説明

イオン注入装置用の質量分析システムとその校正方法

【課題】人為的ミスを生じることなく校正を短時間に正確に行うことができるイオン注入装置用の質量分析システムとその校正方法を提供する。
【解決手段】ビーム中のイオン種の質量を測定する質量分析器10と、2種以上の既知の不活性ガスからなる校正用ガス11が充填された校正用ガスボンベ12aと、校正用ガスボンベからイオン注入装置のイオン源として校正用ガスを遮断可能に供給する校正ガスライン13と、校正用ガスを用いて校正用ガスのイオンビーム2を発生させて質量分析器10の校正を行う校正処理装置14とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上のシリコン膜に不純物を注入するイオン注入装置用の質量分析システムとその校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ等を製造するイオン注入装置は、ガラス基板上のシリコン薄膜に不純物を注入する装置である。不純物としてはリン(P)やボロン(B)などがあり、装置内でプラズマを生成してイオンとして引出し、加速してイオンビーム(以下、単に「ビーム」という)として薄膜に注入する。
【0003】
かかるイオン注入装置において、プラズマの材料ガスには、ホスフィン(PH)やジボラン(B)の水素希釈ガスなどが使用される。そのため、必要なPやBのイオンの他に水素イオンなどの不要なイオンが注入されることがある。
【0004】
従来からイオン注入装置におけるビーム中のイオン種の量を測定または制御するため、ビームの一部を質量分析器に入射させて分析している。この質量分析器には電磁石を使用した磁場分析方式、電磁場を使用したE×B分析方式、電場を使用した四重極分析方式などが適用されている。かかる質量分析器で測定した各イオンの電流量から必要なイオン種の比率を、装置の注入システムにフィードバックすることにより、薄膜への注入量を制御することができる。
【0005】
上述した目的のため、種々の質量分析器および分析方法が提案されている(例えば特許文献1〜4)。
【0006】
特許文献1の「質量分析計の電場及び磁場制御方式」は、磁場強度の掃引している時間の無駄をなくしS/Nを改善することを目的とする。
そのためこの発明は、図5に模式的に示すように、イオン源と電場と磁場とを備え、試料をイオン化し該イオン化したビームを加速して、質量数毎に分離するとともに、エネルギー収差を補正してターゲットピークを捕捉する二重収束型の質量分析計において、磁場強度Bを一定の勾配で掃引し、ターゲットピークが出現する磁場強度Ba,Bbの前後で加速電圧/電場電圧をスィープさせるものである。このようにすることにより、ピークとピークとの間の無駄な磁場の掃引時間をなくし、ピークでの観測時間を長くすることができる。
【0007】
特許文献2の「イオン注入装置」は、ビームモニタ部で、所望のイオンによるイオンビーム電流を正確に計測することができるようにすることを目的とする。
そのためこの発明のイオン注入装置は、図6に模式的に示すように、イオン源51から引き出したイオンビーム52の一部を、ビームモニタ部53で受けてそのイオンビーム電流を計測する。また、ビームモニタ部53のスリット54とファラデーカップ55との間に、そこを通過するイオンビーム52を質量分析する質量分析器56を設けている。
【0008】
特許文献3の「イオンの質量数演算表示方法」は、分析電磁石から選択的に導出するイオンの質量数を表示するためのデータを短時間でしかも正確に収集し、かつそのデータを用いて当該質量数を正確に求めて表示することを目的とする。
そのため、この発明の方法は、図7、図8に模式的に示すように、データ収集ステップ、データ編集ステップ、質量数表示ステップを備えている。データ収集ステップは、複数のイオン種ごとに、引出し電圧Eと、ターゲット61に流れるビーム電流Iが最大になるときの分析電磁石62における磁束密度Bとの関係を表すデータを自動的に収集保存する。データ編集ステップは、データ収集ステップで得られたデータを用いて、引出し電圧Eごとに、磁束密度Bと当該磁束密度のときに分析電磁石62から導出されるイオンの質量数との関係を求め保存する。質量数表示ステップは、データ編集ステップで得られたデータを用いて、引出し電圧Eと磁束密度Bとに応じて、その条件のときに分析電磁石62から導出されるイオンの質量数を求め表示するものである。
