説明

イオン液体

【課題】融点が十分に低いイオン液体、並びにこのイオン液体を適用して成る燃料電池、キャパシタ色素増感型太陽電池及びリチウムイオン電池を提供すること。
【解決手段】一般式(1)で表されるイオン液体。
HA・X …(1)
(式中、RHAはカチオン成分を示し、R、R及びRは、それぞれ独立してアルキル基を示すと共に、R、R及びRから成る群より選ばれる少なくとも1つは、他の少なくとも1つと異なるという関係を満足し、a、b及びcはそれぞれ独立してアルキル基の炭素数を示すと共に、5≦a+b+c≦11という関係を満足し(但し、a、b及びcから成る群より選ばれる2つが2であり且つ残りの1つが1である場合は除く。)、Hは水素を示し、Aは窒素(N)又はリン(P)を示し、Xはアニオン成分を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体に係り、更に詳細には、所定の構造を有するイオン液体、並びにこのイオン液体を適用して成る燃料電池、キャパシタ、色素増感型太陽電池及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギーを多大に消費している国々においては、環境問題、エネルギー問題の解決が大きな課題となっている。
燃料電池は、発電効率が高く環境負荷抑制に優れており、これらの問題の解決に貢献が期待されている次世代型エネルギー供給デバイスである。
また、燃料電池は、電解質の種類により分類されるが、中でも固体高分子形燃料電池は、小型で且つ高出力を得ることができる。このため、小規模の定置型用、移動体用、携帯端末用のエネルギー供給源としての適用について研究・開発が進められている。
【0003】
このような固体高分子形燃料電池において、イオン伝導を担う固体高分子電解質としては、高分子鎖中にスルホン酸基やリン酸基などの親水性官能基を有する固体高分子材料が用いられている。
このような固体高分子材料は、特定のイオンと強固に結合しており、陽イオン又は陰イオンを選択的に透過する性質を有していることから、粒子、繊維又は膜状に成形し、電気透析、拡散透析、電池隔膜などの各種用途に利用されている。
【0004】
また、固体高分子形燃料電池は、高い総合エネルギー効率が得られる発電手段として現在改良が盛んに進められている。その主要な構成要素は、アノード、カソードの両電極と、ガス流路を形成するセパレータ板と、両極間を隔てる固体高分子電解質膜である。アノードの触媒上で生成したプロトンは、固体高分子電解質膜中を移動してカソードの触媒上に達し、酸素と反応する。従って、両極間のイオン伝導抵抗は、電池性能に大きく影響する。
【0005】
上述の固体高分子電解質膜を用いて燃料電池を形成するには、両電極の触媒と固体高分子電解質膜とをイオン伝導パスで接合する必要がある。そのために、高分子電解質の溶液と触媒粒子とを混合し、塗布・乾燥して両者を結合させた触媒層を電極に用い、電極の触媒と固体高分子電解質膜とを加熱下でプレスするという手法が一般的に用いられている。
【0006】
イオン伝導を担う高分子電解質には、一般に、パーフルオロカーボン系主鎖にスルホン酸基が導入されたポリマーが使用される。具体的な商品としては、デュポン(DuPont)株式会社製のナフィオン(NAFION)(登録商標)、旭硝子株式会社製のフレミオン(FLEMION)(登録商標)、旭化成ケミカルズ株式会社製のアシプレックス(ACIPLEX)(登録商標)などが使用される。
【0007】
パーフルオロスルホン酸系の高分子電解質は、パーフルオロカーボン系主鎖とスルホン酸基をもつ側鎖とから成り、スルホン酸基を主体とする領域とパーフルオロカーボン主鎖を主体とする領域とにミクロ相分離していると考えられている。また、スルホン酸基を含む相において、スルホン酸基はクラスターを形成していると考えられている。
そして、このパーフルオロカーボン系主鎖が凝集している部位が、パーフルオロスルホン酸系の高分子電解質の化学的安定性に寄与しており、スルホン酸基が集まってクラスターを形成している部位が、パーフルオロスルホン酸系の高分子電解質のイオン伝導に寄与していると考えられている。
【0008】
このような固体高分子形燃料電池においては、固体高分子電解質膜が乾燥すると、イオン伝導性が悪くなることから、従来においては、例えば、電解質成分のイオン交換基当量重量(EW値)を小さくすることによって、固体高分子電解質膜の湿潤状態を維持するようにしている。
【0009】
