説明

はんだ付け用フラックス

【課題】ぬれ性が良好なフラックスと鉛フリーはんだ粉末を用いて、常温で長期保存可能で、高密度回路の微細パターンの印刷性が良好なソルダペーストを実現する。
【解決手段】フラックス中の活性剤の少なくとも一部を、熱可塑性物質で被覆した被覆粒子の形態で使用する。活性剤の被覆粒子は、活性剤のエマルションを多孔質体膜(例、多孔質ガラス膜)に通すことによって、平均粒子径が0.1〜10μmの範囲であって、かつ10%径が50%径の1/2以上で、かつ90%径が50%径の1.5倍以下である積算体積粒度分布する単分散に近い小粒子とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器のはんだ付けに有用なはんだ付け用フラックス、特に鉛フリーはんだ合金に使用するのに適したはんだ付け用フラックスに関する。本発明はまた、このフラックスを用いたソルダペーストにも関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器のプリント基板や電子部品は一般にはんだ付けにより組み立てられる。しかし、これらが製造された後、はんだ付けまでの間の保管中に、表面が空気に触れて酸化するため、プリント基板を例にとると、はんだを単にプリント基板に接触させて加熱しただけでは、はんだによる接合は起こらない。はんだ接合を行うには、はんだとプリント基板の表面に存在する酸化物などの異物を除去して、プリント基板の表面が溶融したはんだでぬれやすくする働きをもつ、フラックスという補助材料が必要である。
【0003】
はんだ付け用フラックスは、一般に主剤、活性剤および主剤の希釈剤である溶剤から構成され、必要に応じて、フラックスは粘性を向上させるチキソ剤などの成分をさらに含有しうる。活性剤は、酸化物や金属それ自体と反応してはんだぬれ性を改善する成分であり、フラックスの性能に大きな影響を及ぼす。活性剤としては、フラックスの主剤に応じて、無機酸、有機酸、有機アミン、有機ハロゲン化物、有機アミンの無機酸または有機酸塩、特にハロゲン化水素酸塩、などが使用される。
【0004】
フラックスは、主剤がロジンまたは合成樹脂などの水に溶けない樹脂である樹脂系フラックスと、主剤がポリエチレングリコールなどの水溶性樹脂である水溶性フラックスと、主剤が塩酸や塩化亜鉛などの無機系材料である無機フラックスとに大別される。無機フラックスと水溶性フラックスははんだ付け後に、フラックス残さを除去するための洗浄が必要になるが、非水溶性の樹脂系フラックスは無洗浄で使用できることが多い。そのためプリント基板のはんだ付けには主に樹脂系フラックス、特に後述するロジン系フラックスが使用されている。
【0005】
電子部品のプリント基板への搭載は、小型化、高密度化、高性能化、低コスト化が可能な表面実装技術(SMT)により行われることが多くなってきた。SMTでは、はんだ粉末をはんだ付け用フラックスと均一に混和したソルダペーストを用いて、リフローソルダリング法によりはんだ付けが行われる。リフローソルダリング法では、一般に、プリント基板にソルダペーストを印刷(所定パターンの開口を有するメタルマスクを用いて)または吐出(ディスペンサと呼ばれるシリンジを用いて)により供給し、その上にチップ型の電子部品をソルダペーストの粘着力を利用して仮固定し、リフロー炉でプリント基板ごと加熱してはんだを溶融させて部品のプリント基板への固定と接続を行う。
【0006】
最近では特に電子機器の小型化が進み、回路パターンが高密度化し、配線間隔が狭くなっている。それに伴い、SMT用のソルダペーストの製造に使われるはんだ粉末は、従来は直径が60〜80μm前後であったものが、現在は10〜30μmと微細化している。
【0007】
ソルダペーストに使われるフラックスは、主に、主剤がロジンまたは変性ロジンもしくは重合ロジン、水添ロジンのようなロジン誘導体であるロジン系フラックスである。ロジン(松脂)は、アビエチン酸、d-ピマール酸などのテルペン系有機酸の混合物であり、はんだ付け温度において酸化物と反応し、それを金属に還元することによりフラックス作用を示し、はんだ付け後に残留する残さは、常温で実際上は非腐食性、非吸湿性および絶縁性であるため、プリント基板等のはんだ付けに使用した場合も、無洗浄での使用が可能であるという優れた特性を持っている。
【0008】
電子機器のプリント基板や電子部品のはんだ付けでは、従来は、融点が低く、はんだのぬれ性が良いという理由から、古来より使用されてきたはんだであるSn−Pb系合金が多く使われてきた。しかし、近年では、廃棄された電子機器が鉛中毒の原因となることが懸念され、鉛を全く含有しない鉛フリーはんだが電子機器のはんだ付けに推奨されるようになってきた。
【0009】
鉛フリーはんだは、人体に無害な元素から構成した合金とすることが求められる。例えば、溶融温度を下げる効果があっても、有害なCdは使用できない。そのため鉛フリーはんだとしては、Snを主成分とし、Ag、Cu、Bi、In、Sb、Zn、等の1種または2種以上の合金元素を添加したSn基合金が用いられる。
【0010】
