説明

α−グルコシダーゼ阻害剤

【課題】ツルアラメの抽出物中のα−グルコシダーゼ阻害活性成分を突き止めること。
【解決手段】ダイエコールを有効成分とすることを特徴とするα−グルコシダーゼ阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は褐藻類より抽出・精製された物質を有効成分とするα−グルコシダーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
二糖類分解酵素であるα−グルコシダーゼは、小腸に存在し、食物中の二糖類を単糖類へ分解し、小腸からの糖類の吸収を促進するため、体内において重要な役割をする酵素である。
【0003】
このα−グルコシダーゼの活性を阻害する阻害剤は、二糖類から単糖類への分解を遅らせる作用を有するため、腸管での糖類の消化吸収が遅らすことができる。その結果、食後の血糖上昇が抑えられるので、糖尿病等の治療・予防に大変有用なものである。
【0004】
これまでα−グルコシダーゼ阻害剤としては、種々の植物や、微生物の培養液等から得られたものが知られている。
【0005】
本発明者らも、以前、褐藻類であるツルアラメの抽出物の乾燥パウダーに強力なα−グルコシダーゼ阻害活性があることを見出し、遺伝的糖尿病モデルマウスおよびショ糖負荷モデルラットに対してツルアラメ抽出物の経口投与が有意な血糖値上昇抑制効果を示すことを報告している(非特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】岩井 邦久, 松江 一:褐藻ツルアラメの糖尿病モデルマウスにおける抗酸化および高血糖抑制効果. 第60 回日本栄養・食糧学会大会,2006年5月20日.
【非特許文献2】原高明, 八木勇三, 泉水直人:ショ糖負荷ラットの血糖値推移に対するSeametaherblineの効果, Food Function, 3, 85‐90, 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの報告では、α−グルコシダーゼを阻害する物質が何であるかについては全く検討していなかった。
【0008】
従って、本発明は、上記ツルアラメの抽出物中のα−グルコシダーゼ阻害活性成分を突き止めることをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、上記阻害活性成分がダイエコールであることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、ダイエコールを有効成分とすることを特徴とするα−グルコシダーゼ阻害剤である。
【0011】
また、本発明は、上記α−グルコシダーゼ阻害剤を含有することを特徴とする飲食品、特に糖尿病予防・治療用飲食品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のα−グルコシダーゼ阻害剤は天然物由来のものであり、安全に摂取できるものである。
【0013】
従って、本発明のα−グルコシダーゼ阻害剤は、糖尿病の予防・治療薬等や、糖尿病予防・治療用飲食品に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のα−グルコシダーゼ阻害剤(以下、「本発明阻害剤」という)の有効成分であるダイエコール(Dieckol)は以下に示される公知の物質であり、例えば、文献(Hye Sook Kang, Hae Young Chung, Jee Hyung Jung, Byeng Wha Son, and Jae Sue Choi: A new phlorotannin from the brown alga Ecklonia stolonifera. Chem. Pharm. Bull. 51, 1012-1014, 2003. )に記載の方法により得ることができる。このダイエコールは、ツルアラメ以外にもクロメやカジメ等の褐藻類に見出されており、抗菌活性等が報告されているが、α−グルコシダーゼ阻害活性があることについては報告されていないものである。
【0015】
