説明

X線発生装置

【課題】光軸合わせ作業を簡単且つ迅速に行うことができるX線発生装置を提供する。
【解決手段】 本発明に係るX線発生装置は、電子ビームを発生する電子源1、電子源1に対向配置され電子ビームの衝突によりX線を発生するターゲット4、前記電子源1と前記ターゲット4との間に配置され電子ビームの通過範囲を制限する絞り孔7aを有する絞り手段7、前記電子源1と前記絞り手段7との間に配置され電子ビームを偏向する複数の偏向手段2、前記ターゲット4で発生されたX線量を検出するX線検出手段20、前記X線検出手段20で得られたX線検出データに基づいて前記偏向手段2を制御する制御手段21を備える。制御手段21は偏向信号にスキャン信号を重畳して各偏向手段2を走査制御し、そのとき表示手段には前記X線検出手段20で得られたX線検出データに基づいて電子ビームプロファイル、例えばエミッションパターンが表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームを走査させることができるX線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なX線発生装置では、陰極(電子銃)から発生した電子ビームが、電子光学系である偏向コイル群および集束レンズを経て、絞り(アパーチャ)を通過した後、ターゲットに衝突することによりX線が発生する。通常、X線発生装置では偏向コイルに一定の電流を流して電子ビームを偏向し、電子光学系の光軸合わせを行う。
【0003】
X線発生装置において電子光学系の光軸調整が不完全な場合、集束レンズのレンズパワーを変化させると、集束レンズで縮小結像された焦点(電子ビームスポット)位置が移動してしまい、場合によっては電子ビームがターゲットへ全く到達しなくなるという不具合が生じる。特に、X線焦点サイズを小さくするために2段又はそれ以上の集束レンズで電子ビームを縮小結像する装置では、集束レンズの個数と同じだけの光軸が存在し、電子ビームがすべての光軸と一致するように調整する必要がある。
【0004】
通常、X線発生装置は電子顕微鏡と異なり電子ビームを直接観察するための手段を備えておらず、X線撮像装置等のX線検出器で測定されるX線量をもとに電子光学系の光軸合わせが行われる。ところが、このような方法では光軸がずれている方向や光軸のずれの大きさを知ることができない。このため、電子光学系の光軸合わせの感覚をつかみにくく、光軸合わせ作業に手間取ってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-344596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、光軸合わせ作業を簡単且つ迅速に行うことができるX線発生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明は、
a)電子ビームを発生する電子源と、
b)前記電子源に対向配置され、電子ビームの衝突によりX線を発生するターゲットと、
c)前記電子源と前記ターゲットとの間に配置され、電子ビームの通過範囲を制限する絞り孔を有する絞り部材と、
d)前記電子源と前記絞り部材との間に配置され、電子ビームを偏向する偏向手段と、
e)前記ターゲットで発生されたX線量を検出するX線検出手段と、
f)前記X線検出手段で得られたX線検出データに基づき電子ビームの偏向信号を形成して前記偏向手段を制御する制御手段と
を有するX線発生装置において、
前記制御手段は、前記絞り部材のうち前記絞り孔を含む領域に前記電子ビームが照射されるように、前記偏向信号に走査信号を重畳して前記偏向手段を走査制御し、
前記偏向手段の走査制御時における前記X線検出手段で得られたX線検出データに基づいて電子ビームプロファイルを表示する表示手段を備えることを特徴とする。
【0008】
この場合、電子ビームのスキャン信号を発生する、外付けのスキャン信号発生装置を接続可能に備え、前記制御手段は、前記スキャン信号発生装置の発生するスキャン信号を前記偏向信号に重畳し加算するための加算回路を備えると良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、制御手段は、絞り部材のうち絞り孔を含む領域に電子ビームが照射されるように偏向信号に走査信号を重畳して偏向手段を走査制御し、このときX線検出手段で得られたX線検出データに基づいて電子ビームプロファイルが表示手段に表示される。つまり、絞り部材に照射された電子ビームのうち絞り孔を通過した電子ビームがターゲットに衝突することによって発生したX線量がX線検出手段で検出され、その電子ビームプロファイルが表示手段に表示される。従って、電子ビームプロファイルを観察しながら電子ビームが絞り孔の中心位置を通るように電子ビームの偏向量を設定することができ、光軸調整を簡単かつ迅速に行うことができる。
