説明

光伝導基板およびこれを用いた電磁波発生検出装置

【課題】キャリア寿命を短縮(制御)することで、テラヘルツ電磁波の発生または検出を効率良く行うことのできる光伝導基板およびこれを用いた電磁波発生検出装置を提供する。
【解決手段】本発明の電磁波発生検出装置1は、基板3と、基板3上に成長させたバッファ層4と、バッファ層4上に成長させた半導体層5と、を備え、半導体層5は、光電効果が生じる領域内に転位を有した光伝導基板2を備え、半導体層5上に形成されたアンテナ6を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ電磁波の発生または検出に用いる光伝導基板およびこれを用いた電磁波発生検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、GaAs等の半導体基板上にGaAs等の同種の半導体層をエピタキシャル成長させた光伝導基板(半導体基板)が一般的に知られている。このような光伝導基板は、格子定数等の等しい同種の半導体のエピタキシャル成長によって、表面の半導体層の結晶性が高く維持され、デバイス等としての機能が担保されている。
また、従来、Si基板上に形成された第1のGaAs層と、第1のGaAs層上に形成されたSiC混晶層と、SiC混晶層上に形成された第2のGaAs層と、を備えた光伝導基板(化合物半導体基板)が知られている(特許文献1参照)。この光伝導基板は、Si基板とGaAs層との格子定数等の差により、第1のGaAs層中に多数発生した転位を、結晶が硬いSiC混晶層を設けることにより、第2のGaAs層に転位が伝播しないようにしている。これにより、第2のGaAs層の結晶性が低下することを防止し、デバイス等としての機能が担保されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−201732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
テラヘルツ電磁波の発生または検出を行うには、光励起キャリアの寿命を数psec以下にする必要があることが広く知られている。
【0005】
しかし、従来の結晶性が良く作製された光伝導基板では、ポンプ−プローブ法により励起光から生成されるキャリア寿命を測定すると、数十から数百psecであり、テラヘルツ電磁波の発生または検出が困難であった。
【0006】
本発明は、キャリア寿命を制御することで、テラヘルツ電磁波の発生または検出を効率良く行うことのできる光伝導基板およびこれを用いた電磁波発生検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光伝導基板は、基板と、基板上に成長させた半導体層と、を備え、半導体層は、光電効果が生じる領域内に転位を有していることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、入射した励起光によって光励起キャリアが発生する半導体層に転位が存在している。本願出願人は、転位が存在する半導体層では、キャリア寿命が非常に短くなることを確認した。これは、光励起キャリアが、転位(欠陥)によって消滅またはトラップされるため、キャリア寿命が短くなるものと考えられる。これにより、光励起キャリアの寿命(キャリア寿命)を、テラヘルツ電磁波の発生または検出に適したものとすることができ、テラヘルツ電磁波の発生または検出を効率良く行うことができる。なお、「光電効果が生じる領域」とは、入射した励起光によって光励起キャリアが励起され、光励起キャリアが移動可能な領域を指す。
【0009】
この場合、基板と半導体層との間にバッファ層を、更に備え、基板の格子定数と半導体層の格子定数とは異なっており、バッファ層の格子定数は、基板の格子定数と半導体層の格子定数との間の値であることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、バッファ層の格子定数は、基板の格子定数以上、半導体層の格子定数以下、または、基板の格子定数以下、半導体層の格子定数以上となる。バッファ層の格子定数を任意に選択することで、基板と半導体層との格子定数の差を調整することができ、もって半導体層に発生する転位密度を制御することができる。このように、転位密度を制御することにより、所望のキャリア寿命を得ることができる。なお、テラヘルツ電磁波の発生または検出を行うには、キャリア寿命が1psec以下になるように、転位密度を制御することが好ましい。