【0009】
特許文献4の「イオンシャワードーピング装置」は、特定のイオン種を正確なドーズ量で注入できることを目的とする。
そのため、この発明は、図9に模式的に示すように、真空容器内で複数のイオン種からなるイオンビームIを基板71に照射してイオンを注入するイオンシャワードーピング装置において、真空容器内に設けられ、イオンビームIから全イオンの注入量を求める注入量モニタ72と、真空容器内に設けられ、イオンビームIからイオン種と水素イオンとのイオン比率を求めるためのE×Bモニタ73と、イオン注入量とイオン比率とから特定のイオン種のドーズ量を計測する計測手段74とを備えたものである。
【0010】
【特許文献1】特開平6−13021号公報、「質量分析計の電場及び磁場制御方式」
【特許文献2】特開平6−36737号公報、「イオン注入装置」
【特許文献3】特開平7−130324号公報、「イオンの質量数演算表示方法」
【特許文献4】特開平8−225938号公報、「イオンシャワードーピング装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した従来の質量分析手段では、計測する質量数の校正(キャリブレーション)の方法が確立されていない問題点があった。
従来は一般的に材料ガスのビームを用いて質量数を校正している。校正する際には、異なる2つの質量数に基づき質量分析器の設定調整をおこなうことが望ましい。しかし材料ガスを用いた場合には質量数の異なるイオン種を含むビームになるため、質量数の特定が難しい。
例えばジボランの場合には水素(H)とジボラン(B)が材料ガスとなるため、ビーム中にはH、H、H、B、BH、BH、BH、B、BH、B、B、B、B、Bなどのさまざまなイオン種が存在する。質量分析器で計測した場合、一般的に低い質量数は高分解能であるため、H、H、Hのイオン種などは特定しやすい。しかし高い質量数であるBH(x=0〜3)、B(x=0〜6)などは分解できずに幅広の分布となり、この範囲での質量数の特定が難しい。
【0012】
このため校正の場合のみ、判別しやすく既知の質量数であるガスを用いることがある。HeやArなどの希ガスは分解や結合をしないため、質量分析器で測定すると単独に検知することができ、質量分析器の校正がより正確に行える。
しかしながら質量分析器の校正のためだけにHeやArなどのガスラインを装置に設けておくことは装置コストとして見合わない。また質量分析器の校正の際だけ、HeやArなどのガスボンベを接続することも考えられるが、そのための時間は実際の校正時間や作業を大幅に増加させることになる。
【0013】
また質量分析器やイオン注入装置のメンテナンスなどで機械的にまたは制御的に誤差が発生した場合、または作業ミスなどにより質量数が不明になった場合など、再度校正が必要な場合がある。従来、校正は手動で行われていたため、校正時の人為的ミスや作業時間の長さが問題となっている。
【0014】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、人為的ミスを生じることなく校正を短時間に正確に行うことができるイオン注入装置用の質量分析システムとその校正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、基板上のシリコン膜に不純物を注入するイオン注入装置用の質量分析システムであって、
ビーム中のイオンの質量を測定する質量分析器と、
2種以上の既知の不活性ガスからなる校正用ガスが充填された校正用ガスボンベと、
該校正用ガスボンベからイオン注入装置のイオン源として校正用ガスを遮断可能に供給する校正ガスラインと、
前記校正用ガスを用いて校正用ガスのイオンビームを発生させて質量分析器の校正を行う校正処理装置と、を備えたことを特徴とするイオン注入装置用の質量分析システムが提供される。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記校正処理装置により、前記校正用ガスのイオンビームの質量数と強度の関係を求め、該関係から強度がピークとなる2以上の質量数を検出し、該質量数と校正用ガスの既知の質量数から校正用の補正係数を演算する。
【0017】
また本発明によれば、基板上のシリコン膜に不純物を注入するイオン注入装置用の質量分析システムの校正方法であって、
