X線検出システム
【課題】電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、幅広いエネルギー領域の測定を行う。
【解決手段】試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折X線のエネルギー分散方向と直交方向の複数の位置に前記回折X線の結像面を振り分けるように前記回折X線の進行を振り分けるスプリッタと、前記スプリッタにより振り分けられた複数の結像面のそれぞれに配置された異なるエネルギー感度特性の複数のイメージセンサと、を有する。
【解決手段】試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折X線のエネルギー分散方向と直交方向の複数の位置に前記回折X線の結像面を振り分けるように前記回折X線の進行を振り分けるスプリッタと、前記スプリッタにより振り分けられた複数の結像面のそれぞれに配置された異なるエネルギー感度特性の複数のイメージセンサと、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線検出システムに関し、特に、走査型電子顕微鏡に取り付けられて軟X線を分光分析する際において幅広いエネルギー領域の測定が可能なX線検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
試料に電子線などの荷電粒子線を照射すると、該試料から特性X線が発生する。この特性X線を検出器で検出し、試料の組成を計測する手法はエネルギー分散型X線分光と呼ばれている。この手法では、特性X線が試料を構成する元素の特有なエネルギーを持つことを利用している。単位時間当たりのX線発生個数をX線のエネルギー毎に計数して試料の元素組成等の情報を得ている。ここで、X線を検出する手段として、シリコンやゲルマニウム等の半導体結晶を用いた半導体検出素子を用いるのが一般的である。
【0003】
一方、試料に電子線などの荷電粒子線を照射して発生した特性X線を回折格子に入射すると、回折X線が分離される。この回折X線をX線用CCDイメージセンサで検出し、画像化する手法も存在している。
【0004】
この手法を実現する装置としては、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された試料から放出される特性X線を集光させて回折格子に導くX線集光ミラーと、X線集光ミラーにより集光された特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子(不等間隔回折格子)と、回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサ(背面照射型CCDカメラ)と、を備えて構成されている。
【0005】
この種のX線検出システムについては、以下の特許文献1にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−329473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
第1の課題:
上記特許文献1などに記載されたX線検出システムでは、コンパクトな光学系で光分解能な測定が可能になる。一方、測定するエネルギー領域を変更するためにはイメージセンサを交換する必要があるが、X線検出システムは真空中に配置されているため、イメージセンサの交換は容易ではなかった。
【0008】
第2の課題:
以上のようなX線検出システムにより、酸化物・窒素物等の化合物を試料として電子線を照射すると、特性X線以外に、特性X線とは波長が異なるカソードルミネッセンス(CL)と呼ばれる発光が発生する。そして、このカソードルミネッセンスは回折格子において全反射に近い状態で反射され、イメージセンサに入射してしまう。この結果、イメージセンサ上において回折X線の信号レベルが相対的に低下して採取スペクトルが不明瞭な状態になり、測定時間や測定精度に悪影響を及ぼすことになる。この場合に、回折X線とカソードルミネッセンスとを分離できることが望ましいが、これらを分離するのに適したフィルタが存在していないという問題が存在している。
【0009】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、第1の目的は、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、幅広いエネルギー領域の測定が可能なX線検出システムを実現することである。
【0010】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、第2の目的は、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、イメージセンサに入射するX線の比率を大きくすることが可能なX線検出システムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、上記の課題を解決する本願発明は、以下のそれぞれに述べるようなものである。
【0012】
(1)第1の発明は、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折X線のエネルギー分散方向と直交方向の複数の位置に前記回折X線の結像面を振り分けるように前記回折X線の進行を振り分けるスプリッタと、前記スプリッタにより振り分けられた複数の結像面のそれぞれに配置された異なるエネルギー感度特性の複数のイメージセンサと、を有することを特徴とするX線検出システムである。
【0013】
(2)上記(1)において、前記スプリッタは、前記回折X線を反射させるミラーにより管形状に構成された管形状X線導光ミラー部と、前記管形状X線導光ミラー部の分岐部分において前記回折X線の進行を振り分ける可動ミラー部と、前記可動ミラー部の位置を制御する可動ミラー制御部と、を備える、ことを特徴とする。
【0014】
(3)上記(1)−(2)において、前記複数のイメージセンサは、高エネルギー感度特性側はX線用イメージセンサであり、低エネルギー感度特性側は、マイクロチャンネルプレートを受光面側に備えたイメージセンサである、ことを特徴とする。
【0015】
(4)第2の発明は、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折X線の結像面に入力面が位置するように配置されたマイクロチャンネルプレートと、前記マイクロチャンネルプレートの出力面側に配置されたイメージセンサと、を有することを特徴とするX線検出システムである。
【0016】
(5)上記(3)−(4)において、前記マイクロチャンネルプレートは、カソードルミネッセンス領域の量子効率より軟X線領域の量子効率が高い特性を有する、を有することを特徴とする。
【0017】
(6)上記(3)−(5)において、前記マイクロチャンネルプレートを前記回折X線の進行方向に対して傾斜した状態であって回動可能な状態で保持する傾斜回動保持部と、前記傾斜回動保持部により保持された前記マイクロチャンネルプレートを回動させる回動制御部と、を有することを特徴とする。
【0018】
(7)上記(1)−(6)において、前記回折格子は不等間隔回折格子である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
これらの発明によると、以下のような効果を得ることができる。
【0020】
(A)第1の発明では、電子線が照射された試料から放出される特性X線を回折格子で受けて回折X線を生じさせ、回折格子で生じた回折X線のエネルギー分散方向と直交方向の複数の位置にスプリッタにより回折X線の進行を振り分けることで回折X線の結像面を振り分け、振り分けられた複数の結像面のそれぞれに異なるエネルギー感度特性の複数のイメージセンサを配置しておくことで、幅広いエネルギー領域の測定が可能なX線検出システムを実現できる。
【0021】
(B)ここで、スプリッタは、回折X線を反射させるミラーにより管形状に構成された管形状X線導光ミラー部と、管形状X線導光ミラー部の分岐部分において回折X線の進行を振り分ける可動ミラー部と、可動ミラー部の位置を制御する可動ミラー制御部と、を備えることにより回折X線の進行を振り分けることができ、エネルギー領域に応じて回折X線の結像面を振り分けることが可能になる。
【0022】
(C)また、複数のイメージセンサとして、高エネルギー感度特性側にはX線用イメージセンサでを配置し、低エネルギー感度特性側にはマイクロチャンネルプレートを受光面側に備えたイメージセンサを配置することで、幅広いエネルギー領域の測定が可能になる。
【0023】
(D)第2の発明では、電子線が照射された試料から放出される特性X線を回折格子で受けて回折X線を生じさせ、該回折X線の結像面にマイクロチャンネルプレートの入力面を配置すると共に、該マイクロチャンネルプレートの出力面側にイメージセンサを配置している。ここで、マイクロチャンネルプレートは、カソードルミネッセンス領域の量子効率より軟X線領域の量子効率が高い特性を有するものであり、カソードルミネッセンスが発生していても、イメージセンサに入射するX線の比率を大きくすることが可能になる。
【0024】
(E)以上のマイクロチャンネルプレートを使用したX線検出システムでは、マイクロチャンネルプレートを回折X線の進行方向に対して傾斜した状態であって回動可能な状態で保持すると共に、該マイクロチャンネルプレートを回動させる制御を行うことで、感度が入射角度依存特性を有するマイクロチャンネルプレートの最適な感度特性を得ることができるため、イメージセンサに入射するX線の比率を大きくすることが可能になる。
