アルギン酸塩と無機塩からなる微粒子、生体高分子を内包するアルギン酸塩と無機塩からなる微粒子、およびそれら微粒子の製造方法
【課題】アルギン酸塩と無機塩とから形成される複合微粒子の合成技術、当該複合微粒子に生体高分子等を内包する技術を提供する
【解決手段】難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩から構成される有機無機複合微粒子。
【解決手段】難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩から構成される有機無機複合微粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギン酸塩・無機塩から構成される複合微粒子及びその製造法に関し、詳しくは、難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩から構成される有機無機複合微粒子及びその製造法に関する。さらに本発明は、水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種を内包する複合微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギン酸は、食品、医薬、化粧品分野等に幅広く応用されている。多価金属との化合物は水に難溶あるいは不溶であり、様々な分野でのカプセル材料、オブラート材料として利用されている。アルギン酸そのものは、海草類等に含まれる多糖類であり、食品添加物にも用いられる生体適合性の良い素材で、実用性も高い。人工的に合成されたアルギン酸塩の粒子としては、古くは数ミリメートルサイズのアルギン酸カルシウム等の粒子が知られている。これらの一部は、「人工イクラ」として知られている。一方、近年はマイクロメートルあるいはナノメートルサイズのアルギン酸塩微粒子も合成され、活発に応用研究がなされている。また、その微粒子内に機能性素材を包含させることで新規な材料を創出できることも報告されている。例えば、アルギン酸塩粒子が溶剤を吸収できる能力が高いことを利用して、インクジェット記録媒体に組み入れる応用例がある(特許文献1〜3)。また、アルギン酸塩化合物は上述のように生体適合性が良いために、多くの医療関連分野へ応用されている。例として、シート状アルギン酸塩集合体を支持層の中央部に積層した創傷被覆材(特許文献4,5)、フェライト微粒子をアルギン酸カルシウム微粒子に内包させることで磁気温熱療法用発熱体を作ること等が報告されている(特許文献6)。さらに、近年はドラッグデリバリーシステム等への応用も研究されている。例えば、アルギン酸ナトリウム溶液にラクトフェリンを溶解させ、この溶液を塩化カルシウム溶液に作用させることで、ラクトフェリンの徐放性能を持った製剤の製造技術が報告されている(特許文献7)。また、アルギン酸カルシウム等の多価塩の微粒子をW/Oエマルジョンを用いて合成し、これにアセトアミノフェン等の難水溶性薬剤を含浸させた徐放製剤も報告されている(特許文献8)。
【0003】
ところで、アルギン酸カルシウムに代表されるアルギン酸多価塩の粒子は、アルギン酸ナトリウムを溶解した水溶液と塩化カルシウムの溶解した水溶液が混合することで容易に生成できることが知られている。例えば、アルギン酸ナトリウムを含有した水溶液をスポイト等で塩化カルシウムへ滴下することで粒子ができ、このアルギン酸カルシウム被膜内に様々な物質を内包できる(特許文献9〜13)。一方、水ガラスと塩化カルシウム、あるいは炭酸カリウムと塩化カルシウムとが微少なエマルジョンで混合すると、それぞれケイ酸カルシウム(非特許文献1)および炭酸カルシウム(非特許文献2)の微小球状粒子が合成できることが知られている。しかしながら、これらアルギン酸カルシウムとケイ酸カルシウムおよび炭酸カルシウム合成とを同時に行い、両者が複合した微粒子の合成は行われていなかった。
【0004】
さらに、上記のケイ酸カルシウムおよび炭酸カルシウムの微粒子や類似のシリカ微粒子等に、種々の物質を内包させる手法が知られているが(特許文献14)、アルギン酸との複合材料に関しての内包化技術は知られていない。アルギン酸カルシウムのビーズや微粒子は、化合物の膜内透過性が高いため、その透過性の制御が求められており、アルギン酸カルシウムの修飾が検討されている。さらに、酸等に対しての化学的安定性や熱安定性等を向上させるためにも、アルギン酸塩と他の材料との複合化が求められている。例えば、事前にゾル−ゲル法でシリカを析出しており、その後にアルギン酸カルシウム等のゲルを形成させる方法(非特許文献3)や、あらかじめ合成しておいたアルギン酸カルシウム粒子に水ガラスを作用させてシリカをコートする方法等が提案されている(非特許文献4)。しかしながら、アルギン酸カルシウム等とケイ酸塩や炭酸塩等を同時に合成する試みは、従来なされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-192635
【特許文献2】特開2000-108499
【特許文献3】特開平06-247035
【特許文献4】特開平09-176021
【特許文献5】特開平07-136240
【特許文献6】特開2011-032238
【特許文献7】特開2011-051903
【特許文献8】特開平11-130698
【特許文献9】特開平5-92909
【特許文献10】特開平6-116117
【特許文献11】特開平8-9711
【特許文献12】特開平10-327834
【特許文献13】特開2006-174778
【特許文献14】特開2007-015990
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】宮田謙一、中原佳子、日本化学会誌、727-731、1976年
【非特許文献2】Journal of Colloid and Interface Science, 1979, 68, 401-407
【非特許文献3】J. Sol-Gel Sci. Technol. 2003, 26, 1165-1168
【非特許文献4】J. Mater. Chem., 2006, 16, 1178-1182
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アルギン酸塩と無機塩とから形成される複合微粒子の合成技術、当該複合微粒子に生体高分子、水溶性有機分子等の化合物を内包する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような観点から、アルギン酸ナトリウムなどの水溶性アルギン酸塩とケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの水溶性無機塩と沈殿剤水溶液の混合溶液の反応を種々検討した結果、水溶性アルギン酸塩と水溶性無機塩を含む溶液を用い、この水溶液を水相1として用いてW/Oエマルジョンを形成させ、当該エマルジョンをハロゲン化カルシウム水溶液等の沈殿剤水溶液に加えることで、アルギン酸カルシウムなどの難溶性アルギン酸塩とケイ酸カルシウム、炭酸カルシウムなどの難溶性無機塩とから形成される複合微粒子を合成することに成功した。また、この水相1に生体高分子、水溶性有機分子等の化合物を加えることで、当該化合物を内包した複合微粒子を合成することに成功し、本発明に至った。
【0009】
本発明は、以下の複合微粒子及びその製造方法を提供するものである。
項1. 難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩から構成される有機無機複合微粒子。
項2. 難溶性アルギン酸塩がアルギン酸のアルカリ土類金属塩である項1に記載の有機無機複合微粒子。
項3. 難溶性アルギン酸塩がアルギン酸カルシウムである項2に記載の有機無機複合微粒子。
項4. 難溶性無機塩がケイ酸塩又は炭酸塩である、項1又は2に記載の有機無機複合微粒子。
項5. 難溶性無機塩がケイ酸カルシウム又は炭酸カルシウムである、項4に記載の有機無機複合微粒子。
項6. さらに水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種を内包してなる、項1〜5のいずれかに記載の有機無機複合微粒子。
項7. 生体高分子が、タンパク質、DNA及び多糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種である、項6に記載の有機無機複合微粒子。
項8. 水溶性無機塩と水溶性アルギン酸塩を含む第1水相粒子を油相中に分散してなるW/Oエマルジョンに沈殿剤水溶液を作用させることを特徴とする、難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩から構成される有機無機複合微粒子の製造方法。
