説明

アルミニウム箔用圧延油及びそれを用いたアルミニウム箔の製造方法

【課題】優れた圧延潤滑性を有し、ロールコーティングの形成や、切れの発生を抑制し、圧延油中のアルミニウム磨耗粉を増量させず、かつ磨耗粉分散性に優れ、アルミニウム表面を汚染することなく、高圧下圧延や高速圧延に適用可能であり、短時間の焼鈍によって十分脱脂可能なアルミニウム箔用圧延油及びそれを用いたアルミニウム箔の製造方法を提供すること。
【解決手段】アルミニウム箔を圧延するためのアルミニウム箔用圧延油である。添加剤として、多価アルコールの部分脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物を0.01〜2.0%含有する。油性剤として、特定の高級アルコールを0.1〜15%含有する。残部に、基油として、αオレフィン、鉱油の1種あるいは2種以上を含有する。アルミニウム箔用圧延油全体の動粘度が、1〜5cSt(at40℃)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム箔の圧延に用いるアルミニウム箔用圧延油及びそれを用いたアルミニウム箔の製造方法に関する。なお、本明細書中の「アルミニウム」は、アルミニウムを主体とする金属及び合金の総称であり、純アルミニウム及びアルミニウム合金を含む概念である。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム箔の圧延には、高級アルコール等の油性剤、数cStの鉱油を基油とした圧延油を用いることが一般的である。また、圧延潤滑性の厳しい条件では、オレイン酸等の高級脂肪酸を少量添加して対処している。
しかしながら、近年では、高生産性のほか、高品質化の要求がますます厳しくなり、それに対応するために、高速圧延や、高圧下圧延の実施、圧延材の洗浄条件の高度化等が実施されるようになってきている。
【0003】
また、アルミニウムの圧延では、アルミニウムとロールとの金属接触によりロール表面にロールコーティングと称するアルミニウムの凝着層が形成される。このロールコーティングの量あるいは性状によって、アルミニウムの表面品質や圧延性に大きく影響を及ぼすことが分かっている。
【0004】
一般に、高速圧延や高圧下圧延では、ロールコーティングが厚くなり、また、不均一なロールコーティングとなりやすく、板幅方向の潤滑性の不均一化により、圧延材の絞込み等による切れが発生しやすくなる。その結果、低速圧延に戻し高生産性が得られない場合が多い。
【0005】
そして、それらを回避するために、高級アルコールを増量したり、オレイン酸等の脂肪酸を添加してきた。しかし、それによって、臭気がきつくなり、作業環境が悪化するという問題がある。また、それだけでなく、脂肪酸を添加する場合は、脂肪酸石鹸を形成し、それがアルミニウム表面を汚染する。さらに、圧延後の焼鈍等で十分に脱脂されず、製品が不均一にエッチングされ易くなる。また、圧延油中のアルミニウム磨耗粉も増加する。
【0006】
そこで、これらの問題を解決するべく、上記高速圧延や、高圧下圧延に耐え得る潤滑油(特許文献1〜3)や、エーテル系の潤滑油添加剤(特許文献4)や、添加剤としてアルキルベンゼンを含有する金属加工用潤滑油組成物(特許文献5)や、二個の長鎖アルキル基又は長鎖アルケニル基を有する特定の化合物を添加剤として使用する軽金属用潤滑油剤(特許文献6)等が報告されている。しかしながら、これらの潤滑油や添加剤は、純アルミニウムでのロールコーティングは抑制されるものがあるが、アルミニウム表面の汚染や、焼鈍等でのオイルステイン等について、改良の余地がある。
【0007】
【特許文献1】特開2001−329287号公報
【特許文献2】特開2000−80390号公報
【特許文献3】特開2000−119679号公報
【特許文献4】特開2000−8068号公報
【特許文献5】特開2000−80389号公報
【特許文献6】特開平10−338894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、優れた圧延潤滑性を有し、ロールコーティングの形成や、切れの発生を抑制し、圧延油中のアルミニウム磨耗粉を増量させず、かつ磨耗粉分散性に優れ、アルミニウム表面を汚染することなく、高圧下圧延や高速圧延に適用可能であり、短時間の焼鈍によって十分脱脂可能なアルミニウム箔用圧延油及びそれを用いたアルミニウム箔の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、アルミニウム箔を圧延するためのアルミニウム箔用圧延油であって、