【0025】
(F)上記(A)−(E)において、回折格子として不等間隔回折格子を用いることで、平行に近い大きな(90°近い)入射角で入射させたとき、収差補正がなされると共に、その回折光に対して垂直な結像面を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの主要部の構成を示す構成図である。
【図3】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの主要部の構成を示す構成図である。
【図4】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの主要部の構成を示す構成図である。
【図5】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図6】本発明の実施形態を適用したX線検出システムで使用される要部の構成を示す構成図である。
【図7】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの状態を示す説明図である。
【図8】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの状態を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図10】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の画像形成装置を実施するための形態(実施形態)を詳細に説明する。
【0028】
〈第1実施形態〉
まず図1と図2を参照して第1実施形態のX線検出システムの構成を説明する。
【0029】
なお、この図1においては、鏡筒や架台などの各部を保持するための既知の基本的部材、真空を保持する機構部分などについては省略し、実施形態の特徴部分の配置を中心に示した状態で示している。
【0030】
電子線照射部10は、走査電子顕微鏡の鏡筒部分に設けられ、試料20に対して電子線を照射する。
【0031】
X線集光ミラー部30は、試料20から放出される特性X線を、2枚のミラーで集光させて回折格子40方向に導く。ここで、X線集光ミラー部30で集光させることにより、回折格子40に入射する特性X線の強度を増加させて、測定時間の短縮、スペクトルのS/N比を向上させることができる。
【0032】
回折格子40は、X線集光ミラー部30により集光された特性X線を受けて、エネルギーに応じて回折状態が異なる回折X線を生じさせる。この回折格子40は、収差補正のために不等間隔の溝が形成されており、このような不等間隔回折格子は、大きな入射角(回折格子面(図1のY軸)に平行に近い角度(90°に近い入射角))で入射させたとき、回折光の焦点をローランド円上ではなく、光線にほぼ垂直な平面(イメージセンサ70(70A、70B)の受光面:図1のXZ平面))上に作るように設計される。
【0033】
スプリッタ50は、回折X線のエネルギー分散方向(図1のZ方向)と直交方向(図1のX方向)の複数の位置に回折X線の結像面を振り分けるように、回折格子40からの回折X線の進行を振り分ける。
【0034】
スプリッタ50は、図2(a)に示すように、回折X線を反射させるミラー51により管形状に構成された管形状X線導光ミラー部(導入部50A、分岐部50B、分岐出力部50C1、分岐出力部50C2)と、管形状X線導光ミラー部の分岐部(50B)において回折X線の進行を振り分ける可動ミラー部53と、可動ミラー部53を駆動する可動ミラー駆動部52と、各種の判定条件により可動ミラー部53の位置を制御するよう可動ミラー駆動部52に指示を与える制御部54と、を備えて構成される。
【0035】
また、スプリッタ50として、図2(d)に示すように、分岐部50Bと分岐出力部50C1を折り曲げずに一体に構成して分岐部50B1とすると共に、分岐部50Bと分岐出力部50C2を折り曲げずに一体に構成して分岐部50B2とすることも可能である。この場合、折り曲げ箇所が少なくなり、スプリッタ50内でのX線通過損失が小さくなるという利点を有する。
【0036】
なお、以下の説明では、図2(a)に示すスプリッタ50を具体例にして説明を続けるが、それぞれの場合において図2(d)の形状のスプリッタ50に置換することが可能である。
【0037】
イメージセンサ70(70A、70B)は、異なるエネルギー領域の回折X線を検出するため、軟X線に感度を有するX線用の高エネルギー感度特性/低エネルギー感度特性の2種類のCCDカメラあるいはX線用のCMOSカメラである。望ましくは、背面照射型のX線用CCDカメラで構成されている。このイメージセンサ70は、その受光面が回折X線の結像面に一致するように位置調整がなされる。
【0038】
ここでは、イメージセンサ70Aが、スプリッタ50の分岐出力部50C1側の結像面に取り付けられ、イメージセンサ70Bが、スプリッタ50の分岐出力部50C2側の結像面に取り付けられている。なお、イメージセンサ70Aと70Bとで、それぞれに異なるエネルギー感度特性のイメージセンサを配置しておく。
【0039】
以上の構成において、エネルギー値、使用する回折格子40の種類、試料20の材質(カソードルミネッセンスを発生しやすいか否かなど)、使用しているX線ウィンドウの種類、特性X線とカソードルミネッセンスの信号強度比などの判定条件を参照し、予め定められた判定条件を用いて制御部54が、可動ミラー駆動部52に対して動作指示を与える。
【0040】
たとえば、以上の判定条件に基づいて、制御部54がイメージセンサ70Aでの測定を決定した場合には、図2(b)に示すように、可動ミラー駆動部52に指示を与えて可動ミラー部53によって分岐出力部50C2を塞ぐように動作させる。これにより、スプリッタ50の導入部50Aから入射した回折X線は、分岐部50Bから分岐出力部50C1側に導かれて、イメージセンサ70Aの受光面に結像し、イメージセンサ70Aによって試料20による回折X線のスペクトルが採取されて測定される。
【0041】
一方、以上の判定条件に基づいて、制御部54がイメージセンサ70Bでの測定を決定した場合には、図2(c)に示すように、可動ミラー駆動部52に指示を与えて可動ミラー部53によって分岐出力部50C1を塞ぐように動作させる。これにより、スプリッタ50の導入部50Aから入射した回折X線は、分岐部50Bから分岐出力部50C2側に導かれて、イメージセンサ70Bの受光面に結像し、イメージセンサ70Bによって試料20による回折X線のスペクトルが採取されて測定される。
【0042】
なお、ここでは、可動ミラー部53の動きがわかりやすいように、分岐出力部が閉じた状態でも可動ミラー部53との間に隙間が生じた状態で示しているが、できる限り隙間や段差が生じないように構成することが望ましい。
【0043】
以上のように、イメージセンサ70Aと70Bとで、それぞれに異なるエネルギー感度特性のイメージセンサを配置しておき、スプリッタ50で回折X線の振り分けを行うことで、幅広いエネルギー領域の測定が可能なX線検出システムを実現することができる。
【0044】
〈第2実施形態〉
ここで図3を参照して第2実施形態のX線検出システムの構成を説明する。なお、この図3において、図1や図2と同一物には同一番号を付すことで重複した説明を省略する。
【0045】
この第2実施形態では上述した第1実施形態とスプリッタ50の振り分け数が異なっている。すなわち、この図3に示されたスプリッタ50は、回折X線のエネルギー分散方向(図1のZ方向)と直交方向(図1のX方向)の3つの位置に回折X線の結像面を振り分けるように、回折格子40からの回折X線の進行を振り分ける。
【0046】
ここで、スプリッタ50は、回折X線を反射させるミラー51により管形状に構成された管形状X線導光ミラー部(導入部50A、分岐部50B、分岐出力部50C1、分岐出力部50C2、分岐出力部50C3)と、管形状X線導光ミラー部の分岐部(50B)において回折X線の進行を振り分ける可動ミラー部53(53a、53b)と、可動ミラー部53を駆動する可動ミラー駆動部52(52a、52b)と、各種の判定条件により可動ミラー部53の位置を制御するよう可動ミラー駆動部52に指示を与える制御部54と、を備えて構成される。
【0047】
イメージセンサ70(70A、70B、70C)は、異なるエネルギー領域の回折X線を検出するため、軟X線に感度を有するX線用の高/中/低エネルギー感度特性の3種類のX線用のCCDカメラあるいはX線用のCMOSカメラである。望ましくは、背面照射型のX線用CCDカメラで構成されている。このイメージセンサ70は、その受光面が回折X線の結像面に一致するように位置調整がなされる。
【0048】
ここでは、イメージセンサ70Aがスプリッタ50の分岐出力部50C1側の結像面に取り付けられ、イメージセンサ70Bがスプリッタ50の分岐出力部50C2側の結像面に取り付けられ、イメージセンサ70Cがスプリッタ50の分岐出力部50C3側の結像面に取り付けられ、ている。なお、イメージセンサ70A〜70Cで、それぞれに異なるエネルギー感度特性のイメージセンサを配置しておく。
【0049】
以上の構成において、エネルギー値、使用する回折格子40の種類、試料20の材質(カソードルミネッセンスを発生しやすいか否かなど)、使用しているX線ウィンドウの種類、特性X線とカソードルミネッセンスの信号強度比などの判定条件を参照し、予め定められた判定条件を用いて制御部54が、可動ミラー駆動部52に対して動作指示を与える。
