説明

X線CT撮影装置及びその撮影制御方法

【課題】本発明は、簡単な構成で、且つ低コストで、被写体内部に存在する高X線吸収部位の影響を緩和してCT撮影できるX線CT撮影装置及びその撮影制御方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る1つの実施形態では、X線発生手段10と、X線撮像手段20と、支持手段30と、保持手段40と、旋回駆動手段60と、X線制御手段82とを備える。X線発生手段10は、X線コーンビームBを発生する。X線撮像手段20は、被写体oを通過したX線コーンビームBを検出する。支持手段30は、被写体oを間にしてX線発生手段10とX線撮像手段20とを相互に対向して支持する。保持手段40は、被写体oを保持する。旋回駆動手段60は支持手段30を被写体oに対して相対的に旋回させる。X線制御手段82は、被写体oの内部に存在する高X線吸収部位情報に基づく制御モデルにより、X線撮像手段10における部位の影響を緩和させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT撮影装置及びその撮影制御方法に係る発明であって、特に、被写体内部に存在する撮影結果に影響を与える高X線吸収部位の影響を緩和できるX線CT撮影装置及びその撮影制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医科用X線診断の分野では、人体の任意の部位を断層撮影するX線CT(コンピュータ断層撮影法)撮影装置が広く知られている。このX線CT撮影装置では、X線発生手段とこれと対向するX線撮像手段とを被写体のまわりに360度回転させ、得られた画像情報をコンピュータ処理することによって、頭部、胴部等の任意の部位を切断したCT断層画像を得ることができる。
【0003】
特に、歯科治療の分野では、インプラント手術等のときに顎骨の厚みや構造等を事前に把握することによって、その手術が容易となるため、特定の歯およびその近傍のX線CT断層撮影を得ることができる小型のX線CT撮影装置が考えられている。
【0004】
この小型X線CT撮影装置は、支持手段が被写体を間にしてX線発生手段およびX線撮像手段を相互に対向して支持し、当該支持手段を被写体の回りに360度回動させて画像情報を得る。得られた画像情報を記憶手段に記憶し、記憶された画像情報をコンピュータによって再構築等の画像処理することによって、所望のCT断層画像が得られる。
【0005】
具体的に、歯科分野で用いられるX線CT撮影装置は、特許文献1や特許文献2に説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−225454号公報
【特許文献2】特開2003−245277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
X線CT撮影装置では、CT画像処理する際に、X線撮影した複数の画像情報に大きな骨構造等が写り込んでいると、その部分におけるX線の吸収が大きくなり、鮮明なCT断層画像を得ることが難しくなる。つまり、当該大きな骨構造等が撮影結果に影響を与える部位であり、当該部位を本明細書では高X線吸収部位と呼ぶ。たとえば、歯科治療分野の場合、人の頭部を通常180度以上、好ましくは360度の角度からCT撮影するが、このとき特定の範囲ではX線発生手段からのX線コーンビームが高X線吸収部位である頸椎を通過してX線撮像手段に至ることになるため、その他の範囲とではX線撮像手段に到達するX線量が大きく異なることになる。つまり、特定の範囲で得られる画像情報は、他の範囲で得られる画像情報に比べて比較的暗い画像となる。
【0008】
そのため、特許文献1に記載のX線CT撮影装置では、X線撮像手段での検出画像濃度に基づいてゲイン調整回路を制御している。さらに、特許文献1に記載のX線CT撮影装置では、ゲイン調整回路の調整で不十分な場合、X線源の管電流や支持手段の回転速度を調整することで画像濃度を調整している。
【0009】
しかし、特許文献1に記載のX線CT撮影装置では、X線撮像手段にゲイン調整回路を設けることが必要となり、装置自身が複雑化、高コスト化する問題があった。また、特許文献1記載の技術は、被写体を透過した透過X線量に従う制御であるので、例えば頭部のCT撮影において歯牙に金属などの補綴物があって、その部分が常に照射野に含まれるようなCT撮影を行う場合、X線がその補綴物に吸収されてしまうので、頚椎とは関係なく常に過剰にX線を供給調整してしまい、再構成に必要な画像データが得られない可能性があった。
【0010】
そこで、本発明は、簡単な構成で、且つ低コストで、被写体内部に存在する撮影結果に影響を与える部位である高X線吸収部位の影響を緩和して、撮影対象領域に補綴物等が存在しても適切なX線量でCT撮影できるX線CT撮影装置及びその撮影制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係る解決手段は、X線コーンビームを発生するX線発生手段と、被写体を通過した前記X線コーンビームを検出するX線撮像手段と、前記被写体を間にして前記X線発生手段と前記X線撮像手段とを相互に対向して支持する支持手段と、前記被写体を保持する保持手段と、前記支持手段を前記被写体に対して相対的に旋回させる旋回駆動手段と、前記被写体の内部に存在する高X線吸収部位の位置に関する情報である高X線吸収部位情報に基づく制御モデルにより、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を緩和させるX線制御手段とを備える。
【0012】
本発明の請求項2に係る解決手段は、請求項1に記載のX線CT撮影装置であって、前記高X線吸収部位情報を取得する部位情報取得手段をさらに備え、前記X線制御手段は、前記部位情報取得手段で取得した前記高X線吸収部位情報に基づく前記制御モデルにより、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を緩和させる。
【0013】
本発明の請求項3に係る解決手段は、請求項1又は請求項2に記載のX線CT撮影装置であって、前記X線発生手段と前記X線撮像手段の旋回中心軸の位置を設定する中心軸設定手段と、前記中心軸設定手段での設定に基づき、前記被写体に対する前記旋回中心軸の位置を、前記旋回中心軸方向と交差する2次元の方向に相対的に移動させる旋回中心軸移動手段とをさらに備え、前記X線制御手段は、前記旋回中心軸の位置を考慮した前記制御モデルにより、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を緩和させる。
【0014】
本発明の請求項4に係る解決手段は、請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載のX線CT撮影装置であって、前記X線コーンビームが常に照射される箇所の透過X線量を監視するX線透過量監視手段をさらに備え、前記X線透過量監視手段は、監視する前記透過X線量が略一定値になるように、前記X線制御手段の前記制御モデルを補正する。
【0015】
本発明の請求項5に係る解決手段は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のX線CT撮影装置であって、前記X線制御手段は、前記制御モデルにより、前記X線コーンビームの出力又は前記支持手段の相対旋回速度の少なくとも一方を前記支持手段の旋回角度に応じて制御する。
【0016】
本発明の請求項6に係る解決手段は、請求項5に記載のX線CT撮影装置であって、前記X線制御手段は、前記X線発生手段の管電流又は管電圧の少なくとも一方を変更することで前記X線コーンビームの出力を制御する。
【0017】
本発明の請求項7に係る解決手段は、請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のX線CT撮影装置であって、前記X線制御手段は、前記旋回駆動手段により前記支持手段又は前記被写体の少なくとも一方の旋回速度を変更することで前記支持手段の相対旋回速度を制御する。
【0018】
本発明の請求項8に係る解決手段は、請求項2に記載のX線CT撮影装置であって、前記部位情報取得手段は、X線CT撮影前に前記被写体をスカウト撮影することで得たスカウト画像から、高X線吸収部位情報を取得する。
【0019】
本発明の請求項9に係る解決手段は、請求項8に記載のX線CT撮影装置であって、前記スカウト画像は、前記被写体を異なる2方向から撮影した画像、又は前記被写体の曲面断層画像の少なくとも一方であること。
【0020】
本発明の請求項10に係る解決手段は、請求項8又は請求項9に記載のX線CT撮影装置であって、前記スカウト画像は、前記X線CT撮影装置内の記憶手段又は外部の記憶手段から読み出された画像である。
【0021】
本発明の請求項11に係る解決手段は、請求項8乃至請求項10のいずれか1つに記載のX線CT撮影装置であって、前記部位情報取得手段は、画像パターン認識により前記スカウト画像から高X線吸収部位を特定する。
【0022】
本発明の請求項12に係る解決手段は、請求項2に記載のX線CT撮影装置であって、前記部位情報取得手段は、所定の選択肢から前記被写体の体型を選択することで、前記所定の選択肢に応じて予め定められた高X線吸収部位情報を取得する。
【0023】
