説明

アーク蒸着装置

【課題】カソード電極とトリガ電極との間の短絡を効果的に抑止でき、メンテナンスフリーの状態における使用期間をより長期間とする(または使用回数をより多くする)ことのできるアーク蒸着装置を提供する。
【解決手段】カソード電極1と、これを包囲する絶縁ガイシ4と、この外周に設けられたCリング3と、この外周に設けられたトリガ電極2と、が一つのユニット体を形成して筒状のアノード電極6内に収容され、これが減圧容器8内に収容されてできるアーク蒸着源10を具備するアーク蒸着装置100であり、カソード電極1を構成する蒸着材料の消耗に応じて該カソード電極1を絶縁ガイシ4に対して相対的に移動させる第1の送り出し手段9Aと、少なくとも絶縁ガイシ4をCリング3の端部から突出させる第2の送り出し手段9Bとを備え、Cリング3の切欠き31はトリガ電極2側からカソード電極1側に向ってその切欠き幅が広くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば燃料電池用触媒層の触媒を製造するためのアーク蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、環境負荷影響等に優しい車両としてハイブリッド自動車、電気自動車が注目されており、その一層の小型化、高性能化を目指した開発が日々進められている。中でも、電気自動車等に車載される燃料電池は内燃機関と発電原理を大きく異にするもので、清浄な排ガスの排出、静粛な走行などを実現する上で極めて重要な車載機器である。
【0003】
比較的低温で作動する高分子電界質を使用してなる燃料電池においては、正負極の触媒層に比較的高価な白金が使用されており、より具体的には、カーボンからなる粉状担体表面に白金が担持されることによって燃料電池用触媒層を形成する触媒が製造されている。
【0004】
ところで、特許文献1には蒸着装置に関する技術が開示されている。この蒸着装置は、棒状の蒸着材料と同型で棒状のカソードとをコネクタにて接続し、この蒸着材料が絶縁管の内部を貫通した姿勢で移動できるようにしたものであり、蒸着材料とカソードの移動を直線駆動機構にて実行するものである。
【0005】
【特許文献1】特開平11−350115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
白金をはじめとする各種金属からなるカソードを蒸着源としたアーク蒸着装置においては、カソード電極とトリガ電極との間の絶縁を確保するために設けられた絶縁ガイシの表面にアーク蒸着の過程で飛散した金属微粒子(荷電微粒子)が付着し、これを介してカソード電極とトリガ電極とが短絡することがある。したがって、メンテナンスが無い状態での蒸着装置の耐久期間もしくは耐久回数(使用可能期間もしくは使用可能回数)は、この短絡までの期間もしくは回数といっても過言ではなく、そのために、一定回数のプラズマ照射の後にメンテナンスが余儀なくされているのが現状である。
【0007】
ここで、現在使用されているアーク蒸着装置のアーク蒸着源の一つの形態を説明する。この蒸着源は、図5aの側面図とそのb−b矢視図である図5bの平面図で示すように、トリガ電極Aの一端から金属製のCリングBが突出した姿勢で形成され、このCリングBにて支持される筒状の絶縁ガイシCの端部を該CリングBから突出させ、絶縁ガイシCに支持された棒状のカソードDを該絶縁ガイシCから突出させ、この姿勢でアーク蒸着をおこなうものである。アーク蒸着の過程で発生する金属微粒子mが絶縁ガイシCの露出面に付着し、この付着が進行すると付着金属微粒子mを介してカソードDとCリングB(およびトリガ電極A)との間で短絡が生じてしまうことから(図5aにおける矢印Y1)、この短絡を回避する必要がある。なお、切欠きB1を有するCリングBにて絶縁ガイシCを支持することにより、このCリングBが緩衝材としての作用を果たし、トリガ電極Aの熱膨張によって絶縁ガイシCの破損を効果的に抑止していることから、切欠きB1を有するCリングBは図示する蒸着源にとって重要な構成要素となっている。
