説明

アクスル内潤滑装置

デフハウジング15の底部側内周面には吸入口48が形成され、同吸入口48は吸入管路43を介してデフハウジング15の外周面に形成した吸出口42と接続している。同吸出口42は、潤滑ポンプ30を取付ける取付座16に形成されている。取付座16の上方部位には、潤滑ポンプ30から吐出される潤滑油を導入する吐出口44が形成され、同吐出口44には吐出管路45が接続している。吐出管路45の端部には、第1吐出口46及び第2吐出口47がそれぞれ形成されている。吸入管路43及び吐出管路45は、鋳造等によりデフハウジング15と一体に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、装輪車両のアクスルハウジング内に収納した駆動装置を潤滑する潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、装輪車両のアクスルハウジング内に収納した駆動装置を潤滑する潤滑装置としては、例えば潤滑調整式差動制限装置(特許文献1参照。)や加圧潤滑装置(特許文献2参照。)などが提案されている。
【0003】
図13には、特許文献1に記載された潤滑調整式作動制限装置の要部構成についての断面図を示している。潤滑調整式作動制限装置では、遊星歯車式センタデフ70と、差動制限機構としての油圧多板クラッチ80と、を備えたセンタデファレンシャルとして構成されている。
【0004】
遊星歯車式センタデフ70は、リングギヤ78Aと、プラネタリピニオン78Bと、サンギヤ78Cと、プラネタリキャリア78Dとを備えている。リングギヤ78Aには、図示しないエンジンから変速機を介して駆動力が入力される構成となっている。
【0005】
リングギヤ78Aと連動するプラネタリピニオン78Bを介して、プラネタリキャリア78Dから後輪側へ駆動力が配分される。また、リングギヤ78A及びプラネタリピニオン78Bと連動するサンギヤ78Cから、前輪側へ駆動力が配分される。中空軸71は、ボルト83により後輪ドライブ用リングギヤ84Aを装着した中空部材72とセレーション結合している。
【0006】
中空軸73は、フロントデファレンシャル74のフロントデフケース75とセレーション結合している。サイドギヤ88Cは左前輪駆動軸89Lと一体回転するように装着され、サイドギヤ88Dは右前輪駆動軸89Rと一体回転するように装着されている。
【0007】
中空部材72に結合された後輪側の部材76と、フロントデフケース75に結合された前輪側の部材77との間には、油圧多板クラッチ80が設けられている。そして、互いに差動し得る後輪側の部材76と前輪側の部材77との間には、内接型の歯車ポンプ81が設けられている。
【0008】
歯車ポンプ81は、フロントデファレンシャル74に連結する右前輪駆動軸89Rと同軸上に配置されており、後輪側の部材76と前輪側の部材77との差動状態に応じて駆動されることになる。歯車ポンプ81の作動により、潤滑油を油圧多板クラッチ80の内側から外側に向けて供給することができる。これにより、潤滑油を油圧多板クラッチ80に供給することができ、潤滑油による攪拌抵抗の発生を抑制することができ、油圧多板クラッチ80の摩擦プレートの耐久性を向上することができるとしている。
【0009】
図14には、特許文献2に記載された加圧潤滑装置における背面図を示している。潤滑ポンプ91は、ハウジング90の基底部にある管継手94と給油管92を介して接続している。管継手94は、後壁93に沿って後壁に外部配管されている。これにより、潤滑ポンプ91は、前記管継手94を介してハウジング90の基底部内における図示せぬ油受から潤滑油を吸入することができる。
【0010】
しかし、特許文献1に記載された潤滑調整式差動制限装置では、潤滑用の歯車ポンプ81を駆動軸89Rと同軸に配置し、かつ前輪側の部材77と後輪側の部材76との間に設ける構成であるため、歯車ポンプ81としては専用の構成を備えた潤滑ポンプとして構成しなければならなかった。また、歯車ポンプ81としての構造が複雑となり、その組付け作業も煩雑となっているため、前輪駆動装置の製造コスト高を招いてしまう問題がある。
【0011】
更に、歯車ポンプ81が故障したときには、前輪駆動装置を分解して歯車ポンプ81の修理を行う必要があり、修理のために多大の作業工程数を必要とした。更にまた、歯車ポンプ81の潤滑油吸入側にはストレーナが配設されていないため、歯車ポンプ81にごみ等が吸込まれてしまい、吸い込まれたごみ等により歯車ポンプ81あるいは駆動装置を損傷してしまう恐れがあった。また、潤滑油の冷却能力を増大する必要が生じた場合には、それに対する対応が困難であると言う問題もあった。
【0012】
