説明

X線CT装置及びX線源用電源装置

【課題】ビュー毎の高速な管電圧切替が可能で、動きのある検査対象についても、鮮明な画像を得ることができるマルチエネルギー型X線CT装置を提供する。
【解決手段】交流電源1とX線管3との間に、互いに並列に複数の直流電圧発生装置22a、22bを接続するとともに、直流電圧発生装置のうち、出力電圧が大きいほうの直流電圧発生装置22aとX線管3との間に、高電圧制御回路27によって制御されるスイッチング回路23を備え、出力電圧が小さいほうの直流電圧発生装置22bとX線管3との間にダイオード24が挿入される。高電圧制御回路27から所定周波数の切替信号でスイッチング回路23をオンオフすることにより、エネルギーの異なる2つの管電圧を切替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT装置に関し、特にスキャン中にエネルギーの異なるX線ビームを照射し、各々のX線透過データを得るマルチエネルギー型X線CT装置(Multi Energy Computed Tomography:MECT)に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチエネルギー型X線CT装置は、体内の各組織のX線減弱率が、X線ビームのエネルギーに応じて変化する現象を利用し、エネルギーが異なる複数のX線ビームを照射して画像特性の異なる複数の断層画像を撮影する。それらの複数の画像を差分し、差分を強調した強調画像を取得することで、単一のエネルギーでは同じような画素値となって画像化される組織同士を互いに識別可能に画像化する。
【0003】
このような画像特性の異なる断層像を得るために2種類のX線で同一の被検体をそれぞれ撮影する場合、従来、80kVといった低い管電圧で撮影し、次に140kVといった高い管電圧に切替えて撮影していた。この場合、次のような問題を生じる。管電圧を切替えて2回の撮影を行なうため、1回目の撮影と2回目の撮影との間に時間差が生じる。その1回目の撮影と2回目の撮影との間に被検体の位置や姿勢が変化すると、上記2つの断層像間で被検体の位置ずれが発生する。このような位置ずれが発生すると、強調画像の中に断層像間の画像特性の違いによる真の差異以外にアーチファクトが含まれてしまい、強調画像の適切な観察や解析ができない。
【0004】
これに対し、マルチエネルギー型のX線CT装置において、スキャン中に撮影管電圧を高速に切り替えて異なるエネルギーのX線ビームを照射する方法がある(例えば、特許文献1)。荷物検査用スキャナを対象とする特許文献1に開示された方法では、X線管の電源である高電圧DC電源に、周期的な時変波形を発生する波形発生器を接続し、DC電源の出力を波形器が発生する波形に応答して所定の変化率で変化させる。これにより、スキャナの回転周期よりも高い変化率、例えば200〜800Hzで管電圧を切替えている。これにより、特許文献1に開示された技術は、荷物検査における単位時間当たりのスキャン速度の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−73544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生体組織を対象とするX線CT装置では、管電圧をより高速に切り替えることが望まれる。例えば、心臓など体動の激しい部位で鮮明な画像を得るためには、ビュー毎に管電圧を切替えることが考えられる。X線CT装置では、例えば1800view/sなどのビューレートで画像データを取り込み、その都度画像を再構成している。この場合、管電圧をビュー毎に切替えるには、0.556ms毎に切替える必要がある。
【0007】
しかし特許文献1に記載されるようなDC電源と波形発生器との組み合わせでは、更なる切替の高速化には限界がある。それは、矩形波形の出力が所定の出力値に達するために通常数ms程度の立ち上がり時間を要し、ビューレートに対応した速度、前掲の例では0.556msで管電圧を切替えることはできないからである。管電圧の応答特性を改善するために、従来のX線CT装置では、管電圧を検出しフィードバック制御を施して高速化を図ってはいるものの、高電圧発生装置出力部に存在する浮遊容量の影響で、1ms以下の管電圧立ち上がり時間及び立ち下がり時間を実現できない。また、高解像度の要求が高まる中、スキャナの回転速度やビューレートは高まる一方にあり、管電圧を高速に切替えられる高電圧発生装置の実現が課題となっている。