【0008】
そこで、図6で示すように、絶縁ガイシCおよびカソードDをCリングBから単純に押出すことが考えられるが(図中の矢印Y2)、図示する従来形状の切欠きB1を具備するCリングBでは、絶縁ガイシCの露出面に図示のごとき略Tの字状の金属微粒子付着領域が形成され、切欠きB1以外の露出面の長さ:L1を基準に絶縁ガイシCおよびカソード電極DをCリングBから送り出しただけでは短絡は回避できない。すなわち、略Tの字状の下端までの長さ:L2を基準として、少なくとも、CリングBの端部からこの略Tの字状の下端までを送り出してはじめて短絡が完全に回避されることになり、したがって、送り出し量は非常に多くなってしまう。
【0009】
絶縁ガイシ(およびカソード)の送り出し量が多いことにより、絶縁ガイシのメンテナンス期間が短くなることは理解に易い。これに加えて、絶縁ガイシの送り出し量が多いことにより、その端部から突出するカソードとトリガ電極との距離も長くなってしまうことから、双方の間の電位差も大きくなり、場合によってはプラズマ照射ができなくなるという課題も生じ得る。
【0010】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、図5,6で示す従来のアーク蒸着源の構造に改良を加えることにより、従来構造に比してCリングからの絶縁ガイシおよびカソード電極の送り出し量を格段に少なくしながら、カソード電極とトリガ電極との間の短絡を効果的に抑止でき、もってメンテナンスのない状態での使用期間をより長期間とする(または使用回数をより多くする)ことのできるアーク蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明によるアーク蒸着装置は、蒸着材料からなるカソード電極と、該カソード電極の外周を包囲する絶縁ガイシと、該絶縁ガイシの外周に設けられたCリングと、該Cリングの外周に設けられたトリガ電極と、が一つのユニット体を形成し、該ユニット体が筒状のアノード電極内に収容され、該アノード電極が減圧容器内に収容されてできるアーク蒸着源を具備するアーク蒸着装置において、前記カソード電極の一端は前記絶縁ガイシの端部から突出し、該絶縁ガイシの端部は前記Cリングの端部から突出し、該突出したカソード電極の側面と前記トリガ電極の一端との間で沿面放電がなされるものであり、前記カソード電極を構成する蒸着材料の消耗に応じて該カソード電極を前記絶縁ガイシに対して相対的に移動させ、カソード電極の前記一端を絶縁ガイシの端部から突出させる第1の送り出し手段と、少なくとも前記絶縁ガイシを前記Cリングの端部から突出させる第2の送り出し手段とをさらに具備しており、前記Cリングを構成する切欠きは、トリガ電極の前記一端から該Cリングの前記端部に向って切欠き幅が広くなっているものである。
【0012】
本発明のアーク蒸着装置は、カソード電極とトリガ電極間の短絡を防止することによってその使用可能期間を従来の装置に比して格段に長くすることができるものであり(または、使用可能回数が格段に多くなるもの)、カソード電極に使用される蒸着材料は金属全般もしくは金属合金全般を含むものである。さらに、その用途は、半導体装置や液晶表示装置等を構成する基盤上に金属薄膜を形成することは勿論のこと、燃料電池の電極触媒層を形成する触媒の製造にも好適である。
【0013】
アーク蒸着装置を構成するアーク蒸着源は、蒸着材料からなるカソード電極と、該カソード電極の外周を包囲する絶縁ガイシと、該絶縁ガイシの外周に設けられたCリングと、該Cリングの外周に設けられたトリガ電極とが一つのユニット体を形成し、該ユニット体が筒状のアノード電極内に収容され、これらが減圧容器内に収容されて形成されるものである。ここで、蒸着材料からなるカソード電極は、たとえば蒸着材料が長細状に成形されたものを電極ホルダに締結し、これを筒状の絶縁ガイシ内に収容することで形成できる。なお、絶縁ガイシは、たとえばシリカ(SiO)等から成形される。
