説明

アルジンジパイン阻害剤及び口腔用組成物

【解決手段】メシル酸ガベキサートと水溶性フッ素化合物とからなるアルジンジパイン阻害剤、及び、メシル酸ガベキサートと水溶性フッ素化合物とを含有してなることを特徴とする口腔用組成物。
【効果】本発明のアルジンジパイン阻害剤及び口腔用組成物は、歯周病原因菌であるポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)が産生するシステインプロテアーゼであるアルジンジパインを特異的にかつ高活性で阻害し、しかも、人体に対する安全性に優れ、アルジンジパインが関与する疾患、例えば歯周病の予防、治療等に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病の原因菌であるポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)が産生するアルジンジパインの活性阻害効果に優れたアルジンジパイン阻害剤及び口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテアーゼは、その触媒機構によりセリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼに大きく分類され、生命活動に重要な機能を持ち、多くの疾病の罹患、進行に関与することから、主要な医薬品開発のターゲットとなっている。
【0003】
アルジンジパインは、タンパク質のアルギニンC末端を特異的に切断するトリプシン様活性を示すシステインプロテアーゼである。プロテアーゼの分類においては、一次構造比較で他のプロテアーゼと相同性を持たないことから独自のグループを形成している。そのため、プロテアーゼの立体構造及び機能に関する研究が活発に行われており、プロテアーゼの阻害剤として、特異的なプロテアーゼ阻害剤の開発が必要とされている。
【0004】
また、アルジンジパインは、歯周病原因菌であるグラム陰性嫌気性桿菌のポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)により産生される本菌の主要な病原因子である。そのため、アルジンジパインの阻害剤は、有効な歯周病治療・予防薬として、また、アルジンジパインをマーカーとする、歯周病診断技術への応用が期待される。更に、近年歯周病と全身疾患の関連性がクローズアップされており、ジンジパインがアテローム性動脈硬化症や全身性血管内凝固症の原因になっている可能性が示唆されており、ジンジパイン阻害剤はこれら疾患に対しても有効な治療薬になると考えられる。
【0005】
アルジンジパインを阻害する物質としては、ロイペプチン、アンチパイン、KYT−001、あるいはE−64等が知られている。しかし、これら阻害剤はペプチド誘導体で安定性が悪く、室温での保存が困難であり、また、安全性が未知であり、ヒトへの適用は難しい。
また、安定性、安全性に優れたアルジンジパイン阻害剤としては、カテキン(特許文献1)、マラバリコンC(特許文献2)、ウコン、ヨモギ、カリンなどの植物抽出物(特許文献3)が開示されているが、これらの阻害効果は弱い。
【0006】
このように従来のアルジンジパイン阻害剤は、阻害効果が高いものは安全性や安定性等に問題があり実用化し難いものであり、また、安全性や安定性等が良好なものはその阻害効果が十分ではなく、品質的に満足し難いものであった。よって、人体に対して安全かつ安定で、優れたアルジンジパイン阻害効果を発揮するアルジンジパインの阻害剤及び口腔用組成物の開発が望まれていた。
【0007】
【特許文献1】特開2004−143127号公報
【特許文献2】特開平11−335274号公報
【特許文献3】特開2003−335648号公報
【特許文献4】特開2002−255852号公報
【特許文献5】特表2002−506023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、人体に対して安全かつ安定で、アルジンジパインの活性を特異的かつ効果的に阻害するアルジンジパイン阻害剤、及びアルジンジパイン活性阻害効果に優れ、歯周病予防又は治療用として好適な口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、メシル酸ガベキサートが、歯周病原因菌であるポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)により産生される病原因子であるアルジンジパインに対して特異的な活性阻害効果を発揮し、更に、水溶性フッ素化合物の併用によりこの阻害効果が相乗的に増強すること、よって、メシル酸ガベキサートと水溶性フッ素化合物とを組み合わせることで、優れた阻害効果を発揮し、人体に対して安全かつ安定なアルジンジパイン阻害剤が得られ、かつメシル酸ガベキサートと水溶性フッ素化合物とを配合した口腔用組成物が、高いアルジンジパイン阻害効果を発揮し、歯周病予防又は治療に有効であることを知見した。