添加剤として、多価アルコールの部分脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物を0.01〜2.0%(質量%、以下同じ)含有し、
油性剤として、下記の一般式(1)に示す高級アルコールを0.1〜15%含有し、
残部に、基油として、αオレフィン、鉱油の1種あるいは2種以上を含有し、
上記アルミニウム箔用圧延油全体の動粘度が、1〜5cSt(at40℃)であることを特徴とするアルミニウム箔用圧延油にある(請求項1)。
【化4】

(但し、R1は、炭素数10〜16のアルキル基又はアルケニル基である。)
【0010】
本発明のアルミニウム箔用圧延油は、上述したように、添加剤として、多価アルコールの部分脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物を0.01〜2.0%含有する。
上記多価アルコールの部分脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物は、上記圧延油中に添加することによって、優れた加工性、磨耗粉発生抑制効果を効果的に付与するものである。
【0011】
また、油性剤として、上記一般式(1)に示す高級アルコールを0.1〜15%含有する。
上記高級アルコールは、脱脂され易い油性剤である。また、上記高級アルコールは、官能基の炭素数を限定することにより、臭気性や、境界潤滑性を低下させず、焼きつきを発生させることなく、高い潤滑性を付与することができる。
また、圧延加工前においては、アルミニウムの表面は酸化皮膜によって覆われている。そして、アルミニウム箔の圧延時には、アルミニウム箔の表面には、アルミニウムの活性な新生面が現れる。上記高級アルコールは、上記酸化皮膜や上記新生面に吸着して、良好な境界潤滑性を付与する。
【0012】
上記添加剤及び上記油性剤の含有量を上述の所定範囲内とし、残部に、基油として、αオレフィン、鉱油の1種あるいは2種以上を含有することにより、上記アルミニウム箔用圧延油の全体の動粘度を、アルミニウム箔の圧延に適した動粘度である、1〜5cSt(at40℃)に調整することができる。
【0013】
上述したように、本発明によれば、添加剤と、油性剤と、基油の成分を選定し、動粘度を調整することにより、上述した課題を一気に解消し、優れた圧延潤滑性を有し、ロールコーティングの形成や、切れの発生を抑制し、圧延油中のアルミニウム磨耗粉を増量させず、かつ磨耗粉分散性に優れ、アルミニウム表面を汚染することなく、高圧下圧延や高速圧延に適用可能であり、短時間の焼鈍によって十分脱脂可能なアルミニウム箔用圧延油を提供することができる。
【0014】
第2の発明は、アルミニウム板、ロール、あるいはロールバイト部に、第1の発明の上記アルミニウム箔用圧延油を供給し、圧延加工を施すことを特徴とするアルミニウム箔の製造方法にある(請求項4)。
【0015】
本発明のアルミニウム箔の製造方法は、アルミニウム箔の圧延において、第1の発明の上記アルミニウム箔用圧延油を用いる。これにより、優れた圧延潤滑性で、ロールコーティングの形成や、切れの発生を抑制し、圧延油中のアルミニウム磨耗粉を増量させず、かつ磨耗粉分散性に優れ、アルミニウム表面を汚染することなく、高圧下圧延や高速圧延を行うことができる。また、上記圧延油を短時間の焼鈍で十分脱脂することが可能であり、良好にアルミニウム箔を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
第1の発明は、上述したように、添加剤として、多価アルコールの部分脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物を0.01〜2.0%含有している。
上記多価アルコールの部分脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物の含有量が、0.01%未満の場合には、アルミニウム摩耗粉の発生を抑制する効果を得られないという問題があり、一方、上記含有量が2.0%を超える場合には、基油への溶解性(均一性)が悪化するという問題や、加工性が低下するという問題がある。
上記多価アルコールの部分脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、好ましくは、0.01〜1%、より好ましくは、0.01〜0.5%である。
【0017】
