アーク溶接ロボット制御装置
【課題】
アーク溶接ロボットにおいてトーチ姿勢の教示が煩雑である。
【解決手段】
ロボット制御装置RCは、トーチTの姿勢を規定するトーチ姿勢ファイルを作成するCPUと記憶部を備える。トーチ姿勢ファイルは、溶接線上の教示点または溶接開始命令の1パラメータとして設定される。ロボット制御装置RCは、作業プログラムを再生する際、トーチ姿勢ファイルが設定された教示点、またはトーチ姿勢ファイルが設定された溶接開始命令が有効となる教示点におけるトーチ姿勢を算出する。角度パラメータを、作業プログラムとは別のファイルとすることで、一度教示したトーチ姿勢の再利用を可能とすると共に修正も容易となる。
アーク溶接ロボットにおいてトーチ姿勢の教示が煩雑である。
【解決手段】
ロボット制御装置RCは、トーチTの姿勢を規定するトーチ姿勢ファイルを作成するCPUと記憶部を備える。トーチ姿勢ファイルは、溶接線上の教示点または溶接開始命令の1パラメータとして設定される。ロボット制御装置RCは、作業プログラムを再生する際、トーチ姿勢ファイルが設定された教示点、またはトーチ姿勢ファイルが設定された溶接開始命令が有効となる教示点におけるトーチ姿勢を算出する。角度パラメータを、作業プログラムとは別のファイルとすることで、一度教示したトーチ姿勢の再利用を可能とすると共に修正も容易となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアーク溶接ロボット制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接トーチを支持したマニピュレータによる溶接作業を、作業プログラムの再生運転によって実行する場合、マニピュレータの移動中に溶接トーチの先端位置(3次元位置)とともに、溶接トーチの姿勢が適正に保たれる必要がある。
【0003】
すなわち、溶接トーチ先端が溶接線を正しくなぞるように溶接経路上を移動しても、トーチ姿勢が不適当である場合には、所望の溶接作業を遂行することができない。このため、教示時には溶接経路上の複数の教示点の教示、並びに溶接トーチの姿勢の教示を正確に行う必要がある。
【0004】
このようにトーチ姿勢の教示は非常に労力を要する作業であるために、教示作業を軽減化することを目的とした様々な方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、狙い角、前進後退角等を数値で入力することを可能にしたトーチ姿勢の教示方法が開示されている。
【0005】
特許文献1では、図12に示すように、(1)溶接経路の始点A,終点F及び接続点B,C,D,Eの位置迄、トーチ姿勢には注意を払うことなくジョグ送りしてトーチの先端を移動させることにより、始点A,終点F及び接続点B,C,D,Eを、順次教示する。(2)次に、トーチの姿勢を規定するための基準面を指定し、トーチ姿勢を表す狙い角と前進後退角(すなわち、角度パラメータ)をロボット制御装置に入力する。(3)入力された前記角度パラメータと、(1)の始点A,終点F及び接続点B,C,D,Eの位置データに基づき、基本的なトーチ姿勢が自動的にロボット制御装置により計算される。
【0006】
特許文献1では、最初にマニピュレータの位置(トーチ位置)のみを教示した作業プログラムを用意し、この作業プログラムに、姿勢を決定するための角度パラメータを入力することによって、トーチ姿勢を算出して作業プログラムに反映させるようにしている。この結果、教示作業を大幅に軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−123536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、トーチ姿勢の角度パラメータは、トーチ姿勢クイックティーチと称される専用機能を呼び出してから、都度、入力するようになっているために、一度入力したトーチ姿勢を、再度、あるいは別の作業プログラムで利用することができない。
【0009】
また、角度パラメータを誤って入力してしまうと、溶接トーチがワークと干渉したり、所望の溶接結果にならない場合がある。所望の溶接結果にならない場合とは、例えば、溶接電圧、溶接電流等の溶接条件は、トーチ姿勢に対応して設定されているため、角度パラメータに入力間違いがあると、間違ったトーチ姿勢の下で前記溶接条件を満足するように実行されることになってしまい、この結果、正しいトーチ姿勢で形成されるはずの溶接ビード等にならない場合である。
【0010】
このような場合は、角度パラメータの修正を行う必要があるが、特許文献1では、角度パラメータの修正を行う場合でも、上述した専用の機能を起動する必要がある。一般的に、トーチ姿勢を修正する場合は、作業プログラムを再生して修正対象の教示点まで移動した後、その教示点におけるトーチ姿勢を現物のワークに合わせて確認しながら微調整することが行われる。しかしながら、特許文献1では、現物のワークに合わせながら微調整することができない。
【0011】
本発明の目的は、トーチ姿勢を決定する角度パラメータを、作業プログラムとは別のトーチ姿勢ファイルとして保存可能とすることによって、一度教示したトーチ姿勢の再利用を可能とするとともに修正も容易にし、トーチ姿勢の教示作業を軽減することができるアーク溶接ロボット制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題点を解決するために、請求項1の発明は、溶接線を規定する教示点及び教示点関連情報が記述された作業プログラムを再生することにより、マニピュレータを制御するアーク溶接ロボット制御装置において、前記溶接線に対する溶接トーチのトーチ姿勢を規定するトーチ姿勢ファイルを作成する作成手段と、前記トーチ姿勢ファイルを記憶する記憶手段と、前記溶接線上の教示点又は前記教示点関連情報に前記トーチ姿勢ファイルを関連づけて設定する設定手段と、前記作業プログラムの再生時に、前記溶接線上の教示点におけるマニピュレータによるトーチ姿勢を、前記トーチ姿勢ファイルに基づいて算出する姿勢算出手段と、を備えたことを特徴とするアーク溶接ロボット制御装置を要旨としている。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1において、前記トーチ姿勢ファイルは、関連づけられた前記教示点又は教示点関連情報に基づいて、前記記憶手段から読み出されて、前記作成手段により更新自在とされていることを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2において、前記溶接線上の任意の教示点又は教示点関連情報に関連づけられる前記トーチ姿勢ファイルに記述されるトーチ姿勢と、1つ前の教示点又は前記1つ前の教示点の教示点関連情報に関連づけられたトーチ姿勢ファイルに記述されたトーチ姿勢と比較を行い、姿勢変化が閾値以上であるときは、警告手段を作動させて警告させる比較手段を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項において、前記作成手段は、ワークに対して実際に位置づけられた前記溶接トーチのトーチ姿勢に基づいて、前進後退角、狙い角のいずれか1つ又は複数を算出し、その算出結果を前記トーチ姿勢ファイルに記述することを特徴とする。
【0016】
請求項5の発明は、請求項4において、可搬式操作手段からのジョグ送り操作により姿勢変更信号が入力される毎に、前進後退角、狙い角のいずれか1つを所定の角度ピッチだけ変化させて前記トーチ姿勢を微調整する微調整手段を備え、前記作成手段は、前記微調整手段による微調整の結果に基づいてトーチ姿勢ファイルにトーチ姿勢を記述することを特徴とする。
【0017】
請求項6の発明は、請求項4又は請求項5において、 ジョグ送り操作を行う可搬式操作手段を備え、前記トーチ姿勢を前記可搬式操作手段からのジョグ送り操作により入力する第1入力モード、前記トーチ姿勢を数値により入力する第2入力モードのいずれかのモード選択が可能なモード選択手段と、前記モード選択手段により、前記第1入力モードが選択された際、前記作成手段は、前記溶接トーチのトーチ姿勢をエンコーダから読み取って前記トーチ姿勢ファイルに記述し、前記モード選択手段により、前記第2入力モードが選択された際、前記作成手段は、前記可搬式操作手段からの数値入力により、前記トーチ姿勢ファイルにトーチ姿勢を記述することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、トーチ姿勢を決定する角度パラメータを、作業プログラムとは別のトーチ姿勢ファイルとして保存するようにした。このようにすることによって、一度教示したトーチ姿勢の再利用が可能となる。また、教示後にトーチ姿勢を変更する場合、トーチ姿勢を規定する姿勢ファイルを変更するだけとなる。すなわち、トーチ姿勢の教示作業を軽減することができる。
【0019】
請求項2の発明によれば、トーチ姿勢ファイルは、関連づけられた教示点又は教示点関連情報に基づいて記憶手段から読み出されて、作成又は修正可能としたことによって、トーチ姿勢の教示をより簡単に行うことができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、トーチ姿勢に関連するデータが誤って入力されたとしても、事前に警告を発することにより修正を促すようにしたことによって、マニピュレータの周辺に位置するジグ等の干渉を防止することができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、可搬式操作手段により実際にジョグ送りされた溶接トーチのトーチ姿勢を、直接、トーチ姿勢ファイルに取り込んで記憶できるようにしたことによって、現物のワークに合わせた厳密な教示を行うことができる。
【0022】
請求項5の発明によれば、現物のワークに合わせたトーチ姿勢の微調整を可能としたことによって、教示後の修正作業を軽減することができる。
請求項6の発明によれば、トーチ姿勢ファイルの作成・更新を、可搬式操作手段を使ったジョグ送り、または直接の数値入力のいずれかの方法によって可能としたことによって、フレキシブルな設定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態のティーチングプレイバック方式を採用したアーク溶接ロボット制御装置の構成図。
【図2】ロボット制御装置のブロック図。
【図3】教示点の説明図。
【図4】(a)は溶接経路(溶接区間)の説明図、(b)は前進後退角の説明図、(c)は狙い角の説明図。
【図5】教示モードにおいて、作業者が作業プログラムの作成を行う手順のフローチャート。
【図6】入力モードにおいて、CPU50が行う処理のフローチャート。
【図7】編集モードにおいて、CPU50が行う処理のフローチャート。
【図8】作業プログラムの説明図。
【図9】記憶部の説明図。
【図10】第2実施形態の作業プログラムの説明図。
【図11】第2実施形態の記憶部の説明図。
【図12】従来例の教示点の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化したアーク溶接ロボット制御装置の一実施形態を図1〜図9を参照して説明する。
【0025】
図1に示す、アーク溶接ロボット制御装置(以下、単にロボット制御装置という)RCは、作業台16上のワークWに対してアーク溶接を自動で行うように溶接作業を行う6軸(すなわち、6個の関節軸)のマニピュレータ10を制御する。作業台16は、単にワークWを設置するだけのフロアに固定された作業台としてもよいし、ワークWに対するトーチ姿勢を最適に維持するためのポジショナとしてもよい。作業台16としてポジショナを採用する場合は、ロボット制御装置RCによってポジショナの軸が駆動制御される。
【0026】
