説明

アルミニウム缶の製造方法および該方法で製造されたアルミニウム缶

【課題】有底円筒体を化成処理後工業用水で水洗し、イオン交換水で水洗した後、乾燥させる水洗・乾燥工程で、内面ボトム部中央のブラウンスポット発生の防止と、ネック・フランジ加工時にジルコニウム皮膜が凝集破壊の発生しないアルミニウム缶製造の相反する要求を同時に解決したアルミニウム缶製造工程の確立と、現行のアルミニウム缶製造工程ラインを少ない変更で使用可能とする方法の提供。
【解決手段】アルミニウム缶用有底円筒状の金属素地に化成皮膜を形成する際、化成処理工程で内面側を処理せず、外面側のみに化成皮膜を形成させ、化成処理後の水洗において、通常の水洗工程に続いてイオン交換水と調整水とを混合して電気伝導度を9〜20μS/cmとしたリンス水で5〜50℃で水洗する内面側に化成皮膜がないアルミニウム缶の製造方法および内面化成皮膜を有していないアルミニウム缶。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム缶用有底円筒状の金属素地[以下、単に「有底円筒体」と略記する。]に化成皮膜を施す際、化成処理後の水洗工程で、電気伝導度が9〜20μS/cmのリンス水で水洗することによって、ボトム内面のアルミニウム酸化物の生成が抑制され、当該部分の変色を防止するための化成皮膜が不用となるアルミニウム缶の新規な製造方法及び該方法によって製造されたアルミニウム缶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のアルミニウム缶では、DI加工(しぼり・しごき加工)した後、付着油を脱脂し、ジルコニウム系化成液を内外面にスプレーして、ジルコニウム系化成皮膜の下地処理を行うことが広く行われている(例えば特許文献1〜3参照)。
化成液の組成は、一般的にフルオロジルコニウム酸アンモニウム、ふっ化水素酸とリン酸及び過酸化水素が含まれている。この様にして調製された化成液で処理された化成皮膜は、アルミニウム表面の耐食性を高め、殺菌処理などの温水接触による黒変を防止し、塗料との密着性を改善し且つ加工成形性を低下させるとしても表面硬度を高めるため表面処理としては極めて有効である。
【0003】
特に、アルミニウム缶に内容物を充填する時あるいは水道水による高温殺菌時、耐食性が乏しいと水道水の成分によりアルミニウムが酸化して、缶底外面は外観が黒く変色する、所謂黒変が発生することがある。
内面側についても、ジルコニウム系化成皮膜の下地処理を全く行わないと、化成処理後、工業用水(水道水又はリンス水として使用済みの水等を含む)で水洗し、イオン交換水で水洗して水を乾燥させる水洗・乾燥工程で、内面ボトム部中央が褐変し、所謂ブラウンスポットが発生する。ブラウンスポットがあると、褐変しない部分のアルミ地との色調差がでるため、内面検査工程で異物が存在すると認識され、不良缶として排除されることになる。そのため従来の化成処理工程では、内面側も化成液をスプレーして、ジルコニウム系化成皮膜の下地処理を行うことにより、化成処理後の水洗・乾燥工程での変色を防止している。
【0004】
内面側は、アルミニウム素地に内面塗装を行なうため、その後内容物を充填し高温殺菌するときにはアルミニウム地が変色することは無い。また摩擦することがないので表面硬度の問題を考慮する必要がなく、内面塗料とアルミ地との密着性を考慮すれば良いので、通常、アルミニウム缶のジルコニウム皮膜量は、外面側は9〜16mg/mになるように処理し、内面側は5〜12mg/mと少なくなるように処理されている。
内面側は、外面側よりもジルコニウム皮膜量を少なくしているが、ジルコニウム皮膜量が多いときは、ネック・フランジ加工時に硬度の高い(脆性のある)ジルコニウム皮膜が凝集破壊され内面塗膜の密着性が悪くなる。
特に、スポーツドリンク、ワイン等腐食性が強い内容物を充填する場合、ジルコニウム皮膜が破壊されたときはネック部が腐食しやすい。
【0005】
化成処理後の水洗・乾燥工程で内面ボトム部中央にブラウンスポットが発生しない方法については、化成皮膜を厚く塗布できれば解決されることが知られていたが、内面塗料とアルミ地との密着性を考慮して、ジルコニウム皮膜量を少なくしている。ジルコニウム皮膜量が多い場合、ネック・フランジ加工時にジルコニウム皮膜が凝集破壊され内面塗膜の密着性が悪くなる。
