説明

X線回折装置及びX線回折測定方法

【課題】X線トポグラフを求めるX線回折装置においてX線トポグラフの平面領域内の位置を明確に特定できるようにする。光学顕微鏡、イメージングデバイス等によって捕えることができない光学的に透明な物質を可視化して測定対象とする。
【解決手段】試料18の平面領域から出たX線を空間的に1対1の幾何学的対応をつけて平面的なX線トポグラフとして検出し、当該X線トポグラフを信号として出力するX線トポグラフィ装置4,22と、試料18の平面領域の光像を受光してその光像を平面位置情報によって特定された信号として出力する2次元イメージングデバイス6と、X線トポグラフの出力信号とイメージングデバイス6の出力信号とに基づいて合成画像データを生成する画像合成用の演算制御装置とを有するX線回折装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線トポグラフィに基づいたX線回折装置及びX線回折測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回折測定方法の1つとしてX線トポグラフィ(Topography)が知られている。このX線トポグラフィは、試料の広い範囲をX線で照射し、その試料から出る回折線をX線検出器によって平面的(すなわち2次元的)に検出するようにした測定方法である。具体的には、X線トポグラフィは、試料の平面領域から出た回折線を空間的に1対1の幾何学的対応をつけて平面的なX線回折像として捉える方法である。この平面的なX線回折像はX線トポグラフ(Topograph)と呼ばれている。
【0003】
このX線トポグラフに表れた形状的な特徴は、一般に、物体の構造的な特徴を表している。例えば、単結晶中の格子欠陥や格子歪はX線トポグラフにおけるX線の強度変化として表れる。このため、X線トポグラフを得るための測定方法であるX線トポグラフィは、現在、半導体装置のSi(シリコン)基板のような単結晶材料に関する結晶の完全性評価法として広く用いられている。
【0004】
他方、試料の微細な領域を微細径のX線で照射して、その微細領域に関しての各種の測定を行うX線回折測定方法が知られている。例えば、定性分析法、ロッキングカーブ測定法、反射率測定法、逆格子マップ測定法、インプレーン測定法等がこの測定方法に含まれる。
【0005】
従来、X線トポグラフィとロッキングカーブ測定とを同一のX線測定装置を用いて行うことにした単結晶の結晶性評価方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この評価方法によれば、X線トポグラフィによって求められたX線トポグラフによって結晶欠陥を探索し、探索された欠陥の近傍のみに対してロッキングカーブ測定を行って、結晶欠陥を定量的に測定する。この評価方法によれば、試料の広い範囲に関してロッキングカーブ測定を行う場合に比べて、ロッキングカーブ測定の測定時間が著しく短縮化される。
【0006】
また、従来、1つのX線回折測定装置における適宜の光学要素を位置的に切り換えることにより、ラング法、セクショントポグラフィ、表面反射トポグラフィ、結晶モノクロメータ付き反射トポグラフィ等といったX線トポグラフィと、回折X線強度の絶対値計測、ロッキングカーブ測定、アナライザ結晶を設定した回折プロファイル等といった測定領域を限定して行われるX線回折測定とを選択的に行うことにしたX線単結晶評価装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−145641号公報(第6〜9頁、図3)
【特許文献2】特開2006−284210号公報(第6〜12頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された装置によれば、X線トポグラフィによって単結晶の結晶欠陥部分を探索し、探索したその部分についてだけロッキングカーブ測定を行うことが示唆されている。しかしながら、ロッキングカーブ測定を行う部分は、平面画像であるX線トポグラフ内の座標位置として明確に特定されるわけではなく、ピンホールコリメータを通過したX線をX線トポグラフィ上に2重露光して位置の確認をする等といった、煩雑で時間がかかり、しかも不確実である方法で位置が規定されるだけであった。このため、X線トポグラフによって求めた結晶欠陥部分をロッキングカーブ測定における測定対象部分として設定する作業は長時間を要する非常に難しい作業であった。
