説明

イオン性液体含有ゲル、その製造方法及びイオン伝導体

【課題】優れたイオン伝導度を有するイオン性液体含有ゲルの提供。
【解決手段】下記一般式(1)を加水分解し得られるフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子と、イオン性液体とからなるイオン性液体含有ゲル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性液体を含有するゲル、その製造方法及び該ゲルを用いたイオン伝導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン性液体は、カチオンとアニオンとの塩であり、常温、常圧では液体であり、沸点を持たない物質であるが、そのうちのいくつかは、20世紀初頭から電気化学の分野では、研究されてきた。しかし、他の用途については、研究されていなかった。
【0003】
ところが、1990年代になり、グリーンケミストリーが叫ばれるようになると、イオン性液体は、不燃性、不揮発性等の興味深い性質を示すことから、注目を集め始めた。そのため、種々のイオン性液体が開発されるようになった。そして、近年、イオン性液体を、不燃性、不揮発性かつ極性の高い溶媒として利用することについて研究が進められている。
【0004】
しかし、溶媒としての用途以外については、イオン性液体の利用方法については、未だ開発されておらず、今後、イオン性液体の新規な用途が期待される。
【0005】
イオン性液体の新規な用途の1つとして、イオン性液体を含有する機能性材料が考えられる。このため、本発明者らは、先に溶媒や樹脂に均一に分散させることができる粒子表面にイオン性液体を固定化した粉末状のシリカコンポジット粒子を提案した(特許文献1参照)。
【0006】
近年、イオン伝導性の高い高分子材料が注目され、固体状態でイオン伝導性の高い高分子材料は、次世代のリチウムイオン二次電池用電解質として、特に注目されている。
【0007】
下記非特許文献1には、ナノシリカ粒子によりイオン性液体をゲル化させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−270124号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Phys.Chem.B 2008,112,9013−9019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1によれば、ホモジナイザー等の強力な混合手段を用い、更に24時間70℃で真空乾燥を行わないと均一なゲルが得られにくいという問題がある。
本発明者らは、更にイオン性液体を含有する機能材料の開発を進める中で、アルコキシシリル基を有する特定のフルオロアルキル基含有オリゴマーを用い、溶媒中で該アルコキシシリル基の加水分解を行うことにより得られるフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子はイオン性液体に対して優れた分散性を示すこと。また、該フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子と、イオン性液体を混合処理すると、該フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子が媒体となって容易に超音波処理等の混合処理によりイオン性液体が含有されたゲルが得られ、該フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子はイオン性液体に対して高いゲル形成能を有すること。また、該ゲルは優れたイオン伝導性を有するものであることを知見し、本発明を完成するに到った。
【0011】
したがって、本発明の課題は、イオン性液体を含有し、優れたイオン伝導性を有するイオン性液体含有ゲルを提供することにある。また、本発明の課題は、該ゲルを工業的に有利な方法で製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、アルカリを加えて該アルコキシシリル基の加水分解反応を行い得られるフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子と、イオン性液体とを接触させることにより生成されたものであることを特徴とするイオン性液体含有ゲルである。
【0013】
【化1】


(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
また、本発明が提供しようとする第2の発明は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、アルカリを加えて該アルコキシシリル基の加水分解反応を行ってフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子を得る工程、次いで該フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子とイオン性液体とを混合処理する工程を有することを特徴とするイオン性液体含有ゲルの製造方法である。
【0014】
【化2】


(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
また、本発明が提供しようとする第3の発明は、前記第1の発明のイオン性液体含有ゲルを含有することを特徴とするイオン伝導体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のゲルは、イオン性液体が固定化された新規な機能性材料であり、イオン伝導性に優れ、イオン性液体本来の優れたイオン伝導性を保持する。該イオン性液体含有ゲルは、例えば、リチウム二次電池、キャパシタ、光電変換素子等の高分子電解質として用いることが出来る。また、該ゲルは、フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子と、イオン性液体とを超音波処理等の簡易的な混合手段により、工業的に有利に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】イオン性液体(化合物(B))をそれぞれ1質量%、3質量%及び5質量%添加して得られたゲルの表面状態を示す走査型電子顕微鏡写真(SEM)。
【図2】実施例3で得られたイオン性液体含有ゲルのおける温度と粘度の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明のイオン性液体含有ゲルは、フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子とイオン性液体とを接触させて得られるものである。
【0018】
前記フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子は、下記一般式(1)
【化3】


