説明

アルキレンオキシド付加物の製造方法

【課題】触媒及びポリアルキレングリコールを容易に分離して除去することが可能なアルキレンオキシド付加物の製造方法の提供。
【解決手段】
(a) アルコキシル化用固体触媒の存在下で、活性水素含有化合物および/または脂肪酸アルキルエステルにアルキレンオキシドを付加反応させてアルキレンオキシド付加粗製物を得る工程、
(b) 前記アルキレンオキシド付加粗製物に、ポリリン酸及びその塩、有機ホスホン酸及びその塩、多価カルボン酸の塩、アミノ多価カルボン酸及びその塩及びそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一種及び水を添加して、水分量が5質量%以上15質量%以下のアルキレンオキシド付加粗製物と前記酸及び/又は塩との混合物を得る工程、
(c) 工程(b)で得られる混合物中のアルキレンオキシド付加粗製物からアルコキシル化用固体触媒を分離して除去する工程、
を含む、アルキレンオキシド付加物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒を容易に分離して除去することが可能なアルキレンオキシド付加物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール、アミンなど活性水素含有化合物や脂肪酸アルキルエステルへのアルキレンオキシド付加物は、各種非イオン界面活性剤や、更に硫酸エステル化やカルボキシメチル化を行い対応するアニオン界面活性剤を製造する中間体や、その他各種溶剤、工業用製品の中間体等として有用である。アルキレンオキシド付加物の中でもポリオキシアルキレン型非イオン界面活性剤は、種々の疎水基に対し、親水基となるアルキレンオキシドの付加モル数を適宜調整することにより、親水性-疎水性バランス(HLB)を任意にコントロールできるため特に有用であり、洗浄、乳化、分散といった各種用途に広く用いられている。
このアルキレンオキシド付加粗製物の調製において、アルキレンオキシド付加モル数分布の狭い反応物を得る方法として、アルコキシル化用固体触媒、特にアルカリ変性処理したアルコキシル化用固体触媒を使用する方法がある。固体触媒を使用する場合、触媒をろ過操作等により除去する必要があるが、前記固体触媒を使用した場合には反応液中にポリアルキレングリコール(例えばポリエチレングリコール)等の副反応物が生成するため、前記の用途に使用するためには副生する高分子量のポリアルキレングリコールも触媒とともにろ過操作等で除去することが必要となる。しかし、アルキレンオキシド付加粗製物中に高分子量ポリアルキレングリコールが存在すると一般に濾紙や濾布の目詰まりをおこし易く、その結果ろ過速度が遅くなり、工業的には多大なろ過設備が必要となる。
触媒の分離及び除去を効率よく行う方法として、凝集促進剤としてのアクリル系重合体と水とをアルキレンオキシド付加物に接触させ、副生するポリアルキレングリコールとアルコキシル化用固体触媒を分離して除去する方法が知られている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開平9−262456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、触媒及びポリアルキレングリコールを容易に分離して除去することが可能なアルキレンオキシド付加物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、アルコキシル化用固体触媒を使用して得たアルキレンオキシド付加粗製物に特定の酸及び/又はその塩および水を所定の条件で添加することにより、前記粗製物のろ過性が向上し、触媒を容易に分離して除去することが可能となるとの知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、
(a) アルコキシル化用固体触媒の存在下で、活性水素含有化合物および/または脂肪酸アルキルエステルにアルキレンオキシドを付加反応させてアルキレンオキシド付加粗製物を得る工程、
(b) 前記アルキレンオキシド付加粗製物に、ポリリン酸及びその塩、有機ホスホン酸及びその塩、多価カルボン酸の塩、アミノ多価カルボン酸及びその塩及びそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一種及び水を添加して、水分量が5質量%以上15質量%以下のアルキレンオキシド付加粗製物と前記酸及び/又は塩との混合物を得る工程、
(c) 工程(b)で得られる混合物中のアルキレンオキシド付加粗製物からアルコキシル化用固体触媒を分離して除去する工程、
