説明

はんだフラックスの評価方法及びはんだフラックス

【課題】はんだペーストのリフロー時における濡れ性や、ボイドの発生を簡易に評価する方法を提供するとともに、濡れ性及び接合強度に優れたはんだペースト用のはんだフラックスを提供する
【解決手段】はんだフラックスを加熱するとともに、作製するはんだペーストの融点の直前からその融点を含む温度領域におけるイオン伝導率を測定してはんだフラックスの活性度を評価することにより、濡れ性及び接合強度に優れたはんだペースト用のはんだフラックスを選定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだフラックスの評価方法及びはんだフラックスに関する。更に詳しくは、はんだペーストのリフロー時におけるボイドの発生を評価する方法及び接合強度の優れたはんだペースト用のはんだフラックスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
はんだ合金粉末とフラックスとを練り合わせたはんだペーストは、プリント基板に塗布又は印刷されて、その上に電子部品を搭載した後、加熱することで電子部品をプリント基板に実装することに用いられている。
このような電子部品接合に用いられるはんだペーストにおいては、はんだペーストのリフロー後(溶融後)にボイドが発生すると、はんだと電子部品の電極との間の接合強度が低下し、長期信頼性に影響を与えるため、ボイドの低減が求められており、はんだフラックスの改善が行われてきた。
【0003】
例えば、特許文献1では、TG法による測定において減量率が15質量%になる温度が、はんだの溶融ピーク温度よりも5℃以上高温の溶剤を含有するはんだフラックスを用いて、ボイドの低減を試みている。
【0004】
また、近年では環境保全の面からPbの使用が規制されており、Pbを全く含まない鉛フリーのはんだ合金粉末の使用が進められており、Snを主成分としたはんだ合金粉末が採用されている。Snを主成分としたはんだ合金粉末は、従来のSn−Pb系はんだ合金粉末よりも濡れ性が悪く、融点が高い(例えば217℃)ため、従来のPbを含有するはんだ合金粉末に使用されているフラックスでは、鉛フリーのはんだ合金粉末に対応し難いものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再表2004−108345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のTG法による溶剤の減量率は、溶剤そのものの熱分解によるボイド発生を評価する場合には有効である。しかしながら、はんだ合金粉末と活性剤の反応ガスによるボイド発生については考慮されていない。
また、はんだ合金粉末に用いるフラックスを評価する場合、実際にはんだ合金粉末とフラックスとを混ぜ合わせてはんだペーストを作製し、リフロー時に溶融できるか否か、あるいはボイドの発生による接合強度の低下がみられるか否かを試してみる以外に方法がないため、効率的ではなかった。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、はんだペーストのリフロー時における濡れ性や、ボイドの発生を簡易に評価する方法を提供するとともに、濡れ性及び接合強度に優れたはんだペースト用のはんだフラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のはんだフラックスの評価方法は、はんだフラックスを用いて作製するはんだペーストの融点の直前からその融点を含む温度領域におけるイオン伝導率を測定することを特徴とする。
【0009】
はんだフラックス中の活性剤は、特定の温度になるとイオン解離し、はんだ表面および電極表面の酸化物と反応して、反応ガスを発生させる。はんだフラックス中の活性剤の活性力は、はんだフラックス中の活性剤のイオン解離の様子、つまりイオン伝導率を評価することで明らかにすることができる。
【0010】
はんだフラックス中の活性剤の活性力が弱いはんだフラックスを用いた場合、はんだ表面や電極表面の酸化膜除去が十分に行えずに濡れ不足が発生し、ボイドが増加する。また、はんだの融点まで活性剤の活性力が持続的に続くようなはんだフラックスにおいても、はんだの融点を迎えても活性剤自身の分解が持続的に続いて、反応ガスを発生し続けるために、ボイドが増大する。
そのため、作製するはんだペーストについて、予め、配合されるはんだ粉末合金の金属成分により決まる融点付近の特定の温度領域におけるフラックスのイオン伝導率を測定することにより、これらの温度領域におけるフラックスの活性度を得ることができるので、そのイオン伝導率からリフロー時の濡れ性とボイドの発生状況とを指定することができ、はんだペーストの用途に応じたフラックスを選定することができる。
