説明

めっき液、めっき膜及びその作製方法

【課題】 錫及び錫合金半田めっきにおいて、ウィスカーの発生を抑制することのできる、めっき液、めっき膜及びその作製方法を提供する。
【解決手段】 錫めっき膜又は錫合金めっき膜を作製するためのめっき液に、サッカリンナトリウムを含有させる。好ましくは、サッカリンナトリウムを15g/l以上含有させる。このめっき液を用いて作製されためっき膜は、錫の平均結晶粒径が1.5μm以下であり、ウィスカーの発生が抑制されている。めっき時の電流密度を15mA/cm2以上、カソード電位を飽和カロメル電極(SCE)に対して900mV以上とすることにより、より確実にウィスカーの発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫及び錫合金半田めっきにおける、めっき液、めっき膜及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半田(錫−鉛合金)は、電気及び電子部品の作製に広範囲にわたって使用されている。しかし、近年、廃棄された電子部品の半田が酸性雨等により溶出し、地下水の汚染源となっていることが指摘されている。中でも、特に鉛は環境への影響が大きいため、鉛を含有しない無鉛半田の開発が急務となっている。
【0003】
そこで、このような鉛を含まない無鉛半田として、錫,錫−銅合金,錫−銀合金,錫−インジウム合金,錫−亜鉛合金,錫−ビスマス合金等が提案されている。また、これらの3元,4元合金半田等も注目されている。
【特許文献1】特開2002−80993号公報
【特許文献2】特開2003−147580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような無鉛半田のめっき液、特に、錫めっき液又は亜鉛や銅を含む錫合金めっき液を用いてめっき膜を成膜すると、めっき膜にウィスカーと呼ばれるひげ状の単結晶が発生しやすいという問題があった。そして、ウィスカーが発生しためっき膜を電子部品等に用いると、回路や端子のショートを引き起こし、電子部品等の性能や信頼性を著しく低下させる結果となる。
【0005】
そこで、本発明は、錫及び錫合金半田めっきにおいて、ウィスカーの発生を抑制することのできる、めっき液、めっき膜及びその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
半田めっきにおけるウィスカーの発生原因は、錫の再結晶が関与し、錫又は錫合金半田めっき膜に働く圧縮応力を駆動力として発生すると考えられている。この圧縮応力の発生源は、めっき膜内部に働く応力と外部から加えられる応力の2つに大別される。めっき膜内部に働く応力には、膜中の不純物原子の存在による格子応力や共析水素の脱離により発生する応力、金属間化合物形成などの隣接層との相互作用による応力などが挙げられる。外部より加えられる応力には、めっき膜への機械的負荷又は動作による応力、熱膨張の差による応力などが挙げられる。このように、応力の発生源には多数の要因が想定されている。
【0007】
本発明者らは、内部応力の発生源に着目し、錫及び錫合金半田めっき液にサッカリンナトリウムを加えることによって、めっき膜の錫の平均結晶粒径を1.5μm以下にすることが可能になり、その結果、ウィスカーが発生しにくい引張応力を維持可能なめっき膜を形成できることを見出し、本発明に想到した。
【0008】
すなわち、本発明の請求項1記載のめっき液は、錫めっき膜又は錫合金めっき膜を作製するためのめっき液であって、サッカリンナトリウムを含有することを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項2記載のめっき液は、請求項1において、サッカリンナトリウムを15g/l以上含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3記載のめっき膜は、請求項1又は2に記載のめっき液を用いて作製されためっき膜であって、錫の平均結晶粒径が1.5μm以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4記載のめっき膜の作製方法は、請求項1又は2に記載のめっき液を用いためっき膜の作製方法であって、めっき時の電流密度を15mA/cm2以上とすることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5記載のめっき膜の作製方法は、請求項1又は2に記載のめっき液を用いためっき膜の作製方法であって、めっき時のカソード電位を