘導される塩は、これらに限定されるものではないが、第一級アミン、第二級アミンおよび第三級アミンの塩、例えば、アルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、置換アルキルアミン、ジ(置換アルキル)アミン、トリ(置換アルキル)アミン、アルケニルアミン、ジアルケニルアミン、トリアルケニルアミン、置換アルケニルアミン、ジ(置換アルケニル)アミン、トリ(置換アルケニル)アミン、シクロアルキルアミン、ジ(シクロアルキル)アミン、トリ(シクロアルキル)アミン、置換シクロアルキルアミン、ジ置換シクロアルキルアミン、トリ置換シクロアルキルアミン、シクロアルケニルアミン、ジ(シクロアルケニル)アミン、トリ(シクロアルケニル)アミン、置換シクロアルケニルアミン、ジ置換シクロアルケニルアミン、トリ置換シクロアルケニルアミン、アリールアミン、ジアリールアミン、トリアリールアミン、ヘテロアリールアミン、ジヘテロアリールアミン、トリヘテロアリールアミン、複素環アミン、ジ複素環アミン、トリ複素環アミン、ジアミンとトリアミンとの混合物の塩であって、アミンの置換基の少なくとも2つが異なっており、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロアルケニル、置換シクロアルケニル、アリール、ヘテロアリール、複素環などが挙げられる。また、2個または3個の置換基がアミノ窒素と一緒になって、複素環基またはヘテロアリール基を形成しているアミンも含まれる。
【0034】
適当なアミンの例としては、ほんの一例として、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリ(イソプロピル)アミン、トリ(n−プロピル)アミン、エタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール、トロメタミン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、N−アルキルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、モルホリン、N−エチルピペリジンなどが挙げられる。また、他のカルボン酸誘導体、例えば、カルボキサミド、低級アルキルカルボキサミド、ジアルキルカルボキサミドなどを含むカルボン酸アミドも本発明の実施において有用であり得ることを理解されたい。
【0035】
薬学的に許容可能な酸付加塩は、無機および有機酸から調製することができる。無機酸から誘導される塩としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などのものが挙げられる。有機酸から誘導される塩としては、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸などのものが挙げられる。
【0036】
「薬学的に許容可能なカチオン」という用語は、薬学的に許容可能な塩のカチオンを意味する。
【0037】
本明細書で定義したすべての置換基において、定義の置換基でそれらの置換基自体にさらなる置換基を伴って得られるポリマー(例えば、置換アリール基でそれ自体が置換されている、置換基として置換アリール基を有する置換アリールなど)が、本明細書には包含されることは意図されないことは理解されよう。このような場合、かかる置換基の最大数は3個である。すなわち、上記のそれぞれの定義は限定による制約があり、例えば、置換アリール基は、−置換アリール−(置換アリール)−(置換アリール)に限定される。
【0038】
疾患を「治療する」または「治療」とは、以下が挙げられる:
(1)その疾患を予防すること、すなわち、その疾患に曝され得るか感染し易いが、未だその疾患の症状を経験しないか示さない哺乳動物において、その疾患の臨床症状を発症させないようにすること;
(2)その疾患を阻止すること、すなわち、その疾患またはその臨床症状の発症を抑えるか少なくすること;または
(3)その疾患を軽減すること、すなわち、その疾患またはその臨床症状の退縮を起こすこと。
【0039】
「治療有効量」とは、疾患を治療するために哺乳動物に投与したときに、その疾患に対してかかる治療を達成するのに十分な化合物の量を意味する。この「治療有効量」は、その化合物、疾患およびその重症度、および治療する哺乳動物の年齢、体重などに応じて変わる。
【0040】
「薬学的に許容可能な塩」とは、当該分野で周知の種々の有機対イオンおよび無機対イオンから塩が誘導される式Iの化合物の薬学的に許容可能な塩を意味し、これには、単なる例ではあるが、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、テトラアルキルアンモニウムなどが挙げられる;その分子が塩基性官能基を含有する場合、有機酸または無機酸の塩、例えば、塩酸、臭化水素酸、酒石酸、メシル酸、酢酸、マレイン酸、シュウ酸などの塩である。
【0041】
インテグリンは、相同膜貫通リンカータンパク質の大型ファミリーであり、これらは、ほとんどの細胞外マトリックスタンパク質(例えば、コラーゲン、フィブロネクチンおよびラミニン)を結合するための動物細胞上の主要レセプターである。これらのインテグリンは、α鎖およびβ鎖からなるヘテロダイマーである。現在まで、9種類の異なるαサブユニットと14種類の異なるβサブユニットからなる異なる20種類のインテグリンヘテロダイマーが同定されている。「α4インテグリン」という用語は、任意のβサブユニットと対になったα4サブユニットを含有する酵素結合細胞表面レセプターであるヘテロダイマーのクラスを意味する。VLA−4は、α4インテグリンの一例であり、α4サブユニットおよびβ1サブユニットのヘテロダイマーであって、α4β1インテグリンとも呼ばれている。
【0042】
本発明は、VLA−4媒介性疾患を治療するための化合物、その薬学的に許容可能な塩、その組成物、その合成、および方法を提供する。
【0043】
一実施形態では、本発明は、式I:
【0044】
【化7】

(式中、
は、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、ヘテロアリールおよび−N(R)(R)からなる群から選択され、ここで、RおよびRは、水素、C〜Cアルキルからなる群から独立して選択されるか、RおよびRは、それらにペンダントしている窒素と一緒になって複素環を形成しており;
は、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、およびC〜Cアルキニルからなる群から選択され;
およびRは、独立してC〜Cアルキルであるか、RおよびRは、これらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成している)
の化合物;またはその薬学的に許容可能な塩、エステルもしくはプロドラッグを提供する。
【0045】
一部の実施形態では、−OC(O)NR基は、フェニル環のパラ位にある。
【0046】
一部の実施形態では、RおよびRは、結合して複素環を形成している。別の実施形態では、RおよびRは、結合してピロリジニル環を形成している。
【0047】
一部の実施形態では、RはC〜Cアルキルである。別の実施形態では、Rはエチルである。
【0048】
さらに別の実施形態では、RおよびRは結合して複素環を形成しており、RはC〜Cアルキルである。さらに別の実施形態では、RおよびRは結合してピロリジニル環を形成しており、Rはエチルである。
【0049】
本発明の化合物の例としては、表1に示したR、R、RおよびR基を有するものが挙げられる。
【0050】
【表1】

別の実施形態では、本発明は、式II:
【0051】
【化8】

(式中、
は、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキルまたはヘテロアリールであり;
は、C〜Cアルキルであり;
およびR10は、独立してC〜Cアルキルであるか、RおよびR10は、これらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成している)
の化合物;またはその薬学的に許容可能な塩、エステルもしくはプロドラッグを提供する。
【0052】
一部の実施形態では、−OC(O)NR10基は、フェニル環のパラ位にある。
【0053】
一部の実施形態では、RおよびR10は、結合して複素環を形成している。別の実施形態では、RおよびR10は、結合してピロリジニル環を形成している。
【0054】
一部の実施形態では、RはC〜Cアルキルである。別の実施形態では、Rはエチルである。
【0055】
一部の実施形態では、RはC〜Cアルキルである。別の実施形態では、Rはイソプロピルおよびt−ブチルからなる群から選択される。
【0056】
一部の実施形態では、RはC〜Cハロアルキルである。別の実施形態では、Rはトリフルオロメチルである。
【0057】
一部の実施形態では、Rはヘテロアリールである。別の実施形態では、Rはフラン−2−イル、フラン−3−イル、チエン−2−イルおよびチエン−3−イルからなる群から選択される。
【0058】
一部の実施形態では、RおよびR10は結合して複素環を形成しており、RはC〜Cアルキルであり、Rはヘテロアリールである。別の実施形態では、RおよびR10はペンダントの窒素と一緒にピロリジン環を形成しており、Rはエチルであり、Rはヘテロアリールである。
【0059】
一部の実施形態では、RおよびR10は結合して複素環を形成しており、RはC〜Cアルキルであり、Rはアルキルである。別の実施形態では、RおよびR10はペンダントの窒素と一緒にピロリジン環を形成しており、Rはエチルであり、Rはアルキルである。
【0060】
本発明は、表2に示したR、R、RおよびR10基を有する式IIの化合物をさらに提供する。
【0061】
【表2】

別の実施形態では、本発明は、式III:
【0062】
【化9】

(式中、
11およびR12は、独立してC〜Cアルキルであるか、R11およびR12は、それにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成しており;
13はC〜Cアルキルであり;
14およびR15は、独立してC〜Cアルキルであるか、R14およびR15は、それにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成している)
の化合物;またはその薬学的に許容可能な塩、エステルもしくはプロドラッグを提供する。
【0063】
一部の実施形態では、−OC(O)NR1415基は、フェニル環のパラ位にある。
【0064】
一部の実施形態では、R14およびR15は、結合して複素環を形成している。別の実施形態では、R14およびR15は、結合してピロリジニル環を形成している。
【0065】
一部の実施形態では、R13はC〜Cアルキルである。別の実施形態では、R13はエチルである。
【0066】
一部の実施形態では、R11およびR12は、独立してC〜Cアルキルである。別の実施形態では、R11はエチルであり、R12はイソプロピルである。
【0067】
一部の実施形態では、R11およびR12は、これらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成している。別の実施形態では、複素環は、ピペリジン−1−イルおよび3−チアピロリジン−1−イルからなる群から選択される。
【0068】
さらに別の実施形態では、R14およびR15は結合して複素環を形成しており、R13はC〜Cアルキルであり、R11およびR12は、これらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成している。
【0069】
本発明は、表3に示したR11、R12、R13、R14およびR15基を有する式IIIの化合物をさらに提供する。
【0070】
【表3】

一部の実施形態では、本発明は、それぞれの式においてパラ位でフェニル環に結合している以下のカルバミル置換基:
【0071】
【化10】

を有する式I、IIおよびIIIの化合物を提供する。さらに別の実施形態では、表1、2および3に記載の化合物は、パラ位で結合しているカルバミル置換基を有する。
【0072】
一部の実施形態では、本発明はまた、オルト位またはメタ位で結合しているカルバミル置換基を有する、式I、IIおよびIIIの化合物(表1、2および3に記載のものを含む)を提供する。
【0073】
本発明はまた、表4に記載の化合物も提供する。
【0074】
【表4−4】

【0075】
【表4−5】

【0076】
【表4−6】

別の態様では、本発明は、薬学的に許容可能な担体と、治療有効量の本明細書で定義した1種または複数の化合物とを含む医薬組成物を提供する。
【0077】
その方法の一態様では、本発明は、薬学的に許容可能な担体と、治療有効量の本発明の1種または複数の化合物とを含む医薬組成物を投与するステップを含む、患者の少なくとも部分的にα4インテグリン(好ましくはVLA−4)が媒介している疾患を治療するための方法に関する。別の態様では、本発明は、α4インテグリン媒介性疾患を治療するための薬剤の製造における本発明の化合物を含む医薬組成物の使用に関する。
【0078】
本発明の化合物および医薬組成物は、少なくとも部分的にα4インテグリン(ここで、α4インテグリンは好ましくはVLA−4である)または白血球接着が媒介している疾患の治療に有用である。これらの疾患症状としては、例として、喘息、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化、エイズ認知症、糖尿病(急性若年性糖尿病を含む)、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む)、多発性硬化症、関節リウマチ、組織移植、腫瘍転移、髄膜炎、脳炎、卒中、および他の大脳外傷、腎炎、網膜炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、心筋虚血、および急性白血球媒介性肺損傷(例えば、成人呼吸窮迫症候群において生じるもの)が挙げられる。
【0079】
他の疾患症状としては、炎症症状、例えば、結節性紅斑、アレルギー性結膜炎、視神経炎、ブドウ膜炎、アレルギー性鼻炎、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、血管炎、ライター症候群、全身性エリテマトーデス、進行性全身性硬化症、多発性筋炎、皮膚筋炎、ヴェグナー肉芽腫症、大動脈炎、サルコイドーシス、リンパ球減少症、側頭動脈炎、心膜炎、心筋炎、鬱血性心不全、結節性多発性動脈炎、過敏性症候群、アレルギー、好酸球増加症候群、チャーグ・ストラウス症候群、慢性閉塞性肺疾患、過敏性肺臓炎、活動性慢性肝炎、間質性膀胱炎、自己免疫内分泌不全、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫再生不良性貧血、慢性持続性肝炎、および甲状腺炎が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
好ましい実施態様では、このα4インテグリンによって媒介される疾患症状は炎症疾患である。
【0081】
本発明の化合物は、例として、下記のもの:
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(トリフルオロアセチル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(イソ−プロピルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(t−ブチルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(フラン−2−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(ピペリジン−1−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(N−エチル−N−イソ−プロピルアミノカルボニル)アミノ}−ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(チエン−3−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(チエン−2−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(フラン−3−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(3−チアピロリジン−1−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(チエン−2−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}−フェニルアラニンt−ブチルエステル;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−トリフルオロメチルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}−フェニルアラニンt−ブチルエステル;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−t−ブチルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}−フェニルアラニンt−ブチルエステル;および
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−フラン−3−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}−フェニルアラニンt−ブチルエステル;
または薬学的に許容可能なその塩、エステルもしくはプロドラッグを含んでいる。
【0082】
化合物の調製
本発明の化合物は、以下の一般法および手順を使用して、容易に入手できる出発物質から調製できる。典型的または好ましい工程の条件(すなわち、反応温度、回数、反応成分のモル比、溶媒、圧力など)が記載されている場合、特段の記載がない限り、別の工程条件も使用可能であることは理解されよう。最適な反応条件は、使用する特定の反応成分または溶媒によって変動し得るが、当業者であれば、慣用の最適化手順により、このような条件は決定することができる。
【0083】
加えて、当業者には明らかなように、一定の官能基が望ましくない反応を受けるのを防ぐために、慣用の保護基が必要であることがある。様々な官能基に適した保護基、ならびに特定の官能基を保護および脱保護するのに適した条件は、当技術分野ではよく知られている。例えば、T.W.GreeneおよびG.M.Wuts、Protecting Groups in Organic Synthesis、第2版、Wiley、New York、1991年、およびそこに引用されている参考文献に数多くの保護基が記載されている。
【0084】
さらに、本発明の化合物は、通常、1個または複数の不斉中心を含む。したがって、所望の場合、このような化合物は、純粋な立体異性体として、すなわち、個々のエナンチオマーもしくはジアステレオマーとして、または立体異性体に富んだ混合物として調製または単離することができる。このような立体異性体(およびそれに富んだ混合物)はすべて、他に記載のない限り、本発明の範囲に含まれる。例えば、当技術分野でよく知られている光学的に活性な出発物質または立体選択的試薬を使用して、純粋な立体異性体(またはそれに富んだ混合物)を調製することができる。もしくは、例えば、キラルカラムクロマトグラフィー、キラル分離剤などを使用して、このような化合物のラセミ混合物を分離することができる。
【0085】
一実施形態では、本発明の化合物は、スキーム1で下記に記載したように調製することができる:
【0086】
【化11】

