説明

アンモニア阻害低減型のメタン発酵処理方法及び装置

【課題】低コストで有機物含有液を効率的にメタン発酵できるアンモニア阻害低減型メタン発酵処理方法及び装置を提供する。
【解決手段】有機物含有液Sをメタン発酵微生物群4が保持された発酵槽1に投入し、発酵槽1の頂部の気相部2を発酵槽1外のアンモニア捕集装置10が含まれる循環ガス流路11に連通させ、発酵槽1内の液相部3を攪拌しつつ発酵槽1内の分解生成ガスGを気相部2と捕集装置10との間で循環させる。好ましくは、発酵槽1内の液相部3の有機物含有液Sを下部から抜き出し頂部の気相部2へ戻して循環させることにより攪拌する。更に好ましくは、捕集装置10から発酵槽1の気相部2へ戻すガスGを発酵槽1内の液面7へ吹き付けることにより液相物3を攪拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンモニア阻害低減型メタン発酵処理方法及び装置に関し、とくに窒素濃度が高い有機性廃棄物や有機性廃水等を処理する場合に起こり得るメタン発酵のアンモニア阻害を低減できる処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メタン発酵処理は、一般家庭やホテル・レストラン等から排出される生ごみ、食品工場等から排出される食品製造残さ、農業・林業・水産・畜産施設や工場等から排出される動植物性残さ等の有機性廃棄物からエネルギーを回収できる利点があり、循環型社会の形成に寄与する再資源化技術として普及が進められている。例えば特許文献1は、有機性廃棄物をスラリー状に微破砕した上でメタン発酵微生物群が付着した担体を設けたバイオリアクター(以下、発酵槽という。)に投入し、廃棄物スラリーを微生物群の活性温度に保持しつつ微生物群と接触させて分解する有機性廃棄物の処理方法を開示する。また特許文献2は、有機性廃棄物スラリーを発酵槽へ送ってバイオガス(以下、分解生成ガスという。)と残留有機物とに変換し、分解生成ガスから燃料電池により電力エネルギーを回収し、残留有機物からコンポスト材料を回収するシステムを開示する。メタン発酵処理は、特許文献4が開示するように、産業廃水・汚泥等の有機性廃水からエネルギーを回収する場合にも利用される。
【0003】
メタン発酵処理では、窒素含有量の高い有機性廃棄物の粉砕スラリーや有機性廃水等(以下、これらを纏めて有機物含有液ということがある。)を処理する場合に、分解時に生成した有機物含有液中のアンモニアによりメタン発酵が阻害される現象(以下、アンモニア阻害という。)が知られている。アンモニア阻害は、有機物含有液中のアンモニア性窒素濃度が3,000ppm〜5,000ppm程度になると発生し、メタン発酵微生物群の活性を低下させ、最悪の場合はメタン発酵を停止させてメタン発酵の処理効率を著しく低下させる。このため従来は、例えば発酵槽内の有機物含有液中のアンモニア性窒素濃度を継続的に計測し、メタン発酵を阻害する濃度までアンモニア性窒素濃度が上昇したときは有機物含有液を希釈してアンモニア性窒素濃度を低下させる等の対策が採られている。
【0004】
アンモニア阻害を防止する他の方法として、特許文献3は、固形有機性廃棄物をスラリー状に可溶化した混合液をメタン発酵処理する際に、混合液をpH7.0以上pH8.5以下でメタン発酵処理し、分解生成ガスを回収してアンモニアを除去し、アンモニアが除去された分解生成ガスの少なくとも一部を発酵槽の混合液中に噴出して攪拌する廃棄物処理方法を開示する。アンモニアが除去された分解生成ガスをpH7.0以上pH8.5以下の混合液に噴出して攪拌することにより、混合液で生成したアンモニアが混合液に溶解するイオン状態から遊離状態となって分解生成ガス中に効率よく移行し、混合液中のアンモニア濃度の上昇を抑制してメタン発酵処理の効率化を図る。
【0005】
【特許文献1】特許第2708087号公報
【特許文献2】特許第3064272号公報
【特許文献3】特開2001−276880号公報
【特許文献4】特開平3−278892号公報
