説明

α−グルコシダーゼ阻害剤

【課題】小腸の微絨毛に局在するα−グルコシダーゼを阻害する物質を検索し、食品素材、甘味料、飼料に用いることができ、肥満、糖尿病などの成人病予防が可能な、食経験があって生体に安全な天然物由来のα−グルコシダーゼ阻害剤を提供すること
【解決手段】5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体を含有するα−グルコシダーゼ阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−グルコシダーゼを阻害し、デンプン、デンプン由来のオリゴ糖類及びスクロースの消化を遅延させ、その結果、血糖値の急激な上昇を抑え、インスリン分泌を低く抑える作用を有するα−グルコシダーゼ阻害剤、糖質吸収抑制剤又は血糖低下剤に関する。さらに本発明は、上記のα−グルコシダーゼ阻害剤、糖質吸収抑制剤又は血糖低下剤を含む、甘味料、食品、健康食品、痩身用食品、動物用飼料および医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、先進諸国において栄養過多などの原因によると思われる種々の生活習慣病が増加している。これらの生活習慣病の中には、デンプンやスクロースの過剰摂取による血糖値上昇が誘因となって起こるものが多くあり、糖尿病や肥満などをあげることができる。ヒトが摂取する炭水化物のうち、80%〜90%がデンプン、デンプン由来のオリゴ糖類およびスクロースであるといわれている。デンプンが摂取されると、まず、唾液アミラーゼによってデンプンはα−デキストリンに分解され、その後、胃から十二指腸に至り、ここで膵臓から分泌されたα−アミラーゼによってマルトデキストリンを経て、二糖類のマルトース及びイソマルトースにまで加水分解される。一方、二糖類のスクロースは、途中の消化器官で分解を受けずに小腸に達する。これらの二糖類は、小腸の微絨毛に局在する膜酵素のα−グルコシダーゼにより構成糖である単糖類に分解され、吸収される。α−グルコシダーゼは、多糖類を構成する糖の非還元末端のα−グリコシド結合を加水分解する酵素の総称であり、マルターゼ、イソマルターゼ、スクラーゼを含んでいる。マルトオリゴ糖はマルターゼにより、イソマルトース及びスクロースは複合酵素であるイソマルターゼ・スクラーゼによりそれぞれ単糖類に分解され、分解された単糖類は小腸上皮膜より吸収される。
【0003】
デンプンやスクロースを摂取すると、消化吸収されて血糖値(血中グルコース濃度)が急激に上昇する。通常、血糖値が上昇すると、膵臓よりインスリンの分泌が刺激され、血中のインスリン濃度が高まり、糖の利用促進の作用を高め、次いで血糖値を下げる方向に作用し、血糖値の調整が行なわれる。健康なヒトにおいて、デンプンやスクロースを摂取後、動脈で約15分、静脈で約30分後に血糖値は最大となり、その後、次第に平常値へ戻る。特に、スクロースは、消化・吸収が良く、疲れた際の食べ物として重宝がられているが、反面、急激に血糖値をあげ、インスリン分泌を刺激することから、肥満の原因ともされている。また、糖尿病患者にとってはその摂取を制限されている。
【0004】
また、デンプンやスクロースを過剰に摂取すると、処理しなければならないブドウ糖の量が血中に増えるため、膵臓から分泌されるインスリンの量も多くなる。このような状態が長期間続くと、膵臓の機能が疲弊・低下し、糖尿病発症の原因となるとされている。また、肥満になると、インスリンの必要量が多くなり、膵臓の機能低下の原因となることが指摘されている。膵臓が疲弊し、機能が低下するとインスリン分泌が低下し、処理し切れない糖が尿中に出るようになる。このような状態になることを防ぐためには、膵臓を疲れさせないようにすること、すなわち食後血糖値を急上昇させることなく、インスリン分泌を刺激しないことが重要なポイントであるといわれている。また、糖尿病患者の食事療法においても、この点を守る必要が指摘されている。
【0005】
従来、植物繊維の多い炭水化物を増やした食事を摂取すると、腸からの栄養素の吸収が穏やかになり、食後血糖値の上昇を抑制し、インスリン分泌を低く抑えることができ、肥満・糖尿病などの成人病予防になることが、報告されている(「食物繊維」、第一出版株式会社、271-286、昭和57年5月15日発行)。
【0006】
また、近年、α−グルコシダーゼ阻害剤を投与すると、小腸の微絨毛に局在するα−グルコシダーゼを阻害し、食後の血糖値の急上昇およびそれに続くインスリン値の急上昇を抑制することが知られている。このようなα−グルコシダーゼ阻害剤のうち、アカルボースはインスリン非依存性糖尿病用の経口糖尿病治療薬として用いられている。また、キシロース・キシリトールを構成糖とするオリゴ糖やアラビトール、エリスリトールなどの還元糖などのα-グルコシダーゼ阻害活性を有する糖関連物質からなる甘味剤が提案されている(特開平8-23973号公報)。