本発明の請求項13に係る解決手段は、請求項2に記載のX線CT撮影装置であって、前記部位情報取得手段は、前記被写体を計測したデータに基づき高X線吸収部位を特定する。
【0024】
本発明の請求項14に係る解決手段は、請求項13に記載のX線CT撮影装置であって、前記被写体の計測は、前記保持手段を用いて行う。
【0025】
本発明の請求項15に係る解決手段は、請求項1乃至請求項14のいずれか1つに記載のX線CT撮影装置であって、前記高X線吸収部位は、頚椎である。
【0026】
本発明の請求項16に係る解決手段は、請求項1乃至請求項15のいずれか1つに記載のX線CT撮影装置であって、前記X線CT撮影装置の撮影対象は、前記被写体の局所部分のみを対象とする。
【0027】
本発明の請求項17に係る解決手段は、請求項16に記載のX線CT撮影装置であって、前記被写体の前記局所部分毎に、異なる前記制御モデルが設定される。
【0028】
本発明の請求項18に係る解決手段は、X線CT撮影装置の撮影制御方法であって、(a)被写体を保持手段に保持するステップと、(b)前記被写体を間にしてX線発生手段とX線撮像手段とを相互に対向して支持する支持手段を、前記被写体に対して相対的に旋回させながら、前記X線撮像手段が被写体を通過したX線発生手段からのX線コーンビームを検出するステップと、(c)前記ステップ(a)で保持した前記被写体の内部に存在する高X線吸収部位の位置に関する情報である高X線吸収部位情報に基づく制御モデルにより、X線制御手段が前記ステップ(b)を処理中の前記X線撮像手段における前記部位の影響を緩和させるステップとを備える。
【0029】
本発明の請求項19に係る解決手段は、請求項18に記載のX線CT撮影装置の撮影制御方法であって、(d)部位情報取得手段を用いて前記高X線吸収部位情報を取得するステップと、(e)前記ステップ(d)で取得した前記高X線吸収部位情報に基づく制御モデルを選択することで、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を前記X線制御手段が緩和させるステップとをさらに備える。
【0030】
本発明の請求項20に係る解決手段は、請求項18又は請求項19に記載のX線CT撮影装置の撮影制御方法であって、(f)前記ステップ(a)後に、中心軸設定手段を用いて、前記X線発生手段と前記X線撮像手段の旋回中心軸の位置を設定するステップと、(g)前記ステップ(f)での設定に基づき、旋回中心軸移動手段が前記被写体に対する前記旋回中心軸の位置を、前記旋回中心軸方向と交差する2次元の方向に相対的に移動させるステップとをさらに備え、前記X線制御手段は、前記ステップ(f)で設定の前記旋回中心軸の位置を考慮した前記制御モデルにより、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を緩和させる。
【0031】
本発明の請求項21に係る解決手段は、請求項18に記載のX線CT撮影装置の撮影制御方法であって、前記X線制御手段は、前記制御モデルにより、前記ステップ(b)を処理中の前記X線コーンビームの出力又は前記支持手段の相対旋回速度の少なくとも一方を制御することで、照射X線量を適切に維持しつつ、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を緩和させる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の請求項1に係るX線CT撮影装置は、前記被写体の内部に存在する高X線吸収部位の位置に関する情報である高X線吸収部位情報に基づく制御モデルにより、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を緩和させるX線制御手段を備えるので、簡単な構成で、且つ低コストで、被写体内部に存在する、撮影結果に影響を与える部位である高X線吸収部位の影響を緩和してCT撮影できる。また、仮に頭部のCT撮影において歯牙に金属などの補綴物があって、その部分が常に照射野に含まれるようなCT撮影を行う場合でも、あくまで制御モデルに従って制御するので、適切なX線量でCT撮影できる。
【0033】
本発明の請求項2に係るX線CT撮影装置は、前記X線制御手段が、前記部位情報取得手段で取得した前記高X線吸収部位情報に基づく前記制御モデルにより、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を緩和させるので、簡単な構成で、且つ低コストで、被写体内部に存在する高X線吸収部位の影響を緩和してCT撮影できる。
【0034】
本発明の請求項3に係るX線CT撮影装置は、前記X線制御手段が、前記旋回中心軸の位置を考慮した前記制御モデルにより、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を緩和させるので、旋回中心軸に自由度を持つCT撮影が可能となる。
【0035】
本発明の請求項4に係るX線CT撮影装置は、前記X線透過量監視手段は、監視する前記透過X線量が略一定値になるように、前記X線制御手段の前記制御モデルを補正するので、高X線吸収部位の影響をさらに緩和させてCT撮影できる。
【0036】
本発明の請求項5に係るX線CT撮影装置は、前記X線制御手段が、前記制御モデルにより、前記X線コーンビームの出力又は前記支持手段の相対旋回速度の少なくとも一方を前記支持手段の旋回角度に応じて制御するので、X線CT撮影装置に備わるX線発生部制御手段や旋回アームなどの支持手段の旋回駆動機構などを利用して容易に低コストで高X線吸収部位の影響を緩和してCT撮影できる。
【0037】
本発明の請求項6に係るX線CT撮影装置は、前記X線制御手段が、前記X線発生手段の管電流又は管電圧の少なくとも一方を変更することで前記X線コーンビームの出力を制御するので、X線CT撮影装置に備わるX線発生部制御手段などを利用して容易に低コストで高X線吸収部位の影響を緩和してCT撮影できる。
【0038】
本発明の請求項7に係るX線CT撮影装置は、前記X線制御手段が、前記旋回駆動手段により前記支持手段又は前記被写体の少なくとも一方の旋回速度を変更することで前記支持手段の相対旋回速度を制御するので、X線CT撮影装置に備わる旋回アームなどの支持手段の旋回駆動機構などを利用して容易に低コストで高X線吸収部位の影響を緩和してCT撮影できる。
【0039】
本発明の請求項8に係るX線CT撮影装置は、前記部位情報取得手段が、X線CT撮影前に前記被写体をスカウト撮影することで得たスカウト画像から、前記高X線吸収部位情報を取得するので、当該高X線吸収部位を容易に、且つ精度良く特定し取得できる。
【0040】
本発明の請求項9に係るX線CT撮影装置は、前記スカウト画像は、前記被写体を異なる2方向から撮影した画像、又は前記被写体の曲面断層画像の少なくとも一方であるので、当該高X線吸収部位を容易に、且つ精度良く特定し取得できる。
【0041】
本発明の請求項10に係るX線CT撮影装置は、前記スカウト画像は、前記X線CT撮影装置内の記憶手段又は外部の記憶手段から読み出された画像であるので、予備的な撮影が不要となりCT撮影が簡略化されると共に、予備撮影がX線撮影の場合は被写体の被爆量を低減できる。
【0042】
本発明の請求項11に係るX線CT撮影装置は、前記部位情報取得手段が、画像パターン認識により前記スカウト画像から高X線吸収部位を特定するので、術者の操作負担を軽減できる。
【0043】
本発明の請求項12に係るX線CT撮影装置は、前記部位情報取得手段が、所定の選択肢から前記被写体の体型を選択することで、前記所定の選択肢に応じて予め定められた高X線吸収部位情報を取得するので、当該部位の被写体個別の位置を特定する操作が不要となると共に、予備撮影が不要となる。
【0044】
本発明の請求項13に係るX線CT撮影装置は、前記部位情報取得手段が、前記被写体を計測したデータに基づき高X線吸収部位を特定するので、予備的な撮影が不要となりCT撮影が簡略化されると共に、予備撮影がX線撮影の場合は被写体の被爆量を低減できる。
【0045】
本発明の請求項14に係るX線CT撮影装置は、請求項13に記載のX線CT撮影装置であって、前記被写体の計測は、前記保持手段を用いて行うので、前記高X線吸収部位を特定するために別の計測器を用意する必要がない。
【0046】
本発明の請求項15に係る解決手段は、高X線吸収部位が、頚椎であるので、頸椎の撮影結果への影響を緩和してCT撮影することが可能となる。
【0047】
本発明の請求項16に係るX線CT撮影装置は、前記X線CT撮影装置の撮影対象が、前記被写体の局所部分のみを対象とするので、必要な部分のみCT撮影でき、被写体の被爆量を低減できる。
【0048】
本発明の請求項17に係るX線CT撮影装置は、前記被写体の前記局所部分毎に、異なる前記制御モデルが設定されるので、高X線吸収部位の影響を緩和してCT撮影できる。
【0049】
本発明の請求項18に係るX線CT撮影装置の撮影制御方法は、前記被写体の内部に存在する高X線吸収部位の位置に関する情報である高X線吸収部位情報に基づく制御モデルにより、X線制御手段が前記X線撮像手段における高X線吸収部位の影響を緩和させるので、簡単な構成で、且つ低コストで、被写体内部に存在する高X線吸収部位の影響を緩和してCT撮影できる。
【0050】
