説明

アルミホイールの製造方法、及びアルミホイール

【課題】高耐食性及び塗膜との高密着性を有するアルミホイールの製造方法、及びアルミホイールを実現する。
【解決手段】本発明のアルミホイールの製造方法は、アルミニウム基材又はアルミニウム合金基材を成型してなるアルミホイールの表面から、物理的手段及び/又は化学的手段により離型剤を除去する離型剤除去工程と、上記離型剤除去工程後に、0.5g/L以上10g/L以下の金属イオンと、10g/L以上100g/L以下の硝酸とを含む酸性溶液によって洗浄する酸洗工程とを含み、上記酸洗工程における上記金属イオンは、Fe3+イオン、Ni2+イオン、Co2+イオン、Mo6+イオン、及びCe4+イオンからなる群より選択される少なくとも1種の金属イオンを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミホイールの製造方法、及びアルミホイールに関するものであって、特に、高耐食性及び塗膜との高密着性を有するアルミホイールの製造方法、及びアルミホイールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム基材やアルミニウム合金基材は、素材自体に光輝性があり、軽量であるため、これらの特性を活かして、さまざまな分野で利用が拡大している。例えば、自動車のホイールは、鉄製のものが主流であったが、自動車の高級化、軽量化が要求されるようになってから、アルミニウム合金基材からなるアルミホイールの需要が高まっている。
【0003】
アルミニウム基材やアルミニウム合金基材(以下、総称して「アルミニウム系基材」ともいう)をアルミホイールに鋳造及び/又は鍛造成型した場合、その表面には、鋳造及び/又は鍛造時に用いる離型剤や、鋳造及び/又は鍛造時に生成する酸化アルミニウムの皮膜、汚れ、油等(以下、これらを総称して「不純物」ともいう)が付着している。
【0004】
また、これら不純物は、アルミホイールへの塗膜の密着性を低下させる要因となる。そのため、アルミホイールを塗装する前に、塗装の前処理を行うことにより、上記不純物を除去する必要がある。
【0005】
更に、アルミニウム系基材は、耐食性が低いため、アルミホイールの表面に傷が存在すると糸錆が発生したり、表面に酸化膜が形成されたりする。そのため、アルミホイールの表面に対して、耐食性を向上させる処理を施す必要がある。
【0006】
上記不純物を除去するために、従来、アルミニウム系基材を鋳造及び/又は鍛造成型したアルミホイールに対してショットブラスト等の物理的手段による処理が行われている。また、アルミホイールの表面をアルカリ処理液又は酸性処理液を用いた化学エッチング処理がその代替として、もしくは物理的手段による処理と組み合わせて行われている。
【0007】
この際、例えば、ショットブラストは、通常、金属製(例えば、鉄、ステンレス等)のショット粒で行なわれる。そのため、ショットブラスト後のアルミホイールの表面には、ショット粒中の鉄が残留する。
【0008】
このようにアルミホイールの表面に残留した鉄は、アルミホイールの表面と塗膜との密着性を阻害する要因となる。また、大気中の水分等が塗膜を透過し、鉄及び基材であるアルミニウムと反応して、耐食性の低下の原因となる。
【0009】
そこで、近年、ショットブラスト後に、アルミホイールの表面に残留した金属を除去し、アルミホイールへの塗膜の密着性を向上させ、かつ塗装アルミホイールの耐食性を向上させる技術が開発されている。
【0010】
例えば、特許文献1には、成型し、型枠から取り出した後、ショットブラスト法及び切削によって表面処理したアルミホイールを、脱脂、水洗、酸洗処理、水洗、化成処理、水洗、及び後処理を順に行い、乾燥した後、該アルミホイールに塗装を行う方法が記載されている。
【0011】
特許文献1において、上記酸洗処理には、第2鉄イオン0.2〜0.4g/L及び硫酸を含んでなるpH0.6〜2.0の酸性溶液を用いることが記載されている。
【0012】
また、上記化成処理には、ジルコニウムイオン又はチタニウムイオン0.01〜0.125g/L、りん酸イオン0.01〜1.0g/L、及び、フッ素イオン0.01〜0.5g/Lを含んでなるpH1.5〜4.0の酸性被膜化成処理剤を用いることが記載されている。
【0013】
更に、特許文献1には、このような方法によれば、有害なクロムを含んだ処理剤を用いることなく、耐食性、塗膜の密着性等の性能に優れ、アルミニウムの光輝性を保持することができる塗膜を形成することができることが記載されている。
【0014】
また、特許文献2には、鋳造したアルミホイールに対してショットブラストを行った後、該アルミホイールに(1)脱脂+ノンクロメート処理、(2)脱脂+酸洗+ノンクロメート処理、又は(3)脱脂+酸洗+ノンクロメート処理+有機処理を行う前処理方法が記載されている。
【0015】
特許文献3には、アルミホイールを鋳造し、熱処理を施した後に、ショットブラストを行った後、強アルカリ性水溶液又はアルカリ電解水で処理することによって、アルミホイール表面に残留したショット粒(鉄)の周囲のアルミニウムを溶解して、鉄をアルミホイール表面に露出させて除去する方法が開示されている。
【0016】
ところで、アルミホイールの製造方法に関するものではないが、アルミニウム基材の耐食性や、塗膜との密着性を向上させる技術として、例えば、特許文献4に開示される技術が知られている。
【0017】
具体的には、特許文献4には、酸性洗浄剤を使用して、アルミニウム製熱交換器を酸洗し、その後に化成処理皮膜形成及び親水性皮膜形成を行うことが記載されている。
【0018】
上記酸性洗浄剤として、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン、及びセリウムから選ばれる金属及び/又は金属酸の塩を少なくとも1種と、硝酸及び/又は硫酸とを含有する水溶液を用いることが記載されている。また、上記水溶液における金属塩及び/又は金属酸塩の濃度は、0.01〜5質量%であることが記載されている。
【0019】
特許文献4には、このような構成によれば、アルミニウム製熱交換器は、白錆発生が少ないことに加えて、親水性塗膜の密着性も高くなることが記載されている。
【特許文献1】特開2000−282251号公報(平成12(2000)年10月10日公開)
【特許文献2】特開2002−88492号公報(平成14(2002)年3月27日公開)
【特許文献3】特開2007−107069号公報(平成19(2007)年4月26日公開)
【特許文献4】特開2001−158983号公報(平成13(2001)年6月12日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
特許文献1〜3に開示されるような技術により処理されたアルミホイールに塗装を施すことにより、アルミホイールへの塗膜の密着性、及び塗装アルミホイールの耐食性をある程度向上させることができる。しかし、実用的な塗装アルミホイールとしては、塗膜密着性及び耐食性ともに決して十分とはいえない。
【0021】
また、特許文献4の技術は、アルミニウム系基材の表面処理方法であるが、特許文献4のアルミニウム系基材の用途はアルミホイールとは全く異なる熱交換器であるため、両者では、アルミニウム系基材に求められる物性が全く異なる。したがって、アルミニウム系基材の特性も全く異なる。そのため、特許文献4の技術を用いて、アルミホイールで問題となっている耐食性及び塗膜との密着性を向上させることはできない。
【0022】
また、特許文献4の技術は、アルミニウム材上のろう材を原因とする偏析物、アルミニウム−シリコン合金の除去を目的とするものである。そのため、特許文献4の技術により、アルミホイールの密着性、耐食性の劣化要因となっているアルミニウム金属よりも貴な金属不純物を除去することはできない。
【0023】
そもそも、上述の特許文献1〜3に開示されるような従来技術では、なぜ、塗装アルミホイールにおいて、塗膜との密着性及び耐食性を十分に向上させることができないのかについて、その原因は不明であった。そのため、塗装アルミホイールの塗膜との密着性及び耐食性を実用レベルの有効な域まで向上させる技術を開発しようにもその対策を取りようがない状況にあった。
【0024】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、高耐食性及び塗膜との高密着性を有するアルミホイールの製造方法、及びアルミホイールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、上記特許文献1〜3のような従来技術を用いて塗装前処理されたアルミニウム系基材の表面には、鉄、ニッケル、銅などのアルミニウムよりも貴な金属不純物が多く存在することを独自に見出した。
【0026】
具体的には、本発明者らは、極表層の分析可能なX線光電子分光法を用いて、鋳造及び/又は鍛造後のアルミニウム系基材の表面には、塗装下地としては性状不良な酸化皮膜とともにアルミニウムに対して貴な金属不純物(鉄、ニッケル、銅等)(以下、「金属不純物」ともいう)が金属偏析していることを独自に見出した。
【0027】
また、ショットブラスト等の物理的手段による処理、また、アルミホイールの表面をアルカリ処理液又は酸性処理液を用いた化学エッチングなどの従来技術を用いて塗装前処理されたアルミニウム系基材の表面では、金属偏析が多いことを独自に見出した。
【0028】