(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、アルカリを加えて、前記アルコキシシリル基を加水分解することにより、得られるものである。
【0019】
前記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーは、例えば、トリメトキシビニルシラン等のトリアルコキシシランを過酸化フルオロアルカノイルと反応さることにより、製造することができる(例えば、特開2002−338691号公報参照)。
【0020】
反応原料溶液に加えるアルカリは、アルコキシシリル基の加水分解を行うことができるものであれば、特に制限されず、例えば、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等が挙げれ、この中、水酸化アンモニウムが反応性に優れ、また、高純度で目的物を得ることができることから特に好ましく用いられる。反応原料溶液に加えるアルカリの混合量は、特に制限されず、適宜選択される。
【0021】
前記反応溶媒としては、一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーを溶解するものが用いられ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールが挙げられ、この中で、メタノールが特に反応効率を高めることができる観点から好ましい。
アルコキシシリル基を加水分解する際の温度は、−5〜50℃、好ましくは0〜30℃である。反応温度が、−50℃未満だとアルコキシシリル基の加水分解速度が遅くなり過ぎるので、反応効率が悪く、また、50℃を超えると、得られるフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子の分散安定性が低くなり易い。また、反応原料溶液に、アルカリを混合して、アルコキシシリル基の加水分解を行う際の反応時間は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは1〜72時間、特に好ましくは1〜24時間である。
【0022】
本発明では、反応液から、反応溶媒を蒸発させ除去して、フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子を得る溶媒蒸発除去工程を行い、該反応液からフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子を回収することができる。溶媒蒸発除去工程では、常圧又は減圧下で反応溶媒が蒸発する温度に加熱して、反応溶媒の蒸発除去を行う。また、必要により更に乾燥を行ってフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子を得ることができる。
【0023】
前記フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子の好ましい物性としては、平均粒径が10〜1000nm、好ましくは100〜300nmである。平均粒径が前記範囲内にあると、イオン性液体への分散性が良好である点で好ましい。
【0024】
本発明のイオン性液体含有ゲルは、前記フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子とイオン性液体とを混合処理して接触させることで得られる。
【0025】
用いることができるイオン性液体は、カチオンとアニオンとの塩であり、常温(25℃)、常圧(0.1MPa)で液体であり、且つ沸点を持たない物質であれば、特に制限されない。例えば、イオン性液体を構成するカチオンとしては、アミジニウムカチオン、グアニジニウムカチオン及び3級アンモニウムカチオン、4級アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン等が挙げられる。
【0026】
前記アミジニウムカチオンとしては、例えばイミダゾリニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン、テトラヒドロピリミジウムカチオン、ジヒドロピリミジウムカチオン等が挙げられる。
【0027】
前記グアニジニウムカチオンとしては、例えばイミダゾリニウム骨格を有するグアニジニウムカチオン、イミダゾリウム骨格を有するグアニジニウムカチオン、テトラヒドロピリミジニウム骨格を有するグアニジニウムカチオン、ジヒドロピリミジニウム骨格を有するグアニジニウムカチオン等が挙げられる。
【0028】
3級アンモニウムカチオンとしては、例えばメチルジラウリルアンモニウム等が挙げられる。
【0029】
4級アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンとしては、下記一般式(2)で表されるものを用いることができる。
【0030】
【化4】


