アンテナ
【課題】水平偏波、垂直偏波の両方において無指向性を得ることが可能であり、かつ、小型化およびコストの面で優れたアンテナを提供する。
【解決手段】アンテナ1は、中心導体12および外部導体13を有する同軸線路11と、スリーブ14とを備える。中心導体12は、アンテナ1の使用周波数帯域の中心波長の略1/4の長さでスリーブ14から突出する。スリーブ14には、スリーブ14の延在方向に沿ってスロット15(給電スロット)が形成され、同軸線路16は整合器19を介してスロット15の給電点FD1,FD2に給電する。
【解決手段】アンテナ1は、中心導体12および外部導体13を有する同軸線路11と、スリーブ14とを備える。中心導体12は、アンテナ1の使用周波数帯域の中心波長の略1/4の長さでスリーブ14から突出する。スリーブ14には、スリーブ14の延在方向に沿ってスロット15(給電スロット)が形成され、同軸線路16は整合器19を介してスロット15の給電点FD1,FD2に給電する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンテナに関し、特に、水平偏波、垂直偏波の両方において無指向性を得るためのアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、送信(あるいは受信)する電波を水平偏波と垂直偏波との間で切換え可能なアンテナが考案されている。偏波を切換えることが可能なアンテナとしては、たとえば2つの八木式アンテナを交差させたもの(クロス八木アンテナと呼ばれる)、あるいは2つのダイポールアンテナを交差させたもの(クロスダイポールアンテナと呼ばれる)などが知られている。
【0003】
また、特開2007−5924号公報(特許文献1)には、垂直偏波、水平偏波の両方に対応可能なアンテナが開示されている。具体的には、このアンテナは、垂直偏波用のスリーブアンテナと、水平偏波用の円筒スロットアンテナとを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−5924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単体の八木式アンテナの指向性は単一指向性である。また、単体のダイポールアンテナの場合、その指向性はいわゆる8の字特性である。このため、クロス八木アンテナあるいはクロスダイポールアンテナの場合、最適な受信方向にアンテナの向きを調整しなければならないという課題がある。
【0006】
一方、特開2007−5924号公報(特許文献1)に開示されたアンテナを構成するスリーブアンテナおよび円筒スロットアンテナは、いずれも水平面内では無指向性を有している。しかしながら、特開2007−5924号公報(特許文献1)に開示されたアンテナを構成するためには、スリーブアンテナと円筒スロットアンテナとをそれぞれ準備しなければならない。さらに、スリーブアンテナと円筒スロットアンテナとを、約λ/2の電気長だけ離して配置する必要がある。このため、特開2007−5924号公報(特許文献1)に開示されたアンテナは、小型化およびコストの面で課題がある。
【0007】
本発明の目的は、水平偏波、垂直偏波の両方において無指向性を得ることが可能であり、かつ、小型化およびコストの面で優れたアンテナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は要約すれば、アンテナであって、中心導体と中心導体を囲む外部導体とを含む同軸線路と、同軸線路の中心導体を通し、かつ同軸線路の外部導体と電気的に接続された、導電性のスリーブとを備える。同軸線路の中心導体は、アンテナの使用周波数帯域の中心波長の略1/4の長さでスリーブから突出する。スリーブは、中心導体の突出する向きとは反対の向きに使用周波数帯域の中心波長の略1/4波長の長さを有する。スリーブには、スリーブの延在方向に沿って給電スロットが形成される。
【0009】
好ましくは、アンテナは、スリーブの延在する方向と直交する方向に給電スロットを短絡するとともに、スリーブの延在する方向に沿ってスライド可能な短絡部をさらに備える。
【0010】
好ましくは、アンテナは、給電スロットに給電するための給電線と、アンテナに給電するために同軸線路および給電線のいずれか一方を選択するための切替器をさらに備える。
【0011】
好ましくは、アンテナは、給電スロットに給電するための給電線と、同軸線路および給電線の両方によってアンテナに給電するための合成器をさらに備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水平偏波、垂直偏波の両方において無指向性を得ることが可能であり、かつ、小型化およびコストの面で優れたアンテナを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るアンテナの概略的な構成を示した図である。
【図2】(A)は、一般的なスリーブアンテナの概略図である。(B)は、スリーブアンテナの構造を説明するための図である。
【図3】円筒スロットアンテナの一般的な構成を概略的に示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るアンテナを円筒スロットアンテナとして機能させた場合における、水平偏波の水平面指向性を示した図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るアンテナをスリーブアンテナとして機能させた場合における、垂直偏波の水平面指向性を示した図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係るアンテナの構成を示した図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係るアンテナの構成を示した図である。
【図8】図7に示したアンテナ2の円筒スロットアンテナに相当する部分を示した図である。
【図9】図8に示したアンテナの水平偏波に対する水平面指向性を示した図である。
【図10】図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=400mmに設定したときの利得を示す。
【図11】図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=390mmに設定したときの利得を示す。
【図12】図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=380mmに設定したときの利得を示す。
【図13】図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=350mmに設定したときの利得を示す。
【図14】図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=320mmに設定したときの利得を示す。
