説明

イエダニ由来のアレルゲン

【課題】重要なアレルゲンの一つであるイエダニに対するアレルギーまたは感作に関与する新規アレルゲンを提供する。
【解決手段】イエダニに由来する新規なアレルゲン、前記アレルゲンに由来するポリペプチド、およびこれをコードするポリヌクレオチドを提供する。さらに前記アレルゲンに対する抗体、アレルギー性疾患の治療、診断および予防における前記ポリペプチド、ポリヌクレオチドおよび/または抗体の用途を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イエダニ由来の新規のアレルゲン、前記アレルゲン由来のポリペプチドおよびこれをコードするポリヌクレオチドに関する。さらに、本発明は、前記アレルゲンに対する抗体、およびアレルギー性疾患の治療および診断における、前記ポリペプチド、ポリヌクレオチドおよび/または抗体の用途を提供する。
【背景技術】
【0002】
人口の25%を越える人々が、IgE媒介性アレルギーに苦しんでいる。アレルギー患者は、それ自体は無害の抗原(すなわちアレルゲン)に対するIgE抗体の生産が増加するという特徴を有している。I型アレルギーの急性症状(アレルギー性結膜鼻炎、ぜんそく、皮膚炎、アナフィラキシーショック)は、肥満細胞に結合したIgE抗体のアレルゲン誘導性架橋、および生物活性媒体(例えば、ヒスタミン、ロイコトリエン)の放出によって引き起こされる。
【0003】
イエダニ(House−dust mite: HDM)は、世界中で最も重要なアレルゲン源の1つである。人口のほぼ10%、およびアレルギー患者の50%以上が、ダニアレルゲンに感受性である。イエダニであるヤケヒョウヒダニ(HDM Dermatophagoides pteronyssinus (Der p))は、中央ヨーロッパにおける主たる室内アレルゲンである(1)。Der pのアレルゲンは30を越えるタンパク質または糖タンパク質からなり、他のダニ種由来のアレルゲンに対して交差反応性を示す。これまでに19群のアレルゲンがキャラクタライズされている。上述の19群のHDMアレルゲンのなかでは、第1群および第2群(Der p 1およびDer p 2)が、最も重要なアレルゲンであるが、他のHDMアレルゲン(例えばDer p 5およびDer p7)は、Der pアレルギー患者の約50%で認められている重要なDer pアレルゲンであることが示されている(2)。
【0004】
現在HDMアレルギー患者の診断および治療のために用いられている天然HDM粗抽出物は、Der p 1およびDer p 2についてしか標準化されておらず、他の重要なアレルゲンは、HDM抽出物中には少量しか存在しない。したがって、HDM特異的免疫治療は、花粉アレルゲンを用いた免疫治療よりも効率が低いと考えられる。診断および治療のために組み換えアレルゲンを用いることにより、この問題を排除できるかもしれない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の基礎をなす技術的問題は、HDMに対するアレルギーまたは感作に関与する新しいアレルゲンを同定し、単離することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記技術的問題に対する解決策は、請求項に特徴を記載する本発明の実施形態によって提供される。
【0007】
特に、本発明者らは、Der pアレルギー患者の診断および治療に有用な新規なDer pアレルゲンの同定に成功した。この新規なダニアレルゲンをコードするcDNAは、Der p発現cDNAライブラリより単離し、大腸菌(E.coli)中において組み換えアレルゲンとして発現させた。14.7kDaの分子量を有するこの新規なアレルゲンは、30%程度のダニアレルギー患者由来のIgEに結合する。新規なDer pアレルゲンのアミノ酸配列と、異なるHDMおよび貯蔵庫ダニ(すなわち、Der p、Lepidoglyphus destructor、Blomia tropicalis)からの5群のアレルゲンのアミノ酸配列の間には、約50%の同一性が見られた。しかしながら、新たに記載するアレルゲンとDer p 5との間に交差反応性を認めることはできず、この新しいアレルゲンが、HDMアレルゲンの新しい群であることが実証された。さらに、本発明者らは、組み換えアレルゲンが生物学的に活性であることを示す。特に、該アレルゲンは、ダニアレルギー患者の好塩基球から、すでに10pg/mLの濃度で最大限のヒスタミンを放出しており、場合によっては、1ng/mLの濃度でしか最大ヒスタミンを放出しないメジャーアレルゲンであるDer p 1よりも活性が高い可能性があることが示されている。
【0008】
したがって、本発明は、配列番号:1に示されるアミノ酸配列、特にそのアミノ酸20〜140を含むポリペプチドに対して交差反応性を示すポリペプチドを提供する。「交差反応性」という用語は、配列番号:1に示されるアミノ酸配列に結合する、特定の免疫グロブリン、好ましくはIgE抗体、または、完全なイムノグロブリンがもつエピトープへの結合特性を示すその断片または誘導体が、当該ポリペプチドにも結合することを意味する。こうした結合は、前記当該ポリペプチドが、配列番号:1で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド内の前記特定の免疫グロブリン(好ましくはIgE)によって認識される少なくとも1つのエピトープまたは決定基を含むアミノ酸配列を有しているために起こる。
このことは、交差反応性ポリペプチドが、交差反応性ポリペプチドに曝露された個体においてアレルギー反応か少なくとも感作を誘発しうることを意味している。
【0009】
本発明はさらに、配列番号:1に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドに関する。好ましくは、前記ポリペプチドは、配列番号:1に示すアミノ酸配列に対して、少なくとも75%の同一性、より好適には少なくとも80%の同一性、さらに好適には少なくとも90%の同一性、最も好適には少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列からなる。本明細書中において、「ポリペプチド」という用語は、少なくとも7アミノ酸長を有するタンパク質および/またはペプチドのことをいう。
【0010】
配列番号:1に対するアミノ酸の同一性の程度は、当該アミノ酸配列と配列番号:1とを、プログラム「BLAST 2 SEQUENCES(blastp)(Tatusovaら(1999)FEMS Microbiol.Lett.174,247〜250頁)」により、以下のパラメータを用いて比較することにより決定する。マトリックスBLOSUM62;オープンギャップ11およびエクステンションギャップ1減点;ギャップ×_ドロップオフ50;予想10.0ワードサイズ3;フィルターなし。