本発明の請求項19に係るX線CT撮影装置の撮影制御方法は、部位情報取得手段を用いて取得した前記高X線吸収部位情報に基づく制御モデルを選択するので、簡単な構成で、且つ低コストで、被写体内部に存在する高X線吸収部位の影響を緩和してCT撮影できる。
【0051】
本発明の請求項20に係るX線CT撮影装置の撮影制御方法は、前記X線制御手段は、設定の前記旋回中心軸の位置を考慮した前記制御モデルにより、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を緩和させるので、旋回中心軸に自由度を持つCT撮影が可能となる。
【0052】
本発明の請求項21に係るX線CT撮影装置の撮影制御方法は、前記X線制御手段が、前記制御モデルにより、前記X線コーンビームの出力又は前記支持手段の相対旋回速度の少なくとも一方を制御することで、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を緩和させるので、X線CT撮影装置に備わるX線発生部制御手段や旋回アームなどの支持手段の旋回駆動機構などを利用して容易に低コストで高X線吸収部位の影響を緩和してCT撮影できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態1に係るX線CT撮影装置のブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る別のX線CT撮影装置のブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係るX線CT撮影装置の概略図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係るX線CT撮影装置の動作を説明するフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態1に係るX線CT撮影装置で用いるスカウト画像を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係るX線CT撮影装置で用いるパノラマスカウト画像を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係るX線CT撮影装置の動作を説明するフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態1に係るX線CT撮影装置の動作を説明するための図である。
【図9】本発明の実施の形態1に係るX線CT撮影装置の動作を説明するための図である。
【図10】本発明の実施の形態2に係るX線CT撮影装置の動作を説明するフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態2に係るX線CT撮影装置で用いる画像パターン認識を説明するための図である。
【図12】本発明の実施の形態2に係るX線CT撮影装置の動作を説明するための図である。
【図13】本発明の実施の形態3に係るX線CT撮影装置の動作を説明するフローチャートである。
【図14】本発明の実施の形態3に係るX線CT撮影装置の動作を説明するための図である。
【図15】本発明の実施の形態3に係るX線CT撮影装置の動作を説明するフローチャートである。
【図16】本発明の実施の形態4に係るX線CT撮影装置の動作を説明するフローチャートである。
【図17】本発明の実施の形態4に係るX線CT撮影装置の動作を説明するフローチャートである。
【図18】X線CT撮影装置における全顎CT撮影及び局所CT撮影を説明するための図である。
【図19】本発明の実施の形態5に係るX線CT撮影装置の動作を説明するための図である。
【図20】本発明の実施の形態5に係るX線CT撮影装置の動作を説明するための図である。
【図21】本発明の実施の形態5に係るX線CT撮影装置の動作を説明するための図である。
【図22】本発明の実施の形態5に係るX線CT撮影装置の動作を説明するための図である。
【図23】本発明の実施の形態5に係るX線CT撮影装置の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
(実施の形態1)
以下、歯科分野に用いられ、被写体の顎顔面をCT撮影するX線撮影装置(X線CT撮影装置)の実施例を説明する。
【0055】
図1は、X線CT撮影装置Mの基本構成を説明するブロック図である。X線CT撮影装置Mは、X線CT撮影装置本体M1と、X線画像表示装置M2を備え、通信ケーブル等によってデータを送受信する構成になっている。
【0056】
X線CT撮影装置本体M1は、X線発生手段10とX線撮像手段20とを対向させて支持した支持手段30と、支持手段30を駆動する駆動部60と、撮影装置本体制御部70とを備えており、撮影装置本体制御部70には操作パネル76が付加されている。この操作パネル76は、X線発生手段10やX線撮像手段20の設定や、後述する撮影結果に影響を与える部位である高X線吸収部位の特定等に用いられる。被写体oはチンレストや椅子などの保持手段40に保持されている。
【0057】
X線発生手段10は、X線を照射するX線管等からなるX線発生器11と、X線ビームB´の広がりを規制して、X線コーンビームBにするスリット等からなる照射野制御手段12とで構成されており、X線撮像手段20は、2次元的に広がったCCDセンサ等からなるX線検出器21を設けたカセット22で構成されている。カセット22はX線撮像手段20に対して着脱自在であるが、X線検出器21を、カセット22を介さずにX線撮像手段20に固定的に設けてもよい。駆動部60は、支持手段30の旋回中心軸30cを協働して水平移動させるX軸モータ60x、Y軸モータ60yと、支持手段30を昇降させるZ軸モータ60zと、支持手段30を旋回中心軸30cに回転させる旋回用モータ60rとを備えている。
【0058】
なお、旋回用モータ60rが支持手段30に固定された旋回中心軸30cを回転するようにしても、旋回中心軸30cに対して支持手段30が回動可能な構造において、旋回用モータ60rが支持手段30内部に設けられて旋回中心軸30cに対して支持手段30を回転するようにしてもよい。同様に、X軸モータ60x、Y軸モータ60yが支持手段30の旋回中心軸30cを水平移動させるようにしても、旋回中心軸30cに対して支持手段30が水平方向に変位可能な構造において、X軸モータ60x、Y軸モータ60yが支持手段30内部に設けられて旋回中心軸30cに対して支持手段30を水平移動させるようにしてもよい。
【0059】
旋回用モータ60r、X軸モータ60x、Y軸モータ60y、Z軸モータ60zは、被写体oに対して支持手段30を相対的に移動させる駆動源となる駆動部60を構成している。なお、支持手段30、保持手段40、駆動部60は、X線発生器10、X線検出器20を被写体oに対して相対的に移動させる移動手段65として機能する。
【0060】
撮影装置本体制御部70は、駆動部60を制御する制御プログラムを含んだ各種制御プログラムを実行するCPU71と、X線発生手段10を制御するX線発生手段制御手段72と、X線撮像手段20を制御するX線撮像手段制御手段73とを備えている。なお、上記各種制御プログラムは、フラッシュROM等の記憶部に記憶されており、CPU71は当該記憶部から各種制御プログラムを読込んで実行する。図1では、X線発生手段制御手段72をX線発生部制御手段72と表示し、X線撮像手段制御手段73をX線検出部制御手段73と表示する。画像表示装置制御部80は、X線CT撮影装置本体M1を制御する制御プログラムや撮影した画像データを処理するための処理プログラム等を実行するCPU81を備えている。なお、上記処理プログラムは、フラッシュROM等の記憶部に記憶されており、CPU81は当該記憶部から処理プログラムを読込んで実行する。さらに、画像表示装置制御部80は、制御モデルに基づいて、X線発生手段制御手段72やX線撮像手段制御手段73を制御するX線制御手段82、画像データ等を記憶する記憶手段83、撮影した画像に対して所定の処理を実施する画像処理手段84、被写体の内部に存在する高X線吸収部位情報を取得する部位情報取得手段85を備えている。
【0061】
操作パネル76は、小型液晶パネルや複数の操作釦で構成されている。操作パネル76の入力手段としては、操作釦のほか、キーボード、マウス、タッチペン等の入力手段を用いることもできる。
【0062】
表示手段78は、X線CT撮影装置本体M1の操作に必要な文字や画像等の情報を表示する。また、後述するX線画像表示装置M2と接続して、X線画像表示装置M2の表示手段88に表示される表示内容を表示手段78に表示してもよい。さらに、表示手段78を液晶モニタ等のディスプレイとし、操作パネル76と一体的に構成しても良い。また、表示手段88に表示される文字や画像を、操作手段86のマウス等でポインタ操作することでX線CT撮影装置本体M1に対して各種の指令ができる構成としてもよい。
【0063】
図1に示すX線CT撮影装置Mでは、X線CT撮影装置本体M1と、X線画像表示装置M2とに分離された構成であるため、撮影装置本体制御部70と画像表示装置制御部80、操作パネル76と操作手段86、表示手段78と表示手段88のように構成されている。しかし、図1に示すX線CT撮影装置Mは、撮影装置本体制御部70及び画像表示装置制御部80を制御部700、操作パネル76及び操作手段86を操作手段760、表示手段78及び表示手段88を表示手段780として構成されていると見なしても良い。表示手段780を例えば液晶表示のタッチパネルで構成して、操作手段760を兼ねるものとしてもよい。