【0010】
また、外付けのスキャン信号発生装置を接続可能に備え、該スキャン信号発生装置からスキャン信号を取得するようにすれば、従来のX線発生装置の構成をそのまま利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例に係るX線発生装置のマイクロフォーカスX線管の光学系概念図。
【図2】X線発生装置の要部構成を示す図。
【図3】制御部におけるスキャン信号発生からエミッションパターン取得までの処理の流れを示すブロック図。
【図4】パーソナルコンピュータの画面に描画されるエミッションパターンの一例を示す図。
【図5】光軸合わせの概念図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施例について図面を参照して説明する。
【実施例】
【0013】
図1及び図2に示すように、本実施例に係るX線発生装置は、X線を発生させるマイクロフォーカスX線管10と、このX線管から出射されたX線を検出するためのX線検出器(シンチレーション検出器)20を備えている。図1にマイクロフォーカスX線管10の光学系概念図を、図2にX線発生装置の要部構成を示す。
マイクロフォーカスX線管10の陰極(カソード)1は、タングステン、6ホウ化ランタン(LaB)、6ホウ化セリウム(CeB)など公知の陰極からなり、この陰極1から発生する電子ビームは、電子光学系たる偏向コイル群2により軌道が偏向される。そして、集束レンズ3により縮小結像されてターゲット4に衝突し、微小焦点からX線を発生する。集束レンズ3のギャップ部分には絞り孔7aを有するアパーチャ7が配置されており、電子ビームの通過範囲を制限している。
【0014】
偏向コイル群2は、電子ビームを光軸(図2に破線Lで示す)に垂直なY方向に偏向するコイル(コイル2a、コイル2b)及びX方向に偏向するコイル(図示せず)から構成されている。各コイルに一定の電流を流すことにより電子ビームが偏向され、光軸の調整が行われる。本実施例に係るX線発生装置は、X線検出器20からのX線検出データに基づき偏向コイル群2を制御する制御部21を備えている。制御部21は、電子ビームがX方向及びY方向に走査(ラスタースキャン)されるように偏向コイル群2を制御し、このときのX線検出器20のX線検出データと、偏向コイル群2における電子ビームの光軸偏向量とに基づいて、電子ビームの光軸を調整する。
【0015】
具体的には、制御部21は、偏向コイル群2の各コイルに流す電流に、スキャン信号として任意の振幅や周波数の鋸波電流を重畳するようになっている。これによって、電子ビームが光軸に垂直なX方向とY方向の2方向に走査(ラスタースキャン)され、X線検出器20において電子ビームの電流角密度分布であるエミッションパターンが取得される。
【0016】
次に、エミッションパターン取得の原理を図2及び図3を用いて説明する。陰極1から放出された電子ビームは鋸波電流の流れる偏向コイル群2により光軸に垂直な2方向にラスタースキャンされる。このとき、特定の角度方向の電子ビームのみがアパーチャ7の絞り孔7aを通過してターゲット4に衝突するため、その方向の電流角密度に比例したX線が発生する。発生したX線はラスタースキャンに同期して、X線検出器20で検出され、各々の角度方向での電流角密度分布、すなわちエミッションパターン(本発明の電子ビームプロファイルに相当)が得られる。
【0017】
図3は、制御部21における、スキャン信号発生からエミッションパターン取得までの処理の流れを示す。本実施例では、制御部21はパーソナルコンピュータ22、スキャン信号発生回路23、スキャン信号制御回路24、光軸合わせ信号発生回路25、加算回路26から構成されている。光軸合わせ信号発生回路25は、本来の電子ビームの光軸合わせに用いる定電位を発生させるものである。
パーソナルコンピュータ22の操作により、スキャン信号発生回路23から鋸波状のスキャン電位が発生する。この信号は、パーソナルコンピュータ22により制御されるスキャン信号制御回路24やスキャン信号発生回路23において振幅や周期が変調された上で加算回路26によって軸合わせ信号発生回路25からの信号と加算された後、電流に変換される。その結果、鋸波状のスキャン電流が偏向コイル群2の各コイルに流れ、電子ビームが特定の振幅、周期でラスタースキャンされる。尚、図3ではX方向に水平走査、Y方向に垂直走査させるようなスキャン電位を示したが、逆にしても良い。