従って、従来のジルコニウム皮膜量では、ブラウンスポット発生の防止とジルコニウム系皮膜の凝集破壊の防止は相反する要求であるが、この要求に応えることが出来る化成処理後の水洗・乾燥工程で、内面ボトム部中央にブラウンスポットが発生しない方法の確立が必要であった。
【0006】
【特許文献1】特開平07−256373号公報
【特許文献2】特開平08−099139号公報
【特許文献3】特開2002−102969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の有底円筒体を化成処理後工業用水で水洗し、イオン交換水で水洗した後、乾燥させる水洗・乾燥工程で課題となる、内面ボトム部中央のブラウンスポット発生の防止と、ネック・フランジ加工時にジルコニウム皮膜が凝集破壊の発生しないアルミニウム缶製造の相反する要求を同時に解決したアルミニウム缶製造工程の確立と、この改善が出来る限り現行のアルミニウム缶製造工程ラインを少ない変更で使用可能とする方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ブラウンスポット発生の防止とネック・フランジ加工時のジルコニウム皮膜の凝集破壊を防ぐために、有底円筒体の化成処理工程で外面側のみ化成液をスプレーし化成処理を行い、内面側は化成処理を行わず、化成処理後の水洗で、通常の缶内・外面の水洗工程に続いて、電気伝導度が9〜20μS/cmのリンス水で缶内・外面を水洗することによって、ボトム内面のアルミニウム酸化物の生成を抑制し、当該部分の変色を防止する方法である。
【0009】
即ち本発明は、
[1] アルミニウム缶用有底円筒状の金属素地に化成皮膜を形成する際、化成処理工程で内面側を処理せず、外面側のみに化成皮膜を形成させ、化成処理後の水洗において、通常の水洗工程に続いて電気伝導度が9〜20μS/cmのリンス水で水洗することを特徴とする内面側に化成皮膜がないアルミニウム缶の製造方法、
[2] リンス水がイオン交換水と水道水(調整水)とを混合して電気伝導度を9〜20μS/cmに調整したリンス水である上記[1]に記載の内面側に化成皮膜がないアルミニウム缶の製造方法、
[3] 電気伝導度が9〜20μS/cmのリンス水での洗浄を、5〜50℃で行う上記[1]または[2]に記載の内面側に化成皮膜がないアルミニウム缶の製造方法、
[4] 化成処理が、フルオロジルコニウム酸アンモニウム、ふっ化水素酸、リン酸を含み、ジルコニウムの濃度として20〜50ppmの化成液であり、20〜50℃、10〜25秒間処理する上記[1]〜[3]のいずれかに記載の内面側に化成皮膜がないアルミニウム缶の製造方法、
【0010】
[5] アルミニウム缶用有底円筒状の金属素地に化成皮膜を形成する際、外面側にのみ化成皮膜が施され、化成処理後の水洗工程において、通常の水洗工程に続いて電気伝導度が9〜20μS/cmのリンス水で水洗した、内面化成皮膜を有していないアルミニウム缶を開発することにより上記の目的を達成した。
【発明の効果】
【0011】
アルミニウム缶内面側を、ジルコニウム系皮膜で変色防止するのではなく、理由はまだ解明出来ていないが、外側面のみを化成処理した後、缶内・外面を通常の水洗工程に続いて、電気伝導度が9〜20μS/cmのリンス水で缶内・外面を水洗することにより、水洗・乾燥工程で、内面ボトム部中央にブラウンスポットの発生を防止することができることを見出した。
このため、化成処理においては、内側面に化成皮膜を設けないので、ネック・フランジ加工における内側面の化成皮膜の凝集破壊の問題を完全に解消しており、本発明の有底円筒体の縮径加工性は飛躍的に向上している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下図1を参照して本発明のアルミニウム缶製造工程ライン(概略図)及び洗浄(脱脂・化成)工程を示すが、工程の若干の前後の変更は本発明の主旨を変更しない限り可能である。
【0013】
即ち、アルミニウム缶は、コイル状に巻かれた潤滑油を塗布したアルミニウム合金板から円形のブランクを打ち抜き、これをプレスなどでカップを成形し、さらにドローイング・アイアニング加工(DI加工)により有底円筒体とする。
