説明

アレイ探触子を用いた超音波探傷方法及び装置

【課題】探触子位置を機械的に移動することなく簡便に表面検査画像を作成する。
【解決手段】液中に浸漬したアレイ探触子101をフェーズドアレイ方式で動作させ、そのアレイ探触子101と被検体102の間で液体を介して超音波を送受信して、受信した情報に基づく検査画像を表示部104で表示する超音波探傷装置において、アレイ探触子101から被検体102の入射点に斜角超音波を発信して被検体102の表面に表面波105Bを発生させ、その表面波105Bの伝搬方向であるX軸方向と、電子走査で移動させられる入射点105の移動方向であるY軸方向とによるX−Y2次元座標軸にて検査画像を表示部に表示するための画像データを計算機103Aで作成し、表示部104に検査画像104AをCスコープで表示して可視化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレイ探触子をフェーズドアレイ方式で駆動して固体の被検体に対して超音波探傷を施す超音波探傷技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼材などの固体を被検体とする非破壊検査として、表面の健全性を評価する表面検査と、固体内部の健全性を評価する体積検査がある。表面検査の手法として、目視検査法,浸透探傷法,磁粉探傷法,渦流探傷法などが知られている。
【0003】
また、体積検査の手法として、放射線透過法,超音波探傷法が知られている。検査対象となる被検体の表面と内部(体積)の両方の健全性を評価するには、例えば、表面検査と体積検査を組み合わせて実施するなどの工夫が必要となる。
【0004】
体積検査法のうち、固体の検査方法として、固体内部を伝搬する縦波及び横波による超音波探傷法が従来から一般に用いられている。この超音波探傷法の一種に、いわゆるフェーズドアレイ方式の超音波探傷法がある。
【0005】
ここで、このフェーズドアレイ方式とは、電子的走査である電子走査方式又は電子スキャン方式とも呼ばれ、例えば圧電素子からなる複数の超音波発生素子をアレイ状に配置した探触子、いわゆるアレイ探触子を用い、超音波発生の契機となる電気信号を、このアレイ探触子の各素子毎に所定の時間だけ遅延させて与え、各素子から発生した超音波が重ね合わされ、合成波を形成することで、被検査体への超音波の送信角度と受信角度、送信位置と受信位置、或いは合成波が干渉して互いにエネルギーを強め合う位置、つまり焦点位置などの条件が電気的な制御により高速で変化させることができるようにした超音波探傷法のことである。なお、ここでは、素子毎に与える所定の遅延の組み合わせをディレイパターンと呼ぶこととする。
【0006】
このようにアレイ探触子を用いて探傷条件を電気的に走査する理由は、広い検査範囲にわたって超音波の送受信角度位置や焦点を自由に変化させられるからであり、そうすることにより、被検査体の反射源(欠陥等)からの反射波をより強く受信できる角度や位置、焦点を選択することで、反射源である欠陥が見付け易くできるからである。
【0007】
固体を伝わる超音波には、体積中を伝搬する体積波(縦波,横波)以外に、表面波(レイリー波,Rayleigh波)と呼ばれる固体表面を伝搬する振動モードが存在する。
【0008】
レイリー波(レーリー波)とは、「表面近傍にだけエネルギーが集中して伝わる波」とあり、その伝搬速度は固体中の横波音速の約90%程度で、表面が曲面の場合でも表面近傍に沿って伝搬する。
【0009】
レイリー波を用いた超音波探傷装置では、被検体の表面に探触子から超音波を斜めに入射させることで、被検体表面に表面波(レイリー波)を発生させ、被検体の欠陥や損傷を検査する(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
また、フェーズドアレイ方式を利用してレイリー波による検査を行うことも可能であり、被検体の表面に伝搬する表面波により、被検体表面の欠陥から反射する超音波を受信することができる(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
上記従来技術は、レイリー波を受信することで被検体の健全性を評価している。被検体の検査結果を画像化するには、図2に示すように、探触子を2次元的に走査する必要があり、機械的な探触子走査が不可避である。
【0012】
通常の超音波探傷では、図2及び図3に示すように、ある探触子位置205において、超音波探傷器203と接続された探触子201で超音波が送信され、被検体102で反射された超音波が再び探触子201で受信される。この受信信号は、時間と振幅の関係で表される信号(Aスコープ信号206)として、収録・表示される。
【0013】
超音波探傷結果を画像化するには、駆動制御部204A及び移動量検出部204Bを備える制御機構204と接続された走査機構202により探触子を2次元的に走査させ、探触子位置におけるAスコープ信号206から、XZ断面図(Bスコープ301),XY断面図(Cスコープ302),YZ断面図(Dスコープ303)に合成する。
【0014】
例として、図4を用いて、2次元画像のうちBスコープの合成方法について説明する。図4は、入射点位置403におけるXZ断面図である。屈折角θ402Cで被検体中に斜め方向の超音波(斜角超音波)が伝搬しているとする。探触子位置403で受信される信号は、Aスコープ信号401のように、横軸は時間、縦軸は振幅で表される波形となる。
【0015】
ここで、受信信号は、伝搬時間Tにおいて振幅値A(T)401Aを持つ。伝搬時間Tの信号は、被検体中の音速Cにより、伝搬距離(または路程)W(T)に換算することができる。さらに、被検体中の音速Cと屈折角θを用いて、伝搬距離W(T)は、数1により、被検体中の座標(X,Y,Z)に変換することができる。
【0016】
(数1)
X=X′+W(T)×sinθ
Y=Y′
Z=Z′+W(T)×cosθ
X′:入射点403のX座標
Y′:入射点403のY座標
Z′:入射点403のZ座標
W(T):超音波の片道伝播路程(W(T)=C×T/2)
C:被検査体中を伝搬する超音波の音速
T:受信信号の伝搬時間
θ:被検体中の屈折角
【0017】
このように、一箇所の入射点でのAスコープ信号はXZ断面図402の中の1本のライン402Bに相当するデータを与える。伝搬時間Tに相当する画素402Aに、振幅A(T)と比例する濃淡や色情報を付与することで、振幅の強度を可視化することが可能となる。
【0018】
さらに、探触子201を走査機構によってX軸方向に移動すると、探触子位置205の移動にともなって、斜角超音波の入射点位置403がX軸に沿って移動する。こうすることで、振幅の強度を可視化したライン402Bが複数平行に並ぶことで、ライン状のデータが、各伝搬時間に相当する振幅値の強度に相当する濃度や色情報を持った2次元画像に変換される。
