X線分光検出装置
【課題】測定時間を短くすることができ、且つ簡易な構成で完全分光を実現することができるX線分光検出装置を提供する。
【解決手段】X線分光検出装置1Aは、X線若しくは電子線の照射によって該試料10表面における直径100μm以下の微小分析点Pから放射された特性X線2を波長毎に分光して検出する。X線分光検出装置1Aは、分光結晶20及び二次元X線検出器30を備える。分光結晶20は、微小分析点Pから放射された特性X線2を受ける平坦な回折反射面20aを有し、特性X線2に含まれる波長成分のうち該回折反射面20aへの入射角に応じた波長成分を回折反射することにより、特性X線2を波長毎に分光する。二次元X線検出器30は、分光結晶20において回折反射した特性X線2を受ける受光面30aを有し、該受光面30aに入射した特性X線2の入射位置および強度に関するデータを生成する。
【解決手段】X線分光検出装置1Aは、X線若しくは電子線の照射によって該試料10表面における直径100μm以下の微小分析点Pから放射された特性X線2を波長毎に分光して検出する。X線分光検出装置1Aは、分光結晶20及び二次元X線検出器30を備える。分光結晶20は、微小分析点Pから放射された特性X線2を受ける平坦な回折反射面20aを有し、特性X線2に含まれる波長成分のうち該回折反射面20aへの入射角に応じた波長成分を回折反射することにより、特性X線2を波長毎に分光する。二次元X線検出器30は、分光結晶20において回折反射した特性X線2を受ける受光面30aを有し、該受光面30aに入射した特性X線2の入射位置および強度に関するデータを生成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線分光検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、分光結晶を用いた波長分散型のX線分析装置が記載されている。この装置が備える分光結晶は、所定の基準直線を含む基準平面に対して垂直に交わる円弧を連ねた形状を成す内側面を有している。内側面の円弧の曲率半径は、基準直線の一端側に配置された試料から基準直線の他端側に配置されたX線検出器に近づくほど小さくなっている。試料から放出されたX線は分光結晶に入射し、その入射角に応じた波長のX線のみが反射してX線検出器に入射する。
【0003】
特許文献2には、X線エネルギー検出器が記載されている。このX線エネルギー検出器は、X線分光素子(分光結晶)と、二次元X線画像検出器とを備えている。X線分光素子により分光されたX線のエネルギーは、二次元X線画像検出器におけるX線の検出位置によって識別される。この二次元X線画像検出器における検出画像に画像処理を施すことにより、各エネルギー毎のX線強度を得る。
【0004】
特許文献3には、X線分光装置が記載されている。このX線分光装置は、分光結晶及び位置検出型X線検出器を備えている。分光結晶は、仮想放物線の焦点に配置され、試料から放出されたX線を反射する。分光結晶は、反射したX線が平行になるよう、仮想放物線に沿って湾曲している。位置検出型X線検出器は、分光結晶において反射した平行X線の進行方向に対して垂直な方向に延びており、この平行X線を検出する。
【0005】
特許文献4には、X線分析装置が記載されている。このX線分析装置は、分光器にX線を照射し、該分光器によって分光された特定波長のX線を二次元X線検出器を用いて検出することにより、X線分析を行うものである。分光器は、一結晶中に面間隔及び方位が異なる複数の結晶面を含む分光結晶を有しており、複数の結晶面によってX線を同時に複数の異なる波長に分光する。分光された複数のX線は、二次元検出器によって同時に検出される。
【0006】
特許文献5には、非走査型且つ波長分散型のX線分析装置が記載されている。この装置は、X線若しくは電子線を試料に照射し、試料から発生する蛍光X線若しくは特性X線を曲率分布結晶(分光結晶)に入射させる。この曲率分布結晶では、或る円筒面に対して垂直な方向に結晶方向が制御されており、その回折現象を用いて、X線がその波長毎に異なる位置に集光される。そして、それらのX線を二次元若しくは一次元のX線検出器で検出することにより、一定の波長範囲のX線スペクトルを一度に測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−95224号公報
【特許文献2】特開平7−318658号公報
【特許文献3】特公平7−95045号公報
【特許文献4】特開2000−65763号公報
【特許文献5】特開2008−180656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
X線分光には、大別して二種類の方式がある。一つはエネルギー分散型(Energy Dispersive X-ray spectroscopy;EDX)であり、他の一つは波長分散型(wavelength dispersiveX-ray spectrometry;WDX)である。これらの方式のうち、EDXは、電子ビーム等を試料に照射した際に発生する特性X線を検出し、この特性X線のエネルギー分布に基づいて、試料の構成元素を分析する手法である。EDXは、全エネルギー領域を一度に検出して分析することができるので簡易な方式ではあるが、エネルギー分解能やS/N比がWDXよりも劣るため、微量元素の分析や精密分析には不向きである。
【0009】
一方、WDXは、電子ビーム等を試料に照射した際に発生する特性X線を波長毎に分光したのち、各波長それぞれのX線強度を検出し、試料の構成元素を分析する手法である。ここで、図16は、WDXの基本原理を示す図である。WDXでは、原子が規則正しく並んだ分光結晶101に、特性X線102を入射させる。このとき、特性X線102の波長と入射角の余角θとがブラッグの反射条件(nλ=2dsin(90°−θ);但しnは正の整数、λはX線の波長、dは結晶面間隔、θは入射角余角である)を満たす場合に回折が生じる。すなわち、角度θの大きさに対応して、特性X線に含まれる一つの波長が選択的に反射される。一般的なWDXでは、角度θを順次変化させることにより、特性X線を波長毎に分光してそれらの強度を検出する。
【0010】
WDXにおいて、微小な部分から発生した特性X線を分光する際には、一般的に、図17に示されるような分光器が用いられる。この分光器では、試料の微小部分105から発生した特性X線102が湾曲分光結晶103に入射する。そして、その入射角の余角θに応じた一の波長成分のみが分光されて反射し、該波長成分がX線検出器106によって検出される。この分光器において分光される波長を変える際には、湾曲分光結晶103を変位させる。このとき、X線の発生源である微小部分105と、湾曲分光結晶103と、X線検出器106とは、常にローランド円CR上に位置する必要がある。
【0011】
なお、このような分光器に用いられる湾曲分光結晶には、例えば次の二種類がある。図18(a)は、ヨハン型と呼ばれる湾曲分光結晶103Aを示している。このヨハン型湾曲分光結晶103Aの結晶面の曲率半径は、ローランド円CRの半径Rの2倍(2R)となっている。表面(X線入射面)の曲率半径も同様である。しかし、このヨハン型湾曲分光結晶103Aでは、表面がローランド円CRからずれているため、焦点が僅かにぼやけてしまい、集光および分光が不完全となる。
【0012】
一方、図18(b)は、ヨハンソン型と呼ばれる湾曲分光結晶103Bを示している。このヨハンソン型湾曲分光結晶103Bの結晶面の曲率半径はヨハン型と同じくローランド円CRの半径Rの2倍(2R)であるが、ヨハン型と異なり、その表面(X線入射面)はローランド円CRの曲率となるように研磨されている。これにより、ヨハンソン型湾曲分光結晶103Bでは、結晶表面で回折されたX線が、ローランド円CR上のX線検出器106において焦点をより正確に結ぶことができ、集光および分光をより完全なものに近づけることができる。しかしながら、このような曲率の表面を有するヨハンソン型湾曲分光結晶103Bを作製する為には高度な生産技術が必要となる。
【0013】
また、図17及び図18に示されたような分光器では、入射角の余角θを変化させるために湾曲分光結晶103を移動させると、湾曲分光結晶103に入射する特性X線の微小部分105における出射角が変化する。したがって、試料からの該特性X線の脱出深さが変化し、また試料の微小部分105の凹凸の影響も変化する。このため、より高精度に集光および分光を行う為に、いわゆる結晶直進型の湾曲結晶分光器が用いられることがある。しかしながら、この分光器には、複雑な動きを実現するための精密な微動機構が必要となる。
【0014】
図17及び図18に示された分光器とは異なる、図19に示されるような分光器も考えられる。図19に示される分光器は、MCX(Multi Capillary X-ray Lens、ポリキャピラリーとも言われる)といったX線レンズを用いたものであって、MCX分光器と呼ばれている。この分光器は、MCX110と、平板分光結晶111と、X線検出器112とを備えている。試料100の微小部分105に電子線等が照射されることによって発生した特性X線102は、MCX110を通過する間に平行化され、平板分光結晶111に達する。特性X線102は、平板分光結晶111において反射し、X線検出器112によって検出される。この分光器では、平板分光結晶111の角度を変化させることによって、特性X線102に含まれる各波長成分の強度を個別に測定することができる。
【0015】
図20(a)は、MCX110の側断面図である。図20(a)に示されるように、MCX110は、内径が小さく内面に凸凹のない多数の中空管110aが束ねられた構成を備えており、各中空管110aの一端側は或る焦点(試料の微小部分105)に向けて延びており、他端側は互いに並行に延びている。これらの中空管110aの一端に入射した特性X線102の進行方向は、図20(b)に示されるように中空管110aの内部を進みながら変化する。そして、これらのX線は、平行X線として中空管110aの他端から出射される。
【0016】
図19及び図20に示された分光器は、平板分光結晶111を用いており、また比較的簡易な機構(θ−2θゴニオメーター)によって実現可能であり、試料からの特性X線の出射角も一定である。
【0017】
しかしながら、図19及び図20に示された分光器においても、図17及び図18に示されたものと同様、分光結晶およびX線検出器の移動及び角度変化のための機構を必要とするので、装置が複雑になってしまう。また、分光測定の際に分光結晶およびX線検出器の移動と角度変化とを伴うので、測定対象である波長域内の全ての波長にわたって測定結果を得るためには、一定の時間を必要とする。したがって、未知な試料を同定する場合には、長時間を要する場合があり、分析対象によっては不都合が生じることがある。
【0018】
例えば、WDXを用いた分析として、定性分析や定量分析の他に、状態分析がある。状態分析とは、特性X線のスペクトルが元素の存在状態により微妙に変化することを利用して、試料元素の状態を分析することをいう。例えば、図21は、(a)マグネシウム、(b)アルミニウム、及び(c)シリコンのKα及びKαサテライトのスペクトルの状態変化を示している。また、図22は硫黄(S)のKβスペクトルの状態変化を示しており、スペクトルS11は硫黄(S)としての状態、スペクトルS12は硫化亜鉛(ZnS)としての状態、スペクトルS13は硫酸銅(CuSO4)としての状態をそれぞれ示している。また、図23は、酸素(O)のKバンドスペクトルの状態変化を示しており、スペクトルS21は酸化マグネシウム(MgO)としての状態、スペクトルS22は酸化アルミニウム(Al2O3)としての状態、スペクトルS23は酸化シリコン(SiO2)としての状態をそれぞれ示している。また、図24は炭素(C)のKバンドスペクトルの状態変化を示しており、スペクトルS31はSiCとしての状態、スペクトルS32はCr3C2としての状態、スペクトルS33はB4Cとしての状態、スペクトルS34はフラーレンとしての状態、スペクトルS35はグラファイトとしての状態、スペクトルS36はダイアモンドとしての状態をそれぞれ示している。なお、図21〜図23はヨハンソン型分光結晶を、図24はヨハン型擬似分光結晶をそれぞれ搭載した結晶直進型の湾曲結晶分光器により測定されたものである。
【0019】
図21〜図24に例示されたような状態分析では、分析対象となる元素の詳細なスペクトル形状の測定が必要である。しかし、その為には、そのスペクトル形状を含む波長領域を、極めて短い波長間隔でもって測定することが必要となる。そのような測定には長い時間が必要なので、測定開始から測定終了までの間に、試料元素の状態が変化するおそれがある。また、詳細なスペクトル形状は測定終了後に初めて判明するので、適切な波長間隔や各波長における積分時間などの設定には、経験による予測や試行錯誤が必要となる。
【0020】