【0009】
特許文献2に開示された装置においては、構成要素を切り換えたり、配設位置を変化させたりすることにより、X線トポグラフィを行うための装置(すなわちX線トポグラフィ装置)と、その他のX線測定装置とのいずれか一方を希望に応じて選択的に構築するという技術が開示されている。しかしながら、X線トポグラフによって観察できる結晶欠陥の平面内での位置を座標等によって明確に特定するという技術思想には触れられていない。
【0010】
ところで、半導体装置のSi基板等に関して欠陥を探索する方法として、顕微鏡法を用いた方法が知られている。具体的には、数μm程度の格子欠陥であれば反射光学顕微鏡によって基板内の所定範囲をカメラ撮影し、その撮影像を目視観察して結晶欠陥を探し出し、その欠陥の平面内での位置を座標等によって特定するというものである。
【0011】
しかしながら、この反射光学顕微鏡を用いた方法は、測定対象が光学的に不透明な物質に対しては有効であるが、光学的に透明な物質に対しては適用できないという問題を有している。例えば、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)の基板として用いられる透明なサファイア(AL)基板に関しては反射光学顕微鏡を用いた評価方法を適用できなかった。
【0012】
本発明は、従来装置における上記の問題点に鑑みて成されたものであって、試料に関するX線トポグラフを測定によって求めるX線回折装置において、X線トポグラフの平面領域内の位置を明確に特定できるようにすることを目的とする。
また、本発明は、光学的に透明な物質、すなわち反射光学顕微鏡によって捕えることができない物質に関しても、その物質の平面領域内の位置を特定できるX線回折装置を提供することを他の目的とする。
さらに、本発明は、透明な物質の平面領域内の任意の位置を特定してX線測定を行うことができるX線回折測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るX線回折装置は、(1)試料の平面領域から出たX線を空間的に1対1の幾何学的対応をつけて平面的なX線トポグラフとして検出し、当該X線トポグラフを信号として出力するX線トポグラフィ手段と、(2)前記試料の平面領域の光像を受光して当該光像を平面位置情報によって特定された信号として出力する光学撮像手段と、(3)前記X線トポグラフの出力信号と前記光学撮像手段の出力信号とに基づいて合成画像データを生成する画像合成手段とを有することを特徴とする。
【0014】
上記構成において、光学撮像手段は、例えば、半導体イメージングセンサを用いたイメージングデバイスや、光学顕微鏡等である。
【0015】
本発明によれば、光学撮像手段では可視化できない透明な試料をX線トポグラフィ手段によって可視化でき、測定対象とすることができる。しかも、可視化された試料の平面領域内の任意の位置を画像合成手段によって明確に特定できる。特定された位置情報は、引き続いて試料に対して行われる各種のX線測定のためのデータとして活用できる。
【0016】
従来のX線回折装置では、X線トポグラフ内の関心領域を選んでX線測定を行おうとする場合には、X線の試料への入射位置を試行錯誤によって関心領域に合わせなければならなかった。これに対し、本発明によれば、X線トポグラフ内の関心領域を画像合成手段によって短時間で明確に特定できるので、引き続いて行われるX線測定を迅速且つ正確に行うことができる。
【0017】
上記構成において、X線トポグラフィ手段は、試料の2次元画像を得ることができる構成であれば、どのような装置であっても良い。例えば、図4(a)〜図4(d)に示す各種の装置を使用できる。図4(a)に示す装置は、発散連続X線法に従ったX線トポグラフィ装置であり、点状焦点51から発散してくる連続X線を試料52に当てて2次元X線検出器53によってX線トポグラフを撮像する。
【0018】
図4(b)に示す装置は、1結晶法の反射配置であるベルクバレット法に従ったX線トポグラフィ装置である。この装置は、線状焦点54から発生してくる単色X線を試料52に当てて2次元X線検出器53によってX線トポグラフを撮像する。
【0019】
