X線装置
【課題】X線の利用効率、計測感度が向上され、装置の小型、軽量化、コストダウンを実現できるX線装置を実現する。
【解決手段】X線を照射するX線源と、このX線源の下方に設けられ前記X線の照射方向に直交して流れる測定試料を透過した光を受光検出するX線検出器とを具備するX線装置において、前記測定試料の流れ方向に略直交して前記X線源と前記測定試料との間に設けられ前記X線の反射線束を前記測定試料に照射する反射鏡を具備したことを特徴とするX線装置である。
【解決手段】X線を照射するX線源と、このX線源の下方に設けられ前記X線の照射方向に直交して流れる測定試料を透過した光を受光検出するX線検出器とを具備するX線装置において、前記測定試料の流れ方向に略直交して前記X線源と前記測定試料との間に設けられ前記X線の反射線束を前記測定試料に照射する反射鏡を具備したことを特徴とするX線装置である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線装置に関するものである。
更に詳述すれば、X線の利用効率、計測感度が向上され、装置の小型、軽量化、コストダウンを実現できるX線装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は従来より一般に使用されている従来例の要部構成説明図で、X線を用いた厚さ測定装置の例を示す。
図6は図5の動作説明図である。
【0003】
図において、X線源1に正対してX線検出器2が設置されている。
X線検出器2は、シンチレータを用いたC-MOSやCCDといった半導体受光素子であったり、X線に感度を持たせた直接変換型放射線検出素子検出器である。
X線源1から離れ、X線検出器2に近い位置を測定対象物(試料)Aが、矢印Bに示す如く連続的に通過する。
【0004】
これを高速に撮影して透過線量をリアルタイムに計測し、予め求めておいた透過線量と厚さの関係(検量線)から厚さを算出する。
測定対象が、膜厚測定であったり、塗工量測定の場合は、工程の前後で夫々計測し、その差を求めることで工程(塗工量など)の制御が可能になる。
【0005】
X線検出器2は、所謂ラインセンサを用いるため、小さな検出素子を1列もしくは複数列並べた構造をしており、素子サイズは0.数mm〜2mm程度である。この素子を測定対象物のサイズに合わせて、数十〜数百素子隙間なく並べてある。
従って、X線検出器2のサイズは、数百mm×0.数mmの長方形の領域となる。
【0006】
放射線の取り扱いに関する法令に『利用線錘の放射角がその目的を達するために必要な角度を超えないようにするための照射筒又は絞りを用いなければ成らない』とあるように、X線源1の出口付近に設置されたコリメータ3により放射線(フラックス)を制限して検出器の検出部サイズに合わせたファンビームにしている。ファンビームに制限しなければ、図6に示すようにほぼ真円に近い円錐状のフラックスCが得られる。
【0007】
X線源(X線管)から放射されるフラックスは、X線管の構造により放射角が決まり、透過型であれば比較的広角(100〜130度程度)、反射型であれば狭角(30〜70度程度)に放射されるが、いずれにしても円錐状に放射されているにもかかわらず、ファンビームのみ利用しているので、実際に利用できる線量は極僅かである。
【0008】
今、X線管からコリメータ3等で制限されず、円錐状に照射され試料に当たる直前の照射面積を考える。
直径D=Φ50cmであるとして、検出部で利用できる有効なファンビーム幅Eを1mmとすれば、その単純な面積比は、(50×0.1)/(252×3.14)=0.13%程度にしか満たない。
【0009】
実際は中央部のフラックス強度が強いことから、面積比よりも大きい値にはなることは想像に難くないが、それでも1%程度であって、利用効率が大変悪い。
X線は可視光に対して1/1000程度も短い波長であるため、レンズや反射鏡による集光は大変困難で有用な集光手段が無いため、必要な範囲以外のフラックスは制限して使う以外にない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−005156号公報
【特許文献2】特開2000−131251号公報
【特許文献3】特開2000−266704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような装置においては、以下の問題点がある。
フラックスの利用効率が悪く、僅かでも集光して利用効率を上げられれば、小型のX線管で代用することができるが、比較的容易な(回折や分光に用いられる高価で数mにも及ぶ大掛かりな光学系でない)方法での有用なX線光学系が無い。
【0012】
軟X線や低エネルギーのX線では、大気吸収があるためにビームハードニング(線質硬化)が発生し、試料を遠方に置いての検査はより強大な線源を必要とし大変効率が悪い。
