説明

アンダーパス道路の騒音抑制方法及び構造

【課題】騒音抑制効果を高くできるアンダーパス道路の騒音抑制方法、及び構造の提供を課題とする。
【解決手段】他の道路18と交差し、且つ他の道路18の下側を通過するアンダーパス道路10の騒音抑制方法及び構造である。アンダーパス道路10の両側に側壁12,13を設け、側壁12,13におけるアンダーパス道路10側の側面に凹部20を設け、側壁12,13におけるアンダーパス道路10側の側面に、凹部20を遮蔽するように吸音部材15を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンダーパス道路の騒音抑制方法及び構造に関する。
【背景技術】
【0002】
他の道路と交差し、且つ他の道路の下側を通過するアンダーパス道路は、両側を側壁で囲まれているため、アンダーパス道路を通過する自動車などから発生した騒音が側壁で反射を繰り返し、大きな騒音となることがある。
【0003】
このためアンダーパス道路には、騒音抑制構造が施されていることが多い。この騒音抑制構造は、アンダーパス道路におけるトンネル部分及びアプローチ部分の両方の側壁に施すのが普通である。
【0004】
従来、アンダーパス道路の騒音抑制構造は、アンダーパス道路の側壁をコンクリートで形成し、そのアンダーパス道路側の表面(側面)を平坦に仕上げ、この平坦な表面に吸音部材を密着させて設けるのが一般的であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のアンダーパス道路の騒音抑制構造では、次に説明するように、騒音抑制効果が低いという問題があった。
【0006】
すなわち、アンダーパス道路における側壁の表面に吸音部材を設けることにより騒音抑制の効果を上げるためには、吸音部材の材質の選択と、その配置が重要である。
【0007】
吸音部材としては、グラスウールなどの多孔質材料が有効である。このような多孔質材料に音が当たると、音の空気振動が直接、多孔質材料内部の気泡部分の空気に伝わる。そうすると、気泡の面で空気の粘性摩擦を生じ、音のエネルギーの一部が熱エネルギーに変換され、吸音作用を生じる。
【0008】
一方、吸音部材は、自動車等の騒音が吸音部材を通過して側壁の表面で反射し、更に吸音部材を通過してアンダーパス道路側に放射される際に、その音エネルギーをできるだけ多く吸収できる位置に配置するのが望ましい。このためには、吸音部材における気泡の面と、音波を形成する空気との間に発生する粘性摩擦を大きくすればよい。
【0009】
上記のように、吸音部材の気泡の面と音波を形成する空気との間の粘性摩擦を大きくするためには、側壁の表面から反射した音波の腹又はその近傍の振幅の大きい部分が、吸音部材と交差するように吸音部材の位置を設定するのが有効である。
【0010】
しかし、従来のアンダーパス道路における側壁の騒音抑制構造方法では、吸音部材としてグラスウールなどの多孔質部材が用いられていたものの、吸音部材が適切な位置に配置されていなかった。
【0011】
すなわち、道路の建築限界の制約などからアンダーパス道路の側壁の厚さを自由に設定することはできず、側壁の厚さが比較的薄くなる傾向がある。
【0012】
従来は、比較的薄い側壁の平坦な表面に吸音部材を密着させて設けていたので、側壁の表面で反射した音波の節(振幅が0である)に近い部分、すなわち振幅の小さい部分が吸
音部材と交差していた。
【0013】
このため、従来の騒音抑制構造では、吸音部材によって吸収される音のエネルギーが小さく、騒音抑制効果が低かった。
【0014】
本発明は、このような問題に鑑みなされたもので、騒音抑制効果を向上させることが可能なアンダーパス道路における騒音抑制方法、および騒音抑制構造の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、前記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
(1)本発明は、
他の道路と交差し、且つ前記他の道路の下側を通過するアンダーパス道路の騒音抑制方法であって、
前記アンダーパス道路の両側に側壁を設け、