項9. 水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種、水溶性無機塩、水溶性アルギン酸塩を含む第1水相粒子を油相中に分散してなるW/Oエマルジョンに沈殿剤水溶液を作用させることを特徴とする、水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種を内包してなる難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩から構成される有機無機複合微粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合体微粒子は、水溶性有機分子や生体高分子(蛋白質、DNA、多糖類など)を長期間保存することができ、当該材料や生体高分子の製薬、ドラッグデリバリーシステム、食品添加剤等の分野への応用範囲を拡げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】生体高分子を内包させたアルギン酸塩・無機塩複合微粒子の合成方法の概念図
【図2】(左)参考例1で合成したアルギン酸カルシウム微粒子アルギン酸のSEM像、(右)実施例3で合成したアルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子のSEM像
【図3】実施例1で合成した複合微粒子のSEM像
【図4】実施例1で合成した複合微粒子と関連粒子のIRスペクトル
【図5】実施例2で合成した複合微粒子のSEM像
【図6】実施例2で合成した複合微粒子と関連粒子のIRスペクトル
【図7】実施例4で合成した複合微粒子のSEM像
【図8】実施例4で合成した複合微粒子と関連粒子のIRスペクトル
【図9】実施例5で合成したリゾチーム内包複合体微粒子のSEM像
【図10】実施例5で合成したリゾチーム内包複合微粒子と無内包微粒子の拡散反射紫外線スペクトル
【図11】実施例6で合成したアルギン酸カルシウム・炭酸酸カルシウム複合体微粒子のSEM像
【図12】実施例6で合成した複合微粒子と関連粒子のIRスペクトル
【図13】実施例7で合成したBSA内包複合体微粒子のSEM像
【図14】実施例7で合成したBSA内包複合微粒子と無内包微粒子の拡散反射紫外線スペクトル
【図15】実施例8で合成したDNA内包複合体微粒子のSEM像
【図16】実施例8で合成したDNA内包複合微粒子と無内包微粒子の拡散反射紫外線スペクトル
【図17】実施例9で合成したデキストリン内包複合体微粒子のSEM像
【図18】実施例9で合成した複合微粒子と関連粒子のIRスペクトル
【図19】実施例10で合成したフルオレセイン内包複合体微粒子のSEM像
【図20】実施例10で合成したフルオレセイン内包複合体微粒子の拡散反射紫外線スペクトル
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、難溶性アルギン酸塩としては、アルギン酸の多価金属塩、特にカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属塩が挙げられる。好ましい難溶性アルギン酸塩はアルギン酸のアルカリ土類金属塩であり、より好ましくはアルギン酸カルシウム又はアルギン酸マグネシウム、特にアルギン酸カルシウムが挙げられる。
【0013】
難溶性無機塩としては、ケイ酸、炭酸、硫酸などの無機酸の多価金属塩、特にカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属塩が挙げられる。好ましい難溶性無機酸塩はケイ酸及び/又は炭酸のアルカリ土類金属塩であり、より好ましくはケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムであり、特にケイ酸カルシウム、炭酸カルシウムである。
【0014】
水溶性アルギン酸塩としては、アルギン酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩など)、好ましくはアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、特にアルギン酸ナトリウムやアルギン酸アンモニウムが挙げられる。
【0015】
水溶性無機塩としては、ケイ酸、炭酸、硫酸などの無機酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩など)が挙げられ、好ましくはケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、特にケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムが挙げられる。また、相当するアンモニウム塩も挙げることができる。
【0016】
複合微粒子中の難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩の割合は、難溶性アルギン酸塩が5〜95質量%程度、好ましくは10〜90質量%程度であり、難溶性無機塩が2〜98質量%程度、好ましくは5〜95質量%程度である。水溶性有機分子や生体高分子の割合は、0.1〜50質量%程度、好ましくは0.5〜20質量%程度である。
【0017】
複合微粒子に内包される生体高分子としては、タンパク質(酵素、ホルモン、サイトカイン、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ゼラチン、アルブミン(HSA,BSAなど)、オボアルブミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリグルタミン酸などのポリアミノ酸、タンパク質加水分解物を含む)、DNA(プラスミド、遺伝子構築物を含む)、RNA(siRNAなどのRNAiに用いられるRNA)などの核酸、多糖類(ムコ多糖、澱粉、グリコーゲン、ヒアルロン酸、キトサン、ヘパリン、デキストラン、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸、キチン、アガロース、ペクチンなど)が挙げられる。本発明の複合微粒子には、これら生体高分子以外に薬物を含む生理活性物質を広く含めることができる。
【0018】
水溶性有機分子としては、分子量2000程度以下の低分子が好ましく例示され、具体的には、フルオレセイン・ナトリウム塩などの蛍光分子、天然または合成のアミノ酸、水溶性ビタミン類(ビタミンB群、ビタミンC)、芳香族、脂肪族、脂環式の1級、2級、3級または4級有機アミン(アンモニウムを含む)のハロゲン化物、有機酸(有機カルボン酸、有機スルホン酸、有機リン酸、フェノール類など)のアルカリ金属塩、グルコースなどの単糖、ショ糖などの二糖、マルトトリオースなどのオリゴ糖などが挙げられる。
【0019】
本発明の複合微粒油脂の大きさは特に限定されず、製造条件により適宜選択できるが、通常その粒径の下限は、100nm、300nm、500nm、700nm、1μm、2μm、3μm、4μm、5μm程度であり、上限は、50μm、40μm、30μm、25μm、20μm、15μm、10μm、8μm、6μm、5μm、4μm、3μm、2μm、1μm程度である。
【0020】
難溶性アルギン酸塩とケイ酸塩あるいは炭酸塩等の難溶性無機塩の複合体から構成される微粒子は、既存のマイクロカプセル合成を改良することで合成することができる。すわなち、アルギン酸のアルカリ金属塩などの水溶性アルギン酸塩とケイ酸あるいは炭酸のアルカリ金属塩などの水溶性無機塩を含む水溶液をW/Oエマルジョンの水相1(内水相)として用い、アルギン酸塩と無機塩を同時に難溶性にして沈殿させることができる沈殿剤水溶液を水相2(外水相)として用いる、W/O/Wエマルジョンを用いて合成できる。W/OエマルジョンからW/O/Wエマルジョンを作る際の添加法は図1に示すような方法、すわなち、水相1と油相のW/Oエマルジョンを、多価金属イオンなどの沈殿剤が溶解した水相2に加える方法、あるいはこのW/Oエマルジョンに水相2を加える方法のどちらでも良い。アルギン酸塩等の水溶液のアルカリ金属塩は、当該塩が水溶性ならば特に限定されないが、ナトリウム塩が良い。ケイ酸塩あるいは炭酸塩は、水溶性のものであれば特に限定されないが、アルカリ金属塩が良く、ナトリウム塩やカリウム塩が特に良い。この際、微粒子内に水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種を内包させたい場合は、水相1に水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種を加えれば良く、W/Oエマルジョンにおいて水相側に優先的に分配させるものであるならば、水相1に溶解(水溶性有機分子あるいは水溶性の生体高分子)あるいは不溶解(難溶性ないし不溶性の生体高分子)のいずれでもよい。