ここで、ビームハードニングとは、連続X線が物質を透過するとき、低エネルギのほうがより多く吸収され、結果的にエネルギピークが高い側に移動(シフト)することを言う。
ビームハードニングが発生すると、透過性の高い試料では、線量の吸収が不十分であるため、試料透過後のX線検出感度が得られず、検出信号レベルが低下して検出精度が悪くなる。
【0013】
高出力の線源は、反射型が多く照射角が比較的小さいため、試料に対して遠方より照射することで、照射面積を稼ぐ必要があった。数十〜数百μmの薄膜の厚さ測定では、数keV〜30keV程度の透過力の弱い光子エネルギーを用いる必要があり、空気吸収の影響を受ける。(前項参照)
【0014】
ビームハードニングを回避するためには、線源、試料、検出器、搬送装置など一式をチャンバ内に封じ込めて真空引きするか、大気吸収の少ない気体でチャンバを作るといった大掛かりな装置となる。
X線源は有寿命でありX線管のほぼ定格で使用すれば、1〜数年に1度程度で交換する必要がある。高価であるとともに交換、調整も面倒なことが多く、大きなランニングコストがかかる。
【0015】
線源と試料の間は通常大気開放となっている。このため、空気の温度、気圧、水分(湿度)等の影響によりX線の吸収量が変化するが、遠方に離すことにより更にこの影響を受けて、測定誤差の要因となる。
【0016】
本発明の目的は、上記の課題を解決するもので、X線の利用効率、計測感度が向上され、装置の小型、軽量化、コストダウンを実現できるX線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような課題を達成するために、本発明では、請求項1のX線装置においては、
X線を照射するX線源と、このX線源の下方に設けられ前記X線の照射方向に直交して流れる測定試料を透過した光を受光検出するX線検出器とを具備するX線装置において、 前記測定試料の流れ方向に略直交して前記X線源と前記測定試料との間に設けられ前記X線の反射線束を前記測定試料に照射する反射鏡を具備したことを特徴とする。
を具備したことを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項2のX線装置においては、請求項1記載のX線装置において、
前記反射鏡は、少なくとも1回前記X線を反射して前記X線の反射線束を前記測定試料に照射するように配置されたことを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項3のX線装置においては、請求項1又は請求項2記載のX線装置において、
前記反射鏡は、前記X線の光路を挟んで対向して配置されたことを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項4のX線装置においては、請求項1乃至請求項3の何れかに記載のX線装置において、
前記反射鏡は、前記X線源に一方端縁が接し他方端縁が前記測定試料の近くまで配置されたことを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項5のX線装置においては、請求項1乃至請求項4の何れかに記載のX線装置において、
前記反射鏡は、重金属の蒸着反射鏡であって、平面あるいは緩い曲率を有する曲面鏡であることを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項6のX線装置においては、請求項1乃至請求項5の何れかに記載のX線装置において、
前記反射鏡は、前記反射鏡を最適角度で反射することができるように微調旋回機構に搭載されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1によれば、次のような効果がある。
直接照射線束に加えて反射線束も試料に照射することができるので、X線源から直接検出素子に到達する線量に対して、数倍の線量増加が可能であるX線装置が得られる。
未利用のX線量を効果的に収束できることから、低出力線源を採用しても、所望のX線量を得ることが出来、X線源の価格が抑えられるとともに、X線源の小型化が図れるX線装置が得られる。
【0024】
従来通り高出力のX線源を用いた場合には、X線管の電流を絞って使えるために長寿命が期待できるX線装置が得られる。
反射鏡自体がX線の漏洩線を防止する効果があるため、遮蔽構造体を簡易化できるX線装置が得られる。
【0025】
本発明の請求項2によれば、次のような効果がある。
反射鏡は、少なくとも1回、X線を反射して、X線の反射線束を、測定試料に照射するように配置されたので、直接検出器に到達しない非利用の線束を検出素子へ向けることが出来、小型化が図れるX線装置が得られる。
【0026】
本発明の請求項3によれば、次のような効果がある。
反射鏡は、X線の光路を挟んで対向して配置されたので、X線を互いに反射し複数回反射が期待でき、1回反射より線量増加が可能であるX線装置が得られる。
【0027】