しかし、鉛フリーはんだは、反応性の高いSnを多量に含有するため、化学変化を起こしやすい。その結果、ソルダペーストや、やに入りはんだのように、はんだとフラックスとを一体化させたはんだ製品では、はんだとフラックスが常時接触しているため、保管中にはんだがフラックスの活性剤と反応することによる不具合が目立つようになってきた。例えば、ソルダペーストでは反応により粘度が上昇して印刷しにくくなったり、固まって全く吐出できなくなったりする。また、やに入りはんだでは、はんだ付け性が低下する
そのため、鉛フリーはんだ用のフラックスは、活性剤の種類が反応性の低いものに限定されたり、活性剤の量が限定されることになり、十分なフラックス作用を発揮することができない。特にソルダペーストは、はんだを微細な粉末状で使用するため、フラックスと接触するはんだの表面積が非常に大きくなる。最近ではソルダペースト中のはんだ粉末がますます微細化(表面積はますます増大)しているので、はんだと活性剤との反応防止は重要である。
【0011】
さらに、鉛フリーはんだは、従来使用されてきたSn−Pbはんだに比較して、ぬれ性が悪い。はんだの広がり率で見ると、Sn−Pbはんだが90%以上であるのに対して、鉛フリーはんだの広がり率は80%前後で10%以上も低い。
【0012】
以上の理由から、特に鉛フリーはんだを用いたソルダペーストでは、フラックス中の活性剤との反応性が高く、はんだのぬれ性が悪い鉛フリーはんだに対しても、ぬれ性が良く、活性剤とはんだ粉末との反応による粘度上昇で印刷ができなくなったり、ディスペンサー中で固まって全く吐出できなくなったりすることのない、はんだ付け用フラックスが求められていた。
【0013】
ソルダペーストの保管中の反応を防止する方法として、下記特許文献1〜3に、フラックスまたはその成分を熱可塑性物質で被覆することが提案されている。具体的には、特許文献1には、フラックス全体を熱可塑性樹脂で被覆したソルダペーストが開示されている。特許文献2には、熱可塑性樹脂で被覆したハロゲン捕捉剤を含有するフラックスとそれを用いたクリームはんだ(ソルダペースト)が開示されている。特許文献3には、ハロゲン捕捉剤として作用する無機イオン交換体と活性剤の一方または両方を熱可塑性樹脂で被覆してマイクロカプセル化したフラックスと、それを用いたクリームはんだが開示されている。
【0014】
しかし、これらの特許文献は、単にフラックス全体またはその成分を熱可塑性樹脂で被覆することとその効果を示しているにすぎず、はんだとしては共晶はんだしか想定していない。特許文献3の実施例において、活性剤を被覆した被覆粒子中の活性剤の含有量(いずれも50質量%より多い)が示されているのを除けば、被覆粒子中の熱可塑性樹脂の割合や被覆により形成された粒子の粒径などは示されていない。さらに、粒子を被覆する際に必ず問題となる、粒子の漏洩対策や粒子同士の凝集や凝固を防止する手段についても何ら記載がない。さらに、それら被覆粒子をフラックスに添加した後の被覆粒子の漏洩(ソルダペーストの連続粘度測定によりわかる)も確認されていない。また、これらの特許文献はいずれも共晶はんだを念頭に置いたものであり、活性剤との反応性がより高い鉛フリーはんだについての開示はない。
【特許文献1】特開昭52−59052号公報
【特許文献2】特開平6−238481号公報
【特許文献3】特開平7−178590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
鉛フリーはんだのソルダペーストでは、上述したように、保管中にフラックスの活性剤成分がはんだと反応することに起因する粘度上昇により使用できなくなるという問題を抱えており、冷蔵保存でも3カ月程度の短期間しか保存できないという状況にある。また、常温での連続使用時間(連続印刷または吐出時間)も24時間より短く、装置へのソルダペーストの装填頻度が高くなって作業性を悪化させている例もある。これらの問題は、高密度回路に必要な回路パターンの微細化に対応するためペースト中のはんだ粉末が微細になるほど、より顕著となる。
【0016】
本発明は、鉛フリーはんだのソルダペーストにおいて特に問題となっていた、保管中のはんだとフラックスとの反応による粘度上昇が防止され、ソルダペーストの使用寿命や連続使用時間の延長が可能である上、小型化が進んだ高密度回路の微細回路パターンに使用した場合にも印刷性に優れたソルダペーストを形成することができ、鉛フリーはんだでも良好なぬれ性を示す、はんだ付け用フラックスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記特許文献2および3には、鉛を含有する共晶はんだのソルダペーストについて、活性剤から放出されるハロゲンを捕捉するハロゲン捕捉剤と活性剤との保管中の反応を防止するために、ハロゲン捕捉剤または活性剤を熱可塑性物質で被覆することが開示されている。しかし、熱可塑性物質による具体的な被覆方法や得られた被覆粒子の粒径は開示されていない。また、はんだが比較的反応性の低い共晶はんだであるにもかかわらず、冷蔵保存で50日の貯蔵寿命しか調べていない。
【0018】
共晶はんだよりずっと反応性が高く、従って、貯蔵寿命の短い鉛フリーはんだのソルダペーストについて、その貯蔵寿命を延長するために熱可塑性物質による被覆を利用することは、これまで試みられていない。
【0019】
