説明

アップコンバージョン蛍光体を備えた赤外線顕微鏡

【課題】本発明では、従来の赤外線顕微鏡において標本内部の深さ方向における分解能がないと言う技術的問題に鑑み、複数のアップコンバージョン蛍光体を備えた赤外線顕微鏡を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の上記課題は、赤外光を可視光に変換する結像レンズの結像位置に配置されたアップコンバージョン蛍光体と、アップコンバージョン蛍光体で変換された可視光を検出する撮像素子とを備えた赤外線顕微鏡を提供することで解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡の技術分野に係り、特に、アップコンバージョン蛍光体を備えた赤外線顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、標本内部の情報を知る為の顕微鏡として赤外線顕微鏡が広く知られている。赤外光は、可視光よりも標本への透過力が高い。そのため、可視光では届かないような標本の深部にでも赤外光ならば届くために標本内部の観察ができる。
【0003】
また、工業用においてはシリコンが赤外光を透過するという性質によって多層構造を有するICチップなどの歩留まり検査等に用いられている。
図6では従来における赤外線顕微鏡60の簡易的な構造と原理を示している。
【0004】
図6において赤外光源61から射出された赤外光は、照明光学系62を介してハーフミラー63で反射された後に、対物レンズ64で集光され、対物レンズ64の焦点位置にあるステージ65上の標本66に入射する。ここで、照明光として赤外光を用いている事で標本内部のある程度の深さまで赤外光が侵入する。次に、標本内部から反射された赤外光は、再び対物レンズ64を通り、ハーフミラー63を通過した後に結像レンズ67によって焦点位置に結像される。この結像レンズ67の焦点位置に標本66から反射した赤外光を検出する赤外光撮像素子68が設けられており、標本66内部から反射した赤外光の光情報を検出する。そして、赤外光撮像素子で検出された標本66からの赤外光情報を不図示の画像処理装置で可視画像化することで標本内部の情報を知る事ができる。
【0005】
しかしながら、上述したような従来の赤外線顕微鏡では、標本内部の情報を知ることは可能であるが、得られた画像が標本内部のどの深さにおける情報を表しているかを判別する事ができないと言う技術的問題があった。
【0006】
また、標本内部からの赤外光は肉眼では視覚できない為に赤外線カメラなどの特別な装置によって画像化しなければならない。そして赤外線CCD等は高価であるために装置全体が高価なものになってしまうという問題があった。
【0007】
一方、赤外光を可視光に変換するアップコンバージョン蛍光体が知られている。この赤外光により励起されて可視光を発するアップコンバージョン蛍光体には、大きく分けて2種類あり、一つは予備励起を必要とするものであり、もう一つは予備励起を必要としないものである。
【0008】
図7Aは、予備励起を必要とするアップコンバージョン蛍光体のエネルギー準位を模式的に表した図である。このタイプのアップコンバージョン蛍光体は、まず可視光等の波長λ1の光によって予備励起をした状態において、さらに赤外光の波長λ2で励起をした時に可視光域の波長λ0を有する光を再放射するタイプのものである。
【0009】
次に、図7Bは、予備励起を必要としないアップコンバージョン蛍光体のエネルギー準位を模式的に表した図である。このタイプのアップコンバージョン蛍光体は、赤外光の波長λ3での励起を多段階(典型的には2段階)おこない、可視光域の波長λ0を有する光を再放射するタイプのものである。このような励起現象をする蛍光体としては、例えば、エルビウム(Er)、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)、ディスプロシウム(Dr)、ツリウム(Tm)、サマリウム(Sm)並びにこれらのハロゲン化物(フッ化物、塩化物)等を含有する無機材料などが知られている。
【0010】