【0019】
以上の処理を、X方向とY方向の両方向に対して実施することで、1ラインのAスコープ信号(伝搬時間と振幅値)が、3次元座標に対応したデータ群としてまとめられ、特定の座標に関する断面図または透視図として3次元データ群から2次元データを抜き出すことで、Bスコープ画像,Cスコープ画像,Dスコープ画像等の2次元画像が合成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平10−123106号公報
【特許文献2】特開2008−298454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記従来技術は、検査結果を2次元の検査画像として得るためには、探触子を2次元的に走査する必要がある。高い精度の検査画像を得るには、位置精度が高いより大規模な探触子走査機構が必要となる。このため、検査対象が狭隘な部位の検査や、検査装置のアクセスが困難な場合においては、検査装置の操作性及び検査作業の簡便性に問題があった。
【0022】
本発明の目的は、超音波探触子自体の位置を移動させるという走査を行うことなく、簡便に検査画像の作成を可能とする超音波探傷方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の目的を達成するための手段としての装置は、アレイ探触子と、前記アレイ探触子をフェーズドアレイ方式により動作させて、被検体に表面波を発生させる角度の斜角超音波を送受信する送受信部と、前記送受信部から供給された受信信号に基づいて前記被検体の検査画像を表示する表示部とを備えた超音波探傷装置において、前記被検体への前記斜角超音波の入射点を、前記アレイ探触子で用いる圧電素子のディレイパターンを切り替えて、前記斜角超音波の伝搬方向と被検体の法線方向とが形成する超音波伝搬面の面外に、電子的に移動させる手段と、前記入射点の移動量と、前記入射点で発生した表面波が前記被検体を伝播して超音波反射源で反射して受信された前記受信信号とに基づいた前記被検体の表面の検査画像を前記表示部に表示させる手段とを備えたことを特徴とするアレイ探触子を用いた超音波探傷装置である。
【0024】
本発明の目的を達成するための手段としての方法は、超音波探傷装置のアレイ探触子をフェーズドアレイ方式により動作させて、前記アレイ探触子から超音波を被検体に対して送受信し、前記送受信結果に基づいて前記超音波探傷装置の表示部に検査画像を表示する超音波探傷方法において、前記アレイ探触子から前記被検体の表面に表面波を発生させる角度の斜角超音波を発信すると共に、前記斜角超音波の前記被検体への入射点を、前記被検体に設定した多次元座標軸の内、前記斜角超音波の伝搬方向と前記被検体の法線方向とに対して角度を有して設定した一つの次元の座標軸沿いに移動させ、前記入射点の移動量と、前記入射点で発生した表面波が前記被検体を伝播して超音波反射源で反射して受信された前記受信信号とに基づいた前記被検体の表面の検査画像を前記表示部に表示させる手段とを備えたことを特徴とするアレイ探触子を用いた超音波探傷方法である。
【発明の効果】
【0025】
このような手段によれば、表面波による被検体の表面検査の検査画像を、アレイ探触子の位置を機械的に走査することなく、入射点の移動方向を一つの座標軸とした多次元座標上での検査画像として簡便に作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例による超音波探傷装置の構成図である。
【図2】従来の超音波探傷装置の構成図である。
【図3】超音波探傷装置における表示部にて表示される2次元画像の説明図である。
【図4】従来の超音波探傷法による画像化方法の説明図である。
【図5】本発明の実施例による超音波探傷法による画像化方法の説明図である。
【図6】本発明の実施例による超音波探傷法による画像化方法の説明図である。
【図7】本発明の実施例に採用されるアレイ探触子の構造模式図である。
【図8】本発明の実施例による超音波探傷方法の全体フローの説明図である。
【図9】本発明の実施例による被検体表面の検査のフローの説明図である。
【図10】本発明の実施例による被検体表面形状の測定のフローの説明図である。
【図11】本発明の実施例による被検体内部の検査のフローの説明図である。
【図12】本発明の実施例による被検体表面の探傷のフローの詳細説明図である。
【図13】本発明の実施例による被検体表面形状の測定のフローの詳細説明図である。
【図14】本発明の実施例による被検体内部の探傷のフローの詳細説明図である。
【図15】本発明の実施例による被検体表面の検査画像を例示した図である。
【図16】本発明の実施例による被検体表面形状の測定結果を画像表示した例示図である。
【図17】本発明の実施例による被検体内部の検査画像を例示した図である。
【図18】本発明の実施例による被検体内部の超音波探傷方法による画像化方法の説明図である。
【図19】本発明の実施例による被検体表面の検査の計算機による自動処理フローの説明図である。
【図20】本発明の実施例による被検体表面形状測定の計算機による自動処理フローの説明図である。
【図21】本発明の実施例による被検体内部の検査(体積検査)の計算機による自動処理フローの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施例では、複数個の圧電素子の配列からなるアレイ探触子を液体中に浸漬させて用い、これをフェーズドアレイ方式により動作させ、そのアレイ探触子と前述の液体に接している金属などの固体の被検体の間で超音波を送受信して、受信した情報から検査画像を構築して表示する手段を有する超音波探傷装置において、アレイ探触子から被検体の表面の入射点へ斜角超音波を発信して、その表面に表面波(レイリー波)を発生させ、その表面波の伝搬方向(図1のX座標軸方向)、即ち探傷を行う方向或いは超音波の強度の高い伝播方向、と被検体の表面の法線方向とが形成する面の面外に、入射点を(図1のY座標軸方向沿い)へ順次移動させる電子的走査を行う手段と、その入射点の移動量と、斜角超音波の受信信号に基づいた被検体表面の欠陥の検査画像を入射点の移動方向を一つの座標軸方向に、超音波の伝播方向をもう一つの座標軸方向として検査画像を構築するためのデータを作成する計算機を備え、そのデータに基づいて被検体表面の検査結果を被検体表面の2次元画像(図3のCスコープ)として表示し、探触子の機械的走査無しに簡便に表面検査の検査画像を可視化している。
【実施例1】
【0028】