ここで、上記多価アルコールの部分脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物を構成する多価アルコールとしては、3〜6価のものが好適に使用される。具体的には、グリセリン、ポリグリセリン(例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトラオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アニドール、アラビトール、キシリトール、ズルシトール、アリトール、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース等が挙げられる。
また、上記多価アルコールとしては、アルミニウム磨耗粉発生抑制効果の観点から、特に、グリセリン、ソルビタンを用いることが好ましい。
【0018】
また、上記多価アルコールの部分脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物を構成する脂肪酸としては、直鎖飽和脂肪酸、分岐飽和脂肪酸、直鎖不飽和脂肪酸、分岐不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。
上記脂肪酸の炭素数としては、炭素数が16〜20であるものが好ましく、炭素数18であるものが特に好ましい。
【0019】
炭素数18の脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、イソステアリン酸等が挙げられる。
上記脂肪酸としては、アルミニウム磨耗粉発生抑制効果及び、基油への溶解性、圧延性向上の観点から、特に、オレイン酸を用いることが好ましい。
また、モノエステル、ジエステルでも使用することができるが、焼鈍特性の観点から、モノエステルを用いることが好ましい。
【0020】
また、上記多価アルコールの部分脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物を構成するアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられるが、アルミニウム磨耗粉発生抑制効果や、化合物の入手性の観点から、エチレンオキサイドであることが好ましい。
【0021】
また、上記アルキレンオキサイドとしては、1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
上記アルキレンオキサイドの付加量は、アルキレンオキサイド付加反応の仕込み比で、通常、1〜10モル、好ましくは1〜6モルである。
【0022】
上記アルキレンオキサイドの付加量が少なすぎると、アルミニウム磨耗粉発生抑制効果が小さい場合があり、付加量が多すぎると、基油への溶解性(均一性)が低下し、加工性が低下する場合がある。
また、上記アルキレンオキサイドは上記多価アルコールの一部の水酸基のみに付加させてもよいが、効果の観点から、全ての水酸基に付加させることが好ましい。
【0023】
また、上記アルミニウム箔用圧延油は、油性剤として、上記一般式(1)に示す高級アルコールを0.1〜15%含有している。
上記油性剤の含有量が0.1%未満の場合には、境界潤滑性に乏しく、圧延時に焼き付きが発生し、板面質が悪化するという問題があり、一方、上記油性剤の含有量が15%を超える場合には、性能に影響はないが、焼鈍時の脱脂性が悪化したり、コストが高くなるという問題がある。そのため、圧延潤滑性、環境等の観点から、上記高級アルコールの含有量は、より好ましくは、3〜10%である。
【0024】
上記高級アルコールの上記R1は、直鎖ものもでも分鎖のものでもよい。
上記高級アルコールの、上記R1の炭素数が9以下の場合には、臭いがきつくなり、作業環境を悪化させるほか、境界潤滑性に乏しく、圧延時に焼きつきが発生し、板面質が悪化するという問題がある。一方、上記R1の炭素数が17以上の場合には、冬期に固まり易くなり、取り扱いが困難になるという問題がある。また、この場合には、残油量が増加するおそれがある。そのため、乾燥性、作業性の観点から、上記高級脂肪酸エステルの上記R1の炭素数は12であることがより好ましい。
【0025】
上記高級アルコールとしては、具体的には、例えば、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール等が挙げられる。また、これらのうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
上記油性剤としては、特に、ラウリルアルコールを3〜10%含有することが好ましい。
【0026】
また、残部に、基油として、αオレフィン、鉱油の1種あるいは2種以上を含有している。
上記αオレフィンは、分子の末端に二重結合を有し、アルミニウム箔の圧延時に、アルミニウム表面に化学吸着し易いため、油性剤の機能も有している。
