説明

アーク溶接時における溶接開始アークを発生させるためのタップピース

【課題】アーク溶接時における溶接開始のためのアークを発生させ、溶接部位の開始部分に付着して使用されるタップピースを提供する。
【解決手段】非伝導性材質からなるボディー41と、ボディーと結合可能な形状を有するが、一側がボディーに結合され、他側を露出させて、アーク溶接時における溶接開始アークを発生させるための伝導性材質からなるアーク発生部43とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接時における溶接開始のためのアークを発生させ、溶接部位の開始部分に付着して使用されるタップピースに関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロガス溶接(EGW)は、アーク放電を利用して金属と金属を接合する溶接方法であって、溶接部分にCO及びAr+COなどの溶接ガスを噴射して、溶接部分が大気中の酸素や窒素と接触して溶接不良が招かれることを防止する方式を取っている。
【0003】
一方、平板状の被加工物を同一線上に突合せ溶接する方法は多様な形態をなしているが、通常、エレクトロガス溶接のように、互いに対向する一対の被加工物を垂直に立たせて置き、下方から上方に移動しつつそれらを溶接する垂直上向き(vertical−up)方式には主に自動溶接法が使用されている。
【0004】
垂直上向き方式のエレクトロガス溶接には、高温の溶着物質及びスラグが流出されないように、溶接部分の後面をカバーする後面セラミックス溶接支持具と、溶接部分の前面には高温の溶着物質及びスラグの流出を防止しつつ、これを形成させる水冷式銅支持板である銅当金が用いられる。銅板の冷却方式には空冷式もある。
【0005】
図1aは垂直上向き方式の溶接を説明するための断面図であり、図1bは垂直上向き方式の溶接が完了した状態を説明するための断面図である。
【0006】
図1a及び図1bを参照して、従来の銅当金10と後面セラミックス溶接支持具20を利用した垂直上向き方式のエレクトロガス溶接作業を説明する。
【0007】
まず、平板状の一対の母材P1、P2を垂直に配置して、それらを所定間隔をあけて互いに対向させる。前記母材P1、P2の対向する先端面に傾斜面P1’、P2’を形成して、両傾斜面P1’、P2’がテーパー状をなすように対向させる。
【0008】
その後、後面セラミックス溶接支持具20を母材P1、P2の後方に設置して、母材P1、P2間のギャップ開口部を後面セラミックス溶接支持具20によってカバーさせる。また、銅当金10を母材P1、P2の前方に配置して、両接触面12a、12bがそれぞれ母材P1、P2の前面で対面しつつ、前方への母材P1、P2間のギャップ開口部を銅当金10の成形溝11に収容させる。このとき、ワイヤー状の溶接棒(図示せず)は、銅当金10、後面セラミックス溶接支持具20及び母材P1、P2がなす空間の内部に挿入される。
【0009】
この状態で、エレクトロガス溶接装置を稼動させれば、母材P1、P2には陽極、溶接棒には陰極の電源が印加されて、溶接棒が移動器具(図示せず)によって漸進的に上側に移動する。
【0010】
したがって、溶解した溶着物質30とスラグ21、22が、図1bに示すように、銅当金10、後面セラミックス溶接支持具20及び母材P1、P2がなす空間の内部に満たされた後、溶接棒が移動器具によって漸進的に上側に移動して、溶接部位が外部に露出しても、溶着物質30とスラグ21、22はその形状を維持する。
【0011】
その後、溶着物質30とスラグ21、22が十分に冷却した後、溶接部分に打撃を加えることによりスラグ21、22をとり除いて、母材P1、P2の溶接作業を完了する。
【0012】
前述の垂直上向き方式のエレクトロガス溶接時には溶接開始のためのアークの発生が何より重要であるが、特に、溶接開始用アーク発生の信頼性、安全性、再現性が非常に重要な要素である。
【0013】
このような点に鑑み、従来のアーク溶接時に使用される溶接開始のためのアークを発生させるために、溶接の開始部分と終了部分にタップピースを使用してきた。
【0014】
一方、溶接の開始部分と終了部分では、溶接部が大気中の酸素や窒素と接触して溶接不良が招かれることを防止するために噴射される溶接ガスによって、または溶接ガスの噴射が開始される前に流入される外気によってブローホール(気孔)が発生する。
【0015】