【0007】
一方、天然物由来のものとして、糖質の吸収抑制作用を有するインド産ギムネマシルベスタを原料とする血糖値上昇抑制を目的とする飲食物が提案されている(特開昭61-5023号公報、特開昭63-208532号公報)。さらに、マレーシア、タイ等の熱帯地方に天然に産生している“つる性”の植物ギムネマイノドラムの抽出物がギムネマシルベスタと同様な糖質の吸収抑制作用を持つ飲食物として提案されている(特開平3-17215号公報)。同様に、マオウ(麻黄)およびその同属近縁植物の抽出エキスにα-アミラーゼ阻害、α-グルコシダーゼ阻害活性があることからその利用が提案されている(特開平9-2963号公報)。さらに、インドやスリランカなどの伝承薬物で糖尿病に有効として古来用いられているサラシア レテイキュラータと同属であるサラシア プリノイデス、サラシア オブロンガに糖負荷による血糖上昇抑制作用が見られることから、それを利用した抗糖尿病剤が提案されている(特開平11-116496号公報)。
【0008】
【非特許文献1】「食物繊維」、第一出版株式会社、271-286、昭和57年5月15日発行
【特許文献1】特開平8-23973号公報
【特許文献2】特開昭61-5023号公報
【特許文献3】特開昭63-208532号公報
【特許文献4】特開平3-17215号公報
【特許文献5】特開平9-2963号公報
【特許文献6】特開平11-116496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記植物繊維は高分子の天然物であり、水に対する溶解性の問題や効果を示すためには多量の摂取が必要であることなどのために、その使用が限られる。前記α−グルコシダーゼ阻害剤として、特開昭52-122342号公報、Am. J. Clin. Nutr.,55,318-319(1992)に開示されたアカルボース(アミノ糖誘導体)は、一回の投与量は50〜150mgの使用量であり、その使用に際しては厳密な処方が必要とされる。あまりに
少量で効果があるということは、使用量に厳密性のない食品や食品素材、甘味料としては適当ではない。また、食経験のある天然物由来ではないという点からも問題がある。特開昭57-200335号公報、Am. J. Clin. Nutr.,55,314-317(1992)、特開昭57-59813号公報に開示のボグリボース(バリオールアミンのN置換誘導体)およびバリエナミンも同様の理由で、医薬品以外に広く使用するには問題がある。また、糖関連物質はそれ自身甘味があり、甘味剤としての使用には適しているが、そうでないものに対しては使用が制限されてしまう。
【0010】
天然物由来のα-グルコシダーゼ阻害剤も多くのものが提案されているが、その多くは呈味性に問題がある。また、機能成分も特定されておらず、複合成分によって効果を発揮している場合が多いなどの問題もあり、広く使用するには問題があった。
【0011】
即ち、本発明の目的は、小腸の微絨毛に局在するα−グルコシダーゼを阻害する物質を検索し、食品素材、甘味料、飼料に用いることができ、肥満、糖尿病などの成人病予防が可能な、食経験があって生体に安全な天然物由来のα−グルコシダーゼ阻害剤、糖質吸収抑制剤又は血糖低下剤、並びにそれを含む甘味料、食品、健康食品、痩身用食品、動物用飼料および医薬品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、古来より食品素材として知られ、広く用いられている香辛料に着目し、広範な各種香辛料を対象にしてα−グルコシダーゼ阻害作用があるかどうかについて検討した。その結果、ローズマリー(シソ科、常緑小低木)がα−グルコシダーゼに対して阻害作用を有すること、とくにアルコール水溶液によるローズマリー抽出エキスが強い活性を示し、糖質の消化・吸収を抑制することを見出し、この活性成分が5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)(化学構造を以下に示す)であることを明らかにした。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。本発明によれば、5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボンを甘味料、食品、健康食品、痩身用食品、動物用飼料および医薬品として摂取することによって、スクロースやマルトースを摂取しても、急激な血糖値の上昇を抑制することができる。
【0013】