【0014】
アノード電極とカソード電極の間に電圧を印加するとともにトリガ電極に電圧を印加すると、トリガ電極と蒸着材料からなるカソード電極との間に沿面放電が発生し、これにより、アノード電極と蒸着材料(カソード電極)の間にアーク放電が励起される。このアーク放電によって蒸着材料が蒸発し、アノード電極に向かう荷電微粒子が放出される。この荷電微粒子は、アノード電極内に生じる磁場の影響により、たとえば減圧容器内のアノード電極の開放端に対向する位置に載置された基盤に飛ばされ、該基盤上で薄膜を成長させることになる。
【0015】
本発明のアーク蒸着装置は、絶縁ガイシを支持するCリングの切欠き形状をトリガ電極の一端から該Cリングの端部に向ってその切欠き幅が広くなるような形状とすることにより、該Cリング表面に金属微粒子(荷電微粒子)が付着し、これを介してカソード電極とトリガ電極とが短絡するのを回避するべく絶縁ガイシを送り出す際の送り出し量を、従来構造のCリングを具備するアーク蒸着装置に比して格段に少なくすることができるものである。
【0016】
そのための切欠きの端辺は、たとえば、テーパー状もしくは湾曲状とすることができる。
【0017】
また、このアーク蒸着装置は2つの送り出し手段を有し、その一つは、カソード電極を構成する蒸着材料の消耗に応じて該カソード電極を絶縁ガイシに対して相対的に移動させ、カソード電極の一端を絶縁ガイシの端部から突出させる送り出し手段であり(第1の送り出し手段)、他の一つは、少なくとも絶縁ガイシをCリングの端部から突出させる送り出し手段(第2の送り出し手段)である。ここで、「少なくとも絶縁ガイシをCリングの端部から突出させる」とは、絶縁ガイシのみを移動させることのほか、絶縁ガイシとカソード電極の双方を移動させることをも含む意味である。
【0018】
なお、この第2の送り出し手段に関し、絶縁ガイシが送り出される際に該絶縁ガイシが回転してしまうと絶縁ガイシの切欠き部分に付着した金属微粒子がCリングと接触して電極間の短絡の原因となることから、絶縁ガイシの送り出しは直線的である必要がある。したがって、絶縁ガイシの回転(自転)を抑制するような回転防止機構もしくは送り案内部材を該絶縁ガイシの側面外周に設けておいてもよい。
【0019】
また、アーク蒸着の過程で、絶縁ガイシの側面に付着した金属微粒子を介し、Cリングを介してカソード電極とトリガ電極とが短絡することが防止されるように、前記第2の移動調整手段によって少なくとも絶縁ガイシがCリングに対して相対移動するような送り出し制御が実行される。
【0020】
この送り出し制御は、経験則や実験等で既に得られている、絶縁ガイシの突出長に関するデータと、該絶縁ガイシの突出部に付着した金属微粒子が電極間を短絡させるまでのアーク照射回数に関するデータに基づいて、照射回数に応じて第2の送り出し手段を稼動させ、絶縁ガイシのみを、もしくは絶縁ガイシとカソード電極の双方を、所定量だけ自動的に送り出すようになっているのがよい。
【0021】
なお、第1の送り出し手段による、絶縁ガイシに対してカソード電極を送り出すタイミングや送り出し量に関しても、アーク照射回数に応じたカソード電極の消耗量に関するデータに基づいて自動的に実行されるのがよい。
【0022】
なお、上記する第1、第2の送り出し手段の具体的な実施形態は特に限定されるものではないが、たとえば、油圧、水圧、空気圧シリンダユニット装置や、送りねじ装置などを使用でき、手動操作の場合には、所定厚のスペーサを蒸着源の後方から嵌めこんで、絶縁ガイシおよびカソード電極を送り出したり、カソード電極のみを送り出すことができる。
【0023】
