説明

イオンビーム加工装置およびイオンビーム加工装置の操業方法

【課題】照射されるイオンビームの概要を明らかにして被露光材の加工を正確に効率よく行うことができるイオンビーム加工装置および操業方法を提供する。
【解決手段】イオンビームを発生させるビーム生成部3と、イオンビームのイオン数を測定するプローブ6と、プローブをイオンビームに直交する面内の1方向に走査させる第1の走査手段と、プローブを前記1方向に直交する方向に走査させる第2の走査手段と、プローブが走査して測定した結果に基づいて演算を行う演算手段2と、を有し、プローブは、走査する側のいずれの端縁も直線で構成されており、演算手段は、少なくとも被露光材Wの露光面における1方向のイオンビーム幅および1方向におけるイオンビームのイオン数の分布を演算するように構成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被露光材にイオンビームを照射し被露光材に所望する微細構造を形成するイオンビーム加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノインプリント等の微細加工装置に使用される金型の製作に、LIGA(Lithographie,Galvanoformung und Abformung)と称されるプロセスが利用されるようになっている。LIGAプロセスは、アスペクト比(加工幅に対する加工深さの比)を大きくすることができるという優れた特徴を有する(非特許文献1,2)。
【0003】
一方、LIGAプロセスは、近接X線マスクを使用してパターンをレジスト層(ポリメチルメタクリレート:PMMA)に転写するため、近接X線マスクを別途製作しなければならず、そのためのコストを見込まなければならないという問題がある。また、X線を使用することにより設備費が増加し、稼働の際には厳格な安全管理が求められるという問題もある。
【0004】
これらの問題に対して、マスクを使用しないで、水素イオン、ヘリウムイオン、またはリチウムイオン等の軽イオンのビームによって直接レジスト層にパターンを露光する技術が開示されている(特許文献1)。
ところで、被露光材に形成される加工線幅はイオンビームの径に関係することから、イオンビームを被露光材に照射して被露光材を加工する技術、例えば、近年注目されている特定の重イオンビームを半導体に照射してイオン注入を行う方法等において、イオンビームの径(範囲)および位置等を予め求めておくことの重要性が指摘されている。
【0005】
このイオン注入による加工においてイオンビームの径(範囲)等を求めるために、ファラデーカップを直線状に等間隔で配置し、被露光材の全面を横切るように移動させて各ファラデーカップよりイオン強度を測定する技術(特許文献2)、マトリックス状にビーム通過孔が開けられた円板状のプレートをイオンビームに対して垂直に横切らせ、通過したビームをイオンコレクタで検出する技術(特許文献3)、および、ビームの走行方向と直交する面に沿って複数の導電板を等間隔に一方向に並べてイオンビームの広がりを検出する技術(特許文献4)等が開示されている。
【0006】
上に述べた水素イオン等により直接レジスト層にパターンを露光する技術においても、被露光材に形成される加工線幅は照射ビームのビーム径に依存する点は変わらず、加工線幅を高精度で管理するためには、所望どおりにイオンビームの収束がなされているかを確認することが必要となる。
【非特許文献1】インターネット、 http://www.ritsumei.ac.jp/se/~sugiyama/research/re_5.1.html
【非特許文献2】インターネット、 http://staff.aist.go.jp/k.awazu/Japanese-folder/nanoimprint1021.htm
【特許文献1】特表2001−503569号公報
【特許文献2】特開平9−320507号公報
【特許文献3】特開平10−223173号公報
【特許文献4】特開2000−82432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2〜4に開示されたイオンビームの径を測定する方法では、測定に使用されるファラデーカップ、通過孔、または導電板の設置できる数に限りがあり、かつ計測されたビームの強度は、それぞれがある程度の間隔を有する離散的なものであるため、計測結果から推測されるイオンビームの径は、その精度に不安の残るものであった。
【0008】
また、特許文献1には軽イオンのビームによって直接レジスト層にパターンを露光する技術が開示されているものの、照射されるイオンビームの径、または範囲等を測定する技術については、格別の開示がされていない。
一方で、イオンビームを照射して被露光材を加工する加工装置では、照射されるイオンビームの径、または範囲等の概要を精度良く知ることができれば、加工精度を高め、加工の効率化を図ることが可能となる。
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、被露光材に照射されるイオンビームの概要を明らかにして被露光材の加工を正確に効率よく行うことができるイオンビーム加工装置および加工装置の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明に係るイオンビーム加工装置は、イオンビームを照射して被露光材を加工するイオンビーム加工装置であって、前記被露光材に照射するイオンビームを発生させるためのビーム生成部と、照射された前記イオンビーム全体のイオン数またはその代表値を測定可能なプローブと、前記プローブを前記イオンビームに略直交する面上で1方向に走査させるための第1の走査手段と、前記プローブを前記面上で前記1方向に直交する方向に走査させるための第2の走査手段と、前記プローブが前記1方向および前記1方向に直交する方向に走査して測定した結果に基づいて演算を行う演算手段と、を有し、前記プローブは、前記1方向に走査する側の端縁が前記1方向に直交する直線で構成されかつ前記1方向に直交する方向に走査する側の端縁が前記1方向に延びた直線で構成されており、前記演算手段は、少なくとも前記被露光材の露光面における前記1方向のイオンビーム幅および前記1方向におけるイオンビームのイオン数の分布を演算するように構成されてなる。
【0011】
他の本発明に係るイオンビーム加工装置は、イオンビームを照射して被露光材を加工するイオンビーム加工装置であって、前記被露光材に照射するイオンビームを発生させるためのビーム生成部と、照射された前記イオンビームのイオン数またはその代表値を測定するためのプローブと、照射された前記イオンビーム全体のイオン数またはその代表値を測定するためのセンサと、前記プローブを前記イオンビームに略直交する面上で1方向に走査させるための走査手段と、前記プローブを前記イオンビームに略直交する面上で前記1方向に直交する方向に走査または移動させるための手段と、前記プローブが測定した結果と前記センサが測定した結果とに基づいて演算を行う演算手段と、を有し、前記演算手段は、少なくとも前記被露光材の露光面における前記1方向または前記1方向に直交する方向のいずれかのイオンビーム幅およびイオンビームのイオン数の分布を演算するように構成されてなる。