飽和カロメル電極(SCE)に対して900mV以上とすることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6記載のめっき膜の作製方法は、請求項1又は2に記載のめっき液を用いためっき膜の作製方法であって、めっき膜の下地膜として金膜を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1記載のめっき液によれば、サッカリンナトリウムを含有することで、めっき膜の錫の平均結晶粒径を1.5μm以下にすることが可能になり、めっき表面粗さが低減して引張応力の経時変化が抑えられ、ウィスカーの発生を抑制することができる。
【0015】
本発明の請求項2記載のめっき液によれば、サッカリンナトリウムを15g/l以上含有することで、より確実にウィスカーの発生を抑制することができる。
【0016】
本発明の請求項3記載のめっき膜によれば、錫の平均結晶粒径が1.5μm以下であることで、ウィスカーの発生が抑制されためっき膜を提供することができる。
【0017】
本発明の請求項4記載のめっき膜の作製方法によれば、めっき時の電流密度を15mA/cm2以上とすることで、めっき膜の錫の平均結晶粒径を小さくすることが可能になり、ウィスカーの発生を抑制することができる。
【0018】
本発明の請求項5記載のめっき膜の作製方法によれば、めっき時のカソード電位を飽和カロメル電極(SCE)に対して900mV以上とすることで、めっき膜の錫の平均結晶粒径を小さくすることが可能になり、ウィスカーの発生を抑制することができる。
【0019】
本発明の請求項6記載のめっき膜の作製方法によれば、下地層の金膜にサッカリンナトリウムが吸着しやすいことから、その上に形成するめっき膜の平均結晶粒径をさらに小さくでき、ウィスカーの発生を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明のめっき液、めっき膜及びその作製方法について詳細に説明する。
【0021】
本発明のめっき液は、錫めっき膜又は錫合金めっき膜を作製するためのめっき液であって、サッカリンナトリウムを含有する。無鉛半田の錫めっき液又は錫合金めっき液を用いてめっき膜を成膜すると、めっき膜にウィスカーが発生しやすいが、めっき液にサッカリンナトリウムを含有させることにより、ウィスカーの発生を抑制することができる。すなわち、サッカリンナトリウムを含有することで、めっき膜の錫の平均結晶粒径を1.5μm以下にすることが可能になり、めっき表面粗さが低減して引張応力の経時変化が抑えられ、内部応力が小さくなることで、ウィスカーの発生を抑制することができる。
【0022】
なお、本発明のめっき液中のサッカリンナトリウムの濃度は、15g/l以上とするのが好ましい。15g/l未満の場合は、めっき膜の錫の平均結晶粒径が1.5μm以上となり、ウィスカーの発生を抑制する効果が低い。また、200g/lを超えるサッカリンナトリウムを添加しても、200g/l以下の場合と比較してウィスカーの発生を抑える効果にほとんど差がないので、サッカリンナトリウムの濃度は200g/l以下とするのが好ましい。
【0023】
本発明のめっき液に含まれる錫塩、錫と合金を形成する金属の塩の種類や濃度は、従来の錫めっき、錫合金めっきに用いられるめっき液と同様である。例えば、錫塩として、塩化錫を0.1〜0.5mol/l、錫と合金を形成する金属の塩として、硫酸銅を0.001〜0.010mol/lとすることができる。錫と合金を形成する金属としては、銅のほか、銀,インジウム,亜鉛,ビスマスなど、公知のものを用いることができる。さらに、めっき液にクエン酸などの添加物を加えてもよい。
【0024】
本発明のめっき膜は、上記のめっき液を用いて作製されたものであって、錫の平均結晶粒径は1.5μm以下となっている。したがって、ウィスカーの発生が抑制されたものとなっている。
【0025】
ここで、平均結晶粒径は、走査型イオン顕微鏡(SIM)を用いて算出することができる。顕微鏡の走査ライン長をl、走査ライン上の結晶粒子の数をn、顕微鏡の拡大率をmとすると、平均結晶粒径rは、r=1.5×l/(n×m)の式より求められる(Y.Wada, J.Electrochem.Soc., 125, 1494(1978))。
【0026】