【0064】
X線CT撮影装置本体M1は、操作パネル76、あるいはX線画像表示装置M2からの指令に従って、被写体のパノラマ撮影や、被写体のCT撮影を実行する。また、各種指令や座標データ等をX線画像表示装置M2から受信する一方、撮影した画像データをX線画像表示装置M2に送信する。
【0065】
図2は、図1に示すX線CT撮影装置Mとは別のX線CT撮影装置Mを説明するブロック図である。基本構成は図1に示すX線CT撮影装置Mと同じなのであるが、図2に示すX線CT撮影装置本体M1は、支持手段30を回転させる旋回用モータ60rは備えるが、支持手段30の旋回中心軸30cを移動させるX軸モータ60x、Y軸モータ60yと、支持手段30を昇降させるZ軸モータ60zは備えておらず、被写体oを保持する保持手段40を協働して水平移動させるX軸モータ60x、Y軸モータ60yと、保持手段40を昇降させるZ軸モータ60zとを備えている点が異なっている。
【0066】
このように、被写体oに対して支持手段30を相対的に移動させる機構は様々に考えられる。X軸モータ60x、Y軸モータ60y、Z軸モータ60zの一部が支持手段30の駆動側にあり、残りが保持手段40の駆動側にある構成でもよく、さらに、双方にX軸モータ60x、Y軸モータ60y、Z軸モータ60zの少なくとも一部が重複して備えられていてもよい。
【0067】
図3は、X線CT撮影装置Mをより具体的に図示した概略図である。図3に示すX線CT撮影装置本体M1は、図1,図2に示したX線CT撮影装置本体M1と同様、旋回用モータ60rを内蔵した旋回アームとして構成され、且つその両端にX線発生手段10とX線撮像手段20とを対向させて支持した支持手段30を備えている。基本構成は図1に示すX線CT撮影装置Mによっているが、昇降移動に関しては、支持手段30を吊り下げる後述の昇降フレーム91に保持手段40が固定されているので、支持手段30が昇降するとその昇降に伴って保持手段40も昇降する構造になっている。そのため、被写体oの身長に合わせて支持手段30が昇降して適宜な位置で被写体oを保持手段40に導入可能になっている。
【0068】
基台90aに立設した支柱90に対し、支持手段30を垂下した、上部フレーム91aと下部フレーム91bを前方に突出した略コの字形状の昇降フレーム91が図示しない昇降機構で昇降可能に設けられ、昇降フレーム91には図1,図2に示したX線CT撮影装置本体M1と同様、支持手段30の回転軸を水平移動させるX軸モータ60x及びY軸モータ60yが内蔵されている。
【0069】
X線CT撮影装置本体M1のX線発生手段10、X線撮像手段20、支持手段30や昇降フレーム91等はX線を遮蔽する防X線室であるボックス100内に設けられている。そして、このボックス100の側面に操作パネル74が設けられている。さらに、図3に示すX線CT撮影装置Mでは、X線CT撮影装置本体M1と、X線画像表示装置M2とは有線のケーブルで接続されている。
【0070】
次に、図1乃至図3で示したX線CT撮影装置Mを用いて、本実施の形態に係るX線CT撮影装置の動作を説明する。本実施の形態に係るX線CT撮影装置は、被写体のCT撮影を行う際に、被写体の内部に存在する、撮影結果に影響を与える部位である高X線吸収部位(例えば、頚椎)の情報に基づく制御モデルにより、X線撮像手段20で取得する画像から当該部位の影響を緩和するようにX線CT撮影装置Mを制御している。高X線吸収部位の位置に関する情報は、高X線吸収部位情報である。図4に示すフローチャートでは、部位情報取得手段85が高X線吸収部位情報を取得するためにCT撮影を行う前に、まず2方向のX線スカウト画像撮影を行う(ステップS1)。2方向のX線スカウト画像撮影は、複数の異なる角度から被写体の透視画像を撮影してスカウト画像として用いる構成であり、本出願人の出願にかかる特開2004-329293のような構成である。なお、本実施の形態では、部位情報取得手段85により部位の情報を取得するX線CT撮影装置Mについて説明するが、本発明はこれに限られず、平均的な骨格情報に基づき高X線吸収部位を決め、それに基づく制御モデルを1つに固定した構成でも良い。これは、被写体が人であれば、おおよそ同じ位置に高X線吸収部位が位置することになり、個体差を無視すればおおよそ取得する画像から当該部位の影響を緩和できるためである。この場合、部位情報取得手段85を設ける必要はなく、高X線吸収部位情報に基づく制御モデルを用意しておくのみでよい。ここで、撮影結果に影響を与えるとは、例えば頚椎についていえば、歯牙のCT画像を撮影する場合にX線が歯牙のみではなく頚椎も通過することで、歯牙に達するX線が減衰し、または歯牙を通過したX線が減衰され、鮮明なCT断層画像を得ることが難しくなる状態を指し、歯牙の再構成に必要なX線透過データに濃度的な不足ないしCT値的な不足をきたす場合を含む。
【0071】
より精度良く当該部位の影響を緩和させたい場合は、以下で説明する構成を採用すればよい。図4に示すフローチャートでは、ステップS1でX線発生手段10及びX線撮像手段20等を用いて2方向のX線スカウト画像を撮影する。図5に、被写体oの顎顔面を正面から撮影したX線透過画像P11と、顎顔面の側面から撮影したX線透過画像P12との2方向のX線スカウト画像P1が図示されている。図4に示すステップS2では、図5に示すX線スカウト画像P1を表示手段780に表示する。なお、図5には、水平方向に位置を示すカーソルhcと垂直方向の位置を示すカーソルvcとが図示されている。
【0072】
次に、被写体の内部に存在する高X線吸収部位が頚椎であるとして、X線スカウト画像P1から頚椎の位置情報を取得する頚椎取得モードを選択し、ステップS3に進む。ステップS3では、表示手段780に表示されたX線スカウト画像P1から操作手段760を用いて頚椎Aを指定する。指定する方法として、ステップS4では、頚椎の中心をマウス等の指示手段760で選択する。なお、本発明は当該方法に限られず、例えば図5に示すX線スカウト画像P1に表示された頚椎Aの四隅を指定する方法でも良い。ステップS3で選択したX線スカウト画像P1上での頚椎Aの位置から、部位情報取得手段85が、頚椎の2次元座標(Xb,Yb)を認識する(ステップS4)。
【0073】
次に、X線スカウト画像P1を用いてCT撮影を行う領域を指定するためスカウト位置づけモードを選択する。スカウト位置づけモードでは、X線スカウト画像P1においてCT撮影領域の中心を選択する(ステップS5)。具体的には、図5に示したカーソルhc,vcをマウス等で移動させてCT撮影領域の中心を選択する。ステップS5で選択したX線スカウト画像P1上でのCT撮影領域の中心の位置から、CPU81等がCT撮影領域の中心の2次元座標(Xa,Ya)を認識する(ステップS6)。なお、CT撮影領域の中心であるX線発生手段10とX線撮像手段20との旋回中心軸は、CPU81により実現される中心軸設定手段により設定される。
【0074】
次に、ステップS7では、座標(Xa,Ya)を中心にCT撮影を行うが、その際、X線制御手段82が、頚椎Aの座標(Xb,Yb)に基づく制御モデルにより、X線発生手段10の出力や支持手段30の回転速度等を変化させて撮影結果への頚椎Aの影響を緩和させる頚椎補正撮影を行う。CT撮影を行う際、X軸モータ60x及びY軸モータ60yをCPU71が制御することで、座標(Xa,Ya)にCT撮影におけるX線発生手段10とX線撮像手段20の旋回の旋回中心軸を移動させる。なお、X軸モータ60x及びY軸モータ60y,CPU71が旋回中心軸移動手段を構成する。また、制御モデルは、CT撮影領域の中心座標(Xa,Ya)を考慮して設定される。これには、同じ頚椎Aの座標(Xb,Yb)であっても、CT撮影領域の中心座標(Xa,Ya)が異なれば、X線発生手段10とX線撮像手段20との線上を頚椎Aが横切る位置が異なるためである。
【0075】
図4で示したフローチャートでは、2方向のX線スカウト画像を用いて頚椎Aの座標(Xb,Yb)を認識する処理を示したが、本発明はこれに限られず、例えば、図6に示すパノラマスカウト画像P2を用いても良い。図6に示すパノラマスカウト画像P2では、画像の左右に頚椎Aが写り込むため、この位置をマウス等で指定することで頚椎Aの座標(Xb,Yb)を認識することができる。また、図6に示すパノラマスカウト画像P2でも、カーソルhc,vcをマウス等で移動させてCT撮影領域の中心を選択する。パノラマスカウト画像を用いる例としては、本出願人の出願にかかる再公表特許W2003/084407のような構成が考えられる。さらに、頚椎Aの座標(Xb,Yb)を認識する処理で用いるスカウト画像は、必ずしもX線画像である必要はなく、頚椎Aの位置を選択できれば可視光で撮影した画像であっても良い。また、図4で示したフローチャートでは、2方向のX線スカウト画像としたが、1方向のX線スカウト画像でも良い。
【0076】
次に、X線制御手段82が処理する制御モデルについて説明する。この制御モデルは、X線発生手段10とX線撮像手段20とを結ぶ線の線上を高X線吸収部位(例えば、頚椎A)が横切る際に、X線撮像手段20における当該部位の影響を緩和させるようにX線制御手段82がX線発生手段10や旋回用モータ60r等を制御するパターン(プロファイル)を示している。なお、X線制御手段82がX線撮像手段20における当該部位の影響を緩和させる制御としては、頚椎Aを横切る際に、X線発生手段10からのX線出力を大きくする制御や、旋回用モータ60rの旋回速度を遅くする制御が考えられる。しかし、本発明はこれに限られず、X線撮像手段20における当該部位の影響を緩和させる制御であれば、X線発生手段10から出力されるX線を遮蔽する構成を制御する等の方法であっても良い。