特許文献2に記載された加圧潤滑装置では、フィルタを管継手94に設けている。しかし、管継手94と潤滑ポンプ91とを接続する給油管92は、後壁93の外側に配管されているため、外部の障害物に給油管92が接触すると給油管92が破損してしまう危険性があり、給油管92の破損により潤滑油が外部に流出してしまう問題があった。特に、外部の障害物と接触する危険性が高いセンタデファレンシャルのハウジングに給油管92を配管させためには、配管部を保護カバーで覆うなどの対策が別途必要であった。
【特許文献1】特開平5−262150号公報
【特許文献2】特開昭57−40164号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
解決しようとする課題は、外部の障害物と接触しても潤滑用の配管が損傷することなく、潤滑ポンプの故障時における修理が容易であり、潤滑油に混入したごみ等によって潤滑ポンプあるいは駆動装置を損傷する恐れが無い潤滑装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明は、上記目的を達成するため車両用アクスルのアクスル内潤滑装置において、前記アクスルハウジングの底部側内周面に形成した吸入口、前記アクスルハウジングの外周面における前記吸入口の形成位置よりも上方の部位に形成した吸出口、及び前記吸入口と前記吸出口とを連通する吸入管路が、前記アクスルハウジングと一体に形成されてなり、前記吸出口が潤滑ポンプに接続されてなることを最も主要な特徴となしている。
【0015】
また、本願発明では、前記アクスルハウジングの外周面における前記吸入口の形成位置よりも上方における異なる部位に少なくとも2個以上形成した吐出口、及び前記各吐出口間を連通する吐出管路が、前記アクスルハウジングと一体に成形されてなり、前記潤滑ポンプからの吐出圧油が前記吐出口の一つに供給されてなることを主要な特徴となしている。
【0016】
更に、潤滑ポンプが、アクスルハウジングの外周面に配設されていること、可逆式のポンプから構成されており、前記駆動装置の駆動力により駆動されること、及び電動式潤滑ポンプであることをそれぞれ主要な特徴となしている。
【0017】
更にまた、本願発明では、潤滑油をろ過するストレーナが、前記吸入管路内に内装されてなることを主要な特徴となしている。
【発明の効果】
【0018】
本願発明のアクスル内潤滑装置では、アクスルハウジング内の潤滑油を潤滑ポンプに吸引する管路の少なくとも一部として、アクスルハウジングと一体に形成した吸入管路を備えている。
【0019】
これにより、車両の走行中等においてアクスルハウジングの底部が外部の障害物に接触したとしても、障害物によって吸入管路を損傷する恐れは無くなり、アクスル内潤滑装置としての信頼性、耐久性を向上させることができる。
【0020】
前記アクスルハウジングの外周面における前記吸入口の形成位置よりも上方に吐出口を形成し、同吐出口を吐出管路により連通させる構成や、駆動装置に供給するために配管する供給管路の少なくとも一部を、アクスルハウジング内に形成する構成を用いることができる。このため、前記吐出管路や供給管路の一部がアクスルハウジングに外部配管されたとしても、同外部配管された吐出管路や供給管路を障害物との接触が防止できる部位に配管することができる。
【0021】
潤滑ポンプの設置場所としては、前記吸入管路の吸出口がアクスルハウジングの外周面に形成されているので、潤滑ポンプをアクスルハウジングの外周面に配設する場合には、潤滑ポンプの設置場所に吸入管路の吸出口、潤滑ポンプの吐出口を形成することができる。このため、潤滑ポンプを設置可能な部位であればアクスルハウジングの外周面上に潤滑ポンプを設置することが容易となり、潤滑ポンプの修理性が向上する。
【0022】
潤滑ポンプとして可逆式のポンプを用いることにより、車両の前後進におけるいずれの状態においても潤滑油の供給が可能となり、車両の性能向上を図ることができる。また、潤滑ポンプを電動式にすることにより、潤滑ポンプの回転数を任意に設定することができるようになる。
【0023】
本願発明では、潤滑油を濾過するストレーナを吸入管路内に設けることができる。これにより、ごみ等が潤滑油とともに潤滑ポンプに吸引されることが防止され、ごみ等の影響による潤滑ポンプあるいは駆動装置への損傷を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、アクスル内潤滑装置を備えたホイールローダの外観図である。(実施例1)
【図2】図2は、潤滑ポンプ取付け構成を示す平面断面図である。(実施例1)
【図3】図3は、アクスルのデフハウジング部の側面一部断面図である。(実施例1)
【図4】図4は、図3のA−A矢視図である。(実施例1)
【図5】図5は、図3のB−B矢視図の部分拡大図である。(実施例1)
