説明

ばらつき分布シミュレーション装置及び方法

【課題】プロセス変動が回路特性に及ぼす影響を予測可能とするシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】MOSFETを有する半導体回路のばらつき解析用に、MOSFETのSPICEパラメータの設定値を算出する回路シミュレーション装置であって、当該回路シミュレーション装置は、MOSFETのばらつき特性に影響を及ぼす変数として、MOSFETの製造条件又は素子構造に関する変数を含み、当該変数により定義される物理量とSPICEパラメータとの間に物理的な相関を有する普遍的関数により構成された中間モデル式を記憶する記憶部101と、この中間モデル式に含まれる変数に関する情報を設定するための設定部102と、設定部に設定された情報と、記憶部に記憶された中間モデル式とに基づいて、SPICEパラメータの設定値を算出する算出部103と、上記半導体回路のプロセス変動依存性を出力する出力部104とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)回路シミュレーションに使用されるモデルパラメータに関し、特にMOSFETの回路のばらつき解析、感度解析に用いるパラメータの算出に使用されるものである。
【背景技術】
【0002】
半導体技術分野では、通常、回路設計の最終段階で、SPICE回路シミュレーションによるばらつき解析を行って、歩留まりに対する回路の最適化を行う。
【0003】
しかしながら、従来のばらつきシミュレーションには、以下のような問題が存在する。
【0004】
例えば、Principle Component Monitorモデルにおいては、実際のばらつきデータに有意な中間変数を見出し、中間変数の多項式でモデルを構成する。しかし、これを実現するために、膨大な試行回数と煩雑な統計学的手法の適用が必要となり、多大な開発工数が必要となる。
【0005】
また、特許文献1では、MOSFETのSPICEパラメータである閾値電圧VTHの変化量を、ゲート絶縁膜の膜厚TOXのみで表現することで、MOSFETのばらつきを表現している。しかしながら、これでは実際のMOSFETのばらつきを十分に表現しているとは言えない。これは特に、高い精度が要求されるアナログRF(高周波)回路の設計には不十分である。
【0006】
また、非特許文献1では、中間モデルを使用してMOSFETの統計モデルを作成し、閾値電圧VTH等を中間変数として採用する。そして、MOSFETのI−V特性のデータを利用して中間モデルを作成する。しかしながら、この場合には中間モデルを作成するための時間を要すると共に、プロセス変動による回路特性の変動を直接観測することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−106416号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M. Kondo et al., "Model-Adaptable MOSFET Parameter-Extraction Method Using an Intermediate Model", IEEE Transactions on Computer-Aided Design of Integrated Circuits and Systems, p.400-405, Vol. 17, No. 5, MAY 1998.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ばらつき解析に必要な、SPICEモデルの開発工数の削減、及びアナログ高周波特性に必要な精度の実現を可能とし、且つプロセス変動が半導体回路の回路特性の変動に及ぼす影響を直接予測可能とする回路シミュレーション装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一の態様は例えば、MOSFETを有する半導体回路のばらつき解析用に、前記MOSFETのSPICEパラメータの設定値を算出する回路シミュレーション装置であって、前記MOSFETのばらつき特性に影響を及ぼす変数として、前記MOSFETの製造条件又は素子構造に関する変数を含み、前記変数により定義される物理量と前記SPICEパラメータとの間に物理的な相関を有する普遍的関数により構成された中間モデル式を記憶する記憶部と、前記中間モデル式に含まれる前記変数に関する情報を設定するための設定部と、前記設定部に設定された前記情報と、前記記憶部に記憶された前記中間モデル式とに基づいて、前記SPICEパラメータの設定値を算出する算出部と、前記半導体回路のプロセス変動依存性を出力する出力部とを備えることを特徴とする回路シミュレーション装置である。
【0011】
本発明の別の態様は例えば、MOSFETを有する半導体回路のばらつき解析用に、前記MOSFETのSPICEパラメータの設定値を算出する回路シミュレーション方法であって、前記MOSFETのばらつき特性に影響を及ぼす変数として、前記MOSFETの製造条件又は素子構造に関する変数を含み、前記変数により定義される物理量と前記SPICEパラメータとの間に物理的な相関を有する普遍的関数により構成された中間モデル式が記憶された情報処理装置を用意し、前記中間モデル式に含まれる前記変数に関する情報を前記情報処理装置に設定し、前記情報と前記中間モデル式とに基づいて、前記SPICEパラメータの設定値を前記情報処理装置により算出し、前記半導体回路のプロセス変動依存性を出力することを特徴とする回路シミュレーション方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、MOSFETのプロセスの世代、及びコンパクトモデルに依存することなく、ばらつき解析に必要な、SPICEモデルの開発工数の削減と、ロジック回路の特性に留まらずアナログ高周波精度及びノイズ特性に必要な精度の実現を可能とし、且つプロセス変動が半導体回路の回路特性の変動に及ぼす影響を直接予測可能とする回路シミュレーション装置及び方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態の回路シミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の回路シミュレーション装置を利用して実行されるSPICE回路シミュレーションの流れを示したフローチャートである。
【図3】回路特性の変動の様子を模式的に示したグラフである。
【図4】キャリア移動度の実測データを示したグラフである。
【図5】中間モデル式の例を列挙した表(1/2)である。
【図6】中間モデル式の例を列挙した表(2/2)である。
【図7】第2実施形態におけるSPICE回路シミュレーションについて説明するための図である。
【図8】第3実施形態におけるSPICE回路シミュレーションについて説明するための回路図である。
【図9】第4実施形態におけるSPICE回路シミュレーションについて説明するためのグラフ及び表である。
【図10】G−D(ゲート−ドレイン)間,G−S(ゲート−ソース)間の外部キャパシタンスの中間モデル式の導出方法について説明するための側方断面図である。
【図11】G−B(ゲート−ベース)間の外部キャパシタンスの中間モデル式の導出方法について説明するための側方断面図である。
【図12】ジャンクションCAP AA(Active Area)とウェルのP/N接合を示した側方断面図である。
【図13】熱的ノイズについて説明するための回路の例を示した回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の回路シミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【0016】
図1の回路シミュレーション装置は、ばらつき回路シミュレーションに用いるSPICEパラメータを算出する装置(ばらつき分布シミュレーション装置)である。
【0017】
図1の回路シミュレーション装置は、MOSFETを有する半導体回路のばらつき解析用に、当該MOSFETのSPICEパラメータの設定値を算出するための装置となっている。図1の装置は、このような設定値を算出するためのブロックとして、本発明の記憶部の例である物理関数記憶部101と、本発明の設定部の例であるプロセス変動設定部102と、本発明の算出部の例であるSPICEパラメータ算出部103と、本発明の出力部の例であるプロセス変動依存性(応答特性)出力部104とを備える。これらのブロックの動作の詳細については、図2のフローチャートを参照して説明する。
【0018】
図2は、図1の回路シミュレーション装置を利用して実行されるSPICE回路シミュレーションの流れを示したフローチャートである。
【0019】
本実施形態では、SPICEパラメータの設定値を、SPICEパラメータのノミナル値と設定値とを関係付ける中間モデル式を利用して算出する。本実施形態では、各SPICEパラメータ用の中間モデル式(物理関数)を予め構築し、物理関数記憶部101内に記憶させておく(ステップS10)。本実施形態では、SPICEパラメータのノミナル値と設定値が、中間モデル式により、以下の式(1)のように関係付けられる。
【数1】