【0011】
また、本発明のはんだフラックスの評価方法において、前記融点を含む温度領域に加えて、前記融点より低い温度領域のイオン伝導率を測定するとよい。
このように、二つの異なる温度領域のイオン伝導率を測定することにより、はんだ表面の酸化膜を除去して良好な濡れ性を有するとともに、ボイドの発生を抑制して接合強度の低下を防ぐことのできるはんだフラックスを選定することができる。
【0012】
また、本発明のはんだフラックスは、鉛フリーはんだペースト用のはんだフラックスであって、前記融点より低い温度領域である170〜200℃でのイオン伝導率の最大値が2.0mS/m以上であり、且つ前記融点を含む温度領域である217〜250℃でのイオン伝導率が1.0mS/m以下であることを特徴とする。
このようなはんだフラックスは、はんだの融点より低い温度領域(170〜200℃)で、フラックスがはんだ表面の酸化膜を除去できるだけの十分な活性度を持つので、はんだ溶解時において良好な濡れ性を持つことができる。また、はんだの融点前までは、フラックスの活性状態が持続的に続き酸化膜を除去して分解ガスを発生し続けるが、融点の直前から到達後の融点を含む温度領域(217〜250℃)においてはフラックスの活性度が抑えられるので、反応ガスの発生を抑えてボイドを低減でき、はんだの接合強度の低下を防ぐことができる。
【0013】
そして、本発明のはんだペーストは、鉛フリーはんだペーストであって、前記はんだフラックスとSnを95質量%以上含みPbを含まないはんだ合金粉末とを混合し、ペースト化されるとよい。
Snを95質量%以上含みPbを含まない鉛フリーはんだ合金粉末に対しては、活性の高いはんだフラックスが必要であり、保管時の粘度上昇を抑えつつ、リフロー時の良好な濡れ性を得ることが困難であった。これに対し、前記はんだフラックスを用いたこのはんだペーストは、鉛フリーはんだ合金粉末を含んだものでありながら、はんだの融点より低い温度領域においては、はんだ表面の酸化膜を除去して良好な濡れ性を有するとともに、はんだの融点直前から融点到達後の融点を含む温度領域においては、フラックスからの反応ガスの発生を抑えてボイドを低減し、接合強度の低下を防ぐことができる。
なお、Pbを含まない鉛フリーはんだ合金粉末とは、はんだ合金粉末中のPb含有量が1000ppm未満であることを示す。
【0014】
本発明の実装基板の製造方法は、前記はんだペーストを用いて電子部品を実装することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、はんだペーストの融点付近の温度領域におけるはんだフラックスのイオン伝導率を測定することにより、これらの温度領域におけるはんだフラックスの活性度を得ることができるので、はんだペーストを作製する前に、そのイオン伝導率から、リフロー時の濡れ性とボイドの発生状況とを評価することができる。これにより、はんだの融点より低い温度領域においては、はんだ表面の酸化膜を除去してはんだ溶融時において良好な濡れ性を有するとともに、融点直前から融点到達後の融点を含む温度領域においては、フラックスからの分解ガスの発生を抑えてボイドを低減し、はんだの接合強度の低下を防ぐことのできるはんだフラックスを選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】イオン伝導率の測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態のはんだフラックスの評価方法を、図面を参照しながら説明する。
本実施形態のはんだフラックスの評価方法は、フラックスを加熱するとともに、作製するはんだペーストの融点付近の二つの異なる温度領域についてイオン伝導率を測定し、フラックスの温度とイオン伝導率との関係から、はんだペーストの用途に応じたフラックスを選定する方法である。
【0018】
フラックスに含まれる有機酸、ハロゲン化合物等の酸化膜を除去する働きのある活性剤は、イオンに分解されることにより、これらのイオンがはんだ表面および電子部品の電極表面の酸化膜と反応して除去することによってはんだ付け性を向上させる。
フラックス中の活性剤の活性力は、活性剤のイオン解離の様子、つまりイオン伝導率を評価することで明らかにすることができる。
