説明

α−Klotho/FGF23複合体形成阻害化合物

【課題】α-Klothoタンパク質とFGF23タンパク質との複合体形成の阻害、及び/又は、α-Klotho/FGF23シグナル伝達の阻害に用いる化合物及び組成物の提供。
【解決手段】下記一般式(I)で表される化合物又はその塩。下記式(I)において、R1は、ステロール基又は糖基であり、R1がステロール基である場合、R2,R3,及びR4は水素原子又は−SO3Hであり、かつ、R2,R3,及びR4の少なくとも1つは−SO3Hであり、R1が糖基である場合、R2及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R3は−SO3Hである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α-Klothoタンパク質とFGF23タンパク質との複合体形成の阻害に用いる化合物及び組成物、及び、α-Klothoタンパク質に依存するFGF23タンパク質によるシグナル伝達の阻害に用いる化合物及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
α-Klotho遺伝子は、動脈硬化、軟部組織の石灰化、骨密度の低下、肺気腫等の加齢に伴う様々な疾患に類似の症状を呈する挿入突然変異マウスの原因遺伝子として同定された遺伝子である(非特許文献1及び特許文献1)。α-Klotho遺伝子はその後、カルシウムイオン及びリン酸イオンのホメオスタシスの制御に関与していることが明らかにされている(非特許文献2)。また、α-Klothoタンパク質は、β−グルクロニダーゼ活性を有することが知られている(特許文献2)。
【0003】
FGF23(Fibroblast Growth Factor 23)遺伝子は、常染色体低リン酸血症性クル病(ADRH)の原因遺伝子、及び、腫瘍性低リン酸血症性クル病の原因遺伝子であることが知られている。FGF23は、主に骨で産生され、メインターゲットである腎臓に循環して達する。FGF23は、腎臓において、ビタミンD合成抑制とリン酸塩の再吸収抑制のシグナルを伝達する。
【0004】
前述のFGF23タンパク質によるシグナル伝達は、FGF受容体であるFGFR1を介して行われるが、FGF23がFGFR1に結合するためにはα-Klothoタンパク質が必要である(非特許文献3)。α-Klothoタンパク質は、FGF23及びFGFR1のそれぞれと直接結合することが知られている。また、FGF23タンパク質によるシグナル伝達の際には、α-Klotho/FGF23/FGFR1のシグナル伝達複合体が形成される(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO98/29544
【特許文献2】特許第4402511号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kuro-o, M et al. Nature 390, 45-51 (1997)
【非特許文献2】Tomiyama, K. I. et al. Proc Natl Acad Sci USA 107 1666-1671 (2010)
【非特許文献3】Urakawa, I et al. Nature 444, 770-774 (2006)
【非特許文献4】Plotnikov, A.N. Cell 101, 413-424 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、α-Klothoタンパク質に依存するFGF23タンパク質によるシグナル伝達(以下、「α-Klotho/FGF23シグナル伝達」とも言う。)のメカニズムの詳細は明らかになっておらず、α-Klotho/FGF23複合体の形成を阻害する化合物及びFGF23タンパク質のシグナル伝達を阻害する化合物についてはまだ明らかになっていない。
【0008】
そこで、本発明は、α-Klothoタンパク質とFGF23タンパク質との複合体形成の阻害、及び/又は、α-Klotho/FGF23シグナル伝達の阻害に用いる化合物及び組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は一態様において、下記一般式(I)で表される化合物又はその塩に関する。
【0010】
【化1】

上記式(I)において、R1は、ステロール基又は糖基であり、R1がステロール基である場合、R2,R3,及びR4は水素原子又は−SO3Hであり、かつ、R2,R3,及びR4の少なくとも1つは−SO3Hであり、R1が糖基である場合、R2及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R3は−SO3Hである。
【0011】
本発明はその他の態様において、α-Klothoタンパク質とFGF23タンパク質との複合体形成の阻害に用いる組成物であって、下記一般式(II)で表される化合物又はその塩を含む組成物に関する。
【化2】

