説明

アスコルビン酸含有材料乾燥物の製造方法

【課題】 アスコルビン酸含有材料からアスコルビン酸類を分解させることなくアスコルビン酸含有材料乾燥物を容易に製造する方法を提供すること。
【解決手段】 本発明のアスコルビン酸含有材料乾燥物の製造方法は、アスコルビン酸およびその誘導体の少なくとも1種を含むアスコルビン酸含有材料に、賦形剤および乳化剤を添加する工程、および得られた混合物を加熱乾燥する工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスコルビン酸およびその誘導体の少なくとも1種を含むアスコルビン酸含有材料の乾燥物の製造方法に関する。本明細書において、「アスコルビン酸およびその誘導体の少なくとも1種」を「アスコルビン酸類」と略称する場合がある。
【背景技術】
【0002】
アスコルビン酸類は、様々な食品、医薬品、化粧品等に配合される汎用の原料である。アスコルビン酸類の主な用途は、酸化防止やビタミンとしての利用である(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、アスコルビン類は、その性質上、酸化等によって分解を受けやすい。例えば、アスコルビン酸を含有するイチゴやレモンの果汁、あるいはそれを含有する液状の食品原料を粉末化し、アスコルビン酸を含有する材料あるいは製品を得る場合に、簡易的な乾燥方法である加熱乾燥を行うとアスコルビン酸が分解するという問題点がある。
【0004】
よって、アスコルビン酸類の分解あるいは損失を低減し、アスコルビン酸類の優れた生理活性を有する乾燥物の粉末を得るには、凍結乾燥、あるいはアスコルビン酸の酸化を防ぐ酸化防止剤等を添加するなどの方法を採用せざるを得ず、多大な時間およびコストを要する問題点がある(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開平6−199687号公報
【特許文献2】特開平4−99771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされ、その目的は、アスコルビン酸類を含むアスコルビン酸含有材料から、アスコルビン類が高い割合で保持されたアスコルビン酸含有材料乾燥物を簡便に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、アスコルビン酸含有材料から高品質の乾燥物を簡便に製造する方法を鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明のアスコルビン酸含有材料乾燥物の製造方法は、アスコルビン酸およびその誘導体の少なくとも1種を含むアスコルビン酸含有材料に、賦形剤および乳化剤を添加する工程、および得られた混合物を加熱乾燥する工程を包含する。
【0008】
好適な実施態様においては、上記アスコルビン酸含有材料は、天然物由来の素材を含有する。
【0009】
好適な実施態様においては、上記賦形剤は、デキストリンまたはシクロデキストリンである。
【0010】
好適な実施態様においては、上記加熱乾燥は噴霧乾燥である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アスコルビン酸類を含むアスコルビン酸含有材料の乾燥物であって、該アスコルビン酸類の分解または損失が極めて低く抑えられた乾燥物を得ることができる。そのため、本発明により得られる乾燥物は、食品、医薬品などの各種原料として使用するのに好適であり、特に、粉末、錠剤、顆粒、液状の形態の製品の調製に広く利用され得る。上記乾燥物は通常、粉末として得られるため、安定性や輸送の面からも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の方法に用いられる材料、およびそれを用いた本発明の方法について、順次説明する。
【0013】
(1)アスコルビン酸類を含むアスコルビン酸含有材料
本発明の方法に用いられるアスコルビン酸含有材料は、アスコルビン酸類を含有し、通常、アスコルビン酸類に加えて天然物由来の素材などを含有する。