また、溶接の開始部分と終了部分ではアークが不安定であり、溶接棒が母材へ移行するときにスパッターなどの不良が発生する。このような溶接欠陷が発生することを防止するために、溶接の開始部分と終了部分にタップピースを付着して使用することによって、溶接欠陷が母材の接合部に発生することを防止しようとする。
【0016】
以下、図2及び図3を参照して、垂直上向き方式のエレクトロガス溶接時に使用される従来のタップピースについて説明する。
【0017】
図2に示すように、母材1a、1bの間に垂直上向き溶接のために金属材からなる金属タップピース2aを仮付け溶接を通じて固設する。そして、溶接トーチ4を移動してワイヤー5を通じてアーク5aを発生させ、溶接を開始して溶融金属3を溶融させて溶接を行う。このとき、金属タップピース2aの伝導性のためアークの発生は良好に行われるが、金属タップピース2aを固定するために仮付け溶接を行わねばならず、溶接が完了した後に厚い金属タップピース2aが完全に溶融せずに残っているため、それを除去するための後工程が伴われるという問題点がある。
【0018】
図3は、固定用針金をタップピースとして使用した例を示す図であって、図2との同一の参照符号に対しては同一の機能を行うため、その詳細な説明を省略する。
【0019】
図3で、針金タップピース2bは母材1a、1bの間に配置して、アーク発生のためのタップピースとして使用される。固定用針金をタップピースとして使用すれば、手動溶接のように、ワイヤー送給装置が移動できないため、アークスタートが難しい。
【0020】
また、薄い針金の溶融を防止するために、アークスタートは低い電流及び低い電圧を使用せねばならないが、正常な溶接作業のための電流及び電圧に上昇するまで均一な裏面ビーズ及び表面ビーズを得ることができないため、肉盛溶接などの後工程が必要であり、生産性が低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、本発明の目的は、溶接時に溶接欠陷が発生する溶接開始部分の溶接残留物の量を最小化して、溶接後に別途の後工程の不要なタップピースを提供するところにある。
【0022】
本発明の他の目的は、ボディーをセラミックスで製造し、溶接開始アークを発生させるように金属材を挿入させることによって、アーク発生のための電圧を調整する必要がなく、均一な裏面ビーズ及び表面ビーズを生成することができるタップピースを提供するところにある。
【0023】
本発明のさらに他の目的は、タップピースを母材に付着するとき、アルミニウムテープを利用するため、携帯が容易であり、母材に仮付け溶接を行う必要がないため、使用が簡便であり、生産性を向上させることができるタップピースを提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
このような目的を達成するための本発明は、アーク溶接される一対の母材の間の溶接部の開始部分に付着してアーク溶接用アークを発生させるタップピースであって、前記タップピースは、非伝導性材質からなるボディーと、前記ボディーと結合可能な形状を有し、一側は前記ボディーに結合され、他側は露出させて、アーク溶接時における溶接開始アークを発生させるための伝導性材質からなるアーク発生部と、を備えることを特徴にするタップピースを提供する。
【0025】
本発明によれば、前記タップピースを母材に固設するための固定手段をさらに備える。
【0026】
本発明によれば、前記非伝導性物質はセラミックスであることが好ましい。
【0027】
本発明によれば、前記伝導性物質は金属材であることが好ましい。
【0028】
また、本発明は、アーク溶接される一対の母材によって形成される空間の外形に対応する多面体形状のセラミックス材質のボディーと、下側が前記ボディーに結合され、上側が外部に露出して、アーク溶接時における溶接開始アークを発生させるための金属材からなるアーク発生部と、を備えることを特徴とするタップピースを提供する。
【0029】
本発明によれば、前記タップピースを母材に固設するためのアルミニウムテープをさらに備える。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、セラミックス材質を利用してタップピースを製造して、溶接完了後に母材から容易に分離させることができるため、製作工程が簡素化された。
【0031】
また、本発明は、セラミックス材質のボディーの一部に、溶接開始のためのアークを発生させるために、金属材を挿入することによって溶接開始のためのアークの発生が容易であり、またアーク発生のための電圧を調整する必要がないため、均一な裏面ビーズ及び表面ビーズを生成することができる。
