説明

アクリル酸エステル共重合体組成物及び再分散性粉末

【解決手段】本発明は、アクリル酸エステル共重合体組成物及びそれによる再分散性粉末に関するものであって、アクリル酸エステル共重合体組成物は、ケン化度85モル%以上であり、平均重合度300乃至1400のポリビニルアルコールと、水に対する溶解度が1%以上の親水性エチレン性不飽和単量体と、水に対する溶解度が1%未満の疏水性エチレン性不飽和単量体と、親油性開始剤とを含む。本発明によるアクリル酸エステル共重合体組成物は、重合安定性に優れ、耐水性、耐アルカリ性及び流動性が改善され、アクリル酸エステル共重合組成物を噴霧乾燥して製造された再分散性粉末は、水への再分散性が向上され、水硬性材料が添加された添加剤、粉末塗料、接着剤などの各種用途として使用されることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸エステル共重合体組成物及びそれによる再分散性粉末に関するものであって、更に詳しくは、重合安定性に優れ、耐水性、耐アルカリ性及び流動性が改善されたアクリル酸エステル系共重合エマルジョン組成物とこの組成物から製造された再分散性粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、アクリル系単量体、スチレン系単量体などの単量体を乳化重合する際に、乳化剤として陰イオン系(anionic)または非イオン系(nonionic)の界面活性剤が用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、界面活性剤を用いて製造されたエマルジョンは、電解質との化学的安定性に乏しいため、セメントなどに添加するとセメント組成物の流動性が低下する問題点が生じる。
【0004】
このような界面活性剤の使用の問題点を乗り越えようと、ポリビニルアルコールを保護コロイドとして使用すると化学的安定性が改善されるが、重合安定性が悪くなって安定したエマルジョンを得ることが困難であるという問題点が相変らず存在する。
【0005】
したがって、重合安定性を改善させるために、保護コロイドとして末端にメルカプト基(mercapto group)のような官能基を導入した変性ポリビニルアルコールや連鎖移動剤を併用する方法が提案されている。しかしながら、このような方法では、ポリマーの重合度を低下させ、耐水性、機械的強度、耐久性などが確保できなくなる。
【0006】
一方、酢酸ビニル樹脂とアクリル樹脂などの合成樹脂エマルジョンは、接着剤、被覆剤、セメント添加剤などに幅広く用いられてきた。
【0007】
このようなエマルジョンは、通常、液状として供給されるが、液状のエマルジョンの供給は運送費が高く、冬には凍る場合があり、結果として、時間の経過によって品質が変化するという問題点が発生した。
【0008】
このような問題点を乗り越えようと、液状のエマルジョンが乾燥によって粉末状とされ、各種用途に用いられている。しかしながら、粉末状の合成樹脂エマルジョンは、使用時に再び水に分散されなければならないので、このような粉末は優れた再分散性を有することが求められている。
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決するために創作されたものであって、重合安定性に優れ、耐水性、耐アルカリ性及び流動性が改善され、水への再分散性が向上されたアクリル酸エステル共重合体組成物及び再分散性粉末を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的及び効果などは下記に説明され、本発明の実施例によって明らかになる。また、本発明の目的及び効果などは特許請求の範囲に示した手段及び組合せにより実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面によるアクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物は、ポリビニルアルコール(polyvinylalcohol;以下"PVA"と称する)と、親水性エチレン性不飽和単量体と、疏水性エチレン性不飽和単量体及び、親油性開始剤とを含む。
【0012】
本発明の他の側面による再分散性アクリル酸エステル共重合粉末は、上記アクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物を噴霧乾燥して製造される。
【0013】
また、再分散性アクリル酸エステル共重合粉末と無機水硬性材料とを含む無機水硬性組成物が提供され、好ましくは、1乃至30重量部の再分散性アクリル酸エステル共重合粉末が、100重量部の無機水硬性材料と混合される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるアクリル酸エステル共重合体組成物及び再分散性粉末は、次のような効果を提供する。