【図15】本発明の第4の実施の形態に係るアンテナの構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない。
【0015】
また、本発明の各実施の形態に係るアンテナは、送信アンテナおよび受信アンテナのいずれにも適用可能であるが、以下では、主として受信アンテナとしての適用例について説明する。
【0016】
[実施の形態1]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナの概略的な構成を示した図である。図1を参照して、アンテナ1は、中心導体12および外部導体13を有する同軸線路11と、スリーブ14とを備える。同軸線路11の外部導体13は、同軸線路11の中心導体12を囲むように形成される。中心導体12は、スリーブ14の端部(線分xはスリーブ14の端部の位置を示す)から所定の長さL1で突出する。この長さL1は、略1/4波長の長さである。なお、この実施の形態では、特に説明のない限り「1波長」とはアンテナの使用周波数帯域の中心波長の長さを示すものとする。外部導体13は、アースに接続される。
【0017】
スリーブ14は、線分xの位置から、中心導体12が突出する向きとは逆向きに所定の長さL2で延在する。この長さL2は、略1/4波長の長さである。スリーブ14は、導電性を有し、かつ、同軸線路11の外部導体13と電気的に接続される。たとえばスリーブ14として金属の円筒を用いることができる。同軸線路11(たとえば同軸ケーブル)の外部導体13を外部導体13の外側に折り返すことによってスリーブ14を形成してもよい。
【0018】
スリーブ14には、スリーブ14の中心軸に沿って延伸するように、スロット15(給電スロット)が形成される。スロット15は、スリーブ14の中心軸に沿って延伸して、スリーブ14の端部に到達する。すなわちスロット15の2つの端部のうち、線分xに相対的に遠い位置にある端部は、開口端となっている。またスロット15の両端が閉端であってもよい。この場合、給電点FD1,FD2の位置は、スロット15の延伸方向の中央付近の位置となる。
【0019】
アンテナ1は、さらに、中心導体17および外部導体18を有する同軸線路16と、整合器19と、切替器20とを備える。同軸線路16は整合器19を介してスロット15の給電点FD1,FD2に給電する。給電点FD1,FD2は、スロット15の開口端近傍に設けられる。なお、同軸線路16の外部導体18はアースに接続される。
【0020】
切替器20は、アンテナ1に給電するために同軸線路11および同軸線路16のいずれか一方を選択するためのものである。アンテナ1を受信アンテナとして使用する場合には、切替器20はたとえば受信機に接続される。その受信機は、切替器20を介して、同軸線路11および同軸線路16の一方からの出力を受信する。アンテナ1を送信アンテナとして使用する場合には、切替器20はたとえば送信機に接続される。その送信機からの信号は、切替器20を介して、同軸線路11および同軸線路16の一方に伝達されてアンテナ1から電波として出力される。切替器20での切替は、手動操作によるものでもよいし、ダイバーシティのように、受信強度に基づいて制御回路による切替でもよい。
【0021】
本発明の第1の実施の形態に係るアンテナ1は、機能の面からは、スリーブアンテナと円筒スロットアンテナとを組み合わせたアンテナとみなすことができる。給電点FD1,FD2から見て、スリーブ14の最も遠い位置にある点P(スリーブ14の付け根)は、ショートしている。これにより、スリーブアンテナと円筒スロットアンテナとが一体化された構造でありながら、スリーブアンテナおよび円筒スロットアンテナの各々の機能を有するアンテナを実現できる。
【0022】
図2は、一般的なスリーブアンテナを説明するための図である。図2(A)は、一般的なスリーブアンテナの概略図である。図2(B)は、スリーブアンテナの構造を説明するための図である。なお、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナ1との対比のため、図2では、図1に示した要素と対応した要素に同一の符号が付されている。
【0023】
図2(A),(B)を参照して、スリーブアンテナは、中心導体12および外部導体13を有する同軸線路11と、導電性のスリーブ14とを備える。同軸線路11の中心導体12は、スリーブ14の端部(線分xの位置)から、約1/4波長の長さで突出する。スリーブ14は、同軸線路11の外部導体13と電気的に接続され、同軸線路11の中心導体12が突出する向きとは逆向きに、線分xの位置から約1/4波長の長さで延在する。
【0024】
図2(B)に示されるように、スリーブ14は、同軸線路11の外部導体13を外側に折り返した構造を有する。すなわちスリーブ14は、シュペルトップ構造を有する。中心導体12の露出した部分(約1/4波長の長さの部分)をナノポールアンテナとして機能させた場合に、スリーブ14によって構成されたシュペルトップは、外部導体13の表面に定在波電流(漏洩電流)が流れることを防止する。
【0025】
図3は、円筒スロットアンテナの一般的な構成を概略的に示す図である。図2と同様に、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナ1との対比のため、図3では、図1に示した要素と対応した要素に同一の符号が付されている。
【0026】
図3を参照して、円筒スロットアンテナは、スロット15が形成された円筒状の導体14Aによって実現される。スロット15は、円筒状の導体14Aの延在方向、すなわち、円筒の中心軸の方向に延伸する。図3の例では、スロット15の給電側の端部(給電点FD1,FD2側の端部)は開口端とされているが、スロット15の両端が閉端でもよい。スロット15の両端が閉端の場合、給電点FD1,FD2の位置は、スロット15の延伸方向の中央付近の位置となる。
【0027】
同軸線路16は整合器19を介してスロット15の給電点FD1,FD2に給電する。給電点FD1,FD2は、スロット15の開口端近傍に設けられる。同軸線路16の外部導体18はアースに接続される。
【0028】
本発明の第1の実施の形態に係るアンテナでは、図2に示したスリーブアンテナのスリーブ14を図3に示した円筒スロットアンテナ(導体14A)として共用する。これによって、スリーブアンテナと円筒スロットアンテナとを一体化したアンテナが実現できる。さらに、切替器20によって、同軸線路11および同軸線路16のいずれか一方が選択される。これによって、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナ1を、スリーブアンテナとして機能させる場合と円筒スロットアンテナとして機能させる場合とで切換えることができる。
【0029】
一般に、スリーブアンテナは、垂直偏波に対して水平面無指向性アンテナとして機能する。また、円筒スロットアンテナは、水平偏波に対して水平面無指向性アンテナとして機能する。したがって本発明の第1の実施の形態によれば、切替器20によって、垂直偏波に対する水平面無指向性アンテナと、水平偏波に対する水平面無指向性アンテナとを切換えることができる。