(式中、QはP原子又はN原子を示す。)
前記一般式(2)の式中、R、R、R及びRは、炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、アリル基、又はフェニル基を示す。また、R、R、R及びRはシリカ原子を含む基であってもよい。R、R、R及びRが、シクロアルキル基又はフェニル基の場合、例えば、4−メチルシクロヘキシル基、4−メチルフェニル基のように、シクロアルキル環又はベンゼン環の水素原子の一部が、アルキル基で置換されていてもよい。また、R、R、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよい。また、R、R、R及びRは、炭素数1〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、シクロアルキル基、アリル基又はフェニル基の水素原子の一部が、ヒドロキシル基、アミノ基、アルコキシ基等の置換基で置換されている基であってもよい。
【0031】
式中のnは、アニオン(Y)の価数(Yn−)により定まり、アニオン(Y)の価数(Yn−)が1価の場合(nが1の場合)、4級アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンの式中のnの数は1であり、アニオン(Y)の価数(Yn−)2価の場合(nが2の場合)、4級アンモニウムカチオン又はホスホニウムカチオンの式中のnの数は2である。そして、nは、1〜2の整数である。
【0032】
また、イオン性液体を構成するアニオンとしては、例えば、ベンゾトリアゾールイオン、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、BF、PF、PO(OMe)、PS(OEt)、(COMe)PhSO、CFSO、HSO、(CFSO等の1価のアニオン;SO2−等の2価のアニオンが挙げられ、ここに例示したアニオンが、製造が易いという点で好ましい。
【0033】
本発明において、好ましいイオン性液体は、カチオンがトリ−n−ブチル−アリルアンモニウム塩、トリ−n−ブチルメチルアンモニウム塩、トリエチルドデシルアンモニウム塩、トリ−n−ブチル{3−(トリメトキシシリル)プロピル}アンモニウム塩、1−ブチル−3−メチルイミダゾニウム塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム塩、エチルイミダゾリウム塩、トリ−n−ブチル−アリルホスホニウム塩、トリ−n−ブチルメチルホスホニウム塩、トリエチルドデシルホスホニウム塩、トリ−n−ブチル{3−(トリメトキシシリル)プロピル}ホスホニウム塩、トリ−n−オクチル{3−(トリメトキシシリル)プロピル}ホスホニウム塩、トリ−n−ブチル(2−ヒドロキシエチル)ホスホニウム塩であり、アニオンが(CFSO、PF、HSO、CFSO、塩素イオン、又はヨウ素イオンであるとイオン伝導性が高いものが得られる点で好ましい。
【0034】
前記フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子とイオン性液体との混合処理は、前記イオン性液体に前記フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子を添加して行うことが望ましい。該フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子のイオン性液体への添加量は、該フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子の添加によりゲル化を起こす範囲であれば特に制限はなく、多くの場合、イオン性液体100重量部に対して、フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子を1〜50重量部、好ましくは1〜15重量部、特に好ましくは5〜10重量部添加する。特に、イオン性液体を20〜99.9質量%、好ましくは85〜99質量%、いっそ好ましくは90〜95質量%含有するゲルは優れたイオン伝導性を示すイオン伝導体として好適に用いることができ、かかるイオン伝導体は、高分子電解質として好適に用いることができる。
【0035】
混合処理方法は、ミキサー等の強力なせん断力が作用する機械的手段で行ってよいが、本発明では超音波照射を行っても容易に目的とするイオン性液体含有ゲルを得ることができる。
【0036】
超音波処理の条件等は、用いるイオン性液体やフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子の添加量等により異なるが、多くの場合、超音波の出力が50〜500W、好ましくは100〜200Wで、1時間以上、好ましくは2〜24時間である。
【0037】
本発明のイオン性液体含有ゲルは、フルオロアルキル基に起因する撥水性を有していることから、撥水性を材料に付与する添加剤としての用途にも期待できる他、優れたイオン伝導性を有することから、特にイオン伝導体として有用であり、例えば、リチウム二次電池、キャパシタ、光電変換素子等の高分子電解質として用いることもできる。
【0038】
次いで、本発明のイオン伝導体を用いた高分子電解質について説明する。
【0039】
本発明の高分子電解質は、該イオン性液体含有ゲルを含有するものであり、該高分子電解質はゲル状の形態を有するものである。
【0040】
本発明において高分子電解質は、その形態がゲル状である限りにおいて、水又は非プロトン性溶媒を含有させることができる。
【0041】
前記非プロトン性溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロキシフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、ジエチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の非プロトン性有機溶媒の1種または2種以上を混合した溶媒が挙げられる。
【0042】
更に、本発明の高分子電解質は、他の電解質と併用することが出来る。他の電解質としては、水叉は非プロトン性溶媒に溶解するものであれば特に限定されないが、例えば、LiClO4 、LiCl、LiBr、LiI、LiBF4 、LiPF6 、LiCF3 SO3 、LiAsF6 、LiAlCl4、LiB(C664、CF3 SO3 Li、LiSbF6 、LiB10Cl10、LiSiF6、LiN(SO2CF32、LiC(SO2CF32、LiN(CF3SO32、低級脂肪酸カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム及び4フェニルホウ酸リチウム等が挙げられ、これらのリチウム塩は、1種又は2種以上で用いられる。これらのリチウム塩のうち、LiN(CF3SO32、CF3 SO3 Li、LiPF6が電解質のイオン伝導性の点から好ましく、LiN(CF3SO32が特に好ましい。これらのリチウム塩の好ましい添加量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されるものではない。
【0043】
本発明の高分子電解質は、特にリチウム二次電池、キャパシタ、光電変換素子等の高分子電解質として好適に用いることが出来る。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(アルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーの調製)
トリメトキシビニルシラン(2.3g)を過酸化ペルフルオロ−2−メチル−3−オキサヘキサノイル(5.1g)を含むAK−225溶液150gに加え、窒素雰囲気下で45Cにて5時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を除去し、次いで蒸留を行うことにより、目的とする一般式(1)に包含されるフルオロアルキル基含有オリゴマー(略称;RF−VMオリゴマー)3.0gを得た。その結果を表1に示す。なお、AK−225は、旭硝子社製の不燃性フッ素系溶剤であり、その構造式はCFCFCHCl/CClFCFCHClFで表される。
【0045】
【表1】