内包させる生体高分子は特に限定されないが、タンパク質、DNA、多糖類等を例示することができる。生体高分子の内包量は特に限定されないが、得られる複合微粒子に対して、0.1〜50重量%が良く、0.5%〜20重量%が特に良い。また、アルギン酸塩とケイ酸塩あるいは炭酸塩とからなる水溶液の組成は特に限定されないが、アルギン酸塩/ケイ酸塩あるいは炭酸塩水溶液=0.01〜5g/gが好ましく、0.1〜2g/gがより好ましい。また、アルギン酸塩とケイ酸塩あるいは炭酸塩の溶液中の濃度は特に限定されないが、0.2〜10重量%が好ましく、0.5〜5重量がより好ましい。油相は水に容易に溶解しない溶剤であれば特に限定されないが、より疎水性であることが好ましく、より好ましくは脂肪族炭化水素が良い。この油相にはW/Oエマルジョンを安定化させるために界面活性剤を加えることが好ましい。当該エマルジョンを十分に安定化させるものであれば特に限定されないが、多価アルコール脂肪酸エステルが好ましく、より好ましくはソルビタン系の界面活性剤が良い。例えば、Tween80やSpan80などのようなTween類やSpan類界面活性剤を例示することができる。この際の界面活性剤の油相中の濃度は0.5〜10重量%が好ましく、より好ましくは1〜5重量%である。
【0021】
水相2には、アルギン酸塩とケイ酸塩あるいは炭酸塩等から固体を形成できる多価金属イオンが溶解していれば特に限定されないが、アルカリ土類金属イオンが好ましく、より好ましくはカルシウムイオンである。対負イオンは、当該化合物が水溶性ならば特に限定されないが、ハロゲンイオンが良く、塩素イオンが特に良い。また、水溶液の濃度は特に限定されないが、0.05〜5Mが好ましく、0.1〜3Mがより好ましい。
【0022】
エマルジョンの形成方法は特に限定されないが、例えばホモジナイザー等でエマルジョンを形成させれば良い。その際の回転数は特に限定されないが、2,000〜20,000回転が良く、4,000〜15,000回転が特に良い。撹拌時間は特に限定されないが、0.5〜10分が良く、1〜5分が特に良い。図1の方法の場合は、撹拌羽根等を用いて撹拌すれば良く、好ましくは200〜2,000回転で、より好ましくは300〜800回転で行うのが良い。
【0023】
こうして得られたアルギン酸塩・無機塩複合微粒子は、無機塩の無いアルギン酸塩微粒子と表面構造に著しい違いがある。例えば、参考例1で合成した図2に示すようにアルギン酸カルシウム微粒子の表面は平滑であり一様に見える。一方、実施例3で合成したアルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子には、数百ナノメートルサイズのナノ粒子が観測される。この複合微粒子の場合、アルギン酸カルシウムとケイ酸カルシウムのナノ粒子が一次粒子として形成され、その後、それらナノ粒子が2次粒子を形成していた(図7)。またエマルジョン界面は、複合微粒子が凝集を起こして球状粒子となる際に利用されているものと考えられる。このように、アルギン酸塩にケイ酸塩、炭酸塩等の無機塩を複合させることにより、新しい形状の微粒子が合成される。
【実施例】
【0024】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施例で参照試料として用いるアルギン酸カルシウム微粒子の製造方法を参考例として記載する。
【0025】
参考例1:アルギン酸カルシウム微粒子の合成
アルギン酸ナトリウム(和光純薬製:アルギン酸ナトリウム80〜120)0.36gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い12,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。図1に示す方法で、撹拌羽を用い400回転で撹拌した0.2Mの塩化カルシウム水溶液(170mL)にこのW/Oエマルジョンをゆっくり加え、そのまま10分間撹拌を続けた。その後、ろ別してアルギン酸カルシウムの微粒子を得た。図2(左)に示すSEM像のように、得られた微粒子は約300nm〜3μmの球状粒子であることがわかる。
【0026】
実施例1 アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液(水ガラス3号、キシダ化学社製)0.38gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。図1に示す方法で、撹拌羽を用い400回転で撹拌した0.2Mの塩化カルシウム水溶液(170mL)にこのW/Oエマルジョンをゆっくり加え、そのまま5分間撹拌を続けた。その後、ろ別してアルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図3に示すSEM像のように、得られた微粒子は1〜10μmの球状粒子であることがわかる。この微粒子が複合体であることは、図4のIRスペクトルよりこの微粒子には、アルギン酸カルシウムの約1430cm-1の吸収とケイ酸カルシウムの約480cm-1の吸収があり、その成分はアルギン酸カルシウムとケイ酸カルシウムであることがわかった。
【0027】
実施例2 アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液0.19gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。図1に示す方法で、撹拌羽を用い400回転で撹拌した0.2Mの塩化カルシウム水溶液(170mL)にこのW/Oエマルジョンをゆっくり加え、そのまま5分間撹拌を続けた。その後、ろ別してアルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図5に示すSEM像のように、得られた微粒子は5〜20μmの球状粒子であることがわかる。この微粒子が複合体であることは、図6のIRスペクトルから、微粒子の成分がアルギン酸カルシウムとケイ酸カルシウムであることよりわかった。
【0028】
実施例3 アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液0.38gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い12,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。図1に示す方法で、撹拌羽を用い400回転で撹拌した0.2Mの塩化カルシウム水溶液(170mL)にこのW/Oエマルジョンをゆっくり加え、そのまま5分間撹拌を続けた。その後、ろ別してアルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図2(右)に示すSEM像のように、得られた微粒子は1〜10μmの球状粒子であることがわかる。
【0029】
実施例4 アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液0.38gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。このエマルジョンに0.95Mの塩化カルシウム水溶液(36mL)を加え、引き続き2分間10,000回転で撹拌した。その後、ろ別してアルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図7に示すSEM像のように、得られた微粒子は1〜5μmの球状粒子であることがわかる。この微粒子が複合体であることは、図8のIRスペクトルより、微粒子の成分は、アルギン酸カルシウムとケイ酸カルシウムであることからわかった。
【0030】
実施例5 リゾチーム内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
リゾチーム0.036g(卵白由来、和光純薬製)アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液(水ガラス3号、キシダ化学社製)0.38gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。このエマルジョンに0.95Mの塩化カルシウム水溶液(36mL)を加え、引き続き2分間10,000回転で撹拌した。その後、ろ別してアルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図9に示すSEM像のように、得られた微粒子は1〜5μmの球状粒子であることがわかる。この微粒子にリゾチームが内包されていることは、図10に示す拡散反射紫外線スペクトルにおいて、リゾチーム無内包の微粒子には無いリゾチーム由来の280nm近傍の吸収があることで確認できた。