なお、本発明においてα−グルコシダーゼ阻害活性とは、マルトース等の二糖類分解酵素の阻害活性をいい、これは一般的な方法で測定できる。また、本発明阻害剤のα−グルコシダーゼ阻害活性は、下記参考例1と同様にして測定した場合に、0.4〜0.8mM程度である。
【0016】
<ダイエコールの性質>
(分子式)C362218
(分子量)742.6
(構造式)
【化1】

(その他の性質)
水に難溶
アルコールに可溶
茶褐色
【0017】
上記ダイエコールはコンブ目コンブ科の褐藻であるツルアラメ(Ecklonia stolonifera)を原料として次のようにしても得ることができる。
【0018】
まず、ツルアラメの葉部100〜500g程度を包丁等で細断し、これにメタノール、エタノール等の溶媒を0.3〜2L程度添加した後、ホモジナイザー等で攪拌する。その後、ホモジネートを4〜10℃程度で遮光した状態で1日間程度放置し、抽出液を得る。次に、この抽出液を遠心し、上清を得る。更にその上清から溶媒を蒸発させた後、50〜500mL程度の水に溶解させて溶解液を得る。この溶解液をSep−Pak Vac C18カラム(Waters製)に通液させ、その後、更に40%(以下、単に「%」という)メタノール水溶液を通液させて得られる画分を採取する。
【0019】
上記で採取された画分は、更に、1%ギ酸水溶液とメタノールを40:60の質量比で含有する溶液に溶解させる。その後、これについて以下の条件で高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を行い、保持時間が9.5〜11分の画分を採取する。この画分にはダイエコールおよびこれらの重合体のみが含まれる。
【0020】
<HPLC条件>
カラム:Atlantis dC18(4.6mmID×150mmL:Waters社)
移動相:1%ギ酸(A液)およびメタノール(B液)
グラジエント:スタート時のA:B=45:55が15分間でA:B=30:70となるリニアグラジェント
流速:0.8mL/min
カラム温度:40℃
検出器:フォトダイオードアレイ検出器
検出波長:280nm
分取間隔:0.5分間
注入量:10mg
【0021】
本発明阻害剤は、上記ダイエコールを有効成分として含有していればよく、ダイエコールそのものあるいは従来の製剤担体と組み合わせて製剤化したものの何れであってもよい。また、製剤の剤形としては、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、タブレット剤、カプセル剤等が挙げられる。これら製剤におけるダイエコールの配合量は、特に制限されないが、例えば、それぞれが1日当たり40mg以上、好ましくは200〜500mgとなる量である。また、本発明阻害剤の摂取方法は、特に制限されないが、これを摂取することにより、食後の血糖上昇が抑えることができるため、上記配合量を1日1回または複数回、好ましくは3回に分けて食事後に摂取することが好ましい。更に、本発明阻害剤の効果を継続させるには、本発明阻害剤の摂取を2〜4週間程度連続で行うことが好ましい。
【0022】
なお、本発明阻害剤は、従来のα−グルコシダーゼ阻害と同様に糖尿病の予防・治療薬等にも利用できる。この場合の製剤あたりの配合量や摂取方法は上記と同様である。
【0023】
また、本発明阻害剤は、従来の飲食品にも添加することができる。この場合には、本発明阻害剤を一般的によく知られている他の食品原料に加えることにより、α−グルコシダーゼ阻害作用を有する飲食品、特に、糖尿病予防・治療用となる飲食品を得ることができる。この飲食品には、α−グルコシダーゼ阻害剤をダイエコールとして、0.1%以上、好ましくは0.5〜2%含有させればよい。
【0024】
本発明阻害剤を含有させることが好ましい飲食品としては、例えば、パン類、麺類、菓子類、サプリメント等が挙げられる。なお、飲食品には動物の飼料も含まれる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、この実施例により本発明は何ら制約されるものではない。
【0026】
参 考 例 1
ツルアラメの各種溶媒抽出物のグルコシダーゼ阻害活性(IC50):
(1)ツルアラメ抽出物の調製
