説明

アクチュエータおよびリンク機構

【課題】見かけ上、非線形な弾性係数を有するアクチュエータおよびリンク機構を提供する。
【解決手段】直動可能に支持された基台20に、第1のプーリ22aおよび第2のプーリ22bが一体に回転可能に支持されている。第1のプーリ22aには、第1のワイヤ17aが巻き付けられており、第1のワイヤ17aの出力端Toが負荷に接続されている。第2のプーリ22bには、第2のワイヤ17bが第1のワイヤ17aとは逆方向に巻き付けられている。基台14には、取付部材12が連結されている。駆動源3は、基台3および取付部材12を一体に直動させる。取付部材12にはバネ4の一端が接続され、バネ4の他端が第2のワイヤ17bに接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ロボットのアーム、マニピュレータ、または作業者や要介護者の動作支援機器等に使用されるアクチュエータおよびアクチュエータを備えたリンク機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種ロボットのアームや、マニピュレータ等の開発において、生体の構造に類似した筋骨格構造を採用することにより、柔軟かつ俊敏な動作を実現し、それをさまざまな作業に適用することが検討されている。ここで、一般には生物の持つ筋肉が発生する筋力Fは次式(1)で表されることが知られている(非特許文献1参照)。
F=U−k・U・X−b・U・(dX/dt) (1)
【0003】
式(1)において、Uは筋肉の収縮力、Xはその変位(収縮)量、dX/dtは変位速度、kおよびbは定数である。ここで右辺第2項は弾性力に相当する力であり、その弾性係数は−k・U、また第3項は粘性力に相当する力であり、その粘性係数は−b・Uである。このように弾性係数および粘性係数が収縮力Uに比例する点が筋肉の特徴である。また非特許文献1,2では、式(1)で表された特性を駆動源、弾性要素および粘性要素を並列に接続し、その一端を出力端としたアクチュエータのモデルによって表現している。
【0004】
ここで式(1)から第3項(粘性力)を省略した次式(2)で表される出力特性を持ったアクチュエータを仮定する。
F=U−k・U・X (2)
【0005】
ロボットアームのリンク機構は、このような出力特性を持つアクチュエータ2つを、ロボットアーム等の関節により旋回可能に支持されたリンクの両側に拮抗するように配置して構成されている。関節の回りの駆動トルクは両アクチュエータの収縮力(引っ張り力)Uの差によって定まり、また剛性は両アクチュエータの収縮力Uの和によって定まる。即ち両アクチュエータの収縮力Uを別々に調整することによって、関節の回りのトルクと剛性とを独立に変えることが可能となり、生物的で柔軟かつ俊敏な動作への応用が期待できる。
【0006】
このような特徴を備えたアクチュエータの実現手段として、駆動源であるモータとギヤを、弾性要素であるバネに直列に接続し、バネの一端を駆動源により駆動し、他端を出力端として出力を得るアクチュエータが開示されている(特許文献1参照)。この例では駆動源でバネを駆動することが収縮力Uの発生に相当する。
【0007】
さらに上記特許文献1には、変位(収縮)量Xの増加とともに弾性力の変化率、即ち弾性係数(バネ定数)が減少する、不等ピッチコイルバネやテーパコイルバネ等の非線形な特性を有するバネを弾性要素として使用する例が開示されている。このような特性を有するバネの一端を駆動すると、出力特性を表す曲線がX軸方向に平行移動する。変位量Xを一定とした場合には、バネの駆動に従って出力Fは増大し、また同時にバネ定数も増大する。即ち上記の式(2)で表される特性に近い特性を有するアクチュエータが実現できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−96020号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】熊本水頼編著:ヒューマノイド工学,東京電機大学出版局
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで一般的なバネの弾性係数(バネ定数)は変位によらず一定であるが、特許文献1にも開示されているように、不等ピッチコイルバネやテーパコイルバネ等の特殊な形状とすることによって、弾性係数の特性を非線形にできることが知られている。しかし単一の部材から構成した単純なバネにおいて、その形状や寸法を部位によって変化させたとしても、得られる弾性係数の可変比(最大値/最小値)には限界がある。
【0011】
また変位に対する弾性力の変化を過度に急峻にするのは実用上望ましくないので、弾性力の変化は変位に対してはある程度緩やかにとどめるべきである。しかしその場合、弾性係数の可変比を大きくするには、必然的にバネの変位量も大きくする必要があり、その結果アクチュエータとして必要なストロークに比べてバネ自体が長く、さらにはアクチュエータの全長が長くなるという問題がある。
【0012】
さらに弾性係数は弾性力の変位に対する微分係数であるから、上記の式(2)で示されるように弾性係数(−k・U)が収縮力Uに比例する特性を実現するには、弾性力が変位の指数関数に近い特性であるようなバネが必要となる。即ちそのようなバネの弾性力Fsと変位Xの関係は次の式(3)で表され、またその弾性係数dFs/dXは式(4)で表される。ここでBおよびCは定数である。
Fs=C・eB・X (3)
dFs/dX=B・C・eB・X (4)
【0013】
しかしながら単一の部材から成るバネで、しかもこのような特殊な関数形で表現される特性を有するものを設計し製造することは非常に困難である。
【0014】