【0015】
本発明によって製造されたアクリル酸エステル共重合体組成物は、重合安定性に優れ、耐水性、耐アルカリ性及び流動性が改善される効果があり、アクリル酸エステル共重合体組成物を噴霧乾燥して製造された再分散性粉末は、水への再分散性が向上され、水硬性材料に添加された添加剤、粉末塗料、接着剤などの各種用途に使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書及び請求範囲に使用された用語や単語は、通常的または辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自分の発明を最良の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に即して本発明の技術的思想に適合する意味と概念に解釈されるべきである。
【0017】
したがって、本明細書に記載の実施例と構成は、本発明の最も望ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的思想の全てを代弁することではないので、本出願時点において、これらに取り替えることができる多様な均等物と変形例があり得ることを理解しなければならない。
【0018】
本発明によるアクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物は、ケン化度85モル%以上であり、平均重合度300乃至1400のPVAと、水に対する溶解度が1%以上の親水性エチレン性不飽和単量体と、水に対する溶解度が1%未満の疏水性エチレン性不飽和単量体と、親油性開始剤とを含む。
【0019】
ここで、上記アクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物の組成は、20乃至70重量%の親水性エチレン性不飽和単量体及び80乃至30重量%の疏水性エチレン性不飽和単量体で構成された全単量体100重量部に対し、PVA4乃至15重量部と親油性開始剤0.01乃至1重量部を含む。
【0020】
ここで、全単量体とは、親水性エチレン性不飽和単量体と疏水性エチレン性不飽和単量体とで構成されるものを意味する。
【0021】
上記PVAは、乳化重合の乳化剤として用いられるものであって、メルカプト基のような官能基が導入された変性PVAを使用することによって、乳化重合における重合安定性は改善され得るものである。しかしながら、変性PVAの使用は重合度を低下させ、耐水性、機械的強度、耐久性などの物性が確保されない問題が生じる可能性がある。このため、ここでは、変性PVAを用いることは推奨されていない。
【0022】
乳化剤として用いられるPVAのケン化度(saponification)は85モル%以上であり、望ましくは90モル%以上である。PVAのケン化度が85モル%未満の場合には、重合が安定的に進行されず、良好なエマルジョンが形成されないことがある。
【0023】
また、PVAの平均重合度は300乃至1400であり、望ましくは300乃至600である。PVAの平均重合度が300未満であれば、粒子の保護コロイド能力が十分でなくなるか、重合が安定的に進行されないことがあり、平均重合度が1400を越えると、エマルジョン組成物の粘度が高くなって重合が安定的に進行されないため、良好なエマルジョンが得られない。
【0024】
そして、PVAの使用量は、エマルジョン組成物に含まれる全単量体100重量部に対して4乃至15重量部であることが望ましく、6乃至9重量部で使用されることがより望ましい。PVAの使用量が4重量部未満であれば、重合安定性が悪くなることがあり、15重量部を超過すれば、粘度が高くなって重合が安定的に進行されないことがあるからである。
【0025】
一方、PVAのケン化度及び平均重合度は、周知の方法によって測定することができ、一例としてKS M 3013に記載された算出方法により測定することができる。
【0026】
本発明のエマルジョン組成物に使用される親水性エチレン性不飽和単量体は、水に対する溶解度が1.0%以上であり、メチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、ジメチル(エチル)アミノエチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、グリシジル(glycidyl)メタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレートからなるグループから選択された1種以上が使用される。
【0027】
ここで、親水性エチレン性不飽和単量体の使用量は、エマルジョン組成物に含まれた全単量体100重量部に対して20乃至70重量%で含まれることが望ましく、40乃至60重量%で含まれることが更に望ましい。
