イミダゾール環末端可撓性分岐をグラフトしたハイブリッド無機−有機ポリマーを基剤とするポリマー電解質膜(PEM)
組成物は、珪素原子及び酸素原子を含むポリマー網目構造物、可撓性結合基及び末端基を含む、前記ポリマー網目構造物内の複数の珪素原子に結合された第一の有機側鎖を含み、前記末端基が孤立電子対を提供する1個以上の原子を含む。組成物はプロトン伝導性膜の形成に使用しうる。例証となる実施例においては、前記ポリマー網目構造物は有機−無機ハイブリッド網目構造物であり、前記末端基は含窒素複素環を含みうる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との関係
本出願は、そのすべての内容が参考として本明細書に導入されている、2003年5月28日に出願された米国仮特許願第60/473,957号の優先権を主張する。
発明の分野
本発明は、プロトン伝導性物質、特に燃料電池のためのプロトン電解質膜(PEM)に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン電解質膜(PEM)は、燃料電池、炭化水素燃料の改質/部分的酸化、水素分離/精製、汚染物質除去、ガス検出、及びエネルギー貯蔵及び変換に関するその他のプロセスにおいて重要な構成要素である。100乃至200℃の温度範囲で、プロトン伝導率は高い(>0.01S/cm)が湿度依存性はほとんど又はまったくない膜が、エネルギー効率及び一酸化炭素毒に対するアノード触媒の許容度がずっと高いPEM燃料電池を新たに生み出すのに重要である。
しかしながら、Nafionのような従来のペルフルオロスルホン酸ポリマーは、低湿度及び高温領域における不十分なプロトン伝導率、種々の湿度における寸法変化、燃料の交差、高価格及び不十分な親水性を含む重要な不利点を有する。
近年開発されたすべてのプロトン伝導性膜のうち、ポリベンズイミダゾール(PBI)-H3PO4膜が最も高性能である。(PBI)-H3PO4膜は、150℃より高温におけるプロトン伝導率が高く(相対湿度10%の大気中で>10-2S/cm)、機械的性質が良好で熱安定性が高い(J Electrochem Soc 1995, Vol. 142, p. L121)。しかしながら(PBI)-H3PO4膜は、無水状態ではプロトン伝導率が非常に低い(160℃未満で1×10-4S/cm未満)と報告されている(Solid State Ion. 2002, vol. 147, p. 181及びProg. Polym. Sci. 2000, vol. 25, p. 1463)。その上、そのプロトン伝導率は水依存性であるため、電気化学的デバイスにおける適用は限定される。例えば、燃料電池が作業中に多量の水を製造しうる場合にのみ燃料電池においてPEM電解質として使用しうる。更に、H3PO4は、特にH3PO4含量が高い場合には、そのような純粋な有機ポリマー膜から容易に浸出しうる。H3PO4の含量が高すぎる場合には、機械的性質も低下する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、低湿度におけるプロトン伝導率が高く、構造の密度が高く、機械的性質の良好な新規電解質膜の開発は、依然として、高温PEM燃料電池及びその他の電気化学的デバイスの開発の成功の鍵である。
従来の材料は、Jacobらによる米国特許願公告第2003/0144450号、Kerresによる国際特許願第WO 01/93092号及び同第WO 01/84657号、Armandらによる米国特許第5,283,310号、Akitaらによる同第6,214,060号、及びKreuerらによる同第6,264,857号に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の要約
組成物は、珪素原子及び酸素原子を含むポリマー網目構造物、可撓性結合基及び末端基を含む、前記ポリマー網目構造物内の複数の珪素原子に結合された第一の有機側鎖を含み、前記末端基は孤立電子対を提供する1個一以上の原子を含む。組成物はプロトン伝導性膜の形成に使用しうる。例証となる実施例においては、前記ポリマー網目構造物は有機−無機ハイブリッド網目構造物であり、前記末端基は含窒素複素環を含みうる。
詳細な説明
新規プロトン伝導性膜は、単純なゾル−ゲル法を用いて製造された。イミダゾール環が有機−無機コポリマー網目構造物にグラフトさせた可撓性分岐に結合されているので、イミダゾール環が高度に局所的に運動しうる。無機Si-O-Si網目構造物は、膜内に有意量のH3PO4を吸収しうる。膜は優れたプロトン輸送特性を有する。
一方法においては、末端基が可撓性結合基により柔軟にシラン基に結合しているシラン前駆物質を合成した。
前駆物質の合成
イミダゾール環を末端に有するアルコキシシラン誘導体を合成した。イミダゾール環は、例えば、T. Hamaguchi et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 10, 2657(2000);J. F. Patoiseauらによる米国特許第5,091,415号のような文献に記載されている単純な求核置換反応によりアルコキシシランに結合させた。
求核置換反応は、それぞれ、-SH及び-X(X=Cl、Br、及びI)活性基を有するアルコキシシリル及びイミダゾール環を含む化学物質間で起こりうる。反応は、触媒としてKOH、CH3CH2OK、又はK2CO3を用い、室温乃至90℃で起こりうる。
前駆物質は、市販の化学物質から単純な求核付加反応又は求核置換反応により合成しうる。多くの例証となる実施例を以下に記載する。