【0032】
さらに、本発明によれば、タップピースを母材に固設するためにアルミニウムテープを利用するため、携帯が容易であり、母材に仮付け溶接を行う必要がないため、使用が簡便であり、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1a】垂直上向き方式の溶接を説明するための断面図である。
【図1b】垂直上向き方式の溶接が完了した状態を説明するための断面図である。
【図2】垂直上向き方式のエレクトロガス溶接時に使用される従来のタップピースの使用状態を示す図である。
【図3】垂直上向き方式のエレクトロガス溶接時に使用される従来のタップピースの使用状態を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態によるタップピースを示す斜視図である。
【図5a】本発明の一実施形態によるタップピースに母材との固定に必要なアルミニウムテープが付着した状態を示す斜視図である。
【図5b】タップピースが母材に固定された状態を示す斜視図である。
【図6】アルミニウムテープを使用してタップピースを母材に固定させて溶接する使用状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
【0035】
図4は、本発明の一実施形態によるタップピースを示す斜視図である。
【0036】
図4に示すように、タップピース40は、セラミックス材のほぼ三角形のボディー41と、溶接が行われるときに溶接棒が収容される空間に配置されて、ボディー41と類似している形状の導電性金属材からなってアークを発生させるためのアーク発生部43と、溶接対象である母材(図示せず)と接触して、母材と母材の間の空間に収容される母材接触部42a、42とから構成される。
【0037】
タップピース40のボディー41は、セラミックス材を利用して母材との着脱を容易にする。すなわち、ボディー41に、例えば、アルミニウムテープなどを利用して母材と接着して溶接するように構成する。
【0038】
アーク発生のためにボディー41の一側面に結合されるアーク発生部43は、アルミニウムテープ(図5aの44)によってセラミックスからなるボディー41と接合される。
【0039】
アーク発生部43は、伝導性を有するあらゆる金属が使用可能であり、例えば、鉄(Fe)などを使用して外部に露出するように配置されて、溶接開始アークを発生させるように形成する。母材接触部42a、42bを溶接対象になる母材に接触させ、アーク発生部43を溶接開始部分に並んで配置して母材の溶接を行う。
【0040】
ここで、アーク発生部43の形状は、セラミックスボディー41と同一または類似している形状、または母材P1、P2の傾斜角度P1’、P2’の変化によって、母材の間に挿入可能な形状に成形・焼結するか、またはレーザー加工によって製作することができ、アルミニウムテープによって一面が相互結合可能であれば、その形状は制限されない。
【0041】
本実施形態では、ボディー41の断面形状は三角形であり、アーク発生部43はほぼ台形の形状を有するが、ボディー41と同一の三角形にアーク発生部43を形成してもよい。
【0042】
また、アーク発生部43は、セラミックスボディー41より相対的に薄く形成されて結合されるが、アーク発生部43の厚さは、アークが発生する程度の厚さであれば十分であるためである。このとき、アーク発生部43の厚さが厚すぎれば、溶接後に母材から除去することが難しい場合が発生して、別途の後工程が要求されて好ましくない。
【0043】
このようなタップピース40の使用状態を図5a、図5b及び図6を参照して説明する。
【0044】
図5aは、タップピース40に母材との固定に必要なアルミニウムテープが付着した状態を示す斜視図であり、図5bはタップピースが母材に固定された状態を示す斜視図である。また、図6は、アルミニウムテープを使用して母材にタップピースを固定させ、溶接する使用状態を示す図である。
【0045】
図5aに示すタップピース40は、ボディー41とアーク発生部43の一面(上面)が互いに接触するように配列し、ボディー41とアーク発生部43の上面を同時に取り囲むようにアルミニウムテープ44が付着しており、またアルミニウムテープ44はボディー41とアーク発生部43の上面から両側に延びる一対の延長部を有し、この延長部には製品の移動包装時に異物が付着することを防止するために薄利可能な剥離紙44aが付着している。
【0046】