これらのアップコンバージョン蛍光体は、それぞれ特性、例えば放射する蛍光の波長や2光子励起のしやすさ(2光子吸収断面積)が異なるものがいくつかある。
特許文献1では、アップコンバージョン蛍光体を使った顕微鏡について書かれているが、ICチップなどの歩留まり検査等に使うには適したものではなかった。特に標本内部の深さの構造に関する情報を検出することができないと言う点が技術的な問題であった。
【特許文献1】特開平9−210904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明では、上記の技術的問題に鑑み、標本内部における深さの構造を擬似カラー画像で観察することができる赤外線顕微鏡を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明では、標本の対物レンズと結像レンズによる1次像をリレーレンズによりリレーした2次像の位置に撮像素子を配置する赤外線顕微鏡において、赤外光を可視光に変換するアップコンバージョン蛍光体を前記一次像の位置に配置することを特徴する赤外線顕微鏡を提供する。
【0013】
また、ここでのアップコンバージョン蛍光体は複数配置され、それぞれのアップコンバージョン蛍光体は、前記標本内の目的とするそれぞれの深さに対応した間隔で前記1次像位置に配置することが好ましい。
【0014】
さらに色収差を発生させる光学素子を前記アップコンバージョン蛍光体と前記リレーレンズの間に配置され、前記色収差を発生させる光学素子が、前記アップコンバージョン蛍光体の前記間隔と放射される蛍光波長の違いよる前記2次像の光軸方向のズレを補正する構成が望ましい。
【0015】
その上、前記アップコンバージョン蛍光体の配置は、長波長の蛍光を放射するアップコンバージョン蛍光体よりも短波長の蛍光を放射するアップコンバージョン蛍光体の方が、前記撮像素子に近くなるように配置される構成とすることが望ましい。
【0016】
また、光源と標本間の照明光路上に第二の色収差を発生させる光学素子を配置し、前記標本内の異なる深度にそれぞれ異なる波長の照明光を同時に集光させる構成も好ましい。
さらに、前記照明光路上の標本と光学的に共役な位置にニポウディスクを配置し、前記ニポウディスクのピンホールと前記撮像素子における受光素子を同期させ、共焦点効果を持たせることもできる。
【0017】
また、前記アップコンバージョン蛍光体の後段の位置に赤外光カットフィルタをさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のアップコンバージョン蛍光体を備えた赤外線顕微鏡では、標本内部における深さの情報を可視光の擬似カラー画像で観察することができる。
また、アップコンバージョン蛍光体を用いて赤外光を可視光にする事で従来の赤外線CCD等の撮像素子のような高価な検出器を用いる必要がなく、通常の可視域用CCD等で検出できることで赤外線顕微鏡に用いることができる。つまり検出器の選択の幅が広がり、赤外線顕微鏡を安価にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下では、図面を参照ながら本発明の赤外線顕微鏡の実施形態について説明する。
はじめに、図1を参照して本発明の赤外線顕微鏡を用いた標本内部の深さの情報を検出するための原理を説明する。
【0020】
図1はICチップのような多層構造をもった標本16の内部から赤外光が反射され、結像光学系21によって結像する様子を模式的に示している。レンズの一般的な性質として、レンズを介した標本内部の深い点の赤外光はレンズに近い位置に結像し、レンズを介した標本内部の浅い点の赤外光はレンズに遠い位置に結像する。つまり、図1の例において、標本16の中における深い点の構造は、レンズから近い位置(例えばIの高さ)に結像し、浅い点の構造はレンズから遠い位置(例えばIIの高さ)に結像するようになる。
【0021】
このとき、縦倍率と呼ばれる結像位置の光軸方向の拡大率は、横倍率(いわゆる通常の倍率)の2乗になる。例えば、結像光学系21の横倍率が100倍であった時には、縦倍率は10000倍となる。つまり、1μm間隔の層で構成されているICチップであればレンズによって各層が10mm間隔で結像されることなる。