マニピュレータ10は、フロア等に固定されるベース部材12と、ベース部材12上に設けられるとともに前記複数の関節軸を介して連結された複数のアーム20を備える。
マニピュレータ10の最も先端側に位置するアーム20の先端部には、溶接トーチ(以下、単にトーチという)Tが設けられている。トーチTは、溶加材としてのワイヤ15を内装し、図示しない送給装置によって送り出されたワイヤ15の先端とワークWとの間にアークを発生させ、その熱でワイヤ15を溶着させることによりワークWに対して溶接を施す。各アーム20は図示しない各駆動モータの駆動によってトーチTを並進、回転自在に移動できるように構成されている。前記図示しない駆動モータに直結された図示しないエンコーダから各アームの関節角度が検出される。
【0027】
ロボット制御装置RCには、可搬式操作手段としてのティーチペンダントTPが接続されている。ティーチペンダントTPの操作面には液晶ディスプレイ等からなる表示装置30及び各種キーが設けられている。ティーチペンダントTPは、マニピュレータ10の動作を作業者が教示するための装置である。
【0028】
前記キーには、マニピュレータ10を動作させるための複数のボタン群40、登録キー41、実行キー42、モード切替キー43、トーチ姿勢ファイル作成キー44、テンキー各種の文字入力キー(図示しない)及び選択キー45等を含む。これらのキーの操作により、入力されたデータ、或いは、各種情報をロボット制御装置RCが備える記憶部56(図2参照)に格納可能である。
【0029】
図1に示すようにボタン群40は、座標系の方向(±X,±Y,±Z)及び姿勢(±RX,±RY,±RZ)に応じた複数のボタンが装備されている。ボタン群40のいずれかのボタンの押下により、そのボタンに対応した座標系の方向又は回転方向にマニピュレータ10が移動又は姿勢変化する。例えば、ロボット制御装置RCは、設定されている座標系の下でマニピュレータ10を移動させる場合は、ボタン群40のX+ボタンを押すと、当該設定されている座標系のX+方向にマニピュレータ10が移動する。又、姿勢(±RX,±RY,±RZ)に応じた複数のボタンを操作すると、操作されたボタンに対応する前記アームがその軸心の周りに回転する。
【0030】
このように、作業者はボタン群40を操作することにより、マニピュレータ10を所望の位置に移動又は姿勢を変化させて、溶接作業を行わせるための作業経路、すなわち、作業経路上の教示点並びに姿勢を教示又は教示修正する。教示された作業経路(教示点)並びにトーチ姿勢は、作業プログラム、並びにトーチ姿勢ファイルとしてそれぞれ記述されて記憶部56に記憶される。
【0031】
図2に示すようにロボット制御装置RCは、CPU(中央処理装置)50、マニピュレータ10を制御するための制御ソフトウェアを記憶する書換可能なEEPROM52、作業メモリとなるRAM54、及び作業プログラム、トーチ姿勢ファイル、及び各種座標系の定義パラメータ等を記憶する書換可能な不揮発性メモリからなる記憶部56を備える。又、ロボット制御装置RCは、マニピュレータ10の前記駆動モータを制御するサーボドライバ58を備え、前記作業プログラムに従って図示しない前記エンコーダからの現在位置情報(すなわち、関節角度)等に基づいて、マニピュレータ10の駆動モータを駆動制御して、トーチTを教示点に移動させるとともに姿勢を変えることが可能である。
【0032】
又、ロボット制御装置RCは、図示しない上位コントローラにも電気的に接続されており、前記上位コントローラからの外部の種々の入力信号が入力可能である。
前記CPU50は、作成手段、設定手段、姿勢算出手段、比較手段、微調整手段に相当する。前記記憶部56は記憶手段に相当する。ティーチペンダントTPの表示装置30は警告手段に相当する。ティーチペンダントTPは、可搬式操作手段及びモード選択手段に相当する。
【0033】
(実施形態の作用)
<A.教示モード>
次に、上記のように構成されたロボット制御装置RCにおいて、教示モードでの作用を図3〜図9を参照して説明する。
【0034】
モード切替キー43の操作により教示モードになった状態で、ティーチペンダントTPの操作にて教示が行われると、CPU50は、作業プログラム及びトーチ姿勢ファイルを作成する。なお、説明の便宜上、図3ではワークWとして一対の鉄板がL字状に配置された角継手の場合を説明するが、継手の種類は限定されるものではない。
(1.トーチ姿勢ファイルの作成)
トーチ姿勢ファイルの作成は、作業プログラムの作成(教示)と並行して行うことも可能であるが、本実施形態では、説明の便宜上、作業プログラムの作成に先駆けて予め作成しておくものとして、以降の説明を行う。
【0035】
また、トーチ姿勢ファイルの作成方法としては、ワークWに合わせて実際にジョグ送りを行ってトーチ姿勢を決定する第1入力モードと、トーチ姿勢の角度パラメータを数値で入力する第2入力モードとが備わっている。
【0036】
作業者は、ティーチペンダントTPのトーチ姿勢ファイル作成キー44を操作すると、CPU50は、トーチ姿勢ファイル作成モードとして、RAM54にトーチ姿勢ファイルの作成のための記憶領域を確保する。そして、このモードの下で、作業者は、下記のようにして溶接線に対するトーチTのトーチ姿勢を入力する。以下、トーチ姿勢ファイルの作成について、図6を参照して説明する。
【0037】
ステップ110(以下、ステップを単にSと表記する)において、CPU50は、前記第1入力モード、或いは、前記第2入力モードの名称をティーチペンダントTPに表示するとともに、選択キー45の操作により、どちらが選択されるかをチェックする。
【0038】
まず、第1入力モードが選択された場合について説明する。
S115において、トーチ姿勢を前進後退角、狙い角等で表わすための基準面を設定する。基準面は、ワークW上の3点(例えば、図4(a)で示した開始点Ps、目標点Pe及び補助点Pr)が指定されることによりCPU50が算出する。より具体的には、ティーチペンダントTPのボタン群40の操作により、基準面を決定する各点にジョグ送りされて、当該位置がCPU50に入力されると、CPU50は基準面を算出し、RAM54に記憶する。基準面及びこれを決定する3点の詳細については、後述する。
【0039】
S120において、ティーチペンダントTPのボタン群40の操作によりジョグ送りがされると、ティーチペンダントTPから操作されたボタンに応じた方向に対応した変更信号がCPU50に入力される。具体的には、姿勢(±RX,±RY,±RZ)のボタンが操作されると、その姿勢の回転方向を示す変更信号がティーチペンダントTPからCPU50に入力される。
【0040】
この方法によってトーチ姿勢を決定することが可能であるが、好ましい実施形態としては、姿勢の微調整機能を備えるとさらによい。すなわち、CPU50は、微調整信号が入力されると、その微調整信号と方向に応じて前進後退角、狙い角のいずれか1つ又は両者を、所定の角度ピッチだけ変化させる。すなわち、マニピュレータ10を作動させてトーチ姿勢を微調整する。ここで、所定の角度ピッチとは、ボタンの1回の押下毎に、例えば1°づつ変化するピッチである。この角度ピッチは、予め定められるように構成しておくことが望ましい。このように、トーチ角度の微調整が行われることにより、精度が高い調整が可能となる。
【0041】
そして、CPU50は、マニピュレータ10における各アームの駆動モータのエンコーダからの現在位置情報(すなわち、関節角度)を入力する。
S130において、CPU50は、トーチ姿勢が変更される毎に、変更されたトーチ姿勢である前進後退角、狙い角のいずれか1つ又は両者を前記現在位置情報に基づいて算出する。なお、ジョグ送りでは、前進後退角のみ、或いは、狙い角のみの変更が可能であるとともに、前進後退角及び狙い角の両者を同時に変更することも可能である。
【0042】
S140において、算出したトーチ姿勢を表示装置30に表示する、
S150において、登録キー41が操作されない場合には、S120に戻る。又、S150において、登録キー41が操作されると、CPU50は、S160において、表示装置30に表示されたトーチ姿勢をトーチ姿勢ファイルに記述し記憶部56に保存し、このフローチャートを終了する。
【0043】
又、S110において、第2入力モードが選択された場合、作業者は、S170において、トーチ姿勢(前進後退角、狙い角)の数値入力を行う。この数値入力されたトーチ姿勢はティーチペンダントTPの表示装置30に表示されるとともに、CPU50に入力される。そして、S180において、登録キー41が操作されると、CPU50は、S160において、表示装置30に表示されたトーチ姿勢をトーチ姿勢ファイルに記述して記憶部56に保存し、このフローチャートを終了する。
【0044】
なお、トーチ姿勢を数値入力する第2入力モードでは、基準面は作業プログラムに記憶される教示点および補助点によって決定される。したがって、第2入力モードでは、基準面を決定するための3点を教示する作業は不要である。
(2.作業プログラムの作成)
図5は、作業者が行う作業プログラムの作成の手順を示すフローチャートである。同図に示すように、教示モードでは、S10において、作業者はティーチペンダントTPの文字入力キーを使用して、作業プログラム名を入力する。CPU50は、ティーチペンダントTPを介してこの作業プログラム名の記憶領域をRAM54に確保する。
【0045】
S20は教示点又は補助点の入力ステップ、S30はトーチ姿勢ファイルの指定ステップ、S40は教示点に関する教示点関連情報の入力ステップ、S50は、S20で入力される移動コマンドとは異なる他の命令の入力ステップである。
(2.1 原点・エアカット部の教示)
S20において、作業者は、ティーチペンダントTPのボタン群40を操作して、トーチTを原点位置(図示しない)までジョグ送りした後、教示モードにおいて表示装置30の表示画面に表示されている各種の移動方法(移動コマンドともいう)の内の1つを選択し、登録キー41を操作することにより原点を教示する。
【0046】
本実施形態では、移動方法(移動コマンド)として、例えば、位置決め命令、直線補間命令、円弧補間命令等が選択可能である。
位置決め命令は、トーチTの姿勢制御が行われないで、単にトーチTを教示点に移動させるコマンドである。又、直線補間命令は、後述する教示されているトーチ姿勢をとるようにして、補間演算を行いながら教示点までトーチTを直線状に移動させるコマンドである。又、円弧補間命令は、後述する教示されているトーチ姿勢をとるようにして、補間演算を行いながら教示点までトーチTを円弧を描くように移動させるコマンドである。
【0047】
この原点の教示により、図8に示すように、CPU50は、RAM54の前記作業プログラムの記憶領域に「教示ステップ001」を生成し、教示点としての原点を記録する。
この原点位置は、原点にトーチTが位置するまでに前記駆動モータに直結された前記エンコーダから出力される各アームの関節角度に基づいてCPU50が算出する。以下、後述する他の教示点、並びに補助点についても、原点位置の教示と同様に、各アームの関節角度に基づいて算出される。
【0048】
原点の教示においては、トーチ姿勢ファイルの指定は必要ないため、作業者はS30で何もせずにS40に移行する。S40において、作業者は、教示点関連情報としての移動速度をテンキー(図示しない)により数値入力する。図8の作業プログラムでは、例えば、「001 ,位置決め命令,7600cm/min」と記述されている。
【0049】
ここで、「教示ステップ001」と、位置決め命令との間は、指定されたトーチ姿勢ファイル名が表示される領域である。
後述する教示ステップ003,005,006,007において、トーチ姿勢ファイルが記述された例が示されている。例えば、「003 TR01,位置決め命令,7600cm/min」と記述されている。上記TR01が、指定されたトーチ姿勢ファイルのファイル名を示している。
【0050】