【0031】
実施例6 アルギン酸カルシウム・炭酸酸カルシウム複合微粒子の合成
アルギン酸ナトリウム0.36gと炭酸カリウム0.25g(無水物、関東化学社製)をイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。このエマルジョンに0.95Mの塩化カルシウム水溶液(36mL)を加え、引き続き2分間10,000回転で撹拌した。その後、ろ別してアルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図11に示すSEM像のように、得られた微粒子は1〜5μmの球状粒子であることがわかる。この微粒子が複合体であることは、図12のIRスペクトルよりこの微粒子には、アルギン酸カルシウムの約1430cm-1の吸収と炭酸カルシウムの875cm-1の吸収があり、その成分はアルギン酸カルシウムとケイ酸カルシウムであることがわかった。
【0032】
実施例7 BSA内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
BSA36mg(アルブミン・牛血清由来、和光純薬製)、アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液0.38gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。このエマルジョンに0.95Mの塩化カルシウム水溶液(36mL)を加え、引き続き2分間10,000回転で撹拌した。その後、ろ別してBSA内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図13に示すSEM像のように、得られた微粒子は0.5〜3μmの球状粒子であることがわかる。この微粒子にBSAが内包されていることは、図14に示す拡散反射紫外線スペクトルにおいて、BSA無内包の微粒子には無いBSA由来の280nm近傍の吸収があることで確認できた。
【0033】
実施例8 DNA内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
DNA7.2mg(ナトリウム塩型、鮭精巣由来、和光純薬製)、アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液0.38gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。このエマルジョンに0.95Mの塩化カルシウム水溶液(36mL)を加え、引き続き2分間10,000回転で撹拌した。その後、ろ別してDNA内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図15に示すSEM像のように、得られた微粒子は1〜5μmの球状粒子であることがわかる。この微粒子にDNAが内包されていることは、図16に示す拡散反射紫外線スペクトルにおいて、DNA無内包の微粒子には無いDNA由来の260nm近傍の吸収があることで確認できた。
【0034】
実施例9 デキストリン内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
デキストリン水和物0.18g(和光純薬製)、アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液(水ガラス3号、キシダ化学社製)0.38gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。このエマルジョンに0.95Mの塩化カルシウム水溶液(36mL)を加え、引き続き2分間10,000回転で撹拌した。その後、ろ別してデキストリン内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図17に示すSEM像のように、得られた微粒子は1〜5μmの球状粒子であることがわかる。デキストリンアルギン酸は類似の多糖類であるため赤外線スペクトルは良く類似しているが、この微粒子にデキストリンが内包されていることは、図18に示す拡散反射紫外線スペクトルにおいて、デキストリン無内包の微粒子には無いデキストリン由来の*印を付けた吸収が多数あることで確認できた。
【0035】
実施例10 フルオレセイン内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
フルオレセイン・ナトリウム塩0.18g(アルドリッチ)、アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液(水ガラス3号、キシダ化学社製)0.38gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。このエマルジョンに0.95Mの塩化カルシウム水溶液(36mL)を加え、引き続き2分間10,000回転で撹拌した。その後ろ別し、洗浄液が無色透明になるまで(フルオレセインの溶液は橙色)十分に水洗浄し、フルオレセイン内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図19に示すSEM像のように、得られた微粒子は1〜10μmの球状粒子であることがわかる。この微粒子にリゾチームが内包されていることは、図20に示す拡散反射紫外線スペクトルにおいて、フルオレセイン無内包の微粒子には無いフルオレセイン由来の500nm近傍の吸収があることで確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明で新しく調製され、見いだされた材料の応用は、種々想定されるが、例えば以下のような応用が考えられる。
【0037】
アルギン酸カルシウム等のアルギン酸塩は、食品添加物にも用いられているように、人へのリスクの無い物質である。また、ケイ酸カルシウムも適正な使用を行えば食品添加物として利用可能とされている。このように本発明の素材は人への利用に対しリスクがほとんど無いと言うことができる。したがって、想定できる応用としては、食品添加物、カプセルなどの製剤用素材、ドラッグデリバリーシステム用のキャリアー等が考えられる。その他、農林水産業、酪農あるいは環境関連技術への利用も考えられる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギン酸塩・無機塩から構成される複合微粒子及びその製造法に関し、詳しくは、難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩から構成される有機無機複合微粒子及びその製造法に関する。さらに本発明は、水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種を内包する複合微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギン酸は、食品、医薬、化粧品分野等に幅広く応用されている。多価金属との化合物は水に難溶あるいは不溶であり、様々な分野でのカプセル材料、オブラート材料として利用されている。アルギン酸そのものは、海草類等に含まれる多糖類であり、食品添加物にも用いられる生体適合性の良い素材で、実用性も高い。人工的に合成されたアルギン酸塩の粒子としては、古くは数ミリメートルサイズのアルギン酸カルシウム等の粒子が知られている。これらの一部は、「人工イクラ」として知られている。一方、近年はマイクロメートルあるいはナノメートルサイズのアルギン酸塩微粒子も合成され、活発に応用研究がなされている。また、その微粒子内に機能性素材を包含させることで新規な材料を創出できることも報告されている。例えば、アルギン酸塩粒子が溶剤を吸収できる能力が高いことを利用して、インクジェット記録媒体に組み入れる応用例がある(特許文献1〜3)。また、アルギン酸塩化合物は上述のように生体適合性が良いために、多くの医療関連分野へ応用されている。例として、シート状アルギン酸塩集合体を支持層の中央部に積層した創傷被覆材(特許文献4,5)、フェライト微粒子をアルギン酸カルシウム微粒子に内包させることで磁気温熱療法用発熱体を作ること等が報告されている(特許文献6)。さらに、近年はドラッグデリバリーシステム等への応用も研究されている。例えば、アルギン酸ナトリウム溶液にラクトフェリンを溶解させ、この溶液を塩化カルシウム溶液に作用させることで、ラクトフェリンの徐放性能を持った製剤の製造技術が報告されている(特許文献7)。また、アルギン酸カルシウム等の多価塩の微粒子をW/Oエマルジョンを用いて合成し、これにアセトアミノフェン等の難水溶性薬剤を含浸させた徐放製剤も報告されている(特許文献8)。