【0077】
X線発生手段10から出力されるX線を遮蔽する構成については、X線発生手段10の前面に、電磁アクチュエータ等を利用した駆動機構により開閉駆動可能なシャッター状の図示しないX線遮蔽部材を設ける構成などが考えられる。そして、前記駆動機構による開閉動作における開放時間と遮蔽時間との比(以下、開閉時間比という)を制御することで、X線遮蔽部材が照射X線を遮蔽する単位時間当りの総時間を制御する。例えば、高X線吸収部位を横切る部分では照射X線を遮蔽する遮蔽時間が短くなるように、また、高X線吸収部位を横切らない部分では照射X線を遮蔽する遮蔽時間が長くなるように、前記開閉時間比を制御する構成とする。
【0078】
X線をパルス状に照射して、その周波数ないしパルス幅を制御するようにしてもよい。
【0079】
以下では、X線発生手段10から出力されるX線を制御する制御モデルを例にして、本実施の形態に係るX線CT撮影装置の動作を説明する。まず、図7に、X線制御手段82が制御モデルを処理するフローチャートを示す。図7に示すステップS11では、アーム(支持手段30)の回転角度(1度刻み)に対応した制御モデルである線量プロファイルテーブル(X線出力プロファイル)をX線制御手段82が記憶手段83からロードする。ステップS11では、線量プロファイルテーブルの先頭位置の旋回角度を(mAPtr)とする。
【0080】
次に、ステップS12では、CT撮影領域の中心座標(Xa,Ya)と頚椎Aの座標(Xb,Yb)とをX線制御手段82にロードする。そして、ステップS12では、θ=atan((Xa−Xb)/(Ya−Yb))を計算する(なお、”atan”は逆正接関数、ここでは正中線をY軸としてこれに対する角度θを求めている(図12参照))。次に、ステップS13では、線量プロファイルテーブルから読み込んだ先頭位置を修正する。つまり、(mAPtr)の値をθ度分だけ遅らせる(mAPtr−θ=mAPtr)。これは、CT撮影領域の中心座標(Xa,Ya)に対し、頚椎Aの座標(Xb,Yb)が存在する位置が線量プロファイルテーブルにおいて初期に設定する位置と一致していれば線量プロファイルテーブルから読み込んだ先頭位置のままでX線照射を開始するが、位置的に設定していた位置とずれがあり、方向的に角度θ分の開きがあった際にその分の修正を加える処理である。理解のために、極端な例示であるが、後述の図8を用いて説明すると、図8(a)をX線照射開始位置とする線量プロファイルテーブルが準備されているが、実際のX線照射開始位置が図8(b)位置であったとする。その場合は、図8(b)の二点鎖線で示すX線出力でX線照射を開始すると適切な制御になる。
【0081】
次に、ステップS11〜S13で設定した条件に基づき、旋回アームを回転し、X線照射を開始する。ステップS14では、線量プロファイルテーブルに対応した管電流を出力するようにX線制御手段82がX線発生手段10を制御し、出力するX線量を制御する。つまり、Table[mAPtr]=XmAとして、その後、mAPtrを1つ(つまり、S14の繰返し時間において旋回アームの回転角度に応じた値分)進める(mAPtr+1=mAPtr、右辺のmAPtrは左辺のmAPtrから1つ進んだ後の新たなmAPtrである)。次に、ステップS15では、旋回アームの位置が停止位置に至ったか否かを判断し、停止位置に至っていなければX線照射を継続し、停止位置に至っていればステップS16に進みX線照射を停止する。後述するように、被写体(患者)のサイズ(体型)別の制御モデルが選択できるようにしておいてもよい。
【0082】
X線発生手段10、X線撮像手段20及び頚椎Aの位置関係とX線出力のプロファイルを示した図を図8,図9に示す。まず、図8(a)では、被写体oの歯列弓r全体をCT撮影領域RとするようにX線発生手段10からX線コーンビームBが照射され、CT撮影領域Rを透過したX線コーンビームBがX線撮像手段20で検出される。また、X線発生手段10及びX線撮像手段20は、中心座標(Xa,Ya)を旋回中心軸として旋回する。図8(a)では、X線コーンビームBが頚椎Aに重ならない位置にX線発生手段10及びX線撮像手段20が位置しているので、X線コーンビームBはCT撮影領域Rのみを通過してX線撮像手段20に至る。そのため、X線発生手段10及びX線撮像手段20の位置が図8(a)の場合、頚椎Aが撮影結果に影響を与えないのでX線撮像手段20が出力するX線量を低く抑えることができる。
【0083】
なお、X線発生手段10からのX線出力を制御する場合、X線出力は、X線発生手段10に供給する管電流又は管電圧で制御することができる。
【0084】
X線発生手段10及びX線撮像手段20の位置が図8(b)の場合、X線コーンビームBの一部が頚椎Aに重なるので、撮影結果に与える頚椎Aの影響を緩和させるためにX線出力を図8(a)の場合に比べて大きくする。X線発生手段10及びX線撮像手段20の位置が図8(c)の場合、X線コーンビームBに頚椎Aの全部が重なるので、撮影結果に与える頚椎Aの影響を緩和させるためにX線出力を図8(b)の場合に比べてさらに大きくする。X線発生手段10及びX線撮像手段20の位置が図8(d)の場合、X線コーンビームBの一部が頚椎Aに重なるので、撮影結果に与える頚椎Aの影響を緩和させるためにX線出力を図8(c)の場合に比べて小さくする(図8(b)の場合と同程度)。なお、図8に示すX線出力のプロファイルは、縦軸がX線出力、横軸が撮影時間又は旋回角度である。
【0085】
さらに、X線発生手段10及びX線撮像手段20の位置が図9(e)の場合、X線コーンビームBが頚椎Aに重ならないので、撮影結果に与える頚椎Aの影響を緩和させる必要がなくX線出力を図8(c)の場合に比べてさらに小さくする(図8(a)の場合と同程度)。X線発生手段10及びX線撮像手段20の位置が図9(f)の場合、X線コーンビームBが頚椎Aのほとんどの部分と重なるので、撮影結果に与える頚椎Aの影響を緩和させるためにX線出力を図9(e)の場合に比べて大きくする(図8(c)の場合に比べて僅かに小さくする程度)。X線発生手段10及びX線撮像手段20の位置が図9(g)の場合、X線コーンビームBに頚椎Aの全部が重なるので、撮影結果に与える頚椎Aの影響を緩和させるためにX線出力を図8(c)の場合と同程度にする。X線発生手段10及びX線撮像手段20の位置が図9(h)の場合、X線コーンビームBが頚椎Aのほとんどの部分と重なるので、撮影結果に与える頚椎Aの影響を緩和させるためにX線出力を図9(g)の場合に比べると僅かに小さくする(図9(f)の場合と同程度)。X線発生手段10及びX線撮像手段20の位置が図9(i)の場合、X線コーンビームBに頚椎Aが重ならないので、撮影結果に与える頚椎Aの影響を緩和させる必要がなくX線出力を図9(h)の場合に比べて小さくする(図8(a)の場合と同程度)。なお、図9(h)のX線発生手段10及びX線撮像手段20の位置は、図8(a)のX線発生手段10及びX線撮像手段20の位置から旋回アームを旋回中心軸(Xa,Ya)に一周させた後の位置である。
【0086】
以上のように、本実施の形態に係るX線CT撮影装置Mは、X線制御手段82が被写体oの内部に存在する高X線吸収部位の情報に基づく制御モデルにより、X線撮像手段20を制御して当該部位の影響を緩和させるので、簡単な構成で、且つ低コストで、当該部位の影響を緩和させたCT撮影が可能となる。
【0087】
本願におけるX線CT撮影装置Mによれば、頚椎Aなどの高X線吸収部位の影響があるX線照射対象部位に対して照射するX線のX線量を大きくする一方、影響が無いX線照射対象部位に対して照射するX線のX線量を低く抑えるので、CT断層画像を鮮明にしながら、全体として被写体oのX線被曝量を抑えることができる。
【0088】
実際、頚椎Aの影響は大きく、出願人の測定したところによると、頚椎Aの影響が無いX線照射対象部位についてX線量を適切に低減させることで、撮影に必要なX線量の総和を、均一なX線量で撮影した場合のおよそ6割分に抑えることができる。
【0089】
また、頚椎Aの影響が無いX線照射対象部位であるにもかかわらず、過剰な出力量のX線照射をすると、この部位において出力信号レベルが飽和してしまい、逆に頚椎Aの影響があるX線照射対象部位であるにもかかわらず、過小な出力量のX線照射をすると頚椎A以外の部位に関する出力信号レベルに不足を生じるおそれがあるが、本願構成によってX線検出器のダイナミックレンジの範囲内で画像における濃淡差を鮮明化すること、すなわちCT断層画像のダイナミックレンジを拡大することができる。
【0090】
さらに、本実施の形態に係るX線CT撮影装置Mにおいて、X線コーンビームBが常に照射される箇所の透過X線量を監視するX線透過量監視手段(例えば、X線撮像手段20の所定の検出手段を利用)をさらに備えることで、当該X線透過量監視手段が、監視する透過X線量が略一定値になるように制御モデルを補正することができ、より当該部位の影響を緩和することができる。ここで、X線コーンビームBが常に照射される箇所として、例えば被写体oの鼻下点に着目することができ、当該鼻下点を通過するX線のX線量を、X線撮像手段20をX線透過量監視手段として用いて監視することができる。