ところが、固体高分子電解質膜の電解質成分のイオン交換基当量重量(EW値)を小さくすると、イオン伝導性を高めることはできるものの、氷点下において、膜内に保持された水が凍結してしまうという問題点があった。
【0010】
そこで、この問題点を解決するために、非水系の電解質が検討されている。
非水系においてもイオン伝導性を有する電解質として、イオン液体が提案されている(非特許文献1参照。)。
この非特許文献1において、優れた電極反応特性(酸素還元反応性、水素酸化反応性)、イオン伝導特性、及び摂氏零度以下の低い融点という性質を兼ね備えるイオン液体として、ジエチルメチルアミントリフルオロメタンスルホネート([Dema][TfOH])などが報告されている。
この中で、[Dema][TfOH]は、120℃において、リン酸を凌駕する電極反応特性を有し、かつ、融点が−13.1℃であり摂氏零度を大きく下回る、優れた電解質であることが報告されている。
【0011】
【非特許文献1】「ケミカル コミュニケーション(Chemical Communications)」、2007年、p.2539−2541
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記非特許文献1に記載のイオン液体においては、融点が十分に低いものとなっていないという問題点があった。
【0013】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、融点が十分に低いイオン液体、並びにこのイオン液体を適用して成る燃料電池、キャパシタ色素増感型太陽電池及びリチウムイオン電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、下記一般式(1)で表される構造とすることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
HA・X …(1)
(式中、RHAはカチオン成分を示し、R、R及びRは、それぞれ独立してアルキル基を示すと共に、R、R及びRから成る群より選ばれる少なくとも1つは、他の少なくとも1つと異なるという関係を満足し、a、b及びcはそれぞれ独立してアルキル基の炭素数を示すと共に、5≦a+b+c≦11という関係を満足し(但し、a、b及びcから成る群より選ばれる2つが2であり且つ残りの1つが1である場合は除く。)、Hは水素を示し、Aは窒素(N)又はリン(P)を示し、Xはアニオン成分を示す。)
【0015】
即ち、本発明のイオン液体は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
HA・X …(1)
(式中、RHAはカチオン成分を示し、R、R及びRは、それぞれ独立してアルキル基を示すと共に、R、R及びRから成る群より選ばれる少なくとも1つは、他の少なくとも1つと異なるという関係を満足し、a、b及びcはそれぞれ独立してアルキル基の炭素数を示すと共に、5≦a+b+c≦11という関係を満足し(但し、a、b及びcから成る群より選ばれる2つが2であり且つ残りの1つが1である場合は除く。)、Hは水素を示し、Aは窒素(N)又はリン(P)を示し、Xはアニオン成分を示す。)
【0016】
また、本発明の燃料電池は、上記本発明のイオン液体を適用して成ることを特徴とする。
【0017】
更に、本発明のキャパシタは、上記本発明のイオン液体を適用して成ることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の色素増感型太陽電池は、上記本発明のイオン液体を適用して成ることを特徴とする。
【0019】
更にまた、本発明のリチウムイオン電池は、上記本発明のイオン液体を適用して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、所定の構造とするようにしたため、融点が十分に低いイオン液体、並びにこのイオン液体を適用して成る燃料電池、キャパシタ色素増感型太陽電池及びリチウムイオン電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明のイオン液体について詳細に説明する。
本発明のイオン液体は、下記一般式(1)で表される。
HA・X …(1)
(式中、RHAはカチオン成分を示し、R、R及びRは、それぞれ独立してアルキル基を示すと共に、R、R及びRから成る群より選ばれる少なくとも1つは、他の少なくとも1つと異なるという関係を満足し、a、b及びcはそれぞれ独立してアルキル基の炭素数を示すと共に、5≦a+b+c≦11という関係を満足し(但し、a、b及びcから成る群より選ばれる2つが2であり且つ残りの1つが1である場合は除く。)、Hは水素を示し、Aは窒素(N)又はリン(P)を示し、Xはアニオン成分を示す。)
