説明

ころ軸受の組立、検査方法

【課題】ころを組付ける前に保持器の幅の検査を行って不合格品を除去することにより、組立てられたころ軸受の不合格品の発生を低減し、作業能率を向上すると共にコストを低減できるころ軸受の組立、検査方法を提供する。
【解決手段】保持器にころを組付けるころ組立工程、ころ欠検査工程、回転検査工程を少なくとも有するころ軸受の組立ラインにおいて、前記ころ組立工程の前に、前記保持器の全数についてころ止めの幅を検査する保持器検査工程を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持器のポケットに転動体を収容したころ軸受の組立、検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ころ軸受を構成する転動体であるころは、一般に保持器のポケットに収容されており、ポケットには、ころを所定の位置に回動自在に保持するころ止めが設けられている。
【0003】
図2はころ軸受の保持器の一例(図には、スラストころ軸受の保持器を示す)の要部の平面図及びそのA−A断面図である。
保持器1は、例えば炭素鋼板の如き金属板をプレス加工により円環状に形成され、その環状部1aには、周方向に所定の幅でほぼ逆台形状の凹部2が形成されており、凹部2から内外径側の鍔部にかけて、周方向に所定の間隔で複数のポケット3が設けられている。
このポケット3の周方向の外径側と内径側の縁部には対向してころ止め4aが設けられており、また、凹部2にも対向してころ止め4bが設けられている。そして、転動体であるころ(例えば、円筒ころ)がころ止め4a,4bに保持されて、回転自在に収容される。
【0004】
このようなころ軸受においては、保持器1の対向するころ止め4a,4aの周方向の間隔(以下、幅という)S、及び必要に応じて、ころ止め4aところ止め4bの軸方向の間隔(以下、幅という)S1が所定の寸法であることが必要である。若し、これらの幅S又は幅S,S1が所定の寸法より小さい場合は、ポケット3にころを収容しにくく、収容しても回転が不円滑であり、また、これらの幅が所定寸法より大きいと、ポケット3に収容したころが脱落してしまうという問題があった(以下の説明では、図2に示す保持器を用いたころ軸受を通常のころ軸受という)。
【0005】
従来、通常のころ軸受の組立ラインは、図3に示すように、保持器にころを組付けてころ軸受を組立てるころ組立工程、組立てたころ軸受にころ欠がないかどうかを検査するころ欠検査工程、ころ軸受が円滑に回転するかどうかを検査する回転検査工程とからなっていた。なお、保持器は、別工程で製造し、ロッド(例えば、数千個)のなかの複数個についてころ止め幅の抜取り検査を行い、抜取り検査による不合格品を除くすべての保持器をころ組立工程に送っていた。(このような通常のころ軸受の組立ラインに関する特許文献、非特許文献は、調査したが発見できなかった。)
【0006】
図5はころ軸受の主要部をなす溶接保持器の斜視図、図6は図5の要部の正面図及びそのB−B断面図である。
このころ軸受の主要部をなす溶接保持器11は、炭素鋼板等からなる帯状体の幅方向に長手方向に沿ってほぼ逆台形状の凹部12を形成し、長手方向に所定の間隔で凹部12から鍔部にかけてポケット13を設け、これを所定の長さに切断して円形に折曲げ、両端部を溶接15して図5に示すようにほぼ円筒状の溶接保持器11を形成し、熱処理したものである。
【0007】
この溶接保持器11のポケット13の周方向の縁部には対向して外径側ころ止め14aが設けられており、凹部12の周方向の縁部には対向して内径側ころ止め14bが設けられている(図5はころ止めが省略してある)。そして、転動体であるころ(例えば、針状ころ)が外径側ころ止め14aと内径側ころ止め14bとによって保持され、ポケット13内に回転自在に収容されている。
このような溶接保持器11を用いたころ軸受、特に、高速回転部分に使用されるころ軸受は、組立ラインにおいて細部にわたる検査が要求され、きわめて厳格に工程管理されている。
【0008】
図7は溶接保持器11を用いた従来のころ軸受の組立ラインの工程を示すブロック図である。先ず、軸方向寸法検査工程において溶接保持器11の軸方向の寸法が検査され、これに合格した溶接保持器11がころ組立工程に送られてころの組付けが行われる。ころが組付けられたころ軸受は、順次、回転トルク検査、ころ欠検査、内径寸法検査、保持器の溶接はがれ検査、回転検査が行われ、各工程で不合格となったころ軸受は除去されて廃棄され、前段の工程で合格したころ軸受のみが後段の工程へ送られる。そして、最終的に回転検査で合格したころ軸受が包装され、出荷される。なお、この場合も、溶接保持器は通常のころ軸受の保持器の場合と同様に、別工程で製造し、抜取り検査による不合格品を除くすべての溶接保持器を、軸方向寸法検査工程に送っていた。(このような溶接保持器を用いたころ軸受の組立ラインに関する特許文献、非特許文献は、調査したが発見できなかった。)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の通常のころ軸受の組立ラインにおいては、不良品が混在した保持器がころ組立工程に送られるため、回転検査が終了して初めてころ軸受、特に、保持器のころ止めの幅の不良が発見されることになり、このため、ころ自体は良品であるにもかかわらず、ころ軸受全体を廃棄処分にせざるを得ないので、廃棄する不良品の金額が高額になり、結果的にコストが上昇するという問題があった。