また、本発明によるアーク蒸着装置の他の実施の形態において、前記減圧容器内のアノード電極の開放端に対向する位置には被蒸着物を収容する収容部が具備されており、該収容部は前記減圧容器の軸心まわりに回転自在な皿状のチャンバーを有しており、これに粉体の被蒸着物が収容された姿勢でチャンバーの回転によって攪拌され、アークプラズマが該攪拌された粉体に照射されるものである。
【0024】
本実施の形態は、減圧容器内のアノード電極の開放端に対向する位置に回転自在のチャンバーを備えていて、このチャンバー内で被処理対象の粉体を効率的に微小単位にばらばらにしながら、微小単位の粉体表面にアークプラズマ照射することで金属触媒を担持させるものである。プラズマ照射に際して粉体を微小単位に粉々にすることで、粉体の凝集によって金属触媒が凝集体の一部にしか形成されないといった問題を解消し、もって金属触媒の有効面積を大きくし、微小粉体表面に均一に金属触媒を担持させることができる。しかも、メンテナンス無しで当該アーク蒸着装置を長期に亘って使用することができるため、あるいは多数回に亘って使用することができるため、高品質な製品(たとえば電極触媒)を従来の装置に比して格段に安価に製造することができる。
【0025】
上記実施の形態において、たとえば前記粉体が粉状のカーボン担体であり、該カーボン担体に白金または白金合金をドライ担持させるのに供されるのが好ましい。この白金は比較的高価であるため、本発明の上記装置を使用することでその単位重量あたりの有効面積を大きくすることが可能となり、もって白金使用量を低減することに繋がる。本発明の上記装置を使用することにより、昨今その研究開発が盛んとなっており、その生産が拡大しつつある燃料電池自動車の電極触媒層用の触媒の生産に好適である。なお、そのほか、ディーゼルエンジンの触媒等の生産にも適用できることは言うまでもない。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から理解できるように、本発明のアーク蒸着装置によれば、Cリングからの絶縁ガイシおよびカソード電極の送り出し量を従来構造のアーク蒸着装置に比して格段に少なくしながら、カソード電極とトリガ電極の間の短絡を効果的に抑止でき、もってメンテナンスのない状態での使用可能期間が格段に長い、もしくは使用可能回数が格段に多いアーク蒸着装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施例】
【0028】
図1は本発明のアーク蒸着装置の一実施の形態を概略説明した図である。このアーク蒸着装置100は、アークプラズマガンを構成する電源20とこれに固定された減圧容器8の長手方向であってプラズマ照射方向を水平面に対してθ傾斜させた姿勢で該アーク蒸着装置100が位置決め固定され、この減圧容器8の先端に粉状カーボン担体Cが収容されたチャンバーを有する収容部30が装着され、この収容部30はさらに先端のサーボモータ40(たとえばオリエンタルモーター株式会社製のAXU425)にて所定速度で回転自在に構成されている(X1方向)。減圧容器8内には該減圧容器8をその構成要素とするアーク蒸着源10が設けてあるが、その詳細は後述する。また、アーク蒸着装置100は真空ポンプ50(たとえばターボ分子ポンプで、株式会社アルバック製のYTP150)、補助真空用のロータリーポンプ60に連通しており、これによって減圧容器8内を減圧し(場合によっては真空とし)、放電させるようになっている。なお、上記する角度θ方向はチャンバーの自転軸とも一致しているが、このθの範囲はカーボン担体をチャンバー内壁から落下させるのを促進する等の観点から、30〜60度の範囲に設定されるのが好ましい。
【0029】