【0008】
本発明は、ビュー毎の高速な管電圧切替が可能なマルチエネルギー型X線CT装置を提供すること、これにより動きのある検査対象についても、鮮明な画像を得ることができるマルチエネルギー型X線CT装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のX線CT装置は、交流電源とX線管との間に、互いに並列に複数の直流電圧発生装置を接続するとともに、各直流電圧発生装置とX線管との間に、それぞれ、X線CT装置の制御部によって制御されるスイッチング手段を備える。好適な態様において、スイッチング手段の一つは、ダイオードで置き換えることができ、ダイオードは複数の直流電圧発生装置のうち、最も出力電圧の小さい直流電圧装置とX線管との間に挿入される。
【0010】
具体的には、本発明のX線CT装置は、X線管及びその電源装置を備えたX線源と、前記X線源から発生され、検査対象を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線源と前記X線検出器とを対向配置した回転板を備えたスキャナ回転部と、前記X線検出器が検出した透過X線に関するデータを用いて前記検査対象の画像を再構成する画像処理部と、前記X線源、X線検出器、スキャナ回転部および画像処理部を制御する制御部とを備え、前記X線管の電源装置は、共通の交流電源と前記X線管との間に接続され、互いに異なる電圧を発生する複数の直流電圧発生装置と、各直流電圧発生装置と前記X線管との間に直列接続され、前記制御部からの制御信号により動作するスイッチング手段とを備える。
【0011】
或いは、前記X線管の電源装置は、共通の交流電源と前記X線管との間に接続され、互いに異なる直流電圧を発生する複数の直流電圧発生装置と、前記複数の直流電圧発生装置の一つと前記X線管との間に直列に接続されたダイオードと、前記一つの直流電圧発生装置以外の直流電圧発生装置と前記X線管との間に直列接続され、前記制御部からの制御信号により動作するスイッチング手段とを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明のX線CT装置によれば、X線管の電源装置が複数の直流電圧発生装置とそれを高速で切替えるスイッチング手段とを備えたことにより、管電圧を高速に切替えることが可能となり、より鮮明な強調画像が得られるX線CT装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第一の実施の形態によるX線CT装置の全体概要を示す図
【図2】第一の実施の形態によるX線CT装置の直流電圧発生装置のブロック図
【図3】スイッチ回路の一例を示す回路ブロック図
【図4】第二の実施の形態によるX線CT装置の全体概要を示す図
【図5】第二の実施の形態によるX線CT装置の直流電圧発生装置のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のX線CT装置の実施の形態を説明する。
【0015】
<第一の実施の形態>
図1は、第一の実施の形態によるX線CT装置の全体概要を示す図である。このX線CT装置は、主として、交流電源1から供給される交流電力を直流高電圧に変換する高電圧発生装置2と、高電圧発生装置2から出力された直流高電圧を印加されX線を放射するX線管3と、X線管3に対し被検体4を間に挟んで対向配置されたX線検出部5と、X線検出部5で検出された被検体のX線透過データを用いてCT画像を生成する画像処理装置6と、システム全体を制御するためのシステムコントローラ7と、CT画像及び各種情報を表示する表示装置8と、操作コンソール9とを備える。
【0016】
また図示していないが、X線の照射野を可変設定するコリメータや、X線管3及びX線検出部5を搭載して回転する回転枠(スキャナ回転部)などを備えている。X線検出部5は、X線を電気信号に変換するX線検出素子を一次元或いは二次元方向に多数配列した検出器アレイ51と、各X線検出素子が検出した信号を増幅する増幅器52とからなる。