以下に、本発明の実施例による超音波探傷方法及び装置について、図に基づいて詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明の第1の実施形態で、その図示のように、この実施形態は、検査対象である被検体102は被検査対象面が液体に接している。その被検体102を検査する超音波探傷装置は、被検体102に対して超音波を送受信するアレイ探触子101と、アレイ探触子101に超音波の送受信の駆動及び制御を司り、受信信号に含まれる情報を処理する送受信部103と、送受信部103で受信信号に含まれる情報を処理して検査画像を描画するための画像データを構築したその画像データに基づいて検査画像を表示する表示部104で構成されている。
【0030】
本実施例の適用先である被検体102は、例えば、原子力発電所の炉内構造物溶接部100(例えば、制御棒駆動機構スタブチューブ,炉内計装管台ハウジング,シュラウドサポート,シュラウド等)であり、図1の被検体102は溶接部の断面を示している。なお、本実施例に記載の方法及び装置は、炉内構造物に特徴的な曲面の他、配管や平板形状の検査対象にも同様に適用することが可能である。
【0031】
アレイ探触子101は液体に浸漬されて用いられる。その液体は主に水である場合が多い。そのアレイ探触子101は被検体102の探傷面の上方に液体を介して設定され、送受信部103から供給される駆動信号により超音波を発生し、これを液体を介して被検体102内に伝搬させ、これにより現れる反射波をアレイ探触子101で受信して検出し、その受信信号を送受信部103に入力する。
【0032】
第1の実施例の記載の例では、アレイ探触子101が例えば水などの液体中に浸漬して表面波を発生させる例であるが、液体以外にも、固体や気体を介して超音波を入射した場合においても、超音波の入射角を横波臨界角(液体の場合を数2に示した)で超音波を入射させることで被検体102に表面波を発生させ、同様の検査を実施することができる。
【0033】
送受信部103は、計算機103Aと、遅延時間制御部103Bと、パルサー103Cと、レシーバ103Dと、データ収録部103Eとを備え、パルサー103Cが駆動信号をアレイ探触子101に供給し、これによりアレイ探触子101から入力される受信信号をレシーバ103Dが受けるようになっている。
【0034】
ここで、計算機103Aは、遅延時間制御部103Bや、パルサー103Cや、レシーバ103Dや、それにデータ収録部103Eを制御して、必要な動作が得られるようにする。
【0035】
第1の実施例では、アレイ探触子101が浸漬されている液体の縦波音速に基づくディレイパターンと、順次入射点位置を切り替えていくために使用する送受信素子群のパターンを、記憶部103Fに記憶する。
【0036】
遅延時間制御部103Bは、パルサー103Cから出力される駆動信号のタイミングを制御すると共に、レシーバ103Dによる受信信号の入力タイミングを制御する。さらに、送信,受信に使用する素子群のパターンを順次切り替えることで、フェーズドアレイ方式によるアレイ探触子101の動作が得られるようにし、順次送信位置を切り替えて入射点105の位置を移動させることが可能となる。
【0037】
そして、データ収録部103Eは、レシーバ103Dから供給される受信信号を収録する。レシーバ103Dからの信号は、通常、アナログの電気信号であるので、例えば、アナログ−デジタル変換器(A/D変換器)によりサンプリングして、デジタル信号として収録する。
【0038】
このとき、デジタル値の値が超音波の波高値(超音波の強さ)に相当し、何個目にサンプリングされたかという情報が超音波の往復伝搬時刻に相当する情報となる。また、収録部103Dで収録されたデジタルのデータ列は、計算機103Aで検査画像の表示用の画像データに処理され、表示部104に供給される。ここで、表示部103で表示するためのデータ処理の方法(画像の作成方法)については、後で詳述する。
【0039】
次に、アレイ探触子101の詳細について図7を参照して説明する。図7はアレイ探触子101の基本的な構成を模式図で示したもので、図示のように、このアレイ探触子101は、送受信素子として複数個の超音波発生素子101Aを用いて構成されている。図7では、超音波発生素子が2次元的に配列されており、A方向にNa個、もう一方のB方向にNb個の素子が配列されており、合計Na×Nb個の素子で構成されている。Nbが1の場合は、超音波発生素子が1列に並んだ構造になり、一般にリニアアレイ探触子と呼ばれる。また、Nbが2以上の場合は、マトリクスアレイ探触子と呼ばれる。
【0040】
上述の記憶部103Fに記憶される使用する送受信素子は、例えば、アレイ探触子101を構成する超音波発生素子101AにA方向の1番からNa番まで(Naとして、例えば64)通し番号を与えて、最初はA方向の配列で1番から32番で、B方向にはすべての超音波発生素子が含まれる領域701を使用し、第2ステップとして、A方向配列で2番から33番の領域702、同様に、第3ステップはA方向の配列で3番から34番などとして切り替えることで、順次超音波が発信する点を移動させることができ、これにより超音波が鋼材に入射する位置(入射点105)を移動させることができる。
【0041】
次に、本発明の実施形態による探傷方法及び探傷検査結果の表示方法について説明する。アレイ探触子101を用いたフェーズドアレイ法により、アレイ探触子101が浸漬された液体の縦波音速を用いて、被検体102表面でレイリー波を発生するディレイパターンを作成し、レイリー波による被検体102の表面検査画像を表示部104に表示する。
【0042】
図5及び図6を用いて、表面検査画像の作成方法について詳細に説明する。ここでは、アレイ探触子101の超音波発生素子が配列されている方向がY軸に平行になるように座標系を設定し、送受信に使用する素子を順次切り替えることで、Y軸方向に入射点位置が移動する場合を考える。
【0043】
入射点位置のY座標がY0である場合について説明する。アレイ探触子101から、液体505中に斜め方向に超音波(斜角超音波501)を発信する。斜角超音波501は、被検体102と液体505の境界面504上の入射点105に到達し、レイリー波502に振動モードが変換される。このとき境界面504への斜角超音波501の入射角度501Aは、数2で与えられる横波臨界角θCRで与えられる。例えば、液体が水、被検体が鋼材の場合、水の縦波音速が1480m/s、被検体の横波損速が3200m/sなので、θCRは27.5°となる。
【0044】
(数2)
θCR=sin-1(Cw/Cs)
Cw:液体中の縦波音速
Cs:被検体中の横波音速
【0045】
実際には、探触子から発生する超音波は空間的に広がりがあるため、入射角度は27.5°の前後、すなわち、約22.5°から約32.5°の間の角度であれば、十分な強度で被検体中にレイリー波が発生する。境界504でレイリー波に変換された超音波は、被検体表面を伝搬し、表面または表面近傍に存在する反射源(欠陥)102Aが存在すると、欠陥で反射し進行方向を変えて、再び被検体表面をレイリー波503として伝搬する。表面を伝搬するレイリー波は、レイリー波として伝搬すると同時に、エネルギーの一部が、液体及び被検体中へ超音波として漏洩するように伝搬する。この漏洩した超音波が、再びアレイ探触子101で受信される。