ここで、R、R、R、R、RおよびRは、上で定義した通りであり、Pgは、ベンジル、t−ブチルなどのカルボキシル保護基である。
【0087】
スキーム1では、出発の5−アミノピリミジン中間体(化合物1.1)は、国際公開第03/099809号に詳細に記載されており、単に例示目的で記載するだけであるが、このスキームでは4−置換フェニルアラニン誘導体として示している。言うまでもなく、2−および3−置換フェニルアラニン誘導体が同様の反応経路をたどることは理解されよう。
【0088】
具体的には、スキーム1では、5−アミノ−2−ジエチルアミノ−4−置換ピリミジン(化合物1.1)(対応する5−ニトロ−ピリミジンから5重量%のPd/Cまたは5重量%のPtOとの反応により調製される)は、従来法によって、対応するトリフルオロアセトアミド(化合物1.2)に変換される。例えば、少量過剰のトリフルオロ酢酸無水物は、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、ピリジンなどの好適な不活性希釈剤中で化合物1.1と結合する。この反応は、反応が本質的に完了するまで(これは、通常、約0.5〜24時間内に起こる)、約0℃〜約30℃で維持する。反応が終わると、化合物1.2は、中和、蒸発、抽出、沈殿、クロマトグラフィー、濾過などをはじめとする従来法により回収するか、精製および/または単離を行わずに次の工程で使用する。
【0089】
化合物1.2の対応するN(R),N−トリフルオロアセトアミドピリミジン(化合物1.3)への変換は、再度、従来技術により進める。例えば、過剰のハロゲン化物(R−I)は、DMFなどの好適な不活性希釈剤中、過剰の好適な塩基(炭酸カリウムなど)の存在下で化合物1.2と結合する。好ましい実施形態では、約2当量のR−Iおよび炭酸カリウムを使用する。この反応は、密封容器中で周囲条件下で維持し、反応物が本質的に完了するまで(これは典型的には20〜72時間内に起こる)継続する。反応が終わると、化合物1.3は、中和、蒸発、抽出、沈殿、クロマトグラフィー、濾過などをはじめとする従来法により回収するか、精製および/または単離を行わずに次の工程で使用する。
【0090】
化合物1.3のカルボキシル保護基は、従来の条件により除去して式Iの化合物を得ることができる(示さず)。一実施形態では、t−ブチル保護基はギ酸と接触させることによって除去することができる。別の実施形態では、ベンジル保護基は、高圧水素下で典型的にはメタノールなどのプロトン性溶媒中でパラジウム/炭素触媒の存在下において水素と接触させることによって除去することができる。
【0091】
あるいは、トリフルオロアセチル基を除去して対応するアミン(化合物1.4)を得ることができる。この実施形態では、トリフルオロアセチル基はアミン保護基として作用する。上記のように、この反応は、例えば、水およびプロトン性溶媒(メタノールなど)の混合物中で、化合物1.3を過剰の炭酸カリウムなどの好適な塩基と接触させることによって従来通り進められる。この反応は、例えば40℃〜60℃などの高温で行い、反応が本質的に完了するまで継続する。反応が終わると、化合物1.4は、中和、蒸発、抽出、沈殿、クロマトグラフィー、濾過などをはじめとする従来法により回収するか、精製および/または単離を行わずに次の工程で使用する。
【0092】
スキーム1では、化合物1.4は、尿素誘導体(式中、Rは−NRである)またはアシルアミノ誘導体(式中、Rは、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキルまたはヘテロアリール(窒素原子を介してそれ以外のカルボニル基に結合している)である)のいずれかを調製するために用いることができる。最初の実施形態では、尿素誘導体は、従来法により、例えばまずアミドクロリド(化合物1.7)を調製することにより調製される。この化合物は、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの好適な塩基の存在下で、化合物1.4を過剰のホスゲンと接触させることにより調製される。反応が終わると、化合物1.7は、中和、蒸発、抽出、沈殿、クロマトグラフィー、濾過などをはじめとする従来法により回収するが、好ましくは、精製および/または単離を行わずに次の工程で使用する。
【0093】
次いで、アミドクロリド(化合物1.7)は、従来の条件下で好適なアミン(RNH)と反応させることにより対応する尿素誘導体(化合物1.8)に変換される。好ましくは、この反応は、等モル量または過剰量のアミンを好適な溶媒(テトラヒドロフラン、ジオキサン、クロロホルムなど)中で化合物1.7と接触させることで行う。反応が終わると、化合物1.8は、中和、蒸発、抽出、沈殿、クロマトグラフィー、濾過などをはじめとする従来法により回収するか、精製および/または単離を行わずに次の工程で使用する。
【0094】
化合物1.8のカルボキシル保護基は従来の条件により除去され、化合物1.9(式Iの化合物)が得られる。一実施形態では、t−ブチル保護基は、ギ酸と接触させることにより除去することができる。別の実施形態では、ベンジル保護基は、高圧水素下で典型的にはメタノールなどのプロトン性溶媒中でパラジウム/炭素触媒の存在下において水素と接触させることによって除去することができる。反応が終わると、化合物1.9は、中和、蒸発、抽出、沈殿、クロマトグラフィー、濾過などをはじめとする従来法により回収する。
【0095】
第2の実施形態では、アシルアミノ誘導体(化合物1.5)は、生成された酸を除去するため、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどの好適な塩基の存在下で、化合物1.4を少量過剰のハロゲン化アシルと接触させることにより調製される。この反応は、好ましくは、テトラヒドロフラン、ジオキサン、クロロホルムなどの好適な不活性溶媒中で行う。この反応は、好ましくは約0℃〜30℃で行い、反応が本質的に完了するまで(これは典型的には2〜48時間内に起こる)継続する。反応が終わると、化合物1.5は、中和、蒸発、抽出、沈殿、クロマトグラフィー、濾過などをはじめとする従来法により回収するか、精製および/または単離を行わずに次の工程で使用する。
【0096】
化合物1.5のカルボキシル保護基は従来の条件により除去され、化合物1.6(式Iの化合物)が得られる。一実施形態では、t−ブチル保護基はギ酸との接触によって除去することができる。別の実施形態では、ベンジル保護基は、高圧水素下で典型的にはメタノールなどのプロトン性溶媒中でパラジウム/炭素触媒の存在下において水素と接触させることによって除去することができる。反応が終わると、化合物1.6は、中和、蒸発、抽出、沈殿、クロマトグラフィー、濾過などをはじめとする従来法により回収する。
【0097】
製剤
医薬品として使用する場合、本発明の化合物は、通常、医薬組成物の形態で投与される。これらの組成物は、種々の経路(経口経路、直腸経路、経皮経路、皮下経路、静脈内経路、筋肉内経路および鼻内経路を含む)により投与することができる。これらの化合物は、注射用組成物および経口用組成物として有効である。このような組成物は、医薬品分野で周知の方法で調製され、また少なくとも1種の活性化合物を含有する。
【0098】
本発明はまた、その活性成分として、薬学的に許容可能な担体と共に、上記式I〜IIIの1種または複数の化合物を含有する医薬組成物を包含する。本発明の組成物を製造する際には、この活性成分は、通常、賦形剤と混合されるか、賦形剤で希釈されるか、カプセル、サシェ、紙または他の容器の形状であってもよいかかる担体内に封入される。使用する賦形剤は、典型的には、ヒト対象または他の動物に投与するのに適当な賦形剤である。この賦形剤は、希釈剤として働く場合、固体、半固体または液体物質であり得、それは、活性成分用のビヒクル、担体または媒体として作用する。それゆえ、これらの組成物は、錠剤、丸剤、散剤、ロゼンジ剤、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁液、乳濁液、溶液、シロップ剤、エアロゾル(固形物として、または液状媒体中で)、軟膏(これは、例えば、10重量%までの活性化合物を含有する)、軟質ゼラチンカプセルおよび硬質ゼラチンカプセル剤、坐剤、無菌注射用溶液、および無菌包装散剤の剤形であり得る。
【0099】
製剤を調製する際に、他の成分と配合する前に、この活性化合物を粉砕して適当な粒径にする必要があり得る。この活性化合物が実質的に不溶であるならば、通常、それを200メッシュ未満の粒径まで粉砕する。この活性化合物が実質的に水溶性であるならば、その粒径は、通常、その製剤で実質的に均一な分布(例えば、約40メッシュ)が得られるように粉砕することにより調節する。
【0100】
適当な賦形剤の一部の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、およびメチルセルロースが挙げられる。これらの製剤は、さらに、以下のものを含有する:滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱油);湿潤剤;乳化剤および懸濁剤;保存料(例えば、メチル安息香酸およびプロピルヒドロキシ安息香酸);甘味料;および香味料。本発明の組成物は、当技術分野で公知の手順を用いることによって、患者に投与した後、その活性成分の迅速放出、持続放出または遅延放出が生じるように製剤することができる。
【0101】
静脈内投与製剤による治療薬の投与は医薬品分野において周知である。静脈内投与製剤は、その治療薬が可溶性である組成物であることの他に、特定の性質を有していなければならない。例えば、その製剤は、活性成分の全体的な安定性を促進すべきであり、さらに、製剤の製造は、コスト的に有効でなければならない。これらの要因のすべてが、静脈内投与製剤の全体的な成功および有用性を最終的に決定する。
【0102】
本発明の化合物の製剤中に含有され得る他の補助的添加剤は、次のものである:溶剤:エタノール、グリセリン、プロピレングリコール;安定剤:エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸;抗菌防腐剤:ベンジルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン;緩衝剤:クエン酸/クエン酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸水素ナトリウム、酢酸/酢酸ナトリウム、マレイン酸/マレイン酸ナトリウム、フタル酸水素ナトリウム、リン酸/リン酸水素カリウム、リン酸/リン酸水素二ナトリウム;および張性調節剤:塩化ナトリウム、マンニトール、デキストロース。
【0103】
約4〜約8の範囲、さらに好ましくは約4〜約6の範囲に水性pHを維持するためには、緩衝剤が存在することが必要である。緩衝剤系は、通常、弱酸とその可溶性塩との混合物、例えば、クエン酸ナトリウム/クエン酸;または二塩基酸のモノカチオンまたはジカチオン、例えば、酒石酸水素カリウム;酒石酸水素ナトリウム、リン酸/リン酸水素カリウムおよびリン酸/リン酸水素二ナトリウムである。
【0104】
使用する緩衝剤系の量は、(1)所望のpH;(2)薬剤の量によって決まる。通常、使用する緩衝剤の量は、pHを4〜8の範囲に維持するためには、製剤の緩衝剤:薬剤のモル比は0.5:1から50:1であり(ここで、緩衝剤のモルは、複数の緩衝剤成分(例えばクエン酸ナトリウムおよびクエン酸)の混合モルとする)、通常、緩衝剤(混合されたもの)と存在する薬剤とのモル比は1:1から10:1で使用される。
【0105】
本発明で有用な緩衝剤の一つは、組成物の水性pHを4〜6に維持するに十分な、1ml当たりクエン酸ナトリウム5〜50mgに対して1ml当たりクエン酸1〜15mgの範囲のクエン酸ナトリウム/クエン酸である。
【0106】
ガラス容器またはゴム栓から浸出するか、通常の水道水に存在し得る溶解金属イオン、例えば、Ca、Mg、Fe、Al、Baとの可溶性金属錯体形成による医薬品の沈殿を防ぐために、緩衝剤が存在してもよい。この薬剤は、医薬品との競合錯化剤として作用し、不適切な粒子を存在させる可溶性金属錯体を生じる。
【0107】
さらに、静脈内投与製剤を投与した場合に、赤血球が膨張または収縮して、悪心または下痢などの不適切な副作用、ならびに関連する血液障害が起こることを回避するために、張性をヒトの血液と同じ値に調節する、約1〜8mg/mlの量の薬剤、例えば、塩化ナトリウムが存在することが必要であることもある。通常、製剤の張性は、ヒトの血液の張性に一致し、これは、282〜288mOsm/kgの範囲であり、通常、285mOsm/kgであり、塩化ナトリウム0.9%溶液に対応する浸透圧に等しい。
【0108】
静脈内投与製剤は、直接的な静脈注射、静脈内ボーラスにより投与することもできるし、あるいは0.9%塩化ナトリウム注射または他の適切な注射溶液などの適切な注入溶液に加えることにより注入投与することもできる。
【0109】
これらの組成物は、好ましくは、単位剤形で製剤され、各投与量は、約5〜約100mg、さらに通常では、約10〜約30mgの活性成分を含有する。「単位剤形」という用語は、ヒト対象および他の哺乳動物に対する単一の投与量として適当な、物理的に個別の単位を意味し、各単位は、適当な医薬賦形剤と合わせて、所望の治療効果が得られるように計算された所定量の活性物質を含有する。
【0110】
この活性化合物は、広い投与量範囲にわたって有効であり、一般に、薬学的に有効な量で投与される。しかしながら、実際に投与される化合物の量は、関連した状況(治療する疾患、選択した投与経路、実際に投与する化合物、個々の患者の年齢、体重および応答、患者の症状の重症度などを含む)に照らして医師により決定されることは理解されよう。
【0111】
固形組成物(例えば、錠剤)の調製については、主要な活性成分は、医薬賦形剤と混合して、固形プレ製剤組成物(これは、本発明の化合物の均一混合物を含有する)を形成する。これらのプレ製剤組成物が均一なものとして用いられる場合、それは、この組成物が同等に有効な単位剤形(例えば、錠剤、丸薬およびカプセル剤)に容易に細分され得るように、活性成分が組成物全体にわたって一様に分散されていることを意味する。次いで、この固形プレ製剤は、上記種類の単位剤形(これは、例えば、0.1〜約500mgの本発明の活性成分を含有する)に細分される。
【0112】
本発明の錠剤または丸剤は、被覆するか、そうでなければ調合して、持続性作用の利点のある剤形を得ることができる。例えば、この錠剤または丸剤は、内部投与成分および外部投与成分を含んでいてもよく、後者の成分は、前者の成分の上を覆うエンベロープの形態である。これらの2種の成分は、胃内で崩壊しないように作用し、その内部成分が損なわれることなく十二指腸の中に入れるか、放出を遅らせる腸溶層により分離させることができる。このような腸溶層または被覆には種々の物質が使用でき、かかる物質としては、多数の高分子酸、および高分子酸と、セラック、セチルアルコールおよび酢酸セルロースなどの物質との混合物が挙げられる。
【0113】
本発明の新規組成物を経口投与または注射による投与で組み合わせることができる液体剤形には、水溶液、適当に風味を加えたシロップ、水性または油性懸濁液、および食用油(例えば、綿実油、ゴマ油、やし油または落花生油)で風味を加えた乳濁液、ならびに、エリキシル剤および類似の医薬用ビヒクルが挙げられる。
【0114】
吸入またはガス注入用の組成物としては、薬学的に許容可能な水性溶媒または有機溶媒中の溶液および懸濁液、またはそれらの混合物、および粉末が挙げられる。これらの液体または固体組成物は、上記の適当な薬学的に許容可能な賦形剤を含有し得る。好ましくは、これらの組成物は、局所効果または全身効果を得るための経口または鼻腔呼吸経路により投与される。好ましくは薬学的に許容可能な溶媒中の組成物は、不活性ガスを使用することにより霧状にすることができる。霧状にした溶液は、噴霧器から直接的に吸入することができるか、噴霧器は、フェースマスクテントまたは断続性陽圧呼吸装置に装着することができる。溶液、懸濁液または粉末の組成物は、好ましくは、この製剤を適当な方法で送達する器具から経口または鼻腔経由で投与することができる。
【0115】
以下の製剤実施例は、本発明の医薬組成物を例示するものである。
【0116】
(製剤実施例1)
以下の成分を含有する硬質ゼラチンカプセル剤を調製する:
成分 量(mg/カプセル)
活性成分 30.0
デンプン 305.0
ステアリン酸マグネシウム 5.0
上記成分を混合し、340mgの量で硬質ゼラチンカプセルに充填する。
【0117】
(製剤実施例2)
以下の成分を使用して、錠剤製剤を調製する:
成分 量(mg/錠剤)
活性成分 25.0
微結晶セルロース 200.0
コロイド状二酸化ケイ素 10.0
ステアリン酸 5.0
これらの成分をブレンドし、圧縮して錠剤(各々、240mg重量)を形成する。
【0118】
(製剤実施例3)
以下の成分を含有する乾燥粉末吸入剤製剤を調製する:
成分 重量%
活性成分 5
ラクトース 95
活性成分をラクトースと混合し、混合物を乾燥粉末吸入器に加える。
【0119】
(製剤実施例4)
以下のようにして、錠剤(各々、30mgの活性成分を含有する)を調製する:
成分 量(mg/錠剤)
活性成分 30.0mg
デンプン 45.0mg
微結晶セルロース 35.0mg
ポリビニルピロリドン 4.0mg(滅菌水中10%水溶液として)
カルボキシメチルデンプンナトリウム 4.5mg
ステアリン酸マグネシウム 0.5mg
タルク 1.0mg
活性成分、デンプンおよびセルロースをNo.20メッシュU.S.篩に通し、十分に混合する。得られた粉末にポリビニルピロリドンの溶液を混合し、次いで、これを16メッシュU.S.篩に通す。このように製造した顆粒を50〜60℃で乾燥し、16メッシュU.S.篩に通す。次いで、この顆粒に、No.30メッシュU.S.篩に予め通したカルボキシメチルデンプンナトリウム、ステアリン酸マグネシウムおよびタルクを加え、これらを混合後、錠剤機で圧縮して錠剤(各々、120mg重量)を得る。
【0120】
(製剤実施例5)
以下のようにして、カプセル剤(各々、40mgの薬剤を含有)を作製する:
成分 量(mg/カプセル)
活性成分 40.0mg
デンプン 109.0mg
ステアリン酸マグネシウム 1.0mg
全量 150.0mg
活性成分、デンプンおよびステアリン酸マグネシウムをブレンドし、No.20メッシュU.S.篩に通し、150mgの量で硬質ゼラチンカプセルに充填する。
【0121】
(製剤実施例6)
以下のようにして、坐剤(各々、25mgの活性成分を含有)を製造する:
成分 量
活性成分 25mg
飽和脂肪酸グリセリド 2,000mg
活性成分をNo.60メッシュU.S.篩に通し、飽和脂肪酸グリセリド(これは、必要最低限の熱を使用して、予め融解しておいた)に懸濁させる。次いで、この混合物を、名目容量2.0gの坐剤金型に注ぎ、冷却させる。
【0122】
(製剤実施例7)
以下のようにして、懸濁液(各々、5.0ml用量当たり、50mgの薬剤を含有)を製造する:
成分 量
活性成分 50.0mg
キサンタンガム 4.0mg
カルボキシメチルセルロース
ナトリウム(11%)
微結晶セルロース(89%)50.0mg
スクロース 1.75g
安息香酸ナトリウム 10.0mg
香料および着色料 q.v.
精製水 5.0mlまで
活性成分、スクロースおよびキサンタンガムをブレンドし、No.10メッシュU.S.篩に通し、次いで、微結晶セルロースおよびカルボキシメチルセルロースナトリウムの予め製造しておいた水溶液と混合する。安息香酸ナトリウム、香料および着色料を一部の水で希釈し、撹拌しながら加える。次いで、十分な水を加えて、必要な容量を製造する。
【0123】
(製剤実施例8)
成分 量(mg/カプセル)
活性成分 15.0mg
デンプン 407.0mg
ステアリン酸マグネシウム 3.0mg
全量 425.0mg
活性成分、デンプンおよびステアリン酸マグネシウムをブレンドし、No.20メッシュU.S.篩に通し、425mgの量で硬質ゼラチンに充填する。
【0124】
(製剤実施例9)
以下のようにして、皮下製剤を調製することができる:
成分 量
活性成分 5.0mg
トウモロコシ油 1.0mL
(製剤実施例10)
以下のようにして、局所製剤を調製することができる:
成分 量
活性成分 1〜10g
乳化ワックス 30g
液状パラフィン 20g
白色軟質パラフィン 100gまで
白色軟質パラフィンを溶融するまで加熱する。この液状パラフィンおよび乳化ワックスを混合し、溶解するまで撹拌する。活性成分を加え、分散するまで撹拌を継続する。次いで、混合物を固化するまで冷却する。
【0125】
(製剤実施例11)
以下のようにして、静脈内投与製剤を調製することができる:
成分 量
活性成分 250mg
等張性生理食塩水 1000mL
本発明の方法で使用される他の好ましい製剤は、経皮送達器具(「パッチ」)を使用する。このような経皮パッチは、本発明の化合物を制御した量で連続または不連続的に注入するために使用することができる。薬剤を送達するための経皮パッチの構造および使用については、当技術分野で周知である。例えば、米国特許第5,023,252号(1991年6月11日発行、その内容は、引用により本明細書に援用するものとする)を参照されたい。このようなパッチは、薬剤を連続送達、脈動送達またはオンデマンド送達するように構成することができる。
【0126】
直接的または間接的に医薬組成物を脳に導入するのが望ましい場合または必要な場合が多い。直接技術には、通常、血液脳関門を迂回するために、ホストの脳室系に薬剤送達カテーテルを配置することが含まれる。体の特定の解剖学的領域に生体因子を輸送するのに用いられるこのような移植可能送達系の一つは、米国特許第5,011,472号に記述されている(その内容は、引用により本明細書に援用するものとする)。
【0127】
一般に好ましいとされる間接技術は、通常、親水性薬剤を脂質溶解性薬剤に変換することにより薬剤潜在化(drug latentiation)を付与するように組成物を処方することを含んでいる。潜在化は、一般に、その薬剤に存在しているヒドロキシル基、カルボニル基、スルフェート基および第一級アミン基をブロックして、その薬剤をさらに脂質溶解性にするか、血液脳関門を横切る輸送ができるようにすることにより達成される。あるいは、親水性薬剤の輸送は、高張液(これは、血液脳関門を一時的に開くことができる)を動脈内注入することにより高めることができる。
【0128】
本発明で使用するのに適した他の製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mace Publishing Company、Philadelphia、PA、第17版(1985年)で確認することができる。
【0129】
上述のように、本明細書に記載の化合物は、上記の様々な薬剤送達系で使用するに適している。さらに、投与した化合物のインビボにおける血清半減期を延ばすために、化合物をカプセル包埋するか、リポソームの内腔に導入するか、コロイドとして調製することもできるし、あるいは化合物の血清半減期を延ばす他の慣用の技術を使用することもできる。例えば、Szokaら、米国特許第4,235,871号、同第4,501,728号および第4,837,028号(これらはそれぞれ、引用により本明細書に援用するものとする)に記載されているように、様々な方法をリポソームの調製に使用することができる。
【0130】
本発明の共役体はVLA−4アンタゴニストであり、非共役化合物と比べてインビボにおける保持力を強化するために検討されている。生体内での共役体の保持がこのように改善されると、必要とされる薬剤の量が少なくなり、これによって次に、副作用が減少し、毒性の可能性が低減される。さらに、患者への製剤の投与の頻度が減らされると同時に、同様のまたは改善された治療効果を得ることができる。
【0131】
本発明の共役体は、VL4−Aが媒介しているインビボにおける内皮細胞への白血球の付着をVLA−4に競合結合することにより阻止することが期待される。好ましくは、本発明の化合物は、VLA−4または白血球接着が媒介している疾患を治療するための静脈内投与製剤で使用できる。これらの疾患には、哺乳動物患者における炎症疾患、例えば、喘息、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化、エイズ認知症、糖尿病(急性若年性糖尿病を含む)、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎およびクローン病を含む)、多発性硬化症、関節リウマチ、組織移植、腫瘍転移、髄膜炎、脳炎、卒中および他の大脳外傷、腎炎、網膜炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、心筋虚血および急性白血球媒介性肺傷害(例えば、成人呼吸窮迫症候群において生じるもの)が挙げられる。本発明の製剤は、多発性硬化症および関節リウマチの治療で特に有用である。
【0132】
炎症疾患の治療での有効性を証明するための適当なインビボモデルには、マウス、ラット、モルモットまたは霊長動物のEAE(実験的自己免疫脳脊髄炎)、ならびに他のα4インテグリン依存性炎症モデルがある。
【0133】
炎症性腸疾患は、クローン病および潰瘍性大腸炎と呼ばれる2種類の類似疾患の総称である。クローン病は、肉芽腫性炎症性反応による腸壁の全層の境界の明瞭な、一般的に貫壁性疾患を特徴とする特発性の慢性潰瘍収縮性炎症疾患である。この疾患は、最も一般的には末端回腸および/または結腸を冒すが、口から肛門までの胃腸管のあらゆる部分に及ぶ可能性がある。潰瘍性大腸炎は、主として結腸粘膜および粘膜下に限定される炎症性反応である。リンパ球およびマクロファージは、炎症性腸疾患の病変部に多数存在し、炎症性損傷の一因となっている可能性がある。
【0134】
喘息は、気管支気道の発作性収縮を増強する様々な刺激に対する気管気管支樹の反応性の亢進を特徴とする疾患である。刺激は、ヒスタミン、好酸球性および好中球性走化因子、ロイコトリエン、プロスタグランジンおよび血小板活性化因子などをはじめとするIgE被覆マスト細胞から炎症の様々なメディエーターを放出させる。これらの因子が放出されると、炎症性損傷を引き起こす好塩基球、好酸球および好中球が補強される。
【0135】
アテローム性動脈硬化は、動脈(例えば、冠動脈、頚動脈、大動脈および腸骨動脈)の疾患である。基礎病変であるアテロームは、脂質のコアを有し線維性被膜を被覆している内膜内の隆起した限局性プラークからなる。アテロームは、動脈血流障害をもたらし、罹患した動脈を弱くする。心筋梗塞および脳梗塞は、この疾患の主たる結果である。マクロファージおよび白血球がアテロームに補強され、炎症性損傷の一因となる。
【0136】
関節リウマチは、主として関節が障害および破壊される慢性再発性炎症性疾患である。関節リウマチは、通常、最初に手および足の小関節を冒すが、その後、手首、肘、くるぶしおよび膝に及ぶことがある。関節炎は、滑膜細胞と循環から関節の滑膜裏層中に浸潤する白血球との相互作用に起因する。例えば、Paul、Immunology(第3版、Raven Press、1993年)を参照されたい。
【0137】
本発明の化合物に関する別の適用は、VLA−4が媒介している臓器または移植片拒絶の治療においてである。近年、皮膚、腎臓、肝臓、心臓、肺、膵臓および骨髄などの組織および臓器を移植する外科手術法の有効性において著しい改善があった。恐らく、主要な問題は、移植した同種移植片または臓器に対する被移植者の免疫耐性を誘導する十分な薬剤が欠如していることである。同種細胞または臓器を宿主に移植する場合(すなわち、提供者と被提供者が同じ種の異なる個体である)、宿主免疫系が移植における外来抗原に対する免疫応答(宿主対移植片病)を引き起こし、移植組織が破壊される可能性がある。CD8細胞、CD4細胞および単球はすべて移植組織の拒絶に関与する。α4インテグリンに結合する本発明の化合物は、とりわけ、被提供者における同種抗原誘発免疫応答を遮断し、それにより、そのような細胞が移植組織または臓器の破壊に関与することを防止するのに有用である。例えば、Paulら、Transplant International 9巻、420〜425頁(1996年)、Georczynskiら、Immunol.87巻、573〜580頁(1996年)、Georczynskiら、Transplant Immunol.3巻、55〜61頁(1995年)、Yangら、Transplantation 60巻、71〜76頁(1995年)、Andersonら、APMIS 102巻、23〜27頁(1994年)を参照されたい。
【0138】
VLA−4に結合する本発明の化合物に関する関連の使用は、「宿主対移植片」病(GVHD)に関連する免疫応答の変調においてである。例えば、Schlegelら、J.Immunol.155巻、3856〜3865頁(1995年)を参照されたい。GVHDは、免疫適格細胞が同種被移植者に移行した場合に起こる潜在的に致命的な疾患である。このような状況では、提供者の免疫適格細胞が被移植者の組織を攻撃する可能性がある。皮膚、腸上皮および肝臓の組織はしばしば標的となり、GVHDの経過中に破壊される可能性がある。この疾患は、骨髄移植におけるように、免疫組織が移植されている場合に特に重大な問題であるが、心臓および肝臓移植などを含む他の症例の場合には、さほど重大でないGVHDも報告されている。本発明の治療薬は、とりわけ、提供者のT細胞の活性化を阻害し、それにより、宿主における標的細胞を溶解するそれらの能力を妨げるのに用いられる。
【0139】
本発明の化合物のさらなる使用は、腫瘍転移を阻害することである。いくつかの腫瘍細胞がVLA−4を発現すると報告されており、また、VLA−4を結合する化合物が内皮細胞へのかかる細胞の接着を阻害することが報告されている。Steinbackら、Urol.Res.23巻、175〜83頁(1995年)、Oroszら、Int.J.Cancer、60巻、867〜71頁(1995年)、Freedmanら、Leuk.Lymphoma、13巻、47〜52頁(1994年)、Okaharaら、Cancer Res.、54巻、3233〜6頁(1994年)。
【0140】
所望の生物活性を有する化合物は、必要に応じて改変して、改良された薬理学的特性(例えば、インビボにおける安定性、バイオアベイラビリティ)などの所望の特性、または診断分野で検出され得る能力を提供することができる。安定性は、ペプチダーゼまたはヒト血漿もしくは血清と共にインキュベートする間にタンパク質の半減期を測定することによるなど、多様な方法でアッセイすることができる。このようなタンパク質安定性アッセイの多くはすでに記載されている(例えば、Verhoefら、Eur.J.Drug Metab.Pharmacokinet.、1990年、15巻(2号):83〜93頁を参照されたい)。
【0141】
本発明の化合物のさらなる使用は、多発性硬化症の治療においてである。多発性硬化症は、米国において250,000〜350,000人が罹患していると推定される進行性の神経学的自己免疫疾患である。多発性硬化症は、特定の白血球が神経線維を覆う絶縁鞘であるミエリンを攻撃し、その破壊を開始する、特異的自己免疫反応の結果であると考えられる。多発性硬化症の動物モデルにおいて、VLA−4に対するマウスモノクローナル抗体は、内皮に対する白血球接着を阻害し、それにより、動物における中枢神経系の炎症とその後の麻痺を予防することが明らかになっている16
【0142】
本発明の薬剤組成物は、様々な薬物送達系で使用するために適している。本発明での使用に適している製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mace Publishing Company、Philadelphia、PA、第17版(1985年)で確認することができる。
【0143】
患者に投与する量は、投与するもの、投与目的(例えば、予防または治療)、患者の状態、投与方法などによって変わる。治療用途では、組成物は、すでに疾患に罹患している患者に、その疾患およびその合併症の症状を治癒するか、少なくとも部分的に阻止するのに十分な量で投与される。これを達成するのに十分な量は、「治療有効量」として定義する。この用途での有効量は、治療する疾患状態、ならびに担当医の判断によって決まり、その判断は、炎症の重症度、患者の年齢、体重および一般的な状態などの要因による。本明細書で提示したような、適当な動物モデルデータを参照のこと。このようなデータに基づいてヒトに対する投与量を適切に評価する方法は、当技術分野で周知である(例えば、Wagner、J.G.Pharmacokinetics for the Pharmaceutical Scientist.TECHNOMIC,INC.,LANCASTER,PA 1993年を参照されたい)。
【0144】
患者に投与する組成物は、上記医薬組成物の形態である。これらの組成物は、通常の滅菌技術により滅菌され得るか、滅菌濾過され得る。得られた水溶液は、使用のためにそのまま包装され得るか、凍結乾燥することができる。凍結乾燥した調製物は、投与前に、無菌水性担体と配合する。
【0145】
本発明の化合物の治療投与量は、例えば、その治療を行う特定の用途、その化合物の投与方法、患者の健康状態、および製剤医の判断によって変わる。例えば、静脈内投与の場合、その用量は、典型的には、約20μg〜約2000μg/体重1kg、好ましくは約20μg〜約500μg/体重1kg、より好ましくは約100μg〜約300μg/体重1kgの範囲である。鼻腔内投与に適当な投与量範囲は、一般に、約0.1pg〜1mg/体重1kgである。有効用量は、インビトロまたは動物モデル試験系から導いた用量応答曲線から推定できる。
【0146】
本発明の化合物はまた、(本発明においてはαβおよびαβが好ましいが)αβ、αβ、αβ、αβ、αβインテグリンに結合し得るか、その作用をアンタゴナイズし得る。したがって、本発明の化合物はまた、これらのインテグリンがそのそれぞれのリガンドに結合することによって生じる、症状、障害または疾患を予防または反転させるために有用である。
【0147】
例えば、国際公開第WO98/53817号(1998年12月3日公開、その開示は、本明細書において引用によりその全体を援用するものとする)およびそこで引用されている参考文献は、αβが媒介している疾患を記載している。この参考文献はまた、VCAM−Ig融合タンパク質へのαβ依存性結合の拮抗を決定するためのアッセイも記載している。
【0148】
さらに、αβおよびαβインテグリンを結合する化合物は、喘息および関連する肺疾患の治療に特に有用である。例えば、M.H.Graysonら、J.Exp.Med.1998年、188巻(11号)2187〜2191頁を参照のこと。αβインテグリンを結合する化合物はまた、全身性エリテマトーデス(例えば、M.Pangら、Arthritis Rheum.1998年、41巻(8号)、1456〜1463頁を参照のこと);クローン病、潰瘍性大腸炎および炎症性腸疾患(IBD)(例えば、D.Elewautら、Scand J.Gastroenterol 1998年、33巻(7号)743〜748頁を参照のこと);シェーグレン症候群(例えば、U.Kroneldら、Scand J.Gastroenterol 1998年、27巻(3号)、215〜218頁を参照のこと);および関節リウマチ(例えば、Scand J.Gastroenterol 1996年、44巻(3号)、293〜298頁を参照のこと)の治療において有用である。また、αβを結合する化合物は、受精の阻止において有用であり得る(例えば、H.Chenら、Chem.Biol.1999年、6巻、1〜10頁を参照のこと)。
【0149】
本発明の別の態様では、本明細書に記載の化合物および組成物は、血流から、例えば多発性硬化症の場合には中枢神経系への、あるいはミエリンの炎症誘発破壊をもたらす部分への免疫細胞移動を阻害するために用いることができる。好ましくは、これらの薬剤は、脱髄化を阻害し、さらに再有髄化を促進し得るように、免疫細胞移動を阻害する。これらの薬剤はまた、浸潤性免疫細胞が主にCNS中のミエリン鞘の展開に影響を及ぼす先天性代謝障害での中枢神経系の脱髄化を予防し、再有髄化を促進することができる。これらの薬剤は、脱髄疾患または状態により誘発される麻痺のある対象に投与すると、好ましくは麻痺を低減する。
【0150】
本明細書に記載した組成物、化合物および方法による治療に含まれる炎症性疾患には、通常、脱髄化に関連する状態が含まれる。組織学的には、ミエリン異常は、脱髄化または髄鞘発育不全化である。脱髄化は、ミエリンの破壊を伴う。髄鞘発育不全化は、乏突起神経膠細胞の機能障害により生じる不完全なミエリン形成または維持に関する。好ましくは、本明細書に記載の組成物および方法は、脱髄化に関する疾患および状態を治療し、再有髄化を促進することと考えられる。治療で考えられるさらなる疾患または状態には、髄膜炎、脳炎および脊髄損傷、および一般には炎症応答の結果として脱髄化を惹起する状態が含まれる。
【0151】
本明細書に記載の組成物、化合物および混合物は、脱髄化を伴う状態および疾患の治療における使用が考えられる。脱髄化を伴う疾患および状態には、これらに限定されるものではないが、多発性硬化症、先天性代謝障害(例えば、フェニルケトン尿症、テイ−サックス病、ニーマン−ピック病、ゴーシェ病、ハーラー症候群、クラッベ病および他の白質萎縮症)、異常な有髄化を伴う神経障害(例えば、ギランバレー、慢性免疫脱髄多発性神経障害(CIDP)、多病巣性CIDP、抗MAG症候群、GALOP症候群、抗スルファチド抗体症候群、抗GM2抗体症候群、POEMS症候群、神経周囲炎、IgM抗GD1b抗体症候群)、薬物関連脱髄化(例えば、クロロキン、FK506、ペルヘキシリン、プロカインアミドおよびジメルジンにより誘発されるもの)、他の遺伝性脱髄状態(例えば、糖質欠如糖タンパク質、コケーン症候群、先天性ミエリン形成減少、先天性筋ジストロフィー、ファーバー病、マリネスコ−シェーグレン症候群、異染色性脳白質ジストロフィー、ペリツェウス−メルツバッヘル病、レフサム病、プリオン関連疾患、およびサラ病)、および他の脱髄症状(例えば、髄膜炎、脳炎または脊髄損傷)または疾患が含まれる。
【0152】
これらの疾患をインビボで研究するために使用可能な様々な疾患モデルが存在する。例えば、動物モデルには、これらに限定されるものではないが、以下のものが挙げられる:
【0153】
【表4−7】

