説明

アルカリコバルト酸化物のバルク状単結晶の製造方法

【課題】優れた電池特性ならびに熱電変換性能を有し、有用な、層状結晶構造を有するコバルト酸アルカリのバルク状単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】ACoO粉末を筒状の容器中に収納し、酸素ガス中又は大気中で融点以上の温度に加熱して溶融し、ACoOの溶融域を徐々に移動させることにより単結晶を育成して、単結晶の縦、横、及び高さがそれぞれ少なくとも1mm以上である化学式ACoOで示される化合物のバルク状単結晶を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料およびリチウムイオン二次電池材料等として有用な、新規なアルカリコバルト酸化物のバルク状単結晶及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム電池材料として実用化されているコバルト酸リチウムは、多結晶体を使用するものである。しかしながら、薄膜電池、マイクロ電池、全固体型リチウム電池等を構成する材料としては、単結晶性の材料がエネルギー密度、並びに固体中の拡散の観点から好ましく、単結晶膜作製技術とともに単結晶育成技術の確立が必要となる。
一方、熱電材料として注目されているコバルト酸ナトリウムについても、単結晶を用いた場合に熱電変換特性が向上することが知られており、単結晶育成技術の確立が必要となる。
これら層状結晶構造を有するコバルト酸アルカリの単結晶育成技術に関しては、これまでにフラックス法を適用して、微小で薄片状の単結晶を合成した例があるにすぎず、リチウム電池材料や熱電変換材料等として使用可能な層状結晶構造を有するコバルト酸アルカリのバルク状単結晶を得るための、単結晶育成技術の確立が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明は、優れた電池特性ならびに熱電変換性能を有し、有用な、層状結晶構造を有するコバルト酸アルカリのバルク状単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は鋭意検討した結果、コバルト酸アルカリの単結晶が溶融法によってバルク状単結晶として育成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明はつぎのような構成を有するものである。
1.ACoO粉末をその融点以上の温度に加熱して溶融し、その後冷却することを特徴とする、単結晶の縦、横、及び高さがそれぞれ少なくとも1mm以上であり、化学式ACoO(0<x≦1,A=Li又はNa)で示される化合物のバルク状単結晶の製造方法。
2.加熱雰囲気が酸素ガス中又は大気中であることを特徴とする1に記載のバルク状単結晶の製造方法。
3.ACoO粉末を筒状の容器中に収納し、ACoOの溶融域を徐々に移動させることにより単結晶を育成することを特徴とする1又は2に記載のバルク状単結晶の製造方法。
4.筒状の容器がアルミナ(Al)、マグネシア(MgO)、ジルコニア(ZrO)又は白金(Pt)により構成されたものであることを特徴とする3に記載のバルク状単結晶の製造方法。
5.筒状の容器を局部的に加熱することを特徴とする3又は4に記載のバルク状単結晶の製造方法。
6.ハロゲンランプ又はレーザー光源による単結晶育成装置を使用して加熱することを特徴とする1〜5のいずれかに記載のバルク状単結晶の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明では、ACoO粉末を原料として、高温の保持容器に入れ、加熱により充分に溶融させた後に冷却する、溶融結晶育成法により、ACoOのバルク状単結晶を得る。この溶融結晶育成法としては、ゾーンメルティング(Zone Melting)、ブリッジマン法(Bridgeman Method)等が挙げられる。
すなわち、出発原料をアルミナ、マグネシア、ジルコニア等のセラミックス製容器、或いは白金等の容器に入れ、酸素ガス雰囲気中又は大気中で、加熱温度1300℃以上に保持して充分に溶融したのを確認した後に、冷却することによってバルク状の単結晶が得られる。この単結晶の育成には、汎用の大型単結晶育成装置を使用することができる。
【0006】
得られたバルク状の単結晶は、SEM−EDXによる形態観察、化学分析及びX線回折等により、その組成及び結晶構造を確認することができる。
単結晶の化学組成としては、アルミナ製の容器を使用した場合には、化学式ACoOのコバルトの一部がアルミニウムで置換された単結晶が得られるが、本発明のバルク状単結晶は、このようなものも包含するものである。
【0007】
単結晶の形状やサイズは、製造条件によって異なるものとなるが、通常は1mm角程度の直方体として得ることができ、最大では5mmφ×3mm程度のバルク状のものとして得ることができる。
従来のフラックス法では、LiCoOやNaCoO粉末とそれぞれの融剤となるLiCl又はNaClを混合し、比較的低温で加熱した後に徐冷することによって単結晶を得るものであり、薄い単結晶は得られるものの、バルク状の単結晶を製造することはできなかった。
本発明のACoOのバルク状単結晶は、汎用の大型単結晶育成装置を使用して、工業的に有利な溶融結晶育成法により製造することができるものであり、大型化及び結晶方位の制御が容易であることから、リチウム電池材料及び熱電変換材料として実用的価値の高い材料である。
【0008】
つぎに、図に基づいて本発明のACoOのバルク状単結晶を製造する装置について説明する。
図1は、本発明のバルク状単結晶の製造装置の1例を示す模式図である。この装置1は、アルミナ、マグネシア、ジルコニア又は白金により構成された筒状の容器2を内部に収納したクォーツチューブ3、クォーツチューブ3の周囲を覆うように設けられた楕円状反射鏡4を有する。クォーツチューブ3には、酸素ガス導入口5及び酸素ガス排出口6、ならびに容器2を上下に移動可能に保持する保持手段7が設けられている。また、楕円状反射鏡4には、容器2に赤外線を照射して加熱するためのハロゲンランプ8が設置されている。ハロゲンランプに代えて、レーザー光源を使用してもよい。
【0009】