【0091】
なお、本実施の形態に係るX線CT撮影装置Mでは、図4に示したフローチャートのように、CT撮影を行う前に別途スカウト画像を撮影する(ステップS1)処理を行っているが、本発明はこれに限られない。例えば、以前に撮影したスカウト画像又はパノラマスカウト画像等を記憶手段83から読み出して、本実施の形態に係るX線CT撮影装置MのCT撮影に利用することもできる。また、以前に撮影したスカウト画像等は、被写体o毎に管理されている記憶手段83に保存されたものでも、外部メディアに保存されているものでも良い。
【0092】
(実施の形態2)
実施の形態1に係るX線CT撮影装置Mでは、高X線吸収部位情報を得るために、スカウト画像等に表示された当該部位をマウス等の操作手段86で指定する必要があった。一方、本実施の形態に係るX線CT撮影装置Mでは、画像パターン認識を利用してスカウト画像等に表示された当該部位の情報を取得する。
【0093】
具体的に、本実施の形態に係るX線CT撮影装置Mの動作を図10に示すフローチャートを用いて説明する。まず、図10に示すステップS21では、スカウト画像等を得るために予備X線撮影を実行する。なお、当該予備X線撮影で撮影する画像は、シングルショットの透視画像でも、2方向スカウト画像でも、パノラマスカウト画像でも良い。そして、ステップS22では、当該予備X線撮影で得たX線画像を図11(a)のように生成する。
【0094】
次に、ステップS23では、X線画像上の濃度分布より頚椎Aを検出し、当該頚椎Aの中心座標を決定する。頚椎Aを認識する方法として、画像パターン認識を利用する。画像パターン認識の例としては、まず図11(b)のように、図11(a)の画像を2値化画像にする。そして、図11(c)のラインαのように、画像を順次走査的に解析することで頚椎Aを認識する。さらに、頚椎Aと判断する領域の左右の中央と前後の中央を頚椎中心と設定して頚椎Aの中心座標(Xb,Yb)と決定する。図11(c)において、歯Tか頚椎Aかの認識は濃度部分の大きさ等から判断できる。
【0095】
次に、ステップS24では、CT撮影領域を指定し、CT撮影領域の中心座標(Xa,Ya)を決定する。ステップS25では、ステップS23で取得した頚椎Aの中心座標(Xb,Yb)とステップS24で取得したCT撮影領域の中心座標(Xa,Ya)との位置関係を測定する。なお、両者の位置関係とは、図12に示すように(Xa,Ya)と(Xb,Yb)との距離dや、歯列弓rの前歯と頚椎Aとを結ぶ正中線に対する(Xb,Yb)を中心とする(Xa,Ya)のなす角度θである。次に、ステップS26では、ステップS25の測定結果により、制御モデルに基づいて頚椎位置に応じたX線照射量でCT撮影を実行する。
【0096】
以上のように、本実施の形態に係るX線CT撮影装置Mでは、部位情報取得手段85は、画像パターン認識によりスカウト画像から高X線吸収部位を特定するので、術者が当該部位の位置を別途指定する必要がなく、操作を軽減できる。頚椎Aの中心座標(Xb,Yb)を基に演算を行うのは、位置演算上の便宜である。無論頚椎の実体は点ではなく、広がりがある形状であるので、X線コーンビームBがどの角度から頚椎Aにさしかかるかは、頚椎の外縁の位置を考慮して算定される。
【0097】
(実施の形態3)
本実施の形態に係るX線CT撮影装置Mでは、被写体o(患者)のサイズに基づいて予め設定されている制御モデルを選択して、高X線吸収部位の影響を緩和してCT撮影を行う。
【0098】
具体的に、図13に示すフローチャートを用いて、本実施の形態に係るX線CT撮影装置Mの動作を説明する。まず、ステップS31では、図1等の操作パネル76に図14に示す画面が表示される。図14(a)はCT撮影領域Rを径40mm、高さ40mmとした画面で、CT撮影領域サイズ選択ボタン741は「40×40」を選択している。一方、図14(b)はCT撮影領域Rを径140mm、高さ100mmとした画面で、CT撮影領域サイズ選択ボタン741は「140×100」を選択している。また、図14(a)及び図14(b)では、患者サイズ選択ボタン742により、患者サイズ(頭部のサイズ)を「M」としている。なお、患者サイズは「L」、「M」、「S」等のように複数の選択肢から選べる構成にしている。
【0099】
次に、ステップS32では、ステップS31で表示された患者サイズの選択に基づき、当該患者サイズに対応した頚椎Aの中心座標(Xb,Yb)を設定する(例えば、Mサイズの患者に対応する頸椎Aの平均的な位置)。次に、図4に示したステップS5,S6を含む頚椎補正撮影S33を行う。
【0100】
以上のように、本実施の形態に係るX線CT撮影装置Mでは、部位情報取得手段85が、所定の選択肢から被写体(患者)のサイズ(体型)を選択することで、高X線吸収部位情報を取得するので、当該部位の特定のための別途処理が不要になり、操作が簡略化できる。特に、予備撮影としてX線撮影を行って当該部位の特定を行う場合に比べて、本実施の形態に係るX線CT撮影装置Mは、被写体の被爆量を低減できる。
【0101】
なお、X線CT撮影装置MのX線撮像手段20を構成するX線センサにはカセットタイプを採用することができる。このカセットタイプのX線センサは、支持手段30である旋回アームの一方に設けられたX線検出手段20のカセットホルダに着脱自在である。そして、X線の検出面の大きさが異なる複数種のX線センサをカセットとして着脱自在にすることで、CT撮影の目的ごとに交換可能となる。例えば、CT装置購入時に低価格の小さな検出面のX線センサのカセットを一緒に購入して局所CT撮影のみ行い、後に大きな検出面のX線センサのカセットを購入して全顎CT撮影できるよう拡張することもできる。無論、はじめから大きな検出面のX線センサを備え、その検出面の範囲内でCT撮影の撮影対象領域ないし検出領域を変更できるようにしてもよく、そのX線センサをX線撮像手段に固着のものとしても、カセットタイプに構成してもよい。
【0102】
このようにX線センサをカセットにして交換可能なX線CT撮影装置Mを構成した場合、図15のようなCT撮影領域指定のフローチャートとなる。まず、ステップS41では、カセットタイプを判別し、全顎CT撮影可能な大型のX線センサか局所CT撮影のみの小型のX線センサかを判定する。ステップS41で小型のX線センサが装着されていると判断した場合は、局所撮影部位を図14(a)のCT撮影領域Rのように円で囲む(ステップS42)。その後、当該局所撮影部位に支持手段30を移動させて局所CT撮影を行う。
【0103】
一方、ステップS41で大型のX線センサが装着されていると判断した場合は、ステップS43で全顎撮影を行うか局所撮影を行うかを選択する。ステップS43で局所撮影を選択した場合は、ステップS42に進む。ステップS43で全顎撮影を選択した場合は、ステップS44に進み、全顎を図14(b)のCT撮影領域Rのように円で囲む。
【0104】
(実施の形態4)
本実施の形態に係るX線CT撮影装置Mでは、高X線吸収部位情報を得るために、被写体oを計測する。
【0105】
具体的に、図16に示すフローチャートを用いて、本実施の形態に係るX線CT撮影装置Mの動作を説明する。まず、ステップS51では、計測治具により患者(被写体)の基準点から頚椎Aまでの距離を測定する。計測治具としては、図17に示すようにX線CT撮影装置本体M1に取り付けられたものが考えられる。図17に示す計測治具は、顎押さえ部101と前頭押さえ部102と測定アーム部103とを備えている。そして、図17に示す計測治具は、前頭押さえ部102と患者(被写体o)との接点を基準点として、測定アーム部103を患者(被写体o)の頚椎近傍位置まで移動させることで、頚椎までの距離を測定する。なお、図17に示す計測治具は、患者を保持する保持手段40としても機能する。保持手段40に保持した患者等の被撮影者の頚部の後端の位置を測定する図示しない計測治具を採用してもよい。頚部後端から頚椎までの距離にはあまり個人差が無いので、位置検出の精度が高くなる。
【0106】
次に、ステップS52では、ステップS51で測定した結果が入力され、当該測定結果に基づき頚椎の中心座標(Xb,Yb)を設置する。なお、ステップS51で測定した結果の入力は、計測治具に連動して自動的に部位情報取得手段85に入力される構成でも、操作手段86を用いて入力する構成でも良い。また、計測治具は、X線CT撮影装置本体M1に取り付けられている必要はなく、別の場所に設けた計測治具で測定した結果のみ部位情報取得手段85に入力する構成でも良い。次に、図4に示したステップS5,S6を含む頚椎補正撮影S53を行う。
【0107】
以上のように、本実施の形態に係るX線CT撮影装置Mでは、部位情報取得手段85は、被写体を計測したデータに基づき高X線吸収部位情報を特定するので、予備撮影が不要であり、患者の負担軽減でき、且つ操作を簡略化できる。また、被写体oの計測を、保持手段40を用いて行うことで、被写体oの保持と測定とが同時に行うことができる。
【0108】
(実施の形態5)
以上の実施の形態に係るX線CT撮影装置Mでは、主に全顎をCT撮影する構成について説明した。一方、本実施の形態に係るX線CT撮影装置Mでは、局所CT撮影を行う構成について説明する。
【0109】