本発明の請求項4によれば、次のような効果がある。
反射鏡は、X線源に一方端縁が接し他方端縁が測定試料の近くまで配置されたのでX線の反射が確実にできるとともに、漏洩線を抑制する遮蔽構造体としての効果があるX線装置が得られる。
【0028】
本発明の請求項5によれば、次のような効果がある。
反射鏡は、金、白金、銅に代表される重金属の蒸着により、全反射を発生し得る入射角をより大きく取ることができ、反射線量を増加することが可能であるX線装置が得られる。
【0029】
本発明の請求項6によれば、次のような効果がある。
反射鏡は、反射鏡を最適角度で反射することができるように微調旋回機構に搭載されたので、反射角度の調節が容易なX線装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例の要部構成説明図である。
【図2】図1の斜視説明図である。
【図3】図1の説明図である。
【図4】本発明の他の実施例の要部構成説明図である。
【図5】従来より一般に使用されている従来例の要部構成説明図である。
【図6】図5の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下本発明を図面を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例の要部構成説明図、図2は図1の斜視説明図である。
図において、図5と同一記号の構成は同一機能を表す。
以下、図5との相違部分のみ説明する。
【0032】
図1において、X線源11が測定対象物Aの上方にX線出射口を下にして適当な距離を取って正対して設置されている。
測定対象物Aの下方には測定対象物Aから比較的近くに、シンチレーション付きラインカメラ、電離箱、直接変換型半導体検出器などのX線検出器12が測定対象物Aに向けて設置されている。
X線検出素子121は、X線検出器12内に配置されている。
【0033】
測定対象物AとX線源11の中間には、反射鏡(平面反射鏡、緩やかな曲面を有する曲面反射鏡など)13,14が略並行に対向して設置されている。
反射鏡13,14は、表面の極平滑な金、白金、銅などの重金属蒸着反射鏡が好適であり、反射鏡の角度調整が可能なように、旋回が可能な微調整ステージや簡易的に角度調整が可能な微調整旋回機構15によって保持されている。
この場合は、ねじ151,152,153,154で、微調整旋回機構15が構成されている。
【0034】
X線源11の出射口の近くには、X線を制限するコリメータ16もしくは照射筒を具備しており、円錐状に照射されるX線束を、円錐の全幅を確保しつつ、薄く(例えば、3度以下に)スライスしたようにビーム成形する。
また、X線源11からX線検出器12まで比較的距離をとって設置するために、X線の漏洩問題があり、X線束を囲むように遮蔽板17と遮蔽板18でサンドイッチした構造の鉄鋼材やステンレス材などで遮蔽空間が作られている。
【0035】
以上の構成において、X線源11から出射され、コリメータ16で規制された薄いX線束(ファンビーム)は、測定対象物Aを透過して、X線検出器12の位置では幅bの領域に透過X線Nが到達しているが、測定に利用されるX線束は検出素子幅aのみであって、その利用効率は線源から放出される総量に対して1%以下である。
【0036】
本発明では、X線源11と測定対象物Aの任意の位置に対向反射鏡13,14を設置し、直接検出素子121に到達できない、素子の外側に向かう、本来利用できないX線束を反射鏡13,14に極浅く入射させて、X線を全反射させ方向を変えることで、検出素子121に到達するようにしている。
【0037】
図1では、X線源11から図1の右側方向に出射して、反射鏡14の上部で全反射して反射鏡13側方向に向きを変え、反射鏡13で再反射して、検出素子121へ向かう反射X線Mの様子を示している。Nは直射X線である。
これは、一部の例であって、入射の状態で異なった反射となるが、1回もしくは2,3回反射して検出素子121へ向かうことで、直接到達する線量に対して数倍増えることになる。
【0038】
図3に様々な物質に対する8.04keVエネルギーの反射臨界角を示す。原子番号が大きい物質の方が臨界角が大きいことがわかる。また、低エネルギー(軟X線)であれば更に臨界角が大きく、軟X線から数十keV程度の低エネルギーX線では特に有効である。
【0039】
なお、図3の数値は、
独立行政法人物質・材料機構のホームページ/埋もれた界面のX線・中性子解析/ご案内とリンク集/X線反射率ってなに?[平成22年8月10日検索]インターネット
<URL: http://www.nims.go.jp/xray/ref/whats0.htm>
に示されている。
【0040】
この結果、
直接照射線束に加えて反射線束も試料に照射することができるので、X線源から直接検出素子に到達する線量に対して、数倍の線量増加が可能であるX線装置が得られる。