【0030】
図4は、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナを円筒スロットアンテナとして機能させた場合における、水平偏波の水平面指向性を示した図である。図4を参照して、水平面の特定の方向への放射強度の偏りはほとんどなく、水平面の任意の方向に対してほぼ均等な放射強度が得られる。すなわち、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナを円筒スロットアンテナとして機能させた場合に、一般的な円筒スロットアンテナと同等の性能を得る事ができる。
【0031】
図5は、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナをスリーブアンテナとして機能させた場合における、垂直偏波の水平面指向性を示した図である。図5を参照して、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナをスリーブアンテナとして機能させた場合にも、水平面の特定の方向への放射強度の偏りはほとんどなく、水平面の任意の方向に対してほぼ均等な放射強度が得られる。すなわち、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナをスリーブアンテナとして機能させた場合にも一般的なスリーブアンテナと同等の性能を得る事ができる。
【0032】
以上のように、本発明の第1の実施の形態によれば水平偏波および垂直偏波ともに水平面無指向性であるアンテナを実現できる。特開2007−5924号公報(特許文献1)に開示されたアンテナの場合、スリーブアンテナと円筒スロットアンテナとをそれぞれ準備しなければならないとともに、スリーブアンテナと円筒スロットアンテナとを、約λ/2だけ離して配置しなければならない。しかしながら本発明の第1の実施の形態によれば、スリーブアンテナのスリーブにスロットを形成することによって、当該スリーブを円筒スロットアンテナとして機能させることができる。これにより、アンテナを小型化することが可能になるとともに、コストを低減することができる。
【0033】
また、本発明の第1の実施の形態によれば水平偏波および垂直偏波の両方に対して水平面無指向性のアンテナが得られるので、受信レベルの高くなる方向にアンテナを向けるといった調整作業を不要とすることができる。すなわち、電波の到来方向を意識することなくアンテナを設置できる。
【0034】
たとえば本発明の第1の実施の形態に係るアンテナは、携帯端末用アンテナとして宅内で使用することができる。近年、多くの人にとって携帯端末は必需品となりつつある。このため、携帯端末の通信では、良好かつ安定した通信が要求されている。特に屋内で携帯端末を使用する場合には、その使用場所が強電界地域内であっても、以下に説明するような事情によって、電波状況が不安定になりやすい可能性がある。
【0035】
たとえば住宅密集地の宅内にて携帯端末を使用する場合、携帯端末に内蔵されたアンテナのみでは、所望の受信レベルが得られない場合がある。また、住宅密集地の宅内では、さまざまな方向からの反射波が到来するともに、その反射波の偏波の方向も建物での反射によって乱れている可能性が考えられる。
【0036】
このような環境では、偏波を切替可能であるとともに受信方向を意識することのないアンテナが電波の受信にとって有利である。本発明の第1の実施の形態によれば、切替器によって、水平偏波の受信および垂直偏波の受信を切替ることができる。さらに、本発明の第1の実施の形態によれば、水平偏波および垂直偏波のいずれに対してもアンテナは水平面無指向性を有しているので、アンテナの向きを厳密に調整することなく電波の受信が可能となる。したがって第1の実施の形態によれば、上記のように電波の受信状況が良好ではない箇所においても、好適に使用可能な受信アンテナを実現できる。
【0037】
[実施の形態2]
第1の実施の形態では、スリーブアンテナと円筒スロットアンテナとを切替えることが可能なように切替器が設けられる。第2の実施の形態に係るアンテナは、スリーブアンテナの出力と円筒スロットアンテナの出力とを合成する。
【0038】
図6は、本発明の第2の実施の形態に係るアンテナの構成を示した図である。図1および図6を参照して、アンテナ1Aは、切替器20に代えて合成器20Aを備える点においてアンテナ1と異なる。合成器20Aは、スリーブアンテナを構成する同軸線路11および円筒スロットアンテナ(スリーブ14に相当)に同相給電するために設けられる。合成器20Aは同相給電に代えて位相差給電を行なってもよい。図示しないが合成器20Aは位相を調整するための位相調整手段を含む。合成器20Aは、水平偏波および垂直偏波以外の成分(水平面に対する偏波面の角度をxとすると0°<x<90°となる成分)の位相を位相調整手段により調整し、その位相が調整された成分を合成して受信する。水平偏波および垂直偏波以外の成分とは、具体的な例としては、建物あるいは山などで反射した電波である。たとえば同相給電の場合には、合成器20Aは、水平偏波および垂直偏波以外の成分として、水平面に対して偏波面が約45°斜めに傾いた電波を合成して受信する。また、位相差給電の場合には、合成器20Aは、水平偏波の成分が垂直偏波の成分よりも多い場合には、水平偏波および垂直偏波以外の成分として、偏波面が水平面に対して45°未満で水平方向寄りに傾いた電波を合成して受信し、垂直偏波の成分が水平偏波の成分よりも多い場合には、水平偏波および垂直偏波以外の成分として、偏波面が水平面に対して45°を超えて垂直方向寄りに傾いた電波を合成して受信する。
【0039】
第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、電波の受信状況が良好ではない箇所においても、好適に使用可能な受信アンテナを実現できる。また、第2の実施の形態によれば、スリーブアンテナの出力および円筒スロットアンテナの出力を合成して出力することができる。
【0040】
[実施の形態3]
第3の実施の形態に係るアンテナは、円筒スロットアンテナの構造の点において実施の形態1に係るアンテナと異なる。
【0041】
図7は、本発明の第3の実施の形態に係るアンテナの構成を示した図である。図1および図7を参照して、アンテナ2は、スロット15を短絡するショートバー21をさらに備える点においてアンテナ1と異なる。なお、アンテナ2の他の部分の構成は、図1に示したアンテナ1の対応する部分の構成と同様であるので以後の説明は繰り返さない。
【0042】