前記イオン注入装置により、イオン源として2種以上の既知の不活性ガスからなる校正用ガスを供給して校正用ガスのイオンビームを発生させ、
質量分析器により、前記イオンビームの質量数と強度の関係を求め、該関係から強度がピークとなる2以上の質量数を検出し、該質量数と校正用ガスの既知の質量数から校正用の補正係数を演算する、ことを特徴とする質量分析システムの校正方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
上記本発明の装置及び方法によれば、校正用ガスボンベが校正ガスラインにより遮断可能にイオン注入装置に連結されているので、質量分析システムの校正の際に、校正ガスラインに設けられたバルブを開くだけで、校正用ガスを用いてビームを出力して質量分析器の校正を行うことができる。
従って、イオン注入装置に校正用ガスラインとしてHeやArなどのガスラインを常設する必要はなくなり、かつ材料ガスボンベと入れ替えて校正用ガスボンベを接続する作業などは必要がない。またコスト的にも作業的にも校正するために必要なイオン種のビームを手軽に出力することができる。
【0019】
また、本発明の装置及び方法によれば、イオン源として2種以上の既知の不活性ガスからなる校正用ガスを供給して校正用ガスのイオンビームを発生させ、前記イオンビームの質量数と強度の関係を求め、該関係から強度がピークとなる2以上の質量数を検出し、該質量数と校正用ガスの既知の質量数から校正用の補正係数を演算するので、従来手動で設定していた質量数軸の調整の時間が短縮できるとともに、人為的な間違いを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0021】
図1は、本発明の質量分析システムを備えたイオン注入装置の模式図である。この図において、1はイオン源、2はイオンビーム、3は処理基板(例えばガラス基板)、5はプロセス室、10は質量分析器である。
【0022】
イオン源1は、熱電子を放出するフィラメントを有するカソード電極と、プラズマ電極とを有し、カソード電極とプラズマ電極の間の放電によりプラズマを発生させる。プラズマの原料ガスとして、例えばPH,B,Hなどを用いる。
【0023】
イオン源1は、さらに引出電極、減速電極、加速電極、等を有し、プラズマからイオンビーム2を引き出し、処理基板3に向けて加速し、基板上のシリコン膜に不純物を注入する。
【0024】
プロセス室5は、イオン注入時の雰囲気を所定の真空度に維持する真空チャンバーである。
【0025】
図2は、本発明の質量分析システムを備えたイオン注入装置の構成図である。この図において、7は材料ガス、8はガス流量調整器(マスフロー)、9は流量制御ユニット、12は校正ユニット、14は校正処理装置である。
【0026】
材料ガス7は、ホスフィン(PH)やジボラン(B)の水素希釈ガスなどである。
ガス流量調整器(マスフロー)8は、各材料ガス7のマスフローを制御する。
流量制御ユニット9は、各材料ガス7の流量を制御する。また、校正ユニット12から供給される校正用ガス11の流量も制御する。
流量制御ユニット9を出た各ガスは、単独又は合流してイオン源1に供給され、プラズマのイオン源となる。
【0027】
図2において、本発明の質量分析システムは、質量分析器10、校正ユニット12、校正ガスライン13および校正処理装置14からなる。
質量分析器10は、ビーム中のイオン種(例えばP、B)の量を測定する。
校正ユニット12は、2種以上の既知の不活性ガスからなる校正用ガス11が充填された校正用ガスボンベ12aを有する。
校正ガスライン13は、校正用ガスボンベ12aからイオン注入装置のイオン源として校正用ガス11を遮断可能に供給する。
【0028】
校正処理装置14は、校正用ガス11を用いて校正用ガスのイオンビーム2を発生させて質量分析器10の校正を行う。
校正処理装置14は、例えばコンピュータ(PC)であり、質量分析器10の出力データから校正用ガス11のイオンビーム2の質量数と電流強度の関係(質量スペクトル)を求める。次いで、この関係(質量スペクトル)から電流強度がピークとなる2以上の質量数を検出する。さらに、検出した質量数と校正用ガスの既知の質量数から校正用の補正係数を演算するようになっている。
【0029】