*表1中、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)による数平均分子量である。
【0046】
{実施例1〜4}
(フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子の調製)
50mlのサンプル瓶に、メタノール20mlを入れ、次いでRF−VMオリゴマー0.1g及びNH(25wt%)5mlを加え、5時間室温下でマグネチックスターラーにて攪拌し、エバポレーターにより溶媒除去を行った。次いで、真空乾燥を1日行って、フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子(収率78%)を得た。
【0047】
得られたフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子の平均粒径を、メタノールに再分散させて光散乱光度計(大塚電子製のDLS−6000HL)を用いて測定した結果、平均粒径は180nmであった。
【0048】
(ゲルの調製)
イオン性液体にフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子を添加することにより、ゲルを形成するのに必要なフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子の最小添加量(以下、「最小ゲル化濃度」という)を求めた。なお、実験方法は以下のとおりである。
【0049】
前記で調製したフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子を、各種のイオン性液体0.5gに添加し、120Wで12時間超音波をかけることによりゲルが形成(25℃)されるどうか確認した。また、形成されたゲルの状態を目視で観察した。
また、用いたイオン性液体は、以下の化学式(A)〜(D)のものを使用した。
【0050】
【化5】


(式中、allylはアリル基を、n−Buはn−ブチル基、Meはメチル基、n−Doはn−ドデシル基を示す。)
また、イオン性液体(化合物(B))をそれぞれ1質量%、3質量%及び5質量%添加して得られたゲルの表面状態を示す走査型電子顕微鏡写真(SEM)を図1に示す。
図1の結果より、フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子を1質量%〜3質量%添加させた系では、繊維状会合体が十分に形成しておらず、フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子がところどころ観察される。これに対して最小ゲル化濃度の5質量%添加したものは、繊維状会合体が完全に形成していることが確認された。
【0051】
{比較例1}
30wt%シリカナノ粒子(メタノール分散、平均粒子経11nm)を蒸留してメタノールを除去してシリカナノ粒子(平均粒径10nm)を得た。
前記で調製したシリカナノ粒子を、イオン性液体(化学式(C))0.5gに10wt%まで1wt%ずつ添加し、120Wで12時間超音波をかけたところゲルが形成(25℃)されなかった。
【0052】
{比較例2〜3}
(シリカコンポジット粒子の調製)
50mlのサンプル瓶に、メタノール20mlを入れ、次いで市販のカップリング剤;C13Si(OEt)0.10g、テトラエトキシシラン(TEOS)2.3mmol、NH(25wt%)5mlを加え、5時間室温下でマグネチックスターラーにて攪拌し、エバポレーターにより溶媒除去を行った。次いで、真空乾燥を1日行って、シリカコンポジット粒子を得た。
得られたシリカコンポジット粒子の平均粒径を、メタノールに再分散させて光散乱光度計(大塚電子製のDLS−6000HL)を用いて測定した結果、平均粒子径は216±42nmであった。
また、得られたシリカコンポジット粒子中のカップリング剤の含有量は71質量%で、Si含有量はSiOとして29質量%であった。
なお、カップリング剤の含有量は、Fを元素分析して求めた。SiO含有量は、熱重量分析により求めた。
【0053】
(ゲルの調製)
実施例1〜4と同様な操作方法にてイオン性液体にシリカコンポジット粒子を添加して、最小ゲル化濃度を求めた。また、形成されたゲルの状態を目視で観察した。
【0054】
{参考例1〜3}
(シリカコンポジット粒子の調製)
50mlのサンプル瓶に、メタノール20mlを入れ、次いでRF−VMオリゴマー0.1g、30wt%シリカナノ粒子(メタノール分散、平均粒子経11nm)3.33g、テトラエトキシシラン(TEOS)2.3mmol、NH(25wt%)5mlを加え、5時間室温下でマグネチックスターラーにて攪拌し、エバポレーターにより溶媒除去を行った。次いで、真空乾燥を1日行って、シリカコンポジット粒子を得た。
得られたシリカコンポジット粉末状粒子の平均粒径を、メタノールに再分散させて光散乱光度計(大塚電子製のDLS−6000HL)を用いて測定した結果、平均粒子径は133±33nmであった。
また、得られたシリカコンポジット粒子中のフルオロアルキル基含有オリゴマーの含有量は5質量%で、Si含有量はSiOとして95質量%であった。
なお、フルオロアルキル基含有オリゴマーの含有量は、Fを元素分析して求めた。SiO含有量は、熱重量分析により求めた。
【0055】
(ゲルの調製)
実施例1〜4と同様な操作方法にてイオン性液体にシリカコンポジット粒子を添加して、最小ゲル化濃度を求めた。また、形成されたゲルの状態を目視で観察した。
【0056】
【表2】