【0012】
以上の発明によれば、イオンビームの照射範囲を精度よく求めることができるのに加えてイオンビームの概要を明らかにすることができるので、被露光材の加工を正確に効率よく行うことができる。
好ましくは、前記演算手段は、前記1方向および前記1方向に直交する方向の両方または一方の前記イオンビームの中心を求めるように構成されてなる。
【0013】
本発明によれば、イオンビームの被露光材への露光位置の制御を精度良く行うことができる。
また、好ましくは、前記プローブは、前記1方向に走査する側の端縁が前記1方向に直交する直線もしくは前記1方向に直交する方向に走査または移動する側の端縁が前記1方向に延びた直線、または前記端縁のいずれもそれぞれの前記直線で構成されてなる。
【0014】
本発明によれば、イオンビームのイオン数またはその代表値の測定位置の特定精度をより高めることができ、イオンビームの概要を精度よく推算することができる。
本発明に係るイオンビーム加工装置の操業方法は、イオンビームを照射して被露光材を加工するイオンビーム加工装置の操業方法であって、前記イオンビームに直交する面において直交する2つの直線からなる端縁を有し前記イオンビーム全体のイオン数またはその代表値の測定が可能なプローブを前記一方の端縁の直線方向に前記他方の端縁が前記イオンビーム外周に達するまで走査させて前記イオンビームのイオン数またはその代表値の測定を行い、前記プローブを前記他方の端縁の直線方向に前記一方の端縁が前記イオンビーム外周に達するまで走査させて前記イオンビームのイオン数またはその代表値の測定を行い、前記イオン数またはその代表値の測定結果から少なくとも前記被露光材の露光面における前記直交する2つの直線のいずれか一方の直線方向のイオンビーム幅およびイオンビームのイオン数の分布を求め、前記イオンビーム幅および前記イオン数の分布に基づいて操業を行う。
【0015】
他の本発明に係るイオンビーム加工装置の操業方法は、イオンビームを照射して被露光材を加工するイオンビーム加工装置の操業方法であって、前記イオンビームに直交する面内の部分的なイオン数またはその代表値を計測するためのプローブを、前記直交する面において前記イオンビーム境界外から前記イオンビーム内を前記直交する面上で一方向に前記イオンビーム境界外に達するまで走査させて測定を行い、前記プローブによる測定を、前記プローブを前記直交する面上で前記一方向に直交する方向における一方の前記イオンビーム境界外を起点とし他方のイオンビーム境界外を終点として複数箇所において走査させて行い、前記イオンビーム全体のイオン数またはその代表値をセンサにより測定し、前記プローブによる測定結果および前記センサによる測定結果から少なくとも前記一方向または前記一方向に直交する方向のいずれかにおけるイオンビーム幅およびイオンビームのイオン数の分布を求め、前記イオンビーム幅および前記イオン数の分布に基づいて操業を行う。
【0016】
これらの発明によれば、イオンビームの照射範囲を精度よく求めることができるのに加えてイオンビームの概要を明らかにすることができるので、イオンビーム加工装置の操業を適切に行うことができ、被露光材の加工を正確に効率よく行うことができる。
好ましくは、前記プローブによる測定結果から前記イオンビームの中心を求めて前記イオンビーム幅、前記イオン数の分布、およびイオンビームの前記中心に基づいて操業を行う。
【0017】
本発明によれば、イオンビームの被露光材への露光位置の制御を精度良く行うことができる。
ここで「前記1方向におけるイオンビームのイオン数の分布」とは、前記1方向に単位幅を有し前記1方向に直交する方向に十分長い帯状領域におけるイオンの数についての前記1方向における分布を意味するものである。また、「イオン数の分布」とは、広くイオンの数に比例する他の単位による分布、例えばプローブが検出する代表値としての電流値の分布をも含むものとする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、被露光材に照射されるイオンビームの概要を明らかにすることができ被露光材の加工を正確に効率よく行うことができるイオンビーム加工装置および加工装置の操業方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本発明に係るイオンビーム加工装置1の構成図、図2は演算器2の構成を示す図である。
以下の説明において、図1における上下方向をZ方向という。
図1において、イオンビーム加工装置1は、イオンビーム照射装置3、イオンビーム制御器4、被露光材支持ステージ5、電流計測プローブ6(6B,6C)、ファラデーカップ7、演算器2、チャンバー8、および真空制御器9等からなる。
【0020】
イオンビーム照射装置3は、イオン源10、加速器11、および集束機器12等によって構成される。
イオン源10は、水素雰囲気下で金属の鋭利な先端と周囲との間に電圧を印加してプロトンイオンを発生させる。なお、イオン源10は上述した構成そのものに限らず、電子衝突型、高周波放電型、デュオプラズマトロン型およびPIG型など種々のものを採用しうる。
【0021】
加速器11は、複数に積層された引き出し電極13を含み、イオン源10で発生したイオンを一定の方向に引き出して加速する働きを行う。
集束機器12は、拡大レンズ14、偏向器15、および集束レンズ16からなる。集束機器12は、通電されて所定の電磁界を形成し、イオン源10から引き出され加速されたイオンを集束させて、被露光材Wの所定の位置に照射させるためのものである。拡大レンズ14は、静電界発生板または磁界発生コイルで形成されており、中央を通過するプロトンイオンを引き寄せて半径方向に拡大させる。偏向器15は、互いに90度ずらした2組の平行電極板で構成されており、所望するビームの偏向度合いに応じた直流電圧を各組の電極板に印加することにより、イオンビームの軸心を移動させて偏向させる。集束レンズ16は、静電界発生板または磁界発生コイルで形成されており、中央の空隙を通過するプロトンイオンをビーム中心軸側に押し戻して集束させる。
【0022】
イオンビーム制御器4は、集束機器12(拡大レンズ14、偏向器15、集束レンズ16)に印加する電圧等を調整して、集束機器12が形成するイオンビームの集束の程度および照射位置を制御する働きを行う。
被露光材支持ステージ5は、イオンビーム加工装置1により加工される被露光材Wを載置するためのものである。被露光材支持ステージ5は、被露光材Wが直接載置される小ステージ17とその小ステージ17を支える大ステージ18とからなっている。小ステージ17は、図示しない駆動装置により大ステージ18上のZ軸に直交する面上の直交する2方向(以下、これらを「X方向」および「Y方向」ということがある)を自由にかつ微小な単位で移動できるよう構成されている。また、大ステージ18は、図示しない駆動装置によって被露光材Wがイオンビームに露光される位置と露光されない位置との間で移動可能なように構成されている。
【0023】