未利用のX線量を効果的に収束できることから、低出力線源を採用しても、所望のX線量を得ることが出来、X線源の価格が抑えられるとともに、X線源の小型化が図れるX線装置が得られる。
【0041】
従来通り高出力のX線源を用いた場合には、X線管の電流を絞って使えるために長寿命が期待できるX線装置が得られる。
反射鏡13,14自体がX線の漏洩線を防止する効果があるため、遮蔽構造体を簡易化できるX線装置が得られる。
【0042】
反射鏡は、少なくとも1回、X線を反射して、X線の反射線束を、測定試料に照射するように配置されたので、直接検出器に到達しない非利用の線束を検出素子へ向けることが出来、小型化が図れるX線装置が得られる。
【0043】
反射鏡13,14は、X線の光路を挟んで対向して配置されたので、X線を互いに反射し複数回反射が期待でき、1回反射より線量増加が可能であるX線装置が得られる。
【0044】
反射鏡13,14は、金、白金、銅に代表される重金属の蒸着により、全反射を発生し得る入射角をより大きく取ることができ、反射線量を増加することが可能であるX線装置が得られる。
【0045】
反射鏡13,14は、反射鏡13,14を最適角度で反射することができるように微調旋回機構15に搭載されたので、反射角度の調節が容易なX線装置が得られる。
【0046】
図4は、本発明の他の実施例の要部構成説明図である。
図4において、反射鏡21,22,23,24は、測定対象物Aの両幅端に対向してそれぞれ対向して配置されている。
測定対象物Aの両幅端のX線束は、距離の逆2乗則により低減するため、コサイン則で線量の減少が発生する。このため、反射鏡で全域をカバーしなくても、周辺の光量が減ってしまう領域にだけ設置することで、反射鏡の大型化を避けて比較的安価に設置が可能である。
【0047】
なお、前述の実施例においては、反射鏡13,14の位置に付いて、X線源11の近傍に有ると説明したが、これに限ることはなく、例えば、
X線検出器12の近傍に置くなどしてもよい。また、X線源11の出射端より、測定対象物Aのギリギリ上まで、全域を覆うような大型の対向反射鏡であっても良い。
全域を覆うような大型の対向反射鏡であれば、X線の反射が確実にできるとともに、漏洩線を抑制する遮蔽構造体としての効果があるX線装置が得られる。
【0048】
なお、前述の実施例においては、反射鏡は対向反射鏡と説明したが、反射鏡による反射線束を利用すればよいので、片側のみの反射鏡であっても良いことは勿論である。
反射鏡の大型化を避けるために任意の位置、形状で反射鏡を分割しても良いことは勿論である。
なお、遮蔽板171,172で構成される空間に、ヘリウムHe等の大気吸収が少ないガスを充填するなどしてもよいことは勿論である。
【0049】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。
したがって本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形をも含むものである。
【符号の説明】
【0050】
1 X線源
2 X線検出器
A 測定対象物
B 矢印
C フラックス
D 直径
E ファンビーム幅
3 コリメータ
11 X線源
12 X線検出器
121 X線検出素子
13 反射鏡
14 反射鏡
15 微調整旋回機構
151 ねじ
152 ねじ
153 ねじ
154 ねじ
16 コリメータ
17 遮蔽板
18 遮蔽板
a 検出素子幅
b 幅
M 反射X線
N 直射X線
21 反射鏡
22 反射鏡
23 反射鏡
24 反射鏡
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線装置に関するものである。
更に詳述すれば、X線の利用効率、計測感度が向上され、装置の小型、軽量化、コストダウンを実現できるX線装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は従来より一般に使用されている従来例の要部構成説明図で、X線を用いた厚さ測定装置の例を示す。
図6は図5の動作説明図である。
【0003】
図において、X線源1に正対してX線検出器2が設置されている。
X線検出器2は、シンチレータを用いたC-MOSやCCDといった半導体受光素子であったり、X線に感度を持たせた直接変換型放射線検出素子検出器である。
X線源1から離れ、X線検出器2に近い位置を測定対象物(試料)Aが、矢印Bに示す如く連続的に通過する。
【0004】
これを高速に撮影して透過線量をリアルタイムに計測し、予め求めておいた透過線量と厚さの関係(検量線)から厚さを算出する。
測定対象が、膜厚測定であったり、塗工量測定の場合は、工程の前後で夫々計測し、その差を求めることで工程(塗工量など)の制御が可能になる。
【0005】
X線検出器2は、所謂ラインセンサを用いるため、小さな検出素子を1列もしくは複数列並べた構造をしており、素子サイズは0.数mm〜2mm程度である。この素子を測定対象物のサイズに合わせて、数十〜数百素子隙間なく並べてある。