【図6】図6は、潤滑ポンプを軸ハウジングに取付けた平面断面図の部分図である。(実施例1)
【図7】図7は、アクスルの正面図である。(実施例1)
【図8】図8は、アクスル内潤滑装置のシステム図である。(実施例1)
【図9】図9は、潤滑ポンプ取付構成を示す平面断面図に部分図である。(実施例2)
【図10】図10は、管継手ブロックを取付けたデフハウジング部の側面一部断面図である。(実施例3)
【図11】図11は、図10のC−C矢視図である。(実施例3)
【図12】図12は、アクスルと別置きの冷却装置とを接続する場合のアクスル内潤滑のシステム図である。(実施例3)
【図13】図13は、潤滑調整式作動制限装置の要部構成を示す断面図である。(従来例1)
【図14】図14は、加圧潤滑装置における背面図を示している。(従来例2)
【符号の説明】
【0025】
10、11 アクスル
12 アクスルハウジング
13 軸ハウジング
15 デフハウジング
16 取付座
17 ボス部
18 ピニオンハウジング
20 駆動装置
21 デフケース
23a、23b 差動歯車
24 車軸
25 駆動軸
26 リングギヤ
27 ピニオン
28 伝導軸
30、30a 潤滑ポンプ
31 ポンプ軸
34 小歯車
35 軸
36 大歯車
37 大歯車
38 油圧多板クラッチ
40 ストレーナ室
41 ストレーナ
42 吸出口
43 吸入管路
44 吐出口
45 吐出管路
46 第1吐出口
47 第2吐出口
48 吸入口
50 ブレーキ室
52 第1配管
53 第2配管
60 管継手ブロック
61 吸込通路
62 吸込口
63 吐出通路
64 取入口
65 油圧ポンプ
66 吸入回路
67 吐出回路
68 オイルクーラ
70 遊星歯車式センターデフ
71 中空軸
72 中空部材
73 中空軸
74 フロントデファレンシャル
75 フロントデフケース
78A リングギヤ
78B プラネタリピニオン
78C サンギヤ
78D プラネタリキャリヤ
79 センタデフケース
80 油圧多板クラッチ
81 歯車ポンプ
85 プロペラシャフト
89R 右前輪駆動軸
89L 左前輪駆動軸
91 潤滑ポンプ
90 ハイジング
94 管継手
92 給油管
93 後壁
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本願発明に係るアクスル内潤滑装置の一例の実施例について図面を参照して説明する。アクスル内潤滑装置を備えた装輪車両としてホイールローダ1を例にとってその外観図を示している。以下においてホイールローダ1の構成を用いて、本願発明に係わるアクスル内潤滑装置について説明を行うが、本願発明のアクスル内潤滑装置はホイールローダに限定されて適用されるものではなく、装輪車両のアクスルハウジングに対して適用することができるものである。
【実施例1】
【0027】
図1において、左右一対の前車輪2、2と後車輪3、3とを有する車体4の前部には、作業機5が設けられている。車体4のほぼ中央部には運転室6が搭載され、後部にはエンジン7を収納したエンジンルーム8が搭載されている。前車輪2、2及び後車輪3、3は、前方のアクスル10及び後方のアクスル11における左右両端部にそれぞれ取付けられており、変速機9を介してアクスル10、11に伝達されるエンジン7の動力によって駆動される。
【0028】
アクスル10の平面断面図を示した図2に示すように、図示せぬエンジンからの駆動力は、伝導軸28によって、アクスルハウジング12内に導入される。伝導軸28は、一対の軸受19、19を介してピニオンハウジング18に回転自在に支承されている。アクスルハウジング12としては、後述する軸ハウジング13、デフハウジング15及びピニオンハウジング18から構成されている。
【0029】
伝導軸28の先端部に取付けたピニオン27は、デフケース21に取付けたリングギヤ26と噛合しており、エンジンからの駆動力を伝導軸28からデフケース21に伝達することができる。デフケース21は、一対の軸受22、22を介してデフ(差動機構)ハウジング15の軸ハウジング13内に突出した部分によって回転自在に支承されている。デフハウジング15は、軸ハウジング13に設けられた開口部14に対して着脱自在に取付けられている。
【0030】
デフケース21の内方に向けて取付けた支軸29には、差動歯車23aが同支軸29を回転軸として回転自在に支承されている。差動歯車23aは、一対の車軸24、24にそれぞれ取付けた差動歯車23b、23bと噛合している。差動歯車23a、23b、23bによって、差動歯車機構を構成している。この差動歯車機構を介して、エンジンからの駆動力により回転するデフケース21の回転が、差動歯車23aから差動歯車23b、23bに伝達され、車軸24、24をそれぞれ回転させることができる。
【0031】