上記式(II)において、R1は、ステロール基又は糖基であり、R1がステロール基である場合、R2,R3,及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R1が糖基である場合、R2及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R3は−SO3Hである。
【0012】
本発明はさらにその他の態様において、α-Klothoタンパク質に依存するFGF23タンパク質によるシグナル伝達の阻害に用いる組成物であって、上記一般式(II)で表される化合物又はその塩を含む組成物に関する。
【0013】
本発明はさらにその他の態様において、α-Klothoタンパク質とFGF23タンパク質との複合体形成を阻害する方法であって、上記一般式(II)で表される化合物又はその塩を前記α-Klothoタンパク質と接触させることを含む方法に関する。
【0014】
本発明はさらにその他の態様において、α-Klothoタンパク質に依存するFGF23タンパク質によるシグナル伝達を阻害する方法であって、上記一般式(II)で表される化合物又はその塩を前記α-Klothoタンパク質と接触させることを含む方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の化合物又はその塩によれば、α-Klothoタンパク質とFGF23タンパク質との複合体形成の阻害、又は、α-Klothoタンパク質に依存するFGF23タンパク質によるシグナル伝達の阻害が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、FGF23タンパク質のThr178のO結合型グリカンの欠損が、FGF23タンパク質の腎臓への集積を減少させることを示すグラフである。
【図2】図2は、α-Klotho及びビタミンD受容体のダブルノックアウトマウス(αKL-/-,vdr-/-)において、FGF23タンパク質の腎臓への集積が減少することを示すグラフである。
【図3】図3は、図示する各FGF23QQタンパク質の変異体を固定化したセンサーチップに図示する濃度のα-Klothoタンパク質を2分間ロードしたときのセンサーグラムである。
【図4】図4は、FGF23タンパク質の変異体により誘導されるin vivoでのα-Klotho/FGF23シグナル伝達をERKリン酸化アッセイにより確認した結果の一例を示す。
【図5】図5は、FGF23タンパク質のThr178のO結合型グリカンを含むm/zが843のプレカーサーイオンについてのCID-MS-MSスペクトル、及び、分析の結果得られた該イオンの構造式を示す。
【図6】図6は、Estrone-GlcAがin vitroでα-Klothoタンパク質とFGF23タンパク質との複合体形成を阻害することを示し、図6aはα-Klothoタンパク質をプルダウンしたプルダウンアッセイの結果であり、図6bは図示した濃度のEstrone-GlcAの存在下で、FGF23QQタンパク質を固定化したセンサーチップにα-Klothoタンパク質を2分間ロードしたときのセンサーグラムである。
【図7】図7は、Estrone-GlcAがin vivoでα-Klothoタンパク質に依存するFGF23タンパク質のシグナル伝達を阻害することを示し、図7aは、培養細胞を用いたEgr-1プロモータールシフェラーゼアッセイの結果であり、図7bは、マウスを用いたin vivo ERKリン酸化アッセイの結果である。
【図8】図8は、実施例2で合成した化合物(1)の1H−NMRスペクトル及び13C−NMRスペクトルである。
【図9】図9は、図示した濃度の化合物(1)の存在下で、FGF23QQタンパク質の糖鎖を固定化したセンサーチップにα-Klothoタンパク質を2分間ロードしたときのセンサーグラムである。
【図10】図10は、図示した濃度の化合物(2)〜(5)の存在下で、FGF23QQタンパク質の糖鎖を固定化したセンサーチップにα-Klothoタンパク質を2分間ロードしたときのセンサーグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、FGF23タンパク質の178位のスレオニン(以下、「Thr178」とも表す。)のO結合型グリコシル化が、α-Klothoタンパク質とFGF23タンパク質との複合体形成及びFGF23タンパク質によるシグナル伝達において極めて重要であるという知見に基づく。さらに、本発明は、前記Thr178に付加されるO結合型グリカンが、下記式で表わされる硫酸化グルクロン酸−N-アセチルガラクトサミン−(sufated-GlcA-GalNAc-)であるという知見に基づく。
【0018】
【化3】

【0019】
さらに、本発明は、下記式で表されるエストロン3-(β-D-グルクロニド)が、α-Klothoタンパク質とFGF23タンパク質との複合体形成を競合的に阻害するという知見に基づく。
【0020】
【化4】

【0021】
すなわち、本発明は一態様において、下記一般式(I)で表される化合物又はその塩(以下、単に「本発明の化合物」とも言う。)に関する。
【0022】
【化5】

上記式(I)において、R1は、ステロール基又は糖基であり、R1がステロール基である場合、R2,R3,及びR4は水素原子又は−SO3Hであり、かつ、R2,R3,及びR4の少なくとも1つは−SO3Hであり、R1が糖基である場合、R2及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R3は−SO3Hである。
【0023】
本発明の化合物によれば、α-Klothoタンパク質とFGF23タンパク質との複合体形成の阻害、及び/又は、α-Klotho/FGF23シグナル伝達の阻害が可能である。また、α-Klotho/FGF23シグナル伝達は、生体内のカルシウムイオン及びリン酸イオンの代謝調節の制御、具体的には、ビタミンDに対する負のフィードバック制御を行うから、本発明の化合物によれば、好ましくは、ビタミンDに対する負のフィードバック制御の抑制を行うことができる。さらに、本発明の化合物によれば、より好ましくは、FGF23タンパク質の過剰又は分解障害に起因する低リン酸血症又は低ビタミンD血症を緩和若しくは治療することができる。
【0024】
[α-Klothoタンパク質]
本明細書において、α-Klothoタンパク質とは、上述の特許文献1及び非特許文献1に開示されるα-Klotho遺伝子及びそのオーソログを含む遺伝子の遺伝子産物をいう。例えば、ヒト及びマウスのα-Klotho遺伝子は、それぞれ、NCBI等におけるデータベースのアクセションNo.AB005142.1及びNo.AB005141.1の情報(2011年4月1日時点で入手可能なデータベース情報)で特定できる。α-Klotho遺伝子は、副甲状腺、脈絡叢及び腎臓で発現する。
【0025】
[FGF23タンパク質]
本明細書において、FGF23タンパク質とは、FGFタンパク質ファミリーのFGF19サブファミリーに属するタンパク質であって、文献[Harmer, N. J. et al. Biochemistry 43, 629-640 (2004) ]に開示されるFGF23遺伝子及びそのオーソログを含む遺伝子の遺伝子産物をいう。例えば、ヒト及びマウスのFGF23遺伝子は、それぞれ、NCBI等におけるデータベースのアクセションNo.AF263537.1及びNo.AF263536.1の情報(2011年4月1日時点で入手可能なデータベース情報)で特定できる。
【0026】
[α-Klotho/FGF23複合体]
本明細書において、α-Klotho/FGF23複合体とは、特に言及のない場合、α-Klothoタンパク質がFGF23タンパク質のThr178のO結合型グリカン中の硫酸化β-D-グルクロニドを認識して行われるタンパク質-グリカン相互作用を介して形成される複合体をいう。
【0027】
[α-Klotho/FGF23シグナル伝達]
本明細書において、Klotho/FGF23シグナル伝達とは、特に言及のない場合、α-Klotho/FGF23複合体、及び、α-Klotho/FGF23/FGFR1シグナル伝達複合体を経て伝達されるシグナルをいう。Klotho/FGF23シグナル伝達は、例えば、ERK(extracellular signal-regulated kinase)のリン酸化、及び、Egr-1(Eerly growth response -1)プロモーターの活性化を指標にして該シグナル伝達の有無を判断できる。具体的には、実施例の方法により判定できる。
【0028】
[本発明の化合物]
本発明の化合物は、下記一般式(I)で表される化合物又はその塩である。
【0029】
【化6】