従って、X線検出器2のサイズは、数百mm×0.数mmの長方形の領域となる。
【0006】
放射線の取り扱いに関する法令に『利用線錘の放射角がその目的を達するために必要な角度を超えないようにするための照射筒又は絞りを用いなければ成らない』とあるように、X線源1の出口付近に設置されたコリメータ3により放射線(フラックス)を制限して検出器の検出部サイズに合わせたファンビームにしている。ファンビームに制限しなければ、図6に示すようにほぼ真円に近い円錐状のフラックスCが得られる。
【0007】
X線源(X線管)から放射されるフラックスは、X線管の構造により放射角が決まり、透過型であれば比較的広角(100〜130度程度)、反射型であれば狭角(30〜70度程度)に放射されるが、いずれにしても円錐状に放射されているにもかかわらず、ファンビームのみ利用しているので、実際に利用できる線量は極僅かである。
【0008】
今、X線管からコリメータ3等で制限されず、円錐状に照射され試料に当たる直前の照射面積を考える。
直径D=Φ50cmであるとして、検出部で利用できる有効なファンビーム幅Eを1mmとすれば、その単純な面積比は、(50×0.1)/(252×3.14)=0.13%程度にしか満たない。
【0009】
実際は中央部のフラックス強度が強いことから、面積比よりも大きい値にはなることは想像に難くないが、それでも1%程度であって、利用効率が大変悪い。
X線は可視光に対して1/1000程度も短い波長であるため、レンズや反射鏡による集光は大変困難で有用な集光手段が無いため、必要な範囲以外のフラックスは制限して使う以外にない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−005156号公報
【特許文献2】特開2000−131251号公報
【特許文献3】特開2000−266704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような装置においては、以下の問題点がある。
フラックスの利用効率が悪く、僅かでも集光して利用効率を上げられれば、小型のX線管で代用することができるが、比較的容易な(回折や分光に用いられる高価で数mにも及ぶ大掛かりな光学系でない)方法での有用なX線光学系が無い。
【0012】
軟X線や低エネルギーのX線では、大気吸収があるためにビームハードニング(線質硬化)が発生し、試料を遠方に置いての検査はより強大な線源を必要とし大変効率が悪い。
ここで、ビームハードニングとは、連続X線が物質を透過するとき、低エネルギのほうがより多く吸収され、結果的にエネルギピークが高い側に移動(シフト)することを言う。
ビームハードニングが発生すると、透過性の高い試料では、線量の吸収が不十分であるため、試料透過後のX線検出感度が得られず、検出信号レベルが低下して検出精度が悪くなる。
【0013】
高出力の線源は、反射型が多く照射角が比較的小さいため、試料に対して遠方より照射することで、照射面積を稼ぐ必要があった。数十〜数百μmの薄膜の厚さ測定では、数keV〜30keV程度の透過力の弱い光子エネルギーを用いる必要があり、空気吸収の影響を受ける。(前項参照)
【0014】
ビームハードニングを回避するためには、線源、試料、検出器、搬送装置など一式をチャンバ内に封じ込めて真空引きするか、大気吸収の少ない気体でチャンバを作るといった大掛かりな装置となる。
X線源は有寿命でありX線管のほぼ定格で使用すれば、1〜数年に1度程度で交換する必要がある。高価であるとともに交換、調整も面倒なことが多く、大きなランニングコストがかかる。
【0015】
線源と試料の間は通常大気開放となっている。このため、空気の温度、気圧、水分(湿度)等の影響によりX線の吸収量が変化するが、遠方に離すことにより更にこの影響を受けて、測定誤差の要因となる。
【0016】
本発明の目的は、上記の課題を解決するもので、X線の利用効率、計測感度が向上され、装置の小型、軽量化、コストダウンを実現できるX線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような課題を達成するために、本発明では、請求項1のX線装置においては、
X線を照射するX線源と、このX線源の下方に設けられ前記X線の照射方向に直交して流れる測定試料を透過した光を受光検出するX線検出器とを具備するX線装置において、 前記測定試料の流れ方向に略直交して前記X線源と前記測定試料との間に設けられ前記X線の反射線束を前記測定試料に照射する反射鏡を具備したことを特徴とする。
を具備したことを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項2のX線装置においては、請求項1記載のX線装置において、