そこで本発明は、見かけ上非線形な弾性係数を有するアクチュエータおよびリンク機構を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、負荷に引っ張り力を作用させるアクチュエータにおいて、直動可能に支持された基台と、前記基台に回転可能に支持された第1のプーリと、前記第1のプーリと一体に回転するように前記基台に回転可能に支持された第2のプーリと、前記負荷に接続され、前記第1のプーリが第1の回転方向に回転するときには前記第1のプーリに巻き取られ、前記第1のプーリが前記第1の回転方向と反対の第2の回転方向に回転するときには前記第1のプーリから繰り出されるように、前記第1のプーリの外周に巻き付けられた第1の接続部材と、前記第1のプーリが前記第1の接続部材を巻き取るときには前記第2のプーリから繰り出され、前記第1のプーリが前記第1の接続部材を繰り出すときには前記第2のプーリに巻き取られるように、前記第2のプーリの外周に巻き付けられた第2の接続部材と、前記基台に対して前記負荷と反対側に配置され、前記基台に連結された取付部材と、前記基台および前記取付部材を一体に直動させる駆動源と、一端が前記取付部材に接続され、他端が前記第2の接続部材に接続され、前記第2のプーリから前記第2の接続部材を繰り出すように前記第2の接続部材に引っ張り力を付勢する伸縮可能な弾性部材と、を備え、前記第1のプーリおよび前記第2のプーリは、前記第1のプーリおよび前記第2のプーリの回転中心から前記第1の接続部材の巻き取られている部分の終端までの距離R1と、前記回転中心から前記第2の接続部材の巻き取られている部分の終端までの距離R2との比R1/R2が、前記第1のプーリおよび前記第2のプーリの回転に応じて変化する形状に形成されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、負荷に引っ張り力を作用させるアクチュエータにおいて、直動可能に支持された基台と、前記基台に回転可能に支持された第1の歯車と、前記基台に回転可能に支持され、前記第1の歯車と噛合する第2の歯車と、前記第1の歯車と一体に回転するように前記基台に回転可能に支持された第1のプーリと、前記第2の歯車と一体に回転するように前記基台に回転可能に支持された第2のプーリと、前記負荷に接続され、前記第1のプーリが第1の回転方向に回転するときには前記第1のプーリに巻き取られ、前記第1のプーリが前記第1の回転方向と反対の第2の回転方向に回転するときには前記第1のプーリから繰り出されるように、前記第1のプーリの外周に巻き付けられた第1の接続部材と、前記第1のプーリが前記第1の接続部材を巻き取るときには前記第2のプーリから繰り出され、前記第1のプーリが前記第1の接続部材を繰り出すときには前記第2のプーリに巻き取られるように、前記第2のプーリの外周に巻き付けられた第2の接続部材と、前記基台に対して前記負荷と反対側に配置され、前記基台に連結された取付部材と、前記基台および前記取付部材を一体に直動させる駆動源と、一端が前記取付部材に接続され、他端が前記第2の接続部材に接続され、前記第2のプーリから前記第2の接続部材を繰り出すように前記第2の接続部材に引っ張り力を付勢する伸縮可能な弾性部材と、を備え、前記第1の歯車および前記第2の歯車は、前記第2の歯車の回転中心から前記第1の歯車と前記第2の歯車との噛合位置までの距離R12と、前記第1の歯車の回転中心から前記第1の歯車と前記第2の歯車との噛合位置までの距離R21の比R12/R21が、前記第1の歯車および前記第2の歯車の回転に応じて変化する形状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、弾性部材の弾性係数の可変比よりも大きい可変比となる、見かけ上非線形な弾性係数を有するアクチュエータを実現することができる。特に指数関数など特殊な関数形で表現される弾性特性を有するアクチュエータを容易に設計、製造することができる。また弾性係数の可変比を大きくした場合であっても弾性部材の変位量を大きくする必要がなく、アクチュエータの全長を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係るアクチュエータを有するリンク機構の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るアクチュエータの構成を示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るアクチュエータの変位変換機構の構成を示す図である。
【図4】アクチュエータの動作を説明するための図であり、(a)は基台を駆動していない状態を示す図、(b)は(a)の状態から第1のワイヤの出力端に外力が作用した場合を示す図である。(c)は基台をXdだけ駆動した状態を示す図、(d)は(c)の状態から第1のワイヤの出力端に外力が作用した場合を示す図である。
【図5】アクチュエータの特性を示す図であり、(a)は変位変換機構がある場合を示す図、(b)は変位変換機構がないと仮定した場合を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るアクチュエータの構成を示す断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るアクチュエータの変位変換機構の構成を示す図である。
【図8】アクチュエータの動作を説明するための図であり、(a)は基台を駆動していない状態を示す図、(b)は(a)の状態から第1のワイヤの出力端に外力が作用した場合を示す図である。(c)は基台をXdだけ駆動した状態を示す図、(d)は(c)の状態から第1のワイヤの出力端に外力が作用した場合を示す図である。
【図9】アクチュエータの特性を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係るアクチュエータを有するリンク機構の概略構成を示す図である。図1に示す30は第1のリンクであり、この第1のリンク30に関節32を介して第2のリンク31が旋回可能に支持されている。リンク機構100は、第1のリンク30と第2のリンク31とに接続された一対のアクチュエータ1,1を備えている。本第1実施形態では、第2のリンク31がアクチュエータ1により駆動される負荷である。2つのアクチュエータ1,1のうち、一方のアクチュエータが第1のアクチュエータ1a、他方のアクチュエータが第2のアクチュエータ1bであり、各アクチュエータ1a,1bは同一の構成である。第1の制御回路33aは、第2のリンク31に作用させる第1のアクチュエータ1aの引っ張り力(収縮力)を制御し、第2の制御回路33bは、第2のリンク31に作用させる第2のアクチュエータ1bの引っ張り力(収縮力)を制御する。
【0021】
第1のアクチュエータ1aと第2のアクチュエータ1bは、第1のリンク30の両側に固定され、第1のアクチュエータ1aの出力端To1と第2のアクチュエータ1bの出力端To2が拮抗するように第2のリンク31に対して取付けられる。
【0022】
ここで第1のアクチュエータ1aが発生する収縮力をU1、第2のアクチュエータ1bが発生する収縮力をU2とする。また関節32における回転中心から各アクチュエータ1a,1bの出力端To1,To2までの距離をr、第2のリンク31の回転角をφとすると第2のリンク31に作用する全トルクTは次式(5)のようになる。
T=(U1−U2)・r−k・(U1+U2)・r・φ (5)
【0023】