また、差動歯車機構としては、車軸24と車軸24との間で回転に差が生じたとき、同回転の差を吸収することができる作用を奏する。
デフケース21と差動歯車23b、23bとの間には、油圧多板クラッチ38がそれぞれ配設されており、デフケース21と一対の車軸24、24とで駆動軸25を構成している。
【0032】
デフハウジング15の外側面部に設けられた取付座16には、潤滑ポンプ30がボルト32により着脱自在に締着されている。取付座16の内側に設けたボス部17には軸受33が配設され、先端部に小歯車34をスプライン結合した軸35が同軸受33を介して回転自在に取付けられている。前記軸35の基端部は、潤滑ポンプ30のポンプ軸31に対して連接することができる構成となっている。
【0033】
駆動軸25の一部材であるデフケース21には大歯車36が取付けられ、アクスルハウジング12内に突出した前記軸35の小歯車34と噛合している。これにより、デフケース21の回転を潤滑ポンプ30の駆動力として取り出すことができる。潤滑ポンプ30は可逆式のポンプとして構成されているので、車両が前後進いずれの方向に走行してデフケース21が正逆転しても、潤滑ポンプ30を作動させることができる。
【0034】
図3はアクスル10のデフハウジング15部の側面一部断面図である。デフハウジング15の側面部に設けられた取付座16には、6本のボルト32を介して、潤滑ポンプ30が取付けられている。図3で示すように潤滑ポンプ30の下方には後述するストレーナ室40が設けられており、同ストレーナ室40には、潤滑油を濾過するストレーナ41が着脱自在に取付けられている。前記ストレーナ室40は、デフハウジング15の底部近傍に設けられている。
【0035】
図4は、アクスル10のデフハウジング15部の側面一部断面図である図3のA−A矢視図であり、図5は、図3のB−B矢視図である。図4、図5で示すように、デフハウジング15の底部側内周面には吸入口48が形成され、同吸入口48は吸入管路43を介してデフハウジング15の外周面に形成した吸出口42と接続している。同吸出口42は、潤滑ポンプ30を取付ける取付座16に形成されており、前記吸入口48の形成位置よりも上方の位置に形成されている。吸入口48の形成口数、形成部位は図示例に限定されるものではなく、必要に応じた形成工数を所望の形成部位に形成することができるものである。
【0036】
これにより、潤滑ポンプを地上の障害物と衝突する危険性のない部位に配設することができ、前記吸出口42を介してデフハウジング15内に貯留している潤滑油を吸引することができる。しかも、吸入管路43をデフハウジング15内に内蔵させることができるので、地上の障害物がデフハウジング15の底部を擦ったとしても、デフハウジング15の吸入管路43が損傷してしまうことを防止できる。
【0037】
また、外部配管した場合に必要な保護カバー等が不要となり、保護カバーを配設するために必要とする地面からの高さ寸法を確保することが不要となる。このことは、保護カバーを配設した場合に比べてコストを安く押さえることができる。吸入管路43は、鋳造によりデフハウジング15と一体成型することも、デフハウジング15内部に溶接等により一体に形成することができる。
【0038】
吸入管路43における吸入口48側には、ストレーナ室40が形成されている。図5に示すように、ストレーナ室40には、ストレーナ41が着脱自在に装着されている。また、ストレーナ室40にはデフハウジング15の底部側内周面に開口した前記吸入口48が形成されている。吸入口48、ストレーナ室40を備えた吸入管路43及び吸出口42は、鋳造等によりデフハウジング15と一体に形成されている。
【0039】
潤滑油を濾過するストレーナ41を吸入管路43内に設けることにより、ごみ等が潤滑油とともに潤滑ポンプに吸引されることが防止され、ごみ等の影響による潤滑ポンプあるいは駆動装置への損傷を防止できる。このため、アクスル内潤滑装置及び駆動装置の信頼性、耐久性を向上させることができる。
【0040】
しかも、ストレーナ41はコンパクトな配置で配設構造を簡単とすることができ、製造コストを安くすることができる。ストレーナ41は吸入管路43の吸入口48に配設することも、吸入管路43の吸出口42に配設することもできる。本願発明においてはストレーナ41を前記吸入口48又は前記吸出口42に配設した構成に関しても、吸入管路43内に配設した構成に包含されているものである。
【0041】
図4に示すように、取付座16の上方部位には、潤滑ポンプ30から吐出される潤滑油を導入する吐出口44が形成され、同吐出口44には吐出管路45が接続している。吐出管路45の端部には、第1吐出口46及び第2吐出口47がそれぞれ形成されている。また、吐出口44、吐出管路45、第1吐出口46、及び第2吐出口47も、鋳造によりデフハウジング15と一体に形成されている。吐出管路45は吸入管路43と同様に、鋳造によりデフハウジング15と一体成型することも、デフハウジング15内部に溶接等により一体に形成することができる。