なお、このようなトーチ姿勢ファイル名が表示される領域は、図8の例に限定されるものではなく、適宜の位置に設定すればよい。
次に作業者は、S50及びS60で何もせずに、S20に戻る(他の命令の入力や、作業プログラムの終了を示すエンド命令を入力しないで、再びS20に戻る)。S20において、溶接開始点の直前の位置である溶接開始直前点までボタン群40を操作して、トーチTをジョグ送りする。この後、作業者は、表示装置30が表示している移動方法の1つ、すなわち、位置決め命令を同様に選択し、登録キー41を操作することにより教示する。
【0051】
この教示により、図8に示すように、CPU50は、「教示ステップ002」を生成し、教示点としての溶接開始直前点の位置を記録する。
S30で何もせずにS40に移行し、作業者は、教示点関連情報として、移動速度をテンキー(図示しない)により数値入力する。図8の作業プログラムでは、「教示ステップ002」において、位置決め命令の後に、移動速度が数値入力により記述されたことが例示されている。
【0052】
続いて、S50及びS60で何もせずにS20に戻る。このように、トーチTの原点、及び溶接開始点の直前までの溶接開始直前点(エアカット部)では、トーチ姿勢ファイルを指定しないで教示する。
(2.2 溶接施工部の教示)
次に、溶接施工部の教示について説明する。ここからは、図3と合わせて説明する。図3において、教示点A1は、溶接開始点である。教示点A2およびA3は、トーチ姿勢を変更するために設ける溶接接続点である。教示点A4は、溶接終了点である。教示点A1〜A4で構成される溶接施工部では、各教示点において、トーチ姿勢ファイルを指定することによってトーチ姿勢を教示する。
【0053】
図5に戻り、S20において、作業者は、溶接開始点である教示点A1まで、ボタン群40を操作して、トーチTをジョグ送りする。
S30において、位置決め命令を選択し、さらに作成済みのトーチ姿勢ファイルを指定し、登録キー41を操作する。この教示操作により、CPU50は、図8に示すように、「教示ステップ003」を生成し、教示点A1の位置を記録する。また、作成済みのトーチ姿勢ファイルが指定されることにより、教示点A1におけるトーチ姿勢が記録されることになる。
【0054】
トーチ姿勢ファイルのファイル名の例として「TR01」が指定された場合は、図8に示すように、「教示ステップ003」の直後に「TR01」が表示される。このように、各教示ステップ(教示点)にトーチ姿勢ファイルが関連づけされる。
【0055】
S40において、作業者は、教示点関連情報としての移動速度をテンキー(図示しない)により数値入力する。
S50において、作業者は、ティーチペンダントTPの各種キーを操作して溶接開始命令を入力する。そして、溶接条件である溶接電流、溶接電圧、及び溶接速度を入力する。CPU50は、この溶接条件を図8に示すように「教示ステップ004」の行を生成し、溶接開始命令および溶接条件を記録する。
【0056】
続いて作業者は、図3における教示点A1の次の教示点A2を教示するために、S60で何もせずにS20に戻る。S20において、教示点A1と同様に教示点A2を教示する。すなわち「教示ステップ003」と同様に、教示点A2の位置と、教示点A2におけるトーチ姿勢ファイルTR02が教示される。この教示操作により、図8に示すように、「教示ステップ005」が記録される。なお、教示点A1及び教示点A2のトーチ姿勢を同一とする場合は、教示点A2において、教示点A1と同一のトーチ姿勢ファイルTR01を指定すればよい。これは、後述する教示点A3及びA4でも同様である。トーチ姿勢を変更する場合のみ、異なるトーチ姿勢ファイル(例えば、TR03等)を指定する。
【0057】
以下、図3に示す教示点A3及びA4についても、教示点A2の教示と同様にティーチペンダントTPを操作して、S20〜S60の手順を繰り返すことにより、図8に示すように「教示ステップ006」及び「教示ステップ007」が記録される。
【0058】
この後、S50において、作業者が「溶接終了命令」を入力することにより、「教示ステップ008」が記録される。
以下同様にして、作業者が、図3には図示されていない教示点の教示又は移動命令以外の命令を入力し、S50でエンド命令が入力されると、CPU50は、作業プログラムにそのときの教示ステップ番号である「教示ステップn」を記述する。そして、作業者が、S70において、登録キー41を操作すると、作業プログラムが記憶部56に格納される。
(2.3 トーチ姿勢の比較処理)
上述したステップS30においては、CPU50は、トーチ姿勢ファイルが指定された段階で、トーチ姿勢の算出を行う。そして、この算出結果と、現在の教示点の1つ前に隣接する他の教示点、すなわち、溶接の進行方向とは反対方向に隣接する他の教示点に関連づけられたトーチ姿勢ファイルを記憶部56から読み出してそのトーチ姿勢ファイルに記述されたトーチ姿勢と比較する比較処理を行うようにすると、さらに良い。
【0059】
教示点A1の場合は、溶接の進行方向とは反対側に隣接する教示点にはトーチ姿勢ファイルが設定されていないため、この比較処理は実行されないが、教示点A2〜A4のように、進行方向とは反対側に隣接する教示点にはトーチ姿勢ファイルが指定されている場合には、この比較処理が行われる。
【0060】
この比較処理が行われた後の処理をここで説明する。
CPU50は、比較処理した結果、隣接する教示点のトーチ姿勢との差分である変化量が、予め定められた閾値である姿勢変更限界値よりも大きい場合には、姿勢変更が過多である旨の警告を、表示装置30に表示させる。この警告表示により、作業者は、再び、警告が出ないようにしてジョグ送りでトーチ姿勢を変更することができる。この警告は、前記隣接する教示点におけるトーチ姿勢からの姿勢変更が過大すぎて、例えば、マニピュレータの周辺に位置するジグ等の干渉を防止するためのものである。
【0061】
又、姿勢変更が姿勢限界値以下の場合には、CPU50は、許容される変更である旨を表示装置30に表示させる。
(2.4 補助点および基準面について)
上記の説明では、便宜上、狙い角の算出に必要な基準面(後述)を定めるための補助点の教示については省略したが、補助点の教示は、教示点A1〜A4を教示する際、ティーチペンダントTPの図示しない補助点登録キーを操作することにより行われる、この場合、図3に示すように、ワークWの平面上の点B1が補助点として教示される。教示された補助点の位置は、一旦、CPU50によりRAM54に格納される。そして、前記作業プログラムの作成終了とともに前記補助点の位置は記憶部56に格納される。
【0062】
次に、基準面について、図4(a)を参照して説明する。
上記のように基準面の基本情報である補助点の入力は、教示時にティーチペンダントTPをオペレータが操作することで行う。
【0063】
図4(a)に示すように溶接線YS(すなわち、溶接区間)を規定する溶接開始点Psと目標点Pe(溶接終了点)、並びに、補助点PrをティーチペンダントTPによりそれぞれ指定されると、この計3点から、平面である基準面PLがCPU50により算出される。
【0064】
すなわち、溶接開始点Ps、目標点Pe、及び補助点Prの3点が決定されると、溶接開始点Psから目標点PeへのベクトルPと、溶接開始点Psから補助点PrへのベクトルQの外積を求める。この外積で求められるベクトルは、図4(a)に示すように、基準面PLに垂直な法線ベクトルVpである。基準面PLに垂直な法線ベクトルVpが決まれば、基準面PLが一意に決められる。
(2.5 トーチ姿勢)
次に、トーチ姿勢である前進後退角、及び狙い角について説明する。
【0065】
図3に示すように、通常のロボット溶接は、作業経路に含まれる溶接経路(溶接が行われる経路)に沿って行われる。本実施形態では、教示点A1〜A2の溶接区間E1、記録点A2〜A3の溶接区間F1、記録点A3〜A4の溶接区間G1の各教示点が前述のように予め教示される。この教示点間を繋ぐようにしてロボットが動作する。
【0066】
すなわち、常に隣り合う2つの教示点間をロボットは動作する。このように隣り合う2つの教示点の位置と、現在のトーチTの姿勢、並びに前記基準面PLの2つの情報から、前進後退角と狙い角が算出される。
【0067】
前記溶接区間E1では、A1が溶接開始点、A2が目標点である。溶接区間F1では、A2が溶接開始点、A3が目標点である。又、溶接区間G1では、A3が溶接開始点、A4が目標点である。
【0068】
前進後退角は、図4(b)に示すように、溶接線YSの接線に対する垂線La(すなわち、法線)を立てた際に同垂線Laに対してトーチTの長手方向軸線を表わす直線L1、L2がなす角度である。垂線Laに対して、L1のように0°を越える場合(+)には、前進角といい、L2のように0°を下回る場合(すなわち、「−」)場合には、後退角という。ここで、トーチTの長手方向軸線は、ワイヤ送給方向に向く軸に相当する。本明細書では、この前進角、後退角を合わせて前進後退角という。
【0069】
又、図4(c)に示す溶接区間E1を例にとると、A1を開始点Psとし、A2を目標点Peとしたとき、基準面PLに対して、トーチTの長手方向軸線と溶接線YSとが共に乗る平面Hのなす角が狙い角θである。なお、狙い角θ、及び前進後退角の算出は、公知であるため、説明を省略する。
【0070】
又、前記溶接区間(溶接経路)の開始点、目標点、並びに補助点の基準座標系は、ワーク座標系やワールド座標系、或いはベース座標系が適宜選択される。基準座標系が何であるかは本発明の内容には影響しないので、ここでは特定はしない。
(2.6 トーチ姿勢の修正)
次に、トーチ姿勢の修正について、図7を参照して説明する。トーチ姿勢の修正、すなわちトーチ姿勢ファイルの編集は、作業プログラムを、修正対象の教示点があるステップまで再生した後、或いは、そのステップにジャンプした後等、所定のメニューからトーチ姿勢ファイルの編集モードを選択することにより行うことができる。この場合、作業者が編集モードにすると、S200において、CPU50は、現在の教示点に関連付けされたトーチ姿勢ファイルを記憶部56から読み出し、RAM54に展開する。
【0071】
又、編集モードでは、CPU50は、ティーチペンダントTPの表示装置30に、ジョグ送りによるトーチ姿勢の第1入力モード、或いは、トーチ姿勢ファイルの編集を数値入力で行う第2入力モードの名前を表示装置30に表示させる。
【0072】
編集モードにおいて、図7で示されるS210〜S280の処理は、図6における入力モードのS110〜S180とそれぞれ同様の処理であるため、説明を省略する。
<B.作業プログラムの再生時>
上記のように作業プログラムが作成された後、作業者がモード切替キー43を操作して再生モードにすると、CPU50は、記憶部56に記憶した前記作業プログラムを再生する。この再生時において、各ステップに記述された各種命令及び併記された各種条件(移動速度、溶接条件)に従って、マニピュレータ10を教示点に移動させるとともに、トーチTに加工作業を行わせる。
【0073】
又、CPU50は、トーチ姿勢ファイルが指定された教示点(例えば、ステップ003、005、006、007)においては、トーチ姿勢ファイルに記述されたトーチ姿勢(前進後退角、狙い角)に基づいて、該教示点におけるマニピュレータ10がとるべき各アームの関節角度を算出する。そして、CPU50は、その算出結果に基づいて、各教示点におけるマニピュレータ10を制御して、トーチTをトーチ姿勢ファイルに記述されたトーチ姿勢にする。一方、トーチ姿勢ファイルが指定されていない教示点(例えば、ステップ001、002)では、該教示点におけるトーチ姿勢は、教示データとして記録されている各アームの関節角度をそのまま読み出すことによって、トーチ姿勢を再現する。
【0074】
さて、本実施形態によれば、以下のような特徴がある。