【0003】
ところで、アルギン酸カルシウムに代表されるアルギン酸多価塩の粒子は、アルギン酸ナトリウムを溶解した水溶液と塩化カルシウムの溶解した水溶液が混合することで容易に生成できることが知られている。例えば、アルギン酸ナトリウムを含有した水溶液をスポイト等で塩化カルシウムへ滴下することで粒子ができ、このアルギン酸カルシウム被膜内に様々な物質を内包できる(特許文献9〜13)。一方、水ガラスと塩化カルシウム、あるいは炭酸カリウムと塩化カルシウムとが微少なエマルジョンで混合すると、それぞれケイ酸カルシウム(非特許文献1)および炭酸カルシウム(非特許文献2)の微小球状粒子が合成できることが知られている。しかしながら、これらアルギン酸カルシウムとケイ酸カルシウムおよび炭酸カルシウム合成とを同時に行い、両者が複合した微粒子の合成は行われていなかった。
【0004】
さらに、上記のケイ酸カルシウムおよび炭酸カルシウムの微粒子や類似のシリカ微粒子等に、種々の物質を内包させる手法が知られているが(特許文献14)、アルギン酸との複合材料に関しての内包化技術は知られていない。アルギン酸カルシウムのビーズや微粒子は、化合物の膜内透過性が高いため、その透過性の制御が求められており、アルギン酸カルシウムの修飾が検討されている。さらに、酸等に対しての化学的安定性や熱安定性等を向上させるためにも、アルギン酸塩と他の材料との複合化が求められている。例えば、事前にゾル−ゲル法でシリカを析出しており、その後にアルギン酸カルシウム等のゲルを形成させる方法(非特許文献3)や、あらかじめ合成しておいたアルギン酸カルシウム粒子に水ガラスを作用させてシリカをコートする方法等が提案されている(非特許文献4)。しかしながら、アルギン酸カルシウム等とケイ酸塩や炭酸塩等を同時に合成する試みは、従来なされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-192635
【特許文献2】特開2000-108499
【特許文献3】特開平06-247035
【特許文献4】特開平09-176021
【特許文献5】特開平07-136240
【特許文献6】特開2011-032238
【特許文献7】特開2011-051903
【特許文献8】特開平11-130698
【特許文献9】特開平5-92909
【特許文献10】特開平6-116117
【特許文献11】特開平8-9711
【特許文献12】特開平10-327834
【特許文献13】特開2006-174778
【特許文献14】特開2007-015990
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】宮田謙一、中原佳子、日本化学会誌、727-731、1976年
【非特許文献2】Journal of Colloid and Interface Science, 1979, 68, 401-407
【非特許文献3】J. Sol-Gel Sci. Technol. 2003, 26, 1165-1168
【非特許文献4】J. Mater. Chem., 2006, 16, 1178-1182
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アルギン酸塩と無機塩とから形成される複合微粒子の合成技術、当該複合微粒子に生体高分子、水溶性有機分子等の化合物を内包する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような観点から、アルギン酸ナトリウムなどの水溶性アルギン酸塩とケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの水溶性無機塩と沈殿剤水溶液の混合溶液の反応を種々検討した結果、水溶性アルギン酸塩と水溶性無機塩を含む溶液を用い、この水溶液を水相1として用いてW/Oエマルジョンを形成させ、当該エマルジョンをハロゲン化カルシウム水溶液等の沈殿剤水溶液に加えることで、アルギン酸カルシウムなどの難溶性アルギン酸塩とケイ酸カルシウム、炭酸カルシウムなどの難溶性無機塩とから形成される複合微粒子を合成することに成功した。また、この水相1に生体高分子、水溶性有機分子等の化合物を加えることで、当該化合物を内包した複合微粒子を合成することに成功し、本発明に至った。
【0009】
本発明は、以下の複合微粒子及びその製造方法を提供するものである。
項1. 難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩から構成される有機無機複合微粒子。
項2. 難溶性アルギン酸塩がアルギン酸のアルカリ土類金属塩である項1に記載の有機無機複合微粒子。
項3. 難溶性アルギン酸塩がアルギン酸カルシウムである項2に記載の有機無機複合微粒子。
項4. 難溶性無機塩がケイ酸塩又は炭酸塩である、項1又は2に記載の有機無機複合微粒子。
項5. 難溶性無機塩がケイ酸カルシウム又は炭酸カルシウムである、項4に記載の有機無機複合微粒子。
項6. さらに水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種を内包してなる、項1〜5のいずれかに記載の有機無機複合微粒子。
項7. 生体高分子が、タンパク質、DNA及び多糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種である、項6に記載の有機無機複合微粒子。
項8. 水溶性無機塩と水溶性アルギン酸塩を含む第1水相粒子を油相中に分散してなるW/Oエマルジョンに沈殿剤水溶液を作用させることを特徴とする、難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩から構成される有機無機複合微粒子の製造方法。
項9. 水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種、水溶性無機塩、水溶性アルギン酸塩を含む第1水相粒子を油相中に分散してなるW/Oエマルジョンに沈殿剤水溶液を作用させることを特徴とする、水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種を内包してなる難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩から構成される有機無機複合微粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合体微粒子は、水溶性有機分子や生体高分子(蛋白質、DNA、多糖類など)を長期間保存することができ、当該材料や生体高分子の製薬、ドラッグデリバリーシステム、食品添加剤等の分野への応用範囲を拡げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】生体高分子を内包させたアルギン酸塩・無機塩複合微粒子の合成方法の概念図
【図2】(左)参考例1で合成したアルギン酸カルシウム微粒子アルギン酸のSEM像、(右)実施例3で合成したアルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子のSEM像
【図3】実施例1で合成した複合微粒子のSEM像
【図4】実施例1で合成した複合微粒子と関連粒子のIRスペクトル
【図5】実施例2で合成した複合微粒子のSEM像
【図6】実施例2で合成した複合微粒子と関連粒子のIRスペクトル
【図7】実施例4で合成した複合微粒子のSEM像
【図8】実施例4で合成した複合微粒子と関連粒子のIRスペクトル
【図9】実施例5で合成したリゾチーム内包複合体微粒子のSEM像
【図10】実施例5で合成したリゾチーム内包複合微粒子と無内包微粒子の拡散反射紫外線スペクトル
【図11】実施例6で合成したアルギン酸カルシウム・炭酸酸カルシウム複合体微粒子のSEM像
【図12】実施例6で合成した複合微粒子と関連粒子のIRスペクトル
【図13】実施例7で合成したBSA内包複合体微粒子のSEM像
【図14】実施例7で合成したBSA内包複合微粒子と無内包微粒子の拡散反射紫外線スペクトル
【図15】実施例8で合成したDNA内包複合体微粒子のSEM像
【図16】実施例8で合成したDNA内包複合微粒子と無内包微粒子の拡散反射紫外線スペクトル
【図17】実施例9で合成したデキストリン内包複合体微粒子のSEM像
【図18】実施例9で合成した複合微粒子と関連粒子のIRスペクトル
【図19】実施例10で合成したフルオレセイン内包複合体微粒子のSEM像