電流計測プローブ6,6B,6Cは、イオンビームを形成するイオンが有する電荷を電流値として計測するためのもので、イオンビーム照射装置3側に検出面19(19B,19C)を向けて配置されている。また、電流計測プローブ6,6B,6Cは、Z方向に略直交する面上の直交する2方向(X方向、Y方向)において検出面19(19B,19C)がイオンビームの照射範囲を走査可能に構成され、この2方向における走査は、電流計測プローブ6,6B,6Cに結合された互いに直交する方向に伸縮する図示しないピエゾ素子などを備える駆動装置によって行われる。電流計測プローブ6,6B,6Cは、検出面19(19B,19C)における走査方向の先端縁が、図1に示されるようにナイフエッジ状となっており、電流計測プローブ6,6B,6Cによるイオンビームの流れの乱れが電流測定に悪影響を与えることのないように配慮されている。以下、この走査方向の一方をX方向、X方向に直交する他方の方向をY方向という。
【0024】
さて、電流計測プローブ6,6B,6Cは、図1に示されるように、検出面19(19B,19C)が小ステージ17に載置された被露光材Wの露光面とZ方向においてほぼ同じ位置になるよう配されている。また、電流計測プローブ6,6B,6Cは、大ステージ18を被露光材Wがイオンビームに露光される露光位置(図1の右方向)に移動したときに、被露光材Wまたは被露光材支持ステージ5と接触することがないように、図示しない駆動装置によって電流計測プローブ6,6B,6C全体が退避位置(図1の左方向)に移動するように構成されている。電流計測プローブ6,6B,6Cの測定結果を送信する信号線は、後に説明する演算器2に接続されている。
【0025】
ファラデーカップ7は、Z軸に直交する断面におけるイオンビームのイオン全てを受け入れ、イオンの数に応じた電流を出力するものである。ファラデーカップ7は、駆動装置20によってイオンビームを受光する位置(以下、「受光位置」ということがある)およびイオンビームを受光しない位置(以下、「待避位置」ということがある)の間を移動可能に構成されている。ファラデーカップ7には、公知のものが使用される。
【0026】
また、イオンビーム加工装置1には、電流計測プローブ6,6B,6CのX方向およびY方向についての絶対位置を測定するための図1に図示しないプローブ位置測定装置31と、被露光材Wを載置する小ステージ17のイオンビーム加工装置1におけるX方向およびY方向についての絶対位置を測定するための図1に図示しない被露光材位置測定装置32と、が設けられている。被露光材位置測定装置32およびプローブ位置測定装置31は、例えばレーザ干渉を利用した公知の距離計が、それぞれにX方向およびY方向について1基ずつ備えられている。被露光材Wおよび電流計測プローブ6についてのX方向の絶対位置の測定を1つの計測装置で行い、Y方向の絶対位置の測定を1つの計測装置で行ってもよい。
【0027】
演算器2は、プローブ走査部21、プローブ位置検出部22、電流積算部23、ファラデーカップ管理部24、ステージ駆動部25、ビーム概要算出部26、被露光材位置検出部27、露光部28、記憶部29、および制御部30などからなる。
プローブ走査部21は、電流計測プローブ6,6B,6Cの走査の制御を行い、また、電流計測プローブ6,6B,6Cについてのイオンビームの電荷を計測する位置(以下、「計測位置」ということがある)と待避位置との間の移動を管理する。
【0028】
プローブ位置検出部22は、プローブ位置測定装置31が測定した電流計測プローブ6,6B,6Cの位置情報を受信し、電流計測プローブ6,6B,6Cの基準点(例えば、検出面19の先端縁位置)のX方向およびY方向についての絶対座標を算出する。
以下、イオンビーム加工装置1におけるX方向およびY方向についての絶対座標を、それぞれ「X座標」および「Y座標」というものとする。
【0029】
電流積算部23は、電流計測プローブ6,6B,6CがX方向に走査されて測定された電流値を順次積算する。また、電流積算部23は、電流値および積算電流値と電流計測プローブ6,6B,6Cの基準点が測定時に位置したX座標およびY座標とを関連づけて記憶部29に記憶させる。
ファラデーカップ管理部24は、ファラデーカップ7のイオンビームを受光する位置とイオンビームを受光しない位置との間の移動を制御し、また、ファラデーカップ7が測定した電流値を受信して記憶部29に記憶させる。
【0030】
ステージ駆動部25は、被露光材Wを加工するための露光処理における小ステージ17の微小な移動を制御し、および大ステージ18について被露光材Wがイオンビームに露光される位置と露光されない位置との間の移動を指示する。また、ステージ駆動部25は、プローブ走査部21と協働して電流計測プローブ6,6B,6Cと被露光材Wまたは大ステージ18とが接触することがないように管理する。
【0031】
ビーム概要算出部26は、電流計測プローブ6,6B,6Cが測定しX座標とY座標とに関連づけられた電流値および積算電流値、ならびにファラデーカップ7が測定した電流値から、照射面におけるイオンビームの中心位置、イオンビームの範囲、およびイオン数の分布を算出する。
なお、「照射面」とは、被露光材Wにイオンビームが照射されたときの被露光材Wの表面における露光される部分をいい、「照射範囲」とは、照射面の範囲をいうものとする。
【0032】
被露光材位置検出部27は、被露光材位置測定装置32が測定した被露光材Wの位置情報を受信し、被露光材Wの基準となる部分のX座標およびY座標を算出する。被露光材Wの位置は、実際には小ステージ17の基準点の位置が測定される。露光加工時には、被露光材Wと小ステージ17との既知の位置関係から被露光材Wの基準となる部分の位置が求められて露光部28に利用される。
【0033】
露光部28は、被露光材Wにイオンビームを照射して加工するときに、被露光材Wの加工内容に応じて集束機器12および小ステージ17の駆動装置を適切に制御する。
記憶部29は、X座標とY座標とに関連づけられた電流値および積算電流値、ファラデーカップ7が測定した電流値、イオンビームのイオン数の分布、ならびに被露光材Wの加工内容に応じた集束機器12の動作条件等を記憶し、制御部30の要求に応じて呼び出す。
【0034】
制御部30は、上に説明した演算器2を構成する要素全ての動作を制御する。また、制御部30は、電流計測プローブ6,6B,6Cの位置、被露光材Wの位置、およびイオンビームが被露光材Wに照射されたときの照射位置を1つのX,Y座標軸上に配置して、これらの絶対位置を管理する。
演算器2は、CPU(マイクロコンピュータ)、RAM、ハードディスクなどの外部記憶装置、制御プログラム、A/D変換機能またはD/A変換機能を有するインタフェース等により実現される。
【0035】
チャンバー8は、イオンビーム照射装置3、被露光材支持ステージ5、電流計測プローブ6(6B,6C)、およびファラデーカップ7を収容する圧力容器である。チャンバー8には真空計33が取り付けられており、荒引き用の図示しないロータリーポンプおよび中真空域での真空引き用の図示しないターボ分子ポンプ等で構成された真空装置によって、大気圧域から真空域までチャンバー8の内部圧力を調節できるよう構成されている。
【0036】
真空制御器9は、真空計33による測定値に基づいて真空装置に接続された自動弁34またはリーク用の自動弁35の開閉を行うことにより、イオンビームによる被露光材Wの加工処理におけるチャンバー8内の真空度を適切に維持する。
