説明

アンテナ装置

【課題】レーダ断面積の低減を図ったアンテナ装置を得る。
【解決手段】誘電体基板(2)の表面に1つ以上のアンテナ放射素子(1)を配置したアンテナ装置において、誘電体基板(2)の裏面に設けられ、アンテナ放射素子(1)の動作帯域内の周波数では電磁波を反射し、アンテナ放射素子の動作帯域外の周波数では電磁波を透過する周波数選択板(3)を備える。この結果、アンテナ動作帯域外の周波数の電磁波がアンテナ地板で反射することがなくなり、レーダ断面積の低減を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ断面積の低減を図ったアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ断面積(RCS:Radar Cross Section)の大きな飛翔体は、より近距離でレーダに探知されやすくなる。このため、飛翔体によっては、レーダ断面積を低減する対策、いわゆる、ステルス化が施される。飛翔体の構造のなかで、レーダ断面積の大きな箇所は複数あり、その対象ごとに、適切なレーダ断面積の低減技術を施すことが重要である。
【0003】
低減すべきレーダ断面積の主な要素の1つとして、飛翔体に搭載されているアレーアンテナがある。そこで、次に、アレーアンテナのレーダ断面積の概要について説明する。
【0004】
アレーアンテナの代表的なものの1つとして、マイクロストリップアレーアンテナがある(例えば、非特許文献1参照)。図5は、誘電体基板を用いて構成された従来のマイクロストリップアレーアンテナの構成図である。この従来のマイクロストリップアレーアンテナは、アンテナ放射素子1、誘電体基板2、および金属板5を備えて構成されている。
【0005】
アンテナ放射素子1は、非特許文献1にも記載されているように、マイクロストリップ線路、電磁結合、ピン給電などにより給電される。図6は、従来のマイクロストリップアレーアンテナのアンテナ動作帯域での散乱原理の説明図であり、ピン給電で構成した場合の給電回路6を含めた側面図を示している。この図6を用いて、アンテナ放射素子1の動作帯域(周波数Fin)の電磁波11が、このアンテナに照射された場合の散乱原理について説明する。
【0006】
アンテナ放射素子1の動作帯域の周波数Finの電磁波11は、アンテナ放射素子1と結合し、その表面に電流が誘起され、給電回路6上に電流が流れる。この電流の一部は、インピーダンスの不整合箇所や、入力端での不整合部分で反射され、アンテナ放射素子1を介して、空間に再放射される。この散乱要因は、一般に、アンテナモードと呼ばれる。
【0007】
一方、図7は、従来のマイクロストリップアレーアンテナのアンテナ動作帯域外での散乱原理の説明図であり、ピン給電で構成した場合の給電回路6を含めた側面図を示している。この図7を用いて、アンテナ放射素子1の動作帯域外(周波数Fout)の電磁波11が、このアンテナに照射された場合の散乱原理について説明する。
【0008】
図7に示すように、アンテナ放射素子1の動作帯域外(周波数Fout)の電磁波12が、アンテナ放射素子1上に照射された場合には、動作帯域外のため、アンテナ放射素子1は、アンテナとして動作しない。この結果、給電回路6に電流は流れず、電磁波12は、アンテナ放射素子1の表面で反射する。
【0009】
また、アンテナ放射素子1の動作帯域外(周波数Fout)の電磁波12が、アンテナ放射素子1以外の場所に入射した場合には、その電磁波12は、誘電体基板2を透過し、アンテナの地板を形成する金属板5により反射され、空間に再放射される。このように、アンテナ放射素子1の動作帯域外(周波数Fout)の電磁波12は、アンテナ放射素子1により反射されるか、あるいは金属板5で反射されるため、ほとんどの入射電力が反射されることになる。
【0010】
この散乱要因は、一般に、ストラクチャルモードと呼ばれる。また、一般に、アンテナ放射素子1の専有面積より、金属板5の面積の方が大きいため、金属板5の反射電力が大きく、後者が主にレーダ断面積に寄与する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】C.A.Balanis著、Antenna Theory 3rd Ed.、第14章、出版John Wiley & Sons、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
従来のアレーアンテナでは、アンテナ放射素子1の動作帯域外の周波数の電磁波が照射された場合には、ほぼ全ての電力が、特に、アンテナ放射素子1の下部に位置する金属板5により反射されるため、大きなレーダ断面積を有してしまうという問題があった。