を含む、アルキレンオキシド付加物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、アルコキシル化用固体触媒を用いて得たアルキレンオキシド付加粗製物に特定の酸及び/又はその塩および水を所定の条件で添加することにより、前記粗製物中から高分子量ポリアルキレングリコール等の副生成物とともに触媒をろ過操作等により容易に分離して除去することができる。また、高分子量ポリアルキレングリコールの副生量の多い高付加モル体においても良好なろ過性を得ることができる。そのため従来困難であった付加モル数分布が狭いアルキレンオキシド付加物の高付加モル体を工業的に妥当なコストで製造することが可能となる。また、特に塩型を使用することにより、pHの低下を抑制し、その結果アルキレンオキシド付加粗製物の酸化分解を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の工程(a)では、アルコキシル化用固体触媒の存在下で、活性水素含有化合物および/または脂肪酸アルキルエステルにアルキレンオキシドを付加反応させてアルキレンオキシド付加粗製物を得る。
本発明に使用される「アルコキシル化用固体触媒」としては、例えば、金属イオン添加酸化マグネシウム(特公平6−15038号公報、特開平7−227540号公報、同6−198169号公報、同6−182206号公報、同5−170688号公報)、焼成ハイドロタルサイト(特開平2−71841号公報)、水酸化アルミニウム・マグネシウム焼成物(特願平7−94417号公報、特開平8−268919号公報)等のAl−Mg系複合酸化物触媒などのアルコキシル化触媒が挙げられる。また、上記触媒はアルカリ変性処理により表面改質していてもよい(特願平6−334781号公報、同6−334782号公報)。特に、脂肪酸アルキルエステルにアルキレンオキシドを付加する場合、アルカリ変性処理した触媒を使用して反応を行うと、残存未反応脂肪酸アルキルエステル量が少なく、アルキレンオキシド付加モル量が極めて狭い生成物を得ることが可能となる。本発明においては、水酸化アルミニウム・マグネシウム焼成物をアルカリ変性処理により表面改質した触媒が好ましい。
【0008】
前記水酸化アルミニウム・マグネシウム焼成物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、特開平8−268919号公報に記載のものなどが挙げられる。具体的には、下記式(I)で表される水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムとの共沈物であり、焼成によりアルミニウム−マグネシウム系複合金属酸化物触媒とすることができる。
nMgO・Al23・mH2O (I)
[前記式(I)中、nは特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2.5程度が好ましく、mは特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。] ここで、前記焼成温度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、触媒活性発現と副生物の生成量抑制の点から、400〜950℃が好ましく、400〜900℃がより好ましい。
【0009】
また、前記水酸化アルミニウム・マグネシウム焼成物をアルカリ変性処理により表面改質した触媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前述の特願平6−334781号公報、同6−334782号公報に記載のものなどが挙げられる。具体的には、前記水酸化アルミニウム・マグネシウム焼成物を、金属水酸化物又は金属アルコキシドで表面改質して、改質焼成水酸化アルミナ・マグネシウム触媒とすることができる。前記金属水酸化物としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が好ましく、中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムがより好ましい。前記金属アルコキシドとしては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコキシドが好ましく、中でも、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシドがより好ましい。また、アルコキシドの炭素数は1〜4が好ましい。
なお、本発明におけるアルカリ変性処理は、例えば、触媒をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物またはアルコキシドで改質した後、反応用触媒として使用する方法や、アルコキシル化用反応器の中で、原料の脂肪酸アルキルエステルと金属水酸化物又は金属アルコキシドを混合し、原料中で触媒の改質をする方法などにより行うことができる。
すなわち、アルカリ変性処理は、触媒の調製時に行ってもよいし、付加反応の際にアルカリを添加することによって行ってもよい。
【0010】