【0042】
これにより、潤滑ポンプから吐出した潤滑油を駆動装置に供給するために配管する供給管路の少なくとも一部として、デフハウジング15内に吐出管路45を形成することができる。このため、前記供給管路の一部がアクスルハウジング12に外部配管されたとしても、同外部配管された供給管路を障害物との接触が防止できる部位に配管することが可能となる。
【0043】
吸入管路43及び吐出管路45の縦断面形状としては、円形断面、扁平断面形状等の形状を形成することができるものであるが、吸入管路43及び吐出管路45を形成したデフハウジング15部の肉厚を薄くする上からも、また、吸入管路43内を流れる潤滑油及び潤滑ポンプ30から吐出した潤滑油をデフハウジング15で冷却する上からも、縦断面形状を扁平断面形状に形成しておくことが望ましい。
【0044】
吸入管路43及び吐出管路45の断面形状を扁平形状とすることにより、吸入管路43及び吐出管路45の断面積を大きくした状態で吸入管路43及び吐出管路45を形成したアクスルハウジングの肉厚が厚くならないように構成することができる。特に、寒冷地、冬場等において潤滑油の粘度が高くなったとしても、吸入管路43及び吐出管路45の断面積が大きく形成することができるので、吸入管路43及び吐出管路45内での潤滑油の流れを流れ易くすることができる。また、アクスルハウジングの肉厚を厚く形成しなくても、アクスルハウジング内に吸入管路43及び吐出管路45を形成することができるので、アクスルハウジング底面と地面との間隔を十分に取ることができる。
【0045】
潤滑ポンプ30を取付ける取付座16の形成場所として、デフハウジング15に形成した例を示したが、図6に示すように、取付座16を軸ハウジング13に形成することもできる。このとき、軸ハウジング13には図4に示したと同様に図示せぬ吸引管路43及び吐出管路45をデフハウジング15と一体に形成しておくことができる。
【0046】
潤滑ポンプ30は、ボルト32により取付座16に対して着脱自在に締着することができる。取付座16の内側に設けたボス部17には軸受33が配設されており、同軸受33を介して、先端部に小歯車34をスプライン結合した軸35が回転自在に取付けられている。前記軸35の基端部は、潤滑ポンプ30のポンプ軸31に対して連接することができる構成となっている。
【0047】
このため、潤滑ポンプ30としては、市販の潤滑ポンプを使用することができ、例えば、日本オイルポンプ株式会社製のTOP・2RA・12C形式の可逆転式トロコイドポンプなどを好適に使用することができる。
【0048】
潤滑ポンプ30としては、市販の潤滑ポンプを利用することができるので、コストを安く抑えることができる。しかも、潤滑ポンプの取付け位置を自由に設定することができるので、設計の自由度を増すことができる。
【0049】
駆動軸25の一部材であるデフケース21には大歯車37が取付けられ、軸ハウジング13内に突出した前記軸35の小歯車34と噛合している。これにより、デフケース21の回転を潤滑ポンプ30の駆動力として取り出すことができる。潤滑ポンプ30は可逆式のポンプとして構成することで、車両の前後進いずれの方向へ走行してデフケース21が正逆転しても、潤滑ポンプ30を作動させることができる。
【0050】
取付座16の形成部位としては、図2に示すようにデフハウジング15上に形成することも、図6に示すように軸ハウジング13上に形成することも、また、例示はしていないがピニオンハウジング18上に形成することができる。しかも、潤滑ポンプ30を取付ける取付座16の形成部位としては、デフハウジング15、軸ハウジング13及びピニオンハウジング18を備えたアクスルハウジング12上において、地上の障害物に潤滑ポンプ30が衝突しない部位に形成することができる。
【0051】
また、潤滑ポンプ30を駆動する駆動源として、デフケース21の回転を取り出す構成を例示したが、潤滑ポンプ30を駆動させるのはデフケース21の回転以外にも、エンジンからの回転が伝達される伝導軸28の回転を取り出して潤滑ポンプ30を駆動するように構成することもできる。
【0052】
潤滑ポンプ30を車輪駆動装置の駆動力で駆動させることができるので、潤滑ポンプの回転数を車速に比例して駆動させることができるようになる。特に、ブレーキ負荷が大きいとき(例えば、高速走行時における制動時)には、潤滑油の循環流量を増大させて高い冷却特性を得ることができる。
【0053】
