説明

X線検査装置

【課題】X線フラットパネル検出器を用いたX線検査装置において、クラスタ状の欠陥についても補完処理を行い、しかも、その補完処理により擬似的な像が生じても、オペレータによる良/不良判定に誤りが生じることを防止することができ、ひいては長期にわたってX線フラットパネル検出器を使用することのできるX線検査装置を提供する。
【解決手段】X線フラットパネル検出器2の欠陥画素を抽出し、その欠陥画素の出力データを周囲の画素の出力データを用いて補完して表示器に表示する欠陥画素補完手段13,15を備えるとともに、その欠陥画素補完手段による補完の対象となった画素を、表示器13の画面上で報知する補完対象画素報知手段を設けることで、欠陥画素の位置情報と、補完後の像の変化から、検査に影響を与えるか否かをユーザが判断できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物にX線を照射し、その透過X線の空間強度分布をX線検出器で検出し、そのX線検出器の出力を用いて、被検査物のX線透視像や断層像を構築して表示器に表示するX線検査装置に関し、更に詳しくは、X線検出器としてX線フラットパネル検出器を用いたX線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線検査装置で被検査物のX線画像を取得するために用いる検出器として、近年、X線フラットパネル検出器の採用が増加している。X線フラットパネル検出器は、X線を検出する素子をマトリクス状に配列した構造を有し、イメージインテンシファイアを用いた検出器に比して小型軽量で、しかも解像度が良好でダイナミックレンジが広く、精細でコントラスト比の良好なX線画像を得ることができる。
【0003】
このようなX線フラットパネル検出器では、その構造と製造上の原因による素子の異常に基づく欠陥画素が含まれる場合がある。欠陥画素はそれぞれが単独で孤立して存在する場合以外に、密集してクラスタ状に存在する場合があり、このようなクラスタ状の欠陥は、X線の照射による素子の劣化が原因で生じ、X線フラットパネル検出器の総使用時間が長くなるにつれ、そのサイズが大きくなる傾向にある。
【0004】
X線フラットパネル検出器における欠陥画素は、その周囲の正常画素の情報を用いて補完処理を行うことにより、見かけ上はその欠陥が画像上に現れないようにすることができる。すなわち、例えばX線検出器に対して略一様なX線を照射したときの各画素出力を、あらかじめ設定されているしきい値と比較することにより、正常画素と欠陥画素とを弁別して記憶し、被検査物のX線透視像を得たとき、欠陥画素の輝度値については、その周囲の正常画素の輝度値を用いて補完した値とすることにより、欠陥がX線透視像に現れないようにすることができる(例えば特許文献1,2参照)。
【特許文献1】国際公開03/049029号パンフレット
【特許文献2】特開2006−234557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記したような欠陥画素の補完処理を、大きなクラスタ状の欠陥に対して行うと、画像に擬似的な輪郭が生じることがある。X線検査装置のユーザは、主としてサンプル内部の亀裂や、ワイヤの断線、金属の内部にあるボイド等の不良個所の観察を行っているが、欠陥画素の補完処理により画像に擬似的な輪郭が生じると、不良部分が正常であるように見え、あるいは逆に、正常部分が不良であるように見える場合がある。図5にその例を示す。この図5の例は、半導体装置内部を拡大透視した画像であり、図中破線で囲んだ部位の中央においてワイヤが断線しているような画像となっている。しかし、この半導体装置は実際にはワイヤの断線はなく、ワイヤが断線しているように見える部分にクラスタ状の欠陥が存在し、その欠陥を補完処理した結果としてこのような画像となったものである。
【0006】
以上のような補完処理に由来する擬似的な輪郭の発生は、通常、オペレータは気づかないため、ある程度大きなクラスタ状の欠陥に対して補完処理を行った場合、オペレータは良/不良の判断を誤る恐れがあった。
【0007】
このようなことから、従来、クラスタ状の欠陥に対しては一般に補完処理は行わず、そのような欠陥が生じた場合には、ユーザは新しいX線フラットパネル検出器に交換するしか選択肢がなかった。しかしながら、X線フラットパネル検出器は高価なものであるため、頻繁に交換することはユーザにとって負担が大きく、画像に欠陥が現れたままの状態で使用を続けるユーザも存在しているのが実情である。