また、アーク蒸着装置100は不図示のパーソナルコンピュータに繋がっており、このコンピュータ内には、アーク蒸着装置100にパルス信号を送信しながらプラズマのパルス照射を実行できる構成となっている。また、サーボモータ40の回転速度もコンピュータにて制御できるようになっており、この回転速度とパルス信号送信のタイミングの双方が調整されるようになっている。さらには、後述するシリンダユニット機構の制御もこのコンピュータにて実行されるものであり、たとえば30000回のアークプラズマ照射の段階で、カソード電極を前方へ1mm前進させるといった具合に、プラズマ照射段階に応じてカソード電極を所定長だけ送り出し制御できるようになっている。
【0030】
たとえば、粉状カーボン担体Cへの白金触媒のドライ担持条件として、減圧容器8内の真空度は1.0×10−4Pa、アーク電圧を200V、トリガ電圧を3.4kV、温度は常温とし、アークプラズマ照射はパルス照射するものとしてその照射間隔は4パルス/秒、サーボモータ40の回転数は45rpmにて電極触媒の製造を実施することができる。
【0031】
上記する本発明のアーク蒸着装置100によれば、粉状カーボン担体Cをチャンバーの回転によって随時落下させながらその凝集を防止するとともに、微小単位の粉状のカーボン担体Cを生成でき、これにアークプラズマが照射されることで、カーボン担体表面に均一な白金触媒を担持させることが可能となる。
【0032】
次に、図2に基づいてアーク蒸着装置100を形成するアーク蒸着源10の構成を詳述する。
【0033】
アーク蒸着源10は、蒸着材料である白金から成形され、その内部に溝孔1aを有するカソード電極1と、該カソード電極1の溝孔1a内に挿通されたボルト7を介してカソード電極1の端部1cと接続される電極ホルダ5と、このカソード電極1および電極ホルダ5の外周を包囲する筒状の絶縁ガイシ4と、該絶縁ガイシ4の外周に設けられたCリング3とその外周に設けられた筒状のトリガ電極2と、が一つのユニット体を形成し、このユニット体が筒状のアノード電極6内に収容され、これらが筒状の減圧容器8内に収容されて形成される。
【0034】
カソード電極1の一端1bは絶縁ガイシ4の端部4aからたとえば1mm程度突出しており、この突出したカソード電極の側面1b’とトリガ電極2の一端2aとの間で沿面放電がなされる。
【0035】
蒸着源10は、減圧容器8の内部の電源20側に、絶縁ガイシ4内で電極ホルダ5およびカソード電極1を前方に移動させる第1の送り出し手段を備えており、図示例では、この第1の送り出し手段が、シリンダユニット機構9Aから構成されるものである。
【0036】
シリンダユニット機構9Aは、シリンダ9A1内を摺動し、その端部から伸張するピストン9A2を有しており、ピストン9A2の端部がアノード電極6の端面に形成された開口を介して電極ホルダ5の端部に固着されている。
【0037】
所定回数のアークプラズマ照射が実行されてカソード電極1の端部1bが消耗した段階で、不図示のコンピュータからシリンダユニット機構9Aにピストン9A2を所定長だけ前進させる指令信号が送信され、この信号に基づいて自動的にピストン9A2が前進し(X2方向)、これによってカソード電極1の一端1bが絶縁ガイシ4に対して相対的に所定長だけ送り出される(X3方向)。
【0038】
蒸着源10はさらに、Cリング3に対して絶縁ガイシ4を前方に移動させる第2の送り出し手段をも備えており、図示例では、この第2の送り出し手段も第1の送り出し手段と同様の機構であるシリンダユニット機構9Bから構成されるものである。
【0039】
図示例では2つのシリンダユニット機構9Bを有するものとなっており、これらは、シリンダ9B1とその端部から伸張するピストン9B2とから構成され、ピストン9B2の端部がアノード電極6の端面に形成された開口を介して絶縁ガイシ4の端部に固着されている。
【0040】