前記側壁における前記アンダーパス道路側の表面に凹部を設け、
前記側壁における前記アンダーパス道路側の表面に、前記凹部を遮蔽するように吸音部材を設けたことを特徴とする。
【0016】
本発明では、吸音部材と側壁の凹部における底面との間に、空気層が設けられる。これにより、アンダーパス道路側で発生した自動車などの騒音が、吸音部材を通過し側壁における凹部の底面で反射してアンダーパス道路側に放射される際に、音波の節から比較的離れた部分、すなわち、音波の腹又はその近傍の振幅の大きな部分が、吸音部材と交差する。従って、吸音部材と音波を形成する空気との粘性摩擦が大きくなるので、音の吸収エネルギーが大きくなる。これにより、騒音抑制効果を向上させることができる。
【0017】
(2)また、本発明は、
他の道路と交差し、且つ前記他の道路の下側を通過するアンダーパス道路の騒音抑制構造であって、
前記アンダーパス道路の両側に設けられ、前記アンダーパス道路側の表面に凹部が設けられた側壁と、
前記側壁における前記アンダーパス道路側の表面に、前記凹部を遮蔽するように設けられた吸音部材と、
を備えたことを特徴とする。
【0018】
(3)前記側壁は管部材、又は断面がコ字形若しくはH形の形鋼を略隙間なく並べて打設することにより形成するのが好ましい。側壁を管部材で形成した場合は、管部材同士の間にフレア状の凹部が形成される。また、側壁を断面がコ字形又はH字形の形鋼で形成した場合は、形鋼自体が有する凹部を利用できる。
【0019】
(4)前記側壁は、前記アンダーパス道路を掘削する前に予め設けられた山留め壁を用いることができる。この場合は、アンダーパス道路の施工時に用いた山留め壁をそのまま残して側壁として利用するので、工期短縮及びコスト低減が可能になる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、吸音部材と、アンダーパス道路上で発生した騒音が反射する側壁の凹部における底面との間に空気層が形成される。これにより、側壁における凹部の底面で反射した音波の振幅の大きい部分が、吸音部材と交差するようにできるので、吸音部材による音の吸収エネルギーを大きくできる。従って、騒音抑制効果を向上させることができる。
【0021】
また、側壁を管部材、又は断面がコ字形若しくはH字形の形鋼によって形成した場合は、側壁に凹部を設けるために特別な工事を行い、或いは特別な部材を用いる必要がないので工期の短縮及びコストの低減が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
《第1の実施の形態》
図1に示すように、本発明に係る第1の実施の形態のアンダーパス道路10は、上り及び下りの2列に設けられている。これらのアンダーパス道路10,10における底部には、それぞれコンクリート底版11,11が敷設されている。
【0023】
上記の2列のアンダーパス道路10,10の両側には、側壁として機能する自立性の山留め壁12,12が設けられている。また、本例では、2列のアンダーパス道路10,10の間にも、側壁(隔壁)として機能する山留め壁13が設けられている。
【0024】
これらの山留め壁12,13は、アンダーパス道路10,10を掘削する際に、アンダーパス道路10側に土が崩れてくるのを防止するために用いられるものであり、アンダーパス道路10,10が完成した後もそのまま残されて側壁として用いられる。
【0025】
各アンダーパス道路10,10のコンクリート底版11,11上には、両側の山留め壁12,12に接して所定の幅を有する歩道16が設けられている。
【0026】
上記の山留め壁12,13は、図2に示すように、断面が円形の管部材である鋼管14が、アンダーパス道路10と平行な直線上に略隙間なく並べて打設されることにより構成されている。また、両側の山留め壁12の内側面、及び中央の山留め壁13の両側面には、吸音部材15が貼り付けられている。
【0027】
アンダーパス道路10における交差点の部分、すなわちトンネル部においては、両側の山留め壁12,12及び中央の山留め壁13の上に、覆工17が設けられている。アンダーパス道路10と交差する道路18は、覆工17の上を通過する。アンダーパス道路10の交差点以外の部分、すなわちアプローチ部は、覆工17がなく上部側が解放されている。なお、図2中の符号19は、覆工17を形成するプレキャストコンクリート桁である。