図8は、図7に示したアンテナ2の円筒スロットアンテナに相当する部分を示した図である。図7および図8を参照して、ショートバー21は、スロット15の延在方向、すなわちスリーブ14の延在方向に沿ってスライド可能に構成される。ショートバー21が移動することによって、スリーブ14の端部からショートバー21までの距離Lが変化する。すなわちスロット15の延在方向上の任意の位置をショートまたはオープンにすることができる。たとえばショートバー21は、スリーブ14(円筒)を挟むように設けられる1対の導電板により構成される。ショートバー21を移動および固定するために、ネジおよびナットが用いられる。ネジの軸部分は、1対の導電板およびスロット15に通される。ネジを緩めることでショートバー21をスロット15の延在方向に沿って移動させることができる。一方、ネジを締めることでスロット15の延在方向における任意の位置でショートバー21を固定することができる。
【0043】
ショートバー21の位置を変化させることで円筒スロットの共振周波数が変化する。したがって円筒スロットアンテナの受信帯域を変化させることができる。
【0044】
図9は、図8に示したアンテナの水平偏波に対する水平面指向性を示した図である。図9を参照して、特異の方向における放射強度の低下がなく、指向性パターンの歪みがない。すなわち、図9は、実質的には無指向性のパターンであることを示している。
【0045】
図10〜図14は、図8に示した円筒スロットアンテナにおいてショートバー21の位置を変化させた場合における利得を示した図である。なお、ショートバー21の位置に関するパラメータとして、スリーブ14の端部からショートバー21までの距離Lを用いる。なお、以下に説明する利得は、周波数帯域を470(MHz)〜800(MHz)とし、スリーブ14の長さを400(mm)としたときの特性を示している。上記の周波数帯域は、日本におけるUHFテレビ放送の周波数帯域(470〜770MHz)を含む。なお、「UHFテレビ放送」とは日本における地上デジタル放送および地上アナログ放送の両方を含む。
【0046】
図10は、図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=400mmに設定したときの利得を示す。すなわち、図8に示したアンテナにおいてショートバーが設けられていない状態での当該アンテナの利得を示す。図10を参照して、620(MHz)〜650(MHz)の周波数の範囲における利得が、他の範囲での利得に比較して大幅に低下する。
【0047】
図11は、図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=390mmに設定したときの利得を示す。図11を参照して、580(MHz)付近において利得がピークとなる。また、図10と図11とを比較すると、L=400mmの場合における、620(MHz)〜650(MHz)の周波数の範囲における利得の低下が、L=390mmの場合に改善されている。
【0048】
図12は、図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=380mmに設定したときの利得を示す。図12を参照して、650(MHz)〜680(MHz)の周波数の範囲において利得がピークとなる。
【0049】
図13は、図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=350mmに設定したときの利得を示す。図13を参照して、710(MHz)付近において利得がピークとなる。
【0050】
図14は、図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=320mmに設定したときの利得を示す。図13を参照して、710(MHz)〜740(MHz)の周波数の範囲において利得がピークとなる。
【0051】
図10〜図14に示されるように、Lを変化させることによって、利得がピークとなる周波数が変化する。このことは、Lを変化させることで、アンテナの受信の周波数帯域を変化させることができることを示している。
【0052】
以上のように、第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、電波の受信状況が良好ではない箇所においても、好適に使用可能な受信アンテナを実現できる。また、第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、切替器によって、水平偏波の受信および垂直偏波の受信を切替ることができる。さらに第3の実施の形態によれば、水平偏波の受信周波数帯域を可変なアンテナを実現できる。
【0053】
[実施の形態4]
図15は、本発明の第4の実施の形態に係るアンテナの構成を示した図である。図7および図15を参照して、アンテナ2Aは、切替器20に代えて合成器20Aを備える点においてアンテナ2と異なる。第2の実施の形態に係るアンテナ1Aと同じく、合成器20Aは、スリーブアンテナを構成する同軸線路11および円筒スロットアンテナ(スリーブ14に相当)に同相給電するために設けられる。合成器20Aは同相給電に代えて位相差給電を行なってもよい。
【0054】
なお、アンテナ2Aの他の部分の構成は、第3の実施の形態に係るアンテナ2と同様であるので詳細な説明は繰り返さない。第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、電波の受信状況が良好ではない箇所においても、好適に使用可能な受信アンテナを実現できる。また、スリーブアンテナの出力および円筒スロットアンテナの出力を合成して出力することができる。
【0055】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
1,1A,2,2A アンテナ、11,16 同軸線路、12,17 中心導体、13,18 外部導体、14 スリーブ、14A 導体、15 スロット、19 整合器、20 切替器、20A 合成器、21 ショートバー、FD1,FD2 給電点。
【技術分野】
【0001】
本発明はアンテナに関し、特に、水平偏波、垂直偏波の両方において無指向性を得るためのアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、送信(あるいは受信)する電波を水平偏波と垂直偏波との間で切換え可能なアンテナが考案されている。偏波を切換えることが可能なアンテナとしては、たとえば2つの八木式アンテナを交差させたもの(クロス八木アンテナと呼ばれる)、あるいは2つのダイポールアンテナを交差させたもの(クロスダイポールアンテナと呼ばれる)などが知られている。
【0003】
また、特開2007−5924号公報(特許文献1)には、垂直偏波、水平偏波の両方に対応可能なアンテナが開示されている。具体的には、このアンテナは、垂直偏波用のスリーブアンテナと、水平偏波用の円筒スロットアンテナとを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−5924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単体の八木式アンテナの指向性は単一指向性である。また、単体のダイポールアンテナの場合、その指向性はいわゆる8の字特性である。このため、クロス八木アンテナあるいはクロスダイポールアンテナの場合、最適な受信方向にアンテナの向きを調整しなければならないという課題がある。