【0046】
入射点のY座標がY0であるときの受信波形は、Aスコープ信号605として、横軸に時間、縦軸に振幅として収録される。欠陥102Aの位置を求めるには、超音波の送信点603を位置の基準とした場合の、入射点105と鋼材表面の伝搬距離604を求めればよい。なお、ここではアレイ探触子101の超音波送信点603は既知として取り扱う。実際には、例えば、アレイ探触子を検査対象部位まで移動するための移動機構により、アレイ探触子の位置を測定することができる。また、本実施例2に記載する方法で超音波によっても測定することができる。
【0047】
アレイ探触子101の超音波送信点603が既知であり、XYZ座標が(X0,Y0,Z0)で与えられているとする。アレイ探触子101と被検体102の距離606(ここでは、液体中を超音波が伝搬する距離として、水距離Dと呼ぶ)については、Z0=−Dが成立するため、Dは既知の値である。このとき、被検体表面に対する入射角θ501Aと水距離D606から、入射点105の座標(Xin,Zin)は数3で与えられる。
【0048】
(数3)
Xin=X0+D×tanθ
Zin=0
【0049】
従って、伝搬時間Tのうち、液体中の往復伝搬時間Tin及び、被検体表面の往復伝搬時間Tsは数4で与えられる。
【0050】
(数4)
Tin=(D/cosθ)/Cw
Ts=T−Tin
Cw:液体中の縦波音速
【0051】
被検体表面の伝搬時間Tsが求められるので、欠陥のXYZ位置座標(Xd,Yd,Zd)は数5で計算できる。なお、被検体表面からの反射信号605Cの出現位置が、液体中の伝搬時間Tin605Bよりやや手前にシフトすることがある。この理由については、実施例2で説明する。
【0052】
(数5)
Xd(T)=Ts×Cr/2=(T−Tin)×Cr/2
Yd=Y0
Zd=0
Cr:被検体のレイリー波音速
【0053】
数5において、X座標は伝搬時間Tの関数となっている。伝搬時間Tにおける振幅605Aは振幅A(T)を持つため、X座標の値がXd(T)で、Y座標の値がY0である画素に対して、振幅A(T)の強さに対応した濃淡またはカラーの画素値を与えることで1ラインの画像を得ることができる。
【0054】
なお、数5中の被検体のレイリー波(表面波)音速は、例えば、記憶部103Fに記憶され、計算機103Aでの処理に提供される。
【0055】
以上は入射点のY座標がY0の場合の説明であるが、フェーズドアレイ方式により、送信に使用する素子群をY軸方向に移動させることで、送信点をY方向にΔYだけ移動することが可能であり、入射点のY座標をY0+ΔYに移動することができる。この場合も上記と同様に1ラインの画像を得ることができる。このようにしてY軸方向に入射点を順次移動することで、1ラインの画像を並べることで、XY2次元の画像を得ることができる。
【0056】
以上のように、フェーズドアレイ方式で超音波の送信点603をY方向に順次切り替えることで、探触子を移動させることなく、1つの軸(X軸)は受信信号の伝搬時間に基づく距離、もう1つの軸(Y軸)はフェーズドアレイ方式による入射点の移動量に基づく距離の2つの軸を持つ2次元画像を作成することができる。
【0057】
なお、2次元画像化範囲を図示すると、図5の領域506のようになり、斜角超音波が入射してレイリー波に変換する領域となる。また、画像化領域内のあるピクセル506Aに、例えば、画素値としてA(T)に対応した濃淡やカラーの値(例えば、振幅が大きいと黒、0に近いと白など)が設定される。
【0058】
欠陥102Aの近傍を本実施例で探傷すると、例えば、104Aに示すような画像を得ることができ、欠陥102Aの形状と同様の欠陥像104Bを得ることができ、被検体表面の欠陥の寸法や性状を評価することができる。
【0059】
図8,図9,図12を用いて、本実施例の探傷方法をフローチャートで示す。図8に、探傷全体のフローを示す。探傷全体は4つのステップで構成される。
【0060】
第一ステップとして、検査対象機器の検査対象(被検体)にアクセスする(S801)。検査対象機器の例として、原子力発電プラントの原子炉炉内構造物(シュラウドサポート,制御棒駆動機構スタブチューブ,炉内計装管台)の溶接部などがある。また、アクセス方法としては、遠隔走査が可能なロボット,マニプレータ,泳動ビークルなどの自動装置の他、センサを直接吊り降ろす等の手動による手段でもよい。
【0061】
第二ステップで、被検体の表面形状を測定する(S802)。このステップの目的は、被検体の表面形状や、被検体表面とアレイ探触子の位置関係を把握することにある。したがって、この第二ステップにより、アレイ探触子101と被検体102の距離606(水距離D)が明らかとなる。本ステップの詳細は、実施例2で説明する。
【0062】
第三ステップで、被検体表面を検査する(S803)。本実施例では、図9を用いて、このステップの詳細について説明する。
【0063】
最後に、被検体内部を検査する(S804)。本ステップの詳細は、第3の実施例で説明する。
【0064】
上記の4つのステップにより、被検体の探傷時に必要な被検体とアレイ探触子の位置関係をステップS802で把握し、被検体の表面検査をS803で実施し、被検体内部の体積検査をS804で実施することで、被検体の表面検査と体積検査の両方を行うことができる。
【0065】
図9に、被検体表面の表面検査(S803)を構成するステップを示す。被検体表面の表面検査では、最初に、レイリー波入射の設定を行い(S901)、次に、被検体表面の探傷を行い(S902)、最後に、被検体表面の検査結果画像を表示する(S903)。
【0066】
レイリー波入射の設定(S901)を行う方法には、例えば、以下の方法がある。被検体表面にレイリー波を発生させるには、被検体表面の法線方向に対して、θCR(数2参照)傾斜した超音波を入射すればよい。
【0067】
具体的には、リニアアレイ探触子(図7においてNbが1の場合)では、超音波の送信方向を、アレイ探触子を傾斜させて決めればよい。また、マトリクスアレイ探触子(図7においてNbが2以上の場合)では、フェーズドアレイ方式を採用して、入射点の切り替えにはA方向で使用する素子領域(701,702)を切り替え、B方向に配列された超音波発生素子に対して、超音波発生時間に遅延を与えることで超音波の送信方向を電子的に傾斜させてもよい。
【0068】
このとき、被検体表面から反射する信号の振幅に着目して、被検体表面からの反射波が最大となるときに、超音波が被検体表面の法線方向に平行に超音波が入射している(すなわち、入射角度が0°)ことが推定できるので、被検体表面からの反射波が最大の状態を角度の基準として、角度θCR傾斜させることで、レイリー波入射の設定を行うことができる。