【0020】
式(1)において、X_Param及びXはそれぞれ、SPICEパラメータのノミナル値及び設定値を表し、K_Xは、このSPICEパラメータのノミナル値と設定値とを関係付ける中間モデル式を表す。このように、本実施形態では、SPICEパラメータの設定値が、SPICEパラメータのノミナル値と中間モデル式との積で表される。SPICEパラメータの例としては、MOSFETの閾値電圧VTH0や、MOSFETにおけるキャリア移動度u0が挙げられる。
【0021】
中間モデル式は、MOSFETのばらつき特性に影響を及ぼすプロセスパラメータの変数として、MOSFETの製造条件又は素子構造に関する変数を含んでおり、このような変数を含む関数となっている。MOSFETの製造条件に関する変数の例としては、MOSFETのチャネル濃度(NDEP)や、MOSFETを構成するゲート電極材料の抵抗率(RGSH)等が挙げられる。また、MOSFETの素子構造に関する変数の例としては、MOSFETのゲート寸法に相当するゲート長(L)やゲート幅(W)、さらにはゲート絶縁膜の膜厚(TOX)等が挙げられる。
【0022】
なお、MOSFETの製造条件に関する変数の例としては更に、MOSFETを構成する基板の抵抗率や、ソース・ドレイン拡散層の不純物密度等が挙げられる。また、MOSFETの素子構造に関する変数の例としては更に、MOSFETに電気的に接続された配線層の膜厚や、MOSFETを覆う層間絶縁膜の膜厚等が挙げられる。
【0023】
中間モデル式は、このような変数とSPICEパラメータとの間に物理的な相関を持つ普遍的関数となっている。普遍的関数とは、MOSFET(CMOS)の世代、プロセス、又は使用するモデルのバージョンや種類に依存せず、MOSFETの特性を表現することが可能な関数である。中間モデル式は、後述するように、理論的又は経験的に導出された理論式又は経験式から構成され、適宜、DFM関数とも表記することにする。
【0024】
本実施形態では次に、中間モデル式に含まれる各変数に関する情報が入力され、プロセス変動設定部102に設定される(ステップS20)。当該情報は例えば、中間モデル式に含まれる各変数のノミナル値及び標準偏差(プロセス変動量)である。当該情報は例えば、ユーザーにより回路シミュレーション装置に入力される。
【0025】
次に、SPICEパラメータ算出部103が、プロセス変動設定部102に設定された情報と、物理関数記憶部101に記憶された中間モデル式とに基づいて、中間モデル式の掃引を行い、SPICEパラメータの設定値を算出する(ステップS30)。この処理の際には、回路シミュレーション装置により抽出された、SPICEパラメータのノミナル値も使用される。
【0026】
次に、SPICEパラメータ算出部103により算出されたSPICEパラメータの設定値を利用して、SPICEによるばらつきシミュレーションが行われる(ステップS40)。この処理は、上記の回路シミュレーション装置にインストールされたSPICEプログラムで行ってもよいし、別の装置にインストールにされたSPICEプログラムで行ってもよい。前者の場合、上記半導体回路のプロセス変動依存性(応答特性)を示すSPICEパラメータの設定値等の出力が、プロセス変動依存性出力部104により、回路シミュレーション装置の外部に出力され、後者の場合、当該出力が、プロセス変動依存性出力部104により、回路シミュレーション装置の内部のメモリやストレージ等に出力される。
【0027】
以上のようにして、ばらつきシミュレーションが行われ、この実行結果をもとに回路の最適化検討が行われる(ステップS50)。本実施形態では、モンテカルロシミュレーションを実行する。これにより半導体回路のばらつき解析結果が得られ、このシミュレーションの結果を利用して回路の最適化を行う。なお、モンテカルロシミュレーションは、例えば所定のシミュレータとシミュレーションソフトを使用して行う。モンテカルロシミュレーションの詳細については、後述する。