まず、図18を用いて、全顎CT撮影と局所CT撮影との差異を説明する。図18(a)は全顎CT撮影を説明する概略図であり、X線発生手段10のX線発生器11から出力されたX線ビームB´はその広がりが照射野制御手段12でX線コーンビームBとなるよう規制され、歯列弓rを含む全顎をCT撮影領域Rとして照射してX線撮像手段20のX線検出器21に至る。図18(a)の全顎CT撮影では、X線検出器21の全面がX線コーンビームBの照射領域Faとなる。
【0110】
図18(b)は局所CT撮影を説明する概略図であり、X線発生手段10のX線発生器11から出力されたX線ビームB´はその広がりが照射野制御手段12で図18(a)に示すより広がりが小さいX線コーンビームBとなるよう規制され、歯列弓rの一部をCT撮影領域Rとして照射してX線撮像手段20のX線検出器21に至る。図18(b)の局所CT撮影では、X線検出器21の一部がX線コーンビームBの照射領域Fbとなる。局所CT撮影は、例えば歯列弓を撮影対象とする場合、2〜4本程度の歯牙が撮影領域となるような小照射野のCT撮影である。
【0111】
図18(c)はパノラマ撮影を説明する概略図であり、X線発生手段10のX線発生器11ら出力されたX線ビームB´は、その広がりを照射野制御手段12で規制(図18(b)の場合と異なり水平方向が大幅に規制)され、歯列弓rの一部を従来のパノラマ撮影の手法にしたがって照射してX線撮像手段20のX線検出器21に至る。図18(c)の撮影では、X線検出器21の一部が細隙X線ビームNBの照射領域Fcとなる。パノラマ撮影では、通常細隙X線ビームNBが上から見ると包絡線を形成するように照射され、その軌道を実現するために撮影中にX線発生手段10とX線撮像手段20が旋回すると共に、X軸モータ60x、Y軸モータ60yが支持手段30の旋回中心軸30cを移動させつつX線照射する。なお、図18(c)は、前歯中央付近に細隙X線ビームNBを照射している状態を表している。
【0112】
本実施の形態に係るX線CT撮影装置Mでは、図18(b)や図18(c)のような局所CT撮影について説明するが、基本的な装置の構成、動作については上述の実施の形態で述べたX線CT撮影装置Mの構成、動作と同じであるため、詳細な説明は省略する。以下、局所CT撮影において特徴的な点について説明する。
【0113】
まず、本実施の形態に係るX線CT撮影装置MにおけるX線発生手段10、X線撮像手段20及び頚椎Aの位置関係とX線出力、旋回アームの旋回速度のプロファイルを示した図を図19に示す。
【0114】
図19において、縦軸が「X線出力」で示されたグラフがX線出力のプロファイルを示したグラフであり、縦軸が「旋回アーム旋回速度」で示されたグラフが旋回アームの旋回速度のプロファイルを示したグラフである。このように、X線出力制御を行っても旋回アームの旋回速度制御を行ってもよいことをこの図で示した。X線出力制御と旋回アームの旋回速度制御の一方を行ってもよいが、双方を同時に制御して適宜のX線照射量になるようにしてもよい。
【0115】
図19では、被写体oの歯列弓rの一部(前歯)をCT撮影領域RとするようにX線発生手段10からX線コーンビームBが照射され、CT撮影領域Rを透過したX線コーンビームBがX線撮像手段20で検出される。また、X線発生手段10及びX線撮像手段20は、中心座標(Xa,Ya)を旋回中心軸として旋回する。図19(a)では、X線コーンビームBが頚椎Aに重ならない位置にX線発生手段10及びX線撮像手段20が位置しているので、X線コーンビームBはCT撮影領域Rのみを通過してX線撮像手段20に至る。そのため、X線発生手段10及びX線撮像手段20の位置が図19(a)の場合、X線出力プロファイルに示すように頚椎Aが撮影結果に影響を与えないのでX線撮像手段20が出力するX線量を低く抑えることができる。または、図19(a)の場合、旋回速度プロファイルに示すように頚椎Aが撮影結果に影響を与えないので旋回アーム(支持手段30)の旋回速度を速くすることができる。
【0116】
X線発生手段10及びX線撮像手段20の位置が図19(b)の場合、X線コーンビームBが頚椎Aの一部に重なるので、撮影結果に与える頚椎Aの影響を緩和させるためにX線出力を図19(a)の場合に比べて大きくする。または、図19(b)の場合、旋回アームの旋回速度を図19(a)の場合に比べて遅くする。X線発生手段10及びX線撮像手段20の位置が図19(c)の場合、X線コーンビームBに頚椎Aが重ならないので、頚椎Aが撮影結果に影響を与えることはないためX線出力を図19(b)の場合に比べて小さくする。または、図19(c)の場合、旋回アームの旋回速度を図19(b)の場合に比べて速くする。なお、図19に示すX線出力のプロファイルは、縦軸がX線出力、横軸が撮影時間又は旋回角度である。また、旋回速度のプロファイルは、縦軸が旋回アームの旋回速度、横軸が撮影時間又は旋回角度である。
【0117】
図19に示したX線出力プロファイル等は、基本的に全顎CT撮影する図8等に示す構成と同じである。しかし、本実施の形態のように局所CT撮影の場合、歯列弓rのどの位置をCT撮影領域RとするかによってX線出力プロファイル等が異なる。つまり、X線出力プロファイル等が異なることから、制御モデルが局所部分毎に異なることになる。
【0118】
具体的には、図20に、図19と異なる位置に対して局所CT撮影する場合のX線発生手段10、X線撮像手段20及び頚椎Aの位置関係とX線出力のプロファイルを示す。図20(a)では、X線コーンビームBが頚椎Aに重なる位置にX線発生手段10及びX線撮像手段20が位置しているので、X線コーンビームBは頸椎A及びCT撮影領域Rを通過してX線撮像手段20に至る。そのため、X線発生手段10及びX線撮像手段20の位置が図20(a)の場合、X線出力プロファイルに示すように頚椎Aが撮影結果に影響を与えるのでX線撮像手段20が出力するX線量を高くしている。
【0119】
X線発生手段10及びX線撮像手段20の位置が図20(b)の場合、X線コーンビームBに頚椎Aが重ならないので、頚椎Aが撮影結果に影響を与えることはないためX線出力を図20(a)の場合に比べて小さくする。X線発生手段10及びX線撮像手段20の位置が図20(c)の場合も、X線コーンビームBに頚椎Aが重ならないので、頚椎Aが撮影結果に影響を与えることはないためX線出力を図20(b)の場合と同程度にする。図示の例では、X線出力のピークが、図19では図19(b)の状態で、図20では図20(a)の状態で現れる。
【0120】
被写体の局所部分に対応する制御モデルは、被写体の局所部分毎に保存していても、基準の制御モデルから演算しても良い。
【0121】
また、局所CT撮影の場合、全顎CT撮影の場合に比べて頸椎Aの位置の影響を受けやすい。例えば、図21,図22に示すX線CT撮影装置MにおけるX線発生手段10と頚椎Aとの位置関係がX線出力プロファイルに与える影響について説明する。なお、図21(a)〜(d)及び図22(e)〜(h)(i)は、説明すると図8の説明とほとんど同じとなり、また、図19等の説明より容易に理解できるため説明を省略する。ただし、図21(c)と図22(g)については言及すべき点があるので、以下のように説明する。図21(c)では、X線発生手段10,頸椎A,CT撮影領域R,X線撮像手段20の順に位置するため、X線発生手段10と頸椎Aとの距離が近くなる。そのため、X線発生手段10からのX線コーンビームBはあまり広がらずに頸椎Aに到達するので、図21(c)に示されているようにX線コーンビームBのほとんどが頸椎Aと重なることになり、頸椎Aの撮影結果に与える影響が大きくなる。
【0122】
一方、図22(g)では、X線発生手段10,CT撮影領域R,頸椎A,X線撮像手段20の順に位置するため、X線発生手段10と頸椎Aとの距離が遠くなる。そのため、X線発生手段10からのX線コーンビームBは広がった状態で頸椎Aに到達するので、図22(g)に示されているようにX線コーンビームBの一部が頸椎Aと重なることになり、頸椎Aの撮影結果に与える影響が図21(c)の場合に比べて小さくなる。従って、X線出力プロファイルは、図21(c)の場合のX線出力に比べて、図22(g)の場合のX線出力の方が小さくなる。
【0123】
また、図23(a)に示す患者Iと、図23(b)に示す患者IIとの頸椎の位置が異なる場合のX線出力プロファイルへの影響について説明する。図23(b)に示すように患者Iの頸椎AIに比べて患者IIの頸椎AIIの方がより歯列弓r側に位置している。そのため、図23(c)に示すように、旋回アームが中心座標(Xa,Ya)の周りを角度θI旋回した位置で、X線発生手段10とX線撮像手段20とを結ぶ直線が頸椎AIに重なる。一方、図23(d)では、旋回アームが中心座標(Xa,Ya)の周りを角度θII度(<θI)旋回した位置で、X線発生手段10とX線撮像手段20とを結ぶ直線が頸椎AIIに重なる。
【0124】
つまり、頸椎の位置がより歯列弓r側にある方が、より早く(小さい旋回角度で)X線発生手段10とX線撮像手段20とを結ぶ直線と頸椎とが重なることになる。そのため、X線出力プロファイルは図23(e)のようになり、患者IのX線出力プロファイルより、患者IIのX線出力プロファイルの方は早くX線出力のピークが到来することになる。
【0125】
なお、図23(f)に示すように、患者による頸椎位置のバラツキを考慮して、患者IのX線出力プロファイルと患者IIのX線出力プロファイルとの中間に位置するX線出力プロファイルをX線CT撮影装置Mで用いる制御モデルとして採用しても良い。
