X線分析及び熱分析同時分析装置
【課題】X線分析と熱分析との両方を同時に行う装置において、それらの分析の測定条件の関連を測定者が容易に、迅速に、且つ正確に把握でき、きめ細かな設定を可能にする。
【解決手段】 X線分析装置による測定と熱分析装置による測定とが同時に行われるX線分析及び熱分析同時分析装置において、X線分析測定のための測定所条件を記憶するX線条件記憶メモリと、熱分析測定のための測定条件を記憶する熱条件記憶メモリと、画像信号に従って画面33上に画像を表示する画像表示装置とを有し、熱条件記憶メモリに記憶された熱分析測定条件を示す折線グラフT及び、X線条件記憶メモリに記憶されたX線分析測定条件を示す複数の縦線Xの両方を、画面33上に同時に表示する。折線グラフTは温度変化曲線であり、隣接する一対の縦線Xは1回のX線分析測定が行われるタイミング及び時間を示している。
【解決手段】 X線分析装置による測定と熱分析装置による測定とが同時に行われるX線分析及び熱分析同時分析装置において、X線分析測定のための測定所条件を記憶するX線条件記憶メモリと、熱分析測定のための測定条件を記憶する熱条件記憶メモリと、画像信号に従って画面33上に画像を表示する画像表示装置とを有し、熱条件記憶メモリに記憶された熱分析測定条件を示す折線グラフT及び、X線条件記憶メモリに記憶されたX線分析測定条件を示す複数の縦線Xの両方を、画面33上に同時に表示する。折線グラフTは温度変化曲線であり、隣接する一対の縦線Xは1回のX線分析測定が行われるタイミング及び時間を示している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線分析のための測定と熱分析のための測定とを同時に行うX線分析及び熱分析同時分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線分析装置は、試料へX線を照射したときに該試料から出るX線、例えば回折線、散乱線、蛍光X線等の状態に基づいて、試料の結晶構造、分子構造等を分析する装置である。このようなX線分析装置として、例えば、試料から発生する回折線の回折角度及び回折線強度を測定するX線回折装置や、試料から発生する散乱線の角度及び強度を測定するX線散乱装置や、試料から発生する蛍光X線を測定する蛍光X線装置等が知られている。
【0003】
熱分析装置は、試料の温度を変化させたときに該試料に発生する変化を測定し、その変化に基づいて試料の特性を分析する装置である。このような熱分析装置として、例えば、温度変化に応じた試料の重量変化を測定する熱重量測定(TG:Thermogravimetry)装置や、周囲温度の変化に応じた標準物質と試料との温度変化の相違を測定する示差熱分析(DTA:Differential Thermal Analysis)装置や、周囲温度の変化に応じた標準物質と試料との熱流入量の変化の相違を測定する示差走査熱量分析(DSC:Differential Scanning Calorimetry)装置等が知られている。
【0004】
近年、1つの物質に関する結晶構造変化と、同じ物質の周囲温度の変化に対応した特性変化とを、同時に測定して、それらの測定結果に基づいて該物質を分析する研究が行われている。例えば、製薬の分野では、対象となる物質の結晶構造を知ること、及び温度変化に対応した特性変化を知ること、が重要となっている。
【0005】
物質の構造変化を知る手段として、X線回折装置のようなX線分析装置が好適である。また、物質の熱的特性を知る手段として、DSC装置のような熱分析装置が好適である。1つの物質に対してこれらの装置を用いたそれぞれの分析を行えば、当該物質についての結晶構造についての情報及び熱的特性の情報の両方が得られるので、物質に関する研究、例えば製薬に関する研究を飛躍的に前進させることができる。
【0006】
このようにX線分析と熱分析とを同時に行って、それらの分析結果を表示装置の画面上に同時に表示することにより、物質の特性を迅速且つ正確に把握できるようにしたX線分析及び熱分析同時分析装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−295244号公報(第2〜4頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に開示された装置においては、X線分析結果と熱分析結果とを同時に表示することが開示されているものの、X線分析のための測定条件と熱分析のための測定条件とをどのように決めるかについては触れられていない。
【0009】
従来の一般的な測定条件の決め方は、まず、熱分析測定のための温度変化条件を決め、その条件を頭の中に描いたり、ディスプレイの画面上に表示し、その温度変化条件に対応させてX線分析測定の条件、例えば2θ角度の測定範囲や、2θ角度走査速度や、サンプリング時間等を電子卓上計算機を用いて測定者が計算によって求め、頭の中で温度変化条件とX線分析測定条件とを関連付けて、全体的な測定条件を評価していた。
【0010】
しかしながら、このような従来の測定条件の決定手法では、複数の測定者間で統一された客観的な測定条件を迅速に、簡単に、且つ正確に決めることが困難であった。また、X線分析測定と熱分析測定とが目標とする測定条件に沿って行われていることを確認することが難しかった。さらには、測定条件を正確に把握して、それを記憶しておくことが難しかったので、理想とする測定条件を導き出すことが難しく、偶然に頼らざるを得なかった。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みて成されたものであって、X線分析と熱分析との両方を同時に行う装置において、それらの分析の測定条件の関連を測定者が容易に、迅速に、且つ正確に把握できるようにすることを目的とする。また、本発明は、X線分析及び熱分析を目標とする測定条件下で常に安定して客観的に行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置は、試料にX線を照射したときに該試料から出るX線をX線検出手段によって検出するX線分析装置と、試料の周囲の温度を変化させたときに該試料に発生する特性変化を検出する熱分析装置と、前記X線分析装置による測定と前記熱分析装置による測定とが同時に行われるように制御する測定制御手段と、X線分析測定のための測定条件を記憶するX線条件記憶手段と、熱分析測定のための測定条件を記憶する熱条件記憶手段と、画像信号に従って画面上に画像を表示する画像表示装置と、X線条件記憶手段に記憶されたX線分析測定条件及び熱条件記憶手段に記憶された熱分析測定条件の両方をグラフとして前記画像表示装置の画面上に表示させる測定条件表示手段と、前記の測定が行われていない間及び前記の測定が行われている間の少なくとも一方の時間内の任意の時点で、前記測定条件表示手段により前記グラフの表示を行わせる画像表示制御手段とを有することを特徴とする。
【0013】
従来のX線分析及び熱分析同時分析装置では、測定者が昇温曲線等といった熱分析測定条件の中で、何本のX線回折測定を行うことができるかを頭の中で想像するしかなく、画面上で確認することができなかった。これに対し、本実施形態では、X線分析測定条件と熱分析条件の両方を画面上にグラフの形で表示する機能を追加したことにより、X線分析測定の測定条件と熱分析測定の測定条件との関連を視覚で認識することが可能となり、装置の使い勝手が格段に向上した。また、電卓を使った計算と頭の中での想像だけに頼っていた従来方法に比べて、迅速且つ正確な測定条件の設定ができるようになった。
【0014】
次に、本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置において、前記熱分析測定条件は温度変化を含むことがあり、前記X線分析測定条件は試料から出るX線を検出するためのX線検出手段による測定開始角度から測定終了角度までの角度走査移動時間を含むことがあり、前記測定条件表示手段は縦軸及び横軸の一方に時間をとり他方に温度をとった座標上に、前記温度変化を折線グラフによって表示し、前記角度走査移動時間の開始と終了とのそれぞれを示す線を時間軸上に表示することが望ましい。この構成により、X線分析測定条件と熱分析測定条件との関連を画面上で非常に容易に把握できる。
【0015】
次に、本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置は、試料の周囲の湿度を変化させる湿度変化手段をさらに有することができ、この場合、前記測定条件表示手段は、前記湿度の変化をグラフとして前記X線分析測定条件及び前記熱分析測定条件に重ねて表示することが望ましい。
【0016】
本発明の技術分野において、X線回折装置と熱分析装置とに湿度の環境を変えて測定する必要がある場合がある。例えば、医薬品や食品は温度や湿度により結晶系が変わることがある。特に日本の気候においては、夏に蒸し暑く、冬はカラカラに乾燥するため、温度や湿度の変化が激しい。そのため、医薬品を合成する際の環境や、医薬品及び食品を保存する際の環境は、劣悪な条件下にあるといえる。そこで、予め様々な雰囲気下での測定を行い、これらの材料が実際の環境下でどのように変化するかを明らかにする必要がある。
【0017】
そこで、X線分析及び熱分析同時分析装置に湿度発生装置を用いて、湿度雰囲気下での物質の熱的変化及び結晶構造変化を評価する必要がある。湿度雰囲気下で、X線回折分析と熱分析のための測定を同時に行うことにより、物質の熱的変化の前後の当該物質の構造変化を容易に知ることができる。しかしながら、測定条件に湿度が加わると、条件設定が複雑になるので、X線回折条件、温度条件、及び湿度条件を頭の中で相互に関連付けることが困難になる。
【0018】
この点に関し、本発明態様によれば、湿度雰囲気の条件が加わった場合でも、測定条件を容易に設定でき、さらに容易に確認できる。また、測定時の進行状況を確認することもでき、さらには、測定結果を逐次、確認することができる。
【0019】
次に、本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置において、前記測定条件表示手段は、前記湿度変化を折線グラフによって表示することが望ましい。
【0020】
次に、本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置は、前記熱分析装置を用いて熱分析の予備測定を行う予備測定手段をさらに有することができ、この場合、前記測定条件表示手段は、前記予備測定の結果をグラフとして表示することが望ましい。
【0021】
次に、本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置において、前記測定条件表示手段は、前記X線分析測定条件及び前記熱分析測定条件のグラフ表示に加えて、前記X線分析測定条件及び前記熱分析測定条件を入力するための入力画面表示を行うことが望ましい。
【0022】
次に、本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置は、前記X線分析装置による測定データ及び前記熱分析装置による測定データを前記画像表示装置の画面上に表示させる測定データ表示手段をさらに有することができる。そしてこの場合、前記測定データ表示手段は得られた両測定データを逐次に前記画像表示装置へ伝送することにより、前記X線分析装置及び前記熱分析装置から測定データが得られる毎に該測定データを逐次に画像として表示することが望ましい。