【0069】
被検体表面の探傷(S902)を行う方法を、図12にフローチャートで示す。
【0070】
最初に、アレイ探触子に与えるディレイパターンを読み込む(S1201)。このディレイパターンには2つの情報が含まれている。1つは、アレイ探触子から送信される超音波の送信角度、もう一つは送受信に使用する送受信素子群である。超音波の送信方向はレイリー波が発生する角度に設定されているが、例えば、機械的に傾斜させる場合には、アレイ探触子からの送信角度は0°、フェーズドアレイ方式で傾斜させる場合には、θCR前後の角度が設定される。また、送受信素子群は、例えば、128素子の超音波発生素子が1列に配列されたアレイ探触子の場合、1パターン目では、1から32素子、2パターン目では、2から33素子、最後の97パターン目で、97から128素子で送受信を行う。
【0071】
次に、読み込んだディレイパターンに従い、最初のパターンの送受信素子群が設定され(S1202)、超音波が送信される(S1203)。液体や被検体表面を伝搬した超音波がアレイ探触子で受信され、Aスコープ信号として収録される(S1204)。
【0072】
受信された信号の伝搬時間のうち、水距離Dが既知であるので、数4及び数5から、被検体表面の伝搬時間に対応した反射源位置座標(Xd,Yd)が算出される(S1205)。次に、前記反射源位置座標を画像化するための画素値として、振幅値A(T)を与える(S1206)。例えば、振幅値を最大値と最小値で規格化して、規格化された振幅値の大きさに比例した白黒濃淡やカラー値(RGBなど)を画素値として設定することで、画像データが生成される。次に、次の入射点に対応した送受信素子群に切り替え(S1207)、これをディレイパターンのすべてについて実施し(S1208)、終了となる。
【0073】
このとき、遅延時間S1202からS1208の処理は、計算機103Aを用いて自動処理として実行される。計算機103Aの処理のフローを、19を用いて説明する。
【0074】
アレイ探触子に与えるディレイパターンは、例えば、ユーザにより手動で入力され(S1900)、記憶部103Fに格納される(S1901)。計算機103Aは、送信に使用する送信素子群及び送信素子群に与えるディレイパターンを、遅延時間制御部103Bに提供し(S1902)、遅延時間制御部103Bはディレイパターンに従って送信素子に電圧を印加するタイミングを遅延させたトリガ信号を発生させる。パルサー103Cは前記トリガ信号に従って、超音波をアレイ探触子から発生させる。送信された超音波は、被検体の表面(または内部)を伝搬して、反射波としてアレイ探触子で受信される。
【0075】
なお、計算機103Bは、記憶部103Fに格納されたディレイパターンに含まれる情報のうち、受信に用いる受信素子群及び受信素子群に与えるディレイパターンを遅延制御部103Bに提供する(S1902)。アレイ探触子で受信される超音波は、圧電素子により、機械的な振動から電気的な信号に変換される。レシーバ103D及びデータ収録部103Eは、遅延制御部103Bにより制御され、受信素子群に指定された素子において受信された信号がレシーバ103Dからデータ収録部103Eに提供される。データ収録部103Eにおいて、電気信号は、アナログからデジタル信号に変換され、さらに、ディレイパターンに従って、各素子で受信された信号が遅延され加算され、Aスコープ信号として収録される。
【0076】
計算機103BはAスコープ信号を読み込み(S1903)、数4及び数5に従って、反射源位置を計算し(S1904)、さらに前記反射源位置に従った画素値を計算し(S1905)、データ表示部104に提供する(S1906)。以上の処理の後に、計算機103Bは、遅延制御部に対して、次の入射点に対応した送受信素子群に切り替える指示を与える。これをディレイパターンのすべてについて実施し(S1907)、被検体表面の表面検査の処理が終了となる。
【0077】
ステップS902により、画素座標(Xd,Yd)に画素値A(T)が割り当てられた2次元画像データが生成されるので、これを表面検査結果として表示する(S903)。図15に表面検査結果の画像例を示す。2次元画像1501において、縦軸は被検体表面の伝搬距離、横軸は入射点の移動量とした例である。また、振幅値A(T)と画素値の対応の例として、図15では、カラーバー1502により振幅値と白黒の濃淡値を対応させ画像化している。
【0078】
この実施例によれば、アレイ探触子を構成する超音波発生素子のうち、送受信に使用する送受信素子群をフェーズドアレイ方式により切り替えることで入射点を移動させ、また、被検体表面を伝搬する伝搬時間と表面波音速から、被検体表面の伝搬距離に換算することで、アレイ探触子の位置を走査することなく、被検体表面の検査結果画像を作成,表示することができる。したがって、画像作成のためのアレイ探触子移動なく、電子的な制御で超音波画像を合成できる簡便な超音波探傷方法及び装置を提供することができる。
【実施例2】
【0079】
第2の実施形態では、第1の実施形態のように被検体表面の表面検査をステップS803で行うが、その前のステップとして被検体表面形状の測定をステップS802で行う。被検体表面の表面検査をステップS803で行う内容は第1の実施形態と同じなので、その説明を省略して、被検体表面形状の測定をステップS802で行う内容について以下に解説する。
【0080】
本発明の第2の実施形態では、被検体表面形状の断面画像を表示してその形状を可視化する例である。これは探傷フロー(図8)では、被検体表面形状の測定(S802)に相当する。
【0081】
図10に、被検体表面形状の測定(S802)を構成するステップを示す。被検体表面の表面検査では、最初に、縦波垂直超音波入射の設定を行い(S1001)、次に、被検体表面形状及び距離の測定を行い(S1002)、最後に、被検体表面形状の断面結果画像を表示する(S1003)。
【0082】
縦波垂直超音波入射の設定(S1001)を行う方法には、例えば、以下の方法がある。被検体表面の形状及び距離の測定には、被検体表面からの縦波反射波を用いる。なお、アレイ探触子と被検体の間は液体で満たされている。通常の粘性の小さい液体は縦波のみを伝える性質があるため、本実施例で利用する超音波は、液体中を伝搬する縦波超音波である。
【0083】
液体と被検体表面の境界面での反射波の強度は、被検体表面に垂直に入射する場合に最も反射率が大きくなることが知られているので、理論上は被検体表面の法線方向に超音波が入射するように設定するのがよい。しかしながら、液体から金属に超音波が入射する場合の反射率は約90%であり、ほとんどのエネルギーが反射されるため非常に強い信号となる。本発明の属する、通常の固体を検査する用途の超音波探傷装置では、超音波探触子から固体に入射し、固体中を伝搬し、再び超音波探触子に戻ってくる微弱な超音波を受信できるように増幅率の大きなアンプ機能を有している。したがって、液体と金属の境界面で反射された超音波についても増幅することで非常に微弱な強度でも識別が可能となる。このため、実用上は、被検体表面の法線方向から約30°程度ずれた方向であっても、被検体表面の反射波を十分な強度で受信することができる。