また、保持器には不良品が混在しているため、ころ組立工程における保持器へのころの組付けに?々トラブルが発生してころ組立ラインに停滞が生じ、作業能率が低下するという問題があった。
【0010】
また、溶接保持器からなるころ軸受の組立ラインにおいても、上記の場合と同様の問題が発生するが、特に、検査項目が多岐に亘っているため、ころ組付け後のころ軸受における不合格品の発生率が高いという問題があった。
このように、ころ軸受において、保持器に設けたころ止めの幅の管理は、ころ軸受を組立てる上できわめて重要である。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、ころを組付ける前に保持器の全数についてころ止めの幅の検査を行って不合格品を除去することにより、組立てられたころ軸受の不合格品の発生を低減し、作業能率を向上すると共にコストを低減できるころ軸受の組立、検査方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るころ軸受の組立、検査方法は、保持器にころを組付けるころ組立工程、ころ欠検査工程、回転検査工程を少なくとも有するころ軸受の組立ラインにおいて、前記ころ組立工程の前に、前記保持器の全数についてころ止めの幅を検査する保持器検査工程を設けたものである。
【0013】
また、上記の保持器に、溶接保持器を用いたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ころを組付ける前に保持器の全数についてころ止めの検査を行って不合格品を除去し、合格した保持器のみをころ組立工程に送ってころを組付けるようにしたので、組立てられたころ軸受の後工程による不合格品の発生が大幅に低下し、不合格による廃棄額を低減することができ、作業能率の向上とコストの低減を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
[実施の形態1]
図1は本発明の実施の形態1に係る通常のころ軸受の組立、検査方法の工程図である。
本実施の形態においては、通常のころ軸受の組立ラインを、保持器検査工程、ころ組立工程、ころ欠検査工程、回転検査工程とし、ころ組立工程の前に保持器のころ止めの幅を検査する保持器検査工程を設けたものである。
【0016】
保持器検査工程においては、図2に示す保持器1の全数について対向するころ止め4a,4bの幅S、又はこの幅Sところ止め4aと4bの幅S1を、例えば光学式の測定器で測定し、これらの幅S又は幅SとS1の寸法が所定の範囲内であれば合格品として次のころ組立工程に送り、所定の範囲に達しないか、又はこれを超えるものは不合格品として除去し、廃棄する。
【0017】
そして、保持器検査で合格した保持器1は、ころ組立工程においてころが組付けられてころ軸受となり、次のころ欠検査工程に送られてころ欠の有無が検査され、ころ欠のあったものは除去されて廃棄され、合格したころ軸受は回転検査工程へ送られる。この検査で回転が不具合のころ軸受は除去されて廃棄され、合格したころ軸受は完成品として包装され、出荷される。
【0018】
この場合、従来のころ軸受組立ラインに比べて保持器検査工程が増加するが、検査に要する時間は極く短かい(例えば、3秒程度)ので、ころ軸受組立ラインのスピードにはほとんど影響を与えない。
また、ころ組立工程の前の保持器検査工程において、ころ止め4a又は4aと4bの幅寸法を検査し、合格品のみを次のころ組立工程へ送ってころを組込むようにしたので、組立てられたころ軸受のころ欠検査工程及び回転検査工程で発見される不良品は極く僅かであり、大部分が合格品となる。
【0019】
本実施の形態によれば、ころ組立の前に保持器の全数についてころ止めの幅を検査し、この検査の段階で比較的安価な保持器の不合格品を除去し、合格した保持器のみをころ組立工程に送るようにしたので、組立てられた高価なころ軸受のころ欠検査及び回転検査による不合格品が大幅に減少し、大部分を合格品として出荷することができる。
これにより、廃棄される不合格品の金額(損失)を大幅に低減することができ、また、ころ組立工程におけるトラブルが解消されるので組立ラインが停滞することもなく、作業能率を向上することができる。そして、これらにより、商品価値が向上して信頼性を高めることができ、その上作業能率が向上し、コストを低減することができる。
【0020】
[実施の形態2]
実施形態1では、通常の保持器を用いたころ軸受の組立、検査方法について説明したが、本実施の形態は、溶接保持器を用いたころ軸受(以下、溶接ころ軸受という)の組立、検査方法に関するものである。