【0006】
一方、特開2007−5924号公報(特許文献1)に開示されたアンテナを構成するスリーブアンテナおよび円筒スロットアンテナは、いずれも水平面内では無指向性を有している。しかしながら、特開2007−5924号公報(特許文献1)に開示されたアンテナを構成するためには、スリーブアンテナと円筒スロットアンテナとをそれぞれ準備しなければならない。さらに、スリーブアンテナと円筒スロットアンテナとを、約λ/2の電気長だけ離して配置する必要がある。このため、特開2007−5924号公報(特許文献1)に開示されたアンテナは、小型化およびコストの面で課題がある。
【0007】
本発明の目的は、水平偏波、垂直偏波の両方において無指向性を得ることが可能であり、かつ、小型化およびコストの面で優れたアンテナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は要約すれば、アンテナであって、中心導体と中心導体を囲む外部導体とを含む同軸線路と、同軸線路の中心導体を通し、かつ同軸線路の外部導体と電気的に接続された、導電性のスリーブとを備える。同軸線路の中心導体は、アンテナの使用周波数帯域の中心波長の略1/4の長さでスリーブから突出する。スリーブは、中心導体の突出する向きとは反対の向きに使用周波数帯域の中心波長の略1/4波長の長さを有する。スリーブには、スリーブの延在方向に沿って給電スロットが形成される。
【0009】
好ましくは、アンテナは、スリーブの延在する方向と直交する方向に給電スロットを短絡するとともに、スリーブの延在する方向に沿ってスライド可能な短絡部をさらに備える。
【0010】
好ましくは、アンテナは、給電スロットに給電するための給電線と、アンテナに給電するために同軸線路および給電線のいずれか一方を選択するための切替器をさらに備える。
【0011】
好ましくは、アンテナは、給電スロットに給電するための給電線と、同軸線路および給電線の両方によってアンテナに給電するための合成器をさらに備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水平偏波、垂直偏波の両方において無指向性を得ることが可能であり、かつ、小型化およびコストの面で優れたアンテナを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るアンテナの概略的な構成を示した図である。
【図2】(A)は、一般的なスリーブアンテナの概略図である。(B)は、スリーブアンテナの構造を説明するための図である。
【図3】円筒スロットアンテナの一般的な構成を概略的に示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るアンテナを円筒スロットアンテナとして機能させた場合における、水平偏波の水平面指向性を示した図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るアンテナをスリーブアンテナとして機能させた場合における、垂直偏波の水平面指向性を示した図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係るアンテナの構成を示した図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係るアンテナの構成を示した図である。
【図8】図7に示したアンテナ2の円筒スロットアンテナに相当する部分を示した図である。
【図9】図8に示したアンテナの水平偏波に対する水平面指向性を示した図である。
【図10】図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=400mmに設定したときの利得を示す。
【図11】図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=390mmに設定したときの利得を示す。
【図12】図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=380mmに設定したときの利得を示す。
【図13】図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=350mmに設定したときの利得を示す。
【図14】図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=320mmに設定したときの利得を示す。
【図15】本発明の第4の実施の形態に係るアンテナの構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない。
【0015】
また、本発明の各実施の形態に係るアンテナは、送信アンテナおよび受信アンテナのいずれにも適用可能であるが、以下では、主として受信アンテナとしての適用例について説明する。
【0016】
[実施の形態1]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナの概略的な構成を示した図である。図1を参照して、アンテナ1は、中心導体12および外部導体13を有する同軸線路11と、スリーブ14とを備える。同軸線路11の外部導体13は、同軸線路11の中心導体12を囲むように形成される。中心導体12は、スリーブ14の端部(線分xはスリーブ14の端部の位置を示す)から所定の長さL1で突出する。この長さL1は、略1/4波長の長さである。なお、この実施の形態では、特に説明のない限り「1波長」とはアンテナの使用周波数帯域の中心波長の長さを示すものとする。外部導体13は、アースに接続される。
【0017】
スリーブ14は、線分xの位置から、中心導体12が突出する向きとは逆向きに所定の長さL2で延在する。この長さL2は、略1/4波長の長さである。スリーブ14は、導電性を有し、かつ、同軸線路11の外部導体13と電気的に接続される。たとえばスリーブ14として金属の円筒を用いることができる。同軸線路11(たとえば同軸ケーブル)の外部導体13を外部導体13の外側に折り返すことによってスリーブ14を形成してもよい。
【0018】
スリーブ14には、スリーブ14の中心軸に沿って延伸するように、スロット15(給電スロット)が形成される。スロット15は、スリーブ14の中心軸に沿って延伸して、スリーブ14の端部に到達する。すなわちスロット15の2つの端部のうち、線分xに相対的に遠い位置にある端部は、開口端となっている。またスロット15の両端が閉端であってもよい。この場合、給電点FD1,FD2の位置は、スロット15の延伸方向の中央付近の位置となる。
【0019】
アンテナ1は、さらに、中心導体17および外部導体18を有する同軸線路16と、整合器19と、切替器20とを備える。同軸線路16は整合器19を介してスロット15の給電点FD1,FD2に給電する。給電点FD1,FD2は、スロット15の開口端近傍に設けられる。なお、同軸線路16の外部導体18はアースに接続される。