【0126】
以上のように、本実施の形態に係るX線CT撮影装置Mでは、撮影対象を被写体oの局所部分のみを対象とすることで、多様なX線CT撮影装置に適用できると共に、被写体(患者)のX線被爆を低減することができる。
【符号の説明】
【0127】
10 X線発生手段、11 X線発生器、12 照射野制御手段、20 X線撮像手段、21 X線検出器、22 カセット、30 支持手段、40 保持手段、60 駆動部、65 移動手段、70 撮影装置本体制御部、71,81 CPU、72 X線発生手段制御手段、73 X線撮像手段制御手段、76 操作パネル、78,88 表示手段、80 画像表示装置制御部、82 X線制御手段、84 画像処理手段、85 部位情報取得手段、86 操作手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線コーンビームを発生するX線発生手段と、
被写体を通過した前記X線コーンビームを検出するX線撮像手段と、
前記被写体を間にして前記X線発生手段と前記X線撮像手段とを相互に対向して支持する支持手段と、
前記被写体を保持する保持手段と、
前記支持手段を前記被写体に対して相対的に旋回させる旋回駆動手段と、
前記被写体の内部に存在する高X線吸収部位の位置に関する情報である高X線吸収部位情報に基づく制御モデルにより、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を緩和させるX線制御手段とを備えるX線CT撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線CT撮影装置であって、
前記高X線吸収部位情報を取得する部位情報取得手段をさらに備え、
前記X線制御手段は、前記部位情報取得手段で取得した前記高X線吸収部位情報に基づく前記制御モデルにより、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を緩和させるX線CT撮影装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のX線CT撮影装置であって、
前記X線発生手段と前記X線撮像手段の旋回中心軸の位置を設定する中心軸設定手段と、
前記中心軸設定手段での設定に基づき、前記被写体に対する前記旋回中心軸の位置を、前記旋回中心軸方向と交差する2次元の方向に相対的に移動させる旋回中心軸移動手段とをさらに備え、
前記X線制御手段は、前記旋回中心軸の位置を考慮した前記制御モデルにより、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を緩和させるX線CT撮影装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載のX線CT撮影装置であって、
前記X線コーンビームが常に照射される箇所の透過X線量を監視するX線透過量監視手段をさらに備え、
前記X線透過量監視手段は、監視する前記透過X線量が略一定値になるように、前記X線制御手段の前記制御モデルを補正することを特徴とするX線CT撮影装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のX線CT撮影装置であって、
前記X線制御手段は、前記制御モデルにより、前記X線コーンビームの出力又は前記支持手段の相対旋回速度の少なくとも一方を前記支持手段の旋回角度に応じて制御することを特徴とするX線CT撮影装置。
【請求項6】
請求項5に記載のX線CT撮影装置であって、
前記X線制御手段は、前記X線発生手段の管電流又は管電圧の少なくとも一方を変更することで前記X線コーンビームの出力を制御することを特徴とするX線CT撮影装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載のX線CT撮影装置であって、
前記X線制御手段は、前記旋回駆動手段により前記支持手段又は前記被写体の少なくとも一方の旋回速度を変更することで前記支持手段の相対旋回速度を制御することを特徴とするX線CT撮影装置。
【請求項8】
請求項2に記載のX線CT撮影装置であって、
前記部位情報取得手段は、X線CT撮影前に前記被写体をスカウト撮影することで得たスカウト画像から、高X線吸収部位情報を取得することを特徴とするX線CT撮影装置。
【請求項9】
請求項8に記載のX線CT撮影装置であって、
前記スカウト画像は、前記被写体を異なる2方向から撮影した画像、又は前記被写体の曲面断層画像の少なくとも一方であることを特徴とするX線CT撮影装置。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載のX線CT撮影装置であって、
前記スカウト画像は、前記X線CT撮影装置内の記憶手段又は外部の記憶手段から読み出された画像であることを特徴とするX線CT撮影装置。
【請求項11】
請求項8乃至請求項10のいずれか1つに記載のX線CT撮影装置であって、
前記部位情報取得手段は、画像パターン認識により前記スカウト画像から前記高X線吸収部位を特定することを特徴とするX線CT撮影装置。
【請求項12】
請求項2に記載のX線CT撮影装置であって、
前記部位情報取得手段は、所定の選択肢から前記被写体の体型を選択することで、前記所定の選択肢に応じて予め定められた前記高X線吸収部位情報を取得することを特徴とするX線CT撮影装置。
【請求項13】
請求項2に記載のX線CT撮影装置であって、
前記部位情報取得手段は、前記被写体を計測したデータに基づき高X線吸収部位を特定することを特徴とするX線CT撮影装置。
【請求項14】
請求項13に記載のX線CT撮影装置であって、
前記被写体の計測は、前記保持手段を用いて行うことを特徴とするX線CT撮影装置。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか1つに記載のX線CT撮影装置であって、
前記高X線吸収部位は、頚椎であることを特徴とするX線CT撮影装置。
【請求項16】
請求項1乃至請求項15のいずれか1つに記載のX線CT撮影装置であって、
前記X線CT撮影装置の撮影対象は、前記被写体の局所部分のみを対象とすることを特徴とするX線CT撮影装置。
【請求項17】
請求項16に記載のX線CT撮影装置であって、
前記被写体の前記局所部分毎に、異なる前記制御モデルが設定されることを特徴とするX線CT撮影装置。
【請求項18】
X線CT撮影装置の撮影制御方法であって、
(a)被写体を保持手段に保持するステップと、
(b)前記被写体を間にしてX線発生手段とX線撮像手段とを相互に対向して支持する支持手段を、前記被写体に対して相対的に旋回させながら、前記X線撮像手段が被写体を通過したX線発生手段からのX線コーンビームを検出するステップと、
(c)前記ステップ(a)で保持した前記被写体の内部に存在する高X線吸収部位の位置に関する情報である高X線吸収部位情報に基づく制御モデルにより、X線制御手段が前記ステップ(b)を処理中の前記X線撮像手段における前記部位の影響を緩和させるステップとを備えることを特徴とするX線CT撮影装置の撮影制御方法。
【請求項19】
請求項18に記載のX線CT撮影装置の撮影制御方法であって、
(d)部位情報取得手段を用いて前記高X線吸収部位情報を取得するステップと、
(e)前記ステップ(d)で取得した前記高X線吸収部位情報に基づく制御モデルを選択することで、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を前記X線制御手段が緩和させるステップとをさらに備えることを特徴とするX線CT撮影装置の撮影制御方法。
【請求項20】
請求項18又は請求項19に記載のX線CT撮影装置の撮影制御方法であって、
(f)前記ステップ(a)後に、中心軸設定手段を用いて、前記X線発生手段と前記X線撮像手段の旋回中心軸の位置を設定するステップと、
(g)前記ステップ(f)での設定に基づき、旋回中心軸移動手段が前記被写体に対する前記旋回中心軸の位置を、前記旋回中心軸方向と交差する2次元の方向に相対的に移動させるステップとをさらに備え、
前記X線制御手段は、前記ステップ(f)で設定の前記旋回中心軸の位置を考慮した前記制御モデルにより、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を緩和させることを特徴とする、X線CT撮影装置の撮影制御方法。
【請求項21】
請求項18に記載のX線CT撮影装置の撮影制御方法であって、
前記X線制御手段は、前記制御モデルにより、前記ステップ(b)を処理中の前記X線コーンビームの出力又は前記支持手段の相対旋回速度の少なくとも一方を制御することで、前記X線撮像手段における前記高X線吸収部位の影響を緩和させることを特徴とするX線CT撮影装置の撮影制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−75682(P2010−75682A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192945(P2009−192945)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(000138185)株式会社モリタ製作所 (173)
【Fターム(参考)】