更に、この金属不純物は、アルミニウム系基材の表面を、特定の組成を有する酸性溶液を用いて洗浄することによって除去できることを独自に見出した。また、特定の組成を有する酸性溶液を用いれば、従来の酸性溶液と同様に、酸化アルミニウム皮膜を除去することも可能であることを独自に見出した。
【0029】
加えて、このような酸性溶液で洗浄したアルミニウム系基材の表面に塗膜を形成させると、その塗膜とアルミニウム系基材との密着性を向上させ、かつ、該塗装されたアルミニウム系基材の耐食性を向上させることができることを独自に見出した。
【0030】
更には、アルミニウム系基材を成型してなるアルミホイールの表面から、物理的手段及び/又は化学的手段により離型剤を除去する離型剤除去工程を行った後に、上記酸性溶液を用いて洗浄を行うことによって、離型剤を多量に使用して鋳造もしくは鍛造する場合であっても、高耐食性及び塗膜との高密着性を有するアルミホイールを製造できることを見出した。特に、離型剤の使用量が多い場合、特定の組成を有する酸性溶液を用いた酸洗のみを行う技術に比べて、物理的手段及び/又は化学的手段により離型剤を予め除去しておくことにより、酸洗の効果を高めることができ、アルミホイールの高耐食性及び塗膜との高密着性をより向上させ得ることを見出した。
【0031】
本発明者らは、これらの独自に見出した知見に基づいて、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、産業上有用な以下の発明を包含する。
【0032】
(1)アルミニウム基材又はアルミニウム合金基材を成型してなるアルミホイールの表面から、物理的手段及び/又は化学的手段により離型剤を除去する離型剤除去工程と、上記離型剤除去工程後に、0.5g/L以上10g/L以下の金属イオンと、10g/L以上100g/L以下の硝酸とを含む酸性溶液によって洗浄する酸洗工程とを含み、上記酸洗工程における上記金属イオンは、Fe3+イオン、Ni2+イオン、Co2+イオン、Mo6+イオン、及びCe4+イオンからなる群より選択される少なくとも1種の金属イオンを含むことを特徴とするアルミホイールの製造方法。
【0033】
(2)上記酸性溶液は、0g/Lを超え50g/L以下の硫酸を更に含むことを特徴とする(1)に記載のアルミホイールの製造方法。
【0034】
(3)上記酸性溶液において、硝酸に対する硫酸の重量比が、1/3未満であることを特徴とする(2)に記載のアルミホイールの製造方法。
【0035】
(4)上記離型剤除去工程では、バレル研磨、ブラシ研磨、バフ研磨、及び高圧水洗からなる群より選択される少なくとも1つの物理的手段により離型剤を除去することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載のアルミホイールの製造方法。
【0036】
(5)上記離型剤除去工程では、物理的手段として、ショットブラストにより処理をした後に化学的手段により処理することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載のアルミホイールの製造方法。
【0037】
(6)上記化学的手段は、アルカリ処理液又は酸性処理液を用いた化学エッチングであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のアルミホイールの製造方法。
【0038】
(7)上記化学エッチングにより、上記アルミホイールの表面を1000mg/m以上40000mg/m以下エッチングすることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のアルミホイールの製造方法。
【0039】
(8)上記酸洗工程の上記アルミホイールの表面において、銅とアルミニウムとの重量比(Cu/Al)は0.1以下であり、鉄とアルミニウムとの重量比(Fe/Al)は0.1以下であり、ニッケルとアルミニウムとの重量比(Ni/Al)は0.1以下であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のアルミホイールの製造方法。
【0040】
(9)上記酸洗工程に、該アルミホイールの表面を化成処理する化成処理工程を更に含むことを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載のアルミホイールの製造方法。
【0041】
(10)上記化成処理工程の後に、該アルミホイールの表面に塗装を施す塗装工程を更に含むことを特徴とする(9)に記載のアルミホイールの製造方法。
【0042】
(11)上記塗装は、粉体塗装であることを特徴とする(10)に記載のアルミホイールの製造方法。
【0043】
(12)(10)又は(11)に記載のアルミホイールの製造方法を用いて製造されたことを特徴とするアルミホイール。
【発明の効果】
【0044】
本発明にかかるアルミホールの製造方法は、以上のように、アルミニウム系基材を成型してなるアルミホイールの表面から、物理的手段及び/又は化学的手段により離型剤を除去する離型剤除去工程と、上記離型剤除去工程後に、0.5g/L以上10g/L以下の金属イオンと、10g/L以上100g/L以下の硝酸とを含む酸性溶液によって洗浄する酸洗工程とを含み、上記酸洗工程における上記金属イオンは、Fe3+イオン、Ni2+イオン、Co2+イオン、Mo6+イオン、及びCe4+イオンからなる群より選択される少なくとも1種の金属イオンを含むことを特徴としている。
【0045】
このため、特に、離型剤を多量に使用して鋳造もしくは鍛造する場合であっても、上記アルミホイールの表面に存在する、離型剤、アルミニウムよりも貴な金属不純物、及び原初の酸化アルミニウム皮膜を効率良く除去することができる。
【0046】
それゆえ、上記酸性溶液で表面が洗浄されたアルミホイールに塗装を施した場合、塗装密着性、及び塗装耐食性を向上させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書では、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0048】
本発明にかかるアルミホイールの製造方法では、アルミニウム系基材を成型してなるアルミホイールの表面を、物理的手段及び/又は化学的手段により離型剤を除去する離型剤除去工程を含む。
【0049】
本発明にかかるアルミホイールの製造方法は、上記物理的手段及び/又は化学的手段により離型剤を除去する離型剤除去工程の後に、アルミホイールの表面を、0.5g/L〜10g/Lの金属イオンと、10g/L〜100g/Lの硝酸とを含む酸性溶液によって、洗浄する工程(以下、「酸洗工程」ともいう)を少なくとも含む。
【0050】
上記酸洗工程を含むことにより、酸洗工程では、アルミニウムよりも貴な金属元素、及び離型剤除去工程で除去されず残ったアルミホイールの表面に存在する不純物やスマットを除去し、アルミホイールの表面を清浄化することができる。
【0051】
それゆえ、該アルミホイールの表面に塗装を施した際、該塗装により形成された塗膜の該アルミホイールに対する密着性を向上させることができる。
【0052】
なお、本明細書における「物理的手段」による処理とは、アルミホイールに対して物理的接触を伴う加工を施してアルミホイールの表面性状を変えることを意味する。また、「化学的手段」による処理とは、アルミホイールに対して、化学薬品との接触を伴う加工を施してアルミホイールの表面性状を変えることを意味する。
【0053】
上記離型剤除去工程により、上記酸洗工程では除去することが困難である離型剤を効率良く除去することができる。このため、特に、離型剤を多量に使用して鋳造もしくは鍛造する場合であっても、高耐食性及び塗膜との高密着性を有するアルミホイールの製造方法を実現することができる。
【0054】
また、本発明にかかるアルミホイールの製造方法は、上記物理的手段の後及び/又は化学的手段の前に、アルミホイールの表面に付着した油分を除去する工程(以下、「脱脂工程」ともいう)を含んでいてもよい。
【0055】
本発明にかかるアルミホイールの製造方法は、上記酸洗工程の後に、塗膜の密着性や耐食性を向上させるための化成皮膜を形成する工程(以下、「化成工程」ともいう)を含むことが好ましい。
【0056】
上記化成工程を行うことにより、該アルミホイールの表面に塗装を施した際、該塗装により形成された塗膜の該アルミホイールに対する密着性をより向上させることができる。
【0057】
また、本発明にかかるアルミホイールの製造方法は、上記酸洗工程の後(化成工程を含む構成では、化成工程の後)に、該塗膜のアルミホイールとの密着性を向上させるための処理を行う工程(以下、「後処理工程」ともいう)を含んでいてもよい。
【0058】
上記後処理工程を行うことにより、アルミホイールに施す塗装の種類の選択域を広げることができる。より具体的に説明すれば、粉体塗装のように、内部応力の高い厚膜を形成する塗装を施した場合であっても、塗膜のアルミホイールとの密着性を向上させることができる。
【0059】
更に、本発明にかかるアルミホイールの製造方法は、上記化成工程の後(後処理工程を含む構成では後処理工程の後)に、塗装工程を含んでいてもよい。これにより、塗装されたアルミホイールを製造することができる。
【0060】
本発明において、アルミホイールは、アルミニウム系基材を成型、換言すれば鋳造してなるアルミホイールであればよい。特に、JIS H 5202の規定するAC4C又はAC4CHを成型してなるアルミホイールであることが好ましい。AC4CやAC4CHのようなアルミニウム合金基材は、アルミホイールに好適に用いることができる。本発明におけるアルミホイールは、アルミニウム系基材を鍛造してなるアルミホイールであってもよい。特に、JIS H 4000の規定する6061を成型してなるアルミホイールであることが好ましい。