【0018】
X線検出器(シンチレーション検出器)20で発生したX線の検出信号は、光電子増倍管(図示せず)で増強された後、スキャン信号発生回路23に伝達される。このとき、スキャン信号発生回路23は、ラスタースキャンに同期しながら信号を取得することで信号の可視化を行うことができ、この可視化信号がパーソナルコンピュータ22に送信される。これにより、パーソナルコンピュータ22の画面にエミッションパターンが描画される。つまり、本実施例では、スキャン信号発生回路23及びパーソナルコンピュータ22が表示手段として機能する。図4は、パーソナルコンピュータ22の画面に描画されたエミッションパターンの例を示す。図4に示すように、エミッションパターンが画面の中央(図4中、十文字で示す位置)に位置しているときは、電子ビームの光軸が絞り孔の中心に位置している。
【0019】
従って、例えば図5(a)に示すように、エミッションパターンが画面の中央からずれているときは、該エミッションパターンを中央に移動させるように光軸合わせ信号発生回路25が発生する光軸合わせ信号(図3)を調整すれば、光軸合わせを正確かつ容易に行うことができる。
【0020】
なお、本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のような変形が可能である。
(1)上述した実施例では、偏向コイル群2はいわゆる1段式であったが、2段以上であってもよい。
(2)上述した実施例では、X線発生装置とX線検出器とは別体であったが、X線発生装置の中にX線検出器が組み込まれていてもよい。
(3)上述した実施例では、偏向手段として偏向コイルを用いているが、偏向電極を用いてもよい。
(4)X線発生装置とは別体で該X線発生装置に外付けされるスキャン信号発生装置を備えるようにしても良い。この場合、電子ビームの光軸合わせを行うときにのみスキャン信号発生装置をX線発生装置に接続し、前記スキャン信号発生装置が発生するスキャン信号が制御回路の加算回路を介して偏向コイルに重畳させるようにすることができる。
【符号の説明】
【0021】
1…陰極
2…偏向コイル群
3…集束レンズ
4…ターゲット
7…アパーチャ
7a…絞り孔
10…マイクロフォーカスX線管
20…X線検出器
21…制御部
22…パーソナルコンピュータ
23…スキャン信号発生回路
24…スキャン信号制御回路
25…光軸合わせ信号発生回路
26…加算回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)電子ビームを発生する電子源と、
b)前記電子源に対向配置され、電子ビームの衝突によりX線を発生するターゲットと、
c)前記電子源と前記ターゲットとの間に配置され、電子ビームの通過範囲を制限する絞り孔を有する絞り部材と、
d)前記電子源と前記絞り手段との間に配置され、電子ビームを偏向する偏向手段と、
e)前記ターゲットで発生されたX線量を検出するX線検出手段と、
f)前記X線検出手段で得られたX線検出データに基づき電子ビームの偏向信号を形成して前記偏向手段を制御する制御手段と
を有するX線発生装置において、
前記制御手段は、前記絞り部材のうち前記絞り孔を含む領域に前記電子ビームを照射するように、前記偏向信号に走査信号を重畳して前記偏向手段を走査制御し、
前記偏向手段の走査制御時における前記X線検出手段で得られたX線検出データに基づいて電子ビームプロファイルを表示する表示手段を備えることを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
電子ビームのスキャン信号を発生する、外付けのスキャン信号発生装置を接続可能に備え、
前記制御手段は、前記スキャン信号発生装置の発生するスキャン信号を、前記偏向信号に重畳し加算するための加算回路を備えることを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−43599(P2012−43599A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182959(P2010−182959)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】