図4(c)に示す装置は、1結晶法の透過配置であるラング法に従ったX線トポグラフィ装置である。この装置は、点状焦点51から発散してくる単色X線を短冊状スリット、すなわち縦方向(すなわち上下方向)に長いスリットを通すことで線形に変形させて試料52に当てて2次元X線検出器53によってX線トポグラフを撮像する。試料52とX線検出器53は矢印Bのように一緒になって平行移動する。
【0020】
図4(d)に示す装置は、2結晶法に基づいたX線トポグラフィ装置であり、線状焦点54から発散してくる単色X線を第1結晶55で非対称反射させた後、第2結晶である試料53に当てて2次元X線検出器53によってX線トポグラフを撮像する。
【0021】
なお、上記の各装置において、X線検出器は、試料の2次元画像を得ることができるものであれば、2次元X線検出器に限られず、1次元X線検出器であってもよく、0(ゼロ)次元X線検出器であっても良い。
【0022】
本発明に係るX線回折装置において、前記画像合成手段は、前記試料に関して設定された基準位置に基づいて前記合成画像データを生成することができる。この構成により、X線トポグラフと試料光像との会わせ込みを正確に行うことができる。
【0023】
前記基準位置は、前記試料の端辺又は前記試料に設けられたマークとすることができる。試料が透明物質である場合、光学顕微鏡等といった光学撮像手段は試料内部の構造を視認することができないが、試料の外周端辺は視認することが可能であるので、この端辺を画像合わせ処理の基準とすることができる。
【0024】
本発明に係るX線回折装置において、前記光学撮像手段は、複数の半導体X線受光素子を平面状又は線状に並べて成る半導体イメージセンサを有する構成とすることができる。X線受光素子は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)であり、あるいは、X線を受けて直接に電気信号を出力する要素である、いわゆるフォトンカウンティング素子である。光学撮像手段は試料の全体の光像を撮影するものであることが望ましい、この意味から半導体イメージセンサは好適である。
【0025】
本発明に係るX線回折装置において、前記試料は光学的に透明な単結晶物質であることが望ましい。イメージングデバイス等といった光学撮像手段は透明な物質を観察対象とすることができないが、本発明のX線回折装置は透明な物質をX線トポグラフとして可視化するので透明な物質をも観察対象とすることができる。しかも、画像合成手段によってその物質の平面領域内の各位置を平面座標等といった位置情報によって特定できる。
【0026】
本発明に係るX線回折装置は、(1)前記X線トポグラフィ手段において前記試料にX線が照射される領域よりも狭い領域で前記試料にX線を照射して、そのときに当該試料から出るX線を検出するX線測定系と、(2)前記試料を平行移動させる試料移動手段と、をさらに有することができる。
【0027】
この構成により、例えば、X線トポグラフを観察して格子欠陥等といった関心領域を特定した場合に、その関心領域をX線照射領域へ移動させて詳しいX線測定を行うことが可能となる。
【0028】
そのようなX線測定系は、例えば、X線粉末回折装置、ロッキングカーブ測定装置、反射率測定装置、逆格子マップ測定装置、及びインプレーン測定装置の少なくとも1つである。
【0029】
本発明に係るX線回折装置において、前記X線トポグラフィ手段と前記X線測定系とでX線源は共通であることが望ましい。こうすれば、それぞれの測定を行う際に試料を移動させなければならないという事態を回避でき、コストを低減でき、装置の設置スペースを節約でき、X線源に関する制御を簡単に行うことが可能となる。
【0030】
本発明に係るX線回折測定方法は、以上に記載した構成のX線回折装置を用いて測定を行うX線回折測定方法であって、(1)前記X線トポグラフィ手段の出力結果に基づいて結晶欠陥を求め、(2)前記画像合成手段により求められた前記合成画像データに基づいて、前記結晶欠陥の位置を前記平面位置情報によって特定し、(3)特定した平面位置情報に基づいて前記試料移動手段によって前記試料を移動させて前記結晶欠陥を前記X線測定系におけるX線照射位置へ移動させ、(4)当該X線測定系によって測定を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明のX線回折装置によれば、光学顕微鏡等といった光学撮像手段では可視化できない透明な試料をX線トポグラフィ手段によって可視化でき、測定対象とすることができる。しかも、可視化された試料の平面領域内の任意の位置を画像合成手段によって明確に特定できる。特定された位置情報は、引き続いて試料に対して行われる各種のX線測定のためのデータとして活用できる。