【0061】
上記アルミニウム系基材は、アルミニウム又はアルミニウム合金のみからなるものであってもよいが、その他の金属を、意図的に、もしくは、不純物として含んでいてもよい。
【0062】
上記その他の金属としては、アルミホイールの原料として用いられるアルミニウム系基材に、通常含まれる金属不純物や、意図的に添加される金属等を挙げることができる。具体的には、例えば、機械的物性を向上させるためにストロンチウムを添加してもよい。
【0063】
ここで、本発明にかかるアルミホイールの製造方法に含まれうる各工程、すなわち、物理的手段による工程(離型剤除去工程)、化学的手段による工程(離型剤除去工程)、脱脂工程、酸洗工程、化成処理工程、後処理工程、及び塗装工程についてより具体的に説明する。
【0064】
なお、上説したように、本発明にかかるアルミホイールの製造方法は、上記工程のうち、少なくとも離型剤除去工程と酸洗工程とを含んでいればよく、すべての工程を含んでいる必要はない。
【0065】
本発明にかかるアルミホイールの製造方法は、具体的には、(i)バレル研磨、ブラシ研磨、バフ研磨、及び高圧水洗からなる群より選択される少なくとも1つの物理的手段により処理する離型剤除去工程と、酸洗工程とを含む方法、又は(ii)ショットブラストにより処理をした後に化学的手段により処理する離型剤除去工程と、酸洗工程とを含む方法が好ましく、(i)又は(ii)の工程と、化成処理工程とを含む方法がより好ましく、(i)又は(ii)の工程と、化成処理工程と、塗装工程とを含む方法が特に好ましい。
【0066】
(I)物理的手段による工程(離型剤除去工程)
鋳造及び/又は鍛造された後のアルミホイールには、その表面に離型剤や酸化アルミニウム皮膜が残存している。このため、物理的手段により上記離型剤や酸化アルミニウム被膜を除去する処理を施すことが好ましい。
【0067】
上記物理的手段としては、具体的には、例えば、ショットブラスト、バレル研磨、ブラシ研磨、バフ研磨、及び高圧水洗等を挙げることができる。なお、バレル研磨、ブラシ研磨、バフ研磨については、従来はアルミホイールを加工するために用いられていた処理方法であり、生産性の面でショットブラストに劣っていたため、離型剤を除去するためには一般的に使用されていなかった。
【0068】
上記バレル研磨としては、例えば、図2に示す装置を用いる方法を挙げることができる。具体的には、図2に示すように、槽2内にアルミナ等の研磨材と水とを充填し、アルミホイール1を自転(正転及び逆転)させながら、A方向及びB方向に押込むことにより、アルミホイール1の表面を研磨する方法である。なお、槽2内には潤滑補助材としてコンパウンド等を水と混ぜて使用してもよい。
【0069】
上記ブラシ研磨としては、例えば、図3,4に示す装置を用いる方法を挙げることができる。具体的には、図3に示す装置を用いる場合では、図3に示すように、アルミホイール1を自転(正転及び逆転)させながら、自転(正転及び逆転)させたブラシ3をA’方向に押しつけ、B’方向にスライドさせながら研磨する方法である。
【0070】
また、図4に示す装置を用いる場合では、図4に示すように、アルミホイール1又はブラシ3を自転(正転又は逆転)させながら、A’’方向に押しつけ、研磨する方法である。
【0071】
上記バフ研磨としては、例えば、図3,4に示した装置と同じ装置を使用して、ブラシ3の代りに布等に研磨材を塗布したものを用いて研磨する方法を挙げることができる。
【0072】
上記高圧水洗は、例えば200MPaの水圧でホイール表面を洗浄することにより実施することができる。
【0073】
一方従来通り、アルミホイールにショットブラストを行うことにより離型剤や原初の酸化アルミニウム皮膜を除去すると、ショットブラストに用いる鉄もしくはステンレス等の鉄系金属のショット粒が、該アルミホイールの表面に残留することがある。このショット粒である鉄が、アルミホイールの表面に残留すると、アルミホイールの表面と塗膜との密着性を阻害する要因となる。また、大気中の水分等が塗膜を透過し、ショット粒の鉄及びアルミホイールのアルミニウムと反応して、耐食性の低下の原因となることがある。
【0074】
このため、本発明にかかるアルミホイールの製造方法における離型剤除去工程では、バレル研磨、ブラシ研磨、バフ研磨、及び高圧水洗からなる群より選択される少なくとも1つの物理的手段による工程(以下、「バレル研磨等の物理的工程」ともいう)で処理することが好ましい。
【0075】
このような物理的手段による処理によって、アルミホイールの成型時に表面に付着した離型剤及び性状不良の酸化アルミニウム皮膜、アルミホイールの表面に付着している機械油、及び切削油等の有機不純物等を除去することができる。
【0076】
更には、本発明にかかるアルミホイールの製造方法は、後述する酸洗工程を含む構成であるため、不純物をより効率良く除去することができる。
【0077】
(II)化学的手段による工程(離型剤除去工程)
上記化学的手段としては、具体的には、例えば、アルカリ処理液又は酸性処理液を用いた化学エッチングを挙げることができる。
【0078】
本発明にかかるアルミホイールの製造方法では、酸洗工程の前に、アルミホイールの表面をアルカリ処理液又は酸性処理液を用いて化学エッチングを行う化学的手段による工程(以下、「化学エッチング工程」ともいう)を含むことが好ましい。
【0079】
該化学エッチング工程を行うことにより、アルミホイールの表面に存在する離型剤及び原初の酸化アルミニウム皮膜を効率良く除去することができる。つまり、後述の酸洗工程と組み合わせることにより、アルミホイールの表面をより高度に清浄化することができる。
【0080】
上記化学エッチング工程では、アルミホイールの鋳造及び/又は鍛造(成型)時に付着した離型剤及び原初の酸化アルミニウム皮膜や、鋳造及び/又は鍛造(成型)したアルミホイールにショットブラストを行った場合には、ショット粒及びショット粒に起源する鉄を効率良く除去することができる。
【0081】
化学エッチング工程では、アルミホイールの表面を化学的にエッチングする。この化学エッチング工程に供するアルミホイールは、鋳造及び/又は鍛造された後、型からはずされたそのままの状態のものであってもよいし、型からはずした後、表面に対して、ショットブラストしたものであってもよいし、バレル研磨等の物理的工程を行ったものであってもよいし、更に、これらアルミホイールの上記脱脂工程において表面を脱脂処理したものであってもよい。
【0082】
中でも、本発明では、上記化学エッチング工程に供するアルミホイールは、型からはずした後、ショットブラストした、又はバレル研磨等の物理的工程を行ったアルミホイールであることが好ましい。
【0083】
更に、上記化学エッチング工程によれば、アルミニウム系基材の鋳造及び/又は鍛造時に、アルミホイールの表面に生成される、性状不良の酸化アルミニウム皮膜を除去することができる。
【0084】
また、上記化学エッチング工程に供されるアルミホイールが、例えば、ショットブラスト処理が施されたアルミホイールである場合には、アルミホイールの表面がエッチングされ、アルミホイールの表面に残留した前記ショット粒(鉄)の周囲のアルミニウムが溶解することで該ショット粒(鉄)を除去することができる。
【0085】
化学エッチング工程で用いる化学エッチング処理液は、特に限定されるものではなく、従来公知のあらゆる化学エッチング処理液を用いることができる。具体的には、上記化学エッチング処理液は、酸系とアルカリ系とに分類することができる。
【0086】
酸系の化学エッチング処理液としては、例えば、硫酸、フッ化水素酸、硝酸、及びリン酸等の鉱酸から選ばれる少なくとも1種の酸を含む酸性溶液を挙げることができる。また、このような酸系の化学エッチング処理液には、アルミホイールのエッチング性を向上させるために、亜硝酸イオン、過酸化水素、第二鉄イオン等の酸化剤を含有させてもよい。
【0087】
アルカリ系の化学エッチング処理液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及びリン酸アルカリ金属塩から選ばれたアルカリ性溶液を挙げることができる。これらアルカリ系の化学エッチング処理液のpHは、特に限定されるものではないが、12.0以上とすることが好ましく、12.5以上とすることがより好ましい。
【0088】
また、アルカリ系の化学エッチング処理液としては、pH10.5〜11.7のアルカリ電解水を用いることもできる。該アルカリ電解水としては、例えば、炭酸カリウム水溶液を電解槽内で電気分解し、前記電解槽の陰極側に生成される陰極液を挙げることができる。
【0089】
このようなアルカリ系の化学エッチング処理液には、化学エッチングをより均一化するために、界面活性剤を添加してもよい。
【0090】
また、アルミホイールからアルミニウムが溶出して、その洗浄効率が低下することを防止するために、アルミニウムイオンを捕捉するキレート剤を含有させてもよい。上記キレート剤としては、例えば、クエン酸、蓚酸、酒石酸、グルコン酸及びこれらの塩類等を挙げることができる。
【0091】