次に、イオンビーム加工装置1におけるイオンビームの概要の算出について説明する。
【実施例1】
【0037】
図3はイオンビーム加工装置1におけるイオンビームの概要算出および加工走査のフローチャート、図4は電流計測プローブ6をX方向に走査させたときの積算電流値の推移を示す図である。
図3を参照して、電流計測プローブ6を走査させて行うイオンビームの電流値の測定において、まず、プローブ走査部21は電流計測プローブ6を待避位置に移動させ(#12)、その後にファラデーカップ管理部24がファラデーカップ7を受光位置に移動させる(#13)。
【0038】
イオンビーム制御器4はイオン源10を励起し、また、拡大レンズ14、偏向器15、および集束レンズ16に通電して所定の電磁界を形成させ、集束イオンビームをファラデーカップ7に向けて照射させる(#14)。
ファラデーカップ管理部24は、照射されたイオンの数に応じたファラデーカップ7からの測定電流値を受信し記憶部29に記憶する。ファラデーカップ管理部24は、受信した電流値が所定の値以上かどうかを判断し(#15)、例えば、被露光材W表面の予測される照射面積を考慮したイオンビームの電流密度が10μA/cm2以上を得られない場合(#15でNo)には、イオンビームの集束がなされていないと判断して、イオンビームの照射を中止する(#17)。このような場合には、イオンビーム照射装置3の点検を行うか、イオンビーム制御器4における集束機器12の制御値を変更する。
【0039】
ファラデーカップ7にて所定の電流値が計測されていることが制御部30により確認されたら(#15でYes)、ファラデーカップ管理部24はファラデーカップ7を退避位置に移動させ、プローブ走査部21は駆動装置を制御して電流計測プローブ6を計測位置に移動させる(#16)。計測位置に移動後の電流計測プローブ6の基準点は、走査原点P0(図4における(X0,Y0))に位置する。走査原点P0は、検出面19がイオンビームの照射範囲から外れているときにおける電流計測プローブ6の検出面19のいずれかの位置を設定するのが好ましく、例えば、図4(a)における走査原点P0は、イオンビーム照射範囲の左端よりさらに左側にX0を、かつ上端よりさらに上側にY0の位置が選択される。
【0040】
以下、電流計測プローブ6の絶対位置(以下、「絶対位置」を単に「位置」ということがある)を表す基準点を、図4における検出面19の右下端として説明する。なお、電流計測プローブ6の基準点の位置は、電流計測プローブ6による電流値の測定ごとにプローブ位置測定装置31により測定される。
電流計測プローブ6は、基準点のY座標をY0に維持したままX方向に走査される(#18)。走査において基準点のX座標が一定の値を超えかつ検出する電流値が無視できるほど小さくなったら、電流計測プローブ6は、X方向の走査を終了してY方向に所定の距離だけ移動される(#20)。ここで、「一定の値」には、予測されるイオンビームの半径またはそれより大きな値が採用され、このような制限を設けることにより、電流計測プローブ6がイオンビームの照射範囲に達しない前にY方向に移動するのを防止している。X方向の走査において、最初に有意な電流値が検出されたときのX座標およびY座標、ならびにその後の走査において電流値が無視できるほど小さくなったときのX座標およびY座標が、記憶部29に記憶される。上記の電流計測プローブ6のX方向の走査、およびY方向への所定の距離の移動は、X方向を走査しても走査全域で有意な電流が検出されなくなるまで行われる(#19)。
【0041】
なお、「有意な電流値」とは、ノイズではなく明らかに電流計測プローブ6で電流が検出されたと判断される程度の電流値をいう。以下における「有意な電流値」も同様である。
電流計測プローブ6で検出された電流値は、サンプリングごとに電流積算部23で積算され、電流値、積算電流値、および測定時の基準点のX座標、Y座標は記憶部29に記憶される。
【0042】
電流計測プローブ6をY方向へ移動後、X方向に走査しても有意な電流が検出されなくなったら(#19でYes)、電流計測プローブ6による計測を終了する。
ビーム概要算出部26は、X座標およびY座標と関連づけて記憶部29に記憶された電流値および積算電流値に基づいて、ビーム概要算出部26が被露光材Wの照射面におけるイオンビームの中心位置およびイオン数の分布(以下、「イオンビームの概要」ということがある)を算出する(#21)。
【0043】
なお、イオンビーム照射装置3が稼働している間は、真空制御器9は真空装置に接続された自動弁およびリーク用の自動弁を制御し、チャンバー8内を真空状態(例えば、1×10-5Pa以下)に保持する。
続いて、被露光材Wの照射面におけるイオンビームの概要の算出について説明する。
図4は、上に説明した、電流計測プローブ6をX方向に走査させて測定したときの積算電流値の推移を示している。図4では、電流計測プローブ6の基準点がY03よりも大きい場合の積算電流値の例が示されていないが、Y01およびY02の場合に準じた変化をする。電流値を測定しながら行う電流計測プローブ6の実際の走査は、図4に示されるよりもY方向に密な間隔でより多くのX座標について行われる。
【0044】
イオンビームの中心位置は次のようにして算出する。
図5は、電流計測プローブ6を有意な電流値が検出されなくなるまでX方向に走査して得たX座標と積算電流値との関係(図4(d))から、積算電流値のXについての近似微分値を、Xとの関係として図示したものである。近似微分値は、例えば、3次スプライン関数で対象データおよびその周辺データにおけるX座標と積算電流値との関係を平滑化後、得られた3次関数を微小Xについて差分することにより得られる。
【0045】
ここで、電流計測プローブ6の基準点は図4における検出面19の右下端であるので、各Y座標Y01〜Y03等における現実の検出された電流値(イオン数)が最も大きいときの検出面19の中心位置のX座標は、図5における微分値の最大におけるX座標から検出面19のX方向長さw1の2分の1を差し引いたX座標となる。イオンビームの中心位置のX座標Xmは、図5における各Y座標Y01〜Y03等の微分値が最も大きくなるX座標からw1の2分の1を差し引いたX座標の平均値を算出することにより求めることができる。
【0046】
図6は、図4(d)のX方向の走査終了点(X=X04)における積算電流値(A1〜A3等)を測定時のY座標をパラメータにして図示したものである。図6からY座標についてのイオンビームの中心位置を求める場合についても、図5と同様に、電流計測プローブ6の基準点の位置の偏り分を考慮し、最も大きな積算電流値を得るY座標からw2の2分の1を差し引いた値をイオンビームの中心位置のY座標Ymとする。
【0047】
イオンビームの中心のX座標XmおよびY座標Ymは、上に説明した方法により、ビーム概要算出部26によって求められる。
イオンビームの照射範囲は、記憶部29に記憶された、X方向の走査における有意な電流値がはじめて検出されたときのX座標およびY座標、ならびに電流値が無視できるほど小さくなったときのX座標およびY座標に基づいてビーム概要算出部26によって求められる。例えば、照射範囲の図4における左端は、各Y座標におけるX方向の走査における有意な電流値がはじめて検出されたときの各X座標とそのときのY座標との関係から、補間法等によりイオンビームの中心のY座標YmにおけるX座標を算出することで求められる。