所定回数のアークプラズマ照射が実行されて絶縁ガイシ4の表面に金属微粒子が付着し、これを介してカソード電極1とトリガ電極2とが短絡しない段階で、不図示のコンピュータからシリンダユニット機構9Bにピストン9B2を所定長だけ前進させる指令信号が送信され、この信号に基づいて自動的にピストン9B2が前進し(X4方向)、これによって絶縁ガイシ4の一端4aがCリング3に対して相対的に所定長だけ前進する(X5方向)。なお、このCリング3は、Cリング固定部材32にてアノード電極6の内面に固定されている。
【0041】
ここで、第1の送り出し手段と第2の送り出し手段はインターフェイス回路を介して同期制御され、第2の送り出し手段による絶縁ガイシ4の送り出し制御に同期するように、第1の送り出し手段によって絶縁ガイシ4の内部に位置するカソード電極1も同程度に送り出されるようになっている。
【0042】
なお、双方の送り出し手段を同期制御させるまでもなく、第2の送り出し手段によって絶縁ガイシ4が送り出される際に、この絶縁ガイシ4とカソード電極1との間の静止摩擦力により、カソード電極1が絶縁ガイシ4と同時に送り出されるものであってもよい。
【0043】
図3は、アーク蒸着源10を構成するCリング3の切欠き形状を説明した模式図である。
【0044】
図3aは、切欠き端辺3aがテーパー状を成して、トリガ電極2側からカソード電極1側へ向って切欠き幅が広くなるように形成された切欠き31を具備するCリング3を示している。
【0045】
一方、図3bは、切欠き端辺3bが湾曲状を成して、同様にトリガ電極2側からカソード電極1側へ向って切欠き幅が広くなるように形成された切欠き31’を具備するCリング3Aを示している。
【0046】
ここで、図4に基づき、図3aで示すCリング3を有するアーク蒸着源を例に、該Cリング3から絶縁ガイシ4およびカソード電極1を送り出す場合を説明する。
【0047】
アーク蒸着が進行する過程で、図4aで示すように、Cリング3およびその切欠き31から露出する絶縁ガイシ4の表面に金属微粒子mが付着する。
【0048】
この付着金属微粒子mによってカソード電極1とトリガ電極2とが短絡しないように、上記のごとく第1、第2の送り出し手段にてカソード電極1と絶縁ガイシ4がCリング3に対して送り出されるものであり、送り出された状態を図4bに示している。なお、同図において、送り出し方向である矢印X5は図2における移動方向:X5と同義である。
【0049】
図4bより、切欠き31がトリガ電極2側からカソード電極1側へ向ってその切欠き幅が広くなるように形成されていることで、微小な送り出し量(ここでは、L3でもよいし、L4でもよい)にて、絶縁ガイシ4表面の金属微粒子mとCリング3とを離間させることができる。
【0050】
同図と従来構造を説明した図6と比較することにより、双方の送り出し量の相違が顕著であることが理解できる。
【0051】
図示するように、本発明のアーク蒸着装置100は、そのアーク蒸着源10の構成要素であるCリングの切欠き形状を改良したこと、2つの送り出し手段にてカソード電極および絶縁ガイシの送り出し量やそのタイミングを短絡しないように制御すること、により、メンテナンスフリーの状態におけるアーク照射回数を従来構造のアーク蒸着装置に比して格段に多くすることが可能となる。
【0052】
さらに、本発明のアーク蒸着装置100は、その先端に粉状カーボン担体Cを収容する回転自在のチャンバーを具備する収容部30を備えており、このチャンバーの回転によって粉状カーボン担体Cを効率的に微小単位にばらばらにしながら、微小単位の粉体表面にアークプラズマ照射することにより、金属触媒の有効面積を大きくし、微小粉体表面に均一に金属触媒を担持させることが可能となるものである。
【0053】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のアーク蒸着装置の一実施の形態の側面図である。
【図2】蒸着源を拡大した縦断面図である。
【図3】(a)、(b)はともにCリングの切欠き形状の実施の形態を説明した側面図である。