【0005】
〔実施例1a〕
2-トリメトキシシリルプロピルチオメチル-1H-ベンズイミダゾールの合成
【0006】
【化1】
【0007】
冷却器及びArガスラインを具備する三口フラスコ中で攪拌しながら、0.01モルの2-(クロロメチル)ベンズイミダゾールを25mlのメタノール中に溶解させた。0.01モルの3-メルカプトプロピルトリメトキシシランを溶液に添加し、10分間攪拌し、次いで10mlのメタノールに溶解させた0.01モルのKOHを滴下した。Arの保護下室温において12時間の反応が完了した後、溶液を濾過し、白色沈殿物のKClを除去した。溶剤のエタノールを減圧下で濾液から蒸発させた後、褐色の粘性液体物質2-トリメトキシシリルプロピルチオメチル-1H-ベンズイミダゾールが得られた。得られた物質のFTIRによれば、640cm-1及び933cm-1における芳香族環-CH2-Clの特性ピークが消失し、596cm-1における-CH2-S-及び696cm-1におけるC-S-Cのピークが出現した。
【0008】
〔実施例1b〕
図1は、2-トリエトキシシリルプロピルチオメチル-1H-ベンズイミダゾール(BISSi、実施例1aのトリエトキシ類似物)を合成するのに使用されるスキームを更に説明する。
1.9634gの3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン(10ミリモル)を10mlの無水エタノールに溶解させ、0.84gのカリウムエトキシド(10ミリモル、24%エチルアルコール溶液)と混合し、次いで10分間攪拌した。1.6661gの2-(クロロメチル)ベンズイミダゾール(10ミリモル)の20ml溶液を前述の混合物に滴下し、約12時間攪拌した。反応が完了したか否かを確認するためにはTLCを使用した。白色沈殿物のKClを濾過により除去した。酢酸エチル及びヘキサン(体積比50/50)で溶離させたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより濾液から約2.2gの2-トリエトキシシリルプロピルチオメチル-1H-ベンズイミダゾールが分離された(収率60%)。黄色のオイル様液体であった。CDCl3中の1H-NMR:δ=10.80(1H, brs), 7.17-7.66(4H, m), 3.95(2H, s), 3.75(6H, m), 2.50(2H, t, JH-H=7.30), 1.65(2H, m), 1.54(9H, t, JH-H=7.01), 0.65(2H, t, JH-H=8.18)。
【0009】
〔実施例2a〕
2-[(p-2-トリメトキシシリルエチルフェニルメチル)チオ]-1H-イミダゾール(ImSSi)の合成
【0010】
【化2】
【0011】
実施例1aにおいて前述した方法と同様な方法を用い、2-メルカプトイミダゾール及び((クロロメチル)フェニルエチル)-トリメトキシシランから2-[(p-2-トリメトキシシリルエチルフェニルメチル)チオ]-1H-イミダゾール(ImSSi)を合成した。
冷却器及びArガスラインを具備する三口フラスコ中で攪拌しながら、0.01モルの2-メルカプトイミダゾールを25mlのメタノール中に溶解させた。0.01モルの((クロロメチル)フェニルエチル)-トリメトキシシランを溶液に添加し、10分間攪拌し、次いで10mlのメタノールに溶解させた0.01モルのKOHを滴下した。Arの保護下室温において12時間の反応が完了した後、溶液を濾過し、白色沈殿物のKClを除去した。溶剤のエタノールを減圧下で濾液から蒸発させた。
得られたImSSiは、淡い黄色の粘性液体であった。BISSi(実施例1aを用いて調製した)及びImSSiをKBrで加水分解して濃縮した固体のFTIRによれば、試薬の640cm-1における-CH2-Clの特性ピークが消失したことが示され、693cm-1におけるBISSiの-CH2-S-CH2-及び596cm-1におけるImSSiの-S-CH2-基のピークが観察され、イミダゾール環がS-C結合によりアルコキシシランに結合したことが示された。
【0012】
〔実施例2b〕
図2は、2-[(p-2-トリエトキシシリルエチルフェニルメチル)チオ]-1H-イミダゾール(ImSSi、実施例2aのトリエトキシ類似物)を合成するのに使用されるスキームを更に説明する。
ImSSiは、前述した方法と同一の方法を用い、2-メルカプトイミダゾール及び((クロロメチル)フェニルエチル)-トリエトキシシランから合成した。1.0001gの2-メルカプトイミダゾール(10ミリモル)を20mlの無水エタノールに溶解させ、0.84gのカリウムエトキシド(10ミリモル、24%エチルアルコール溶液)と混合し、次いで10分間攪拌した。2.7482gの((クロロメチル)フェニルエチル)-トリエトキシシラン(10ミリモル)を混合物に滴下し、次いで6時間攪拌した。白色沈殿物のKClを濾過により除去した。酢酸エチル及びヘキサン(体積比50/50)で溶離させたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより濾液から約2.4gのImSSiが分離された(収率65%)。無色の粘性液体である。DMSO-d6中の1H-NMR:δ=12.20(1H, bs), 7.11(6H, m), 4.17(2H, s), 3.76(6H, m), 2.56(2H, m), 1.15(9H, t, JH-H=6.95), 0.84(2H, m)。
【0013】
〔実施例3〕
図3は、2-((3-トリエトキシシリルプロピル)チオ)-1H-イミダゾール(ImSSib)を合成するのに使用されるスキームを説明する。