<実施形態1>
図2は、本発明のアップコンバージョン蛍光体を備えた赤外線顕微鏡およびアップコンバージョン蛍光体を備えた赤外線顕微鏡を用いた標本観察方法の一つの実施形態を示している。
【0022】
図2の赤外線顕微鏡10において赤外光源11から発した赤外光は、照明光学系12を介した後にハーフミラー13で反射され、対物レンズ14によってステージ15上にある標本16に照射される。ここでの標本16は、例えば、多層構造を有するICチップ等である。ICチップ等の標本16に照射した赤外光は、標本内部まで侵入して標本内の様々な深さにおける構造を反映した赤外光がそれぞれの深さにおいて反射される。
【0023】
次に、標本16の様々な深さで反射された赤外光は、再び対物レンズ14を通過し、ハーフミラー13を透過して結像レンズ17に入射する。結像レンズ17では、標本の様々な深さで反射された赤外光を標本16に侵入した深さに応じた各々の焦点位置に結像する。
【0024】
ここで標本16における観察したい深さ(目的とする深さ)から反射される赤外光に対応させた結像レンズ17の結像位置にアップコンバージョン蛍光体18を適宜配置しておくことで標本16における観察したい深さ(目的とする深さ)から反射された赤外光のみが可視光に変換される。このアップコンバージョン蛍光体18は、標本16からの反射光の強度に基づいた可視光を発する。したがって、標本16の観察したい深さ(目的とする深さ)で反射され、結像レンズ17の結像位置におけるアップコンバージョン蛍光体18で赤外光から変換された可視光は、標本内部の目的とする深さ(アップコンバージョン蛍光体18の配置位置に対応する標本内部の深さ)の構造を反映しているとみなすことが出来る。
【0025】
そして、アップコンバージョン蛍光体18で変換された可視光をリレーレンズ19の結像位置に配置した撮像素子20で可視光を検出する。ここでの撮像素子20としては可視光に変換された光を検出すればよいので、一般的なCCD等を用いることができる。また、赤外線カットフィルタと接眼レンズを経由させて目視で観察を行ってもよい。
【0026】
この構成によって多層構造を有するICチップ等の標本16の内部にある層における電気回路などの不備を観察する事ができ、歩留まり検査などに応用できる。さらに、アップコンバージョン蛍光体18を用いて赤外光を可視光にする事で従来の赤外線CCD等の撮像素子のような高価な検出器を用いる必要がなく、通常のCCD等で検出できる。このことにより、赤外線顕微鏡に用いることができる検出器の選択の幅が広がり、赤外線顕微鏡を安価にすることができる。
<実施形態2>
本実施形態では、実施形態1におけるアップコンバージョン蛍光体を備えた赤外線顕微鏡の変形例を示す。
【0027】
図3では、図2で示したアップコンバージョン蛍光体を備えた赤外線顕微鏡の変形例として、波長特性の異なる(すなわち、赤外光を波長の互いに異なる可視光に変換する)複数のアップコンバージョン蛍光体31,32と、可視光の色収差を発生させる光学素子33と、赤外線カットフィルタ34をさらに備えた構成を示している。
【0028】
図3に示される赤外線顕微鏡30では、赤外光源11から発した赤外光は、照明光学系12を介した後にハーフミラー13で反射され、対物レンズ14によってステージ15上にある標本16に照射される。標本16を照射した赤外光は標本内部まで透過し、標本16内の様々な深さにおける構造を反映した赤外光を反射する。反射された赤外光は、再び対物レンズ14を通り、ハーフミラー13を透過して結像レンズ17に入射する。この結像レンズ17により反射された赤外光は、標本16内の反射した深さに応じた位置にそれぞれ結像する。
【0029】
そこで、それぞれの結像位置に異なる波長特性をもったアップコンバージョン蛍光体を配置することにより、各標本16内の様々な深さで反射した赤外光をそれぞれ波長の互いに異なる可視光に変換する可視光に変換することができる。例えば、標本16が1μm間隔の層で構成されているICチップであれば、10mm間隔で異なる波長特性をもったアップコンバージョン蛍光体を配置することで、標本16内の1μm間隔の深さに関する構造が波長の違い、すなわち色の違いとなって変換される。