【0011】
また、この場合、バッファ層は、少なくとも2層以上積層して形成されていることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、バッファ層を2層以上の複数層で構成することにより、各層の格子定数をそれぞれ調整することができるため、半導体層の転位密度をより細かく制御することができる。
【0013】
この場合、半導体層は、III−V族化合物をエピタキシャル成長させてなることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、基板の格子定数との差を考慮して、半導体層に用いる半導体材料を任意に選択することにより、半導体層における転位密度を制御することができる。これにより、キャリア寿命を、テラヘルツ電磁波の発生または検出に最適なものとすることができる。
【0015】
また、この場合、基板は、Siで構成され、半導体層は、GaAsで構成されていることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、Si(シリコン)からなる基板は、GaAs(ガリウム砒素)系等の基板に比べて、安価であるうえ、強度が高いという利点を有する。また、SiとGaAsとは、格子定数の比が約4%である。したがって、この構成によれば、基板の薄型化および大口径化が可能となる。これにより、小型・軽量な光伝導基板を、安価に大量生産することができる。また、基板と半導体層との格子定数の差から、基板上に成長させた半導体層に転位を生じさせることができる。また、Si基板は、GaAs系基板と比べて、テラヘルツ電磁波の吸収が少ないという特長を有するため、効率良くテラヘルツ電磁波を発生または検出することができる。さらに、毒性が高く、取り扱いが難しいGaAs系の基板に対して、Si基板は、取り扱いが容易であり、環境面においても有利である。
【0017】
また、従来は、キャリア寿命を数psec以下にするために、MBE(分子線エピタキシー法)等の低温成長の成膜方法により低温成長させたGaAs(LT−GaAs)を半導体層としていた。これに対し、上記の構成によれば、MBE等よりも低廉な成膜方法であるMO−CVD(有機金属化学気相蒸着法)等を用い半導体層をエピタキシャル成長させることができる。これにより、LT−GaAsよりも電子移動度の高いGaAsで半導体層を形成することができる。
【0018】
本発明の電磁波発生検出装置は、上記のいずれかの光伝導基板と、半導体層上に形成されたアンテナと、を備えていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、転位が存在する半導体層では、キャリア寿命が非常に短くなるため、テラヘルツ電磁波の発生または検出に適した寿命を有する光励起キャリアを発生させることができる。これにより、テラヘルツ電磁波の発生または検出を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る電磁波発生検出装置を模式的に示した斜視図である。
【図2】(a)は、バッファ層の格子定数が、基板の格子定数と異なり、かつ、半導体層の格子定数と略同一である場合、(b)は、バッファ層の格子定数が、基板および半導体層の格子定数と異なる場合の電磁波発生検出装置をそれぞれ模式的に示した側面図である。
【図3】(c)は、バッファ層の格子定数が、基板の格子定数と略同一であり、かつ、半導体層の格子定数と異なる場合、(d)は、バッファ層が省略され、基板と半導体層との格子定数が異なっている場合の電磁波発生検出装置をそれぞれ模式的に示した側面図である。
【図4】電磁波発生検出装置を応用した時間領域分光装置を示した概略図である。
【図5】第2実施形態に係る電磁波発生検出装置を模式的に示した側面図である。
【図6】(a)は、第3実施形態に係る電磁波発生検出装置を模式的に示した側面図であり、(b)は、その変形例を模式的に示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照して、本発明の第1実施形態に係る光伝導基板を用いた電磁波発生検出装置について説明する。