ImSSibは、同一の方法を用い、2-メルカプトイミダゾール及び3-ヨードプロピルトリエトキシシランから合成した。1.0001gの2-メルカプトイミダゾール(10ミリモル)を20mlの無水エタノールに溶解させ、0.84gのカリウムエトキシド(10ミリモル、24%エチルアルコール溶液)と混合し、次いで10分間攪拌した。2.9017gの3-ヨードプロピルトリエトキシシラン(10ミリモル)を混合物に滴下し、次いで12時間攪拌した。
白色沈殿物のKClを濾過により除去した。酢酸エチル及びヘキサン(体積比50/50)で溶離させたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより濾液から約2.1gのImSSibが分離された(収率78%)。無色の粘性液体であった。DMSO-d6中の1H-NMR:δ=7.11(2H, s), 3.80(6H, m, JH-H=6.97), 3.00(2H, t, JH-H=7.05), 1.73(2H, m), 1.20(9H, t, JH-H=6.96), 0.76(2H, m)。
【0014】
〔実施例4〕
図4は、2-メチルジエトキシシリル-プロピルチオメチル-1H-ベンズイミダゾールを合成するのに使用されるスキームを説明する。
図4に示されるスキームは、実施例1bにおいて前述した方法と同様な方法を使用する。DMSO-d6中の前駆物質の1H-NMRデータ:δ=7.55(2H, m, Ar-H), 7.20(2H, m, Ar-H), 3.98(2H, s, BI-CH2-S), 3.66(4H, q, JH-H=6.98, -O-CH2-), 2.54(2H, t, JH-H=7.20, S-CH2-), 1.57(2H, m, -CH2-), 1.14(6H, t, JH-H=6.98, -CH3), 0.62(2H, t, JH-H=8.30, -CH2-), 0.01(3H, s, -CH3)。収率:65%。
【0015】
〔実施例5〕
2-トリメトキシシリルプロピルチオ-1H-イミダゾールの合成
【0016】
【化3】
【0017】
冷却器及びArガスラインを具備する三口フラスコ中で攪拌しながら、0.01モルの2-メルカプトイミダゾールを25mlのメタノール中に溶解させた。0.01モルの3-クロロプロピルトリエトキシシランを溶液に添加し、10分間攪拌し、次いで10mlのメタノールに溶解させた0.01モルのKOHを滴下した。フラスコを油浴に入れ、温度を75℃に上昇させた。Arの保護下室温において75℃で3時間の反応が完了した後、溶液を室温に冷却し、溶液を濾過して白色沈殿物のKClを除去した。溶剤のエタノールを減圧下で濾液から蒸発させた後、明るい黄色の粘性物質である2-トリメトキシシリルプロピルチオ-1H-イミダゾールが得られた。
【0018】
〔実施例6〕
2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)スルホニル]-1H-イミダゾール
【0019】
【化4】
【0020】
2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)スルホニル]-1H-イミダゾールの合成:10ミリモルの2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)チオール]-1H-イミダゾールを20mlのエタノールに溶解させ、次いで20ミリモルのm-クロロ過安息香酸のエタノール溶液を滴下した。6時間攪拌した後、減圧下で溶剤を除去し、m-クロロ安息香酸を除去するために白色固体をエーテルで抽出した。残存する粘性固体が生成物である。FTIRにより、1260cm-1にS=O基のピークが出現したことが示された。
前駆物質のその他の実施例
これらには、(i)3-(トリエトキシシリル)プロピル 3-(1H-イミダゾール-2-イルチオ)-2-メチルプロパノエート:
【0021】
【化5】
【0022】
及び(ii)3-(ジエトキシ(メチル)シリル)プロピル 3-(1H-イミダゾール-2-イルチオ)プロパノエート:
【0023】
【化6】
【0024】
が含まれる。
前駆物質の調製に使用しうる、イミダゾール環を含む化合物のその他の例には、2-(クロロメチル)ベンズイミダゾール、2-メルカプトイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプト-5-メチルベンズイミダゾール、4-ブロモ-1H-イミダゾール、又は2-クロロベンズイミダゾール等が含まれる。
前駆物質の合成に使用しうる、活性な-X又はSH基を有するアルコキシシランのその他の例には、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-ブロモプロピルトリメトキシシラン、11-ブロモウンデシルトリメトキシシラン、クロロメチルメチルジエトキシシラン、((クロロメチル)フェニルエチル)-トリメトキシシラン、(p-クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルジメチルメトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、及び3-ヨードプロピルトリメトキシシラン等が含まれる。
求核付加反応は、イミダゾール環を有する化合物のような複素環も含む化合物の-SH基、及びアルコキシシリルを含むアクリレート又はメタクリレート間で起こりうる。求核付加反応は塩基性溶剤中で起こりうる。例えば、少量のKOHを触媒として使用しうる。この反応は、室温において数分間で完了しうる。