【0010】
本発明で用いるメシル酸ガベキサートは、セリンプロテアーゼ阻害剤で、メシル酸ナファモスタットと同様に、トリプシン、カリクレイン、プラスミンなどの阻害効果を持ち、膵炎、汎発性血管内血液凝固症、皮膚ビラン、潰瘍の治療薬として用いられている。口腔への用途としては、癌治療に伴う化学療法や放射線療法の副作用として発症する口内炎の予防、治療を目的とした組成物への配合が開示されている(特許文献4、5参照)が、ポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)の産生するアルジンジパインの活性阻害作用については知られていなかった。本発明者は、このように医薬品としての使用実績から人体への安全性に優れ、室温保存可能で安定な化合物である上記メシル酸ガベキサートが、ポルフィロモナス ジンジバリスの産生するアルジンジパインに対する高い活性阻害作用を有し、更に、このメシル酸ガベキサートに水溶性フッ素化合物を併用することで、これら両成分の相乗効果によってアルジンジパインの活性阻害作用がより向上すること、よって、メシル酸ガベキサートを有効成分とし、水溶性フッ素化合物を組み合わせて配合することによって、アルジンジパインの活性を特異的に阻害する高品質のアルジンジパイン阻害剤が得られ、かつ歯周病予防又は治療用に好適な口腔用組成物が得られることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0011】
従って、本発明は、メシル酸ガベキサートと水溶性フッ素化合物とからなるアルジンジパイン阻害剤、及びメシル酸ガベキサートと水溶性フッ素化合物とを含有してなることを特徴とする口腔用組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアルジンジパイン阻害剤及び口腔用組成物は、歯周病原因菌であるポルフィロモナス ジンジバリスが産生するシステインプロテアーゼであるアルジンジパインを特異的にかつ高活性で阻害し、しかも、人体に対する安全性に優れ、アルジンジパインが関与する疾患、例えば歯周病の予防、治療等に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明につき更に詳細に説明すると、本発明のアルジンジパイン阻害剤は、メシル酸ガベキサートと水溶性フッ素化合物とからなるものである。
【0014】
ここで、本発明で用いるメシル酸ガベキサートは、下記化学構造式で表されるものである。
【0015】
【化1】

【0016】
メシル酸ガベキサートとしては、市販品を用いることができ、例えば、小野薬品工業(株)のエフオーワイ、日本医薬品工業(株)のプロビトール、沢井製薬(株)のアロデートや、和光純薬工業(株)のメシル酸ガベキサートなどを使用することが出来る。
【0017】
次に、本発明において使用する水溶性のフッ素化合物とは、20℃において、100gの水への溶解度が1g以上であるフッ素化合物である。このような水溶性フッ素化合物としては特に限定されるものではないが、例えばフッ化ナトリウム(溶解度4g/100g水(20℃))、フッ化カリウム(溶解度92g/100g水(20℃))、フッ化アンモニウム(溶解度100g/100g水(20℃))、モノフルオロリン酸ナトリウム(溶解度42g/100g水(20℃))、フッ化スズ(溶解度30g/100g水(20℃))等が挙げられ、中でも安全性の点からフッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウムが好ましい。
【0018】
本発明において、メシル酸ガベキサートと水溶性フッ素化合物との使用配合は、特に制限されないが、例えば水溶性フッ素化合物として安全性の面から最も好ましく使用できるフッ化ナトリウムあるいはモノフルオロリン酸ナトリウムを用いる場合は、次の通りが好適である。
フッ化ナトリウムにおいては、メシル酸ガベキサートの使用量:フッ化ナトリウムの使用量が質量比で1:0.1〜1:100,000、特に1:0.4〜1:70,000となる範囲で適宜選択して調整することが好ましい。
モノフルオロリン酸ナトリウムにおいては、メシル酸ガベキサートの使用量:モノフルオロリン酸ナトリウムの使用量が質量比で1:0.1〜1:500,000、特に1:0.4〜1:250,000となる範囲で適宜選択して調整することが好ましい。
上記水溶性フッ素化合物の使用割合が0.1未満では阻害効果が十分発揮されない場合があり、フッ化ナトリウムを用いる場合は使用割合が100,000、モノフルオロリン酸ナトリウムを用いる場合は使用割合が500,000を超えると、フッ素の為害作用が懸念される。
【0019】