【0028】
本発明のエマルジョン組成物に用いられた疏水性エチレン性不飽和単量体は、水に対する溶解度が1.0%未満であり、 n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、スチレンからなるグループから選択された1種以上が用いられる。
【0029】
ここで、疏水性エチレン性不飽和単量体の使用量は、エマルジョン組成物に含まれた全単量体100重量部に対して80乃至30重量%で含まれることが望ましく、60乃至40重量%で含まれることが更に望ましい。
【0030】
本発明のエマルジョン組成物に用いられる開始剤としては親油性開始剤が用いられ、具体的にベンゾイルパーオキサイド(benzoyl peroxide)、ラウリルパーオキサイド(lauryl peroxide)、コハク酸パーオキサイド(succinic peroxide)、 t-ブチルパーオキシマレイン酸(t-butyl peroxy maleic acid)、t-ブチルヒドロパーオキサイド(t-butyl hydroperoxide)、アゾビスジメチルバレロニトリル(azobisdimethylvaleronitrile)、アゾイソブチロニトリル(azoisobutyronitrile)からなるグループから選択された1種以上の有機過酸化物が用いられる。
【0031】
望ましくは、使用の便利性の側面において、コハク酸パーオキサイド、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルヒドロパーオキサイドが用いられることができる。
【0032】
上記の親油性開始剤は、全単量体100重量部に対し0.01乃至1重量部で使用され、0.05乃至0.5重量部で使用されることが望ましい。
【0033】
一方、本発明によるアクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物は、必要により他の成分を含むことができ、その例として還元剤、重合調節剤、補助乳化剤などがエマルジョン組成物の性質を低下させない適切な範囲で選択的に使用されることができる。
【0034】
上記還元剤は、親油性開始剤である有機過酸化物から生成されるラジカル(radical)の10時間半減期の温度が90℃を超える場合に使用されることができ、還元剤として、還元性有機化合物または還元性無機化合物が使用されることができる。
【0035】
上記還元剤を用いる場合、重合開始剤に対して0.05乃至3当量を使用し、0.5乃至2当量を使うことが更に望ましい。
【0036】
還元性有機化合物はL-アスコルビン酸(ascorbic acid)、酒石酸(tartaric acid)、ナトリウム有機スルフィン酸(sodium organosulfinate)及びホルムアルデヒドスルホキシレート金属塩からなるグループから選択された化合物で1種以上が使用されることができ、還元性無機化合物は、例えば、チオ硫酸ナトリウム(sodium thiosulfate)、酸性亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム(sodium metabisulfate)のような硫酸ナトリウムから選択された1種以上が使用されることができる。
【0037】
乳化重合に通常用いられる重合調節剤としては、連鎖移動剤やバッファー(buffer)などが目的に応じて使われるが、連鎖移動剤の使用はアクリル系ポリマーの重合度を低下させるので、得られたエマルジョンの特性における耐水性及び耐久性を低下させる問題を発生させる。このような理由により、本発明のアクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物では連鎖移動剤を使わないことが望ましい。
【0038】
バッファーとしては、酢酸ナトリウム、第2燐酸ナトリウムまたは硫酸ナトリウムが使用されることができ、これらの2種以上が混合されて使用されることもできる。
【0039】
エマルジョン組成物に含まれ得る補助乳化剤としては、陰イオン性、陽イオン性または非イオン性界面活性剤、保護コロイド機能を有する水溶性高分子及び水溶性オリゴマーの中から選択的に使われることができるが、補助乳化剤を多量に使うと、エマルジョン組成物の乾燥の時に融着が進行され、再分散性が低下される問題が発生することになる。このような理由により、本発明のアクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物では補助乳化剤として界面活性剤の使用を避けることが望ましい。
【0040】
PVA以外の保護コロイド機能を有する水溶性高分子としては、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、澱粉誘導体などが挙げられ、このような水溶性高分子はエマルジョン組成物を噴霧乾燥してエマルジョン粉末として使う時に粘性を変化させる。