【化1】

【0014】
即ち、本発明によれば、5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体を含有するα−グルコシダーゼ阻害剤が提供される。
【0015】
本発明の別の側面によれば、5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体を含有する糖質吸収抑制剤が提供される。
【0016】
本発明のさらに別の側面によれば、5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体を含有する血糖低下剤が提供される。
【0017】
好ましくは、5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体は、植物抽出エキス由来のものであり、さらに好ましくはローズマリー抽出エキス由来のものである。
5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)はルテオリンとも称せられ、その配糖体はモクセイソウ(Reseda luteola L.)、スイカズラ(Lonicera japonica)に7−グリコシド配糖体(シナロシド)、スギナに5−グリコシド配糖体(ガルテオリン)として存在していることが知られている。これらの植物抽出エキス中の5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)配糖体も摂取後、5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)に変換されることからα―グルコシダーゼ阻害剤として本発明の対象となる。
【0018】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明のα−グルコシダーゼ阻害剤、糖質吸収抑制剤又は血糖低下剤を含む、甘味料、食品、健康食品、痩身用食品、動物用飼料および医薬品が提供される。
【0019】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明のα−グルコシダーゼ阻害剤、糖質吸収抑制剤又は血糖低下剤を含む、糖尿病患者用の甘味料、食品、健康食品、および医薬品が提供される。
【0020】
本発明のさらに別の側面によれば、(1)本発明のα−グルコシダーゼ阻害剤、糖質吸収抑制剤又は血糖低下剤、及び(2)スクロース、デンプン、及びデンプン由来のオリゴ糖から選ばれる1種または2種以上の消化性糖を含む、糖組成物が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、安全な食品由来のもので、微絨毛に局在するα−グルコシダーゼを阻害して糖質の吸収を抑制することができるα−グルコシダーゼ阻害剤、糖質吸収抑制剤及び血糖低下剤、並びにそれを含む甘味料、食品、健康食品、痩身用食品、動物用飼料及び医薬品が提供される。本発明のα−グルコシダーゼ阻害剤などは、デンプン及びマルトースなどのデンプン由来のオリゴ糖およびスクロースの消化・吸収を遅延させ、その結果、血糖値の急激な上昇を抑え、インスリン分泌を低く抑える作用を有し、また安全な食品由来のものであり、肥満や糖尿病などの予防や治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のα−グルコシダーゼ阻害剤、糖質吸収抑制剤又は血糖低下剤は、5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体を有効成分として含有する。この5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)およびその配糖体は、植物抽出エキス、とくにローズマリー抽出エキスに含まれている。この5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体は単独で使用してもよいし、あるいはそれを含む植物抽出エキス、特にローズマリー抽出エキスを他の組成物と組み合わせることにより、甘味料、食品、健康食品、痩身用食品、動物用飼料および医薬品などとして利用することができる。
【0023】
ローズマリーは、ヨーロッパ原産のシソ科か常緑小低木で、高さは通常1〜2mであり、長さ2〜4cmの線形の葉を輸生する。淡青色の唇形の花を咲かせ、全体に芳香がある。主にこの枝葉が香辛料原料として古来より用いられている。本発明では、このローズマリー香辛料を微粉砕し、この微粉砕物を原料として水あるいはエタノールなどの有機溶媒で抽出したエキスに含まれる5,7,3’,4’−tetrahydroxy-flavoneがα−グルコシダーゼ阻害活性を有することが見出された。例えば、ローズマリー香辛料を微粉砕し、9倍量の水あるいは70%エタノール溶液を添加し、50℃にて1時間振とう抽出し、その後、10分間、5000回転で遠心分離を行って上澄み液を回収することにより、5,7,3’,4’-tetrahydroxy-flavoneを抽出液として取得することができる。