【0013】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、レーダ断面積の低減を図ったアンテナ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るアンテナ装置は、誘電体基板の表面に1つ以上のアンテナ放射素子を配置したアンテナ装置において、誘電体基板の裏面に設けられ、アンテナ放射素子の動作帯域内の周波数では電磁波を反射し、アンテナ放射素子の動作帯域外の周波数では電磁波を透過する周波数選択板を備えるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るアンテナ装置によれば、アンテナ放射素子の下部に位置する金属地板を、アンテナ放射素子の動作帯域の周波数では反射し、動作帯域外の周波数では透過する特性を有する周波数選択板で構成し、動作帯域外の周波数において、金属地板による反射をなくすことにより、レーダ断面積の低減を図ったアンテナ装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1におけるアレーアンテナの構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるアレーアンテナのアンテナ動作帯域外での散乱原理の説明図である。
【図3】本発明の実施の形態2におけるアレーアンテナの構成図である。
【図4】本発明の実施の形態3におけるアレーアンテナの構成図である。
【図5】誘電体基板を用いて構成された従来のマイクロストリップアレーアンテナの構成図である。
【図6】従来のマイクロストリップアレーアンテナのアンテナ動作帯域での散乱原理の説明図である。
【図7】従来のマイクロストリップアレーアンテナのアンテナ動作帯域外での散乱原理の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のアンテナ装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0018】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1におけるアレーアンテナの構成図である。本実施の形態1におけるアレーアンテナは、アンテナ放射素子1、誘電体基板2、および周波数選択板3を備えて構成されている。先の図5における従来のアレーアンテナの構成と比較すると、この図1に示す本実施の形態1におけるアレーアンテナは、金属地板として、金属板5の代わりに周波数選択板3を備えている点が異なっている。
【0019】
また、図2は、本発明の実施の形態1におけるアレーアンテナのアンテナ動作帯域外での散乱原理の説明図であり、側面図を示している。ここで、周波数選択板3は、アンテナ放射素子1の動作周波数Finでは、電磁波を反射し、アンテナ放射素子1の地板として動作し、アンテナ動作帯域外の周波数Foutでは、電磁波を透過するように設計されている。
【0020】
このようなアレーアンテナの構成によれば、アンテナ動作帯域外の周波数Foutの電磁波12がアンテナ放射素子1以外の領域に入射した場合、誘電体基板2を透過し、周波数選択板3に到達する。ここで、周波数選択板3は、上述したように、アンテナ動作帯域外の周波数Foutの電磁波12を透過するように設計されている。このため、周波数選択板3に到達した電磁波12は、その後、周波数選択板3では反射せず、周波数選択板3を透過する。
【0021】
したがって、本実施の形態1におけるアレーアンテナは、従来のように、アンテナ動作帯域外の周波数Foutの電磁波12がアンテナ地板で反射することがなく、低いレーダ断面積を実現できることとなる。
【0022】
以上のように、実施の形態1によれば、金属板の代わりに、周波数選択板を用いてアレーアンテナを構成している。そして、この周波数選択板は、アンテナ放射素子の動作周波数では、電磁波を反射し、アンテナ放射素子の地板として動作し、その一方で、アンテナ動作帯域外の周波数では、電磁波を透過するように設計されている。この結果、アンテナ動作帯域外の周波数の電磁波がアンテナ地板で反射することがなくなり、レーダ断面積の低減を実現できる。
【0023】
なお、図1では、周波数選択板3を構成する素子がリング型である場合を例示している。しかしながら、本発明における周波数選択板3は、このような形状に限定されるものではなく、ダイポール型、クロスダイポール型、エルサレムクロス型、円形素子など、種々の形状であっても同様の効果を実現できる。