【0014】
アスコルビン酸類は、上述のように、アスコルビン酸およびその誘導体の少なくとも1種であり、抗酸化活性を有する化合物である。アスコルビン酸類としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸の塩、アスコルビン酸のリン酸化合物などが挙げられる。
【0015】
上記天然物由来の素材の種類は、最終的に得られるアスコルビン酸含有材料乾燥物が利用される用途(食品、医薬品、化粧品など)に応じて異なり、特に限定されない。例えば、いちご、柿、キウィフルーツ、キャベツ、ケール、ブロッコリー、グァバ、グレープフルーツ、こまつな、さつまいも、じゃがいも、チンゲンサイ、とうがん、夏みかん、ネーブルオレンジ、パセリ、パパイヤ、ピーマン(赤ピーマン)、モロヘイヤ、レモン、れんこんなどがあげられる。これらは破砕して得られるペースト、搾汁、これらを含有する配合物などであり得る。従って、アスコルビン酸含有材料は、アスコルビン酸類および必要に応じて上記素材を含む液状物、ペースト状物などの形態であり得る。
【0016】
(2)賦形剤および乳化剤
本発明の方法に用いられる賦形剤としては、デンプン、デンプン分解物またはこれらの誘導体、乳糖、ショ糖、水溶性食物繊維等が挙げられる。デンプン分解物またはこれらの誘導体としては、デキストリン、麦芽糖、トレハロース、糖アルコール(還元麦芽糖、ソルビトール、エリスリトールなど)、オリゴ糖(シクロデキストリン、フラクトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖など)などがある。上記水溶性食物繊維としては、カラギナン、グアガム、サイリウム、難消化性デキストリンなどがある。好ましくは、デキストリン、シクロデキストリン、難消化性デキストリン、または還元麦芽糖が、最も好ましくは、デキストリンまたはシクロデキストリンが用いられる。なお、溶解性の面からシクロデキストリンはα体が70%以下のものが最も好ましい。
【0017】
本発明の方法に用いられる乳化剤としては、水可溶性の乳化剤が好適に用いられる。乳化剤のHLBは、好ましくは7以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは5以下である。このような乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン(例えば大豆レシチン)、およびモノグリセリド(例えばクエン酸モノグリセリド、グリセリン脂肪酸エステル)が挙げられる。
【0018】
(3)アスコルビン酸含有材料乾燥物の製造
本発明の製造方法によりアスコルビン酸含有材料乾燥物を製造するにはまず、上記アスコルビン酸含有材料に、上記賦形剤および乳化剤が添加される。
【0019】
賦形剤の添加量は、上記アスコルビン酸含有材料の固形分含量またはBrix値によって、適宜決定される。通常、アスコルビン酸類の固形分含量(またはBrix値から換算して得られた値)と賦形剤との質量比が1:20〜10:1、好ましくは1:20〜1:1となるように賦形剤が添加される。アスコルビン酸含有材料が、不溶物を含有する場合、例えば、アスコルビン酸類を含む植物体を破砕して得られるペーストである場合には、固形分含量(またはBrix値から換算して得られた値)と賦形剤との質量比は、好ましくは1:5〜10:1である。アスコルビン酸含有材料の不溶物が、例えば、遠心分離や濾過により除去されている場合には、固形分含量と賦形剤との質量比は、好ましくは1:10〜5:1である。
【0020】
添加する乳化剤の量は特に制限されないが、好ましくは上記アスコルビン酸含有材料、賦形剤、および乳化剤の合計量(乾燥質量)の0.00005〜10質量%、より好ましくは0.0001〜5質量%、さらに好ましくは0.03〜1質量%となるように添加される。
【0021】
上記賦形剤および乳化剤を添加して得られる混合物は、次いで加熱乾燥される。加熱乾燥時の温度は、40〜180℃、好ましくは50〜160℃である。乾燥方法としては、当業者が通常用いる種々の方法が採用される。熱風乾燥、噴霧乾燥、減圧濃縮乾固(減圧条件において加熱乾燥を行う)などを用いることができ、乾燥時にさらされる加熱時間が短い噴霧乾燥が好適に用いられる。噴霧乾燥を行う場合の温度は、通常、100℃〜180℃、好ましくは、120℃〜160℃である。