本発明者らは、鉛フリーはんだのソルダペーストにおいて、フラックス中の活性剤を熱可塑性物質で被覆し、形成された被覆粒子の粒径を小さく揃えることにより、高密度回路の微細パターンでも印刷性の低下やシリンジの吐出不可が起こらない、ぬれ性の良好なソルダペーストが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
本発明は、広義には、主剤樹脂、活性剤、および溶剤を含有するはんだ付け用フラックスであって、活性剤の少なくとも一部が、はんだ付け温度で軟化する熱可塑性物質で被覆された被覆粒子として存在することを特徴とする、はんだ付け用フラックスである。
【0021】
好適態様において、本発明のはんだ付け用フラックスは、下記の1または2以上の要件をさらに満たす:
・前記被覆粒子の平均粒子径(=積算体積粒度分布における50%径)が0.1〜10μmの範囲内である、
・前記被覆粒子が、10%径が50%径の1/2以上であって、かつ90%径が50%径の1.5倍以下である積算体積粒度分布を有する、
・前記被覆粒子中の活性剤の含有量が1〜50質量%である、
・前記活性剤が、有機アミンのハロゲン化水素酸塩、有機ハロゲン化物、有機酸、及び有機アミンから選ばれた1種または2種以上からなる、
・前記被覆粒子が、熱可塑性物質またはその前駆体と活性剤とを含有するエマルションを多孔質体の膜を通過させる工程を経て得られたものである、
・前記主剤樹脂がロジンまたはその誘導体から選ばれた1種または2種以上からなる。
【0022】
本発明のはんだ付け用フラックスは、活性が高い鉛フリーはんだに対して使用するのに適しているが、共晶はんだに対しても使用できる。また、本発明のフラックスは、やに入りはんだやソルダペーストのように、フラックスが常時はんだと接触している形態で使用するのに特に適しており、中でも、はんだが微細な粉末状であって、はんだとフラックスとの接触面積が非常に大きくなるソルダペースト用フラックスとして好適である。
【0023】
本発明によれば、はんだ粉末を上記のはんだ付け用フラックスと混合してなるソルダペーストもまた提供される。好ましくは、前記はんだ粉末が鉛フリーはんだ粉末であり、および/または前記被覆粒子の平均粒子径が前記はんだ粉末の平均粒子径の0.225倍以下である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、活性の高い鉛フリーはんだをソルダペースト、やに入りはんだ等の常時フラックスと接触する形態で使用した場合に見られた、保管中の鉛フリーはんだとフラックス中の活性剤との反応による不具合(ソルダペーストでは、ソルダペーストの粘度が上昇して印刷や吐出が困難または不可能になる、やに入りはんだでは、はんだ付け性が悪化する)を確実に防止することができる。それにより、従来は冷蔵保存でも3カ月程度しか保存できなかった微細な鉛フリーはんだ粉末を用いたソルダペーストを、常温で長期保存することが可能となり、連続使用(印刷または吐出)時間が少なくとも2〜3倍以上に大幅に延長される。
【0025】
また、鉛フリーはんだとの反応を懸念して、活性の弱い活性剤を使用する必要がなくなるため、良好なはんだぬれ性を確保することができ、印刷性とぬれ性が共に良好なソルダペーストを得ることが可能となる。
【0026】
さらに、好適態様において活性剤を熱可塑性物質で被覆した被覆粒子の粒径が比較的均一に揃っていると、小型化が進んだ高密度回路の微細パターンに対しても、印刷性の低下やシリンジでの吐出量の不安定化が避けられる。その結果、従来は実用上は困難であった、鉛フリーはんだのソルダペーストを用いた微細パターンの形成を確実に実施することが可能となる。
【0027】
ここでいう印刷性とは、リフローはんだ付けを行う際にソルダペーストをリフロー炉で加熱する前までの性能のことである。フラックス中に大きな被覆粒子が混在していると、ソルダペーストの攪拌段階で粘度を不安定にし、印刷時にはその粒子がスキージに引きずられて移動することによって印刷後の量や形状を乱し、時にはメタルマスクが目詰まりすることもある。こういった印刷性の低下が、リフロー後に、はんだ不足、未はんだ、ハンダボールの多発というはんだ付け不具合を引き起こす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
一般にはんだ付け用フラックスは、主剤樹脂、活性剤、および溶剤を含有し、場合により、粘性改善用のチキソ剤といった他の添加剤をさらに含有する。本発明のはんだ付け用フラックスは、活性剤が熱可塑性物質で被覆された被覆粒子である点を除いて、他の成分は従来のはんだ付け用フラックスと同様でよい。
【0029】
はんだ付け用フラックスは、金属表面に存在する酸化物などの異物を可溶可融性の化合物に変化させて(一般に還元により)取り除き、清浄になった金属面を被覆して再酸化を防止し、溶融したはんだの表面張力を低下させて、母材上でのぬれ性と流動性を改善する、といった作用を示す。これらの作用は主に主剤樹脂と活性剤により担われる。活性剤が酸化物などの異物と反応してはんだのぬれ性を向上させ、主剤樹脂は金属表面を被覆して、再酸化を防止する。
【0030】
主剤樹脂は、上記作用を果たすことができる限り、水溶性樹脂と非水溶性樹脂のいずれでもよいが、好ましくは非水溶性樹脂である。中でも、主剤樹脂が、ロジンならびに変性ロジン、重合ロジン、水添ロジンのようなロジン誘導体から選ばれた1種以上である、ロジン系フラックスに対して本発明を適用することが好ましい。