化学エッチング工程における処理温度は、特に限定されるものではなく、通常行われる温度範囲であればよい。具体的には、一般的に、20℃〜70℃で行うことが好ましく、35℃〜60℃で行うことがより好ましい。また、作業性を向上させる等の目的で、加温した状態で化学エッチング処理を行ってもよい。ただし、その場合でも、処理温度は、80℃よりも低い温度であることが好ましい。80℃以上で化学エッチング工程を行うと、水の蒸発が速く、処理温度の変化が起こりやすくなる傾向がある。
【0092】
また、化学エッチング工程では、化学エッチング処理液に、アルミホイールを浸漬して化学エッチングする場合、化学エッチング処理液中で、超音波処理を行うことが好ましい。このような構成によれば、化学エッチング反応を促進することができる。なお、この超音波処理による化学エッチング反応の促進は、超音波による微小振動、攪拌、脱泡、キャビテーション等の効果によるものである。
【0093】
上記化学エッチング工程において、アルミホイールをエッチングする量は特に限定されるものではないが、具体的には、エッチング量を1000mg/m〜40000mg/mとすることが好ましく、1000mg/m〜20000mg/mとすることがより好ましく、1000mg/m〜5000mg/mとすることがさらに好ましい。
【0094】
なお、上記エッチング量は、アルミニウム合金製テストピース(展伸材、5000系、縦150mm×横70mm×厚み0.8mm;両面の総面積210cm)を予め、アルカリ脱脂、水洗、乾燥して秤量しておく。なお、上記アルカリ脱脂に、アルカリ脱脂剤(サーフクリーナー 53NF、日本ペイント株式会社製)を用いて行う。
【0095】
次に、所定の化学エッチング処理をした後、水洗、乾燥して、化学エッチング後のテストピースを秤量する。そして、化学エッチング前後での処理面積あたりの重量減(P)を求め、以下の式を用いて、mあたりの溶出量に換算して算出することができる。
エッチング量A(mg/m)=P(mg)×10000÷210
化学エッチング工程では、上記化学エッチング処理後、アルミホイールに対して水洗処理を行うことが好ましい。これにより、化学エッチング処理液を洗い流して(希釈して)、化学エッチング反応を停止させることができる。また、上記水洗処理により、後の工程に持ち込まれる化学エッチング処理液の量を低減することもできる。
【0096】
上記水洗処理は、化学エッチング反応を停止させることが可能な条件で行えばよいが、効率の点から、複数回行うことが好ましい。これにより、化学エッチング反応を確実に停止させることができる。
【0097】
(III)脱脂工程
上記脱脂工程は、アルミホイールの表面に付着した油分を除去する工程である。
【0098】
脱脂工程に供するアルミホイールは、鋳造及び/又は鍛造された後、型からはずされたそのままの状態のものであってもよいし、型からはずした後、表面に対して、バレル研磨等の物理的工程により処理を施したものであってもよいし、ショットブラストしたものでもよい。
【0099】
脱脂工程において、アルミホイールの表面を脱脂する方法は、特に限定されるものではなく、アルミニウム基材の表面の脱脂処理に用いられる従来公知の方法を用いればよい。
【0100】
具体的には、一般的に、アルカリ脱脂や酸脱脂等により脱脂処理を行うことができる。アルカリ脱脂に用いるアルカリとしては、例えば、苛性ソーダ、ケイ酸ソーダ、炭酸ソーダ、リン酸ソーダ等を挙げることができる。また、上記アルカリには、界面活性剤を添加して用いてもよい。
【0101】
また、酸脱脂に用いる酸としては、例えば、硫酸や硝酸等を挙げることができる。
【0102】
このようなアルカリ脱脂及び酸脱脂では、上記アルカリ又は酸を含む溶液にアルミホイールを浸漬したり、該溶液をアルミホイールにスプレーしたりして、脱脂処理を行えばよい。なかでも、脱脂を効果的に行うために、浸漬法で行うことが好ましい。
【0103】
(IV)酸洗工程
酸洗工程では、特定の組成を有する酸性溶液によって、アルミホイールの表面を洗浄する。
【0104】
酸洗工程に供するアルミホイールは、型からはずした後、表面に対して、バレル研磨等の物理的工程に供したアルミホイールであってもよいし、更に、該アルミホイールを脱脂工程に供したものであってもよい。また、型からはずしショットブラスト後に上記脱脂工程に供し、更に、上記化学エッチング工程に供したものや、型からはずした後、ブラシ研磨等の物理的工程を行い脱脂工程に供したものでもよい。また、型からはずした後、上記脱脂工程に供することなく、上記化学エッチング工程に供したものであってもよい。
【0105】
中でも、本発明では、上記酸洗工程に供するアルミホイールは、(i)バレル研磨、ブラシ研磨、バフ研磨、及び高圧水洗からなる群より選択される少なくとも1つの物理的手段により処理したアルミホイール、又は(ii)型からはずされたそのままのもの、若しくは型からはずした後、表面に対してショットブラストし更に化学的手段により処理したアルミホイールであることが好ましい。
【0106】
(i)のアルミホイールでは、上記特定の物理的手段により処理しているため、アルミホイールの表面に鉄等の不純物及び離型剤が残存していない。(ii)のアルミホイールでは、ショットブラストにより処理を行っているが、その後に化学エッチング工程等の化学的処理を行っているため、アルミホイールの表面には、鉄等の不純物及び離型剤が残存していない。
【0107】
上記離型剤除去工程によれば、上説したように、アルミホイールの表面に付着した離型剤やショット残渣、油分、汚れが効果的に除去される。このような離型剤除去工程において離型剤やショット残渣、油分、汚れが除去されたアルミホイールの表面には、鋳造及び/又は鍛造時に生成する酸化アルミニウムの皮膜や、Cu等のアルミニウムよりも貴な金属元素(金属不純物)が露出している。
【0108】
このようなアルミホイールの表面に露出した鋳造及び/又は鍛造時に生成する酸化アルミニウムの皮膜や金属不純物は、該アルミホイールに塗装を施した際、塗膜とアルミホイールとの密着性や塗装アルミホイールの耐食性を低下させる原因となる。
【0109】
より詳しく説明すると、従来公知の鋳造及び/又は鍛造法で成型されたアルミホールは、離型剤除去工程前においては、一般的に、図1の(a)に示すように、離型剤が焼結及び/又は含浸した脆弱な表面酸化膜層(以下、「離型剤含浸層」ともいう)が表面に形成されている。そして、該離型剤含浸層の下に、金属不純物偏在層が形成されている。そして、金属不純物偏在層の更に下にアルミ鋳造又は鍛造合金層(アルミ鋳造合金層)が存在している。
【0110】
この状態のアルミホイールを上記離型剤除去工程に供することにより、図1の(b)に示すように、上記離型剤含浸層が除去される。そして、該離型剤含浸層が除去されたアルミホイールの表面には、金属不純物が偏在した新たな表面酸化膜層が形成される。つまり、この新たな表面酸化膜層では、離型剤は含有されず、金属不純物が濃化している。
【0111】
このように、金属不純物が偏在した表面は、アルミホイール表面での腐食反応を促進する。
【0112】
しかし、本発明による上記酸洗工程によれば、上記離型剤除去工程においてアルミホイールの表面に存在したCu等のアルミニウムよりも貴な金属元素を除去することができる。換言すれば、上記酸洗工程によれば、図1の(c)に示すように、金属不純物の偏在のない酸化膜層を、アルミホイールの表面に形成することができる。このような酸化膜層は、金属不純物を含有しない。
【0113】
したがって、アルミホイールに塗装を施した際、塗膜とアルミホイールとの密着性や塗装アルミホイールの耐食性を向上させることができる。
【0114】
上記アルミニウムよりも貴な金属元素(金属不純物)は、Cuに限定されず、例えば、Fe及びNi等を挙げることができる。
【0115】
また、上記酸洗工程によれば、離型剤除去工程で残ったアルミホイールの表面に存在するスマットや、汚れ、酸化膜を除去することができる。これらスマットや、汚れ、酸化膜もまた、塗装によりアルミホイール上に形成される塗膜のアルミホイールへの密着性を低下させるものである。したがって、上記酸洗工程によれば、後述する塗装工程においてアルミホイール上に形成される塗膜のアルミホイールへの密着性を向上させることができる。
【0116】
酸洗工程において除去される上記スマットは、特に限定されるものではないが、具体的には、カーボン、マグネシウム酸化物、Fe等の不溶性成分の混合物を挙げることができる。
【0117】
酸洗工程では、まず、アルミホイールを、金属イオン、硝酸、及び硫酸を含む酸性溶液で処理する。なお、上記酸性溶液において、硫酸は必須成分ではなく、硫酸を含まない構成とすることもできる。
【0118】
上記酸性溶液における金属イオンの濃度は、0.5g/L〜10g/Lであることが好ましく、1g/L〜5g/Lであることがより好ましい。
【0119】
上記金属イオンの濃度が0.5g/L未満であると、金属不純物の除去効果が低下する傾向がある。一方、10g/Lを越えると、コストが上昇する傾向がある。しかし、上記範囲内であれば、製造コストを抑えつつ、金属不純物を効率よく除去することができる。
【0120】
本発明において、上記酸性溶液は、上記金属イオンとして、Fe3+イオン、Ni2+イオン、Co2+イオン、Mo6+イオン、及びCe4+イオンからなる群より選択される少なくとも1種の金属イオンを含んでいればよい。特に、Fe3+イオン及び/又はCe4+イオンを含むことが好ましい。
【0121】
Fe3+イオンを用いることにより、金属不純物をより効率よく除去することができる。
【0122】