【0030】
次に、複数のアップコンバージョン蛍光体31、32で変換された可視光を検出器で観察するための仕組みを配置する。それぞれ標本内の深さに応じて反射した赤外光は、赤外光ごとの異なる結像位置に配置されたアップコンバージョン蛍光体31、32によって異なる波長の可視光に変換される。これらを同時に観察するには結像位置の違いを補正する手段が必要である。そのために本発明では特許3673049号に記載されているような意図的に色収差を発生させるレンズ33を配置して結像位置を補正する。
【0031】
色収差を発生させるレンズ33の基本的な構成は接合レンズである。一般的な接合レンズは分散(アッベ数)の異なるガラスを組み合わせることによって色収差を補正するが、色収差を発生させるレンズは、それとは反対に色収差を増大させる組み合わせで異なる分散(アッベ数)のガラスを接合させる。そして色収差の発生量は上述の結像位置の差に一致するように設計する。この色収差を発生させるレンズ33を介した後に、リレーレンズ19によって撮像素子20の受光面に結像させる。この様に配置することで異なる高さから反射された赤外光が異なる波長に変換されて同じ焦点面に結像するようになる。つまり、本構成によれば、標本16内の深さに関する情報が、一つの焦点面における色の違いの擬似カラー画像として取得できる。
【0032】
なお、アップコンバージョン蛍光体31,32の配置は、より波長の短い可視光に変換するアップコンバージョン蛍光体32を色収差を発生させるレンズ33側に配置し、より波長の長い可視光に変換するアップコンバージョン蛍光体31を結像レンズ側に配置することが好ましい。なぜなら、一般に光は波長の短いものほど屈折率が大きいので色収差を発生させるレンズ33を構成する上で有利になる為である。
【0033】
また、アップコンバージョン蛍光体によって変換されなかった赤外光を排除するために、アップコンバージョン蛍光体で赤外光を可視光に変換した後段階の位置に赤外光カットフィルタ34を配置することが好ましい。
【0034】
さらに、波長の互いに異なる可視光に変換する複数のアップコンバージョン蛍光体31、32と、色収差を発生させるレンズ33と、赤外線カットフィルタ34を挿脱可能とすれば、通常観察を行う検査装置と活用することもできる。
【0035】
次に図4を参照して、標本内部の異なる深度にある回路の様子を撮像素子で検出できることを詳述する。
図4は、図3の赤外線顕微鏡の擬似カラーの原理をより詳細に説明した模式図である。図4においては、標本内部における第1深度にある回路41と標本内部における第2深度にある回路42の情報を観察することを目的として、以下に記載する。
【0036】
図3の赤外線顕微鏡において標本16に照射された赤外光は、図4の標本16における第1深度および第2深度を含む様々な深度で反射される。標本16において様々な深度から反射された赤外光は、結像光学系21により標本の各深さに対応した結像位置に結像される。この標本の各深さによって異なる第1深度と第2深度に対応する結像位置にそれぞれ波長の互いに異なる可視光に変換する標本の第1深度に対応するアップコンバージョン蛍光体44と標本の第2深度に対応するアップコンバージョン蛍光体45を配置する。標本の第1深度および第2深度に対応するアップコンバージョン蛍光体44、45では、それぞれの結像位置に結像された第1深度にある回路41と標本内部における第2深度にある回路42の赤外光の像を互いに異なる波長の可視光に変換して、例えば標本内部における第1深度にある回路を緑色の像41a、標本内部における第2深度にある回路を青色の像42aとすることができる。
【0037】
次に、この標本内部における第1深度にある回路の緑色の像41a、標本内部における第2深度にある回路の青色の像42aは、特許3673049号に記載されているような可視光の色収差を発生させるレンズ33で色収差が補正される。
【0038】