本発明によれば、配列比較は、少なくとも40アミノ酸、好ましくは少なくとも80アミノ酸、より好ましくは少なくとも100アミノ酸、最も好ましくは少なくとも120アミノ酸をカバーする。
【0011】
好ましい実施形態によれば、本発明のポリペプチドは、配列番号:1に示されるアミノ酸配列、より好ましくは配列番号:1に示される配列の残基20〜140を含む。
【0012】
さらに、本発明は、配列番号:1に示されるアミノ酸配列のうちの少なくとも18の(連続する)アミノ酸の断片を含むポリペプチドを提供する。好ましくは、断片の長さは、配列番号:1に示されるアミノ酸配列のうちの少なくとも21アミノ酸、より好ましくは少なくとも25アミノ酸、さらに好ましくは少なくとも35アミノ酸、最も好ましくは少なくとも50アミノ酸である。
【0013】
本発明のさらなる実施形態は、配列番号:1に示されるアミノ酸配列のうちの少なくとも7つの(連続する)アミノ酸で構成されるポリペプチドである。好ましくは、前記ポリペプチドの長さは、少なくとも10アミノ酸、より好ましくは少なくとも15アミノ酸、さらに好ましくは少なくとも25アミノ酸、最も好ましくは少なくとも35アミノ酸である。さらなる実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号:1に示されるアミノ酸配列のうちの、少なくとも8または少なくとも9または少なくとも11または少なくとも12または少なくとも13または少なくとも14または少なくとも18または少なくとも21または少なくとも30の連続するアミノ酸で構成される。さらなる実施形態において、ポリペプチドの長さは、100または50または30アミノ酸よりも小さい。少なくとも7つのアミノ酸で構成されるポリペプチドは、T細胞(T細胞エピトープ)によって認識されることができる。
【0014】
本発明のさらなる実施形態は、配列番号:1に示されるアミノ酸配列の断片であり、イエダニに対してアレルギーを持つかあるいは感作された個体からのIgE抗体と結合することができる断片を含むポリペプチドであり、「IgE」抗体という用語は、それ自体既知の方法によって得ることのできる抗体調製物を意味する。過敏なヒトにおいては、アレルゲンへの曝露により、以下の2段階からなる即時型(IgE媒介性)アレルギー反応が起こる。
(i)最初の曝露により、アレルギー性タンパク質が、B細胞によるIgE合成を誘導する(VercelliとGeha(1989),J.Allergy Clin.Immunol.9,75〜83頁)。これらの特異的IgE抗体は次に高親和性Fcε受容体(FcεRI)を介して、肥満細胞および好塩基球の表面に結合する。
(ii)次の曝露により、アレルゲンは上記特異的IgE抗体に結合して架橋し、前形成および新しく合成された炎症媒介物(例えばヒスタミン)および化学走化性物質(例えば血小板活性化因子)の放出を導く。
【0015】
上記の段階(i)において、Bリンパ球によるアレルゲン特異的IgEの産生には、アレルゲンの線形ペプチド断片によって活性化されるTリンパ球(前掲のVercelliとGeha(1989)参照)の「助け」を必要とする。これらのペプチドは、抗原プロセシングを介して抗原提示細胞によって生成され、主要組織適合複合体(MHC)の分子によって細胞表面上に表示され、ここで認識およびT細胞受容体への結合に利用できるようになる(Schwartz(1985),Annu.Rev.Immunol.3,237〜255頁;Rothbartら(1989)Int.Immunol.1,479〜486頁)。上記段階(2)において、B細胞によって産生されるアレルゲン特異的IgE抗体は、循環して、肥満細胞および好塩基球上のFceRI受容体に結合することにより、アレルゲンに対する受容体として機能する。アレルゲンによるこれらの細胞表面結合IgE抗体の架橋は、前形成および新たに合成された炎症媒介物および化学走化性物質の放出に対するシグナルを示し、典型的なアレルギー性炎症反応をもたらす。
【0016】
「イエダニに対して感作された個体」とは、イエダニ由来のタンパク質を認識するIgE抗体を示す個体のことをいう。「イエダニに対してアレルギーをもつ個体」は、HDMに曝露された場合に、上述のようなI型アレルギーの即時症状などのアレルギー症状(IgE媒介性)をさらに示す。上述したように、そのようなアレルギー反応または少なくとも感作は、配列番号:1に示されるアミノ酸配列と交差反応性を有する相同ポリペプチドへの曝露によって、引き起こすこともできる。典型的には、HDMに対してアレルギーをもつ患者は、皮膚プリックテスト(SPT)では陽性を示し、放射性アレルギー吸着試験(RAST)においては、0.35kUA/Lを越える結果を示す。
【0017】
ポリペプチドは、抗体に対する親和性が該抗体に結合しない対照組成物に比べて有意に高い場合には、「抗体に結合することができる」。特定のポリペプチドまたはアレルゲンへの特異的IgE抗体の結合は、アレルゲン特異的IgE抗体を示さない健常な非アレルギー個体(SPT陰性、RAST陰性によって判定されるような)からの対照血清を用いて、当該技術分野において知られる様々な方法、例えばRAST、イムノブロット、ELISAなどによって判定することができる。
【0018】
本発明は、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)および他のHDMにおいて見られる新規なアレルゲン構造を提供する。これらの構造の同定は、イエダニ感作およびアレルギーの診断および治療において利用できる組み換えアレルゲンの選択および製造について特に有用である。
【0019】
さらに、本発明は、配列番号:1によるポリペプチドの誘導体、類似体および断片を提供する。このような誘導体は、遺伝子操作または化学合成によって生成されてもよく、例えば、配列番号:1に示される配列内に1つ以上のアミノ酸を追加、欠失、および/または置換を行うことによって作成してもよい。好ましい実施形態によれば、配列番号:1によるポリペプチドの誘導体、類似体および断片は、親アミノ酸配列に比べて低いアレルゲン性を示す。このようなポリペプチドは、それぞれのポリペプチドをコードする核酸、例えばcDNAまたはmRNAを使用して作成することが好ましい。そのような核酸(ポリヌクレオチド)は、配列番号:2に示されるヌクレオチド配列から、1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、および/または欠失により得られるヌクレオチド配列を有している。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、ポリペプチドは、単離ポリペプチド、すなわち実質的に純粋な形である。「実質的に純粋」という表現は、ポリペプチドを他の化合物から分離することによって、該ポリペプチドが少なくとも75%の純度、好ましくは少なくとも90%の純度、より好ましくは少なくとも95%の純度であることを意味する。ポリペプチドの純度は、当業者によって当該技術分野において周知の技術、例えばSDS−PAGEとそれに続くタンパク質染色等によって決定することができる。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)および質量分析が、ポリペプチドや短いペプチドを分析するために適した方法である。