【0024】
本発明における有効成分である5,7,3’,4’−tetrahydroxy-flavoneを調製する方法は、特に限定されず、例えば、上記の通りローズマリーから得ることができ、さらにローズマリーの抽出物をシリカゲルやODSなどのカラムクロマトグラフィーで処理することによって5,7,3’,4’−tetrahydroxy-flavoneを分画または単離してもよい。あるいは、5,7,3’,4’−tetrahydroxy-flavoneは、化学合成により合成してもよい。5,7,3’,4’−tetrahydroxy-flavoneは、純粋な化合物として使用してもよいし、医薬品や食品として不適当な不純物を含有しない限り、半精製または粗製のものとして使用してもよい。
【0025】
本発明のα−グルコシダーゼ阻害成分を含む組成物が動物またはヒトに摂取されたとき、そのα−グルコシダーゼ阻害成分が小腸の微絨毛に局在するα−グルコシダーゼの働きを抑制するので、同時に摂取した消化性糖類がα−グルコシダーゼによって単糖類に分解される作用が抑制される。その結果、糖の消化吸収が抑制され、摂取後の血糖値の急激な上昇を抑制することが可能となり、さらにインシュリン分泌が低く抑えられることとなる。本発明のα−グルコシダーゼ阻害成分をスクロースやデンプンおよびデンプン由来のオリゴ糖に添加した場合には、スクロースやデンプンおよびデンプン由来のオリゴ糖単独で摂取した場合に比べ、顕著な血糖値の急上昇の抑制効果が認められる。
【0026】
本発明のα−グルコシダーゼ阻害成分はフラボン族化合物であり、このような構造をしたフラボン族化合物がα−グルコシダーゼ阻害活性を有することは全く知られていなかった。しかし、フラボン族化合物自体は植物に広く分布しており、また、ローズマリーが属するシソ科の植物は、広く食用に供されていることから、本発明のα−グルコシダーゼ阻害成分もローズマリーに限らず広く存在していると考えられる。従って、本発明では、ローズマリーに限らず、本発明のα-グルコシダーゼ阻害成分である5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体を含むものであれば、任意の植物およびそのエキスを用いることができる。
【0027】
本発明のα−グルコシダーゼ阻害成分のIC50は基質がマルトースの場合に290μg/ml、スクロースの場合には150μg/mlと比較的低濃度で効果が発揮でき、その呈味性についてもまったく問題ないので、本成分あるいは本成分を含む組成物を配合した甘味料、食品、健康食品、痩身用食品、動物用飼料および医薬品などに幅広く適用可能である。
【0028】
特に、本発明のα−グルコシダーゼ阻害成分をスクロースと混合して使用した場合、スクロースに似たくせのない味質となる。従って、本発明の甘味料は、血糖値の急上昇を抑制し、インスリンの分泌を低く抑える作用を有する甘味料となる。この甘味料は加工食品や菓子類に添加使用できる。また、この甘味料は、肥満や肥満から誘発される糖尿病などの成人病予防に役立つ甘味料および甘味素材や、糖尿病患者の食事療法に用いる甘味料や甘味素材として利用できる。
【0029】
本発明の健康食品または糖尿病患者用食品または痩身用食品は、本発明のα−グルコシダーゼ阻害成分が食品に含有されていることを特徴とする。
【0030】
食後血糖値を上げる食品として、デンプンを多く含んだ食品があるが、本発明のα−グルコシダーゼ阻害成分は、このような食品に対して、食後血糖値の急上昇を抑制する食品素材として利用できる。一例をあげると、小麦粉やデンプンを用いて作るラーメン、ヌードル類、うどん、またジャガイモを主原料としてつくるマッシュポテトやサラダ、コロッケなど甘味料をあまり要求しない食品に利用できる。また、必ずしもデンプンを含んだ食品でなくてもよい。食事の際にはコメやパンなどのデンプン類と併せて摂取するのが一般的であるから、例えば、ハム、ソーセージなどの肉類に本発明のα−グルコシダーゼ阻害成分を配合しておけば、食事の際のコメやパン由来の糖質の消化吸収を抑制することになる。本発明のα−グルコシダーゼ阻害剤、糖質吸収抑制剤又は血糖低下剤を食品として用いる場合は、そのまま直接摂取してもよいし、あるいは、公知の担体や助剤などを使用してカプセル剤、錠剤、顆粒剤など適当な形態に成型して摂取することもできる。