前記反射鏡は、少なくとも1回前記X線を反射して前記X線の反射線束を前記測定試料に照射するように配置されたことを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項3のX線装置においては、請求項1又は請求項2記載のX線装置において、
前記反射鏡は、前記X線の光路を挟んで対向して配置されたことを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項4のX線装置においては、請求項1乃至請求項3の何れかに記載のX線装置において、
前記反射鏡は、前記X線源に一方端縁が接し他方端縁が前記測定試料の近くまで配置されたことを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項5のX線装置においては、請求項1乃至請求項4の何れかに記載のX線装置において、
前記反射鏡は、重金属の蒸着反射鏡であって、平面あるいは緩い曲率を有する曲面鏡であることを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項6のX線装置においては、請求項1乃至請求項5の何れかに記載のX線装置において、
前記反射鏡は、前記反射鏡を最適角度で反射することができるように微調旋回機構に搭載されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1によれば、次のような効果がある。
直接照射線束に加えて反射線束も試料に照射することができるので、X線源から直接検出素子に到達する線量に対して、数倍の線量増加が可能であるX線装置が得られる。
未利用のX線量を効果的に収束できることから、低出力線源を採用しても、所望のX線量を得ることが出来、X線源の価格が抑えられるとともに、X線源の小型化が図れるX線装置が得られる。
【0024】
従来通り高出力のX線源を用いた場合には、X線管の電流を絞って使えるために長寿命が期待できるX線装置が得られる。
反射鏡自体がX線の漏洩線を防止する効果があるため、遮蔽構造体を簡易化できるX線装置が得られる。
【0025】
本発明の請求項2によれば、次のような効果がある。
反射鏡は、少なくとも1回、X線を反射して、X線の反射線束を、測定試料に照射するように配置されたので、直接検出器に到達しない非利用の線束を検出素子へ向けることが出来、小型化が図れるX線装置が得られる。
【0026】
本発明の請求項3によれば、次のような効果がある。
反射鏡は、X線の光路を挟んで対向して配置されたので、X線を互いに反射し複数回反射が期待でき、1回反射より線量増加が可能であるX線装置が得られる。
【0027】
本発明の請求項4によれば、次のような効果がある。
反射鏡は、X線源に一方端縁が接し他方端縁が測定試料の近くまで配置されたのでX線の反射が確実にできるとともに、漏洩線を抑制する遮蔽構造体としての効果があるX線装置が得られる。
【0028】
本発明の請求項5によれば、次のような効果がある。
反射鏡は、金、白金、銅に代表される重金属の蒸着により、全反射を発生し得る入射角をより大きく取ることができ、反射線量を増加することが可能であるX線装置が得られる。
【0029】
本発明の請求項6によれば、次のような効果がある。
反射鏡は、反射鏡を最適角度で反射することができるように微調旋回機構に搭載されたので、反射角度の調節が容易なX線装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例の要部構成説明図である。
【図2】図1の斜視説明図である。
【図3】図1の説明図である。
【図4】本発明の他の実施例の要部構成説明図である。
【図5】従来より一般に使用されている従来例の要部構成説明図である。
【図6】図5の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下本発明を図面を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例の要部構成説明図、図2は図1の斜視説明図である。
図において、図5と同一記号の構成は同一機能を表す。
以下、図5との相違部分のみ説明する。
【0032】
図1において、X線源11が測定対象物Aの上方にX線出射口を下にして適当な距離を取って正対して設置されている。
測定対象物Aの下方には測定対象物Aから比較的近くに、シンチレーション付きラインカメラ、電離箱、直接変換型半導体検出器などのX線検出器12が測定対象物Aに向けて設置されている。
X線検出素子121は、X線検出器12内に配置されている。
【0033】
測定対象物AとX線源11の中間には、反射鏡(平面反射鏡、緩やかな曲面を有する曲面反射鏡など)13,14が略並行に対向して設置されている。
反射鏡13,14は、表面の極平滑な金、白金、銅などの重金属蒸着反射鏡が好適であり、反射鏡の角度調整が可能なように、旋回が可能な微調整ステージや簡易的に角度調整が可能な微調整旋回機構15によって保持されている。