【0028】
図3に示すように、上記山留め壁12,13(土留め壁12のみ図示)を構成する鋼管14,14・・・の間には、フレア状の凹部20,20・・・が連続的に多数形成されている。これらの凹部20は、それぞれ鉛直方向に延びている。
【0029】
また、山留め壁12,13のアンダーパス道路10側の表面には、上記吸音部材15が、凹部20を遮蔽するように設けられている。この吸音部材15としては、グラスウール、ロックウールなどの多孔質部材を例示できる。
【0030】
次に、このアンダーパス道路の騒音抑制構造の作用を説明する。図4に示すように、アンダーパス道路10上で発生した自動車などの騒音は、吸音部材15を通過し、側壁12の表面、すなわち、鋼管14,14・・・間に形成された凹部20の底面20aに衝突して反射する。
【0031】
凹部20の底面20a(鋼管14,14の表面)で反射した音波Sは、再度、吸音部材15を通過してアンダーパス道路10側に放射される。このとき、吸音部材15によって音波Sにおける音のエネルギーが吸収される。
【0032】
本実施形態では、騒音が反射する凹部20の底面20aと吸音部材15との間に、空気層が形成されている。これにより、凹部20の底面20aで反射した音波Sと、吸音部材15との間に適宜な間隔が形成されている。
【0033】
一方、凹部20の底面20aで反射した音波Sは、底面20a側に節S1が形成され、アンダーパス道路10側に腹S2が形成される。そして、底面20aにおけるフレア形状の頂点付近で反射した音波Sは、その腹S2の近傍における振幅bが大きい部分で吸音部材15と交差する。従って、吸音部材15によって吸収される音波Sのエネルギーが大きくなる。
【0034】
また、底面20aにおけるフレア形状の頂点からずれた部分においても、吸音部材15との間に空気層が形成されているので、ここで反射した音波Sは、その振幅bがある程度大きい部分で吸音部材15と交差する。従って、吸音部材15により吸収される音波Sのエネルギーが大きくなる。
【0035】
これにより、従来のように、側壁の表面を平坦に形成し、この平坦な表面に吸音部材を密着させて設けた場合に比べて、吸音部材15によって吸収される音のエネルギーを大きくできるので、騒音抑制効果を向上させることができる。
【0036】
また、本実施形態では、鋼管14を並列に並べて打設することにより側壁12,13を形成し、鋼管14,14間に必然的に形成される凹部20上に吸音部材15を設けたので、凹部20を形成するために、特別な追加作業を行ったり、特別な部材を用いたりする必要がない。従って、工期短縮及びコスト低減が可能になる。
【0037】
また、鋼管14,14間に形成された多数の凹部20が吸音部材15によって遮蔽されるので、外観が向上する。
【0038】
更に、アンダーパス道路10の施工時に予め設けた山留め壁12,13を、アンダーパス道路10の完成後もそのまま残して側壁として用いるので、工期短縮及びコスト低減が可能になる。
【0039】
《第2の実施の形態》
以下の説明では、第1の実施の形態と同様な部分には、同一の符号を付けてその詳細な説明を省略する。
【0040】
図5は、本発明に係る第2の実施の形態のアンダーパス道路の騒音抑制構造2を示す。このアンダーパス道路の騒音抑制構造2は、アンダーパス道路10の両側(片側のみ図示)に設けられた側壁22及び吸音部材15を備えている。
【0041】
上記側壁22は、断面がコ字形の形鋼23を配列に並べて打設することにより形成されている。また、形鋼23は、その凹部24をアンダーパス道路10側に向けて配置されている。
【0042】
上記吸音部材15は、形鋼23におけるフランジ部23aの先端に設けられている。これによって、形鋼23内の凹部24が遮蔽されている。
【0043】
このアンダーパス道路の騒音抑制構造2は、第1の実施の形態のアンダーパス道路の騒音抑制構造1と同様な作用効果がある。
【0044】
更に、この第2の実施の形態の騒音抑制構造2では、凹部24の全体に亘ってその深さ