また、図19及び図20に示された分光器では、MCX110によって特性X線を完全な平行光とすることは困難である。図25は、完全に平行な特性X線102が平板分光結晶111において反射する様子を示す図である。図25に示されるように、特性X線102を完全に平行化することができれば、X線を各波長成分に正確に分光することができる。(以下、このような分光を「完全分光」という。完全分光とは、スペクトル波形に歪みがなく、測定誤差が殆ど無い分光のことである。)しかし、MCX110の各中空管110aの内部では、X線の進行方向は当該中空管110aの中心軸線に対して最大で全反射臨界角相当の傾きを有しており、その傾きのまま他端(出射端)から出射される。したがって、MCX110から出力されるX線は厳密には平行光とはならないので、完全分光の実現は困難である。
【0021】
なお、一般的な蛍光X線分析では、試料から発生する蛍光X線が広がりを有するので、ソーラースリットによって平行成分を取り出し、平板分光結晶に入射させている。図26(a)〜(c)は、ソーラースリット120の板間隔と、出力される蛍光X線121の強度との関係を説明するための図である。図26(a)に示されるように、ソーラースリット120の板間隔が広い場合、出力される蛍光X線121の平行度は低い。これに対し、図26(b)、(c)に示されるように、ソーラースリット120の板間隔が狭くなるほど、出力される蛍光X線121の平行度は高くなる。しかしながら、ソーラースリット120の板間隔が狭くなるほど、出力される蛍光X線121の強度が弱くなってしまう。完全分光を実現するためには、ソーラースリット120の板間隔を限りなく狭くして蛍光X線121の平行度を極限まで高める必要があるが、そうすると蛍光X線121の強度が限りなく弱くなってしまうので、現実的には完全分光を実現することができない。このことは、図19及び図20に示されたMCX分光器において、MCX110と平板分光結晶111との間にソーラースリットを挿入したとしても同様である。
【0022】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、測定時間を短くすることができ、且つ簡易な構成で完全分光を実現することができるX線分光検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上述した課題を解決するために、本発明による第1のX線分光検出装置は、試料表面へのX線若しくは電子線の照射によって該試料表面における直径100μm以下の微小分析点から放射された、軟X線領域に含まれる特性X線を波長毎に分光して検出するX線分光検出装置であって、微小分析点から放射された特性X線を受ける平坦な回折反射面を有し、特性X線に含まれる波長成分のうち該回折反射面への入射角に応じた波長成分を回折反射することにより、特性X線を波長毎に分光する分光結晶と、分光結晶において回折反射した特性X線を受ける受光面を有し、該受光面に入射した特性X線の入射位置および強度に関するデータを生成する二次元X線検出器とを備えることを特徴とする。
【0024】
この第1のX線分光検出装置では、微小分析点から放射された特性X線の全波長成分を分光結晶の平坦な回折反射面で受け、回折反射面上の各位置毎の入射角に対応する波長成分を選択的に回折反射させることによって分光する。これにより、従来のWDX装置のような、入射角を変化させるための分光結晶の移動や角度変化を必要とせず、分光結晶及び二次元X線検出器を固定したまま測定することができる。したがって、所望の波長域に含まれる各波長毎の強度を同時に取得して特性X線スペクトルを演算することができるので、測定時間を大幅に短縮することができる。
【0025】
また、第1のX線分光検出装置では、上述したように、入射角を変化させるための分光結晶の移動や角度変化を必要とせず、分光結晶及び二次元X線検出器を固定したまま測定することができる。したがって、分光結晶の移動や角度変化のための複雑な装置が不要となり、簡易な構成で特性X線スペクトルを得ることができる。
【0026】
また、第1のX線分光検出装置では、試料の表面の微小分析点が、直径100μm以下といった、極めて小さなものである。したがって、分光結晶の回折反射面の各位置において特定の波長成分が回折反射する際、それらの位置に入射する特定X線の入射角のばらつきが極めて小さい。これにより、各位置の入射角に対応する波長成分のみを極めて高い精度で選択的に回折反射させることができるので、特性X線を各波長成分に厳密に(高い分解能で)分光することができる。すなわち、第1のX線分光検出装置によれば、完全分光を実現することができる。
【0027】
また、湾曲分光結晶を用いる従来の装置(ヨハン型、ヨハンソン型など)では、分光結晶の湾曲した回折反射面を高い精度で形成することが難しいこともまた、入射角にばらつきが生じる原因となる。これに対し、第1のX線分光検出装置では、回折反射面が平坦となっている。平坦な回折反射面は加工がし易く、高い精度で平坦に形成することができる。したがって、回折反射面の各位置に入射する特定X線の入射角のばらつきをなくし、完全分光を実現することができる。
【0028】
また、第1のX線分光検出装置では、微小分析点の直径が50μm以下であることがより好ましい。これにより、分光結晶の回折反射面の各位置において特定の波長成分が回折反射する際、それらの位置に入射する特定X線の入射角のばらつきが更に小さくなり、各位置の入射角に対応する波長成分のみを更に高い精度で選択的に回折反射させることができる。
【0029】
また、第1のX線分光検出装置では、分光結晶の格子間隔が4Åより大きいことが好ましく、50Åより大きいことが尚好ましい。これにより、軟X線領域に含まれる特性X線を好適に分光することができる。
【0030】
また、第1のX線分光検出装置では、分光結晶が、PET、ADP、RAP、TAP、及びPbSTからなる群から選択される少なくとも一つの材料を含むことが好ましい。これにより、軟X線領域に含まれる特性X線を好適に分光することができる。
【0031】
また、本発明による第2のX線分光検出装置は、試料表面へのX線若しくは電子線の照射によって該試料表面における直径10μm以下の微小分析点から放射された特性X線を波長毎に分光して検出するX線分光検出装置であって、微小分析点から放射された特性X線を受ける平坦な回折反射面を有し、特性X線に含まれる波長成分のうち該回折反射面への入射角に応じた波長成分を回折反射することにより、特性X線を波長毎に分光する分光結晶と、分光結晶において回折反射した特性X線を受ける受光面を有し、該受光面に入射した特性X線の入射位置および強度に関するデータを生成する二次元X線検出器とを備えることを特徴とする。
【0032】
この第2のX線分光検出装置では、第1のX線分光検出装置と同様に、微小分析点から放射された特性X線の全波長成分を分光結晶の平坦な回折反射面で受け、回折反射面上の各位置毎の入射角に対応する波長成分を選択的に回折反射させることによって分光する。したがって、従来のWDX装置のような、入射角を変化させるための分光結晶の移動や角度変化を必要としないので、測定時間を大幅に短縮することができる。更に、分光結晶の移動や角度変化のための複雑な装置が不要となり、簡易な構成で特性X線スペクトルを得ることができる。
【0033】
また、第2のX線分光検出装置では、試料の表面の微小分析点が、直径10μm以下といった、極めて小さなものである。したがって、分光結晶の回折反射面の各位置において特定の波長成分が回折反射する際、それらの位置に入射する特定X線の入射角のばらつきが極めて小さい。これにより、各位置の入射角に対応する波長成分のみを極めて高い精度で選択的に回折反射させることができるので、特性X線を各波長成分に厳密に(高い分解能で)分光することができる。すなわち、第2のX線分光検出装置によれば、完全分光を実現することができる。
【0034】
また、第2のX線分光検出装置では、回折反射面が平坦となっているので、回折反射面の各位置に入射する特定X線の入射角のばらつきをなくし、完全分光を実現することができる。
【0035】
また、第2のX線分光検出装置は、分光結晶の格子間隔が2Åより大きいことが好ましい。
【0036】
また、第2のX線分光検出装置は、分光結晶が、LiF、PET、ADP、RAP、TAP、及びPbSTからなる群から選択される少なくとも一つの材料を含むことが好ましい。
【0037】
また、第1及び第2のX線分光検出装置は、微小分析点と二次元X線検出器の受光面との間に配置され、微小分析点から受光面に直接到達しようとする特性X線を遮る遮蔽部材を更に備えることを特徴としてもよい。これにより、回折反射面において回折反射した特性X線を受光面に好適に到達させるとともに、微小分析点から受光面に直接到達しようとする特性X線を効果的に遮ることができるので、二次元X線検出器におけるS/N比を改善することができる。
【0038】
また、X線分光検出装置が遮蔽部材を備える場合、微小分析点から分光結晶を経て受光面に到達する特性X線のうち、分光結晶の表面への入射角が最も小さい特性X線が分光結晶の表面において回折反射する位置を第1の位置とし、第1の位置において回折反射した特性X線が受光面に到達する位置を第2の位置とし、分光結晶の表面への入射角が最も大きい特性X線が分光結晶の表面において回折反射する位置を第3の位置とし、第3の位置において回折反射した特性X線が受光面に到達する位置を第4の位置としたときに、遮蔽部材の分光結晶側の端縁が、微小分析点と第3の位置とを通る第1の境界、微小分析点と第4の位置とを通る第2の境界、及び第1の位置と第2の位置とを通る第3の境界によって囲まれる空間内に位置することが好ましい。これにより、微小分析点から受光面に直接到達しようとする特性X線を効果的に遮ることができる。
【0039】
また、第1及び第2のX線分光検出装置は、二次元X線検出器から出力されたデータを、所定方向に並ぶ複数の領域毎に積算する演算処理部を更に備えることが好ましい。
【0040】
また、第1及び第2のX線分光検出装置では、複数の領域それぞれが線状を呈していることが好ましい。
【0041】
また、第1及び第2のX線分光検出装置では、演算処理部が、データを積算する際、当該領域内における検出位置に応じた重みを乗じて積算することが好ましい。
【発明の効果】
【0042】
本発明によるX線分光検出装置によれば、測定時間を短くすることができ、且つ簡易な構成で完全分光を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係るX線分光検出装置の構成を示す図である。
【図2】一実施形態に係るX線分光検出装置の更に好ましい構成を示す図である。
【図3】二次元X線検出器の構成の一例を示す図である。
【図4】(a)二次元データが示す画像データの一例を示す図である。(b)二次元データのM個の画素の各々がN分割されて成るM×N個の微細画素からなる、微細化画像データを概略的に示す図である。
【図5】分光結晶の回折反射面の法線方向から見た、微小分析点、分光結晶、及び特性X線を示す平面図である。
【図6】回折反射面に平行な方向から見た、分光結晶、二次元X線検出器、及び特性X線を示す正面図である。
【図7】微細化画像データを概略的に示す図である。
【図8】従来のWDX(ヨハンソン型湾曲分光結晶分光器)によって測定されたステンレス鋼(SUS)の特性X線スペクトルを示すグラフである。
【図9】図8と同じステンレス鋼について、X線分光検出装置によって得られた微細化画像データと、この微細化画像データを複数の領域毎に積算して得られた特性X線スペクトルを示す図である。
【図10】図8と同じステンレス鋼について、X線分光検出装置によって得られた微細化画像データと、この微細化画像データを複数の領域毎に積算して得られた特性X線スペクトルを示す図である。
【図11】従来のWDX(ヨハンソン型湾曲分光結晶分光器)によって測定された純銅(Cu)の特性X線スペクトルを示すグラフである。
【図12】図11と同じ純銅について、X線分光検出装置によって得られた微細化画像データと、この微細化画像データを複数の領域毎に積算して得られた特性X線スペクトルを示す図である。
【図13】微小分析点の大きさを直径10μmとしたときのCuに関する微細化画像データを示す図である。
【図14】図13に示された微細化画像データを積算することによって算出されたCuの特性X線スペクトル波形を、微細化画像データに重ねた様子を示す図である。
【図15】入射角余角θの最大値θmaxおよび最小値θminが制限される原理を示す図である。
【図16】WDXの基本原理を示す図である。
【図17】WDXにおいて、微小な部分から発生した特性X線を分光する際に一般的に用いられる分光器を示す図である。
【図18】(a)ヨハン型と呼ばれる湾曲分光結晶を示す図である。(b)ヨハンソン型と呼ばれる湾曲分光結晶を示す図である。
【図19】MCX(Multi Capillary X-ray Lens)といったX線レンズを用いた分光器を示す図である。
【図20】MCXの側断面図である。
【図21】(a)マグネシウム、(b)アルミニウム、及び(c)シリコンのKα及びKαサテライトのスペクトルの状態変化を示している。
【図22】硫黄(S)のKβスペクトルの状態変化を示している。
【図23】酸素(O)のKバンドスペクトルの状態変化を示している。
【図24】炭素(C)のKバンドスペクトルの状態変化を示している。
【図25】完全に平行な特性X線が平板分光結晶において反射する様子を示す図である。