【0084】
被検体表面に縦波垂直超音波を被検体の法線方向に入射させるには、アレイ探触子を機械的に傾斜させる方法と、あるいは、フェーズドアレイ方式を採用して、アレイ探触子を構成する超音波発生素子の超音波発生時間に遅延を与えることで超音波の送信方向を電子的に傾斜させる方法が考えられる。さらに、被検体表面が平板に近い場合には、探触子の方向が被検体表面から約30°程度ずれていたとしても、前述したように、被検体表面からの反射波の強度が大きい特性があるため、実施例1で示したような、レイリー波が発生するようにアレイ探触子の方向を設定した場合においても、十分な強度で被検体表面からの信号を受信できる。このため、被検体表面からの反射波を受信するためを目的とした機械的または電子的な傾斜操作が不要になり、より簡便な測定が可能となる。
【0085】
なお、被検体表面が曲率を持つ場合など、被検体表面からの反射波が幾何学的な理由により微弱となる可能性がある場合には、被検体表面から反射する信号の振幅に着目して、被検体表面からの反射波が最大となるときに、超音波が被検体表面の法線方向に平行に超音波が入射している(すなわち、入射角度が0°)ことが推定できるので、振幅が最大となる場合の反射波を利用するとよい。
【0086】
被検体表面形状及び距離の測定(S1002)を行う方法を、図13にフローチャートで示す。最初に、アレイ探触子に与えるディレイパターンを読み込む(S1301)。このディレイパターンには2つの情報が含まれている。1つは、アレイ探触子から送信される超音波の送信角度、もう一つは送受信に使用する送受信素子群である。
【0087】
超音波の送信方向は被検体表面からの反射波が受信できる角度に設定されているが、例えば、被検体表面が曲面の場合には、アレイ探触子からの送信角度は0°、被検体表面が平板に近い場合には、実施例1に記載のレイリー波発生のためのディレイパターンのままでよい。
【0088】
また、送受信素子群は、例えば、128素子の超音波発生素子が1列に配列されたアレイ探触子の場合、1パターン目では、1から32素子、2パターン目では、2から33素子、最後の97パターン目で、97から128素子で送受信を行う。
【0089】
次に、読み込んだディレイパターンに従い、最初のパターンの送受信素子群を設定し(S1302)、超音波を送信する(S1303)。液体中を伝搬し、被検体表面で反射された超音波がアレイ探触子で受信され、Aスコープ信号として収録される(S1304)。
【0090】
本実施例では、水距離Dは既知でなくてもよい。検査対象機器(被検体)へのアクセス(S801)のステップで、アクセス用の装置の座標等から水距離Dが推定できる場合もあるが、本実施例では、本発明で用いるアレイ探触子によって水距離D及びDの分布を表したもの、すなわち、断面形状を測定する方法を説明する。
【0091】
レイリー波が送信されるように設定した場合、被検体表面形状を測定で受信される信号は、例えば、図6のAスコープ信号605のような波形となる。被検体表面からの反射波605Cは、液体中を斜めの経路(601及び602)を伝搬する伝播時間Tinとややずれた位置に出現する。その理由は、上述の通り、液体と被検体表面の境界からの反射波の信号は非常に強い信号強度を持つため、液体中の最短の伝搬経路(608,609)を伝わる反射波も十分な強度で受信されることになる。
【0092】
したがって、被検体表面からの反射波は伝搬経路608及び609の最短経路をとるため、Tinより早い時間位置に出現することになる。被検体表面までの距離D及び形状を測定するには、被検体表面からの信号605Cの伝搬時間に注目すればよい。液体中の縦波音速をCw、被検体表面からの反射波の伝搬時間をTwとすれば、被検体表面までの距離Dは数6で計算することができる(S1305)。
【0093】
(数6)
D=Tw×Cw/2
【0094】
なお、数6中の液体の縦波音速は、例えば、記憶部103Fに記憶され、計算機103Aの処理に提供される。
【0095】
次に、前記反射源位置座標を画像化するための画素値として、振幅値A(T)を与える(S1306)。例えば、振幅値を最大値と最小値で規格化して、規格化された振幅値の大きさに比例した白黒濃淡やカラー値(RGBなど)を画素値として設定することで、画像データが生成される。次に、次の入射点に対応した送受信素子群に切り替え(S1307)、これをディレイパターンのすべてについて実施し(S1308)、終了となる。
【0096】
ステップS1002により、超音波入射点の移動量と、水距離D、すなわち、Z軸(深さ方向)に画素値A(Tw)が割り当てられた2次元画像データが生成されるので、これを表面検査結果として表示する(S1003)。図16に表面形状の断面結果の画像例を示す。2次元画像1601において、縦軸は液体中の伝搬距離、横軸は入射点の移動量とした例である。被検体表面からの反射波1602が現れる縦軸の距離から、被検体表面とアレイ探触子の間の水距離Dが約27mmであることが分かる。なお、振幅値A(T)と画素値の対応の例として、図15と同じカラーバー1502により振幅値と白黒の濃淡値を対応させ画像化している。
【0097】
このとき、遅延時間S1302からS1308の処理は計算機103Aを用いて自動処理として実行される。処理のフローは図20に示すように、図19に示す実施例1の自動処理のフローと同様の流れとなる。ただし、ディレイパターンの入力(S2000)については、例えば、実施例1のフロー(S1900)と入力を共通化することで、表面形状計測の処理が終了後、自動処理を継続して、被検体表面の表面検査の処理に移行することが可能となる。
【0098】
この実施例によれば、アレイ探触子を構成する超音波発生素子のうち、送受信に使用する送受信素子群をフェーズドアレイ方式により切り替えることで入射点を移動させ、また、液体中を伝搬する伝搬時間と液体中の縦波音速から、液体中の伝搬距離に換算することで、アレイ探触子の位置を走査することなく、被検体表面形状の断面結果画像を作成,表示することができる。さらに、実施例1に記載の表面検査も実施することが可能である。したがって、画像作成のためのアレイ探触子移動なく、電子的な制御で超音波画像を合成できる簡便な超音波探傷方法及び装置を提供することができる。
【実施例3】
【0099】
第3の実施形態では、第2の実施形態による被検体表面形状の測定をステップS802で行った後に第1の実施形態のように被検体表面の表面検査をステップS803で行い、その後に、被検体102の体積検査のステップS804を行う。