式(5)における右辺第1項は駆動トルク、第2項は弾性トルクである。駆動トルクが両アクチュエータ1a,1bの収縮力の差U1−U2に比例するのに対して、弾性トルクは第2のリンク31の回転角φと両アクチュエータ1a,1bの収縮力の和U1+U2に比例する。従って第1の制御回路33aおよび第2の制御回路33bにより第1のアクチュエータ1aの発生する収縮力U1と第2のアクチュエータ1bの発生する収縮力U2を別々に制御することにより、駆動トルクと剛性とを独立に調整することが可能となるのである。なお、第2のリンク31は、駆動トルクが作用することにより関節32で旋回する。また、第2のリンク31は、弾性トルクが作用することにより剛性が付与される。
【0024】
図2は、本発明の第1実施形態に係るアクチュエータの構成を示す断面図である。アクチュエータ1は、筐体2と、筐体2に内蔵された駆動源3と、弾性部材として伸縮可能なバネ4と、変位変換機構5と、ガイド6と、バネ4の一端を取り付けるための取付部材12とを有して構成される。ここで使用するバネ4は非線形な特性を有する必要はなく、弾性係数(バネ定数)が一定である線形特性を有する引っ張りコイルバネとする。
【0025】
駆動源3は、筐体2内に固定された固定子10と、固定子10により矢印X+およびX−で示す方向に直線的に駆動される可動子11から成る。駆動源3自体のバックドライバビリティは十分に低く、たとえ外力が可動子11に作用しても逆駆動されないものとする。このような駆動源3として、超音波モータや減速比の大きな減速ギヤを組み合わせたモータを使用することができる。また回転型のモータを使用する場合には、回転運動を直線運動に変換するための機構を別途必要とする。このような機構は例えばネジとナット、ラックとピニオン、プーリとベルト(ワイヤ)、クランク機構等、既知の手段により構成できる。
【0026】
可動子11の先端には取付部材12が取り付けられている。これにより、取付部材12は、駆動源3の駆動により、矢印X+およびX−で示す方向に直線的に移動する。取付部材12にはバネ4の一端T1、および支持部材13の一端が接続されている。
【0027】
変位変換機構5は、基台14、第1のプーリ16a、第2のプーリ16b、可撓性を有する第1の接続部材である第1のワイヤ17a、および可撓性を有する第2の接続部材である第2のワイヤ17bにより構成されている。なお、本実施形態では、接続部材としてワイヤを用いる場合について説明するが、ベルト等の可撓性を有する紐状の部材であればいずれでもよい。
【0028】
基台14は、バネ4の他端T2側に配置されており、支持部材13の他端に接続されている。つまり、基台14と、基台14に対して負荷である第2のリンク31(図1)側とは反対側に配置された取付部材12とが支持部材13により連結されている。つまり、バネ4が取付部材12と基台14との間に配置されている。そして、取付部材12と基台14とが連結されているので、基台14およびバネ4は、駆動源3によって移動する取付部材12と一体に移動する。
【0029】
基台14は、回転軸15が正逆回転方向に回転可能な状態で回転軸15を支持している。第1のプーリ16aおよび第2のプーリ16bは、基台14に対して一体に回転するように回転軸15に固定されている。つまり、第1のプーリ16aおよび第2のプーリ16bは、一体に回転可能に回転軸15を介して基台14に支持されている。なお、回転軸15を基台14に設けた場合について説明したが、基台に固定軸を固定し、第1のプーリおよび第2のプーリが固定軸まわりに一体に正逆回転方向に回転するように構成してもよい。
【0030】
基台14はガイド6によって案内されて移動方向が矢印X+およびX−で示す方向に規制されている。これにより基台14は筐体2にガイド6を介して矢印X+およびX−で示す方向に直動可能に支持されている。そして、駆動源3はバネ4の一端T1とともに基台14も一体的に矢印X+およびX−で示す方向に駆動する。
【0031】
第1のワイヤ17aは、その一端である出力端Toが駆動源3とは逆方向に引き出され、負荷である第2のリンク31(図1)に接続されている。また、第1のワイヤ17aは、その他端が第1のプーリ16aに接続されており、他端側から第1のプーリ16aの外周に巻き付けられている。第2のワイヤ17bは、その一端が出力端Toとは逆方向(駆動源3側)に引き出され、バネ4の他端T2に接続されている。また、第2のワイヤ17bは、その他端が第2のプーリ16bに接続されており、他端側から第2のプーリ16bの外周に巻き付けられている。
【0032】
変位変換機構5の詳細を図3に示す。ここで、第1のプーリ16aおよび第2のプーリ16bの回転中心Q(回転軸15の中心)から第1のプーリ16aにおいて第1のワイヤ17aの巻き取られている部分の終端(巻回端)S1までの距離をR1とする。また、回転中心Qから第2のプーリ16bにおいて第2のワイヤ17bの巻き取られている部分の終端(巻回端)S2までの距離をR2とする。
【0033】
第1のプーリ16aおよび第2のプーリ16bは、それらの外周が、距離R1と距離R2との比R1/R2が第1のプーリ16aおよび第2のプーリ16bの回転に応じて変化する形状に形成されている。
【0034】
ここで、第1のプーリ16aおよび第2のプーリ16bのうち少なくとも一方のプーリの外周が、回転中心Qを中心とする断面渦巻形状に形成されているのがよい。本第1実施形態では、第2のプーリ16bの外周が断面渦巻形状に形成され、第1のプーリ16aの外周が断面円形状に形成されている。従って、第1のプーリ16aの外周が断面円形状であるので、第1のワイヤ17aにおいて巻き取られている部分の終端(巻回端)S1と回転中心Qとの距離(回転半径)R1は一定である。これに対し、第2のプーリ16bは、その回転角θが第2のワイヤ17bを巻き取る方向に増大するに連れて第2のワイヤ17bにおける巻き取られている部分の終端(巻回端)S2と回転中心Qとの距離(回転半径)R2が増大する螺旋形状である。つまり、第1のプーリ16aおよび第2のプーリ16bの外周は、第1のワイヤ17aが第1のプーリ16aから繰り出されるに連れて比R1/R2が小さくなる形状に形成されている。言い換えれば、第1のプーリ16aおよび第2のプーリ16bの外周は、第1のワイヤ17aが第1のプーリ16aに巻き付けられるに連れて比R1/R2が大きくなる形状に形成されている。
【0035】
ここで、第1のワイヤ17aは、第1のプーリ16aが第1の回転方向Aに回転するときには第1のプーリ16aに巻き取られ、第1のプーリ16aが第1の回転方向Aと反対の第2の回転方向Bに回転するときには第1のプーリ16aから繰り出される。そして、第2のワイヤ17bは、第1のワイヤ17aの巻き付け方向とは反対方向に第2のプーリ16bに巻き付けられている。これにより、第2のプーリ16bは、第1のプーリ16aと一体に第1の回転方向Aに回転した際に第1のプーリ16aが第1のワイヤ17aを巻き取るときには、第2のワイヤ17bを繰り出す。また、第2のプーリ16bは、第1のプーリ16aと一体に第2の回転方向Bに回転した際に第1のプーリ16aが第1のワイヤ17aを繰り出すときには、第2のワイヤ17bを巻き取る。