生のツルアラメ(Ecklonia stolonifera)葉部100gを蒸留水で洗浄し、包丁で細かく切った後、蒸留水、エタノールおよびメタノールの3種類の溶媒400mLをそれぞれ加え、ミキサー(SM−KM39:三洋電機株式会社)でホモジナイズした。3種類のホモジネートを遮光、4℃で一晩撹拌抽出し、それを遠心分離(4℃、10,000rpm、30分)によって上清と沈殿に分け、以下の処理により3種類の抽出物を調製した。
【0027】
蒸留水で抽出した抽出物の上清はろ紙(No.2)でろ過後、ロータリーエバポレーターで濃縮したものを凍結乾燥した(ツルアラメ水抽出物)。また、エタノールで抽出した抽出物の上清をろ過後、濃縮したものを少量の蒸留水に再度溶解し、凍結乾燥した(EtOH抽出物)。更に、メタノールで抽出した抽出物の上清をろ過後に濃縮し、少量の蒸留水に再度溶解し、凍結乾燥した(MeOH抽出物)。これら3種の抽出物について以下の方法を用いてグルコシダーゼ阻害活性を測定した。
【0028】
(2)グルコシダーゼ阻害活性の測定
ラット小腸粉末(SIGMA社)0.5gに56mMマレイン酸緩衝液(pH6.0)5mLを添加し、ポリトロンにてホモジナイズした。これを3,000rpmで10分間遠心分離した後、上清を粗酵素液とし、それを適宜希釈して使用した。各グルコシダーゼ活性測定の基質として、スクロースについてはスクラーゼ、マルトースについてはマルターゼ、デンプンについてはグルコアミラーゼ、パラチノースについてはイソマルターゼを使用した。各基質はいずれも56mMマレイン酸緩衝液(pH6.0)を用いて20mg/mLに調製した。
【0029】
各抽出物は56mMマレイン酸緩衝液(pH6.0)に種々の濃度で溶解させ、その20μLを採取したチューブに20mg/mLの各基質溶液100μLを添加し、混合後37℃で5分間ブレインキュベートした。この混合液に希釈した各酵素液を20μL添加し、混合後37℃でインキュベートした。インキュベートから0、15、30、60、90および120分後に反応液15μLを試験管に採取し、直ちに10分間煮沸して酵素を失活させた。冷却後、反応液中のグルコース濃度をグルコースCII−テストワコー(和光純薬工業社)を使用して測定した。
【0030】
各反応液中グルコース生成量から各酵素の反応速度を算出した。酵素と基質のみの反応速度を100%とし、各試料添加時の反応速度からその酵素阻害率を算出した。更に、各試料の濃度と阻害率をプロットし、その近似曲線から各酵素の50%阻害濃度(IC50)を算出した。その結果を表1に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
何れの抽出物にもスクラーゼおよびイソマルターゼ阻害活性は認められなかったが、EtOH抽出物およびMeOH抽出物には、マルターゼとグルコアミラーゼの強い阻害活性が認められた。一方、ツルアラメ水抽出物には期待できるマルターゼとグルコシダーゼの阻害活性は見られなかった。
【0033】
以上の結果から、ツルアラメの阻害作用がフルクトースの結合分解には作用しないこと、あるいはツルアラメの阻害作用がα1→4結合の分解しかしないことが予想された。
【0034】
実 施 例 1
ダイエコールの抽出:
(1)EtOH抽出物の分画
参考例1で調製したEtOH抽出物200mgに蒸留水10mLを加え、超音波照射しながら溶解させて試料溶液を得た。一方、Sep−Pak Vac C18カラム(5g/20cc:Waters社)にメタノール120mLおよび蒸留水120mLをこの順番で流し、コンディショニングしておいた。
【0035】
続いて、20mg/mLの試料溶液10mLをSep−Pak Vac C18カラムに負荷し、負荷した液量分を溶出(素通り画分)させた後、蒸留水(0%メタノール)、20%メタノール水溶液、40%メタノール水溶液、60%メタノール水溶液、80%メタノール水溶液および100%メタノールをそれぞれ70mLずつこの順番で通液した。各溶出液を収集し、ロータリーエバポレーターで濃縮し、流した順に素通り画分、E0M(0%メタノール画分)、E20M(20%メタノール画分)、E40M(40%メタノール画分)、E60M(60%メタノール画分)、E80M(80%メタノール画分)およびE100M(100%メタノール画分)とした。素通り画分からE60Mまではそれぞれ凍結乾燥させ、分画物を得た。E80MおよびE100Mは濃縮後に真空デシケーター中で乾固し、分画物を得た。各分画物のマルターゼおよびグルコアミラーゼの50%阻害活性(IC50)を参考例1と同様にして測定した。その結果を表2に示した。なお、E80Mは殆ど回収されなかったため活性の測定などは行わなかった。