【0017】
本実施の形態のX線CT装置は、2種のエネルギーの異なるX線を照射できるデュアルエネルギー型の装置であり、このため高電圧発生装置2が、2つの異なる直流電圧をX線管3に印加できるように構成されていることが特徴である。
【0018】
具体的には、高電圧発生装置2は、商用電源1から供給される交流電力を直流電力に変換するAC/DCコンバータ回路21と、この直流電力を更に高い直流電圧へ変換する第1及び第2のDC/DCコンバータ回路22a、22bと、第1及び第2のDC/DCコンバータ回路22a、22bの出力を切替えるスイッチング手段とを備えている。第1及び第2のDC/DCコンバータ回路22a、22bはそれぞれ異なる直流電圧を出力し、これらの出力をスイッチング手段で切替えてX線管に接続する。本実施の形態では、第1のDC/DCコンバータ回路22aの出力は第2のDC/DCコンバータ回路22bの出力よりも大きく、スイッチング手段として、出力が大きい第1のDC/DCコンバータ回路22aとX線管3との間にスイッチング回路23が、出力が小さい第2のDC/DCコンバータ回路22bとX線管3との間にダイオード24がそれぞれ接続されている。
【0019】
また高電圧発生装置2には、システムコントローラ7からの指令を受けて、DC/DCコンバータ回路22a、22b及びスイッチング回路23を制御する高電圧制御回路27が備えられている。高電圧制御回路27は、2つのDC/DCコンバータ回路22a、22bに、それらの出力を決める管電圧設定信号を送る。例えば、第1のDC/DCコンバータ回路22aは−140kV、第2のDC/DCコンバータ回路22bは−80kVの高電圧の出力が設定される。また、高電圧制御回路27は、スキャン条件によって決まる所定周波数の切替信号をスイッチング回路23に送り、当該周波数でスイッチング回路23のON・OFFを切替える。切替信号の周波数は、例えば1ビュー毎に照射エネルギーを切替える場合、ビューレート:1800view/sに対し1800Hzである。
【0020】
DC/DCコンバータ回路22a、22bは、例えば図2に示すように、交流電源1の周波数よりも高い周波数の交流電力に変換するインバータ回路221と、その交流電力を絶縁し高い巻数比で電圧を昇圧させる高圧変圧器222と、その高周波交流電圧を直流に整流する高圧整流器223とを備えている。インバータ回路221は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の半導体スイッチング素子がフルブリッジ構成された回路であり、その導通時間や周波数、互いの位相関係を調整することにより出力を制御することができる。従って、高電圧制御回路27が送る管電圧設定信号は、インバータ回路221を駆動するPWM信号や周波数信号であってもよい。
【0021】
第1のDC/DCコンバータ回路22aとX線管3との間に接続されたスイッチング回路23は、MOSFET(Metal Oxide Silicon Field Effect Transistor)などの半導体スイッチング素子を用いたスイッチング回路であり、高電圧制御回路27の制御信号(管電圧切替信号)によりスイッチング動作する。管電圧切替信号は、前述したようにビューレートに対応する周波数、すなわち数kHzの周波数をもつため、スイッチング回路23は、この周波数に応答する十分な速度で動作するように構成されている。また、スイッチング回路23に流れる電流は管電流と同等程度で1A以下であるが、両端電圧は非常に高く、第1のDC/DCコンバータ回路22aで発生する高い電圧(例えば−140kV)と、第2のDC/DCコンバータ回路22bで発生する低い電圧(例えば−80kV)との差の電圧(この場合Δ60kV)となるため、耐電圧性及び耐ノイズ性が高い回路構成と構造を有している。
【0022】