(1) 本実施形態のロボット制御装置RCは、溶接線に対するトーチTのトーチ姿勢を規定するトーチ姿勢ファイルTR01〜TR04を作成するCPU50(作成手段)を備えるとともに、前記トーチ姿勢ファイルを記憶する記憶部56(記憶手段)を備える。又、ロボット制御装置RCのCPU50は、溶接線上の教示点にトーチ姿勢ファイルを関連づけて設定する設定手段として機能する。又、CPU50は、姿勢算出手段として、作業プログラムの再生時に、溶接線上の教示点におけるマニピュレータ10によるトーチ姿勢を、教示点に関連づけられたトーチ姿勢ファイルに基づいて算出する。すなわち、トーチ姿勢を決定する角度パラメータを、作業プログラムとは別のトーチ姿勢ファイルとして保存するようにした。このようにすることによって、一度教示したトーチ姿勢の再利用が可能となる。また、教示後にトーチ姿勢を変更する場合、トーチ姿勢を規定する姿勢ファイルを変更するだけとなる。すなわち、トーチ姿勢の教示作業を軽減することができる。
【0075】
(2) 本実施形態のロボット制御装置RCは、前記トーチ姿勢ファイルは、記憶部56から読み出されて、CPU50により更新自在とされている。この結果、本実施形態では、教示後にトーチ姿勢を変更する場合、トーチ姿勢を規定する姿勢ファイルを変更するだけである。このため、トーチ姿勢の教示作業を軽減することができるとともに、トーチ姿勢ファイルは、関連づけられた教示点又は教示点関連情報に基づいて記憶手段から読み出されて、作成、又は修正可能になっているため、トーチ姿勢の変更のための修正を簡単に行うことができる。
【0076】
(3) 本実施形態のロボット制御装置RCのCPU50は、比較手段として、溶接線上の任意の教示点に関連づけられるトーチ姿勢ファイルに記述されるトーチ姿勢と、1つ前の教示点に関連づけられたトーチ姿勢ファイルに記述されたトーチ姿勢と比較を行う。そして、CPU50は、姿勢変化が閾値以上であるときは、ティーチペンダントTPの表示装置30(警告手段)を作動させて警告させる。この結果、本実施形態によれば、トーチ姿勢に関連するデータが誤って入力されたとしても、事前に警告を発することにより修正を促すことができ、この結果、マニピュレータの周辺に位置するジグ等の干渉を防止することができる。
【0077】
(4) 本実施形態のロボット制御装置RCのCPU50は、作成手段として、ジョグ送りによるワークWに対して実際に位置づけられたトーチTのトーチ姿勢に基づいて、前進後退角、狙い角のうち、少なくともいずれか1つを算出し、その算出結果をトーチ姿勢ファイルに記述する。この結果、本実施形態では、トーチTの実際のトーチ姿勢に基づき、直接トーチ姿勢ファイルの更新ができることにより、教示後の修正作業を軽減できる。
【0078】
(5) 本実施形態のロボット制御装置RCのCPU50は、微調整手段として、ティーチペンダントTPからジョグ送りにより変更信号が入力される毎に、前進後退角、狙い角のいずれか1つを所定の角度ピッチだけ変化させてトーチ姿勢を微調整する。そして、CPU50は、微調整の結果に基づいてトーチ姿勢ファイルにトーチ姿勢を記述する。この結果、本実施形態では、現物のワークに合わせたトーチ姿勢の微調整を可能としたことによって、さらに、教示時や教示後の修正作業を軽減することができる。
【0079】
(6) 本実施形態のロボット制御装置RCは、ティーチペンダントTPをモード選択手段とし、ティーチペンダントTPのジョグ送りによるトーチ姿勢の第1入力モードと、数値入力によるトーチ姿勢ファイルの第2入力モードのいずれかのモード選択が可能となっている。そして、ティーチペンダントTPにより、第1入力モードが選択された際、CPU50は、ティーチペンダントTPからのジョグ送り操作によるトーチ姿勢に基づき、トーチ姿勢ファイルにトーチ姿勢を記述する。
【0080】
又、ティーチペンダントTPにより、第2入力モードが選択された際、CPU50は、ティーチペンダントTPの操作による数値入力により、トーチ姿勢ファイルにトーチ姿勢を記述する。この結果、本実施形態では、作業者は、ティーチペンダントTPのジョグ送りによるトーチ姿勢ファイルの作成・更新、或いは、トーチ姿勢ファイル対する直接の数値入力によるトーチ姿勢ファイルの作成・更新を必要に応じて選択することができる。
【0081】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を図10、図11を参照して説明する。
第1実施形態では、教示点にトーチ姿勢ファイルを関連付けするようにしたが、第2実施形態では、教示点関連情報にトーチ姿勢ファイルを関連付けするようにしているところが異なっている。第2実施形態は、第1実施形態とはハード構成は同一であるため、ハード構成の説明は省略する。
【0082】
図10は第2実施形態の作業プログラムを示している。同図に示すように、第2実施形態の作業プログラムは、第1実施形態では、教示ステップ番号の書き込み領域と、「位置決め命令」、「直線補間命令」等が書き込まれたコマンド書き込み領域間のトーチ姿勢ファイル名の書き込み領域が省略されている。
【0083】
その代わりに、本実施形態の作業プログラムでは、図10に示すように、例えば、「004 直線補間命令, ,7200cm/min」と記述される。
ここで、「直線補間命令」と「7200cm/min」との間は、トーチ姿勢ファイル名が書き込まれる領域である。この領域は、教示点が教示されることによりステップ番号が生成された場合において、必要に応じて前記トーチ姿勢ファイル名が書き込まれる。
【0084】
又、ステップ005,007,009では、「005 溶接開始命令,Y01」、「007 溶接開始命令,Y02」、「009 溶接開始命令,Y03」と記述される。
Y01〜Y03は、溶接条件が記述された溶接条件ファイルの名称(識別名)を示している。この溶接条件ファイルY01〜Y03は、第1実施形態と同様に、記憶部56に記憶されている、予め作成された溶接条件である。なお、溶接条件は、代表的には溶接電流、溶接電圧、溶接速度があるが、これら以外に、溶接方法により種々のパラメータが含まれる。溶接条件は、教示点で規定された溶接経路を溶接するための条件であり、これらの溶接条件は教示点関連情報に相当する。
【0085】
また、トーチ姿勢の入力は、第1実施形態と同様に、予め作成されたトーチ姿勢ファイル名を指定することにより行われる。すなわち、図11に示すように、トーチ姿勢ファイル名が、溶接条件ファイルの1パラメータとして指定されることにより、トーチ姿勢ファイルと溶接条件ファイルとが関連づけられる。
【0086】
このように、本実施形態では、溶接条件ファイル、すなわち、溶接条件(教示点関連情報)に、トーチ姿勢ファイルが関連付けられている。
このトーチ姿勢ファイルは、第1実施形態と同様に、記憶部56に記憶されるため、トーチ姿勢ファイル名に基づいて、読み出しが可能であり、トーチ姿勢の更新が可能である。
【0087】
このため、上記のように構成された第2実施形態のロボット制御装置RCにおいても、第1実施形態の(1)〜(6)に記載の作用効果を奏する。
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
【0088】
・ 前記実施形態では、S130において、トーチ姿勢の算出結果と、このトーチ姿勢を変更している教示点の前に隣接する他の教示点に関連づけられたトーチ姿勢ファイルを記憶部56から読み出してそのトーチ姿勢ファイルに記述されたトーチ姿勢と比較する比較処理を行う。そして、隣接する他の教示点のトーチ姿勢との差分である変化量が、予め定められた閾値である姿勢変更限界値よりも大きい場合には、警告するようにしたが、この比較処理及び警告処理を省略してもよい。
【0089】
・ 前記実施形態では、ティーチペンダントTPの表示装置30を警告手段としたが、警告手段は、表示装置30に限定されるものではない。ティーチペンダントTPに警告手段としてのスピーカーを設けて音声により、警告を出すようにしてもよい。又、アーク溶接ロボット制御装置に表示装置、或いはスピーカーの少なくとも一方を設けて、これらから警告を出すようにしてもよい。又、ティーチペンダントTPに警告手段としてのランプを設けて、ランプを警告時に点灯するようにしてもよい。
【0090】
・ 前記実施形態では、教示点又は溶接条件にトーチ姿勢ファイルを関連付けするようにしたが、トーチ姿勢ファイルの関連づけは、教示点又は溶接条件に対する関連づけに限定するものではない。例えば、作業プログラムにおいて、教示された教示点において入力されるコマンドに対してトーチ姿勢ファイルを関連づけしてもよい。このコマンドは教示点関連情報に相当する。
【0091】
・ 前記第2実施形態では、トーチ姿勢ファイルを、溶接条件ファイルの1パラメータとして設定するようにしたが、トーチ姿勢ファイルを、溶接開始命令で指定する複数の溶接条件の内の1つとして指定するように構成してもよい。この場合は、例えば、「005 溶接開始命令,200A,18.0V,50cm/min,TR01」のように、作業プログラムに記録される。
【符号の説明】
【0092】
RC…ロボット制御装置、
TP…ティーチペンダント(可搬式操作手段、モード選択手段)、
30…表示装置(警告手段)、
50…CPU(作成手段、設定手段、姿勢算出手段、比較手段、微調整手段)、
56…記憶部(記憶手段)。
【技術分野】
【0001】
本発明はアーク溶接ロボット制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接トーチを支持したマニピュレータによる溶接作業を、作業プログラムの再生運転によって実行する場合、マニピュレータの移動中に溶接トーチの先端位置(3次元位置)とともに、溶接トーチの姿勢が適正に保たれる必要がある。
【0003】
すなわち、溶接トーチ先端が溶接線を正しくなぞるように溶接経路上を移動しても、トーチ姿勢が不適当である場合には、所望の溶接作業を遂行することができない。このため、教示時には溶接経路上の複数の教示点の教示、並びに溶接トーチの姿勢の教示を正確に行う必要がある。
【0004】
このようにトーチ姿勢の教示は非常に労力を要する作業であるために、教示作業を軽減化することを目的とした様々な方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、狙い角、前進後退角等を数値で入力することを可能にしたトーチ姿勢の教示方法が開示されている。
【0005】
特許文献1では、図12に示すように、(1)溶接経路の始点A,終点F及び接続点B,C,D,Eの位置迄、トーチ姿勢には注意を払うことなくジョグ送りしてトーチの先端を移動させることにより、始点A,終点F及び接続点B,C,D,Eを、順次教示する。(2)次に、トーチの姿勢を規定するための基準面を指定し、トーチ姿勢を表す狙い角と前進後退角(すなわち、角度パラメータ)をロボット制御装置に入力する。(3)入力された前記角度パラメータと、(1)の始点A,終点F及び接続点B,C,D,Eの位置データに基づき、基本的なトーチ姿勢が自動的にロボット制御装置により計算される。
【0006】
特許文献1では、最初にマニピュレータの位置(トーチ位置)のみを教示した作業プログラムを用意し、この作業プログラムに、姿勢を決定するための角度パラメータを入力することによって、トーチ姿勢を算出して作業プログラムに反映させるようにしている。この結果、教示作業を大幅に軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−123536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、トーチ姿勢の角度パラメータは、トーチ姿勢クイックティーチと称される専用機能を呼び出してから、都度、入力するようになっているために、一度入力したトーチ姿勢を、再度、あるいは別の作業プログラムで利用することができない。
【0009】