【図26】ソーラースリットの板間隔と、出力される蛍光X線の強度との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、添付図面を参照しながら本発明によるX線分光検出装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0045】
図1は、本発明の一実施形態に係るX線分光検出装置の構成を示す図である。本実施形態のX線分光検出装置1Aは、試料10の表面10aへX線若しくは電子線を照射し、表面10aの微小分析点Pから放射された特性X線2を波長毎に分光して検出する装置である。微小分析点Pの大きさ(直径)は、例えば試料10が炭素等であって特性X線2が軟X線領域に含まれる場合には100μm以下であり、より好適には50μm以下である。また、例えば試料10が銅などであって特性X線2が軟X線領域より短い波長領域に含まれる場合には、微小分析点Pの好適な大きさ(直径)は10μm以下である。このような微小分析点Pの大きさは、例えば試料10の表面10aへ照射されるX線若しくは電子線の径を制御することによって行われる。
【0046】
図1に示されるように、本実施形態のX線分光検出装置1Aは、分光結晶20、二次元X線検出器30及び演算処理部40を備えている。分光結晶20は平板分光結晶であり、特性X線の回折及び反射に寄与する回折反射面20aを有している。回折反射面20aは極めて高い平坦性を有しており、試料10の微小分析点Pから放射された特性X線2の一部を受ける。分光結晶20は、例えばLiF、PET、ADP、RAP、TAP、及びPbSTから成る群から選択される少なくとも一つの材料を含んで構成される。特に、特性X線2が軟X線領域に含まれる場合には、分光結晶20は、PET、ADP、RAP、TAP、及びPbSTから成る群から選択される少なくとも一つの材料を含んで構成される。
【0047】
分光結晶20は、特性X線2に含まれる波長成分のうち回折反射面20aへの入射角に応じた波長成分を回折反射することにより、特性X線2を波長毎に分光する。ここで、図1には、微小分析点Pから放射された特性X線2に含まれる3つの波長成分2a〜2cが示されている。これらの波長成分2a〜2cは、互いに波長が異なり、微小分析点Pからほぼ等方的に放射される。微小分析点Pから特性X線2が放射されると、これらの波長成分2a〜2cは、回折反射面20a上の全ての位置に入射する。そして、回折反射面20a上において、入射角の余角θ1と波長成分2aの波長とがブラッグ反射条件を満たす位置(図中の位置Pa)では、波長成分2aのみが回折を生じて選択的に反射される。同様に、入射角の余角θ2と波長成分2bの波長とがブラッグ反射条件を満たす位置(図中の位置Pb)では波長成分2bのみが選択的に反射され、入射角の余角θ3と波長成分2cの波長とがブラッグ反射条件を満たす位置(図中の位置Pc)では波長成分2cのみが選択的に反射される。ここでは3つの波長成分2a〜2cを例示したが、特性X線に含まれる他の波長成分についても同様である。このように、各波長成分毎に回折を生じる位置が異なるので、特性X線2に含まれる各波長成分がそれぞれ分光される。
【0048】
本実施形態では、微小分析点Pの大きさが極めて小さい(100μm以下)ので、回折反射面20aにおける一つの位置への特性X線2の入射角のばらつきもまた極めて小さい。したがって、回折反射面20a上の各位置では、その位置への入射角余角θに対応する波長成分が、極めて精度良く、ばらつきが殆ど無い状態で分光される。つまり、本実施形態では、特性X線2の完全分光が行われる。
【0049】
また、例えば試料10が炭素等であって特性X線2が軟X線領域に含まれる場合、分光結晶20の格子間隔は、4Åより大きいことが好ましく、50Åより大きいことがより好ましい。これにより、軟X線領域の特性X線2を好適に分光することができる。また、例えば試料10が銅などであって特性X線2が軟X線領域より短い波長領域に含まれる場合には、分光結晶20の格子間隔は2Åより大きいことが好ましい。
【0050】
二次元X線検出器30は、分光結晶20の回折反射面20aに対し、試料10の微小分析点Pと同じ側に配置される。二次元X線検出器30は、回折反射面20aにおいて回折反射した特性X線2を受ける受光面30aを有しており、受光面30aに入射した特性X線2の入射位置および強度に関する二次元データを、いわゆる単一光子計測(フォトンカウンティング)によって生成する。
【0051】
ここで、図2は、本実施形態に係るX線分光検出装置1Aの更に好ましい構成を示す図である。図2に示されるX線分光検出装置1Aは、図1に示された構成に加えて、遮蔽部材50を更に備えている。遮蔽部材50は、X線を遮ることが可能な材質を含む板状の部材であって、微小分析点Pと二次元X線検出器30の受光面30aとの間に配置される。遮蔽部材50は、微小分析点Pから受光面30aに直接到達しようとする特性X線2を遮る。
【0052】
遮蔽部材50の配置について、より具体的に説明する。いま、微小分析点Pから分光結晶20の回折反射面20aを経て二次元X線検出器30の受光面30aに到達する特性X線2のうち、回折反射面20aへの入射角が最も小さい(すなわち、入射角の余角θが最も大きい)特性X線2dが回折反射面20aにおいて回折反射する位置を第1の位置P1とする。そして、第1の位置P1において回折反射した特性X線2dが受光面30aに到達する位置を第2の位置P2とする。また、回折反射面20aへの入射角が最も大きい(すなわち、入射角の余角θが最も小さい)特性X線2eが回折反射面20aにおいて回折反射する位置を第3の位置P3とする。そして、第3の位置P3において回折反射した特性X線2eが受光面30aに到達する位置を第4の位置P4とする。この場合、遮蔽部材50の分光結晶20側の端縁50aは、微小分析点Pと第3の位置P3とを通る第1の境界A1と、微小分析点Pと第4の位置P4とを通る第2の境界A2と、及び第1の位置P1と第2の位置P2とを通る第3の境界A3とによって囲まれる空間B(図中に斜線で示されている)内に位置するとよい。遮蔽部材50の端縁50aがこのような領域内に配置されることによって、回折反射面20aにおいて回折反射した特性X線2を受光面30aに好適に到達させるとともに、微小分析点Pから受光面30aに直接到達しようとする特性X線2を効果的に遮ることができる。これにより、二次元X線検出器30におけるS/N比を改善することができる。
【0053】
図3は、二次元X線検出器30の構成の一例を示す図である。同図に示されるように、二次元X線検出器30は、光電変換部31と、電子増倍部32と、蛍光面33と、光検出部34と、演算部35とを有する。光電変換部31は、回折反射面20aから到達した特性X線2を電子e1に変換し、この電子e1を電子増倍部32へ出射する。電子増倍部32は、光電変換部31で発生した電子e1の二次元位置を維持しつつ、この電子e1の二次電子増倍を行い、増倍された電子e2を蛍光面33へ出射する。蛍光面33は、電子増倍部32から出射された電子e2の二次元位置を維持しつつ、電子e2を光Lに変換し、この光Lを光検出部34へ出射する。光検出部34は、二次元配置されたM個(Mは4以上の整数)の画素を有するCCDカメラ等の撮像素子を含んで構成され、蛍光面33から出射される光Lを画素毎に検出して電気信号Sに変換する。光検出部34は、この画素毎の電気信号Sを演算部35へ出力する。演算部35は、光検出部34における光Lの検出回数を画素毎にカウントし、画素毎の検出回数に基づいて二次元データD1を生成する。そして、演算部35は、生成した二次元データD1を演算処理部40へ出力する。図4(a)は、二次元データD1が示す画像データの一例を示す図であり、説明を簡素化するために、この二次元データD1は、複数列および複数行にわたって二次元状に配列された3×3、つまりM=9個の画素A1を有し、これらの画素A1のそれぞれには、光Lの検出回数に応じたデータ値が割り当てられている。
【0054】
演算処理部40は、二次元データD1に基づいて、特性X線2に関する微細化画像データD2を生成するとともに、その微細化画像データD2から、特性X線2のスペクトルを含む情報を演算する。演算処理部40は、例えばCPU及びメモリを有するコンピュータなどの演算装置によって好適に構成されうる。微細化画像データD2は、図4(b)に示されるように、二次元データD1のM個の画素A1の各々がN分割(Nは2以上の整数)されて成るM×N個の微細画素A2からなる。なお、図4(b)では、例示のため、画素A1を3×3の9個(すなわちN=9)の微細画素A2に分割した場合を示しており、M×N個、つまり9×9の81個の微細画素A2に分割した微細化画像データD2として、図4(a)と同じスケールで描かれている。演算処理部40は、微細化画像データD2の各微細画素A2のデータ値を算出する際に、算出対象である微細画素A2を含む画素A1(対象画素)の周囲に隣接する画素A1における光Lの検出回数に応じて、この対象画素A1に含まれるN個の微細画素A2のデータ値に傾斜を与える。演算処理部40は、このような微細化画像データD2に基づいて、特性X線2のスペクトルを含む情報を演算する。
【0055】
ここで、演算処理部40における特性X線2のスペクトル情報の演算方式について説明する。図5は、分光結晶20の回折反射面20aの法線方向から見た、微小分析点P、分光結晶20、及び特性X線2を示す平面図である。また、図6は、回折反射面20aに平行な方向から見た、分光結晶20、二次元X線検出器30、及び特性X線2を示す正面図である。前述したように、本実施形態では、極めて微小な微小分析点Pから放射される特性X線2を測定する。したがって、回折反射面20aへの入射角が等しくなる点の集合、すなわち或る同一の波長成分を回折反射させる点の集合は、直線状ではなく円弧状や楕円弧状、二次曲線状といった曲線状となる。なお、図5には、例示として、図1に示された波長成分2bが入射角余角θ2でもって回折反射する位置Pbが示されており、更にその集合Cbが示されている。集合Cbは、円弧状や楕円弧状、二次曲線状といった曲線状となる。
【0056】
このため、二次元X線検出器30の受光面30aにおける同一の波長成分の入射点の集合もまた、直線状ではなく円弧状や楕円弧状、二次曲線状といった曲線状となる。なお、図6には、例示として、図5に示された波長成分2bが受光面30aに入射するときの入射点Dbが示されており、更にその集合Ebが示されている。集合Ebは、円弧状や楕円弧状、二次曲線状といった曲線状となる。
【0057】
このように、二次元X線検出器30の受光面30aにおいて、或る同一波長の成分が入射する領域は曲線状となる。そこで、本実施形態では、そのような曲線状領域のデータを積算することによって、当該波長成分の強度を求める。
【0058】
図7は、微細化画像データD2を概略的に示す図であって、この微細化画像データD2は、所定方向(図では、微細化画像データD2の長手方向)に並ぶ複数の領域Fに分割されている。これら複数の領域Fは、円弧状や楕円弧状、二次曲線状といった曲線状を呈しており、複数の領域Fそれぞれは、特性X線に含まれる複数の波長成分それぞれに対応している。演算処理部40は、微細化画像データD2の領域F毎に積算を行うことによって、各領域Fに対応する波長成分の強度を求め、スペクトル情報を作成する。なお、ここでいう所定方向とは、微小分析点P、回折反射面20aの中心、及び受光面30aの中心を含む平面と、受光面30aとが交わる直線に沿った方向である。
【0059】
また、演算処理部40は、各領域F毎のデータを積算する際、当該領域F内における検出位置に応じた重みを各データに乗じながら積算することが好ましい。ここでいう検出位置とは、上述した所定方向と交差する方向における領域F内の位置である。領域F内において取得されたデータは、その全てが等しい精度でもって特性X線の波長を表しているわけではなく、例えば当該領域Fの端部に近い位置におけるデータの精度は、当該領域Fの中央部に近い位置におけるデータの精度と比較して劣る場合がある。このような場合には、当該領域Fの中央部に近い位置におけるデータに乗ずる重みを大きくし、当該領域Fの端部に近い位置におけるデータに乗ずる重みを小さくして、これらのデータを積算するとよい。
【0060】
以上の構成を備えるX線分光検出装置1Aによって得られる作用効果について説明する。X線分光検出装置1Aでは、微小分析点Pから放射された特性X線の全波長成分を平板状の分光結晶20で受け、分光結晶20上の各位置毎の入射角に対応する波長成分を選択的に回折反射させることによって分光する。これにより、従来のWDX装置のような、入射角を変化させるための分光結晶の移動や角度変化を必要とせず、分光結晶20及び二次元X線検出器30を固定したまま測定することができる。したがって、所望の波長域に含まれる各波長毎の強度を同時に取得して特性X線スペクトルを演算することができるので、測定時間を大幅に短縮することができる。
【0061】
また、本実施形態のX線分光検出装置1Aは、上述したように、入射角を変化させるための分光結晶の移動や角度変化を必要とせず、分光結晶20及び二次元X線検出器30を固定したまま測定することができる。したがって、分光結晶の移動や角度変化のための複雑な装置が不要となり、簡易な構成で特性X線スペクトルを得ることができる。