リフロー時に、はんだフラックス中の活性剤の活性力が弱いはんだフラックスを用いた場合、はんだ表面や電極表面の酸化膜の除去が十分に行えずに濡れ不足が発生するとともに、反応ガスによるボイドが増加する。また、はんだの融点を迎えても活性剤自身の分解が持続的に続くフラックスを用いた場合、反応ガスを発生し続けるために、ボイドが増大してしまう。
【0019】
そこで、この評価方法においては、はんだの融点より低い温度領域(170〜200℃)及び融点直前から融点到達後の融点を含む温度領域(217〜250℃)の異なる二つの温度領域を含む温度領域におけるフラックスのイオン伝導率を測定することにより、フラックスの活性度を測定し、はんだペーストに適したフラックスを選定する。
【0020】
フラックスのイオン伝導率は、例えば、図1に示すイオン伝導率測定装置100によって測定することができる。この測定装置100では、スターラー1及びマントルヒーター2を利用して評価対象のフラックスFを170℃〜250℃に加熱しながら、連続的にイオン伝導率を測定する。
スターラー1には、マントルヒーター2で囲まれたオイルバス3が載置されており、このオイルバス3内にはシリコーンオイル4が貯留されるとともに攪拌子5aが浸漬され、シリコーンオイル4は均一に加熱された状態とされている。
フラックスFは試験管6に収容され、この試験管6内のフラックスFに熱電対7及び電気伝導率計8を挿入した状態で加熱される。この際、熱電対7により、フラックスFの温度を連続的に測定するとともに、電気伝導率計8により、フラックスFのイオン伝導率を連続的に測定することができる。
なお、フラックスFは、試験管6内の攪拌子5bによって攪拌され、均一に加熱される。
【0021】
次に、フラックスのイオン伝導率から、はんだペーストに適したフラックスを評価する方法について説明する。
フラックスのイオン伝導率が低い状態は、フラックス中の活性剤のイオン解離が抑制されたフラックスの活性度が低い状態であり、他の成分との反応が抑制される。一方、イオン伝導率が高い状態では、フラックス中の活性剤が活発にイオン解離されフラックスの活性度が高い状態であり、他の成分との反応が促進される。
はんだペーストに用いられるフラックスに関しては、はんだペーストのリフロー時にフラックス中の活性剤のイオン解離を促進し、はんだ粉末表面の酸化膜を除去して良好な濡れ性を持たせることが求められるが、一方で、反応ガスの発生を抑制してボイドを低減させ、はんだの接合強度の低下を防ぐことが求められる。
そこで、このフラックス評価方法においては、はんだの融点付近のフラックスの活性度をみることにより、はんだの濡れ性及び接合性の両方を評価して、はんだペーストに適したフラックスを判定する。
【0022】
次に、はんだペースト用フラックスについて説明する。
はんだペーストに適したフラックスは、リフロー時において、はんだの融点より低い温度領域ではイオンが分離された状態となりイオン伝導率が高く、はんだの融点直前から融点到達後の融点を含む温度領域では、イオン伝導率が低いものが好ましい。特に、鉛フリーはんだペーストに適したフラックスは、融点より低い温度領域(170〜200℃)のフラックスのイオン伝導率が2.0mS/m以上であり、且つ融点直前から融点到達後の融点を含む温度領域(217〜250℃)のフラックスのイオン伝導率が1.0mS/m以下のものが好ましい。
このようなフラックスは、はんだペーストのリフロー時に、融点より低い温度領域でフラックスがはんだ粉末表面の酸化膜を除去できるだけの十分な活性度を持つので、はんだの溶融時(融点)に良好な濡れ性を持たせることができる。また、融点直前から融点到達後の融点を含む温度領域では、フラックスの活性が抑えられ、反応ガスの発生を抑制するので、ボイドを低減することができ、これにより、はんだの接合強度の低下を防ぐことができる。
【0023】
以上説明したように、本発明のはんだフラックスの評価方法によれば、予め、はんだフラックスのイオン伝導率を測定することにより、はんだの融点付近の温度領域におけるフラックスの活性度を得ることができるので、はんだの融点より低い温度領域ではんだ表面の酸化膜を除去して良好な濡れ性を有するとともに、融点直前から融点到達後の融点を含む温度領域ではフラックスからの分解ガスの発生を抑えてボイドを低減し、はんだの接合強度の低下を防ぐことのできるはんだフラックスを選定することができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明のはんだフラックスに係る実施例1〜3及び比較例1〜3について説明する。
(はんだフラックスの作製)
実施例1〜3及び比較例1〜3のはんだフラックスは、表1に示す配合表の配合率(質量%)通りに作製した。
【0025】
【表1】