【0030】
上記一般式(I)において、R1は、ステロール基又は糖基である。
【0031】
本明細書において、前記ステロール基は、下記のステロイド骨格を有する化合物の基をいう。上記一般式(I)のR1がステロール基の場合、本発明の化合物は、好ましくはグルクロン酸がステロイド骨格の第3位の水酸基とグリコシド結合した形態、より好ましくはβグリコシド結合した形態となる。前記ステロール基のステロイドとしては、コレスタン、コラン、プレグナン、アンドロスタン、エストラン、及びこれらの誘導体が挙げられる。これらの中でも、前記ステロール基のステロイドとしては、エストラン及びその誘導体が好ましい。
【0032】
【化7】

【0033】
上記一般式(I)のR1の糖基としては、単糖、二糖、又は三糖が挙げられ、単糖が好ましい。前記糖基に含まれる糖としては、ヘプトース、ヘキソース、ペントースが挙げられ、ヘキソースが好ましい。また、前記糖基は、アミノ糖基を含むことが好ましい。前記アミノ糖基は、ヘキソサミンであることが好ましく、N−アセチルヘキソサミンがより好ましい。N−アセチルヘキソサミンとしては、N−アセチルガラクトサミン及びN−アセチルグルコサミン等が挙げられ、N−アセチルガラクトサミンが好ましい。
【0034】
前記R1の糖基は、さらに他の化合物とグリコシド結合していてもよい。前記他の化合物としては、アミノ酸、オリゴペプチド、フェノール類等が挙げられる。アミノ酸及びオリゴペプチドへのグリコシル化としては、O結合型、N結合型、又はその他の結合形態が挙げられる。オリゴペプチドのアミノ酸残基数としては、2、3、4、5、6等が挙げられる。前記フェノール類としては、ベンゼン環の水素原子の1つ又は複数がアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子で置換されもよいフェノール、及びポリフェノールが挙げられる。前記アルキル基及びアルコキシ基の炭素数としては、1〜6が好ましく、1〜3がより好ましい。
【0035】
上記一般式(I)において、R1がステロール基である場合、R2,R3,及びR4は水素原子又は−SO3Hであり、かつ、R2,R3,及びR4の少なくとも1つは−SO3Hであり、R1が糖基である場合、R2及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R3は−SO3Hである。すなわち、上記一般式(I)は、硫酸化グルクロニドの形態となる。R2,R3,及びR4におけるスルホ基の数は、1つであることが好ましい。R1がステロール基である場合、スルホ基の位置は特に限定されないが、R3が好ましい。
【0036】
上記一般式(I)において、グリコシド結合は、α結合であってもよいし、β結合であってもよいが、Thr178に付加されるO結合型グリカンにおけるO−グリコシド結合がβ結合である点から、β結合であることが好ましい。
【0037】
本発明の化合物は塩の形態であってもよい。塩の場合の対イオンとしては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び有機カチオン等が挙げられる。有機カチオンとしては、アンモニウムや、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等のアルキルアンモニウムが挙げられる。本発明の化合物は、溶媒和物の形態であってもよく、大気中の水分を吸収しあるいは吸着水が付いた水和物や、他のある種の溶媒を吸収した溶媒和物が挙げられる。
【0038】
本発明の化合物の分子量は、例えば、420以上であり、分子量の好ましい範囲はR1の種類に応じて適宜決定されうる。R1がステロール基である場合、例えば、500以上又は526以上であって、500〜1000が好ましく、より好ましくは526〜1000、さらに好ましくは526〜750、さらにより好ましくは526〜548、さらにより好ましくは526である。R1が糖基である場合、例えば、420以上であって、420〜1000が好ましく、より好ましくは420〜750、さらに好ましくは476〜750、さらにより好ましくは476〜498、さらにより好ましくは476である。R1が糖基であって、該糖基がオリゴペプチドとグリコシド結合している場合、例えば、500以上であって、550又は605以上が好ましく、より好ましくは605〜2000、さらに好ましくは605〜1000、さらにより好ましくは800〜900、さらにより好ましくは843〜866、さらにより好ましくは843である。
【0039】
本発明の化合物は、R1の種類に応じて当該分野で公知の方法を用いることにより合成できる。R1がステロール基である場合、本発明の化合物は、例えば、Estrone-GlcAをピリジン中で硫酸化することにより合成できる。R1が糖基である場合、本発明の化合物は、例えば、グルクロン酸とGalNAcとの縮合反応を行い、ついでピリジン中で硫酸化することにより合成できる。その他には、例えば、FGF23をヒドラジン分解して糖鎖を切り出したり、若しくはヘパリンやコンドロイチン硫酸を酵素を用いて二糖に分解した後、カラムで分取することによって合成できる(例えば、Kinoshita et al., JBC vol. 272 (32) 19656-19665 (1997))。R1が糖基であって、該糖基がオリゴペプチドとグリコシド結合している場合、例えば、FGF23タンパク質のトリプシン消化物をカラムで精製することによって合成できる。
【0040】
[α-Klotho/FGF23複合体形成阻害用組成物]
本発明は、その他の態様において、α-Klothoタンパク質とFGF23タンパク質との複合体形成の阻害に用いる組成物であって、下記一般式(II)で表される化合物又はその塩を含む組成物(以下、「本発明の第1の組成物」ともいう。)に関する。
【0041】
【化8】