【0025】
例えば、求核置換反応は以下のように記載しうる。
A-X+B-SH → A-S-B
式中、Xはハロゲンである。Aはアルコキシシランであり、Bは含窒素複素環を含む化合物であるか、又はその逆である(Aが含窒素複素環を含む化合物であり、Bがアルコキシシランである)。
-SH基を含む化合物の例には、2-メルカプトイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプト-5-メチルベンズイミダゾール、及びそれらの誘導体が含まれる。
アルコキシシリルを含むアクリレート又はメタクリレートには、(3-アクリルオキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3-アクリルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3-アクリルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタクリルオキシメチル)ジメチルエトキシシラン、メタクリルオキシメチルトリエトキシシラン、メタクリルオキシメチルトリメトキシシラン、メタクリルオキシプロピルジメチルエトキシシラン、メタクリルオキシプロピルジメチルメトキシシラン、メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン等がある。
硫黄原子がイミダゾール環(又は他の含窒素複素環)に直接結合している場合には、過酸化物により酸化されてスルホニル(-SO2-)基となり、-SO2-基が強い電子吸引効果を有するのでイミダゾール環上のプロトンの活性を増大させる。特定例には、2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)スルホニル]-1H-イミダゾール及び2-[(3-メチルジエトキシシリルプロピルプロピニル)スルホニル]-1H-イミダゾールが含まれる。
更なる前駆物質の例には、(iii)2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)スルホニル]-1H-イミダゾール:
【0026】
【化7】
【0027】
及び(iv)3-(ジエトキシ(メチル)シリル)プロピル 3-(1H-イミダゾール-2-イルスルホニル)プロパノエート:
【0028】
【化8】
【0029】
が含まれる。
グラフト化及びハイブリッド無機−有機ポリマー
使用しうる物質の例には、ビス(3-メチルジメトキシシリル)ポリプロピレンオキシド(MDSPPO)及び例えば、ポリ(ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)-g-トリメトキシシリルメタクリレート(TSMA)、ポリ(スチレンブタジエン)コポリマー(SBゴム)-g-トリメトキシシリルメタクリレート(TSMA)、及びスチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(SBS)-g-トリメトキシシリルメタクリレート(TSMA)等のようなアルコキシシラングラフトポリマーゴムが含まれる。
本発明による改良された膜を調製するのに使用しうる、シラングラフト熱可塑性物質のようなその他のシラングラフトポリマーはまた、そのすべての内容が参考として本明細書に導入されている2003年5月28日に出願された米国仮特許願第60/473,812号にも記載されている。
本明細書に記載されている前駆物質は、改良されたプロトン伝導性膜において使用するポリマー連鎖又は網目構造物を形成するのに使用しうる。
プロトン伝導性膜
水に代わるプロトン溶剤としてのイミダゾール環をグラフトしたハイブリッド無機−有機コポリマーを基剤とする新規一連のプロトン伝導性膜は、単純なゾル−ゲル法を用いて製造した。これらの膜においては、イミダゾール環が有機−無機コポリマー網目構造物にグラフトされた可撓性(短い、有機)分岐に結合しているので、イミダゾール環は高度に局部的に運動しうる。無機Si-O-Si網目構造物は、膜内に有意量のH3PO4を吸収しうる。従って、プロトンは、いわゆるグロータスタイプの機構により膜内を輸送されうる。
図5は、膜内のイミダゾール環及びH3PO4間に起こりうるプロトン輸送プロセスを模式的に示す。図は、複素環の一窒素原子がH3PO4からプロトンを受け、もう一方の窒素原子がプロトンを酸イオンに手放すことを示す。イミダゾール環は、無機網目構造物又はハイブリッド無機−有機コポリマー網目構造物のような網目構造物に柔軟に結合している。
【0030】
前節は、例えば、ハイブリッド無機−有機コポリマーの調製を容易にするために単純な求核置換反応でイミダゾール環をアルコキシシランにグラフトする前駆物質の合成を記載した。これらのコポリマー及びH3PO4を基剤とするプロトン伝導性膜(PEM)は、低い相対湿度における高いプロトン伝導率、優れた機械的性質、及び高温安定性を示す。
新規膜は無水状態で高いプロトン伝導率を有することが可能であるため、水の存在に依存しないプロトン伝導率を有する。又はイブリッド無機−有機コポリマーであるため、新規膜は良好な機械的性質及び高い熱安定性を有することが可能である。それらは、燃料電池及びその他の電気化学的デバイスにおける適用の可能性が大きい。
プロトン伝導率はH3PO4含量に伴い上昇し、1モルのイミダゾール環及び7モルのH3PO4を有する膜の場合には、乾燥雰囲気中110℃において3.2×10-3S/cmに達することが見いだされた。相対湿度(RH)が20%未満の環境においては、プロトン伝導率は110℃において4.3×10-2S/cmである。TGA分析によれば、これらの膜は乾燥空気中で250℃まで熱的に安定であることが示され、高温PEM燃料電池の膜として使用しうる良好な潜在能力があることが示された。