赤外光を可視光に変換する結像レンズの結像位置に配置する複数のアップコンバージョン蛍光体において、赤外光を波長の短い可視光に変換するアップコンバージョン蛍光体を撮像素子側に配置し、赤外光を波長の長い可視光に変換するアップコンバージョン蛍光体を結像レンズ側に配置することが好ましい。ガラスは波長が短い光の方が長い波長の光よりも屈折率が高いため、レンズも短い波長の光の方が屈折力が大きくなる。このため、撮像素子上で色収差が補正するには、撮像素子側により短い波長の可視光に変換するアップコンバージョン蛍光体が配置されているのが望ましい。アップコンバージョン蛍光体44,45からの光を色収差を発生させるレンズ33で同じ結像位置に結像させるが、色収差発生量が大きくなると球面収差やコマ収差などの諸収差に影響を与える。このため、撮像素子側により短い波長の可視光に変換するアップコンバージョン蛍光体が配置された方が色収差を発生させるレンズ33の設計が容易になる。
【0039】
その後に、赤外線カットフィルタ34を通すことで標本16において目的とする標本内部における第1深度および標本内部における第2深度以外の深さから反射した赤外光を遮蔽することで標本16における目的とする第1深度および第2深度の深さに対応する緑色の像41aと青色の像42aの光情報のみにすることができる。そして、標本内部における第1深度にある回路の緑色の像41a、標本内部における第2深度にある回路の青色の像42aの光情報は、リレーレンズ19で結像され、リレーレンズ19の結像位置に配置した撮像素子20で検出できる。この撮像素子20では、標本内の第1深度および第2深度の情報は異なる可視光、本例では標本内部における第1深度にある回路は緑色、標本内部における第2深度にある回路は青色として重ねられて検出される。つまり、緑色で得られた画像に不具合が生じていれば、標本内の第1深度に問題があることを知ることができ、青色で得られた画像に不具合が生じていれば、標本内の第2深度に問題があることを知ることができる。さらに、標本16を検出する段差を計算することで標本内部の複数の特定の深さの情報を同時に知ることが可能となる。
【0040】
以上より、アップコンバージョン蛍光体を備えた赤外線顕微鏡が標本内部の深さ方向における分解能を有することを示した。
<実施形態3>
本実施形態では、実施形態1および実施形態2におけるアップコンバージョン蛍光体を備えた赤外線顕微鏡を用いた標本観察方法のさらなる変形例を示す。
【0041】
図5では、図3に示したアップコンバージョン蛍光体を備えた赤外線顕微鏡のさらなる変形例として、発光波長と吸収波長の異なる複数のアップコンバージョン蛍光体53、54と、赤外光の色収差を発生させる光学素子52と、撮像素子20における受光素子アレイと同期させたニッポウディスク51をさらに備えた構成を示している。
【0042】
図5の顕微鏡50において、赤外光源11から発した複数の近接した波長を有する赤外光は、撮像素子20と同期させて制御してあり高速回転しているニッポウディスク51を通過し、照明光学系12を介した後に、赤外光の色収差を発生させる光学素子52に入射する。この赤外光の色収差を発生させる光学素子52によって赤外光源11からの赤外光を波長毎に標本の異なる焦点面に集光するように色収差を発生させることができる。その後、色収差を有する赤外光はハーフミラー13で反射され、対物レンズ14によってステージ15上にある標本16に照射される。標本16に照射した赤外光は、赤外光の色収差を発生させる光学素子52によって生じた色収差により波長ごとに標本内の異なる深さで集光し、標本の形状に依存した量の赤外光が反射される。
【0043】
続いて、標本16の様々な深さで反射された赤外光は、再び対物レンズ14を通り、ハーフミラー13を透過して結像レンズ17に入射する。結像レンズ17では、標本16の様々な深さで反射された赤外光を各々の標本16に侵入した深さに応じた結像位置に結像させる。ここで、結像位置の違いは標本16内の深さに対応し、標本16内の深さは色収差を発生させる光学素子52によって生じる色収差に対応している。つまり、結像レンズ17による結像では、標本内の深さに対応して波長が異なる赤外光が深さに対応した位置で結像することになる。