また、上記αオレフィンは、比較的粘度が低いため、厳しい圧延潤滑性が要求され、かつ、オイルピットを嫌われる場合に使用することが好ましい。
一般に、アルミニウム箔の圧延時には、アルミニウムの活発な新生面が現れる。α−オレフィンは、主にこの新生面に吸着して油性剤としての役割を果たし、上記アルミニウム箔用圧延油の潤滑性を向上することができる。
【0027】
また、上記鉱油としては、パラフィン系、ナフテン系のいずれを用いてもよく、アロマ成分の含有量も規定するものではないが、環境の観点から、アロマ成分が2%以下のものを使用することが好ましい。
【0028】
また、上記アルミニウム箔用圧延油全体の動粘度は1〜5cSt(at40℃)である。
上記動粘度が1cSt未満の場合には、ロールバイト内への圧延油量が少なくなり、潤滑不良を引き起こし、板表面品質に悪影響を及ぼすという問題や、引火による火災の危険性があり、一方、上記動粘度が5cStを超える場合には、圧延時にスリップが発生したり、オイルピットが発生しやすくなり、表面の品質を劣化させる危険性があるほか、圧延後にオイルステインが発生しやすくなるという問題がある。
【0029】
上記アルミニウム箔用圧延油の粘度調整は、添加成分及び添加量によって、基油の粘度で調整する。また、上記基油は、鉱油とαオレフィンの混合であっても良い。よって、使用する基油粘度を限定するものではない。
【0030】
上記動粘度は、JIS K 2283の「原油及び石油製品の動粘度試験方法」に準拠して40℃における動粘度を測定し、測定器具としては、JIS K 2839の「石油類試験用ガラス器具」のキャノン−フェンスケ粘度計を用いて測定することができる。
また、上記基油の含有量は、基本的に、上記添加剤の含有量が確保できる、且つ、動粘度が上記特定の値となる範囲とし、潤滑不足を防ぎ、適正な成形性を確保する。
【0031】
なお、添加剤として、多価アルコールの部分脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物及び、油性剤として、高級アルコールのみを含有する場合、上記基油の合計含有量は、93〜99.89%の範囲となる。しかし、後述する添加剤をさらに加えた場合には、添加剤の含有量に応じて、添加剤と基油との合計が100%となるように、基油の合計含有量が変化する。
【0032】
また、本発明のアルミニウム箔用圧延油は、上記基油と添加剤と油性剤とにより100%になるものであるが、実使用に際して、上述の優れた効果を安定的に操業するために、上記100%の外に、必要に応じて、酸化防止剤、錆止め剤、腐食防止剤、消泡剤等の一種又は二種以上をさらに添加することも勿論可能である。
【0033】
上記酸化防止剤としては、DBPC(2,6−ジターシャリーブチル−P−クレゾール)等のフェノール系化合物、フェニル−α−ナフチルアミン等の芳香族アミン、ソルビタンモノオレート等の多価アルコールの部分エステル、リン酸エステル及びその誘導体等が挙げられる。
【0034】
また、上記錆止め剤としては、例えば、ジノニルナフタレンスルホン酸バリウム等が挙げられる。
上記腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
上記消泡剤としては、例えば、シリコン系のものが挙げられる。
【0035】
上記アルミニウム箔用圧延油は、第2添加剤として、更に、下記の一般式(2)に示す高級脂肪酸エステルを0.1〜15%含有することが好ましい(請求項2)。
【化5】

(但し、R2は、炭素数11〜17のアルキル基又はアルケニル基であり、R3は、炭素数1〜4のアルキル基又はアルケニル基である。)
【0036】
この場合には、上記アルミニウム箔用潤滑油の潤滑性をより向上することができる。
また、圧延加工前においては、アルミニウムの表面は酸化皮膜によって覆われている。そして、アルミニウム箔の圧延時には、アルミニウム箔の表面には、アルミニウムの活性な新生面が現れる。上記高級脂肪酸エステルは、上記酸化皮膜や上記新生面に吸着して、良好な境界潤滑性を付与する。
【0037】
上記第2添加剤の含有量が0.1%未満の場合には、境界潤滑性が劣り、焼き付きが発生し、板表面に傷がつくおそれがあり、一方、上記第2添加剤の含有量が15%を超える場合には、後工程での焼鈍で、オイルステインが発生し易くなるおそれがある。
【0038】
上記高級脂肪酸エステルの上記R2の炭素数が10以下の場合には、潤滑性不良、アルミニウム粉凝着にロールコーティングの増加、及び、臭気がきつく、作業環境を悪化させるおそれがあり、一方、上記R2の炭素数が18以上の場合には、乾燥性が悪化し、かつ融点が高くなり、常温で固化しやすくなり、作業性が悪化するおそれがある。そのため、乾燥性、作業性の観点から、上記高級脂肪酸エステルの上記R2の炭素数は7〜17であることがより好ましい。