上述した質量分析システムを用い、本発明の方法は、イオン注入装置により、イオン源として2種以上の既知の不活性ガスからなる校正用ガス11を供給して校正用ガスのイオンビーム2を発生させ、質量分析器10により、イオンビーム2の質量数と強度の関係を求め、この関係から強度がピークとなる2以上の質量数を検出し、検出した質量数と校正用ガスの既知の質量数から校正用の補正係数を演算する。
【0030】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0031】
質量分析器10はイオン注入装置の構成機器の一つである。イオン注入処理では、イオン源1でプラズマを発生させて、加速電極系でプラズマ中のイオンをビーム2として出力する。出力されたビーム2は、プロセス室5内に搬送された液晶ガラス基板3に注入される。
質量分析器10は図1のようにプロセス室5のイオン源1と対向する位置で、ガラス基板3の周囲を通過したビーム2の一部が入射する位置に設置されている。イオンとしてはリン(P)またはボロン(B)を注入するため、材料ガス7としてはホスフィン(PH)またはジボラン(B)を水素希釈したガスなどが使用される。そのため注入するイオンビーム2には、例えばジボランの場合にはBイオン、BHイオン、Hイオンなどの複数種のイオンが含まれる。注入に必要なBイオンの量を測定するために質量分析器10が使用される。
【0032】
質量分析器10は導入時またはメンテナンス時などに質量数軸を校正する必要がある。校正のため既知の質量数を持つ校正用ガス11を用いてビーム2を出力し、質量分析器10で測定する。校正の精度を高めるためには、2つ以上のガスを用いることが望ましい。
ガス種としてはHe、Ne、Ar、Xeなどの希ガスを少なくとも2種類含み、水素希釈ガスでもかまわない。水素ガスを混ぜるとビーム出力のためのプラズマ生成が容易になる。
【0033】
校正用ユニット12は、校正用ガスボンベ12aとバルブから構成され、作業者が容易に持ち運びできるサイズとする。校正用ガスボンベ12aの口に開閉バルブを接続し、バルブの先には他の配管(校正ガスライン13)に接続できるようにする。質量分析器の校正時にはこの校正用ユニットの接続口を装置ガス供給部に接続する。
イオン注入装置へのガス供給は一般的に外部のガスボンベ7からガス配管により導入される。なお、ガス配管はガスの種類の数だけ準備される。イオン注入装置の内部ではガス流量調整器8(マスフロー)及び流量制御ユニット9を経て真空容器(プロセス室5)内にガスが流れるように配管されている。
この構成により、ガス流量調整器8及び流量制御ユニット9で設定されたガス流量を真空容器内に流すことができる。
【0034】
また真空容器内部へのガス供給方法として、高電圧部に供給される場合と低電圧部に供給される場合がある。低電圧部に供給されるときは前述のように直接流量調整器からの配管を接続することになり、高電圧部に供給されるときはガスボンベと流量調整器との間に電気的に絶縁できる配管を備える。本発明では低電圧部、高電圧部への供給のいずれでも問わない。
【0035】
ガス流量調整器(流量制御ユニット9)は故障などに対応するため予備を設置している場合が多い。校正ではこの予備の流量調整器を用いてもよい。予備が無い場合には既存のガス流量制御ユニットに並列して流量調整器とバルブや配管を追加で設置する。流量調整器やバルブはイオン注入装置で制御可能とする。この配管経路の流量調整器9の上流側に校正ユニット12を接続する。この状態でイオン注入装置を稼動して、校正ユニット12のガスを用いてビーム2を出力する。
【0036】
質量分析器10で計測した結果を質量数軸に変換してプロットすることで、ビームの質量スペクトルが得られる。一般的に質量分析器10では電場、磁場の強度や機械的位置などを変化させてイオンを質量で分離している。それらの変化量から質量数へと変換するために換算式を用いている。この換算式は理論的に導かれるが、設計誤差、製作誤差などにより実際にはずれが生じる。換算式に補正係数などを追加して、このずれを補正するために校正をおこなう。校正の際には2種類以上の元素を含む校正ガスを用いることが望ましく、その種類と同じ数の補正係数を設けておくことで、より精度の高い校正が可能となる。
【0037】
質量分析器10の校正処理装置14は、実際に質量分析器を動作させてビームの質量スペクトルを得ることはもちろん、自動的に分布のピークを探し、そのピーク位置がずれている場合には自動的に補正係数を求めて設定する仕組みをも含んでいる。よって作業者は校正処理装置14で校正の動作を指示するだけで、自動的に校正がおこなえ、計算を自分でする必要はない。