多発性硬化症
最も一般的な脱髄疾患は多発性硬化症であるが、多くの他の代謝障害および炎症障害も、不完全または異常な有髄化をもたらす。MSは慢性の神経疾患であり、これは、成人期の初期に現れ、多くの症例では著しい障害まで進行する。米国だけでも、MSは約350,000症例存在する。外傷を除いて、MSは、成人期の初期から中期における神経障害の最も多い原因である。
【0154】
MSの原因は、まだ決定されてはいない。MSは、慢性的な炎症、脱髄化およびグリオーシス(瘢痕化)を特徴とする。脱髄化は、軸索伝導に対してマイナスまたはプラスの効果をもたらし得る。プラスの伝導異常には、遅い軸索伝導、インパルスの高く、低くはない連続周波数の存在で生じる可変的な伝導ブロックまたは完全な伝導ブロックが含まれる。プラスの伝導異常には、異所性インパルスの発生、自発的または続く機械的ストレス、および脱髄化エキソン間の異常「クロストーク」が含まれる。
【0155】
ミエリンタンパク質に対して反応性のあるT細胞、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)またはミエリンプロテオリピッドタンパク質(PLP)は、実験用アレルギー性脳脊髄炎でCNS炎症を媒介することが確認されている。患者は、高いCNS免疫グロブリン(Ig)レベルを有することも観察された。さらに、MSで観察された一部の組織損傷は、活性化T細胞、マクロファージまたは星状膠細胞のサイトカイン産物により媒介される可能性がある。
【0156】
今日では、MSがあると診断された患者の80%は、疾患の発症後20年は生存している。MSを管理する治療には、(1)急性悪化の治療を含む疾患経過の変更を目的とし、疾患の長期抑制を対象とする治療;(2)MSの症状の治療;(3)医学的合併症の予防および治療、ならびに(4)二次的な個人的および社会的問題の管理が含まれる。
【0157】
MSの発症は劇的であるか、患者が医学的注意を払わないような穏やかなものである。ほとんどの一般的な症状としては、四肢の1本または複数の衰弱、視神経炎による視覚的ぶれ、感覚障害、二重視および運動失調が挙げられる。疾患経過は、3種の一般的なカテゴリーに分類することができる:(1)再発性MS、(2)慢性進行性MS、および(3)非活動性MS。再発性MSは、神経性機能障害の再発性発作を特徴とする。MS発作は、通常、数日から数週間にわたって展開し、続いて、完全か、部分的な回復があるか、回復はみられない。発作からの回復は、通常、症状のピークから数週間から数カ月以内にみられるが、稀には回復は、2年以上にわたって続くことがある。
【0158】
慢性進行性MSは、安定または寛解期間を伴わず、徐々に進行して悪化する。この形態は、再発性MSの先行病歴のある患者で発症するが、患者のうちの20%では、再発は取り消される可能性はない。急性の再発も、進行性経過の間に起こることがある。
【0159】
第3の形態は、非活動性MSである。非活動性MSは、様々な程度の固定された神経欠損を特徴とする。非活動性MSのある大部分の患者は、再発性MSの早期病歴を有する。
【0160】
疾患経過は、患者の年齢によっても左右される。例えば、順調な予後因子には、初期発症(小児期を除く)、再発性経過および発症後5年でほとんど存在しない残存障害が含まれる。これに反して、不良な予後は、老年での発症(すなわち、40歳以上)および進行性経過を伴う。これらの変動性は、相互に依存している。その理由は、慢性進行性MSが、再発性MSよりも遅い年齢で発症する傾向があるためである。慢性進行性MSによる障害は通常、患者の進行性対麻痺または四肢麻痺(麻痺)による。本発明の一態様では、患者がこの疾患の再発段階よりも寛解段階にある場合に、患者を治療することが好ましい。
【0161】
副腎皮質ホルモンまたは経口コルチコステロイド(例えば、経口プレドニゾンまたは静脈内メチルプレドニゾロン)の短期使用が、MSの急性の悪化がある患者を治療するための唯一の特定治療手段である。
【0162】
MSのための比較的新しい治療としては、インターフェロンβ−1b、インターフェロンβ−1aおよびCopaxone(登録商標)(以前はコポリマー1として知られていたもの)を使用する患者の治療が挙げられる。これら3種の薬剤は、疾患の再発速度を有意に遅くすることが確認されている。これらの薬剤は、筋肉内または皮下で自己投与される。
【0163】
しかし、現在の治療方法はいずれも、脱髄化を抑制せず、勿論、自発的に再有髄化を促進または可能にすることはないか、麻痺を低減することはない。本発明の一態様は、単独で、または他の標準的な治療方法と組み合わせて、本明細書に記載の薬剤で治療することを検討している。
【0164】
先天性代謝障害
先天性代謝障害には、フェニルケトン尿症(PKU)および他のアミノ酸尿症、テイ−サックス病、ニーマン−ピック病、ゴーシェ病、ハーラー症候群、クラッベ病、および下記でさらに詳述するように発達中の鞘に強い影響を及ぼす他の白質萎縮症が含まれる。
【0165】
PKUは、酵素フェニルアラニンヒドロキシラーゼの欠乏により起こる代謝の遺伝的エラーである。この酵素が欠損すると、精神遅滞、臓器損傷、異常態度が生じ、母体PKUの場合には、妊娠がかなり危うくなり得る。PKUを研究するためのモデルは、マウスで発見されている。好ましくは、PKUと同定された乳児を、フェニルアラニン不含または低減食で育てる。本発明の態様は、かかる食事と本明細書に記載の化合物および組成物を組み合わせて、脱髄化を予防し、PKUにより損傷を受けた細胞を再有髄化することである。
【0166】
典型的なテイ−サックス病は、約6カ月齢の対象に現れ、結局は、5歳までには対象は死亡する。この疾患は、脳および神経細胞中の一定の脂肪物質の分解に必要な酵素ヘキソアミニダーゼA(hex A)の欠損による。この酵素が存在しないと、その物質が蓄積し、神経細胞の破壊が生じる。hex A酵素欠乏の他の形態は、さらに遅い年齢で起こり、hex A欠乏の若年性慢性および成人発症形態と呼ばれる。症状は、典型的なテイ−サックス病を特徴とする症状と同様である。さらに、酵素欠乏の成人発症形態もある。現在では、疾患/欠乏の療法または治療は存在せず、疾患に関して胎児を子宮内診断する予防的手段しかない。したがって、本明細書に記載の化合物および組成物は、このような患者における神経細胞の破壊を改善または予防するのに有用である。
【0167】
ニーマン−ピック病は、3つのカテゴリーに該当する:急性乳児形態があり、B型は、一般的でなく、慢性の非神経性形態であり、C型は、疾患の生化学的および遺伝的に明瞭な形態である。正常な個体では、細胞コレステロールは、処理のためにリソソームに移入され、その後、放出される。ニーマン−ピック病の罹患対象から採取された細胞は、リソソームからのコレステロールの放出が不完全であることが確認されている。これにより、リソソーム内部でのコレステロールの過剰な堆積が生じ、プロセッシングエラーが起こる。NPC1は、他のタンパク質中のものと同様に既知のステロールセンシング領域を有することが発見されている。このことは、これが、コレステロール輸送を調節する際に役割を果たしていることを示唆している。ニーマン−ピックのA型およびC型については、有効な治療は同定されていない。C型では、患者は、低コレステロール食に従うように勧められる。したがって、本明細書に記載の化合物および組成物は、細胞の分解を改善または予防する際に有用である。
【0168】
ゴーシェ病は、遺伝子突然変異により起こる遺伝性疾患である。通常は、この遺伝子は、脂肪のグルコセレブロシドを分解するために身体が必要とするグルコセレブロシダーゼと呼ばれる酵素に関与している。ゴーシェ病の罹患患者は、身体がこの酵素を正確に産生することができず、脂肪を分解することができない。テイ−サックス病と同様に、ゴーシェ病は、東欧出身のユダヤ人の子孫(アシュケナージ)にかなり多いが、いかなる人種群の個人も冒される可能性がある。アシュケナージユダヤ人群において、ゴーシェ病は最も一般的な遺伝疾患であり、ほぼ450人に1人の発生率である。一般社会では、ゴーシェ病は、ほぼ100,000人に1人が罹患している。
【0169】
1991年に、ゴーシェ病に関する最初の有効な治療として、酵素代替療法が利用できるようになった。この治療は、静脈内投与されるグルコセレブロシダーゼ酵素の改変形態からなる。本明細書に記載の組成物および化合物を単独で、さらに好ましくはグリコセレブロシダーゼ投与と組み合わせて使用して、罹患対象の疾患を治療することができるものと考えられる。
【0170】
ムコ多糖症I型としても知られているハーラー症候群は、重複疾患のクラスである。これらの遺伝子疾患は、一般に、線維芽細胞中にムコ多糖類の細胞蓄積がある。これらの疾患は遺伝的に識別することができる。線維芽細胞および骨髄移植は有効ではないように思われるので、疾患の重度および進行を改善するのに有用な化合物および組成物が必要とされている。本明細書に記載の化合物および組成物を対象に投与して、疾患の進行および/または重度を改善することができる。
【0171】
クラッベ病(グロボイド細胞性ロイコジストロフィーとしても知られている)は、ミエリンの主要脂質成分を異化するリソソーム酵素であるガラクトシルセラミダーゼ(またはガラクトセレブロシダーゼ)欠損によって生じる常染色体劣勢疾患である。フランスでの発生率は、150,000誕生数に対して1人と推定されている。この疾患は、中枢および末梢神経系の脱髄化をもたらす。発症は、通常、生後1年目の間に起こり、症状は速やかに進行するが、さらに変動的な進行速度の若年性、青年期または成人発症形態も報告されている。診断は、酵素アッセイから確定される(ガラクトシルセラミダーゼ欠損)。いくつかの天然動物モデルが存在する(マウス、イヌ、サル)。クラッベ病では、すべての白質ジストロフィーと同様に、治癒または有効な治療は知られていない。本発明の一実施形態は、クラッベ病および他の白質ジストロフィーを治療または改善するための本明細書に記載の組成物および化合物の使用である。
【0172】
白質ジストロフィーは、脳、脊髄および末梢神経を冒す、遺伝的に決定される進行性疾患群である。これらには、アドレノロイコシズトロフィー(ALD)、副腎脊髄神経障害(AMN)、エカルディ−ゴウチエ症候群、アレキサンダー病、CACH(すなわち、中枢神経系ミエリン形成減少を伴う小児運動失調またはバニシング白質疾患)、CADASIL(すなわち、皮質下梗塞および白質脳症を伴う脳常染色体優勢動脈症)、カナバン病(海綿状変性)、脳腱黄色腫症(CTX)、クラッベ病(上述)、異染性白質ジストロフィー(MLD)、新生児アドレノロイコジストロフィー、卵巣白質ジストロフィー(ovarioleukodystrophy)症候群、ペリツェウス−メルツバッヘル病(X連鎖痙性対麻痺)、レフサム病、ファン・デル・クナップ症候群(皮質下シストを伴う血管化(vaculating)白質ジストロフィー)、およびツェルウェガー症候群が含まれる。いずれの疾患も、有効な治療は勿論、治癒もない。したがって、本明細書に記載の組成物および化合物を使用することなどにより、これらの疾患の症状を治療または改善する手段が必要とされている。
【0173】
異常な有髄化を伴う神経障害
患者に脱髄化をもたらす様々な慢性免疫多発性神経障害が存在する。この症状を発症する年齢は、症状によって変わる。これらの疾患に対する標準的治療は存在し、本明細書に記載の組成物および化合物と組み合わせることができる。あるいは、本明細書に記載の組成物および化合物を単独で使用することもできる。既存の標準的治療としては、以下のものが挙げられる:
【0174】
【表5】