【0022】
このような構造とすることにより、融点が十分に低いイオン液体となる。
具体的には、一般式(1)で表されるイオン液体に対し、分子力学計算を実施した結果より、対称性が低いカチオン(即ち、R、R及びRの全てのアルキル基が同一であるカチオン以外のカチオン)は、安定配座数が多いことが推察できる。
つまり、一般に、安定配座数と状態数(Ω)とは比例関係にある。即ち、状態数が増えると安定配座数も増える。そして、熱力学においては、エントロピー(S)と状態数(Ω)とは、ΔS=klnΩという関係にある(なお、kはボルツマン定数である。)。更に、熱力学においては、融点付近において、融点(Tm)とエントロピー(S)とエンタルピー(H)との間には、Tm=ΔH/ΔSという関係が成り立つ。
以上の関係から、対称性が低いカチオンは、安定配座数が多くなり、融点が低くなることが推察できる。
また、アルキル基の総炭素数(=a+b+c)は5〜11であることを要する。
アルキル基の総炭素数が5未満の場合には、カチオン成分分子量が小さく、安定配座数が少なくなるため、融点が十分に低くならない。
一方、アルキル基の総炭素数が11を超える場合には、カチオン成分分子量が大きく、ファンデルワールス力が大きくなり、カチオン成分分子の凝集性が強くなるため、融点が上昇する傾向を示す。従って、このような場合にも融点が十分に低くならない。
なお、Aが窒素(N)である場合は、アンモニウムカチオンであり、Aがリン(P)である場合は、ホスホニウムカチオンである。
【0023】
上記アルキル基としては、炭素数1〜9であって、直鎖状又は分鎖状のものを挙げることができる。
直鎖状のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基などを挙げることができる。
また、分岐アルキル基としては、例えばイソプロピル基、2−メチルプロピル基、3−メチルブチル基、4−メチルペンチル基、5−メチルヘキシル基、6−メチルヘプチル基、7−メチルオクチル基などを挙げることができる。
【0024】
更に、上記カチオン成分においては、各アルキル基R、R及びRから成る群より選ばれる少なくとも1つが、他の少なくとも1つと異なるという関係を満足すれば、特に限定されるものではない。具体的には、各アルキル基R、R及びRから成る群より選ばれる1つのアルキル基が、他の2つの同一のアルキル基と異なる場合と、各アルキル基R、R及びRから成る群より選ばれる1つのアルキル基が、他の2つの異なるアルキル基と異なる場合(各アルキル基R、R及びRの全てが異なる場合)とがある。
その中でも、上記カチオン成分においては、アルキル基の炭素数が全て異なることが望ましい。このような構成とすると、キラル構造体であるため、状態数が増加する。これによっても、融点が十分に低いものとなる。
【0025】
上記アニオン成分(X)としては、例えばビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸アニオン((CFSO)、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン(CFSO)、硫酸水素アニオン(HSO)、メチルスルホン酸アニオン(CHSO)、亜リン酸アニオン(HPHO)、リン酸二水素アニオン(HPO)などを挙げることができる。
【0026】
次に、本発明の燃料電池について詳細に説明する。
本発明の燃料電池は、上記本発明のイオン液体を燃料電池の電解質材料として適用して成るものである。
かかる燃料電池は、電解質の融点が十分に低いものであるため、例えば極寒地における燃料電池の運転を可能とする。これにより、燃料電池の運転領域を拡大することができる。
なお、上記本発明のイオン液体を燃料電池の電解質材料として用いるに当たり、上記本発明のイオン液体は、1種を単独で用いてもよく、複数種を任意の割合で組み合わせて用いてもよい。また、イオン液体を他の電解質(Nafionなど)に混合しても良い。
【0027】
次に、本発明のキャパシタについて詳細に説明する。
本発明のキャパシタは、上記本発明のイオン液体をキャパシタの電解質材料として適用して成るものである。