【0062】
また、本実施形態のX線分光検出装置1Aでは、試料10の表面の微小分析点Pが、直径100μm以下(好ましくは50μm以下、更に好ましくは10μm以下)といった、極めて小さなものである。したがって、分光結晶20の回折反射面20aの各位置において特定の波長成分が回折反射する際、それらの位置に入射する特定X線の入射角のばらつきが極めて小さい。これにより、各位置の入射角に対応する波長成分のみを極めて高い精度で選択的に回折反射させることができるので、特性X線2を各波長成分に厳密に(高い分解能で)分光することができる。すなわち、本実施形態のX線分光検出装置1Aによれば、完全分光を実現することができる。
【0063】
また、湾曲分光結晶を用いる従来の装置(ヨハン型、ヨハンソン型など)では、分光結晶の湾曲した回折反射面を高い精度で形成することが難しいこともまた、入射角にばらつきが生じる原因となる。これに対し、本実施形態のX線分光検出装置1Aでは、平板状の分光結晶20を使用している。平板状の分光結晶は加工がし易く、回折反射面20aを高い精度で平坦に形成することができる。したがって、回折反射面20aの各位置に入射する特定X線の入射角のばらつきをなくし、完全分光を実現することができる。
【0064】
ここで、図8は、従来のWDX(ヨハンソン型湾曲分光結晶分光器)によって測定されたステンレス鋼(SUS)の特性X線スペクトルを示すグラフである。同図には、NiのKα線61、FeのKα線62a及びKβ線62b、CrのKα線63a及びKβ線63b、及びMnのKα線64を示す特性X線のピークが現れている。そして、図9及び図10には、同じステンレス鋼について、本実施形態のX線分光検出装置1Aによって得られた微細化画像データD2(白い点は、特性X線が入射した位置を示す)と、この微細化画像データD2を複数の領域F(図6を参照)毎に積算して得られた特性X線スペクトルが示されている。図9には、CrのKα線63a及びKβ線63b、並びにMnのKα線64が示されている。図10には、FeのKα線62a及びKβ線62b、並びにNiのKα線61が示されている。これらの図に示されるように、本実施形態のX線分光検出装置1Aによれば、各元素に関する特性X線スペクトルを好適に得ることができる。
【0065】
また、図11は、従来のWDX(ヨハンソン型湾曲分光結晶分光器)によって測定された純銅(Cu)の特性X線スペクトルを示すグラフである。同図には、CuのKα線65a及びKβ線65bを示す特性X線のピークが現れている。そして、図12には、同じ純銅について、本実施形態のX線分光検出装置1Aによって得られた微細化画像データD2と、この微細化画像データD2を複数の領域毎に積算して得られた特性X線スペクトルが示されている。図12の特性X線スペクトルには、CuのKα線65a及びKβ線65bが現れている。なお、図12に示される微細化画像データD2を取得したときの微小分析点Pの大きさは、直径100μmであった。
【0066】
また、図13は、本実施形態のX線分光検出装置1Aにおいて、微小分析点Pの大きさを直径10μmとしたときのCuに関する微細化画像データD2を示している。なお、図13は、二次元X線検出器30の機能を使って、受光面30aのうち一部を拡大して取得したデータを示している。図中において、白いラインL1はCuのKα1線を示しており、白いラインL2はCuのKα2線を示している。同図から明らかなように、CuのKα1線を示すラインL1と、CuのKα2線を示すラインL2とは、完全に分離されている。
【0067】
一般的に、X線分光の主な目的は定性分析と定量分析であるが、他の重要な目的に状態分析がある。或る物質を構成する元素の軌道電子は、その元素の置かれている状態(化学結合状態などの電子状態)により僅かな変化が生じる。このような変化は、元素の状態を明らかにするための重要な情報となる。この変化は一般的に図21・図22・図23・図24に示すように軟X線量域で顕著である。そして、このような僅かな変化を検出するには、極めて正確で誤差の少ないスペクトル波形測定が必要となる。本実施形態のX線分光検出装置1Aによれば、前述した完全分光を実現することによって、このようなスペクトル波形の僅かな変化を捉えることが出来る。図13は軟X線ではないCuのK線においても、Kα1線やKα2線といった相互に極めて近い波長成分を明確に識別することができることを示している。このことから軟X線領域ではさらに顕著であることが推測される。
【0068】
図14は、図13に示された微細化画像データD2を積算することによって算出されたCuの特性X線スペクトル波形を、微細化画像データD2に重ねた様子を示している。この特性X線スペクトル波形には、CuのKα1線65c及びKα2線65dが明確に現れており、従来の装置と比較して波長分解能が格段に向上していることがわかる。
【0069】
続いて、本実施形態のX線分光検出装置1Aによって分光することが可能な波長範囲について説明する。ヨハン型やヨハンソン型といった従来の装置では、分光結晶の角度を機械的に変化させることによって特性X線の入射角を変化させているので、分光可能な波長範囲(すなわち入射角の可変範囲)は、分光結晶の角度変化範囲によって定まる。しかし、本実施形態のX線分光検出装置1Aでは、分光結晶20を固定して測定を行い、回折反射面20a上の各位置毎にX線入射角が異なることを利用するので、その分光波長範囲は回折反射面20aの大きさによって定まる。更には、回折反射面20aから回折反射した特性X線を受ける二次元X線検出器30の大きさによっても、分光波長範囲が制限される。
【0070】
ここで、一枚の分光結晶20によって分光が可能な波長範囲は、理論的には、ブラッグの反射条件(nλ=2dsin(90°−θ))より0<λ<2dである。但し、これは入射角余角θが0°から90°までの範囲で測定可能な場合である。通常、分光結晶20の回折反射面20a、及び二次元X線検出器30の受光面30aの大きさは共に有限であるため、図15(a)に示されるように、入射角余角θの最大値θmaxおよび最小値θminもまた制限される。入射角余角θの最大値θmaxを更に大きくし、或いは最小値θminを更に小さくするためには、図15(b)に示されるように、微小分析点Pを分光結晶20に近づけるとともに、分光結晶20の回折反射面20aを大きくし、且つ二次元X線検出器30の受光面30aを大きくする必要がある。
【0071】
一例を挙げると、微小分析点Pから30mmの位置に分光結晶20を配置するとして、例えば15°〜80°の入射角余角θを実現する為には、長さ100mm以上の回折反射面20aを有する分光結晶20が必要であり、且つ長さ200mm以上の受光面30aを有する二次元X線検出器30が必要となる。このような大きさは、X線分光検出装置の製造において大きな困難とコストを伴わせる。また、試料10の周辺にも大きな空間が必要となる。微小分析点Pから15mmの位置に分光結晶20を配置するとしても、長さ55mmの回折反射面20aと長さ150mmの受光面30aが必要となり、やはり大き過ぎる。しかも、試料10から15mmの位置に分光結晶20が配置されると、試料10の取り回しやマイクロビーム照射機構などと干渉するおそれがある。
【0072】
したがって、本実施形態では、入射角余角θを例えば20°〜40°、30°〜50°、或いは50°〜80°といった範囲に限定し、測定を行うことが好ましい。つまり、15°〜80°のような広い入射角余角θでもって広範囲の特性X線スペクトルを得るのではなく、これらのように限定された入射角余角θでもって、或る程度狭められた所望の範囲で特性X線スペクトルを得ることが好ましい。これにより、製造や使用において現実的なX線分光検出装置1Aを実現することができる。
【0073】
なお、X線分光検出装置1Aの寸法例を挙げると、LiF平板分光結晶を用いる場合、回折反射面20aの長さは30mmであり、試料10から回折反射面20aまでの距離は70mmであり、受光面30aの長さは30mmである。このような構成によって、前述した図9に示されるように、CrのKα線及びKβ線、MnのKα線、並びにFeのKα線を一つの微細化画像データD2に表示することができ、また、前述した図10に示されるように、FeのKα線及びKβ線、並びにNiのKα線を一つの微細化画像データD2に表示することができる。また、前述した図12に示されるように、CuのKα線及びKβ線を一つの微細化画像データD2に表示することができる。
【0074】
また、SのKβ線の測定(分光結晶:PET)、FeのLα線及びLβ線の測定(分光結晶:RAP)、OKバンドの測定(分光結晶:RAP)、及びCKバンドの測定(分光結晶:PbST)のいずれにおいても、回折反射面20aの長さを30mm程度とし、入射角余角θの範囲を15°程度とし、受光面30aの長さを30mm程度とし、試料10と分光結晶20との距離を50〜70mm程度とし、分光結晶20と受光面30aとの距離を70〜80mm程度とすることで十分に測定可能である。このような寸法によれば、製造や使用において極めて現実的なX線分光検出装置1Aを実現することができる。
【符号の説明】
【0075】
1A…X線分光検出装置、2…特性X線、2a〜2c…波長成分、2d,2e…特性X線、10…試料、20…分光結晶、20a…回折反射面、30…二次元X線検出器、30a…受光面、31…光電変換部、32…電子増倍部、33…蛍光面、34…光検出部、35…演算部、40…演算処理部、50…遮蔽部材、D1…二次元データ、D2…微細化画像データ、P…微小分析点。
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線分光検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、分光結晶を用いた波長分散型のX線分析装置が記載されている。この装置が備える分光結晶は、所定の基準直線を含む基準平面に対して垂直に交わる円弧を連ねた形状を成す内側面を有している。内側面の円弧の曲率半径は、基準直線の一端側に配置された試料から基準直線の他端側に配置されたX線検出器に近づくほど小さくなっている。試料から放出されたX線は分光結晶に入射し、その入射角に応じた波長のX線のみが反射してX線検出器に入射する。
【0003】
特許文献2には、X線エネルギー検出器が記載されている。このX線エネルギー検出器は、X線分光素子(分光結晶)と、二次元X線画像検出器とを備えている。X線分光素子により分光されたX線のエネルギーは、二次元X線画像検出器におけるX線の検出位置によって識別される。この二次元X線画像検出器における検出画像に画像処理を施すことにより、各エネルギー毎のX線強度を得る。
【0004】
特許文献3には、X線分光装置が記載されている。このX線分光装置は、分光結晶及び位置検出型X線検出器を備えている。分光結晶は、仮想放物線の焦点に配置され、試料から放出されたX線を反射する。分光結晶は、反射したX線が平行になるよう、仮想放物線に沿って湾曲している。位置検出型X線検出器は、分光結晶において反射した平行X線の進行方向に対して垂直な方向に延びており、この平行X線を検出する。
【0005】
特許文献4には、X線分析装置が記載されている。このX線分析装置は、分光器にX線を照射し、該分光器によって分光された特定波長のX線を二次元X線検出器を用いて検出することにより、X線分析を行うものである。分光器は、一結晶中に面間隔及び方位が異なる複数の結晶面を含む分光結晶を有しており、複数の結晶面によってX線を同時に複数の異なる波長に分光する。分光された複数のX線は、二次元検出器によって同時に検出される。
【0006】
特許文献5には、非走査型且つ波長分散型のX線分析装置が記載されている。この装置は、X線若しくは電子線を試料に照射し、試料から発生する蛍光X線若しくは特性X線を曲率分布結晶(分光結晶)に入射させる。この曲率分布結晶では、或る円筒面に対して垂直な方向に結晶方向が制御されており、その回折現象を用いて、X線がその波長毎に異なる位置に集光される。そして、それらのX線を二次元若しくは一次元のX線検出器で検出することにより、一定の波長範囲のX線スペクトルを一度に測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−95224号公報
【特許文献2】特開平7−318658号公報
【特許文献3】特公平7−95045号公報
【特許文献4】特開2000−65763号公報
【特許文献5】特開2008−180656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
X線分光には、大別して二種類の方式がある。一つはエネルギー分散型(Energy Dispersive X-ray spectroscopy;EDX)であり、他の一つは波長分散型(wavelength dispersiveX-ray spectrometry;WDX)である。これらの方式のうち、EDXは、電子ビーム等を試料に照射した際に発生する特性X線を検出し、この特性X線のエネルギー分布に基づいて、試料の構成元素を分析する手法である。EDXは、全エネルギー領域を一度に検出して分析することができるので簡易な方式ではあるが、エネルギー分解能やS/N比がWDXよりも劣るため、微量元素の分析や精密分析には不向きである。