【0036】
次にアクチュエータ1の動作について説明する。図4は、アクチュエータ1の動作を説明する図であり、主要部のみ示す。図5は、各動作状態における出力端Toの変位Xに対する出力Fの特性を示す図である。図5(a)において曲線Lo1およびLo2で示すのは本実施形態によるアクチュエータ1の特性である。また比較のため、変位変換機構5が無くバネ4の他端T2を直接負荷である第2のリンク31に接続したと仮定した場合の特性を直線Lsで示す。この場合には出力Fはバネ4が発生する弾性力そのものとなる。
【0037】
図4(a)は駆動源3がバネ4(基台14)を駆動せず出力端Toからの出力Fは0であり、また出力端Toに外力の作用も無い状態を示している。つまり、引っ張りコイルバネであるバネ4は、自由長であり、第2のワイヤ17bに引っ張り力は作用していない状態である。この時の出力端Toの位置Xを0(基準位置)とする。図5(a)においてはこの状態を動作位置O(0,0)で示す。そして、この状態でのプーリ16a,16bの回転角θを0度とする。
【0038】
図4(b)は図4(a)の状態から出力端Toに第1のワイヤ17aを繰り出す方向(矢印X−で示す方向)に外力が作用して出力端Toの位置Xが−Xo1に変位した状態を示している。この時、第1のプーリ16aが回転し、同時に第2のプーリ16bも第1のプーリ16aと一体に回転するので、第1のワイヤ17aが第1のプーリ16aから繰り出される一方、第2のワイヤ17bが第2のプーリ16bに巻き取られる。その結果、第2のプーリ16bに巻き取られた第2のワイヤ17bによりバネ4の他端T2が牽引され、バネ4が−Xs1伸張する。このバネ4により、第2のプーリ16bから第2のワイヤ17bを繰り出す方向に第2のワイヤ17bに引っ張り力である弾性力Fs1が付勢される。これにより出力端Toには外力に釣り合う出力(引っ張り力)Fo1が発生する。なおここでは図4における左方向の変位を正(+)、右方向の変位を負(−)とする。本実施形態では、プーリ16a,16bは、0度以上360度未満の範囲で回転する。
【0039】
次に変位変換機構5による変位と力の変換作用について説明する。図3に示した第1のプーリ16aの第1のワイヤ17aの巻回端S1における回転半径R1と、第2のプーリ16bの第2のワイヤ17bの巻回端S2における回転半径R2との比A(θ)=R1/R2はプーリ16a,16bの回転角θにより変化する。
【0040】
ここで第1のワイヤ17aの微小変位をΔXo、第2のワイヤ17bの微小変位をΔXsとすると、ΔXo=A(θ)・ΔXsなる関係が成り立つ。また第1のワイヤ17aに作用する張力をFo、第2のワイヤ17bに作用する張力をFsとするとFo=Fs/A(θ)なる関係が成り立つ。従って第2のワイヤ17bが接続されるバネ4の弾性係数をks、出力端Toにおける見かけの弾性係数をkoとすると次式(6)が成り立つ。
ko=ks/A(θ) (6)
【0041】
これによりバネ4の弾性係数ksが一定値であったとしても、回転角θの変化に伴う係数1/A(θ)の値の変化によって、非線形な変化をする弾性係数koを得ることができるのである。
【0042】
図5(a)において直線Lsで示す変位変換機構5が無い場合の特性は、このような変位変換機構5の変換作用によって、曲線Lo1で示す特性へと変換される。また図4(b)の状態に対応したバネ4の動作位置Ps1(−Xs1,Fs1)は、出力端Toの動作位置Po1(−Xo1,Fo1)へと変換される。
【0043】
次に図4(c)は図4(a)の状態(出力端Toに外力の作用が無い状態)から、駆動源3がバネ4の一端T1および基台14を出力端Toとは逆方向(矢印X+で示す方向)にXdだけ駆動し、出力端Toの位置XがXdへと変位した状態を示している。この状態ではバネ4の長さは図4(a)と同一で変化はなく、弾性力も発生しない。また第1のプーリ16aと第2のプーリ16bは回転しない。
【0044】
図5(b)にこの状態における特性を示す。出力端Toにおける特性は図4(a)の状態を示す曲線Lo1からX軸方向にXdだけ平行移動した曲線Lo2で示す特性となる。またそれに伴い動作位置もO(0,0)からPo2(Xd,0)へと移動する。つまり、駆動源3により取付部材12および基台14を移動させることで、バネ4の動作位置を変位させることができる。
【0045】
次に図4(d)は図4(c)の状態から出力端Toに第1のワイヤ17aを繰り出す方向(矢印X−で示す方向)に外力が作用して−Xo1だけ変位し、出力端Toの位置XがXd−Xo1となった状態を示している。この時、第1のプーリ16aが回転し、同時に第2のプーリ16bも第1のプーリ16aと一体に回転するので、第1のワイヤ17aが第1のプーリ16aから繰り出される一方、第2のワイヤ17bが第2のプーリ16bに巻き取られる。その結果、第2のプーリ16bに巻き取られた第2のワイヤ17bによりバネ4の他端T2が牽引され、バネ4が−Xs1伸張し、バネ4により第2のワイヤ17bには引っ張り力である弾性力Fs1が発生する。これにより出力端Toには外力に釣り合う出力Fo1が発生し、動作位置はPo3(Xd−Xo1,Fo1)へと移動する。
【0046】
本実施形態においては変換特性、即ち図5における曲線Lo1の形状は、第1のプーリ16aと第2のプーリ16b回転半径の比A(θ)=R1/R2で決まり、弾性係数の変換係数は式(6)で示したように1/A(θ)=(R2/R1)である。
【0047】
このように変換特性をプーリ16a,16bの形状寸法のみで決定できるので、その設計および製造は非常に容易である。例えば弾性力が変位に対して所望の関数、例えば式(4)で示した非線形なバネの特性と同一の特性を実現するとした場合、出力端Toにおける見かけ上の弾性係数koは次式(7)のようになる。
ko=B・C・eB・X (7)
【0048】
上記の式(6)および式(7)よりA(θ)が次式(8)を満たすように第1のプーリ16aおよび第2のプーリ16bの回転半径R1およびR2を設計すればよいことになる。
A(θ)={ks/(B・C・eB・X)}1/2 (8)
【0049】