新規膜は無水状態及び低い相対湿度における高いプロトン伝導率、高い熱安定性、良好な機械的性質、及び良好な耐水性を有する。それらは、高温PEM燃料電池及びその他の電気化学的デバイスにおけるPEM電解質として卓越した潜在能力を有する。
新規ハイブリッド無機−有機コポリマープロトン伝導性膜の合成にはゾル−ゲル法を使用した。すべての前駆物質を(エタノール、メタノール、THF、酢酸エチル等のような)伝統的な溶剤に溶解させ、触媒として酸を用い水で加水分解させた。ゾルを数時間攪拌した後、所定量のH3PO4を添加し、さらに数時間攪拌した。ついで、得られたゾルをポリスチレン又はガラス製のペトリ皿に注ぎ、60℃において数日間乾燥させてゲルを形成し、溶剤を蒸発させた。溶剤の蒸発率は、実質的に膜の機械的性質に影響を及ぼしうるので制御しうる。
【0031】
イミダゾール環グラフト膜の31P NMRデータ
図6は、(A)2M-3T-1BISSi-3P(2M-3T-1BISSi-3H3PO4)及び(B)2M-2Oc-1T-1ImSSi-5Pの組成を有する2種のハイブリッド無機−有機膜の32P NMRスペクトルを示す。挿入図は、−11.3ppm及び−23.68ppm付近の弱いピークを示すための拡大強度スペクトルを示す。
3つの31P共鳴ピークが観察された。それらのうちの1つは弱すぎて完全なスペクトルでは明らかではない。δ=0ppmにおける主要なピークは、解離していないH3PO4及びH4PO4+及びH2PO4-のようなその他の解離種に帰属される。後者の2種は、解離していないH3PO4のシグナルの2ppm以内であることが知られている。δ≒−11ppm及び−24ppmにおける弱いピークは、ピロリン酸及びトリポリリン酸の末端単位に帰属される。これらの弱いピークは、P-O-Si結合により1個又は2個の珪素原子に結合しているホスフェートに帰属され、このことは、H3PO4がハイブリッド無機−有機コポリマーにおけるSi-O-Si網目構造に結合していることを意味する。2つの弱いピークの積分は、膜の総31P共鳴ピークの約20%である。このことは、リン酸の約80%が、解離していないH3PO4及びH4PO4+及びH2PO4-のような解離種を含む遊離した形で存在することを示唆する。
【0032】
TMSPBIを基剤とする膜
2-トリメトキシシリルプロピルチオメチル-1H-ベンズイミダゾール(TMSPBI)をグラフトしたハイブリッド無機−有機コポリマーを基剤とするプロトン伝導性膜の製造:MDSPPO(Gelest、96%;MW600〜900)、テトラエトキシシラン(TEOS)、及びTMSPBIをエタノールと混合することにより前駆物質溶液を調製した。組成は、1モルのMDSPPO、1〜2モルのTEOS、及び0.5モルのTMSPBIである。20分攪拌した後、前駆物質溶液に0.5N HCl水溶液を滴下し、更に30分間攪拌した。H3PO4を滴下した後、溶液を1〜3時間攪拌してゾルを形成した。ゾルをペトリ皿に注いだ。60℃において数日、80℃において3時間、及び100℃において1時間膜を乾燥させて有機溶剤及び水を蒸発させた。試料は、xM-yT-zBI-mP(式中、x、y、及びzは、それぞれMDSPPO、TEOS、及びTMSPBIにおけるSiのモル数を示し、mはH3PO4のモル数を示す)としてモル組成により表示した。
図7Aは、2M-3T-1BI-xP(x=0、3、5、7)の組成を有する試料の温度に対するTGA及びDSC曲線を示し、膜が210℃まで熱的に安定であることを示す。
試料は良好な機械的性質を有した。空気とのゲル接触面積を低下させることによりゲルをゆっくり乾燥させた。圧力は制御しなかったが、圧力制御は再現性のある性質を得るのに有用であろう。
図7Bは、無水条件下でインピーダンススペクトルを用いて測定されたこれらの試料のプロトン伝導率を示す。試料2M-3T-1BI-5P及び2M-3T-1BI-7Pの125℃におけるプロトン伝導率は、それぞれ1.0×10-3S/cm及び1.5×10-3S/cmである。プロトン伝導率は、膜をAr中60℃において5時間及び80℃において2時間乾燥させて水及び有機溶剤を除去した後にAr中で得られた。
【0033】
TMSPIを基剤とする膜
2-[(p-トリメトキシシリルエチルフェニルメチル)チオ]-1H-イミダゾール(TMSPI)をグラフトしたハイブリッド無機−有機コポリマーを基剤とするプロトン伝導性膜の製造:MDSPPO(Gelest、96%;MW600〜900)、TEOS(Ardrich、98%)、及びTMSPIをエタノールと混合することにより前駆物質溶液を調製した。組成は、1モルのMDSPPO、1〜2モルのTEOS、及び0.5モルのTMSPIである。20分攪拌した後、前駆物質溶液に0.5N HCl水溶液を滴下し、更に30分間攪拌した。H3PO4を滴下した後、溶液を1〜3時間攪拌してゾルを形成した。ゾルをペトリ皿に注いだ。60℃において数日、80℃において3時間、次いで100℃において1時間膜を乾燥させて有機溶剤及び水を蒸発させた。試料は、xM-yT-zIm-mP(式中、x、y、及びzは、それぞれMDSPPO、TEOS、及びTMSPIにおけるSiのモル数を示し、mはH3PO4のモル数を示す)としてモル組成により表示した。
図8Aは、2M-3T-1Im-xP(x=3及び5)の組成を有する試料のTGA曲線を示し、新規膜が250℃まで熱的に安定であることを示す。図4には、乾燥Ar中で測定された試料のプロトン伝導率が示されている。2M-3T-1Im-5Pの組成を有する試料のプロトン伝導率は250℃において1.0×10-3S/cmである。