本発明のめっき膜の作製方法は、上記のめっき液を用いるものであって、めっき液に被めっき物を浸漬し、めっき時の電流密度を15mA/cm2以上として被めっき物上にめっき膜を作製するものである。めっき時の電流密度を15mA/cm2以上とすることにより錫の結晶核の生成が多くなり、サッカリンナトリウムの添加量が少ない場合においても、めっき膜の錫の平均結晶粒径を小さくすることが可能になり、確実にウィスカーの発生を抑制することができる。なお、100mA/cm2を超える電流密度としても、100mA/cm2以下の場合と比較してめっき膜の錫の平均結晶粒径にほとんど差がないので、電流密度は100mA/cm2以下とするのが好ましい。
【0027】
また、本発明のめっき膜の作製方法は、上記のめっき液を用いるものであって、めっき液に被めっき物を浸漬し、めっき時のカソード電位を飽和カロメル電極(SCE)に対して900mV以上として被めっき物上にめっき膜を作製するものである。めっき時のカソード電位を飽和カロメル電極(SCE)に対して900mV以上とすることにより錫の結晶核の生成が多くなり、サッカリンナトリウムの添加量が少ない場合においてもめっき膜の錫の平均結晶粒径を小さくすることが可能になり、確実にウィスカーの発生を抑制することができる。なお、1500mVを超えるカソード電位としても、1500mV以下の場合と比較してめっき膜の錫の平均結晶粒径にほとんど差がないので、カソード電位は1500mV以下とするのが好ましい。
【0028】
また、本発明のめっき膜の作製方法は、上記のめっき液を用いるものであって、めっき膜の下地膜として金膜を用いたものである。下地層の金膜にサッカリンナトリウムが吸着しやすいことから、下地にニッケルや銅を用いた場合と比較して、下地層の上に形成するめっき膜の平均結晶粒径をさらに小さくできる。その結果、ウィスカーの発生を抑制できる。
【0029】
以上、本発明のめっき液、めっき膜及びその作製方法について説明してきたがこれに限定されず、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形実施が可能である。
【実施例1】
【0030】
表1に示す組成のめっき液を用いて、めっき浴温度30℃、pH3〜5、電流密度3〜20mA/cm2の条件下で、めっき膜を作製した。なお、サッカリンナトリウムについては、種々の濃度においてめっき膜を作製した。
【0031】
【表1】

【0032】
作製しためっき膜について、ガスグロー放電発光分析装置(GDOES)を用いて組成分析を行ったところ、錫が80〜99%、銅が1〜20%であり、めっき膜には水素、硫黄、炭素が取り込まれていることが確認された。また、サッカリンナトリウムの濃度が高くなると、めっき膜中の不純物の濃度が高くなるとともに、錫の平均結晶粒径が小さくなることが確認された。
【0033】
図1に、被めっき物としてのニッケル層上、銅層上にめっき膜を作製したときの、サッカリンナトリウム濃度とめっき膜の内部応力の関係を示す。サッカリンナトリウム濃度が高いほど内部応力が引張応力側にシフトすることがわかった。
【0034】
ここで、内部応力σは、被めっき物の弾性係数をE、被めっき物の厚さをh、被めっき物の曲率をR、めっき膜の厚さをtとしたときに、σ=Eh2/6Rtの式から求めることができる(Stoney.G.G., Proc.(London)A82.172(1909))。
【0035】
また、図2に、平均結晶粒径と内部応力の関係、図3に、平均結晶粒経とウィスカー発生密度の関係、図4に内部応力とウィスカー発生密度の関係を示す。これらの結果より、結晶粒径を小さくすることによって内部応力が引張応力側へシフトし、ウィスカーの発生を抑制できることが確認された。特に図3より、平均結晶粒径が1.5μm以下のときにウィスカー発生密度が劇的に小さくなることがわかった。
【0036】
また、図5に、サッカリンナトリウム濃度が50g/lのとき(上)と、5g/lのとき(下)に作製されためっき膜のX線回折の測定結果を示す。この図5から明らかなように、サッカリンナトリウム濃度の高い50g/l(上)のときの方が(220)/(200)の配向が大きくなっており、結晶構造がひずんでいることがわかった。したがって、サッカリンナトリウムをめっき液に加えることにより結晶がひずみ、ウィスカーが成長しにくい構造となっていると考えられた。
【実施例2】
【0037】
表1に示す組成のめっき液を用いて、めっき浴温度30℃、pH3〜5の条件下で、電流密度を変化させてめっき膜を作製した。図6には、サッカリンナトリウムを添加しない場合の電流密度と平均結晶粒径の関係を示すが、電流密度を大きくすることにより、結晶粒径が小さくなることが確認された。この場合も実施例1の場合と同様に、めっき膜の結晶構造において(220)/(200)の配向が大きくなっており、結晶がひずんだことによりウィスカーが成長しにくい構造となっていると考えられた。図3より、平均結晶粒径が1μm以下のときに確実にウィスカー発生密度を小さくなることが確認されている。図5から、平均結晶粒径を1μm以下とするための電流密度は15mA/cm2以上である。実際に、15mA/cm2以上の電流密度で作製しためっき膜は、ウィスカーが抑制されていることが確認された。