上記金属イオンの供給源は特に限定されるものではなく、具体的には、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、モリブデン及びセリウムからなる群より選択される金属塩及び/又は金属酸塩を挙げることができる。
【0123】
より具体的には、上記Fe3+イオンの供給源として、例えば、Fe(SO、Fe(NO、Fe(ClO等の水溶性の第二鉄塩;FeSO、Fe(NO等の水溶性第1鉄塩等を挙げることができる。
【0124】
上記Fe3+イオンの供給源として、上記水溶性第1鉄塩を使用する場合には、上記水溶性第1鉄塩を配合した酸性水溶液に当量の酸化剤を添加し、必要量のFe2+イオンをFe3+イオンに酸化してから用いることが好ましい。
【0125】
また、Ni2+イオンの供給源として、例えば、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル等を挙げることができる。
【0126】
Co2+イオンの供給源として、例えば、硫酸コバルト、硫酸コバルトアンモニウム、硝酸コバルト、酢酸コバルト、塩化コバルト等を挙げることができる。
【0127】
Mo6+イオンの供給源として、例えば、塩化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0128】
セリウムイオンの供給源として、例えば、硫酸セリウム、硫酸セリウムアンモニウム、酢酸セリウム、硝酸セリウム、塩化セリウム等を挙げることができる。
【0129】
上記酸性溶液における硝酸の濃度は、10g/L〜100g/Lであることが好ましく、50g/L〜100g/Lであることがより好ましい。硝酸の濃度が10g/L以下であると、金属不純物の除去効果が低下する傾向がある。一方、硝酸の濃度が100g/Lを越えると、コストが上昇する傾向がある。しかし、上記範囲内であれば、製造コストを抑えつつ、金属不純物を効率よく除去することができる。
【0130】
また、上記酸性溶液における硫酸の濃度は、0g/L〜50g/Lであることが好ましく、0g/L〜10g/Lであることがより好ましい。
【0131】
更に、上記酸性溶液において、硝酸に対する硫酸の重量比は、1以下であることが好ましく、1/3未満であることがより好ましい。
【0132】
また、上記酸性溶液のpHは、特に限定されるものではないが、pHが低すぎると、アルミホイールの表面を過剰にエッチングしてしまうことがある。一方、pHが高過ぎると、アルミホイールのエッチング速度が極端に低下し、アルミホイールの表面の清浄化を効率的に行うことができなくなる傾向がある。そのため、上記酸性溶液のpHは、一般的には、0〜2とすることが好ましく、0.05〜1とすることがより好ましい。なお、上記酸性溶液のpH調整は、硝酸イオンの供給源であるHNOで行うことが好ましい。
【0133】
上記酸性溶液には、必要に応じて、塩酸、リン酸、フッ酸あるいはこれら酸の化合物を単独であるいは2種以上を混合して添加してもよい。更に、フッ素イオン、界面活性剤等を添加してもよい。
【0134】
また、酸洗効果を高めるために、上記酸性溶液には酸化剤を配合してもよい。上記酸化剤としては、具体的には、例えば、低酸化数のMo化合物、過酸化水素、亜硝酸塩等を挙げることができる。
【0135】
なお、本発明には、上説した酸洗工程において用いる酸性溶液(換言すれば、洗浄液)も含まれる。
【0136】
酸洗工程において、アルミホイールを上記酸性溶液で処理する方法は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、上記酸性溶液をアルミホイールの表面にスプレーする方法や、上記酸性溶液を入れた酸洗浴中へアルミホイールを浸漬する方法等を挙げることができる。
【0137】
アルミホイールを上記酸性溶液で処理する時の処理温度及び処理時間もまた、特に限定されるものではない。具体的には、上記処理温度は、10℃〜70℃であることが好ましく、40℃〜60℃であることがより好ましい。
【0138】
上記処理温度範囲内で処理することにより、アルミホイールの表面をより効率よく清浄化することができる。
【0139】
また、上記処理時間、換言すれば、アルミホイールと酸性溶液との接触時間は、30秒間〜5分間とすることが好ましく、60秒間〜3分間とすることがより好ましい。上記処理時間内で処理することにより、アルミホイールの表面を効率よく清浄化することができる。
【0140】
酸洗工程では、アルミホイールを上記酸性溶液にて処理した後、水洗することが好ましい。これにより、酸性溶液を洗い流して(希釈して)、酸洗を停止させることができる。また、この水洗処理により、後の工程に持ち込まれる酸性溶液の量を低減することもできる。
【0141】
この水洗処理は、酸洗を停止させることが可能な条件で行えばよいが、効率の点から、複数回行うことが好ましい。これにより、酸洗を確実に停止させることができる。
【0142】
上記酸洗工程後のアルミホイールの表面において、銅とアルミニウムとの重量比(Cu/Al)は0.1以下であり、鉄とアルミニウムとの重量比(Fe/Al)は0.1以下であり、ニッケルとアルミニウムとの重量比(Ni/Al)は0.1以下であることが好ましい。
【0143】
上記構成によれば、上記酸洗工程後(もしくは、後述の化成処理工程及び/又は後処理工程後)のアルミホイールに塗装を施した場合、塗膜との接着性、及び耐食性を向上させることができる。
【0144】
アルミホイールの表面のCu/Al、Fe/Al、及びNi/Alは、X線光電子分光法(XPS法)による表面分析により測定することができる。なお、分析深さは、表面から約10Å (1nm、10−3μm)までである。
【0145】
(V)化成処理工程
化成処理工程では、上記酸洗工程で処理されたアルミホイールの表面に、塗膜との密着性や耐食性を向上させるための化成皮膜を形成させる。具体的には、均一で緻密な化成皮膜が、アルミホイールの素地に強固に密着して形成させる。
【0146】
化成処理工程における具体的な化成処理としては、特に限定されるものではなく、アルミホイールの表面に施される従来公知の化成処理を行えばよい。
【0147】
上記化成処理に用いる化成処理剤は、特に限定されるものではなく、化成処理の種類に応じて従来公知のものを適宜選択して用いればよい。具体的には、例えば、クロム酸クロメート、リン酸クロメート等のクロメート系化成処理剤、ジルコニウム塩、チタニウム塩、ケイ素塩、ホウ素塩あるいは過マンガン酸塩及びこれらのフッ化物、又はこれらとリン酸、マンガン酸、過マンガン酸、バナジン酸、タングステン酸、モリブデン酸とからなるクロムフリーの化成処理剤等と用いることができる。
【0148】
クロムフリーの化成処理剤としては、より具体的には、ジルコニウムイオン又はチタニウムイオン0.01g/L〜0.125g/L、リン酸イオン0.01g/L〜1.0g/L、及び、フッ素イオン0.01g/L〜0.5g/Lを含み、pH1.5〜4.0、好ましくは、pH2.8〜3.8の酸性皮膜化成処理剤を挙げることができる。
【0149】
このような酸性皮膜化成処理剤によれば、耐食性等の性能を発揮するのに十分な化成皮膜を形成することができるとともに、化成皮膜が厚くなりすぎ、アルミホイールの光輝性が損なわれることを防止することができる。
【0150】
上記酸性皮膜化成処理剤において、ジルコニウムイオンの供給源としては、例えば、フルオロジルコネート、フルオロジルコネート酸等の可溶性フルオロジルコネート;(NHZrF;アルカリ金属フルオロジルコネート;フッ化ジルコニウム等を用いることができる。
【0151】
また、チタニウムイオンの供給源としては、例えば、フルオロチタネート、フルオロチタネート酸等の可溶性フルオロチタネート;(NHTiF;アルカリ金属フルオロチタネート;フッ化チタン等を用いることができる。
【0152】
更に、リン酸イオンの供給源としては、例えば、リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸アルカリ金属塩等の酸溶液に可溶なリン酸化合物等を用いることができる。特に、リン酸イオンの供給源としては、オルトリン酸を用いることが好ましいが、これに限定されず、メタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、次リン酸、及びこれらの塩を用いてもよい。
【0153】
なお、上記酸性皮膜化成処理剤において、リン酸イオンは、皮膜形成成分のひとつであり、形成される化成皮膜の耐食性及び塗膜密着性に寄与するものである。
【0154】
また、上記酸性皮膜化成処理剤において、フッ素イオンの供給源としては、上記酸性皮膜化成処理剤に可溶であり、アルミニウムと錯体を形成することができ、かつ、上記化成処理に対して反作用の効果を呈しないものを用いればよい。具体的には、例えば、フッ化水素酸、フッ化水素酸塩、フッ化ホウ素酸等を挙げることができる。
【0155】
上記フッ素イオンの供給源として、上述したジルコニウム又はチタンの錯体を用いる場合には、生成するフッ素イオンの量が不充分であるので、上記フッ素化合物を併用することが好ましい。
【0156】
なお、上記酸性皮膜化成処理剤において、フッ素イオンは、アルミニウムのエッチング剤としての役割を果たすものである。したがって、上記酸性皮膜化成処理剤におけるフッ素イオン濃度が、上記範囲を下回ると、アルミホイールの表面のエッチングが不充分となって、形成される化成皮膜の重量が不足する傾向がある。一方、フッ素イオン濃度が、上記範囲を超えると、アルミホイールの表面が過剰にエッチングされ、該アルミホイールの表面が霜に覆われたようなにぶい状態のものとなる傾向がある。