前記触媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。触媒の粒子径に特に制限は無く、また、通常、アルキレンオキシド付加反応時には、例えば触媒粒子内部での反応熱の蓄積や高分子量副生物の生成、急激な圧力差の発生、撹拌翼等による機械的な剪断などによって触媒粒子が崩壊するため、触媒の粒子径は変動し得る。さらには、後述するように、触媒の活性を向上させるために反応混合物に多価アルコールを加えることにより触媒をさらに微細化する場合もある。従って、反応後の粗製物中に含まれる触媒の粒子径は、平均粒子径として例えば0.1μm〜500μmであり得る。また、前記触媒は、微細化が顕著に起こる点で、多孔質粒子であることが好ましく、また、比表面積が50〜400m2/gであることが好ましい。
なお、本発明において、触媒の平均粒子径とは、レーザー光散乱式粒度分布測定装置 LA-920(HORIBA社製)を使用してアセトニトリルを分散媒として測定し、メジアン径として算出した値を意味する。
前記触媒の使用量としては、反応が適切に進行する量であれば、特に制限はなく、使用する触媒の活性等に応じて適宜選択することができるが、前記反応原料(脂肪酸アルキルエステルとアルキレンオキシド)の総質量に対し、0.01〜5質量%が好ましく、0.03〜1質量%がより好ましく、0.05〜0.2質量%が特に好ましい。触媒の使用量を前記好ましい範囲とすることにより反応を適切に進行することができる。
【0011】
本発明において、活性水素含有化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルコール類、アミン類、アミド類、フェノール類、チオール類などが挙げられる。これらの中でも、下記一般式(II)で表されるアルコール類が、好ましい。
R1OH (II)
[前記一般式(II)中、R1は、特に制限はなく、得ようとする生成物に要求される性能等に応じて適宜選択することができ、例えば、アルキル基、アルケニル基などが挙げられる。前記アルキル基、アルケニル基は、直鎖であってもよいし、分岐鎖を有していてもよい。前記アルキル基、アルケニル基の炭素数も、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1〜40が好ましく、3〜30が好ましく、6〜22が特に好ましい。]
アルコール類の具体例としては、n-オクタノール、n-デカノール、n-ドデカノール、n-テトラデカノール、n-ヘキサデカノール、n-オクタデカノール、オレイルアルコール、エトコサノール、ベヘノール、ノナノール、ウンデカノール、トリデカノール等の炭素数8〜22の飽和又は不飽和の直鎖アルキル基を有する高級脂肪族第一級アルコール、または、2−エチルヘキサノール、炭素数16〜36のゲルベ型アルコール等の分岐鎖アルキル第一級アルコール、及び、2−オクタノール、2−デカノール、2−ドデカノール等の第二級アルコール、更に、ベンジルアルコール等が挙げられる。
アミン類の具体例としては、オクチルアミン、ジオクチルアミン、ラウリルアミン、ジラウリルアミン、ステアリルアミン、ジステアリルアミン等の炭素数8〜24の飽和又は不飽和アルキル基を有する第一級又は第二級アミン、また、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のポリアミンなどが挙げられる。
アミド類の具体例としては、ラウリン酸モノエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド等の炭素数12〜18のアルカノールアミドが挙げられる。
これらの活性水素含有化合物の中で炭素数8〜22の直鎖または分岐の飽和又は不飽和のアルコールが好ましい。
【0012】
本発明において、脂肪酸アルキルエステルとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記脂肪酸エステルは一般式R1COOR2で示され、ここで、式中、R1、R2は、アルキル基を意味するが、これは炭素鎖中に二重結合を含むいわゆるアルケニル基をも含む概念である。また、グリセリンの脂肪酸エステルであるトリグリセライドも含まれる。R1の炭素数は、例えば1〜40が好ましく、3〜30がより好ましく、5〜21が特に好ましい。R2の炭素数は、例えば1〜30が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜4が特に好ましい。脂肪酸アルキルエステルは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
脂肪酸アルキルエステルの使用量は、特に制限はなく、得ようとする生成物量や、触媒や後述のアルキレンオキシドの使用量等に応じて、適宜選択することができる。
【0013】
本発明において、アルキレンオキシドとしては、前記活性水素含有化合物および/または脂肪酸アルキルエステルと反応してアルキレンオキシド付加物が得られるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば炭素数2〜4のアルキレンオキシドが好ましい。具体的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどを使用し得、これらは一種又は二種以上の混合物として用いることができる。本発明では、活性水素含有化合物および/または脂肪酸アルキルエステル1モルあたり、1〜50モルのアルキレンオキシドを付加させたものが好ましく、3〜30モルのアルキレンオキシドを付加させたものがより好ましく、特に好ましくは5〜20モルのアルキレンオキシドを付加したアルキレンオキシドである。また、非イオン界面活性剤としては、HLB(グリフィン法)が3〜20のものが好ましい。