【0031】
溶剤は、主剤樹脂を溶解または懸濁させることができる任意のものでよい。主剤樹脂がロジンおよび/またはロジン誘導体である場合、溶剤としては、1価もしくは多価アルコール(グリコール等)、グリコールエーテル類などが使用できる。好ましい溶剤の具体例をいくつか例示すると、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチルヘキサンジオール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテルなどであるが、これら以外にも多くの溶剤を使用できる。
【0032】
フラックスの粘性改善に使用できるチキソ剤としては、従来から使用されているヒマシ油、アミド類などが使用できる。
活性剤も、従来のはんだ付け用フラックスに使用されているものを使用することができる。活性剤の例としては、アミンのハロゲン化水素酸塩(例、エチルアミン塩酸塩、エチルアミン臭化水素酸塩、ジフェニルグアニジン塩酸塩、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、ジエチルアニリン塩酸塩、ジエチルアニリン臭化水素酸塩など)、有機ハロゲン化合物(例、塩化パラフィン、テトラブロモエタン、ジブロモプロパノール、2,3−ジブロモ−1,4−ブタンジオ−ル、2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオール、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートなど)、有機酸(例、アジピン酸、セバシン酸、ステアリン酸、アビエチン酸など)、有機アミン(例、モノエタノー.ルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アニリン、ジエチルアニリン、)などが挙げられる。
【0033】
本発明によれば、フラックス中の活性剤は、活性剤が熱可塑性物質で被覆された被覆粒子の形態で使用される。この被覆粒子の1例の写真を図1に、またその構造の説明図を図2にそれぞれ示す。図1に示すように、被覆粒子は好ましくは実質的に球形であり、かつ、後述するように、特定の積算体積粒度分布を有するため、粒径が比較的よくそろっている。図2に示すように、各被覆粒子は、典型的には多数の活性剤の微粒子を含有しているが、製造条件によっては、活性剤の微粒子を1個だけ含有する構造とすることもできる。
【0034】
フラックス中の全ての活性剤を熱可塑性物質で被覆した被覆粒子とすることが望ましいが、活性剤の一部だけを被覆粒子とすることも可能である。例えば、フラックスが活性の強さが異なる2種以上の活性剤を含有する場合には、より反応性の高い活性剤だけを熱可塑性樹脂で被覆することでも、本発明の目的をある程度は達成できる。
【0035】
活性剤を被覆する熱可塑性物質は、常温ではフラックス中で安定した状態にあるが、はんだ付け温度に加熱された時に、軟化して、被覆粒子の内部の活性剤を放出することができるものを使用する。例えば、リフローピーク温度が230℃前後になるSn−Ag系鉛フリーはんだの場合、熱可塑性物質の軟化温度は130〜200℃程度であることが望ましい。
【0036】
本発明に適する熱可塑性物質は、外的要因で容易に変形せず、はんだ付け後のフラックス残さ中でも信頼性を低下させないものが好ましい。そのような熱可塑性物質の例としては、ポリスチレン、エチルセルロース、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホンアミド、ポリエチレングリコールなどの熱可塑性樹脂が例示されるが、これらに限定されるものではない。熱可塑性物質は、1種または2種以上を使用することができる。
【0037】
熱可塑性物質で活性剤を被覆した被覆粒子中の活性剤の含有量は、1〜50質量%の範囲内とすることが好ましい。被覆粒子中の活性剤の割合が1質量%より少ないと、フラックス中に占める熱可塑性物質の割合が高くなり、はんだ付けに悪影響を及ぼすことがある。一方、被覆粒子中の活性剤の割合が50質量%を超えると、活性剤を被覆する熱可塑性物質の量が少なくなって、フラックスやソルダペーストの製造における混合時に被覆粒子が壊れずに安定してその形状を保持することが困難となる。被覆粒子の形状が壊れると、活性剤と鉛フリーはんだとの接触による反応を防止することができなくなる。
【0038】
被覆粒子の平均粒子径は0.1〜10μmの範囲内であることが好ましい。それにより、フラックスをはんだ粉末と混和してソルダペーストとした場合に、印刷性が良好で、メタルマスクの目詰まりを生じないソルダペーストを得ることができる。
【0039】
被覆粒子の平均粒子径が0.1μmより小さいと、粒子の凝集が激しく、フラックス中に被覆粒子を分散させることが非常に困難となる。また、被覆粒子の粒径を0.1μmより小さくすると、被覆時の活性剤の漏洩が著しくなり、被覆粒子中の活性剤の含有割合を上げることが困難となる。
【0040】