【0020】
切替器20は、アンテナ1に給電するために同軸線路11および同軸線路16のいずれか一方を選択するためのものである。アンテナ1を受信アンテナとして使用する場合には、切替器20はたとえば受信機に接続される。その受信機は、切替器20を介して、同軸線路11および同軸線路16の一方からの出力を受信する。アンテナ1を送信アンテナとして使用する場合には、切替器20はたとえば送信機に接続される。その送信機からの信号は、切替器20を介して、同軸線路11および同軸線路16の一方に伝達されてアンテナ1から電波として出力される。切替器20での切替は、手動操作によるものでもよいし、ダイバーシティのように、受信強度に基づいて制御回路による切替でもよい。
【0021】
本発明の第1の実施の形態に係るアンテナ1は、機能の面からは、スリーブアンテナと円筒スロットアンテナとを組み合わせたアンテナとみなすことができる。給電点FD1,FD2から見て、スリーブ14の最も遠い位置にある点P(スリーブ14の付け根)は、ショートしている。これにより、スリーブアンテナと円筒スロットアンテナとが一体化された構造でありながら、スリーブアンテナおよび円筒スロットアンテナの各々の機能を有するアンテナを実現できる。
【0022】
図2は、一般的なスリーブアンテナを説明するための図である。図2(A)は、一般的なスリーブアンテナの概略図である。図2(B)は、スリーブアンテナの構造を説明するための図である。なお、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナ1との対比のため、図2では、図1に示した要素と対応した要素に同一の符号が付されている。
【0023】
図2(A),(B)を参照して、スリーブアンテナは、中心導体12および外部導体13を有する同軸線路11と、導電性のスリーブ14とを備える。同軸線路11の中心導体12は、スリーブ14の端部(線分xの位置)から、約1/4波長の長さで突出する。スリーブ14は、同軸線路11の外部導体13と電気的に接続され、同軸線路11の中心導体12が突出する向きとは逆向きに、線分xの位置から約1/4波長の長さで延在する。
【0024】
図2(B)に示されるように、スリーブ14は、同軸線路11の外部導体13を外側に折り返した構造を有する。すなわちスリーブ14は、シュペルトップ構造を有する。中心導体12の露出した部分(約1/4波長の長さの部分)をナノポールアンテナとして機能させた場合に、スリーブ14によって構成されたシュペルトップは、外部導体13の表面に定在波電流(漏洩電流)が流れることを防止する。
【0025】
図3は、円筒スロットアンテナの一般的な構成を概略的に示す図である。図2と同様に、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナ1との対比のため、図3では、図1に示した要素と対応した要素に同一の符号が付されている。
【0026】
図3を参照して、円筒スロットアンテナは、スロット15が形成された円筒状の導体14Aによって実現される。スロット15は、円筒状の導体14Aの延在方向、すなわち、円筒の中心軸の方向に延伸する。図3の例では、スロット15の給電側の端部(給電点FD1,FD2側の端部)は開口端とされているが、スロット15の両端が閉端でもよい。スロット15の両端が閉端の場合、給電点FD1,FD2の位置は、スロット15の延伸方向の中央付近の位置となる。
【0027】
同軸線路16は整合器19を介してスロット15の給電点FD1,FD2に給電する。給電点FD1,FD2は、スロット15の開口端近傍に設けられる。同軸線路16の外部導体18はアースに接続される。
【0028】
本発明の第1の実施の形態に係るアンテナでは、図2に示したスリーブアンテナのスリーブ14を図3に示した円筒スロットアンテナ(導体14A)として共用する。これによって、スリーブアンテナと円筒スロットアンテナとを一体化したアンテナが実現できる。さらに、切替器20によって、同軸線路11および同軸線路16のいずれか一方が選択される。これによって、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナ1を、スリーブアンテナとして機能させる場合と円筒スロットアンテナとして機能させる場合とで切換えることができる。
【0029】
一般に、スリーブアンテナは、垂直偏波に対して水平面無指向性アンテナとして機能する。また、円筒スロットアンテナは、水平偏波に対して水平面無指向性アンテナとして機能する。したがって本発明の第1の実施の形態によれば、切替器20によって、垂直偏波に対する水平面無指向性アンテナと、水平偏波に対する水平面無指向性アンテナとを切換えることができる。
【0030】
図4は、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナを円筒スロットアンテナとして機能させた場合における、水平偏波の水平面指向性を示した図である。図4を参照して、水平面の特定の方向への放射強度の偏りはほとんどなく、水平面の任意の方向に対してほぼ均等な放射強度が得られる。すなわち、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナを円筒スロットアンテナとして機能させた場合に、一般的な円筒スロットアンテナと同等の性能を得る事ができる。
【0031】
図5は、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナをスリーブアンテナとして機能させた場合における、垂直偏波の水平面指向性を示した図である。図5を参照して、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナをスリーブアンテナとして機能させた場合にも、水平面の特定の方向への放射強度の偏りはほとんどなく、水平面の任意の方向に対してほぼ均等な放射強度が得られる。すなわち、本発明の第1の実施の形態に係るアンテナをスリーブアンテナとして機能させた場合にも一般的なスリーブアンテナと同等の性能を得る事ができる。
【0032】
以上のように、本発明の第1の実施の形態によれば水平偏波および垂直偏波ともに水平面無指向性であるアンテナを実現できる。特開2007−5924号公報(特許文献1)に開示されたアンテナの場合、スリーブアンテナと円筒スロットアンテナとをそれぞれ準備しなければならないとともに、スリーブアンテナと円筒スロットアンテナとを、約λ/2だけ離して配置しなければならない。しかしながら本発明の第1の実施の形態によれば、スリーブアンテナのスリーブにスロットを形成することによって、当該スリーブを円筒スロットアンテナとして機能させることができる。これにより、アンテナを小型化することが可能になるとともに、コストを低減することができる。
【0033】