本発明のアルジンジパイン阻害剤は、そのまま又は希釈するなどして使用することができ、口腔用組成物、医薬品、食品などの製剤、特に好適には口腔用組成物に配合して各種剤型に調製して使用可能であり、具体的に口腔用組成物としては、練歯磨、潤製歯磨、液体歯磨等の歯磨剤、洗口剤、ゲル剤、軟膏剤、口中清涼剤、うがい用錠剤、口腔用パスタ、ガム等の各種剤型に調製することができ、医薬品としては、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、内服液剤、シロップ剤、軟膏剤、ゲル剤、噴霧剤、坐剤などの剤型に調製できるもので、口腔内で適用して歯周病の予防又は治療をはかるものを包含する。
【0020】
ここで、アルジンジパイン阻害剤を各種製剤に配合する場合、その配合量は、使用者の症状や使用状況、製剤形態等に応じて適宜選択して調整されるが、医薬品の場合は下記の投与量を満たす範囲で調整することが望ましい。
【0021】
本発明阻害剤は、医薬品として用いる場合、その使用量は患者の症状、疾患の程度、投与スケジュール、製剤形態などにより適宜選択されるが、メシル酸ガベキサートの1日の投与量は体重1kg当たり0.01〜50mg、特に0.1〜20mgの範囲が望ましく、1日の投与量を数回に分けて投与してもよい。投与量が0.01mg未満では阻害効果が十分でない場合があり、50mgを超えると為害作用が懸念される。
【0022】
なお、アルジンジパイン阻害剤を希釈して使用する場合、溶媒としては、例えば、精製水、生理食塩水、ブドウ糖注射液、リンゲル液などの水系溶媒、プロピレングリコール、グリセリン、エタノールなどの非水系溶媒、あるいはこれらの混合液を用いることが出来る。
なお、希釈濃度は、使用者の病状や使用状況などに応じて適宣選択して調整されるが、製剤中におけるメシル酸ガベキサートの含有量が0.001〜5%(質量%、以下同様。)、特に0.01〜2%の範囲となるように調整することが望ましい。
【0023】
本発明阻害剤を口腔用組成物に配合する場合、メシル酸ガベキサートの組成物中における配合量が組成物全体の0.001〜5%、特に0.01〜2%となる範囲が好ましい。配合量が0.001%未満では配合効果が十分発揮されない場合があり、5%を超えると製剤の安定化が困難となる場合がある。
【0024】
また、本発明において、口腔用組成物における水溶性フッ素化合物の配合量は、組成物全体の0.005〜2%、特に0.01〜1%が好ましく、組成物中の含有量が前記範囲内となるように水溶性フッ素化合物の配合量を調整することが望ましい。水溶性フッ素化合物の配合量が0.005%未満ではメシル酸ガベキサートとの相乗効果が十分に発揮されず満足な阻害効果が得られない場合があり、2%を超えると組成物の安定性や味を劣化させる場合がある。
【0025】
本発明の口腔用組成物は、上記したようにメシル酸ガベキサートと水溶性フッ素化合物とを含有し、練歯磨、潤製歯磨、液体歯磨等の歯磨剤、洗口剤、ゲル剤、軟膏剤、口中清涼剤、うがい用錠剤、口腔用パスタ、ガム等の各種剤型に調製することができ、上記必須成分に加えて、その剤型に応じてその他の成分を本発明の効果を損ねない範囲で配合することができ、通常の方法で調製することができる。
【0026】
その他の成分としては、例えば歯磨類の場合には、各種研磨剤、湿潤剤、粘結剤、界面活性剤、甘味料、香料、着色剤、防腐剤、その他の有効成分などを、本発明の効果を妨げない範囲で通常量で用いることができる。
【0027】
研磨剤としては、沈降性シリカ、シリカゲル、アルミノシリケート、ゼオライト、ジルコノシリケート、第2リン酸カルシウム・2水和物及び無水物、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、不溶性メタリン酸カリウム、酸化チタン、ハイドロキシアパタイト、合成樹脂系研磨剤等が挙げられる(配合量;通常、組成物全体に対して5〜50%)。
【0028】
湿潤剤としては、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール等が挙げられる(配合量;通常、組成物全体に対して10〜50%)。
【0029】
粘結剤としては、カラギーナン、ヒドロキシエチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、キサンタンガム、タラガム、グアガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ゼラチン、カードラン、アラビアガム、寒天、ペクチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、プルラン等が挙げられる(配合量;通常、組成物全体に対して0.1〜5%)。