【0042】
上記一般式(II)において、R1は、ステロール基又は糖基である。R1の具体的な形態は、前記一般式(I)のR1と同様とすることができる。
【0043】
上記一般式(II)において、R1がステロール基である場合、R2,R3,及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R1が糖基である場合、R2及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R3は−SO3Hである。R1がステロール基である場合、前記R2,R3,及びR4の少なくとも1つは−SO3Hであることが好ましい。上記一般式(II)において、R2,R3,及びR4におけるスルホ基の数は、1つであることがより好ましい。すなわち、上記一般式(II)で表される化合物は、R2,R3,及びR4がいずれも水素原子の場合を除いて、本発明の化合物(一般式(I)で表される化合物)と一致する。
【0044】
上記一般式(II)で表される化合物は塩の形態であってもよい。塩の場合の対イオンとしては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及び有機カチオン等が挙げられる。有機カチオンとしては、アンモニウムや、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等のアルキルアンモニウムが挙げられる。上記一般式(II)で表される化合物は、溶媒和物の形態であってもよく、大気中の水分を吸収しあるいは吸着水が付いた水和物や、他のある種の溶媒を吸収した溶媒和物が挙げられる。
【0045】
本発明の第1の組成物は、in vitro及び/又はin vivoにてα-Klotho/FGF23複合体の形成を阻害することができる。本発明の第1の組成物において、α-Klotho/FGF23複合体形成に対する阻害効果について、上記一般式(II)で表される化合物が有効成分であることが好ましい。本発明の第1の組成物によるα-Klotho/FGF23複合体形成阻害は、α-Klothoタンパク質が認識するFGF23タンパク質のThr178のO結合型グリカンと本発明の第1の組成物との競合阻害であると考えられる。但し、本発明はこのメカニズムに限定されなくてもよい。
【0046】
本発明の第1の組成物は、in vitro及び/又はin vivoにて上記一般式(II)で表される化合物がα-Klothoタンパク質と接触できるように使用することで、α-Klotho/FGF23複合体の形成を阻害することができる。例えば、in vitroでのα-Klotho/FGF23複合体の形成阻害を行う場合には、本発明の第1の組成物をα-Klothoタンパク質が存在する溶液等に添加すればよい。また、in vivoでのα-Klotho/FGF23複合体の形成阻害を行う場合には、対象の生体内に適宜、剤形、投与方法、及び投与量等を調節して投与する。前記対象生体としては、ヒト、ヒトを含まない哺乳類が挙げられる。前記剤形は、投与方法に応じて適宜選択でき、例えば、注射剤、液体製剤、カプセル剤、咀嚼剤、錠剤、懸濁剤、クリーム剤、軟膏等が挙げられる。また、投与方法も特に制限されず、経口投与、非経口投与が挙げられる。本発明の第1の組成物は、投与形態や剤形に応じた従来公知の添加物(例えば、賦形剤又は希釈剤)を含有してもよい。ヒトに投与する場合、上記一般式(II)で表される化合物の1日あたりの総量は、一般的には、0.0001mg/kg〜100mg/kgの範囲とすることができる。
【0047】
本発明の第1の組成物の経口投与に適した剤形としては、錠剤、粒子、液体又は粉末含有カプセル、トローチ、咀嚼剤、多粒子及びナノ粒子、ゲル、フィルムなどの固形製剤;懸濁液、溶液、シロップ及びエリキシルなどの液体製剤が挙げられる。前記賦形剤としては、セルロース、炭酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、マンニトール及びクエン酸ナトリウムなどの担体;ポリビニルピロリジン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びゼラチンなどの造粒結合剤;澱粉グリコール酸ナトリウム及びケイ酸塩などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸などの滑沢剤;ラウリル硫酸ナトリウムなどの湿潤剤;保存剤、抗酸化剤、矯味矯臭剤及び着色剤が挙げられる。
【0048】
本発明の第1の組成物の非経口投与は、静脈内、動脈内、腹腔内、鞘内、心室内、尿道内、胸骨内、頭蓋内、筋肉内及び皮下の投与を含む。非経口投与は、例えば、針注射器、針なし注射器及びその他の注入技術で行える。また、非経口投与に適した剤形としては、例えば、賦形剤及び/又は緩衝剤を含む水溶液が挙げられる。
【0049】
したがって、本発明は、その他の態様において、α-Klothoタンパク質とFGF23タンパク質との複合体形成を阻害する方法であって、上記一般式(II)で表される化合物又はその塩を前記α-Klothoタンパク質と接触させることを含む方法に関する。前記接触は、上述したとおり、本発明の第1の組成物を用いて行うことができる。また、本発明は、さらにその他の態様において、α-Klothoタンパク質とFGF23タンパク質との複合体形成の阻害における上記一般式(II)で表される化合物若しくはその塩、又は、本発明の第1の組成物の使用に関する。
【0050】
[α-Klotho/FGF23シグナル伝達阻害用組成物]
本発明は、さらにその他の態様において、α-Klothoタンパク質に依存するFGF23タンパク質によるシグナル伝達(α-Klotho/FGF23シグナル伝達)の阻害に用いる組成物であって、上記一般式(II)で表される化合物又はその塩を含む組成物(以下、「本発明の第2の組成物」ともいう。)に関する。上記一般式(II)で表される化合物又はその塩については、前述と同様である。
【0051】
本発明の第2の組成物は、in vitro及び/又はin vivoにてα-Klotho/FGF23シグナル伝達を阻害することができる。本発明の第2の組成物において、α-Klotho/FGF23シグナル伝達の阻害効果について、上記一般式(II)で表される化合物が有効成分であることが好ましい。本発明の第2の組成物によるα-Klotho/FGF23シグナル伝達阻害は、α-Klothoタンパク質が認識するFGF23タンパク質のThr178のO結合型グリカンと本発明の第2の組成物との競合阻害であると考えられる。但し、本発明はこのメカニズムに限定されなくてもよい。
【0052】
本発明の第2の組成物は、in vitro及び/又はin vivoにて上記一般式(II)で表される化合物がα-Klothoタンパク質と接触できるように使用することで、α-Klotho/FGF23シグナル伝達を阻害することができる。前記接触をさせる方法については、前述したとおりである。
【0053】
したがって、本発明は、その他の態様において、α-Klotho/FGF23シグナル伝達を阻害する方法であって、上記一般式(II)で表される化合物又はその塩を前記α-Klothoタンパク質と接触させることを含む方法に関する。前記接触は、上述したとおり、本発明の第2の組成物を用いて行うことができる。また、本発明は、さらにその他の態様において、α-Klotho/FGF23シグナル伝達の阻害における上記一般式(II)で表される化合物若しくはその塩、又は、本発明の第2の組成物の使用に関する。
【0054】
さらに、本発明の第1及び第2の組成物は、FGF23タンパク質の過剰又は分解障害に起因する低リン酸血症又は低ビタミンD血症を緩和若しくは治療のための医薬組成物としても使用できる。本発明は、さらにその他の態様として、該医薬組成物に関する。
【0055】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに説明する。但し、本発明は下記実施例に限定されなくてもよい。
【実施例】
【0056】
1.α-Klotho/FGF23複合体形成及びα-Klotho/FGF23シグナル伝達におけるFGF23のThr178の重要性
[FGF23QQ,T178Aは腎臓集積が減少する]
ヒトFGF23タンパク質は、C末端側にfurin様コンバンターゼ認識配列(R176XXR179)を有し、生体内において179位のアルギニン(Arg179)で切断され不活性化される。そのため、本実験においては、ヒトFGF23タンパク質のArg176及びArg179がグルタミン(Gln/Q)に置換され、前記切断に対して抵抗性の変異体(FGF23Arg176Gln,Arg179Gln、以下、「FGF23QQ」と表す。)を使用した。なお、Arg176及び/又はArg179のグルタミンへの変異は、常染色体低リン酸血症性クル病(ADRH)の患者に見られる変異である。また、O−結合型グリコシル化が行われるヒトFGF23タンパク質のThr178、Ser180、及びThr200の1つ又は全部をアラニンに置換したFGF23QQ,T178A、FGF23QQ,S180A、FGF23QQ,T200A、及び、FGF23QQ,T178A,S180A,T200Aの各タンパク質を作製して使用した。
【0057】
FGF23QQ、FGF23QQ,T178A、FGF23QQ,S180Aの各タンパク質を1μg/20g体重の量でマウスに静脈注射投与し(それぞれn=4)、前記投与10分後の血漿及び腎臓におけるFGF23変異体の集積を比較した。具体的には、心臓から採取した血液サンプル及び腎臓のホモジネート中のFGF23変異体の濃度をELISAにて測定した。その結果を図1に示す。図1において、エラーバーは標準偏差を示し、**p<0.01である。図1に示すとおり、腎臓におけるFGF23QQ,T178Aタンパク質の濃度だけが有意に低かった。したがって、Thr178のグリコシル化がFGF23タンパク質の腎臓集積に重要な役割を担っていることが示された。
【0058】
〔FGF23変異体の調製〕