なお、本実施形態では、第1のプーリ16aの回転半径R1は回転角θによらず一定で、第2のプーリ16bの回転半径R2のみが回転角θに応じて変化するものとしたが、これに限るものではない。上記の式(8)を満たすことができれば、回転半径R1、回転半径R2のいずれか、または両方が回転角θに応じて変化すればよい。つまり、本実施形態では、第1のプーリ16aの外周を渦巻形状に形成し、第2のプーリ16bの外周を円形状に形成したが、第2のプーリ16bの外周を渦巻形状に形成し、第1のプーリ16aを円形状および渦巻形状のいずれかの形状に形成してもよい。このように第1のプーリ16aおよび第2のプーリ16bを形成することで、アクチュエータ1の見かけ上の弾性係数が指数関数の特性となる。またバネ4の特性が線形ではなく非線形の場合には、その特性も考慮した上でA(θ)を設計すればよい。
【0050】
また本実施形態においては第2のプーリ16bの回転に伴い、第2のワイヤ17bの巻回端S2の位置は、第2のワイヤ17bに対して垂直な方向(図3においては上下方向)に変位する。このためにバネ4および第2のワイヤ17bは傾斜し、バネ4の伸張量にも影響を及ぼす。この傾斜は十分に小さければ無視しても差し支えないが、必要であればプーリ16bの形状を、この傾斜の影響を補正するように設計しておくこともできる。
【0051】
またアクチュエータ1の全ストロークに亘るA(θ)の平均値をAaとすると、Aa>1であればバネ4のストロークよりも出力端Toのストロークの方が大きく、変位変換機構5は同時に変位の拡大作用も持つことになる。本実施形態においては第1のプーリ16aの回転半径R1を第2のプーリ16bの回転半径R2の最大値よりも大きくすることによってこの条件を満たすことができる。つまり、第1のプーリ16aにおける回転中心Qから外周までの距離R1が、第2のプーリ16bにおける回転中心Qから外周までの距離R2よりも大きくなる形状に各プーリ16a,16bの外周が形成されている。その結果、アクチュエータ1の出力端Toに必要とされるストロークよりもバネ4のストロークが小さくなるので、バネ4自体の全長も短くできる。ひいてはアクチュエータ1全体の長さも短くすることができる。
【0052】
さらに本実施形態においては、式(6)に示した通り、弾性係数の変換係数がA(θ)の2乗に逆比例するので、出力端Toにおける弾性係数koの可変比を大きくすることが容易である。例えば弾性係数koの可変比(最大値/最小値)を10としたい場合には、A(θ)の最大値/最小値は約3.2とすればよいのである。
【0053】
以上、本実施形態では、バネ4の弾性係数ksの可変比よりも大きい可変比となる、見かけ上非線形な弾性係数koを有するアクチュエータ1を実現することができる。特に指数関数など特殊な関数形で表現される弾性特性を有するアクチュエータ1を容易に設計、製造することができる。また弾性係数koの可変比を大きくした場合であってもバネ4の変位量を大きくする必要がなく、アクチュエータ1の全長を短くすることができる。
【0054】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係るアクチュエータについて説明する。図6は、本発明の第2実施形態に係るアクチュエータの構成を示す断面図である。図6に示すアクチュエータ1Aは、筐体2と、駆動源3と、弾性部材としてのバネ4と、変位変換機構5Aと、ガイド6とを有して構成される。アクチュエータ1Aは、上記第1実施形態と同様に、リンク機構に用いられる。なお、本第2実施形態のアクチュエータ1Aにおいて、変位変換機構5A以外の構成については上記第1実施形態と同様の構成であるので、詳細な説明は省略する。
【0055】
変位変換機構5Aは、基台20、第1のプーリ22a、第2のプーリ22b、第1の歯車23a、第2の歯車23b、第1の接続部材である第1のワイヤ17aおよび第2の接続部材である第2のワイヤ17bにより構成されている。なお、本実施形態では、接続部材としてワイヤを用いる場合について説明するが、ベルト等の可撓性を有する紐状の部材であればいずれでもよい。
【0056】
基台20は、バネ4の他端T2側に配置されており、支持部材13の他端に接続されている。つまり、基台20と、基台20に対して負荷である第2のリンク側とは反対側に配置された取付部材12とが支持部材13により連結されている。つまり、バネ4が取付部材12と基台20との間に配置されている。そして、取付部材12と基台20とが連結されているので、基台20およびバネ4は、駆動源3によって移動する取付部材12と一体に移動する。
【0057】
基台20は、第1の回転軸21aおよび第2の回転軸21bが正逆回転方向に回転可能な状態で第1の回転軸21aおよび第2の回転軸21bを支持している。第1のプーリ22aおよび第1の歯車23aは、基台14に対して一体に回転するように第1の回転軸21aに固定されている。また、第2のプーリ22bおよび第2の歯車23bは、基台20に対して一体に回転するように第2の回転軸21bに固定されている。つまり、第1のプーリ22aおよび第1の歯車23aは、一体に回転可能に第1の回転軸21aを介して基台20に支持されている。また、第2のプーリ22bおよび第2の歯車23bは、一体に回転可能に第2の回転軸21bを介して基台20に支持されている。そして、第1の歯車23aと第2の歯車23bとは、各回転軸21a,21bを中心に回転可能な状態で噛み合っている。
【0058】
なお、回転軸21a,21bを基台20に設けた場合について説明したが、基台に第1の固定軸を固定し、第1のプーリおよび第1の歯車が第1の固定軸まわりに一体に正逆回転方向に回転するように構成してもよい。同様に、基台に第2の固定軸を固定し、第2のプーリおよび第2の歯車が第2の固定軸まわりに一体に正逆回転方向に回転するように構成してもよい。本実施形態では、第1のプーリ22aおよび第1の歯車23aは一体形成され、第2のプーリ22bおよび第2の歯車23bは一体形成されている。
【0059】
基台20はガイド6によって案内されて移動方向が矢印X+およびX−で示す方向に規制されている。これにより基台20は筐体2にガイド6を介して矢印X+およびX−で示す方向に直動可能に支持されている。そして、駆動源3はバネ4の一端T1とともに基台20も一体的に矢印X+およびX−で示す方向に駆動する。
【0060】
第1のワイヤ17aは、その一端である出力端Toが駆動源3とは逆方向に引き出され、負荷である第2のリンクに接続されている。また、第1のワイヤ17aは、その他端が第1のプーリ22aに接続されており、他端側から第1のプーリ22aの外周に巻き付けられている。第2のワイヤ17bは、その一端が出力端Toとは逆方向(駆動源3側)に引き出され、バネ4の他端T2に接続されている。また、第2のワイヤ17bは、その他端が第2のプーリ22bに接続されており、他端側から第2のプーリ22bの外周に巻き付けられている。
