説明

しわ付き箔容器用アルミニウム箔

【課題】しわ付き箔容器における内容物による腐食および変色を効果的に防止する。
【解決手段】Mg:0.5〜2.0%、Ti:0.007〜0.5%、Cr:0.03〜0.5%、Cu:0.01〜0.05% Si:0.05〜0.3%、Fe:0.2〜0.5%を含有し、さらに所望によりMn:0.10〜1.5%を含有し、残りがアルミニウムおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金芯材の片面または両面に、Mg:0.1〜1.5%、Zn:0.005〜0.2%未満、Cr:0.010%未満、Cu:0.015%未満、Si:0.03〜0.3%、Fe:0.2〜0.5%を含有し、残りがアルミニウムおよび不可避不純物からなる皮材を5〜15%の厚さで被覆した複合アルミニウム箔で構成する。すき間腐食、変色の発生が確実に防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、冷凍調理食品などの食品の収容に適したしわ付き箔容器に用いられるアルミニウム箔に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム箔容器の中には側壁にしわの付いたしわ付き容器がある。このしわ付き容器は、形成されるしわによって強度を確保するため容器強度が優れており、流動性食品や薄肉食品を入れる冷凍容器として広く使用されている。これに使用される容器用材料として、容器の強度を確保するためにMnを含むAl合金が使用されている。
しかし、しわ付き容器に液汁を含む流動食品(例えば、カレー、ラーメン、うどん、グラタンなど)や薄肉食品(例えば、ピザパイなど)を入れて冷凍すると、塩分を含んだ流動食品や薄肉食品の液汁が、しわのすき間に入り込んだ状態で長期間保存されるため、その隙間に腐食が発生し(以下、これを「隙間腐食」という)、冷凍食品を加熱または解凍した時に、上記すき間腐食により発生した腐食穴より食品の液汁が洩れることがある。
【0003】
これらの問題を解決するため、特許文献1に示されるように、芯材にMn:0.3〜1.5%のAl−Mn系合金、Mn:0.3〜1.5%、Mg:0.1〜1.3%のAl−Mn−Mg系合金、もしくはMn:0.3〜1.5%、Mg:0.1〜1.3%、Cu:0.05〜0.25%のAl−Mn−Mg−Cu系合金を用い、これらの芯材の両面に純Alを皮材として被覆することからなる複合アルミニウム箔で構成されるしわ付き箔容器が提案されている。これらの皮材ではZn:0.1〜1.3%、Mg:0.1〜1.5%の内の1種または2種を含有してもよいとされている。
さらに前記特許を改良した特許文献2で開示されるように、芯材にMn:0.3〜1.5%、Mg:0.1〜1.3%、Cu:0.05〜0.25%、Si:0.1〜0.3%、Fe:0.26〜0.60%を含有したAl合金芯材を用い、この芯材の両面にCu:0.01〜0.09%、Si:0.01〜0.09%、Fe:0.01〜0.25%と、所望によりMg:0.1〜1.5%を含んだAl合金を被覆した複合アルミニウム箔が提案されている。
【特許文献1】特開平8−308740号公報
【特許文献2】特開平10−262836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記で提案されたしわ付き箔容器用の材料においても、前述したすき間腐食を十分に防止することは難しく、依然としてすき間腐食の問題を有している。また、腐食穴の形成に至らないものの腐食に伴って表面が黒色に変色することがあり、美観が低下して商品価値を損なうという問題もある。本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、すき間腐食の発生を効果的に防止することができるしわ付き箔容器用アルミニウム箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、第1の発明のしわ付き箔容器用アルミニウム箔は、質量%で、Mg:0.5〜2.0%、Ti:0.007〜0.5%、Cr:0.03〜0.5%、Cu:0.01〜0.05%、Si:0.05〜0.3%、Fe:0.2〜0.5%を含有し、残りがアルミニウムおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金芯材の片面または両面に、Mg:0.1〜1.5% Zn:0.005〜0.2%未満 Cr:0.010%未満、Cu:0.015%未満 Si:0.03〜0.3%、Fe:0.2〜0.5%を含有し、残りがアルミニウムおよび不可避不純物からなる皮材を5〜15%の厚さで被覆した複合アルミニウム箔で構成されていることを特徴とする。
【0006】