図5bは、母材45a、45bの間にアルミニウムテープ44によってタップピース40が付着した状態を示す図であり、溶接アークを発生させて上側に溶接するために、アーク発生部43が上部に向かうようにタップピース40が付着している。
【0047】
図6は、アルミニウムテープ44の延長部にある剥離紙44aを薄利した後、タップピース40を母材に付着し、溶接を行う状態を示す。タップピース40を母材45a、45bの表面側に付着させるために、まず、アルミニウムテープ44の延長部から剥離紙44aを薄利させる。
【0048】
溶接対象である母材45aと母材45bを適正な間隔をあけて配置し、両母材の間に形成された逆三角形の形状に合わせてタップピース40を挿入し、タップピース40の母材接触部42a、42bがそれぞれの母材45a、45bの一側に接触するように配置する。このとき、底面から約300mm離れた上側にタップピース40を配置すれば、溶接機と移動補助設備であるレールの使用が便利になる。
【0049】
このとき、アーク発生部43を溶接開始点で溶接部46に向かって上側にアークが発生するように配置した後、アルミニウムテープ44を使用して母材45a、45bに付着させる。
【0050】
その後、タップピース40のアーク発生部43から、溶接棒(図示せず)を利用して溶接開始アークを発生させ、溶接部46に溶融金属を満たして溶接トーチ52を上側に移動させつつ溶接を完了する。一方、セラミックスボディー41は、溶融金属50が下側に移動することを防止するための目的も有する。
【0051】
したがって、本発明では、アーク発生部43から溶接開始アーク51aを発生させて溶接を開始し、アーク発生部43に形成される溶接残留物は溶融金属50と共に溶融して別途に除去する必要がなく、溶接が完了した後、セラミックスボディー41は金属と反応しないため、母材45a、45bから容易に除去することができる。
【0052】
したがって、前述の方法で溶接開始用タップピース40を使用することによってアークの発生が容易であり、溶接開始部分に発生する溶接欠陷を防止することができる。
【0053】
以上では、本発明を特定の好ましい実施形態を例として挙げて図示及び説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の思想を逸脱しない範囲内で当業者によって多様な変更及び修正が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク溶接される一対の母材の間の溶接部の開始部分に付着してアーク溶接用アークを発生させるタップピースであって、
前記タップピースは、非伝導性材質からなるボディーと、
前記ボディーと結合可能な形状を有し、一側は前記ボディーに結合され、他側は露出させて、アーク溶接時における溶接開始アークを発生させるための伝導性材質からなるアーク発生部と、
を備えることを特徴とするタップピース。
【請求項2】
前記タップピースを母材に固設するための固定手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のタップピース。
【請求項3】
前記非伝導性物質はセラミックスであることを特徴とする請求項1に記載のタップピース。
【請求項4】
前記伝導性物質は金属材であることを特徴とする請求項1に記載のタップピース。
【請求項5】
前記アーク溶接は垂直上向き溶接であることを特徴とする請求項1に記載のタップピース。
【請求項6】
アーク溶接される一対の母材によって形成される空間の外形に対応する多面体形状のセラミックス材質のボディーと、
下側が前記ボディーに結合され、上側が外部に露出して、アーク溶接時における溶接開始アークを発生させるための金属材からなるアーク発生部と、
を備えることを特徴とするタップピース。
【請求項7】
前記タップピースを母材に固設するためのアルミニウムテープをさらに備えることを特徴とする請求項6に記載のタップピース。
【請求項8】
前記アーク溶接は垂直上向き溶接であることを特徴とする請求項6に記載のタップピース。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−45625(P2012−45625A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184556(P2011−184556)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(509267524)
【Fターム(参考)】