説明

X線分析装置

【課題】X線検出器を冷却するペルチエ素子の放熱面からの放熱の異常を、大きなコスト増加をもたらすことなく検知する。
【解決手段】温度制御が開始されてから時間t1が経過した時点において、ペルチエ素子への印加電圧とペルチエ素子の駆動電流との関係からペルチエ素子の異常を検知する(S1〜S8)。その後、時間t2が経過した時点で、t1→t2までの期間中の温度低下量(温度差)ΔTを求め、ΔTから冷却速度Θを計算する(S9〜S12)。そして、冷却速度Θが最高使用温度条件の下で予め求めておいた閾値Θ1未満であれば(S13でNo)、放熱の異常であると判断して異常報知を行う(S15)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線分析装置に関し、さらに詳しくは、X線検出器の冷却にペルチエ素子を用いたX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析装置等のX線分析装置ではリチウムドリフト型シリコン半導体検出器などのX線検出器が利用されているが、こうした種類のX線検出器は性能上の理由から一定温度に冷却して使用する必要がある。X線検出器の冷却方法として、ペルチエ素子と温度センサとを用い、温度センサによる検出温度が目標温度となるようにペルチエ素子に供給する駆動電力を制御する方法が従来知られている(例えば特許文献1など参照)。
【0003】
ペルチエ素子は加熱・冷却の両方に利用可能な素子であるが、冷却に使用する際には冷却面の反対側の面から放熱を行う必要がある。この放熱の方式には、大別して、ファンにより生起した空気流を放熱面に接続した放熱フィンに当てて冷却を促す空冷方式と、ファンにより生起した空気流でもって冷却した熱媒体(冷媒)を循環させる冷媒方式とがある。いずれにしても、放熱のための構成のどこかに故障が発生したり放熱が十分に行えない環境に陥ったりすると、X線検出器を冷却することができなくなり、適切な分析が行えなくなる。そのため、ペルチエ素子を利用した冷却を行う場合には、放熱の異常を検知する必要がある。
【0004】
空冷方式、冷媒方式のいずれでも、冷却用のファンに回転検出センサを設けることで、ファン自体の故障による放熱異常を検知することが可能である。しかしながら、こうした方法では、例えば、X線分析装置の送風口からの空気の流通が十分に行えないような状態に当該装置が設置されたり、或いは、送風口が障害物で塞がれてしまったりした結果、放熱異常が起こっても、これを検知することができない。また、冷媒方式では、通常、冷媒の循環にポンプが使用されるが、そのポンプの不具合、冷媒漏れ、気泡混入による送液の不具合といった原因による放熱の異常も検知することができない。
【0005】
ペルチエ素子を冷却に使用する場合の放熱異常を検知する方法としては、特許文献2に記載の方法も知られている。これは、ペルチエ素子の吸熱側(つまり冷却側)と放熱側とにそれぞれ温度センサを設け、その2つの温度センサによる検出温度の差を利用して放熱異常を検知するものである。しかしながら、この方法の場合、温度制御用に設けられている冷却側の温度センサのほかに、放熱側にも温度センサを追加する必要があるため、装置のコストアップ要因となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−175657号公報
【特許文献2】特開2004−150777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、X線分析装置において、温度センサなどのハードウエアを追加することなく、X線検出器を冷却するペルチエ素子の放熱の異常を確実に検知できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明は、X線検出器と、該X線検出器を冷却するためのペルチエ素子と、該ペルチエ素子の吸熱側に配設された温度検出手段と、を具備し、該温度検出手段による検出温度に基づいて前記ペルチエ素子に供給する電流を制御して前記X線検出器を電子冷却するX線分析装置において、
所定電流を前記ペルチエ素子に供給している状態で、前記温度検出手段を利用して、所定時間に対する温度変化量又は所定の温度変化に要する時間のいずれかを求め、その温度変化量又は時間に基づいて前記ペルチエ素子の放熱異常の有無を判断する異常検知手段、を備えることを特徴としている。
【0009】
ペルチエ素子により電子冷却を行う場合、該素子の放熱側からの熱の放散がうまく行われないと、吸熱つまり冷却も滞る。したがって、所定時間に対する温度変化量が或る閾値よりも小さい場合、或いは、所定の温度変化に要する時間が或る閾値よりも長い場合に、放熱に異常があると推測できる。また所定時間とこの所定時間に対する温度変化量とから冷却速度を求めることができるから、この冷却速度が或る閾値よりも小さい場合にも、放熱に異常があると推測できる。
【0010】
但し、冷却速度は周囲温度が高い場合にも下がるから、周囲温度が高い場合の冷却速度の低下を放熱異常であると誤判断しないようにする必要がある。そこで、本発明に係るX線分析装置の好ましい一態様として、前記異常検知手段は、使用最高温度の条件の下における前記ペルチエ素子の冷却速度を考慮した放熱異常の有無を判断する基準を有する構成とするとよい。
【0011】