被覆粒子の平均粒子径が10μmより大きいと、微視的には活性剤がフラックス中に偏在することになり、活性剤の割合が少ない部位では、はんだのぬれ性が悪く、逆に多い部位では耐腐食性や電気的信頼性が悪くなる。また、ソルダペーストの印刷時に、メタルマスクの目詰まりを起こして、パターン通りに印刷できず、未はんだの原因となる事態も起こりうる。
【0041】
本発明のはんだ付けフラックスを用いたソルダペーストにおいて、被覆粒子がソルダペーストの印刷性を妨げないためには、当該粒子が、最密充填されたはんだ粉末の空隙に入り込む大きさのものであることが好ましい。例えば、面心立方格子構造に最密充填されたはんだ粉末の空隙に入り込む粒子の最大径が得られるのは、図3に示すように、粒子が小立方体の体心にある場合である。そのためには、以下の計算のとおり、被覆粒子の粒子径がはんだ粉末の粒子径に対して0.225倍以下である必要がある。この理論は、単分散はんだ粉末の平均粒子径に関係なく適用できる。
【0042】
はんだ粉末と被覆粒子がともに単分散かつ球形であると仮定し、はんだ粉末の直径をR、小立方体の1辺の長さをdとすると、
R=√2d、
d=R/√2 … (1)。
【0043】
被覆粒子の中心から直近はんだ粉末の中心までの距離をLとすると、
(2L)=d+(√2d)
L=√3d/2。
【0044】
被覆粒子の最大径をrとすると、
r/2=L−R/2、
r=2L−R
=√3d−√2d、
d=r/(√3−√2) … (2)。
【0045】
(1)、(2)より
R/√2=r/(√3−√2)
r=(√6/2−1)R
≒0.225R。
【0046】
本発明のフラックスに用いる、活性剤を熱可塑性物質で被覆した被覆粒子は、10%径が50%径の1/2以上で、かつ90%径が50%径の1.5倍以下という積算体積粒度分布を有することが好ましい。すなわち、被覆粒子は好ましくは、単分散に近い、よく揃った粒度分布を有する。それにより、フラックスの単位体積中に活性剤を均一に分散させやすく、活性剤の偏在による部位ごとの活性剤の含有割合のばらつきが抑えられる。この粒度分布によって、本発明のフラックスを、平均粒子径が30μm以下の微細な鉛フリーはんだ粉末と混合してソルダペーストにした場合にも、活性剤とはんだ粉末との反応を防止して、良好なぬれ性を確保しながら、常温で長期保存が可能なソルダペーストとすることができる。
【0047】
上記の積算体積粒度分布を有する、粒度が比較的よく揃った被覆粒子は、熱可塑性物質またはその前駆体(例、モノマーまたはオリゴマー)と活性剤とを分散質として含有するエマルションを多孔質体の膜を通過させる工程を経て製造することができる。
【0048】
エマルションの種類は、活性剤と被覆材料である熱可塑性物質(またはその前駆体)が油溶性と水溶性のいずれであるかに応じて選択すればよい。例えば、活性剤と熱可塑性物質が油溶性(油溶性の活性剤の例は有機アミン、有機ハロゲン化物等)である場合には、O/W(水中油型)エマルションを作成すればよい。逆に、活性剤と熱可塑性物質が水溶性(水溶性活性剤の例は有機アミンハロゲン化水素酸塩、有機酸など)である場合には、W/O(油中水型)エマルションを作成することができる。また、活性剤が水溶性で、熱可塑性物質が油溶性である場合には、W/O/W型の3相エマルションを形成することにより、被覆粒子を製造することができる。
【0049】
従来の一般的なマイクロカプセル化の方法では、単に上記エマルション中に分散している粒子を固化させるだけである。この方法で作られる被覆粒子の大きさは、エマルション中に分散状態で存在する粒子の大きさによって決まってくる。しかし、単に攪拌等により液中に粒子を分散させてエマルションを形成した場合、粒度分布が上記のようによく揃った被覆粒子を得ることは困難である。
【0050】
エマルション中の粒子を小さく、かつ単分散に近いよく揃った粒度分布とするために、粒子を固化させる前のエマルションを、均一な細孔径を有する多孔質体の膜に通す。この方法では、エマルション中の粒子サイズを均一に揃えて、瞬時に粒子を実質的に単分散化でき、かつ被覆粒子の粒径は多孔質体膜の細孔径により制御できるため、狙った小さな粒径の被覆粒子を連続的に作ることができる。さらに、粒径が狙い値から外れた粒子がほとんどできないため、困難な分級操作を必要としない。
【0051】
上記多孔質体膜は、膜を貫通する多数の細孔を有している限り、その形状は特に限定されず、本発明粒子の製造条件等に応じて適宜決定すればよい。例えば、板状(平膜状)、円筒状(パイプ状)等の形状が挙げられる。また、多孔質体膜の細孔径も特に限定されず、所望の粒径等に応じて適宜選択すればよい。
【0052】
多孔質膜の細孔は、その断面形状が楕円状、長方形(スリット状)、正方形等のいずれであってもよい。また、細孔は、膜面に対して垂直に貫通していてもよいし、斜めに貫通していてもよい。細孔同士が絡み合った状態になっていてもよい。
【0053】
多孔質体膜の材質も特に制限されず、例えば、ガラス、セラミックス、金属などが挙げられる。本発明では特に多孔質ガラス膜を用いることが望ましい。多孔質ガラス膜としては、例えば、ガラスのミクロ相分離を利用して製造される多孔質ガラスを用いた多孔質ガラス膜が好適である。具体的には、特許第1504002号に開示された、CaO−B23−SiO2−Al23系多孔質ガラス、特許第1518989号および米国特許第4857875号に開示された、CaO−B23−SiO2−Al23−Na2O系多孔質ガラス、CaO−B23−SiO2−Al23−Na2O−MgO系多孔質ガラス等が挙げられる。