【0030】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、及びカチオン性界面活性剤、両性界面活性剤を配合し得る。アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸ナトリウム、N−ラウロイルサルコシンナトリウム、N−ミリストイルサルコシンナトリウム等のN−アシルサルコシンナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、水素添加ココナッツ脂肪酸モノグリセリドモノ硫酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、N−パルミトイルグルタミン酸ナトリウム等のN−アシルグルタミン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリンナトリウム、N−メチル−N−アシルアラニンナトリウム、α−オレフィンスルフォン酸ナトリウムなどが挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの糖アルコール脂肪酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などのエーテル型の界面活性剤、ラウリン酸ジエタノールアミド等の脂肪酸アルカノールアミド類が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、アルキルアンモニウム、アルキルベンジルアンモニウム塩等が挙げられる。両性の界面活性剤としては、酢酸ベタイン、イミダゾリニウムベタイン、レシチンなどが挙げられる(配合量;通常、組成物全体に対して0.5〜5%)。
【0031】
有効成分としては、上記メシル酸ガベキサートと水溶性フッ素化合物に加えて、例えば、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸等の抗プラスミン剤、グリチルリチン、グリチルリチン酸塩、アラントイン類等の抗炎症剤、アスコルビン酸塩、トコフェロールエステル等のビタミン類、デキストラナーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム等の酵素、オウバクエキス、オウゴンエキス、チョウジエキス等の生薬成分、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化デカリニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオール等の殺菌剤、塩化ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、オルソリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、乳酸アルミニウム、キトサン等の無機塩類や有機塩類などである。なお、これら有効成分の配合量は、本発明の効果を妨げない範囲で有効量とすることができる。
【0032】
甘味剤としては、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルヒドロカルコン、ペリラルチン等が挙げられる。着色剤としては、青色1号、黄色4号、二酸化チタン等が挙げられる。防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
香料としては、l−メントール、カルボン、アネトール、リモネン等のテルペン類又はその誘導体やペパーミント油等が挙げられる。
pH調整剤としては、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸などが挙げられる。
【0033】
なお、本発明のアルジンジパイン阻害剤を医薬品に配合する場合は、常法に従って任意成分として公知の医薬用無毒性担体と組み合わせて製剤化すればよい。食品に配合する場合は、通常使用される他の任意成分を配合して調製することができる。任意成分として具体的には、例えばクエン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸などのpH調整剤、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、アルミン酸マグネシウム、メタ珪酸アルミン酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウムなどの賦形剤、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、キサンタンガム等の粘結剤、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の湿潤剤、ラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤、サッカリン、ステビアエキス、アスパルテーム、水飴等の甘味剤、防腐剤、香料、着色剤、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸などの各種薬効成分等を配合することができる。