【0038】
以下、質量分析器の校正計算例を説明する。
図3は、E×B分析方式の質量分析器の作動説明図である。質量分析器としては電磁石を使用した磁場分析方式や、電磁場を使用したE×B分析方式、電場を使用した四重極分析方式などが用いられている。ここでは例としてE×B分析方式についての補正計算例を示す。
【0039】
E×B分析の方法では、ビーム進行方向に対して直交した磁場と電場を形成している。イオンは磁場と電場の両方から力を受け、その2つの力がつりあったものだけが直進して計測器に到達する。磁場と電場から受ける力はイオンの電荷と質量に依存するため、質量分析が可能となる。
イオンの質量、電荷、速度がそれぞれm、q、vであり、E×B分析器の電場と磁場の値がそれぞれE、Bであるとき、イオンが電場と磁場から受ける力はそれぞれqE、qvBとなる。この2つの力がつりあうときにはイオンは直進して計測器に入射する。しかし2つの力がつりあわず、qvB>qEやqvB<qEとなる場合には曲がった軌道を描き、計測器へ入射することができない。この原理を用いることにより、質量によってビームを分解して計測することができる。
【0040】
イオンの加速エネルギーをVとすると、数1のエネルギーの関係式(1)から式(2)のように速度を表すことができる。
またE×B分析器での力のつりあいの式(3)と上記のエネルギー関係式(1)より、式(4)のように質量を求めることができる。
従って、この式(4)からE×B分析器の電場Eまたは磁場Bを変えることにより、質量を特定することができる。
【0041】
【数1】

【0042】
ただしこの式(4)は理論式であり、実際の場合には部品加工精度や組立精度、電源機器精度など種々の誤差があるため、補正係数などを設けて校正する必要がある。補正係数の取り方は自由であるが、この例では数2の式(5)のように補正係数a、bを設定する。
【0043】
【数2】

【0044】
この場合、補正係数aは磁場Bや電場Eを補正するための係数といえる。磁場は電磁石や永久磁石などにより形成することが一般的であるが、それらの磁場強度の誤差やずれを補正することができる。また電場は電極に電位を印加して形成することが一般的であるが、電極間隔や電源性能の誤差やずれを補正することができる。係数aはそれらを含めた補正手段として設定する。
また補正係数bは質量と同じ単位を持つことになり、機械的な誤差などにより測定結果において質量がシフトしているような場合の補正手段として用いることができる。
【0045】
質量の校正は以下の手順でおこなう。実際には校正処理装置で自動化されているため、オペレーターが「校正」を実行することにより自動で行われる作業である。
(1) 質量数が既知であるガス種(2種類以上)のビームを出力する。
(He、Ne、Arなど、質量を特定しやすいガス種が望ましい。)
(2) 始めに補正係数a=1、b=0として測定する。
(3) 測定結果として質量とそのときの計測器の電流値を記録する。
(4) 各イオン種の検出位置を探す。
(5) (4)の結果から、表1のように質量Mxの位置に現れ、それが本来は質量Mx’のものであるとする。
【0046】
【表1】

【0047】
図4は、本発明により測定した質量スペクトル図であり、表2はその結果である。この図と表は、Ne(質量数10)とAr(質量数40)の2種類のガスを用いて測定した結果であり、それぞれピークの質量数は10.9と39.0に検出されている。従ってNeとArはそれぞれ+0.9と−1.0の差があり、補正する必要がある。
【0048】
【表2】

【0049】
(6) 校正によって求める補正係数をa’、b’とすると、数3の式(6)(7)で求めることができる。
【0050】
【数3】

【0051】
図4の例では、(8)(9)のように求められる。
(7) 上記で求めたa’、b’の値を用いて再度測定し、質量が合うことを確認する。
なお、校正作業を複数回おこない補正係数を平均して算出すると、校正の精度を向上させることができる。これらの作業により自動的に校正がおこなわれ、装置として使用するガス種に切り替えて測定した場合にも、質量に信頼性のある測定が可能となる。
【0052】
上述したように、本発明では、校正用ユニット12を使用する。