第2の発明のしわ付き箔容器用アルミニウム箔は、質量%で、Mg:0.5〜2.0%、Ti:0.007〜0.5%、Cr:0.03〜0.5%、Cu:0.01〜0.05% Si:0.05〜0.3%、Fe:0.2〜0.5%、Mn:0.10〜1.5%を含有し、残りがアルミニウムおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金芯材の片面または両面に、Mg:0.1〜1.5%、Zn:0.005〜0.2%未満、Cr:0.010%未満、Cu:0.015%未満、Si:0.03〜0.3%、Fe:0.2〜0.5%を含有し、残りがアルミニウムおよび不可避不純物からなる皮材を5〜15%の厚さで被覆した複合アルミニウム箔で構成されていることを特徴とする。
【0007】
以下に、本発明のしわ付き箔容器用アルミニウム箔で規定する組成の限定理由について説明する。なお、各成分の含有量はいずれも質量%で示されている。
【0008】
<芯材>
Mg:0.5〜2.0%
Mgは、芯材の強度を高めるために含有させる。ただし、0.5%未満では、該作用を十分に得ることができず、一方、2.0%を超えると・クラッド性および加工性、耐すき間腐食性が低下する。したがって、Mgの含有量を0.5〜2.0%に定める。なお、同様の理由で下限は0.8%、上限は1.8%が望ましい。
【0009】
Ti:0.007〜0.5%
Tiは、Al合金の電位を貴にする作用があり、芯材の耐食性を向上させる。また、鋳造時の包晶により濃度の濃淡を形成して凝固する。これを圧延すると圧延方向にTiの濃淡が層状に分布する。このTiの濃淡部には電位差があるため、層状に広がる腐食形態となり深さ(厚さ)方向への腐食進行が遅延されさらに耐食性が向上する。これら作用を得るため、Tiを含有させている。ただし、0.007%未満の含有では、上記作用を十分に得ることができず、一方、0.5%を超えて含有すると、一層の効果は得られないばかりか、巨大なAl−Ti系金属間化合物による加工性の低下と耐食性の低下を招く。したがって、Tiの含有量を0.007%〜0.5%に定める。なお、同様の理由で、下限を0.01%、上限を0.25%とするのが望ましい。
【0010】
Cr:0.03〜0.5%
CrはAl合金の電位を貴にする作用があることに加え拡散速度が小さく、薄肉材を熱処理しても芯材から皮材への拡散がほとんど生じないため安定して芯材と皮材の電位差を維持でき、耐食性を向上させる。このため芯材にCrを含有させるが、0.03%未満では、前記作用を十分に得ることができず、一方、0.5%を超えると、巨大な金属間化合物を形成することによる加工性の低下や、それに起因する耐食性の低下が起こる。特にMnを含有する場合、これらの問題が顕著になる。したがって、Crの含有量を0.03〜0.5%に定める。なお、同様の理由で下限を0.1%、上限を0.3%とするのが望ましい。
【0011】
Cu: 0.01〜0.05%
Cuは、Al合金の電位を貴にする作用があり芯材の耐食性を向上させるので含有させている。ただし、0.01%未満では前記作用が十分に得られない。またCuは拡散速度が大きく、0.05%を超えて含有すると熱処理によって容易に皮材に拡散するため皮材との電位差を確保できない。このためCuの含有量を0.01〜0.05%に定める。
【0012】
Si:0.05〜0.3%
Siは芯材の強度を高める。ただし、0.05%未満では、強度向上が十分ではなく、精製コストも上昇する。一方、0.3%を超えて含有すると、芯材まで腐食が進んだ際に耐すき間腐食性および芯材の耐食性が低下する。このため、Si含有量を0.05〜0.3%に定める。なお、同様の理由で下限を0.07%、上限を0.2%とするのが望ましい。
【0013】
Fe:0.2〜0.5%
Feは芯材の強度を高める。ただし、0.2%未満では、強度向上が十分ではなく、精製コストも上昇する。一方、0.5%を超えて含有すると、芯材まで腐食が進んだ際に耐すき間腐食性および芯材の耐食性が低下する。このため、Fe含有量を0.2〜0.5%に定める。なお、同様の理由で下限を0.25%、上限を0.45%とするのが望ましい。
【0014】
Mn:0.10〜1.5%
Mnは、芯材の電位を貴にする作用があることに加え、拡散速度が小さく薄肉材を熱処理しても芯材から皮材への拡散がほとんど生じないため安定して芯材と皮材の電位差を維持できる。このためMnを所望により含有させる。ただし、0.10%未満では、前記作用が十分に得られず、一方、1.5%を超えても電位を貴にする効果の増加は小さいばかりか、圧延加工性が阻害される。したがって、所望によりMnを含有させる場合、その含有量を0.10〜1.5%に定める。なお、同様の理由で下限を0.3%、上限を1.3%とするのが望ましい。また、芯材にCrが0.1%以上含まれる場合、加工性の低下、耐食性の低下を避けるため、Mn含有量を1.0%未満とするのが好ましい。