前記アルキレンオキシドの使用量は特に制限はなく、使用する前記脂肪酸アルキルエステルの種類、得ようとする生成物に要求される性能等に応じて適宜選択することができるが、前記脂肪酸アルキルエステルの使用量1モルに対して、1〜50モルが好ましく、3〜30モルがより好ましく、5〜20モルが特に好ましい。
【0014】
本発明においては、工程(a)の反応を、アルコキシル化用固体触媒及び多価アルコールの存在下で行ってもよい。多価アルコールを反応系に加えることにより、触媒が微細化し、その活性が向上するという効果が得られる。
前記多価アルコールとしては、水酸基を分子内に2基以上有し、かつ、前記触媒を微細化する効果が得られるものであれば特に制限はなく、例えば、前記脂肪酸アルキルエステルに乳化又は分散均一化できる化合物の中から目的に応じて適宜選択することができ、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが好ましく挙げられる。これらの中でも、グリセリンが特に好ましい。前記多価アルコールは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記多価アルコールの使用量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記反応原料(活性水素含有化合物および/または脂肪酸アルキルエステルとアルキレンオキシド)の総質量に対し、0.02〜0.5質量%が好ましく、0.05〜0.25質量%がより好ましい。また、前記触媒の質量に対し、1.0倍以上が好ましく、1.25倍以上がより好ましい。多価アルコールの使用量を前記好ましい範囲とすることにより、触媒を速やかにかつ十分に微細化することが可能となる。
【0015】
上記原料から、周知の操作手順及び反応条件によりアルキレンオキシド付加粗製物を容易に調製することができる。反応温度は80〜230℃が好ましく、反応圧力は反応温度にもよるが0〜2MPa、好ましくは0.2〜0.8Mpaであり、必要により窒素希釈した条件下でアルキレンオキシドを付加反応させることもできる。上記反応は、たとえばオートクレーブ中に活性水素含有化合物および/または脂肪酸アルキルエステルとアルコキシル化用固体触媒とを仕込み、窒素雰囲気下で所定の温度、圧力条件下でアルキレンオキシドを導入して反応して得ることができる。
【0016】
本発明の工程(b)では、工程(a)で得たアルキレンオキシド付加粗製物に、ポリリン酸及びその塩、有機ホスホン酸及びその塩、多価カルボン酸の塩、アミノ多価カルボン酸及びその塩及びそれらの混合物からなる群より選ばれる少なくとも一種及び水を添加することにより、pHが8より高く、かつ、水分量が5質量%以上15質量%以下のアルキレンオキシド付加粗製物と前記酸及び/又は塩との混合物を得る。
【0017】
本発明に使用されるポリリン酸及びその塩としては特に限定はされず、トリポリリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、ヘキサメタリン酸及びこれらのアルカリ金属塩及び有機アミン塩などを使用することができるが、上記のうちピロリン酸の塩、中でもアルカリ金属塩が好ましく、ピロリン酸カリウムが特に好ましい。
【0018】
本発明に使用される有機ホスホン酸及びその塩としては特に限定はされず、例えばヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTMP)及びこれらのアルカリ金属塩及び有機アミン塩などを使用することができる。
【0019】
本発明に使用される多価カルボン酸の塩としては特に限定はされず、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸のアルカリ金属塩及び有機アミン塩、ピロメリット酸、シクロペンタンテトラカルボン酸などのシクロカルボン酸のアルカリ金属塩及び有機アミン塩、カルボキシメチルタルトロン酸(CMT)、カルボキシメチルオキシコハク酸(CMOS)、オキシジコハク酸などのエーテルカルボン酸のアルカリ金属塩及び有機アミン塩を使用することが可能である。
【0020】
本発明に使用されるアミノ多価カルボン酸及びその塩としては特に限定はされず、ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミノ五酢酸(DTPA)、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸(DHEDDA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、β−アラニンジ酢酸、アスパラギン酸ジ酢酸、メチルグリシンジ酢酸、イミノジコハク酸及びこれらのアルカリ金属塩及び有機アミン塩を使用することができるが、上記のうちニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム及びヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウムが好ましい。