【0032】
従来のX線回折装置では、X線トポグラフ内の関心領域を設定してX線測定を行おうとする場合には、X線の試料への入射位置を試行錯誤によって関心領域に合わせなければならなかった。これに対し、本発明によれば、X線トポグラフ内の関心領域を画像合成手段によって短時間で明確に位置検知できるので、引き続いて行われるX線測定を迅速且つ正確に行うことができる。
【0033】
本発明のX線回折測定方法によれば、透明な物質をX線トポグラフによって可視化でき、しかもそのX線トポグラフの平面領域内の任意の関心位置を座標等によって明確に設定した上でX線測定を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係るX線回折装置の一実施形態を示す図である。
【図2】図1のX線回折装置の制御部の一例を示すブロック図である。
【図3】図2の制御部によって行われる画像処理を説明するための図である。
【図4】本発明に係るX線回折装置に用いることができるX線トポグラフィ手段の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係るX線回折装置及びX線回折測定方法を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、これ以降の説明では図面を参照するが、その図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0036】
図1は、本発明に係るX線回折装置の一実施形態の機構部分を示している。図2は本実施形態の電気制御部を示している。図1において、X線回折装置1は、X線管2、試料台3、第1X線検出器4、第2X線検出器5、光学撮像手段としての2次元イメージングデバイス6を有している。図2において、X線回折装置1は制御装置10を有している。制御装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、そしてメモリ14の各要素をバス15によってつないで成るコンピュータによって構成されている。バス15はプログラムバス及びデータバスを含んでいる。
【0037】
図1の試料台3は測定対象である試料18を載せる台である。本実施形態では試料台3は、試料18を載せる面が水平面である台である。試料台3に代えて、試料18を支持する支持部材が用いられることもある。試料台3には平行移動装置19が付設されている。平行移動装置19は、試料台3をXY平面内で任意の距離だけ平行移動させる。つまり、試料台3は平面内を平行移動するXYステージとなっている。平行移動装置19は、図2において入出力インターフェース16を介して制御装置10に接続されている。
【0038】
なお、図1のX方向は、図1の紙面を貫通する方向であり、Y方向は図1の左右方向(すなわちX方向に直交する方向)であり、XY平面はX方向を示す線及びY方向を示す線の両方を含む面である。XY平面は、図1の紙面に直交する面であり、本実施形態では水平面である。
【0039】
X方向及びY方向の両方に直交する方向をZ方向とすれば、本実施形態の場合、Z方向は図1の紙面と平行の方向であり、垂直方向である。X線回折装置1は、必要に応じて、試料台3をZ方向へ平行移動させる装置を、さらに有することができる。
【0040】
試料18は、本実施形態の場合、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)基板として用いられるサファイア基板である。サファイア基板は透明な単結晶基板である。LED基板に結晶欠陥が有るか無いかによってLEDの電気的特性が大きく左右されるので、結晶欠陥の有無をチェックすることは重要なことである。この結晶欠陥の検査方法については後述する。
【0041】
第1X線検出器4は半導体イメージセンサによって形成されている。具体的には、第1X線検出器4は、複数のX線受光用半導体ピクセル(画素)をXY平面内に2次元的(すなわち平面的)に並べて成る2次元ピクセル型X線検出器によって構成されている。ピクセルの数は例えば縦×横=512×512である。半導体ピクセルは、CCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)でも良く、あるいは、X線を受けて直接に電気信号を出力する要素である、いわゆるフォトンカウンティング素子であっても良い。