【特許文献5】特許第3470944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の有機物含有液の希釈によりアンモニア阻害を防止する方法は、希釈により有機物含有液の容量が増加し、それに伴い発酵槽が大型化すると共に有機物含有液の加熱エネルギー等の維持管理コストが増加するので、メタン発酵処理のイニシャルコスト及びランニングコストが共に大きくなる問題点がある。メタン発酵処理では回収したエネルギーの利用により外部からのエネルギー供給を不要とする自足的システムの構築が期待できるが、発酵槽の大型化や加熱エネルギーの増大はエネルギー自足的なシステムを構築する際の障害となる。
【0007】
また特許文献3の方法は、アンモニアが除去された分解生成ガスを発酵槽の混合液に吹き込む必要があるため、高圧型のブロワを必要とする。高圧型のブロワは消費エネルギー(電力)が大きいので、ランニングコストが嵩む問題点がある。また高圧型のブロワで分解生成ガスを発酵槽の液相部に噴出すると、例えばUASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)式の発酵槽ではグラニュールの崩壊・流出等を引き起こし、固定床式の発酵槽では固定床の損傷や早期老朽化・固定床表面に付着したバイオフィルムの剥離等を引き起こすことがある。グラニュールの崩壊や固定床の損傷等は、発酵槽内におけるメタン発酵微生物群の高濃度保持を破壊し、アンモニア阻害が防止できたとしてもメタン発酵処理の全体の効率を低下させる原因となり得る。発酵槽内でメタン発酵微生物群を高濃度に保持しつつアンモニア阻害のない効率的なメタン発酵処理を実現できる技術の開発が望まれている。
【0008】
そこで本発明の目的は、低コストで有機物含有液を効率的にメタン発酵できるアンモニア阻害低減型メタン発酵処理方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
図1の実施例を参照するに、本発明のアンモニア阻害低減型メタン発酵処理方法は、有機物含有液Sをメタン発酵微生物群4が保持された発酵槽1に投入し、発酵槽1の頂部の気相部2を発酵槽1外のアンモニア捕集装置10付き循環ガス流路11に連通させ、発酵槽1内の液相部3を攪拌しつつ発酵槽1内の分解生成ガスGを気相部2と捕集装置10との間で循環させてなるものである。好ましくは、発酵槽1内の液相部3の有機物含有液Sを下部から抜き出し頂部の気相部2へ戻して循環させることにより攪拌する。
【0010】
また図1を参照するに、本発明のアンモニア阻害低減型メタン発酵処理装置は、メタン発酵微生物群4を保持し当該微生物群4との接触により有機物含有液Sを分解する発酵槽1、発酵槽1内の液相部3を攪拌する攪拌装置6、発酵槽1内の頂部の気相部2から分解生成ガスGを抜き出して当該気相部2へ戻す循環ガス流路11、及びガス流路11上に設けたアンモニア捕集装置10を備えてなるものである。好ましくは、攪拌装置6に、発酵槽1内の液相部3の有機物含有液Sを下部から抜き出し頂部の気相部2の吐出口19bへ戻す循環ポンプ18付き外付け循環液流路17を含める。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるアンモニア阻害低減型メタン発酵処理方法及び装置は、有機物含有液をメタン発酵微生物群が保持された発酵槽に投入し、発酵槽内の液相部を攪拌しつつ発酵槽内の分解生成ガスを気相部と発酵槽外のアンモニア捕集装置との間で循環させるので、次の顕著な効果を奏する。
【0012】
(イ)発酵槽の気相部のアンモニア濃度低下により液相部のアンモニアが気相部に移動するので、液相部すなわち有機物含有液中のアンモニア濃度をアンモニア阻害が発生しない程度に低下させることができる。
(ロ)有機物含有液を攪拌しながら気相部のアンモニア濃度を低下させるので、有機物含有液中のアンモニアを迅速且つ効率的に除去できる。
(ハ)気相部の分解生成ガスの循環により液相部のアンモニアを除去するので、液相部の微生物群の高濃度保持を破壊するおそれが小さく、高濃度の微生物群によるアンモニア阻害のない効率的なメタン発酵処理を実現できる。
(ニ)有機物含有液を希釈せずにアンモニア阻害を防止できるので、発酵槽の小型化を図ることができ、イニシャルコストを小さく抑えることができる。
【0013】
(ホ)気相部の分解生成ガスは消費エネルギー(電力)の小さい低圧型のブロワで循環させることができるので、ランニングコストの増加も小さく抑えることができる。