一般に、X線分析装置には常識的な使用温度範囲(例えば10〜35℃など)が規定されており、その上限温度から使用最高温度を想定することができる。この使用最高温度のときに冷却速度は最も遅くなるから、それに応じた温度変化量、時間、又は冷却速度を上記閾値として定めておけばよい。これにより、周囲温度が高く放熱が比較的行われにくい状況と放熱異常とを区別することができる。
【0012】
なお、当然のことながら、ペルチエ素子自体に不具合があって冷却がうまく行われない場合もあるから、放熱異常の検知の前にペルチエ素子が正常であることを確認しておくことが好ましい。そこで、本発明に係るX線分析装置において、前記異常検知手段は、放熱異常を検知するに先立って、前記ペルチエ素子に印加する電圧と流れる電流との関係から該ペルチエ素子自体の異常の有無を判断するようにするとよい。
【0013】
ペルチエ素子の主な異常としては、熱サイクル疲労、水分の侵入による腐食などが考えられるが、いずれにしても最終的には内部抵抗が増大し、印加電圧を上げても電流が流れにくくなる。したがって、例えば或る所定の電圧をペルチエ素子に印加した状態で流れる電流を監視し、この電流値が所定の閾値よりも低い場合にペルチエ素子の異常であると判断することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るX線分析装置によれば、温度制御のために通常設置されている温度センサを利用し、それ以外に別途温度センサを追加することなく、X線検出器を冷却するペルチエ素子の放熱異常を検知することができる。したがって、放熱異常検知の機能を追加するためのコスト増加を抑えることができる。また、送風ファンの回転異常のみならず、例えば送風口が塞がれている、或いは、冷媒方式で冷媒の送給に不具合がある、といった原因による放熱異常も検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例であるX線分析装置におけるX線検出器ユニットの概略図。
【図2】本実施例のX線分析装置におけるX線検出器ユニットの要部の制御ブロック図。
【図3】本実施例のX線分析装置におけるX線検出器ユニットの異常検知に関する制御フローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施例であるX線分析装置について、図1〜図3を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は本実施例によるX線分析装置におけるX線検出器ユニットの概略図であり、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は上面図である。また、図2はX線検出器ユニットの要部の制御ブロック図である。
【0018】
図1において、ペルチエ素子11の上面(吸熱面)には例えば熱伝導性の良好な金属ブロック等である冷却側伝熱部材12が装着され、リチウムドリフト型シリコン半導体検出器などのX線検出器10がその冷却側伝熱部材12に接触して設けられている。一方、ペルチエ素子11の下面(放熱面)には冷却側伝熱部材12と同様の部材である放熱側伝熱部材13が装着され、放熱側伝熱部材13は多数の放熱フィンを有する放熱体15に接続されている。X線検出器10、冷却側伝熱部材12、ペルチエ素子11、及び放熱側伝熱部材13の一部は、金属製のケース14に収容されている。このケース14の内部には、X線検出器10の保護及び断熱を目的として乾燥ガスを封入しておく。或いは、ケース14の内部を減圧したり真空雰囲気に維持したりしてもよい。冷却側伝熱部材12には温度センサ17が埋設されている。また、放熱体15の測方には放熱用の空気流を生起するための送風ファン16が設置されている。
【0019】
図2に示すように、ペルチエ素子11には駆動部26から電圧が印加され、それによりペルチエ素子11に駆動電流が供給される。電流検出部27はこの駆動電流の電流値を検出するものであり、その検出信号は制御部20に入力される。冷却側伝熱部材12に埋設された温度センサ17による検出信号も同様に制御部20に入力される。制御部20はCPU、ROM、RAMなどを含むマイクロコンピュータを中心に構成されており、ROMに予め格納されたプログラムをCPUで実行することにより、自己診断部21、駆動電流制御部22、素子異常検知部23、放熱異常検知部24などが機能ブロックとして具現化される。また、報知部25は制御部20からの指示により、表示や音などによりユーザに対し異常を報知するものである。
【0020】
制御部20において、自己診断部21は例えば起動時に制御部20の内部動作をチェックする。駆動電流制御部22は主として、温度センサ17からの検出温度が所定の目標温度になるように、ペルチエ素子11に流す電流を調整するべく駆動部26を制御する。素子異常検知部23は電流検出部27により検出される電流値を利用して、ペルチエ素子11自体の故障等の不具合を検知する。そして、放熱異常検知部24は温度センサ17からの検出温度を用いて、放熱体15を介してのペルチエ素子11の発熱の放散の異常を検知する。
【0021】
次に本実施例のX線分析装置の特徴であるX線検出器ユニットの異常検知の制御・処理動作を説明する。図3はX線検出器ユニットの異常検知に関する制御フローチャートである。
【0022】
制御部20に通電が行われると、自己診断部21が所定のプログラムに従って自己診断を実行する。その後、温度制御が開始されると、駆動電流制御部22はまず最大の冷却速度でX線検出器10を冷却するように最大の駆動電流をペルチエ素子11に供給するべく駆動部26を制御する(ステップS1)。温度制御開始時点からの経過時間が所定の時間t1に達すると(ステップS2でYes)、放熱異常検知部24が温度センサ17によりその時点における吸熱側温度T1を検出して内部メモリに記憶する(ステップS3)。