【0036】
【表2】

【0037】
EtOH抽出物からの収量はE40Mが最も多かった。また、マルターゼ阻害活性はE40MとE60Mに強く認められ、グルコアミラーゼ阻害活性はE20M、E40M、E60Mに認められた。なお、E40Mは分画前に比べて酵素の阻害活性が1.5〜1.9倍上昇した。
【0038】
以上の結果より、E40Mにグルコシダーゼ阻害活性成分が含まれていることが示された。また、EtOH抽出物中のグルコシダーゼ阻害成分は40%〜60%メタノール水溶液で溶出できることが分かった。
【0039】
(2)E40MのHPLC分析
(1)で調製した試料溶液は、1%ギ酸水溶液とメタノールを40:60の質量比で含有する溶液に溶解させ、1回分を約2mgとして以下の条件でHPLC分析を行った。収集した溶出液は、遠心エバポレーターにて減圧乾固し、分取物としてHPLCピークに合致させた。
<HPLC条件>
カラム:Atlantis dC18(4.6mmID×150mmL:Waters社)
移動相:1%ギ酸(A液)およびメタノール(B液)
グラジエント:スタート時のA:B=45:55が15分間でA:B=30:70となるリニアグラジェント
流速:0.8mL/min
カラム温度:40℃
検出器:2996フォトダイオードアレイ検出器(Waters社)
検出波長:280nm
分取間隔:0.5分間
注入量:2mg
【0040】
HPLC分析を行ったところ、クロマトグラムには主要なピークが4本検出され(図1のFr.1〜Fr.4)、それらをフラクションコレクターで分取した。各フラクションについて酵素(マルターゼの)の50%阻害活性を実施例1と同様にして測定した。その結果を表3に示した。
【0041】
【表3】

【0042】
上記より、Fr.4の阻害活性が0.532mg/mLと最も強く、これはE40Mの阻害活性の3.1倍に相当した。また、分取したFr.4について、上記と同様の条件で再度HPLC分析を行ったところ、Fr.4には他のピークは混在しておらず、精製が確認された(図2)。このFr.4を試料(E40MFr4)とし、これについて以下の構造解析を行った。
【0043】
(3)構造解析
(a)E40MFr4のNMRの測定
E40MFr4はアセトニトリル−d3に溶解し、これのH−NMR、13C−NMRおよびDEPTをJNM EX−270(270MHz:JEOL社)を使用して測定した。
【0044】
(b)E40MFr4のLC/MS/MSの測定
APILC/MS/MSシステム(アプライドバイオシステムズ社)を使用し、E40MFr4のMSおよびMS/MSを測定した。LCのカラムにはTSKgelODS100V(2mmID×50mmL:東ソー社)、移動相には1%ギ酸(A液)および1%ギ酸含有メタノール(B液)を使用し、A:Bが0〜18分間で90:10から10:90に変化するリニアグラジェントで、カラム温度40℃、流速0.2mL/minで溶出させた。E40MFr4を1%ギ酸水溶液とメタノールを40:60の質量比で含有する溶液に溶解させ、10mg/mLとしたものを前記システムに5μL注入し、280nmの吸光度検出とともに、ポジティブイオンモードでm/z50〜3000の範囲でM+Hを測定した。さらに、M+Hの推定質量を親イオンとして解裂させたMS/MS(娘イオンフラグメント)を測定した。
【0045】
(c)E40MFr4構造同定の結果
13C−NMRの測定の結果(図3)からは、E40MFr4に含まれる物質の炭素数が36個であることが示された。DEPTの測定の結果(図4)からは36個の炭素はCHとCで構成されており、CHおよびCHは存在しないことが示された。H−NMRの測定の結果(図5)からは、5.8〜6.3ppmにおけるケミカルシフト値が既知フロロタンニン化合物の文献値と一致することが示された。