【0044】
そこで、標本内のそれぞれ特定の深さで反射された異なる赤外光の波長にそれぞれ対応する吸収波長と発光波長が互いに異なるアップコンバージョン蛍光体53、54を標本内のそれぞれ特定の深さで反射された各赤外光の結像位置の違いに対応させて配置しておくことで各赤外光を標本内での深さに対応した波長の可視光に変換することができる。
【0045】
その後、複数のアップコンバージョン蛍光体53、54で変換された異なる波長を有する複数の可視光は、特許3673049号に記載されているような可視光の色収差を発生させるレンズ33で色収差が補正される。この部分の原理は実施形態2と同様である。なお、アップコンバージョン蛍光体53、54では赤外光が完全に変換されないので、適宜、赤外線カットフィルタ34を配置することで赤外光を遮光することが好ましい。
【0046】
そして、最終的に標本16からの光はリレーレンズ19によって撮像素子20の受光面に結像される。この時には色収差が打ち消されているので、どの波長の光も同じ受光面に結像されることになる。また、この構成においても撮像素子20として、可視光を検出する一般的なCCD等を用いることができる。
【0047】
このとき、撮像素子20の受光素子アレイをニッポウディスク51と同期して制御することで共焦点効果を得ることができる。より具体的には、螺旋状に配列してあるピンホールを有するニッポウディスク51が高速回転されており、そのピンホールを通過した赤外光が標本内の特定の深さで反射し、その標本内の特定の深さの反射光をアップコンバージョン蛍光体を介して撮像素子20の受光素子アレイの中の1素子あるいは数素子に結像して検出できるように対応させることによって、1素子あるいは数素子を検出側のピンホールとして機能させることができる。
【0048】
この構成により、標本内の他の余計な深度からの反射像や意図しないアップコンバージョン蛍光体における蛍光を防ぐことが出来てボケの少ない像を取得できる。これによって、多層構造を有するICチップ等の標本16の内部にある特定の層における電気回路などの不備を複数の擬似カラーを伴った画像で知る事ができ、標本のどの深さにある層が不備であるかを特定できることで歩留まり検査などに応用できる。
【0049】
なお、図5の構成において、図3と同様に、発光波長の異なる特定の赤外線波長領域のみに効果を示す複数のアップコンバージョン蛍光体53,54において、短い波長の可視光ほど屈折しやすい為に赤外光を波長の短い可視光に変換するアップコンバージョン蛍光体54を撮像素子20側に配置し、赤外光を波長の長い可視光に変換するアップコンバージョン蛍光体53を前記結像レンズ17側に配置することが好ましい。
【0050】
図5の構成において、発光波長の異なる特定の赤外線波長領域にのみに効果を示す複数のアップコンバージョン蛍光体53,54と、可視光の色収差を発生させる光学素子33と、赤外線カットフィルタ34と、赤外光の色収差を発生させる光学素子52と、撮像素子における受光素子アレイと同期させたニッポウディスク51は挿脱可能とすれば、通常の観察を行うこともできる。
【0051】
以上、実施形態1から実施形態4において、標本内部の深さ方向における分解能を有するアップコンバージョン蛍光体を備えた赤外線顕微鏡を記載した。
なお、本発明は、上述の実施形態としての例に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】赤外光が標本内部で反射され、結像光学系によって標本の各深さで反射された赤外光が結像する結像位置を模式的に示している図である。
【図2】本発明におけるアップコンバージョン蛍光体を備えた赤外線顕微鏡の基本的な構成を示している図である。
【図3】図2におけるアップコンバージョン蛍光体を備えた赤外線顕微鏡の変形例を示している図である。
【図4】図3の赤外線顕微鏡を用いた具体例として、標本内部の異なる深度にある回路を撮像素子で可視光として検出できることを表している図である。
【図5】図3におけるアップコンバージョン蛍光体を備えた赤外線顕微鏡のさらなる変形例を示している図である。