また、ブレーキ負荷が小さな低速走行時には、潤滑ポンプ30の回転数を小さくすることができ、ポンプ損失を少なくしてポンプ効率を向上させることができる。潤滑ポンプ30として可逆式のポンプを用いることにより、車両の前後進におけるいずれの状態においても潤滑油の供給が可能となり、車両の性能向上を図ることができる。
【0054】
潤滑ポンプ30を電動式潤滑ポンプとすることにより、潤滑ポンプ30の回転数を任意に設定することができるようになる。これにより、必要な時に必要最小限の潤滑油を供給することが可能となり、動力ロスを低減することができ、潤滑ポンプの作動効率の向上を図ることができる。
【0055】
吸入口48と吸出口42を連通する吸入管路43は、アクスルハウジング12と一体に形成することができる。このため、取付座16をアクスルハウジング12の所望の部位に形成したとしても、アクスルハウジング12内の底部側内周面に形成した吸入口48に接続している吸出口42を、前記取付座16に形成することができる。
【0056】
次にアクスル内潤滑装置の構成について、前車輪2、2を取付けたアクスル10を例にして説明を行うが、本願発明のアクスル内潤滑装置は、後車輪3、3を取付けたアクスル11に対しても適用することができるものである。図7はアクスル10の概略要部構成を示す正面図である。図7において、アクスルハウジング12の左右両端部にはブレーキ室50、50が設けられ、その外側には終減速機51、51が設けられている。それぞれの終減速機51には、前車輪2が取付けられている。
【0057】
ブレーキ室50には、例えば図示しない多板式摩擦ブレーキが収納されている。デフハウジング15に設けた第1吐出口46と一方のブレーキ室50とは、アクスルハウジング12の上部に配管した第1配管52により接続されている。また、第2吐出口47と他方のブレーキ室50とはアクスルハウジング12の上部に配管した第2配管53により接続されている。しかも、外部配管した第1配管52及び第2配管53は、アクスルハウジング12の上部に配管されているので障害物によって損傷する危険性が防止されている。
【0058】
図8には、アクスル内潤滑装置のシステム構成図を示している。図8において、アクスルハウジング12内に貯留されている潤滑油は、オイルレベル位置まで満たされている。図示せぬ吸入口から吸入された潤滑油は、ストレーナ室40に配設したストレーナ41によりろ過された後、吸入管路43を介して潤滑ポンプ30により吸入される。
【0059】
潤滑ポンプ30から吐出された潤滑油は、吐出口44から吐出管路45を経て第1配管52及び第2配管53に導入され、第1配管52及び第2配管53の接続先であるブレーキ室50、50内にそれぞれ放出される。このとき、吸入管路43及び吐出管路45を通過した潤滑油は、同吸入管路43及び吐出管路45を内蔵したデフハウジング15の表面から放熱することができ、冷却された状態となってブレーキ室50内に放出されることになる。
【0060】
ブレーキ室50内に放出された潤滑油は、破線で示すように、ブレーキ室50に収納されている図示せぬブレーキを冷却する。冷却後に高温となった潤滑油は、終減速機51を経てアクスルハウジング12内に貯留されている比較的低温の潤滑油と混合する。これにより、ブレーキ室50内のブレーキを冷却して高温となった潤滑油の温度を下げることができる。しかも、アクスルハウジング12内で貯留されている間には、混合した潤滑油の温度は平均化されることになる。
【0061】
また、アクスルハウジング12の全表面積から放熱することができるので、アクスルハウジング12の外表面全体を潤滑油の放熱面積として利用しながら、潤滑油を常に冷却効率が良い状態で貯留しておくことができる。しかも、冷却された潤滑油が、例えば駆動装置の多板式摩擦ブレーキ部に供給されることになり、オイルクーラ無しでも高い冷却効果を上げることができる。
【0062】
アクスルハウジング12の外表面に沿ったアクスルハウジング12内に吸入管路が形成されているので、低コストでもって車両性能を大幅に向上させることができ、高温環境下での長時間走行や長距離連続して坂道を下ることなどが可能になる。
【0063】
潤滑ポンプ30をアクスルハウジング12の外周面に配設した場合には、潤滑ポンプ12への供給口として前記吸入管路43の吸出口42を用いることができるようになり、前記吐出管路45の入力側における吐出口44を潤滑ポンプ30からの吐出口として用いることができる。しかも、前記吸出口42及び吐出口44を潤滑ポンプ30の取付け部に容易に形成することができる。また、前記吸出口42及び吐出口44を形成した部位に管継手ブロック60を取り付けることにより、潤滑ポンプ30や潤滑油の冷却装置を外付けで配設するときの接続口として構成することができるようになる。
【実施例2】
【0064】