また、本発明の第1の実施の形態によれば水平偏波および垂直偏波の両方に対して水平面無指向性のアンテナが得られるので、受信レベルの高くなる方向にアンテナを向けるといった調整作業を不要とすることができる。すなわち、電波の到来方向を意識することなくアンテナを設置できる。
【0034】
たとえば本発明の第1の実施の形態に係るアンテナは、携帯端末用アンテナとして宅内で使用することができる。近年、多くの人にとって携帯端末は必需品となりつつある。このため、携帯端末の通信では、良好かつ安定した通信が要求されている。特に屋内で携帯端末を使用する場合には、その使用場所が強電界地域内であっても、以下に説明するような事情によって、電波状況が不安定になりやすい可能性がある。
【0035】
たとえば住宅密集地の宅内にて携帯端末を使用する場合、携帯端末に内蔵されたアンテナのみでは、所望の受信レベルが得られない場合がある。また、住宅密集地の宅内では、さまざまな方向からの反射波が到来するともに、その反射波の偏波の方向も建物での反射によって乱れている可能性が考えられる。
【0036】
このような環境では、偏波を切替可能であるとともに受信方向を意識することのないアンテナが電波の受信にとって有利である。本発明の第1の実施の形態によれば、切替器によって、水平偏波の受信および垂直偏波の受信を切替ることができる。さらに、本発明の第1の実施の形態によれば、水平偏波および垂直偏波のいずれに対してもアンテナは水平面無指向性を有しているので、アンテナの向きを厳密に調整することなく電波の受信が可能となる。したがって第1の実施の形態によれば、上記のように電波の受信状況が良好ではない箇所においても、好適に使用可能な受信アンテナを実現できる。
【0037】
[実施の形態2]
第1の実施の形態では、スリーブアンテナと円筒スロットアンテナとを切替えることが可能なように切替器が設けられる。第2の実施の形態に係るアンテナは、スリーブアンテナの出力と円筒スロットアンテナの出力とを合成する。
【0038】
図6は、本発明の第2の実施の形態に係るアンテナの構成を示した図である。図1および図6を参照して、アンテナ1Aは、切替器20に代えて合成器20Aを備える点においてアンテナ1と異なる。合成器20Aは、スリーブアンテナを構成する同軸線路11および円筒スロットアンテナ(スリーブ14に相当)に同相給電するために設けられる。合成器20Aは同相給電に代えて位相差給電を行なってもよい。図示しないが合成器20Aは位相を調整するための位相調整手段を含む。合成器20Aは、水平偏波および垂直偏波以外の成分(水平面に対する偏波面の角度をxとすると0°<x<90°となる成分)の位相を位相調整手段により調整し、その位相が調整された成分を合成して受信する。水平偏波および垂直偏波以外の成分とは、具体的な例としては、建物あるいは山などで反射した電波である。たとえば同相給電の場合には、合成器20Aは、水平偏波および垂直偏波以外の成分として、水平面に対して偏波面が約45°斜めに傾いた電波を合成して受信する。また、位相差給電の場合には、合成器20Aは、水平偏波の成分が垂直偏波の成分よりも多い場合には、水平偏波および垂直偏波以外の成分として、偏波面が水平面に対して45°未満で水平方向寄りに傾いた電波を合成して受信し、垂直偏波の成分が水平偏波の成分よりも多い場合には、水平偏波および垂直偏波以外の成分として、偏波面が水平面に対して45°を超えて垂直方向寄りに傾いた電波を合成して受信する。
【0039】
第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、電波の受信状況が良好ではない箇所においても、好適に使用可能な受信アンテナを実現できる。また、第2の実施の形態によれば、スリーブアンテナの出力および円筒スロットアンテナの出力を合成して出力することができる。
【0040】
[実施の形態3]
第3の実施の形態に係るアンテナは、円筒スロットアンテナの構造の点において実施の形態1に係るアンテナと異なる。
【0041】
図7は、本発明の第3の実施の形態に係るアンテナの構成を示した図である。図1および図7を参照して、アンテナ2は、スロット15を短絡するショートバー21をさらに備える点においてアンテナ1と異なる。なお、アンテナ2の他の部分の構成は、図1に示したアンテナ1の対応する部分の構成と同様であるので以後の説明は繰り返さない。
【0042】
図8は、図7に示したアンテナ2の円筒スロットアンテナに相当する部分を示した図である。図7および図8を参照して、ショートバー21は、スロット15の延在方向、すなわちスリーブ14の延在方向に沿ってスライド可能に構成される。ショートバー21が移動することによって、スリーブ14の端部からショートバー21までの距離Lが変化する。すなわちスロット15の延在方向上の任意の位置をショートまたはオープンにすることができる。たとえばショートバー21は、スリーブ14(円筒)を挟むように設けられる1対の導電板により構成される。ショートバー21を移動および固定するために、ネジおよびナットが用いられる。ネジの軸部分は、1対の導電板およびスロット15に通される。ネジを緩めることでショートバー21をスロット15の延在方向に沿って移動させることができる。一方、ネジを締めることでスロット15の延在方向における任意の位置でショートバー21を固定することができる。
【0043】
ショートバー21の位置を変化させることで円筒スロットの共振周波数が変化する。したがって円筒スロットアンテナの受信帯域を変化させることができる。
【0044】
図9は、図8に示したアンテナの水平偏波に対する水平面指向性を示した図である。図9を参照して、特異の方向における放射強度の低下がなく、指向性パターンの歪みがない。すなわち、図9は、実質的には無指向性のパターンであることを示している。
【0045】
図10〜図14は、図8に示した円筒スロットアンテナにおいてショートバー21の位置を変化させた場合における利得を示した図である。なお、ショートバー21の位置に関するパラメータとして、スリーブ14の端部からショートバー21までの距離Lを用いる。なお、以下に説明する利得は、周波数帯域を470(MHz)〜800(MHz)とし、スリーブ14の長さを400(mm)としたときの特性を示している。上記の周波数帯域は、日本におけるUHFテレビ放送の周波数帯域(470〜770MHz)を含む。なお、「UHFテレビ放送」とは日本における地上デジタル放送および地上アナログ放送の両方を含む。
【0046】
図10は、図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=400mmに設定したときの利得を示す。すなわち、図8に示したアンテナにおいてショートバーが設けられていない状態での当該アンテナの利得を示す。図10を参照して、620(MHz)〜650(MHz)の周波数の範囲における利得が、他の範囲での利得に比較して大幅に低下する。
【0047】