また、角度パラメータを誤って入力してしまうと、溶接トーチがワークと干渉したり、所望の溶接結果にならない場合がある。所望の溶接結果にならない場合とは、例えば、溶接電圧、溶接電流等の溶接条件は、トーチ姿勢に対応して設定されているため、角度パラメータに入力間違いがあると、間違ったトーチ姿勢の下で前記溶接条件を満足するように実行されることになってしまい、この結果、正しいトーチ姿勢で形成されるはずの溶接ビード等にならない場合である。
【0010】
このような場合は、角度パラメータの修正を行う必要があるが、特許文献1では、角度パラメータの修正を行う場合でも、上述した専用の機能を起動する必要がある。一般的に、トーチ姿勢を修正する場合は、作業プログラムを再生して修正対象の教示点まで移動した後、その教示点におけるトーチ姿勢を現物のワークに合わせて確認しながら微調整することが行われる。しかしながら、特許文献1では、現物のワークに合わせながら微調整することができない。
【0011】
本発明の目的は、トーチ姿勢を決定する角度パラメータを、作業プログラムとは別のトーチ姿勢ファイルとして保存可能とすることによって、一度教示したトーチ姿勢の再利用を可能とするとともに修正も容易にし、トーチ姿勢の教示作業を軽減することができるアーク溶接ロボット制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題点を解決するために、請求項1の発明は、溶接線を規定する教示点及び教示点関連情報が記述された作業プログラムを再生することにより、マニピュレータを制御するアーク溶接ロボット制御装置において、前記溶接線に対する溶接トーチのトーチ姿勢を規定するトーチ姿勢ファイルを作成する作成手段と、前記トーチ姿勢ファイルを記憶する記憶手段と、前記溶接線上の教示点又は前記教示点関連情報に前記トーチ姿勢ファイルを関連づけて設定する設定手段と、前記作業プログラムの再生時に、前記溶接線上の教示点におけるマニピュレータによるトーチ姿勢を、前記トーチ姿勢ファイルに基づいて算出する姿勢算出手段と、を備えたことを特徴とするアーク溶接ロボット制御装置を要旨としている。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1において、前記トーチ姿勢ファイルは、関連づけられた前記教示点又は教示点関連情報に基づいて、前記記憶手段から読み出されて、前記作成手段により更新自在とされていることを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2において、前記溶接線上の任意の教示点又は教示点関連情報に関連づけられる前記トーチ姿勢ファイルに記述されるトーチ姿勢と、1つ前の教示点又は前記1つ前の教示点の教示点関連情報に関連づけられたトーチ姿勢ファイルに記述されたトーチ姿勢と比較を行い、姿勢変化が閾値以上であるときは、警告手段を作動させて警告させる比較手段を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項において、前記作成手段は、ワークに対して実際に位置づけられた前記溶接トーチのトーチ姿勢に基づいて、前進後退角、狙い角のいずれか1つ又は複数を算出し、その算出結果を前記トーチ姿勢ファイルに記述することを特徴とする。
【0016】
請求項5の発明は、請求項4において、可搬式操作手段からのジョグ送り操作により姿勢変更信号が入力される毎に、前進後退角、狙い角のいずれか1つを所定の角度ピッチだけ変化させて前記トーチ姿勢を微調整する微調整手段を備え、前記作成手段は、前記微調整手段による微調整の結果に基づいてトーチ姿勢ファイルにトーチ姿勢を記述することを特徴とする。
【0017】
請求項6の発明は、請求項4又は請求項5において、 ジョグ送り操作を行う可搬式操作手段を備え、前記トーチ姿勢を前記可搬式操作手段からのジョグ送り操作により入力する第1入力モード、前記トーチ姿勢を数値により入力する第2入力モードのいずれかのモード選択が可能なモード選択手段と、前記モード選択手段により、前記第1入力モードが選択された際、前記作成手段は、前記溶接トーチのトーチ姿勢をエンコーダから読み取って前記トーチ姿勢ファイルに記述し、前記モード選択手段により、前記第2入力モードが選択された際、前記作成手段は、前記可搬式操作手段からの数値入力により、前記トーチ姿勢ファイルにトーチ姿勢を記述することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、トーチ姿勢を決定する角度パラメータを、作業プログラムとは別のトーチ姿勢ファイルとして保存するようにした。このようにすることによって、一度教示したトーチ姿勢の再利用が可能となる。また、教示後にトーチ姿勢を変更する場合、トーチ姿勢を規定する姿勢ファイルを変更するだけとなる。すなわち、トーチ姿勢の教示作業を軽減することができる。
【0019】
請求項2の発明によれば、トーチ姿勢ファイルは、関連づけられた教示点又は教示点関連情報に基づいて記憶手段から読み出されて、作成又は修正可能としたことによって、トーチ姿勢の教示をより簡単に行うことができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、トーチ姿勢に関連するデータが誤って入力されたとしても、事前に警告を発することにより修正を促すようにしたことによって、マニピュレータの周辺に位置するジグ等の干渉を防止することができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、可搬式操作手段により実際にジョグ送りされた溶接トーチのトーチ姿勢を、直接、トーチ姿勢ファイルに取り込んで記憶できるようにしたことによって、現物のワークに合わせた厳密な教示を行うことができる。
【0022】
請求項5の発明によれば、現物のワークに合わせたトーチ姿勢の微調整を可能としたことによって、教示後の修正作業を軽減することができる。
請求項6の発明によれば、トーチ姿勢ファイルの作成・更新を、可搬式操作手段を使ったジョグ送り、または直接の数値入力のいずれかの方法によって可能としたことによって、フレキシブルな設定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態のティーチングプレイバック方式を採用したアーク溶接ロボット制御装置の構成図。
【図2】ロボット制御装置のブロック図。
【図3】教示点の説明図。
【図4】(a)は溶接経路(溶接区間)の説明図、(b)は前進後退角の説明図、(c)は狙い角の説明図。
【図5】教示モードにおいて、作業者が作業プログラムの作成を行う手順のフローチャート。
【図6】入力モードにおいて、CPU50が行う処理のフローチャート。
【図7】編集モードにおいて、CPU50が行う処理のフローチャート。
【図8】作業プログラムの説明図。
【図9】記憶部の説明図。
【図10】第2実施形態の作業プログラムの説明図。
【図11】第2実施形態の記憶部の説明図。
【図12】従来例の教示点の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化したアーク溶接ロボット制御装置の一実施形態を図1〜図9を参照して説明する。
【0025】
図1に示す、アーク溶接ロボット制御装置(以下、単にロボット制御装置という)RCは、作業台16上のワークWに対してアーク溶接を自動で行うように溶接作業を行う6軸(すなわち、6個の関節軸)のマニピュレータ10を制御する。作業台16は、単にワークWを設置するだけのフロアに固定された作業台としてもよいし、ワークWに対するトーチ姿勢を最適に維持するためのポジショナとしてもよい。作業台16としてポジショナを採用する場合は、ロボット制御装置RCによってポジショナの軸が駆動制御される。
【0026】
マニピュレータ10は、フロア等に固定されるベース部材12と、ベース部材12上に設けられるとともに前記複数の関節軸を介して連結された複数のアーム20を備える。
マニピュレータ10の最も先端側に位置するアーム20の先端部には、溶接トーチ(以下、単にトーチという)Tが設けられている。トーチTは、溶加材としてのワイヤ15を内装し、図示しない送給装置によって送り出されたワイヤ15の先端とワークWとの間にアークを発生させ、その熱でワイヤ15を溶着させることによりワークWに対して溶接を施す。各アーム20は図示しない各駆動モータの駆動によってトーチTを並進、回転自在に移動できるように構成されている。前記図示しない駆動モータに直結された図示しないエンコーダから各アームの関節角度が検出される。
【0027】
ロボット制御装置RCには、可搬式操作手段としてのティーチペンダントTPが接続されている。ティーチペンダントTPの操作面には液晶ディスプレイ等からなる表示装置30及び各種キーが設けられている。ティーチペンダントTPは、マニピュレータ10の動作を作業者が教示するための装置である。
【0028】
前記キーには、マニピュレータ10を動作させるための複数のボタン群40、登録キー41、実行キー42、モード切替キー43、トーチ姿勢ファイル作成キー44、テンキー各種の文字入力キー(図示しない)及び選択キー45等を含む。これらのキーの操作により、入力されたデータ、或いは、各種情報をロボット制御装置RCが備える記憶部56(図2参照)に格納可能である。
【0029】
図1に示すようにボタン群40は、座標系の方向(±X,±Y,±Z)及び姿勢(±RX,±RY,±RZ)に応じた複数のボタンが装備されている。ボタン群40のいずれかのボタンの押下により、そのボタンに対応した座標系の方向又は回転方向にマニピュレータ10が移動又は姿勢変化する。例えば、ロボット制御装置RCは、設定されている座標系の下でマニピュレータ10を移動させる場合は、ボタン群40のX+ボタンを押すと、当該設定されている座標系のX+方向にマニピュレータ10が移動する。又、姿勢(±RX,±RY,±RZ)に応じた複数のボタンを操作すると、操作されたボタンに対応する前記アームがその軸心の周りに回転する。
【0030】
このように、作業者はボタン群40を操作することにより、マニピュレータ10を所望の位置に移動又は姿勢を変化させて、溶接作業を行わせるための作業経路、すなわち、作業経路上の教示点並びに姿勢を教示又は教示修正する。教示された作業経路(教示点)並びにトーチ姿勢は、作業プログラム、並びにトーチ姿勢ファイルとしてそれぞれ記述されて記憶部56に記憶される。
【0031】
図2に示すようにロボット制御装置RCは、CPU(中央処理装置)50、マニピュレータ10を制御するための制御ソフトウェアを記憶する書換可能なEEPROM52、作業メモリとなるRAM54、及び作業プログラム、トーチ姿勢ファイル、及び各種座標系の定義パラメータ等を記憶する書換可能な不揮発性メモリからなる記憶部56を備える。又、ロボット制御装置RCは、マニピュレータ10の前記駆動モータを制御するサーボドライバ58を備え、前記作業プログラムに従って図示しない前記エンコーダからの現在位置情報(すなわち、関節角度)等に基づいて、マニピュレータ10の駆動モータを駆動制御して、トーチTを教示点に移動させるとともに姿勢を変えることが可能である。
【0032】
又、ロボット制御装置RCは、図示しない上位コントローラにも電気的に接続されており、前記上位コントローラからの外部の種々の入力信号が入力可能である。
前記CPU50は、作成手段、設定手段、姿勢算出手段、比較手段、微調整手段に相当する。前記記憶部56は記憶手段に相当する。ティーチペンダントTPの表示装置30は警告手段に相当する。ティーチペンダントTPは、可搬式操作手段及びモード選択手段に相当する。
【0033】
(実施形態の作用)
<A.教示モード>
次に、上記のように構成されたロボット制御装置RCにおいて、教示モードでの作用を図3〜図9を参照して説明する。
【0034】