この場合は、ねじ151,152,153,154で、微調整旋回機構15が構成されている。
【0034】
X線源11の出射口の近くには、X線を制限するコリメータ16もしくは照射筒を具備しており、円錐状に照射されるX線束を、円錐の全幅を確保しつつ、薄く(例えば、3度以下に)スライスしたようにビーム成形する。
また、X線源11からX線検出器12まで比較的距離をとって設置するために、X線の漏洩問題があり、X線束を囲むように遮蔽板17と遮蔽板18でサンドイッチした構造の鉄鋼材やステンレス材などで遮蔽空間が作られている。
【0035】
以上の構成において、X線源11から出射され、コリメータ16で規制された薄いX線束(ファンビーム)は、測定対象物Aを透過して、X線検出器12の位置では幅bの領域に透過X線Nが到達しているが、測定に利用されるX線束は検出素子幅aのみであって、その利用効率は線源から放出される総量に対して1%以下である。
【0036】
本発明では、X線源11と測定対象物Aの任意の位置に対向反射鏡13,14を設置し、直接検出素子121に到達できない、素子の外側に向かう、本来利用できないX線束を反射鏡13,14に極浅く入射させて、X線を全反射させ方向を変えることで、検出素子121に到達するようにしている。
【0037】
図1では、X線源11から図1の右側方向に出射して、反射鏡14の上部で全反射して反射鏡13側方向に向きを変え、反射鏡13で再反射して、検出素子121へ向かう反射X線Mの様子を示している。Nは直射X線である。
これは、一部の例であって、入射の状態で異なった反射となるが、1回もしくは2,3回反射して検出素子121へ向かうことで、直接到達する線量に対して数倍増えることになる。
【0038】
図3に様々な物質に対する8.04keVエネルギーの反射臨界角を示す。原子番号が大きい物質の方が臨界角が大きいことがわかる。また、低エネルギー(軟X線)であれば更に臨界角が大きく、軟X線から数十keV程度の低エネルギーX線では特に有効である。
【0039】
なお、図3の数値は、
独立行政法人物質・材料機構のホームページ/埋もれた界面のX線・中性子解析/ご案内とリンク集/X線反射率ってなに?[平成22年8月10日検索]インターネット
<URL: http://www.nims.go.jp/xray/ref/whats0.htm>
に示されている。
【0040】
この結果、
直接照射線束に加えて反射線束も試料に照射することができるので、X線源から直接検出素子に到達する線量に対して、数倍の線量増加が可能であるX線装置が得られる。
未利用のX線量を効果的に収束できることから、低出力線源を採用しても、所望のX線量を得ることが出来、X線源の価格が抑えられるとともに、X線源の小型化が図れるX線装置が得られる。
【0041】
従来通り高出力のX線源を用いた場合には、X線管の電流を絞って使えるために長寿命が期待できるX線装置が得られる。
反射鏡13,14自体がX線の漏洩線を防止する効果があるため、遮蔽構造体を簡易化できるX線装置が得られる。
【0042】
反射鏡は、少なくとも1回、X線を反射して、X線の反射線束を、測定試料に照射するように配置されたので、直接検出器に到達しない非利用の線束を検出素子へ向けることが出来、小型化が図れるX線装置が得られる。
【0043】
反射鏡13,14は、X線の光路を挟んで対向して配置されたので、X線を互いに反射し複数回反射が期待でき、1回反射より線量増加が可能であるX線装置が得られる。
【0044】
反射鏡13,14は、金、白金、銅に代表される重金属の蒸着により、全反射を発生し得る入射角をより大きく取ることができ、反射線量を増加することが可能であるX線装置が得られる。
【0045】
反射鏡13,14は、反射鏡13,14を最適角度で反射することができるように微調旋回機構15に搭載されたので、反射角度の調節が容易なX線装置が得られる。
【0046】
図4は、本発明の他の実施例の要部構成説明図である。
図4において、反射鏡21,22,23,24は、測定対象物Aの両幅端に対向してそれぞれ対向して配置されている。
測定対象物Aの両幅端のX線束は、距離の逆2乗則により低減するため、コサイン則で線量の減少が発生する。このため、反射鏡で全域をカバーしなくても、周辺の光量が減ってしまう領域にだけ設置することで、反射鏡の大型化を避けて比較的安価に設置が可能である。
【0047】
なお、前述の実施例においては、反射鏡13,14の位置に付いて、X線源11の近傍に有ると説明したが、これに限ることはなく、例えば、
X線検出器12の近傍に置くなどしてもよい。また、X線源11の出射端より、測定対象物Aのギリギリ上まで、全域を覆うような大型の対向反射鏡であっても良い。
全域を覆うような大型の対向反射鏡であれば、X線の反射が確実にできるとともに、漏洩線を抑制する遮蔽構造体としての効果があるX線装置が得られる。
【0048】