【0028】
ここで、本実施形態の効果について説明する。
【0029】
以上のように、本実施形態では、SPICEパラメータの設定値を、中間モデル式を利用して算出する。そして、中間モデル式は、MOSFETのばらつき特性に影響を及ぼす変数として、MOSFETの製造条件又は素子構造に関する変数を含んでおり、このような変数とSPICEパラメータとの間に物理的な相関を持っている。具体的には、プロセス変数、構造変数という物理的に変化する量(物理量)とMOSFETの電気特性を表現するSPICEパラメータとが、物理的な関係で結び付けられている。
【0030】
よって、本実施形態では、算出されたSPICEパラメータの設定値を利用してばらつきシミュレーションを行うことで、MOSFETの製造条件や素子構造の変動となるプロセス変動が半導体回路の諸特性の変動に及ぼす影響を観測することができるため、こうした影響の直接的な予測と物理的に意味のある解析が可能となる。また、本実施形態によれば、半導体回路のロジックDC特性への影響だけでなく、アナログRF特性やノイズ特性への影響を高精度にシミュレートすることが可能となる。
【0031】
また、本実施形態では、中間モデル式に含まれる各変数に、プロセス相関等の物理的相関が、これらの変数とSPICEパラメータとの間に物理的な相関を持つ普遍的関数により反映されているため、中間モデル式は、MOSFETコンパクトモデルに依存せず、他のプロセスへの転用が容易に実現できる。よって、本実施形態ではサンプルの実測データやスペックを元に特定のパラメータの変化量を表現する手法や、デバイスシミュレーション技術を用いて擬似的に予測を行う方法、及び最近主流となる膨大なデータから主成分分析を実施して有意な中間変数を見出し、それらを多項式で表すPCM(Principle Component Monitor)モデル等に比べてモデルの構築が容易であり、飛躍的に開発工数が改善される。
【0032】
図3は、回路特性の変動の様子を模式的に示したグラフである。
【0033】
図3(A)は、従来のSPICE回路シミュレーションにより得られる回路応答特性の例を示したグラフである。実線が、シミュレーション結果を表し、点線が、これに対応する実測結果を表す。従来の手法では、図3(A)に示すように、回路特性がSPICEパラメータの変動に応じて変化する様子を観測することができる。図3(A)では、SPICEパラメータの例として、閾値電圧VTHが示されている。しかしながら、従来の手法ではプロセス変動による回路特性の変動が直接的に表現できないため、フィッティング精度に限界を生じる。
【0034】
図3(B)は、本実施形態のSPICE回路シミュレーションにより得られる回路応答特性の例を示したグラフである。先程と同様、実線が、シミュレーション結果を表し、点線が、これに対応する実測結果を表す。本実施形態では、図3(B)に示すように、回路特性が、MOSFETのばらつき特性に影響を及ぼすプロセスパラメータに応じて変化する様子を観測することができる。図3(B)では、プロセスパラメータの例として、チャネル濃度NDEPが示されている。このように、本実施形態では、プロセス変動による回路特性の変動を直接見ることができ、且つ物理的に意味のある解析が実現するためフィッティング精度が向上する(図3(A),(B)の実線,点線を参照)。
【0035】
なお、従来の手法では、回路特性が閾値電圧VTHやドレイン電流Idrに応じて変化する低周波特性を観測することができるが、本実施形態ではこれに加え、回路特性がΔRoutやノイズやfTに応じて変化する高周波特性を観測することができる。
【0036】
以下、本実施形態における中間モデル式の例について説明する。
【0037】
SPICEパラメータが閾値電圧VTHの場合の中間モデル式の例を、以下の式(2)及び(3)に示す。
【数2】