【実施例】
【0034】
以下に実験例、実施例及び比較例、配合例を挙げて更に具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の例において配合量はいずれも質量%である。
また、下記例においてメシル酸ガベキサート、フッ化カルシウム、フッ化アンモニウムとしては、いずれも和光純薬工業株式会社製、フッ化ナトリウムはステラケミファ株式会社製、モノフルオロリン酸ナトリウムはローディア日華株式会社製のものを用いた。
【0035】
〔実験例1〕
ポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)の培養上清よりアルジンジパインを下記方法で精製し、アルジンジパイン活性の阻害効果について下記方法で検討した。結果を表1に示す。
【0036】
1.アルジンジパイン精製方法
ライオン株式会社オーラルケア研究所において凍結保存してあったポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis) 33277株を、121℃で15分間オートクレーブした5μg/mLヘミン、1μg/mLメナジオン(いずれも和光純薬工業社製)添加トッドへーウィットブロース(THBHM培地*1)(日本べクトンディッキンソン社製)4Lで2日間、37℃で嫌気培養(80vol%窒素、10vol%二酸化炭素、10vol%水素)した。培養液を、10,000rpm、4℃で20分間遠心することで培養上清と菌とを分離し、培養上清4Lを得た。培養上清1Lに対し硫酸マグネシウム516gを溶解し、75%飽和硫酸マグネシウム培養上清とし、4℃で20時間撹拌することでアルジンジパインを含むタンパク質を塩析した。塩析により析出したタンパク質沈渣は、12,000rpmで20分間遠心することで回収し、100mLの10mmol/Lリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)に溶解し、同バッファーで3回、24時間、4℃で透析し、粗精製アルジンジパイン溶液を得た。
【0037】
50mLの粗精製アルジンジパイン溶液を、流速2mL/minでアフィニティークロマトグラム*2に展開し、アルジンジパインをカラムに保持させた。保持したアルジンジパインは、0から1mol/Lの塩化ナトリウム(和光純薬工業社製)を含む10mmol/Lリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)によりグラジエント溶出させた。溶出液は、2mLのフラクションで採取した。各フラクションのアルジンジパイン活性を測定*3することで活性のあるフラクションを混合し、塩化ナトリウムを除去するため、10mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)で3回、24時間、4℃で透析した。更に、この液を濃縮するため、分子量30,000を排除限界とする限外ろ過(マイクロコンY−30、ミリポア社製)を行った。
【0038】
限外ろ過により濃縮した上記アフィニティー精製アルジンジパイン溶液2mLをゲルろ過クロマトグラム*4に展開し、10mmol/Lリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)で溶出させた。溶出液は、2mLのフラクションで採取した。各フラクション溶液のアルジンジパイン活性を測定*3し、活性があるフラクション溶液を混合した。更に、この混合液を分子量30,000を排除限界とする限外ろ過キット(マイクロコンY−30、ミリポア社製)で、マニュアルに従い濃縮し、精製アルジンジパイン溶液を得た。精製アルジンジパイン溶液のタンパク質濃度は1.4mg/mLであった。なお、タンパク質濃度はBCA Protein Assay Kit(登録商標、ピアース バイオテクノロジー社製)により、マニュアルに従い測定した。
【0039】
*1 THBHM培地の組成:1リットル中の質量で表す。
トッドへーウィットブロース(日本べクトンディッキンソン社製): 30g
ヘミン(和光純薬工業社製): 5mg
ビタミンK(和光純薬工業社製): 1mg
蒸留水: 残
(全量が1Lになるようにメスアップ)
【0040】
*2アフィニティークロマトグラム
内径2.6cm×長さ20cmのカラムにアフィニティー単体(Arg−Sepharose 4B、アマシャムバイオサイエンス社製)を充填し、10mmol/Lリン酸ナトリウムバッファ−(pH6.0)で平衡化した。
【0041】
*3アルジンジパイン活性測定法