【0048】
次に、イオンビームの照射範囲における測定電流値(イオン数)の分布の概要算出について説明する。
なお、以下において「測定電流値の分布」と記載することがあり、または「イオン数の分布」と記載することがあるが、レーザビームを構成するイオンの数は、ファラデーカップ7により測定された電流値をプロトンイオン1つの有する電荷で除することにより求められるので、上記2つの表現を厳密に区別せずに前後の記載に応じて適宜選択するものとする。
【0049】
はじめに、Y方向についてのイオン数の分布の概要算出について説明する。
Y方向についてのイオン数の分布の概要は、図6に示された結果とファラデーカップ7が測定した電流値とから、ビーム概要算出部26によって次のようにして算出される。
ここで、「Y方向についてのイオン数の分布」とは、Y座標をパラメータとする、Y方向について単位幅を有しX方向に延びた帯状領域(例えば、図4(d)の領域HIJKが幅=1(単位幅)の場合)に照射されるイオン数の分布をいう。
【0050】
図6は、図4(d)に示されるX方向に走査したときの各Y座標とその最終の積算電流値との関係を示している。そして、電流計測プローブ6で検出された電流値は検出面19に照射されるイオンの数に比例していることから、図6の分布の形は、Y方向についてのイオン数の分布に相似する。しかし、電流計測プローブ6による測定では、検出面19はある程度の大きさの面積を有しサンプリングはX方向について所定の間隔を空けて行われるので、イオンビームの照射範囲における同一のX座標およびY座標の点についてサンプリングが重複して行われまたはサンプリングが全く行われない照射範囲における部分が存在する場合がある。したがって、図6における積算電流値は、原則として実際のイオン数を表す電流値とは異なるものとなる。
【0051】
そこで、図6に示される最終の積算電流値の分布から実際のイオン数(に対応する電流値)の分布を求める補正を行う。
補正は、ファラデーカップ7により測定した電流値が用いられる。
つまり、ファラデーカップ7により測定された電流値は、イオンビームを形成する全イオン数に応じた値であるので、ファラデーカップ7による電流値を、図6の積算電流値を積分した値(図6における分布の面積)で除した値(以下、「第1補正係数」という)を用いて図6の積算電流値を補正(各積算電流値に第1補正係数を掛け合わせる)すれば、図7に示されるような、イオンビームの照射範囲におけるイオン数の分布に対応する積算電流値の分布が求められる。図6の積分は、記憶部29に記憶された各Y座標における最終の積算電流値(A1〜A3等)を用いてビーム概要算出部26が近似積分(例えば、離散データより対象Y座標近辺の回帰式を求めて補間し図積分相当の近似積分)を行うことにより算出する。また、ビーム概要算出部26は、上記処理の中で、電流計測プローブ6の基準点のX座標およびY座標を、検出面19の中心についてのX座標およびY座標に補正する。補正は、具体的には、各X座標およびY座標を、それぞれw1の2分の1およびw2の2分の1減じることにより行う。そうすることにより、図7(a)に示される、実用的なY方向についてのイオンビームのイオン数の分布を得ることができる。算出されたY座標とイオン数(電流値)との関係は、記憶部29に記憶される。
【0052】
次に、X方向についてのイオン数の分布の概要算出について説明する。
X方向についてのイオン数の分布の概要算出は、原則として、Y方向についてのイオン数の分布の概要算出と同様にして行われる。
図8は、X座標をパラメータとするY方向における電流値の分布を示す図である。図8(a)〜(d)における電流値のY方向の分布は、記憶部29に記憶された電流値から、X座標が同一である電流値を抽出して作成される。X座標が同一である電流値を抽出できないときは、X座標が近似するX座標のデータが抽出され、X座標と電流値とから補間によって、各Y座標の対比したいX座標における電流値が求められる。図8は、記憶部29に記憶されたデータから、電流計測プローブ6をX座標を一定にしてY方向に走査したことを想定した場合の測定電流値または推定電流値を表したものといえる。図8(a)〜(d)に代表される、X座標がX10〜X04における電流値の分布を積分した積分電流値B1〜B4は、図4におけるA1〜A3に対応するものである。例えば、図8(b)におけるB2は、X座標がX12のときの走査を想定した領域LMNQにおける最終の積算電流値である。
【0053】
図9は、X座標をパラメータとする、X方向についてw2の幅を有しY方向に延びた領域における積算電流値(例えば、X=X12のときの領域LMNQのB2等)を示している。そして、電流計測プローブ6で検出される電流値は検出面19に照射されたイオンの数に比例していることから、図9の分布の形は、X方向に単位幅でかつY方向に十分長い帯状領域に照射されるイオン数のX方向についての分布に相似すると考えられる。ここで、電流計測プローブ6の検出面19はある程度の大きさの面積を有するので、図9の積分電流値は、同一のX座標およびY座標における測定電流値が重複して含まれるか、または全くサンプリングされない座標点が含まれる可能性がある。したがって、図6からY方向についてのイオン数の分布を算出するときと同様に、ファラデーカップ7による電流値を図9の積分電流値をさらに積分した値(図9における分布の面積(図積分値))で除した値(以下、「第2補正係数」という)を用いて図9における各積分電流値を補正して(第2補正係数を掛け合わせる)、X方向についてのイオン数の分布を算出する。
【0054】
図9の積分電流値の積分処理は、図6の場合と同様に近似積分により算出する。ビーム概要算出部26は、上記処理の中で、各積分電流値と関連づけられた電流計測プローブ6の基準点についてのX座標およびY座標を、検出面19の中心のX座標およびY座標に補正する。具体的には、記憶部29に記憶された各電流値についてのX座標およびY座標を、それぞれw2の2分の1およびw1の2分の1差し引いた値に補正する。この補正は、上に述べたY方向についてのイオン数の分布の算出の場合と同様である。以上の処理により、図7(b)に示されるように、X方向についてのイオンビームのイオン数の分布を表す積算電流値(X方向単位幅におけるY方向全域の電流値)の分布を得ることができる。算出されたX座標とX座標における積算電流値との関係は、記憶部29に記憶される。
【0055】