【0021】
本発明のポリペプチドは、様々な方法によって調製することができる。ポリペプチドは、化学合成によって、好ましくは固相を適用することにより調製してもよい。化学ペプチド合成の方法は当該技術分野において周知である(例えば、Merrifield(1963)J.Am.Soc.85,2149;Stewartら(1984)“Solid Phase Peptide Synthesis”,第2版,Pearce Chemical Co.,米国イリノイ州ロックフォード;BayerとRapp(1986)Chem.Pept.Prot.3,3;Athertonら(1989)“Solid Phase Peptide Synthesis:A Practical Approach”,IRL Press,英国オックスフォードを参照のこと)。これらの方法は、例えば7〜50個のアミノ酸の長さを有する短いポリペプチドの調製に特に適している。より長いポリペプチドは、化学合成によって調製したペプチド断片を化学的または酵素的に連結することによって調製しても良い。上述のように、本発明のポリペプチドは、宿主細胞内または無細胞抽出物の補助により、核酸配列、特にDNA配列の発現によって調製してもよい。
【0022】
したがって、本発明は、先に定義したポリペプチドをコードするポリヌクレオチドにも関する。該ポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖DNAまたはRNA分子、あるいはDNAおよび/またはRNA種から誘導される核酸のいずれであってもよい。したがって、一実施形態によれば、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:1に示されるアミノ酸配列をコードする。遺伝コードの縮重のために、配列番号:1に示されるアミノ酸配列をコードする多くの異なるポリペプチドが予想される。
【0023】
本発明のポリヌクレオチドは、Der pに関係する任意のダニまたは他の種における類似の配列を同定し、それにより例えばイエダニまたは貯蔵庫ダニ由来のDNAとハイブリダイズするのに十分な相同性を有する配列を同定し、単離するために用いることができる。このことは、例えば、十分な相同性(一般に40%を越える)を有し、さらなる評価のために選択できる配列とのハイブリダイゼーションをもたらす、例えば低ストリンジェンシー条件下おいて実施することができる。あるいは、高ストリンジェンシー条件を適用してもよい。一般に、高ストリンジェンシー条件は、所定のイオン強度およびpHにおける特異的配列に対する熱融解点(T)よりも5℃〜10℃低く選ばれる。Tは、標的配列の50%が完全に一致するプローブにハイブリダイズする温度(所定のイオン強度およびpHにおいて)である。典型的な高ストリンジェンシーは、塩濃度がpH7において約15mMNa(0.1×SSC)まで、温度が少なくとも約60℃のものである。
【0024】
このように、本発明の核酸は、他の種、特に他の型のHDMまたは貯蔵庫ダニにおいて、本発明に記載の14.7kDaアレルゲンと類似のアミノ酸配列を有するペプチドまたはポリペプチドをコードする配列を同定し、ひいては上記他の種におけるアレルゲンを同定するために用いることができる。したがって、本発明は、14.6kDaタンパク質および本発明に記載のポリヌクレオチドによってコードされる他のダニアレルゲンのみならず、本発明のポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされる他のダニアレルゲンも含む。
【0025】
したがって、本発明は、配列番号:2に示されるヌクレオチド配列に対して、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに関する。配列番号:2のヌクレオチド配列に対するポリヌクレオチド配列の同一性の程度は、前記ポリヌクレオチド配列と配列番号:2とを、プログラム“BLAST 2 SEQUENCES(blastn)”によって比較することにより(Tatusovaら(1999)FEMS Microbiol.Lett.174,247〜250頁)、以下のパラメータを用いて決定する:一致に対する加点(reward for a match)1;不一致に対する減点(penalty for a mismatch)−2;オープンギャップ(open gap)5減点およびエクステンションギャップ(extension gap)2減点;ギャップ、x_ドロップオフ50;予想10.0;ワードサイズ11;フィルター;なし。
本発明によれば、配列比較は、少なくとも50ヌクレオチド、好ましくは少なくとも100ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも200ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも300ヌクレオチドをカバーする。
【0026】
本発明の好ましい実施形態によれば、ポリヌクレオチドは、配列番号:2に示されるヌクレオチド配列、好ましくはヌクレオチド24〜434、より好ましくはヌクレオチド81〜434を含む。他の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号:2に示されるヌクレオチド配列のうちの、少なくとも50の連続するヌクレオチド、好ましくは少なくとも100ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも200ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも300ヌクレオチドを含む。
【0027】
本発明は、上述のポリヌクレオチドに縮重するポリヌクレオチドも含む。開示したポリヌクレオチドの各相補鎖も本発明の一部を構成する。
【0028】