【0050】
たとえば、以上の判定条件に基づいて、制御部54がイメージセンサ70Cでの測定を決定した場合には、図3に示すように、可動ミラー駆動部52aと52bとに指示を与えて可動ミラー部53aと52bとによって分岐出力部50C1と50C2を塞ぐように動作させる。
【0051】
これにより、スプリッタ50の導入部50Aから入射した回折X線は、分岐部50Bから分岐出力部50C3側に導かれて、イメージセンサ70Cの受光面に結像し、イメージセンサ70Cによって試料20による回折X線のスペクトルが採取されて測定される。
【0052】
なお、ここでは、可動ミラー部53a、53bの動きがわかりやすいように、可動ミラー部53a、53bが閉じた状態でも隙間が生じた状態で示しているが、できる限り隙間や段差が生じないように構成することが望ましい。
【0053】
以上のように、イメージセンサ70A、70B、70Cで、それぞれに異なるエネルギー感度特性のイメージセンサを配置しておき、スプリッタ50で回折X線の振り分けを行うことで、幅広いエネルギー領域の測定が可能なX線検出システムを実現することができる。なお、スプリッタ50による振り分けを4以上にすることも可能である。
【0054】
〈第3実施形態〉
ここで図4を参照して第3実施形態のX線検出システムの構成を説明する。なお、この図4において、図1−図3と同一物には同一番号を付すことで重複した説明を省略する。
【0055】
この第3実施形態では上述した第1〜第2実施形態とスプリッタ50の振り分け構造が異なっている。
【0056】
すなわち、この図4(a)に示されたスプリッタ50は、結像面(XZ平面)内において120°毎の3つの位置に回折X線の結像面を振り分けるように、回折格子40からの回折X線の進行を振り分ける。
【0057】
ここで、スプリッタ50は、回折X線を反射させるミラー51により管形状に構成された管形状X線導光ミラー部(導入部50A、分岐部50B、分岐出力部50C1、分岐出力部50C2、分岐出力部50C3)と、管形状X線導光ミラー部の分岐部(50B)において回折X線の進行を振り分けるべくいずれかの位置で回折X線を透過させる回転選択式シャッタ55(図4(b)−(d)参照)と、回転選択式シャッタ55を駆動する駆動部(図示せず)と、各種の判定条件により回転選択式シャッタ55の回転位相を制御するよう駆動部に指示を与える制御部54と、を備えて構成される。
【0058】
イメージセンサ70(70A、70B、70C)は、異なるエネルギー領域の回折X線を検出するため、軟X線に感度を有するX線用の高/中/低エネルギー感度特性の3種類のX線用のCCDカメラあるいはX線用のCMOSカメラである。望ましくは、背面照射型のX線用CCDカメラで構成されている。このイメージセンサ70は、その受光面が回折X線の結像面に一致するように位置調整がなされる。
【0059】
ここでは、イメージセンサ70Aがスプリッタ50の分岐出力部50C1側の結像面に取り付けられ、イメージセンサ70Bがスプリッタ50の分岐出力部50C2側の結像面に取り付けられ、イメージセンサ70Cがスプリッタ50の分岐出力部50C3側の結像面に取り付けられ、ている。なお、イメージセンサ70A〜70Cで、それぞれに異なるエネルギー感度特性のイメージセンサを配置しておく。
【0060】
以上の構成において、エネルギー値、使用する回折格子40の種類、試料20の材質(カソードルミネッセンスを発生しやすいか否かなど)、使用しているX線ウィンドウの種類、特性X線とカソードルミネッセンスの信号強度比などの判定条件を参照し、予め定められた判定条件を用いて制御部54が、可動ミラー駆動部に対して回転指示を与える。
【0061】
たとえば、以上の判定条件に基づいて、制御部54がイメージセンサ70Aでの測定を決定した場合には、図4(b)に示すように、駆動部に指示を与えて回転選択式シャッタ55の開口部55hを分岐出力部50C1に合わせるように動作させる。これにより、スプリッタ50の導入部50Aから入射した回折X線は、分岐部50Bから分岐出力部50C1側に導かれて、イメージセンサ70Aの受光面に結像し、イメージセンサ70Aによって試料20による回折X線のスペクトルが採取されて測定される。
【0062】
また、以上の判定条件に基づいて、制御部54がイメージセンサ70Bでの測定を決定した場合には、図4(c)に示すように、駆動部に指示を与えて回転選択式シャッタ55の開口部55hを分岐出力部50C2に合わせるように動作させる。これにより、スプリッタ50の導入部50Aから入射した回折X線は、分岐部50Bから分岐出力部50C2側に導かれて、イメージセンサ70Bの受光面に結像し、イメージセンサ70Bによって試料20による回折X線のスペクトルが採取されて測定される。
【0063】
更に、以上の判定条件に基づいて、制御部54がイメージセンサ70Cでの測定を決定した場合には、図4(d)に示すように、駆動部に指示を与えて回転選択式シャッタ55の開口部55hを分岐出力部50C3に合わせるように動作させる。これにより、スプリッタ50の導入部50Aから入射した回折X線は、分岐部50Bから分岐出力部50C3側に導かれて、イメージセンサ70Cの受光面に結像し、イメージセンサ70Cによって試料20による回折X線のスペクトルが採取されて測定される。
【0064】
以上のように、イメージセンサ70A、70B、70Cでそれぞれに異なるエネルギー感度特性のイメージセンサを配置しておき、スプリッタ50と回転選択式シャッタ55とで回折X線の振り分けを行うことで、幅広いエネルギー領域の測定が可能なX線検出システムを実現することができる。なお、スプリッタ50と回転選択式シャッタ55とによる振り分けを4以上にすることも可能である。
【0065】
〈第4実施形態〉
ここで図5を参照して第4実施形態のX線検出システムの構成を説明する。なお、この図5において、図1と同一物には同一番号を付すことで重複した説明を省略する。
【0066】
この第4実施形態では上述した第1実施形態とスプリッタ50後のイメージセンサ70部分の接続が異なっている。
【0067】
すなわち、この図5に示された第4実施形態において、電子線照射部10、試料20、X線集光ミラー部30、回折格子40、スプリッタ50、スプリッタ50の一方の分岐出力部50C1側のイメージセンサ70A、の部分は第1実施形態と同じである。
【0068】
一方、スプリッタ50の他方の分岐出力部50C2側には、マイクロチャンネルプレート60が接続され、マイクロチャンネルプレート60の出力側にイメージセンサ70Bが接続されている。
【0069】
ここで、電子線が照射された試料20から放出される特性X線を回折格子40で受けて回折X線を生じさせ、スプリッタ50で振り分けた後、該回折X線の結像面にマイクロチャンネルプレート60の入力面を配置すると共に、該マイクロチャンネルプレート60の出力面側にイメージセンサ70Bを配置している。
【0070】
また、マイクロチャンネルプレート60は、微小な光電子増倍管を多数束ねた構造になっており、入力面に軟X線が入射すると電子が飛び出し、この電子が各チャンネルの壁に当たってアバランシェ効果により電子が増幅され、出力面側に設けられた蛍光面を光らせる構成になっている。
【0071】
このため、マイクロチャンネルプレート60の出力面側の蛍光面の蛍光に感度を有するイメージセンサ70Bを配置する。このようなマイクロチャンネルプレート60の光電子増倍効果を採用することで、非常に高感度な測定が可能になる。
【0072】
図6は蛍光面を有する状態で構成されたマイクロチャンネルプレート60の構成の一例を示す説明図である。ここでは、回折X線を増幅するマイクロチャンネルプレート61aと61bの2段構成になっており、出力側にはマイクロチャンネルプレート61bの出力光を受けて蛍光を発する蛍光面62が配置されている。
【0073】
なお、マイクロチャンネルプレート61a,61bに印加する電圧V1を可変とすることで増幅率を調整することが可能であり、また、蛍光面62に印加する電圧V2を可変とすることで蛍光状態を調整することが可能である。また、マイクロチャンネルプレート61a,61bは、2段階増幅とすることで、1段のみで電圧を上げた場合よりも低ノイズの増幅が可能となる。
【0074】
以上の構成において、エネルギー値、使用する回折格子40の種類、試料20の材質(カソードルミネッセンスを発生しやすいか否かなど)、使用しているX線ウィンドウの種類、特性X線とカソードルミネッセンスの信号強度比などの判定条件を参照し、予め定められた判定条件を用いて制御部54が、可動ミラー駆動部52に対して動作指示を与える。
【0075】
以上のように、イメージセンサ70Aと、マイクロチャンネルプレート60を介したイメージセンサ70Bとを配置しておき、スプリッタ50で回折X線の振り分けを行うことで、幅広いエネルギー領域の測定が可能なX線検出システムを実現することができる。また、上述した第2実施形態や第3実施形態のスプリッタ50の分岐出力部のいずれかに、この第4実施形態で示したマイクロチャンネルプレート60を採用することも可能である。
【0076】
〈第5実施形態〉
ここで図7を参照して第5実施形態のX線検出システムの構成を説明する。なお、この図7において、図1や図5と同一物には同一番号を付すことで重複した説明を省略する。
【0077】
この第5実施形態では上述したマイクロチャンネルプレート60を用いた第4実施形態からスプリッタ50とイメージセンサ70Aを除いた構成になっている。すなわち、特開2002−329473号公報などに示されるX線検出システムにおいて、イメージセンサ70の前にマイクロチャンネルプレート60を設けたことを特徴としている。