【0022】
上記乳化剤および賦形剤を添加する工程の前、あるいは上記加熱乾燥工程前に、減圧濃縮、凍結濃縮、膜濃縮など当業者が用いる方法によって濃縮処理を行ってもよい。
【0023】
上記加熱乾燥により得られるアスコルビン酸含有材料乾燥物は、有効成分であるアスコルビン酸類の含有量が高く、加熱乾燥による損失が低減されている。例えば、アスコルビン酸類がアスコルビン酸である場合には、添加する賦形剤によっても変化するが、一般に、同一の賦形剤を用いて乳化剤を添加しなかった場合に比較して、好ましくは1.1倍以上、より好ましく1.1倍〜2倍の高い含有量を示す。なお、有効成分の損失が少ない乾燥方法として凍結乾燥法が挙げられるが、コストが高く、乾燥に長時間かかるため、この点において加熱乾燥工程を含み、しかも有効成分の損失が少ない本発明の方法は優れている。
【0024】
上記のうち、特に、賦形剤としてシクロデキストリンまたはデキストリン、そして乳化剤としてHLBが7以下の乳化剤、好ましくは、HLBが5.5以下の乳化剤、特に好ましくは、大豆レシチン、クエン酸脂肪酸エステル、またはグリセリンモノグリセリド、最も好ましくは、大豆レシチンまたはクエン酸脂肪酸エステルを用いて得られる乾燥粉末が、アスコルビン酸類を高い割合で保持する。
【0025】
(4)アスコルビン酸含有材料乾燥物を含む配合物
上記アスコルビン酸含有材料乾燥物は、種々の形態で利用される。通常、この乾燥物を含有し、必要に応じて、その他の成分を含有する種々の配合物として利用される。例えば、このアスコルビン酸含有材料乾燥物を含む配合物は、食品、医薬部外品、化粧品、トイレタリー用品などとして広く利用される。
【0026】
配合物中のアスコルビン酸含有材料乾燥物の含有量は、特に制限されない。必要とされるアスコルビン酸類の機能を考慮し、目的に応じて決定される。例えば、食品など経口投与を目的とする場合には、アスコルビン酸含有材料乾燥物は、好ましくは0.001〜100質量%、より好ましくは0.01質量%〜70質量%の割合で、化粧品などの経皮投与を目的とする場合には、好ましくは0.00001質量%〜50質量%、より好ましくは0.0001質量%〜30質量%の割合で含有される。
【0027】
上記配合物中のアスコルビン酸含有材料乾燥物以外の成分の種類は特に含有されない。例えば、通常の食品に添加し得る成分が挙げられ、その例としては、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤(例えば、寒天)、乳化剤、滑沢剤、湿潤剤、懸濁剤、着色料(色素)、食品添加物、調味料などがある。さらに、通常、医薬部外品、化粧品、およびトイレタリー用品に添加し得る成分(基材、動植物抽出物など)が挙げられる。上記成分は、単独で、あるいは組み合わせて配合される。
【0028】
上記種々の成分のうちの食品添加物および調味料の例を以下に挙げる。食品添加物としては、例えば以下の化合物あるいは材料がある:ローヤルゼリー、プロポリス、ビタミン類(ビタミンA、B群、D、E、またはK、葉酸、パントテン酸、ビオチン、これらの誘導体等)ミネラル(鉄、マグネシウム、カルシウム、亜鉛などの金属を含む化合物)、セレン化合物、キチン・キトサン、レシチン、ポリフェノール(カテキン類、アントシアニン類、プロアントシアニジンなどの縮合型タンニン、ガロタンニン等の加水分解型タンニン、フラボノイド類、これらの誘導体等)、カロテノイド(リコピン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、ルテイン等)、サポニン(イソフラボン、ジンセサノイド、グリチルリチン酸等)、キサンチン誘導体(カフェイン等)、脂肪酸、アミノ酸、タンパク質(コラーゲン、エラスチン等)、ムコ多糖類(ヒアルロン酸、コンドロイチン、デルマタン、ヘパラン、ヘパリン、ケタラン、これらの塩等)、アミノ糖