このような要請を満たすスイッチング回路23の一例を図3に示す。このスイッチング回路23は、MOSFETのような高速スイッチング動作が可能な半導体素子(図中、Q1〜Qn)をカスケード状に組み合わせたものであり、コンデンサC(C1〜Cn)、抵抗Rg(Rg1〜Rgn)及びヒステリシス素子(ここではツェナーダイオード)231からなる直列接続体を、スイッチング素子(MOSFET)Qi(i=2〜n)のゲートと前段のスイッチング素子Qi-1のカソードとの間に接続することにより、各素子Q1〜Qnを順次導通させるように構成されている。またスイッチング素子のゲートとカソード間には過電圧防止用のツェナーダイオードZD1〜ZDnが接続されている。
【0023】
このような構成において、スイッチング回路23に印加可能な電圧は、半導体素子の耐圧×個数(n)がスイッチング回路23の端子(+、−)間に印加可能な電圧となり、高い電圧を高速に切替えることが可能になる。また高電圧が高速に切り替わると、ノイズが発生し、スイッチング回路などが誤動作し易くなるが、このスイッチング回路23では、スイッチング素子Q1〜Qnのゲートと直列にツェナーダイオード231を設けることにより、耐ノイズ性が高くなるようにしている。
【0024】
なおスイッチング回路23としては、図3に例示したもの以外にも、数kHzの周波数で動作可能であり且つ耐電圧の高い回路であれば、採用することは可能である。例えば、特開平8−212948号公報に記載された技術を適用することも可能である。
【0025】
次に、本実施の形態のX線CT装置の動作について説明する。
操作者は操作コンソール9を用いて、第1と第2の管電圧(例えば−140kVと−80kV)及び管電流の設定、スキャン速度(スキャナ回転部の回転速度)、X線コリメーション条件、スキャンの開始位置及び終了位置、被検体を載置する寝台の天板(図示省略)の移動速度又はステップ送りのピッチ、再構成フィルタ関数の種類、視野サイズ(FOV)などのスキャン条件を設定する。
【0026】
このスキャン条件は、システムコントローラ7に入力され、ここでスキャン条件に基づいて制御信号が生成され、各装置や回路へ伝送される。高電圧制御回路27へは、制御信号として、第1及び第2の管電圧設定値、そしてこれら第1の管電圧と第2の管電圧を周期的に切替える管電圧切替信号が送られる。
【0027】
第1の管電圧設定値は、第1のDC/DCコンバータ回路22a内部のインバータ回路221へ伝送され、第2の管電圧設定値は第2のDC/DCコンバータ回路22b内部のインバータ回路221へ伝送される。設定された管電圧値に基づき、それぞれのインバータ回路221の周波数やパルス幅が調整され、第1のDC/DCコンバータ回路22aからは第1の管電圧(−140kV)、第2のDC/DCコンバータ回路22bからは第2の管電圧(−80kV)が出力される。
【0028】
管電圧切替信号の切替周波数は、1回転当りのビュー数及びスキャン速度からビューレートが決まり、ビューレートによって決まる。このように決定された周波数の切替信号が、スイッチング回路23の初段のスイッチング素子Q1のゲート信号として入力されると、スイッチング回路23は設定された周波数で第1のDC/DCコンバータ回路22aをオンオフする。これにより第1のDC/DCコンバータ回路22aがオンの時には、X線管3には第1の管電圧が印加され、第1のDC/DCコンバータ回路22aがオフの時にはX線管3には第2の管電圧が印加される。ここで重要なことは、第1のDC/DCコンバータ回路22aが発生する第1の管電圧は、第2のDC/DCコンバータ回路22bが発生する第2の管電圧より、高い電圧となるよう設定されていることである。第2のDC/DCコンバータ回路22bとX線管3との間にはダイオード24が挿入されているので、第1の管電圧がX線管3へ印加される期間、すなわちスイッチング回路23がオンである期間、第2のDC/DCコンバータ回路22bが出力に影響を及ぼすことはない。
【0029】
管電圧切替信号が高電圧制御回路27に送られるのと同期して、システムコントローラ7からは、スキャン開始信号がスキャナ回転部(不図示)に送られる。これにより、スキャナ回転部が回転し、X線管3へ管電圧の印加が開始すると、管電圧は第1の管電圧(−140kV)と第2の管電圧(−80kV)が設定された周期で切り替わり、2つの異なったエネルギーのX線が被検体4へ曝射される。
【0030】