【0054】
エマルションを多孔質体膜に通すには、加圧濾過と同様に、エマルションに圧力を加えて、エマルションが強制的に多孔質体膜を通過するようにすることが好ましい。
多孔質体膜を通過させたエマルション中の粒子を次いで固化させる。この固化は、懸濁重合法、界面重合法または脱溶媒法により行うことが好適であるが、他の方法も採用可能である。
【0055】
懸濁重合法は、熱可塑性樹脂のモノマー(単量体)もしくはオリゴマー(低分子量重合体)からなる重合反応成分を水相または油相に溶解してエマルションを作製し、その相内での重合反応によって粒子状に固化した重合体を得る方法である。界面重合法は、水相と油相のそれぞれに重合反応成分を溶解し、両相の界面で重合させて、粒子状に固化した重合体を得る方法である。脱溶媒法は、水相または油相に溶解している熱可塑性物質の溶媒を除去することにより、溶解物を粒子として固化させる方法である。
【0056】
従って、懸濁重合法や界面重合法では、熱可塑性物質は重合体、すなわち、熱可塑性樹脂であり、その熱可塑性樹脂の前駆体であるモノマーまたはオリゴマーを水相または油相に溶解させてエマルションを形成し、得られた前駆体のエマルションを多孔質体膜に通した後、重合させて、分散粒子を固化させ、活性剤が熱可塑性重合体で被覆された被覆粒子を得る。一方、脱溶媒法では、熱可塑性物質そのものを溶媒に溶解させたエマルションを形成する。脱溶媒法における溶媒の除去は、蒸発による以外に、熱可塑性物質の溶媒をよく溶かす別の溶媒中にエマルションを添加する方法もある。
【0057】
固化した粒子は、遠心分離機などの適当な分離手段を利用して回収することができる。こうして製造された、活性剤が熱可塑性物質で被覆された被覆粒子を、フラックスの主剤樹脂、例えば、ロジンもしくはその誘導体、溶剤、および必要に応じて他の添加剤(例、チキソ剤)と混合することにより、フラックスが得られる。
【0058】
一般的なロジン系フラックスの配合割合(質量%、残部は溶剤)は次の通りである:
ロジン系主剤樹脂:35〜60%
活性剤: 0.5〜10%
チキソ剤: 1〜10%
本発明では、活性剤が熱可塑性物質で被覆された被覆粒子の形態であるので、被覆粒子中に含まれる活性剤の量が上記範囲内の量となるようにすればよい。従って、被覆粒子としての配合量は上記より多くなる。
【0059】
本発明のフラックスは、共晶はんだに組み合わせて使用することもできるが、鉛フリーはんだ、特に活性剤との反応性が高い鉛フリーはんだに対して使用することが好ましい。鉛フリーはんだの例は、Sn−3.5Ag、Sn−3.5Ag−0.5CuなどのSn−Ag系;Sn−9Zn、Sn−8Zn−3BiなどのSn−Zn系、Sn−57Bi−1Ag、Sn−7.5Bi−0.5CuなどのSn−Bi系、Sn−52InなどのSn−In系、Sn−0.7などのSn−Cu系はんだである。
【0060】
また、本発明のフラックスの利用形態としては、フラックス単独ではんだ付け時に使用したり、やに入りはんだ、さらにはやに入りはんだを圧延して得られるペレットやリボンなどのソルダプリフォームの製造に利用することも可能であるが、活性剤を被覆粒子としたことの効果を最大限に生かす利用形態は、ソルダペースト、特に鉛フリーはんだのソルダペーストである。高密度の微細回路パターンに利用できる、はんだ粉末の平均粒子径が10〜30μmと微細なソルダペーストに対して本発明のフラックスを利用すると、従来は冷蔵保存でも短期間した保存できなかったものが、常温での長期保存が可能になり、かつ連続印刷も数倍に延長されるという、実用上極めて価値ある効果を達成することができる。ソルダペーストは、一般に粉末はんだ80〜95質量%とフラックス5〜20質量%とをよく混合したものである。
【実施例】
【0061】
以下の実施例により本発明をより具体的に説明する。但し、実施例は本発明の例示にすぎず、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(製造例1)
油溶性活性剤の被覆粒子の製造(O/W懸濁重合法)
1)下記の配合(%は質量%)で油相と水相を作り、油相を水相に徐々に添加しながら、ホモミキサー(回転数17,500rpm)で5分間攪拌して、O/Wエマルションを作る。
【0062】
2)多孔質ガラス膜(SPGテクノ(株)製、平均孔径1.7μm)に0.2MPaの圧力をかけてO/Wエマルションを通し、粒子の粒径を小さく、かつ均一にする。
3)多孔質ガラス膜透過後のO/Wエマルションをホットプレート上で80℃に加熱しながら攪拌し、懸濁重合を行う。
【0063】
4)遠心分離機により、固化した粒子(活性剤がポリスチレンで被覆された被覆粒子)を回収する。
配合(油相:水相=1:4)
油相:トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(活性剤)8%
過酸化ベンゾイル(重合開始剤)1%
スチレンモノマー45.5%
クロロホルム(溶媒)45.5%;
水相:ドデシル硫酸ナトリウム(乳化剤)0.5%
蒸留水99.5%。
【0064】
(製造例2)
油溶性活性剤の被覆粒子の製造(O/W脱溶媒法)