【0009】
一方、WDXは、電子ビーム等を試料に照射した際に発生する特性X線を波長毎に分光したのち、各波長それぞれのX線強度を検出し、試料の構成元素を分析する手法である。ここで、図16は、WDXの基本原理を示す図である。WDXでは、原子が規則正しく並んだ分光結晶101に、特性X線102を入射させる。このとき、特性X線102の波長と入射角の余角θとがブラッグの反射条件(nλ=2dsin(90°−θ);但しnは正の整数、λはX線の波長、dは結晶面間隔、θは入射角余角である)を満たす場合に回折が生じる。すなわち、角度θの大きさに対応して、特性X線に含まれる一つの波長が選択的に反射される。一般的なWDXでは、角度θを順次変化させることにより、特性X線を波長毎に分光してそれらの強度を検出する。
【0010】
WDXにおいて、微小な部分から発生した特性X線を分光する際には、一般的に、図17に示されるような分光器が用いられる。この分光器では、試料の微小部分105から発生した特性X線102が湾曲分光結晶103に入射する。そして、その入射角の余角θに応じた一の波長成分のみが分光されて反射し、該波長成分がX線検出器106によって検出される。この分光器において分光される波長を変える際には、湾曲分光結晶103を変位させる。このとき、X線の発生源である微小部分105と、湾曲分光結晶103と、X線検出器106とは、常にローランド円CR上に位置する必要がある。
【0011】
なお、このような分光器に用いられる湾曲分光結晶には、例えば次の二種類がある。図18(a)は、ヨハン型と呼ばれる湾曲分光結晶103Aを示している。このヨハン型湾曲分光結晶103Aの結晶面の曲率半径は、ローランド円CRの半径Rの2倍(2R)となっている。表面(X線入射面)の曲率半径も同様である。しかし、このヨハン型湾曲分光結晶103Aでは、表面がローランド円CRからずれているため、焦点が僅かにぼやけてしまい、集光および分光が不完全となる。
【0012】
一方、図18(b)は、ヨハンソン型と呼ばれる湾曲分光結晶103Bを示している。このヨハンソン型湾曲分光結晶103Bの結晶面の曲率半径はヨハン型と同じくローランド円CRの半径Rの2倍(2R)であるが、ヨハン型と異なり、その表面(X線入射面)はローランド円CRの曲率となるように研磨されている。これにより、ヨハンソン型湾曲分光結晶103Bでは、結晶表面で回折されたX線が、ローランド円CR上のX線検出器106において焦点をより正確に結ぶことができ、集光および分光をより完全なものに近づけることができる。しかしながら、このような曲率の表面を有するヨハンソン型湾曲分光結晶103Bを作製する為には高度な生産技術が必要となる。
【0013】
また、図17及び図18に示されたような分光器では、入射角の余角θを変化させるために湾曲分光結晶103を移動させると、湾曲分光結晶103に入射する特性X線の微小部分105における出射角が変化する。したがって、試料からの該特性X線の脱出深さが変化し、また試料の微小部分105の凹凸の影響も変化する。このため、より高精度に集光および分光を行う為に、いわゆる結晶直進型の湾曲結晶分光器が用いられることがある。しかしながら、この分光器には、複雑な動きを実現するための精密な微動機構が必要となる。
【0014】
図17及び図18に示された分光器とは異なる、図19に示されるような分光器も考えられる。図19に示される分光器は、MCX(Multi Capillary X-ray Lens、ポリキャピラリーとも言われる)といったX線レンズを用いたものであって、MCX分光器と呼ばれている。この分光器は、MCX110と、平板分光結晶111と、X線検出器112とを備えている。試料100の微小部分105に電子線等が照射されることによって発生した特性X線102は、MCX110を通過する間に平行化され、平板分光結晶111に達する。特性X線102は、平板分光結晶111において反射し、X線検出器112によって検出される。この分光器では、平板分光結晶111の角度を変化させることによって、特性X線102に含まれる各波長成分の強度を個別に測定することができる。
【0015】
図20(a)は、MCX110の側断面図である。図20(a)に示されるように、MCX110は、内径が小さく内面に凸凹のない多数の中空管110aが束ねられた構成を備えており、各中空管110aの一端側は或る焦点(試料の微小部分105)に向けて延びており、他端側は互いに並行に延びている。これらの中空管110aの一端に入射した特性X線102の進行方向は、図20(b)に示されるように中空管110aの内部を進みながら変化する。そして、これらのX線は、平行X線として中空管110aの他端から出射される。
【0016】
図19及び図20に示された分光器は、平板分光結晶111を用いており、また比較的簡易な機構(θ−2θゴニオメーター)によって実現可能であり、試料からの特性X線の出射角も一定である。
【0017】
しかしながら、図19及び図20に示された分光器においても、図17及び図18に示されたものと同様、分光結晶およびX線検出器の移動及び角度変化のための機構を必要とするので、装置が複雑になってしまう。また、分光測定の際に分光結晶およびX線検出器の移動と角度変化とを伴うので、測定対象である波長域内の全ての波長にわたって測定結果を得るためには、一定の時間を必要とする。したがって、未知な試料を同定する場合には、長時間を要する場合があり、分析対象によっては不都合が生じることがある。
【0018】
例えば、WDXを用いた分析として、定性分析や定量分析の他に、状態分析がある。状態分析とは、特性X線のスペクトルが元素の存在状態により微妙に変化することを利用して、試料元素の状態を分析することをいう。例えば、図21は、(a)マグネシウム、(b)アルミニウム、及び(c)シリコンのKα及びKαサテライトのスペクトルの状態変化を示している。また、図22は硫黄(S)のKβスペクトルの状態変化を示しており、スペクトルS11は硫黄(S)としての状態、スペクトルS12は硫化亜鉛(ZnS)としての状態、スペクトルS13は硫酸銅(CuSO4)としての状態をそれぞれ示している。また、図23は、酸素(O)のKバンドスペクトルの状態変化を示しており、スペクトルS21は酸化マグネシウム(MgO)としての状態、スペクトルS22は酸化アルミニウム(Al2O3)としての状態、スペクトルS23は酸化シリコン(SiO2)としての状態をそれぞれ示している。また、図24は炭素(C)のKバンドスペクトルの状態変化を示しており、スペクトルS31はSiCとしての状態、スペクトルS32はCr3C2としての状態、スペクトルS33はB4Cとしての状態、スペクトルS34はフラーレンとしての状態、スペクトルS35はグラファイトとしての状態、スペクトルS36はダイアモンドとしての状態をそれぞれ示している。なお、図21〜図23はヨハンソン型分光結晶を、図24はヨハン型擬似分光結晶をそれぞれ搭載した結晶直進型の湾曲結晶分光器により測定されたものである。
【0019】
図21〜図24に例示されたような状態分析では、分析対象となる元素の詳細なスペクトル形状の測定が必要である。しかし、その為には、そのスペクトル形状を含む波長領域を、極めて短い波長間隔でもって測定することが必要となる。そのような測定には長い時間が必要なので、測定開始から測定終了までの間に、試料元素の状態が変化するおそれがある。また、詳細なスペクトル形状は測定終了後に初めて判明するので、適切な波長間隔や各波長における積分時間などの設定には、経験による予測や試行錯誤が必要となる。
【0020】
また、図19及び図20に示された分光器では、MCX110によって特性X線を完全な平行光とすることは困難である。図25は、完全に平行な特性X線102が平板分光結晶111において反射する様子を示す図である。図25に示されるように、特性X線102を完全に平行化することができれば、X線を各波長成分に正確に分光することができる。(以下、このような分光を「完全分光」という。完全分光とは、スペクトル波形に歪みがなく、測定誤差が殆ど無い分光のことである。)しかし、MCX110の各中空管110aの内部では、X線の進行方向は当該中空管110aの中心軸線に対して最大で全反射臨界角相当の傾きを有しており、その傾きのまま他端(出射端)から出射される。したがって、MCX110から出力されるX線は厳密には平行光とはならないので、完全分光の実現は困難である。
【0021】
なお、一般的な蛍光X線分析では、試料から発生する蛍光X線が広がりを有するので、ソーラースリットによって平行成分を取り出し、平板分光結晶に入射させている。図26(a)〜(c)は、ソーラースリット120の板間隔と、出力される蛍光X線121の強度との関係を説明するための図である。図26(a)に示されるように、ソーラースリット120の板間隔が広い場合、出力される蛍光X線121の平行度は低い。これに対し、図26(b)、(c)に示されるように、ソーラースリット120の板間隔が狭くなるほど、出力される蛍光X線121の平行度は高くなる。しかしながら、ソーラースリット120の板間隔が狭くなるほど、出力される蛍光X線121の強度が弱くなってしまう。完全分光を実現するためには、ソーラースリット120の板間隔を限りなく狭くして蛍光X線121の平行度を極限まで高める必要があるが、そうすると蛍光X線121の強度が限りなく弱くなってしまうので、現実的には完全分光を実現することができない。このことは、図19及び図20に示されたMCX分光器において、MCX110と平板分光結晶111との間にソーラースリットを挿入したとしても同様である。
【0022】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、測定時間を短くすることができ、且つ簡易な構成で完全分光を実現することができるX線分光検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上述した課題を解決するために、本発明による第1のX線分光検出装置は、試料表面へのX線若しくは電子線の照射によって該試料表面における直径100μm以下の微小分析点から放射された、軟X線領域に含まれる特性X線を波長毎に分光して検出するX線分光検出装置であって、微小分析点から放射された特性X線を受ける平坦な回折反射面を有し、特性X線に含まれる波長成分のうち該回折反射面への入射角に応じた波長成分を回折反射することにより、特性X線を波長毎に分光する分光結晶と、分光結晶において回折反射した特性X線を受ける受光面を有し、該受光面に入射した特性X線の入射位置および強度に関するデータを生成する二次元X線検出器とを備えることを特徴とする。
【0024】
この第1のX線分光検出装置では、微小分析点から放射された特性X線の全波長成分を分光結晶の平坦な回折反射面で受け、回折反射面上の各位置毎の入射角に対応する波長成分を選択的に回折反射させることによって分光する。これにより、従来のWDX装置のような、入射角を変化させるための分光結晶の移動や角度変化を必要とせず、分光結晶及び二次元X線検出器を固定したまま測定することができる。したがって、所望の波長域に含まれる各波長毎の強度を同時に取得して特性X線スペクトルを演算することができるので、測定時間を大幅に短縮することができる。
【0025】
また、第1のX線分光検出装置では、上述したように、入射角を変化させるための分光結晶の移動や角度変化を必要とせず、分光結晶及び二次元X線検出器を固定したまま測定することができる。したがって、分光結晶の移動や角度変化のための複雑な装置が不要となり、簡易な構成で特性X線スペクトルを得ることができる。
【0026】
また、第1のX線分光検出装置では、試料の表面の微小分析点が、直径100μm以下といった、極めて小さなものである。したがって、分光結晶の回折反射面の各位置において特定の波長成分が回折反射する際、それらの位置に入射する特定X線の入射角のばらつきが極めて小さい。これにより、各位置の入射角に対応する波長成分のみを極めて高い精度で選択的に回折反射させることができるので、特性X線を各波長成分に厳密に(高い分解能で)分光することができる。すなわち、第1のX線分光検出装置によれば、完全分光を実現することができる。
【0027】
また、湾曲分光結晶を用いる従来の装置(ヨハン型、ヨハンソン型など)では、分光結晶の湾曲した回折反射面を高い精度で形成することが難しいこともまた、入射角にばらつきが生じる原因となる。これに対し、第1のX線分光検出装置では、回折反射面が平坦となっている。平坦な回折反射面は加工がし易く、高い精度で平坦に形成することができる。したがって、回折反射面の各位置に入射する特定X線の入射角のばらつきをなくし、完全分光を実現することができる。
【0028】
また、第1のX線分光検出装置では、微小分析点の直径が50μm以下であることがより好ましい。これにより、分光結晶の回折反射面の各位置において特定の波長成分が回折反射する際、それらの位置に入射する特定X線の入射角のばらつきが更に小さくなり、各位置の入射角に対応する波長成分のみを更に高い精度で選択的に回折反射させることができる。
【0029】