【0023】
この発明態様によれば、測定の間に逐次に表示される測定結果を観察することにより、測定結果に応じて測定の途中で測定条件の設定を変更することができる。また、測定結果の観察中に、物質の反応が完了したと判断したときには、測定を途中で止めることもできる。
【発明の効果】
【0024】
従来のX線分析及び熱分析同時分析装置では、測定者が昇温曲線や湿度設定曲線の中で、何本のX線回折測定を行うことができるかを頭の中で想像するしかなく、画面上で確認することができなかった。これに対し、本実施形態では、画面上の時間軸上に区切り縦線Xを描き込む機能を追加したことにより、X線分析測定の測定条件と熱分析測定の測定条件との関連を視覚で認識することが可能となり、装置の使い勝手が格段に向上した。また、電卓を使った計算と頭の中での想像だけに頼っていた従来方法に比べて、迅速且つ正確な測定条件の設定ができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置の一実施形態を模式的に示す図である。
【図2】図1のX線分析及び熱分析同時分析装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】図1のX線分析及び熱分析同時分析装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】図1のX線分析及び熱分析同時分析装置の構成要素である画像表示装置によって行われる画面表示の一例を示す図である。
【図5】図1のX線分析及び熱分析同時分析装置の構成要素である画像表示装置によって行われる画面表示の他の一例を示す図である。
【図6】図1のX線分析及び熱分析同時分析装置の構成要素である画像表示装置によって行われる画面表示のさらに他の一例を示す図である。
【図7】本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置の他の実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図8】図7のフローチャートに対応した画面表示の例を示す図である。
【図9】図1のX線分析及び熱分析同時分析装置の構成要素である画像表示装置によって行われる画面表示の他の一例を示す図である。
【図10】図1のX線分析及び熱分析同時分析装置の構成要素である画像表示装置によって行われる画面表示のさらに他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(X線分析及び熱分析同時分析装置の第1実施形態)
図1に示す本実施形態のX線分析及び熱分析同時分析装置1は、X線分析と熱分析との両方を同時に行う装置である。本実施形態では、X線分析としてX線回折を利用した分析を行い、熱分析としてDSC(Differential Scanning Calorimetry)分析を行うものとする。
【0027】
X線分析及び熱分析同時分析装置1は、隔壁によって内部が外部から隔てられている試料室2を有している。試料室2は、その内部を外部から気密及び液密に隔てていることが望ましい。試料室2は、例えばステンレス鋼等といった金属製の隔壁によって形成されている。試料室2の周囲には、θ−2θゴニオメータ(θ−2θ測角器)3が設けられている。また、試料室2の外部の一方にX線源6がゴニオメータ3に支持されて設けられ、反対側の外部にX線検出器7がゴニオメータ3に支持されて設けられている。X線検出器7は、例えばSC(Scintillation Counter)等のような位置分解能を持たない0次元カウンタや、X線受光素子を2θ角度走査方向に沿って直線的に並べて成る半導体センサ等が用いられる。
【0028】
θ−2θゴニオメータ3は分析の対象である試料4を支持している。X線源6の中心と試料4の中心とを結ぶ直線が入射X線の光軸である。試料4の中心とX線検出器7のX線取込み領域の中心とを結ぶ直線が、試料4から出るX線(いわゆる2次X線)の光軸である。θ−2θゴニオメータ3は、試料4へ入射するX線の入射角度θ及び入射X線光軸の延長線に対する2次X線光軸の角度2θの両方を測角する。角度2θはX線入射角度θの2倍の角度である。
【0029】
本実施形態において2次X線は回折線であるが、仮に、X線分析がX線散乱を利用する分析であれば2次X線は散乱線であり、X線分析が蛍光X線を利用する分析であれば2次X線は蛍光X線である。
【0030】
ゴニオメータ3は、主制御装置12からの指令に従って角度θ及び角度2θを測角(すなわち、角度の位置決めを)する。角度2θは、試料4から角度2θで出た回折線をX線検出器7によって受け取ることができる角度であり、この角度2θは、通常、回折角度2θと呼ばれている。X線検出器7は試料4から出た回折線を検出して、その回折線の強度を表す電気信号であるX線強度信号S0を出力する。
【0031】
試料室2を構成している隔壁のうち、入射X線及び2次X線の進行経路と交わる部分には、X線の進行を許容し、内部の気密状態及び液密状態を維持できる材質及び構造のX線透過窓が予め設けられている。
【0032】
試料4に隣接して標準物質8が置かれている。試料4が周囲の温度変化に応じて特性が変化(例えば、溶解による特性変化)する物質であるのに対し、標準物質8は温度変化に対して特性が変化しない物質である。
【0033】
試料室2の内部に、温度センサ9及び湿度センサ11が設けられている。温度センサ9は試料4及び標準物質8の温度を検出して電気信号である温度信号S1として出力する。湿度センサ11は試料4及び標準物質8の周囲の湿度を検出して電気信号である湿度信号S2として出力する。温度信号S1及び湿度信号S2は主制御装置12へ伝送される。
【0034】
試料室2には、DSC測定回路14、温度制御装置16、及び湿度制御装置17が付設されている。DSC測定回路14は、試料4及び標準物質8のそれぞれの近傍に配置された熱量検出素子(例えば、熱電対の測温点)を有している。DSC測定回路14は、これらの検出素子を用いて試料4と標準物質8とのそれぞれへ流入する熱量(すなわち、熱流量)の差を検出する。DSC測定回路14はこの熱流量を電気信号である熱量信号S3として主制御装置12へ伝送する。
【0035】
温度制御装置16は、主制御装置12からの指令に従って作動して、試料室2の内部の温度(すなわち、試料4及び標準物質8の周囲の温度)を制御する。温度制御装置16は、例えば通電によって発熱するヒータや、冷却器等を用いて構成されている。冷却器が用いられない場合もある。湿度制御装置17は、主制御装置12からの指令に従って作動して、試料室2の内部の湿度(すなわち、試料4及び標準物質8の周囲の湿度)を制御する。主制御装置12の出力ポートには画像表示装置としてのディスプレイ23が接続されている。ディスプレイ23は、例えば液晶表示装置によって構成されている。
【0036】
主制御装置12は、例えば図2に示すように、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)18、ROM(Read Only Memory)19、RAM(Random Access Memory)21、及びメモリ22を有するコンピュータによって構成されている。図2と図1とにおいて同じ機器は同じ符号を用いて示されている。メモリ22は、半導体メモリや、CD(Compact Disk)等といった機械式メモリ、その他任意の構成の記憶媒体によって構成されている。1種類の記憶媒体に限られず、複数種類の記憶媒体によってメモリを構成しても良い。
【0037】
メモリ22内には、図1のX線分析及び熱分析同時分析装置1の動作を規定する測定制御プログラム24や、ディスプレイ23の画面上に画像を表示させるための画像信号を生成する画像表示プログラム26が格納されている。また、メモリ22内には条件記憶フィル27、測定データ記憶ファイル28、解析データ記憶ファイル29等の各種ファイル領域が設けられている。
【0038】
条件記憶フィル27は、X線分析測定及び熱分析測定の測定条件や、その他各種の測定条件を記憶するためのファイルである。測定データ記憶ファイル28は、X線分析測定及び熱分析測定によって得られたデータであって二次的な処理を受けていないデータ(以下、生データということがある)を記憶するためのファイルである。解析データ記憶ファイル29は、生データに解析処理が加えられた後のデータ(以下、解析データということがある)を記憶するためのファイルである。解析処理は、例えば、回折プロファイルのピーク処理、回折プロファイルのバックグラウンド処理等である。
【0039】
X線分析測定の測定条件としては、(1)図1における回折角度2θの測定開始角度及び測定終了角度、(2)開始角度から終了角度までのX線検出器7の走査移動の移動速度、(3)X線検出器7によって1つの2θ角度に対してX線を蓄積させる時間であるサンプリング時間等である。
【0040】
熱分析測定の測定条件としては、例えば、目標温度の設定と温度上昇速度の設定がある。また、その他の測定条件としては、例えば、目標湿度の設定と湿度上昇速度の設定がある。
【0041】
X線分析測定は、例えば、以下のような手順で行われる。すなわち、図1において、温度制御装置16を作動させて、試料4の周囲の温度を所望の状態で経時的に変化させる。他方、湿度制御装置17を作動させて、試料4の周囲の湿度を所望の湿度に設定する。これにより、試料4を所望の温度下及び湿度下に置く。
【0042】
次に、X線源6から発生したX線をスリット、モノクロメータ等といったX線光学要素を介して試料4へ照射する。X線入射角度θ及びX線検出器7による回折線取込み角度2θを、所定の走査移動速度で開始角度から終了角度まで走査移動させる。そのX線検出器7の走査移動の間、決められたサンプリング時間ごとに回折線の強度I(2θ)を検出する。回折線強度I(2θ)は、回折角度2θの開始角度から終了角度までの各回折角度値ごとの強度値である。この回折線強度I(2θ)がX線検出器7からX線強度信号S0として出力される。
【0043】
熱分析測定は、例えば、以下のような手順で行われる。図1において、試料4及び標準物質8が所望の温度下及び湿度下に置かれた状態において、試料4に流入する熱量と標準物質8に流入する熱量との差をDSC測定回路14によって経時的に検出する。つまり、熱流入量の差を時間の経過に対応して検出する。この熱流入量の差がDSC測定回路14から熱量信号S3として出力される。
【0044】
以下、図2の測定制御プログラム24及び画像表示プログラム26によって実現される測定を、図3のフローチャートを用いて説明する。
まず、ステップS1において、所定位置に試料4(図1)が置かれているかどうかをチェックし、置かれていれば(ステップS1でYES)、ステップS2において、測定条件画面を表示させるための指示が測定者によって行われたかどうかをチェックする。この測定条件画面は測定者が測定条件を設定、編集、確認等する際に使用する画面であり、例えば図4に符号33で示すような画面である。
【0045】
測定条件画面33は、測定条件入力画面31と測定条件表示画面32とから成る1つの画像表示となっている。もちろん、測定条件入力画面31と測定条件表示画面32とを別々に表示するようにしても良い。測定条件入力画面31は測定者が測定条件を入力する際に使用する表示である。測定条件表示画面32は、測定条件入力画面31を通して入力された測定条件を視覚的に認識できる形で表示するものである。