【図20】実施例10で合成したフルオレセイン内包複合体微粒子の拡散反射紫外線スペクトル
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、難溶性アルギン酸塩としては、アルギン酸の多価金属塩、特にカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属塩が挙げられる。好ましい難溶性アルギン酸塩はアルギン酸のアルカリ土類金属塩であり、より好ましくはアルギン酸カルシウム又はアルギン酸マグネシウム、特にアルギン酸カルシウムが挙げられる。
【0013】
難溶性無機塩としては、ケイ酸、炭酸、硫酸などの無機酸の多価金属塩、特にカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属塩が挙げられる。好ましい難溶性無機酸塩はケイ酸及び/又は炭酸のアルカリ土類金属塩であり、より好ましくはケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムであり、特にケイ酸カルシウム、炭酸カルシウムである。
【0014】
水溶性アルギン酸塩としては、アルギン酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩など)、好ましくはアルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、特にアルギン酸ナトリウムやアルギン酸アンモニウムが挙げられる。
【0015】
水溶性無機塩としては、ケイ酸、炭酸、硫酸などの無機酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩など)が挙げられ、好ましくはケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、特にケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムが挙げられる。また、相当するアンモニウム塩も挙げることができる。
【0016】
複合微粒子中の難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩の割合は、難溶性アルギン酸塩が5〜95質量%程度、好ましくは10〜90質量%程度であり、難溶性無機塩が2〜98質量%程度、好ましくは5〜95質量%程度である。水溶性有機分子や生体高分子の割合は、0.1〜50質量%程度、好ましくは0.5〜20質量%程度である。
【0017】
複合微粒子に内包される生体高分子としては、タンパク質(酵素、ホルモン、サイトカイン、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ゼラチン、アルブミン(HSA,BSAなど)、オボアルブミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリグルタミン酸などのポリアミノ酸、タンパク質加水分解物を含む)、DNA(プラスミド、遺伝子構築物を含む)、RNA(siRNAなどのRNAiに用いられるRNA)などの核酸、多糖類(ムコ多糖、澱粉、グリコーゲン、ヒアルロン酸、キトサン、ヘパリン、デキストラン、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸、キチン、アガロース、ペクチンなど)が挙げられる。本発明の複合微粒子には、これら生体高分子以外に薬物を含む生理活性物質を広く含めることができる。
【0018】
水溶性有機分子としては、分子量2000程度以下の低分子が好ましく例示され、具体的には、フルオレセイン・ナトリウム塩などの蛍光分子、天然または合成のアミノ酸、水溶性ビタミン類(ビタミンB群、ビタミンC)、芳香族、脂肪族、脂環式の1級、2級、3級または4級有機アミン(アンモニウムを含む)のハロゲン化物、有機酸(有機カルボン酸、有機スルホン酸、有機リン酸、フェノール類など)のアルカリ金属塩、グルコースなどの単糖、ショ糖などの二糖、マルトトリオースなどのオリゴ糖などが挙げられる。
【0019】
本発明の複合微粒油脂の大きさは特に限定されず、製造条件により適宜選択できるが、通常その粒径の下限は、100nm、300nm、500nm、700nm、1μm、2μm、3μm、4μm、5μm程度であり、上限は、50μm、40μm、30μm、25μm、20μm、15μm、10μm、8μm、6μm、5μm、4μm、3μm、2μm、1μm程度である。
【0020】
難溶性アルギン酸塩とケイ酸塩あるいは炭酸塩等の難溶性無機塩の複合体から構成される微粒子は、既存のマイクロカプセル合成を改良することで合成することができる。すわなち、アルギン酸のアルカリ金属塩などの水溶性アルギン酸塩とケイ酸あるいは炭酸のアルカリ金属塩などの水溶性無機塩を含む水溶液をW/Oエマルジョンの水相1(内水相)として用い、アルギン酸塩と無機塩を同時に難溶性にして沈殿させることができる沈殿剤水溶液を水相2(外水相)として用いる、W/O/Wエマルジョンを用いて合成できる。W/OエマルジョンからW/O/Wエマルジョンを作る際の添加法は図1に示すような方法、すわなち、水相1と油相のW/Oエマルジョンを、多価金属イオンなどの沈殿剤が溶解した水相2に加える方法、あるいはこのW/Oエマルジョンに水相2を加える方法のどちらでも良い。アルギン酸塩等の水溶液のアルカリ金属塩は、当該塩が水溶性ならば特に限定されないが、ナトリウム塩が良い。ケイ酸塩あるいは炭酸塩は、水溶性のものであれば特に限定されないが、アルカリ金属塩が良く、ナトリウム塩やカリウム塩が特に良い。この際、微粒子内に水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種を内包させたい場合は、水相1に水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種を加えれば良く、W/Oエマルジョンにおいて水相側に優先的に分配させるものであるならば、水相1に溶解(水溶性有機分子あるいは水溶性の生体高分子)あるいは不溶解(難溶性ないし不溶性の生体高分子)のいずれでもよい。内包させる生体高分子は特に限定されないが、タンパク質、DNA、多糖類等を例示することができる。生体高分子の内包量は特に限定されないが、得られる複合微粒子に対して、0.1〜50重量%が良く、0.5%〜20重量%が特に良い。また、アルギン酸塩とケイ酸塩あるいは炭酸塩とからなる水溶液の組成は特に限定されないが、アルギン酸塩/ケイ酸塩あるいは炭酸塩水溶液=0.01〜5g/gが好ましく、0.1〜2g/gがより好ましい。また、アルギン酸塩とケイ酸塩あるいは炭酸塩の溶液中の濃度は特に限定されないが、0.2〜10重量%が好ましく、0.5〜5重量がより好ましい。油相は水に容易に溶解しない溶剤であれば特に限定されないが、より疎水性であることが好ましく、より好ましくは脂肪族炭化水素が良い。この油相にはW/Oエマルジョンを安定化させるために界面活性剤を加えることが好ましい。当該エマルジョンを十分に安定化させるものであれば特に限定されないが、多価アルコール脂肪酸エステルが好ましく、より好ましくはソルビタン系の界面活性剤が良い。例えば、Tween80やSpan80などのようなTween類やSpan類界面活性剤を例示することができる。この際の界面活性剤の油相中の濃度は0.5〜10重量%が好ましく、より好ましくは1〜5重量%である。
【0021】
水相2には、アルギン酸塩とケイ酸塩あるいは炭酸塩等から固体を形成できる多価金属イオンが溶解していれば特に限定されないが、アルカリ土類金属イオンが好ましく、より好ましくはカルシウムイオンである。対負イオンは、当該化合物が水溶性ならば特に限定されないが、ハロゲンイオンが良く、塩素イオンが特に良い。また、水溶液の濃度は特に限定されないが、0.05〜5Mが好ましく、0.1〜3Mがより好ましい。
【0022】
エマルジョンの形成方法は特に限定されないが、例えばホモジナイザー等でエマルジョンを形成させれば良い。その際の回転数は特に限定されないが、2,000〜20,000回転が良く、4,000〜15,000回転が特に良い。撹拌時間は特に限定されないが、0.5〜10分が良く、1〜5分が特に良い。図1の方法の場合は、撹拌羽根等を用いて撹拌すれば良く、好ましくは200〜2,000回転で、より好ましくは300〜800回転で行うのが良い。
【0023】