【0022】
図1は、第1実施形態に係る電磁波発生検出装置1を模式的に示した斜視図である。図1に示すように、電磁波発生検出装置1は、光伝導材料の薄膜を積層した光伝導基板2と、光伝導基板2上に形成されたアンテナ6と、を備えている。
【0023】
光伝導基板2は、基板3と、基板3上に形成されたバッファ層4と、バッファ層4上に形成された半導体層5と、を備えている。
【0024】
基板3は、単結晶のSi(シリコン)により構成されている。なお、基板3の材料としては、Siに限定されるものではなく、基板3上に積層するバッファ層4および半導体層5の材料(の格子定数)に応じて、例えば、GaAs、InP等の任意の単結晶半導体を用いることができる。
【0025】
しかし、Siからなる基板3は、GaAs系基板等に比べて、安価であるうえ、強度が高いという利点を有する。したがって、基板3の材料としてSiを用いることで、基板3の薄型化および大口径化が可能となる。これにより、小型・軽量な光伝導基板2を、安価に大量生産することができる。
【0026】
また、Siからなる基板3は、GaAs系基板と比べて、テラヘルツ電磁波の吸収が少ないという特長を有する。このため、Siからなる基板3を用いることで、テラヘルツ電磁波を効率良く発生または検出することができるという利点を有する。
【0027】
さらに、GaAs系基板は、砒素化合物であるため毒性が高く、厳重に管理された設備において、十分な注意をもって取り扱うことが要求される。このように取り扱いが難しいGaAs系基板に対して、Siからなる基板3は、取り扱いが容易であり、環境面においても有利である。
【0028】
バッファ層4は、基板3の格子定数以上、半導体層5の格子定数以下となる材料を用いて、基板3上にエピタキシャル成長させた薄膜である。バッファ層4は、この上に積層する半導体層5の転位密度(結晶性)を制御するために設けられている。なお、バッファ層4の格子定数が、基板3の格子定数以下、半導体層5の格子定数以上となるように材料を選択してもよい。
【0029】
半導体層5は、GaAs(ガリウム砒素)を材料としてエピタキシャル成長させた層である。半導体層5には、転位が存在している。半導体層5では、表面に対し垂直に入射した励起光(フェムト秒パルスレーザ等)により、光励起キャリア(電子)が発生する。
【0030】
ここで、電磁波発生検出装置1でテラヘルツ電磁波の発生または検出を行うには、キャリア寿命を数psec以下(1psec程度)にする必要がある。そこで、本願出願人は、転位が存在する半導体層5では発生した光励起キャリアの寿命が非常に短くなることを見出し、本実施形態に係る半導体層5では、テラヘルツ電磁波の発生または検出に適したキャリア寿命となるように転位密度を制御している(詳細は後述する。)。これにより、テラヘルツ電磁波の発生または検出を効率良く行うことができる光伝導基板2が構成される。なお、転位が存在する半導体層5においてキャリア寿命が短くなるのは、光励起キャリアが、転位(欠陥)によって消滅またはトラップされるためであると考えられる。
【0031】
一般的に、光励起キャリアを発生させる半導体層5は、キャリア寿命の短縮化や応答速度の高速化に鑑み、GaAsを材料として低温でエピタキシャル成長(LT−GaAs)させて形成される。しかし、代表的な低温成長に係る成膜法であるMBE(分子線エピタキシー法)等は、MO−CVD(有機金属化学気相蒸着法)等と比較するとコスト高であると共に、LT−GaAsの電子移動度は、GaAsの電子移動度に比べて、低いという問題がある。
【0032】
これに対し、本実施形態に係る半導体層5は、GaAsを低温成長させる必要が無く、MBE等よりも低廉な成膜方法であるMO−CVD等を用いてエピタキシャル成長させることができる。また、本実施形態に係る半導体層5は、転位を有するGaAsで構成されているため、電子移動度が高いGaAsを用いて、キャリア寿命を短縮することができる。
【0033】
なお、光励起キャリアは、主に励起光が入射する半導体層5で発生する。したがって、転位は、入射した励起光によって光励起キャリアが発生する領域かつ光励起キャリアが電極間の電圧によって移動する領域である半導体層5に存在している。
【0034】