図9は、本願発明に係わる第2実施例の潤滑ポンプ取付け構成を示す平面断面図である。第2実施例においては、潤滑ポンプを電動式の潤滑ポンプとしたことを特徴としている。第2実施例における第1実施例と同様の構成については、実施例1において用いた部材符号と同じ部材符号を用いることでその説明を省略する。以下においては、第1実施例のものとは異なる部分を中心として説明を行う。
【0065】
図9において、電動式の潤滑ポンプ30aがデフハウジング15の取付座16にボルト32を介して締着されている。潤滑ポンプ30aは、ポンプを駆動する電動モータを備えており、同電動モータを図示しないスイッチ、制御装置等により制御することで、潤滑ポンプ30aの駆動制御を行うことができる。第2実施例においては、第1実施例のものにおいて潤滑ポンプ30を駆動するために配設した、小歯車34、大歯車36等の構成が不要となる。
【0066】
また、前記電動モータの駆動制御を行うスイッチ、制御装置等を潤滑ポンプ30aとは別置きで設置することができるので、潤滑ポンプ30aの作動状態を予め設定したプログラム等に従って制御したり、オペレータの操作により制御したりすることができるようになる。
【0067】
電動式の潤滑ポンプ30aの取り付け部位として、デフハウジング15の取付座16に取り付けた例について説明を行ったが、電動式の潤滑ポンプ30aを取り付けることのできる部位は、デフハウジング15に限定されるものではなく、軸ハウジング13、ピニオンハウジング18に対しても取り付けることができるものである。また、取付座16には、第1実施例で説明した吸出口及び吐出口を形成しておくことができる。
【実施例3】
【0068】
図10は、本願発明に係わる第3実施例の構成を示す側面一部断面図である。第3実施例においては、取付座16に管継手ブロック60を取付けたことを特徴としている。第3実施例における構成のうち、第1実施例及び第2実施例と同様の構成については、実施例1及び第2実施例において用いた部材符号と同じ部材符号を用いることでその説明を省略する。以下においては、第1実施例及び第2実施例のものとは異なる部分を中心として説明を行う。
【0069】
第3実施例では、デフハウジング15の取付座16に管継手ブロック60を4本のボルト32により着脱自在に締着している。4本のボルト32は、潤滑ポンプ30を取付座16に締着するときに使用する6本のボルト32のうち、4本のボルトを利用することができる。潤滑ポンプ30を取り付けることのできる取付座16を利用して、管継手ブロック60を取付けることができる。
【0070】
尚、管継手ブロック60を取付ける取付座16は、デフハウジング15に形成されたものを例にとって説明を行うが、管継手ブロック60を取り付けることのできる取付座16は、デフハウジング15以外にも軸ハウジング13、ピニオンハウジング18に形成しておくことができる。しかもこのとき、取付座16を形成したアクスルハウジング12には、吸入管路43及び吐出管路45をアクスルハウジング12と一体に形成しておくことができる。また、吸入管路43内にはストレーナ室を形成し、同ストレーナ室内にストレーナを着脱自在に配設しておくことができる。
【0071】
吸入管路43及び吐出管路45は、取付座16を形成したアクスルハウジング12における一つのハウジングに形成しておくことができる。また、前記一つのハウジングに隣接するハウジングにおいても吸入管路及び/又は吐出管路を形成し、隣接するハウジングの管路同士がそれぞれ連通するように形成しておくこともできる。
【0072】
図11は図10におけるC−C矢視図である。図4で説明した第1実施例のものと同一部材については同一符号を付して、その説明は省略する。図11において、管継手ブロック60には、吸込通路61及び吸込口62と、吐出通路63とが設けられている。取付座16に設けられた吸出口42には吸込通路61及び吸込口62が接続し、取付座16に設けられた吐出口44には吐出通路63が接続している。吐出通路63は、管継手ブロック60の側面部に設けられた取入口64(図10にも図示)と接続している。
【0073】
管継手ブロック60を介することで、アクスル10とは別置き状態で潤滑ポンプ及び/又は冷却装置を配設することができる。図12では、アクスル10と別置きに潤滑ポンプ及び冷却装置を配設した場合を例にとって、アクスル内潤滑のシステム図を示している。尚、図8により説明した第1実施例のアクスル内潤滑のシステム図に記載したものと同一部材には、同一符号を付してその説明は省略する。
【0074】
図12において、管継手ブロック60の吸込口62は、別置きに配設した油圧ポンプ65と吸入回路66を介して接続している。油圧ポンプ65は潤滑ポンプを構成しており、エンジン、駆動モータ等の駆動装置7’により駆動される。油圧ポンプ65の吐出口は吐出回路67に接続し、吐出回路67はオイルクーラ68を介して管継手ブロック60の取入口64に接続している。符号69は吐出回路67内の圧力を調整するリリーフバルブである。