また、第1のX線分光検出装置では、分光結晶の格子間隔が4Åより大きいことが好ましく、50Åより大きいことが尚好ましい。これにより、軟X線領域に含まれる特性X線を好適に分光することができる。
【0030】
また、第1のX線分光検出装置では、分光結晶が、PET、ADP、RAP、TAP、及びPbSTからなる群から選択される少なくとも一つの材料を含むことが好ましい。これにより、軟X線領域に含まれる特性X線を好適に分光することができる。
【0031】
また、本発明による第2のX線分光検出装置は、試料表面へのX線若しくは電子線の照射によって該試料表面における直径10μm以下の微小分析点から放射された特性X線を波長毎に分光して検出するX線分光検出装置であって、微小分析点から放射された特性X線を受ける平坦な回折反射面を有し、特性X線に含まれる波長成分のうち該回折反射面への入射角に応じた波長成分を回折反射することにより、特性X線を波長毎に分光する分光結晶と、分光結晶において回折反射した特性X線を受ける受光面を有し、該受光面に入射した特性X線の入射位置および強度に関するデータを生成する二次元X線検出器とを備えることを特徴とする。
【0032】
この第2のX線分光検出装置では、第1のX線分光検出装置と同様に、微小分析点から放射された特性X線の全波長成分を分光結晶の平坦な回折反射面で受け、回折反射面上の各位置毎の入射角に対応する波長成分を選択的に回折反射させることによって分光する。したがって、従来のWDX装置のような、入射角を変化させるための分光結晶の移動や角度変化を必要としないので、測定時間を大幅に短縮することができる。更に、分光結晶の移動や角度変化のための複雑な装置が不要となり、簡易な構成で特性X線スペクトルを得ることができる。
【0033】
また、第2のX線分光検出装置では、試料の表面の微小分析点が、直径10μm以下といった、極めて小さなものである。したがって、分光結晶の回折反射面の各位置において特定の波長成分が回折反射する際、それらの位置に入射する特定X線の入射角のばらつきが極めて小さい。これにより、各位置の入射角に対応する波長成分のみを極めて高い精度で選択的に回折反射させることができるので、特性X線を各波長成分に厳密に(高い分解能で)分光することができる。すなわち、第2のX線分光検出装置によれば、完全分光を実現することができる。
【0034】
また、第2のX線分光検出装置では、回折反射面が平坦となっているので、回折反射面の各位置に入射する特定X線の入射角のばらつきをなくし、完全分光を実現することができる。
【0035】
また、第2のX線分光検出装置は、分光結晶の格子間隔が2Åより大きいことが好ましい。
【0036】
また、第2のX線分光検出装置は、分光結晶が、LiF、PET、ADP、RAP、TAP、及びPbSTからなる群から選択される少なくとも一つの材料を含むことが好ましい。
【0037】
また、第1及び第2のX線分光検出装置は、微小分析点と二次元X線検出器の受光面との間に配置され、微小分析点から受光面に直接到達しようとする特性X線を遮る遮蔽部材を更に備えることを特徴としてもよい。これにより、回折反射面において回折反射した特性X線を受光面に好適に到達させるとともに、微小分析点から受光面に直接到達しようとする特性X線を効果的に遮ることができるので、二次元X線検出器におけるS/N比を改善することができる。
【0038】
また、X線分光検出装置が遮蔽部材を備える場合、微小分析点から分光結晶を経て受光面に到達する特性X線のうち、分光結晶の表面への入射角が最も小さい特性X線が分光結晶の表面において回折反射する位置を第1の位置とし、第1の位置において回折反射した特性X線が受光面に到達する位置を第2の位置とし、分光結晶の表面への入射角が最も大きい特性X線が分光結晶の表面において回折反射する位置を第3の位置とし、第3の位置において回折反射した特性X線が受光面に到達する位置を第4の位置としたときに、遮蔽部材の分光結晶側の端縁が、微小分析点と第3の位置とを通る第1の境界、微小分析点と第4の位置とを通る第2の境界、及び第1の位置と第2の位置とを通る第3の境界によって囲まれる空間内に位置することが好ましい。これにより、微小分析点から受光面に直接到達しようとする特性X線を効果的に遮ることができる。
【0039】
また、第1及び第2のX線分光検出装置は、二次元X線検出器から出力されたデータを、所定方向に並ぶ複数の領域毎に積算する演算処理部を更に備えることが好ましい。
【0040】
また、第1及び第2のX線分光検出装置では、複数の領域それぞれが線状を呈していることが好ましい。
【0041】
また、第1及び第2のX線分光検出装置では、演算処理部が、データを積算する際、当該領域内における検出位置に応じた重みを乗じて積算することが好ましい。
【発明の効果】
【0042】
本発明によるX線分光検出装置によれば、測定時間を短くすることができ、且つ簡易な構成で完全分光を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係るX線分光検出装置の構成を示す図である。
【図2】一実施形態に係るX線分光検出装置の更に好ましい構成を示す図である。
【図3】二次元X線検出器の構成の一例を示す図である。
【図4】(a)二次元データが示す画像データの一例を示す図である。(b)二次元データのM個の画素の各々がN分割されて成るM×N個の微細画素からなる、微細化画像データを概略的に示す図である。
【図5】分光結晶の回折反射面の法線方向から見た、微小分析点、分光結晶、及び特性X線を示す平面図である。
【図6】回折反射面に平行な方向から見た、分光結晶、二次元X線検出器、及び特性X線を示す正面図である。
【図7】微細化画像データを概略的に示す図である。
【図8】従来のWDX(ヨハンソン型湾曲分光結晶分光器)によって測定されたステンレス鋼(SUS)の特性X線スペクトルを示すグラフである。
【図9】図8と同じステンレス鋼について、X線分光検出装置によって得られた微細化画像データと、この微細化画像データを複数の領域毎に積算して得られた特性X線スペクトルを示す図である。
【図10】図8と同じステンレス鋼について、X線分光検出装置によって得られた微細化画像データと、この微細化画像データを複数の領域毎に積算して得られた特性X線スペクトルを示す図である。
【図11】従来のWDX(ヨハンソン型湾曲分光結晶分光器)によって測定された純銅(Cu)の特性X線スペクトルを示すグラフである。
【図12】図11と同じ純銅について、X線分光検出装置によって得られた微細化画像データと、この微細化画像データを複数の領域毎に積算して得られた特性X線スペクトルを示す図である。
【図13】微小分析点の大きさを直径10μmとしたときのCuに関する微細化画像データを示す図である。
【図14】図13に示された微細化画像データを積算することによって算出されたCuの特性X線スペクトル波形を、微細化画像データに重ねた様子を示す図である。
【図15】入射角余角θの最大値θmaxおよび最小値θminが制限される原理を示す図である。
【図16】WDXの基本原理を示す図である。
【図17】WDXにおいて、微小な部分から発生した特性X線を分光する際に一般的に用いられる分光器を示す図である。
【図18】(a)ヨハン型と呼ばれる湾曲分光結晶を示す図である。(b)ヨハンソン型と呼ばれる湾曲分光結晶を示す図である。
【図19】MCX(Multi Capillary X-ray Lens)といったX線レンズを用いた分光器を示す図である。
【図20】MCXの側断面図である。
【図21】(a)マグネシウム、(b)アルミニウム、及び(c)シリコンのKα及びKαサテライトのスペクトルの状態変化を示している。
【図22】硫黄(S)のKβスペクトルの状態変化を示している。
【図23】酸素(O)のKバンドスペクトルの状態変化を示している。
【図24】炭素(C)のKバンドスペクトルの状態変化を示している。
【図25】完全に平行な特性X線が平板分光結晶において反射する様子を示す図である。
【図26】ソーラースリットの板間隔と、出力される蛍光X線の強度との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、添付図面を参照しながら本発明によるX線分光検出装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0045】
図1は、本発明の一実施形態に係るX線分光検出装置の構成を示す図である。本実施形態のX線分光検出装置1Aは、試料10の表面10aへX線若しくは電子線を照射し、表面10aの微小分析点Pから放射された特性X線2を波長毎に分光して検出する装置である。微小分析点Pの大きさ(直径)は、例えば試料10が炭素等であって特性X線2が軟X線領域に含まれる場合には100μm以下であり、より好適には50μm以下である。また、例えば試料10が銅などであって特性X線2が軟X線領域より短い波長領域に含まれる場合には、微小分析点Pの好適な大きさ(直径)は10μm以下である。このような微小分析点Pの大きさは、例えば試料10の表面10aへ照射されるX線若しくは電子線の径を制御することによって行われる。
【0046】
図1に示されるように、本実施形態のX線分光検出装置1Aは、分光結晶20、二次元X線検出器30及び演算処理部40を備えている。分光結晶20は平板分光結晶であり、特性X線の回折及び反射に寄与する回折反射面20aを有している。回折反射面20aは極めて高い平坦性を有しており、試料10の微小分析点Pから放射された特性X線2の一部を受ける。分光結晶20は、例えばLiF、PET、ADP、RAP、TAP、及びPbSTから成る群から選択される少なくとも一つの材料を含んで構成される。特に、特性X線2が軟X線領域に含まれる場合には、分光結晶20は、PET、ADP、RAP、TAP、及びPbSTから成る群から選択される少なくとも一つの材料を含んで構成される。
【0047】
分光結晶20は、特性X線2に含まれる波長成分のうち回折反射面20aへの入射角に応じた波長成分を回折反射することにより、特性X線2を波長毎に分光する。ここで、図1には、微小分析点Pから放射された特性X線2に含まれる3つの波長成分2a〜2cが示されている。これらの波長成分2a〜2cは、互いに波長が異なり、微小分析点Pからほぼ等方的に放射される。微小分析点Pから特性X線2が放射されると、これらの波長成分2a〜2cは、回折反射面20a上の全ての位置に入射する。そして、回折反射面20a上において、入射角の余角θ1と波長成分2aの波長とがブラッグ反射条件を満たす位置(図中の位置Pa)では、波長成分2aのみが回折を生じて選択的に反射される。同様に、入射角の余角θ2と波長成分2bの波長とがブラッグ反射条件を満たす位置(図中の位置Pb)では波長成分2bのみが選択的に反射され、入射角の余角θ3と波長成分2cの波長とがブラッグ反射条件を満たす位置(図中の位置Pc)では波長成分2cのみが選択的に反射される。ここでは3つの波長成分2a〜2cを例示したが、特性X線に含まれる他の波長成分についても同様である。このように、各波長成分毎に回折を生じる位置が異なるので、特性X線2に含まれる各波長成分がそれぞれ分光される。
【0048】
本実施形態では、微小分析点Pの大きさが極めて小さい(100μm以下)ので、回折反射面20aにおける一つの位置への特性X線2の入射角のばらつきもまた極めて小さい。したがって、回折反射面20a上の各位置では、その位置への入射角余角θに対応する波長成分が、極めて精度良く、ばらつきが殆ど無い状態で分光される。つまり、本実施形態では、特性X線2の完全分光が行われる。
【0049】
また、例えば試料10が炭素等であって特性X線2が軟X線領域に含まれる場合、分光結晶20の格子間隔は、4Åより大きいことが好ましく、50Åより大きいことがより好ましい。これにより、軟X線領域の特性X線2を好適に分光することができる。また、例えば試料10が銅などであって特性X線2が軟X線領域より短い波長領域に含まれる場合には、分光結晶20の格子間隔は2Åより大きいことが好ましい。
【0050】
二次元X線検出器30は、分光結晶20の回折反射面20aに対し、試料10の微小分析点Pと同じ側に配置される。二次元X線検出器30は、回折反射面20aにおいて回折反射した特性X線2を受ける受光面30aを有しており、受光面30aに入射した特性X線2の入射位置および強度に関する二次元データを、いわゆる単一光子計測(フォトンカウンティング)によって生成する。
【0051】
ここで、図2は、本実施形態に係るX線分光検出装置1Aの更に好ましい構成を示す図である。図2に示されるX線分光検出装置1Aは、図1に示された構成に加えて、遮蔽部材50を更に備えている。遮蔽部材50は、X線を遮ることが可能な材質を含む板状の部材であって、微小分析点Pと二次元X線検出器30の受光面30aとの間に配置される。遮蔽部材50は、微小分析点Pから受光面30aに直接到達しようとする特性X線2を遮る。
【0052】