(ヘ)イニシャルコスト及びランニングコストを小さく抑えて効率的なメタン発酵処理を実現できるので、回収したメタンガスのエネルギーを利用して外部からのエネルギー供給を不要とした自足的システムとすることが期待できる。
(ト)既存のメタン発酵槽に対しても、アンモニア捕集装置付き循環ガス流路の増設によって容易に適用可能であり、アンモニア阻害の低減によるメタン発酵処理の効率向上を図ることができる。
(チ)有機物含有液を処理する湿式メタン発酵のみならず、固形状又は半固形状の有機性廃棄物等を処理する乾式メタン発酵にも適用することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、有機性廃棄物が平均100ミクロン程度に細かく粉砕されたスラリー状の有機物含有液Sをメタン発酵微生物群4との接触により分解して分解生成ガスGを回収する本発明の処理装置の一実施例を示す。図示例の処理装置は、メタン発酵微生物群4を保持する発酵槽1と、発酵槽1内の液相部3の有機物含有液S(以下、発酵液Sということがある。)を攪拌する攪拌装置6と、発酵槽1内の頂部の気相部2に連通する外付けアンモニア捕集装置10付き循環ガス流路11とを有する。処理対象の有機物含有液Sは、貯留タンク30から供給ポンプ31及び供給路32を介して、適当な流量で発酵槽1の頂部へ供給する。発酵槽1内に投入された有機物含有液Sは、攪拌されながら発酵槽1内に所要時間滞留し、メタン発酵微生物群4との接触により分解生成ガスGと処理液Wとに分解される。処理液Wは発酵槽1の底部から排出され、必要に応じて二次処理施設で高度処理したのち下水道や河川に放流される。発酵液Sの発酵槽内滞留時間は、貯留タンク30からの供給流量と処理液Wの排出流量とにより調節できる。発酵槽1内で生成された分解生成ガスGは、必要に応じて脱硫器33で脱硫したのち処理系外へ回収する。
【0015】
図示例の発酵槽1は、内部に微生物固定床5を有する気密槽であり、固定床5にメタン発酵微生物群4を保持させる。一般的にメタン発酵処理の反応工程は三段階、すなわち有機物が加水分解菌により加水分解されて低分子量の有機物に分解される段階(加水分解反応)、次に低分子量の有機物が酸発酵菌により酢酸等の有機酸に分解される段階(酸発酵反応)、更に有機酸がメタン生成菌によりメタンと二酸化炭素とに分解される段階(メタン生成反応)に分けることができる。固定床5に付着させるメタン発酵微生物群4は加水分解菌、酸発酵菌、メタン生成菌を含む。
【0016】
固定床5の一例は、微生物群4が高濃度に付着可能な適当な担体、例えばガラス繊維製又は炭素繊維製の織布又は不織布が中空筒状に成形された担体を規則的に並べたものである。ガラス繊維製又は炭素繊維製の中空筒状担体は、繊維間に微生物群4を高濃度に、且つ、発酵時に発生する分解生成ガスGによって剥離しない程度に強固に捕捉できる。とくに炭素繊維製の担体は、特許文献5に示すように、上述した酸発酵反応で発生する有機酸等に対する耐性(酸耐性)を有し、酸性化しやすい発酵槽1の発酵液S中に長期間浸漬しても強度劣化が少なく、微生物群4を長期間に亘り高濃度に保持できる利点がある。但し、発酵槽1は微生物群4を高濃度に保持できるものであれば足り、固定床5を有する発酵槽1に限定されない。例えば図2に示すような流動床式又はUASB式の発酵槽1に本発明を有効に適用できる。また、乾式の発酵槽にも本発明の適用が期待できる。
【0017】
発酵槽1には、頂部に気相部2を残して、頂部の投入口19bから処理対象の有機物含有液Sを投入する。固定床5は、発酵液Sに浸漬する発酵槽1の液相部3に設ける。液相部3で発生した分解生成ガスGは、気泡となって液相部3を上昇し、気相部2に溜まる。発酵槽1の気相部2と液相部3(発酵液S)との比率は、後述するように気相部2の分解生成ガスGをアンモニア捕集装置10経由で循環させた際に液相部3(発酵液S)中のアンモニアが効率的に気相部2へ移動できるように、適当に選択できる。例えば気相部2の高さを500mm〜1,000mmとすることにより、発酵液S中のアンモニアを迅速且つ効率的に除去できる(後述の実験例1参照)。
【0018】