【0015】
<皮材>
Mg:0.1〜1.5%
Mgは、皮材の強度を高めるために含有させる。ただし、0.1%では、その作用が十分ではなく、一方、1.5%を超えると、クラッド性および加工性、耐すき間腐食性が低下する。したがって、Mgの含有量を0.1〜1.5%に定める。なお、同様の理由で下限を0.8%、上限を1.5%とするのが望ましい。
【0016】
Zn:0.005〜0.5%未満
Znは、皮材の電位を卑にする作用があり、芯材との電位差を確保するために含有させる。ただし、0.005%未満の含有では、該作用が十分に得られず芯材との電位差を確保できない。一方、Znは、拡散速度が大きく、0.5%以上含有すると熱処理によって容易に芯材へ拡散し、芯材との電位差が確保できない。また、0.5%以上含有する場合、皮材の腐食速度が大きくなるため、材料表面が黒色となりやすく食品容器として外観上問題となる。
【0017】
Cr:0.010%未満
Crは、芯材との電位差を保つことによって耐食性を向上させるために皮材側での含有量を規制する。すなわち、皮材Cr含有量が多くなると皮材の電位が貴になり、耐すき間腐食性が低下するので、0.010%未満に規制する。
【0018】
Cu:0.015%未満
Cuは材料強度を向上させる効果があるが、電位を貴にする作用があるため0.015%以上含有すると芯材との電位差が確保できなくなり耐すき間腐食性が低下する。なお、Cu含有量は強度を確保するため下限を0.001%、上限は0.010%とするのが望ましい。
【0019】
Si:0.03〜0.3%
Siは皮材の強度を高める。ただし、0.03%未満では、強度向上が十分ではなく、精製コストも上昇する。一方、0.3%を超えて含有すると、皮材が腐食しやすくなり耐すき間腐食性が低下する。このため、Si含有量を0.03〜0.3%に定める。なお、同様の理由で上限を0.2%未満とするのが望ましい。
【0020】
Fe:0.2〜0.5%
Feは皮材の強度を高める。ただし、0.2%未満では、強度向上が十分ではなく、精製コストも上昇する。一方、0.5%を超えて含有すると、皮材が腐食しやすくなり耐すき間腐食性が低下する。このため、Fe含有量を0.2〜0.5%に定める。なお、同様の理由で下限を0.25%、上限を0.45%とするのが望ましい。
【0021】
クラッド率:5〜15%
複合アルミニウム箔の強度と耐食性を両立させるため、皮材のクラッド率を定める。該クラッド率が5%未満であると、腐食代が少なく、耐すき間腐食性を確保できない。一方、皮材クラッド率が15%を超えると、腐食代が厚くなることから、腐食した後の材料が薄くなり強度を保てなくなる。このため、皮材のクラッド率を5〜15%に定める。
【0022】
熱処理260〜340℃ 5〜30時間
複合アルミニウム箔の製造に際しては、成形性を向上させるため熱処理を行う。ただし、熱処理温度が350℃より高く加熱時間が30時間よりも長い場合、コイルにブロッキングが発生する可能性がある。一方、熱処理温度が温度が260℃よりも低い場合、材料の再結晶が全く起こらないか部分的な再結晶となるため加工性に影響を及ぼす。加熱時間が5時間よりも短い場合、コイル全体が十分軟化されず、加工性に影響を及ぼす。このため、クラッド後の熱処理では、260〜340℃ 5〜30時間が望ましい。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明のしわ付き箔容器用アルミニウム箔によれば、質量%で、Mg:0.5〜2.0%、Ti:0.007〜0.5%、Cr:0.03〜0.5%、Cu:0.01〜0.05% Si:0.05〜0.3%、Fe:0.2〜0.5%を含有し、さらに所望によりMn:0.10〜1.5%を含有し、残りがアルミニウムおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金芯材の片面または両面に、Mg:0.1〜1.5%、Zn:0.005〜0.2%未満、Cr:0.010%未満、Cu:0.015%未満、Si:0.03〜0.3%、Fe:0.2〜0.5%を含有し、残りがアルミニウムおよび不可避不純物からなる皮材を5〜15%の厚さで被覆した複合アルミニウム箔で構成されているので、すき間腐食が効果的に防止されるとともに、変色の発生も確実に防止されるしわ付き箔容器が得られる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、主として食材、食品を収容する容器として使用される物であり、強度を高める等の目的でしわ付きとされている。この容器は、上記で規定される成分を有する芯材と皮材とを有する複合アルミニウム箔で構成されており、該複合アルミニウム箔は、常法により製造することができる。