薬剤および放射線誘発性脱髄化
一定の薬剤および放射線は、対象に脱髄化を誘発し得る。脱髄化の原因である薬剤は、これらに限定されるものではないが、クロロキン、FK506、ペルヘキシリン、プロカインアミドおよびジメルジンが挙げられる。
【0175】
放射線も、脱髄化を誘発し得る。放射線による中枢神経系(CNS)毒性は、(1)血管構造に対するダメージ、(2)乏突起神経膠細胞−2星状膠細胞前駆体および成熟乏突起神経膠細胞の欠失、(3)海馬、小脳および皮質の神経幹細胞群の欠失およびサイトカイン発現の一般的変更により起こると考えられる。ほとんどの放射線ダメージは、特定のがん治療の際に行われる放射線療法により起こる。総説に関しては、Belkaら、2001年、Br.J.Cancer 85巻:1233〜9頁を参照されたい。しかし、放射線曝露は、宇宙飛行士に関する問題(Hopewell、1994年、Adv.Space Res.14巻:433〜42頁)、ならびに放射性物質に曝露される事象での問題でもある。
【0176】
薬剤を受けたか、事故で、または意図的に放射線に曝露された患者に本明細書に記載の化合物または組成物のいずれかを投与することにより、脱髄化を予防するか、再有髄化を促進する有効性を享受する。
【0177】
脱髄に関する症状
脱髄化をもたらすさらなる遺伝性症候群/疾患としては、コケーン症候群、先天性ミエリン形成減少、ファーバー病、異染色性脳白質ジストロフィー、ペリツェウス−メルツバッヘル病、レフサム病、プリオン関連疾患およびサラ病が挙げられる。
【0178】
コケーン症候群(CS)は珍しい遺伝性疾患であり、それに罹患したヒトは、日光に過敏で、身長が低く、早発性老化が現れる。コケーン症候群の典型的な形態(I型)では、症状は進行性で、通常、1歳を過ぎると明らかになる。コケーン症候群の早期発症または先天性形態(II型)は、誕生時に判明する。興味深いことに、他のDNA修復疾患とは異なり、コケーン症候群は、がんとの関連性はない。CSは、体細胞および脳の重大な成長不良と、進行性悪液質、網膜、蝸牛および神経変性の両方と共に、がんの増加を伴うことなく、白質ジストロフィーおよび脱髄神経障害を起こす多重系疾患である。UV(例えば、日光)に曝露された後、コケーン症候群罹患対象は、転写カップリング修復をもはや行うことができない。コケーン症候群で欠失している2個の遺伝子のCSAおよびCSBは、これまでにすでに同定されている。CSA遺伝子は染色体5に位置している。いずれの遺伝子も、転写機構の成分と、またDNA修復タンパク質と相互作用するタンパク質をコードする。
【0179】
これまでに、これらの疾患に罹患している患者に対する療法も、有効な治療も同定されていない。したがって、本発明の一態様は、本明細書に記載の化合物および組成物を用いるこの疾患の治療である。
【0180】
先天性ミエリン形成減少は、先天性脱髄神経障害、先天性ミエリン形成減少多発性神経障害、先天性ミエリン形成減少(オニオンバルブ)多発性神経障害、先天性ミエリン形成減少神経障害、ミエリン形成減少誘発性先天性神経障害、ミエリン形成減少神経障害、およびCHNを含む複数の名称を有する。遺伝性末梢神経障害は、ヒトの大部分の一般的な遺伝性疾患のなかでも、複雑で、臨床的および遺伝的に異質な疾患群であり、これらは、末梢神経の進行性悪化をもたらす。先天性ミエリン形成減少は、疾患群の一つである。この群には、圧迫性麻痺に対する不安定性のある遺伝性神経障害、シャルコー−マリー−ツース病、デジェリーヌ−ソッタ病および先天性ミエリン形成減少神経障害が含まれる。これらのいずれの疾患に対する治癒または有効な治療法は知られていない。
【0181】
ファーバー病は、ファーバー脂肪肉芽腫症、セラミダーゼ欠乏症、酸性セラミダーゼ欠乏症、AC欠乏症、N−ラウリルスフィンゴシンデアシラーゼ欠乏症およびN−アシルスフィンゴシンアミドヒドロラーゼを含む複数の名称を有する。一定の名称からも明らかなように、この疾患は、酸性セラミダーゼ(N−アシルスフィンゴシンアミドヒドロラーゼ、ASAHとしても知られている)の欠損により生じる。この酵素が欠損すると、ニューロンおよびグリア細胞中に非スルホン化酸性ムコ多糖類が蓄積する。この疾患の罹患患者は、通常、2歳前に死亡する。
【0182】
異染色性脳白質ジストロフィー(MLD)は、酵素のアリールスルファターゼAの欠損により起こる遺伝疾患である。これは、ミエリン鞘の成長に影響を及ぼす白質ジストロフィーと呼ばれる遺伝疾患群のなかの1種である。MLDの形態は3種ある:晩期乳児期、若年期および成人。最も一般的である晩期乳児期形態では、症状の発症は、6カ月から2歳の間に始まる。乳児は、通常、誕生時には正常であるが、場合によっては、予め得ている能力を喪失している。症状には、低血圧(低筋緊張)、言語異常、精神的能力の喪失、盲目、硬直(すなわち、制御できない筋肉の硬さ)、痙攣、嚥下障害、麻痺および認知症が含まれる。若年形態の症状は、4から14歳の間に始まり、学校成績の障害、精神的な悪化、運動失調、発作および認知症が含まれる。成人形態では、16歳以降に始まる症状には、集中障害、うつ病、精神医学的障害、運動失調、振戦および認知症が含まれ得る。発作は、成人形態で起こることがあるが、他の形態に比べると一般的ではない。3つの形態すべてで、精神的悪化が通常、最初の徴候である。
【0183】
ペリツェウス−メルツバッヘル病(周産期スダン好性白質ジストロフィーとしても知られている)は、プロテオリピッドタンパク質の異常をもたらすX連鎖遺伝障害である。この異常により、一般的には、1歳前に乳児が死亡する。この疾患に対する治療または治癒は知られていない。
【0184】
レフサム病(フィタン酸オキシダーゼ欠乏症、遺伝性多発神経炎性失調または遺伝性運動および感覚神経障害IV、HMSN IVとも呼ばれる)は、フィタノイル−CoAヒドロキシラーゼ(PAHXまたはPHYH)をコードする遺伝子の突然変異により起こる。主な臨床形態は、色素性網膜炎、慢性多発性神経障害および小脳徴候である。フィタン酸、異常な分枝鎖脂肪酸(3,7,11,15−テトラメチル−ヘキサデカン酸)が、この疾患の罹患患者の組織および体液中に蓄積し、PAHXの欠損により代謝することができない。月に1回または2回行われる血漿交換により、身体からこの酸を有効に除去し、フィタン酸摂取を限定する食事制限から自由になる。
【0185】
プリオン関連疾患には、ゲルストマン−ストラウスラー病(GSD)、クロイツフェルト−ヤコブ病(CJD)、家族性致命的不眠症が含まれ、プリオンタンパク質の異常なアイソホームがこれらの疾患、さらに、クールーおよびスクレピー(ヒツジで発見された疾患)での感染性作用因子(infectious agent)として作用し得る。プリオンという用語は、「タンパク質感染性作用因子」に由来する(Prusiner、Science 216巻:136〜44頁、1982年)。不溶性筋原繊維に重合するアミロイド原性ペプチドをもたらすプリオン関連タンパク質(PRP)のタンパク質分解がある。
【0186】
サラ病およびシアルリアス(sialurias)の他のタイプは、シアル酸貯蔵の問題に関与する疾患である。これらは、重度の乳児形態(すなわち、ISSD)またはフィンランドで流行している徐々に進行する成人形態(すなわち、サラ病)として現れ得る常染色体性劣性神経変性である。主な症状は、低血圧、小脳性運動失調および精神的遅延である。これらの症状および疾患もまた、一時的治療または改善治療について検討されている。
【0187】
脱髄化が生じる他の症状としては、感染後脳炎(急性散在性脳脊髄炎、ADEMとしても知られている)、髄膜炎および脊髄損傷が挙げられる。本明細書に記載の組成物および化合物は、これら他の脱髄化疾患の治療で使用することも考えられる。
【0188】
以下の合成および生物学上の実施例は本発明を例示するために提供されており、いずれの場合にも、本発明の範囲を限定するものと解釈するものではない。特に明記しない限り、温度はすべて摂氏である。
【実施例】
【0189】
以下の実施例において、以下の略号は以下の意味を有する。略号が定義されていない場合、それは、一般的に認められている意味を有する。
Å=オングストローム
br s=ブロード1重項
BSA=ウシ血清アルブミン
d=2重項
dd=2重項の2重項
dq=4重項の2重項
dsextet=6重項の2重項
DMF=ジメチルホルムアミド
EDTA=エチレンジアミン四酢酸
EtOAc=酢酸エチル
EM=発光波長(nm)
EX=励起波長(nm)
g=グラム
HBSS=ハンクス平衡塩類溶液
HEPES=4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸
HPLC=高速液体クロマトグラフィー
hrsまたはh=時間
in.=インチ
i−PrOH=イソプロパノール
kg=キログラム
L=リットル
LC/MS=液体クロマトグラフィー/質量分光法
m=多重項
=平方メートル
M=モル
mbar=ミリバール
mg=ミリグラム
MHz=メガヘルツ
min.=分
mL=ミリリットル
mm=ミリメートル
mM=ミリモル
mmol=ミリモル
mOsm=ミリオスモル
m/z=質量対電荷比
N=正常
ng=ナノグラム
nm=ナノメーター
NMR=核磁気共鳴
PBS=リン酸緩衝生理食塩水
PBS++=カルシウムとマグネシウムを含むPBS
ppm=百万分率
psi=1平方インチ当たりのポンド
q=4重項
Rf=保持係数(物質から移動した距離/溶媒前端から移動した距離の比)
rpm=1分当たりの回転数
rt=室温
s=1重項
t=3重項
TFA=トリフルオロ酢酸
THF=テトラヒドロフラン
TLC=薄層クロマトグラフィー
UV=紫外線
wt/wt=重量/重量の比
w/v=重量/容積の比
μg=マイクログラム
μm=ミクロン
μM=マイクロモル
一般法。フラッシュクロマトグラフィーは、800gのKP−Silシリカカートリッジを使用し、Biotage Flash 75Lを用いて行った(32〜63μM、60Å、500〜550m/g)。Rfは、EM Sciences Silica Gel 60 F(254)、順相用の250μM厚プレートを使用した分析用TLCについての報告である。NMRスペクトルは、Varian Gemini 300 MHzスペクトロメーター上に記録した(Hスペクトルに関しては300MHz、13Cのスペクトルに関しては75MHz)。分析用HPLCは、Phenomenex Luna、3μm、C−18、30×4.6mmカラムを備えたAgilent 1100 Series HPLC上で行った。検出器は210nmUVであった。溶媒は、水に溶解の0.1%TFAおよびアセトニトリルに溶解の0.1%TFAであった。標準流速は1.5mL/分であった。また、標準分析法では、2.33分かけて20%のCHCNから70%のCHCNに溶媒勾配を変えた。第2の別法の流速は2mL/分であり、勾配は、1.75分かけて20%のCHCNから70%のCHCNに変えた。第3の方法の流速は1.5ml/分であり、溶媒の組成は10分かけて20%のCHCNから70%のCHCNに変化させ、2分間70%で保持し、次いで1分間かけて95%までランピングし、2分間95%で保持した。LC/MSは、(化学イオン化として他に特に示さない限り)エレクトロスプレーイオン化法を行う、Series 1100 MSDを備えたAgilent 1100 Series HPLCで行った。カラムおよび条件は、フリースタンディングHPLCに合わせた。アミド類のH NMRは、一般的には回転異性体を示し、いくつかのピークの積分値はフラクショナルプロトン値で報告している。
【0190】
(実施例1)
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(フラン−3−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニンの調製。
【0191】
【化12】