【0078】
ここでは、電子線が照射された試料20から放出される特性X線を回折格子40で受けて回折X線を生じさせ、該回折X線の結像面にマイクロチャンネルプレート60の入力面を配置すると共に、該マイクロチャンネルプレート60の出力面側にイメージセンサ70を配置している。このため、マイクロチャンネルプレート60の出力面側の蛍光面の蛍光に感度を有するイメージセンサ70を配置する。このようなマイクロチャンネルプレート60の光電子増倍効果を採用することで、非常に高感度な測定が可能になる。
【0079】
そして、図8(a)に示すように、マイクロチャンネルプレート60の波長−量子化効率特性は、一例として、軟X線波長領域では8%、カソードルミネッセンスの波長領域では0.8%と、10倍程度の大きな違いがある。この結果、イメージセンサ70の直前にマイクロチャンネルプレート60を設けたX線検出システムでは、カソードルミネッセンスを軟X線に対して1/10に低減することが可能になる。すなわち、マイクロチャンネルプレート60は、カソードルミネッセンス領域の量子効率より軟X線領域の量子効率が高い特性を有するものであり、カソードルミネッセンスが発生していても、イメージセンサ70に入射するX線の比率を大きくすることが可能になる。
【0080】
発明者らが実験したところ、カソードルミネッセンスなどの迷光の影響を受けた状態での回折X線の測定結果のイメージを示すと図8(b)のようであった。これに対し、この第5実施形態のマイクロチャンネルプレート60によるカソードルミネッセンスの低減効果を伴う回折X線の測定結果は、試料20に対する電子線の照射や回折格子40は同一であるにもかかわらず、図8(c)のように、非常に鮮明に回折光の様子(エネルギー分布)が確認できた。
【0081】
なお、この第5実施形態ではスプリッタ50を用いていない状態であるが、第4実施形態のようにスプリッタ50を使用してマイクロチャンネルプレート60を使用した場合であっても、同様にカソードルミネッセンスなどの迷光の影響を低減した状態のX線検出が可能になる。
【0082】
〈第6実施形態〉
ここで図9を参照して第6実施形態のX線検出システムの構成を説明する。なお、この図9において、他の図面と同一物には同一番号を付すことで重複した説明を省略する。
【0083】
この第6実施形態では上述した第4実施形態と同様にマイクロチャンネルプレート60をイメージセンサ70Bの直前に配置している。
【0084】
ここで、以上のマイクロチャンネルプレート60を回折X線の進行方向に対して傾斜した状態に保持する管状の傾斜保持部61を配置する。なお、この傾斜保持部61は、X線を反射するミラーにより構成するものであり、分岐出力部50C2と一体に、すなわち、分岐出力部50C2の出射側端面を傾斜させて構成してもよい。さらに、マイクロチャンネルプレート60を回動可能な状態で保持する回動保持部62を配置する。なお、傾斜保持部61と回動保持部62とを一体的に構成し、傾斜回動保持部としてもよい。また、マイクロチャンネルプレート60を所定の回転角で回転させる回動制御部(図示せず)を設ける。
【0085】
一般にマイクロチャンネルプレート60を構成する多数の微小な光電子増倍管はバイアス角と呼ばれる若干の傾斜角を有しており、入射光に対して角度依存の感度特性を有している。そこで、このマイクロチャンネルプレート60のバイアス角をカバーするように傾斜保持部61の傾斜角を定め、傾斜させた状態でマイクロチャンネルプレート60を回転させることにより、マイクロチャンネルプレート60の最適感度を得られる角度で回折X線をマイクロチャンネルプレート60に入射させることが可能になる。
【0086】
なお、この第6実施形態では、スプリッタ50の分岐出力部50C2側にマイクロチャンネルプレート60を配置したものを示したが、第5実施形態のようにスプリッタ50を使用しないX線検出システムにおいてもマイクロチャンネルプレート60の傾斜回転により良好な感度特性を得ることができる。
【0087】
〈第7実施形態〉
ここで図10を参照して第7実施形態のX線検出システムの構成を説明する。
【0088】
なお、この第7実施形態は複数の回折格子40を選択可能にした構成を示しており、上述した第1〜第6実施形態のそれぞれに適用することが可能である。
【0089】
以上の各実施形態ではスプリッタ50を使用して複数のイメージセンサ70でそれぞれに異なるエネルギー感度特性のイメージセンサを選択使用することで、または、マイクロチャンネルプレート60を使用することで、幅広いエネルギー領域の測定が可能なX線検出システムを実現することができた。
【0090】
このため、このような幅広いエネルギー領域の測定に合わせて、複数の回折格子40を選択使用して、必要な分解能、被測定エネルギー範囲の違いなどに対応できることが望ましい。
【0091】
そこで、図10(a)に示すように、X方向に移動可能な回折格子保持部41と、この回折格子保持部41上にX方向に平面的に配置した複数の回折格子40(回折格子40_1、回折格子40_2、回折格子40_3、回折格子40_4)を用意する。そして、図示しない駆動機構と制御部とによって、回折格子40_1、回折格子40_2、回折格子40_3、回折格子40_4のいずれかが試料20からの特性X線を回折させるように、X方向の駆動制御を行う。これにより、幅広いエネルギー領域の測定に合わせて、複数の中から適した回折格子40_1〜40_4のいずれかを選択使用できる。
【0092】
一方、図10(b)に示すように、Z方向に移動可能な回折格子保持部41a,41bと、この回折格子保持部41a,41bによりZ方向に積層状態で保持された複数の回折格子40(回折格子40_1、回折格子40_2、回折格子40_3、回折格子40_4)を用意する。そして、図示しない駆動機構と制御部とによって、回折格子40_1、回折格子40_2、回折格子40_3、回折格子40_4のいずれかが試料20からの特性X線を回折させるように、Z方向の駆動制御を行う。これにより、幅広いエネルギー領域の測定に合わせて、複数の中から適した回折格子40_1〜40_4のいずれかを選択使用できる。
【0093】
なお、図10(b)の場合には、積層保持する回折格子40に対して、入射側と出射側とに開口を設ければ、異なる形状の回折格子保持部であってもよい。
【0094】
また、図10(a)(b)に示した4枚の回折格子40は一例であり、2枚、3枚、あるいは5枚以上の回折格子40を選択使用することも可能である。また、2枚の回折格子40を使用する場合には、回折格子保持部41(図10(a))の両面に貼付し、回折格子保持部41を反転させることで、使用する回折格子40を切り替えることも可能である。
【符号の説明】
【0095】
10 電子線照射部
20 試料
30 X線集光ミラー部
40 回折格子
50 スプリッタ
60 マイクロチャンネルプレート
70 イメージセンサ
【技術分野】
【0001】
本発明はX線検出システムに関し、特に、走査型電子顕微鏡に取り付けられて軟X線を分光分析する際において幅広いエネルギー領域の測定が可能なX線検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
試料に電子線などの荷電粒子線を照射すると、該試料から特性X線が発生する。この特性X線を検出器で検出し、試料の組成を計測する手法はエネルギー分散型X線分光と呼ばれている。この手法では、特性X線が試料を構成する元素の特有なエネルギーを持つことを利用している。単位時間当たりのX線発生個数をX線のエネルギー毎に計数して試料の元素組成等の情報を得ている。ここで、X線を検出する手段として、シリコンやゲルマニウム等の半導体結晶を用いた半導体検出素子を用いるのが一般的である。
【0003】
一方、試料に電子線などの荷電粒子線を照射して発生した特性X線を回折格子に入射すると、回折X線が分離される。この回折X線をX線用CCDイメージセンサで検出し、画像化する手法も存在している。
【0004】
この手法を実現する装置としては、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された試料から放出される特性X線を集光させて回折格子に導くX線集光ミラーと、X線集光ミラーにより集光された特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子(不等間隔回折格子)と、回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサ(背面照射型CCDカメラ)と、を備えて構成されている。
【0005】
この種のX線検出システムについては、以下の特許文献1にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−329473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
第1の課題:
上記特許文献1などに記載されたX線検出システムでは、コンパクトな光学系で光分解能な測定が可能になる。一方、測定するエネルギー領域を変更するためにはイメージセンサを交換する必要があるが、X線検出システムは真空中に配置されているため、イメージセンサの交換は容易ではなかった。
【0008】
第2の課題:
以上のようなX線検出システムにより、酸化物・窒素物等の化合物を試料として電子線を照射すると、特性X線以外に、特性X線とは波長が異なるカソードルミネッセンス(CL)と呼ばれる発光が発生する。そして、このカソードルミネッセンスは回折格子において全反射に近い状態で反射され、イメージセンサに入射してしまう。この結果、イメージセンサ上において回折X線の信号レベルが相対的に低下して採取スペクトルが不明瞭な状態になり、測定時間や測定精度に悪影響を及ぼすことになる。この場合に、回折X線とカソードルミネッセンスとを分離できることが望ましいが、これらを分離するのに適したフィルタが存在していないという問題が存在している。
【0009】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、第1の目的は、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、幅広いエネルギー領域の測定が可能なX線検出システムを実現することである。
【0010】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、第2の目的は、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、イメージセンサに入射するX線の比率を大きくすることが可能なX線検出システムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、上記の課題を解決する本願発明は、以下のそれぞれに述べるようなものである。
【0012】
(1)第1の発明は、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折X線のエネルギー分散方向と直交方向の複数の位置に前記回折X線の結像面を振り分けるように前記回折X線の進行を振り分けるスプリッタと、前記スプリッタにより振り分けられた複数の結像面のそれぞれに配置された異なるエネルギー感度特性の複数のイメージセンサと、を有することを特徴とするX線検出システムである。
【0013】
(2)上記(1)において、前記スプリッタは、前記回折X線を反射させるミラーにより管形状に構成された管形状X線導光ミラー部と、前記管形状X線導光ミラー部の分岐部分において前記回折X線の進行を振り分ける可動ミラー部と、前記可動ミラー部の位置を制御する可動ミラー制御部と、を備える、ことを特徴とする。
【0014】
(3)上記(1)−(2)において、前記複数のイメージセンサは、高エネルギー感度特性側はX線用イメージセンサであり、低エネルギー感度特性側は、マイクロチャンネルプレートを受光面側に備えたイメージセンサである、ことを特徴とする。
【0015】
(4)第2の発明は、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折X線の結像面に入力面が位置するように配置されたマイクロチャンネルプレートと、前記マイクロチャンネルプレートの出力面側に配置されたイメージセンサと、を有することを特徴とするX線検出システムである。
【0016】
(5)上記(3)−(4)において、前記マイクロチャンネルプレートは、カソードルミネッセンス領域の量子効率より軟X線領域の量子効率が高い特性を有する、を有することを特徴とする。
【0017】
(6)上記(3)−(5)において、前記マイクロチャンネルプレートを前記回折X線の進行方向に対して傾斜した状態であって回動可能な状態で保持する傾斜回動保持部と、前記傾斜回動保持部により保持された前記マイクロチャンネルプレートを回動させる回動制御部と、を有することを特徴とする。
【0018】
(7)上記(1)−(6)において、前記回折格子は不等間隔回折格子である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
これらの発明によると、以下のような効果を得ることができる。
【0020】
(A)第1の発明では、電子線が照射された試料から放出される特性X線を回折格子で受けて回折X線を生じさせ、回折格子で生じた回折X線のエネルギー分散方向と直交方向の複数の位置にスプリッタにより回折X線の進行を振り分けることで回折X線の結像面を振り分け、振り分けられた複数の結像面のそれぞれに異なるエネルギー感度特性の複数のイメージセンサを配置しておくことで、幅広いエネルギー領域の測定が可能なX線検出システムを実現できる。
【0021】
(B)ここで、スプリッタは、回折X線を反射させるミラーにより管形状に構成された管形状X線導光ミラー部と、管形状X線導光ミラー部の分岐部分において回折X線の進行を振り分ける可動ミラー部と、可動ミラー部の位置を制御する可動ミラー制御部と、を備えることにより回折X線の進行を振り分けることができ、エネルギー領域に応じて回折X線の結像面を振り分けることが可能になる。
【0022】
(C)また、複数のイメージセンサとして、高エネルギー感度特性側にはX線用イメージセンサでを配置し、低エネルギー感度特性側にはマイクロチャンネルプレートを受光面側に備えたイメージセンサを配置することで、幅広いエネルギー領域の測定が可能になる。
【0023】
(D)第2の発明では、電子線が照射された試料から放出される特性X線を回折格子で受けて回折X線を生じさせ、該回折X線の結像面にマイクロチャンネルプレートの入力面を配置すると共に、該マイクロチャンネルプレートの出力面側にイメージセンサを配置している。ここで、マイクロチャンネルプレートは、カソードルミネッセンス領域の量子効率より軟X線領域の量子効率が高い特性を有するものであり、カソードルミネッセンスが発生していても、イメージセンサに入射するX線の比率を大きくすることが可能になる。
【0024】
(E)以上のマイクロチャンネルプレートを使用したX線検出システムでは、マイクロチャンネルプレートを回折X線の進行方向に対して傾斜した状態であって回動可能な状態で保持すると共に、該マイクロチャンネルプレートを回動させる制御を行うことで、感度が入射角度依存特性を有するマイクロチャンネルプレートの最適な感度特性を得ることができるため、イメージセンサに入射するX線の比率を大きくすることが可能になる。
【0025】
(F)上記(A)−(E)において、回折格子として不等間隔回折格子を用いることで、平行に近い大きな(90°近い)入射角で入射させたとき、収差補正がなされると共に、その回折光に対して垂直な結像面を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの主要部の構成を示す構成図である。
【図3】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの主要部の構成を示す構成図である。
【図4】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの主要部の構成を示す構成図である。
【図5】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図6】本発明の実施形態を適用したX線検出システムで使用される要部の構成を示す構成図である。
【図7】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの状態を示す説明図である。
【図8】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの状態を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図10】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の画像形成装置を実施するための形態(実施形態)を詳細に説明する。
【0028】
〈第1実施形態〉
まず図1と図2を参照して第1実施形態のX線検出システムの構成を説明する。
【0029】
なお、この図1においては、鏡筒や架台などの各部を保持するための既知の基本的部材、真空を保持する機構部分などについては省略し、実施形態の特徴部分の配置を中心に示した状態で示している。
【0030】
電子線照射部10は、走査電子顕微鏡の鏡筒部分に設けられ、試料20に対して電子線を照射する。
【0031】
X線集光ミラー部30は、試料20から放出される特性X線を、2枚のミラーで集光させて回折格子40方向に導く。ここで、X線集光ミラー部30で集光させることにより、回折格子40に入射する特性X線の強度を増加させて、測定時間の短縮、スペクトルのS/N比を向上させることができる。
【0032】
回折格子40は、X線集光ミラー部30により集光された特性X線を受けて、エネルギーに応じて回折状態が異なる回折X線を生じさせる。この回折格子40は、収差補正のために不等間隔の溝が形成されており、このような不等間隔回折格子は、大きな入射角(回折格子面(図1のY軸)に平行に近い角度(90°に近い入射角))で入射させたとき、回折光の焦点をローランド円上ではなく、光線にほぼ垂直な平面(イメージセンサ70(70A、70B)の受光面:図1のXZ平面))上に作るように設計される。
【0033】
スプリッタ50は、回折X線のエネルギー分散方向(図1のZ方向)と直交方向(図1のX方向)の複数の位置に回折X線の結像面を振り分けるように、回折格子40からの回折X線の進行を振り分ける。
【0034】
スプリッタ50は、図2(a)に示すように、回折X線を反射させるミラー51により管形状に構成された管形状X線導光ミラー部(導入部50A、分岐部50B、分岐出力部50C1、分岐出力部50C2)と、管形状X線導光ミラー部の分岐部(50B)において回折X線の進行を振り分ける可動ミラー部53と、可動ミラー部53を駆動する可動ミラー駆動部52と、各種の判定条件により可動ミラー部53の位置を制御するよう可動ミラー駆動部52に指示を与える制御部54と、を備えて構成される。