【0008】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、クラスタ状の欠陥についても補完処理を行い、しかも、その補完処理により擬似的な像が生じても、オペレータによる良/不良の判定に誤りが生じることを防止することができ、ひいてはX線フラットパネル検出器を長期にわたって使用し続けることのできるX線検査装置の提供をその課題としている。
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明のX線検査装置は、X線源からのX線を被検査物に照射したときの透過X線をX線検出器で検出し、そのX線検出器の出力を用いて被検査物のX線画像を構築して表示器に表示するとともに、そのX線検出器としてX線フラットパネル検出器を用いたX線検査装置において、上記X線フラットパネル検出器の欠陥画素を抽出し、その欠陥画素の出力データを周囲の画素の出力データを用いて補完して上記表示器に表示する欠陥画素補完手段を備えるとともに、その欠陥画素補完手段による補完の対象となった画素を、上記表示器の画面上で報知する補完対象画素報知手段を備えていることによって特徴づけられる(請求項1)。
【0010】
ここで、本発明においては、上記補完対象画素報知手段による報知を、該当の画素に着色して表示することによるものとする構成(請求項2)を好適に採用することができる。
【0011】
また、本発明においては、上記補完対象画素報知手段による報知の仕方として、該当の画素の周囲を囲む表示を上記表示器の画面上に重畳表示する構成(請求項3)を採用することもできる。
【0012】
そして、本発明においては、上記補完対象画素報知手段による報知のための表示の実行/非実行を選択可能とする構成(請求項4)を採用することが望ましい。
【0013】
本発明は、欠陥画素の補完機能を有するX線検査装置において、補完の対象となった画素をオペレータに対して報知することにより、課題を解決しようとするものである。
【0014】
すなわち、ある程度大きなクラスタ状の欠陥の補完処理により、画像に疑似輪郭が生じ、検査に支障が出るか否かは、被検査物に、換言すればX線画像に依存する。被検査物によっては、クラスタ状の欠陥に対して補完処理を施しても、検査には支障がない場合がある。そこで、本発明においては、補完処理の対象となった画素について、着色する(請求項2)か、あるいはその周囲を囲む表示を行う(請求項3)ことにより、画面上で報知する。これにより、被検査物のX線画像において、補完処理の対象画素により良否判定に誤りが生じるか否かを、オペレータないしはユーザ自身で判断することができる。検査に支障がない場合には、補完処理を行うことで、クラスタ状の欠陥が生じていてもX線フラットパネル検出器を継続して使用することができる。また、補完により画像に疑似輪郭が生じる場合でも、補完箇所が判っているため、注目領域がその箇所を外れるようにして検査を行うことも可能となる。
【0015】
ここで、補完対象領域の画面上での表示と、その表示を見て疑似輪郭の発生の有無等の判断は、検査に先立って行えばよいものであるため、請求項4に係る発明のように、補完対象領域の表示の実行/非実行はオペレータにより随意に選択できるようにしておくことで、実際の検査に当たってその表示が邪魔になることを防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、補完処理の対象となった画素がオペレータに判るため、オペレータのがその補完処理が検査に影響を与えないと判断すれば、ある程度大きなクラスタ状の欠陥が生じても補完処理を行うことができ、画像に欠陥が現れない状態で、X線フラットパネル検出器を長期にわたって使用することができる。これにより、X線フラットパネル検出器の交換に伴うユーザの負担を軽減することができる。
【0017】
また、本発明によると、ユーザは、補完処理が作用している箇所の大きさや数などから、X線フラットパネル検出器の劣化の進行状態を知ることができ、その交換を計画的に行うことができるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態の構成図で、機械的構成を表す模式図と機能的構成を表すブロック図とを併記して示す図である。
【0019】