表2の結果から参考例1〜3のイオン性液体の最小ゲル化濃度は35〜40質量%でああったが、本発明のフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子を用いることにより、イオン性液体のゲル化は5〜10質量%と比較的低い濃度において、均一なゲル化が得られることが分かる。
【0057】
(イオン伝導度の評価)
実施例1〜4及び参考例1〜3で得られたイオン性液体含有ゲルをパイレックス(登録商標)ガラスセルに入れ、真鍮で作成した上部電極を下部電極で挟み込み、導電率を室温(25℃)にて測定した。また、マイクロヘッドを用いてゲルの厚さを測定した。これらの測定値から、イオン伝導度(σ)を算出した。また、イオン性液体を単独で用いた場合のイオン伝導度を表3に併記した
【0058】
【表3】


表3の結果、本発明のイオン性含有ゲルは参考例のイオン性液体含有ゲルと、導電率がほぼ同等で、また、イオン性液体単独で用いた場合と比べても導電率がほぼ同等のあることが分かる。
【0059】
(温度依存性)
実施例3で得られたイオン性液体含有ゲルについて、温度毎の粘度を測定し、その結果を図2に示す。なお、イオン性液体(化合物(C))単独での温度毎の粘度も測定し、合わせて図2に併記した。
【0060】
図2の結果より、温度上昇に伴い粘度が減少していることが観察された。低温度条件下においてはイオン性液体単独と比較して高粘度であるが、高温度条件下においてはほぼ同等の値となることが観察された。これは、低温度では繊維状会合体によりイオン性液体が束縛されているが、高温度では会合体がほぐれ、コロイド分散溶液になっているためと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のゲルは、イオン性液体が固定化された新規な機能性材料であり、イオン伝導性に優れ、イオン性液体本来の優れたイオン伝導性を保持する。該イオン性液体含有ゲルは、例えば、リチウム二次電池、キャパシタ、光電変換素子等の高分子電解質として用いることが出来る。また、該ゲルは、フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子と、イオン性液体とを超音波処理等の簡易的な混合手段により、工業的に有利に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、アルカリを加えて該アルコキシシリル基の加水分解反応を行い得られるフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子と、イオン性液体とを接触させることにより生成されたものであることを特徴とするイオン性液体含有ゲル。
【化1】


(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【請求項2】
イオン性液体を20〜99.9質量%含有することを特徴とする請求項1記載のイオン性液体含有ゲル。
【請求項3】
下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー及び反応溶媒を含む反応原料溶液に、アルカリを加えて該アルコキシシリル基の加水分解反応を行ってフルオロアルキル基含有オリゴマー粒子を得る工程、次いで該フルオロアルキル基含有オリゴマー粒子とイオン性液体とを混合処理する工程を有することを特徴とするイオン性液体含有ゲルの製造方法。
【化2】


(式中、R及びRは、−(CF)p−Y基、又は−CF(CF)−[OCFCF(CF)]q−OC基を示し、R及びRは、同一の基であっても異なる基であってもよく、R及びR中のYは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは0〜10の整数である。R、R及びRは同一の基であっても異なる基であってもよく、R、R及びRは炭素数1〜5の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基を示す。mは2〜3の整数である。)
【請求項4】
前記反応溶媒がメタノールであることを特徴とする請求項3記載のイオン性液体含有ゲルの製造方法。
【請求項5】
前記混合処理は超音波照射により行うことを特徴とする請求項3記載のイオン性液体含有ゲルの製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2の何れか1項に記載のイオン性液体含有ゲルを含有することを特徴とするイオン伝導体。
【請求項7】
高分子固体電解質として用いられる請求項6記載のイオン伝導体。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−190292(P2011−190292A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54864(P2010−54864)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】