被検体4を透過したX線はX線検出器51で検出され、その後は従来のデュアルエネルギー型X線CT装置と同様に処理が行なわれる。即ち、X線検出器51で検出されたX線検出信号はプリアンプ52で増幅され、画像処理装置6に伝送される。システムコントローラ7は、X線検出データの収集状況とともにスキャン終了信号の有無を監視し続け、スキャン終了信号が入力するまでスキャンを続行させる。全スキャン範囲の全ビュー分のX線検出データが検出されて画像処理装置6に伝送されると、画像処理装置6からシステムコントローラ7にデータ収集終了信号が送られ、これによりシステムコントローラ7からスキャン終了信号が発生する。このスキャン終了信号は、高電圧発生装置2及びスキャナ制御装置、寝台制御装置等へ出力される。そして、各制御装置の動作が停止されCTスキャンが終了する。
【0031】
画像処理装置6において、このX線検出データは、第1の管電圧のX線照射時のデータと第2の管電圧のX線照射時のデータとに分割され、それぞれのデータは各種の補正処理を施され、投影データが生成される。これら投影データを用いて画像再構成演算が行われて再構成画像データが生成される。さらに管電圧条件の異なる2つの再構成画像データの差分画像(強調画像)が生成される。なお、CT画像の再構成は、スキャン終了後に開始するのでなく、スキャン中であっても、画像再構成に必要なX線検出データが得られ次第に、画像再構成を開始することもできる。再構成画像データに画像表示制御が施されて得られたCT画像は、操作コンソール9から操作者によって入力された付帯情報とともに、画像表示装置8に表示される。
【0032】
本実施の形態によれば、第1と第2の管電圧を数kHzの高速の切替周波数で切替え且つ安定して動作させることができるので、心臓など体動の激しい部位でも、心拍に同期させて2つのエネルギーのX線を照射し、鮮明な画像を得ることができる。
【0033】
また本実施の形態では、第1の管電圧を出力するコンバータ回路をスイッチング回路を介してX線管に接続し、それより小さい第2の管電圧を出力するコンバータ回路をダイオードを介してX線管に接続したことにより、単一のスイッチング回路、単一の制御信号で2つの出力の切替を行なうことができ、且つ一方の出力が他の出力に影響することを確実に防止することができる。
なお本実施の形態では、管電圧の切替周波数をビューレートに対応する周波数に設定する場合を説明したが、切替はビュー単位で行なえばよく、例えば検査対象部位の特性に応じて、複数のビュー毎に管電圧を切替えてもよい。
また図示する例では、システムコントローラ7とは別に高電圧制御回路27を備えた構成を示したが、システムコントローラ7に高電圧制御回路27の機能を持たせることも可能である。
【0034】
さらに本実施の形態では、マルチエネルギー型X線CT装置の典型例としてデュアルエネルギー型の装置を例示して、2つの直流電圧発生装置(DC/DCコンバータ回路)を備えた高電圧発生装置を説明したが、高電圧発生装置は3以上の直流電圧発生装置を備えるものであってもよい。その場合、出力の最小のコンバータ回路はダイオードでX線管に接続し、それ以外のコンバータ回路はダイオードとスイッチング回路の直列接続体、またはスイッチング回路のみでX線管に接続することが望ましい。
【0035】
<第二の実施の形態>
図4は本発明の第二の実施の形態によるX線CT装置の一部の概略構成を示すブロック図である。本実施の形態のX線CT装置も、そのX線管の電源装置(高電圧発生装置)が複数の直流電圧発生装置を備え、これらを切替えることにより、エネルギーの異なるX線を照射し、複数のCT画像および強調画像を得るマルチエネルギー型X線CT装置であることは第一の実施の形態と同じであるが、高電圧発生装置の内部構成が第一の実施の形態とは異なる。従って、図4では、第一の実施形態と重複する部分は省略し、交流電源1と、高電圧発生装置2と、X線管3のみを抽出している。
【0036】
第一の実施の形態では、交流電源1に接続されるAC/DCコンバータ回路21の後段に、第1のDC/DCコンバータ回路22aと第2のDC/DCコンバータ回路22bとを有していたのに対し、本実施の形態ではAC/DCコンバータ回路21の後段に、インバータ回路25を有し、その後段に第1のAC/DCコンバータ回路26aと第2のAC/DCコンバータ回路26bを有している。インバータ回路25は、交流電源1の周波数よりも高い周波数の交流電力に変換し、第1のAC/DCコンバータ回路26aと第2のAC/DCコンバータ回路26bは、それぞれ異なる第1の管電圧と第2の管電圧を出力する。これらの出力を切替えるスイッチング手段23とダイオード24の構成は第一の実施形態と同様である。