モード切替キー43の操作により教示モードになった状態で、ティーチペンダントTPの操作にて教示が行われると、CPU50は、作業プログラム及びトーチ姿勢ファイルを作成する。なお、説明の便宜上、図3ではワークWとして一対の鉄板がL字状に配置された角継手の場合を説明するが、継手の種類は限定されるものではない。
(1.トーチ姿勢ファイルの作成)
トーチ姿勢ファイルの作成は、作業プログラムの作成(教示)と並行して行うことも可能であるが、本実施形態では、説明の便宜上、作業プログラムの作成に先駆けて予め作成しておくものとして、以降の説明を行う。
【0035】
また、トーチ姿勢ファイルの作成方法としては、ワークWに合わせて実際にジョグ送りを行ってトーチ姿勢を決定する第1入力モードと、トーチ姿勢の角度パラメータを数値で入力する第2入力モードとが備わっている。
【0036】
作業者は、ティーチペンダントTPのトーチ姿勢ファイル作成キー44を操作すると、CPU50は、トーチ姿勢ファイル作成モードとして、RAM54にトーチ姿勢ファイルの作成のための記憶領域を確保する。そして、このモードの下で、作業者は、下記のようにして溶接線に対するトーチTのトーチ姿勢を入力する。以下、トーチ姿勢ファイルの作成について、図6を参照して説明する。
【0037】
ステップ110(以下、ステップを単にSと表記する)において、CPU50は、前記第1入力モード、或いは、前記第2入力モードの名称をティーチペンダントTPに表示するとともに、選択キー45の操作により、どちらが選択されるかをチェックする。
【0038】
まず、第1入力モードが選択された場合について説明する。
S115において、トーチ姿勢を前進後退角、狙い角等で表わすための基準面を設定する。基準面は、ワークW上の3点(例えば、図4(a)で示した開始点Ps、目標点Pe及び補助点Pr)が指定されることによりCPU50が算出する。より具体的には、ティーチペンダントTPのボタン群40の操作により、基準面を決定する各点にジョグ送りされて、当該位置がCPU50に入力されると、CPU50は基準面を算出し、RAM54に記憶する。基準面及びこれを決定する3点の詳細については、後述する。
【0039】
S120において、ティーチペンダントTPのボタン群40の操作によりジョグ送りがされると、ティーチペンダントTPから操作されたボタンに応じた方向に対応した変更信号がCPU50に入力される。具体的には、姿勢(±RX,±RY,±RZ)のボタンが操作されると、その姿勢の回転方向を示す変更信号がティーチペンダントTPからCPU50に入力される。
【0040】
この方法によってトーチ姿勢を決定することが可能であるが、好ましい実施形態としては、姿勢の微調整機能を備えるとさらによい。すなわち、CPU50は、微調整信号が入力されると、その微調整信号と方向に応じて前進後退角、狙い角のいずれか1つ又は両者を、所定の角度ピッチだけ変化させる。すなわち、マニピュレータ10を作動させてトーチ姿勢を微調整する。ここで、所定の角度ピッチとは、ボタンの1回の押下毎に、例えば1°づつ変化するピッチである。この角度ピッチは、予め定められるように構成しておくことが望ましい。このように、トーチ角度の微調整が行われることにより、精度が高い調整が可能となる。
【0041】
そして、CPU50は、マニピュレータ10における各アームの駆動モータのエンコーダからの現在位置情報(すなわち、関節角度)を入力する。
S130において、CPU50は、トーチ姿勢が変更される毎に、変更されたトーチ姿勢である前進後退角、狙い角のいずれか1つ又は両者を前記現在位置情報に基づいて算出する。なお、ジョグ送りでは、前進後退角のみ、或いは、狙い角のみの変更が可能であるとともに、前進後退角及び狙い角の両者を同時に変更することも可能である。
【0042】
S140において、算出したトーチ姿勢を表示装置30に表示する、
S150において、登録キー41が操作されない場合には、S120に戻る。又、S150において、登録キー41が操作されると、CPU50は、S160において、表示装置30に表示されたトーチ姿勢をトーチ姿勢ファイルに記述し記憶部56に保存し、このフローチャートを終了する。
【0043】
又、S110において、第2入力モードが選択された場合、作業者は、S170において、トーチ姿勢(前進後退角、狙い角)の数値入力を行う。この数値入力されたトーチ姿勢はティーチペンダントTPの表示装置30に表示されるとともに、CPU50に入力される。そして、S180において、登録キー41が操作されると、CPU50は、S160において、表示装置30に表示されたトーチ姿勢をトーチ姿勢ファイルに記述して記憶部56に保存し、このフローチャートを終了する。
【0044】
なお、トーチ姿勢を数値入力する第2入力モードでは、基準面は作業プログラムに記憶される教示点および補助点によって決定される。したがって、第2入力モードでは、基準面を決定するための3点を教示する作業は不要である。
(2.作業プログラムの作成)
図5は、作業者が行う作業プログラムの作成の手順を示すフローチャートである。同図に示すように、教示モードでは、S10において、作業者はティーチペンダントTPの文字入力キーを使用して、作業プログラム名を入力する。CPU50は、ティーチペンダントTPを介してこの作業プログラム名の記憶領域をRAM54に確保する。
【0045】
S20は教示点又は補助点の入力ステップ、S30はトーチ姿勢ファイルの指定ステップ、S40は教示点に関する教示点関連情報の入力ステップ、S50は、S20で入力される移動コマンドとは異なる他の命令の入力ステップである。
(2.1 原点・エアカット部の教示)
S20において、作業者は、ティーチペンダントTPのボタン群40を操作して、トーチTを原点位置(図示しない)までジョグ送りした後、教示モードにおいて表示装置30の表示画面に表示されている各種の移動方法(移動コマンドともいう)の内の1つを選択し、登録キー41を操作することにより原点を教示する。
【0046】
本実施形態では、移動方法(移動コマンド)として、例えば、位置決め命令、直線補間命令、円弧補間命令等が選択可能である。
位置決め命令は、トーチTの姿勢制御が行われないで、単にトーチTを教示点に移動させるコマンドである。又、直線補間命令は、後述する教示されているトーチ姿勢をとるようにして、補間演算を行いながら教示点までトーチTを直線状に移動させるコマンドである。又、円弧補間命令は、後述する教示されているトーチ姿勢をとるようにして、補間演算を行いながら教示点までトーチTを円弧を描くように移動させるコマンドである。
【0047】
この原点の教示により、図8に示すように、CPU50は、RAM54の前記作業プログラムの記憶領域に「教示ステップ001」を生成し、教示点としての原点を記録する。
この原点位置は、原点にトーチTが位置するまでに前記駆動モータに直結された前記エンコーダから出力される各アームの関節角度に基づいてCPU50が算出する。以下、後述する他の教示点、並びに補助点についても、原点位置の教示と同様に、各アームの関節角度に基づいて算出される。
【0048】
原点の教示においては、トーチ姿勢ファイルの指定は必要ないため、作業者はS30で何もせずにS40に移行する。S40において、作業者は、教示点関連情報としての移動速度をテンキー(図示しない)により数値入力する。図8の作業プログラムでは、例えば、「001 ,位置決め命令,7600cm/min」と記述されている。
【0049】
ここで、「教示ステップ001」と、位置決め命令との間は、指定されたトーチ姿勢ファイル名が表示される領域である。
後述する教示ステップ003,005,006,007において、トーチ姿勢ファイルが記述された例が示されている。例えば、「003 TR01,位置決め命令,7600cm/min」と記述されている。上記TR01が、指定されたトーチ姿勢ファイルのファイル名を示している。
【0050】
なお、このようなトーチ姿勢ファイル名が表示される領域は、図8の例に限定されるものではなく、適宜の位置に設定すればよい。
次に作業者は、S50及びS60で何もせずに、S20に戻る(他の命令の入力や、作業プログラムの終了を示すエンド命令を入力しないで、再びS20に戻る)。S20において、溶接開始点の直前の位置である溶接開始直前点までボタン群40を操作して、トーチTをジョグ送りする。この後、作業者は、表示装置30が表示している移動方法の1つ、すなわち、位置決め命令を同様に選択し、登録キー41を操作することにより教示する。
【0051】
この教示により、図8に示すように、CPU50は、「教示ステップ002」を生成し、教示点としての溶接開始直前点の位置を記録する。
S30で何もせずにS40に移行し、作業者は、教示点関連情報として、移動速度をテンキー(図示しない)により数値入力する。図8の作業プログラムでは、「教示ステップ002」において、位置決め命令の後に、移動速度が数値入力により記述されたことが例示されている。
【0052】
続いて、S50及びS60で何もせずにS20に戻る。このように、トーチTの原点、及び溶接開始点の直前までの溶接開始直前点(エアカット部)では、トーチ姿勢ファイルを指定しないで教示する。
(2.2 溶接施工部の教示)
次に、溶接施工部の教示について説明する。ここからは、図3と合わせて説明する。図3において、教示点A1は、溶接開始点である。教示点A2およびA3は、トーチ姿勢を変更するために設ける溶接接続点である。教示点A4は、溶接終了点である。教示点A1〜A4で構成される溶接施工部では、各教示点において、トーチ姿勢ファイルを指定することによってトーチ姿勢を教示する。
【0053】
図5に戻り、S20において、作業者は、溶接開始点である教示点A1まで、ボタン群40を操作して、トーチTをジョグ送りする。
S30において、位置決め命令を選択し、さらに作成済みのトーチ姿勢ファイルを指定し、登録キー41を操作する。この教示操作により、CPU50は、図8に示すように、「教示ステップ003」を生成し、教示点A1の位置を記録する。また、作成済みのトーチ姿勢ファイルが指定されることにより、教示点A1におけるトーチ姿勢が記録されることになる。
【0054】
トーチ姿勢ファイルのファイル名の例として「TR01」が指定された場合は、図8に示すように、「教示ステップ003」の直後に「TR01」が表示される。このように、各教示ステップ(教示点)にトーチ姿勢ファイルが関連づけされる。
【0055】
S40において、作業者は、教示点関連情報としての移動速度をテンキー(図示しない)により数値入力する。
S50において、作業者は、ティーチペンダントTPの各種キーを操作して溶接開始命令を入力する。そして、溶接条件である溶接電流、溶接電圧、及び溶接速度を入力する。CPU50は、この溶接条件を図8に示すように「教示ステップ004」の行を生成し、溶接開始命令および溶接条件を記録する。
【0056】
続いて作業者は、図3における教示点A1の次の教示点A2を教示するために、S60で何もせずにS20に戻る。S20において、教示点A1と同様に教示点A2を教示する。すなわち「教示ステップ003」と同様に、教示点A2の位置と、教示点A2におけるトーチ姿勢ファイルTR02が教示される。この教示操作により、図8に示すように、「教示ステップ005」が記録される。なお、教示点A1及び教示点A2のトーチ姿勢を同一とする場合は、教示点A2において、教示点A1と同一のトーチ姿勢ファイルTR01を指定すればよい。これは、後述する教示点A3及びA4でも同様である。トーチ姿勢を変更する場合のみ、異なるトーチ姿勢ファイル(例えば、TR03等)を指定する。
【0057】
以下、図3に示す教示点A3及びA4についても、教示点A2の教示と同様にティーチペンダントTPを操作して、S20〜S60の手順を繰り返すことにより、図8に示すように「教示ステップ006」及び「教示ステップ007」が記録される。
【0058】
この後、S50において、作業者が「溶接終了命令」を入力することにより、「教示ステップ008」が記録される。