なお、前述の実施例においては、反射鏡は対向反射鏡と説明したが、反射鏡による反射線束を利用すればよいので、片側のみの反射鏡であっても良いことは勿論である。
反射鏡の大型化を避けるために任意の位置、形状で反射鏡を分割しても良いことは勿論である。
なお、遮蔽板171,172で構成される空間に、ヘリウムHe等の大気吸収が少ないガスを充填するなどしてもよいことは勿論である。
【0049】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。
したがって本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形をも含むものである。
【符号の説明】
【0050】
1 X線源
2 X線検出器
A 測定対象物
B 矢印
C フラックス
D 直径
E ファンビーム幅
3 コリメータ
11 X線源
12 X線検出器
121 X線検出素子
13 反射鏡
14 反射鏡
15 微調整旋回機構
151 ねじ
152 ねじ
153 ねじ
154 ねじ
16 コリメータ
17 遮蔽板
18 遮蔽板
a 検出素子幅
b 幅
M 反射X線
N 直射X線
21 反射鏡
22 反射鏡
23 反射鏡
24 反射鏡
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を照射するX線源と、
このX線源の下方に設けられ前記X線の照射方向に直交して流れる測定試料を透過した光を受光検出するX線検出器とを具備するX線装置において、
前記測定試料の流れ方向に略直交して前記X線源と前記測定試料との間に設けられ前記X線の反射線束を前記測定試料に照射する反射鏡
を具備したことを特徴とするX線装置。
【請求項2】
前記反射鏡は、少なくとも1回前記X線を反射して前記X線の反射線束を前記測定試料に照射するように配置されたこと
を特徴とする請求項1記載のX線装置。
【請求項3】
前記反射鏡は、前記X線の光路を挟んで対向して配置されたこと
を特徴とする請求項1又は請求項2記載のX線装置。
【請求項4】
前記反射鏡は、前記X線源に一方端縁が接し他方端縁が前記測定試料の近くまで配置されたこと
を特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載のX線装置。
【請求項5】
前記反射鏡は、重金属の蒸着反射鏡であって、平面あるいは緩い曲率を有する曲面鏡であること
を特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載のX線装置。
【請求項6】
前記反射鏡は、前記反射鏡を最適角度で反射することができるように微調旋回機構に搭載されたこと
を特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載のX線装置。
【請求項1】
X線を照射するX線源と、
このX線源の下方に設けられ前記X線の照射方向に直交して流れる測定試料を透過した光を受光検出するX線検出器とを具備するX線装置において、
前記測定試料の流れ方向に略直交して前記X線源と前記測定試料との間に設けられ前記X線の反射線束を前記測定試料に照射する反射鏡
を具備したことを特徴とするX線装置。
【請求項2】
前記反射鏡は、少なくとも1回前記X線を反射して前記X線の反射線束を前記測定試料に照射するように配置されたこと
を特徴とする請求項1記載のX線装置。
【請求項3】
前記反射鏡は、前記X線の光路を挟んで対向して配置されたこと
を特徴とする請求項1又は請求項2記載のX線装置。
【請求項4】
前記反射鏡は、前記X線源に一方端縁が接し他方端縁が前記測定試料の近くまで配置されたこと
を特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載のX線装置。
【請求項5】
前記反射鏡は、重金属の蒸着反射鏡であって、平面あるいは緩い曲率を有する曲面鏡であること
を特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載のX線装置。
【請求項6】
前記反射鏡は、前記反射鏡を最適角度で反射することができるように微調旋回機構に搭載されたこと
を特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載のX線装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2011−164043(P2011−164043A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29789(P2010−29789)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】
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