【図6】従来の赤外線顕微鏡の構成を示している図である。
【図7A】予備励起を必要とするアップコンバージョン蛍光体のエネルギー準位を模式的に表した図である。
【図7B】予備励起を必要としないアップコンバージョン蛍光体のエネルギー準位を模式的に表した図である。
【符号の説明】
【0053】
10、30、50、60・・・赤外線顕微鏡
11、61・・・赤外光源
12、62・・・照明光学系
13、63・・・ハーフミラー
14、64・・・対物レンズ
15、65・・・ステージ
16、66・・・標本
17・・・結像レンズ
18、31、32・・・アップコンバージョン蛍光体
19、67・・・リレーレンズ
20・・・撮像素子
21・・・結像光学系
33・・・色収差を発生させる光学素子
34・・・赤外光カットフィルタ
41・・・標本内部における第1深度にある回路
42・・・標本内部における第2深度にある回路
41a・・・アップコンバージョン蛍光体で可視光に変換された第1深度の回路の像
42a・・・アップコンバージョン蛍光体で可視光に変換された第2深度の回路の像
43・・・撮像素子によって検出される可視光の第1深度および第2深度の回路の像
44・・・標本の第1深度に対応するアップコンバージョン蛍光体
45・・・標本の第2深度に対応するアップコンバージョン蛍光体
51・・・ニッポウディスク
52・・・赤外光の色収差を発生させる光学素子
68・・・赤外光撮像素子
λ1・・・予備励起する為の可視光等の波長
λ2・・・赤外光の波長
λ0・・・可視光域の波長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本の対物レンズと結像レンズによる1次像をリレーレンズによってリレーした2次像位置に撮像素子を配置する赤外線顕微鏡において、
赤外光を可視光に変換するアップコンバージョン蛍光体を前記一次像位置に配置する
ことを特徴する赤外線顕微鏡。
【請求項2】
前記アップコンバージョン蛍光体は複数配置され、
それぞれのアップコンバージョン蛍光体は、前記標本内の目的とするそれぞれの深さに対応した間隔で前記1次像位置に配置される
ことを特徴とする請求項1記載の赤外線顕微鏡。
【請求項3】
色収差を発生させる光学素子を前記アップコンバージョン蛍光体と前記リレーレンズの間に配置し、
前記色収差を発生させる光学素子は、前記アップコンバージョン蛍光体の前記間隔と放射される蛍光波長の違いよる前記2次像の光軸方向のズレを補正する
ことを特徴とする請求項2記載の赤外線顕微鏡。
【請求項4】
前記アップコンバージョン蛍光体の配置は、
長波長の蛍光を放射するアップコンバージョン蛍光体よりも、短波長の蛍光を放射するアップコンバージョン蛍光体の方が、前記撮像素子に近くなるように配置される
ことを特徴とする請求項3記載の赤外線顕微鏡。
【請求項5】
光源と前記標本の間の照明光路上に第二の色収差を発生させる光学素子を配置し、
前記標本内の異なる深度にそれぞれ異なる波長の照明光を同時に集光させる
ことを特徴とする請求項4記載の赤外線顕微鏡。
【請求項6】
前記照明光路上の標本と光学的に共役な位置にニポウディスクを配置し、
前記ニポウディスクのピンホールと前記撮像素子における受光素子を同期させ、
共焦点効果を持たせることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の赤外線顕微鏡。
【請求項7】
前記アップコンバージョン蛍光体の後段の位置に赤外光カットフィルタをさらに備える
ことを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載の赤外線顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公開番号】特開2008−197161(P2008−197161A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29456(P2007−29456)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】