【0061】
変位変換機構5Aの詳細を図7に示す。ここで、第1の歯車23aの回転中心Q1(第1の回転軸21aの中心)から第1の歯車23aと第2の歯車23bとの噛合位置S21までの距離をR21とする。また、第2の歯車23bの回転中心Q2(第2の回転軸21bの中心)から第1の歯車23aと第2の歯車23bとの噛合位置S12までの距離をR12とする。
【0062】
第1の歯車23aおよび第2の歯車23bは、それらの外周が、距離R12と距離R21との比R12/R12が第1の歯車23aおよび第2の歯車23bの回転に応じて変化する形状に形成されている。
【0063】
ここで、第1の歯車23aおよび第2の歯車23bの外周は、断面渦巻形状に形成されている。第1の歯車23aはその回転角θ1の増大とともに第2の歯車23bとの噛合位置S21と回転中心Q1の距離(回転半径)R21が増加する螺旋形状である。また第2の歯車23bは回転角θ2の増大とともに第1の歯車23aとの噛合位置S12と回転中心Q2の距離(回転半径)R12が減少する螺旋形状である。
【0064】
一方、第1のプーリ22aは断面円形状であり、第1のワイヤ17aの巻回端S11と回転中心Q1の距離(回転半径)R11は一定である。また、第2のプーリ22bは断面円形状であり、第2のワイヤ17bの巻回端S22と回転中心Q2の距離(回転半径)R22は一定である。
【0065】
そして、第1の歯車23aおよび第2の歯車23bの外周は、第1のワイヤ17aが第1のプーリ22aから繰り出されるに連れて比R12/R21が小さくなる形状に形成されている。言い換えれば、第1の歯車23aおよび第2の歯車23bの外周は、第1のワイヤ17aが第1のプーリ22aに巻き付けられるに連れて比R12/R21が大きくなる形状に形成されている。
【0066】
ここで、第1のワイヤ17aは、第1のプーリ22aが第1の回転方向Aに回転するときには第1のプーリ22aに巻き取られ、第1のプーリ22aが第1の回転方向Aと反対の第2の回転方向Bに回転するときには第1のプーリ22aから繰り出される。
【0067】
第1の歯車23aに噛み合う第2の歯車23bは、第1の歯車23aとは反対方向に回転するので、第2のプーリ22bは、第1のプーリ22aとは反対方向に回転する。第2のワイヤ17bは、第1のワイヤ17aの巻き付け方向と同一の方向に第2のプーリ22bに巻き付けられている。これにより、第2のワイヤ17bは、第1のプーリ22aが第1の回転方向Aに回転して第1のワイヤ17aを巻き取るときには、第1のプーリ22aと反対方向に回転する第2のプーリ22bから繰り出される。また、第2のワイヤ17bは、第1のプーリ22aが第2の回転方向Bに回転して第1のワイヤ17aを繰り出すときには、第1のプーリ22aと反対方向に回転する第2のプーリ22bに巻き取られる。
【0068】
次にアクチュエータ1Aの動作について説明する。図8は、アクチュエータ1Aの動作を説明する図であり、主要部のみ示す。なお、各動作状態における特性は上記第1実施形態と同様であり図5を参照しながら説明する。
【0069】
図8(a)は駆動源3がバネ4を駆動せず出力端Toからの出力Fは0であり、また出力端Toに外力の作用も無い状態を示している。つまり、引っ張りコイルバネであるバネ4は、自由長であり、第2のワイヤ17bに引っ張り力は作用していない状態である。この時の出力端Toの位置Xを0(基準位置)とする。図5(a)においてはこの状態を動作位置O(0,0)で示す。そして、この状態でのプーリ22a,22bの回転角θ1,θ2を0度とする。
【0070】
図8(b)は図8(a)の状態から出力端Toに第1のワイヤ17aを繰り出す方向(矢印X−で示す方向)に外力が作用して出力端Toの位置Xが−Xo1に変位した状態を示している。この時、第1のワイヤ17aを巻き付けた第1のプーリ22aと第1の歯車23aとが第2の回転方向Bに一体に回転する。同時に第1の歯車23aに噛み合う第2の歯車23bとともに第2のプーリ22bも、第1の歯車23aと反対方向に一体に回転する。これにより、第1のワイヤ17aが第1のプーリ22aから繰り出される一方、第2のワイヤ17bが第2のプーリ22bに巻き取られる。その結果、第2のプーリ22bに巻き取られた第2のワイヤ17bによりバネ4の他端T2が牽引され、バネ4が−Xs1伸張する。このバネ4により、第2のプーリ22bから第2のワイヤ17bを繰り出す方向に第2のワイヤ17bに引っ張り力である弾性力Fs1が付勢される。これにより出力端Toには外力に釣り合う出力(引っ張り力)Fo1が発生する。なおここでは図8における左方向の変位を正(+)、右方向の変位を負(−)とする。本実施形態では、プーリ22a,22bは、0度以上360度未満の範囲で回転する。
【0071】
次に変位変換機構5による変位と力の変換作用について説明する。図7に示した第1のプーリ22aの第1のワイヤ17aの巻回端S11における回転半径R11と、噛合位置S21における回転半径R21の比A1(θ1)=R11/R21は、第1のプーリ22aと第1の歯車23aの回転角θ1により変化する。また噛合位置S12における回転半径R12と、第2のプーリ22bの第2のワイヤ17bの巻回端S22における回転半径R22の比A2(θ2)=R12/R22は、第2のプーリ22bと第2の歯車23bの回転角θ2により変化する。
【0072】
ここで第1のワイヤ17aの微小変位をΔXo、第2のワイヤ17bの微小変位をΔXsとすると、ΔXo=A1(θ1)・A2(θ2)・ΔXsなる関係が成り立つ。また第1のワイヤ17aに作用する張力をFo、第2のワイヤ17bに作用する張力をFsとするとFo=Fs/(A1(θ1)・A2(θ2))なる関係が成り立つ。従ってバネ4の弾性係数をks、出力端Toにおける見かけの弾性係数をkoとすると次式(9)が成り立つ。
ko=ks/(A1(θ1)・A2(θ2)) (9)
【0073】
これによりバネ4の弾性係数ksが一定値であったとしても、回転角θ1,θ2の変化に伴う係数1/(A1(θ1)・A2(θ2))の値の変化によって、非線形な変化をする弾性係数koを得ることができるのである。なお本実施形態においては第1のプーリ22aおよび第2のプーリ22bは円形であって、距離R11およびR22は一定であるから、実際には第2の歯車23bと第1の歯車23aの回転半径の比R12/R21のみが非線形な変換に寄与する。
【0074】
図5(a)において直線Lsで示す変位変換機構5が無い場合の特性は、このような変位変換機構5Aの変換作用によって、曲線Lo1で示す特性へと変換される。また図8(b)の状態に対応したバネ4の動作位置Ps1(−Xs1,Fs1)は、出力端Toの動作位置Po1(−Xo1,Fo1)へと変換される。