【0024】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2におけるアレーアンテナの構成図である。本実施の形態2におけるアレーアンテナは、アンテナ放射素子1、誘電体基板2、周波数選択板3、および電波吸収体4を備えて構成されている。先の図1における実施の形態1におけるアレーアンテナの構成と比較すると、この図3に示す本実施の形態2におけるアレーアンテナは、周波数選択板3の下部に電波吸収体4をさらに備えている点が異なっている。
【0025】
本実施の形態2において、周波数選択板3は、先の実施の形態1と同様に、アンテナ放射素子1の動作周波数Finでは、電磁波を反射し、アンテナ放射素子1の地板として動作し、アンテナ動作帯域外の周波数Foutでは、電磁波を透過するように設計されている。
【0026】
そして、本実施の形態2におけるアレーアンテナでは、アンテナ動作帯域外の周波数Foutの電磁波12が、アンテナ放射素子1以外の場所に入射した場合には、その電磁波12は、誘電体基板2を透過後、周波数選択板3を透過し、電波吸収体4で吸収される。このようにして、周波数選択板3を透過後の電磁波12は、電波吸収体4により吸収されるため、不要散乱による特性劣化を抑圧できる。
【0027】
以上のように、実施の形態2によれば、周波数選択板の下部に電波吸収体をさらに備えてアレーアンテナを構成している。この結果、電波吸収体が、周波数選択板を透過した電磁波を吸収することができ、先の実施の形態1による効果に加え、不要散乱による特性劣化を抑圧できるというさらなる効果を得ることができる。
【0028】
実施の形態3.
図4は、本発明の実施の形態3におけるアレーアンテナの構成図である。本実施の形態3におけるアレーアンテナは、アンテナ放射素子1、誘電体基板2、周波数選択板3、電波吸収体4、および金属板5を備えて構成されている。先の図3に示した実施の形態2におけるアレーアンテナの構成と比較すると、この図4に示す本実施の形態3におけるアレーアンテナは、周波数選択板3の下部に位置する電波吸収体4の下部に、金属板5をさらに備えている点が異なっている。
【0029】
本実施の形態3におけるアレーアンテナは、金属板5をさらに備えることで、電波吸収体4で完全に消失しない電磁波を、金属板5で遮蔽することができる。この結果、先の実施の形態2と比較して、不要散乱による特性劣化をさらに抑圧できる。
【0030】
以上のように、実施の形態3によれば、周波数選択板の下部に位置する電波吸収体の下部に金属板5をさらに備えてアレーアンテナを構成している。この結果、電波吸収体で完全に消失しない電磁波を、金属板で遮蔽することができ、先の実施の形態1、2による効果に加え、不要散乱による特性劣化をさらに抑圧できるという効果を得ることができる。
【0031】
さらに、本実施の形態3におけるアレーアンテナは、電磁波を遮蔽できる金属板をさらに備えることで、電磁波を吸収する目的の電波吸収体の厚さを薄くすることができ、アレーアンテナ全体を薄型化することができる。さらに、本実施の形態1におけるアレーアンテナは、アンテナ放射素子をピン給電する場合に、金属板を地導体として利用することも可能である。
【0032】
なお、上述した実施の形態1〜3におけるアンテナ装置としては、複数のアンテナ放射素子を有するアレーアンテナとして説明したが、単素子の素子アンテナであっても、全く同じ議論が可能であり、単素子の素子アンテナにも適用でき、同様の効果を得ることができることは自明である。
【符号の説明】
【0033】
1 アンテナ放射素子、2 誘電体基板、3 周波数選択板、4 電波吸収体、5 金属板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板の表面に1つ以上のアンテナ放射素子を配置したアンテナ装置において、
前記誘電体基板の裏面に設けられ、前記アンテナ放射素子の動作帯域内の周波数では電磁波を反射し、前記アンテナ放射素子の動作帯域外の周波数では電磁波を透過する周波数選択板を備えたことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアンテナ装置において、
前記周波数選択板の下部に装荷された電波吸収体をさらに備えることを特徴するアンテナ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のアンテナ装置において、
前記電波吸収体の下部に装荷された金属板をさらに備えることを特徴するアンテナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−217269(P2011−217269A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85325(P2010−85325)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】