遮蔽部材50の配置について、より具体的に説明する。いま、微小分析点Pから分光結晶20の回折反射面20aを経て二次元X線検出器30の受光面30aに到達する特性X線2のうち、回折反射面20aへの入射角が最も小さい(すなわち、入射角の余角θが最も大きい)特性X線2dが回折反射面20aにおいて回折反射する位置を第1の位置P1とする。そして、第1の位置P1において回折反射した特性X線2dが受光面30aに到達する位置を第2の位置P2とする。また、回折反射面20aへの入射角が最も大きい(すなわち、入射角の余角θが最も小さい)特性X線2eが回折反射面20aにおいて回折反射する位置を第3の位置P3とする。そして、第3の位置P3において回折反射した特性X線2eが受光面30aに到達する位置を第4の位置P4とする。この場合、遮蔽部材50の分光結晶20側の端縁50aは、微小分析点Pと第3の位置P3とを通る第1の境界A1と、微小分析点Pと第4の位置P4とを通る第2の境界A2と、及び第1の位置P1と第2の位置P2とを通る第3の境界A3とによって囲まれる空間B(図中に斜線で示されている)内に位置するとよい。遮蔽部材50の端縁50aがこのような領域内に配置されることによって、回折反射面20aにおいて回折反射した特性X線2を受光面30aに好適に到達させるとともに、微小分析点Pから受光面30aに直接到達しようとする特性X線2を効果的に遮ることができる。これにより、二次元X線検出器30におけるS/N比を改善することができる。
【0053】
図3は、二次元X線検出器30の構成の一例を示す図である。同図に示されるように、二次元X線検出器30は、光電変換部31と、電子増倍部32と、蛍光面33と、光検出部34と、演算部35とを有する。光電変換部31は、回折反射面20aから到達した特性X線2を電子e1に変換し、この電子e1を電子増倍部32へ出射する。電子増倍部32は、光電変換部31で発生した電子e1の二次元位置を維持しつつ、この電子e1の二次電子増倍を行い、増倍された電子e2を蛍光面33へ出射する。蛍光面33は、電子増倍部32から出射された電子e2の二次元位置を維持しつつ、電子e2を光Lに変換し、この光Lを光検出部34へ出射する。光検出部34は、二次元配置されたM個(Mは4以上の整数)の画素を有するCCDカメラ等の撮像素子を含んで構成され、蛍光面33から出射される光Lを画素毎に検出して電気信号Sに変換する。光検出部34は、この画素毎の電気信号Sを演算部35へ出力する。演算部35は、光検出部34における光Lの検出回数を画素毎にカウントし、画素毎の検出回数に基づいて二次元データD1を生成する。そして、演算部35は、生成した二次元データD1を演算処理部40へ出力する。図4(a)は、二次元データD1が示す画像データの一例を示す図であり、説明を簡素化するために、この二次元データD1は、複数列および複数行にわたって二次元状に配列された3×3、つまりM=9個の画素A1を有し、これらの画素A1のそれぞれには、光Lの検出回数に応じたデータ値が割り当てられている。
【0054】
演算処理部40は、二次元データD1に基づいて、特性X線2に関する微細化画像データD2を生成するとともに、その微細化画像データD2から、特性X線2のスペクトルを含む情報を演算する。演算処理部40は、例えばCPU及びメモリを有するコンピュータなどの演算装置によって好適に構成されうる。微細化画像データD2は、図4(b)に示されるように、二次元データD1のM個の画素A1の各々がN分割(Nは2以上の整数)されて成るM×N個の微細画素A2からなる。なお、図4(b)では、例示のため、画素A1を3×3の9個(すなわちN=9)の微細画素A2に分割した場合を示しており、M×N個、つまり9×9の81個の微細画素A2に分割した微細化画像データD2として、図4(a)と同じスケールで描かれている。演算処理部40は、微細化画像データD2の各微細画素A2のデータ値を算出する際に、算出対象である微細画素A2を含む画素A1(対象画素)の周囲に隣接する画素A1における光Lの検出回数に応じて、この対象画素A1に含まれるN個の微細画素A2のデータ値に傾斜を与える。演算処理部40は、このような微細化画像データD2に基づいて、特性X線2のスペクトルを含む情報を演算する。
【0055】
ここで、演算処理部40における特性X線2のスペクトル情報の演算方式について説明する。図5は、分光結晶20の回折反射面20aの法線方向から見た、微小分析点P、分光結晶20、及び特性X線2を示す平面図である。また、図6は、回折反射面20aに平行な方向から見た、分光結晶20、二次元X線検出器30、及び特性X線2を示す正面図である。前述したように、本実施形態では、極めて微小な微小分析点Pから放射される特性X線2を測定する。したがって、回折反射面20aへの入射角が等しくなる点の集合、すなわち或る同一の波長成分を回折反射させる点の集合は、直線状ではなく円弧状や楕円弧状、二次曲線状といった曲線状となる。なお、図5には、例示として、図1に示された波長成分2bが入射角余角θ2でもって回折反射する位置Pbが示されており、更にその集合Cbが示されている。集合Cbは、円弧状や楕円弧状、二次曲線状といった曲線状となる。
【0056】
このため、二次元X線検出器30の受光面30aにおける同一の波長成分の入射点の集合もまた、直線状ではなく円弧状や楕円弧状、二次曲線状といった曲線状となる。なお、図6には、例示として、図5に示された波長成分2bが受光面30aに入射するときの入射点Dbが示されており、更にその集合Ebが示されている。集合Ebは、円弧状や楕円弧状、二次曲線状といった曲線状となる。
【0057】
このように、二次元X線検出器30の受光面30aにおいて、或る同一波長の成分が入射する領域は曲線状となる。そこで、本実施形態では、そのような曲線状領域のデータを積算することによって、当該波長成分の強度を求める。
【0058】
図7は、微細化画像データD2を概略的に示す図であって、この微細化画像データD2は、所定方向(図では、微細化画像データD2の長手方向)に並ぶ複数の領域Fに分割されている。これら複数の領域Fは、円弧状や楕円弧状、二次曲線状といった曲線状を呈しており、複数の領域Fそれぞれは、特性X線に含まれる複数の波長成分それぞれに対応している。演算処理部40は、微細化画像データD2の領域F毎に積算を行うことによって、各領域Fに対応する波長成分の強度を求め、スペクトル情報を作成する。なお、ここでいう所定方向とは、微小分析点P、回折反射面20aの中心、及び受光面30aの中心を含む平面と、受光面30aとが交わる直線に沿った方向である。
【0059】
また、演算処理部40は、各領域F毎のデータを積算する際、当該領域F内における検出位置に応じた重みを各データに乗じながら積算することが好ましい。ここでいう検出位置とは、上述した所定方向と交差する方向における領域F内の位置である。領域F内において取得されたデータは、その全てが等しい精度でもって特性X線の波長を表しているわけではなく、例えば当該領域Fの端部に近い位置におけるデータの精度は、当該領域Fの中央部に近い位置におけるデータの精度と比較して劣る場合がある。このような場合には、当該領域Fの中央部に近い位置におけるデータに乗ずる重みを大きくし、当該領域Fの端部に近い位置におけるデータに乗ずる重みを小さくして、これらのデータを積算するとよい。
【0060】
以上の構成を備えるX線分光検出装置1Aによって得られる作用効果について説明する。X線分光検出装置1Aでは、微小分析点Pから放射された特性X線の全波長成分を平板状の分光結晶20で受け、分光結晶20上の各位置毎の入射角に対応する波長成分を選択的に回折反射させることによって分光する。これにより、従来のWDX装置のような、入射角を変化させるための分光結晶の移動や角度変化を必要とせず、分光結晶20及び二次元X線検出器30を固定したまま測定することができる。したがって、所望の波長域に含まれる各波長毎の強度を同時に取得して特性X線スペクトルを演算することができるので、測定時間を大幅に短縮することができる。
【0061】
また、本実施形態のX線分光検出装置1Aは、上述したように、入射角を変化させるための分光結晶の移動や角度変化を必要とせず、分光結晶20及び二次元X線検出器30を固定したまま測定することができる。したがって、分光結晶の移動や角度変化のための複雑な装置が不要となり、簡易な構成で特性X線スペクトルを得ることができる。
【0062】
また、本実施形態のX線分光検出装置1Aでは、試料10の表面の微小分析点Pが、直径100μm以下(好ましくは50μm以下、更に好ましくは10μm以下)といった、極めて小さなものである。したがって、分光結晶20の回折反射面20aの各位置において特定の波長成分が回折反射する際、それらの位置に入射する特定X線の入射角のばらつきが極めて小さい。これにより、各位置の入射角に対応する波長成分のみを極めて高い精度で選択的に回折反射させることができるので、特性X線2を各波長成分に厳密に(高い分解能で)分光することができる。すなわち、本実施形態のX線分光検出装置1Aによれば、完全分光を実現することができる。
【0063】
また、湾曲分光結晶を用いる従来の装置(ヨハン型、ヨハンソン型など)では、分光結晶の湾曲した回折反射面を高い精度で形成することが難しいこともまた、入射角にばらつきが生じる原因となる。これに対し、本実施形態のX線分光検出装置1Aでは、平板状の分光結晶20を使用している。平板状の分光結晶は加工がし易く、回折反射面20aを高い精度で平坦に形成することができる。したがって、回折反射面20aの各位置に入射する特定X線の入射角のばらつきをなくし、完全分光を実現することができる。
【0064】
ここで、図8は、従来のWDX(ヨハンソン型湾曲分光結晶分光器)によって測定されたステンレス鋼(SUS)の特性X線スペクトルを示すグラフである。同図には、NiのKα線61、FeのKα線62a及びKβ線62b、CrのKα線63a及びKβ線63b、及びMnのKα線64を示す特性X線のピークが現れている。そして、図9及び図10には、同じステンレス鋼について、本実施形態のX線分光検出装置1Aによって得られた微細化画像データD2(白い点は、特性X線が入射した位置を示す)と、この微細化画像データD2を複数の領域F(図6を参照)毎に積算して得られた特性X線スペクトルが示されている。図9には、CrのKα線63a及びKβ線63b、並びにMnのKα線64が示されている。図10には、FeのKα線62a及びKβ線62b、並びにNiのKα線61が示されている。これらの図に示されるように、本実施形態のX線分光検出装置1Aによれば、各元素に関する特性X線スペクトルを好適に得ることができる。
【0065】
また、図11は、従来のWDX(ヨハンソン型湾曲分光結晶分光器)によって測定された純銅(Cu)の特性X線スペクトルを示すグラフである。同図には、CuのKα線65a及びKβ線65bを示す特性X線のピークが現れている。そして、図12には、同じ純銅について、本実施形態のX線分光検出装置1Aによって得られた微細化画像データD2と、この微細化画像データD2を複数の領域毎に積算して得られた特性X線スペクトルが示されている。図12の特性X線スペクトルには、CuのKα線65a及びKβ線65bが現れている。なお、図12に示される微細化画像データD2を取得したときの微小分析点Pの大きさは、直径100μmであった。
【0066】
また、図13は、本実施形態のX線分光検出装置1Aにおいて、微小分析点Pの大きさを直径10μmとしたときのCuに関する微細化画像データD2を示している。なお、図13は、二次元X線検出器30の機能を使って、受光面30aのうち一部を拡大して取得したデータを示している。図中において、白いラインL1はCuのKα1線を示しており、白いラインL2はCuのKα2線を示している。同図から明らかなように、CuのKα1線を示すラインL1と、CuのKα2線を示すラインL2とは、完全に分離されている。
【0067】
一般的に、X線分光の主な目的は定性分析と定量分析であるが、他の重要な目的に状態分析がある。或る物質を構成する元素の軌道電子は、その元素の置かれている状態(化学結合状態などの電子状態)により僅かな変化が生じる。このような変化は、元素の状態を明らかにするための重要な情報となる。この変化は一般的に図21・図22・図23・図24に示すように軟X線量域で顕著である。そして、このような僅かな変化を検出するには、極めて正確で誤差の少ないスペクトル波形測定が必要となる。本実施形態のX線分光検出装置1Aによれば、前述した完全分光を実現することによって、このようなスペクトル波形の僅かな変化を捉えることが出来る。図13は軟X線ではないCuのK線においても、Kα1線やKα2線といった相互に極めて近い波長成分を明確に識別することができることを示している。このことから軟X線領域ではさらに顕著であることが推測される。
【0068】
図14は、図13に示された微細化画像データD2を積算することによって算出されたCuの特性X線スペクトル波形を、微細化画像データD2に重ねた様子を示している。この特性X線スペクトル波形には、CuのKα1線65c及びKα2線65dが明確に現れており、従来の装置と比較して波長分解能が格段に向上していることがわかる。
【0069】
続いて、本実施形態のX線分光検出装置1Aによって分光することが可能な波長範囲について説明する。ヨハン型やヨハンソン型といった従来の装置では、分光結晶の角度を機械的に変化させることによって特性X線の入射角を変化させているので、分光可能な波長範囲(すなわち入射角の可変範囲)は、分光結晶の角度変化範囲によって定まる。しかし、本実施形態のX線分光検出装置1Aでは、分光結晶20を固定して測定を行い、回折反射面20a上の各位置毎にX線入射角が異なることを利用するので、その分光波長範囲は回折反射面20aの大きさによって定まる。更には、回折反射面20aから回折反射した特性X線を受ける二次元X線検出器30の大きさによっても、分光波長範囲が制限される。