上記実験及び下記実験に用いたFGF23QQ、FGF23QQ,T178A、FGF23QQ,S180A、FGF23QQ,T200A、及び、FGF23QQ,T178A,S180A,T200Aの遺伝子は、ヒトFGF23-Hisの形態でPCR特異的変異導入によって調製した。また、各FGF23変異体タンパク質は、CHO細胞に前記遺伝子を導入して発現させ、細胞培養液の上清から回収した。具体的には、10kDaカットオフのサイズ排除ろ過により濃縮した後に、HisTrap(商品名、GE Helthcare社製)カラムで精製し、Superose(商品名、GE Helthcare社製)S-300カラムでゲルろ過した。
【0059】
[α-KlothoノックアウトマウスにおいてFGF23の腎臓集積が減少する]
FGF23QQタンパク質をvdr欠損マウス(α-Kloto+/+/vdr-/-, n=7、α-Kloto-/-/vdr-/-, n=5)に1μg/20g体重の量でマウスに静脈注射投与し、前記投与10分後の血漿及び腎臓におけるFGF23QQタンパク質の集積を比較した。具体的には、心臓から採取した血液サンプル及び腎臓のホモジネートの濃度をELISAにて測定した。その結果を図2に示す。図2において、エラーバーは標準偏差を示し、**p<0.01である。図2に示すとおり、α-Kloto-/-/vdr-/-の腎臓におけるFGF23QQタンパク質の濃度がα-Kloto+/+/vdr-/-の腎臓におけるFGF23QQタンパク質の濃度に比べて有意に低かった。図1及び図2の結果により、FGF23タンパク質のThr178のグリカンがFGF23タンパク質のα-Klothoタンパク質への結合を手助けしていること、及び、FGF23タンパク質のThr178のグリカンにより促進されたFGF23タンパク質とα-Klothoタンパク質との相互作用によって循環するFGF23タンパク質が腎臓へ効率的に捕捉(集積)されること、が示された。
【0060】
なお、上記実験においてFGF23QQタンパク質を投与したマウスとして、α-Klotho及びvitamin D受容体(以下、vdrとも表す。)のダブル欠損マウスを使用した。このダブル欠損マウスを使用すると、α-Klothoノックアウトマウスにおいて過剰発現されるFGF23の量を検出限界以下まで減少させることができる。なお、α-Kloto+/+/vdr-/-及びα-Kloto-/-/vdr-/-の同腹子は、ダブルヘテロ接合体(α-Kloto+/-/vdr+/-)を掛け合わせて作製した。
【0061】
[FGF23QQ,T178Aはα-Klothoへの結合親和性が低下する]
FGF23変異体のα-Klothoタンパク質への結合特性を、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイにより測定した。FGF23変異体として、上述のFGF23QQ、FGF23QQ,T178A、FGF23QQ,S180A、FGF23QQ,T200A、及び、FGF23QQ,T178A,S180A,T200Aの各タンパク質をセンサーチップに固定化し、異なる濃度のα-Klothoタンパク質を2分間前記チップにロードした。その結果のセンサーグラムの一例を図3に示す。図3の縦軸RUは、resonace unitである。図3に示すとおり、FGF23QQ,T178Aタンパク質の結合能は、FGF23QQタンパク質と比べて著しく減少していた。FGF23QQ,T178Aタンパク質のα-Klothoタンパク質への解離定数Kdは10.7nMであり、FGF23QQタンパク質のKd(4.3nM)と比べて2.5倍高かった。また、トリプル変異体FGF23QQ,T178A,S180A,T200Aタンパク質のα-Klothoタンパク質への結合能の減少の程度は、FGF23QQ,T178Aタンパク質と同程度であった(図3)。これらの結果は、大腸菌で合成された(すなわち、糖鎖付加のない)nakedFGF23タンパク質におけるα-Klothoタンパク質への低結合能(データ示さず)と一致した。また、これらの結果は、FGF23タンパク質のThr178のグリカンが、FGF23タンパク質のα-Klothoタンパク質への結合能を強化するために重要であることを明確に示している。したがって、α-Klothoタンパク質は、FGF23タンパク質と2つのモードで相互作用していると考えられる。第1のモードが、Thr178のグリカンがとりわけ重要な役割を果たすタンパク質−グリカン相互作用であり、第2のモードが、従来から示唆されるFGF23タンパク質のC末端側領域とのタンパク質−タンパク質相互作用である。
【0062】
〔表面プラズモン共鳴測定の条件〕
装置:Biacore(商品名、GE Helthcare社製)3000及びT100
Running Buffer:HBS-EP buffer
センサーチップ:Biacore(商品名、GE Helthcare社製)CM5
固定化:EDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide)によるアミンカップリング
装置:ProteOn(商品名、Bio-RAD社製)XPR36
Running Buffer:PBST buffer
センサーチップ:ProteOn(商品名、Bio-RAD社製)GLC(アミンカップリング)
固定化:EDCによるアミンカップリング
【0063】
[FGF23QQ,T178Aはα-Klotho/FGF23シグナル伝達能が低下する]
FGF23変異体のα-Klotho/FGF23シグナル伝達能をin vivoで測定した。前記測定は、下記のin vivo ERKリン酸化アッセイにより行った。すなわち、α-Klotho/FGF23シグナル伝達の結果としてリン酸化されるERK(extracellular signal-regulated kinase)タンパク質を、リン酸化ERK(pERK)及びトータルERK(ERK)のそれぞれに対する抗体を用いたウエスタンブロッティングにより検出した。その結果の一例を図4に示す。FGF23QQタンパク質及びFGF23QQ,S180Aタンパク質であれば静脈注射後10分で十分にα-Klotho/FGF23シグナルが伝達していることが確認された(図4a)。一方、FGF23QQ,T178Aタンパク質の場合、FGF23QQタンパク質及びFGF23QQ,S180Aタンパク質の等量、2倍量、及び3倍量の投与ではシグナル伝達は確認できず、10倍量を投与してようやくシグナル伝達が確認された(図4b)。これらの結果は、大腸菌で合成されたnakedFGF23タンパク質におけるFGF23シグナル伝達に高容量が必要であるという従来のデータと一致した(Goetz et al. Mol Cell Biol 27, 3417-3428, 2007)。また、これらの結果は、FGF23タンパク質のThr178のグリカンが、α-Klotho/FGF23シグナル伝達能に重要であることを明確に示している。
【0064】
〔in vivo ERKリン酸化アッセイ〕
4〜5週齢オスC57BL/6マウス(n≧2)に1μg/20g体重の量でFGF23変異体をマウスに静脈注射投与し、前記投与10分後に腎臓を摘出してホモジネートを調製した。ホモジネートサンプルをSDS-PAGEで展開し、抗pERK抗体(マウスモノクローナル E-4, sc-7383, Santa Cruz社製)及び抗ERK抗体(ラビットポリクローナル K-23, sc-94, Santa Cruz社製)を用いたウエスタンブロットにより前記サンプル中のpERK及びトータルERKを検出した。
【0065】
2.FGF23のThr178のグリカンの構造決定
FGF23変異体をトリプシン処理したペプチドを親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)で分離し、MALDI-TOF質量スペクトロメトリーで分析した。そのうち、糖化ペプチドについて、さらに、CID(collision-induced dissociation)MS-MS分析を行った。その結果、FGF23QQ、FGF23QQ,S180A、及び、FGF23QQ,T200Aのトリプシンペプチドからは同定されるが、FGF23QQ,T178Aのトリプシンペプチドからは同定されないイオンとして質量電荷比(m/z)が843であるイオンが同定された。前記m/z843イオンのスペクトルを図5に示す。
【0066】
〔質量分析法の条件〕
MALDI-TOF-MSは、LIFT-MS/MS設備が付いたUltaraflex(商品名、Bruker Daltonik社製)TOF/TOF質量分析計で行った。前記装置は、CCA(alpha-cyano-4-hydoroxy-cinnamicacid)をマトリクスとして使用する陽イオンモードで操作した。CIDのスペクトルは、ペプチドイオンの選択と断片化のためのLIFTデバイスを用いたUltaraflex(商品名、Bruker Daltonik社製)TOF/TOF III装置を使用して得た。
【0067】
さらに、FGF23タンパク質のThr178のグリカンについては下記(i)〜(iii)の知見が得られた。
(i)α-Klothoタンパク質は、表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイによると、ヘパリン及びヘパラン硫酸には結合するが、ケラタン硫酸には結合しない。ヘパリン及びヘパラン硫酸は、硫酸基が付加したD-グルクロン酸を繰り返し単位に含むが、ケラタン硫酸は含まない(データ示さず)。
(ii)α-Klothoタンパク質は、グルクロン酸(GlcA)に対して特異的に酵素活性(β-グルクロニターゼ活性)を示すが、他の単糖、例えば、D-グルコース、D-ガラクトース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、D-フコース、D-マンノース、及び、D-キシロース等には酵素活性を示さない(特許文献2)。
(iii)後述するように、エストロン3-(β-D-グルクロニド)(Estrone-GlcA)は、α-Klothoタンパク質のグリコシダーゼ様ドメインに結合し、FGF23QQタンパク質のα-Klothoタンパク質への結合を競合的に阻害する。
【0068】
図5に示すスペクトルの分析及び上記(i)〜(iii)の知見から、前記m/z843イオンの構造は下記式の通りであり、FGF23のThr178のグリカンは、HSO3-GlcA-GalNAc-という構造であると結論できる。
【0069】
【化9】