この装置1を使用して、本発明のACoOのバルク状単結晶を製造するには、容器2内部に原料となるACoO粉末11を収納した後に、酸素ガス導入口5からクォーツチューブ3内に酸素ガスを導入し、ハロゲンランプ8により赤外線を照射してACoO粉末11を加熱溶融する。
加熱溶融されたACoO粉末11からは、はじめにACoOの多結晶が生成するが、容器2を保持手段7によりクォーツチューブ3内で上下に移動させて、多結晶の溶融域12を徐々に上下に移動させることにより、単結晶を育成する。加熱温度を1300℃以上に保持し、ACoOが充分に溶融したのを確認した後に冷却すると、バルク状の単結晶が得られる。
【実施例】
【0010】
つぎに、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
(実施例1)
図1の構成を有するハロゲンランプ8を有する赤外線集光加熱単結晶育成装置((株)クリスタルシステム製、四楕円鏡)を使用し、純度99.9%以上のLiCoO粉末(粒径は数ミクロン程度)を片封じの白金チューブ製容器2内に充填し、容器2の先端を炉の最高温度域にセットした。雰囲気ガスとして酸素ガスを毎分3リットルの流速で流しながら、ハロゲンランプ出力で最高温度を制御しつつ加熱し、試料を溶融させた後、容器2を毎時3〜10mmの速度で高温部を通過させることによって、単結晶を育成した。得られた黒色の単結晶は、最大で3x2x2mm程度の大きさを有していた。
【0011】
実施例1で得られた、縦、横及び高さがそれぞれ2mm程度のバルク状単結晶の実体顕微鏡写真を図2に示す。なお、図2において図中の1目盛りが1mmに相当する。
また、SEM-EDX(日本電子製JSM-5400使用)による化学分析により、単結晶中に容器2を構成する元素の混入がないことを確認した。得られたEDXスペクトル(加速電圧20kv、測定時間100秒)を図3に示す。
さらに、四軸型X線回折装置(理学電機製AFC-7S、Mo管球X線使用)を用いて三方晶系、空間群R-3mの層状岩塩型の結晶構造であることを確認した。2θ(Mo)=20〜30°の有意の強度を持つ25反射について四軸角を精密測定し、最小二乗法によって決定された格子定数は、六方格子で表現すると次の通りであった。
a=2.8159±0.0007(Å)
c=14.0543±0.0010(Å)
【0012】
(実施例2)
実施例1において、白金チューブ製容器2に代えてアルミナ(JIS規格 SSA-S)チューブ製容器2を使用した以外は、実施例1と同様にしてLiCoO単結晶を育成した。得られた単結晶の大きさは、実施例1と同様に2mm角程度のバルク状単結晶であった。
実施例2で得られた、アルミナチューブ壁面に成長した単結晶群の走査型電子顕微鏡写真を図4に示す。また、SEM-EDX(日本電子製JSM-5400使用)による化学分析により、単結晶中に容器2を構成する元素であるアルミニウムの混入を確認した。得られたEDXスペクトル(加速電圧20kv、測定時間100秒)を図5に示す。
さらに、四軸型X線回折装置(理学電機製AFC-7S、Mo管球X線使用)を用いて単結晶X線構造解析を行った結果、最終の信頼度因子(R値)3%で、三方晶系、空間群R-3mの層状岩塩型の結晶構造と、正確な化学組成がLiAl0.32Co0.68であることを確認した。2θ(Mo)=20〜30°の有意の強度を持つ25反射について四軸角を精密測定し、最小二乗法によって決定された格子定数は、六方格子で表現すると次の通りであった。
a=2.8056±0.0011(Å)
c=14.1079±0.0015(Å)
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のバルク状単結晶の製造装置の1例を示す模式図である。
【図2】実施例1で得られたバルク状単結晶の実体顕微鏡写真である。
【図3】実施例1で得られたバルク状単結晶のEDXスペクトルである。
【図4】実施例2で得られたバルク状単結晶の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】実施例2で得られたバルク状単結晶のEDXスペクトルである。
【符号の説明】
【0014】
1 バルク状単結晶の製造装置
2 筒状の容器
3 クォーツチューブ
4 楕円状反射鏡
5 酸素ガス導入口
6 酸素ガス排出口
7 保持手段
8 ハロゲンランプ
11 LiCoO粉末
12 溶融域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CoO粉末をその融点以上の温度に加熱して溶融し、その後冷却することを特徴とする、単結晶の縦、横、及び高さがそれぞれ少なくとも1mm以上であり、化学式ACoO(0<x≦1,A=Li又はNa)で示される化合物のバルク状単結晶の製造方法。
【請求項2】
加熱雰囲気が酸素ガス中又は大気中であることを特徴とする請求項1に記載のバルク状単結晶の製造方法。
【請求項3】
CoO粉末を筒状の容器中に収納し、ACoOの溶融域を徐々に移動させることにより単結晶を育成することを特徴とする請求項1又は2に記載のバルク状単結晶の製造方法。
【請求項4】
筒状の容器がアルミナ(Al)、マグネシア(MgO)、ジルコニア(ZrO)又は白金(Pt)により構成されたものであることを特徴とする請求項3に記載のバルク状単結晶の製造方法。
【請求項5】
筒状の容器を局部的に加熱することを特徴とする請求項3又は4に記載のバルク状単結晶の製造方法。
【請求項6】
ハロゲンランプ又はレーザー光源による単結晶育成装置を使用して加熱することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のバルク状単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−19165(P2008−19165A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−211727(P2007−211727)
【出願日】平成19年8月15日(2007.8.15)
【分割の表示】特願2002−359147(P2002−359147)の分割
【原出願日】平成14年12月11日(2002.12.11)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】