【0041】
ただ、その使用量によって再分散性エマルジョン粉末の再分散性を低下させることがあるので、使う場合には再分散性エマルジョン粉末の再分散性を低下させない範囲で使用することが望ましい。
【0042】
上記水溶性オリゴマーは、スルホン酸基、カルボキシル基、水酸基、アルキレングリコール基などの親水基を有する重合度が10乃至500の重合体または共重合体とすることができ、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体のアミド系共重合体、メタクリル酸ナトリウム-4-スチレンスルホネート共重合体、スチレンマレイン酸共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸塩からなるグループから選択された1種以上が使用されることができる。
【0043】
上記水溶性オリゴマーの中、水への再分散性、無機水硬性成分との混和安定性の側面から2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体やメタクリル酸ナトリウム-4-スチレンスルホネート共重合体が使用されることが望ましい。
【0044】
そして、水溶性オリゴマーは乳化重合を開始する前に重合したものを使っても良い。
【0045】
上記アクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物は、典型的な均一の乳白色であり、平均粒子径は0.05乃至2.0μmであって、望ましくは0.5乃至1.0μmである。そして、エマルジョン組成物の平均粒子径は周知・慣用の方法、例えばレーザー回折、散乱式粒度分布装置によって測定され得る。
【0046】
一方、必要により、乳化重合後のエマルジョン組成物に添加剤を付加しても良い。このような添加剤としては、例えば、有機顔料、無機顔料、水溶性添加剤、pH調節剤、防腐剤、酸化防止剤などが挙げられる。
【0047】
上記水溶性添加剤は、エマルジョン組成物を噴霧乾燥して製造される粉末の再分散性及び再分散エマルジョンの流動性、接着性を高めるために添加されることができるものであって、水溶性添加剤を使用する場合、乳化重合の後、乾燥前のエマルジョン組成物に添加される。
【0048】
水溶性添加剤の使用量は、乾燥前の水性エマルジョンの不揮発分100重量部に対して1乃至50重量部であることが望ましい。水溶性添加剤の使用量が50重量部を超過すれば、再分散性エマルジョン粉末の耐水性が十分に確保されず、1重量部未満であれば、再分散性、流動性または接着性の向上が十分でないことがある。
【0049】
上記水溶性添加剤としては、ポリビニルアルコール(陽イオンPVAも含む)、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、澱粉誘導体(澱粉エーテル(starch ether)、陽イオン澱粉も含む)、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、水溶性アルキド樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性ウレア樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性グアナミン樹脂、水溶性ナフタレンスルホン酸樹脂、水溶性アミノ樹脂、水溶性ポリアミド樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリカルボン酸樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ポリウレタン樹脂、水溶性ポリオール樹脂、水溶性エポキシ樹脂、カチオン化剤からなるグループから選択された1種以上が使用されることができる。
【0050】
上記水溶性添加剤の中、PVA及びその誘導体、澱粉エーテルは再分散性、流動性及び接着性を高めることに効果的である。水溶性添加剤として用いられるPVAは、重合過程で乳化剤として用いられたものと同一であるか、他の化合物でも良い。
【0051】
本発明によるアクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物は、重合安定性及び機械的安定性に優れ、セメントモルタル混和剤、ニス、健材、塗料、接着剤、纎維及び紙加工剤、無機物バインダーなどの用途に好適に用いられることができる。
【0052】
一方、アクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物を噴霧乾燥して製造された再分散性アクリル酸エステル共重合粉末が提供される。
【0053】
ここで、「再分散性」とは、水系媒体、例えば、水にエマルジョン粉末を再分散させてもエマルジョンを生成することができる粉体の性質を意味する。