【数3】

【0038】
式(2)は、閾値電圧と中間モデル式とを連結する関係式を表し、式(3)は、閾値電圧用の中間モデル式の理論式を表す。また、VTH_Param及びVTHはそれぞれ、閾値電圧のノミナル値及び設定値を表し、K_VTHは、閾値電圧のノミナル値と設定値とを関係付ける中間モデル式を表す。また、φSは、外部から与えられる表面電位を表す。
【0039】
式(3)に示すように、中間モデル式K_VTHは、チャネル濃度NDEP(ノミナル値をNDEP0とする)、ゲート長L、ゲート幅W、及びゲート絶縁膜の膜厚TOX(ノミナル値をTOX0とする)を含む関数となっている。式(2)及び(3)を利用することで、本実施形態では、半導体回路のアナログ低周波特性のばらつき解析用に、閾値電圧の設定値を算出することが可能となる。
【0040】
次に、SPICEパラメータがキャリア移動度u0の場合の中間モデル式の例を、以下の式(4)から(6)に示す。
【数4】

【数5】

【数6】

【0041】
式(4)は、キャリア移動度と中間モデル式とを連結する関係式を表し、式(5)は、電子移動度用の中間モデル式の経験式、式(6)は、ホール移動度用の中間モデル式の経験式を表す。また、u0_Param及びu0はそれぞれ、キャリア移動度のノミナル値及び設定値を表し、ue,uhはそれぞれ、電子移動度,ホール移動度のノミナル値と設定値とを関係付ける中間モデル式を表す。
【0042】
式(5)及び(6)は、キャリア移動度の実測データに合うように設定された経験式に相当する。図4は、キャリア移動度の実測データを示したグラフである。図4において、Aで示す破線及び実線はそれぞれ、電子移動度の測定データ及び経験式を示し、Bで示す破線及び実線はそれぞれ、ホール移動度の測定データ及び経験式を示す。図4に示す実測データによれば、電子移動度及びホール移動度用の中間モデル式が、式(5)及び(6)のように、チャネル不純物濃度NDEPの関数として表される。
【0043】
次に、中間モデル式のその他の例を、図5及び図6に列挙する。図5及び図6は、中間モデル式の例を列挙した表である。図5及び図6には、中間モデル式(DFM関数)と、BSIMモデルにおけるSPICEパラメータと、対応するMOSFET特性との関係が示されている。これらの中間モデル式を利用することで、本実施形態では、半導体回路のアナログ低周波特性や、アナログ高周波特性や、ノイズ特性のばらつき解析用に、SPICEパラメータの設定値を算出することが可能となる。ここで、niとは、ウェル領域における真性キャリア密度を示す。
【0044】
なお、図5及び図6では、MOSFETを構成するゲート電極材料の抵抗率がRGSHで示され、基板の抵抗率がRSUBSHで示され、ソース・ドレイン拡散層の不純物密度がNDNSで示されている。更には、MOSFETに電気的に接続された配線層の膜厚と、MOSFETを覆う層間絶縁膜の膜厚との総和が、ThicknessD15(ノミナル値はThicknessD150)で示されている。なお、詳細には、RGSHは、ゲートポリシリコン電極材料に起因する寄生抵抗を表す比例係数に相当し、RSUBSHは、MOSFETのウェル部分の抵抗率に相当する。
【0045】
以上のように、本実施形態では、SPICEパラメータのノミナル値と設定値とを関係付ける中間モデル式を利用して、MOSFETを有する半導体回路のばらつき解析用に、SPICEパラメータの設定値を算出する。中間モデル式は、MOSFETのばらつき特性に影響を及ぼす変数として、MOSFETの製造条件又は素子構造に関する変数を含んでおり、SPICEパラメータの設定値は、当該変数に関するノミナル値や標準偏差等の情報と、中間モデル式とに基づいて算出される。これにより、本実施形態では、プロセス変動が半導体回路の回路特性の変動に及ぼす影響を直接予測することが可能となる。本実施形態によれば、半導体回路のロジックDC特性への影響だけでなく、アナログRF特性やノイズ特性への影響を高精度にシミュレートすることが可能となる。
【0046】