【0031】
本発明のα−グルコシダーゼ阻害成分を含む飼料を動物に投与した場合、肥満傾向が緩和される。したがって、本発明の飼料は、ペットの肥満防止、糖尿病防止や脂肪つきの少ない肉を持つ食用獣肉を得るために有用な飼料である。
【0032】
本発明のα−グルコシダーゼ阻害成分は、天然物由来の、構造が明らかにされた化合物であり、アカルボースなどの従来の医薬品に比べれば緩やかに阻害効果を示すことから、安全で副作用のない医薬品となる。
【0033】
本発明のα−グルコシダーゼ阻害成分を医薬品として用いる場合、その剤形は特に限定されないが、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、注射剤、坐剤、貼付剤などを挙げることができる。製剤を調製する際には、薬学的に許容される他の補助成分、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶解補助剤、安定化剤などを適宜配合して、所望の製剤を調製することができる。
【0034】
本発明のα−グルコシダーゼ阻害成分の摂取量は、本発明の効果が達成される限り、特に限定されないが、一般的には、0.01〜1000mg/kg体重/日、好ましくは0.1〜500mg/kg体重/日程度である。
【0035】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
実施例1:
表1に示した香辛料を微粉砕し、9倍量の水あるいは70%エタノール溶液を添加し、50℃にて1時間振とう抽出した。その後、10分間、5000回転で遠心分離を行って上澄み液を抽出液とした(微粉砕の水および70%エタノール抽出液)。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例2:
ラット小腸アセトン粉末(シグマ社)にリン酸バッファーを加えて、超音波処理後、遠心分離し、上清を粗酵素液として使用した。
【0039】
酵素活性の測定は0.1Mリン酸バッファー(pH7.0)900μl、2%マルトースおよび4%スクロース(和光純薬)溶液50μlに各種評価試料50μlを加えて酵素活性を測定した。反応は37℃、30分とし、生成したグルコースをグルコースオキシダーゼを用いる定法にて測定した。このα-グルコシダーゼ活性測定系に抽出液を5%になるように添加した際の活性から抽出物の阻害活性を評価した。
【0040】
結果を表2に示す。その結果、ローズマリーの70%エタノール抽出液が最も高いα-グルコシダーゼ阻害活性を示した。
【0041】
【表2】

【0042】
実施例3:
図1に示したスキームに従って評価を行った。6週齢雄性ddY系マウス(N=9)を24時間絶食させた後、スクロースあるいはマルトース150mgを経口投与した場合とスク
ロース、マルトースとともに20mgの試料を一緒に経口投与した場合の投与後30分におけ
る血糖値への影響を評価した。また、ポジティブコントロールとして従来から活性の認められているキシロースを用いた。
【0043】
図1の手順に従って、スクロース、あるいはスクロースとローズマリーのエタノール抽出成分20mg、スクロースとキシロース20mgをマウスに投与し、投与後30分の血糖値を
測定した結果を図2に示した。スクロースを投与することによって30分後の血糖値のレベルがスクロース投与前から投与後(「水」)に上昇したが、その際、ローズマリー抽出試料を一緒に投与した場合には、キシロース投与した場合と同様に抑制されていることが確認された。
【0044】
同様にマルトースを投与した場合の結果を図3に示した。マルトース投与の場合にはスクロース以上に吸収抑制効果が顕著に認められた。
【0045】
実施例4:
ローズマリーの70%エタノール抽出試料をTLCによって展開して、各々の試料中の活性成分について評価を行った。その結果、ローズマリー抽出試料の活性成分は一箇所に集中していた。
【0046】
そこで、α-グルコシダーゼ阻害活性を指標にして、ローズマリーの70%エタノール抽出試料を有機溶媒による分画、シリカゲルカラムおよびHPLCによる分離精製を行い、NMRを用いて活性成分の構造を明らかにした。
【0047】
ローズマリー(Rosmarinus officinalis)150gを精製水500ml中に12時間室温で放置し、ろ過し、残渣を50%エタノール500ml中に12時間室温放置し、ろ過し、ろ液を濃縮した。濃縮液に水を加え、これに酢酸エチルを加え、酢酸エチル抽出画分を濃縮し、シリカゲルカラムクトマトグラフィーに付した。溶出溶媒としてクロロホルム−メタノールの混合溶媒を用いて溶出した。クロロホルム−メタノール=40:1の混合溶出溶媒画分に強いグルコシダーゼ阻害活性が認められた。そこでこの画分を集め、濃縮し、HPLCに付した。HPLCはODP50 4Eカラムを用いて、溶出溶媒を45%アセトニトリル水溶液にて行った。単一ピークを分取し、濃縮して無色粉末物質RO−1を得た。RO−1はスクロースに対する阻害率[%(1mg/ml)]92.3、マルトースに対する阻害率[%(1mg/ml)]89.1であった。