【0054】
そして、噴霧乾燥の後に生成されるエマルジョン粉末に混合するか、噴霧乾燥の時にエマルジョンとともに混合する方法でブロッキング(blocking)防止剤を併用することができる。
【0055】
ブロッキング防止剤としては、周知の非活性である無機または有機粉末、例えば炭酸カルシウム、滑石(talc)、粘土(clay)、無水珪酸、珪酸アルミニウム、ホワイトカーボン、アルミナホワイトなどを使うことができ、これらの中で平均粒径が0.01乃至0.5?の無水珪酸、炭酸カルシウム、滑石、粘土を併用することが望ましい。
【0056】
ブロッキング防止剤の使用量は噴霧乾燥の後に生成される再分散性エマルジョン粉末100重量%に対して2乃至30重量%であることが望ましい。
【0057】
再分散性アクリル酸エステル共重合粉末は、水硬性材料に添加される添加剤、粉末塗料、接着剤などの各種用途に使用されることができ、そして望ましくは、各種セメント、石膏などの水硬性材料に添加剤として使用される。
【0058】
上記再分散性アクリル酸エステル共重合粉末に無機水硬性材料を混合して無機水硬性組成物が生成される。
【0059】
本発明により提供された再分散性アクリル酸エステル共重合粉末を水硬性材料に添加すれば、通常的な接着力の向上のみならず、湿潤の時の接着力も向上する利点が生ずることになる。
【0060】
無機水硬性組成物に含まれる無機水硬性材料は、例えば、ポルトランドセメント、早強性セメント、速硬性セメントなどの各種セメント系材料、無機石膏、半水石膏、焼石膏などの各種石膏系材料、高炉スラグ(blast furnace slag)などから1種以上が選択的に使用されることができる。
【0061】
再分散性アクリル酸共重合粉末は、無機水硬性材料100重量部に対し1乃至30重量部で混合されることが望ましく、5乃至20重量部で含まれることが更に望ましい。再分散性アクリル酸共重合粉末の含有量が1重量部未満であれば接着力の向上が不十分であり、30重量部を超えると、水硬性材料本来の性能が発揮されない問題点が発生することになる。
【0062】
一方、無機水硬性組成物には他の材料を更に含むことができ、例えば、珪素、フライアッシュ(fly ash)、石灰石粉、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどから選択された材料が使用されることができる。
【0063】
以下、本発明の他の側面によるアクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物及びそれによる再分散性粉末の製造方法について詳述する。
【0064】
本発明によるアクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物は、85モル%以上のケン化度を示すPVAにグラフト重合が進行されやすい条件下で乳化重合して製造されることができる。
【0065】
ここで、「グラフトが進行されやすい条件下で乳化重合すること」とは、親油性開始剤を使って20乃至90℃で乳化重合を実施することを意味する。
【0066】
乳化重合の方法としては、例えば重合体に水、乳化剤、モノマーなどを全部入れて昇温し、適量の重合開始剤を添加して重合を進行させるバッチ式乳化重合法;重合体に水、乳化剤を入れて昇温し、モノマーを滴下するモノマー適下式乳化重合法;及びモノマーをあらかじめ乳化剤と水で乳化させた後、モノマーを滴下する乳化モノマー滴下式乳化重合法などを用いることができ、本発明はこれら乳化重合方法に限定されるものではない。本発明においては、モノマー滴下式乳化重合法を利用してアクリル共重合エマルジョン組成物を製造した。
【0067】
一般的に、乳化重合は、上述したように乳化剤及びモノマー成分以外に重合開始剤、重合調節剤、補助乳化剤のような成分を必要によって付加して実施することができる。
【0068】
一方、再分散性粉末は、アクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物を乾燥して製造することができる。乾燥方法としては、噴霧乾燥、凍結乾燥、温風乾燥などが挙げられ、粉末の再乳化性、生産性の観点から噴霧乾燥を用いることが望ましい。
【0069】
噴霧乾燥の場合、その噴霧形式に特別な制限はないが、例えば、ディスク式、ノズル式などの形式によって実施することができる。噴霧乾燥の熱源としては熱風、加熱水蒸気などが挙げられ、噴霧乾燥の温度は70乃至150℃であることが望ましい。
【0070】
本発明において、噴霧乾燥処理を更に詳しく説明すれば、まず、エマルジョンの不発揮分を調整し、これを噴霧乾燥機に連続的に供給し、発生した霧状態であるものを温風によって乾燥して粉末化させ、これによって粉を得る。
【0071】
以下、本発明による実施例について詳しく説明する。
【0072】