【0100】
第1と第2の各実施形態は既述したので、それらのステップ802,S803の説明を省略して、以下には、被検体102の内部の体積検査のステップS804について解説する。
【0101】
本発明の第3の実施形態では、被検体内部の体積検査の検査画像を表示する例である。探傷フロー(図8)では、被検体内部の体積検査(S804)に相当する。
【0102】
図11に、被検体内部の体積検査(S804)を構成するステップを示す。体積検査では、最初に、被検体102内部の体積検査箇所の選定を行う(S1100)。すなわち、体積検査に先行して実施した被検体表面の検査結果から、被検体表面に欠陥が存在する箇所について、欠陥の深さの情報得るために、被検体内部の体積検査を実施する箇所を選定する。次に、被検体102中を伝搬する縦波または横波超音波入射の設定を行い(S1101)、縦波または横波を用いて被検体内部の探傷(S1102)にて体積検査を行い、最後に、被検体102内部の体積検査の結果画像を検査画像として表示部104に表示する(S1103)。
【0103】
縦波または横波超音波入射の設定(S1101)を行う方法には、例えば、以下の方法がある。被検体内部に発生する超音波が縦波でも横波でも方法に差はないため、ここでは縦波を中心に説明する。なお、縦波と横波の使い分けとしては、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼や、高ニッケル合金の溶接部に対しては縦波を、炭素鋼溶接部には横波を用いる、などとする。
【0104】
図18は、入射点位置1803におけるXZ断面図である。被検体102に表面開口している反射源(欠陥)102Aを例に説明する。一般にき裂などの欠陥は、開口部(XY面の表面)の広がりの他に、内部(Z方向)の広がりを持っている。体積検査では、この反射源の先端位置1802Aからの反射波から反射源の深さ位置1804を評価する。先端位置1802Aに超音波を入射させるため、一般に斜角超音波が利用される。ここでは、屈折角θ2(1802C)で被検体中に斜め方向の超音波(斜角超音波)を伝搬させている。
【0105】
被検体内部を角度θ2で伝搬する縦波または横波超音波を発生させるには、被検体表面の法線方向に対して、θ1(数7参照)傾斜した超音波を入射すればよい。
【0106】
(数7)
θ1=sin-1(sinθ2×Cw/Cv)
Cw:液体中の縦波音速
Cv:被検体中の音速(縦波または横波)
【0107】
なお、数7中の液体の縦波音速及び被検体中の音速(縦波または横波)は、例えば、記憶部103Fに記憶され、計算機103Aの処理に提供される。
【0108】
具体的には、リニアアレイ探触子の場合では探触子を傾斜させて超音波の送信方向を傾斜させればよい。また、マトリクスアレイ探触子の場合では、フェーズドアレイ方式を採用して、アレイ探触子を構成する超音波発生素子の超音波発生時間に遅延を与えることで超音波の送信方向を電子的に傾斜させてもよい。
【0109】
このとき、被検体表面から反射する信号の振幅に着目して、被検体表面からの反射波が最大となるときに、超音波が被検体表面の法線方向に平行に超音波が入射している(すなわち、入射角度が0°)ことが推定できるので、被検体表面からの反射波が最大の状態を角度の基準として、角度θ1傾斜させることで、角度θ2の超音波入射の設定を行うことができる。
【0110】
被検体内部の探傷(S1202)を行う方法を、図14にフローチャートで示す。最初に、アレイ探触子に与えるディレイパターンを読み込む(S1401)。このディレイパターンには2つの情報が含まれている。1つは、被検体内部の超音波の伝搬角度θ2(または液体中の送信角度θ1)、もう一つは送受信に使用する送受信素子群である。超音波の送信方向は縦波(または横波)が発生する角度に設定されているが、例えば、機械的に傾斜させる場合には、アレイ探触子からの送信角度は0°、フェーズドアレイ方式で傾斜させる場合には、θ1の角度が設定される。
【0111】
また、送受信素子群は、例えば、128素子の超音波発生素子が1列に配列されたアレイ探触子の場合、1パターン目では、1から32素子、2パターン目では、2から33素子、最後の97パターン目で、97から128素子で送受信を行う。
【0112】
次に、読み込んだディレイパターンに従い、最初のパターンの送受信素子群を設定し(S1402)、超音波を送信する(S1403)。液体や被検体表面を伝搬した超音波がアレイ探触子で受信され、Aスコープ信号として収録される(S1404)。探触子位置1803で受信されるAスコープ信号1801は、横軸に時間、縦軸に振幅A(T)で表される波形となる。
【0113】
受信された信号の伝搬時間のうち、水距離Dが既知であるので、数8及び数9から、被検体表面の伝搬時間に対応した反射源位置座標(Xd,Yd,Zd)が算出される(S1405)。次に、前記反射源位置座標を画像化するための画素値として、振幅値A(T)を与える(S1406)。例えば、振幅値を最大値と最小値で規格化して、規格化された振幅値の大きさに比例した白黒濃淡やカラー値(RGBなど)を画素値として設定することで、画像データが生成される。次に、次の入射点に対応した送受信素子群に切り替え(S1407)、これをディレイパターンのすべてについて実施し(S1408)、終了となる。
【0114】
(数8)
T1=(D/cosθ1)/Cw
T2=T−T1
Cw:液体中の縦波音速
【0115】
(数9)
Xd(T)=T2×Cv/2×sinθ2
Yd=Y0
Zd(T)=T2×Cv/2×cosθ2
【0116】
ステップS902により、画素座標(Xd,Yd,Zd)に画素値A(T)が割り当てられる。このように、一箇所の入射点でのAスコープ信号はXZ断面図1802の中の1本のライン1802Bに相当するデータを与える。さらに、探触子201を、アレイ探触子の送信位置を切り替えることによってY軸方向に移動すると、探触子位置205の移動にともなって、斜角超音波の入射点位置403がY軸に沿って移動する。こうすることで、振幅の強度を可視化したライン402Bが複数本、Y軸方向に並ぶことで、ライン状のデータが、各伝搬時間に相当する振幅値の強度に相当する濃度や色情報を持った2次元画像に変換される。このようにして生成された2次元画像データを、体積検査結果として表示する(S903)。
【0117】
このとき、遅延時間S1402からS1408の処理は計算機103Aを用いて自動処理として実行される。処理のフローは図21に示すように、実施例1及び実施例2の自動処理のフロー(図19及び図20)と同様の流れとなる。ただし、ディレイパターンの入力(S2100)については、例えば、実施例2のフロー(S2000)と入力を共通化することで、表面形状計測及び表面検査の処理が終了後、自動処理を継続して、被検体内部の体積検査の処理に移行することが可能となる。