【0042】
第1X線検出器4は、イメージングプレート(IP)とすることもできる。IPは、X線が照射されたところにエネルギを蓄積する性質を有したプレート、すなわち板状物質である。第1X線検出器4は試料台3の試料載置面に対して略平行になるように設けられている。第1X線検出器4の出力端子は、図2において入出力インターフェース16を介して制御装置10に接続されている。
【0043】
図1において、第1X線検出器4には第1検出器移動装置21が付設されている。第1検出器移動装置21は、第1X線検出器4を矢印Aで示すように、試料台3の試料載置面と略平行に移動させる。この平行移動は、第1X線検出器4が試料18から角度αで出るX線を受光できるようにするためのものである。第1検出器移動装置21は、例えばボールネジ等といったネジ軸を含んだ平行移動機構を用いて構成できる。第1検出器移動装置21は、図2において入出力インターフェース16を介して制御装置10に接続されている。
【0044】
図1においてX線管2は、X線源であるX線焦点22を有している。X線管2の内部には陰極(図示せず)及び対陰極(図示せず)が配置され、陰極から放出された電子が対陰極の表面に衝突する領域がX線焦点22であり、このX線焦点22からX線が放射される。本実施形態では図4(a)に示す発散連続X線法に従ったX線トポグラフィ装置を用いるものとし、X線焦点22から点状焦点の連続X線が取り出され、そのX線が試料18に平面的に照射される。このときに試料18から平面的に発生するX線が第1X線検出器4によって受光されて、例えば図3(b)に模式的に例示するような平面的なX線回折像23、すなわちX線トポグラフが得られる。つまり、本実施形態では、図1のX線焦点22及び第1X線検出器4によってX線トポグラフィ手段が構成されている。
【0045】
第2X線検出器5は、第1X線検出器4と同様に、半導体イメージセンサによって形成されている。具体的には、第2X線検出器5は、複数のX線受光用半導体ピクセル(画素)をXY平面内に2次元的(すなわち平面的)に並べて成る2次元ピクセル型X線検出器によって構成されている。ピクセルの数は例えば縦×横=512×512である。半導体ピクセルは、CCD(Charge Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)でも良く、あるいは、X線を受けて直接に電気信号を出力する要素である、いわゆるフォトンカウンティング素子であっても良い。第2X線検出器5の出力端子は、図2において入出力インターフェース16を介して制御装置10に接続されている。
【0046】
図1のX線管2には線源回転装置25が付設されている。第2X線検出器5には第2検出器回転装置26が付設されている。線源回転装置25は、試料18の表面に相当する面を通る軸線ωを中心としてX線焦点22を回転移動させる。軸線ωは図1の紙面を直角に貫通して延びる線である。第2検出器回転装置26は、第2X線検出器5を軸線ωを中心として回転移動させる。
【0047】
線源回転装置25及び第2検出器回転装置26はそれぞれ適宜の回転駆動装置によって構成されている。この回転駆動装置は、例えば、サーボモータ、パルスモータ等といった回転角度が制御可能なモータの回転動力を、ウオームとウオームホイールとから成る動力伝達機構等といった動力伝達装置によって、X線管2や第2X線検出器に伝達する機構によって構成できる。
【0048】
線源回転装置25は試料18に対するX線焦点22の角度を制御、すなわち測角する。一方、第2検出器回転装置26は試料18に対する第2X線検出器5の角度を制御、すなわち測角する。すなわち、線源回転装置25及び第2検出器回転装置26は、互いに協働して、X線焦点22及び第2X線検出器5のそれぞれの試料18に対する角度を測角するための測角器、すなわちゴニオメータを構成している。このゴニオメータは図2において入出力インターフェース16を介して制御装置10に接続されている。
【0049】