こうして得られたアルギン酸塩・無機塩複合微粒子は、無機塩の無いアルギン酸塩微粒子と表面構造に著しい違いがある。例えば、参考例1で合成した図2に示すようにアルギン酸カルシウム微粒子の表面は平滑であり一様に見える。一方、実施例3で合成したアルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子には、数百ナノメートルサイズのナノ粒子が観測される。この複合微粒子の場合、アルギン酸カルシウムとケイ酸カルシウムのナノ粒子が一次粒子として形成され、その後、それらナノ粒子が2次粒子を形成していた(図7)。またエマルジョン界面は、複合微粒子が凝集を起こして球状粒子となる際に利用されているものと考えられる。このように、アルギン酸塩にケイ酸塩、炭酸塩等の無機塩を複合させることにより、新しい形状の微粒子が合成される。
【実施例】
【0024】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施例で参照試料として用いるアルギン酸カルシウム微粒子の製造方法を参考例として記載する。
【0025】
参考例1:アルギン酸カルシウム微粒子の合成
アルギン酸ナトリウム(和光純薬製:アルギン酸ナトリウム80〜120)0.36gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い12,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。図1に示す方法で、撹拌羽を用い400回転で撹拌した0.2Mの塩化カルシウム水溶液(170mL)にこのW/Oエマルジョンをゆっくり加え、そのまま10分間撹拌を続けた。その後、ろ別してアルギン酸カルシウムの微粒子を得た。図2(左)に示すSEM像のように、得られた微粒子は約300nm〜3μmの球状粒子であることがわかる。
【0026】
実施例1 アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液(水ガラス3号、キシダ化学社製)0.38gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。図1に示す方法で、撹拌羽を用い400回転で撹拌した0.2Mの塩化カルシウム水溶液(170mL)にこのW/Oエマルジョンをゆっくり加え、そのまま5分間撹拌を続けた。その後、ろ別してアルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図3に示すSEM像のように、得られた微粒子は1〜10μmの球状粒子であることがわかる。この微粒子が複合体であることは、図4のIRスペクトルよりこの微粒子には、アルギン酸カルシウムの約1430cm-1の吸収とケイ酸カルシウムの約480cm-1の吸収があり、その成分はアルギン酸カルシウムとケイ酸カルシウムであることがわかった。
【0027】
実施例2 アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液0.19gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。図1に示す方法で、撹拌羽を用い400回転で撹拌した0.2Mの塩化カルシウム水溶液(170mL)にこのW/Oエマルジョンをゆっくり加え、そのまま5分間撹拌を続けた。その後、ろ別してアルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図5に示すSEM像のように、得られた微粒子は5〜20μmの球状粒子であることがわかる。この微粒子が複合体であることは、図6のIRスペクトルから、微粒子の成分がアルギン酸カルシウムとケイ酸カルシウムであることよりわかった。
【0028】
実施例3 アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液0.38gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い12,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。図1に示す方法で、撹拌羽を用い400回転で撹拌した0.2Mの塩化カルシウム水溶液(170mL)にこのW/Oエマルジョンをゆっくり加え、そのまま5分間撹拌を続けた。その後、ろ別してアルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図2(右)に示すSEM像のように、得られた微粒子は1〜10μmの球状粒子であることがわかる。
【0029】
実施例4 アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液0.38gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。このエマルジョンに0.95Mの塩化カルシウム水溶液(36mL)を加え、引き続き2分間10,000回転で撹拌した。その後、ろ別してアルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図7に示すSEM像のように、得られた微粒子は1〜5μmの球状粒子であることがわかる。この微粒子が複合体であることは、図8のIRスペクトルより、微粒子の成分は、アルギン酸カルシウムとケイ酸カルシウムであることからわかった。
【0030】
実施例5 リゾチーム内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
リゾチーム0.036g(卵白由来、和光純薬製)アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液(水ガラス3号、キシダ化学社製)0.38gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。このエマルジョンに0.95Mの塩化カルシウム水溶液(36mL)を加え、引き続き2分間10,000回転で撹拌した。その後、ろ別してアルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図9に示すSEM像のように、得られた微粒子は1〜5μmの球状粒子であることがわかる。この微粒子にリゾチームが内包されていることは、図10に示す拡散反射紫外線スペクトルにおいて、リゾチーム無内包の微粒子には無いリゾチーム由来の280nm近傍の吸収があることで確認できた。
【0031】
実施例6 アルギン酸カルシウム・炭酸酸カルシウム複合微粒子の合成
アルギン酸ナトリウム0.36gと炭酸カリウム0.25g(無水物、関東化学社製)をイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。このエマルジョンに0.95Mの塩化カルシウム水溶液(36mL)を加え、引き続き2分間10,000回転で撹拌した。その後、ろ別してアルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図11に示すSEM像のように、得られた微粒子は1〜5μmの球状粒子であることがわかる。この微粒子が複合体であることは、図12のIRスペクトルよりこの微粒子には、アルギン酸カルシウムの約1430cm-1の吸収と炭酸カルシウムの875cm-1の吸収があり、その成分はアルギン酸カルシウムとケイ酸カルシウムであることがわかった。
【0032】
実施例7 BSA内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
BSA36mg(アルブミン・牛血清由来、和光純薬製)、アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液0.38gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。このエマルジョンに0.95Mの塩化カルシウム水溶液(36mL)を加え、引き続き2分間10,000回転で撹拌した。その後、ろ別してBSA内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図13に示すSEM像のように、得られた微粒子は0.5〜3μmの球状粒子であることがわかる。この微粒子にBSAが内包されていることは、図14に示す拡散反射紫外線スペクトルにおいて、BSA無内包の微粒子には無いBSA由来の280nm近傍の吸収があることで確認できた。
【0033】
実施例8 DNA内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