ステップ1:N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニンtert−ブチルエステル2の調製。
【0192】
【化13】

ニトロピリミジン−カーバメート1(160.25g、0.3035mol;国際公開第03/099809に記載のようにして調製)および5%のPd/C(15g、HOと50/50wt/wt、Degussa E 101 R/W)をTHF水溶液(1LのTHFおよび50mLのHO)に溶解した混合物を、室温で60psiの水素下で撹拌した。22時間後、TLC(シリカゲル上50%のEtOAc/ヘキサン)は生成物への100%の変換を示した。この反応混合物をセライト充填材(200mL)により濾過した。水素添加フラスコとセライト充填材を新しい無水THF(500mL)ですすいだところ、緑色の濾液が得られた。濾液を真空で濃縮し、緑色〜黒色の粘着性油状物として粗生成物を得た。ロータリーエバボレーターをN下で脱気し、新しい無水THF(600mL)を加えた。溶液を真空で濃縮し、窒素下で脱気した。(新しい無水THFに溶解する工程および濃縮工程は2回以上繰り返し、共沸的に残留水を除去した。)この物質は、見かけの空気感受性によりステップ2で直ちに用いる。所望の生成物に関する[M+1]についてはm/z=499.5。
【0193】
ステップ2:N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−トリフルオロアセチルアミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニンtert−ブチルエステル3の調製。
【0194】
【化14】

ステップ1の粗製アミノピリミジンカーバメート2を600mLの無水THFに溶解した。この溶液を窒素下で0℃まで冷却した。トリフルオロ酢酸無水物(45.5mL、1.51g/mL、327.3mmol)を45分間かけてシリンジポンプを通し、その冷却したアミン溶液にゆっくりと加えた。溶液を室温まで加温し、一晩撹拌した。TLC(ヘキサン中40%EtOAc、シリカゲル)が、反応が本質的に完了していることを示した。LC/MS分析により反応が確認され、また出発物質は全く示さなかった。酢酸エチル(1.4L)で反応物を希釈し、水(400mL)と飽和NaHCO水溶液(700mL、0℃)の混合物で洗浄した。有機溶液をブライン(700mL)で洗浄し、MgSO(105g)で乾燥したところ、黄褐色の溶液が得られた。乾燥した溶液をシリカゲル(400mL)充填材により濾過し、緑色〜灰色の溶液を得た。(黄褐色の有色不純物がシリカゲル上に残った。)シリカゲルをEtOAc(400mL)ですすいだ。濾液溶液を真空で濃縮し、窒素下でフラスコを脱気し、酸素への曝露を最小限にした。無水トルエン(600mL)を加えた。溶液を真空で濃縮し、無水トルエン(400mL)から2回共沸したところ、緑色〜黒色の粘着性油状物が得られた。フラスコをN下で脱気した。[M+1]に関してm/z=595.5であるこの粗生成物は、ステップ3に用いた。
【0195】
ステップ3:N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−トリフルオロアセチルアミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニンtert−ブチルエステル4の調製。
【0196】
【化15】

ステップ2の粗製トリフルオロアセトアミドピリミジンカーバメート3をDMF(350mL)に溶解した。固体の無水炭酸カリウム(79.6g、575.7mmol;乳鉢および乳棒で微粉末に粉砕化し、次いで、一晩かけて28in.のHg真空下で110℃の真空オーブンに入れたもの)を加えた。ヨウ化エチル(46.5mL、89.8g、575.7mmol)を室温で素早く加えた。反応フラスコにキャップをきつく締め、スラリーを激しく撹拌した。室温で20時間撹拌した後、反応物をサンプリングした(TLC、LC/MS)。完全に反応させるため、さらに18時間その反応物を撹拌した。再度その反応物をサンプリングし、簡単な一連の検査を行った。TLC分析は、出発物質が消費されたことを示した。反応物を2.7Lの酢酸エチルで希釈し、激しく撹拌した。スラリーをワットマン#1の濾紙により濾過し、固体KCOを除去した。この有機溶液を6L容の分液漏斗に入れた。水(2.5L)を加え、激しく混合した。これらの層は時間をかけて分離し、次いで、ブライン(200mL)を加え、エマルジョンを壊した。有機層を別の1Lの水、次いで2Lのブラインで洗浄した。
【0197】
有機層をMgSO(50g)およびNaSO(200g)で乾燥した。乾燥した有機溶液をシリカゲル(700mL)のプラグを通して濾過したところ、濃黄緑色〜黄褐色の曇った色の溶液が得られた。(紫/赤色のベースライン不純物は除去した。)シリカゲルをEtOAc(800mL)ですすいだ。有機溶液を濃縮したところ、濃黄緑色の固体を得た(194.3g、103%粗製)。ヘキサン(300mL)を加えた。フラスコの側面を金属スパチュラでこすり取り固体生成物をはずし、そのフラスコに磁気撹拌棒を加えた。混合物は、固体状の塊が分解するまで30分間ゆっくりと撹拌し、次いで微細スラリーが生じるまで30分間素早く撹拌した。スラリーをワットマン#1濾紙により濾過し、ヘキサン(1.2L)で沈殿物をすすぎ、白色固体を得た(141g、74%収率、LC/MSにおいて純度92%)。この濾液を濃縮したところ、緑色〜黄褐色のゴム状物(33.3g)が得られ、これをTLC分析すると一部の所望の生成物が含まれていた。
H NMR(CDCl,300MHz)δ,ppm:7.80(見かけd,1H),7.18(見かけd,AA’XX’,2H),7.03(見かけdd,AA’XX’,2H),5.00(見かけd,1H),4.80(見かけdq,1H),3.95(見かけd六重線,1H),3.4−3.7(m,8.5H),3.0−3.3(m,3H),2.78(六重線,0.7H),1.93(AA’BB’,4H),1.38(見かけd,9H),1.24−1.05(m,9H).H NMRは、ほとんどのピークのダブリングにより明らかなように回転異性体を示す。
13CNMR(CDCl,75MHz)δ,ppm:166.5,166.3,155.6,152.7,150.9,146.0,145.9,128.7,128.3,125.44,125.39,117.18,77.66,(72.82,72.28,71.97−CDCl),50.23,49.74,41.72,41.64,40.16,39.90,37.28,32.60,32.44,23.24,23.17,21.05,20.23,8.50,8.47,7.32。
【0198】
ステップ4:N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチルアミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニンtert−ブチルエステル5の調製。
【0199】
【化16】