図1において2次元イメージングデバイス6は、例えば、試料18を照明する照明装置と、試料18の光像を受光して対応する電気信号を生成する2次元CCDイメージセンサとによって構成されている。照明装置、CCDイメージセンサの各要素の図示は省略している。周囲が十分に明るい場合には照明装置は不要である。2次元イメージングデバイス6の具体的な構成は、もちろん、必要に応じて他の構成とすることができる。
【0050】
2次元イメージングデバイス6は、例えば図3(c)に模式的に例示するような平面的な光学像24を取得する。試料18は本実施形態では透明物質であるサファイア基板であるので、その外周端辺27に対応した光像27aを視認することはできるが、その内部構造を光学的な像として捕えることができない。しかし、2次元イメージングデバイス6は試料18を含んでいる平面領域内の任意の点をxy座標、すなわち2次元座標によって特定することができる。例えば、図1においてX線焦点22からのダイレクトビームが試料18を照射する点、すなわち試料18がX線光軸と交わる点を、例えば座標値(x,y)として特定できる。2次元イメージングデバイス6は、図2において入出力インターフェース16を介して制御装置10に接続されている。
【0051】
制御装置10には入出力インターフェース16を介して画像表示装置としてのディスプレイ28が接続されている。メモリ14には、光学像に対応した画像信号を生成するためのドライバ、及びX線トポグラフに対応した画像信号を生成するためのドライバがインストールされており、それらのドライバの働きにより、図3(b)に示すトポグラフ画像23及び図3(c)に示す光学像24を図2のディスプレイ28の画面上に表示できる。
【0052】
以下、上記構成より成るX線回折装置1の動作を説明する。
(試料の準備)
まず、図3(a)に示すように、試料18であるサファイア基板の適所、実施形態では1つの角部に、X線及び光の両方によって画像として捕えることができるマーク29を付しておく。そして、この試料18を図1の試料台3の上に載せる。
【0053】
(X線トポグラフ撮影)
次に、X線管2を所定の位置へ回転移動させて、試料18から回折線が得られるようにX線焦点22を試料18に対する所定の角度位置に配置させる。このとき第1X線検出器4のX線検出面で受け取られるX線の入射X線に対する角度をαとする。この状態で、試料18にX線を照射し、試料18から出たX線を第1X線検出器4で検出して、図3(b)に示すような2次元画像、すなわちX線トポグラフ23を得る。この画像は、X線によって照射された位置をピクセルの大きさで分解していることになり、それぞれの位置でのX線の強度が表示されていることになる。
【0054】
内部構造が一様な試料18であればX線の強度は一様になるが、試料18内に格子欠陥があれば回折条件を満足しないため、その部分がX線トポグラフ内で色表示模様として現れる。例えば、X線強度値の大きさに対応して濃度の異なる白黒のグレー模様や、X線強度値の大きさに対応して色相(赤、黄、緑、等といった色種別)が異なる模様として現れる。試料18上にLEDデバイスが形成されていても同様なことが起こる。今、符号Dに示す所に格子欠陥が認められるものとする。試料18はその角部にマーク29が付けられているので、X線トポグラフの角部にもそれに対応したX線マーク像29aが現れる。
【0055】
X線トポグラフ23は複数のピクセルによって求められた平面的な画像なので、X線トポグラフ23内における各点の相互の位置は各ピクセルの位置情報に基づいて決めることができる。しかし、X線トポグラフ23の全体の絶対的な位置は判別できない。従って、欠陥Dが観察されたとしても、その絶対的な座標位置は正確には分からない。
【0056】
(試料の平面光像の撮影)
X線トポグラフ撮影を行うのと同時に、又は必要に応じて適宜の時間差をおいて、図1の2次元イメージングデバイス6は試料18及びその周辺を撮影する。このとき、必要に応じて第1X線検出器4を2次元イメージングデバイス6の視野から外しても良い。2次元イメージングデバイス6は、例えば図3(c)に示すような像となる。試料18は光学的に透明であるので、外周端辺に対応した光像27aは別にして、その試料18の内部構造に対応した光像は2次元イメージングデバイス6によって捕えることができない。一方、試料18に付けられたマーク29の光像29bは捕えることができる。
【0057】
また、光学像24によれば、図1の入射X線に対する位置がxy座標上で明確に判定できる。例えば、ダイレクトビームの入射位置、すなわち入射X線の光軸と交わる位置は座標値(x,y)のように特定できる。