【0070】
ここで、一枚の分光結晶20によって分光が可能な波長範囲は、理論的には、ブラッグの反射条件(nλ=2dsin(90°−θ))より0<λ<2dである。但し、これは入射角余角θが0°から90°までの範囲で測定可能な場合である。通常、分光結晶20の回折反射面20a、及び二次元X線検出器30の受光面30aの大きさは共に有限であるため、図15(a)に示されるように、入射角余角θの最大値θmaxおよび最小値θminもまた制限される。入射角余角θの最大値θmaxを更に大きくし、或いは最小値θminを更に小さくするためには、図15(b)に示されるように、微小分析点Pを分光結晶20に近づけるとともに、分光結晶20の回折反射面20aを大きくし、且つ二次元X線検出器30の受光面30aを大きくする必要がある。
【0071】
一例を挙げると、微小分析点Pから30mmの位置に分光結晶20を配置するとして、例えば15°〜80°の入射角余角θを実現する為には、長さ100mm以上の回折反射面20aを有する分光結晶20が必要であり、且つ長さ200mm以上の受光面30aを有する二次元X線検出器30が必要となる。このような大きさは、X線分光検出装置の製造において大きな困難とコストを伴わせる。また、試料10の周辺にも大きな空間が必要となる。微小分析点Pから15mmの位置に分光結晶20を配置するとしても、長さ55mmの回折反射面20aと長さ150mmの受光面30aが必要となり、やはり大き過ぎる。しかも、試料10から15mmの位置に分光結晶20が配置されると、試料10の取り回しやマイクロビーム照射機構などと干渉するおそれがある。
【0072】
したがって、本実施形態では、入射角余角θを例えば20°〜40°、30°〜50°、或いは50°〜80°といった範囲に限定し、測定を行うことが好ましい。つまり、15°〜80°のような広い入射角余角θでもって広範囲の特性X線スペクトルを得るのではなく、これらのように限定された入射角余角θでもって、或る程度狭められた所望の範囲で特性X線スペクトルを得ることが好ましい。これにより、製造や使用において現実的なX線分光検出装置1Aを実現することができる。
【0073】
なお、X線分光検出装置1Aの寸法例を挙げると、LiF平板分光結晶を用いる場合、回折反射面20aの長さは30mmであり、試料10から回折反射面20aまでの距離は70mmであり、受光面30aの長さは30mmである。このような構成によって、前述した図9に示されるように、CrのKα線及びKβ線、MnのKα線、並びにFeのKα線を一つの微細化画像データD2に表示することができ、また、前述した図10に示されるように、FeのKα線及びKβ線、並びにNiのKα線を一つの微細化画像データD2に表示することができる。また、前述した図12に示されるように、CuのKα線及びKβ線を一つの微細化画像データD2に表示することができる。
【0074】
また、SのKβ線の測定(分光結晶:PET)、FeのLα線及びLβ線の測定(分光結晶:RAP)、OKバンドの測定(分光結晶:RAP)、及びCKバンドの測定(分光結晶:PbST)のいずれにおいても、回折反射面20aの長さを30mm程度とし、入射角余角θの範囲を15°程度とし、受光面30aの長さを30mm程度とし、試料10と分光結晶20との距離を50〜70mm程度とし、分光結晶20と受光面30aとの距離を70〜80mm程度とすることで十分に測定可能である。このような寸法によれば、製造や使用において極めて現実的なX線分光検出装置1Aを実現することができる。
【符号の説明】
【0075】
1A…X線分光検出装置、2…特性X線、2a〜2c…波長成分、2d,2e…特性X線、10…試料、20…分光結晶、20a…回折反射面、30…二次元X線検出器、30a…受光面、31…光電変換部、32…電子増倍部、33…蛍光面、34…光検出部、35…演算部、40…演算処理部、50…遮蔽部材、D1…二次元データ、D2…微細化画像データ、P…微小分析点。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料表面へのX線若しくは電子線の照射によって該試料表面における直径100μm以下の微小分析点から放射された、軟X線領域に含まれる特性X線を波長毎に分光して検出するX線分光検出装置であって、
前記微小分析点から放射された前記特性X線を受ける平坦な回折反射面を有し、前記特性X線に含まれる波長成分のうち該回折反射面への入射角に応じた波長成分を回折反射することにより、前記特性X線を波長毎に分光する分光結晶と、
前記分光結晶において回折反射した前記特性X線を受ける受光面を有し、該受光面に入射した前記特性X線の入射位置および強度に関するデータを生成する二次元X線検出器と、
を備えることを特徴とする、X線分光検出装置。
【請求項2】
前記微小分析点の直径が50μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のX線分光検出装置。
【請求項3】
前記分光結晶の格子間隔が4Åより大きいことを特徴とする、請求項1または2に記載のX線分光検出装置。
【請求項4】
前記分光結晶の格子間隔が50Åより大きいことを特徴とする、請求項1または2に記載のX線分光検出装置。
【請求項5】
前記分光結晶が、PET、ADP、RAP、TAP、及びPbSTからなる群から選択される少なくとも一つの材料を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のX線分光検出装置。
【請求項6】
試料表面へのX線若しくは電子線の照射によって該試料表面における直径10μm以下の微小分析点から放射された特性X線を波長毎に分光して検出するX線分光検出装置であって、
前記微小分析点から放射された前記特性X線を受ける平坦な回折反射面を有し、前記特性X線に含まれる波長成分のうち該回折反射面への入射角に応じた波長成分を回折反射することにより、前記特性X線を波長毎に分光する分光結晶と、
前記分光結晶において回折反射した前記特性X線を受ける受光面を有し、該受光面に入射した前記特性X線の入射位置および強度に関するデータを生成する二次元X線検出器と、
を備えることを特徴とする、X線分光検出装置。
【請求項7】
前記分光結晶の格子間隔が2Åより大きいことを特徴とする、請求項6に記載のX線分光検出装置。
【請求項8】
前記分光結晶が、LiF、PET、ADP、RAP、TAP、及びPbSTからなる群から選択される少なくとも一つの材料を含むことを特徴とする、請求項6または7に記載のX線分光検出装置。
【請求項9】
前記微小分析点と前記二次元X線検出器の前記受光面との間に配置され、前記微小分析点から前記受光面に直接到達しようとする前記特性X線を遮る遮蔽部材を更に備えることを特徴とする、請求項1〜8の何れか一項に記載のX線分光検出装置。
【請求項10】
前記微小分析点から前記分光結晶を経て前記受光面に到達する前記特性X線のうち、前記分光結晶の表面への入射角が最も小さい前記特性X線が前記分光結晶の表面において回折反射する位置を第1の位置とし、前記第1の位置において回折反射した前記特性X線が前記受光面に到達する位置を第2の位置とし、前記分光結晶の表面への入射角が最も大きい前記特性X線が前記分光結晶の表面において回折反射する位置を第3の位置とし、前記第3の位置において回折反射した前記特性X線が前記受光面に到達する位置を第4の位置としたときに、前記遮蔽部材の前記分光結晶側の端縁が、前記微小分析点と前記第3の位置とを通る第1の境界、前記微小分析点と前記第4の位置とを通る第2の境界、及び前記第1の位置と前記第2の位置とを通る第3の境界によって囲まれる空間内に位置することを特徴とする、請求項9に記載のX線分光検出装置。
【請求項11】
前記二次元X線検出器から出力された前記データを、所定方向に並ぶ複数の領域毎に積算する演算処理部を更に備えることを特徴とする、請求項1〜10の何れか一項に記載のX線分光検出装置。
【請求項12】
前記複数の領域それぞれが線状を呈していることを特徴とする、請求項11に記載のX線分光検出装置。
【請求項13】
前記演算処理部が、前記データを積算する際、当該領域内における検出位置に応じた重みを乗じて積算することを特徴とする、請求項11または12に記載のX線分光検出装置。
【請求項1】
試料表面へのX線若しくは電子線の照射によって該試料表面における直径100μm以下の微小分析点から放射された、軟X線領域に含まれる特性X線を波長毎に分光して検出するX線分光検出装置であって、
前記微小分析点から放射された前記特性X線を受ける平坦な回折反射面を有し、前記特性X線に含まれる波長成分のうち該回折反射面への入射角に応じた波長成分を回折反射することにより、前記特性X線を波長毎に分光する分光結晶と、
前記分光結晶において回折反射した前記特性X線を受ける受光面を有し、該受光面に入射した前記特性X線の入射位置および強度に関するデータを生成する二次元X線検出器と、
を備えることを特徴とする、X線分光検出装置。
【請求項2】
前記微小分析点の直径が50μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のX線分光検出装置。
【請求項3】
前記分光結晶の格子間隔が4Åより大きいことを特徴とする、請求項1または2に記載のX線分光検出装置。
【請求項4】
前記分光結晶の格子間隔が50Åより大きいことを特徴とする、請求項1または2に記載のX線分光検出装置。
【請求項5】
前記分光結晶が、PET、ADP、RAP、TAP、及びPbSTからなる群から選択される少なくとも一つの材料を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のX線分光検出装置。
【請求項6】
試料表面へのX線若しくは電子線の照射によって該試料表面における直径10μm以下の微小分析点から放射された特性X線を波長毎に分光して検出するX線分光検出装置であって、
前記微小分析点から放射された前記特性X線を受ける平坦な回折反射面を有し、前記特性X線に含まれる波長成分のうち該回折反射面への入射角に応じた波長成分を回折反射することにより、前記特性X線を波長毎に分光する分光結晶と、
前記分光結晶において回折反射した前記特性X線を受ける受光面を有し、該受光面に入射した前記特性X線の入射位置および強度に関するデータを生成する二次元X線検出器と、
を備えることを特徴とする、X線分光検出装置。
【請求項7】
前記分光結晶の格子間隔が2Åより大きいことを特徴とする、請求項6に記載のX線分光検出装置。
【請求項8】
前記分光結晶が、LiF、PET、ADP、RAP、TAP、及びPbSTからなる群から選択される少なくとも一つの材料を含むことを特徴とする、請求項6または7に記載のX線分光検出装置。
【請求項9】
前記微小分析点と前記二次元X線検出器の前記受光面との間に配置され、前記微小分析点から前記受光面に直接到達しようとする前記特性X線を遮る遮蔽部材を更に備えることを特徴とする、請求項1〜8の何れか一項に記載のX線分光検出装置。
【請求項10】
前記微小分析点から前記分光結晶を経て前記受光面に到達する前記特性X線のうち、前記分光結晶の表面への入射角が最も小さい前記特性X線が前記分光結晶の表面において回折反射する位置を第1の位置とし、前記第1の位置において回折反射した前記特性X線が前記受光面に到達する位置を第2の位置とし、前記分光結晶の表面への入射角が最も大きい前記特性X線が前記分光結晶の表面において回折反射する位置を第3の位置とし、前記第3の位置において回折反射した前記特性X線が前記受光面に到達する位置を第4の位置としたときに、前記遮蔽部材の前記分光結晶側の端縁が、前記微小分析点と前記第3の位置とを通る第1の境界、前記微小分析点と前記第4の位置とを通る第2の境界、及び前記第1の位置と前記第2の位置とを通る第3の境界によって囲まれる空間内に位置することを特徴とする、請求項9に記載のX線分光検出装置。
【請求項11】
前記二次元X線検出器から出力された前記データを、所定方向に並ぶ複数の領域毎に積算する演算処理部を更に備えることを特徴とする、請求項1〜10の何れか一項に記載のX線分光検出装置。
【請求項12】
前記複数の領域それぞれが線状を呈していることを特徴とする、請求項11に記載のX線分光検出装置。
【請求項13】
前記演算処理部が、前記データを積算する際、当該領域内における検出位置に応じた重みを乗じて積算することを特徴とする、請求項11または12に記載のX線分光検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−96750(P2013−96750A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237668(P2011−237668)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]