【0046】
LC/MS/MSの測定の結果(図6)からは、UV280nm検出ピークにおいてE40MFr4はほぼ単一のピークであることが分かった(図6(A))。また、そのピークの分子量を測定したところM+Hは最もシグナルの大きいm/z743.0であることが分かった(図6(C))。さらに、E40MFr4の分子量を測定したデータからm/z743.0を有するピークを探す(スキャンする)と、単一のピークがUV280nmの検出ピークで観察された位置と殆ど重なって得られた(図6(B))。これらのことから、E40MFr4の分子量は742.0であることが示された。また、MS/MSスペクトルからは、ダイエコールの一部構造に一致するフラグメントがm/z618、494、412、387、371、301、288に観察された(図6の(D))。
【0047】
この分子量とNMRの解析から、有力な候補化合物として既知フロロタンニン化合物であるダイエコール(C362218)が推定された。なお、分子量742.6のフロロタンニン化合物としては8,8'−バイエコールも存在するが、今回の構造解析結果からは8,8'−バイエコールに該当するデータは得られていない。
【0048】
なお、m/z3000までのMSスペクトルには、m/z1485および2227が観察され(図7(A))、m/z1485を親イオンとした時のMS/MSスペクトル(図7(B))には、ダイエコールを示唆するm/z743のフラグメントが観察され、m/z2227を親イオンとしたMS/MSスペクトルでは(図7(C))、m/z1485とm/z743のフラグメントが観察された。これはダイエコールの二量体や三量体が存在する可能性を示している。
【0049】
以上の結果より、E40MFr4に含まれる物質はダイエコールと同定された。
【0050】
実 施 例 2
E40Mの単回投与によるマウス血糖上昇抑制効果:
(1)正常マウスにおけるE40M投与時の経口糖負荷試験
正常マウスとして雄性C57BLマウス(日本クレア社)を購入し、1週間馴化飼育した後に、18時間の絶食下で以下の試験に使用した。実験時のマウスは12週齢で体重20〜22gであった。これらのマウスにヘパリン処理したプラスチック製キャピラリーチューブを用いて眼窩底採血した。引き続き、これらのマウスに実施例1の(1)で得られたE40M(ダイエコールを18%含有する)およびマルトースの混合溶液を単回経口投与した。E40Mの投与量は0(E40M−0)、50(E40M−50)および300(E40M−300)mg/kgとし、マルトースの投与量は1.5g/kgとした。また、投与液量は10mL/kgとした。混合溶液投与後、0.5、1、2および4時間で、上記と同様に眼窩底採血した。採血後、直ちにキャピラリーチューブをヘマトクリット遠心機で遠心分離し(12,000rpm×2分)、血漿を採取した。この血漿を適宜0.15Mの塩化ナトリウム溶液で希釈し、血漿中グルコース濃度を富士ドライケム(FDC3500:GLU−PIII:冨士フィルム社)にて測定した。その結果を図8の(A)に示した。
【0051】
(2)糖尿病マウスにおけるE40M投与時の経口糖負荷試験
2型糖尿病モデル動物として雄性KK−Aマウス(日本クレア社)を購入し、1週間の馴化飼育後に18時間の絶食下で以下の試験に使用した。実験時の週齢は12週齢で、体重は38〜40gであった。E40Mおよびマルトースの投与量ならびに実験手法は上記(1)と同様に行った。測定結果を図8のBに示した。
【0052】
(3)結果
E40M−0はマルトース投与後0.5時間で410mg/dLに血糖値が上昇し、その後減少した。E40M−50およびE40M−300も投与後0.5時間で血糖値が上昇しその後時間とともに減少したが、0.5時間での血糖値は約300mg/dLとE40M−0より低く、E40M−300は0.5時間および1時間での血糖値がE40M−0より有意に低値となった。
【0053】