【0157】
上記酸性皮膜化成処理剤のpHの調整は、上記化成処理に対して悪影響を与えない酸又は塩基を用いて行えばよく、具体的には、例えば、硝酸、水酸化アンモニウム;過塩素酸、硫酸等を用いればよい。なお、上記酸のうち、硫酸を用いる場合、上記酸性皮膜化成処理剤のpHは、2以上とすることが好ましい。
【0158】
化成処理工程では、このような化成処理剤を用いて、塗膜の密着性や耐食性を向上させるための化成皮膜を形成するが、化成処理工程で形成する化成皮膜の重量は、5mg/m〜50mg/mが好ましい。化成皮膜の重量が5mg/m未満であると、耐食性等の性能が十分に発揮されない場合がある。一方、化成皮膜の重量が50mg/mを超えると、厚膜になりすぎてアルミホイールの光輝性が損なわれるおそれがあるだけでなく、かえって耐食性に劣る場合がある。
【0159】
また、上記化成処理の条件(処理温度及び処理時間)は、特に限定されるものではなく、形成される化成皮膜の重量が上記範囲内となるように設定すればよい。一般的には、処理温度は30℃〜50℃とすることが好ましい。また、処理時間は30秒間〜3分間とすることが好ましい。より具体的には、好適な化成処理条件として、40℃で、45秒間程度で化成処理する処理条件が挙げられる。
【0160】
上記化成処理の具体的な方法については、特に限定されるものではないが、具体的に、例えば、浸漬法、スプレー法等を挙げることができる。
【0161】
化成処理工程では、アルミホイールを上記化成処理剤にて処理した後、水洗することが好ましい。これにより、化成処理剤を洗い流して(希釈して)、化成処理を停止させることができる。また、この水洗処理により、後の工程に持ち込まれる化成処理剤の量を低減することもできる。
【0162】
この水洗処理は、化成処理を停止させることが可能な条件で行えばよいが、効率の点から、複数回行うことが好ましい。これにより、化成処理を確実に停止させることができる。
【0163】
(VI)後処理工程
後処理工程では、上記化成処理工程において処理したアルミホイールに対して、シランカップリング剤等を用いて、上記化成処理工程でアルミホイールの表面に形成された化成皮膜の表面に、薄膜を形成させる。この後処理工程で形成された薄膜により、該アルミホイールの表面に粉体塗装のような内部応力の高い厚い塗膜を形成させる場合であっても、塗膜とアルミホイールとの密着性を向上させることができる。
【0164】
つまり、上記後処理工程を含む構成とすれば、アルミホイールに施す塗装の種類の選択域を広げ、いずれの塗装であっても、塗膜とアルミホイールとの密着性を向上させることができる。
【0165】
後処理工程に用いる処理剤は、特に限定されるものではないが、シランカップリング剤を好適に用いることができる。より具体的には、上記処理剤として、例えば、オルガノアルコキシシラン化合物を含む水溶液を用いることができる。
【0166】
上記オルガノアルコキシシラン化合物は、上記水溶液中において、塗膜とアルミホイールとの密着性を高める作用を有する。上記水溶液におけるオルガノアルコキシシラン化合物の含有量は、0.1g/L〜50g/Lであることが好ましく、0.1g/L〜10g/Lであることがより好ましい。
【0167】
オルガノアルコキシシラン化合物の含有量が0.1g/L未満であると、塗膜の密着性を十分に向上させることができない場合がある。一方、オルガノアルコキシシラン化合物の含有量が50g/Lを超えると、塗膜が偏って付着し、かさぶた状になって剥がれる場合がある。
【0168】
上記オルガノアルコキシシラン化合物は、特に限定されるものではないが、炭素−炭素二重結合、エポキシ基、メルカプト基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1種の反応性官能基を有するオルガノアルコキシシラン化合物を好ましく用いることができる。
【0169】
このようなオルガノアルコキシシラン化合物としては、より具体的には、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0170】
また、上記水溶液のpHは、10〜12であることが好ましい。このようなpH範囲であれば、上記水溶性の安定性がよく、効率的に後処理を行うことができる。
【0171】
後処理工程において、上記後処理を行う処理条件(処理温度及び処理時間等)は、特に限定されるものではなく、上説した後処理工程の効果が得られるように設定すればよい一般的には、処理温度は15℃〜40℃とすることが好ましい。また、処理時間は、30秒間〜60秒間とすることが好ましい。
【0172】
後処理工程では、アルミホイールを上記水溶液にて処理した後、アルミホイールを乾燥させることが好ましい。これにより、後述する塗装工程において、該アルミホイールを効率よく塗装することができる。
【0173】
(VII)塗装工程
塗装工程では、上記化成処理工程で処理後のアルミホイール、又は上記後処理工程で処理後のアルミホイールの表面に塗装を行う。該塗装は特に限定されるものではなく、従来公知のあらゆる塗装を用いることができる。具体的には、例えば、溶剤塗装、水性塗装及び粉体塗装を挙げることができる。
【0174】
中でも、環境への安全性の点から粉体塗装を用いることが好ましい。なお、従来のアルミホイールの製造方法では、粉体塗装を行うと、塗膜とアルミホイールとの密着性が低くなる傾向がある。これに対して、本発明にかかるアルミホイールの製造方法によれば、塗装の前処理として上記酸洗工程を行うため、粉体塗装を施しても塗膜との密着性に悪影響が生じることはなく、塗膜との高い密着性を有する塗装アルミホイールを製造することができる。
【0175】
上記塗装に用いる塗料は、特に限定されるものではなく、塗装の種類に応じて適宜選択すればよい。溶剤塗装の場合、環境面から有機溶剤の少ないハイソリッド溶剤塗料、もしくは水性塗料を用いることが好ましい。
【0176】
また、粉体塗装の場合、アクリル樹脂、エポキシポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。
【0177】
また、塗装工程では、複数の塗膜層が形成されるように塗装を行ってもよい。具体的には、例えば、粉体プライマー塗装、シルバー塗装、トップクリアー塗装をこの順で施してもよい。上記粉体プライマー塗装には、例えば、アクリル樹脂、エポキシポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の塗料を用いることができる。また、トップクリアー塗装には、耐候性を考慮した場合、アクリル樹脂、フッ素樹脂等の塗料を用いることが好ましい。
【0178】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0179】
本発明について、実施例及び比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、及び改変を行うことができる。なお、以下の実施例及び比較例における酸洗工程後のアルミホイール表面のショット残渣及び金属不純物は、次のようにして評価した。また、塗装アルミホイールの塗装品質は、以下の衝撃テスト、SST試験、CASS試験、及び耐糸錆性試験により評価した。
【0180】
〔酸洗工程後のアルミホイール表面のショット残渣測定〕
SUS430ショット粒でショットブラスト加工された鋳肌面を分析面とする30mm×30mm×(厚み2〜30)mmの試料を、リガク走査型蛍光X線分析装置 ZSX Primus((株)リガク製)を用いて、蛍光X線分析法にてショット粒の主成分であるFeの残留量を定量分析した。Fe残留量が200mg/m以下である場合を○、Fe残留量が200mg/mを超えた場合を×とした。
【0181】
〔酸洗工程後のアルミホイール表面の離型剤残渣測定〕
被処理物(アルミホイール)鋳肌表面を分析面とする5mm×5mm×5mm(厚み)の試料を、酸洗工程後、下記条件でX線光電子分光法により分析した。
【0182】
離型剤として、黒鉛系離型剤を使用した場合は、C成分含有する離型剤の表面残渣の目安となるC/Al比について分析を行い、1以下である場合を○、1を超える場合を×とした。また、カオリン・カルシウム塩系離型剤を使用した場合は、Ca成分を含有する離型剤の表面残留量の目安となるCa/Al比について分析を行い、0.1以下である場合を○、0.1を越える場合を×とした。
【0183】
〔酸洗工程後のアルミホイール表面の金属不純物測定〕
被処理物(アルミホイール)鋳肌表面を分析面とする5mm×5mm×5mm(厚み)の試料を、酸洗工程後、下記条件でX線光電子分光法により分析した。アルミニウム合金の腐食の促進要因となるNi、Fe、CuそれぞれのAlに対する相対重量比率を以下基準で判定した。
【0184】
Ni/Al比、Fe/Al比、及びCu/Al比のそれぞれについて、0.1以下である場合を○、Ni/Al比、Fe/Al比、及びCu/Al比のそれぞれが0.1を越える場合を×とした。
【0185】
〔塗装アルミホイールの衝撃テスト〕
得られた各試験片を−30℃に冷却した後、これを飛石試験機(スガ試験機社製)の試料ホルダーに石の進入角度が90°になるように取り付け、100gの7号砕石を3kg/cmの空気圧で噴射し、砕石を試験片の塗膜に衝突させた。その時のハガレ傷の程度(数、大きさ、破壊場所)を3段階評価した。
【0186】
その結果、塗膜のハガレが認められないものを○、一部に塗膜のハガレが認められるものの、素地に達するハガレ傷が認められないものを△、素地に達する塗膜のハガレ、キズが認められるものを×とした。