図8Bは、膜を乾燥Ar中60℃において5時間及び80℃において2時間乾燥させて水及び有機溶剤を除去した後にAr中で得られた、2つの試料2M-3T-1Im-xP(x=3及び5)のプロトン伝導率を示す。
【0034】
BISSi、ImSSi、及びImSSibを基剤とする膜
前述のようにして調製して得られたBISSi、ImSSi、及びImSSibを、ビス(3-メチルジメトキシシリル)ポリプロピレンオキシド(MDSPPO、MW600〜900)、1,4-ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン(BTMSEB)、ビス(トリエトキシシリル)オクタン(BTESO)、及びテトラエトキシシラン(TEOS)と一緒にエタノール中に溶解させた。20分攪拌した後、前駆物質溶液に0.5N HCl水溶液を滴下し、更に12時間以上攪拌した。最後に、H3PO4を滴下し、溶液を更に1〜2時間攪拌して均一なゾルを形成した。
試料は、xM-yB(又はO)-zT-mBISSi(ImSSi/ImSSib)-nP(式中、x、y、z、及びmは、それぞれMDSPPO、BTMSEB(又はBTESO)、TEOS、及びBISSi(又はImSSi/ImSSib)におけるSiのモル数を示し、nはH3PO4のモル数を示す)としてモル組成により表示した。この研究においては、x=2、y=0又は2、z=3又は1、m=1、及びn=0、3、4、5、6、及び7である。膜は、60℃において3日、80℃において3時間、次いで100℃において1時間乾燥させて有機溶剤及び水を蒸発させた。
従って、組成物の表示に使用した省略形は、MDSPPO(ビス(3-メチルジメトキシシリル)ポリプロピレンオキシド)に関してはM、BTMSEB(1,4-ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン)に関してはB、TEOS(テトラエトキシシラン)に関してはT、及びリン酸(H3PO4)に関してはPである。
無水状態で加水分解及び縮合されたBISSiのプロトン伝導率は、80℃において2×10-7S/cm、及び100℃において7×10-7S/cmであり、加水分解及び縮合されたBISSiの50℃におけるそれは2×10-7S/cmであり、新規膜がイミダゾール末端エチレンオキシド(EO)と同様なプロトン伝導能力を有することが示された。プロトン伝導率は、対応する水素結合パターンを認識するイミダゾール環間のプロトン移動、その後のグロータスタイプの機構により生じる。
【0035】
組成2M-3T-1BISSi(又はImSSi)-nP(n=0、3、5、7)及び2M-2B(又はO)-1T-1BISSi-nP(n=4、及び6)を有するすべての膜は良好な機械的強さを有し、非常に可撓性である。厚さ0.1mm未満の自立性の膜は、型に依存して容易に大きな寸法に成形されうる。これらの膜は周囲空気中何日も非融解性を保持する。室温において2時間、次いで70℃で2時間水中に浸漬したのち、組成2M-2B-1T-1BISSi-6P及び2M-3T-1BISSi-5Pを有する試料においてわずか約30%のH3PO4が浸出した。
膜におけるH3PO4の高い安定性は、良好なSi-O網目構造物親和性及びH3PO4及びMDSPPOにより導入されるPEO連鎖間の水素結合に帰する。イミダゾール環及びH3PO4間の相互作用は、グラフトされたイミダゾール環を有する膜におけるH3PO4の高い安定性のもう一つの理由である。イミダゾール環及びH3PO4間の強い相互作用は、強い幅広ピークが2500乃至3200cm-1に観察されるグラフトされたベンズイミダゾール及びH3PO4を有する膜のFTIRスペクトルにより確認された。
X線回折スペクトルは、得られたすべての膜が非晶質であることを示す。乾燥Ar中、100℃から140℃まで全部で6時間かけて加熱した後、XRDにはピークが観察されず、無機Si−H3PO4ゲルにおいてすでに報告されているように、Si-O-Si網目構造物及びH3PO4間には結晶化が起こらないことが示された。
H3PO4を有する膜のFTIRスペクトルは約2920cm-1にNH+基の特性吸収を示し、新規膜内のH3PO4がイミダゾール環にプロトンを加えることを示した。このことは、H3PO4が強い水素結合でPBIと相互作用するが、イミダゾール基にプロトンを加えない従来のPBI/ H3PO4膜とは異なる。2M-3T-1BISSi-3H3PO4の組成を有する一試料の31P MAS-NMRスペクトルは、膜内の約80%のH3PO4が、解離していないH3PO4及び(H4PO4+及びH2PO4-のような)解離種を含む遊離した形で存在し、その他のH3PO4はP-O-Si結合によりSi-O-Si網目構造物に結合していることを示した。
【0036】
図9は、室温から400℃まで乾燥空気中で3℃/分の加熱速度で測定された2M-3T-1BISSi-nP(n=3、5、及び7)及び2M-2B(又はO)-1T-1BISSi-6PのTGA曲線を示す。2M-3T-1BISSi-nPの膜の場合には、H3PO4含量の増大に伴って分解の開始温度が低下する。H3PO4含量n=0、3、5、及び7の膜の場合には、それぞれ、約300℃、230℃、220℃、及び190℃であり、H3PO4を添加すると、酸分子のハイブリッド無機−有機コポリマー網目構造物への錯化が徐々に弱くなり、PPOを基剤とするポリマー主鎖を酸化するので、膜の熱安定性を低下させることを示す。膜の熱安定性は、BTMSEB及びBTESOの添加により改良された。BTMSEB及びBTESOを有する膜の分解開始は約250℃である。BISSiの結合基内のベンゼン環は熱安定性を増大しうる。