【0021】
上記のうち、有機ホスホン酸及びアミノ多価カルボン酸、並びにそれぞれのアルカリ金属塩、多価カルボン酸のアルカリ金属塩、ポリリン酸のアルカリ金属塩がpHの低下が少なく、高い凝集効果が得られる点で好ましく、有機ホスホン酸、アミノ多価カルボン酸、多価カルボン酸、ポリリン酸のアルカリ金属塩がより好ましい。なお、アルカリ金属塩は多価酸の一部を中和したかたちのものでもpHの低下程度に合わせて適宜選択して使用できる。
また、その添加量は当業者が適宜決定することができるが、アルキレンオキシド付加粗製物の重量を基準として0.01重量%〜1重量%であることが好ましく、0.05重量%〜0.5重量%であることがより好ましい。上記の範囲とすることにより凝集効果が十分なろ過性が得られると共に、全量を溶け残りなく溶解させることができる。
【0022】
また、工程(b)においては水分量が5質量%以上15質量%以下、好ましくは7質量%以上12質量%以下、特に好ましくは約10質量%に調整される。水分量が少なすぎるとろ過性の向上効果は得られないが、これは高分子量ポリアルキレングリコールの凝集が不足するためであると考えられる。また、水分量が多すぎるとポリアルキレングリコールが溶解し、白濁が起こる。
水分量調整の方法は特に限定されるものではないが、例えば蒸留水やイオン交換水を添加することにより行われる。本発明における水分量測定は、水分を添加した後(pH調整、ろ過助剤添加の前)若しくはろ過後の濾液を用いて、カールフィッシャー法により水分を測定することにより行われる。なお、カールフィッシャー水分計としては、例えば京都電子工業製のKEM MKC-501を使用することができる。
【0023】
好ましくは工程(b)で得られる混合物のpHは8より高く、より好ましくは8より高く9.5以下である。工程(b)では、特に塩型を使用することにより、pHの低下を抑制しつつろ過性を向上させることができる。アルキレンオキシド付加物においては、pHが低くなると液中の過酸化物質が増加し、急速に酸化分解が進行することが知られている。この酸化分解は、ジブチルヒドロキシトルエン等のフェノール誘導体系の酸化防止剤により抑制できるが、pHを中性以上に保てば、これらを添加する必要がなくなるという利点がある。
なお、本発明におけるpHの値は、水分添加及び酸を添加したアルキレンオキシド付加物の一部をサンプリングし、アルキレンオキシド付加物濃度が5%となるように蒸留水により希釈した希釈物のpHを25℃で測定することにより得られた値を意味する。なお、pHの測定には例えば堀場製作所製のHORIBA D-51SのpHメータを使用することができる。
【0024】
本発明の工程(c)では、工程(b)で得られる混合物中のアルキレンオキシド付加粗製物からアルコキシル化用固体触媒を分離して除去する。上記のように特定の酸及び/又はその塩及び水を所定の条件で添加することにより、アルキレンオキシド付加粗製物に含まれる重量平均分子量2万以上の高分子量ポリエチレングリコールなどの副生成物を適度に凝集させることができると考えられ、従って、例えば周知の操作手順及びろ過条件でろ過することにより、前記高分子量ポリエチレングリコールとともに、アルコキシル化用固体触媒を容易に分離して除去することができる。更には、遠心分離により、例えばデカンター或いは遠心分離機などを用いて触媒を除去することも可能である。
濾紙として例えばセルロースとポリエステルの二層フィルター、金属メッシュ型フィルターなどを用いて、減圧又は加圧下、温度35〜100℃、特に40〜85℃の条件下でろ過するのが好ましい。
また、好ましくはろ過助剤を使用することでろ過性を向上させることができる。ろ過助剤としては、当業者に知られる任意のろ過助剤を用いることができるが、例えば、主成分であるSiO2を80〜95%含有する非結晶質ケイ酸のケイソウ土として、例えばラジオライト♯100、ラジオライト♯200、ラジオライト♯500、ラジオライト♯600、ラジオライト♯900、ゼムライトスーパーM、ゼムライトスーパー1、ゼムライトスーパー56、ゼムライトスーパー2、セライト501、セライト503、セライト535、セライト545、ハイフロスーパーセル、スタンダードスーパーセル、フィルターセル等が挙げられる。主成分であるSiO2を約70%含有するケイ酸アルミニウムとして、例えば、トプコ♯31、トプコ♯34等が挙げられ、セルロース系ろ過助剤としてはKCフロック、SW40、BW20、BW40、BW100、BW200、BNB20等が挙げられ、それぞれ単独又は2種以上の混合物として用いることができる。ろ過助剤の使用量は、粗製物に対して0.05〜5質量%程度、特に0.1〜2質量%とすることが好ましい。