【0075】
次に図8(c)は図8(a)の状態(出力端Toに外力の作用が無い状態)から、駆動源3がバネ4の一端T1および基台20を出力端Toとは逆方向(矢印X+で示す方向)にXdだけ駆動し、出力端Toの位置XがXdへと変位した状態を示している。この状態ではバネ4の長さは図8(a)と同一で変化はなく、弾性力も発生しない。また第1のプーリ22aと第2のプーリ22bは回転しない。
【0076】
図5(b)にこの状態における特性を示す。出力端Toにおける特性は図8(a)の状態を示す曲線Lo1からX軸方向にXdだけ平行移動した曲線Lo2で示す特性となる。またそれに伴い動作位置もO(0,0)からPo2(Xd,0)へと移動する。つまり、駆動源3により取付部材12および基台20を移動させることで、バネ4の動作位置を変位させることができる。
【0077】
次に図8(d)は図8(c)の状態から出力端Toに第1のワイヤ17aを繰り出す方向(矢印X−で示す方向)に外力が作用して−Xo1だけ変位し、出力端Toの位置XがXd−Xo1となった状態を示している。この時、第1のプーリ22aが回転し、同時に第1の歯車23aおよびそれに噛み合う第2の歯車と第2のプーリ22bも一体に回転する。したがって、第1のワイヤ17aが第1のプーリ22aから繰り出される一方、第2のワイヤ17bが第2のプーリ22bに巻き取られる。その結果、第2のプーリ22bに巻き取られた第2のワイヤ17bによりバネ4の他端T2が牽引され、バネ4が−Xs1伸張し、バネ4により第2のワイヤ17bには引っ張り力である弾性力Fs1が発生する。これにより出力端Toには外力に釣り合う出力Fo1が発生し、動作位置はPo3(Xd−Xo1,Fo1)へと移動する。
【0078】
本実施形態においては変換特性、即ち図5における曲線Lo1の形状は各プーリと各歯車の回転半径の比A1(θ1)・A2(θ2)=(R11・R12)/(R21・R22)で決まる。弾性係数の変換係数は式(9)で示したように1/(A1(θ1)・A2(θ2))=(R21・R22)/(R11・R12)である。
【0079】
このように変換特性を歯車23a,23bの形状寸法のみで決定できるので、その設計および製造は非常に容易である。例えば弾性力が変位に対して所望の関数、例えば式(4)で示した非線形なバネの特性と同一の特性を実現するとした場合、出力端Toにおける見かけ上の弾性係数koは次式(10)のようになる。
ko=B・C・eB・X (10)
【0080】
以上の式(9)および式(1お)よりA1(θ1)およびA2(θ2)が次式(11)を満たすように第1のプーリ22a、第1の歯車23a、第2のプーリ22b、第2の歯車23bの回転半径R11、R21、R22、R12を設計すればよいことになる。
A1(θ1)・A2(θ2)={ks/(B・C・eB・X)}1/2 (11)
【0081】
なお本実施形態では、第1のプーリ22aの回転半径R11と第2のプーリ22bの回転半径R22は一定であるので、回転角θ1、θ2に応じて変化する必要があるのは第1の歯車23aの回転半径R21と第2の歯車23bの回転半径R12のみである。ただし第1の歯車23aと第2の歯車23bが噛み合うためにはR12+R21は一定でなければならない。即ちR12+R21=一定という条件下で比R12/R21を設計すればよいことになる。またバネ4が線形ではなく非線形の場合には、その特性も考慮した上でA1(θ1)・A2(θ2)を設計すればよい。
【0082】
またアクチュエータ1Aの全ストロークに亘るA1(θ1)・A2(θ2)の平均値をAaとすると、Aa>1であればバネ4のストロークよりも出力端Toのストロークの方が大きく、変位変換機構5Aは同時に変位の拡大作用も持つことになる。本実施形態においては第1のプーリ22aの回転半径R11を第2のプーリ22bの回転半径R22よりも大きくすることによってこの条件を満たすことができる。つまり、第1のプーリ22aにおける回転中心Q1から外周までの距離R11が、第2のプーリ22bにおける回転中心Q2から外周までの距離R22よりも大きくなる形状に各プーリ22a,22bの外周が形成されている。その結果、アクチュエータ1Aの出力端Toに必要とされるストロークよりもバネ4のストロークが小さくなるので、バネ4自体の全長も短くできる。ひいてはアクチュエータ1A全体の長さも短くすることができる。
【0083】
さらに本実施形態においては式(9)に示した通り、弾性係数の変換係数がA1(θ1)・A2(θ2)の2乗に逆比例するので、出力端Toにおける弾性係数koの可変比を大きくすることが容易である。例えば弾性係数koの可変比(最大値/最小値)を10としたい場合には、A1(θ1)・A2(θ2)の最大値/最小値は約3.2とすればよいのである。
【0084】
以上、本実施形態では、バネ4の弾性係数ksの可変比よりも大きい可変比となる、見かけ上非線形な弾性係数koを有するアクチュエータ1Aを実現することができる。特に指数関数など特殊な関数形で表現される弾性特性を有するアクチュエータ1Aを容易に設計、製造することができる。また弾性係数koの可変比を大きくした場合であってもバネ4の変位量を大きくする必要がなく、アクチュエータ1Aの全長を短くすることができる。
【0085】
なお、上記第1実施形態、第2実施形態ともに駆動源3はバネ4の一端T1を駆動する時、基台14または20も一体的に駆動する必要がある。仮に駆動源3がバネ4の一端T1のみを駆動し、基台14または20を駆動しないとすると、図4(c),図4(d)または図8(c),図8(d)に示した動作において、駆動によってバネ4の発生する弾性力がオフセットとして加わるのみである。したがって、図5(b)に曲線Lo1で示した出力端Toの特性はF軸方向に平行移動し、必要とするX軸方向への平行移動を生じないからである。
【0086】
以上説明したように、第1,第2実施形態によるアクチュエータは使用するバネの特性が線形(バネ定数が一定)であっても、非線形な特性を有する変位変換機構と組み合わせたことによって、出力端においては見かけ上非線形な弾力特性を実現することができる。
【0087】
ここで上記アクチュエータ1,1Aの特性と、上記の式(2)で表される特性との比較を行う。図9(a)は、アクチュエータ1,1Aの出力Fの特性を示す図である。変位変換機構5,5Aにより得られた特性を駆動源3により任意の量、駆動して平行移動させ、曲線群Loで示す特性を得ることができ、これらの曲線群Lo上の任意の位置を動作位置とすることができる。ここで各曲線群LoのF軸との交点(X=0)における値が式(2)における収縮力Uに相当し、動作位置における傾きが弾性係数koに相当する。同様に図9(b)には上記の式(2)において、収縮力Uを変化させた場合の出力Fの特性を直線群Lmで示す。