【0035】
また、スプリッタ50として、図2(d)に示すように、分岐部50Bと分岐出力部50C1を折り曲げずに一体に構成して分岐部50B1とすると共に、分岐部50Bと分岐出力部50C2を折り曲げずに一体に構成して分岐部50B2とすることも可能である。この場合、折り曲げ箇所が少なくなり、スプリッタ50内でのX線通過損失が小さくなるという利点を有する。
【0036】
なお、以下の説明では、図2(a)に示すスプリッタ50を具体例にして説明を続けるが、それぞれの場合において図2(d)の形状のスプリッタ50に置換することが可能である。
【0037】
イメージセンサ70(70A、70B)は、異なるエネルギー領域の回折X線を検出するため、軟X線に感度を有するX線用の高エネルギー感度特性/低エネルギー感度特性の2種類のCCDカメラあるいはX線用のCMOSカメラである。望ましくは、背面照射型のX線用CCDカメラで構成されている。このイメージセンサ70は、その受光面が回折X線の結像面に一致するように位置調整がなされる。
【0038】
ここでは、イメージセンサ70Aが、スプリッタ50の分岐出力部50C1側の結像面に取り付けられ、イメージセンサ70Bが、スプリッタ50の分岐出力部50C2側の結像面に取り付けられている。なお、イメージセンサ70Aと70Bとで、それぞれに異なるエネルギー感度特性のイメージセンサを配置しておく。
【0039】
以上の構成において、エネルギー値、使用する回折格子40の種類、試料20の材質(カソードルミネッセンスを発生しやすいか否かなど)、使用しているX線ウィンドウの種類、特性X線とカソードルミネッセンスの信号強度比などの判定条件を参照し、予め定められた判定条件を用いて制御部54が、可動ミラー駆動部52に対して動作指示を与える。
【0040】
たとえば、以上の判定条件に基づいて、制御部54がイメージセンサ70Aでの測定を決定した場合には、図2(b)に示すように、可動ミラー駆動部52に指示を与えて可動ミラー部53によって分岐出力部50C2を塞ぐように動作させる。これにより、スプリッタ50の導入部50Aから入射した回折X線は、分岐部50Bから分岐出力部50C1側に導かれて、イメージセンサ70Aの受光面に結像し、イメージセンサ70Aによって試料20による回折X線のスペクトルが採取されて測定される。
【0041】
一方、以上の判定条件に基づいて、制御部54がイメージセンサ70Bでの測定を決定した場合には、図2(c)に示すように、可動ミラー駆動部52に指示を与えて可動ミラー部53によって分岐出力部50C1を塞ぐように動作させる。これにより、スプリッタ50の導入部50Aから入射した回折X線は、分岐部50Bから分岐出力部50C2側に導かれて、イメージセンサ70Bの受光面に結像し、イメージセンサ70Bによって試料20による回折X線のスペクトルが採取されて測定される。
【0042】
なお、ここでは、可動ミラー部53の動きがわかりやすいように、分岐出力部が閉じた状態でも可動ミラー部53との間に隙間が生じた状態で示しているが、できる限り隙間や段差が生じないように構成することが望ましい。
【0043】
以上のように、イメージセンサ70Aと70Bとで、それぞれに異なるエネルギー感度特性のイメージセンサを配置しておき、スプリッタ50で回折X線の振り分けを行うことで、幅広いエネルギー領域の測定が可能なX線検出システムを実現することができる。
【0044】
〈第2実施形態〉
ここで図3を参照して第2実施形態のX線検出システムの構成を説明する。なお、この図3において、図1や図2と同一物には同一番号を付すことで重複した説明を省略する。
【0045】
この第2実施形態では上述した第1実施形態とスプリッタ50の振り分け数が異なっている。すなわち、この図3に示されたスプリッタ50は、回折X線のエネルギー分散方向(図1のZ方向)と直交方向(図1のX方向)の3つの位置に回折X線の結像面を振り分けるように、回折格子40からの回折X線の進行を振り分ける。
【0046】
ここで、スプリッタ50は、回折X線を反射させるミラー51により管形状に構成された管形状X線導光ミラー部(導入部50A、分岐部50B、分岐出力部50C1、分岐出力部50C2、分岐出力部50C3)と、管形状X線導光ミラー部の分岐部(50B)において回折X線の進行を振り分ける可動ミラー部53(53a、53b)と、可動ミラー部53を駆動する可動ミラー駆動部52(52a、52b)と、各種の判定条件により可動ミラー部53の位置を制御するよう可動ミラー駆動部52に指示を与える制御部54と、を備えて構成される。
【0047】
イメージセンサ70(70A、70B、70C)は、異なるエネルギー領域の回折X線を検出するため、軟X線に感度を有するX線用の高/中/低エネルギー感度特性の3種類のX線用のCCDカメラあるいはX線用のCMOSカメラである。望ましくは、背面照射型のX線用CCDカメラで構成されている。このイメージセンサ70は、その受光面が回折X線の結像面に一致するように位置調整がなされる。
【0048】
ここでは、イメージセンサ70Aがスプリッタ50の分岐出力部50C1側の結像面に取り付けられ、イメージセンサ70Bがスプリッタ50の分岐出力部50C2側の結像面に取り付けられ、イメージセンサ70Cがスプリッタ50の分岐出力部50C3側の結像面に取り付けられ、ている。なお、イメージセンサ70A〜70Cで、それぞれに異なるエネルギー感度特性のイメージセンサを配置しておく。
【0049】
以上の構成において、エネルギー値、使用する回折格子40の種類、試料20の材質(カソードルミネッセンスを発生しやすいか否かなど)、使用しているX線ウィンドウの種類、特性X線とカソードルミネッセンスの信号強度比などの判定条件を参照し、予め定められた判定条件を用いて制御部54が、可動ミラー駆動部52に対して動作指示を与える。
【0050】
たとえば、以上の判定条件に基づいて、制御部54がイメージセンサ70Cでの測定を決定した場合には、図3に示すように、可動ミラー駆動部52aと52bとに指示を与えて可動ミラー部53aと52bとによって分岐出力部50C1と50C2を塞ぐように動作させる。
【0051】
これにより、スプリッタ50の導入部50Aから入射した回折X線は、分岐部50Bから分岐出力部50C3側に導かれて、イメージセンサ70Cの受光面に結像し、イメージセンサ70Cによって試料20による回折X線のスペクトルが採取されて測定される。
【0052】
なお、ここでは、可動ミラー部53a、53bの動きがわかりやすいように、可動ミラー部53a、53bが閉じた状態でも隙間が生じた状態で示しているが、できる限り隙間や段差が生じないように構成することが望ましい。
【0053】
以上のように、イメージセンサ70A、70B、70Cで、それぞれに異なるエネルギー感度特性のイメージセンサを配置しておき、スプリッタ50で回折X線の振り分けを行うことで、幅広いエネルギー領域の測定が可能なX線検出システムを実現することができる。なお、スプリッタ50による振り分けを4以上にすることも可能である。
【0054】
〈第3実施形態〉
ここで図4を参照して第3実施形態のX線検出システムの構成を説明する。なお、この図4において、図1−図3と同一物には同一番号を付すことで重複した説明を省略する。
【0055】
この第3実施形態では上述した第1〜第2実施形態とスプリッタ50の振り分け構造が異なっている。
【0056】
すなわち、この図4(a)に示されたスプリッタ50は、結像面(XZ平面)内において120°毎の3つの位置に回折X線の結像面を振り分けるように、回折格子40からの回折X線の進行を振り分ける。
【0057】
ここで、スプリッタ50は、回折X線を反射させるミラー51により管形状に構成された管形状X線導光ミラー部(導入部50A、分岐部50B、分岐出力部50C1、分岐出力部50C2、分岐出力部50C3)と、管形状X線導光ミラー部の分岐部(50B)において回折X線の進行を振り分けるべくいずれかの位置で回折X線を透過させる回転選択式シャッタ55(図4(b)−(d)参照)と、回転選択式シャッタ55を駆動する駆動部(図示せず)と、各種の判定条件により回転選択式シャッタ55の回転位相を制御するよう駆動部に指示を与える制御部54と、を備えて構成される。
【0058】
イメージセンサ70(70A、70B、70C)は、異なるエネルギー領域の回折X線を検出するため、軟X線に感度を有するX線用の高/中/低エネルギー感度特性の3種類のX線用のCCDカメラあるいはX線用のCMOSカメラである。望ましくは、背面照射型のX線用CCDカメラで構成されている。このイメージセンサ70は、その受光面が回折X線の結像面に一致するように位置調整がなされる。
【0059】
ここでは、イメージセンサ70Aがスプリッタ50の分岐出力部50C1側の結像面に取り付けられ、イメージセンサ70Bがスプリッタ50の分岐出力部50C2側の結像面に取り付けられ、イメージセンサ70Cがスプリッタ50の分岐出力部50C3側の結像面に取り付けられ、ている。なお、イメージセンサ70A〜70Cで、それぞれに異なるエネルギー感度特性のイメージセンサを配置しておく。
【0060】
以上の構成において、エネルギー値、使用する回折格子40の種類、試料20の材質(カソードルミネッセンスを発生しやすいか否かなど)、使用しているX線ウィンドウの種類、特性X線とカソードルミネッセンスの信号強度比などの判定条件を参照し、予め定められた判定条件を用いて制御部54が、可動ミラー駆動部に対して回転指示を与える。
【0061】