以下、本発明の第2から第4実施形態について説明する。これらの実施形態は、第1実施形態の変形例であり、これらの実施形態については、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0047】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態におけるSPICE回路シミュレーションについて説明するための図である。図7には、第1実施形態において算出されたSPICEパラメータの設定値が、BSIMモデルに組み込まれる例を示している。
【0048】
図7に示すP1,P2はそれぞれ、中間モデル式に含まれる変数のノミナル値,標準偏差の設定内容を表す。また、図7に示すP3は、これらの変数やSPICEパラメータの設定値を表す。
【0049】
SPICEパラメータのBSIMモデルへの組み込みは、抽出されたSPICEパラメータのノミナル値に中間モデル式を掛けて、得られた積をSPICEパラメータとして設定することで実現される。そして、本実施形態では、中間モデル式に含まれる変数のノミナル値及び標準偏差を、図7に示すように設定する。図7に示すP1には、本実施形態で使用される5つの変数が示されている。
【0050】
本実施形態では、このような設定下でモンテカルロシミュレーションを実行する。これにより、中間モデル式が上記5つの変数のばらつき設定値に従って変動し、半導体回路のばらつき解析結果が得られる。
【0051】
このようにして、本実施形態では、プロセス変動が半導体回路の回路特性の変動に及ぼす影響を直接予測できるようになる。
【0052】
(第3実施形態)
図8は、第3実施形態におけるSPICE回路シミュレーションについて説明するための回路図である。図8には、シミュレーション対象の半導体回路の例である検証用回路の回路図が示されている。
【0053】
図8には、2段に従属接続された差動増幅器(70nm CMOS Technology)が示されている。図8に示す回路内に用いたMOSFETは全て、ゲート長Lが70nm、ゲート幅Wが20umとなっている。また、各抵抗素子は、幅4um、抵抗値500Ωの1つ以上の素子を直列又は並列に接続することで実現されており、これにより、所望の抵抗値が実現されている。図8に示す回路には更に、MIMコンデンサが1つ組み込まれている。
本実施形態では、第1及び第2実施形態で示したSPICE回路シミュレーションを、図8に示す検証用回路に適用する。当該シミュレーションの詳細については、後述の実施形態で説明する。なお、当該シミュレーションは、その他の構成の半導体回路にも同様に適用可能である。
【0054】
(第4実施形態)
図9は、第4実施形態におけるSPICE回路シミュレーションについて説明するためのグラフ及び表である。図9には、図8に示す検証用回路に対しモンテカルロシミュレーションを実施し、その解析結果を実際の測定データと比較した結果が示されている。
【0055】
本実施形態では、半導体回路のばらつき特性の指標として、当該回路のNF、バイアス電流、S21[dB]を採用しており、これらの指標に関する解析結果(シミュレーション結果)及び測定データが図9に示されている。
【0056】
図9に示すように、2GHzのNFの標準偏差の実測値(正確には標準偏差÷平均値の実測値)が0.024なのに対し、解析結果により得られた標準偏差(正確には標準偏差÷平均値)は、0.043であった。また、バイアス電流の標準偏差の実測値が0.078なのに対し、解析結果により得られた標準偏差は、0.059であった。また、2GHzにおけるS21の標準偏差の実測値が0.169なのに対して、解析結果により得られた標準偏差は、0.118であった。
【0057】
このように、上記回路シミュレーションによれば、ばらつき解析にとって有意な結果を得ることができる。
【0058】
(第5実施形態)
第5実施形態では、図5及び図6に示す中間モデル式(DFM関数)の導出方法の詳細について説明する。
【0059】
図5に示すドレイン電流Idrは、強反転領域のドレイン電流の式から導出できる。ドレイン電流Idrの中間モデル式K_IDは、以下の式(7)のように導出される。
【数7】