トリフルオロアセトアミド4(140g)をメタノール(1.6L)中に懸濁/溶解した。炭酸カリウム(7% KCO)(480mL)の水溶液を加えた。(トリフルオロアセトアミドが部分的に沈殿しゲル形成した。)反応フラスコを55℃の水浴中へ下げた。その溶液をTLCでモニターしながら55℃で9時間かけて混合した。1.2Lのメタノールが回収されるまで、この反応物を真空で十分に注意しながら濃縮した。この溶液を水(200mL)およびブライン(600mL)で希釈し、EtOAc(2L)で抽出し、オレンジ色の溶液を得た。EtOAc層を水(1L)で、次にブライン(400mL)で洗浄した。水層/洗浄水の3つの各部分を単一のEtOAc(1L)で連続する順番で逆抽出し、鮮やかな黄色の溶液を得た。この有機抽出物を合わせ、MgSO(126g)で乾燥した。乾燥した有機溶液を塩基性アルミナ(300mL)の充填材により濾過し、真空で濃縮し、茶色のゴム状物を得た。600mLのトルエンから共沸した後に、赤みがかった固体(117.1g)が得られた。
【0200】
ステップ5:N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(フラン−3−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニンtert−ブチルエステル6の調製。
【0201】
【化17】

アミノ−ピリミジン5(117.1g、222.2mmol)を無水THF(1.5L)に溶解した。ヒューニッヒ塩基、ジイソプロピルエチルアミン(115mL、3当量、666.6mmol)を加えた。溶液をN下で0℃に冷却した。反応フラスコに均圧添加漏斗を取り付け、その添加漏斗をTHF(90mL)に溶解した3−フロイルクロリドの溶液で満たした(32g;Yamamoto & Maruoka;J.Am.Chem.Soc.、1981年、103巻、6133〜6136頁)。塩化フロイル溶液を2時間かけて冷却したアミン溶液にゆっくりと加えた。反応物をゆっくりと室温まで戻し、36時間撹拌した。反応物をEtOAc(2L)で希釈し、0.2Nのクエン酸で2回(1.2Lおよび1.0L)、ブラインで1回(1.8L)、飽和NaHCO水溶液で1回(1.3L)洗浄した。鮮やかなオレンジ〜ピンク色の有機溶液をNaSO(250g)およびMgSO(51g)で乾燥した。その溶液をシリカゲル(1L)充填材により濾過し、フラスコおよびシリカをEtOAc(1L)ですすいだ。その溶液を真空で濃縮した。蒸発工程中に、白色固体が結晶化した。溶液が完全に濃縮されたとき、オレンジ色、ピンク色および白色の固体が得られた。エーテル(400mL)およびヘキサン(500mL)を加えた。スラリーを完全に混合し、ワットマン#1濾紙で濾過したところ、桃色〜ピンク色の固体と鮮やかな赤色の濾液が得られた。沈殿物をヘキサン(500mL)、エーテル(800mL)、再度ヘキサン(400mL)ですすぎ、薄い桃色〜オレンジ色の固体を得た。濾液および洗浄液を合わせ、濃縮し、後で使用するために取り置いた。固体を28 in.のHgの真空(49Torr)下で2日間60℃にて真空オーブン中で乾燥させたところ、100.0gが得られた。LC/MSでは、固体の純度は92%であった。この粗製エステル6を、3LのCHClを充填したスラリー状の2L(1kg)のシリカゲルクロマトグラフィーにかけた。桃色の生成物エステルがCHCl(200mL)中に溶解され、2Lのシリカカラムにアプライした。カラムをCHCl(3L)、ヘキサンに溶解した50%のEtOAc(4L)、ヘキサンに溶解した75%のEtOAc(4L)で溶出した。数分以内に、所望の生成物エステルが複数のEtOAc−ヘキサン分画から結晶化し始めた。TLCにより純粋であることが明らかであった分画を濃縮したところ、白色固体が得られた(82.5g、純度>99%(LC/MSによる))。この純粋な物質は、最終の脱保護工程に用いた。TLCにより混入されていることが明らかであった分画は、オリジナルの濾液/ヘキサンおよびエーテル洗浄液から得た残渣と合わせた。この物質を上述の方法と同様にしてフラッシュクロマトグラフィーにかけたところ、わずかに桃色の固体が得られた(13.2g;[M+1]に関してm/z=621.5)。
H NMR(CDCl,300MHz)δ,ppm:7.58(見かけd,1H),7.35−6.90(見かけABABXと重複,6H),6.45(見かけd,1H),5.25(見かけd,1H),4.85(見かけdq,1H),4.05(見かけ八重線,1H),3.7−3.4(m,8H),3.0−3.3(m,2.5H),2.90(六重線,0.5H),1.93(AA’BB’,4H),1.38(見かけd,9H),1.24−1.05(m,9H).H NMRは、ほとんどのピークの合わせによって明らかなように、回転異性体を示す。
【0202】
ステップ6:N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(フラン−3−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニンの調製。
【0203】
ステップ5のt−ブチルエステル6(82.5g、132.7mmol)に、ギ酸(2L)を添加した。得られた溶液を一晩50℃に加熱した。TLCによる分析で反応が完全であることが確認され、その溶液を真空で濃縮した。水(約200mL)を粗生成物に加え、混合物を濃縮乾固した。さらに水を150mL加え、粗生成物を再び真空で濃縮した。粗製白色固体生成物をiPrOHから濃縮し、無水THFから2回濃縮し、次いで、45℃、35〜40mbar(26〜30Torr)のロータリーエバポレーターで一晩乾燥させ、90gの白色固体を得た。LC/MSでは、粗生成物の純度が97.7%であった。
H NMR(CDOD,300MHz)δ,ppm:7.65(s,0.55H),7.45(s,0.45H),7.38(m,2H),7.25(d,1.3H),7.18(d,1H),7.05(d,1.2H),6.90(d,1H),6.55(s,0.55H),6.22(広幅s,0.45H),4.9−4.8残存溶媒ピークが試料と重なっている,4.10(見かけ七重線,1.1H),3.7(m,3.3H),3.58(m,7H),3.45−2.9(m,6H),2.78(見かけ六重線,0.7H),1.90(AA’BB’,4.5H),1.85(m,3.16H),1.23−1.0(m,10.3H)。
13CNMR(CDOD,75MHz)δ,ppm:169.6,169.2,160.8,153.9,153.6148.8,145.8,145.2,145.1,140.7,140.5,138.0,137.9,130.3,130.2,124.7,124.6,116.5,116.4,116.2,116.1,106.9,106.6,105.1,105.0,62.4,50.7,50.1,41.0,37.9,37.2,30.5,20.2,20.0,19.4,6.9,6.8,6.1,5.9。
【0204】
以下の実施例2〜7は、実施例1と同様に調製した。
【0205】
(実施例2)
(S)−2−(2−(ジエチルアミノ)−5−(N−エチル−2,2,2−トリフルオロアセトアミド)ピリミジン−4−イルアミノ)−3−(4−(ピロリジン−1−カルボキシロイルオキシ)フェニル)プロパン酸の調製
【0206】
【化18】

H NMR(300MHz,CDOD)δ1.03(1.5H,t,J=7.2Hz),1.10−1.28(7.5H,m),1.98(4H,m),2.67−2.85(0.5H,m),2.90−3.05(0.5H,m),3.05−3.38(2H,m,CDODと重複),3.41(2H,m),3.58(6H,m),3.90−4.11(1H,m),4.85−4.90(1H,CDODと重複),7.02(2H,m),7.26(2H,m),7.66(1H,d,J=8.7Hz)
HPLC/MS:MH=567.1。
【0207】
(実施例3)
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(チエン−2−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニンの調製
ステップ1:
【0208】
【化19】

H NMR(300MHz,CDCl)δ1.09−1.17(3H,m),1.23−1.26(3H,m),1.47(12H,m),1.87−1.99(4H,m),2.80(0.4H,brs),3.10(1.6H,m),3.20(1H,m),3.44(2H,t,J=6.0Hz),3.54(2H,t,J=6.0Hz),3.88−4.15(3H,m),4.80−4.85(1H,m),6.48(0.6H,brs),6.75(0.4H,s),6.69−7.08(5H,m),7.41(1H,s),7.50(1H,s),7.78(0.4H,brs),7.85(0.6H,brs)
HPLC/MS:MH=637.2。
【0209】
ステップ2:
【0210】
【化20】

H NMR(300MHz,CDCl)δ0.90(3H,t,J=6.9Hz),1.10−1.30(6H,m),1.85−1.94(4H,m),2.85−3.24(2.4H,m),3.35(8.6H,m),4.00−4.15(1H,m),4.55(0.4H,brs),4.73(0.6H,brs),5.85(0.6H,d,J=5.7Hz),5.87(0.4H,brs),6.60−7.12(5.4H,m),7.39(1H,m),7.60−7.68(1.6H,m)
HPLC/MS:MH=581.2。
【0211】
(実施例4)
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(チエン−3−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニンの調製
ステップ1:
【0212】
【化21】

H NMR(300MHz,CDCl)δ1.07−1.27(9H,m),1.40(9H,s),1.90(4H,m),3.05−3.24(3H,m),3.43−3.64(8H,m),4.73−4.95(1H,m),5.22(1H,m),6.95−7.14(7H,m),7.41(0.4H,s),7.50(0.6H,s)
HPLC/MS:MH=637.2。
【0213】
ステップ2:
【0214】
【化22】

H NMR(300MHz,CDCl),δ0.70−1.4(9H,m),1.81−2.08(4H,m),2.62−4.10(12H,m),4.95(1H,brs),6.90−8.07(8H,m)
HPLC/MS:MH=581.2。
【0215】
(実施例5)
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(フラン−2−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニンの調製
ステップ1:
【0216】
【化23】

H NMR(300MHz,CDCl)δ1.15−1.28(9H,m),1.37(3.6H,s),1.42(5.4H,s),1.93−2.05(4H,m),2.85−3.15(2H,m),3.19−3.35(1H,m),3.45−3.75(8H,m),3.90−4.15(1H,m),4.76−4.85(0.4H,m),4.90−5.00(0.6H,m),5.15−5.22(1H,m),6.20−6.40(2H,m),6.91−7.18(4H,m),7.39(1H,s),7.58(0.4H,s),7.65(0.6H,s)
HPLC/MS:MH=621.3。
【0217】
ステップ2:
【0218】
【化24】

H NMR(300MHz,CDOD)δ0.84−1.25(9H,m),1.85−1.92(4H,m),2.70−2.81(0.5H,m),2.92−3.30(2.5H,m,CD3ODと重複),3.30−3.38(2H,m),3.45−3.59(6H,m),4.04−4.12(1H,m),4.80−4.89(1H,CD3ODと重複),6.18(1H,m),6.58(0.5H,brs),6.78(0.5H,brs),6.83(1H,d,J=8.1Hz),6.92(1H,d,J=8.1Hz),7.06(1H,d,J=8.1Hz),7.19(1H,d,J=8.1Hz),7.38(0.5H,brs),7.44(0.5H,s),7.47(0.5H,brs),7.48(0.5H,s)
HPLC/MS:MH=565.2。
【0219】
(実施例6)
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(t−ブチルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニンの調製
ステップ1:
【0220】
【化25】

H NMR(300MHz,CDCl)δ1.04−1.11(18H,m),1.40(4.5H,s),1.42(4.5H,s),1.96(4H,m),2.46−2.59(0.5H,m),2.72−2.85(0.5H,m),3.00−3.32(2H,m),3.45−3.62(8H,m),3.82−4.15(1H,m),4.82−4.93(1H,m),5.05(0.5H,d,J=7.2Hz),5.15(0.5H,d,J=7.2Hz),7.08−7.18(4H,m),7.67(1H,s)
HPLC/MS:MH=611.3。
【0221】
ステップ2:
【0222】
【化26】

H NMR(300MHz,CDOD)δ0.86−1.20(18H,m),1.87(4H,m),2.32−2.45(0.5H,m),2.56−2.68(0.6H,m),3.05−3.20(2H,m),3.29−3.38(2H,m),3.43−3.52(6H,m),3.8−3.99(1H,m),4.75−4.82(1H,CDODと重複),6.90(2H,d,J=9.0Hz),7.15(2H,d,J=9.0Hz),7.43(1H,s)
HPLC/MS:MH=555.2。
【0223】
(実施例7)
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(イソ−プロピルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニンの調製
ステップ1:
【0224】
【化27】

H NMR(300MHz,CDCl)δ0.90−1.21(15H,m),1.38(9H,s),1.92(4H,m),2.28−2.50(1H,m),2.80−3.16(3H,m),3.41−3.70(8H,m),3.80−3.95(1H,m),4.71−4.85(1H,m),5.05−5.11(1H,m),7.00−7.08(2H,m),7.08−7.16(2H,m),7.65(1H,d,J=5.0Hz)
HPLC/MS:MH=597.3。
【0225】
ステップ2:
【0226】
【化28】

H NMR(300MHz,CDOD)δ0.80−0.98(9H,m),1.15−1.19(6H,m),1.88(4H,m),2.20−2.42(1H,m),2.65−2.83(1H,m),3.08−3.25(2H,m),3.26−3.59(8H,m),3.88−3.97(1H,m),4.70−5.05(1H,CD3ODと重複),6.92(2H,d,J=7.8Hz),7.17(2H,m),7.63(1H,d,J=5.0Hz)
HPLC/MS:MH=541.3。
【0227】
(実施例8)
ピリミジニル尿素を調製するための一般法。
【0228】
ステップ1:
【0229】
【化29】

N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチルアミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニンtert−ブチルエステル(0.436g、0.83mmol)をCHCl(0.35mL)および飽和NaHCO(0.7mL)に溶解した。溶液を0度まで冷却し、10分間激しく撹拌した。10分後、撹拌を止め、非混和層を分離させた。ホスゲン(0.52mL、4.97mmol)を、シリンジを通して底部層に加えた。反応混合物を3時間N下で撹拌した。終了後、有機層を分離し、室温で真空にて濃縮した。これをEtOAcに再溶解し、脱イオン水で洗浄し、2回逆抽出した。有機層をNaSOで乾燥し、真空で濃縮した。この粗製油状物は、精製を行うことなく次工程に用いた。
HPLC/MS:MH=589.0。
【0230】
ステップ2:
【0231】
【化30】

粗製塩化カルバミル(1当量)およびアミン(5当量)をTHF(0.2M)に溶解し、N下で一晩撹拌した。反応混合物を真空で濃縮し、酢酸エチル中で再溶解した。有機層を水で洗浄し、NaSOで乾燥し、真空で濃縮した。生成物をHPLCにより精製した。生成物は、40℃にて溶媒としてのHCOOHで一晩処理した。減圧下で溶媒を除去し、生成物を得た。
【0232】
実施例9〜11は、実施例8に従って調製した。
【0233】
(実施例9)
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(ピペリジン−1−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニンの調製
【0234】
【化31】

H NMR(300MHz,CDCl3)δ1.01(3H,t,J=7Hz),1.22(6H,t,J=7Hz),1.36(4H,m),1.49(2H,m),1.95(4H,m),3.10−3.66(16H,m),4.86−4.92(1H,m),6.75(1H,d,J=7.2Hz),7.25(2H,d,J=8.4Hz),7.14(2H,d,J=8.4Hz),7.64(1H,s)。
HPLC/MS:MH=582.3。
【0235】
(実施例10)
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(N−エチル−N−イソ−プロピルアミノカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニンの調製
【0236】
【化32】

H NMR(300MHz,CDCl3)δ1.01(9H,brs),1.21(9H,m),1.90−1.99(4H,m),2.98(2H,m),3.15(3H,m),3.33(1H,m),3.45(2H,m),3.52−3.60(6H,m),3.76(1H,m),4.91−4.97(1H,brs),6.64(1H,brs),7.04(2H,d,J=8Hz),7.14(2H,d,J=8Hz),7.66(1H,s)。
HPLC/MS:MH=584.4。
【0237】
(実施例11)
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(3−チアピロリジン−1−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニンの調製
【0238】
【化33】