たとえば、以上の判定条件に基づいて、制御部54がイメージセンサ70Aでの測定を決定した場合には、図4(b)に示すように、駆動部に指示を与えて回転選択式シャッタ55の開口部55hを分岐出力部50C1に合わせるように動作させる。これにより、スプリッタ50の導入部50Aから入射した回折X線は、分岐部50Bから分岐出力部50C1側に導かれて、イメージセンサ70Aの受光面に結像し、イメージセンサ70Aによって試料20による回折X線のスペクトルが採取されて測定される。
【0062】
また、以上の判定条件に基づいて、制御部54がイメージセンサ70Bでの測定を決定した場合には、図4(c)に示すように、駆動部に指示を与えて回転選択式シャッタ55の開口部55hを分岐出力部50C2に合わせるように動作させる。これにより、スプリッタ50の導入部50Aから入射した回折X線は、分岐部50Bから分岐出力部50C2側に導かれて、イメージセンサ70Bの受光面に結像し、イメージセンサ70Bによって試料20による回折X線のスペクトルが採取されて測定される。
【0063】
更に、以上の判定条件に基づいて、制御部54がイメージセンサ70Cでの測定を決定した場合には、図4(d)に示すように、駆動部に指示を与えて回転選択式シャッタ55の開口部55hを分岐出力部50C3に合わせるように動作させる。これにより、スプリッタ50の導入部50Aから入射した回折X線は、分岐部50Bから分岐出力部50C3側に導かれて、イメージセンサ70Cの受光面に結像し、イメージセンサ70Cによって試料20による回折X線のスペクトルが採取されて測定される。
【0064】
以上のように、イメージセンサ70A、70B、70Cでそれぞれに異なるエネルギー感度特性のイメージセンサを配置しておき、スプリッタ50と回転選択式シャッタ55とで回折X線の振り分けを行うことで、幅広いエネルギー領域の測定が可能なX線検出システムを実現することができる。なお、スプリッタ50と回転選択式シャッタ55とによる振り分けを4以上にすることも可能である。
【0065】
〈第4実施形態〉
ここで図5を参照して第4実施形態のX線検出システムの構成を説明する。なお、この図5において、図1と同一物には同一番号を付すことで重複した説明を省略する。
【0066】
この第4実施形態では上述した第1実施形態とスプリッタ50後のイメージセンサ70部分の接続が異なっている。
【0067】
すなわち、この図5に示された第4実施形態において、電子線照射部10、試料20、X線集光ミラー部30、回折格子40、スプリッタ50、スプリッタ50の一方の分岐出力部50C1側のイメージセンサ70A、の部分は第1実施形態と同じである。
【0068】
一方、スプリッタ50の他方の分岐出力部50C2側には、マイクロチャンネルプレート60が接続され、マイクロチャンネルプレート60の出力側にイメージセンサ70Bが接続されている。
【0069】
ここで、電子線が照射された試料20から放出される特性X線を回折格子40で受けて回折X線を生じさせ、スプリッタ50で振り分けた後、該回折X線の結像面にマイクロチャンネルプレート60の入力面を配置すると共に、該マイクロチャンネルプレート60の出力面側にイメージセンサ70Bを配置している。
【0070】
また、マイクロチャンネルプレート60は、微小な光電子増倍管を多数束ねた構造になっており、入力面に軟X線が入射すると電子が飛び出し、この電子が各チャンネルの壁に当たってアバランシェ効果により電子が増幅され、出力面側に設けられた蛍光面を光らせる構成になっている。
【0071】
このため、マイクロチャンネルプレート60の出力面側の蛍光面の蛍光に感度を有するイメージセンサ70Bを配置する。このようなマイクロチャンネルプレート60の光電子増倍効果を採用することで、非常に高感度な測定が可能になる。
【0072】
図6は蛍光面を有する状態で構成されたマイクロチャンネルプレート60の構成の一例を示す説明図である。ここでは、回折X線を増幅するマイクロチャンネルプレート61aと61bの2段構成になっており、出力側にはマイクロチャンネルプレート61bの出力光を受けて蛍光を発する蛍光面62が配置されている。
【0073】
なお、マイクロチャンネルプレート61a,61bに印加する電圧V1を可変とすることで増幅率を調整することが可能であり、また、蛍光面62に印加する電圧V2を可変とすることで蛍光状態を調整することが可能である。また、マイクロチャンネルプレート61a,61bは、2段階増幅とすることで、1段のみで電圧を上げた場合よりも低ノイズの増幅が可能となる。
【0074】
以上の構成において、エネルギー値、使用する回折格子40の種類、試料20の材質(カソードルミネッセンスを発生しやすいか否かなど)、使用しているX線ウィンドウの種類、特性X線とカソードルミネッセンスの信号強度比などの判定条件を参照し、予め定められた判定条件を用いて制御部54が、可動ミラー駆動部52に対して動作指示を与える。
【0075】
以上のように、イメージセンサ70Aと、マイクロチャンネルプレート60を介したイメージセンサ70Bとを配置しておき、スプリッタ50で回折X線の振り分けを行うことで、幅広いエネルギー領域の測定が可能なX線検出システムを実現することができる。また、上述した第2実施形態や第3実施形態のスプリッタ50の分岐出力部のいずれかに、この第4実施形態で示したマイクロチャンネルプレート60を採用することも可能である。
【0076】
〈第5実施形態〉
ここで図7を参照して第5実施形態のX線検出システムの構成を説明する。なお、この図7において、図1や図5と同一物には同一番号を付すことで重複した説明を省略する。
【0077】
この第5実施形態では上述したマイクロチャンネルプレート60を用いた第4実施形態からスプリッタ50とイメージセンサ70Aを除いた構成になっている。すなわち、特開2002−329473号公報などに示されるX線検出システムにおいて、イメージセンサ70の前にマイクロチャンネルプレート60を設けたことを特徴としている。
【0078】
ここでは、電子線が照射された試料20から放出される特性X線を回折格子40で受けて回折X線を生じさせ、該回折X線の結像面にマイクロチャンネルプレート60の入力面を配置すると共に、該マイクロチャンネルプレート60の出力面側にイメージセンサ70を配置している。このため、マイクロチャンネルプレート60の出力面側の蛍光面の蛍光に感度を有するイメージセンサ70を配置する。このようなマイクロチャンネルプレート60の光電子増倍効果を採用することで、非常に高感度な測定が可能になる。
【0079】
そして、図8(a)に示すように、マイクロチャンネルプレート60の波長−量子化効率特性は、一例として、軟X線波長領域では8%、カソードルミネッセンスの波長領域では0.8%と、10倍程度の大きな違いがある。この結果、イメージセンサ70の直前にマイクロチャンネルプレート60を設けたX線検出システムでは、カソードルミネッセンスを軟X線に対して1/10に低減することが可能になる。すなわち、マイクロチャンネルプレート60は、カソードルミネッセンス領域の量子効率より軟X線領域の量子効率が高い特性を有するものであり、カソードルミネッセンスが発生していても、イメージセンサ70に入射するX線の比率を大きくすることが可能になる。
【0080】
発明者らが実験したところ、カソードルミネッセンスなどの迷光の影響を受けた状態での回折X線の測定結果のイメージを示すと図8(b)のようであった。これに対し、この第5実施形態のマイクロチャンネルプレート60によるカソードルミネッセンスの低減効果を伴う回折X線の測定結果は、試料20に対する電子線の照射や回折格子40は同一であるにもかかわらず、図8(c)のように、非常に鮮明に回折光の様子(エネルギー分布)が確認できた。
【0081】
なお、この第5実施形態ではスプリッタ50を用いていない状態であるが、第4実施形態のようにスプリッタ50を使用してマイクロチャンネルプレート60を使用した場合であっても、同様にカソードルミネッセンスなどの迷光の影響を低減した状態のX線検出が可能になる。
【0082】
〈第6実施形態〉
ここで図9を参照して第6実施形態のX線検出システムの構成を説明する。なお、この図9において、他の図面と同一物には同一番号を付すことで重複した説明を省略する。
【0083】
この第6実施形態では上述した第4実施形態と同様にマイクロチャンネルプレート60をイメージセンサ70Bの直前に配置している。
【0084】
ここで、以上のマイクロチャンネルプレート60を回折X線の進行方向に対して傾斜した状態に保持する管状の傾斜保持部61を配置する。なお、この傾斜保持部61は、X線を反射するミラーにより構成するものであり、分岐出力部50C2と一体に、すなわち、分岐出力部50C2の出射側端面を傾斜させて構成してもよい。さらに、マイクロチャンネルプレート60を回動可能な状態で保持する回動保持部62を配置する。なお、傾斜保持部61と回動保持部62とを一体的に構成し、傾斜回動保持部としてもよい。また、マイクロチャンネルプレート60を所定の回転角で回転させる回動制御部(図示せず)を設ける。
【0085】
一般にマイクロチャンネルプレート60を構成する多数の微小な光電子増倍管はバイアス角と呼ばれる若干の傾斜角を有しており、入射光に対して角度依存の感度特性を有している。そこで、このマイクロチャンネルプレート60のバイアス角をカバーするように傾斜保持部61の傾斜角を定め、傾斜させた状態でマイクロチャンネルプレート60を回転させることにより、マイクロチャンネルプレート60の最適感度を得られる角度で回折X線をマイクロチャンネルプレート60に入射させることが可能になる。
【0086】