【図4】図3aで示すCリングを有するアーク蒸着源に関し、(a)は絶縁ガイシの露出面に金属微粒子が付着した状態を説明した図であり、(b)は絶縁ガイシおよびカソード電極をCリングに対して相対的に移動させた状態を説明した図である。
【図5】(a)は、従来のアーク蒸着装置のアーク蒸着源において、特にCリングの切欠き形状を説明した側面図であり、(b)は(a)のb−b矢視図である。
【図6】図5で示すアーク蒸着源において、絶縁ガイシおよびカソード電極をCリングに対して相対的に移動させた状態を説明した図である。
【符号の説明】
【0055】
1…カソード電極、1a…溝孔、1b…端部(一端)、1c…端部(他端)、2…トリガ電極、2a…トリガ電極の端部、3,3A…Cリング、31,31’…切欠き、3a、3b…切欠き端辺、32…Cリング固定部材、4…絶縁ガイシ、4a…絶縁ガイシの端部、5…電極ホルダ、6…アノード電極、7…ボルト、8…減圧容器、9A…シリンダユニット機構(第1の送り出し手段)、9B…シリンダユニット機構(第2の送り出し手段)、9A1、9B1…シリンダ、9A2、9B2…ピストン、10…アーク蒸着源、20…電源、30…収容部、40…サーボモータ、50…真空ポンプ、60…回転ポンプ、100…アーク蒸着装置、C…粉状カーボン担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料からなるカソード電極と、該カソード電極の外周を包囲する絶縁ガイシと、該絶縁ガイシの外周に設けられたCリングと、該Cリングの外周に設けられたトリガ電極と、が一つのユニット体を形成し、該ユニット体が筒状のアノード電極内に収容され、該アノード電極が減圧容器内に収容されてできるアーク蒸着源を具備するアーク蒸着装置において、
前記カソード電極の一端は前記絶縁ガイシの端部から突出し、該絶縁ガイシの端部は前記Cリングの端部から突出し、該突出したカソード電極の側面と前記トリガ電極の一端との間で沿面放電がなされるものであり、
前記カソード電極を構成する蒸着材料の消耗に応じて該カソード電極を前記絶縁ガイシに対して相対的に移動させ、カソード電極の前記一端を絶縁ガイシの端部から突出させる第1の送り出し手段と、少なくとも前記絶縁ガイシを前記Cリングの端部から突出させる第2の送り出し手段とをさらに具備しており、
前記Cリングを構成する切欠きは、トリガ電極の前記一端から該Cリングの前記端部に向って切欠き幅が広くなっている、アーク蒸着装置。
【請求項2】
前記Cリングの切欠きの端辺が、テーパー状もしくは湾曲状となっている、請求項1に記載のアーク蒸着装置。
【請求項3】
アーク蒸着の過程で、前記第2の移動調整手段によって少なくとも前記絶縁ガイシがCリングに対して送り出し制御されることにより、絶縁ガイシの側面に付着した金属微粒子を介し、Cリングを介してカソード電極とトリガ電極とが短絡することが防止されている、請求項1または2に記載のアーク蒸着装置。
【請求項4】
前記減圧容器内のアノード電極の開放端に対向する位置には被蒸着物を収容する収容部が具備されており、該収容部は前記減圧容器の軸心まわりに回転自在な皿状のチャンバーを有しており、これに粉体の被蒸着物が収容された姿勢でチャンバーの回転によって攪拌され、アークプラズマが該攪拌された粉体に照射されるものである、請求項1〜3のいずれかに記載のアーク蒸着装置。
【請求項5】
前記蒸着材料が白金からなり、前記粉体が粉状のカーボン担体からなり、該カーボン担体に白金または白金合金を担持させるのに供される、請求項4に記載のアーク蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−275264(P2009−275264A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128264(P2008−128264)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】