(グルコサミン、アセチルグルコサミン、ガラクトサミン、アセチルガラクトサミン、ノイラミン酸、アセチルノイラミン酸、ヘキソサミン、それらの塩等)、食物繊維(難消化性デキストリン、アルギン酸、グアガム、ペクチン、グルコマンナン等)、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、環状オリゴ糖等)リン脂質およびその誘導体(フォスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、セラミド等)、含硫化合物(アリイン、セパエン、タウリン、グルタチオン、メチルスルホニルメタン等)、糖アルコール、キノン類(コエンザイムQ10等)、リグナン類(セサミン等)、これらを含有する動植物抽出物、根菜類(ウコン、ショウガ等)、麦若葉末等のイネ科植物の緑葉、ケール等のアブラナ科植物の緑葉など。さらに上記化合物あるいは材料を含む飲料、例えば、植物発酵ジュース、野菜ジュース(例えば、人参ジュース)、植物抽出物、果汁なども利用され得、これらを含有させることにより機能性または栄養価の高い飲料を得ることができる。
【0029】
上記調味料としては、例えば、グラニュー糖、蜂蜜、ソルビットなどの甘味料、アルコール、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などの酸味料、および香料が挙げられる。
【0030】
上記配合物は、目的に応じて、各種の形態に調製することができる。例えば、食品などとして利用する場合は、ハードカプセル、ソフトカプセルなどのカプセル剤、錠剤、丸剤、粉末(散剤)、顆粒、ティーバッグ、液体(飲料)、ペーストなどの当業者が通常用いる形態で利用される。さらに、上記液体などを加工して、ゼリー、シャーベット、フローズンヨーグルトあるいはアイスクリームとすることもできる。これらは、形状または好みに応じて、そのまま摂取してもよく、あるいは水、湯、牛乳などに溶いて、または成分を浸出して飲むことができる。なお、飲料の場合、低pHであれば、120℃、4分の完全殺菌をしなくても、100℃以下の殺菌条件で殺菌できる。例えば、pHが4.0以下の場合では、65℃、10分相当の殺菌条件で十分に殺菌できる。
【0031】
上記配合物を、医薬部外品、化粧品、トイレタリー用品などとして利用する場合は、例えば、化粧水、化粧クリーム、乳液、パック、ヘアトニック、シャンプー、ヘアリンス、トリートメント、ボディーシャンプー、洗顔剤、石鹸、ファンデーション、口紅、育毛剤、軟膏、入浴剤、歯磨剤、マウスウウォッシュ、シップ、ゲルなどの形態とされ得る。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。以下の実施例および比較例において、アスコルビン酸は以下の方法により測定を行った。
【0033】
(アスコルビン酸含有量の測定)
試料液0.4gを10mLの水に溶解する。得られた溶液と、10mLのブタノールとを分液ロート中で攪拌混合した後、水層を回収する操作を2回行って試験液を調製した。得られた試験液をHPLCに供し、以下の条件で測定した。なお、標準物質として、アスコルビン酸(和光純薬株式会社製)の0.01質量/容量%水溶液、0.05質量/容量%水溶液、および0.1質量/容量%水溶液を調製した。
【0034】
移動相:25mM KHPO(pH2.5)
カラム:Unison UK−C18 150×4.6mm(Imtakt社製)
流速:1mL/min
カラム温度:40℃
使用試験液量:10μL
検出波長:205nm
【0035】
(実施例1)