【0039】
上記高級脂肪酸エステルの上記R3の炭素数が5以上の場合には、乾燥性が悪化し、かつ融点が高くなり、常温で固化しやすくなるために、加熱設備の追加が必要となり作業性が悪化するおそれがある。
【0040】
また、上記高級脂肪酸エステルとしては、例えば、カプリル酸メチル、カプリル酸エチル、カプリル酸プロピル、カプリル酸ブチル、ペラルゴン酸メチル、ペラルゴン酸エチル、ペラルゴン酸プロピル、ペラルゴン酸ブチル、カプリン酸メチル、カプリン酸エチル、カプリン酸プロピル、カプリン酸ブチル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸プロピル、ラウリン酸ブチル、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸プロピル、ミリスチン酸ブチル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸プロピル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸プロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸プロピル、オレイン酸ブチル等が挙げられる。
【0041】
また、上記αオレフィンは、下記の一般式(3)で表されることが好ましい(請求項3)。
【化6】

(但し、n=9〜15である。)
【0042】
上記αオレフィンは、一般には、全炭素数が多いほど、潤滑性は良好となる傾向がある。上記αオレフィンは、nが8以下の場合には、潤滑性に乏しくなるおそれがあり、一方、上記nが16以上である場合には、冬期に固まり易くなり、取り扱いが困難になるおそれがある。このことから、上記αオレフィンの全炭素数は、14〜18であることがより好ましい。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
本例は、本発明のアルミニウム箔用圧延油にかかる実施例及び比較例について説明する。
本例では、本発明の実施例として、表1に示す組成を有するアルミニウム箔用圧延油(試料E1〜試料E13)を作製し、また、本発明の比較例として、表2に示す組成を有するアルミニウム箔用圧延油(試料C1〜試料C5)を作製した。表1及び表2において、各成分の数値単位は、組成物全量基準で質量%を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
表1及び表2の記号を説明する。
A1:粘度1.6mm2/s(at40℃)の鉱油、
A2:直鎖オレフィン(1−ヘキサデセンと1−オクタデセンの等量混合物)、
A3:粘度40mm2/s(at40℃)の鉱油、
B1:モノオレイン酸ポリオキシエチレングリセリンのエチレンオキサイド2モル付加物、
B2:モノオレイン酸ポリオキシエチレングリセリンのエチレンオキサイド5モル付加物、
B3:モノイソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリンのエチレンオキサイド3モル付加物、
B4:モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンのエチレンオキサイド6モル付加物、
D1:ラウリルアルコール、
D2:オレイルアルコール、
D3:ステアリン酸ブチル、
D4:オレイン酸。
【0047】
次に、作製したアルミニウム箔用圧延油について、ロールコーティング量、付着磨耗粉洗浄性、焼鈍性を評価した。結果を表3及び表4に示す。
まず、圧延試験を行った。
圧延材料として、高純度アルミニウム箔材(アルミニウム分99.99%、幅60mm、厚み0.1mm)を準備した。
可逆式4段圧延機を用い、圧下率50%、前方張力10kgf、後方張力20kgf、圧延速度50m/min、圧延距離250mという厳しい条件で、上記圧延材料の圧延を行い、アルミニウム箔を製造した。
【0048】
<ロールコーティング量>
圧延後のワークロール表面に付着しているロールコーティングを水酸化ナトリウム水溶液によって溶解し、脱脂綿で回収した。脱脂綿中のアルミニウム溶解液を純水で抽出し、原子吸光法によりアルミニウム量を定量し、ロールコーティング量を評価した。評価が○の場合を合格、評価が×の場合を不合格とした。
【0049】
(評価基準)
○:アルミニウム量が20mg/m2以下の場合。
×:アルミニウム量が20mg/m2を超える場合。
【0050】
<付着磨耗粉洗浄性>