かかるキャパシタは、電解質の融点が十分に低いものであるため、例えば極寒地におけるキャパシタの利用を可能とする。これにより、キャパシタの利用領域を拡大することができる。
なお、上記本発明のイオン液体をキャパシタの電解質材料として用いるに当たり、上記本発明のイオン液体は、1種を単独で用いてもよく、複数種を任意の割合で組み合わせて用いてもよい。また、イオン液体をプロピレンカーボネートなどの溶媒に溶解させて用いても良い。
【0028】
次に、本発明の色素増感型太陽電池について詳細に説明する。
本発明の色素増感型太陽電池は、上記本発明のイオン液体を色素増感型太陽電池の電解質材料として適用して成るものである。
かかる色素増感型太陽電池は、電解質の融点が十分に低いものであるため、例えば極寒地における色素増感型太陽電池の利用を可能とする。これにより、色素増感型太陽電池の利用領域を拡大することができる。
なお、上記本発明のイオン液体を色素増感型太陽電池の電解質材料として用いるに当たり、上記本発明のイオン液体は、1種を単独で用いてもよく、複数種を任意の割合で組み合わせて用いてもよい。
【0029】
次に、本発明のリチウムイオン電池について詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン電池は、上記本発明のイオン液体をリチウムイオン電池の電解質材料として適用して成るものである。
かかるリチウムイオン電池は、電解質の融点が十分に低いものであるため、例えば極寒地におけるリチウムイオン電池の利用を可能とする。これにより、リチウムイオン電池の利用領域を拡大することができる。
なお、上記本発明のイオン液体をリチウムイオン電池の電解質材料として用いるに当たり、上記本発明のイオン液体は、1種を単独で用いてもよく、複数種を任意の割合で組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
<イオン液体の作製>
アルゴン(Ar)雰囲気のグローブボックス中で、ジメチルプロピルアミンとトリフルオロメタンスルホン酸とを等モル量となるよう秤量した。秤量後、液体窒素で冷却しながら、秤量したジメチルプロピルアミンとトリフルオロメタンスルホン酸を混合し、攪拌して、本例のイオン液体を得た。
【0032】
<安定配座数の計算>
分子力場計算(BOSS)と、安定配座を発生−探索するプログラムを用い、安定配座を探索し、ab initio計算で構造最適化を行うことにより、得られたイオン液体の室温における安定配座数を計算した。
【0033】
<融点の計測>
示差走査熱量測定(DSC)法により、得られたイオン液体の融点を計測した。
【0034】
(実施例2)
イオン液体の作製において、ジメチルプロピルアミンに替えて、エチルメチルプロピルアミンを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のイオン液体を得た。
また、実施例1と同様の方法により、安定配座数の計算及び融点の計測を行った。
【0035】
(実施例3)
イオン液体の作製において、ジメチルプロピルアミンに替えて、ブチルエチルメチルアミンを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のイオン液体を得た。
また、実施例1と同様の方法により、安定配座数の計算及び融点の計測を行った。
【0036】
(実施例4)
イオン液体の作製において、ジメチルプロピルアミンに替えて、ジエチルプロピルアミンを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のイオン液体を得た。
また、実施例1と同様の方法により、安定配座数の計算及び融点の計測を行った。
【0037】
(比較例1)
イオン液体の作製において、ジメチルプロピルアミンに替えて、トリメチルアミンを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のイオン液体を得た。
また、実施例1と同様の方法により、安定配座数の計算及び融点の計測を行った。
【0038】
(比較例2)
イオン液体の作製において、ジメチルプロピルアミンに替えて、ジメチルエチルアミンを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のイオン液体を得た。
また、実施例1と同様の方法により、安定配座数の計算及び融点の計測を行った。
【0039】
(比較例3)
イオン液体の作製において、ジメチルプロピルアミンに替えて、トリエチルアミンを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のイオン液体を得た。