なお、半導体層5の層厚は、臨界膜厚を考慮して任意に設定される。また、半導体層5の材料は、GaAs(LT−GaAs)に限定されるものではなく、GaAs、AlGaAs(LT−AlGaAs)、InGaP、AlAs、InP、InAlAs、InGaAs(LT-InGaAs)、GaAsSb、InGaAsP、InAs(LT−InAs)、InSb等を、基板3およびバッファ層4の材料(の格子定数)に応じて任意に選択して用いることができる。
【0035】
次に、図2および図3を参照して、半導体層5の転位密度の制御について例を挙げて説明する。なお、図2および図3では、バッファ層4および半導体層5における転位を縦に延びる曲線で模式的に表現している。
【0036】
図2(a)は、バッファ層4の格子定数が、基板3の格子定数と異なり、かつ、半導体層5の格子定数と略同一である場合の電磁波発生検出装置1を模式的に示した側面図である。この場合、バッファ層4には、基板3との格子不整合により、転位が発生している。また、半導体層5には、バッファ層4に生じた転位の一部が伝播することにより、転位が発生している。
【0037】
図2(b)は、バッファ層4の格子定数が、基板3の格子定数と異なり、かつ、半導体層5の格子定数とも異なる場合の電磁波発生検出装置1を模式的に示した側面図である。この場合、バッファ層4には、基板3との格子不整合により、転位が発生している。また、半導体層5には、バッファ層4に生じた転位の一部が伝播すると共に、バッファ層4との格子不整合により、転位が発生している。
【0038】
図3(c)は、バッファ層4の格子定数が、基板3の格子定数と略同一であり、かつ、半導体層5の格子定数と異なる場合の電磁波発生検出装置1を模式的に示した側面図である。この場合、バッファ層4には、転位が生じない。また、半導体層5には、バッファ層4との格子不整合により、転位が発生している。なお、この場合、バッファ層4を省略して、基板3と半導体層5との格子定数の差によって転位を発生させてもよい(図3(d)参照)。
【0039】
このように、バッファ層4の格子定数を任意に選択することで、基板3と半導体層5との格子定数の差を調整することができ、もって半導体層5における転位の発生を制御することができる。このように、半導体層5における転位密度を制御することにより、所望のキャリア寿命を得ることができる。なお、テラヘルツ電磁波の発生または検出を行うには、キャリア寿命が1psec以下になるように、転位密度を制御することが好ましい。
【0040】
なお、バッファ層4の材料としては、Si、GaAs(LT−GaAs)、AlGaAs(LT−AlGaAs)、InGaP、AlAs、InP、InAlAs、InGaAs(LT-InGaAs)、GaAsSb、InGaAsP、InAs(LT−InAs)、InSb等を、基板3および半導体層5の材料(の格子定数)に応じて任意に選択して用いることができる。半導体層5に所望の転位を発生させるためには、基板3の材料と、バッファ層4および半導体層5の材料との格子定数の比を−10〜+10%程度に設定することが好ましい(本実施形態では約4%(GaAs/Si)である。)。また、バッファ層4の層厚も、半導体層5において発生させる転位密度を考慮して任意に設定される。
【0041】
図1に示すように、アンテナ6は、半導体層5上に配設されている。アンテナ6は、一対の電極部61と、一対のアンテナ本体62と、からなるダイポールアンテナである。一対の電極部61には、図外のケーブルを介して電源や電流増幅器等が接続される。一対のアンテナ本体62は、所定の間隔(ギャップ部63)を有して配置されている。なお、アンテナ6は、ダイポールアンテナに限らず、ボウタイ型アンテナ若しくはストリップライン型アンテナまたはスパイラル型アンテナ等を任意に選択し用いることができる。
【0042】
一対のアンテナ本体62に電圧を印加した状態で、ギャップ部63にフェムト秒パルスレーザ等の励起光を照射すると、光励起キャリアが発生する。そして、一対のアンテナ本体62の間(ギャップ部63)にパルス状の電流が流れ、この電流によってテラヘルツ電磁波が発生する。また、この電磁波発生検出装置1は、テラヘルツ電磁波を受けたときに一対のアンテナ本体62間に電流が発生するため、検出(受信)素子としても用いることができる。この場合、電流(テラヘルツ電磁波)を検出するための電流増幅器等を、一対の電極部61に接続しておく。