付着磨耗粉洗浄性は、テープテストを行うことにより評価した。圧延後のアルミニウム箔表面にセロハンテープを粘着し、付着摩耗粉を採取した。これを白色紙に貼り付けて、摩耗粉による汚れの度合いを目視判定することにより、アルミニウム箔表面の付着磨耗粉洗浄性を評価した。評価が○の場合を合格、評価が×の場合を不合格とする。
【0051】
(評価基準)
○:セロハンテープに黒化が明瞭に認められない場合。
×:セロハンテープが明瞭に黒化する場合。
【0052】
<焼鈍性>
2枚の高純度アルミニウム箔(アルミニウム分99.99%、100mm角、7μm厚)を準備した。2枚の高純度アルミニウム箔の間に2μLの供試油を滴下し、2kgのおもりを載せ、焼鈍温度185℃で10時間保持した。冷却後のアルミニウム箔を純水で濡らし、目視にて水濡れ性を観察し、焼鈍性を評価した。評価が○の場合を合格、評価が×の場合を不合格とする。
【0053】
(評価基準)
○:焼鈍後のアルミニウム箔の全面が水に濡れる場合。
×:焼鈍後のアルミニウム箔の全面が水に濡れない場合。
【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
表3より知られるごとく、本発明の実施例としての試料E1〜試料E13は、ロールコーティング量、付着磨耗粉洗浄性、焼鈍性のいずれの項目においても、良好な結果を示した。
これにより、本発明によれば、優れた圧延潤滑性を有し、ロールコーティングの形成や、切れの発生を抑制し、圧延油中のアルミニウム磨耗粉を増量させず、かつ磨耗粉分散性に優れ、アルミニウム表面を汚染することなく、高圧下圧延や高速圧延に適用可能であり、短時間の焼鈍によって十分脱脂可能なアルミニウム箔用圧延油であることが分かる。
【0057】
また、表4より知られるごとく、本発明の比較例としての試料C1は、圧延油の動粘度が本発明の上限を上回るため、圧延後にオイルステインが発生しやすくなるという理由により、焼鈍性が不合格であった。
また、本発明の比較例としての試料C2は、油性剤を含有しておらず、ロールバイト内への圧延油量が少なくなり、潤滑不良を引き起こすため、コーティング量が不合格であった。
【0058】
また、本発明の比較例としての試料C3は、油性剤の含有量が本発明の上限を上回るため、焼鈍時の脱脂性が悪化するという理由により、焼鈍性が不合格であった。
また、本発明の比較例としての試料C4は、油性剤の炭素数が本発明の上限を上回るため、残油量が増加するという理由により、焼鈍性が不合格であった。
また、本発明の比較例としての試料C5は、油性剤として、アルコールではなく脂肪酸を含有しているため、脂肪酸石鹸を形成し、それがアルミニウム表面を汚染したり、圧延油中のアルミニウム磨耗粉も増加するという理由により、付着磨耗粉洗浄性が不合格であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔を圧延するためのアルミニウム箔用圧延油であって、
添加剤として、多価アルコールの部分脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物を0.01〜2.0%(質量%、以下同じ)含有し、
油性剤として、下記の一般式(1)に示す高級アルコールを0.1〜15%含有し、
残部に、基油として、αオレフィン、鉱油の1種あるいは2種以上を含有し、
上記アルミニウム箔用圧延油全体の動粘度が、1〜5cSt(at40℃)であることを特徴とするアルミニウム箔用圧延油。
【化1】

(但し、R1は、炭素数10〜16のアルキル基又はアルケニル基である。)
【請求項2】
請求項1において、第2添加剤として、更に、下記の一般式(2)に示す高級脂肪酸エステルを0.1〜15%含有することを特徴とするアルミニウム箔用圧延油。
【化2】

(但し、R2は、炭素数11〜17のアルキル基又はアルケニル基であり、R3は、炭素数1〜4のアルキル基又はアルケニル基である。)
【請求項3】
請求項1又は2において、上記、αオレフィンは、下記の一般式(3)で表されることを特徴とするアルミニウム箔用圧延油。
【化3】

(但し、n=9〜15である。)
【請求項4】
アルミニウム板、ロール、あるいはロールバイト部に、請求項1〜3のいずれか一項に記載の上記アルミニウム箔用圧延油を供給し、圧延加工を施すことを特徴とするアルミニウム箔の製造方法。

【公開番号】特開2008−189771(P2008−189771A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24564(P2007−24564)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】