アスコルビン酸を1.6質量%の割合で含有する水溶液を20kg調製し、このうちの1kgを分取して、賦形剤としてシクロデキストリン(イソエリートP、α体含有量:70%以下、塩水港精糖社製)を250gおよび乳化剤としてクエン酸モノグリセリド(HLB=3.0、商品名:K−30、理研ビタミン社製)を0.1g添加して混合物(固形分含量が21.3質量%、アスコルビン酸含量が1.28質量%)を調製した。これを155℃の加熱条件下で噴霧乾燥して、170gの噴霧乾燥粉末を得た。この乾燥粉末21.3gを水80gに溶解して、乾燥前の混合物と同等の固形分含有量となるように調整した試料液1を得た。試料液1について、アスコルビン酸含有量を測定した。その結果を表1に示す。後述の実施例2〜15および比較例1〜3の結果も併せて表1に示す。表1において、「対照」の測定値は、アスコルビン酸を1.6質量%の割合で含有する水溶液1kgにシクロデキストリン250gとクエン酸モノグリセリド0.1gとを添加し均一に混合して得られた溶液を試料液として用いて、上述と同様にしてアスコルビン酸の含有量を測定して得られた値である。
【0036】
(実施例2)
実施例1の賦形剤をデキストリン(商品名:MAX1000、松谷工業株式会社製)にしたこと以外は同様に行い、168gの乾燥粉末を得た。この乾燥粉末20gを水80gに溶解して試料液2を得、アスコルビン酸の含有量を測定した。
【0037】
(実施例3)
実施例1の賦形剤を難消化性デキストリン(商品名:パインファイバー、松谷工業株式会社製)にしたこと以外は同様に行い、168gの乾燥粉末を得た。この乾燥粉末20gを水80gに溶解して試料液3を得、アスコルビン酸の含有量を測定した。
【0038】
(実施例4〜6)
実施例1〜3において、乳化剤をグリセリン脂肪酸モノグリセリド(HLB=4.3、商品名:エマルジ−ML、理研ビタミン社製)0.1gとしたこと以外は同様に行い、それぞれ165g、169g、および170gの乾燥粉末を得た。これらの乾燥粉末20gを各々水80gに溶解して試料液4〜6を得、各々の試料液のアスコルビン酸の含有量を測定した。
【0039】
(実施例7〜9)
実施例1〜3において、乳化剤を大豆レシチン(HLB=5.5以下、理研ビタミン社製)0.1gとしたこと以外は同様に行い、それぞれ171g、168g、および161gの乾燥粉末を得た。これらの乾燥粉末20gを各々水80gに溶解し、試料液7〜9を得、各々の試料液のアスコルビン酸の含有量を測定した。
【0040】
(実施例10〜12)
実施例1〜3において、乳化剤をコハク酸モノグリセリド(HLB=5以下、日本油脂社製)0.1gとしたこと以外は同様に行い、それぞれ170g、167g、および162gの乾燥粉末を得た。これらの乾燥粉末20gを各々水80gに溶解して試料液10〜12を得、各々の試料液のアスコルビン酸の含有量を測定した。
【0041】
(比較例1〜3)
実施例1〜3において、乳化剤を添加しなかったこと以外は、同様に行い、それぞれ162g、167g、および171gの乾燥粉末を得た。これらの乾燥粉末20gを各々水80gに溶解して試料液16〜18を得、各々の試料液のアスコルビン酸の含有量を測定した。
【0042】
【表1】

【0043】
表1の結果から、賦形剤および乳化剤を添加して加熱乾燥を行う本発明の製造方法により得られた実施例の乾燥粉末は、同一の賦形剤のみを添加した比較例の乾燥粉末に比べてアスコルビン酸含有量が高いことが明らかである。同一の賦形剤を用いた場合を比較すると、アスコルビン酸の含有量については、HLBが7以下の場合は、比較例の場合に比べ、1.1倍以上高い割合で含有されていることが明らかである。賦形剤としてシクロデキストリンを用いた場合に高いアスコルビン酸含有量が得られることがわかる。
【0044】
以上の結果から、本発明の方法により得られた乾燥粉末は、アスコルビン酸を高い割合で含有し、乾燥前に比較して充分に保持されていることが分かる。
【0045】
(実施例13)
レモン果汁(固形分含量:10質量%;アスコルビン酸含量:果汁全体の0.04質量%)1kgをアスコルビン酸含有材料とし、これに賦形剤としてデキストリンおよび乳化剤としてクエン酸モノグリセリドを各々100g、および0.2gとなるように加えて、固形分18.2質量%の混合物を得た。これを155℃の条件下で噴霧乾燥し、乾燥粉末120gを得た。この乾燥粉末18.2gを精製水81.8gに溶解して、試料液を調製し、アスコルビン酸の含有量を測定した。対照としては、同一のレモン果汁に、上記と同様の賦形剤ならびに乳化剤を添加して、混合液を得、この混合液中のアスコルビン酸含有量を測定した。その結果、上記試料液のアスコルビン酸含有量が、0.022質量%であったのに対し、混合液中のアスコルビン酸含有量が0.031質量%であったことから、噴霧乾燥を行っても70%以上の割合でアスコルビン酸が保持されていることが分かった。