【0070】
[実施例1]Estrone-GlcAによるα-Klotho/FGF23複合体形成及びα-Klotho/FGF23シグナル伝達の阻害
[Estrone-GlcAによるα-Klotho/FGF23複合体形成阻害]
in vitroにおけるEstrone-GlcAによるα-Klotho/FGF23複合体形成の阻害をプルダウンアッセイ(図6a)及び表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイ(図6b)により明らかにした。プルダウンアッセイは、100ngのFGF23QQタンパク質を100〜200ngのマウスα-Klotho-GFP融合タンパクと混合し、3.33mMのEstrone-GlcA(Sigma社製)の存在/非存在下で抗GFP抗体でプルダウン(PDed)することにより行った。また、SPRアッセイは、FGF23QQタンパク質をセンサーチップに固定化し、図示する濃度のEstrone-GlcAの存在下で、10nMのα-Klothoタンパク質を2分間前記チップにロードすることにより行った。図6a及びbに示す通り、Estrone-GlcAはin vitroにおいてα-Klotho/FGF23複合体形成を阻害した。なお、Estrone-GlcAは、α-Klothoタンパク質とnakedFGF23タンパク質との結合には何ら影響を与えなかった。また、Estrone-GlcAは、basic FGF (bFGF)の活性には影響を与えなかった。
【0071】
[Estrone-GlcAによるα-Klotho/FGF23シグナル伝達阻害]
培養細胞及びマウスにおけるEstrone-GlcAによるα-Klotho/FGF23シグナル伝達阻害を確認した。図7aは、培養細胞を用いたEgr-1プロモータールシフェラーゼアッセイの結果であり、図7bは、マウスを用いたin vivo ERKリン酸化アッセイの結果である。図7a及びbに示すとおり、Estrone-GlcAは培養細胞及び生体内においてα-Klotho/FGF23シグナル伝達を阻害した。
【0072】
〔Egr-1プロモータールシフェラーゼアッセイの条件〕
HEK293細胞を、下流にルシフェラーゼが発現可能に配置されたEgr-1プロモーターを含むベクターと、全長ヒトα-Klothoタンパク質が挿入されたpDNR-CMV(Clontech社製)とでトランスフェクションを行った。トランスフェクション後の細胞を、図示する濃度のEstrone-GlcAの存在下、図示する濃度のFGF23QQで刺激した。培養24時間後に、ルシフェラーゼ活性を測定した(図7a)。
【0073】
〔in vivo ERKリン酸化アッセイの条件〕
4〜5週齢オスC57BL/6マウス(n≧2)に、まず、眼窩からEstrone-GlcAを静脈注射投与し、その1分後、108ng/20g体重の量でFGF23QQタンパク質を尾部から静脈注射投与し、前記投与10分後に腎臓を摘出してホモジネートを調製した。ホモジネートサンプルをSDS-PAGEで展開し、抗pERK抗体(マウスモノクローナル E-4, sc-7383, Santa Cruz社製)及び抗ERK抗体(ラビットポリクローナル K-23, sc-94, Santa Cruz社製)を用いたウエスタンブロットにより前記サンプル中のpERK及びトータルERKを検出した。
【0074】
[実施例2]
【化10】