1)下記の配合で油相と水相を作り、油相を水相に徐々に添加しながら、ホモミキサー(回転数17,500rpm)で5分間攪拌して、O/Wエマルションを作る。
【0065】
2)多孔質ガラス膜(SPGテクノ(株)製、平均孔径1.7μm)に0.2MPaの圧力をかけてO/Wエマルションを通し、粒子の粒径を小さく、かつ均一にする。
3)多孔質ガラス膜透過後のO/Wエマルションを、エバポレーターを用いて50℃、400mmHgの条件で減圧乾燥し、溶媒を蒸発させる。
【0066】
4)遠心分離機により、固化した粒子(活性剤がポリスチレンで被覆された被覆粒子)を回収する。
配合(油相:水相=2:3)
油相:トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(活性剤)2.7%
ポリスチレン5.9%
トルエン(溶媒)91.4%
水相:ショ糖ラウリン酸エステル(乳化剤)0.5%
蒸留水99.5%。
【0067】
(製造例3)
水溶性活性剤の被覆粒子の製法(W/O/W懸濁重合法)
1)ホットプレート上で60℃に加熱しながら、下記の配合で内水相と油相を作り、内水相を油相に徐々に添加しながらホモミキサー(回転数17,500rpm)で5分間攪拌して、W/Oエマルションを作る。
【0068】
2)下記の配合で外水相を作り、W/Oエマルションを外水相に徐々に添加しながらスリーワンモーター(回転数200rpm)で3分間攪拌して、W/O/Wエマルションを作る。
【0069】
3)多孔質ガラス膜(SPGテクノ(株)製、平均孔径7.5μm)に0.1MPaの圧力をかけてW/O/Wエマルションを通し、粒子(この場合は、W/O粒子)の粒径を小さく、かつ均一にする。
【0070】
4)透過後のW/O/Wエマルションをホットプレート上で80℃に加熱しながら攪拌し、懸濁重合を行う。
5)遠心分離機により、固化した粒子(活性剤がポリスチレンで被覆された被覆粒子)を回収する。
【0071】
配合(内水相:油相:外水相=1:2:7)
内水相:ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩(活性剤)25.0%
蒸留水75.0%
油相:ポリグリセリン縮合シリノレイン酸エステル(乳化剤)3.2%
過酸化ベンゾイル(重合開始剤)1.3%
スチレンモノマー63.7%
クロロホルム(溶媒)31.8%
外水相:ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(乳化剤)1.0%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩(浸透圧調整剤)12.5%
蒸留水86.5%。
【0072】
(製造例4)
上記製造例3において、3)の工程を省略し、1)、2)、4)、5)の工程を順に行って、活性剤がポリスチレンで被覆された粒子を製造する。
【0073】
以上の製造例で使用した熱可塑性物質であるポリスチレンの軟化温度は約140℃である。これらの製造例で得られた被覆粒子の平均粒子径と積算体積粒度分布を調べた結果を表1に示す。表1には被覆粒子中の活性剤の含有量も併記する。
【0074】
【表1】

【0075】
図1は、製造例1で得られた被覆粒子の顕微鏡写真(3000倍)である。また、各製造例で得られた被覆粒子の積算体積粒度分布の図を図4(a)〜(d)にそれぞれに示す。
【0076】
上の結果と図1および図4から、エマルションを多孔質体膜に通してから粒子を固化させた製造例1〜3では、平均粒子径(50%径)が10μm以下と小さく、かつ粒径がよく揃った(即ち、10%径が50%径の1/2以上で、90%径が50%径の1.5倍以下の)単分散に近い被覆粒子が得られることがわかる。製造例3では、平均孔径が7.5μmの多孔質ガラス膜を用いてエマルションを通過させたが、この通過を行わない製造例4に比べて、平均粒子径は1/3以下になり、かつ粒径もよくそろっていた。一方、製造例4の被覆粒子は平均粒子径が15.0μmと大きい上、そのバラツキも極めて大きくなった。
【0077】
(実施例1〜2)
上記製造例3および4で得られた活性剤(ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩)の被覆粒子を用いて、表2に示す配合割合により各成分を混合してフラックスを作成した。
【0078】
得られた各フラックスについて、JIS−Z−3197に準拠してはんだ広がり試験を実施し、フラックスの効力を評価した。試験に用いたはんだはSn−3.0Ag−0.5Cu鉛フリーはんだであり、試験温度は250℃であった。試験結果(はんだ広がり率)も表2に併記する。
【0079】
(比較例1)
同じ活性剤を未被覆でそのまま用いてフラックスを同様に作成し、はんだ広がり試験に供した。フラックスの組成と試験結果を表2に併せて示す。
【0080】
【表2】

【0081】
表2からわかるように、活性剤が未被覆である比較例1のフラックスの広がり率が最も高く、溶融はんだでよく濡れることがわかる。一方、活性剤を熱可塑性樹脂(ポリスチレン)で被覆した被覆粒子にしても、粒径が細かく揃っている製造例3で作成された活性剤の被覆粒子を用いた実施例1のフラックスでは、未被覆の活性剤を用いた比較例1のフラックスにほぼ匹敵する、良好なはんだ広がり率が得られた。これに対し、活性剤の被覆粒子の粒径が大きく、かつ揃っていない実施例2のフラックスは、はんだ広がり率がやや低下した。