本発明のポリヌクレオチドは、好ましくは単離ポリヌクレオチドである。ポリヌクレオチドは、好ましくは本質的に純粋であり、すなわち少なくとも80%の純度、より好ましくは少なくとも90%の純度、最も好ましくは少なくとも95%の純度を有している。本発明のポリヌクレオチドは、様々な方法によって調製することができる(たとえば、GlickとPasternack(1994)Molecular Biotechnology,Principles and Applications of Recombination DNA,ASM Press,ワシントンD.C.;Itakuraら(1984)Annu.Rev.Biochem.53,323〜356頁;Climieら(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,633〜637頁を参照のこと)。ポリヌクレオチドは、オリゴヌクレオチド合成において通常用いられる化学的方法によって合成してもよい。PCRに基づいた方法を用いて、本発明のポリヌクレオチド、特により長い分子を合成することもできる(たとえば、Leeら(1997)Nucleid Acid Amplification Technologies,Eaton Publishing,米国マサチューセッツ州ナティック;McPhersonら(1996)PCR−A Practical Approach,Vol.2 and 2,IRL Press,英国オックスフォードを参照のこと)。より長いポリヌクレオチドは、化学的方法を用いて合成した断片を化学的または酵素的に連結することによって調製することもできる。
【0029】
本発明のさらなる実施形態は、上記ポリヌクレオチドを含むプラスミドまたはベクターである。プラスミドは、該プラスミドの複製またはコードされた配列の転写および/または翻訳を容易化する調節配列を含んでいてもよい。そのような調節配列としては、例えばプロモータ、ターミネータ配列、エンハンサーなどが挙げられる。プラスミドは、宿主細胞内または無細胞発現系において発現される際に、コードされるポリペプチドの精製を容易にするアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含んでいてもよい。そのような配列としては、例えば、6×Hisタグ、FLAGタグ、およびGSTなどの細菌タンパク質をコードする配列が挙げられる。コードされるポリペプチドの精製は、それぞれのタグまたは細菌配列に対する抗体を用いたアフィニティクロマトグラフィーによって行うことができる。他のアフィニティマトリックス(例えば、6×Hisタグを有するポリペプチド精製用の)は、発現タグとキレート錯体を形成することのできるNi2+などの結合金属イオンを含む。調節およびタグ配列または細菌配列を含む適切なプラスミドおよびベクターは、当業者にとっては周知である。
【0030】
本発明はさらに、上で定義した本発明のプラスミドまたはベクターおよび/またはポリヌクレオチドを含む細胞にも関する。細胞は、植物細胞、細菌細胞、酵母細胞および他の例えば哺乳動物細胞から選択してもよい。好ましい細胞は、本発明のポリヌクレオチドによってコードされる遺伝子の発現を行える細胞である。最も好ましくは、細胞はE.coli細胞である。本発明によるプラスミド、ベクターおよび/またはポリヌクレオチドは、例えば形質転換、トランスフェクションなどのそれ自体既知の技術によって導入してもよい。細胞は、核酸分子を一時的にしか含まなくてもよいし、該細胞のゲノム内に安定的に統合された状態で含んでいてもよい。特に後者の場合、核酸分子はゲノムへの取り込みプロセスによって切断または断片化されることもある。このような切断または断片化された形の核酸分子を含む細胞は、本発明の範囲に含まれる。
【0031】
本発明の細胞は、本発明のポリペプチドの発現および精製のために用いることができる。したがって、本発明は上述のポリペプチドの調製方法であって、上記細胞を該ポリペプチドの発現に適した条件下にある培地中で培養する工程と、随意で細胞および/または培地から該ポリペプチドを回収する後続の工程とを含む方法も提供する。細胞は、攪拌しながら液体培地中で培養することが好ましい。必要であれば、標的ポリペプチドの発現は、IPTGなどの誘導剤によって誘導する。クローン化DNA分子を操作し、外来の核酸を様々な宿主細胞に導入するための技術、これらの宿主細胞の形質転換技術およびその宿主細胞内でクローン化された外来のヌクレオチド配列の発現技術は、当業者によって周知である(たとえば、Sambrookら(2001)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第3版,Cold Spring Harbour Laboratory Press,米国ニューヨーク州コールドスプリングハーバー;Ausubelら(編)(1999)Current Protocols in Molecular Biology,第4版,John Wiley&Sons,米国ニューヨークを参照のこと)。
【0032】
培養後、細胞を既存の方法を用いて破壊するか、さもなければ開化してもよく、またポリペプチドはアフィニティクロマトグラフィーによって回収してもよい。他の既知のタンパク質精製方法を用いてもよい。精製工程の例として、ヒドロキシアパタイト、サイズ排除、FPLCおよび逆相HPLCが挙げられる。適切なクロマトグラフィー媒体としては、誘導化デキストラン、アガロース、セルロース、ポリアクリルアミド、特殊シリカなどが挙げられる。好ましい実施形態において、本発明のポリペプチドは、アフィニティクロマトグラフィーおよび/またはイオン交換クロマトグラフィー工程を含む方法によって単離される。アフィニティクロマトグラフィーのために、本発明のポリペプチドに対する1つ以上の抗体を、固体支持体に固定化してもよい。好ましくは、該抗体は本発明のポリペプチドを特異的に認識する。抗体分子を支持媒体に結合させる方法も当該技術分野において周知である。特定の方法の選択は、常套的な設計上の問題であり、一部は選択された支持材料の特性によって決まる。
【0033】
アフィニティクロマトグラフィーの別の好ましい方法は、結合金属イオンを含むマトリックス上への、ヒスチジンに富むタンパク質、例えばポリHisタグを含むタンパク質の吸着を利用する。簡単に説明すると、まず最初にゲルに二価金属イオンを導入して、キレートを形成させる。Hisに富むタンパク質は、このマトリックスに使用したイオンによって異なるアフィニティで吸着され、pHを下げることにより、あるいは強いキレート剤を用いることによって、競争溶出によって溶出されることになる。本発明のさらなる実施形態において、精製を容易にするために当該ポリペプチドとアフィニティタグとの融合物を構築してもよい。融合タンパク質は、融合タンパク質の各成分を調製して、該成分を化学的に共役させることにより、当業者に周知の方法によって調製することができる。あるいは、適切なリーディングフレーム内に、融合タンパク質の成分をコードするポリヌクレオチドを既知の技術によって作成し、本明細書に記載の方法によって発現させることもできる。
【0034】