【0021】
図4は本実施の形態に係る溶接ころ軸受の組立、検査方法の工程図である。
本実施の形態は、図4に示すように、溶接保持器の軸方向寸法検査工程と、ころ組立工程との間に、実施の形態1の場合とほぼ同様に、溶接保持器の全数についてころ止めの幅寸法を検査するころ止め幅検査工程を設けたものである。そして、例えば光学式の測定器により、図6に示すように対向する外径側ころ止め14a,14aの幅S、必要に応じて外径側ころ止め14aの幅Sと内径側ころ止め14bの幅S1を検査し、これらの幅S又はSとS1が所定の範囲内の溶接保持器11だけを次のころ組立工程へ送り、ころの組付けを行うようにしたものである。以下の工程は、図7で説明した従来と同様である。
【0022】
本実施の形態によれば、実施の形態1の場合とほぼ同様の効果が得られるが、検査項目が多いだけにその経済的効果が大きく、より商品価値が向上して信頼性を高めることができ、その上コストを低減し、作業能率を向上することができる。
【0023】
[比較例]
表1に従来の組立、検査方法における溶接ころ軸受の検査結果を示す。なお、使用した溶接保持器は70,000個であった。
先ず、溶接保持器にころを組付けて、図7に示すような検査を行なったところ、組立不良とみられる不合格品が0.7%、ころ欠による不合格品が0.6%、内接、外接不良その他が5.1%で、合計6.4%の不合格品が発生し、合格品は93.6%で、約4,500個の溶接ころ軸受が廃棄処分された。そして、これらの不合格品の多くは、溶接保持器のころ止めの幅に起因することがわかった。
【0024】
【表1】

【0025】
表2は実施の形態2に係る溶接ころ軸受の組立、検査ラインによる検査結果を示すもので、使用した溶接保持器の数は、前記と同様に70,000個である。
先ず、溶接保持器の全数についてころ止めの幅の検査を行い、この検査により5.4%の不合格品が発生し、合格品は94.6%(約66,200個)であった。次に、検査に合格した溶接保持器にころを組付けて、組立検査、ころ欠検査、内接、外接不良その他の検査を行ったところ、それぞれ0.2%、0.1%、0.1%の不合格品が発生し、不合格率は0.4%、合格率は溶接保持器の合格品を100とした場合、99.6%であった。
【0026】
【表2】

【0027】
このように、実施の形態2に係る溶接ころ軸受の組立、検査方法によれば、比較的低価格の溶接保持器のころ止めの検査では、5.4%の不良品が発生したが、ころを組付けた高価なころ軸受の不合格品は僅かに0.4%(約2,650個)で、溶接ころ軸受の不合格率を大幅に減らすことができ、その結果、溶接ころ軸受の廃棄処分による損失金額を大幅に低減することができた。
【0028】
上記の説明では、図示の保持器又は溶接保持器を用いたころ軸受の組立、検査方法について説明したが、これに限定するものではなく、他の構造の保持器又は溶接保持器を用いたころ軸受の組立、検査ラインにおいても本発明を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態1に係る通常のころ軸受の組立、検査方法の工程図である。
【図2】通常のころ軸受の保持器の一例の要部の平面図及びそのA−A断面図である。
【図3】従来の通常のころ軸受の組立、検査方法の工程図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る溶接ころ軸受の組立、検査方法の工程図である。
【図5】溶接保持器の一例の斜視図である。
【図6】図5の要部の正面図及びそのB−B断面図である。
【図7】従来の溶接ころ軸受の組立、検査方法の工程図である。
【符号の説明】
【0030】
1 通常のころ軸受の保持器、2 凹部、3 ポケット、4a,4b ころ止め、11 溶接保持器、12 凹部、13 ポケット、14a 外径側ころ止め、14b 内径側ころ止め、15 溶接。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持器にころを組付けるころ組立工程、ころ欠検査工程、回転検査工程を少なくとも有するころ軸受の組立ラインにおいて、
前記ころ組立工程の前に、前記保持器の全数についてころ止めの幅を検査する保持器検査工程を設けたことを特徴とするころ軸受の組立、検査方法。
【請求項2】
前記保持器が溶接保持器であることを特徴とする請求項1記載のころ軸受の組立、検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−191908(P2009−191908A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31774(P2008−31774)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(591071436)宇都宮機器株式会社 (9)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】