無水状態におけるすべての膜のプロトン伝導率は、室温(RT)乃至約140℃において0.01Hz〜5MHzの周波数範囲でSolartron 1255/1286インピーダンス分析器を用いて測定した。すべての膜はあらかじめ乾燥Ar中60℃で6時間、80℃で3時間、及び100℃で2時間加熱し、膜内の大部分の水を除去した。プロトン伝導率データは、試料を乾燥Ar中で安定させるために少なくとも2時間その温度に保持した後に測定した。
図10は、膜2M-3T-1BISSi(ImSSi)-xP(x=3、5、及び7)、及びImSSbを基剤とする膜のプロトン伝導率を示す。すべての膜についてプロトン伝導率は温度とともに増大し、膜内のH3PO4含量が5より大きくなると100℃より高温で10-3S/cmに達する。2M-3T-1ImSSi-7Pの組成を有する試料については、110℃において3.2×10-3S/cmである。プロトン伝導率は、既報の従来のポリマー-H3PO4物質と同様にH3PO4含量とともに増大し、H3PO4自己解離に由来するプロトンが新規膜におけるプロトン伝導率の主要な発生源であることを示す。従来の自立性PBI-2.9H3PO4と比較して、新規膜は高いプロトン伝導率を有する(9-13)。このことは、PBI膜内のH3PO4はイミダゾール環と強い相互作用を有するが、新規膜内のそれは前述のように主として遊離した形で存在し、イミダゾール環にプロトンを加えるという事実に帰する。
【0037】
図11は、種々のH3PO4含量に関するBISSi-P膜のプロトン伝導率データを示す。イミダゾールグラフト膜2M-3T-1ImSSi-5Pを2M-3T-5Pの組成を有するそれと比較すると、イミダゾールグラフト膜のプロトン伝導率のほうが、特に低温範囲では小さいことを見出しうる。ベンズイミダゾール含量の増大に伴って、膜のプロトン伝導率は低下する(図11を参照されたい)。可能な理由の一は、PBI-H3PO4-イミダゾール系において観察されるように膜の粘度が高いためにイミダゾールの局所的移動度が圧迫されるということである。従って、水分子のようなプロトン輸送の媒体としてのイミダゾール環の作用は、プロトン伝導率を向上させるほど十分には大きくない。しかしながら、イミダゾール(Pka1=6.9)及びベンズイミダゾール(Pka1=5.3)は強塩基であるため、H3PO4はイミダゾール環にプロトンを加え、N-H+基を形成する。N-H+及びH2PO4-間又はN-H+基間のプロトン輸送速度は、H3PO4及びH2PO4-間のそれよりずっと低く、従って膜のプロトン伝導率は低下する。2M-3T-1ImSSib-5Pの組成を有する膜のプロトン伝導率が、2M-3T-1ImSSi-5Pの組成を有する膜のそれよりずっと高いことは注目に値する。ImSSi及びImSSibの分子構造を比較すると、イミダゾール環をSiと結合している有機連鎖が非常に異なることがわかる。ImSSiの連鎖にはベンゼン環が存在するので、ImSSibにおける連鎖はImSSiにおけるそれよりずっと柔軟である。従って、ImSSibを有する膜内のイミダゾール環の局所的移動度はImSSiを有するそれよりずっと容易である。柔軟な連鎖は構造物の拡散によるプロトンの迅速な輸送を許容するので、ImSSibを有する膜のほうがプロトン伝導率は高い。
新規膜の湿度感応性を調べるために、複数の試料をMgCl2飽和水溶液の蒸気中で70乃至120℃に保持した。MgCl2飽和水溶液を用いて密閉した室内の相対湿度の計算値は、70℃で26%、100℃で22.5%、及び120℃で15%未満である。測定されたプロトン伝導率の値が安定するまで試料を各温度において数時間保持した(23)。
図12は、計算された相対湿度における2M-2O(又はB)-1T-1BISSi-nP(n=4、及び6)の試料のプロトン伝導率を示す。すべての試料のプロトン伝導率は、100℃より高温で0.01S/cmより大きい。2M-2O-1T-1BISSi-6Pの試料に関しては、110℃で0.04S/cmである。湿った条件下におけるプロトン伝導率がずっと高いということは、プロトンの媒体としてのH3O+の移動度が高いためと考えられる。膜は、120℃において10時間以上湿った環境に保持した後もその機械的性質を保持した。
【0038】
燃料電池試験の結果
本発明による膜は種々の用途に使用しうる。例えば、膜は改良された燃料電池に使用しうる。
燃料電池試験においては、電解質としての新規膜2M-3T-1BISSi-7P及び電極としての市販のPtコートカーボン紙(1mg/cm2)を有する膜−電極集成体(MEA)は、100℃において約110バールの圧力下で2分間電極間に膜を熱圧することにより得た。
新規ハイブリッド無機−有機コポリマー膜を、燃料としてH2及び酸化剤としてO2を用いた燃料電池で試験した。入口気体の相対湿度は、100℃で2%及び130℃で1%であると計算された。膜の厚さは約200μmである。燃料電池は大気圧下で試験した。
図13は、電解質として膜2M-3T-1BISSi-7Pを用いた100℃及び130℃における電圧−電流及び電力密度−電流曲線を示す。図は、周囲圧力下100℃及び130℃における2M-3T-1BISSi-7Pの電流密度に対する電池電圧及び電力密度を示す。(室温において水蒸気で泡立てたH2/O2)。