他の好ましいクロマトグラフィー精製工程としては、イオン交換クロマトグラフィー、好ましくは陰イオン交換クロマトグラフィーが挙げられる。陰イオン交換マトリックスとしては、例えばジエチルアミノエチル(DEAE)などの正に荷電しうる基を担持するセルロース、セルロース誘導体またはデキストランマトリックスが挙げられる。上記および他のタンパク質精製方法は、例えば、Deutscher,M.P.(1990)Protein Purification,Academic Press,米国ニューヨーク;Scopes(1994)Protein Purification,Springer Verlag,ドイツハイデルベルグ;Doonan,S.(1996)Protein Purification Protocols,Humana Pressに記載されている。
【0035】
本発明のポリペプチドは、例えば、「精製アレルゲン」として用いることができる。このような精製アレルゲンは、ハウスダストアレルギーの診断および治療(または予防)に対する重要な試薬であるアレルゲン抽出物の標準化に有用である。さらに、配列番号:1に示されるアミノ酸配列の断片に基づいたペプチドを用いることにより、標準的な手順を用いて抗ペプチド抗血清またはモノクローナル抗体を作成することができる。本発明の14.7kDaタンパク質に対するこのような血清またはモノクローナル抗体は、アレルゲン抽出物を標準化するために用いることができる。
【0036】
本発明のさらなる実施形態は、上記ポリペプチドに対する抗体である。「ポリペプチドに対する」という用語は、その抗体がそれぞれのポリペプチドに結合することができる、すなわち、抗体が該ポリペプチドのアミノ酸配列によって決定される1つ以上のエピトープを認識することを意味する。抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルのいずれであってもよい。さらに、「抗体」という用語は、標的ポリペプチドに対する親和性が維持される限りにおいて、完全な抗体の断片または誘導体も含意する。一例として、酵素的に調製された抗体断片、ならびに遺伝子操作による種、たとえば、ヒト化抗体および一本鎖抗体、例えばscFv構築物などが挙げられる。本発明の抗体は、例えばHarlowとLane(1988)Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory Press,米国コールドスプリングハーバーに開示されるような、当該技術分野において既知の方法によって調製してもよい。好ましい実施形態において、抗体は実質的に純粋な形態、すなわち少なくとも80%の純度、好ましくは少なくとも90%の純度を有する。ポリクローナル抗体の場合、抗体組成物は、複数の異なる抗体分子種を含んでいる。
【0037】
抗体は好ましくは配列番号:1に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドに対して特異的である。さらなる好ましい実施形態によれば、本発明の抗体は、配列番号:1に示されるアミノ酸配列のうちの残基20〜140によって決定される1つ以上のエピトープに対するものである。
【0038】
本発明の特に好ましい実施形態において、そのようなエピトープは、処置対象の患者において中和抗体を引き出す治療のために用いられる。このような抗体は、患者をアレルギー反応から守る。したがって、第1の段階において、例えば疎水性ブロットを用いて、おそらくはエピトープを示すポリペプチド内の領域を同定することができる。さらに、そのようなエピトープが、アレルギー患者のパネルにおいて防護的効果を有するかどうかについても調べる。
【0039】
本発明の抗体は、イエダニおよび貯蔵庫ダニなどの関連種のさらなるアレルゲン性成分を単離するために用いることができる。このような追加のアレルゲンは、このアレルゲンのファミリーのさらなる特性の定義のために用いることができる。さらに、本発明のポリペプチドに対する抗ペプチド血清またはモノクローナル抗体は、皮膚試験試薬の内容を標準化および定義するために用いることができる。
【0040】
本発明のさらなる実施形態は、本発明によるポリペプチドおよび/またはポリヌクレオチドおよび/または抗体および/またはベクターまたはプラスミドおよび/または宿主細胞を、随意で1つ以上の薬学的に許容される担体および/または希釈剤および/またはベヒクル及び/またはアジュバントと組み合わせて含む医薬組成物である。勿論、本発明の医薬組成物は、上記各分子/種の1つ以上を含んでいてもよい。
【0041】
本発明によって提供される材料、ならびに前記材料を含む組成物は、HDMアレルギーの診断、治療および予防方法において用いることができる。したがって本発明の別の態様は、本発明によるポリペプチドおよび/またはポリヌクレオチドおよび/または抗体および/またはベクターまたはプラスミドおよび/または宿主細胞を、アレルギー性疾患の治療または診断または予防のために用いることである。さらに、本発明は、本発明の上記実施形態を、アレルギー性疾患の治療または予防または診断のための薬剤の調製のために使用することを含む。好ましくは、本発明の材料は、イエダニまたは貯蔵庫ダニに対する感作またはアレルギーの治療および/または予防および/または診断(または対応する薬物の生産のため)のために用いられる。
【0042】
本発明による医薬組成物または薬剤は、好ましくは脱感作すべき個体に投与される。
【0043】
本発明のポリペプチド(ならびに対応するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)を用いて、矛盾のない明確な組成と生物学的活性を有するアレルゲン調製物を作成し、治療または予防目的で(例えば、イエダニおよび/または関連種に対して感作された個体のアレルギー反応を緩和するため)投与することができる。このようなポリペプチドまたはその修飾物、特に低アレルゲン性誘導体(例えば、野生型配列と比べて1つ以上のアミノ酸の欠失、付加、および/または置換を含む変異体、ならびに化学的修飾誘導体)は、例えば、HDMおよび関連種(例えば、貯蔵庫ダニ)に対するB細胞反応および/またはT細胞反応を緩和するかもしれない。すでに述べたように、精製アレルゲンは、修飾前の天然(野生型)ペプチドまたはポリペプチドよりも免疫治療においてより有用な修飾誘導体またはアナログを設計するために用いることができる。
【0044】
高用量のアレルゲンは一般に最良の症状緩和を与える。しかしながら、多くの患者はアレルゲンに対するアレルギー反応のために、高用量のアレルゲンに耐えられない。したがって、天然のアレルゲンの修飾は、修飾ポリペプチドが、対応する野生型アレルゲンに比べて、同一または強化された治療特性を有しながらも副作用の低減、特にアナフィラキシー潜在性が低いか全くないなどの低アレルゲン性を示すように設計することができる。このような修飾アレルゲンは、例えば、本発明のポリペプチドまたは修飾アナログ(例えば、アミノ酸配列が免疫原性を修飾および/またはアレルゲン性を低減するように変更されているポリペプチド、またはある成分が同じ目的で付加されているポリペプチド)であってよい。たとえば、該ポリペプチドは、A.Sehonらのポリエチレングリコール(PEG)法を用いて修飾することができる。短いセグメントの欠失またはポリペプチド配列のアミノ酸置換により、抗体結合が弱められる(すなわち減少または全くなくなる)。このような修飾により、低IgE結合がもたらされ、低い副作用のため免疫治療においては非常に有用である。