H NMR(300MHz,CDCl3)δ1.03(3H,t,J=6.6Hz),1.21(6H,t,J=6.6Hz),1.90−1.99(4H,m),2.84(2H,t,J=6Hz),3.09−3.63(14H,m),4.06−4.14(2H,q,J=7.8Hz),4.91−4.97(1H,m),6.64(1H,d,J=7Hz),7.04(2H,d,J=8.4Hz),7.13(2H,d,J=8.4Hz),7.75(1H,s)。
HPLC/MS:MH=586.2。
【0239】
(実施例A)
α4β1インテグリン接着アッセイ:ヒト血漿フィブロネクチンに対するJurkat(商標)細胞接着
手順
96ウェルプレート(Costar 3590 EIAプレート)を、10μg/mLの濃度で4℃のヒトフィブロネクチン(Gibco/BRL、カタログ番号33016−023)で一晩コートした。次いで、このプレートを、生理食塩水中のウシ血清アルブミン(BSA;0.3%)の溶液でブロックした。Jurkat(商標)細胞(対数期増殖で維持したもの)を、製造業者の指示書に従ってCalcein AMで標識し、Hepes/生理食塩水/BSA中で2×10細胞/mLの濃度に懸濁した。次いで、細胞を、室温で30分間、試験化合物およびコントロール化合物に曝露し、その後、フィブロネクチン被覆プレートの個々のウェルに移した。接着は37℃で35分間行った。次いで、ウェルを、新鮮な生理食塩水を用いて穏やかに吸引およびピペッティングすることによって洗浄した。残存接着細胞に関する蛍光を、EX485/EM530で蛍光プレートリーダーを使用して定量した。
【0240】
細胞培養物を、定常期のJurkat(商標)細胞を、1日目に1:10にまず分割し、2日目に1:2に分割することによって調製して、3日目にアッセイを実施した。1日目に1:10に分割した細胞を、4日目のアッセイ用に、3日目に1:4に分割した。
【0241】
アッセイプレートを、PBS++中にGibco/BRLヒトフィブロネクチン(カタログ番号33016−023)の作業溶液を10μg/mLでまず作製することによって、調製した。
【0242】
次いで、Costar 3590 EIAプレートを、室温で2時間、50μL/ウェルでコートした(しかし、これはまた、4℃で一晩放置することができる)。最終的に、プレートを、rtで1時間、Hepes/生理食塩水緩衝液(100μL/ウェル)を用いて吸引およびブロックし、その後、150μLのPBS++で3回洗浄した。
【0243】
化合物の希釈を、以下のように、化合物の1:3連続希釈物を調製することにより行った。各プレート(4化合物/プレート)について、600μLを、Titertubeラック中の4本のBio−Rad Titertubeに添加した。十分な化合物を、それぞれ適切なチューブに添加し、当分野で周知の技術を使用して2×濃度にした。Falcon Flexiplateを使用して、100μLのHepes/生理食塩水緩衝液またはヒト血清を、列B〜Gに添加した。180μLに設定されたマルチチャネルピペッターを、4つのチップが等しく間隔を空けられたピペッターと共に使用した。各4つのチューブのセットを、5回混合し、180μLの2×化合物を、列B中の各化合物の希釈物の第1の行に移し、列Aを空のままにした。180μLを、列Aの他のウェルに添加した。50μLを次の希釈物に移し、5回混合し、混合のたびにチップを交換することによりプレートに対して連続希釈を行った。希釈を、列Fで停止した。列Gには、化合物は入れなかった。
【0244】
Hepes/生理食塩水緩衝液またはヒト血清中の21/6抗体の20μg/mL溶液はポジティブコントロールであり、細胞懸濁液プレートに添加するために試薬槽に取っておいた。
【0245】
細胞染色は、まず、50mLチューブで遠心分離(1100rpm、5分間)し、対数期のJurkat(商標)細胞を回収することによって行った。細胞を、50mL PBS++中に再懸濁し、遠心分離し、20mL PBS++中に再懸濁した。細胞を、RTで30分間、20μLのCalcein AMを添加して染色した。容量をHepes/生理食塩水緩衝液で50mLまでとし、細胞を計数し、遠心分離し、Hepes/生理食塩水緩衝液またはヒト血清中に2×10細胞/mLまで再懸濁した。
【0246】
化合物を以下の手順を用いてインキュベートした。新規のフレキシプレートにおいて、65μLの染色細胞を列B〜Hに添加した。次いで、65μLの2×化合物を、プレートの設定の後の適切な列に添加し、3回混合した。65μLの2×−21/6抗体を、列Hに添加し、3回混合した。最後に、プレートを室温で30分間インキュベートした。
【0247】
フィブロネクチン接着を、以下のワークアップ手順後に、EX 485/EM 530で蛍光プレートリーダーを使用して測定した。インキュベーション後、細胞を3回混合し、100μLを、フィブロネクチン被覆プレートに移し、37℃にて約35分インキュベートした。各プレートを、100μLのRT PBS++をウェルの側面から穏やかにピペッティングし、プレートを90度回転させて吸引することにより一列ずつ洗浄した。この手順を、合計3回の洗浄につき繰り返した。壁の側面からピペッティングすることにより洗浄した後、各ウェルに100μLを満たした。
【0248】
IC50値を、ヒト血清の存在下およびヒト血清の非存在下の両方において、各化合物について計算した。IC50は、増殖または活性が50%まで阻害される濃度である。このフィブロネクチンアッセイに従って本明細書に記載の化合物を試験したところ、それらのすべてのIC50値が10μM未満であることがわかった。
【0249】
(実施例B)
ヒト血漿フィブロネクチンへの細胞接着。候補化合物のα4β1への結合を決定するためのインビトロ飽和アッセイ
以下は、実験的自己免疫脳脊髄炎(「EAE」)モデル(次の実施例に記する)または他のインビボモデルにおいて化合物が活性であるために必要とされる血漿レベルを決定するためのインビトロアッセイを記載する。
【0250】
対数増殖期のJurkat(商標)細胞を洗浄し、正常な動物血漿(20μg/mLの15/7抗体(Yednockら、J.Biol.Chem.、(1995年)270巻(48号):28740頁)を含む)中に再懸濁する。
【0251】
そのJurkat(商標)細胞を、66μM〜0.01μMの範囲の種々の濃度(標準曲線のために、標準的な12点の連続希釈を使用する)の既知の候補化合物量を含む正常な血漿サンプル、または候補化合物で治療した動物の末梢血から得た血漿サンプルのいずれかへ2倍希釈する。
【0252】
次いで、細胞を室温にて30分インキュベートし、2%のウシ胎仔血清および塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムを各々1mMを含むリン酸緩衝化生理食塩水(「PBS」)(アッセイ培地)で2回洗浄して、非結合15/7抗体を除去する。
【0253】
次いで、その細胞を、フィコエリトリン結合体化ヤギF(ab’)2抗マウスIgG Fc(Immunotech,Westbrook,ME)(これは、研究している動物種に由来する5%血清と1:200で同時インキュベートすることによって、任意の非特異的交差反応性を吸着させたもの)に曝露し、4℃で30分間暗所にてインキュベートした。
【0254】
細胞をアッセイ培地で2回洗浄し、このアッセイ培地に再懸濁する。次いで、これらを、Yednockら、J.Biol.Chem.、1995年、270巻:28740頁に記載されるように、標準的な蛍光活性化セルソーター(「FACS」)分析により分析する。
【0255】
次いで、このデータを、例えば、規定用量応答様式で、用量に対する蛍光としてグラフ化する。曲線の上のプラトーをもたらす用量レベルは、インビボモデルにおいて効力を得るために必要とされるレベルを表す。
【0256】
またこのアッセイを用いて、他のインテグリン(例えば、αβに最も近縁のインテグリンであるαβインテグリン(Palmerら、1993年、J.Cell Bio.、123巻:1289頁)の結合部位を飽和するために必要とされる血漿レベルを決定することができる。このような結合は、αβインテグリンが媒介している炎症疾患(例えば、慢性喘息に伴って生じる気道の過剰応答および閉塞、アテローム性動脈硬化における平滑筋細胞増殖、血管形成術後の脈管閉塞、腎臓病の結果起こる線維症および糸球体瘢痕、大動脈狭窄、関節リウマチにおける滑膜の肥大、ならびに潰瘍性大腸炎およびクローン病の進行に伴って生じる炎症および瘢痕が挙げられる)に対するインビボ有用性の予測である。
【0257】
したがって、上記のアッセイは、αβインテグリンの結合を測定するために、Jurkat細胞の代わりに、αインテグリン(Yokosakiら、1994年、J.Biol.Chem.、269巻:26691頁)をコードするcDNAでトランスフェクトしたヒト結腸癌細胞株SW 480(ATTC番号CCL228)を用いて実施することができる。コントロールとしては、他のαサブユニットおよびβサブユニットを発現するSW 480細胞を用いることができる。
【0258】
したがって、本発明の別の局面は、哺乳動物患者における疾患を治療するための方法に関し、その疾患は、αβが媒介しており、またその方法は、この患者に、治療有効量の本発明の化合物を投与するステップを含む。このような化合物は、好ましくは、本明細書に記載の上記の薬学的組成物で投与される。有効な毎日の投与は、患者の年齢、体重、症状によって決まるが、これらの要因は、担当医によって容易に確認され得る。しかし、好ましい実施形態では、これらの化合物は、1日当たり約20μg/kg〜約500μg/kgで投与される。
【0259】
(実施例C)
バイオアベイラビリティを決定するためのカセット投薬および血清分析
経口バイオアベイラビリティを、ラットにカセット(すなわち、投薬溶液当たり6種の化合物の混合物)を投薬することによりスクリーニングした。このカセットは、合計用量10mg/kgにつき5種の試験物質および標準化合物を含んでいる。各化合物/試験物質を、等モル量の1N NaOHでナトリウム塩に変換し、2mg/mLにて水に溶解する。そのカセットを、等容量のそれぞれ6つの溶液を混合することによって調製する。カセット投薬溶液を十分に混合し、次いで、そのpHを7.5〜9に調節する。その投薬溶液を、研究の前日に調製し、室温にて一晩撹拌する。
【0260】
6〜8週齡の雄性Sprague Dawley(SD)ラット(Charles River Laboratoriesから入手)をこのスクリーニングに使用した。少なくとも1日、ラットを隔離し、飼料および水を連続して与える。カセットの投与前の夜に、そのラットを約16時間絶食させる。
【0261】
4匹のSDラットを、各カセットに割り当てる。単一用量の投薬溶液を、各ラットに経口投与する。投薬容量(5mL/kg)および時間を記録し、投薬の2時間後に、ラットに給餌した。
【0262】
血液サンプルを、4時間、8時間および12時間の時点で心臓穿刺によって回収する。血液回収直前に、10〜20秒以内で、CO気体でラットを麻酔した。12時間のサンプルを回収した後、ラットをCO窒息により安楽死させ、その後、頚椎脱臼をする。
【0263】
血液サンプルを、処理するまで、周囲より低い温度(4℃)下でヘパリン添加した微量試験管(microtainer tube)中に維持した。血液サンプルを遠心分離し(10000rpmで5分間)、血漿サンプルを取り出し、薬物レベルについて分析するまで、−20℃の冷凍庫中で保存する。血漿中の薬物レベルは、直接血漿沈殿に関する以下のプロトコルを使用して分析する。
【0264】
そのインビボ血漿サンプルを、100μLの試験血漿、150μLのメタノールの順に添加し、その後、10〜20秒間ボルテックスすることによって、1.5mLの96ウェルプレート中に調製した。150μLのアセトニトリル中の内部標準0.05ng/μLを添加し、30秒間ボルテックスした。
【0265】
標準曲線サンプルを、順に、100μLのコントロールマウス血清、続いて150μLのメタノールを添加し、10〜20秒間ボルテックスすることによって1.5mLの96ウェルプレート中に調製した。150μLのアセトニトリル中の内部標準0.05ng/μLを添加し、30秒間ボルテックスした。そのサンプルを、50%メタノール中の目的の化合物0〜200ng(10種類の濃度)でスパイクして、0.5ng/mL〜2,000ng/mLの範囲の標準曲線を得た。再び、そのサンプルを30秒間ボルテックスする。
【0266】
次いで、サンプルを、エッペンドルフ微量遠心チューブ中で20〜30秒間、3000rpmで遠心分離し、その後、80〜90%の上清を、清浄な96ウェルプレート中に移す。次いで、サンプルが乾燥するまで、有機溶媒をエバポレートする(N下で、40℃/30〜60分(ZymarkTurbovap))。
【0267】
次いで、その残渣を、200〜600Lの移動相(50%CHOH/0.1%TFA)中に溶解した。次いで、LC/MS/MSは、PE−Sciex API−3000三連四重極型質量分析機(SN0749707)、Perkin−Elmer,Series200自動サンプラー、および島津10Aポンプを使用して実施した。獲得を、PE−Sciex Analyst(v1.1)で行い、データ分析および定量をPE−Sciex Analyst(v1.1)を使用して達成した。5〜50μlのサンプル容量を、25%CHOH、0.1%TFA〜100%CHOH、0.1%TFAの移動相を使用して、逆相ThermoHypersil DASH−18カラム(Keystone 2.0×20mm、5μm、PN:8823025−701)に注入した。実施時間は、約300μL/分の流速で約8分であった。
【0268】
曲線下面積(AUC)を、t=0から最後のサンプリング時間txまで、線形の台形公式を使用して計算した(Handbook of Basic Pharmacokinetics、Wolfgang A.RitschelおよびGregory L.Kearns、第5版、1999年を参照のこと)。
【0269】
【化34】