【0060】
また、G−D(ゲート−ドレイン)間,G−S(ゲート−ソース)間の外部キャパシタンスの中間モデル式K_L0Vは、以下の式(8)のように導出され、これらキャパシタンスの設定値はそれぞれ、以下の式(9),(10)のように導出される。
【数8】

【数9】

【数10】

【0061】
なお、これらの式は、図10に示すように、配線幅のばらつきが、電極間カップリング容量に寄与すると仮定して算出される。図10は、G−D間,G−S間の外部キャパシタンスの中間モデル式の導出方法について説明するための側方断面図である。
【0062】
また、G−B(ゲート−ベース)間の外部キャパシタンスの中間モデル式KCGBは、以下の式(11)のように導出され、当該キャパシタンスの設定値は、以下の式(12)のように導出される。
【数11】

【数12】

【0063】
なお、これらの式は、図11に示すように、ネック長Dが、カップリング容量に寄与すると仮定して算出される。図11は、G−B間の外部キャパシタンスの中間モデル式の導出方法について説明するための側方断面図である。
【0064】
また、ジャンクションCAP AA(Active Area)とウェルのP/N接合(図12参照)に関し、設定値CJ,PBはそれぞれ、以下の式(13),(14)のように与えられ、CJとPBとの関係式は、以下の式(15)のように与えられる。図12は、ジャンクションCAP AAとウェルのP/N接合を示した側方断面図である。
【数13】

【数14】

【数15】

【0065】
そして、CJの中間モデル式K_CJは、以下の式(16)のように導出され、PBの中間モデル式K_PBは、式(17)を利用して、以下の式(18)のように導出される。
【数16】

【数17】

【数18】

【0066】
また、カットオフ周波数の設定値DLCは、以下の式(19)のように与えられ、その中間モデル式K_DLCは、式(20)から(22)を利用して、以下の式(23)のように導出される。
【数19】