【0045】
本発明の(ポリ)ペプチドまたは医薬組成物(薬剤)の個体、好ましくは脱感作すべき個体への投与は、既知の技術を用いて行うことができる。ペプチドまたは異なるペプチドの組み合わせを、例えば、希釈剤(適当なバッファなど)、担体、および/またはアジュバントを含む組成物中で、個体に投与することができる。このような組成物は、一般に注射、経口投与、吸入、経皮適用または直腸投与によって投与される。本発明によって提供される構造情報を用いて、HDM感受性の個体に十分量投与された場合に、該個体のダニアレルゲンに対するアレルギー反応を緩和するダニポリペプチドを設計することができる。このことは、例えば、ダニタンパク質の構造を調べ、HDM感受性個体におけるB細胞および/またはT細胞反応に影響を与えうるかを調べるペプチドを生産し、細胞によって認識される適当なエピトープを選択することによって、行うことができる。アレルゲンのエピトープを模倣し、ダニアレルゲンに対するアレルギー反応をダウンレギュレートすることのできる合成アミノ酸配列もまた用いることもできる。
【0046】
本発明のポリペプチドまたは抗体は、HDMアレルギーまたは感作を検出および診断するために用いることもできる。例えば、HDMアレルゲンに対する感受性の検査対象個体からの血液または血液製剤を、血液中の成分(例えば、抗体、T細胞、B細胞)とポリペプチドとの結合に適した条件下で、ダニアレルゲンの単離されたアレルゲン性ペプチドと混合し、このような結合の起こる程度を判定することによる。
【0047】
ダニ感受性個体におけるアレルギー反応を誘導するダニアレルゲンの能力を、阻止または阻害することのできる薬剤またや医薬品を設計することもできる。このような薬剤は、例えば、関連する抗ダニIgEに結合することにより、IgE−アレルゲン結合およびこれに続く肥満細胞脱顆粒を阻害するように設計することができる。あるいは上記のような薬剤は、免疫系の細胞性成分に結合して、ダニアレルゲンに対するアレルギー反応を抑制または脱感作するようなものであってもよい。本発明のこの実施形態の例としては、限定はされないが、HDMアレルゲンに対するアレルギー反応を抑制するために、本発明のcDNA/ポリペプチド構造に基づいた、適切なBおよびT細胞エピトープペプチド、またはその修飾物を用いることである。このことは、ダニ感受性個体からの血液細胞を用いたin vitro研究において、BおよびT細胞機能に影響を与えるBおよびT細胞エピトープペプチドを明らかにすることによって行うことができる。
【0048】
最後に、本発明は、本発明によるポリペプチドおよび/またはポリヌクレオチドおよび/または抗体および/またはベクターまたはプラスミドおよび/または宿主細胞を含む、アレルギー性疾患の診断、治療、および/または予防に有用なキットに関する。本発明によって提供される材料、ならびに該材料を含む組成物およびキットは、HDMまたは貯蔵庫ダニなどの関連種に対するアレルギーまたは感作を診断、治療および予防する方法において用いることができる。
【0049】
本発明は、イエダニであるヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus (Der p))に由来する14.7kDaアレルゲンをコードする組み換えDNA分子およびその断片に基づいている。新規なダニアレルゲンは、HDMアレルギー患者の診断および治療に用いることができる。本発明により、新しいダニアレルゲンは、ウサギにおいて強力かつ特異的なIgG反応を誘導することを証明できた。これは、この新規なダニアレルゲンを用いた特異的免疫治療がヒトにおいてIgG抗体の阻止を誘導するであろうことを示すものである。この新規なアレルゲンの配列に基づいて作成した低アレルゲン性誘導体を、免疫治療に使用することによって、アナフィラキシー副作用の危険がさらに低減されることであろう(3)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
本発明は以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【実施例1】
【0051】
新規な組み換えヤケヒョウヒダニアレルゲンの発現および精製
成熟型の新規アレルゲンをコードするクローン25(図1A)のcDNAを、発現ベクターpET−17b(Novagene,ウィスコンシン州マジソン)中にクローニングし、大腸菌BL21(DE3)(Stratagene,カリフォルニア州ラ・ホヤ)中で発現させた。細菌細胞は、OD600が0.6〜0.8に達するまで、100mg/mlアンピシリンを含むLB培地中で培養した。組み換えタンパク質の発現は、イソプロピル−ベータ−チオガラクトピラノシド(IPTG)を最終濃度0.5mMとなるように加え、37℃でさらに3時間培養することによって誘導した。1リットルの培養液からの大腸菌細胞を遠心分離により回収し、10mLの25mMイミダゾールpH7.4,0.1%TritonX100中に再懸濁し、室温で20分間、100μgリゾチームによる処理を行った。細菌細胞の溶解物を液体窒素中で凍結させ、50℃の水槽中で解凍した。ゲノムDNAは、1μg DNaseを添加することにより、室温で10分間分解させ、200μLの5M NaClにより反応を停止させた。溶解した細菌細胞を18,000rpm(Sorval RC5C,SS34)、4℃で20分間遠心分離した後、可溶性タンパク質を含む画分を得た。クローン25由来アレルゲンを含む可溶性画分をバッファA(10mM Tris−Cl pH7.0,4%イソプロパノール、1mL/Lフェニル−メチル−スルフォニル−フルオリド,PMSF)に対して透析し、DEAEセファロースファストフローカラム(Amersham Biosciences,スウェーデン国ウプサラ)にアプライした。クローン25由来アレルゲンは、0〜500mM NaCl勾配によって溶出した。組み換えアレルゲンを含む画分をプールし、バッファB(10mM NaHPO pH4.0、5mMβ−メルカプトエタノール、1mL/L PMSF)に対して透析し、SPセファロースファストフローカラム(Amersham Biosciences)にアプライした。クローン25由来アレルゲンをpH4.0〜7.0と0〜500mM NaClの組み合わせ勾配によって溶出し、純度90%超のクローン25でコードされたアレルゲンを含む画分をプールし、10mM NaHPO(pH7.0)に対して透析し、−20℃で保存した。タンパク質試料の純度は、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)およびクーマシーブルータンパク質染色(図1B)によって分析した。