図7に示されるイオン数の分布の概要は、イオンビーム加工装置1により被露光材Wを加工するときの加工条件を設定する場合に極めて有用である。例えば、イオンビームを被露光材Wに対してY方向に相対移動させて被露光材Wを加工するときに、所望する幅Wpの加工線を得たい場合を考察する。イオンビームの照射範囲における中心を含む幅Wpの部分DEFGのイオンの数は、X方向についてのイオンビームのイオン数の分布を表す図7(b)のハンチングされた領域Inの面積で求められる。つまり、幅Wpの部分DEFGでは単位時間当たりInの数のイオンが被露光材Wに照射される。被露光材Wを加工するために必要なドーズ量Dq(単位面積あたりのイオンの個数)は被露光材Wの種類により決まっているので、イオン数Inと必要なドーズ量Dpとから被露光材Wにおいて幅Wpの部分を加工しその他の部分を加工しないために必要なイオンビームの照射時間(Dp÷In)、すなわち、イオンビームと被露光材Wとの相対移動速度が求められる。イオンビームを被露光材Wに対してX方向に相対移動させて被露光材Wに所望する幅の加工線を得たい場合には、図7(a)について(b)と同様にして演算することにより、イオンビームと被露光材Wとの相対移動速度を求めることができる。また、被露光材Wにおける加工線の幅Wpを、イオンビームを照射する間に適宜変化させたい場合には、図7(a),(b)に基づき、幅Wpを大きくしたい部分ではイオンビームの中心と被露光材Wとの相対移動速度を遅く、幅Wpを小さくしたい部分では相対移動速度を早くすればよい。
【0056】
イオンビームのイオン数の分布を明確にすることにより、イオンビームと被露光材Wとの相対移動をX方向およびY方向の組み合わせで行わせる場合にも、所望する幅Wpの加工線を得ることができる。
また、種々のイオンビームの照射強度について、被露光材Wの照射面におけるイオンビームの概要を記憶部29に記憶しておくことにより、より複雑な加工線の組み合わせを得たい場合に対してイオンビーム加工装置1を適切に稼働させることができる。
【0057】
図4および図8における電流計測プローブ6の検出面19の形状は、イオンビームをX方向およびY方向に矩形状に区画でき算出されるイオンビームの概要の精度が良好な点で図示された矩形であることが好ましいが、楕円形、長円形その他の形状とすることができる。例えば、検出面19の形状を楕円形とする場合には、長径または短径の一方をw1、他方をw2とすればよい。また、電流計測プローブ6のX方向への走査における電流値のサンプリングは、X座標について等間隔で行われるのが好ましく、電流計測プローブ6のY方向への移動も、Y座標が等間隔となるように行われるのが好ましい。
【0058】
電流計測プローブ6をX方向およびY方向の何れにも走査させてサンプリング可能に構成してもよい。また、X方向に走査する電流計測プローブ6に加え、さらにY方向に走査しX方向に移動可能な電流計測プローブを設けてもよい。これらの場合、X方向についてのイオン数の分布の概要は、Y方向に走査して測定した電流値によって、上に説明したY方向についてのイオン数の分布の概算と同様にして算出することができる。
【0059】
次に、イオンビーム加工装置1におけるイオンビームの概要の算出の第2の実施例について説明する。
【実施例2】
【0060】
図10は電流計測プローブ6をX方向に走査させたときの積算電流値の推移を示す図である。本実施例における電流計測プローブ6Bは、検出面19Bがイオンビームの照射範囲の径(幅)に比べて十分に長い矩形状である。電流計測プローブ6Bの基準点は、図10において検出面19Bの右下の角である。本実施例における電流計測プローブ6Bをイオンビームの照射範囲に走査させて行う電流値の測定は、図3のフローチャートに示されるものと多くの共通点を有する。そこで、電流値の測定において本実施例が実施例1と異なる点について、以下に説明する。
【0061】
実施例2では、電流計測プローブ6BのY方向への所定の距離の移動は、X方向の走査を終えて電流積算部23で積算された最終の積算電流値が、電流計測プローブ6BをY方向に移動させてもそれ以前のY座標での最終の積算電流値と比べて有意な増加が認められなくなるまで、つまり、Y座標が図10におけるイオンビームの照射範囲の下方境界を越えるまで行われる。
【0062】
最終の積算電流値が、以前のY座標での最終の積算電流値と比べて有意な増加が認められなくなったら、電流計測プローブ6Bによる計測を終了し、X座標およびY座標と関連づけて記憶部29に記憶された電流値および積算電流値に基づいて、ビーム概要算出部26が被露光材Wの照射面におけるイオンビームの中心位置およびイオン数の分布を算出する。
【0063】
イオンビームのX方向における中心位置は、図10(d)に示される関係から求められる。
すなわち、イオンビームのX方向における中心位置は、電流計測プローブ6Bでの電流値の最後の測定におけるX座標と積算電流値との関係(図10(d))から、積算電流値の微小Xについての近似微分値(傾き)を算出して求める。微分値が最大となるX座標Xw3は、微分値が最大となるときに検出面19Bの基準点が存在した位置であるから、イオンビームの中心のX座標は、微分値が最大となるX座標Xw3から検出面19BのX方向幅w3の半分を差し引いたX座標Xmとして求められる。
【0064】
イオンビームのY方向における中心位置は、各Y方向位置(基準点のY座標がY20〜Y25)において電流計測プローブ6Bの計測した電流値の最終の積算電流値(図10におけるC1〜C4等)と各Y座標との関係から求められる(図11)。図10における最終の積算電流値(C1〜C4等)は、電流計測プローブ6Bの検出面19BがイオンビームのY方向における中心を含む場合に、その前後Y座標位置でのX方向への走査における最終の積算電流値に対する増減が最も大きい。具体的には、図10(b)と図10(c)との間に、最終の積算電流値に対する増減が最も大きいY座標が存在する。
【0065】
したがって、図11に示されるY座標と最終の積算電流値との関係から、その微小Yについての近似微分値(傾き)を算出し、微分値が最大となるY座標を求めれば、それがイオンビームのY方向における中心のY座標Ymである。
イオンビームの中心のX座標XmおよびY座標Ymは、上に説明した方法により、ビーム概要算出部26によって求められ、記憶部29に記憶される。
【0066】
イオンビームの照射範囲は、X方向については、記憶部29に記憶された電流計測プローブ6Bでの電流値の最後の測定におけるX座標と積算電流値との関係(図10(d))から、X方向の走査における有意な電流値がはじめて検出されたときのX座標とY座標、および電流値が無視できるほど小さくなったときのX座標およびY座標に基づいてビーム概要算出部26によって求められ、記憶部29に記憶される。Y方向については、図11に示される関係において、その近似微分値が走査原点側で略0になるY座標および走査原点から離れた側で略0になるY座標を抽出することにより求められる。
【0067】
イオンビームの照射範囲におけるイオン数の分布の概要については、X方向のイオン数の分布を先に説明する。
X方向のイオン数の分布の概要は、電流計測プローブ6BをX方向に走査させて測定した最終の積算電流値が、電流計測プローブ6BをY方向に移動させても増加しなくなったときのX座標とその電流値との関係(図12)から算出される。
【0068】
なお、この関係は、図10(d)に示されるX座標と積算電流値とから、積算電流値の微小Xについての近似微分値(差分値)をXとの関係として求めても得ることができる。
図12の電流値の変化は、イオンビームの照射範囲におけるX方向についてのイオン数の分布に相似する。電流計測プローブ6Bは、検出面19BがX方向にある程度の大きさを有することから、X方向の走査時に検出面19Bが同一のX座標およびY座標について重複してサンプリングし、またはサンプリングされない部分の生じるおそれがあるので、図12の電流値をファラデーカップ7により測定した電流値によって補正して、X方向についてのイオン数(電流値)の分布を求める。