発酵槽1内で発酵液Sを効率的・安定的にメタン発酵させるためには、発酵槽1内の発酵液Sを適当に攪拌して均一化する必要がある。図示例の攪拌装置6は、発酵槽1の下部の抜出口19aと頂部の気相部2の吐出口19bとを連通する外付け循環液流路17と、液流路17上に設けた循環ポンプ18とを有する。発酵槽1内の発酵液Sを循環ポンプ18により抜出口19aから循環液流路17へ抜き出し、ポンプ18経由で発酵槽1頂部の気相部2の吐出口19bから発酵槽1内へ戻して循環させることにより攪拌する。図示例のように発酵液Sを循環させる方法は、発酵液Sを比較的均一に発酵槽1へ戻すことができ、発酵液Sの液面7(表面)にできたスカム層を破壊することができ、発酵槽1内に発生した分解生成ガスGの上昇流と発酵液Sの下向流との交差により効果的な攪拌が期待できる。また、液相部3(発酵液S)中に溶解又は懸濁したアンモニアが気相部2へ移動するのを促進し、液相部3(発酵液S)のアンモニア除去効率を高める利点がある。但し、攪拌装置6は図示例に限定されず、例えば図2のように発酵槽1の内部の攪拌翼15を回転させて発酵槽1内の液相部3(発酵液S)を攪拌してもよい。
【0019】
また、効率的・安定的なメタン発酵のためには、発酵液Sを攪拌すると共に、発酵液Sをメタン発酵微生物群4の活性温度に保温する必要がある。図示例では、保温手段20として、循環液流路17上に熱交換器21を設けている。熱交換器21に例えば蒸気その他の高温流体Hを送り、発酵液Sを高温流体Hとの熱交換によりメタン発酵に最適な発酵温度に保温する。例えばメタン発酵微生物群4として高温菌群を用いる場合は、保温手段20により発酵液Sを50〜60℃、好ましくは54〜56℃に保温する。
【0020】
更に発酵槽1には、気相部2の分解生成ガスGを抜き出して気相部2へ戻す外付けアンモニア捕集装置10付き循環ガス流路11を設ける。アンモニア捕集装置10の一例は、水や酸溶液(例えば希硫酸溶液)等の洗浄液を利用して分解生成ガスG中のアンモニアを捕集するスクラバ(洗浄集塵器)である。例えば循環ガス流路11上に設けたブロワ14により気相部2の分解生成ガスGを抜出口13からガス流路11aへ抜き出し、アンモニア捕集装置10により分解生成ガスG中のアンモニアを除去し、アンモニア除去後の分解生成ガスGをガス流路11b経由で戻り口12から気相部2へ吹き込む。アンモニア除去後の分解生成ガスGを気相部2へ吹き込むことにより気相部2のアンモニア分圧を下げ、その結果、発酵槽1の液相部3(発酵液S)中に溶解又は懸濁したアンモニアを気相部2へ移行させて液相部3のアンモニアを除去することができる。なお、アンモニア捕集装置10はスクラバに限定されず、従来技術に属する湿式又は乾式の適当なアンモニア捕集装置が利用可能である。
【0021】
本発明は、液相部3(発酵液S)を攪拌しながら気相部2のアンモニア分圧を低下させるので、液相部3(発酵液S)のアンモニアを迅速且つ効率的に除去できる(後述の実験例1参照)。また、液相部3(発酵液S)のアンモニア濃度や温度、気相部2と液相部3(発酵液S)との比率等に応じて、液相部3から気相部2へのアンモニアの移動が促進されるように、分解生成ガスGの気相部2への吹き込み量(すなわち、ブロワ14の流量)を適当に調節できる。更に、気相部2の適当な位置に複数の抜出口13又は戻り口12を設けることも効果的である。気相部2の抜出口13及び戻り口12の位置及び配置は図示例に限定されないが、後述するように戻り口12を発酵槽1内の液相部3の液面7に臨ませ、捕集装置10からの分解生成ガスGを発酵槽1内の液相部3の液面7へ吹き付けることが望ましい。発酵槽1内の液相部3の液面7は、分解生成ガスGの発生や発酵液Sの攪拌によって波立っているが、捕集装置10からのガスGを液面7に吹き付けて更に波立たせ、液相部3(とくに液面7)を攪拌することにより、液相部3(発酵液S)からのアンモニア除去効率を更に高めることが期待できる。
【0022】
[実験例1]