【0046】
なお、測定条件表示画面32をポインタ表示によって画面上で指示することにより入力を行うというプログラムを採用することもでき、この場合には測定条件表示画面32が測定条件入力画面31を兼用することになる。
【0047】
測定条件表示画面32は、本実施形態の場合、横軸に時間(min/分)をとり、縦軸に温度(℃)及び湿度(20℃−%)をとった座標を用いて測定条件をグラフ表示している。この表示において、温度の測定条件は折線グラフTによって表示され、湿度の測定条件は折線グラフHuによって表示され、X線分析測定の2θ角度の走査開始時点と終了時点とが、複数の平行な縦線Xによって時間軸(すなわち横軸)上に表示されている。
【0048】
この測定条件においては、湿度条件線Huを見ることにより、ほぼ10分経過後に湿度が90%の目標値に達することが分かる。通常の測定では、湿度が90%に上がった時点以降でX線分析測定及び熱分析測定が行われる。また、温度条件線Tを見ることにより、湿度が90%に上がったほぼ10分後から15分までが25℃に保持され、ほぼ20分から25分までが50℃に保持され、ほぼ30分以降が70℃に保持されることが分かる。
【0049】
複数の縦線Xに関しては、互いに隣接する2つの線を見たとき、左側の線が2θ角度の走査回転の開始時点を示し、右側の線が走査回転の終了時点を示している。例えば、横軸(時間軸)の10分後の所の3つの縦線X1、X2及びX3を考えたとき、X1とX2は1回の2θ走査移動の開始と終了の各時点を示し、X2とX3は引き続いて行われる他の1回の2θ走査移動の開始と終了の各時点を示している。X1〜X3以外の全ての縦線Xは同じ意味を有している。
【0050】
図1において、回折角度2θの開始角度(例えば、2θ=5°)から終了角度(例えば、2θ=40°)までのX線検出器7の1回の走査移動が終了した後、X線検出手段7は次のX線回折測定に備えて開始角度まで戻らなければならない。図4のX線条件線Xは、特にX線検出手段7の戻り時間を表示していないが、その戻り時間は2つの縦線Xで規定される時間内に含まれているものと認定する。
【0051】
ステップS2において測定条件画面33を表示させる旨の指示が測定者によって成されたと判断されると(ステップS2でYES)、それまでに条件記憶ファイル27(図2)に記憶されているデータが読み込まれる(ステップS3)。そして、読み込まれたデータに基づいて画像信号が生成され、その画像信号に従って測定条件画面33(図4)、すなわち測定条件入力画面31及び測定条件表示画面32が表示される(ステップS4,S5)。測定者によって測定条件の入力があった場合(ステップS6でYES)には、その入力に従って条件記憶ファイル27(図2)の内容を更新し、測定条件画面33を表示し直す。
【0052】
本実施形態では、温度条件として、
(1)設定温度=25℃、50℃、75℃の3種類
(2)昇温速度=3℃/min
が設定されている。また、湿度条件として90%が設定されている。
【0053】
さらに、X線回折測定条件として、
(1)2θ開始角度=5°
(2)2θ終了角度=40°
(3)走査ステップ角度=0.0200°、走査速度=40°/min
が設定されている。
【0054】
以上の入力の結果、測定条件表示画面32には、温度測定条件が折線グラフTで表示され、湿度測定条件が折線グラフHuで表示され、X線回折測定条件が複数の縦線Xで表示される。これらを見た測定者は、これから行われるX線分析測定の測定条件と熱分析測定の測定条件と湿度条件とを視覚的に関連させて容易に且つ正確に把握できる。そして、測定条件を変更したい場合には、測定条件入力画面31を使って条件を変更することにより、簡単、迅速、且つ正確に新しい測定条件を設定できる。そして、その変更内容を簡単に認識できる。
【0055】
なお、測定条件表示画面32に測定条件入力画面の機能を持たせる場合には、例えば画面上のポインタ表示を時間軸(横軸)上でドラッグ(移動)させることにより、X線回折条件を新たに入力することができる。この場合には、画面上部領域にある測定条件入力画面31内の対応項目の数字が連動して変化する。
【0056】
以上により測定条件が設定された後、測定者によって測定開始の指示があったかどうかがステップS7において判定され、あった場合(ステップS7でYES)には、ステップS8において測定開始の指令を発生する。
【0057】
すると、図1において、温度制御装置16の作用により試料室2の内部領域が図4の温度測定条件Tに従って温度制御され、湿度制御装置17の作用により試料室2の内部領域が湿度測定条件Huに従って湿度制御され、さらに、ゴニオメータ3の作用によりX線回折測定条件がX線測定条件Xに従って制御される。この制御の結果、X線検出器7から回折線強度データI(2θ)が得られ、DSC測定回路14から熱流量データ(DSCデータ)が得られる。
【0058】
得られたこれらのデータはステップS9において図2の測定データ記憶ファイル28へ記憶される。なお、これらのデータは測定開始からの経時時間との関連で記憶される。経時時間は試料の温度変化及び回折角度2θの変化と関連しているので、回折線強度データI(2θ)は回折角度2θの変化及び試料温度変化と関連し、DSC熱量データは試料温度変化と関連している。
【0059】
CPU18は、ステップS10において、測定データが得られる毎に、そのデータを画像表示するための画像データを生成する。そして、測定者によってデータを表示する旨の指示があった場合(ステップS11でYES)には、生成された画像データを図2のディスプレイ23内の画像表示ドライバへ伝送して、ディスプレイ23の画面上に測定データを表示する(ステップS12)。なお、この場合には、図4の測定条件画面33に代えて、並べて、又は重ねて測定データが表示される。
【0060】
図5はそのようにして表示される測定結果のデータ表示の一例を示している。図5に示す測定結果画面34において、左側の部分36はX線分析測定の結果を示しており、右側の部分37はDSC測定の結果を示している。X線測定結果表示36は、横軸に回折角度2θをとり、縦軸に回折線強度Iをとった座標上に複数の回折線プロファイル35を縦方向に沿って互いに間隔をおいて平行に描くことによって作成されている。各回折線プロファイル35は横軸目盛りの2θ=5°(開始角度)から2θ=40°(終了角度)の2θ角度走査領域にわたって横方向へ延びている。
【0061】
DSC測定結果表示37は、横軸に熱量(Heat Flow/mW)、温度(Temperature/℃)、及び湿度(%)のそれぞれをとり、縦軸に経過時間(min)をとった座標上に描かれている。符号38が測定によって得られたDSC曲線であり、符号39が温度変化曲線である。
【0062】
ステップS10〜ステップS12において、画像データは測定データが得られる毎に生成され、さらに画像データは逐次、画像ドライバへ伝送される。そのため、図5の測定結果画面34には、測定データが得られる毎に、すなわちリアルタイムに、回折線プロファイル35、DSC曲線38、そして温度変化曲線39が徐々に描画されて行く。そして、測定終了条件に達した時点(ステップS15でYES)、例えば図4の測定条件表示画面32の最終回のX線回折測定41が終了した時点で、測定終了の指令が発生され、X線回折測定及び熱分析測定が終了する(ステップS16)。こうして、全ての測定が終了すると、測定結果画面34には図6に示すように、測定によって得られた全ての測定データが測定結果画面34上に表示される。
【0063】
なお、測定者がデータの解析、例えばバックグランド軽減処理やピークサーチ処理、を希望する場合(ステップS17でYES)には、得られたデータに対して希望された解析を行い、さらに解析によって得られたデータ、すなわち解析データを図2の解析データ記憶ファイル29へ記憶する(ステップS18)。図3のフローチャートには示されていないが、得られた解析データは測定者からの指示に従って図6と同様の表示形態で表示される。
【0064】
次に、図5及び図6に示した測定結果画面34の性質について簡単に説明する。
図4の測定条件表示画面32において描かれた複数の縦線(X線条件線)Xのうち互いに隣接する2つの縦線Xによって規定される時間内で、図1において2θ角度5°から40°の1回のX線回折測定が行われる。そして、その1回ごとのX線回折測定が連続して繰り返して行われる。これにより、図5又は図6のX線測定結果表示36内で各回折線プロファイル35が縦方向で間隔を空けて互いに平行に描かれる。
【0065】
各回のX線回折測定が繰り返して行われる間、すなわち図6において各回折線プロファイル35が順々に描画されて行く間、試料4の周囲温度は、DSC測定結果表示37の温度変化曲線39のように変化している。従って、温度変化曲線39が垂直(同じ温度を維持する状態)でない場合は、各回のX線回折測定は異なった温度条件の下で行われたことになる。
【0066】
本実施形態では、各回折線プロファイル35と、そのプロファイルが得られたときの温度範囲と、その温度範囲に対応したDSC測定結果との各要素が、互いに関連付けて表示されている。具体的には、各回折線プロファイル35は、その回折線プロファイル35が測定されたときの温度変化曲線39上における試料温度範囲に対してグラフの横軸に沿った方向における横位置に表示されている。
【0067】
より具体的には、DSC測定結果表示37の縦軸(時間軸)上の時刻は、DSC曲線38及び温度変化曲線39の時刻データを示している。そして、各回折線プロファイル35の測定開始時刻、すなわち各回折線プロファイル35の2θ=5°の縦軸上の位置はDSC測定結果表示37の縦軸(時間軸)上の時刻に一致している。
【0068】
仮に、各回折線プロファイル35の2θ=5°〜40°の間の各角度位置を時間軸に正確に一致させることにすると、各回折線プロファイル35は右上がりのプロファイル(すなわち、2θの増加に従って時間経過分だけ上方へ上がるプロファイル)になるはずである。しかしながら、本実施形態の表示方法では、各回折線プロファイル35の左端点(すなわち測定開始点)だけを時間軸上の時刻に一致させ、各回折線プロファイル35のベースラインは横軸(時間軸)と平行に表示している。これにより、X線測定結果表示36が見易くなっている。
【0069】
なお、各回折線プロファイル35においてDSC測定結果表示37の縦軸の時刻と一致させる点は、測定開始点(左端点)に限られず、中央点又は任意の中間点であっても良く、あるいは測定終了点(右端点)であっても良い。
【0070】
以上の説明から明らかなように、DSC測定結果表示37においてDSC曲線38及び温度変化曲線39は縦軸(時間軸)に従っており、X線測定結果表示36において各回折線プロファイル35の縦軸方向の位置もDSC測定結果表示37の縦軸(時間軸)に従っている。従って、各回折線プロファイル35は、とりもなおさず、各プロファイルを右横方向へ水平に延長させたときの温度変化曲線39及びDSC曲線38との交点又は交差領域と対応関係にある。
【0071】
従って、例えば、一番下の回折線プロファイル35aが温度22.0℃〜23.0℃の温度範囲内で作成され、下から2番目の回折線プロファイル35bが温度23.0℃〜24.0℃の温度範囲内で作成されたものであるならば、一番下の回折線プロファイル35aは温度変化曲線39のうちの22.0℃〜23.0℃の部分の横方向に描かれ、下から2番目の回折線プロファイル35bは温度変化曲線39のうちの23.0℃〜24.0℃の部分の横方向に描かれる。