【0069】
補正は、ファラデーカップ7による電流値を図12の電流値を積算した値(図12における図積分値)で除した値(以下、「第3補正係数」という)を、図12の各電流値に掛け合わせることにより行う。得られるX方向についての積分電流値の分布は、プロトンイオンが有する電荷で除することによりイオン数の分布に変換される。
なお、実際のイオン数の分布(X方向に単位幅でY方向に延びた帯状の範囲におけるイオン数の分布)は、電流計測プローブ6Bの基準点の位置を考慮して、図12に示される分布全体を、X方向について走査原点側にw3の2分の1移動させたものとなる。
【0070】
Y方向のイオン数の分布の概要は、図11に示されるY座標と積算電流値との関係から算出される。図11は、上に説明したX方向のイオン数の分布の概要を求める際の図10(d)に相当するものである。したがって、図11をYについて近似微分して図12に相当するY方向についての関係を求めて、X方向のイオン数の分布の概要を求めた処理と同様の処理により、Y方向のイオン数の分布(Y方向に単位幅でX方向に延びた帯状の範囲におけるイオン数の分布)の概要を得ることができる。ただし、Y方向のイオン数の分布の概要を求める場合には、検出面19BがY方向に十分長いため、電流計測プローブ6Bの基準点の位置を考慮した補正は不要である。
【0071】
上に説明したX方向のイオン数の分布およびX方向のイオン数の分布は、ビーム概要算出部26により算出され、記憶部29に記憶される。また、求められたイオン数の分布の概要の効果は、実施例1におけるものと同じである。
続いて、イオンビーム加工装置1におけるイオンビームの概要の算出の第3の実施例について説明する。
【実施例3】
【0072】
本実施例においては、イオンビームの照射範囲に対して検出面19Cが矩形状であってかつ十分大きな電流計測プローブ6Cが使用される。本実施例における電流計測プローブ6Cをイオンビーム照射範囲に走査させて行う電流値の測定は、図3のフローチャートに示されるものと多くの共通点を有する。ただし、電流計測プローブ6CのX方向およびY方向の走査は、上記実施例1,2と異なり、いずれも最終的にイオンビームの照射範囲全てをカバーするようにしてそれぞれ1回行われる。
【0073】
図13は電流計測プローブ6CをX方向に走査したときの概要を示す図、図14は電流計測プローブ6CをX方向に走査したときの概要を示す図である。
なお、電流計測プローブ6Cの基準点は、図13(a)および図14(a)における検出面19Cの右下端、つまり、X方向への走査の先端縁であってかつY方向への走査の先端縁である。また、これらの先端縁はいずれもナイフエッジ状に形成されている。電流計測プローブ6Cの基準点の位置は、プローブ位置測定装置31により電流値が測定される都度測定され記憶部29に記憶される。
【0074】
イオンビームの中心位置は、基準点のX座標またはY座標と計測された電流値との関係を示す図13(b)および図14(b)に基づいて求められる。X方向の中心位置では、電流計測プローブ6CのX方向への単位距離(微小距離)の走査による測定電流値の増分が最も大きいことから、記憶部29に記憶されたX座標と電流値との関係(図13(b))から、近似微分(例えば、3次スプライン関数で周辺データを平滑化後微分する)して最大値を示すX座標XmをX方向の中心位置とする。Y方向の中心のY座標Ymについても、記憶部29に記憶されたY座標と電流値との関係(図14(b))から、X方向の場合と同様にして求められる。
【0075】
イオンビームの中心のX座標XmおよびY座標Ymは、記憶部29に記憶される。
イオンビームの照射範囲は、X方向については、電流計測プローブ6CをX方向に走査させたときに、最初に有意な電流値が測定されたときのX座標X30と、測定された電流値が走査によっても増加しなくなったときのX座標X35との間である。同様に、Y方向のイオンビームの照射範囲は、電流計測プローブ6CをY方向に走査させたときに、最初に有意な電流値が測定されたときのY座標Y30と、測定された電流値が走査によっても増加しなくなったときのY座標Y35との間である。イオンビームの照射範囲は、記憶部29に記憶された電流値の測定データに基づいて、ビーム概要算出部26が算出する。
【0076】
イオンビームの照射範囲におけるX方向のイオン数の分布(図13(c))は、図13(b)の電流値をXについて微分して求められる。微分は、記憶部29に記憶されたX座標と測定電流値とから、上に説明したと同様に近似微分法で行う。図13(c)では、例えば、イオンビームの中心を含み方向の幅Wqの範囲URSTにおける単位時間当たりの照射されるイオンの数Imは、図13(c)における範囲URSTに対応する幅Wqの部分の面積から求められる。
【0077】
イオンビームの照射範囲におけるY方向のイオン数の分布は、X方向におけるイオン数の分布と同様にして求めることができ、図14(c)の解釈においても、図13(c)がX方向であるのに対しY方向である点を除き、図13(c)と同じである。
図13(c)および図14(c)に表されるX方向のイオン数の分布およびX方向のイオン数の分布は、ビーム概要算出部26により算出され、記憶部29に記憶される。求められたイオン数の分布の概要の効果は、実施例1におけるものと同じである。
【0078】
さて、図3に戻って、上記実施例1〜3のようにして被露光材Wの照射面におけるイオンビームの中心位置、イオンビームの範囲、およびイオン量の分布等が明らかにされた後に、被露光材Wにイオンビームを照射して加工作業を行う(#22)。
加工作業(#22)は、先ず、電流計測プローブ6(6B,6C)をファラデーカップ7と接触しないように待避位置に退避させ、代わってファラデーカップ7をイオンビームを受光する位置に移動させる。
【0079】
次いで、小ステージ17に載置された被露光材Wがイオンビームに照射される位置まで、大ステージ18を図示しない駆動装置により移動させる。そして、演算器2の記憶部29に記憶されたイオンビームの中心の位置情報に基づき、小ステージ17を図示しない駆動装置により移動させ、小ステージ17に載置された被露光材Wの所望の位置にイオンビームの中心が当たるように調整する。
【0080】
小ステージ17の位置の調整が終わると、ファラデーカップ7をイオンビームを受光しない位置に退避させ、イオンビームを被露光材Wに照射して加工する。露光時間(またはイオンビームと被露光材Wとの相対速度)は、記憶部29に記憶されたイオンビームの数(電流値)の分布に基づき、露光部28により決定される。
上述の実施形態において、イオンビーム照射装置3、イオンビーム制御器4、被露光材支持ステージ5、電流計測プローブ6,6B,6C、ファラデーカップ7、演算器2、チャンバー8、および真空制御器9等は、種々のものを使用することができる。
【0081】