DNA7.2mg(ナトリウム塩型、鮭精巣由来、和光純薬製)、アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液0.38gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。このエマルジョンに0.95Mの塩化カルシウム水溶液(36mL)を加え、引き続き2分間10,000回転で撹拌した。その後、ろ別してDNA内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図15に示すSEM像のように、得られた微粒子は1〜5μmの球状粒子であることがわかる。この微粒子にDNAが内包されていることは、図16に示す拡散反射紫外線スペクトルにおいて、DNA無内包の微粒子には無いDNA由来の260nm近傍の吸収があることで確認できた。
【0034】
実施例9 デキストリン内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
デキストリン水和物0.18g(和光純薬製)、アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液(水ガラス3号、キシダ化学社製)0.38gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。このエマルジョンに0.95Mの塩化カルシウム水溶液(36mL)を加え、引き続き2分間10,000回転で撹拌した。その後、ろ別してデキストリン内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図17に示すSEM像のように、得られた微粒子は1〜5μmの球状粒子であることがわかる。デキストリンアルギン酸は類似の多糖類であるため赤外線スペクトルは良く類似しているが、この微粒子にデキストリンが内包されていることは、図18に示す拡散反射紫外線スペクトルにおいて、デキストリン無内包の微粒子には無いデキストリン由来の*印を付けた吸収が多数あることで確認できた。
【0035】
実施例10 フルオレセイン内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子の合成
フルオレセイン・ナトリウム塩0.18g(アルドリッチ)、アルギン酸ナトリウム0.36gとケイ酸ナトリウム溶液(水ガラス3号、キシダ化学社製)0.38gをイオン交換水24mLに溶解させ、1gのTween85を溶解させたヘキサン溶液48mLに加え、ホモジナイザーを用い10,000回転で1分間撹拌しW/Oエマルジョンを形成させた。このエマルジョンに0.95Mの塩化カルシウム水溶液(36mL)を加え、引き続き2分間10,000回転で撹拌した。その後ろ別し、洗浄液が無色透明になるまで(フルオレセインの溶液は橙色)十分に水洗浄し、フルオレセイン内包アルギン酸カルシウム・ケイ酸カルシウム複合微粒子を得た。図19に示すSEM像のように、得られた微粒子は1〜10μmの球状粒子であることがわかる。この微粒子にリゾチームが内包されていることは、図20に示す拡散反射紫外線スペクトルにおいて、フルオレセイン無内包の微粒子には無いフルオレセイン由来の500nm近傍の吸収があることで確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明で新しく調製され、見いだされた材料の応用は、種々想定されるが、例えば以下のような応用が考えられる。
【0037】
アルギン酸カルシウム等のアルギン酸塩は、食品添加物にも用いられているように、人へのリスクの無い物質である。また、ケイ酸カルシウムも適正な使用を行えば食品添加物として利用可能とされている。このように本発明の素材は人への利用に対しリスクがほとんど無いと言うことができる。したがって、想定できる応用としては、食品添加物、カプセルなどの製剤用素材、ドラッグデリバリーシステム用のキャリアー等が考えられる。その他、農林水産業、酪農あるいは環境関連技術への利用も考えられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩から構成される有機無機複合微粒子。
【請求項2】
難溶性アルギン酸塩がアルギン酸のアルカリ土類金属塩である請求項1に記載の有機無機複合微粒子。
【請求項3】
難溶性アルギン酸塩がアルギン酸カルシウムである請求項2に記載の有機無機複合微粒子。
【請求項4】
難溶性無機塩がケイ酸塩又は炭酸塩である、請求項1又は2に記載の有機無機複合微粒子。
【請求項5】
難溶性無機塩がケイ酸カルシウム又は炭酸カルシウムである、請求項4に記載の有機無機複合微粒子。
【請求項6】
さらに水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種を内包してなる、請求項1〜5のいずれかに記載の有機無機複合微粒子。
【請求項7】
生体高分子が、タンパク質、DNA及び多糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載の有機無機複合微粒子。
【請求項8】
水溶性無機塩と水溶性アルギン酸塩を含む第1水相粒子を油相中に分散してなるW/Oエマルジョンに沈殿剤水溶液を作用させることを特徴とする、難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩から構成される有機無機複合微粒子の製造方法。
【請求項9】
水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種、水溶性無機塩、水溶性アルギン酸塩を含む第1水相粒子を油相中に分散してなるW/Oエマルジョンに沈殿剤水溶液を作用させることを特徴とする、水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種を内包してなる難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩から構成される有機無機複合微粒子の製造方法。
【請求項1】
難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩から構成される有機無機複合微粒子。
【請求項2】
難溶性アルギン酸塩がアルギン酸のアルカリ土類金属塩である請求項1に記載の有機無機複合微粒子。
【請求項3】
難溶性アルギン酸塩がアルギン酸カルシウムである請求項2に記載の有機無機複合微粒子。
【請求項4】
難溶性無機塩がケイ酸塩又は炭酸塩である、請求項1又は2に記載の有機無機複合微粒子。
【請求項5】
難溶性無機塩がケイ酸カルシウム又は炭酸カルシウムである、請求項4に記載の有機無機複合微粒子。
【請求項6】
さらに水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種を内包してなる、請求項1〜5のいずれかに記載の有機無機複合微粒子。
【請求項7】
生体高分子が、タンパク質、DNA及び多糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載の有機無機複合微粒子。
【請求項8】
水溶性無機塩と水溶性アルギン酸塩を含む第1水相粒子を油相中に分散してなるW/Oエマルジョンに沈殿剤水溶液を作用させることを特徴とする、難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩から構成される有機無機複合微粒子の製造方法。
【請求項9】
水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種、水溶性無機塩、水溶性アルギン酸塩を含む第1水相粒子を油相中に分散してなるW/Oエマルジョンに沈殿剤水溶液を作用させることを特徴とする、水溶性有機分子および生体高分子からなる群から選ばれる少なくとも1種を内包してなる難溶性アルギン酸塩と難溶性無機塩から構成される有機無機複合微粒子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−18844(P2013−18844A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152202(P2011−152202)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度農林水産省「生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発」中の「畜産物における病原微生物のリスク低減技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度農林水産省「生産・流通・加工工程における体系的な危害要因の特性解明とリスク低減技術の開発」中の「畜産物における病原微生物のリスク低減技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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