【0072】
以上から理解されるように、X線測定結果表示36において、縦軸に目盛られたX線強度(Intensity)の数値は、それらの数値の横に描かれている個々の回折線プロファイル35の各ピークの強度値を直接的に示しているのではなく、各回折線プロファイル35のピークの高さがX線強度のいくつの大きさに相当するのかを間接的に示している。本実施形態では、個々の回折プロファイル35における個々のピーク強度の厳密な大きさを知ることが重要なのではなく、各回折プロファイル間でのピーク発生位置の違いや、大体のピーク強度の違いが分かれば十分であるので、本実施形態のX線測定結果表示36のような表示の仕方は測定者にとって非常に便宜的である。
【0073】
次に、本実施形態では、測定結果を測定者が正確に把握できるようにするために、測定者が測定結果画面34に対して所定の画面処理を行う旨の指示をした場合(ステップS13でYES)、ステップS14へ進んで所定の画面処理プログラムが実行されるようになっている。具体的には、任意の回折線プロファイル35、例えば図6の矢印Aで示す下から8番目の回折線プロファイル35を測定者がポインタで指示して、さらに入力装置であるマウスのボタンをクリック(選択)すると、その回折線プロファイル35が他の回折線プロファイル35よりも太線(又は異なる色)で表示される。
【0074】
そして、選択された回折線プロファイル35の右横には、その回折線プロファイル35が得られたときの温度範囲が、例えば「108.0−110.2」のように数値表示(矢印B)され、同時に、温度変化曲線39の対応温度範囲部分C及びDSC曲線38の対応DSC部分Dも太線(又は異なる色)で表示される。さらに、もう一度クリックを行うと、選択は解除され、太線は解消されて通常の太さに戻る。
【0075】
また、逆に、温度変化曲線39の一部分C又はDSC曲線38の一部分Dをクリックすると、それらの部分が選択されたものとみなされて太線(又は異なる色)で表示され、同時に、対応する回折線プロファイル35が太線(又は異なる色)で表示される。そしてさらに、その選択表示された回折線プロファイルの右横に温度範囲が数値で表示される。
【0076】
以上のように、回折線プロファイル35と温度変化曲線39とDSC曲線38とが視覚上で関連付けて表示されていることと、対応関係を知りたいと思っている部分をクリック指示することにより、太線表示や数値表示によって各曲線間の対応関係が容易、迅速、明確に認識できることにより、試料4の結晶構造や特性を容易且つ正確に判定できる。
【0077】
従来のX線分析及び熱分析同時分析装置では、測定者が昇温曲線や湿度設定曲線の中で、何本のX線回折測定を行うことができるかを頭の中で想像するしかなく、画面上で確認することができなかった。これに対し、本実施形態では、図4の測定条件画面33上の時間軸上に区切り縦線Xを描き込む機能を追加したことにより、X線回折測定の測定条件とDSC分析測定の測定条件との関連を視覚で認識することが可能となり、装置の使い勝手が格段に向上した。また、電卓を使った計算と頭の中での想像だけに頼っていた従来方法に比べて、迅速且つ正確な測定条件の設定ができるようになった。
【0078】
さらに、本実施形態では、測定前、測定中、又は測定後のいつでも必要に応じて図4の測定条件画面33を測定者の指示に従って画面上に表示するようにしたので、行っている測定についての測定条件を必要なときにいつでも確認できるようになった。
【0079】
(変形例)
上記実施形態では、図4において、複数のX線条件縦線X間の間隔が全て等しく設定されていた。つまり、開始角度5°〜終了角度40°で終了する1回のX線回折測定にかかる時間が、全てのX線回折測定について同じであった。これに代えて、時間軸上で測定者が必要と思う部分ではX線検出器の走査速度を下げてX線回折測定を時間をかけてゆっくりと行ったり、逆に必要と思う他の部分では走査速度を上げて短時間で早く行ったりすることができる。測定時間が長い場合は図4において隣接した縦線Xの間隔が広くなり、測定時間が短い場合は縦線Xの間隔が狭くなる。このように、X線分析測定の測定条件と熱分析測定の測定条件とを視覚的に、容易に、迅速に、且つ正確に設定できる。
【0080】
(X線分析及び熱分析同時分析装置の第2実施形態)
次に、本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置の他の実施形態を、図7及び図8を用いて説明する。図8は、その実施形態に対応した測定条件画面53を示している。図7はその測定条件画面53を表示させるための制御をフローチャートによって示している。
【0081】
図8に示す測定条件画面53が測定条件入力画面31及び測定条件表示画面32を有することは、図4に示した測定条件画面33と同じである。本実施形態が図4に示した実施形態と異なる点は、(1)本番のX線回折測定及びDSC測定を行う前に予備測定としてのDSC測定を行い、(2)その予備DSC測定によって得られたDSC曲線54を、測定条件表示画面32内において湿度条件線Hu、温度条件線T、及びX線条件線Xの各線に重ねて表示し、そして(3)DSC測定の後に試料4(図1)を新しいものと交換した後に本番の測定を行うようにしたことである。
【0082】
なお、新しい試料と予備測定した試料とは成分が全く同じ試料である。例えば、ある量の物質が試料として与えられた場合には、その物質のうちの一部を予備測定の試料とし、残りを本番測定の試料とする。試料を交換するのは、予備測定の熱分析を行うと、その予備測定に供した試料は変質してしまうからである。
【0083】
なお、予備DSC測定を行うための予備測定手段は、本実施形態では、図2における主制御装置12、DSC測定回路14、温度制御装置16、及び湿度制御装置17によって構成されている。
【0084】
このような表示を実現するため、本実施形態の主制御装置は、図7にフローチャートで示す制御を実行する。このフローチャートが図3に示した先の実施形態におけるフローチャートと異なる点は、図7のステップS6〜S8及びS11である。ステップS6では、DSCの予備測定を行うかどうかがチェックされ、予備測定を行うと判定した場合(ステップS6でYES)には、DSCの予備測定を行う(ステップS7)。そして、さらに、予備測定によって得られたDSCデータを図8の符号54で示すようにDSC曲線として測定条件表示画面32内に表示する。ステップS11では、試料4(図1)が交換されたかどうかをチェックし、交換されていれば(ステップS11でYES)、ステップS12で測定開始の指令を発生する。
【0085】
図7のフローチャートと図3のフローチャートとの間で次の工程は同じである。
【0086】
本実施形態においても、図8に示すように、測定条件画面53の測定条件表示画面32内の時間軸(横軸)上に区切り縦線Xを描き込む機能を追加したことにより、X線回折測定の測定条件(例えば、2θ走査速度)とDSC測定の測定条件(例えば、温度変化)との関係を視覚で認識することが可能となり、装置の使い勝手が格段に向上した。
【0087】
さらに、本実施形態によれば、測定者は、温度変化の測定条件Tに加えてDSC曲線の特性54をも考慮して、X線回折測定の測定条件Xを決めることができる。例えば、予備測定後のDSC曲線54において熱量が大きく変化する位置に対応してX線回折測定回数を希望の回数に決めることができるようになる。これにより、試行錯誤を繰り返すことなく、X線回折測定と熱分析測定との測定条件を短時間で最良の条件に設定できるようになる。
【0088】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、上記実施形態では、X線分析装置としてX線回折装置を例示し、熱分析装置としてDSC装置を例示したが、X線分析装置はX線回折装置に限られず、X線散乱装置、蛍光X線装置等であっても良い。また、熱分析装置は、DSC装置に限られず、DTA装置等であっても良い。
【0089】
図4に示した測定条件の表示例では、湿度変化Hu及び温度変化Tの折線グラフ表示に加えて、X線測定条件を規定する複数の縦線Xを描いたが、これに代えて、図9に示すように、湿度変化Huの表示を止めて、温度変化Tの折線グラフ表示とX線測定条件を規定する複数の縦線Xとだけを描くようにしても良い。
また、図4では湿度Huを一定に保持し、温度Tを段階的に変化させたが、これに代えて、図10に示すように、温度Tを一定に保持し、湿度Huを段階的に変化させるようにしても良い。
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線分析のための測定と熱分析のための測定とを同時に行うX線分析及び熱分析同時分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線分析装置は、試料へX線を照射したときに該試料から出るX線、例えば回折線、散乱線、蛍光X線等の状態に基づいて、試料の結晶構造、分子構造等を分析する装置である。このようなX線分析装置として、例えば、試料から発生する回折線の回折角度及び回折線強度を測定するX線回折装置や、試料から発生する散乱線の角度及び強度を測定するX線散乱装置や、試料から発生する蛍光X線を測定する蛍光X線装置等が知られている。
【0003】
熱分析装置は、試料の温度を変化させたときに該試料に発生する変化を測定し、その変化に基づいて試料の特性を分析する装置である。このような熱分析装置として、例えば、温度変化に応じた試料の重量変化を測定する熱重量測定(TG:Thermogravimetry)装置や、周囲温度の変化に応じた標準物質と試料との温度変化の相違を測定する示差熱分析(DTA:Differential Thermal Analysis)装置や、周囲温度の変化に応じた標準物質と試料との熱流入量の変化の相違を測定する示差走査熱量分析(DSC:Differential Scanning Calorimetry)装置等が知られている。
【0004】
近年、1つの物質に関する結晶構造変化と、同じ物質の周囲温度の変化に対応した特性変化とを、同時に測定して、それらの測定結果に基づいて該物質を分析する研究が行われている。例えば、製薬の分野では、対象となる物質の結晶構造を知ること、及び温度変化に対応した特性変化を知ること、が重要となっている。
【0005】
物質の構造変化を知る手段として、X線回折装置のようなX線分析装置が好適である。また、物質の熱的特性を知る手段として、DSC装置のような熱分析装置が好適である。1つの物質に対してこれらの装置を用いたそれぞれの分析を行えば、当該物質についての結晶構造についての情報及び熱的特性の情報の両方が得られるので、物質に関する研究、例えば製薬に関する研究を飛躍的に前進させることができる。
【0006】
このようにX線分析と熱分析とを同時に行って、それらの分析結果を表示装置の画面上に同時に表示することにより、物質の特性を迅速且つ正確に把握できるようにしたX線分析及び熱分析同時分析装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−295244号公報(第2〜4頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に開示された装置においては、X線分析結果と熱分析結果とを同時に表示することが開示されているものの、X線分析のための測定条件と熱分析のための測定条件とをどのように決めるかについては触れられていない。