以下同様にして、作業者が、図3には図示されていない教示点の教示又は移動命令以外の命令を入力し、S50でエンド命令が入力されると、CPU50は、作業プログラムにそのときの教示ステップ番号である「教示ステップn」を記述する。そして、作業者が、S70において、登録キー41を操作すると、作業プログラムが記憶部56に格納される。
(2.3 トーチ姿勢の比較処理)
上述したステップS30においては、CPU50は、トーチ姿勢ファイルが指定された段階で、トーチ姿勢の算出を行う。そして、この算出結果と、現在の教示点の1つ前に隣接する他の教示点、すなわち、溶接の進行方向とは反対方向に隣接する他の教示点に関連づけられたトーチ姿勢ファイルを記憶部56から読み出してそのトーチ姿勢ファイルに記述されたトーチ姿勢と比較する比較処理を行うようにすると、さらに良い。
【0059】
教示点A1の場合は、溶接の進行方向とは反対側に隣接する教示点にはトーチ姿勢ファイルが設定されていないため、この比較処理は実行されないが、教示点A2〜A4のように、進行方向とは反対側に隣接する教示点にはトーチ姿勢ファイルが指定されている場合には、この比較処理が行われる。
【0060】
この比較処理が行われた後の処理をここで説明する。
CPU50は、比較処理した結果、隣接する教示点のトーチ姿勢との差分である変化量が、予め定められた閾値である姿勢変更限界値よりも大きい場合には、姿勢変更が過多である旨の警告を、表示装置30に表示させる。この警告表示により、作業者は、再び、警告が出ないようにしてジョグ送りでトーチ姿勢を変更することができる。この警告は、前記隣接する教示点におけるトーチ姿勢からの姿勢変更が過大すぎて、例えば、マニピュレータの周辺に位置するジグ等の干渉を防止するためのものである。
【0061】
又、姿勢変更が姿勢限界値以下の場合には、CPU50は、許容される変更である旨を表示装置30に表示させる。
(2.4 補助点および基準面について)
上記の説明では、便宜上、狙い角の算出に必要な基準面(後述)を定めるための補助点の教示については省略したが、補助点の教示は、教示点A1〜A4を教示する際、ティーチペンダントTPの図示しない補助点登録キーを操作することにより行われる、この場合、図3に示すように、ワークWの平面上の点B1が補助点として教示される。教示された補助点の位置は、一旦、CPU50によりRAM54に格納される。そして、前記作業プログラムの作成終了とともに前記補助点の位置は記憶部56に格納される。
【0062】
次に、基準面について、図4(a)を参照して説明する。
上記のように基準面の基本情報である補助点の入力は、教示時にティーチペンダントTPをオペレータが操作することで行う。
【0063】
図4(a)に示すように溶接線YS(すなわち、溶接区間)を規定する溶接開始点Psと目標点Pe(溶接終了点)、並びに、補助点PrをティーチペンダントTPによりそれぞれ指定されると、この計3点から、平面である基準面PLがCPU50により算出される。
【0064】
すなわち、溶接開始点Ps、目標点Pe、及び補助点Prの3点が決定されると、溶接開始点Psから目標点PeへのベクトルPと、溶接開始点Psから補助点PrへのベクトルQの外積を求める。この外積で求められるベクトルは、図4(a)に示すように、基準面PLに垂直な法線ベクトルVpである。基準面PLに垂直な法線ベクトルVpが決まれば、基準面PLが一意に決められる。
(2.5 トーチ姿勢)
次に、トーチ姿勢である前進後退角、及び狙い角について説明する。
【0065】
図3に示すように、通常のロボット溶接は、作業経路に含まれる溶接経路(溶接が行われる経路)に沿って行われる。本実施形態では、教示点A1〜A2の溶接区間E1、記録点A2〜A3の溶接区間F1、記録点A3〜A4の溶接区間G1の各教示点が前述のように予め教示される。この教示点間を繋ぐようにしてロボットが動作する。
【0066】
すなわち、常に隣り合う2つの教示点間をロボットは動作する。このように隣り合う2つの教示点の位置と、現在のトーチTの姿勢、並びに前記基準面PLの2つの情報から、前進後退角と狙い角が算出される。
【0067】
前記溶接区間E1では、A1が溶接開始点、A2が目標点である。溶接区間F1では、A2が溶接開始点、A3が目標点である。又、溶接区間G1では、A3が溶接開始点、A4が目標点である。
【0068】
前進後退角は、図4(b)に示すように、溶接線YSの接線に対する垂線La(すなわち、法線)を立てた際に同垂線Laに対してトーチTの長手方向軸線を表わす直線L1、L2がなす角度である。垂線Laに対して、L1のように0°を越える場合(+)には、前進角といい、L2のように0°を下回る場合(すなわち、「−」)場合には、後退角という。ここで、トーチTの長手方向軸線は、ワイヤ送給方向に向く軸に相当する。本明細書では、この前進角、後退角を合わせて前進後退角という。
【0069】
又、図4(c)に示す溶接区間E1を例にとると、A1を開始点Psとし、A2を目標点Peとしたとき、基準面PLに対して、トーチTの長手方向軸線と溶接線YSとが共に乗る平面Hのなす角が狙い角θである。なお、狙い角θ、及び前進後退角の算出は、公知であるため、説明を省略する。
【0070】
又、前記溶接区間(溶接経路)の開始点、目標点、並びに補助点の基準座標系は、ワーク座標系やワールド座標系、或いはベース座標系が適宜選択される。基準座標系が何であるかは本発明の内容には影響しないので、ここでは特定はしない。
(2.6 トーチ姿勢の修正)
次に、トーチ姿勢の修正について、図7を参照して説明する。トーチ姿勢の修正、すなわちトーチ姿勢ファイルの編集は、作業プログラムを、修正対象の教示点があるステップまで再生した後、或いは、そのステップにジャンプした後等、所定のメニューからトーチ姿勢ファイルの編集モードを選択することにより行うことができる。この場合、作業者が編集モードにすると、S200において、CPU50は、現在の教示点に関連付けされたトーチ姿勢ファイルを記憶部56から読み出し、RAM54に展開する。
【0071】
又、編集モードでは、CPU50は、ティーチペンダントTPの表示装置30に、ジョグ送りによるトーチ姿勢の第1入力モード、或いは、トーチ姿勢ファイルの編集を数値入力で行う第2入力モードの名前を表示装置30に表示させる。
【0072】
編集モードにおいて、図7で示されるS210〜S280の処理は、図6における入力モードのS110〜S180とそれぞれ同様の処理であるため、説明を省略する。
<B.作業プログラムの再生時>
上記のように作業プログラムが作成された後、作業者がモード切替キー43を操作して再生モードにすると、CPU50は、記憶部56に記憶した前記作業プログラムを再生する。この再生時において、各ステップに記述された各種命令及び併記された各種条件(移動速度、溶接条件)に従って、マニピュレータ10を教示点に移動させるとともに、トーチTに加工作業を行わせる。
【0073】
又、CPU50は、トーチ姿勢ファイルが指定された教示点(例えば、ステップ003、005、006、007)においては、トーチ姿勢ファイルに記述されたトーチ姿勢(前進後退角、狙い角)に基づいて、該教示点におけるマニピュレータ10がとるべき各アームの関節角度を算出する。そして、CPU50は、その算出結果に基づいて、各教示点におけるマニピュレータ10を制御して、トーチTをトーチ姿勢ファイルに記述されたトーチ姿勢にする。一方、トーチ姿勢ファイルが指定されていない教示点(例えば、ステップ001、002)では、該教示点におけるトーチ姿勢は、教示データとして記録されている各アームの関節角度をそのまま読み出すことによって、トーチ姿勢を再現する。
【0074】
さて、本実施形態によれば、以下のような特徴がある。
(1) 本実施形態のロボット制御装置RCは、溶接線に対するトーチTのトーチ姿勢を規定するトーチ姿勢ファイルTR01〜TR04を作成するCPU50(作成手段)を備えるとともに、前記トーチ姿勢ファイルを記憶する記憶部56(記憶手段)を備える。又、ロボット制御装置RCのCPU50は、溶接線上の教示点にトーチ姿勢ファイルを関連づけて設定する設定手段として機能する。又、CPU50は、姿勢算出手段として、作業プログラムの再生時に、溶接線上の教示点におけるマニピュレータ10によるトーチ姿勢を、教示点に関連づけられたトーチ姿勢ファイルに基づいて算出する。すなわち、トーチ姿勢を決定する角度パラメータを、作業プログラムとは別のトーチ姿勢ファイルとして保存するようにした。このようにすることによって、一度教示したトーチ姿勢の再利用が可能となる。また、教示後にトーチ姿勢を変更する場合、トーチ姿勢を規定する姿勢ファイルを変更するだけとなる。すなわち、トーチ姿勢の教示作業を軽減することができる。
【0075】
(2) 本実施形態のロボット制御装置RCは、前記トーチ姿勢ファイルは、記憶部56から読み出されて、CPU50により更新自在とされている。この結果、本実施形態では、教示後にトーチ姿勢を変更する場合、トーチ姿勢を規定する姿勢ファイルを変更するだけである。このため、トーチ姿勢の教示作業を軽減することができるとともに、トーチ姿勢ファイルは、関連づけられた教示点又は教示点関連情報に基づいて記憶手段から読み出されて、作成、又は修正可能になっているため、トーチ姿勢の変更のための修正を簡単に行うことができる。
【0076】
(3) 本実施形態のロボット制御装置RCのCPU50は、比較手段として、溶接線上の任意の教示点に関連づけられるトーチ姿勢ファイルに記述されるトーチ姿勢と、1つ前の教示点に関連づけられたトーチ姿勢ファイルに記述されたトーチ姿勢と比較を行う。そして、CPU50は、姿勢変化が閾値以上であるときは、ティーチペンダントTPの表示装置30(警告手段)を作動させて警告させる。この結果、本実施形態によれば、トーチ姿勢に関連するデータが誤って入力されたとしても、事前に警告を発することにより修正を促すことができ、この結果、マニピュレータの周辺に位置するジグ等の干渉を防止することができる。
【0077】
(4) 本実施形態のロボット制御装置RCのCPU50は、作成手段として、ジョグ送りによるワークWに対して実際に位置づけられたトーチTのトーチ姿勢に基づいて、前進後退角、狙い角のうち、少なくともいずれか1つを算出し、その算出結果をトーチ姿勢ファイルに記述する。この結果、本実施形態では、トーチTの実際のトーチ姿勢に基づき、直接トーチ姿勢ファイルの更新ができることにより、教示後の修正作業を軽減できる。
【0078】
(5) 本実施形態のロボット制御装置RCのCPU50は、微調整手段として、ティーチペンダントTPからジョグ送りにより変更信号が入力される毎に、前進後退角、狙い角のいずれか1つを所定の角度ピッチだけ変化させてトーチ姿勢を微調整する。そして、CPU50は、微調整の結果に基づいてトーチ姿勢ファイルにトーチ姿勢を記述する。この結果、本実施形態では、現物のワークに合わせたトーチ姿勢の微調整を可能としたことによって、さらに、教示時や教示後の修正作業を軽減することができる。
【0079】
(6) 本実施形態のロボット制御装置RCは、ティーチペンダントTPをモード選択手段とし、ティーチペンダントTPのジョグ送りによるトーチ姿勢の第1入力モードと、数値入力によるトーチ姿勢ファイルの第2入力モードのいずれかのモード選択が可能となっている。そして、ティーチペンダントTPにより、第1入力モードが選択された際、CPU50は、ティーチペンダントTPからのジョグ送り操作によるトーチ姿勢に基づき、トーチ姿勢ファイルにトーチ姿勢を記述する。
【0080】
又、ティーチペンダントTPにより、第2入力モードが選択された際、CPU50は、ティーチペンダントTPの操作による数値入力により、トーチ姿勢ファイルにトーチ姿勢を記述する。この結果、本実施形態では、作業者は、ティーチペンダントTPのジョグ送りによるトーチ姿勢ファイルの作成・更新、或いは、トーチ姿勢ファイル対する直接の数値入力によるトーチ姿勢ファイルの作成・更新を必要に応じて選択することができる。