【0043】
次に、MBE装置を用いた電磁波発生検出装置1の製造工程について説明する。なお、本実施形態では、MBE装置を用いているが、上述したように、MBE装置に代えて、より低廉な成膜方法であるMO−CVD装置等を用いてもよい。
【0044】
先ず、MBE(分子線エピタキシー)装置に基板3をセットし、基板3上に、0.1〜1.0μm程度の層厚(膜厚)のバッファ層4をエピタキシャル成長させる。なお、上記したように、本実施形態では、バッファ層4は、基板3の格子定数以上、半導体層5の格子定数以下の格子定数を有する半導体材料を用いて形成される。
【0045】
次に、半導体層5を1〜2μm程度エピタキシャル成長させる。具体的には、MBE装置にセットした基板3の温度を300℃以上、成長速度を約1μm/h、Ga分子線強度に対するAs分子線強度の比(As/Ga供給比)を約5〜30に設定して成長させる。
【0046】
このような工程を経て形成された光伝導基板2の上に、フォトリソグラフィ法(エッチング処理含む。)等の公知の技術を用いてアンテナ6が形成されて、電磁波発生検出装置1が完成する。
【0047】
以上の構成によれば、転位が存在する半導体層5では、キャリア寿命が非常に短くなるため、テラヘルツ電磁波の発生または検出に適した寿命を有する光励起キャリアを発生させることができる。これにより、テラヘルツ電磁波の発生または検出を効率良く行うことができる電磁波発生検出装置1を構成することができる。
【0048】
続いて、図4を参照して、電磁波発生検出装置1の応用例として時間領域分光装置7について簡単に説明する。図4は、電磁波発生検出装置1を応用した時間領域分光装置7を示した概略図である。時間領域分光装置7は、テラヘルツ電磁波が伝播する経路中に測定したい測定試料Sを置き、透過したテラヘルツ電磁波の時間波形と、測定試料Sの無い状態でのテラヘルツ電磁波の時間波形と、をフーリエ変換して、テラヘルツ電磁波の振幅と位相の情報を得る。これにより、測定試料Sの複素屈折率や複素誘電率などの細かい物性測定を行うものである。
【0049】
時間領域分光装置7は、フェムト秒レーザ(励起光)を発生するレーザ照射装置71と、フェムト秒レーザを分離するビームスプリッター72と、電磁波発生装置1aおよび電磁波検出装置1bと、電磁波検出装置1bに入射するフェムト秒レーザを遅延させる遅延光学系73と、フェムト秒レーザを反射・集光する各種光学系と、入力信号を処理する信号処理装置74と、を備えている。また、その他、時間領域分光装置7として一般的な構成を有している。各種光学系には、電磁波発生装置1aおよび電磁波検出装置1bに接して取り付けられ、テラヘルツ電磁波が効率良く取り出されるSi等からなる第1レンズ76および第2レンズ77が含まれている。なお、電磁波検出装置1bおよび電磁波発生装置1aは、上述した電磁波発生検出装置1と同一のものである。
【0050】
まず、レーザ照射装置71から発せられたフェムト秒レーザ(波長780nm)は、ビームスプリッター72により、ポンプ光とプローブ光とに分けられる。そして、ポンプ光は、振幅変調を掛けた状態で電磁波発生装置1aに入射する。このとき一対のアンテナ本体62間に電圧を印加しておくことで、電磁波発生装置1aからテラヘルツ電磁波が発生する。このテラヘルツ電磁波は、第1レンズ76を通過し第1放物面鏡75で反射され、測定試料Sに照射される。測定試料Sを透過したテラヘルツ電磁波は、第2放物面鏡78および第2レンズ77を介して電磁波検出装置1bに入射する。
【0051】
一方、ビームスプリッター72により分けられたプローブ光は、複数の反射鏡79によって、遅延光学系73に照射され、時間遅延を与えられて電磁波検出装置1bに入射する。電磁波検出装置1bで検出された信号は、信号処理装置74に入力される。信号処理装置74は、測定試料Sを透過したテラヘルツ電磁波の時間波形および測定試料Sが無い状態でのテラヘルツ電磁波の時間波形を各々時系列データとして記憶し、これをフーリエ変換処理して周波数空間に変換する。こうして、測定試料Sからのテラヘルツ電磁波の強度振幅や位相の分光スペクトルを得ることで、測定試料Sの物性等を調べることができる。
【0052】
以上の構成によれば、S/N比が向上したテラヘルツ電磁波を用いることにより、物質(測定試料S)の複素屈折率や複素誘電率などの細かな物質の物性測定等を、より明確に行うことができる。