【0009】
従来の一般的な測定条件の決め方は、まず、熱分析測定のための温度変化条件を決め、その条件を頭の中に描いたり、ディスプレイの画面上に表示し、その温度変化条件に対応させてX線分析測定の条件、例えば2θ角度の測定範囲や、2θ角度走査速度や、サンプリング時間等を電子卓上計算機を用いて測定者が計算によって求め、頭の中で温度変化条件とX線分析測定条件とを関連付けて、全体的な測定条件を評価していた。
【0010】
しかしながら、このような従来の測定条件の決定手法では、複数の測定者間で統一された客観的な測定条件を迅速に、簡単に、且つ正確に決めることが困難であった。また、X線分析測定と熱分析測定とが目標とする測定条件に沿って行われていることを確認することが難しかった。さらには、測定条件を正確に把握して、それを記憶しておくことが難しかったので、理想とする測定条件を導き出すことが難しく、偶然に頼らざるを得なかった。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みて成されたものであって、X線分析と熱分析との両方を同時に行う装置において、それらの分析の測定条件の関連を測定者が容易に、迅速に、且つ正確に把握できるようにすることを目的とする。また、本発明は、X線分析及び熱分析を目標とする測定条件下で常に安定して客観的に行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置は、試料にX線を照射したときに該試料から出るX線をX線検出手段によって検出するX線分析装置と、試料の周囲の温度を変化させたときに該試料に発生する特性変化を検出する熱分析装置と、前記X線分析装置による測定と前記熱分析装置による測定とが同時に行われるように制御する測定制御手段と、X線分析測定のための測定条件を記憶するX線条件記憶手段と、熱分析測定のための測定条件を記憶する熱条件記憶手段と、画像信号に従って画面上に画像を表示する画像表示装置と、X線条件記憶手段に記憶されたX線分析測定条件及び熱条件記憶手段に記憶された熱分析測定条件の両方をグラフとして前記画像表示装置の画面上に表示させる測定条件表示手段と、前記の測定が行われていない間及び前記の測定が行われている間の少なくとも一方の時間内の任意の時点で、前記測定条件表示手段により前記グラフの表示を行わせる画像表示制御手段とを有することを特徴とする。
【0013】
従来のX線分析及び熱分析同時分析装置では、測定者が昇温曲線等といった熱分析測定条件の中で、何本のX線回折測定を行うことができるかを頭の中で想像するしかなく、画面上で確認することができなかった。これに対し、本実施形態では、X線分析測定条件と熱分析条件の両方を画面上にグラフの形で表示する機能を追加したことにより、X線分析測定の測定条件と熱分析測定の測定条件との関連を視覚で認識することが可能となり、装置の使い勝手が格段に向上した。また、電卓を使った計算と頭の中での想像だけに頼っていた従来方法に比べて、迅速且つ正確な測定条件の設定ができるようになった。
【0014】
次に、本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置において、前記熱分析測定条件は温度変化を含むことがあり、前記X線分析測定条件は試料から出るX線を検出するためのX線検出手段による測定開始角度から測定終了角度までの角度走査移動時間を含むことがあり、前記測定条件表示手段は縦軸及び横軸の一方に時間をとり他方に温度をとった座標上に、前記温度変化を折線グラフによって表示し、前記角度走査移動時間の開始と終了とのそれぞれを示す線を時間軸上に表示することが望ましい。この構成により、X線分析測定条件と熱分析測定条件との関連を画面上で非常に容易に把握できる。
【0015】
次に、本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置は、試料の周囲の湿度を変化させる湿度変化手段をさらに有することができ、この場合、前記測定条件表示手段は、前記湿度の変化をグラフとして前記X線分析測定条件及び前記熱分析測定条件に重ねて表示することが望ましい。
【0016】
本発明の技術分野において、X線回折装置と熱分析装置とに湿度の環境を変えて測定する必要がある場合がある。例えば、医薬品や食品は温度や湿度により結晶系が変わることがある。特に日本の気候においては、夏に蒸し暑く、冬はカラカラに乾燥するため、温度や湿度の変化が激しい。そのため、医薬品を合成する際の環境や、医薬品及び食品を保存する際の環境は、劣悪な条件下にあるといえる。そこで、予め様々な雰囲気下での測定を行い、これらの材料が実際の環境下でどのように変化するかを明らかにする必要がある。
【0017】
そこで、X線分析及び熱分析同時分析装置に湿度発生装置を用いて、湿度雰囲気下での物質の熱的変化及び結晶構造変化を評価する必要がある。湿度雰囲気下で、X線回折分析と熱分析のための測定を同時に行うことにより、物質の熱的変化の前後の当該物質の構造変化を容易に知ることができる。しかしながら、測定条件に湿度が加わると、条件設定が複雑になるので、X線回折条件、温度条件、及び湿度条件を頭の中で相互に関連付けることが困難になる。
【0018】
この点に関し、本発明態様によれば、湿度雰囲気の条件が加わった場合でも、測定条件を容易に設定でき、さらに容易に確認できる。また、測定時の進行状況を確認することもでき、さらには、測定結果を逐次、確認することができる。
【0019】
次に、本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置において、前記測定条件表示手段は、前記湿度変化を折線グラフによって表示することが望ましい。
【0020】
次に、本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置は、前記熱分析装置を用いて熱分析の予備測定を行う予備測定手段をさらに有することができ、この場合、前記測定条件表示手段は、前記予備測定の結果をグラフとして表示することが望ましい。
【0021】
次に、本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置において、前記測定条件表示手段は、前記X線分析測定条件及び前記熱分析測定条件のグラフ表示に加えて、前記X線分析測定条件及び前記熱分析測定条件を入力するための入力画面表示を行うことが望ましい。
【0022】
次に、本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置は、前記X線分析装置による測定データ及び前記熱分析装置による測定データを前記画像表示装置の画面上に表示させる測定データ表示手段をさらに有することができる。そしてこの場合、前記測定データ表示手段は得られた両測定データを逐次に前記画像表示装置へ伝送することにより、前記X線分析装置及び前記熱分析装置から測定データが得られる毎に該測定データを逐次に画像として表示することが望ましい。
【0023】
この発明態様によれば、測定の間に逐次に表示される測定結果を観察することにより、測定結果に応じて測定の途中で測定条件の設定を変更することができる。また、測定結果の観察中に、物質の反応が完了したと判断したときには、測定を途中で止めることもできる。
【発明の効果】
【0024】
従来のX線分析及び熱分析同時分析装置では、測定者が昇温曲線や湿度設定曲線の中で、何本のX線回折測定を行うことができるかを頭の中で想像するしかなく、画面上で確認することができなかった。これに対し、本実施形態では、画面上の時間軸上に区切り縦線Xを描き込む機能を追加したことにより、X線分析測定の測定条件と熱分析測定の測定条件との関連を視覚で認識することが可能となり、装置の使い勝手が格段に向上した。また、電卓を使った計算と頭の中での想像だけに頼っていた従来方法に比べて、迅速且つ正確な測定条件の設定ができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置の一実施形態を模式的に示す図である。
【図2】図1のX線分析及び熱分析同時分析装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】図1のX線分析及び熱分析同時分析装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】図1のX線分析及び熱分析同時分析装置の構成要素である画像表示装置によって行われる画面表示の一例を示す図である。
【図5】図1のX線分析及び熱分析同時分析装置の構成要素である画像表示装置によって行われる画面表示の他の一例を示す図である。
【図6】図1のX線分析及び熱分析同時分析装置の構成要素である画像表示装置によって行われる画面表示のさらに他の一例を示す図である。
【図7】本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置の他の実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図8】図7のフローチャートに対応した画面表示の例を示す図である。
【図9】図1のX線分析及び熱分析同時分析装置の構成要素である画像表示装置によって行われる画面表示の他の一例を示す図である。
【図10】図1のX線分析及び熱分析同時分析装置の構成要素である画像表示装置によって行われる画面表示のさらに他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(X線分析及び熱分析同時分析装置の第1実施形態)
図1に示す本実施形態のX線分析及び熱分析同時分析装置1は、X線分析と熱分析との両方を同時に行う装置である。本実施形態では、X線分析としてX線回折を利用した分析を行い、熱分析としてDSC(Differential Scanning Calorimetry)分析を行うものとする。
【0027】
X線分析及び熱分析同時分析装置1は、隔壁によって内部が外部から隔てられている試料室2を有している。試料室2は、その内部を外部から気密及び液密に隔てていることが望ましい。試料室2は、例えばステンレス鋼等といった金属製の隔壁によって形成されている。試料室2の周囲には、θ−2θゴニオメータ(θ−2θ測角器)3が設けられている。また、試料室2の外部の一方にX線源6がゴニオメータ3に支持されて設けられ、反対側の外部にX線検出器7がゴニオメータ3に支持されて設けられている。X線検出器7は、例えばSC(Scintillation Counter)等のような位置分解能を持たない0次元カウンタや、X線受光素子を2θ角度走査方向に沿って直線的に並べて成る半導体センサ等が用いられる。
【0028】
θ−2θゴニオメータ3は分析の対象である試料4を支持している。X線源6の中心と試料4の中心とを結ぶ直線が入射X線の光軸である。試料4の中心とX線検出器7のX線取込み領域の中心とを結ぶ直線が、試料4から出るX線(いわゆる2次X線)の光軸である。θ−2θゴニオメータ3は、試料4へ入射するX線の入射角度θ及び入射X線光軸の延長線に対する2次X線光軸の角度2θの両方を測角する。角度2θはX線入射角度θの2倍の角度である。
【0029】