【実施例2】
【0052】
新規なDer pアレルゲンのIgE結合能および生物活性
(i)新規のアレルゲンはダニアレルギー患者血清からのIgEと結合する
クローン25cDNAによってコードされる新規なDer pアレルゲンのIgE結合能を、117人のダニアレルギー患者からの血清を用いたドットブロット実験によって解析した。新しいアレルゲンをニトロセルロース条片(1μg/ドット)上にドット状に配置し、条片をDer pアレルギー患者の血清とともにインキュベートした。結合したIgE抗体を、125I−標識抗ヒトIgE抗体を用いて検出した。
【0053】
117のうちの30の(26%)の血清が、新規なDer pアレルゲンに対するIgE結合を示した(図2A)。
【0054】
(ii)新規のDer pアレルゲンは、ダニアレルギー患者の好塩基球からのヒスタミン放出を誘導する
イエダニDer pのメジャーアレルゲンnDer p 1(4)およびマイナーアレルゲンrDer p 5(5)と、クローン25cDNAによってコードされる新規なアレルゲンとを、Der pアレルギー個体の好塩基球からのヒスタミン放出の誘導能力について比較した。
【0055】
顆粒球は、Der pアレルギー個体のヘパリン化血液試料から、デキストラン沈降によって単離した。細胞をそれぞれ増加濃度(10-6〜1μg/ml)のnDer p 1、rDer p 5およびクローン25由来アレルゲンとともにインキュベートした。無細胞培養上清中に放出されたヒスタミンをラジオイムノアッセイ(Immunotech,フランスマルセイユ)によって測定し、全ヒスタミン放出の百分率として示した。結果は、3回の測定の平均値として示している。図2に示すように、クローン25cDNAによってコードされる新規なアレルゲンも、rDer p 5も、10pg/mLにおいてすでに最大ヒスタミン放出を誘導していたが、メジャーアレルゲンnDer p 1は、1ng/mLの濃度でしか最大ヒスタミン放出を誘導しなかった。
【実施例3】
【0056】
新規な組み換えアレルゲンは、Der p 5との交差反応性を欠如する
クローン25によってコードされる新規のアレルゲンは、他のチリダニアレルゲン(図3A)、すなわち、サヤアシニクダニ(Lepidoglyphus destructor (Lep d 5))、ネッタイタマニクダニ(Blomia tropicalis (Blo t 5))およびヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides
pteronyssinus (Der p 5))に由来する第5群アレルゲンに対しても相同性を示した。新規なアレルゲンとDer p 5との間のアミノ酸同一性は30%であるため、クローン25由来のアレルゲンは、いまのところは、未知の新しい群のチリダニアレルゲンに属する。ドットブロット阻害実験からは、Der p 5と新規なアレルゲンがIgEエピトープを共用しないことが実証された。1μgのDer p 5,クローン25由来アレルゲンおよびBSAを、ニトロセルロース条片上にドット状に配置した。条片を、Der p 5と新規なアレルゲンの両方に反応性を有する9人の患者の血清とともに、およびrDer p 5、クローン25由来アレルゲン、およびBSAのそれぞれ10μg/mlで予備吸着させた1つの非アレルギー患者の血清とともにインキュベートした。結合したIgE抗体を、125I標識抗ヒトIgE抗体(図3B)を用いて検出した。
【0057】
新規なアレルゲンを用いたダニアレルギー患者からの血清の予備吸着により、ドット状に配置された新規なアレルゲンへのIgEの結合が阻害され、rDer p 5との該血清の予備吸着でも、ドット状に配置されたrDer p 5へのIgEの結合が阻害される。しかしながら、rDer p 5の予備吸着では、新規なアレルゲンへのIgEの結合またはその逆が阻害されず、rDer p 5と新規なアレルゲンとの間に交差反応性が欠如していることが実証された。
【実施例4】
【0058】
新規なダニアレルゲンによる免疫化は、新規なアレルゲンを認識するウサギにおけるIgG抗体を誘導する
新規なダニアレルゲンが免疫原性を有するかどうかを調べるために、1匹のウサギをフロイントアジュバントを用いて新規なアレルゲンで免疫化した。このウサギをフロイント完全アジュバントで1回、フロイント不完全アジュバントで2回、200μg/注射により免疫化した(Charles River,ドイツ国キスレッグ)。
【0059】
IgG抗体の誘導は、ELISAによって調べた。それぞれ5μg/mlの濃度の組み換えDer p 2、rDer p 5およびクローン25由来アレルゲンで、ELISAプレート(Nunc,デンマーク国ロスキルデ)を4℃で一晩コーティングし、1:10000希釈したウサギクローン25由来アレルゲン抗血清、および対照としてウサギ前免疫血清とともにインキュベートした。結合したウサギ抗体をHRP共役ロバ抗ウサギIg抗体(Amersham)によって検出した。
【0060】
高力価の特異的IgG抗体が、新規のダニアレルゲンによって誘導された。クローン25由来アレルゲンを用いて誘導した抗血清は、クローン25由来アレルゲンと特異的に反応し、rDer p 2およびrDer p 5との交差反応性は検出されなかった(図4)。
【0061】
参照文献
1. Fernandez−Caldas E.Mite species of allergologic importance in Europe.Allergy 1997;52:383−6.
2. Thomas WR,Smith WA,Hales BJ,Mills KL,O’Brien RM.Characterization and immunobiology of house dust mite allergen.Int Arch Allergy Immunol 2002;129:1−18.
3. Valenta R.The future of antigen−specific immunotherapy of allergy.Nat Rev Immunol 2002;2:446−53.
4. Hales BJ,Shen H,Thomas WR.Cytokine responses to Der p 1 and Der p 7:house dust mite allergen with different IgE−binding activities.Clin Exp Allergy 2000;30:934−43.
5. Lin KL,Hsieh KH,Thomas WR,Chiang BL,Chua KY.Characterization of Der pV allergen,cDNA analysis,and IgE−mediated reactivity to the recombinant protein.J Allergy Clin Immunol 1994;94:989−96.