【0118】
図17にフェーズドアレイ方式で被検体中に斜め方向に超音波を入射した場合の被検体内部の体積検査結果の画像例を示す。図17は、あるY座標での(Yd,Zd)の2次元画像1701である。なお、振幅値A(T)と画素値の対応の例として、図15と同じカラーバー1502により振幅値と白黒の濃淡値を対応させ画像化している。被検体表面の指示(1702)を基準として、被検体内部に存在する欠陥の先端部の指示(1703)を測定することで、欠陥の深さ(1804)を測定することができる。
【0119】
この実施例によれば、アレイ探触子を構成する超音波発生素子のうち、送受信に使用する送受信素子群をフェーズドアレイ方式により切り替えることで入射点を移動させ、また、被検体中を伝搬する伝搬時間と被検体の縦波または横波音速から、被検体中の伝搬距離に換算することで、アレイ探触子の位置を走査することなく、被検体内部の体積検査の結果画像を作成,表示することができる。さらに、実施例1に記載の表面検査も実施することが可能である。したがって、画像作成のためのアレイ探触子移動なく、電子的な制御で超音波画像を合成できる簡便な超音波探傷方法及び装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、構造物を非破壊的に検査する超音波探傷技術の分野に利用可能性がある。
【符号の説明】
【0121】
101 アレイ探触子
102 被検体
103 送受信部
104 表示部
105 入射点
105B 表面波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイ探触子と、
前記アレイ探触子をフェーズドアレイ方式により動作させて、被検体に表面波を発生させる角度の斜角超音波を送受信する送受信部と、
前記送受信部から供給された受信信号に基づいて前記被検体の検査画像を表示する表示部と、
を備えた超音波探傷装置において、
前記被検体への前記斜角超音波の入射点を、前記アレイ探触子で用いる圧電素子のディレイパターンを切り替えて、前記斜角超音波の伝搬方向と被検体の法線方向とが形成する超音波伝搬面の面外に、電子的に移動させる手段と、
前記入射点の移動量と、前記入射点で発生した表面波が前記被検体を伝播して超音波反射源で反射して受信された前記受信信号とに基づいた前記被検体の表面の検査画像を前記表示部に表示させる手段とを備えたことを特徴とするアレイ探触子を用いた超音波探傷装置。
【請求項2】
請求項1において、前記送受信部は、前記受信信号に基づいて前記入射点から超音波反射源との間の距離を算出する計算機を備え、前記入射点の移動量を二次元座標の一つの座標軸とし、前記入射点から超音波反射源との間の距離をもう一つの座標軸として被検体表面の検査画像を二次元画像にて前記表示部に表示させる手段を備えたことを特徴とするアレイ探触子を用いた超音波探傷装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、前記送受信部は、前記アレイ探触子から発信した超音波の前記アレイ探触子と前記被検体の間の伝播距離から前記アレイ探触子と前記被検体の間の距離を算出する計算機を備え、前記入射点の移動量を二次元座標の一つの座標軸とし、前記アレイ探触子と前記被検体の間の距離をもう一つの座標軸として前記アレイ探触子と前記被検体表面との間の断面画像を二次元画像にて前記表示部に表示させる手段を備えたことを特徴とするアレイ探触子を用いた超音波探傷装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2又は請求項3において、前記送受信部は、前記入射点から被検体の深層方向に入射した超音波の受信信号に基づいて超音波反射源の座標を求める計算機を備え、前記入射点の移動量を二次元座標の一つの座標軸として前記被検体の体積検査の検査画像を二次元画像にて前記表示部に表示させる手段と、前記被検体の表面からの反射波の伝播時間と前記超音波の音速に基づいて前記被検体の表面の形状を測定する手段とを備えたことを特徴とするアレイ探触子を用いた超音波探傷装置。
【請求項5】
超音波探傷装置のアレイ探触子をフェーズドアレイ方式により動作させて、前記アレイ探触子から超音波を被検体に対して送受信し、前記送受信結果に基づいて前記超音波探傷装置の表示部に検査画像を表示する超音波探傷方法において、
前記アレイ探触子から前記被検体の表面に表面波を発生させる角度の斜角超音波を発信すると共に、前記斜角超音波の前記被検体への入射点を、前記被検体に設定した多次元座標軸の内、前記斜角超音波の伝搬方向と前記被検体の法線方向とに対して角度を有して設定した一つの次元の座標軸沿いに移動させ、
前記入射点の移動量と、前記入射点で発生した表面波が前記被検体を伝播して超音波反射源で反射して受信された前記受信信号とに基づいた前記被検体の表面の検査画像を前記表示部に表示させることを特徴とするアレイ探触子を用いた超音波探傷方法。
【請求項6】
請求項5において、前記表示部に、前記入射点の移動量を一つの座標軸にとり、前記入射点から前記超音波反射源までの距離をもう一つの座標軸にとって前記被検体の表面の検査画像を二次元座標にて表示することを特徴とするアレイ探触子を用いた超音波探傷方法。
【請求項7】
請求項6に記載の超音波探傷方法において、前記被検体へのアレイ探触子から発信角度0度の超音波或いは前記斜角超音波の前記被検体表面からの伝搬時間及び超音波の縦波音速から算出される被検体表面までの伝搬距離と、前記入射点の移動量に基づいて、前記被検体表面形状の形状を測定する形状測定ステップを有することを特徴とするアレイ探触子を用いた超音波探傷方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の超音波探傷方法において、前記入射点の移動量を一つの座標軸として、前記被検体の体積検査の検査画像を二次元画像として表示する体積検査のステップを有することを特徴とするアレイ探触子を用いた超音波探傷方法。
【請求項9】
請求項8に記載の超音波探傷方法において、
前記被検体の検査を、前記被検体表面の形状測定のステップと、前記表面波による被検体表面の表面検査のステップと、前記被検体内部の体積検査のステップの3つのステップとを、前記形状測定のステップ,表面検査のステップ,体積検査のステップの順で実施して行うことを特徴とするアレイ探触子を用いた超音波探傷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−58112(P2012−58112A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202613(P2010−202613)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】