本実施形態において2次X線は回折線であるが、仮に、X線分析がX線散乱を利用する分析であれば2次X線は散乱線であり、X線分析が蛍光X線を利用する分析であれば2次X線は蛍光X線である。
【0030】
ゴニオメータ3は、主制御装置12からの指令に従って角度θ及び角度2θを測角(すなわち、角度の位置決めを)する。角度2θは、試料4から角度2θで出た回折線をX線検出器7によって受け取ることができる角度であり、この角度2θは、通常、回折角度2θと呼ばれている。X線検出器7は試料4から出た回折線を検出して、その回折線の強度を表す電気信号であるX線強度信号S0を出力する。
【0031】
試料室2を構成している隔壁のうち、入射X線及び2次X線の進行経路と交わる部分には、X線の進行を許容し、内部の気密状態及び液密状態を維持できる材質及び構造のX線透過窓が予め設けられている。
【0032】
試料4に隣接して標準物質8が置かれている。試料4が周囲の温度変化に応じて特性が変化(例えば、溶解による特性変化)する物質であるのに対し、標準物質8は温度変化に対して特性が変化しない物質である。
【0033】
試料室2の内部に、温度センサ9及び湿度センサ11が設けられている。温度センサ9は試料4及び標準物質8の温度を検出して電気信号である温度信号S1として出力する。湿度センサ11は試料4及び標準物質8の周囲の湿度を検出して電気信号である湿度信号S2として出力する。温度信号S1及び湿度信号S2は主制御装置12へ伝送される。
【0034】
試料室2には、DSC測定回路14、温度制御装置16、及び湿度制御装置17が付設されている。DSC測定回路14は、試料4及び標準物質8のそれぞれの近傍に配置された熱量検出素子(例えば、熱電対の測温点)を有している。DSC測定回路14は、これらの検出素子を用いて試料4と標準物質8とのそれぞれへ流入する熱量(すなわち、熱流量)の差を検出する。DSC測定回路14はこの熱流量を電気信号である熱量信号S3として主制御装置12へ伝送する。
【0035】
温度制御装置16は、主制御装置12からの指令に従って作動して、試料室2の内部の温度(すなわち、試料4及び標準物質8の周囲の温度)を制御する。温度制御装置16は、例えば通電によって発熱するヒータや、冷却器等を用いて構成されている。冷却器が用いられない場合もある。湿度制御装置17は、主制御装置12からの指令に従って作動して、試料室2の内部の湿度(すなわち、試料4及び標準物質8の周囲の湿度)を制御する。主制御装置12の出力ポートには画像表示装置としてのディスプレイ23が接続されている。ディスプレイ23は、例えば液晶表示装置によって構成されている。
【0036】
主制御装置12は、例えば図2に示すように、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)18、ROM(Read Only Memory)19、RAM(Random Access Memory)21、及びメモリ22を有するコンピュータによって構成されている。図2と図1とにおいて同じ機器は同じ符号を用いて示されている。メモリ22は、半導体メモリや、CD(Compact Disk)等といった機械式メモリ、その他任意の構成の記憶媒体によって構成されている。1種類の記憶媒体に限られず、複数種類の記憶媒体によってメモリを構成しても良い。
【0037】
メモリ22内には、図1のX線分析及び熱分析同時分析装置1の動作を規定する測定制御プログラム24や、ディスプレイ23の画面上に画像を表示させるための画像信号を生成する画像表示プログラム26が格納されている。また、メモリ22内には条件記憶フィル27、測定データ記憶ファイル28、解析データ記憶ファイル29等の各種ファイル領域が設けられている。
【0038】
条件記憶フィル27は、X線分析測定及び熱分析測定の測定条件や、その他各種の測定条件を記憶するためのファイルである。測定データ記憶ファイル28は、X線分析測定及び熱分析測定によって得られたデータであって二次的な処理を受けていないデータ(以下、生データということがある)を記憶するためのファイルである。解析データ記憶ファイル29は、生データに解析処理が加えられた後のデータ(以下、解析データということがある)を記憶するためのファイルである。解析処理は、例えば、回折プロファイルのピーク処理、回折プロファイルのバックグラウンド処理等である。
【0039】
X線分析測定の測定条件としては、(1)図1における回折角度2θの測定開始角度及び測定終了角度、(2)開始角度から終了角度までのX線検出器7の走査移動の移動速度、(3)X線検出器7によって1つの2θ角度に対してX線を蓄積させる時間であるサンプリング時間等である。
【0040】
熱分析測定の測定条件としては、例えば、目標温度の設定と温度上昇速度の設定がある。また、その他の測定条件としては、例えば、目標湿度の設定と湿度上昇速度の設定がある。
【0041】
X線分析測定は、例えば、以下のような手順で行われる。すなわち、図1において、温度制御装置16を作動させて、試料4の周囲の温度を所望の状態で経時的に変化させる。他方、湿度制御装置17を作動させて、試料4の周囲の湿度を所望の湿度に設定する。これにより、試料4を所望の温度下及び湿度下に置く。
【0042】
次に、X線源6から発生したX線をスリット、モノクロメータ等といったX線光学要素を介して試料4へ照射する。X線入射角度θ及びX線検出器7による回折線取込み角度2θを、所定の走査移動速度で開始角度から終了角度まで走査移動させる。そのX線検出器7の走査移動の間、決められたサンプリング時間ごとに回折線の強度I(2θ)を検出する。回折線強度I(2θ)は、回折角度2θの開始角度から終了角度までの各回折角度値ごとの強度値である。この回折線強度I(2θ)がX線検出器7からX線強度信号S0として出力される。
【0043】
熱分析測定は、例えば、以下のような手順で行われる。図1において、試料4及び標準物質8が所望の温度下及び湿度下に置かれた状態において、試料4に流入する熱量と標準物質8に流入する熱量との差をDSC測定回路14によって経時的に検出する。つまり、熱流入量の差を時間の経過に対応して検出する。この熱流入量の差がDSC測定回路14から熱量信号S3として出力される。
【0044】
以下、図2の測定制御プログラム24及び画像表示プログラム26によって実現される測定を、図3のフローチャートを用いて説明する。
まず、ステップS1において、所定位置に試料4(図1)が置かれているかどうかをチェックし、置かれていれば(ステップS1でYES)、ステップS2において、測定条件画面を表示させるための指示が測定者によって行われたかどうかをチェックする。この測定条件画面は測定者が測定条件を設定、編集、確認等する際に使用する画面であり、例えば図4に符号33で示すような画面である。
【0045】
測定条件画面33は、測定条件入力画面31と測定条件表示画面32とから成る1つの画像表示となっている。もちろん、測定条件入力画面31と測定条件表示画面32とを別々に表示するようにしても良い。測定条件入力画面31は測定者が測定条件を入力する際に使用する表示である。測定条件表示画面32は、測定条件入力画面31を通して入力された測定条件を視覚的に認識できる形で表示するものである。
【0046】
なお、測定条件表示画面32をポインタ表示によって画面上で指示することにより入力を行うというプログラムを採用することもでき、この場合には測定条件表示画面32が測定条件入力画面31を兼用することになる。
【0047】
測定条件表示画面32は、本実施形態の場合、横軸に時間(min/分)をとり、縦軸に温度(℃)及び湿度(20℃−%)をとった座標を用いて測定条件をグラフ表示している。この表示において、温度の測定条件は折線グラフTによって表示され、湿度の測定条件は折線グラフHuによって表示され、X線分析測定の2θ角度の走査開始時点と終了時点とが、複数の平行な縦線Xによって時間軸(すなわち横軸)上に表示されている。
【0048】
この測定条件においては、湿度条件線Huを見ることにより、ほぼ10分経過後に湿度が90%の目標値に達することが分かる。通常の測定では、湿度が90%に上がった時点以降でX線分析測定及び熱分析測定が行われる。また、温度条件線Tを見ることにより、湿度が90%に上がったほぼ10分後から15分までが25℃に保持され、ほぼ20分から25分までが50℃に保持され、ほぼ30分以降が70℃に保持されることが分かる。
【0049】
複数の縦線Xに関しては、互いに隣接する2つの線を見たとき、左側の線が2θ角度の走査回転の開始時点を示し、右側の線が走査回転の終了時点を示している。例えば、横軸(時間軸)の10分後の所の3つの縦線X1、X2及びX3を考えたとき、X1とX2は1回の2θ走査移動の開始と終了の各時点を示し、X2とX3は引き続いて行われる他の1回の2θ走査移動の開始と終了の各時点を示している。X1〜X3以外の全ての縦線Xは同じ意味を有している。
【0050】
図1において、回折角度2θの開始角度(例えば、2θ=5°)から終了角度(例えば、2θ=40°)までのX線検出器7の1回の走査移動が終了した後、X線検出手段7は次のX線回折測定に備えて開始角度まで戻らなければならない。図4のX線条件線Xは、特にX線検出手段7の戻り時間を表示していないが、その戻り時間は2つの縦線Xで規定される時間内に含まれているものと認定する。
【0051】
ステップS2において測定条件画面33を表示させる旨の指示が測定者によって成されたと判断されると(ステップS2でYES)、それまでに条件記憶ファイル27(図2)に記憶されているデータが読み込まれる(ステップS3)。そして、読み込まれたデータに基づいて画像信号が生成され、その画像信号に従って測定条件画面33(図4)、すなわち測定条件入力画面31及び測定条件表示画面32が表示される(ステップS4,S5)。測定者によって測定条件の入力があった場合(ステップS6でYES)には、その入力に従って条件記憶ファイル27(図2)の内容を更新し、測定条件画面33を表示し直す。
【0052】
本実施形態では、温度条件として、
(1)設定温度=25℃、50℃、75℃の3種類
(2)昇温速度=3℃/min
が設定されている。また、湿度条件として90%が設定されている。
【0053】
さらに、X線回折測定条件として、
(1)2θ開始角度=5°
(2)2θ終了角度=40°
(3)走査ステップ角度=0.0200°、走査速度=40°/min
が設定されている。
【0054】
以上の入力の結果、測定条件表示画面32には、温度測定条件が折線グラフTで表示され、湿度測定条件が折線グラフHuで表示され、X線回折測定条件が複数の縦線Xで表示される。これらを見た測定者は、これから行われるX線分析測定の測定条件と熱分析測定の測定条件と湿度条件とを視覚的に関連させて容易に且つ正確に把握できる。そして、測定条件を変更したい場合には、測定条件入力画面31を使って条件を変更することにより、簡単、迅速、且つ正確に新しい測定条件を設定できる。そして、その変更内容を簡単に認識できる。
【0055】
なお、測定条件表示画面32に測定条件入力画面の機能を持たせる場合には、例えば画面上のポインタ表示を時間軸(横軸)上でドラッグ(移動)させることにより、X線回折条件を新たに入力することができる。この場合には、画面上部領域にある測定条件入力画面31内の対応項目の数字が連動して変化する。
【0056】