<実施例1>
アクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物の製造
撹拌装置、温度計、コンデンサー及び滴下ロット(lot)を備えた反応槽に130重量部の水と、平均重合度500であり、ケン化度98.0乃至99.0モル%のPVA(商品名:Polinol F05、DCC社製)8重量部及びバッファーとして酢酸ナトリウム0.3重量部を入れて反応槽を80℃で加熱してPVAを水に溶解させる。
【0073】
次に、反応槽の温度を80℃に維持し、反応槽にモノマーとしてブチルアクリレート(以下"BA"と称する)5重量部及びメチルメタクリレート(以下"MMA"と称する)5重量部を反応槽に添加し、重合開始剤としてt-ブチルパーオキシマレイン酸(以下"t-BPM"と称する)0.1重量部及び還元剤としてL-アスコルビン酸(以下"L-ASA"と称する)0.1重量部を付加して乳化重合反応を1時間進行させる。
【0074】
そして、モノマー成分としてBA45重量部、MMA45重量部、開始剤t-BPM0.4重量部及び還元剤L-ASA0.4重量部を反応槽に約4時間にわたって滴下して滴下重合反応を進行させる。滴下終了の後に、熟成させて冷却して反応を完結させる。
【0075】
上記のような製造方法により固形分濃度約45重量%の水性アクリル共重合エマルジョン組成物(組成物1)が得られる。
【0076】
<実施例2>
PVAを平均重合度500であり、ケン化度85.5乃至87.5モル%のPVA(商品名:Polinol P05、DCC社製)に変更したこと以外には、実施例1の製造方法と同一の方法でエマルジョン組成物(組成物2)が得られる。
【0077】
<実施例3>
PVAを平均重合度1300であり、ケン化度92.5乃至94.5モル%のPVA(商品名:PVA-613、クラレ社製)に変更し、開始剤をベンゾイルパーオキサイド(以下"BPO"と称する)に変更して還元剤を使わないことと、BAとMMAの混合比が4:6であること以外には、実施例1の製造方法と同一の方法でエマルジョン組成物(組成物3) が得られる。
【0078】
一方、乳化反応の時、BAは4重量部で、MMAは6重量部で反応槽に添加され、滴下重合反応の時、BAは36重量部で、MMAは54重量部で反応槽に投入される。
【0079】
<実施例4>
PVAを平均重合度1000であり、ケン化度87.0乃至89.0モル%のPVA(商品名:PVA-210、クラレ社製)に変更し、開始剤をt-ブチルヒドロパーオキサイド(以下"t-BHP"と称する)に変更したこと、還元剤を使わないこと、BAとMMAの混合比が6:4であること以外には、実施例1の製造方法と同一の方法でエマルジョン組成物(組成物4) が得られる。
【0080】
一方、乳化反応の時、BAは6重量部で、MMAは4重量部で反応槽に添加され、滴下重合反応の時、BAは54重量部で、MMAは36重量部で反応槽に投入される。
【0081】
<比較例1>
PVAを平均重合度1700であり、ケン化度94.5乃至95.5モル%のPVA(商品名:PVA-617、クラレ社製)に変更したこと以外には、実施例1の製造方法と同一の方法で乳化重合を進行した。しかし、重合中に高粘度化されて安定したエマルジョン組成物(組成物5)が得られなかった。
【0082】
<比較例2>
PVAを平均重合度200であり、ケン化度98.0乃至99.0モル%のPVA(商品名:PVA-102、クラレ社製)に変更したこと以外には、実施例1の製造方法と同一の方法で乳化重合を進行した。しかし、重合中に粘性が「ダイラタンシー(dilatancy)」化され、安定したエマルジョン組成物(組成物6)が得られなかった。
【0083】
<比較例3>
BAとMMAの割合を90:10に変更し、開始剤をBPOに変更して還元剤を使わないこと以外には、実施例1の製造方法と同一の方法で乳化重合を進行した。しかし、重合反応が進行されなかったため、安定したエマルジョン組成物(組成物7)が得られなかった。
【0084】
<比較例4>
PVAを平均重合度500であり、ケン化度85.5乃至87.5モル%のPVA(商品名:P05、DCC社製)に変更し、開始剤を過硫酸アンモニウム(Ammonium Persulfate;以下"APS"と称する)に変更し、還元剤を使わないこと以外には、実施例1の製造方法と同一の方法で乳化重合を進行した。しかし、重合反応が進行されなかったため、安定したエマルジョン組成物(組成物8)が得られなかった。
【0085】
上記実施例及び比較例をまとめれば、下記の<表1>のようである。
<表1>

ここで、全単量体100重量部を基準としてPVAは8重量部、開始剤は0.5重量部、還元剤は0.5重量部が添加される。
【0086】
再分散性アクリル酸エステル共重合エマルジョン粉末の製造