5mmol/Lシステインを含む20mmol/Lのリン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)を反応バッファー*5とし、フラクション液10μLと反応バッファーにより10μmol/Lに調製した基質(Bz−Arg−MCA:カルボベンゾキシ−L−フェニルアラニル−L−アルギニン−4−メチルクマリル−7−アミド、ペプチド研究所製)140μLを混合し、37℃で15分間反応させた。反応により生成したAMC(7−アミノ−4−メチルクマリン)の蛍光強度を励起波長390nm、測定波長460nmで測定(フルオロスキャン アセント、大日本製薬社製)し、アルジンジパインの活性とした。すなわち、蛍光強度が強いほどアルジンジパイン活性が高いことになる。
【0042】
*4ゲルろ過クロマトグラム
内径1.6cm×長さ40cmのカラムにゲルろ過単体(Sepharose S−300、アマシャムバイオサイエンス社製)を充填し、10mmol/Lリン酸ナトリウムバッファ−(pH6.0)で平衡化した。
【0043】
2.アルジンジパイン活性阻害効果の検討
(1)上記精製アルジンジパイン溶液を10mmol/Lリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)で14,000倍希釈した溶液10μL
(2)反応バッファー*5により20μmol/Lに調製した基質(Bz−Arg−MCA:カルボベンゾキシ−L−フェニルアラニル−L−アルギニン−4−メチルクマリル−7−アミド、ペプチド研究所製)60μL
(3)反応バッファー*5により最終濃度が表1に示すサンプル製剤組成となるように調製したサンプル溶液60μL
上記(1)〜(3)の溶液を混合し、37℃において15分間反応させた。反応により生成したAMC(7−アミノ−4−メチルクマリン)の蛍光強度を励起波長390nm、測定波長460nmで測定(フルオロスキャン アセント、大日本製薬社製)し、その蛍光強度からアルジンジパイン活性阻害率を求め、各サンプルの活性阻害の相乗効果(アルジンジパイン阻害活性向上率)を比較例1の効果(アルジンジパイン活性阻害率)を100としてこれとの比較効果を下記式により求め、評価した。下記に各計算式を示す。
【0044】
【数1】

【0045】
ここで、コントロールとは、メシル酸ガベキサート、ロイペプチン及びフッ素化合物を含有しない以外は上記と同様に(1)〜(3)を混合した溶液である。サンプルとは、表1に示す組成のサンプル製剤である。
【0046】
*5反応バッファー:100mL中の質量
L−システイン(シグマ アルドリッチ社製): 0.0788g
リン酸二水素ナトリウム二水和物(和光純薬工業社製): 0.312g
1N 水酸化ナトリウム(和光純薬工業社製): 適量(pH7.5に調整)
蒸留水: 残
(全量を100mLにメスアップ)
【0047】
【表1】

【0048】
表1から明らかなように、メシル酸ガベキサートがアルジンジパイン阻害効果を有し、アルジンジパイン阻害剤として知られているロイペプチンと水溶性フッ素化合物との併用系よりもアルジンジパイン阻害効果が高く、更に、その効果は、水溶性フッ素化合物との併用により相乗的に向上することがわかった。
【0049】
〔実験例2〕
生体でのアルジンジパイン阻害作用を確認するため、ビーグル犬の歯周病部位から採取した歯肉溝浸出液中のアルジンジパインに対する阻害効果を検討した。
【0050】
ビーグル犬(5歳齢、雌)の、歯肉炎が見られる下顎4部位(P3、P4、M1近心、M2遠心)を被検部位とし、表2に示す組成の洗口剤あるいは表3に示す組成のゲル製剤1mLをシリンジで被検部位に3時間毎に3回、滴下あるいは塗布した。処置前及び処置3時間後の歯肉溝浸出液(GCF)を、GCFコレクション ストリップス(ぺリオペーパー(登録商標)、ヨシダ社製)を各被験部位歯周ポケットに30秒間挿入することで採取した。GCFコレクション ストリップスからのGCFの抽出は、10mmol/Lリン酸ナトリウムバッファ−(pH6.0)100μLに浸漬することで行い、このGCF抽出液のアルジンジパイン活性を測定*6した。
試験薬剤処置前に対する処置後の単位GCF質量当たりのアルジンジパイン活性の比から、GCF中のアルジンジパイン阻害効果を下記式により求めた。なお、GCF採取量は、GCF採取前後のGCFコレクション ストリップスの質量差から求めた。
【0051】
アルジンジパイン阻害効果(%)={(A−B)/A}×100
A=(薬剤処置前のアルジンジパイン活性)/(薬剤処置前の採取GCF質量)
B=(薬剤処置後のアルジンジパイン活性)/(薬剤処置後の採取GCF質量)
【0052】
*6アルジンジパイン活性測定法
5mmol/Lシステインを含む20mmol/Lのリン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)を反応バッファー*5(上記と同様。)とし、GCF抽出液10μLと、反応バッファーにより10μmol/Lに調製した基質(Bz−Arg−MCA:カルボベンゾキシ−L−フェニルアラニル−L−アルギニン−4−メチルクマリル−7−アミド、ペプチド研究所製)140μLを混合し、37℃で15分間反応させた。反応により生成したAMC(7−アミノ−4−メチルクマリン)の蛍光強度を励起波長390nm、測定波長460nmで測定し(フルオロスキャン アセント、大日本製薬社製)、アルジンジパインの活性とした。すなわち、蛍光強度が強いほどアルジンジパイン活性が高いことになる。