質量分析器10の校正を簡単にするため、校正用ガスボンベ12aとバルブ類を接続した校正用ユニット12を製作し、一時的または恒久的に設置する。ガスボンベ12aは2L程度の大きさで、ユニットを作業者が手軽に運べるサイズとする。ガス種としてはHe、Ne、Ar、Xeなどの希ガスを少なくとも2種類含み、水素希釈ガスでもかまわない。質量分析器の校正の際には事前に校正用ユニットを装置に接続し、校正ユニットのガスを用いてビームを出力して質量分析器の校正をおこなう。
この校正ユニット12の使用により、イオン注入装置10に校正用ガスラインとしてHeやArなどのガスラインを常設する必要はなくなる。また材料ガスボンベ7と入れ替えて校正用ガスボンベを接続する作業などは必要がない。コスト的にも作業的にも校正するために必要なイオン種のビームを手軽に出力することができる。
【0053】
また、上述したように、本発明では、質量分析システムを自動化している。
校正用ガス11を使用してビーム2を出力し、質量分析器10で測定することで既知の質量数の分布を確認することができる。ガスで使用した元素の質量数を校正処理装置に入力して測定分布結果から自動的に検出し、測定系の質量数軸を自動で調整するシステムとなっている。
この質量分析システムの自動化により、これまで手動で設定していた質量数軸の調整の時間が短縮できるとともに、人為的な間違いを防止することができる。
【0054】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の質量分析システムを備えたイオン注入装置の模式図である。
【図2】本発明の質量分析システムを備えたイオン注入装置の構成図である。
【図3】E×B分析方式の質量分析器の作動説明図である。
【図4】本発明により測定した質量スペクトル図である。
【図5】特許文献1の方法の模式図である。
【図6】特許文献2の装置の模式図である。
【図7】特許文献3の方法の模式図である。
【図8】特許文献3の装置の模式図である。
【図9】特許文献4の装置の模式図である。
【符号の説明】
【0056】
1 イオン源、2 イオンビーム、
3 処理基板(ガラス基板)、5 プロセス室、
7 材料ガス、8 ガス流量調整器(マスフロー)、9 流量制御ユニット、
10 質量分析器、11 校正用ガス、
12 校正ユニット、12a 校正用ガスボンベ、
13 校正ガスライン、14 校正処理装置(PC)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上のシリコン膜に不純物を注入するイオン注入装置用の質量分析システムであって、
ビーム中のイオンの質量を測定する質量分析器と、
2種以上の既知の不活性ガスからなる校正用ガスが充填された校正用ガスボンベと、
該校正用ガスボンベからイオン注入装置のイオン源として校正用ガスを遮断可能に供給する校正ガスラインと、
前記校正用ガスを用いて校正用ガスのイオンビームを発生させて質量分析器の校正を行う校正処理装置と、を備えたことを特徴とするイオン注入装置用の質量分析システム。
【請求項2】
前記校正処理装置により、前記校正用ガスのイオンビームの質量数と強度の関係を求め、該関係から強度がピークとなる2以上の質量数を検出し、該質量数と校正用ガスの既知の質量数から校正用の補正係数を演算する、ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項3】
基板上のシリコン膜に不純物を注入するイオン注入装置用の質量分析システムの校正方法であって、
前記イオン注入装置により、イオン源として2種以上の既知の不活性ガスからなる校正用ガスを供給して校正用ガスのイオンビームを発生させ、
質量分析器により、前記イオンビームの質量数と強度の関係を求め、該関係から強度がピークとなる2以上の質量数を検出し、該質量数と校正用ガスの既知の質量数から校正用の補正係数を演算する、ことを特徴とする質量分析システムの校正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−282749(P2008−282749A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127534(P2007−127534)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】