【0081】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態を図10、図11を参照して説明する。
第1実施形態では、教示点にトーチ姿勢ファイルを関連付けするようにしたが、第2実施形態では、教示点関連情報にトーチ姿勢ファイルを関連付けするようにしているところが異なっている。第2実施形態は、第1実施形態とはハード構成は同一であるため、ハード構成の説明は省略する。
【0082】
図10は第2実施形態の作業プログラムを示している。同図に示すように、第2実施形態の作業プログラムは、第1実施形態では、教示ステップ番号の書き込み領域と、「位置決め命令」、「直線補間命令」等が書き込まれたコマンド書き込み領域間のトーチ姿勢ファイル名の書き込み領域が省略されている。
【0083】
その代わりに、本実施形態の作業プログラムでは、図10に示すように、例えば、「004 直線補間命令, ,7200cm/min」と記述される。
ここで、「直線補間命令」と「7200cm/min」との間は、トーチ姿勢ファイル名が書き込まれる領域である。この領域は、教示点が教示されることによりステップ番号が生成された場合において、必要に応じて前記トーチ姿勢ファイル名が書き込まれる。
【0084】
又、ステップ005,007,009では、「005 溶接開始命令,Y01」、「007 溶接開始命令,Y02」、「009 溶接開始命令,Y03」と記述される。
Y01〜Y03は、溶接条件が記述された溶接条件ファイルの名称(識別名)を示している。この溶接条件ファイルY01〜Y03は、第1実施形態と同様に、記憶部56に記憶されている、予め作成された溶接条件である。なお、溶接条件は、代表的には溶接電流、溶接電圧、溶接速度があるが、これら以外に、溶接方法により種々のパラメータが含まれる。溶接条件は、教示点で規定された溶接経路を溶接するための条件であり、これらの溶接条件は教示点関連情報に相当する。
【0085】
また、トーチ姿勢の入力は、第1実施形態と同様に、予め作成されたトーチ姿勢ファイル名を指定することにより行われる。すなわち、図11に示すように、トーチ姿勢ファイル名が、溶接条件ファイルの1パラメータとして指定されることにより、トーチ姿勢ファイルと溶接条件ファイルとが関連づけられる。
【0086】
このように、本実施形態では、溶接条件ファイル、すなわち、溶接条件(教示点関連情報)に、トーチ姿勢ファイルが関連付けられている。
このトーチ姿勢ファイルは、第1実施形態と同様に、記憶部56に記憶されるため、トーチ姿勢ファイル名に基づいて、読み出しが可能であり、トーチ姿勢の更新が可能である。
【0087】
このため、上記のように構成された第2実施形態のロボット制御装置RCにおいても、第1実施形態の(1)〜(6)に記載の作用効果を奏する。
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
【0088】
・ 前記実施形態では、S130において、トーチ姿勢の算出結果と、このトーチ姿勢を変更している教示点の前に隣接する他の教示点に関連づけられたトーチ姿勢ファイルを記憶部56から読み出してそのトーチ姿勢ファイルに記述されたトーチ姿勢と比較する比較処理を行う。そして、隣接する他の教示点のトーチ姿勢との差分である変化量が、予め定められた閾値である姿勢変更限界値よりも大きい場合には、警告するようにしたが、この比較処理及び警告処理を省略してもよい。
【0089】
・ 前記実施形態では、ティーチペンダントTPの表示装置30を警告手段としたが、警告手段は、表示装置30に限定されるものではない。ティーチペンダントTPに警告手段としてのスピーカーを設けて音声により、警告を出すようにしてもよい。又、アーク溶接ロボット制御装置に表示装置、或いはスピーカーの少なくとも一方を設けて、これらから警告を出すようにしてもよい。又、ティーチペンダントTPに警告手段としてのランプを設けて、ランプを警告時に点灯するようにしてもよい。
【0090】
・ 前記実施形態では、教示点又は溶接条件にトーチ姿勢ファイルを関連付けするようにしたが、トーチ姿勢ファイルの関連づけは、教示点又は溶接条件に対する関連づけに限定するものではない。例えば、作業プログラムにおいて、教示された教示点において入力されるコマンドに対してトーチ姿勢ファイルを関連づけしてもよい。このコマンドは教示点関連情報に相当する。
【0091】
・ 前記第2実施形態では、トーチ姿勢ファイルを、溶接条件ファイルの1パラメータとして設定するようにしたが、トーチ姿勢ファイルを、溶接開始命令で指定する複数の溶接条件の内の1つとして指定するように構成してもよい。この場合は、例えば、「005 溶接開始命令,200A,18.0V,50cm/min,TR01」のように、作業プログラムに記録される。
【符号の説明】
【0092】
RC…ロボット制御装置、
TP…ティーチペンダント(可搬式操作手段、モード選択手段)、
30…表示装置(警告手段)、
50…CPU(作成手段、設定手段、姿勢算出手段、比較手段、微調整手段)、
56…記憶部(記憶手段)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接線を規定する教示点及び教示点関連情報が記述された作業プログラムを再生することにより、マニピュレータを制御するアーク溶接ロボット制御装置において、
前記溶接線に対する溶接トーチのトーチ姿勢を規定するトーチ姿勢ファイルを作成する作成手段と、
前記トーチ姿勢ファイルを記憶する記憶手段と、
前記溶接線上の教示点又は前記教示点関連情報に前記トーチ姿勢ファイルを関連づけて設定する設定手段と、
前記作業プログラムの再生時に、前記溶接線上の教示点におけるマニピュレータによるトーチ姿勢を、前記トーチ姿勢ファイルに基づいて算出する姿勢算出手段と、
を備えたことを特徴とするアーク溶接ロボット制御装置。
【請求項2】
前記トーチ姿勢ファイルは、関連づけられた前記教示点又は教示点関連情報に基づいて、前記記憶手段から読み出されて、前記作成手段により更新自在とされていることを特徴とする請求項1記載のアーク溶接ロボット制御装置。
【請求項3】
前記溶接線上の任意の教示点又は教示点関連情報に関連づけられる前記トーチ姿勢ファイルに記述されるトーチ姿勢と、1つ前の教示点又は前記1つ前の教示点の教示点関連情報に関連づけられたトーチ姿勢ファイルに記述されたトーチ姿勢と比較を行い、姿勢変化が閾値以上であるときは、警告手段を作動させて警告させる比較手段を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアーク溶接ロボット制御装置。
【請求項4】
前記作成手段は、ワークに対して実際に位置づけられた前記溶接トーチのトーチ姿勢に基づいて、前進後退角、狙い角のうち、少なくともいずれか1つを算出し、その算出結果を前記トーチ姿勢ファイルに記述することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のアーク溶接ロボット制御装置。
【請求項5】
可搬式操作手段からのジョグ送り操作により姿勢変更信号が入力される毎に、前進後退角、狙い角のいずれか1つを所定の角度ピッチだけ変化させて前記トーチ姿勢を微調整する微調整手段を備え、
前記作成手段は、前記微調整手段による微調整の結果に基づいてトーチ姿勢ファイルにトーチ姿勢を記述することを特徴とする請求項4に記載のアーク溶接ロボット制御装置。
【請求項6】
ジョグ送り操作を行う可搬式操作手段を備え、
前記トーチ姿勢を前記可搬式操作手段からのジョグ送り操作により入力する第1入力モード、前記トーチ姿勢を数値により入力する第2入力モードのいずれかのモード選択が可能なモード選択手段と、
前記モード選択手段により、前記第1入力モードが選択された際、前記作成手段は、前記溶接トーチのトーチ姿勢をエンコーダから読み取って前記トーチ姿勢ファイルに記述し、
前記モード選択手段により、前記第2入力モードが選択された際、前記作成手段は、前記可搬式操作手段からの数値入力により、前記トーチ姿勢ファイルにトーチ姿勢を記述することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のアーク溶接ロボット制御装置。
【請求項1】
溶接線を規定する教示点及び教示点関連情報が記述された作業プログラムを再生することにより、マニピュレータを制御するアーク溶接ロボット制御装置において、
前記溶接線に対する溶接トーチのトーチ姿勢を規定するトーチ姿勢ファイルを作成する作成手段と、
前記トーチ姿勢ファイルを記憶する記憶手段と、
前記溶接線上の教示点又は前記教示点関連情報に前記トーチ姿勢ファイルを関連づけて設定する設定手段と、
前記作業プログラムの再生時に、前記溶接線上の教示点におけるマニピュレータによるトーチ姿勢を、前記トーチ姿勢ファイルに基づいて算出する姿勢算出手段と、
を備えたことを特徴とするアーク溶接ロボット制御装置。
【請求項2】
前記トーチ姿勢ファイルは、関連づけられた前記教示点又は教示点関連情報に基づいて、前記記憶手段から読み出されて、前記作成手段により更新自在とされていることを特徴とする請求項1記載のアーク溶接ロボット制御装置。
【請求項3】
前記溶接線上の任意の教示点又は教示点関連情報に関連づけられる前記トーチ姿勢ファイルに記述されるトーチ姿勢と、1つ前の教示点又は前記1つ前の教示点の教示点関連情報に関連づけられたトーチ姿勢ファイルに記述されたトーチ姿勢と比較を行い、姿勢変化が閾値以上であるときは、警告手段を作動させて警告させる比較手段を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアーク溶接ロボット制御装置。
【請求項4】
前記作成手段は、ワークに対して実際に位置づけられた前記溶接トーチのトーチ姿勢に基づいて、前進後退角、狙い角のうち、少なくともいずれか1つを算出し、その算出結果を前記トーチ姿勢ファイルに記述することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のアーク溶接ロボット制御装置。
【請求項5】
可搬式操作手段からのジョグ送り操作により姿勢変更信号が入力される毎に、前進後退角、狙い角のいずれか1つを所定の角度ピッチだけ変化させて前記トーチ姿勢を微調整する微調整手段を備え、
前記作成手段は、前記微調整手段による微調整の結果に基づいてトーチ姿勢ファイルにトーチ姿勢を記述することを特徴とする請求項4に記載のアーク溶接ロボット制御装置。
【請求項6】
ジョグ送り操作を行う可搬式操作手段を備え、
前記トーチ姿勢を前記可搬式操作手段からのジョグ送り操作により入力する第1入力モード、前記トーチ姿勢を数値により入力する第2入力モードのいずれかのモード選択が可能なモード選択手段と、
前記モード選択手段により、前記第1入力モードが選択された際、前記作成手段は、前記溶接トーチのトーチ姿勢をエンコーダから読み取って前記トーチ姿勢ファイルに記述し、
前記モード選択手段により、前記第2入力モードが選択された際、前記作成手段は、前記可搬式操作手段からの数値入力により、前記トーチ姿勢ファイルにトーチ姿勢を記述することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のアーク溶接ロボット制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−106323(P2012−106323A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258889(P2010−258889)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]