その他、イオンビーム加工装置1、およびイオンビーム加工装置1の各構成または全体の構造、形状、寸法、個数、材質などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、被露光材にイオンビームを照射し被露光材に所望する微細構造を形成するイオンビーム加工装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に係るイオンビーム加工装置の構成図である。
【図2】演算器の構成を示す図である。
【図3】イオンビーム加工装置におけるイオンビームの概要算出および加工のフローチャートである。
【図4】実施例1における電流計測プローブをX方向に走査させたときの積算電流値の推移を示す図である。
【図5】実施例1におけるX方向のビーム中心を求めるための概念図である。
【図6】実施例1におけるY方向のビーム中心を求めるための概念図である。
【図7】実施例1におけるイオン数の分布を求めるための概念図である。
【図8】電流計測プローブをY方向に移動させたときの電流値の推移を示す図である。
【図9】実施例1におけるX方向のイオン数の分布を求めるための概念図である。
【図10】実施例2における電流計測プローブをX方向に走査させたときの積算電流値の推移を示す図である。
【図11】実施例2におけるY方向のビーム中心を求めるための概念図である。
【図12】実施例2におけるX方向のビーム中心を求めるための概念図である。
【図13】実施例3におけるX方向のイオン数の分布を求めるための概念図である。
【図14】実施例3におけるY方向のイオン数の分布を求めるための概念図である。
【符号の説明】
【0084】
1 イオンビーム加工装置
2 演算手段(演算器)
3 ビーム生成部(イオンビーム照射装置)
6,6B,6C プローブ(電流計測プローブ)
7 センサ(ファラデーカップ)
26 演算手段(ビーム概要算出部)
Xm イオンビームの中心(イオンビームのX方向における中心)
Ym イオンビームの中心(イオンビームのY方向における中心)
W 被露光材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームを照射して被露光材を加工するイオンビーム加工装置であって、
前記被露光材に照射するイオンビームを発生させるためのビーム生成部と、
照射された前記イオンビーム全体のイオン数またはその代表値を測定可能なプローブと、
前記プローブを前記イオンビームに略直交する面上で1方向に走査させるための第1の走査手段と、
前記プローブを前記面上で前記1方向に直交する方向に走査させるための第2の走査手段と、
前記プローブが前記1方向および前記1方向に直交する方向に走査して測定した結果に基づいて演算を行う演算手段と、を有し、
前記プローブは、
前記1方向に走査する側の端縁が前記1方向に直交する直線で構成されかつ前記1方向に直交する方向に走査する側の端縁が前記1方向に延びた直線で構成されており、
前記演算手段は、
少なくとも前記被露光材の露光面における前記1方向のイオンビーム幅および前記1方向におけるイオンビームのイオン数の分布を演算するように構成されてなる
ことを特徴とするイオンビーム加工装置。
【請求項2】
イオンビームを照射して被露光材を加工するイオンビーム加工装置であって、
前記被露光材に照射するイオンビームを発生させるためのビーム生成部と、
照射された前記イオンビームのイオン数またはその代表値を測定するためのプローブと、
照射された前記イオンビーム全体のイオン数またはその代表値を測定するためのセンサと、
前記プローブを前記イオンビームに略直交する面上で1方向に走査させるための走査手段と、
前記プローブを前記イオンビームに略直交する面上で前記1方向に直交する方向に走査または移動させるための手段と、
前記プローブが測定した結果と前記センサが測定した結果とに基づいて演算を行う演算手段と、を有し、
前記演算手段は、
少なくとも前記被露光材の露光面における前記1方向または前記1方向に直交する方向のいずれかのイオンビーム幅およびイオンビームのイオン数の分布を演算するように構成されてなる
ことを特徴とするイオンビーム加工装置。
【請求項3】
前記演算手段は、前記1方向および前記1方向に直交する方向の両方または一方の前記イオンビームの中心を求めるように構成されてなる
請求項1または請求項2に記載のイオンビーム加工装置。
【請求項4】
前記プローブは、
前記1方向に走査する側の端縁が前記1方向に直交する直線もしくは前記1方向に直交する方向に走査または移動する側の端縁が前記1方向に延びた直線、または前記端縁のいずれもそれぞれの前記直線で構成されてなる
請求項2または請求項3に記載のイオンビーム加工装置。
【請求項5】
イオンビームを照射して被露光材を加工するイオンビーム加工装置の操業方法であって、
前記イオンビームに直交する面において直交する2つの直線からなる端縁を有し前記イオンビーム全体のイオン数またはその代表値の測定が可能なプローブを前記一方の端縁の直線方向に前記他方の端縁が前記イオンビーム外周に達するまで走査させて前記イオンビームのイオン数またはその代表値の測定を行い、
前記プローブを前記他方の端縁の直線方向に前記一方の端縁が前記イオンビーム外周に達するまで走査させて前記イオンビームのイオン数またはその代表値の測定を行い、
前記イオン数またはその代表値の測定結果から少なくとも前記被露光材の露光面における前記直交する2つの直線のいずれか一方の直線方向のイオンビーム幅およびイオンビームのイオン数の分布を求め、
前記イオンビーム幅および前記イオン数の分布に基づいて操業を行う
ことを特徴とするイオンビーム加工装置の操業方法。
【請求項6】
イオンビームを照射して被露光材を加工するイオンビーム加工装置の操業方法であって、
前記イオンビームに直交する面内の部分的なイオン数またはその代表値を計測するためのプローブを、前記直交する面において前記イオンビーム境界外から前記イオンビーム内を前記直交する面上の一方向に前記イオンビーム境界外に達するまで走査させて測定を行い、
前記プローブによる測定を、前記プローブを前記直交する面上の前記一方向に直交する方向における一方の前記イオンビーム境界外を起点とし他方のイオンビーム境界外を終点として複数箇所において走査させて行い、
前記イオンビーム全体のイオン数またはその代表値をセンサにより測定し、
前記プローブによる測定結果および前記センサによる測定結果から少なくとも前記一方向または前記一方向に直交する方向のいずれかにおけるイオンビーム幅およびイオンビームのイオン数の分布を求め、
前記イオンビーム幅および前記イオン数の分布に基づいて操業を行う
ことを特徴とするイオンビーム加工装置の操業方法。
【請求項7】
前記プローブによる測定結果から前記イオンビームの中心を求めて前記イオンビーム幅、前記イオン数の分布、およびイオンビームの前記中心に基づいて操業を行う
請求項5または請求項6に記載のイオンビーム加工装置の操業方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−258271(P2007−258271A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−77642(P2006−77642)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】