が略均一なので、広い範囲で凹部24の底面24aと吸音部材15との間隔を広くできる。従って、吸音部材15による音の吸収エネルギーを広い範囲で大きくできるので、騒音抑制効果を更に向上させることができる。
【0045】
《第3の実施の形態》
図6は、本発明に係る第3の実施の形態のアンダーパス道路の騒音抑制構造3を示す。このアンダーパス道路の騒音抑制構造3は、側壁25と、吸音部材15とを備えている。
【0046】
側壁25は、断面がH字形の形鋼26が並列に並べられて打設されることによって形成されている。形鋼26の凹部27は、アンダーパス道路10側に向けて配置されている。また、吸音部材15は、形鋼26におけるアンダーパス道路10側のフランジ部25aの先端に設けられている。これにより、形鋼26の凹部27が吸音部材15によって遮蔽されている。なお、図6中の符号27aは、凹部27の底面を示す。
【0047】
このアンダーパス道路の騒音抑制構造3は、第2の実施の形態のアンダーパス道路の騒音抑制構造2と同様な作用効果を有している。
【0048】
なお、上記の実施の形態では、管部材又は断面がコ字形若しくはH形の形鋼によって側壁及び凹部を形成したが、これ以外の各種の部材によって側壁及び凹部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態におけるアンダーパス道路の騒音抑制構造を示す図である。
【図2】本発明に係る第1の実施の形態におけるアンダーパス道路の側壁及び覆工を示す図であり、図1のA矢視図である。
【図3】本発明に係る第1の実施の形態における側壁の鋼管及び吸音部材を示す断面図であり、図1のB−B断面図である。
【図4】本発明に係る第1の実施の形態の作用を説明する図である。
【図5】本発明に係る第2の実施の形態におけるアンダーパス道路の騒音抑制構造を示す断面図である。
【図6】本発明に係る第3の実施の形態におけるアンダーパス道路の騒音抑制構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1,2,3 騒音抑制構造
10 アンダーパス道路
11 コンクリート底版
12,13 側壁
14 鋼管(管部材)
15 吸音部材
16 歩道
17 覆工
18 他の道路
20 凹部
20a 凹部の底面
22 側壁
23 断面がコ字形の形鋼
23a 形鋼のフランジ部
24 凹部
24a 凹部の底面
25 側壁
25a フランジ部
26 断面がH字形の形鋼
27 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の道路と交差し、且つ前記他の道路の下側を通過するアンダーパス道路の騒音抑制方法であって、
前記アンダーパス道路の両側に側壁を設け、
前記側壁における前記アンダーパス道路側の側面に凹部を設け、
前記側壁における前記アンダーパス道路側の側面に、前記凹部を遮蔽するように吸音部材を設けたことを特徴とするアンダーパス道路の騒音抑制方法。
【請求項2】
他の道路と交差し、且つ前記他の道路の下側を通過するアンダーパス道路の騒音抑制構造であって、
前記アンダーパス道路の両側に設けられ、且つ前記アンダーパス道路側の側面に凹部が設けられた側壁と、
前記側壁における前記アンダーパス道路側の側面に、前記凹部を遮蔽するように設けられた吸音材と、
を備えたことを特徴とするアンダーパス道路の騒音抑制構造。
【請求項3】
前記側壁は管部材、又は断面がコ字形若しくはH字形の形鋼が、略隙間なく並べて打設されることにより形成されていることを特徴とする請求項2に記載のアンダーパス道路の騒音抑制構造。
【請求項4】
前記側壁は、前記アンダーパス道路を掘削する前に予め設けられた山留め壁であることを特徴とする請求項2又は3に記載のアンダーパス道路の騒音抑制構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−9605(P2007−9605A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194084(P2005−194084)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】