以上により測定条件が設定された後、測定者によって測定開始の指示があったかどうかがステップS7において判定され、あった場合(ステップS7でYES)には、ステップS8において測定開始の指令を発生する。
【0057】
すると、図1において、温度制御装置16の作用により試料室2の内部領域が図4の温度測定条件Tに従って温度制御され、湿度制御装置17の作用により試料室2の内部領域が湿度測定条件Huに従って湿度制御され、さらに、ゴニオメータ3の作用によりX線回折測定条件がX線測定条件Xに従って制御される。この制御の結果、X線検出器7から回折線強度データI(2θ)が得られ、DSC測定回路14から熱流量データ(DSCデータ)が得られる。
【0058】
得られたこれらのデータはステップS9において図2の測定データ記憶ファイル28へ記憶される。なお、これらのデータは測定開始からの経時時間との関連で記憶される。経時時間は試料の温度変化及び回折角度2θの変化と関連しているので、回折線強度データI(2θ)は回折角度2θの変化及び試料温度変化と関連し、DSC熱量データは試料温度変化と関連している。
【0059】
CPU18は、ステップS10において、測定データが得られる毎に、そのデータを画像表示するための画像データを生成する。そして、測定者によってデータを表示する旨の指示があった場合(ステップS11でYES)には、生成された画像データを図2のディスプレイ23内の画像表示ドライバへ伝送して、ディスプレイ23の画面上に測定データを表示する(ステップS12)。なお、この場合には、図4の測定条件画面33に代えて、並べて、又は重ねて測定データが表示される。
【0060】
図5はそのようにして表示される測定結果のデータ表示の一例を示している。図5に示す測定結果画面34において、左側の部分36はX線分析測定の結果を示しており、右側の部分37はDSC測定の結果を示している。X線測定結果表示36は、横軸に回折角度2θをとり、縦軸に回折線強度Iをとった座標上に複数の回折線プロファイル35を縦方向に沿って互いに間隔をおいて平行に描くことによって作成されている。各回折線プロファイル35は横軸目盛りの2θ=5°(開始角度)から2θ=40°(終了角度)の2θ角度走査領域にわたって横方向へ延びている。
【0061】
DSC測定結果表示37は、横軸に熱量(Heat Flow/mW)、温度(Temperature/℃)、及び湿度(%)のそれぞれをとり、縦軸に経過時間(min)をとった座標上に描かれている。符号38が測定によって得られたDSC曲線であり、符号39が温度変化曲線である。
【0062】
ステップS10〜ステップS12において、画像データは測定データが得られる毎に生成され、さらに画像データは逐次、画像ドライバへ伝送される。そのため、図5の測定結果画面34には、測定データが得られる毎に、すなわちリアルタイムに、回折線プロファイル35、DSC曲線38、そして温度変化曲線39が徐々に描画されて行く。そして、測定終了条件に達した時点(ステップS15でYES)、例えば図4の測定条件表示画面32の最終回のX線回折測定41が終了した時点で、測定終了の指令が発生され、X線回折測定及び熱分析測定が終了する(ステップS16)。こうして、全ての測定が終了すると、測定結果画面34には図6に示すように、測定によって得られた全ての測定データが測定結果画面34上に表示される。
【0063】
なお、測定者がデータの解析、例えばバックグランド軽減処理やピークサーチ処理、を希望する場合(ステップS17でYES)には、得られたデータに対して希望された解析を行い、さらに解析によって得られたデータ、すなわち解析データを図2の解析データ記憶ファイル29へ記憶する(ステップS18)。図3のフローチャートには示されていないが、得られた解析データは測定者からの指示に従って図6と同様の表示形態で表示される。
【0064】
次に、図5及び図6に示した測定結果画面34の性質について簡単に説明する。
図4の測定条件表示画面32において描かれた複数の縦線(X線条件線)Xのうち互いに隣接する2つの縦線Xによって規定される時間内で、図1において2θ角度5°から40°の1回のX線回折測定が行われる。そして、その1回ごとのX線回折測定が連続して繰り返して行われる。これにより、図5又は図6のX線測定結果表示36内で各回折線プロファイル35が縦方向で間隔を空けて互いに平行に描かれる。
【0065】
各回のX線回折測定が繰り返して行われる間、すなわち図6において各回折線プロファイル35が順々に描画されて行く間、試料4の周囲温度は、DSC測定結果表示37の温度変化曲線39のように変化している。従って、温度変化曲線39が垂直(同じ温度を維持する状態)でない場合は、各回のX線回折測定は異なった温度条件の下で行われたことになる。
【0066】
本実施形態では、各回折線プロファイル35と、そのプロファイルが得られたときの温度範囲と、その温度範囲に対応したDSC測定結果との各要素が、互いに関連付けて表示されている。具体的には、各回折線プロファイル35は、その回折線プロファイル35が測定されたときの温度変化曲線39上における試料温度範囲に対してグラフの横軸に沿った方向における横位置に表示されている。
【0067】
より具体的には、DSC測定結果表示37の縦軸(時間軸)上の時刻は、DSC曲線38及び温度変化曲線39の時刻データを示している。そして、各回折線プロファイル35の測定開始時刻、すなわち各回折線プロファイル35の2θ=5°の縦軸上の位置はDSC測定結果表示37の縦軸(時間軸)上の時刻に一致している。
【0068】
仮に、各回折線プロファイル35の2θ=5°〜40°の間の各角度位置を時間軸に正確に一致させることにすると、各回折線プロファイル35は右上がりのプロファイル(すなわち、2θの増加に従って時間経過分だけ上方へ上がるプロファイル)になるはずである。しかしながら、本実施形態の表示方法では、各回折線プロファイル35の左端点(すなわち測定開始点)だけを時間軸上の時刻に一致させ、各回折線プロファイル35のベースラインは横軸(時間軸)と平行に表示している。これにより、X線測定結果表示36が見易くなっている。
【0069】
なお、各回折線プロファイル35においてDSC測定結果表示37の縦軸の時刻と一致させる点は、測定開始点(左端点)に限られず、中央点又は任意の中間点であっても良く、あるいは測定終了点(右端点)であっても良い。
【0070】
以上の説明から明らかなように、DSC測定結果表示37においてDSC曲線38及び温度変化曲線39は縦軸(時間軸)に従っており、X線測定結果表示36において各回折線プロファイル35の縦軸方向の位置もDSC測定結果表示37の縦軸(時間軸)に従っている。従って、各回折線プロファイル35は、とりもなおさず、各プロファイルを右横方向へ水平に延長させたときの温度変化曲線39及びDSC曲線38との交点又は交差領域と対応関係にある。
【0071】
従って、例えば、一番下の回折線プロファイル35aが温度22.0℃〜23.0℃の温度範囲内で作成され、下から2番目の回折線プロファイル35bが温度23.0℃〜24.0℃の温度範囲内で作成されたものであるならば、一番下の回折線プロファイル35aは温度変化曲線39のうちの22.0℃〜23.0℃の部分の横方向に描かれ、下から2番目の回折線プロファイル35bは温度変化曲線39のうちの23.0℃〜24.0℃の部分の横方向に描かれる。
【0072】
以上から理解されるように、X線測定結果表示36において、縦軸に目盛られたX線強度(Intensity)の数値は、それらの数値の横に描かれている個々の回折線プロファイル35の各ピークの強度値を直接的に示しているのではなく、各回折線プロファイル35のピークの高さがX線強度のいくつの大きさに相当するのかを間接的に示している。本実施形態では、個々の回折プロファイル35における個々のピーク強度の厳密な大きさを知ることが重要なのではなく、各回折プロファイル間でのピーク発生位置の違いや、大体のピーク強度の違いが分かれば十分であるので、本実施形態のX線測定結果表示36のような表示の仕方は測定者にとって非常に便宜的である。
【0073】
次に、本実施形態では、測定結果を測定者が正確に把握できるようにするために、測定者が測定結果画面34に対して所定の画面処理を行う旨の指示をした場合(ステップS13でYES)、ステップS14へ進んで所定の画面処理プログラムが実行されるようになっている。具体的には、任意の回折線プロファイル35、例えば図6の矢印Aで示す下から8番目の回折線プロファイル35を測定者がポインタで指示して、さらに入力装置であるマウスのボタンをクリック(選択)すると、その回折線プロファイル35が他の回折線プロファイル35よりも太線(又は異なる色)で表示される。
【0074】
そして、選択された回折線プロファイル35の右横には、その回折線プロファイル35が得られたときの温度範囲が、例えば「108.0−110.2」のように数値表示(矢印B)され、同時に、温度変化曲線39の対応温度範囲部分C及びDSC曲線38の対応DSC部分Dも太線(又は異なる色)で表示される。さらに、もう一度クリックを行うと、選択は解除され、太線は解消されて通常の太さに戻る。
【0075】
また、逆に、温度変化曲線39の一部分C又はDSC曲線38の一部分Dをクリックすると、それらの部分が選択されたものとみなされて太線(又は異なる色)で表示され、同時に、対応する回折線プロファイル35が太線(又は異なる色)で表示される。そしてさらに、その選択表示された回折線プロファイルの右横に温度範囲が数値で表示される。
【0076】
以上のように、回折線プロファイル35と温度変化曲線39とDSC曲線38とが視覚上で関連付けて表示されていることと、対応関係を知りたいと思っている部分をクリック指示することにより、太線表示や数値表示によって各曲線間の対応関係が容易、迅速、明確に認識できることにより、試料4の結晶構造や特性を容易且つ正確に判定できる。
【0077】
従来のX線分析及び熱分析同時分析装置では、測定者が昇温曲線や湿度設定曲線の中で、何本のX線回折測定を行うことができるかを頭の中で想像するしかなく、画面上で確認することができなかった。これに対し、本実施形態では、図4の測定条件画面33上の時間軸上に区切り縦線Xを描き込む機能を追加したことにより、X線回折測定の測定条件とDSC分析測定の測定条件との関連を視覚で認識することが可能となり、装置の使い勝手が格段に向上した。また、電卓を使った計算と頭の中での想像だけに頼っていた従来方法に比べて、迅速且つ正確な測定条件の設定ができるようになった。
【0078】
さらに、本実施形態では、測定前、測定中、又は測定後のいつでも必要に応じて図4の測定条件画面33を測定者の指示に従って画面上に表示するようにしたので、行っている測定についての測定条件を必要なときにいつでも確認できるようになった。
【0079】
(変形例)
上記実施形態では、図4において、複数のX線条件縦線X間の間隔が全て等しく設定されていた。つまり、開始角度5°〜終了角度40°で終了する1回のX線回折測定にかかる時間が、全てのX線回折測定について同じであった。これに代えて、時間軸上で測定者が必要と思う部分ではX線検出器の走査速度を下げてX線回折測定を時間をかけてゆっくりと行ったり、逆に必要と思う他の部分では走査速度を上げて短時間で早く行ったりすることができる。測定時間が長い場合は図4において隣接した縦線Xの間隔が広くなり、測定時間が短い場合は縦線Xの間隔が狭くなる。このように、X線分析測定の測定条件と熱分析測定の測定条件とを視覚的に、容易に、迅速に、且つ正確に設定できる。