【0048】
RO−1の構造決定:
分子式 C15H10O6 = 286 [M+1,m/z287]
UV-Visible: 249, 348nm
1H-NMR(in CD3OD): 6.01(d, J=1.5), 6.44(d, J=1.5), 6.54(s), 6.90(d, J=8.5), 7.38(d, J=1.5), 7.39(dd, J=8.5, 1.5)
【0049】
RO−1の1H−NMRスペクトルは上記に示すように芳香環上に基づくシグナルしか認められなかった。そこで、これらのシグナルをさらに詳しく検討した。まず、1H−1H−COSYスペクトルにおいて、6.01と6.44ppmのシグナルがJ=1.5Hzで結合し、6.90と7.39ppmのシグナルとJ=8.5Hzで結合し、7.39ppmはさらに7.38ppmとJ=1.5Hzで結合していることが明らかになった。さらに、HSQスペクトルを測定すると、6.01、6.44、6.54、6.90、7.38と7.39ppmの水素シグナルはそれぞれ100、94.9、103.8、116.9、114.4と120.2ppmの炭素シグナルとそれぞれ結合していることが明らかとなった。また、HMBCスペクトルにおいて6.54ppmの水素シグナルはC-1(166.3), C-4(183.8), C-10(105.2)および C-1'(123.6)とのクロスピーク、6.01ppmの水素シグナルはC-5(163.1), C-7(166.0), C-8(94.9)および C-10(105.2)とのクロスピーク、6.44ppmの水素シグナルはC-6(100.0), C-7(166.0), C-8(94.9)および C-10(105.2)とのクロスピーク、6.90ppmの水素シグナルはC-1'(123.6), C-3'(147.0)および C-4'(150.9)とのクロスピーク、7.38ppmの水素シグナルはC-1'(123.6), C-3'(147.0)および C-4'(150.9)とのクロスピーク、さらに7.39ppmの水素シグナルはC-2(166.3), C-2'(114.4)および C-4'(150.9)とのクロスピークがそれぞれ観察された。
【0050】
以上のUV、MSおよびNMRスペクトルの詳細な解析結果は、RO−1が5,7,3’,4’-tetrahydroxy-flavone(Luteoline)であることを示している。RO−1の構造を以下に示す。
【0051】
【化2】

【0052】
実施例5:
5,7,3’,4’-tetrahydroxy-flavoneの添加量を変えてα−グルコシダーゼ阻害活性を評価したところ、活性を50%抑制する濃度(IC50)はスクロースを基質にした場合には150μg/ml、マルトースを基質にした場合には290μg/mlであった。
【0053】
本発明は血糖値上昇抑制効果を持つ機能性飲食物を提供することができる。以下に食品の実施例を示す。なおローズマリー抽出物はNATUREX社(フランス)の製品を用いた。
【0054】
実施例6(グレープフルーツ飲料)
(1)配合(数字は重量部を示す)
果糖ぶどう糖液糖(Bx75) 13.00
グレープフルーツ果汁(5倍濃縮) 3.50
クエン酸 0.15
安定剤(HMペクチン) 0.10
ローズマリー抽出物 0.50
香料 0.05
加水 82.70
100.00
【0055】
(2)製法
安定剤(HMペクチン)を果糖ぶどう糖液糖に分散し所定量の水を加え攪拌しながら85℃まで加熱して完全に溶解させた。この溶液にグレープフルーツ果汁、ローズマリー抽出物、クエン酸、香料を混合し瓶に充填後、冷却してローズマリー抽出物入りのグレープフルーツ飲料を調製した。風味およびのど越しの良い飲料が得られた。
【0056】
実施例7(キャロット及びパインゼリー)
(1)配合(数字は重量部を示す)
砂糖 10.00
ニンジン濃縮果汁 5.00
パインアップル濃縮果汁(5倍濃縮) 2.00
レモン濃縮果汁(5倍濃縮) 1.00
ゲル化剤(カラギーナン製剤) 0.50
クエン酸 0.05
クエン酸ナトリウム 0.10
ローズマリー抽出物 0.50
香料 0.10
加水 80.75
100.00
【0057】
(2)製法