【0058】
(画像処理)
図2のCPU11はメモリ14内に格納されたソフトウエアに従って、X線トポグラフ23と光学像24とを合せ込む、すなわち合成する演算処理を行う。具体的には、CPU11は、X線トポグラフ23におけるX線マーク像29aのトポグラフ座標上での座標位置を特定し、他方、光学像24における光マーク光像29bのxy座標上での座標位置を特定し、両者が光学像24のxy座標上で重なり合うようにX線トポグラフ23の全体の座標値の換算を行う。
【0059】
この換算により、図3(d)に示すように光学像24とX線トポグラフ23とが各マーク像29a,29bで重なり合った画像が求められる。この合成像の画像データは必要に応じて図2のディスプレイ28の画像表示制御部へ伝送され、そのディスプレイ28の画面上に表示される。
【0060】
(ロッキングカーブ測定)
測定者は、図3(d)の画面を観察することにより、X線トポグラフ23における欠陥Dを目視によって認識できる。そして、測定者はその欠陥DをROI(Region of Interest:関心領域又は対象領域)と設定して、その領域についての詳しい構造を知りたい場合がある。例えば、欠陥Dの近傍領域についてロッキングカーブ測定を行って、定量的な情報を得たい場合がある。
【0061】
その場合、測定者は、図2のディスプレイ28の画面上でマウスのポインタやタッチパネル等によって、あるいはキーボード操作によって欠陥Dの位置を入力する。すると、CPU11は平行移動装置19を作動して試料台3上に載せられた試料28を平行移動させて、欠陥Dの部位がX線光軸の位置(x,y)に一致するように試料18を平行移動する。
【0062】
また、図3(d)において、欠陥Dを位置(x,y)へマウス操作によって移動、いわゆるドラッグ・アンド・ドロップすることにより、欠陥Dを位置(x,y)へ移動させることの指示を行うこともできる。さらにその際、ディスプレイ28の画面上でX線トポグラフ像23をドラッグ・アンド・ドロップの操作に合わせて画面上で移動させることもできる。
【0063】
次に、測定者は図1の入射X線光軸上にピンホールコリメータを挿入することにより、試料18の欠陥D及びその近傍に微小径の単色X線ビームを照射できる状態にセットし、そしてロッキングカーブ測定を行う。具体的には、試料18を位置不動に固定した状態で、X線焦点22及び第2X線検出器5を軸線ωを中心として回折線が得られる角度位置で矢印ωで示すように同じ方向へ互いに同期して所定の同じ角速度で回転移動させ、個々の角度位置にて回折線強度の変化を測定する。これにより、周知のロッキングカーブが求められ、そのロッキングカーブのピーク強度、半値幅、回折角度、等に基づいて試料18の欠陥Dを定量的に知ることができる。
【0064】
以上のように、本実施形態によれば、2次元イメージングデバイス6では可視化できない透明な試料18をX線トポグラフィ手段(X線焦点22、第1X線検出器4、等)によって可視化、すなわち表示条件に従って色表示することで、可視化された像に基づいてROIを設定し、2次元イメージングデバイス6による光学像とX線トポグラフィ手段によるX線トポグラフとを合せ込んでROIの正確なxy座標を特定できる。
【0065】
そして、座標によって特定されたROIについて、ロッキングカーブ測定装置等といった所望の専用の測定系を用いた測定を行うことができる。従来のように、ROIを専用の測定系の測定位置に試行錯誤的に合わせる場合には、その調整のために徒に長い時間を必要としたり、場合によっては、望ましいROIを正確に特定することができないこともあったが、本実施形態によれば、そのような心配はなく、短時間で正確にROIを特定でき、X線測定を実行できる。
【0066】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
【0067】
例えば、上記実施形態では、X線トポグラフィ手段として図4(a)に示した発散連続X線法に従ったX線トポグラフィ装置を用いたが、それに代えて、図4(b),(c),(d)に示すような他の構成のX線トポグラフィ装置を用いることもできる。また、図示しない他の構成のX線トポグラフィ装置を用いることもできる。
【0068】