100重量部のエマルジョン組成物1に水溶性添加剤としてPVA(商品名:P05、DCC社製)20重量%溶液50重量部を混合してブロッキング防止剤(SE-SUPER NAINTSCH社製造、ドロマイト 滑石)15重量部の存在下で噴霧乾燥させてエマルジョン粉末を得た。
【0087】
また、エマルジョン組成物1をエマルジョン組成物2、3及び4に変更したこと以外には、上記の方法と同一の方法によってエマルジョン粉末を製造した。
【0088】
一方、組成物5乃至8に対しては、エマルジョン組成物が得られないため、再分散性粉末が製造されることができなかった。
【0089】
<評価試験>
試験1:重合安定性
それぞれのエマルジョン組成物に対して、重合中に組成物がゲル化されるかどうかを確認した。ゲル化しない場合は、生成されたエマルジョンを200メッシュ(mesh)(ASTM式標準)のパイレン網を利用して濾過した。濾過後、濾過物の重量を測定した。エマルジョン固形粉100g当たり残渣量を<表2>に示した。濾過残渣量が30mg以下であれば、重合安定性に優れたものと判定した。
【0090】
試験2:流動性
それぞれのエマルジョン組成物に対してブルックフィールド型粘度計で6rpmと60rpmの粘度を測定して次のように粘性指数としてTI(Thixotropic Index Value)値を算出し、2.5以下であれば、流動性に優れると判定した。
η at 6rpm / η at 60rpm = TI

試験3:再分散性
製造された再分散性エマルジョン粉末100重量部を脱イオン水100重量部に撹拌機を利用して混合して再分散液を得た。上記のような再分散液をガラス管に入れて室温で放置し、再分散液を次のような基準で評価した。
【0091】
判断基準
A:均一な再分散液が得られ、エマルジョン粉末の沈降がほぼ見えない状態
B:再分散液が相分離され、透明な液の相と沈降したエマルジョン粉末の相に見える状態
-:エマルジョン粉末の製造ができない場合

試験4:セメントモルタル(mortar)の耐水接着強度の試験
ポルトランドセメント:標準砂=1:3のセメント材料と実施例1乃至4から得られた再分散性エマルジョン粉末を10:1になるように配合し、また、これを水で配合してフロー値が170±5になるように調整した。
【0092】
次に、モルタル基板(70×70×20mm)をKS規定の150番研磨紙を利用して表面を研磨した。この基板上に型枠を利用して各試験体を形成させ、得られた試験体を24時間の間、水に沈積して濡れた状態のそのままで接着強度を万能試験機(シマズ製作所製作)によって測定した。
【0093】
ポルトランドセメント:標準砂=1:3のセメント材料と実施例1乃至4から得られた再分散性エマルジョン粉末を10:1になるように配合し、また、これを水で配合してフロー値が170±5になるように調整して試料を用意する。
【0094】
次に、試験用底板(70×70×20mm)をKS F 4716の5.2によって製作し、この試験用底板上に型枠(40×40mm)を利用して上記の試料を塗布して成形し、養生室で14日間養生させて試験体とする。
【0095】
養生が終わった試験体を養生室内に水平に置き、試料の塗布面に接着剤を塗り、上部引張用ジグを接着させた後に24時間を放置し、これをまた24時間の間、水中に浸漬して湿潤状態のそのままで接着強度を引張試験機で試料面に対して垂直方向に引張力を加えて最大引張荷重を求める。付着強度は次式によって計算し、小数点以下1桁で示す。
【0096】
付着強度(N/mm2)=T/1600
ここで、T:最大引張荷重(N)
測定された結果、接着強度が1.0N/mm2以上で合格と判断し、その結果は<表2>に示した。
<表2>

以上のように、本発明は限定された実施例によって説明されたが、本発明はここに限らず、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者によって本発明の技術思想と特許請求範囲の均等範囲内で多様な修正及び変形が可能であることは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケン化度85モル%以上であり、平均重合度300乃至1400のポリビニルアルコールと、
水に対する溶解度が1%以上の親水性エチレン性不飽和単量体と、
水に対する溶解度が1%未満の疏水性エチレン性不飽和単量体と、
親油性開始剤を含む
アクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のアクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物であって、
前記アクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物は、親水性エチレン性不飽和単量体20乃至70重量%疏水性エチレン性不飽和単量体80乃至30重量%で構成された全単量体100重量部に対して4乃至15重量部のPVAと、親油性開始剤とを含む。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のアクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物であって、