【0023】
それから、素子異常検知部23がペルチエ素子異常検知処理を実行する(ステップS4)。即ち、電流検出部27によりペルチエ素子11に供給される駆動電流値Iを検出し(ステップS5)、その電流値Iが所定の印加電圧値における規定の閾値I1以上であるか否かを判定する(ステップS6)。このとき上述のように最大速度で冷却を行うために、冷却に問題がない状態であればI>I1となるようペルチエ素子11の駆動制御が実行される。温度制御開始から間もない経過時間t=t1においてペルチエ素子11の内部抵抗が増加した状態にある場合、所定の駆動電圧をペルチエ素子11に印加しても電流は流れにくい。そこで、検出された電流値Iが閾値I1未満である場合には、ペルチエ素子11が異常であると判断し、報知部25により異常を報知する(ステップS8)。一方、電流値Iが閾値I1以上であれば、ペルチエ素子11は正常であると判断する(ステップS7)。
【0024】
次に、t=t1からさらに一定時間が経過したt=t2になるまで待ち(ステップS9)、t=t2になると、放熱異常検知部24が放熱異常検知処理を実行する(ステップS10)。即ち、温度センサ17によりその時点での吸熱側温度T2を検出し(ステップS11)、先に内部メモリに記憶しておいた温度T1との温度差ΔT=T1−T2を計算する。この温度差ΔTはt2−t1の時間Δtに生じたものであるから、ΔT/Δtによりこの間の冷却速度Θを計算する(ステップS12)。ペルチエ素子11では放熱面での放熱がうまく行われないと、冷却面での吸熱もうまく行われない。そのため、何らかの原因で放熱体15を介しての放熱に異常がある場合には、冷却速度が遅くなったり、最悪の場合、冷却ができなくなったりする。
【0025】
そこで、放熱異常検知部24は冷却速度Θが予め決めた閾値Θ1以上であるか否かを判定し(ステップS13)、冷却速度Θが閾値Θ1以上であれば放熱が正常であると判断する(ステップS14)。これに対し、冷却速度Θが閾値Θ1に達しない場合には放熱が異常であると判断して報知部25により放熱異常を報知する(ステップS15)。
【0026】
冷却速度は周囲温度の影響も受ける。即ち、周囲温度(室温)が上昇すると吸熱量が減少して、放熱に異常がなくても冷却速度が低下する。こうした原因による冷却速度の低下を放熱異常であると誤って認識することがないように、上記閾値Θ1を、想定される使用最高温度Tmaxの下での冷却速度に定めておくとよい。例えば、装置の公称の使用上限温度を35℃にした場合に、それよりも5℃高い40℃を使用最高温度Tmaxとすることができる。この使用最高温度Tmaxの下での冷却速度を実験的に求めておき、これを閾値Θ1に設定しておくようにするとよい。
【0027】
なお、ペルチエ素子11の異常や放熱の異常が生じた場合、X線検出器10は十分な性能を発揮できない(特に雑音が増大する)ものの、検出器10が故障する訳ではない。そこで上記実施例では、異常が検知した場合でも異常の報知のみを実行しているが、異常が検知された場合に測定を中断するようにしてもよい。
【0028】
また、上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0029】
10…X線検出器
11…ペルチエ素子
12…冷却側伝熱部材
13…放熱側伝熱部材
14…ケース
15…放熱体
16…送風ファン
17…温度センサ
20…制御部
21…自己診断部
22…駆動電流制御部
23…素子異常検知部
24…放熱異常検知部
25…報知部
26…駆動部
27…電流検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線検出器と、該X線検出器を冷却するためのペルチエ素子と、該ペルチエ素子の吸熱側に配設された温度検出手段と、を具備し、該温度検出手段による検出温度に基づいて前記ペルチエ素子に供給する電流を制御して前記X線検出器を電子冷却するX線分析装置において、
所定電流を前記ペルチエ素子に供給している状態で、前記温度検出手段を利用して、所定時間に対する温度変化量又は所定の温度変化に要する時間のいずれかを求め、その温度変化量又は時間に基づいて前記ペルチエ素子の放熱異常の有無を判断する異常検知手段、を備えることを特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線分析装置であって、
前記異常検知手段は、使用最高温度の条件の下における前記ペルチエ素子の冷却速度を考慮した放熱異常の有無を判断する基準を有することを特徴とするX線分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のX線分析装置であって、
前記異常検知手段は、放熱異常を検知するに先立って、前記ペルチエ素子に印加する電圧と流れる電流との関係から該ペルチエ素子自体の異常の有無を判断することを特徴とするX線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−175404(P2010−175404A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18701(P2009−18701)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】