カセット投薬パラダイム(血管外投薬の4時間後、8時間後および12時間後のサンプル)の場合、そのAUCをt=0〜t=12時間で計算した。
【0270】
(実施例D)
喘息モデル
αβインテグリンによって媒介される炎症疾患としては、例えば、好酸球流入、気道過剰応答および慢性喘息と一緒に起こる閉塞が挙げられる。以下は、喘息の治療において使用するための本発明の化合物のインビボ効果の研究に使用した喘息の動物モデルを記載する。
【0271】
ラット喘息モデル
これは、Chapmanら、Am J.Resp.Crit.Care Med、153〜4頁、A219(1996年)およびChapmanら、Am.J.Resp.Crit Care Med、155巻、4号、A881(1997年)(これは両方とも引用によりその全体を本明細書に援用するものとする)により記載されている手順に従う。
【0272】
オボアルブミン(OA;10μg/mL)を水酸化アルミニウム(10mg/mL)と混合し、0日目にBrown Norwayラットに注射する(i.p.)。アジュバントと一緒のOAの注射を7日目および14日目に繰り返す。21日目に、感作した動物をプラスチックチューブに再拘束し、鼻のみ露出するシステムで、OA(10mg/kg)のエアロゾルに曝露する(60分)。動物をペントバルビタール(250mg/kg、i.p.)を用いて72時間後に屠殺する。肺を、3つのアリコート(4mL)のハンクス溶液(HBSS×10、100ml;EDTA 100mM、100mL;HEPES 1M、25mL;HOで1Lとした)を使用して、気管カニューレにより洗浄し;回収した細胞をプールし、回収した流体の総容量を、ハンクス溶液を添加することにより12mLに調節する。総細胞を計数し(SysmexマイクロセルカウンターF−500、TOA Medical Electronics Otd.、Japan)、スメアを、回収した流体を希釈し(約10細胞/mLに)、遠心管(Cytospin、Shandon、U.K.)中でアリコート(100μL)をピペッティングすることにより作製する。スメアを風乾し、メタノール中のファストグリーン溶液(2mg/mL)を用いて5秒間固定し、好酸球、好中球、マクロファージおよびリンパ球を区別するために、エオシンG(5秒)およびチアジン(5秒)(Diff−Quick、Browne Ltd.U.K.)で染色する。1スメア当たり計500細胞を、油浸下で光学顕微鏡により計数する(×100)。本発明の化合物を、0.5%カルボキシメチルセルロースおよび2%Tween80懸濁液中に処方し、アレルゲンのオボアルブミンに感作させたラットに経口投与する。能動的に感作したBrown Norwayラットの気道におけるアレルゲン誘導性白血球蓄積を阻害した化合物を、このモデルにおいて活性があるものとみなした。
【0273】
マウス喘息モデル
化合物をまた、Kungら、Am J.Respir.Cell Mol.Biol.、13巻:360〜365頁、(1995年)およびSchneiderら、(1999年)、Am J.Respir.Cell Mol.Biol.20巻:448〜457頁、(1999年)(これらはそれぞれ、引用にによりその全体を本明細書に援用するものとする)により記載されている手順の後に、急性肺炎症のマウスモデルにおいて評価する。雌性Black/6マウス(8〜12週齡)を、20μgのova(Grade 4、Sigma)および2mgの注射用ミョウバン(Pierce)を含む0.2mL ova/ミョウバン混合物の腹腔内注射(i.p.)により1日目に感作させる。追加免疫注射を14日目に投与する。28日目および29日目に、20分間、エアロゾル化1%ova(0.9%生理食塩水中)でマウスにチャレンジする。マウスを安楽死させ、気管支洗浄液サンプル(3mL)を30日目(最初のチャレンジの48時間後)に回収する。好酸球を、FACs/FITC染色法により定量する。本発明の化合物を、0.5%カルボキシメチルセルロースおよび2%Tween80懸濁液に処方し、アレルゲンであるオボアルブミンに感作させたマウスに経口投与する。能動的に感作したC57BL/6マウスの気道におけるアレルゲン誘導性白血球蓄積を阻害した化合物を、このモデルにおいて活性があるものとみなした。
【0274】
ヒツジ喘息モデル
このモデルは、Abrahamら、J.Clin,Invest、93巻:776〜787頁(1994年)およびAbrahamら、Am J.Respir Crit Care Med、156巻:696〜703頁(1997年)(これらは両方とも、引用によりその全体を本明細書に援用するものとする)により記載されている手順に従う。本発明の化合物を、Ascaris suum抗原に過敏性のヒツジへ静脈内投与(生理食塩水溶液)、経口投与(2%Tween80、0.5%カルボキシメチルセルロース)、およびエアロゾル投与することにより評価する。早期の抗原誘導性気管支応答を減少させ、かつ/または遅延相の気道応答をブロックする(例えば、抗原誘導性後期応答および気道過剰応答(「AHR」)に対する防御効果を有する)化合物を、このモデルにおいて活性があるものとみなす。
【0275】
吸入したAscaris suum抗原に対して早期および後期両方の気管支応答を発生することを示すアレルギーのヒツジを使用して、候補化合物の気道に対する効果を研究する。2%リドカインを用いた鼻腔経路の局所麻酔後に、バルーンカテーテルを一方の鼻孔を通して下部食道へと進めた。次いで、その動物を、もう一方の鼻孔を通して、ガイドとして可撓性光ファイバー気管支鏡を用いて、カフを漬けた気管内チューブと共にインキュベートする。
【0276】
Abraham(1994年)に従って肺の圧力を予測する。エアロゾル(以下の製剤を参照のこと)を、Andersenカスケードインパクターで決定されるように、3.2μmの集団中央値空気力学的直径を有するエアロゾルを提供する使い捨て医療用噴霧器を使用して生成する。その噴霧器を、ソレノイドバルブおよび圧縮空気(20psi)の供給源からなる線量計システムに接続する。噴霧器の出力を、プラスチックT字型部品(T−piece)に向ける。このT字型部品の一方の端部は、ピストン型人工呼吸装置の吸息ポートに接続する。そのソレノイドバルブを、人工呼吸装置の吸息サイクルの初めに1秒間作動させる。エアロゾルを、500mLのVTおよび20回呼吸/分の速度で送達する。コントロールとしては、0.5%重炭酸水素ナトリウム溶液のみを用いる。
【0277】
気管支応答性を評価するために、カルバコールに対する累積濃度応答曲線を、Abraham(1994年)に従って作成する。治療開始の前および後、および抗原チャレンジの24時間後に、気管支生検を行う。気管支生検はAbraham(1994年)に従って行った。
【0278】
肺胞のマクロファージのインビトロ接着研究もまた、Abraham(1994年)に従って行い、接着細胞の百分率を計算した。
【0279】
エアロゾル製剤
30.0mg/mLの濃度で0.5%重炭酸ナトリウム/生理食塩水(w/v)に溶解した候補化合物の溶液を以下の手順を用いて調製する:
A.0.5%重炭酸ナトリウム/生理食塩水保存溶液の調製:100.0mL
【0280】
【表6】

手順:
1.0.5gの重炭酸ナトリウムを100mL容量のメスフラスコに加える。
2.約90.0mLの生理食塩水を加え、溶解するまで超音波処理する。
3.生理食塩水で100.0mLまで満たし、完全に混合する。
【0281】
B.30.0mg/mL候補化合物の調製:10.0mL
【0282】
【表7】

手順:
1.0.300gの候補化合物を10.0mL容量のメスフラスコに加える。
2.約9.7mLの0.5%重炭酸ナトリウム/生理食塩水保存溶液を加える。
3.候補化合物が完全に溶解するまで超音波処理する。
4.0.5%重炭酸ナトリウム/生理食塩水保存溶液で10.0mLまで満たし、完全に混合する。
【0283】
(実施例E)
C57B6マウスにおける10日間の毒性試験
10日間の試験を、雌C57B6マウスに対して本発明の化合物の毒性を評価するために行う。この化合物を、5段階の投薬レベル(0(ビヒクルコントロール)、10、30、100、300および1000mg/kg(mpk))にて、各々の投薬レベルで5匹のマウスを用いて胃管栄養法によって投与する。すべてのレベルについての投与容量は10mL/kgであった。投薬溶液または懸濁液を、0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)中2%Tween80で調製し、新しい投薬溶液または懸濁液を、2〜3日おきに調製する。生態観察には、体重(試験日:1、2、3、5、7、8および11日目)、毎日のケージの外からの臨床的観察(1〜2回/日)ならびに周期的(試験日:1、2および9日目)機能的観察バッテリーを含む。
【0284】
終了時に、血液サンプルを、臨床的病理(血液学および臨床化学)および薬物レベル用に心臓穿刺により回収する。EDTA血液サンプルを、総白血球数、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット、赤血球指数(MCV、MCH、MCHC)、血小板およびWBCの5部分の識別(好中球、リンパ球、単球、好酸球および好塩基性球)に関して分析する。ヘパリン処理した血漿サンプルを、アラニントランスアミナーゼ、アスパラギン酸トランスアミナーゼ、アルカリホスファターゼ、総ビリルビン、アルブミン、タンパク質、カルシウム、グルコース、尿素窒素、クレアチニン、コレステロールおよびトリグリセリドに関して分析する。
【0285】
血液回収後、死体を剖検し、器官(肝臓、脾臓、腎臓、心臓および胸腺)を秤量する。組織サンプル(脳、唾液腺、胸腺、心臓、肺、肝臓、腎臓、副腎脾臓、胃、十二指腸、回腸、結腸および子宮/卵巣)を回収し、ホルマリン固定する。ビヒクルコントロールならびに300mpk群および1000mpk群の動物由来の組織をH&E染色ガラススライドに処理し、組織病理学的病変について評価する。
【0286】
体重変化、絶対的器官重量および相対的器官重量ならびに臨床的病状の結果を、Prismソフトウェアを用いるDunnetの複数比較検定によってビヒクルコントロールと比較して統計上の有意差について分析する。機能的観察バッテリーの結果を、SASソフトウェアを用いるCochran−Mantel−Haenszel相関検定によって、Dunnet、Fisherの正確確率検定および投薬傾向効果を用いて差異について分析する。
【0287】
従来の経口製剤を用いると、本発明の化合物はこのモデルにおいて活性がある。
【0288】
(実施例F)
ラットにおけるアジュバント誘導性関節炎
アジュバント誘導性関節炎(「AIA」)は、関節リウマチ(RA)の研究において有用な動物モデルであるが、これは、Lewisラットの尾の基部において結核菌(M.tuberculosis)を注入することにより誘導される。注射の後10日間〜15日間の間、動物には重篤な進行性のリウマチが発症する。
【0289】
一般に、化合物は、ラットにおけるアジュバンド誘導水腫由来の後足腫脹および骨損傷を変化させる能力について試験する。AIAによって起こる後足腫脹の阻害を定量化するために、炎症の2つの相を定義した:(1)第1次の注射済み後足および第2次の注射済み後足、ならびに(2)第2次の未注射の後足、これは一般に注射済みの足における炎症の誘導から11日頃に発症し始める。後者のタイプの炎症の軽減は、免疫抑制性活性の指標である。Chang、Arth.Rheum.、20巻、1135〜1141頁(1977年)を参照されたい。
【0290】
AIAなどのRAの動物モデルを使用することによって、疾患の初期段階に関与する細胞事象を研究することができる。マクロファージおよびリンパ球におけるCD44発現が、アジュバント関節炎の初期発症期間中にアップレギュレーションされ、一方、LFA−1発現は、疾患の発症後期にアップレギュレーションされる。アジュバント関節炎の最も初期段階での接着分子と内皮の間の相互作用を理解することが、RA治療で用いられる方法に有意な進歩をもたらし得る。
【0291】
以下の化合物は、フィブロネクチンアッセイ実施例Aによって試験したときにIC50が約10μM未満であることがすべて確認された:
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(トリフルオロアセチル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(イソ−プロピルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(t−ブチルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(フラン−2−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(ピペリジン−1−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(N−エチル−N−イソ−プロピルアミノカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(チエン−3−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(チエン−2−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(フラン−3−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(3−チアピロリジン−1−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(チエン−2−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}−フェニルアラニンt−ブチルエステル;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−トリフルオロメチルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}−フェニルアラニンt−ブチルエステル;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−t−ブチルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}−フェニルアラニンt−ブチルエステル;および
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−フラン−3−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}−フェニルアラニンt−ブチルエステル。
【0292】
本発明の好ましい実施形態を説明し記載したが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な変更を本内容に行うことができることは理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

(式中、
は、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキル、ヘテロアリールおよび−NRからなる群から選択され、ここで、RおよびRは、水素およびC〜Cアルキルからなる群から独立して選択されるか、RおよびRは、それらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成しており;
は、C〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、およびC〜Cアルキニルからなる群から選択され;
およびRは、独立してC〜Cアルキルであるか、RおよびRは、これらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成している)
の化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、エステルもしくはプロドラッグ。
【請求項2】
−OC(O)NR基がフェニル環のパラ位にある、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
およびRがそれらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成している、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
前記複素環がピロリジニルである、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
がC〜Cアルキルである、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
がエチルである、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
式II:
【化2】

(式中、
は、C〜Cアルキル、C〜Cハロアルキルまたはヘテロアリールであり;
は、C〜Cアルキルであり;
およびR10は、独立してC〜Cアルキルであるか、RおよびR10は、これらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成している)
の化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、エステルもしくはプロドラッグ。
【請求項8】
−OC(O)NR10基がフェニル環のパラ位にある、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
およびR10がそれらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成している、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
前記複素環がピロリジニルである、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
がC〜Cアルキルである、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
がエチルである、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
がC〜Cアルキルである、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
がイソプロピルおよびt−ブチルからなる群から選択される、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
がC〜Cハロアルキルである、請求項12に記載の化合物。
【請求項16】
がトリフルオロメチルである、請求項15に記載の化合物。
【請求項17】
がヘテロアリールである、請求項12に記載の化合物。
【請求項18】
がフラン−2−イル、フラン−3−イル、チエン−2−イルおよびチエン−3−イルからなる群から選択される、請求項17に記載の化合物。
【請求項19】
式III:
【化3】

(式中、
11およびR12は、独立してC〜Cアルキルであるか、R11およびR12は、これらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成しており;
13は、C〜Cアルキルであり;
14およびR15は、独立してC〜Cアルキルであるか、R14およびR15は、これらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成している)
の化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、エステルもしくはプロドラッグ。
【請求項20】
−OC(O)NR1415基がフェニル環のパラ位にある、請求項19に記載の化合物。
【請求項21】
14およびR15がそれらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成している、請求項20に記載の化合物。
【請求項22】
前記複素環がピロリジニルである、請求項21に記載の化合物。
【請求項23】
13がC〜Cアルキルである、請求項22に記載の化合物。
【請求項24】
13がエチルである、請求項23に記載の化合物。
【請求項25】
11およびR12が独立してC〜Cアルキルである、請求項24に記載の化合物。
【請求項26】
11がエチルであり、R12がイソプロピルである、請求項25に記載の化合物。
【請求項27】
11およびR12がそれらにペンダントしている窒素原子と一緒になって複素環を形成している、請求項24に記載の化合物。
【請求項28】
前記複素環がピペリジン−1−イルおよび3−チアピロリジン−1−イルからなる群から選択される、請求項27に記載の化合物。
【請求項29】
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(トリフルオロアセチル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(イソ−プロピルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(t−ブチルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(フラン−2−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(ピペリジン−1−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(N−エチル−N−イソ−プロピルアミノカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(チエン−3−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(チエン−2−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(フラン−3−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(3−チアピロリジン−1−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}フェニルアラニン
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−(チエン−2−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}−フェニルアラニンt−ブチルエステル;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−トリフルオロメチルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}−フェニルアラニンt−ブチルエステル;
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−t−ブチルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}−フェニルアラニンt−ブチルエステル;および
N−[2−ジエチルアミノ−5−{N−エチル−N−フラン−3−イルカルボニル)アミノ}ピリミジン−4−イル]−L−4’−{(ピロリジン−1−イル)カルボニルオキシ}−フェニルアラニンt−ブチルエステル;
からなる群から選択される化合物、またはその薬学的に許容可能な塩、エステルもしくはプロドラッグ。
【請求項30】
薬学的に許容可能な担体と、治療有効量の請求項1から29のいずれか一項に記載の1種または複数の化合物とを含む医薬組成物。
【請求項31】
ヒトまたは動物対象に請求項30に記載の医薬組成物を投与することを含む、ヒトまたは動物対象のα4インテグリン媒介性疾患の治療方法。
【請求項32】
前記α4インテグリンがVLA−4である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記疾患が、喘息、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化、エイズ認知症、糖尿病、急性若年性糖尿病、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、多発性硬化症、関節炎、関節リウマチ、組織移植、腫瘍転移、脳膜炎、脳炎、卒中、脳外傷、腎炎、網膜炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、心筋虚血症、急性白血球媒介性肺損傷、および成人呼吸窮迫症候群からなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記疾患が炎症性疾患である、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記炎症性疾患が、結節性紅斑、アレルギー性結膜炎、視神経炎、ブドウ膜炎、アレルギー性鼻炎、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、血管炎、ライター症候群、全身性エリテマトーデス、進行性全身性硬化症、多発性筋炎、皮膚筋炎、ウェグナー肉芽腫症、大動脈炎、サルコイドーシス、リンパ球減少症、側頭動脈炎、心膜炎、心筋炎、鬱血性心不全、結節性多発性動脈炎、過敏性症候群、アレルギー、好酸球増加症候群、チャーグ・ストラウス症候群、慢性閉塞性肺疾患、過敏性肺臓炎、活動性慢性肝炎、間質性膀胱炎、自己免疫内分泌不全、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫再生不良性貧血、慢性持続性肝炎および甲状腺炎からなる群から選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
α4インテグリン媒介性疾患を治療するための薬剤の製造のための、請求項32に記載の医薬組成物の使用。
【請求項37】
前記α4インテグリンがVLA−4である、請求項38に記載の使用。
【請求項38】
前記疾患が、喘息、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化、エイズ認知症、糖尿病、急性若年性糖尿病、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、多発性硬化症、関節炎、関節リウマチ、組織移植、腫瘍転移、脳膜炎、脳炎、卒中、脳外傷、腎炎、網膜炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、心筋虚血症、急性白血球媒介性肺損傷、および成人呼吸窮迫症候群からなる群から選択される、請求項38に記載の使用。
【請求項39】
前記疾患が炎症性疾患である、請求項38に記載の使用。
【請求項40】
前記炎症性疾患が、結節性紅斑、アレルギー性結膜炎、視神経炎、ブドウ膜炎、アレルギー性鼻炎、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、血管炎、ライター症候群、全身性エリテマトーデス、進行性全身性硬化症、多発性筋炎、皮膚筋炎、ヴェグナー肉芽腫症、大動脈炎、サルコイドーシス、リンパ球減少症、側頭動脈炎、心膜炎、心筋炎、鬱血性心不全、結節性多発性動脈炎、過敏性症候群、アレルギー、好酸球増加症候群、チャーグ・ストラウス症候群、慢性閉塞性肺疾患、過敏性肺臓炎、活動性慢性肝炎、間質性膀胱炎、自己免疫内分泌不全、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫再生不良性貧血、慢性持続性肝炎、および甲状腺炎からなる群から選択される、請求項40に記載の使用。

【公表番号】特表2009−510097(P2009−510097A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533649(P2008−533649)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/038009
【国際公開番号】WO2007/041270
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(399013971)エラン ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド (75)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】