上記化合物(1)を合成した。得られた生成物の1H−NMRスペクトルと13C−NMRスペクトルとを図8に示す。1H−NMRの結果より、δ2.03ppm (NAc), 4.21ppm (H-2a), 4.25ppm (H-4a), 4.34 (H-3b), δ4.77 and 4.99ppm (H-1a and H-1b), 6.93-7.05ppm (Ph)であると考えられる。したがって、得られた生成物は、上記化合物(1)であると同定した。なお、1H−NMR及び13C−NMRの測定は、日本電子社製NMR測定器(400MHz)を用い、溶媒として重水、内部標準としてt−BtOHを使用した。
【0075】
[実施例3]
in vitroにおける化合物(1)によるα-Klotho/FGF23複合体形成の阻害をSPRアッセイにより明らかにした。SPRアッセイは、FGF23QQタンパク質の糖鎖をセンサーチップに固定化し、図示する濃度の化合物(1)の存在下で、3nMのα-Klothoタンパク質(α-KL)を2分間前記チップにロードすることにより行った。SPR測定の条件は、上記のとおりである。なお、化合物(1)としては下記式で表される化合物(1)のナトリウム塩を使用した。その結果を図9に示す。図9に示す通り、化合物(1)はin vitroにおいてα-Klotho/FGF23複合体形成を阻害した。
【化11】