【0187】
〔塗装アルミホイールのSST試験〕
塩水噴霧試験各試験片の表面をカッターナイフによりクロスカットし、5重量%のNaCl水溶液を用いて35℃で1200時間塩水噴霧を行い、カット部の周辺2mm以内における腐食の度合いを測定した。
【0188】
その結果、塗膜のフクレが認められないものを○、2mm以内の塗膜のフクレが発生したものを△、2mmを超えて塗膜のフクレが発生したものを×とした。
【0189】
〔塗装アルミホイールのCASS試験〕
キャス試験各試験片の表面をカッターナイフにより10cm長さでカットし、JISZ2371−2000で調整されたキャス試験液を50±2℃で240時間噴霧を行い、カット部の周辺2mm以内における腐食の度合いを評価した。
【0190】
その結果、塗膜のふくれ及び錆等の異常がないものを○、2mm以内にふくれ、又は錆が発生したものを△、2mmを超えて、又は錆が発生したものを×とした。
【0191】
〔塗装アルミホイールの耐糸錆性試験〕
塗膜にクロスカットを入れ、「塩水噴霧を24時間行い、その後、120時間、湿潤(湿度85%、40℃)させ、続いて、24時間、室温で自然乾燥させる」とのサイクルを8サイクル行い、クロスカット部の片側の錆幅を測定した。
【0192】
その結果、塗膜のふくれ及び錆等の異常がないものを○、2mm以内にふくれ、又は錆が発生したものを△、2mmを超えて、又は錆が発生したものを×とした。
【0193】
〔実施例1:塗装アルミホイールの製造〕
溶湯したアルミニウム合金(AC4CH)を、市販の黒鉛系離型剤が塗布された自動車用ホイール金型に鋳込み、冷却後、金型から取り出した。
【0194】
次に、熱処理を実施した。次に、物理的処理として、SUS430材料をショット粒として使用し、ショットブラスト加工を実施した。更に物理的処理として、図2に示すバレル研磨機でアルミナを研磨剤として正転逆転各1分回転させる条件でバレル加工を実施した。
【0195】
その後、アルカリ脱脂剤(サーフクリーナー53NF(日本ペイント株式会社製)、2重量%)による脱脂(50℃、3分間浸漬処理)をした。脱脂処理後、2段回で浸漬水洗を実施した。
【0196】
次に化学的処理として、アルカリエッチング剤(サーフクリーナーSE300(日本ペイント株式会社製)、5重量%)によるアルカリエッチング処理(40℃、1分間処理)をした。その後、2段回で浸漬水洗を実施した。溶出量測定用テストピースで、アルカリエッチング処理前後の重量減を測定した結果、5g/mの溶出量であった。
【0197】
続いて、表1に記載の酸性処理液2で酸洗した(50℃×3分間浸漬)。処理後2段回で浸漬水洗を実施した。
【0198】
酸洗工程後、表面分析用の鋳造ホイールの鋳肌面を切り出したチップを用いて、上記の方法に従って、アルミホイール表面の離型剤残留量、ショット残渣ならびに金属不純物を測定した。その結果、表2に示すように、Fe残留量は200mg/m以下(○)、離型剤残留もCa/ALが0.1以下(○)、金属不純物についてもFe/Alは0、Ni/Alは0、Cu/Alは0であった。
【0199】
酸洗工程後、ノンクロム化成処理剤(アルサーフ501M(日本ペイント株式会社製)、1重量%)で化成処理(pH=3.5、40℃、45秒間浸漬処理)した。化成処理後、2段回で浸漬水洗を実施し、次いで、純水による浸漬処理を実施した。その後、120℃の熱風で10分乾燥させてのち、自然冷却した。
【0200】
ポリエステル系粉体塗料(ビリューシアPL2000グレーPR、日本ペイント株式会社製)で静電粉体塗装を実施し、160℃で20分間(被塗物保持時間)の加熱乾燥により、塗膜厚み(100μm)のプライマー塗膜を得た。
【0201】
アクリル系溶剤型塗料(スーパーラック5000AS70 11SV−14、日本ペイント株式会社製)を乾燥膜厚20μmとなるように塗装し、10分間セッティングした後、140℃で10分間加熱した。次いで、アクリル系溶剤塗料(スーパーラック5000AW−10、日本ペイント株式会社製)を乾燥膜厚40μmとなるように塗装し、10分間セッティングした後、140℃で20分間加熱し、複層塗膜を作製した。
【0202】
得られた塗装アルミホイールの意匠面(スポーク部位)における鋳肌面の箇所を切断したものを用いて、上記の評価方法により、塗装品質評価を行った。
【0203】
その結果、表2に示すように、衝撃テストの結果は○、SST試験の結果は○、CASS試験の結果は○、及び耐糸錆性試験の結果は○であった。
【0204】
〔実施例2:塗装アルミホイールの製造〕
化学的処理として、酸エッチング処理をする他は実施例1と同様の方法で塗装前処理をし、次いで塗装した。酸エッチング処理は、酸エッチング剤(NPクリーナー208(日本ペイント株式会社製))を2重量%で50℃、5分間噴霧処理をした。その後、2段回で浸漬水洗を実施した。溶出量測定用テストピースで、酸エッチング処理前後の重量減を測定した結果、5g/mの溶出量であった。Fe残留量、離型剤残留量、金属不純物量の測定結果ならびに衝撃テスト、SST試験、CASS試験、及び耐糸錆性試験の結果を表2に示した。
【0205】
〔実施例3:塗装アルミホイールの製造〕
化学的処理を実施しない他は、実施例1と同様の方法で塗装前処理をし、塗装した。結果を表2に示した。
【0206】
〔実施例4:塗装アルミホイールの製造〕
ショットブラスト処理を実施しない他は実施例1と同様の方法で塗装前処理をし、次いで塗装をした。結果を表2に示した。
【0207】
〔実施例5:塗装アルミホイールの製造〕
ショットブラスト処理を実施しない他は実施例2と同様の方法で塗装前処理をし、次いで塗装をした。結果を表2に示した。
【0208】
〔実施例6:塗装アルミホイールの製造〕
ショットブラスト処理を実施しない他は実施例3と同様の方法で塗装前処理をし、次いで塗装をした。結果を表2に示した。
【0209】
〔実施例7:塗装アルミホイールの製造〕
物理的処理として、バレル加工を実施しない他は実施例1と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0210】
〔実施例8:塗装アルミホイールの製造〕
化学的処理として、アルカリエッチング剤(サーフクリーナーSE300(日本ペイント株式会社製)、5重量%)によるアルカリエッチング処理(50℃、2分間処理)をし、20g/mの溶出量のアルカリエッチング処理を実施する他は実施例7と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0211】
〔実施例9:塗装アルミホイールの製造〕
物理的処理としてバレル加工を実施しない他は実施例2と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0212】
〔実施例10:塗装アルミホイールの製造〕
物理的処理としてバレル加工を実施しない他は実施例4と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0213】
〔実施例11:塗装アルミホイールの製造〕
化学的処理として、実施例8のアルカリエッチング処理を実施する他は実施例10と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0214】
〔実施例12:塗装アルミホイールの製造〕
物理的処理としてバレル加工を実施しない他は実施例5と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0215】
〔実施例13:塗装アルミホイールの製造〕
溶湯したアルミニウム合金(AC4CH)を、市販のカオリン・カルシウム塩系離型剤が塗布された自動車用ホイール金型に鋳込み、冷却後、金型から取り出した鋳造ホイールを用いる他は実施例1と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0216】
〔実施例14:塗装アルミホイールの製造〕
化学的処理を実施しない他は、実施例13と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0217】
〔実施例15:塗装アルミホイールの製造〕
ショットブラスト処理を実施しない他は実施例13と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0218】
〔実施例16:塗装アルミホイールの製造〕
ショットブラスト処理を実施しない他は実施例14と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0219】
〔実施例17:塗装アルミホイールの製造〕
物理的処理として、バレル加工にかえて、図3に示すブラシ研磨機を使用し、珪酸カーバイト含有ナイロンブラシを使用して正転、逆転それぞれ20秒の回転処理を行うブラシ研磨を実施する他は実施例16と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0220】
〔実施例18:塗装アルミホイールの製造〕
物理的処理として、バレル加工にかえて、200Mpaの高圧水洗を実施する他は、実施例16と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0221】
〔実施例19:塗装アルミホイールの製造〕
物理的処理として、バレル加工を実施しない他は、実施例13と同様方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0222】