【0075】
次に、アクスル内潤滑システムの作動について説明する。油圧ポンプ65の作動によりアクスルハウジング12内に貯留されている潤滑油をストレーナ41を介して吸入し、吸入した潤滑油を油圧ポンプ65の吐出口から吐出回路67内に吐出する。
【0076】
吐出回路67内に圧送された潤滑油は、オイルクーラ68により冷却され、管継手ブロック60の取入口64に供給される。取入口64に供給された以降の潤滑油の流れは、図8で説明した第1実施例のものにおける潤滑油の流れと同一なのでその説明は省略する。
【0077】
第3実施例のように冷却装置を介在させることで、潤滑油における冷却能力を大きくすることが可能となる。しかも、第3実施例のように管継手ブロック60を配設することで、所望の容量を有する潤滑ポンプや所望の冷却能力を有する冷却装置への交換を容易に行うことが可能となる。
【0078】
潤滑ポンプをアクスルハウジング12とは異なる別の場所に設置する場合においても、前記吸入管路43の吸込口62を地上の障害物に接触しない部位に形成しておくことができる。このため、別置きの潤滑ポンプと前記吸出口とを接続する管路を、障害物との接触が防止できる部位に配管することが可能となる。
【0079】
このように、潤滑ポンプを容易に着脱可能な場所に設置することができ、必要な時にのみ潤滑ポンプの追加取付けを行うことが可能となる。潤滑ポンプを取付けない場合には、前記吸出口を封止部材等で密閉しておくことができる。
【0080】
また、例えば、高負荷の状態で長時間坂道を下る場合のときのように、より大きな冷却能力を必要とする場合においても、前記吸込口62、取入口64に管継手ブロックを配設するなどの構成を採用することで、別置きの油圧ポンプ、オイルクーラを容易に前記吸出口、吐出口と接続することが可能となる。これにより、別置きの油圧ポンプ、オイルクーラを用いて大きな冷却容量を得ることが容易にできるようになり、車両の汎用性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本願発明のアクスル内潤滑装置としては、アクスルを備えた様々な車両におけるアクスル内潤滑装置として適用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右両端部に車輪を回転自在に取付け、前記車輪を駆動する駆動装置を収納するアクスルハウジングを備えた車両用アクスルのアクスル内潤滑装置において、
前記アクスルハウジングの底部側内周面に形成した吸入口、前記アクスルハウジングの外周面における前記吸入口の形成位置よりも上方の部位に形成した吸出口、及び前記吸入口と前記吸出口とを連通する吸入管路が、前記アクスルハウジングと一体に形成されてなり、
前記吸出口が潤滑ポンプに接続されてなることを特徴とするアクスル内潤滑装置。
【請求項2】
請求の範囲第1項記載のアクスル内潤滑装置において、
前記アクスルハウジングの外周面における前記吸入口の形成位置よりも上方における異なる部位に少なくとも2個以上形成した吐出口、及び前記各吐出口間を連通する吐出管路が、前記アクスルハウジングと一体に形成されてなり、
前記潤滑ポンプからの吐出圧油が前記吐出口の一つに供給されてなることを特徴とするアクスル内潤滑装置。
【請求項3】
請求の範囲第1項又は第2項記載のアクスル内潤滑装置において、
前記潤滑ポンプが、前記アクスルハウジングの外周面に配設されてなることを特徴とするアクスル内潤滑装置。
【請求項4】
請求の範囲第1項又は第2項記載のアクスル内潤滑装置において、
前記潤滑ポンプが、前記アクスルハウジングの外周面に配設されてなる可逆式のポンプからなり、かつ前記駆動装置の駆動力により駆動されてなることを特徴とするアクスル内潤滑装置。
【請求項5】
請求の範囲第1項又は第2項記載のアクスル内潤滑装置において、
前記潤滑ポンプが、電動式潤滑ポンプであることを特徴とするアクスル内潤滑装置。
【請求項6】
請求の範囲第1項又は第2項に記載のアクスル内潤滑装置において、
潤滑油をろ過するストレーナが、前記吸入管路内に内装されてなることを特徴とするアクスル内潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【国際公開番号】WO2005/038305
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514728(P2005−514728)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014236
【国際出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】