図11は、図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=390mmに設定したときの利得を示す。図11を参照して、580(MHz)付近において利得がピークとなる。また、図10と図11とを比較すると、L=400mmの場合における、620(MHz)〜650(MHz)の周波数の範囲における利得の低下が、L=390mmの場合に改善されている。
【0048】
図12は、図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=380mmに設定したときの利得を示す。図12を参照して、650(MHz)〜680(MHz)の周波数の範囲において利得がピークとなる。
【0049】
図13は、図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=350mmに設定したときの利得を示す。図13を参照して、710(MHz)付近において利得がピークとなる。
【0050】
図14は、図8に示した円筒スロットアンテナにおいて、L=320mmに設定したときの利得を示す。図13を参照して、710(MHz)〜740(MHz)の周波数の範囲において利得がピークとなる。
【0051】
図10〜図14に示されるように、Lを変化させることによって、利得がピークとなる周波数が変化する。このことは、Lを変化させることで、アンテナの受信の周波数帯域を変化させることができることを示している。
【0052】
以上のように、第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、電波の受信状況が良好ではない箇所においても、好適に使用可能な受信アンテナを実現できる。また、第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、切替器によって、水平偏波の受信および垂直偏波の受信を切替ることができる。さらに第3の実施の形態によれば、水平偏波の受信周波数帯域を可変なアンテナを実現できる。
【0053】
[実施の形態4]
図15は、本発明の第4の実施の形態に係るアンテナの構成を示した図である。図7および図15を参照して、アンテナ2Aは、切替器20に代えて合成器20Aを備える点においてアンテナ2と異なる。第2の実施の形態に係るアンテナ1Aと同じく、合成器20Aは、スリーブアンテナを構成する同軸線路11および円筒スロットアンテナ(スリーブ14に相当)に同相給電するために設けられる。合成器20Aは同相給電に代えて位相差給電を行なってもよい。
【0054】
なお、アンテナ2Aの他の部分の構成は、第3の実施の形態に係るアンテナ2と同様であるので詳細な説明は繰り返さない。第4の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、電波の受信状況が良好ではない箇所においても、好適に使用可能な受信アンテナを実現できる。また、スリーブアンテナの出力および円筒スロットアンテナの出力を合成して出力することができる。
【0055】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
1,1A,2,2A アンテナ、11,16 同軸線路、12,17 中心導体、13,18 外部導体、14 スリーブ、14A 導体、15 スロット、19 整合器、20 切替器、20A 合成器、21 ショートバー、FD1,FD2 給電点。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナであって、
中心導体と前記中心導体を囲む外部導体とを含む同軸線路と、
前記同軸線路の前記中心導体を通し、かつ前記同軸線路の前記外部導体と電気的に接続された、導電性のスリーブとを備え、
前記同軸線路の前記中心導体は、前記アンテナの使用周波数帯域の中心波長の略1/4の長さで前記スリーブから突出し、
前記スリーブは、前記中心導体の突出する向きとは反対の向きに前記使用周波数帯域の前記中心波長の略1/4波長の長さを有し、
前記スリーブには、前記スリーブの延在方向に沿って給電スロットが形成される、アンテナ。
【請求項2】
前記アンテナは、
前記スリーブの延在する方向と直交する方向に前記給電スロットを短絡するとともに、前記スリーブの延在する方向に沿ってスライド可能な短絡部をさらに備える、請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
前記アンテナは、
前記給電スロットに給電するための給電線と、
前記アンテナに給電するために前記同軸線路および前記給電線のいずれか一方を選択するための切替器をさらに備える、請求項1または2に記載のアンテナ。
【請求項4】
前記アンテナは、
前記給電スロットに給電するための給電線と、
前記同軸線路および前記給電線の両方によって前記アンテナに給電するための合成器をさらに備える、請求項1または2に記載のアンテナ。
【請求項1】
アンテナであって、
中心導体と前記中心導体を囲む外部導体とを含む同軸線路と、
前記同軸線路の前記中心導体を通し、かつ前記同軸線路の前記外部導体と電気的に接続された、導電性のスリーブとを備え、
前記同軸線路の前記中心導体は、前記アンテナの使用周波数帯域の中心波長の略1/4の長さで前記スリーブから突出し、
前記スリーブは、前記中心導体の突出する向きとは反対の向きに前記使用周波数帯域の前記中心波長の略1/4波長の長さを有し、
前記スリーブには、前記スリーブの延在方向に沿って給電スロットが形成される、アンテナ。
【請求項2】
前記アンテナは、
前記スリーブの延在する方向と直交する方向に前記給電スロットを短絡するとともに、前記スリーブの延在する方向に沿ってスライド可能な短絡部をさらに備える、請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
前記アンテナは、
前記給電スロットに給電するための給電線と、
前記アンテナに給電するために前記同軸線路および前記給電線のいずれか一方を選択するための切替器をさらに備える、請求項1または2に記載のアンテナ。
【請求項4】
前記アンテナは、
前記給電スロットに給電するための給電線と、
前記同軸線路および前記給電線の両方によって前記アンテナに給電するための合成器をさらに備える、請求項1または2に記載のアンテナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−138803(P2012−138803A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290443(P2010−290443)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000109668)DXアンテナ株式会社 (394)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000109668)DXアンテナ株式会社 (394)
【Fターム(参考)】
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