なお、この第6実施形態では、スプリッタ50の分岐出力部50C2側にマイクロチャンネルプレート60を配置したものを示したが、第5実施形態のようにスプリッタ50を使用しないX線検出システムにおいてもマイクロチャンネルプレート60の傾斜回転により良好な感度特性を得ることができる。
【0087】
〈第7実施形態〉
ここで図10を参照して第7実施形態のX線検出システムの構成を説明する。
【0088】
なお、この第7実施形態は複数の回折格子40を選択可能にした構成を示しており、上述した第1〜第6実施形態のそれぞれに適用することが可能である。
【0089】
以上の各実施形態ではスプリッタ50を使用して複数のイメージセンサ70でそれぞれに異なるエネルギー感度特性のイメージセンサを選択使用することで、または、マイクロチャンネルプレート60を使用することで、幅広いエネルギー領域の測定が可能なX線検出システムを実現することができた。
【0090】
このため、このような幅広いエネルギー領域の測定に合わせて、複数の回折格子40を選択使用して、必要な分解能、被測定エネルギー範囲の違いなどに対応できることが望ましい。
【0091】
そこで、図10(a)に示すように、X方向に移動可能な回折格子保持部41と、この回折格子保持部41上にX方向に平面的に配置した複数の回折格子40(回折格子40_1、回折格子40_2、回折格子40_3、回折格子40_4)を用意する。そして、図示しない駆動機構と制御部とによって、回折格子40_1、回折格子40_2、回折格子40_3、回折格子40_4のいずれかが試料20からの特性X線を回折させるように、X方向の駆動制御を行う。これにより、幅広いエネルギー領域の測定に合わせて、複数の中から適した回折格子40_1〜40_4のいずれかを選択使用できる。
【0092】
一方、図10(b)に示すように、Z方向に移動可能な回折格子保持部41a,41bと、この回折格子保持部41a,41bによりZ方向に積層状態で保持された複数の回折格子40(回折格子40_1、回折格子40_2、回折格子40_3、回折格子40_4)を用意する。そして、図示しない駆動機構と制御部とによって、回折格子40_1、回折格子40_2、回折格子40_3、回折格子40_4のいずれかが試料20からの特性X線を回折させるように、Z方向の駆動制御を行う。これにより、幅広いエネルギー領域の測定に合わせて、複数の中から適した回折格子40_1〜40_4のいずれかを選択使用できる。
【0093】
なお、図10(b)の場合には、積層保持する回折格子40に対して、入射側と出射側とに開口を設ければ、異なる形状の回折格子保持部であってもよい。
【0094】
また、図10(a)(b)に示した4枚の回折格子40は一例であり、2枚、3枚、あるいは5枚以上の回折格子40を選択使用することも可能である。また、2枚の回折格子40を使用する場合には、回折格子保持部41(図10(a))の両面に貼付し、回折格子保持部41を反転させることで、使用する回折格子40を切り替えることも可能である。
【符号の説明】
【0095】
10 電子線照射部
20 試料
30 X線集光ミラー部
40 回折格子
50 スプリッタ
60 マイクロチャンネルプレート
70 イメージセンサ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、
電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、
前記回折X線のエネルギー分散方向と直交方向の複数の位置に前記回折X線の結像面を振り分けるように前記回折X線の進行を振り分けるスプリッタと、
前記スプリッタにより振り分けられた複数の結像面のそれぞれに配置された異なるエネルギー感度特性の複数のイメージセンサと、
を有することを特徴とするX線検出システム。
【請求項2】
前記スプリッタは、
前記回折X線を反射させるミラーにより管形状に構成された管形状X線導光ミラー部と、
前記管形状X線導光ミラー部の分岐部分において前記回折X線の進行を振り分ける可動ミラー部と、
前記可動ミラー部の位置を制御する可動ミラー制御部と、を備える、
ことを特徴とする請求項1記載のX線検出システム。
【請求項3】
前記複数のイメージセンサは、
高エネルギー感度特性側はX線用イメージセンサであり、
低エネルギー感度特性側は、マイクロチャンネルプレートを受光面側に備えたイメージセンサである、
ことを特徴とする請求項1−2に記載のX線検出システム。
【請求項4】
試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、
電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、
前記回折X線の結像面に入力面が位置するように配置されたマイクロチャンネルプレートと、
前記マイクロチャンネルプレートの出力面側に配置されたイメージセンサと、
を有することを特徴とするX線検出システム。
【請求項5】
前記マイクロチャンネルプレートは、
カソードルミネッセンス領域の量子効率より軟X線領域の量子効率が高い特性を有する、
を有することを特徴とする請求項3−4に記載のX線検出システム。
【請求項6】
前記マイクロチャンネルプレートを前記回折X線の進行方向に対して傾斜した状態であって回動可能な状態で保持する傾斜回動保持部と、
前記傾斜回動保持部により保持された前記マイクロチャンネルプレートを回動させる回動制御部と、
を有することを特徴とする請求項3−5のいずれか一項に記載のX線検出システム。
【請求項7】
前記回折格子は不等間隔回折格子である、
ことを特徴とする請求項1−6のいずれか一項に記載のX線検出システム。
【請求項1】
試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、
電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、
前記回折X線のエネルギー分散方向と直交方向の複数の位置に前記回折X線の結像面を振り分けるように前記回折X線の進行を振り分けるスプリッタと、
前記スプリッタにより振り分けられた複数の結像面のそれぞれに配置された異なるエネルギー感度特性の複数のイメージセンサと、
を有することを特徴とするX線検出システム。
【請求項2】
前記スプリッタは、
前記回折X線を反射させるミラーにより管形状に構成された管形状X線導光ミラー部と、
前記管形状X線導光ミラー部の分岐部分において前記回折X線の進行を振り分ける可動ミラー部と、
前記可動ミラー部の位置を制御する可動ミラー制御部と、を備える、
ことを特徴とする請求項1記載のX線検出システム。
【請求項3】
前記複数のイメージセンサは、
高エネルギー感度特性側はX線用イメージセンサであり、
低エネルギー感度特性側は、マイクロチャンネルプレートを受光面側に備えたイメージセンサである、
ことを特徴とする請求項1−2に記載のX線検出システム。
【請求項4】
試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、
電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、
前記回折X線の結像面に入力面が位置するように配置されたマイクロチャンネルプレートと、
前記マイクロチャンネルプレートの出力面側に配置されたイメージセンサと、
を有することを特徴とするX線検出システム。
【請求項5】
前記マイクロチャンネルプレートは、
カソードルミネッセンス領域の量子効率より軟X線領域の量子効率が高い特性を有する、
を有することを特徴とする請求項3−4に記載のX線検出システム。
【請求項6】
前記マイクロチャンネルプレートを前記回折X線の進行方向に対して傾斜した状態であって回動可能な状態で保持する傾斜回動保持部と、
前記傾斜回動保持部により保持された前記マイクロチャンネルプレートを回動させる回動制御部と、
を有することを特徴とする請求項3−5のいずれか一項に記載のX線検出システム。
【請求項7】
前記回折格子は不等間隔回折格子である、
ことを特徴とする請求項1−6のいずれか一項に記載のX線検出システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図8】
【公開番号】特開2012−33370(P2012−33370A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171612(P2010−171612)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本顕微鏡学会、日本顕微鏡学会 第66回学術講演会 発表要旨集、Vol.45,Supplement 1,2010、平成22年5月23日発行
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人科学技術振興機構 産学共同シーズイノベーション化事業
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本顕微鏡学会、日本顕微鏡学会 第66回学術講演会 発表要旨集、Vol.45,Supplement 1,2010、平成22年5月23日発行
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人科学技術振興機構 産学共同シーズイノベーション化事業
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
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