2次元イメージングデバイス6の構成も必要に応じて上記した構成以外の任意の構成を採用できる。上記実施形態では、試料18として透明な物質であるサファイア単結晶を適用したが、もちろん、不透明な物質を測定対象とすることもできる。
【0069】
以上の実施形態では、図3(a)において基準位置を示すマーク29を試料18に設け、それを基準としてX線トポグラフ23と光学像24との合成を行った。しかしながら、この方法に代えて、試料18の外周端辺27に対応した光像27a(図3(c))と、X線トポグラフ23上の外周端辺像27b(図3(b))とを基準として、X線トポグラフ23と光学像24との合成を行うこともできる。
【符号の説明】
【0070】
1.X線回折装置、 2.X線管、 3.試料台、 4.第1X線検出器、 5.第2X線検出器、 6.2次元イメージングデバイス(光学撮像手段)、 10.制御装置、 14.メモリ、 15.バス、 16.入出力インターフェース、 18.試料、 22.X線焦点、 23.X線回折像(X線トポグラフ)、 24.光学像、 27.外周端辺、 27a.外周端辺の光像、 27b.X線トポグラフ上の外周端辺、 28.ディスプレイ、 29.マーク、 29a.マーク像、 29b.マーク光像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の平面領域から出たX線を空間的に1対1の幾何学的対応をつけて平面的なX線トポグラフとして検出し、当該X線トポグラフを信号として出力するX線トポグラフィ手段と、
前記試料の平面領域の光像を受光して当該光像を平面位置情報によって特定された信号として出力する光学撮像手段と、
前記X線トポグラフの出力信号と前記光学撮像手段の出力信号とに基づいて合成画像データを生成する画像合成手段と
を有することを特徴とするX線回折装置。
【請求項2】
前記画像合成手段は、前記試料に関して設定された基準位置に基づいて前記合成画像データを生成することを特徴とする請求項1記載のX線回折装置。
【請求項3】
前記基準位置は、前記試料の端辺又は前記試料に設けられたマークであることを特徴とする請求項2記載のX線回折装置。
【請求項4】
前記光学撮像手段は、複数の半導体X線受光素子を平面状又は線状に並べて成る半導体イメージセンサを有すること特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のX線回折装置。
【請求項5】
前記試料は光学的に透明な単結晶物質であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載のX線回折装置。
【請求項6】
前記X線トポグラフィ手段において前記試料にX線が照射される領域よりも狭い領域で前記試料にX線を照射して、そのときに当該試料から出るX線を検出するX線測定系と、
前記試料を平行移動させる試料移動手段と、
をさらに有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1つに記載のX線回折装置。
【請求項7】
前記X線測定系は、X線粉末回折装置、ロッキングカーブ測定装置、反射率測定装置、逆格子マップ測定装置、及びインプレーン測定装置の少なくとも1つであることを特徴とする請求項6記載のX線回折装置。
【請求項8】
前記X線トポグラフィ手段と前記X線測定系とでX線源は共通であることを特徴とする請求項6又は請求項7記載のX線回折装置。
【請求項9】
請求項6から請求項8のいずれか1つに記載のX線回折装置を用いて測定を行うX線回折測定方法であって、
前記X線トポグラフィ手段の出力結果に基づいて結晶欠陥を求め、
前記画像合成手段により求められた前記合成画像データに基づいて、前記結晶欠陥の位置を前記平面位置情報によって特定し、
特定した平面位置情報に基づいて前記試料移動手段によって前記試料を移動させて前記結晶欠陥を前記X線測定系におけるX線照射位置へ移動させ、
当該X線測定系によって測定を行う
ことを特徴とするX線回折測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−122746(P2012−122746A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271410(P2010−271410)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】