上記の方法を使用することにより、ろ過速度を向上させることができる。これは例えば、平均ろ過速度(1時間、1m2当たり処理できる濾液の量[t])を測定することにより確認することができる。
本発明の方法によるろ過性向上効果は、従来より知られるポリアクリル酸、活性白土などに比べて顕著に向上し、またポリアルクリル酸ではろ過性向上のために添加量を増やすと、低温保存時の製品の外観に濁りが生じることがあるのに対し、そのような問題もなく、幅広い付加モル数に対して使用できる。
また、本発明の方法は、特にろ過が困難なアルキレンオキシド高付加モル体(平均付加モル数7モル以上、さらには9モル以上、特に15モル以上)で重量平均分子量2万以上の高分子量ポリアルキレングリコール(副生物)を0.4質量%以上、さらには0.7以上、特には1%以上含むアルキレンオキシド付加物に対して適用したときに効果が大きい。さらには、触媒金属分の含有量の少ないアルキレンオキシド付加物を得ることが可能となる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
実施例においては以下の試薬を使用した。


【0026】
実施例及び比較例のろ過性の評価は、平均ろ過速度を測定することにより行った。
平均ろ過速度は、1時間、1m2当たり処理できる濾液の量[t]を表す。
また、ろ過所要時間は、1tの反応粗製物を1m3のろ過面積のろ過器で処理した場合の所要時間として求め、以下の評価基準に従って分類した。
◎:30分以内
○:30分超、1時間以内
□:1時間超、3時間以内
△:3時間超、5時間以内
×:5時間超
【0027】
また、白濁の程度を調べるための外観の評価は、吸光度計UV-2200(SHIMADZU社製)を用いて、70℃における480nmでの吸光度を測定し、以下の基準で評価した。
○ 0.1未満
△ 0.1以上0.3未満
× 0.3以上
【0028】
実施例1
(1) 触媒調製
2.5MgO・Al23・mH2Oからなる化学組成の水酸化アルミニウム・マグネシウム(協和化学工業社製、KW−300)を900℃で3時間焼成してマグネシウム・アルミニウム複合金属酸化物触媒粉末を得た。なお、反応前の触媒平均粒子径は150μmであった。
(2) 反応粗製物
4リットル容オートクレーブ中にラウリン酸メチルエステル(ライオンケミカル製 パステルM12)を460gとミリスチン酸メチル(ライオンケミカル製 パステルM14)を165g(計2.83モル)、前期複合金属酸化物触媒を2.5g(反応粗製物の0.100重量%)、多価アルコールとしてグリセリン3.13g(反応粗製物の0.125重量%)、40%水酸化カリウム水溶液を0.12gを仕込み、攪拌混合しながらオートクレーブ内を窒素置換した後、昇温して100℃にて、減圧下(1.33kPa以下)で30分間、脱水を行った。次いで、180℃にて、圧力上限値を0.49MPaとし、エチレンオキシド1869g(42.4モル)を導入した。更に0.5時間熟成を行った後、120℃で1時間揮発分を減圧留去し、80℃まで冷却して抜き出し、反応粗製物(アルキレンオキシド付加物)を得た。エチレンオキサイドの平均付加モル数は15であった。
(3) ろ過
攪拌器と温調装置を備えた圧力容器に上記粗製物を1300g入れ、80℃に加温した。次いで、イオン交換水144g(水希釈物として水分10重量%)加え、水希釈物を得た。得られた水希釈物に対して、EDTAを1.95g(反応粗製物の0.15重量%)添加して、80℃を維持したまま15分間攪拌した。その後、ろ過助剤としてハイフロスーパーセルを4.33g(対水希釈物0.3%;東京珪藻土工業(株)製)、KCフロックW−50(s)を7.22g(対水希釈物0.5%;日本製紙ケミカル(株)製)を添加し、15分間攪拌した。次いで、ろ過助剤の入った水希釈物を200gとり、更にプレコート剤としてハイフロスーパーセルを0.25g(ろ過面積に対して0.2kg/m2)、KCフロックW−50(s)を1.25g(ろ過面積に対して1.0kg/m2)を添加し、均一に分散させた後、プレコートを行った。プレコート終了後、本ろ過を行い、アルコキシル化触媒を濾別除去して精製品を得た。ろ過装置は、濾材がセルロースとポリエステルの二層フィルター、内径12.5cmの加圧ろ過器(ADVANTEC社製)で温度80℃、窒素圧0.2MPaで行った。
【0029】
実施例2
EDTAの代わりにニトリロ三酢酸を反応粗製物の0.15重量%添加したこと以外は実施例1に準じて行なった。
実施例3
EDTAの代わりにピロリン酸カリウムを反応粗製物の0.15重量%添加したこと以外は実施例1に準じて行なった。
実施例4
EDTAの代わりにエチレンジアミン四酢酸ナトリウムを反応粗製物の0.15重量%添加したこと以外は実施例1に準じて行なった。
実施例5
EDTAの代わりにメチレンホスホン酸を反応粗製物の0.15重量%添加したこと以外は実施例1に準じて行なった。
実施例6
EDTAの代わりに、60%ヒドロキシエチリデンジホスホン酸水溶液を、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸の純分換算で反応粗製物の0.15重量%添加したこと以外は実施例1に準じて行なった。