【0053】
(第2実施形態)
図5を参照して、第2実施形態に係る電磁波発生検出装置1について説明する。図5は、第2実施形態に係る電磁波発生検出装置1を模式的に示した側面図である。なお、第1実施形態に係るものと同様の説明は省略する。
【0054】
第2実施形態に係る電磁波発生検出装置1におけるバッファ層4は、基板3上に積層された第1バッファ層41と、第1バッファ層41上に積層された第2バッファ層42と、で構成されている。これにより、第1バッファ層41および第2バッファ層42の格子定数を、それぞれ調整することができるため、半導体層5の転位密度をより細かく制御することができる。なお、第1バッファ層41および第2バッファ層42は、同一材料を用いてもよいし、異なる材料を用いてもよい。また、層厚もそれぞれ任意に設定される。
【0055】
(第3実施形態)
図6を参照して、第3実施形態に係る電磁波発生検出装置1について説明する。図6は、第3実施形態に係る電磁波発生検出装置1を模式的に示した側面図である。なお、第1実施形態に係るものと同様の説明は省略する。
【0056】
図6(a)に示すように、電磁波発生検出装置1は、アンテナ6が、バッファ層4および半導体層5を両側面から挟み込むように設けられている。また、アンテナ6の一対の電極部61は、基板3上に配設されている。すなわち、一対のアンテナ本体62に挟み込まれた半導体層5の上面全体がギャップ部63となっている。したがって、アンテナ本体62間に電圧を加え、半導体層5の表面から励起光を入射させることで一対のアンテナ本体62の間にパルス状の電流が流れ、テラヘルツ電磁波が発生する。なお、本実施形態のアンテナ6は、フォトリソグラフィ法(エッチング処理含む。)等の公知の技術を用いて形成される。
【0057】
なお、第3実施形態に係る電磁波発生検出装置1の変形例として、図6(b)に示すように、一対のアンテナ本体62を、半導体層5の両端面に沿って配設し、一対の電極部61を、バッファ層4上に配設してもよい。
【0058】
以上の構成によれば、第1実施形態に係る電磁波発生検出装置1と同様に、テラヘルツ電磁波の発生または検出に適した寿命を有する光励起キャリアを発生させ、テラヘルツ電磁波の発生または検出を効率良く行うことができる電磁波発生検出装置1を構成することができる。
【0059】
なお、本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得るものである。
【符号の説明】
【0060】
1:電磁波発生検出装置、2:光伝導基板、3:基板、4:バッファ層、5:半導体層、6:アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に成長させた半導体層と、を備え、
前記半導体層は、光電効果が生じる領域内に転位を有していることを特徴とする光伝導基板。
【請求項2】
前記基板と前記半導体層との間にバッファ層を、更に備え、
前記基板の格子定数と前記半導体層の格子定数とは異なっており、
前記バッファ層の格子定数は、前記基板の格子定数と前記半導体層の格子定数との間の値であることを特徴とする請求項1に記載の光伝導基板。
【請求項3】
前記バッファ層は、少なくとも2層以上積層して形成されていることを特徴とする請求項2に記載の光伝導基板。
【請求項4】
前記半導体層は、III−V族化合物をエピタキシャル成長させてなることを特徴とする請求項1に記載の光伝導基板。
【請求項5】
前記基板は、Siで構成され、前記半導体層は、GaAsで構成されていることを特徴とする請求項4に記載の光伝導基板。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の光伝導基板と、
前記半導体層上に形成されたアンテナと、を備えていることを特徴とする電磁波発生検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−2995(P2013−2995A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135140(P2011−135140)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】