【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
表2,3から明らかなように、メシル酸ガベキサートと水溶性フッ素化合物とを組合せて配合すると、生体においてもアルジンジパイン阻害効果が相乗的に向上しており、本発明の口腔用組成物は、アルジンジパインが病原因子となる歯周病の予防や治療に有効であることがわかった。
【0056】
下記組成の口腔用組成物を常法により調製し、上記と同様に評価したところ、アルジンジパイン阻害効果に優れるものであった。
【0057】
〔配合例1〕顆粒剤
メシル酸ガベキサート 0.1
チオ硫酸ナトリウム 1
フッ化ナトリウム 0.2
セルロース 31
乳糖 バランス
合計 100.0%
【0058】
〔配合例2〕軟膏剤
メシル酸ガベキサート 0.05
モノミリスチン酸グリセリル 5
クエン酸 0.1
フッ化ナトリウム 0.1
流動パラフィン 15
白色ワセリン バランス
合計 100.0%
【0059】
〔配合例3〕錠剤
メシル酸ガベキサート 1.0
フッ化ナトリウム 1.0
ラクトース 97
ステアリン酸マグネシウム 1.0
合計 100.0%
【0060】
〔配合例4〕ゲル剤
メシル酸ガベキサート 0.01
ヒロドキシエチルセルロース 1.5
ポリエチレングリコール4000 15
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.1
パラオキシ安息香酸エチル 0.03
水 バランス
合計 100.0%
【0061】
〔配合例5〕歯磨剤
リン酸カルシウム 25.0
無水ケイ酸 5.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.2
カルボキシメチルセルロース 0.8
カラゲナン 0.5
フッ化ナトリウム 0.2
メシル酸ガベキサート 0.05
ソルビトール 15.0
香料 1.0
水 バランス
合計 100.0%
【0062】
〔配合例6〕歯磨剤
無水ケイ酸 15.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
キサンタンガム 0.5
アルギン酸ナトリウム 0.5
サッカリンナトリウム 0.1
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.1
メシル酸ガベキサート 0.02
イプシロンアミノカプロン酸 0.05
ソルビトール 10.0
キシリトール 5.0
香料 1.0
水 バランス
合計 100.0%
【0063】
〔配合例7〕口腔用パスタ
セタノール 5.0
スクワラン 20.0
沈降性シリカ 5.0
ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油 0.1
ソルビタンモノオレイン酸エステル 1.0
ラウリル硫酸ナトリウム 0.2
サッカリンナトリウム 0.6
メシル酸ガベキサート 0.5
フッ化スズ 0.05
ソルビトール 10.0
香料 0.6
水 バランス
合計 100.0%
【0064】
〔配合例8〕洗口剤
エタノール 10.0
メシル酸ガベキサート 0.05
トラネキサム酸 0.05
フッ化ナトリウム 0.1
ソルビトール 5.0
キシリトール 5.0
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 0.5
サッカリンナトリウム 0.2
香料 0.8
水 バランス
合計 100.0%
【0065】
〔配合例9〕ガム
ガムベース 20.0
香料 1.0
水飴 20.0
粉糖 10.0
クエン酸3ナトリウム 1.5
メシル酸ガベキサート 0.1
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.5
ソルビトール 15.0
キシリトール 10.0
水 バランス
合計 100.0%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メシル酸ガベキサートと水溶性フッ素化合物とからなるアルジンジパイン阻害剤。
【請求項2】
メシル酸ガベキサートと水溶性フッ素化合物とを含有してなることを特徴とする口腔用組成物。

【公開番号】特開2008−150325(P2008−150325A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−340035(P2006−340035)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】