【0082】
上記の実施例1〜2および比較例1の各フラックスを用いて、フラックス12質量%とSn−3.0Ag−0.5Cu鉛フリーはんだ粉末(平均粒子径30μm)88質量%とを十分に混練して、ソルダペーストを調製した。
【0083】
得られたソルダペーストの経時的な粘度変化を連続粘度測定装置(JIS−Z−3284に定めるスパイラル方式粘度計)により測定した。測定条件は、試料の量が500g、温度25℃、回転速度10rpmであった。この連続粘度測定試験は、ソルダペーストの連続印刷性を評価することができる。測定結果を表3と図5に示す
【0084】
【表3】

【0085】
表3からわかるように、活性剤が未被覆である比較例1のフラックスを用いたソルダペーストでは、初期の粘度値は低かったが、経時的に粘度が上昇し、特に18時間をすぎると粘度が加速度的に上昇した。従って、このソルダペーストによる連続印刷は約20時間程度に制限される。
【0086】
一方、本発明に従って活性剤を熱可塑性物質で被覆した実施例1および2のフラックスを用いたソルダペーストでは、経時的な粘度上昇は非常に小さく、ソルダペーストの粘度は48時間後もほとんど変化しなかった。
【0087】
従って、実施例1および2のフラックスを用いたソルダペーストは、どちらも少なくとも48時間の連続印刷が可能であり、72時間後でも印刷可能な粘度値にとどまっていた。このように、本発明によれば、反応性の高い鉛フリーはんだ粉末を用いたソルダペーストにおけるはんだ合金と活性剤との反応を防止して、その連続印刷時間(あるいは連続吐出時間)を大幅に延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明で用いる活性剤を熱可塑性物質で被覆した被覆粒子の顕微鏡写真。
【図2】上記被覆粒子の説明図。
【図3】はんだ粉末の空隙に入り込む粒子の最大径が得られる場合の説明図。
【図4】図4(a)〜(d)はそれぞれ製造例1〜4で得られた被覆粒子の積算体積粒度分布の図である。
【図5】実施例の結果(ソルダペーストの経時的な粘度変化)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤樹脂、活性剤、および溶剤を含有するはんだ付け用フラックスであって、活性剤の少なくとも一部が、はんだ付け温度で軟化する熱可塑性物質で被覆された被覆粒子として存在することを特徴とする、はんだ付け用フラックス。
【請求項2】
前記被覆粒子の平均粒子径が0.1〜10μmの範囲内である、請求項1に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項3】
前記被覆粒子が、10%径が50%径の1/2以上であって、かつ90%径が50%径の1.5倍以下である積算体積粒度分布を有する、請求項1または2に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項4】
前記被覆粒子中の活性剤の含有量が1〜50質量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項5】
前記活性剤が、有機アミンのハロゲン化水素酸塩、有機ハロゲン化物、有機酸、及び有機アミンから選ばれた1種または2種以上からなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項6】
前記被覆粒子が、熱可塑性物質もしくはその前駆体と活性剤とを含有するエマルションを多孔質体の膜を通過させる工程を経て得られたものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項7】
前記主剤樹脂がロジンまたはその誘導体から選ばれた1種または2種以上からなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項8】
鉛フリーはんだに対して使用するための請求項1〜7のいずれか1項に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項9】
はんだ粉末を請求項1〜7のいずれか1項に記載のはんだ付け用フラックスと混合してなるソルダペースト。
【請求項10】
前記はんだ付け用フラックスに含まれる被覆粒子の平均粒子径が、前記はんだ粉末の平均粒子径の0.225倍以下である、請求項9に記載のソルダペースト。
【請求項11】
前記はんだ粉末が鉛フリーはんだ粉末である、請求項9または10に記載のソルダペースト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−44733(P2007−44733A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232078(P2005−232078)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(391011700)宮崎県 (63)
【出願人】(000199197)千住金属工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】