DI加工後、洗浄により有底円筒体内外面の加工のために塗布した潤滑油を除去し、次いで本発明においては図2に示すように、ベルトコンベア1に倒立状態にセットした有底円筒体2の内面を化成処理せず、外面のみを化成処理して化成皮膜を有底円筒成形体2の外表面に形成させ、さらに缶内・外面を通常の水洗工程に続いて、図3に示すように、電気伝導度が9〜20μS/cmのリンス水10で缶内・外面を洗浄乾燥する点にある。その後一般的な製造法と同様に外面印刷クリア塗装、その焼付工程、内面塗装、その焼付工程、ネッキング加工工程、フランジ加工工程を経て、アルミニウム缶(フタ部分は別途製造する。)製品とする。
【0014】
化成処理は化学反応であるため、使用する化成液7としては、一般的に使用されているフルオロジルコニウム酸アンモニウム、ふっ化水素酸とリン酸及び過酸化水素からなるものであってよい。化成皮膜の厚さを制御するためには成分の濃度、反応時間、反応温度等を調整する必要がある。化成液の組成は、フルオロジルコニウム酸アンモニウムとふっ化水素酸とリン酸が含まれており、上記の要件を勘案してジルコニウムの濃度として20〜50ppm程度を用い、20〜50℃、10〜25秒程度、好ましくは約40℃の化成液7を、14〜18秒位の処理を行う。化成液7はスプレーして処理するのが普通である。この結果有底円筒体2の外面に不溶性のリン酸ジルコニウム皮膜を形成し、これが塗膜との密着性、内容物充填後の殺菌処理後の変色を防ぐ働きをする。
【0015】
内面側はこのようなジルコニウム皮膜は必要としない。
通常の水洗工程(リンス工程として使用済みの水でも可)に続いてのリンス水洗工程で用いるリンス水8は、電気伝導度が9〜20μS/cm、好ましくは10〜15μS/cmになっていれば良く、通常はイオン交換水(脱イオン水)と調整水、例えば水道水を混合して調整すればよい。この様な電気伝導度を有する水で水洗し、有底円筒体を乾燥するとき、驚くべきことに有底円筒体2のボトム内面のアルミニウム酸化物の生成を抑制し、変色を防ぐ働きをする。
【0016】
リンス水8による洗浄は、毎分約1800缶程度の速度で走行するベルトコンベア1のリンス工程の有底円筒体2に対して、約500リットル/分の割合のリンス水8をスプレーして洗浄を行う。洗浄時間としては約12〜15秒 とすることで目的を達成出来る。リンス水8の温度は、5〜50℃、好ましくは5〜20℃の常温でよい。リンスが終了した有底円筒体2は、乾燥温度約200℃、滞留時間2〜3分の乾燥炉10で乾燥されるが、ブラウンスポットはおこらない。これらの乾燥した有底円筒体2は、図示していないが次の縮径工程に送られ、引き続いてアルミニウム缶に成形される。
【実施例】
【0017】
[実験例1〜10]
本発明では、缶外面側だけジルコニウム系化成処理を行った缶の缶内・外面を、通常の洗浄工程につづき表1に記載したリンス水で水洗した。リンス水の電気伝導度、乾燥後のブラウンスポット発生状況、レトルト処理後の内面塗膜密着性(碁盤テープ法)を表1に示す。
リンス水は、電気伝導度2μS/cmのイオン交換水と電気伝導度162μS/cmの水道水を調整水として混合して作成した。水道水中には塩化物イオン5ppm、硝酸イオン0.4ppm、硫酸イオン1.5ppm、珪素20ppm、ナトリウム6ppm、カリウム3ppm、カルシウム12ppm、マグネシウム5ppmを含むものであった。
缶外面側だけを化成処理した有底円筒体を、通常の洗浄工程につづき、電気伝導度を調整したリンス水で水洗し、乾燥後、缶内面にブラウンスポットが発生するか目視観察した。缶水洗・乾燥後、リンス水残さ物が缶ボトム内面中央部に残るため、内面塗装・焼き付け後、内面塗膜の密着性を測定した。
【0018】
【表1】

【0019】
調整水中に含まれる雑イオンによりブラウンスポット発生を抑制する効果が認められるのは、リンス水の電気伝導度が9μS/cm以上であることがわかる。また、レトルト処理後の内面塗膜密着性が良好であるのは、リンス水の電気伝導度が20μS/cm以下であることがわかる。
実験の結果、ブラウンスポット発生抑制と内面塗膜密着性の両方を満足する範囲は、電気伝導度が9〜20μS/cmの範囲のリンス水で水洗すると良いことが分かった。
このリンス水は、電気伝導度2μS/cmのイオン交換水と電気伝導度162μS/cmの調整水であれば、95/5〜88/12の範囲で混合することで、9〜20μS/cmの範囲の電気伝導度のリンス水を得ることができる。
【0020】