本発明による有機物含有液S中のアンモニア濃度の低減効果を確認するため、有効容積10リットルの発酵槽1を用いて図1に示す処理装置を作製し、メタン発酵処理時の発酵液Sのアンモニア濃度を計測する実験を行った。本実験では、発酵槽1内の固定床5にメタン発酵微生物群4として高温菌群を保持させ、気相部2の高さが500mm〜1,000mmとなるように発酵槽1内へ有機物含有液Sを供給し、発酵液Sを保温手段20で55℃に保温しつつ循環液流路17及び循環ポンプ18経由で循環させた。また、アンモニア捕集装置10として0.1Nの硫酸溶液利用のスクラバを使用し、ブロア14により気相部2の分解生成ガスGを発酵槽1の単位容積(m3)当たり10m3/dayの流量で循環ガス流路11及びアンモニア捕集装置10経由で循環可能とした。先ず、ブロア14を停止した状態で循環ポンプ18を駆動しつつ発酵液Sのメタン発酵を行い、発酵液S中のケルダール窒素(有機体窒素)濃度が5,000mg/リットルまで上昇した時点でブロア14を稼動し、その後の発酵液S中のアンモニア濃度を計測した。実験結果を図3のグラフに示す。
【0023】
図3のグラフから、液相部3(発酵液S)を攪拌しながらブロア14で気相部2の分解生成ガスGをアンモニア捕集装置10経由で循環させることにより、発酵液S中のアンモニア性窒素濃度及びケルダール窒素濃度を共に迅速に低下させ、発酵液S中のアンモニアを効率的に除去できることが確認できた。また、ブロア14の24時間稼動で、発酵液S中のアンモニア性窒素濃度及びケルダール窒素濃度を共にアンモニア阻害が発生しない1,000mg/リットル程度まで低下させ、ケルダール窒素濃度等が上昇する以前の効率的なメタン発酵処理が回復することを確認できた。この短時間でのメタン発酵効率の回復から、気相部2の分解生成ガスGの循環時において固定床5におけるメタン発酵微生物群4の高濃度保持が維持されていることを確認できた。
【0024】
本発明によれば、有機物含有液Sを希釈せずにアンモニア阻害を防止できるので、発酵槽1の小型化を図ることができる。また、消費エネルギー(電力)の小さい低圧型のブロワ4で気相部2の分解生成ガスGを循環させれば足りる。従って、最小のコストでアンモニア阻害のない効率的なメタン発酵処理を実現できる。更に本発明は、発酵槽1におけるメタン発酵微生物群4の活性状態を低下させることなくアンモニア阻害を低減できるので、固定床式及びUASB式の発酵槽1に有効に適用でき、乾式の発酵槽への適用も期待できる。
【0025】
こうして本発明の目的である「低コストで有機物含有液を効率的にメタン発酵できるアンモニア阻害低減型メタン発酵処理方法及び装置」の提供を達成することができる。
【0026】
なお、図3のグラフから分かるように、本発明によれば発酵液S中のアンモニア濃度を24時間程度で十分除去することができるので、気相部2の分解生成ガスGを循環させるブロワ14は必要に応じて適宜駆動すれば足りる。例えば、発酵槽1内の発酵液S中のアンモニア濃度(例えば、アンモニア性窒素濃度)を計測する濃度センサを設け、そのセンサの出力が3,000ppm〜5,000ppm程度に上昇した時点でブロワ14を稼働し、そのセンサの出力が1,000ppm程度まで下降した時点でブロワ14を停止する制御を行うことにより、消費エネルギー量の更なる低減を図ることができる。
【実施例1】
【0027】
図1の実施例において、循環液流路17の気相部2への吐出口19bを循環ガス流路11の気相部2への戻り口12の近傍に設け、吐出口19bから気相部2へ戻す有機物含有液(発酵液)Sを、戻り口12からの分解生成ガスGにより発酵槽1内の液面7に分散させることができる。図1において、循環液流路17の吐出口19bが一箇所であると、吐出口19bから投入された発酵液Sが吐出口19bの直下の液相物3(発酵液S)の液面7に集中的に供給されることとなり、そこで微生物反応が局部的に進み発酵液S内に局部的な有機酸濃度の上昇やpHの低下を生じ、メタン発酵処理の効率が低下することがある。吐出口19bからの発酵液Sを戻り口12からのガスGにより発酵槽1内の液面7に分散させて投入することにより、発酵槽1内における発酵液Sの局部的な滞留を避け、安定したメタン発酵処理の長期間維持が期待できる。
【実施例2】
【0028】