ゲル化剤(カラギーナン製剤)を砂糖と混合し所定量の水に分散し85℃まで加熱して完全に溶解させた。この溶液にニンジン濃縮果汁、パインアップル濃縮果汁、レモン濃縮果汁、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ローズマリー抽出物、香料を混合し、カップに充填してから冷却し、ローズマリー抽出物入りのキャロット&パインゼリーを調製した。風味・食感のよいゼリーが得られた。
【0058】
実施例8(ヨーグルト用フルーツプレパレーション)
(1)配合(数字は重量部を示す)
ストロベリー果肉(1/4カット) 30.00
砂糖 23.00
果糖ぶどう糖液糖 15.00
クエン酸 0.30
増粘剤(キサンタン製剤) 0.40
LMペクチン 0.60
ローズマリー抽出物 0.50
加水 30.20
100.00
【0059】
(2)製法
増粘剤(キサンタン製剤)およびLMペクチンを砂糖と混合し、果糖ぶどう糖液糖に分散してから所定量の水を加え85℃まで攪拌しながら加熱し完全に溶解した。この溶液にストロベリー果肉、クエン酸、ローズマリー抽出物を分散しカップに充填後冷却してローズマリー抽出物入りのヨーグルト用フルーツプレパレーションを調製した。プレーンヨーグルト上にトッピングしたところ見た目も良く、風味のよいフルーツプレパレーションであった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、マウスによる糖質吸収とその抑制効果の評価の方法を示す。
【図2】図2は、ローズマリー抽出試料によるマウスのスクロース吸収抑制効果を示す。
【図3】図3は、ローズマリー抽出試料によるマウスのマルトース吸収抑制効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体を含有するα−グルコシダーゼ阻害剤。
【請求項2】
植物抽出エキス由来の5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体を含む、請求項1に記載のα−グルコシダーゼ阻害剤。
【請求項3】
ローズマリー抽出エキス由来の5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体を含む、請求項1又は2に記載のα−グルコシダーゼ阻害剤。
【請求項4】
5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体を含有する糖質吸収抑制剤。
【請求項5】
植物抽出エキス由来の5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体を含む、請求項4に記載の糖質吸収抑制剤。
【請求項6】
ローズマリー抽出エキス由来の5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体を含む、請求項4又は5に記載の糖質吸収抑制剤。
【請求項7】
5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体を含有する血糖低下剤。
【請求項8】
植物抽出エキス由来の5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体を含む、請求項7に記載の血糖低下剤。
【請求項9】
ローズマリー抽出エキス由来の5,7,3’,4’−テトラヒドロキシフラボン(tetrahydroxy-flavone)又はその配糖体を含む、請求項7又は8に記載の血糖低下剤。
【請求項10】
請求項1から9の何れかに記載のα−グルコシダーゼ阻害剤、糖質吸収抑制剤又は血糖低下剤を含む、甘味料、食品、健康食品、痩身用食品、動物用飼料および医薬品。
【請求項11】
請求項1から9の何れかに記載のα−グルコシダーゼ阻害剤、糖質吸収抑制剤又は血糖低下剤を含む、糖尿病患者用の甘味料、食品、健康食品、および医薬品。
【請求項12】
(1)請求項1から9の何れかに記載のα−グルコシダーゼ阻害剤、糖質吸収抑制剤又は血糖低下剤、及び(2)スクロース、デンプン、及びデンプン由来のオリゴ糖から選ばれる1種または2種以上の消化性糖を含む、糖組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−99635(P2007−99635A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288506(P2005−288506)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(502157084)ユニテックフーズ株式会社 (2)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】