C57BLマウスと同様に、いずれの群もマルトース投与後0.5時間で血糖値が最大となり、その後時間とともに減少したが、血糖値の上昇はC57BLより高く、E40M−0は540mg/dLであった。また、C57BLマウスは投与後2時間で投与前の血糖値レベルに低下したが、KK−Aマウスでは2時間後でも約1.5倍高いレベルであった。このような糖尿病マウスの血糖特性において、E40Mを投与することにより血糖値上昇の抑制が見られた。E40M−0と有意な低値を示したのはE40M−300の1時間だけであったが、0.5時間では70〜100mg/dL低く、また2時間後には投与前のレベルに近似した。
【0054】
また、血糖値の変化を評価するために、濃度−時間曲線下面積(AUC)を測定した。その結果を表4に示した。
【0055】
【表4】

【0056】
濃度−時間曲線下面積は、E40M−0と比べて、E40M−50が12〜20%、E40M−300が17〜24%減少した。この結果は、ある一時点だけではなく、実験時間を通じてグルコースの体内暴露量がE40M投与によって減少したことを示している。また、E40M−50とE40M−300で容量依存性は顕著ではなかったが、単回同時投与で一部有意な抑制および抑制傾向が示されたことは、E40Mの50mg/kg投与あるいはそれ以下の投与量でも反復投与によって血糖上昇抑制効果が得られることが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のα−グルコシダーゼ阻害剤は糖尿病の予防・治療薬等や、糖尿病予防・治療用飲食品に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】E40MのHPLCクロマトグラムである。
【図2】E40MのFr.4のHPLCクロマトグラムである。
【図3】E40MのFr.4に含まれる物質の13C−NMR測定の結果である。
【図4】E40MのFr.4に含まれる物質のDEPT測定の結果である。
【図5】E40MのFr.4に含まれる物質のH−NMR測定の結果である。
【図6】E40MのFr.4に含まれる物質のLC/MS/MS測定の結果である(図中、(A)はE40MFr4のUV280nm検出ピーク、(B)はE40MFr4をm/z743でスキャンして得られたピーク、(C)はE40MFr4のUV280nm検出で得られたピークの分子量を測定したスペクトル、(D)は(C)と同じピークを親イオンm/z743で分解した時に得られる子イオンを測定したスペクトル、をそれぞれ示す)。
【図7】E40MのFr.4に含まれる物質のLC/MS/MS測定の結果である(図中、(A)はm/z3000までのMSスペクトル、(B)はm/z1485を親イオンとした時のMS/MSスペクトル、(C)はm/z2227を親イオンとした時のMS/MSスペクトル、をそれぞれ示す)。
【図8】E40Mを用いた経口糖負荷試験の結果を示す図面である(図中、(A)は正常マウスの結果、(B)は糖尿病マウスの結果、をそれぞれ示す)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイエコールを有効成分とすることを特徴とするα−グルコシダーゼ阻害剤。
【請求項2】
請求項1記載のα−グルコシダーゼ阻害剤を含有することを特徴とする飲食品。
【請求項3】
請求項1記載のα−グルコシダーゼ阻害剤を含有することを特徴とする糖尿病予防・治療用飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−180133(P2010−180133A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22196(P2009−22196)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年11月17日 第13回日本フードファクター学会学術集会JSOFF2008講演事務局発行の「第13回日本フードファクター学会学術集会 JSOFF2008 講演要旨集」に発表
【出願人】(508105186)公立大学法人青森県立保健大学 (8)
【出願人】(506348352)株式会社ユニアル (2)
【出願人】(509034203)NPO法人青森県新エネルギー創生研究会 (1)
【Fターム(参考)】