【0076】
[参考例]
化合物(1)に替えて下記の化合物(2)〜(5)を使用した以外は、実施例3と同様にしてSPRアッセイを行った。その結果を図10に示す。化合物(2)〜(5)は、いずれも市販品(Heparin disaccharide IV-A sodium salt(α-ΔUA-[1→4]-GlcNAc)、Heparin disaccharide IV-H sodium salt(α-ΔUA-[1→4]-GlcN)、Heparin disaccharide III-H sodium salt(α-ΔUA-[1→4]-GlcN)、及びHeparin disaccharide I-A sodium salt(α-ΔUA-2S-[1→4]-GlcNAc−6S)(いずれも商品名、シグマ製))を使用した。化合物(2)〜(5)のグルコシド結合はいずれもβ1→4結合である。なお、ΔUAは4-deoxy-L-threo-hex-4-enopyranosyluronic acid、GlcNはD-glucosamine、AcはAcetyl、2Sは2-sulfate、6S=6-sulfateをそれぞれ表す。
【化12】

【0077】
図9及び図10に示すとおり、結合阻害活性は硫酸基に依存しており、特にグルクロン酸の3位の硫酸化がα-Klotho/FGF23複合体形成の阻害に重要であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、例えば、カルシウムイオン及びリン酸イオンの代謝制御並びにビタミンDの合成制御に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物又はその塩。
【化1】

上記式(I)において、R1は、ステロール基、又は糖基であり、
1がステロール基である場合、R2,R3,及びR4は水素原子又は−SO3Hであり、かつ、R2,R3,及びR4の少なくとも1つは−SO3Hであり、
1が糖基である場合、R2及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R3は−SO3Hである。
【請求項2】
前記糖基の糖が、N−アセチルヘキソサミン又はその誘導体である、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
前記R1が、3β位に結合手を有するエストランのステロール基である、請求項1記載の化合物。
【請求項4】
α-Klothoタンパク質とFGF23タンパク質との複合体形成の阻害に用いる組成物であって、下記一般式(II)で表される化合物又はその塩を含む組成物。
【化2】

上記式(II)において、R1は、ステロール基、又は糖基であり、R1がステロール基である場合、R2,R3,及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R1が糖基である場合、R2及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R3は−SO3Hである。
【請求項5】
α-Klothoタンパク質に依存するFGF23タンパク質によるシグナル伝達の阻害に用いる組成物であって、下記一般式(II)で表される化合物又はその塩を含む組成物。
【化3】

上記式(II)において、R1は、ステロール基、又は糖基であり、R1がステロール基である場合、R2,R3,及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R1が糖基である場合、R2及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R3は−SO3Hである。
【請求項6】
α-Klothoタンパク質とFGF23タンパク質との複合体形成を阻害する方法であって、下記一般式(II)で表される化合物又はその塩を前記α-Klothoタンパク質と接触させることを含む、方法。
【化4】

上記式(II)において、R1は、ステロール基、又は糖基であり、R1がステロール基である場合、R2,R3,及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R1が糖基である場合、R2及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R3は−SO3Hである。
【請求項7】
α-Klothoタンパク質に依存するFGF23タンパク質によるシグナル伝達を阻害する方法であって、下記一般式(II)で表される化合物又はその塩を前記α-Klothoタンパク質と接触させることを含む、方法。
【化5】

上記式(II)において、R1は、ステロール基、又は糖基であり、R1がステロール基である場合、R2,R3,及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R1が糖基である場合、R2及びR4は、同一又は異なり、水素原子又は−SO3Hであり、R3は−SO3Hである。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−28541(P2013−28541A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159507(P2011−159507)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(300061835)公益財団法人先端医療振興財団 (28)
【Fターム(参考)】