X線源1は鉛直上方に向けてコーンビーム状のX線を発生し、そのX線源1の鉛直上方には、X線フラットパネル検出器2が対向配置されている。そして、これらのX線源1とX線フラットパネル検出器2との間に、被検査物Wを搭載するテーブル3が配置されている。テーブル3はX線を透過させやすい樹脂によって形成されており、このテーブル3はテーブル移動機構4の駆動により互いに直交する3軸方向に移動させることができる。
X線フラットパネル検出器2の画素出力は画像データ取り込み回路10に取り込まれ、画像形成部11によってX線透視画像の形成に供される。形成されたX線透視像は、表示制御部12を通じて表示器13に表示される。
【0020】
欠陥画素の補完処理を行う場合には、まず、テーブル3上に何も載せない状態でX線を照射したときのX線フラットパネル検出器2の画素出力を画像データ取り込み回路10を介して欠陥画素抽出部14に取り込み、あらかじめ設定されているしきい値を用いて、しきい値以下の画素値(輝度値)のものを欠陥画素として抽出する。その抽出された欠陥画素は欠陥画素記憶部15に記憶される。そして、以後、後述する操作部18の操作により補完処理の実行が選択されている場合に、欠陥画素記憶部15に記憶された画素については、補完処理部16において周辺の正常画素の画素値を用いた補完処理に供されたうえで画像形成部11に送られる。画像形成部11では、補完処理部16により補完された画素については、画像データ取り込み回路10から取り込んだ実際の画素値を用いず、補完処理後の画素値を用いてX線透視像を構築し、表示制御部12を介して表示器13に表示する。
【0021】
補完処理の方法は既に種々のものが提案されており、その任意のものを用いることができ、例えば欠陥画素の近傍の所定数の正常画素の画素値を平均化して欠陥画素の画素値としたり、あるいはその他の空間フィルタ処理などを用いて欠陥画素の画素値を算出する方法もある。
【0022】
上記した画像形成部11、表示制御部12、欠陥画素抽出部14、欠陥画素記憶部15および補完処理部16等は、制御部17の制御下に置かれている。ここで、これらは実際にはコンピュータとその周辺機器によって構成され、コンピュータにインストールされたプログラムに従った機能を実現するのであるが、図1では説明の便宜上、その主要な機能ごとのブロックによって表している。
【0023】
制御部17は、前記したテーブル移動機構4と、X線源1を駆動制御するX線コントローラ18をも制御下においているとともに、キーボードやマウス、あるいはジョイスティック等からなる操作部19が接続されており、この操作部18の操作によって、テーブル移動機構4を駆動してテーブル3を任意の方向に移動させたり、あるいは補完処理を実行するか否か、更には後述するように補完処理の対象となった画素を報知すべく着色表示するか否かなど、各種指令を与えることができる。
【0024】
さて、この実施の形態の特徴は、欠陥画素の補完処理を実行するように選択した場合、その補完処理の対象となった画素について着色表示する機能を有している点である。図2にその表示器13による表示例を模式的に示す。この例では、被検査物WのX線透視像上で、Cで示す領域が着色され、この領域Cがクラスタ状の欠陥であることを示している。この着色を行うか否かは、操作部18の操作によって選択することができる。着色を選択した場合には、制御部17から表示制御部12にその旨の指令が与えられ、補完処理部16で補完の対象となった画素について、あらかじめ設定されている色を付して表示器13に表示する。
【0025】
図3はオペレータによる補完処理の実行/非実行および着色処理の実行/非実行の選択状況に基づく表示器13への表示の仕方をまとめて示すフローチャートである。欠陥画素の補完処理を行うように選択されている場合には、画像データ取り込み回路10を介して取り込んだX線フラットパネル検出器2の画素出力のうち、欠陥画素の出力に補完処理を施したX線透視像が表示器13に表示され、補完処理の非実行が選択されている場合には、同じく画像取り込み回路10を介して取り込んだX線フラットパネル検出器2の画素出力をそのまま用いたX線透視像が表示器13に表示される。また、補完処理の実行を選択している状態で、着色処理の実行が選択されている場合に限り、補完処理の対象となった欠陥画素が着色されて表示器13に表示される。この着色はX線透視像の濃淡をそのまま表示した上で薄く色をのせたものが望ましい。
【0026】