缶外面側だけジルコニウム化成処理を行い、缶の両面を工業用水(リンス水として使用済みの水洗水貯槽12からのオーバーフロー水)で洗浄した後、電気伝導度が11μS/cmのリンス水で水洗し、内面塗装・焼き付けた製品缶について、内容物を充填して保存試験を行った。結果を表2に示す。37℃、6ヶ月保存後の内面塗膜の腐食状態(外観)は、白ワイン、スポーツドリンクで、従来の化成処理/内面塗装の缶(内外面化成処理缶)よりも良好である。
缶内面側を化成処理しなくても、電気伝導度9〜20μS/cmのリンス水(イオン交換水と調整水の混合物)を使用することで、ブラウンスポットが発生せず、内面塗膜密着性が良好であるアルミニウム缶を作成できる。且つ、内容物の耐食性が良好となる。
【0021】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、従来問題となっていた内面ボトム部中央のブラウンスポット発生の防止と、ネック・フランジ加工時にジルコニウム皮膜が凝集破壊の発生しないアルミニウム缶製造という相反する要求を、現行のアルミニウム缶製造工程ラインを、外側面のみを化成処理した後、缶内・外面を通常の水洗工程に続いて、電気伝導度が9〜20μS/cmのリンス水で缶内・外面を水洗するという、アルミニウム缶製造工程ラインを、極めて簡単で、少ない変更でもって達成したものである。
この結果、有底円筒体内面にはジルコニウム皮膜がないために、内面塗装との密着性が優れるだけでなく、大きな変形を伴うネック・フランジ加工が容易になったという効果がもたらされたもので、この結果アルミニウム缶製造方法としては有底円筒体の縮径加工性は飛躍的に向上できた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】アルミニウム缶製造ラインにおける脱脂洗浄・化成処理工程のフローシート(洗浄(脱脂・化成)工程)
【図2】化成処理工程の概略図
【図3】本発明の電気伝導度9〜20μS/cmリンス水水洗工程概略図
【符号の説明】
【0024】
1 ベルトコンベア
2 アルミニウム有底円筒体(倒立)
3 化成液用スプレーノズル
4 ブロワー
5 水洗水ノズル
6 化成液循環ポンプ
7 化成液(貯槽)
8 電気伝導度9〜20μS/cmリンス水(槽)
9 水洗水ベント
10 乾燥炉
11 電気伝導度9〜20μS/cmリンス水供給ポンプ
12 リンス水(貯槽)
13 電気伝導度9〜20μS/cmリンス水スプレーノズル
14 水洗水タンク
15 水洗水循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム缶用有底円筒状の金属素地に化成皮膜を形成する際、化成処理工程で内面側を処理せず、外面側のみに化成皮膜を形成させ、化成処理後の水洗において、通常の水洗工程に続いて電気伝導度が9〜20μS/cmのリンス水で水洗することを特徴とする内面側に化成皮膜がないアルミニウム缶の製造方法。
【請求項2】
リンス水がイオン交換水と調整水とを混合して電気伝導度を9〜20μS/cmに調整したリンス水である請求項1に記載の内面側に化成皮膜がないアルミニウム缶の製造方法。
【請求項3】
電気伝導度が9〜20μS/cmのリンス水での洗浄を、5〜50℃で行う請求項1または2に記載の内面側に化成皮膜がないアルミニウム缶の製造方法。
【請求項4】
化成処理が、フルオロジルコニウム酸アンモニウム、ふっ化水素酸、リン酸を含み、ジルコニウムの濃度として20〜50ppmの化成液であり、20〜50℃、10〜25秒間処理する請求項1〜3のいずれか1項に記載の内面側に化成皮膜がないアルミニウム缶の製造方法。
【請求項5】
アルミニウム缶用有底円筒状の金属素地に化成皮膜を形成する際、外面側にのみ化成皮膜が施され、化成処理後の水洗工程において、通常の水洗工程に続いて電気伝導度が9〜20μS/cmのリンス水で水洗した、内面化成皮膜を有していないアルミニウム缶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−113097(P2007−113097A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308256(P2005−308256)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000186854)昭和アルミニウム缶株式会社 (155)
【Fターム(参考)】