〔実施例20:塗装アルミホイールの製造〕
物理的処理として、バレル加工を実施しない他は、実施例14と同様方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0223】
〔実施例21:塗装アルミホイールの製造〕
ショットブラスト処理を実施しない他は実施例19と同様方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0224】
〔実施例22:塗装アルミホイールの製造〕
化学的処理として、実施例8のアルカリエッチング処理を実施する他は、実施例21と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0225】
〔実施例23:塗装アルミホイールの製造〕
化学的処理として、実施例2の酸エッチング処理を実施する他は、実施例21と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0226】
〔比較例1:塗装アルミホイールの製造〕
物理的処理として、バレル加工を実施しないことの他は、実施例16と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0227】
〔比較例2:塗装アルミホイールの製造〕
溶湯したアルミニウム合金(AC4CH)を、離型剤が塗布されていない自動車用ホイール金型に鋳込み、冷却後、金型から取り出した鋳造ホイールを用い、酸洗処理液として、表1に記載の酸性処理液1で酸洗し(50℃×3分処理)、処理後2段階で浸漬水洗を実施した他は、比較例1と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0228】
〔参考例1:塗装アルミホイールの製造〕
溶湯したアルミニウム合金(AC4CH)を、離型剤が塗布されていない自動車用ホイール金型に鋳込み、冷却後、金型から取り出した鋳造ホイールを用いる他は比較例1と同様の方法で塗装前処理、次いで塗装した。結果を表2に示した。
【0229】
【表1】

【0230】
【表2】

【0231】
※1:「アルカリa」はエッチング量5g/m、「アルカリb」はエッチング量20g/m、「酸」はエッチング量5g/mである。
【0232】
参考例1に示すように、表面に離型剤が残留していないアルミホイールに対しては、本発明の製造方法における酸洗工程(以下、「本発明に係る酸洗工程」と記す)のみを行えば、塗装密着性並びに塗装耐食性に優れたアルミホイールが得られる。
【0233】
尚、比較例2に示すように、表面に離型剤が残留していないアルミホイールに対して、本発明の製造方法における要件を満たさない酸洗工程のみを行った場合では、得られるアルミホイールの塗装密着性並びに塗装耐食性は悪い。
【0234】
離型剤としてカオリン系離型剤を使用する場合には、アルミホイール表面には離型剤が残留する。このため、上記離型剤が残存するアルミホイールに、本発明に係る酸洗工程のみを行ったとしても、比較例1から明らかなように、得られるアルミホイールの塗装密着性並びに塗装耐食性は悪い。
【0235】
一方、実施例13〜23に示すように、離型剤を除去するための物理的処理及び/又は化学的処理と本発明に係る酸洗工程とを組み合わせた本発明の方法により製造した場合では、カオリン系離型剤を使用した場合であっても塗装密着性並びに塗装耐食性に優れたアルミホイールを得ることができる。またこの場合、物理的処理として、ショットブラスト処理を実施した場合であっても、化学的処理を実施することにより、塗装密着性並びに塗装耐食性に優れたアルミホイールを得ることができる。
【0236】
離型剤として黒鉛系離型剤を使用する場合には、アルミホイール表面に多量の離型剤が残留する。このような場合であっても、実施例1〜12に示すように、塗装密着性並びに塗装耐食性に優れたアルミホイールを得ることができる。特に、実施例1,2,4,5に示すように物理的処理と化学的処理との両方を組み合わせることにより、塗装密着性並びに塗装耐食性により優れたアルミホイールを得ることができる。
【0237】
また、実施例8,9,11,12に示すように、所定の化学的処理を上記酸洗処理と組み合わせることにより、黒鉛系離型剤を使用した場合であっても、物理的処理を行うこと無く、塗装密着性並びに塗装耐食性に非常に優れたアルミホイールを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0238】
以上のように、本発明では、アルミホイールの表面を物理的手段及び/又は化学的手段により処理した後、特定の組成の酸性溶液を用いて洗浄するため、該アルミホイールを塗装した際、該アルミホイールと塗膜との密着性及び塗装された基材の耐食性を向上させることができる。そのため、本発明は、アルミホイールを製造する分野に利用できるだけではなく、アルミホイールを用いる自動車産業などの分野に幅広く応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0239】
【図1】図1は、本発明にかかるアルミホイールの製造方法において、アルミホイール表面の酸化膜層が変化する様子を示す図である。
【図2】図2は、本実施の形態にかかるアルミホイールの製造方法に用いることができるバレル研磨装置の一例の概略構成を示す断面図である。
【図3】図3は、本実施の形態にかかるアルミホイールの製造方法に用いることができるブラシ研磨装置の一例の概略構成を示す断面図である。
【図4】図4は、本実施の形態に係るアルミホイールの製造方法に用いることができるブラシ研磨装置の別の一例の概略構成を示す断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基材又はアルミニウム合金基材を成型してなるアルミホイールの表面から、物理的手段及び/又は化学的手段により離型剤を除去する離型剤除去工程と、
上記離型剤除去工程後に、0.5g/L以上10g/L以下の金属イオンと、10g/L以上100g/L以下の硝酸とを含む酸性溶液によって洗浄する酸洗工程とを含み、
上記酸洗工程における上記金属イオンは、Fe3+イオン、Ni2+イオン、Co2+イオン、Mo6+イオン、及びCe4+イオンからなる群より選択される少なくとも1種の金属イオンを含むことを特徴とするアルミホイールの製造方法。
【請求項2】
上記酸性溶液は、0g/Lを超え50g/L以下の硫酸を更に含むことを特徴とする請求項1に記載のアルミホイールの製造方法。
【請求項3】
上記酸性溶液において、硝酸に対する硫酸の重量比が、1/3未満であることを特徴とする請求項2に記載のアルミホイールの製造方法。
【請求項4】
上記離型剤除去工程では、バレル研磨、ブラシ研磨、バフ研磨、及び高圧水洗からなる群より選択される少なくとも1つの物理的手段により離型剤を除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミホイールの製造方法。
【請求項5】
上記離型剤除去工程では、物理的手段として、ショットブラストにより処理をした後に化学的手段により処理することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミホイールの製造方法。
【請求項6】
上記化学的手段は、アルカリ処理液又は酸性処理液を用いた化学エッチングであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルミホイールの製造方法。
【請求項7】
上記化学エッチングにより、上記アルミホイールの表面を1000mg/m以上40000mg/m以下エッチングすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のアルミホイールの製造方法。
【請求項8】
上記酸洗工程後の上記アルミホイールの表面において、
銅とアルミニウムとの重量比(Cu/Al)は0.1以下であり、
鉄とアルミニウムとの重量比(Fe/Al)は0.1以下であり、
ニッケルとアルミニウムとの重量比(Ni/Al)は0.1以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のアルミホイールの製造方法。
【請求項9】
上記酸洗工程後に、該アルミホイールの表面を化成処理する化成処理工程を更に含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のアルミホイールの製造方法。
【請求項10】
上記化成処理工程の後に、該アルミホイールの表面に塗装を施す塗装工程を更に含むことを特徴とする請求項9に記載のアルミホイールの製造方法。
【請求項11】
上記塗装は、粉体塗装であることを特徴とする請求項10に記載のアルミホイールの製造方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のアルミホイールの製造方法を用いて製造されたことを特徴とするアルミホイール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−248763(P2009−248763A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99494(P2008−99494)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】