【0038】
このように、電流密度を大きくすることによって、さらに確実にウィスカーの発生を抑制できることがわかった。
【実施例3】
【0039】
表1に示す組成のめっき液を用いて、めっき浴温度30℃、pH3〜5の条件下で、カソード電位を飽和カロメル電極(SCE)に対して900〜1500mVの範囲で変化させてめっき膜を作製した。このような高いカソード電位でめっき膜を作製することによって、結晶の核生成密度が増え、結晶粒径が小さくなり、ウィスカーの発生が抑制されることが確認された。
【実施例4】
【0040】
表1に示す組成のめっき液を用いて、下地層として金を用い、めっき浴温度30℃、pH3〜5、電流密度3〜20mA/cm2の条件下で、めっき膜を作製した。なお、サッカリンナトリウムについては、種々の濃度においてめっき膜を作製した。作製した膜について、GDOESを用いて組成分析を行った。その結果を図7、図8に示す。下地に銅を用いた場合と比較し、イオウの取り込みが多くなっていることが確認された。また、結晶粒径も小さくなり、ウィスカーの発生が抑制されることが確認された。イオウが取り込まれることによりめっき膜中に共析水素が豊富になり、この共析水素が結晶成長と内部応力に影響を及ぼしているものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例1におけるサッカリンナトリウム濃度とめっき膜の内部応力の関係を示すグラフである。
【図2】同上平均結晶粒径と内部応力の関係を示すグラフである。
【図3】同上平均結晶粒経とウィスカー発生密度の関係を示すグラフである。
【図4】同上内部応力とウィスカー発生密度の関係を示すグラフである。
【図5】同上めっき膜のX線回折の測定結果を示すチャートである。
【図6】本発明の実施例2における電流密度と平均結晶粒径の関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例4における金膜上とニッケル膜上にそれぞれめっき膜を作製したときの組成と、サッカリンナトリウム濃度の関係を示すグラフである。
【図8】同上金膜上とニッケル膜上にそれぞれめっき膜を作製したときのイオウの分布を示すチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錫めっき膜又は錫合金めっき膜を作製するためのめっき液であって、サッカリンナトリウムを含有することを特徴とするめっき液。
【請求項2】
サッカリンナトリウムを15g/l以上含有することを特徴とする請求項1記載のめっき液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のめっき液を用いて作製されためっき膜であって、錫の平均結晶粒径が1.5μm以下であることを特徴とするめっき膜。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のめっき液を用いためっき膜の作製方法であって、めっき時の電流密度を15mA/cm2以上とすることを特徴とするめっき膜の作製方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のめっき液を用いためっき膜の作製方法であって、めっき時のカソード電位を飽和カロメル電極(SCE)に対して900mV以上とすることを特徴とするめっき膜の作製方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のめっき液を用いためっき膜の作製方法であって、めっき膜の下地膜として金膜を用いたことを特徴とするめっき膜の作製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−322014(P2006−322014A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−143413(P2005−143413)
【出願日】平成17年5月17日(2005.5.17)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(000205122)大宏電機株式会社 (78)
【Fターム(参考)】