【0088】
ここで実用上必要とされる動作範囲が、矩形領域Xmin≦X≦Xmax、0≦F≦Fmaxの範囲であるものとし、この動作範囲における特性を比較する。図9(a)、図9(b)において収縮力Uの増大にともない、弾性係数も増大するという特徴は一致する。特に前述したように弾性係数koが変位Xの指数関数で表されるような特性とした場合には、任意のXの値において、弾性係数koは収縮力Uに比例するので、ほぼ式(2)で表されるものと同じ特性が実現できるのである。
【0089】
またアクチュエータ1,1Aの出力Fの特性は、変位Xに対して線形ではない点が、式(2)で表された特性とは異なるが、Xmin≦X≦Xmaxの範囲で十分に変化が緩やかであれば実用上問題はない。
【符号の説明】
【0090】
1,1A…アクチュエータ、3…駆動源、4…バネ、12…取付部材、14…基台、16a…第1のプーリ、16b…第2のプーリ、17a…第1のワイヤ、17b…第2のワイヤ、20…基台、22a…第1のプーリ、22b…第2のプーリ、23a…第1の歯車、23b…第2の歯車、30…第1のリンク、31…第2のリンク、32…関節、100…リンク機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷に引っ張り力を作用させるアクチュエータにおいて、
直動可能に支持された基台と、
前記基台に回転可能に支持された第1のプーリと、
前記第1のプーリと一体に回転するように前記基台に回転可能に支持された第2のプーリと、
前記負荷に接続され、前記第1のプーリが第1の回転方向に回転するときには前記第1のプーリに巻き取られ、前記第1のプーリが前記第1の回転方向と反対の第2の回転方向に回転するときには前記第1のプーリから繰り出されるように、前記第1のプーリの外周に巻き付けられた第1の接続部材と、
前記第1のプーリが前記第1の接続部材を巻き取るときには前記第2のプーリから繰り出され、前記第1のプーリが前記第1の接続部材を繰り出すときには前記第2のプーリに巻き取られるように、前記第2のプーリの外周に巻き付けられた第2の接続部材と、
前記基台に対して前記負荷と反対側に配置され、前記基台に連結された取付部材と、
前記基台および前記取付部材を一体に直動させる駆動源と、
一端が前記取付部材に接続され、他端が前記第2の接続部材に接続され、前記第2のプーリから前記第2の接続部材を繰り出すように前記第2の接続部材に引っ張り力を付勢する伸縮可能な弾性部材と、を備え、
前記第1のプーリおよび前記第2のプーリは、前記第1のプーリおよび前記第2のプーリの回転中心から前記第1の接続部材の巻き取られている部分の終端までの距離R1と、前記回転中心から前記第2の接続部材の巻き取られている部分の終端までの距離R2との比R1/R2が、前記第1のプーリおよび前記第2のプーリの回転に応じて変化する形状に形成されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記第1のプーリおよび前記第2のプーリは、前記第1の接続部材が前記第1のプーリから繰り出されるに連れて前記比R1/R2が小さくなる形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
負荷に引っ張り力を作用させるアクチュエータにおいて、
直動可能に支持された基台と、
前記基台に回転可能に支持された第1の歯車と、
前記基台に回転可能に支持され、前記第1の歯車と噛合する第2の歯車と、
前記第1の歯車と一体に回転するように前記基台に回転可能に支持された第1のプーリと、
前記第2の歯車と一体に回転するように前記基台に回転可能に支持された第2のプーリと、
前記負荷に接続され、前記第1のプーリが第1の回転方向に回転するときには前記第1のプーリに巻き取られ、前記第1のプーリが前記第1の回転方向と反対の第2の回転方向に回転するときには前記第1のプーリから繰り出されるように、前記第1のプーリの外周に巻き付けられた第1の接続部材と、
前記第1のプーリが前記第1の接続部材を巻き取るときには前記第2のプーリから繰り出され、前記第1のプーリが前記第1の接続部材を繰り出すときには前記第2のプーリに巻き取られるように、前記第2のプーリの外周に巻き付けられた第2の接続部材と、
前記基台に対して前記負荷と反対側に配置され、前記基台に連結された取付部材と、
前記基台および前記取付部材を一体に直動させる駆動源と、
一端が前記取付部材に接続され、他端が前記第2の接続部材に接続され、前記第2のプーリから前記第2の接続部材を繰り出すように前記第2の接続部材に引っ張り力を付勢する伸縮可能な弾性部材と、を備え、
前記第1の歯車および前記第2の歯車は、前記第2の歯車の回転中心から前記第1の歯車と前記第2の歯車との噛合位置までの距離R12と、前記第1の歯車の回転中心から前記第1の歯車と前記第2の歯車との噛合位置までの距離R21の比R12/R21が、前記第1の歯車および前記第2の歯車の回転に応じて変化する形状に形成されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項4】
前記第1の歯車および前記第2の歯車は、前記第1の接続部材が前記第1のプーリから繰り出されるに連れて前記比R12/R21が小さくなる形状に形成されていることを特徴とする請求項3に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記第1のプーリおよび前記第2のプーリは、前記第1のプーリにおける回転中心から外周までの距離が前記第2のプーリにおける回転中心から外周までの距離よりも大きくなる形状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
第1のリンクと、
前記第1のリンクの一端に関節を介して旋回可能に支持された第2のリンクと、
前記第1のリンクと前記第2のリンクとに接続され、引っ張り力の差により前記第2のリンクを旋回させる一対の請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアクチュエータと、を備えたことを特徴とするリンク機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−154412(P2012−154412A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13777(P2011−13777)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】