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1A】本発明による好ましいアレルゲンのcDNA(配列番号:2)および推定アミノ酸配列(配列番号:1)を示す図。開始コドン、終止コドン、およびポリアデニル化シグナルを下線で示している。シグナル配列をコードする配列(アミノ酸1〜19)は、ヌクレオチド24〜80からなる。開裂部位はアミノ酸残基19(G)と20(F)の間にある(太字)。配列の左側の数は、ヌクレオチド位置を示し、配列の右側の数はアミノ酸位置を示す。
【図1B】クーマシーブルー染色したSDS−PAゲルおよび同定されたアレルゲンの質量分析の結果を示すず。左側:クーマシーブルー染色したSDS−PAGEゲル。レーン1には分子量マーカー、レーン2には3μgの精製アレルゲンが示されている。右側:本発明による精製アレルゲンのMS分析を示す。質量/電荷(mass/charge)比をx軸、シグナル強度をy軸に、測定対象質量範囲内で得られる最も強いシグナルの百分率として示す。14724.9におけるピークは、14726.1の推定アミノ酸配列の質量の理論値に相当する。
【図2A】新規なダニアレルゲンのIgE反応性を示す図。同定されたアレルゲンをニトロセルロース条片にドット配置し、Der pアレルギー患者からの血清とともにインキュベートした。結合したIgEを125I−標識抗ヒトIgE抗体を用いて検出した。
【図2B】Der pアレルギー患者の好塩基球からのヒスタミン放出の誘導を実証するものである。Der pアレルギー患者の顆粒球を様々な濃度のnDer p 1、本発明のアレルゲン、およびrDer p 5(x軸)とともにインキュベートした。無細胞培養上清中に放出されたヒスタミンの百分率をy軸上に示す。
【図3A】本発明によるアレルゲンのアミノ酸配列(配列番号:1)と、同種のチリダニアレルゲンとのアライメントを示した図。本発明によるアレルゲンのアミノ酸配列を、サヤアシニクダニ(Lep−d−5)(配列番号:3)、ネッタイタマニクダニ(Blo−t−5)(配列番号:4)およびDermatophagoides pteronyssinus(Der p 5)(配列番号:5)からの第5群アレルゲンと比較した。本発明のアレルゲンと同一のアミノ酸は、ハイフンで示し、点は最大一致のために導入されたギャップを示す。
【図3B】新規なダニアレルゲンとDer p 5の間の交差反応性の欠如を実証するものである。Der pアレルギー患者(1〜9)および1人の非アレルギー患者(10)からの血清をBSA、rDer p 5および本発明のアレルゲンにそれぞれ予備吸収させた。組み換えDer p 5、新規なダニアレルゲンおよびBSAをニトロセルロース条片上に点状に配置し、予備吸着させた血清とともにインキュベートし、結合したIgEを125I標識抗ヒトIgE抗体によって検出した。
【図4】異なるDer pアレルゲンによって、新たに同定されたアレルゲンに対して高められたウサギ抗血清のIgG反応性を示す。前免疫血清および抗血清について、PBS(対照として)、rDer p 2、rDer p 5および本発明のアレルゲンに対するIgG反応性を調べた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)配列番号:1に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドに対して交差反応性を示すポリペプチド、
b)配列番号:1に示されるアミノ酸配列のうちの少なくとも18アミノ酸からなる断片を含むポリペプチド、
c)配列番号:1に示されるアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチド、
d)配列番号:1に示されるアミノ酸配列の断片を含むポリペプチドであって、前記断片は、イエダニに対してアレルギー性であるかまたは感作された個体からのIgE抗体に結合することができるポリペプチド、および
e)配列番号:1に示されるアミノ酸配列のうちの少なくとも7アミノ酸からなる断片で構成されるポリペプチド、
からなる群より選択されることを特徴とするポリペプチド。
【請求項2】
配列番号:1に示されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
配列番号:1に示されるアミノ酸20〜140を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項4】
a)配列番号:1に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、
b)請求項1〜3のいずれかに記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および
c)配列番号:2に示されるヌクレオチド配列と少なくとも75%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、
から成る群より選択されることを特徴とするポリヌクレオチド、または、前記ポリヌクレオチドの相補鎖。
【請求項5】
配列番号:2に示されるヌクレオチド配列を含むことを特徴とする請求項4に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
配列番号:2に示される配列のヌクレオチド81〜434を含むことを特徴とする請求項4に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とするプラスミドまたはベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のプラスミドまたはベクター、および/または、請求項4〜6のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする細胞。
【請求項9】
植物細胞、細菌細胞および酵母細胞からなる群より選択されることを特徴とする請求項8に記載の細胞。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリペプチドの調製方法であって、請求項8または9に記載の細胞を、培地中でポリペプチドの発現に適した条件下で培養する工程と、それに続く随意の該細胞および/または培地からポリペプチドを回収する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
細胞を破壊し、ポリペプチドをイオン交換クロマトグラフィーおよび/またはアフィニティクロマトグラフィーを用いて回収することを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリペプチドに対する抗体。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリペプチド、および/または請求項4〜6のいずれかに記載のポリヌクレオチド、および/または請求項7に記載のプラスミドまたはベクター、および/または請求項8または9に記載の細胞、および/または請求項12に記載の抗体を、随意で1つ以上の薬学的に許容される担体および/または希釈剤および/またはベヒクル及び/またはアジュバントと組み合わせて含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項14】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリペプチド、および/または請求項4〜6のいずれかに記載のポリヌクレオチド、および/または請求項7に記載のプラスミドまたはベクター、および/または請求項8または9に記載の細胞、および/または請求項12に記載の抗体を含む診断キット。
【請求項15】
アレルギー性疾患の治療、および/または予防または診断のための薬剤を調製するための、請求項1〜3のいずれかに記載のポリペプチド、および/または請求項4〜6のいずれかに記載のポリヌクレオチド、および/または請求項7に記載のプラスミドまたはベクター、および/または請求項8または9に記載の細胞、および/または請求項12に記載の抗体の使用。
【請求項16】
アレルギー性疾患が、イエダニまたは貯蔵庫ダニに対する感作またはアレルギーであることを特徴とする請求項15に記載の使用。
【請求項17】
薬剤が、脱感作すべき個体に投与されることを特徴とする請求項15または16に記載の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−14726(P2006−14726A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−130955(P2005−130955)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(504446489)バイオメイ プロダクションズ−ウント ハンデルス−アクツェンゲゼルシャフト (4)
【Fターム(参考)】