【数20】

【数21】

【数22】

【数23】

【0067】
また、熱的ノイズに関し、ゲート入力抵抗RG及び基板抵抗RSUBの設定値はそれぞれ、以下の式(24)及び(25)のように与えられる。
【数24】

【数25】

【0068】
なお、図13に例示した回路においては、X1及びX2で示す箇所が、ノイズを発生する寄生素子に相当し、熱的ノイズに関与する。図13は、熱的ノイズについて説明するための回路の例を示した回路図である。
【0069】
また、フリッカーノイズに関し、設定値KFは、以下の式(26)のように与えられ、その中間モデル式K_KFは、式(27)から(29)を利用して、以下の式(30)のように導出される。
【数26】

【数27】

【数28】

【数29】

【数30】

【0070】
同様に、フリッカーノイズに関し、設定値FCは、以下の式(31)のように与えられ、その中間モデル式K_FCは、式(32)から(35)を利用して、以下の式(36)のように導出される。
【数31】

【数32】

【数33】

【数34】

【数35】

【0071】
本実施形態では、これらの中間モデル式を利用することで、プロセス変動の影響を直接観測可能なシミュレーションを実行することができる。
【0072】
以上、本発明の具体的な態様の例を、第1から第4実施形態により説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0073】
101 物理関数記憶部
102 プロセス変動設定部
103 SPICEパラメータ算出部
104 プロセス変動依存性出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MOSFETを有する半導体回路のばらつき解析用に、前記MOSFETのSPICEパラメータの設定値を算出する回路シミュレーション装置であって、
前記MOSFETのばらつき特性に影響を及ぼす変数として、前記MOSFETの製造条件又は素子構造に関する変数を含み、前記変数により定義される物理量と前記SPICEパラメータとの間に物理的な相関を有する普遍的関数により構成された中間モデル式を記憶する記憶部と、
前記中間モデル式に含まれる前記変数に関する情報を設定するための設定部と、
前記設定部に設定された前記情報と、前記記憶部に記憶された前記中間モデル式とに基づいて、前記SPICEパラメータの設定値を算出する算出部と、
前記半導体回路のプロセス変動依存性を出力する出力部と、
を備えることを特徴とする回路シミュレーション装置。
【請求項2】
前記中間モデル式は、前記変数として、前記MOSFETのゲート寸法と、ゲート絶縁膜の膜厚と、チャネル濃度の少なくともいずれかを含み、
前記半導体回路のアナログ低周波特性のばらつき解析用の前記設定値を算出することを特徴とする請求項1に記載の回路シミュレーション装置。
【請求項3】
前記中間モデル式は、前記変数として、前記MOSFETを構成するゲート電極材料の抵抗率、基板の抵抗率、及びソース・ドレイン拡散層の不純物密度と、前記MOSFETに電気的に接続された配線層の膜厚と、前記MOSFETを覆う層間絶縁膜の膜厚、のうちの少なくともいずれかを含み、
前記半導体回路のアナログ高周波特性又はノイズ特性のばらつき解析用の前記設定値を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の回路シミュレーション装置。
【請求項4】
前記SPICEパラメータが、前記MOSFETの閾値電圧である場合、
前記中間モデル式は、以下の式(36)
【数1】

で表される(ただし、L及びWはそれぞれ、前記ゲート寸法に相当するゲート長及びゲート幅、TOXは前記ゲート絶縁膜の膜厚、NDEPは前記チャネル濃度を表し、L0、W0、TOX0、NDEP0はそれぞれ、L、W、TOX、NDEPのノミナル値を表す)ことを特徴とする請求項1又は2に記載の回路シミュレーション装置。
【請求項5】
MOSFETを有する半導体回路のばらつき解析用に、前記MOSFETのSPICEパラメータの設定値を算出する回路シミュレーション方法であって、
前記MOSFETのばらつき特性に影響を及ぼす変数として、前記MOSFETの製造条件又は素子構造に関する変数を含み、前記変数により定義される物理量と前記SPICEパラメータとの間に物理的な相関を有する普遍的関数により構成された中間モデル式が記憶された情報処理装置を用意し、
前記中間モデル式に含まれる前記変数に関する情報を前記情報処理装置に設定し、
前記情報と前記中間モデル式とに基づいて、前記SPICEパラメータの設定値を前記情報処理装置により算出し、
前記半導体回路のプロセス変動依存性を出力する、
ことを特徴とする回路シミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−70430(P2011−70430A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221388(P2009−221388)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】