【0037】
第1のAC/DCコンバータ回路26a及び第2のAC/DCコンバータ回路26bの構成例を図5に示す。AC/DCコンバータ回路26は、交流電力を絶縁し高い巻数比で電圧を昇圧させる高圧変圧器262と、その高周波交流電圧を直流に整流する高圧整流器263とを備えて構成される。例えば第1の管電圧が−140kV、第2の管電圧が−80kVである場合には、第1のAC/DCコンバータ回路26aの高圧変圧器262の巻数比Nとして、第2のAC/DCコンバータ回路26b内の高圧変圧器262の巻数比をN×80kV/140kVとする。このように第1のAC/DCコンバータ回路26a及び第2のAC/DCコンバータ回路26bの高圧変圧器262の巻数比を設定することで、インバータ回路25が同一であっても、それぞれ異なる2つの第1の管電圧と第2の管電圧を生成することができる。
【0038】
本実施の形態でも、システムコントローラ7からの指令により高電圧制御回路27から発生される制御信号により、管電圧およびスイッチング手段23の切替周波数を制御することは、第一の実施の形態と同様である。ただし、第一の実施の形態では、2つのDC/DCコンバータ回路22にそれぞれ管電圧設定信号を送り、個々に管電圧を設定していたのに対し、第二の実施形態では、管電圧設定信号をインバータ回路25に送ることにより、2つのAC/DCコンバータ回路26の管電圧の大きさ(出力比は一定)を制御することができる。
【0039】
高電圧発生装置2とその制御以外の各要素の動作は、第一の実施形態とほぼ同様であるので、その説明は省略する。
【0040】
本実施の形態によれば、第一の実施形態と同様、第1と第2の管電圧の切替周期が数kHzと高速であっても動作できるので、心臓など体動の激しい部位でも、心拍に同期させて2つのエネルギーのX線を照射し、鮮明な画像を得ることができる。
また2つのインバータ回路221を有していた第一の実施の形態と比較すると、インバータ回路を単一とでき、より小型化が図れる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、マルチエネルギー型X線CTにおいて、画像データの取り込み速度であるビューレートに対応する切替速度で、複数の管電圧を切り替えながら撮像することが可能となる。これにより、エネルギーの異なる画像間の演算により強調画像を得る際に、被検体の動きの影響のない鮮明な画像を得ることができる。
【符号の説明】
【0042】
1・・・交流電源、2・・・高電圧発生装置、3・・・X線管、5・・・X線検出器、6・・・画像処理装置、7・・・システムコントローラ、8・・・画像表示装置、9・・・操作コンソール、21・・・AC/DCコンバータ、22a、22b・・・DC/DCコンバータ回路、23・・・スイッチング回路、24ダイオード、25・・・インバータ回路、26a、26b・・・AC/DCコンバータ回路、27・・・高電圧制御回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管及びその電源装置を備えたX線源と、前記X線源から発生され、検査対象を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線源と前記X線検出器とを対向配置した回転板を備えたスキャナ回転部と、前記X線検出器が検出した透過X線に関するデータを用いて前記検査対象の画像を再構成する画像処理部と、前記X線源、X線検出器、スキャナ回転部および画像処理部を制御する制御部とを備えたX線CT装置において、
前記X線管の電源装置は、共通の交流電源と前記X線管との間に接続され、互いに異なる電圧を発生する複数の直流電圧発生装置と、各直流電圧発生装置と前記X線管との間に直列接続され、前記制御部からの制御信号により動作するスイッチング手段とを備えたことを特徴とするX線CT装置。
【請求項2】