【0026】
(イオン伝導率の測定)
図1に示す測定装置100を用いて、各フラックスのイオン伝導率を測定した。作製した各フラックスを30mlずつ取り出して試験管6に入れ、この試験管6内のフラックスに熱電対7および電気伝導率計8を挿入する。次に、この試験管6を300℃に加熱したオイルバス3に入れ、170〜250℃まで加熱し、その時のイオン伝導率を連続的に測定した。その時の170〜200℃の結果と217〜250℃の結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2に示すとおり、実施例1〜3のフラックスは、170〜200℃のフラックスのイオン伝導率の最大値が2.0mS/m以上であり、且つ217〜240℃のフラックスのイオン伝導率が1.0mS/m以下の鉛フリーはんだペーストに適したフラックスである。一方、比較例2,3のフラックスは、170〜200℃のイオン伝導率の最大値が2.0mS/m未満のものであり、比較例1のフラックスは、217〜240℃のイオン伝導率が1.0mS/mを超えるものである。
【0029】
(はんだペーストの作製)
次に、これらのフラックスに対し、Sn−3.0質量%Ag−0.5質量%Cu組成を持つ平均粒径8.0μmはんだ合金粉末(融点:219℃)を混合し、はんだペーストを作製した。混合比は、はんだ粉末88質量%、フラックス12質量%である。
【0030】
(ボイド測定)
作製したはんだペーストをバンプ形成用基板に印刷し(マスク厚30μm、マスク開口径75μm)、窒素中にて最大温度240℃にてリフローを実施した。リフロー後に形成されたはんだバンプを透過X線顕微鏡にて観測し、はんだバンプ中に存在するボイドを測定した。そして、はんだバンプの直径とはんだバンプ中に存在するボイドの直径とを比較し、このはんだバンプの直径に対するボイドの直径の比率に応じて評価した。この際、はんだバンプ中に複数のボイドが存在する場合には、ボイドの直径の総和とはんだバンプの直径との比率を求めて評価した。これらの結果を表2に示す。
「○」はボイド直径がはんだバンプ直径の20%未満の場合で、ボイドの少ない良好なはんだ接合部が得られたことを示している。また、「△」は20以上30未満%の場合、「×」は30%以上の場合であり、ボイドの占める値が大きくなるほど、はんだの接合性が悪いことを示している。
【0031】
【表3】

【0032】
本発明によれば、170〜200℃でのフラックスのイオン伝導率の最大値が2.0mS/m以上であり、且つ217〜250℃でのフラックスのイオン伝導率が1.0mS/m以下のフラックスを用いることで、ボイドが抑制された良好なはんだ接合部を得ることができる。
【0033】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 スターラー
2 マントルヒーター
3 オイルバス
4 シリコーンオイル
5a,5b 攪拌子
6 試験管
7 熱電対
8 電気伝導率計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
はんだフラックスを用いて作製するはんだペーストの融点の直前からその融点を含む温度領域におけるイオン伝導率を測定することを特徴とするはんだフラックスの評価方法。
【請求項2】
前記融点を含む温度領域に加えて、前記融点より低い温度領域の二つの温度領域におけるイオン伝導率を測定することを特徴とする請求項1記載のはんだフラックスの評価方法。
【請求項3】
鉛フリーはんだペースト用のはんだフラックスであって、前記融点より低い温度領域である170〜200℃での前記はんだフラックスのイオン伝導率の最大値が2.0mS/m以上であり、且つ前記融点を含む温度領域である217〜250℃での前記はんだフラックスのイオン伝導率が1.0mS/m以下であることを特徴とするはんだフラックス。
【請求項4】
請求項3記載の前記はんだフラックスとSnを95質量%以上含みPbを含まないはんだ合金粉末とを混合し、ペースト化したことを特徴とする鉛フリーはんだペースト。
【請求項5】
請求項4記載の前記はんだペーストを用いて電子部品を実装することを特徴とする実装基板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−47681(P2012−47681A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192144(P2010−192144)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】