また、実施例1と同様の方法により、安定配座数の計算及び融点の計測を行った。
【0040】
(比較例4)
イオン液体の作製において、ジメチルプロピルアミンに替えて、ジエチルメチルアミンを用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例のイオン液体を得た。
また、実施例1と同様の方法により、安定配座数の計算及び融点の計測を行った。
各例のイオン液体の仕様の一部を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
本発明外の比較例1のイオン液体は、融点が高いことが分かる。この理由は、アルキル基の対称性が高い構造を有するイオン液体であり、安定配座数が少なく、系の状態数が小さくなったためと推定される。
また、本発明外の比較例2のイオン液体も、融点が高いことが分かる。この理由は、アルキル基の炭素数が少ないイオン液体であり、安定配座数が少なく、系の状態数が小さくなったためと推定される。
【0043】
一方、本発明の範囲に含まれる実施例1のイオン液体は、比較例2のイオン液体に対して、著しく融点が低く、融点が十分に低いイオン液体であることが分かる。この理由は、炭素数を1つ増加させたことにより、安定配座数が増え、系の状態数が大きくなったためと推定される。
また、本発明の範囲に含まれる実施例2〜4のイオン液体も、融点が−14℃〜−27℃であり、融点が十分に低いイオン液体であることが分かる。
【0044】
また、本発明の範囲に含まれる実施例2及び3のイオン液体は、キラル構造体である。例えば、実施例2の場合は、R体、S体で、それぞれカッコ内に示した14ずつ配座の存在が予測され、両方を考慮すると28の配座の存在が予測される。これにより、融点が低くなる効果が期待される。
【0045】
更に、本発明外の比較例3のイオン液体は、アルキル基の対称性が高い構造を有するイオン液体である。このため、同じ総炭素数の実施例2に比べて、融点が劇的に上がる。
ただし、安定配座数が実施例1とほぼ同レベルであるにもかかわらず、融点が34.3℃と高くなっていることが分かる。
この理由は、現時点では完全に明らかではないが、次のような理由によるものと考えている。即ち、比較例3は、実施例1と比較して、カチオン成分のアルキル基の分子量が大きい。このため、カチオン成分の分子間のファンデルワールス力が大きくなり、カチオン成分の分子の凝集性が強くなるため、融点が上昇したものと推定している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されることを特徴とするイオン液体。
HA・X …(1)
(式中、RHAはカチオン成分を示し、R、R及びRは、それぞれ独立してアルキル基を示すと共に、R、R及びRから成る群より選ばれる少なくとも1つは、他の少なくとも1つと異なるという関係を満足し、a、b及びcはそれぞれ独立してアルキル基の炭素数を示すと共に、5≦a+b+c≦11という関係を満足し(但し、a、b及びcから成る群より選ばれる2つが2であり且つ残りの1つが1である場合は除く。)、Hは水素を示し、Aは窒素(N)又はリン(P)を示し、Xはアニオン成分を示す。)
【請求項2】
上記アルキル基の炭素数が全て異なることを特徴とする請求項1に記載のイオン液体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のイオン液体を適用して成ることを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のイオン液体を適用して成ることを特徴とするキャパシタ。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のイオン液体を適用して成ることを特徴とする色素増感型太陽電池。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のイオン液体を適用して成ることを特徴とするリチウムイオン電池。

【公開番号】特開2010−70453(P2010−70453A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235880(P2008−235880)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】