【0080】
(X線分析及び熱分析同時分析装置の第2実施形態)
次に、本発明に係るX線分析及び熱分析同時分析装置の他の実施形態を、図7及び図8を用いて説明する。図8は、その実施形態に対応した測定条件画面53を示している。図7はその測定条件画面53を表示させるための制御をフローチャートによって示している。
【0081】
図8に示す測定条件画面53が測定条件入力画面31及び測定条件表示画面32を有することは、図4に示した測定条件画面33と同じである。本実施形態が図4に示した実施形態と異なる点は、(1)本番のX線回折測定及びDSC測定を行う前に予備測定としてのDSC測定を行い、(2)その予備DSC測定によって得られたDSC曲線54を、測定条件表示画面32内において湿度条件線Hu、温度条件線T、及びX線条件線Xの各線に重ねて表示し、そして(3)DSC測定の後に試料4(図1)を新しいものと交換した後に本番の測定を行うようにしたことである。
【0082】
なお、新しい試料と予備測定した試料とは成分が全く同じ試料である。例えば、ある量の物質が試料として与えられた場合には、その物質のうちの一部を予備測定の試料とし、残りを本番測定の試料とする。試料を交換するのは、予備測定の熱分析を行うと、その予備測定に供した試料は変質してしまうからである。
【0083】
なお、予備DSC測定を行うための予備測定手段は、本実施形態では、図2における主制御装置12、DSC測定回路14、温度制御装置16、及び湿度制御装置17によって構成されている。
【0084】
このような表示を実現するため、本実施形態の主制御装置は、図7にフローチャートで示す制御を実行する。このフローチャートが図3に示した先の実施形態におけるフローチャートと異なる点は、図7のステップS6〜S8及びS11である。ステップS6では、DSCの予備測定を行うかどうかがチェックされ、予備測定を行うと判定した場合(ステップS6でYES)には、DSCの予備測定を行う(ステップS7)。そして、さらに、予備測定によって得られたDSCデータを図8の符号54で示すようにDSC曲線として測定条件表示画面32内に表示する。ステップS11では、試料4(図1)が交換されたかどうかをチェックし、交換されていれば(ステップS11でYES)、ステップS12で測定開始の指令を発生する。
【0085】
図7のフローチャートと図3のフローチャートとの間で次の工程は同じである。
【0086】
本実施形態においても、図8に示すように、測定条件画面53の測定条件表示画面32内の時間軸(横軸)上に区切り縦線Xを描き込む機能を追加したことにより、X線回折測定の測定条件(例えば、2θ走査速度)とDSC測定の測定条件(例えば、温度変化)との関係を視覚で認識することが可能となり、装置の使い勝手が格段に向上した。
【0087】
さらに、本実施形態によれば、測定者は、温度変化の測定条件Tに加えてDSC曲線の特性54をも考慮して、X線回折測定の測定条件Xを決めることができる。例えば、予備測定後のDSC曲線54において熱量が大きく変化する位置に対応してX線回折測定回数を希望の回数に決めることができるようになる。これにより、試行錯誤を繰り返すことなく、X線回折測定と熱分析測定との測定条件を短時間で最良の条件に設定できるようになる。
【0088】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、上記実施形態では、X線分析装置としてX線回折装置を例示し、熱分析装置としてDSC装置を例示したが、X線分析装置はX線回折装置に限られず、X線散乱装置、蛍光X線装置等であっても良い。また、熱分析装置は、DSC装置に限られず、DTA装置等であっても良い。
【0089】
図4に示した測定条件の表示例では、湿度変化Hu及び温度変化Tの折線グラフ表示に加えて、X線測定条件を規定する複数の縦線Xを描いたが、これに代えて、図9に示すように、湿度変化Huの表示を止めて、温度変化Tの折線グラフ表示とX線測定条件を規定する複数の縦線Xとだけを描くようにしても良い。
また、図4では湿度Huを一定に保持し、温度Tを段階的に変化させたが、これに代えて、図10に示すように、温度Tを一定に保持し、湿度Huを段階的に変化させるようにしても良い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料にX線を照射したときに該試料から出るX線をX線検出手段によって検出するX線分析装置と、
試料の周囲の温度を変化させたときに該試料に発生する特性変化を検出する熱分析装置と、
前記X線分析装置による測定と前記熱分析装置による測定とが同時に行われるように制御する測定制御手段と、
X線分析測定のための測定条件を記憶するX線条件記憶手段と、
熱分析測定のための測定条件を記憶する熱条件記憶手段と、
画像信号に従って画面上に画像を表示する画像表示装置と、
X線条件記憶手段に記憶されたX線分析測定条件及び熱条件記憶手段に記憶された熱分析測定条件の両方をグラフとして前記画像表示装置の画面上に表示させる測定条件表示手段と、を有し、
該測定条件表示手段は、前記の測定が行われていない間及び前記の測定が行われている間の少なくとも一方の時間内の任意の時間に、前記グラフの表示を行う
ことを特徴とするX線分析及び熱分析同時分析装置。
【請求項2】
前記熱分析測定条件は温度変化を含み、
前記X線分析測定条件は、試料から出るX線を検出するためのX線検出手段による測定開始角度から測定終了角度までの角度走査移動時間を含み、
前記測定条件表示手段は、縦軸及び横軸の一方に時間をとり、他方に温度をとった座標上に、前記温度変化を折線グラフによって表示し、前記角度走査移動時間の開始と終了とのそれぞれを示す線を時間軸上に表示する
ことを特徴とする請求項1記載のX線分析及び熱分析同時分析装置。
【請求項3】
試料の周囲の湿度を変化させる湿度変化手段をさらに有し、
前記測定条件表示手段は、前記湿度の変化をグラフとして前記X線分析測定条件及び前記熱分析測定条件に重ねて表示する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のX線分析及び熱分析同時分析装置。
【請求項4】
前記測定条件表示手段は、前記湿度変化を折線グラフによって表示する
ことを特徴とする請求項3記載のX線分析及び熱分析同時分析装置。
【請求項5】
前記熱分析装置を用いて熱分析の予備測定を行う予備測定手段をさらに有し、
前記測定条件表示手段は、前記予備測定の結果をグラフとして表示する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載のX線分析及び熱分析同時分析装置。
【請求項6】
前記測定条件表示手段は、前記X線分析測定条件及び前記熱分析測定条件のグラフ表示に加えて、前記X線分析測定条件及び前記熱分析測定条件を入力するための入力画面表示を行う
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1つに記載のX線分析及び熱分析同時分析装置。
【請求項7】
前記X線分析装置による測定データ及び前記熱分析装置による測定データを前記画像表示装置の画面上に表示させる測定データ表示手段をさらに有し、
該測定データ表示手段は得られた両測定データを逐次に前記画像表示装置へ伝送することにより、
前記X線分析装置及び前記熱分析装置から測定データが得られる毎に該測定データを逐次に画像として表示する
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1つに記載のX線分析及び熱分析同時分析装置。
【請求項1】
試料にX線を照射したときに該試料から出るX線をX線検出手段によって検出するX線分析装置と、
試料の周囲の温度を変化させたときに該試料に発生する特性変化を検出する熱分析装置と、
前記X線分析装置による測定と前記熱分析装置による測定とが同時に行われるように制御する測定制御手段と、
X線分析測定のための測定条件を記憶するX線条件記憶手段と、
熱分析測定のための測定条件を記憶する熱条件記憶手段と、
画像信号に従って画面上に画像を表示する画像表示装置と、
X線条件記憶手段に記憶されたX線分析測定条件及び熱条件記憶手段に記憶された熱分析測定条件の両方をグラフとして前記画像表示装置の画面上に表示させる測定条件表示手段と、を有し、
該測定条件表示手段は、前記の測定が行われていない間及び前記の測定が行われている間の少なくとも一方の時間内の任意の時間に、前記グラフの表示を行う
ことを特徴とするX線分析及び熱分析同時分析装置。
【請求項2】
前記熱分析測定条件は温度変化を含み、
前記X線分析測定条件は、試料から出るX線を検出するためのX線検出手段による測定開始角度から測定終了角度までの角度走査移動時間を含み、
前記測定条件表示手段は、縦軸及び横軸の一方に時間をとり、他方に温度をとった座標上に、前記温度変化を折線グラフによって表示し、前記角度走査移動時間の開始と終了とのそれぞれを示す線を時間軸上に表示する
ことを特徴とする請求項1記載のX線分析及び熱分析同時分析装置。
【請求項3】
試料の周囲の湿度を変化させる湿度変化手段をさらに有し、
前記測定条件表示手段は、前記湿度の変化をグラフとして前記X線分析測定条件及び前記熱分析測定条件に重ねて表示する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のX線分析及び熱分析同時分析装置。
【請求項4】
前記測定条件表示手段は、前記湿度変化を折線グラフによって表示する
ことを特徴とする請求項3記載のX線分析及び熱分析同時分析装置。
【請求項5】
前記熱分析装置を用いて熱分析の予備測定を行う予備測定手段をさらに有し、
前記測定条件表示手段は、前記予備測定の結果をグラフとして表示する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載のX線分析及び熱分析同時分析装置。
【請求項6】
前記測定条件表示手段は、前記X線分析測定条件及び前記熱分析測定条件のグラフ表示に加えて、前記X線分析測定条件及び前記熱分析測定条件を入力するための入力画面表示を行う
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1つに記載のX線分析及び熱分析同時分析装置。
【請求項7】
前記X線分析装置による測定データ及び前記熱分析装置による測定データを前記画像表示装置の画面上に表示させる測定データ表示手段をさらに有し、
該測定データ表示手段は得られた両測定データを逐次に前記画像表示装置へ伝送することにより、
前記X線分析装置及び前記熱分析装置から測定データが得られる毎に該測定データを逐次に画像として表示する
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1つに記載のX線分析及び熱分析同時分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−169573(P2010−169573A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13141(P2009−13141)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】
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