前記親油性開始剤は、ベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルヒドロパーオキサイド、アゾビスジメチルバレロニトリル、及びアゾイソブチロニトリルからなるグループから選択された1種以上の有機過酸化物である。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のアクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物であって、
前記親水性エチレン性不飽和単量体は、メチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、ジメチル(エチル)アミノエチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、グリシジルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、及びエトキシエチル(メタ)アクリレートからなるグループから選択された1種以上である。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のアクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物であって、
前記疏水性エチレン性不飽和単量体は、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、及びスチレンからなるグループから選択された1種以上である。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のアクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物であって、
前記アクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物は、水溶性添加剤を更に含む。
【請求項7】
請求項6に記載のアクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物であって、
前記水溶性添加剤は、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、澱粉誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、水溶性アルキド樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性ウレア樹脂、水溶性メラミン樹脂、水溶性グアナミン樹脂、水溶性ナフタレンスルホン酸樹脂、水溶性アミノ樹脂、水溶性ポリアミド樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリカルボン酸樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ポリウレタン樹脂、水溶性ポリオール樹脂、水溶性エポキシ樹脂、及びカチオン化剤からなるグループから選択された1種以上であり、エマルジョン組成物の不揮発分100重量部に対して1乃至50重量部で添加される。
【請求項8】
請求項1、請求項2または請求項6のいずれかに記載のアクリル酸エステル共重合エマルジョン組成物を噴霧乾燥して製造された再分散性アクリル酸エステル共重合粉末。
【請求項9】
請求項8の再分散性アクリル酸エステル共重合粉末と無機水硬性材料を含むことを特徴とする無機水硬性組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の無機水硬性組成物であって、
前記無機水硬性材料は、セメント系材料、石膏系材料及び高炉スラグからなるグループから選択された1種以上である。

【公表番号】特表2010−522798(P2010−522798A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500809(P2010−500809)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【国際出願番号】PCT/KR2007/004639
【国際公開番号】WO2008/133375
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(509262323)ヤング−ウー ケミテック カンパニーリミテッド (1)
【Fターム(参考)】