実施例7
EDTAの代わりにヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウムを反応粗製物の0.15重量%添加したこと以外は実施例1に準じて行なった。
【0030】
比較例1
EDTAを添加しなかったこと以外は実施例1に準じて行なった。
比較例2
EDTAの代わりにグリシンを反応粗製物の0.15重量%添加したこと以外は実施例1に準じて行なった。
比較例3
EDTAの代わりに塩酸を反応粗製物の0.15重量%添加したこと以外は実施例1に準じて行なった。
比較例4
EDTAの代わりに硫酸を反応粗製物の0.15重量%添加したこと以外は実施例1に準じて行なった。
比較例5
EDTAの代わりにポリアクリル酸を反応粗製物の0.15重量%添加したこと以外は実施例1に準じて行なった。
【0031】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) アルコキシル化用固体触媒の存在下で、活性水素含有化合物および/または脂肪酸アルキルエステルにアルキレンオキシドを付加反応させてアルキレンオキシド付加粗製物を得る工程、
(b) 前記アルキレンオキシド付加粗製物に、ポリリン酸及びその塩、有機ホスホン酸及びその塩、多価カルボン酸の塩、アミノ多価カルボン酸及びその塩及びそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一種及び水を添加して、水分量が5質量%以上15質量%以下のアルキレンオキシド付加粗製物と前記酸及び/又は塩との混合物を得る工程、
(c) 工程(b)で得られる混合物中のアルキレンオキシド付加粗製物からアルコキシル化用固体触媒を分離して除去する工程、
を含む、アルキレンオキシド付加物の製造方法。
【請求項2】
アミノ多価カルボン酸が、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミノ五酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、β−アラニンジ酢酸、アスパラギン酸ジ酢酸、メチルグリシンジ酢酸またはイミノジコハク酸である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ポリリン酸が、トリポリリン酸、メタリン酸、ピロリン酸またはヘキサメタリン酸である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
有機ホスホン酸が、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸又はメチレンホスホン酸である、請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
多価カルボン酸が、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、ピロメリット酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、カルボキシメチルタルトロン酸、カルボキシメチルオキシコハク酸またはオキシジコハク酸である、請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(b)で得られる混合物のpHが8より高い、請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
工程(c)が、工程(b)のアルキレンオキシド付加粗製物をろ過する工程である、請求項1から6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
工程(a)の反応が、アルカリ変性処理を施したアルコキシル化用固体触媒の存在下で、脂肪酸アルキルエステルにアルキレンオキシドを付加反応させてアルキレンオキシド付加粗製物を得る工程である、請求項1から7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
工程(a)の反応を、アルカリ変性処理を施したアルコキシル化用固体触媒及び多価アルコールの存在下で行う、請求項1から8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
多価アルコールがグリセリンである、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
工程(a)の付加反応により得たアルキレンオキシド付加物のアルキレンオキシド平均付加モル数が15モル以上である、請求項1から10のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−6964(P2010−6964A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168465(P2008−168465)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】