【0025】
容器用アルミニウム箔の材料には、前述した組成を有する芯材と皮材とが用いられる。これらの材料は、一般には、鋳塊の溶製、圧延によって得ることができるが、連続鋳造圧延によって製造されるものであってもよい。板材は、その後、芯材の片面または両面に皮材をクラッドし、さらにこれを箔とする。クラッド方法としては、芯材と皮材とを重ねた状態で熱間圧延する方法が一般的であるが、本発明としてはその方法が限定されるものではない。クラッドに際してのクラッド率は皮材が5〜15%の厚さとなるように定める。このクラッド材は、さらに冷間圧延、箔圧延によって所望の厚さの複合箔とする。その間には必要に応じて熱処理を施すことができる。しわ付き箔容器に使用されるアルミニウム箔は、通常は、60〜120μmの厚さのものが用いられるが、本発明としてはアルミニウム箔の厚さが特定のものに限定されるものではない。
【0026】
上記複合アルミニウム箔は、上記最終板厚にした後、好適には260〜330℃で5〜30時間の熱処理を行う。該熱処理によって成形性を高めることができる。
上記アルミニウム箔は、さらに容器形状への成形過程に供される。通常、成形はプレス等によって行われるが、本発明としては成形方法が特に限定されるものではなく、また、本発明としてはしわ付きであることの他、特に容器形状が限定されるものでもない。
【実施例1】
【0027】
(1)表1に示す組成(残部Al及び不可避不純物)を有する芯材用合金および表2に示す組成(残部Al及び不可避不純物)を有する皮材用合金を溶解し、半連続鋳造により鋳塊を製造し続いて面削行った。皮材用合金については通常の熱間圧延により、芯材とクラッドした際に所定の板厚となる厚さに調整した。上記芯材と皮材を表3に示す組み合わせおよびクラッド率により熱間によりクラッド圧延し、適宜中間焼鈍および冷間圧延を行って0.090mmのクラッド材を作製した。そして表3に示す所定の熱処理を行った。
なお、供試材No.29は、本発明の範囲内の組成を有しているが、製造に際し、適切でない条件で熱処理を行った参考例である。
【0028】
(2)得られた複合アルミニウム箔に対してブランキング、ドローイング、ワイプダウン、カーリングの成形工程を複合ダイにて行い、鍔を有するしわ付き容器を作製した。
(3)上記にて作製したしわ付き箔容器について、該容器内にしょうゆ濃度20%の水溶液を入れ、40℃で14日間保持したあと、容器のすき間腐食状態および変色の有無を観察した。その結果、本発明容器は優れた耐すき間腐食性を有し、変色も認められなかった。一方、比較材はいずれも耐すき間腐食性が劣っており、一部の供試材では、黒色を呈す変色が認められた。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Mg:0.5〜2.0%、Ti:0.007〜0.5%、Cr:0.03〜0.5%、Cu:0.01〜0.05%、Si:0.05〜0.3%、Fe:0.2〜0.5%を含有し、残りがアルミニウムおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金芯材の片面または両面に、Mg:0.1〜1.5% Zn:0.005〜0.2%未満 Cr:0.010%未満、Cu:0.015%未満 Si:0.03〜0.3%、Fe:0.2〜0.5%を含有し、残りがアルミニウムおよび不可避不純物からなる皮材を5〜15%の厚さで被覆した複合アルミニウム箔で構成されていることを特徴とするしわ付き箔容器用アルミニウム箔。
【請求項2】
質量%で、Mg:0.5〜2.0%、Ti:0.007〜0.5%、Cr:0.03〜0.5%、Cu:0.01〜0.05% Si:0.05〜0.3%、Fe:0.2〜0.5%、Mn:0.10〜1.5%を含有し、残りがアルミニウムおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金芯材の片面または両面に、Mg:0.1〜1.5%、Zn:0.005〜0.2%未満、Cr:0.010%未満、Cu:0.015%未満、Si:0.03〜0.3%、Fe:0.2〜0.5%を含有し、残りがアルミニウムおよび不可避不純物からなる皮材を5〜15%の厚さで被覆した複合アルミニウム箔で構成されていることを特徴とするしわ付き箔容器用アルミニウム箔。

【公開番号】特開2008−156715(P2008−156715A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347768(P2006−347768)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】