図2は、UASB式の発酵槽1に適用した本発明のメタン発酵処理方法の実施例を示す。この実施例では、処理対象の有機物含有液Sを貯留タンク30から供給ポンプ31及び供給路32を介して発酵槽1の底部へ供給し、発酵槽1内に所要時間滞留させ、処理液Wを発酵槽1の頂部から排出する。発酵槽1内の発酵液Sは、発酵槽1の上部に設けた回転モータ16で発酵槽1の内部の攪拌翼15を回転させることにより攪拌する。また、発酵槽1の側壁に設けた熱交換器21に高温流体Hを循環させることにより、発酵液Sをメタン発酵に最適な発酵温度に保温する。アンモニア捕集装置10付き循環ガス流路11の構成は、上述した図1と同様である。本発明は、気相部2の分解生成ガスGの循環により液相部3のアンモニアを除去するので、微生物群4であるグラニュールの崩壊・流出等を引き起こすおそれがなく、UASB式の発酵槽1においてもアンモニア阻害のないメタン発酵の高効率処理が実現できる。また図1及び図2から分かるように、本発明は既存のメタン発酵槽にアンモニア捕集装置10付き循環ガス流路11を増設することによって容易に実現することができ、既存のメタン発酵槽の効率向上にも有効に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施例の説明図である。
【図2】本発明の他の実施例の説明図である。
【図3】本発明による有機物含有液中のアンモニア濃度の低減効果を確認した実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1…発酵槽 2…気相部
3…液相部 4…メタン発酵微生物群
5…微生物固定床 6…攪拌装置
7…液面 10…アンモニア捕集装置
11、11a、11b…循環ガス流路 12…戻り口
13…抜出口 14…ブロア
15…攪拌翼 16…回転モータ
17…外付け循環液流路 18…循環ポンプ
19a…抜出口 19b…吐出口(投入口)
20…保温手段 21…熱交換器
30…貯留タンク 31…供給ポンプ
32…供給路 33…脱硫器
G…分解生成ガス H…高温流体
S…有機物含有液(発酵液) W…処理液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物含有液をメタン発酵微生物群が保持された発酵槽に投入し、前記発酵槽の頂部の気相部を発酵槽外のアンモニア捕集装置付き循環ガス流路に連通させ、前記発酵槽内の液相部を攪拌しつつ発酵槽内の分解生成ガスを気相部と捕集装置との間で循環させてなるアンモニア阻害低減型メタン発酵処理方法。
【請求項2】
請求項1の処理方法において、前記捕集装置から発酵槽の気相部へ戻す分解生成ガスを発酵槽内の液面へ吹き付けることにより液相部を攪拌してなるアンモニア阻害低減型メタン発酵処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2の処理方法において、前記液相部の有機物含有液を下部から抜き出し頂部の気相部へ戻して循環させることにより攪拌してなるアンモニア阻害低減型メタン発酵処理方法。
【請求項4】
請求項3の処理方法において、前記発酵槽の気相部へ戻す循環有機物含有液を、前記捕集装置から発酵槽の気相部へ戻す分解生成ガスにより発酵槽内の液面に分散させてなるアンモニア阻害低減型メタン発酵処理方法。
【請求項5】
メタン発酵微生物群を保持し当該微生物群との接触により有機物含有液を分解する発酵槽、前記発酵槽内の液相部を攪拌する攪拌装置、前記発酵槽内の頂部の気相部から分解生成ガスを抜き出して当該気相部へ戻す循環ガス流路、及び前記ガス流路上に設けたアンモニア捕集装置を備えてなるアンモニア阻害低減型メタン発酵処理装置。
【請求項6】
請求項5の処理装置において、前記循環ガス流路の気相部への戻り口を発酵槽内の液面に臨ませ、前記捕集装置からの分解生成ガスを発酵槽内の液面へ吹き付けてなるアンモニア阻害低減型メタン発酵処理装置。
【請求項7】
請求項5又は6の処理装置において、前記攪拌装置に、発酵槽内の液相部の有機物含有液を下部から抜き出し頂部の気相部の吐出口へ戻すポンプ付き外付け循環液流路を含めてなるアンモニア阻害低減型メタン発酵処理装置。
【請求項8】
請求項7の処理装置において、前記循環液流路の気相部への吐出口を循環ガス流路の気相部への戻り口の近傍に設け、吐出口からの有機物含有液を戻り口からの分解生成ガスにより発酵槽内の液面に分散させてなるアンモニア阻害低減型メタン発酵処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−297171(P2006−297171A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117813(P2005−117813)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】