以上の機能を持つ本発明の実施の形態を使用する際は、例えば、検査作業を行う前に、オペレータは被検査物Wをテーブル3上に載せて補完処理の実行を選択するとともに、着色処理の実行を選択する。これにより、補完処理の対象となった画素が着色されたX線透視画像が表示器13に表示され、その表示から、補完処理により被検査物Wの透視像がどのように見えているかを確認し、検査に支障が生じないか否かを判断する。検査に支障がないと判断された場合には、補完処理を実行したまま、着色処理を非実行として検査を行う。一方、検査に支障があると判断された場合でも、場合によってはその欠陥箇所を避けて検査を行うことができる。
【0027】
以上のことから、従来はX線フラットパネル検出器を交換するしか選択肢がなかったクラスタ状の欠陥の発生によっても、ユーザサイドの判断により補完処理を実行して使用の継続が可能となるか、あるいはその欠陥箇所を避けて検査を行うことが可能となり、ユーザの負担を軽減することができる。
【0028】
また、補完処理の対象となった画素の着色により、ユーザはクラスタ状の欠陥の位置や大きさ、数を一目で知ることができ、X線フラットパネル検出器の劣化の進行具合を知ってその交換を計画的に行うことも可能となる。
【0029】
ここで、本発明における補完対象画素の報知の方法としては、以上の実施の形態のように着色によるほか、欠陥の周囲を囲む方法を採用することができる。図4はその表示例の模式的な説明図であり、この例は、図2に示したものと同じ欠陥に対して、その周囲を規程の寸法だけ間をあけて枠C′で囲んだ例を示している。このような報知方法でも上記と同等の作用効果を奏することができる。
【0030】
また、以上の実施の形態は、本発明をX線透視を行う検査装置に適用した例を示したが、本発明はX線CT装置にも適用することができる。その場合、CT撮影に先立って、被検査物をX線で透視した状態で、上記した実施の形態と同等の方法で欠陥画素の抽出と補完、および着色を行えばよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態の構成図で、機械的構成を表す模式図と機能的構成を表すブロック図とを併記して示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における表示器による表示例の説明図である。
【図3】本発明の実施の形態においてオペレータによる選択状況に応じた表示器13への表示の仕方を示すフローチャートである。
【図4】本発明の他の実施の形態における表示器による表示例の説明図である。
【図5】欠陥画素の補完処理により生じる擬似的輪郭の説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1 X線源
2 X線フラットパネル検出器
3 テーブル
4 テーブル移動機構
10 画像データ取り込み回路
11 透視像形成部
12 表示制御部
13 表示器
14 欠陥画素抽出部
15 欠陥画素記憶部
16 補完処理部
17 制御部
18 操作部
W 被検査物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源からのX線を被検査物に照射したときの透過X線をX線検出器で検出し、そのX線検出器の出力を用いて被検査物のX線画像を構築して表示器に表示するとともに、そのX線検出器としてX線フラットパネル検出器を用いたX線検査装置において、
上記X線フラットパネル検出器の欠陥画素を抽出し、その欠陥画素の出力データを周囲の画素の出力データを用いて補完して上記表示器に表示する欠陥画素補完手段を備えるとともに、その欠陥画素補完手段による補完の対象となった画素を、上記表示器の画面上で報知する補完対象画素報知手段を備えていることを特徴とするX線検査装置。
【請求項2】
上記補完対象画素報知手段による報知が、該当の画素に着色して表示することによるものであることを特徴とする請求項1に記載のX線検査装置。
【請求項3】
上記補完対象画素報知手段による報知が、該当の画素の周囲を囲む表示を上記表示器の画面上に重畳表示するものであることを特徴とする請求項1に記載のX線検査装置。
【請求項4】
上記補完対象画素報知手段による報知のための表示の実行/非実行が選択可能であることを特徴とする請求項2または3に記載のX線検査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−145102(P2010−145102A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319354(P2008−319354)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】