【0046】
(参考例1)
実施例1で得られた乾燥粉末を用いて以下の食品(錠剤:100mg)を製造した。配合成分および配合量を以下に示す。
<錠剤の配合成分> 配合量(質量%)
実施例1の乾燥粉末 20
ビタミンミックス(日本香料薬品社製) 5
結晶セルロース 10
ショ糖エステル 4
還元麦芽糖 30
二酸化ケイ素 1
卵殻カルシウム 30
【0047】
(参考例2)
実施例7で得られた乾燥粉末を用いて、以下の食品(顆粒品)を製造した。配合成分および配合量を以下に示す。
<顆粒品の配合成分> 配合量(質量%)
実施例7の乾燥粉末 30
還元麦芽糖 30
難消化性デキストリン 20
トレハロース 20
【0048】
(参考例3)
実施例8で得られた乾燥粉末を用いて、以下の成分を含む食品(飲料)を製造した。配合成分および配合量を以下に示す。この飲料は、嗜好性に優れていた。
<飲料の配合成分> 配合量(1Lあたり)
実施例8の乾燥粉末 2g
果糖ブドウ糖液糖 10g
レモン果汁 10g
クエン酸 2g
香料 150mg
グリシン 100mg
プロリン 100mg
アラニン 80mg
純水 残量
【0049】
(参考例4)
実施例9の乾燥粉末を用いて、以下の食品(カプセル剤)を製造した。配合成分および配合量を以下に示す。
<カプセル剤の配合成分> 配合量(質量%)
実施例9の乾燥粉末 98
ビタミンE 2
【0050】
(参考例5)
実施例13で得られた乾燥粉末を用いて、以下の化粧品(化粧水)を製造した。配合成分および配合量を以下に示す。
<化粧水の配合成分> 配合量
実施例13の乾燥粉末 0.01g
グリセリン 8g
プロピレングリコール 5g
オレイルアルコール 0.1g
ポリオキシエチレンラウリルエーテル 1g
エタノール 5g
フェノキシエタノール 0.1g
クエン酸ナトリウム 0.5g
精製水 80.3g
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、アスコルビン酸含有材料からアスコルビン酸含有材料乾燥物を簡便な方法で得ることができる。この方法によれば、加熱による乾燥という汎用の方法を利用でき、しかも乾燥工程においてアスコルビン酸類の分解が極めて低く抑えられるため、得られる乾燥物中のアスコルビン酸類が高い割合で保持されている。特に、噴霧乾燥法を採用した場合には、得られる乾燥物は粉末状であり、安定性や輸送の面からも優れている。本発明により得られる乾燥物は、粉末、錠剤、顆粒、液体などの形態で、食品、医薬品、化粧品などの各種分野で好適に利用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸含有材料乾燥物の製造方法であって、
アスコルビン酸およびその誘導体の少なくとも1種を含むアスコルビン酸含有材料に、賦形剤および乳化剤を添加する工程、および
得られた混合物を加熱乾燥する工程を包含する、製造方法。
【請求項2】
前記アスコルビン酸含有材料が、天然物由来の素材を含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記賦形剤が、デキストリンまたはシクロデキストリンである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記加熱乾燥が噴霧乾燥である、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2007−55981(P2007−55981A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−246564(P2005−246564)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(398028503)株式会社東洋新薬 (182)
【Fターム(参考)】