X線管及びその電源装置を備えたX線源と、前記X線源から発生され、検査対象を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線源と前記X線検出器とを対向配置した回転板を備えたスキャナ回転部と、前記X線検出器が検出した透過X線に関するデータを用いて前記検査対象の画像を再構成する画像処理部と、前記X線源、X線検出器、スキャナ回転部および画像処理部を制御する制御部とを備えたX線CT装置において、
前記X線管の電源装置は、共通の交流電源と前記X線管との間に接続され、互いに異なる直流電圧を発生する複数の直流電圧発生装置と、前記複数の直流電圧発生装置の一つと前記X線管との間に直列に接続されたダイオードと、前記一つの直流電圧発生装置以外の直流電圧発生装置と前記X線管との間に直列接続され、前記制御部からの制御信号により動作するスイッチング手段とを備えたことを特徴とするX線CT装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のX線CT装置であって、
前記複数の直流電圧発生装置は、インバータと、前記インバータに接続された変圧器と、前記変圧器に接続され交流電圧を直流電圧に変換する整流器とを備えたDC/DCコンバータ回路であって、
前記制御部は、撮影条件に応じて前記インバータの出力を制御することを特徴とするX線CT装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のX線CT装置であって、
前記複数の直流電圧発生装置は、変圧器と、前記変圧器に接続され交流電圧を直流電圧に変換する整流器とを備えたAC/DCコンバータ回路であり、
前記電源装置は、前記交流電源と前記直流電圧発生装置との間にインバータを備え、
前記制御部は、撮影条件に応じて前記インバータの出力を制御することを特徴とするX線CT装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のX線CT装置であって、
前記制御部は、前記X線源および前記スキャナ回転部を制御し、前記スキャナ回転部の1回転の間に多数のビューの計測を行なうとともに、1つのビューの計測毎に前記スイッチング手段のオンオフを切替える制御信号を前記スイッチング手段に送出することを特徴とするX線CT装置。
【請求項6】
X線管用の高電圧発生装置であって、
共通の交流電源に接続されるとともに前記X線管に接続され、互いに異なる電圧を発生する複数の直流電圧発生装置と、前記複数の直流電圧発生装置の一つと前記X線管との間に直列に接続されたダイオードと、前記一つの直流電圧発生装置以外の直流電圧発生装置と前記X線管との間に直列接続されたスイッチング手段とを備えたことを特徴とするX線管用高電圧発生装置。
【請求項7】
請求項6記載のX線管用高電圧発生装置であって、
前記一つの直流電圧発生装置は、前記複数の直流電圧発生装置のうち発生電圧が最も低い直流電圧発生装置であることを特徴とする高電圧発生装置。
【請求項8】
X線管及びその電源装置を備えたX線源と、前記X線源から発生され、検査対象を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線源と前記X線検出器とを対向配置した回転板を備えたスキャナ回転部と、前記X線検出器が検出した透過X線に関するデータを用いて前記検査対象の画像を再構成する画像処理部と、前記X線源、X線検出器、スキャナ回転部および画像処理部を制御する制御部とを備えたX線CT装置において、
前記電源回路は、共通の交流電源に接続されるとともに前記X線管に接続され、互いに異なる電圧を発生する複数の直流電圧発生装置と、前記複数の直流電圧発生装置をビューレートで決まる周波数で切替える切替手段とを備えたことを特徴とするX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−5183(P2011−5183A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154067(P2009−154067)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】