130℃において開放電圧は約0.9Vであり、電力密度は3.2mW/cm2である。電力密度は、電解質としてPBI-H3PO4を用いる燃料電池のそれより大きさが1〜2位低い。電極及び電解質間の界面抵抗は45Ω/cm2より大きいことが見いだされた。このことは、たぶん不十分な燃料電池性能の理由の一である。膜−電極集成体(MEA)及び作業条件の最適化によりずっと高い性能が期待される。
OxImSSiの合成及びOxImSSiを用いる膜の製造
この節では、2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)スルホニル]-1H-イミダゾール(OxImSSi、以下に示す)の合成、及びOxImSSi及びH3PO4を用いた膜の製造を記載する。
【0039】
【化9】
【0040】
スルホニル基の電子吸引効果のために、スルホニル基の結合したイミダゾール環は一層酸性(N原子上のH+は一層活性)であり、従ってそれらを基剤とする膜はより高いプロトン伝導率を有しうる。この研究においては、2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)チオ]-1H-イミダゾール中の-S-基が過酸化物を用いて-SO2-基に酸化された。
2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)チオ]-1H-イミダゾールは、実施例2aにおいて前述したようにして合成した。10ミリモルの2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)チオ]-1H-イミダゾールを20mlのエタノールに溶解させ、次いで20ミリモルのm-クロロ過安息香酸のエタノール溶液を滴下した。数時間攪拌した後、減圧下で溶剤を除去し、白色固体をエーテルで抽出してm-クロロ安息香酸を除去した。粘性固体として残存するOxImSSiをメタノール及びアセトンの混合物に溶解させた。
図14は、OxImSSiのFTIRスペクトルを示し、S=O基のピークが1260cm-1に出現することを示す。
OxImSSiを用い、2種の膜を製造した。
(1) 2MDSPPO-3TEOS-1OxImSSi-5H3PO4
(2) 2MDSPPO-2BTESO-1TEOS-1OxImSSi-5H3PO4
図15は、2MDSPPO-3TEOS-1OxImSSi-5H3PO4の組成を有する膜が、膜2MDSPPO-3TEOS-1ImSSi-5H3PO4のそれより約50℃低い190℃から迅速に質量を損失し始め、-SO2-基が膜の熱安定性を低下させることを示す。
【0041】
図16は、無水状態における2MDSPPO-3TEOS-1OxImSSi-5H3PO4及び2MDSPPO-3TEOS-1ImSSi-5H3PO4のプロトン伝導率を示す。2MDSPPO-3TEOS-1OxImSSi-5H3PO4の組成を有する膜のほうが、測定された温度において高いプロトン伝導率を有した。-SO2-基がイミダゾール環の酸性度を増大させ、膜のプロトン伝導率を増大させた。
図17は、MgCl2飽和水溶液の蒸気中における2MDSPPO-2BTESO-1TEOS-1OxImSSi-5H3PO4及び2MDSPPO-2BTESO-1TEOS-1ImSSi-5H3PO4のプロトン伝導率を示す(計算された相対湿度は80℃において約26%及び100℃において22%である)。これらのデータは、相対湿度の低い環境におけるプロトン伝導率を示す。2MDSPPO-2BTESO-1TEOS-1OxImSSi-5H3PO4の組成を有する膜のほうが、2MDSPPO-2BTESO-1TEOS-1ImSSi-5H3PO4のそれよりずっと高いプロトン伝導率を有し、-SO2-基がイミダゾール環の酸性度を増大させたことが更に確認された。
【0042】
グラフトされた-SO3H基及びイミダゾール環を有する新規ハイブリッド無機−有機膜の合成
イミダゾール環及び酸基を網目構造物にグラフトした膜は合成しうる。酸基は有機酸基(例えば、-COOH等)でも無機酸基(例えば、-SO3H、-PO3H2等)でもよい。
イミダゾール環末端の可撓性連鎖を、-SO3H基、-PO3H2基、-COOH基、及び/又はその他の酸基を含む連鎖とともにグラフトした前駆物質も合成しうる。
図18は、-SO3H及びベンズイミダゾール環をグラフトした一例の膜の分子構造を示す。-SO3H基を加えると、無水状態におけるプロトン伝導率がより高くなる。
典型的なゾル−ゲル法により、1MDSPPO-2BTESO-4TSPS-4BIの組成を有する新規膜を調製した(TSPS:トリヒドロキシシリルプロピルスルホン酸、Gelestから購入した30質量%水溶液)。無水状態ではもろいが、水で飽和させると非常に可撓性である。
図19は、乾燥空気中、5℃/分の加熱速度で測定されたTGA曲線を示し、膜が乾燥空気中で300℃まで熱的に安定であることを示す。無水状態におけるプロトン伝導率は、RT乃至140℃において10-6S/cm未満である。このことは、ベンズイミダゾールの強塩基性のためと考えうる。
プロトン伝導率は、ベンズイミダゾール(BI)末端連鎖をPka値がずっと低いその他の複素環を末端に有する連鎖で置換することにより増大させうる。このことが無水状態におけるプロトン伝導率を増大させるであろう。
しかしながら、図20は、新規膜が水和状態で非常に高いプロトン伝導率を有することを示す。1M-2Oc-4S-4Bのプロトン伝導率が異なる相対湿度(RH)を有する環境において示されている。RH〜100%、100℃において0.05S/cmであり、Nafion 115に匹敵する。
図21は、試料2M-2Oc-4S-2BIに関するプロトン伝導率のRH及び温度依存性を示す。
2MDSPPO-2BTESO-4TSPS-2BI及び1MDSPPO-2BTESO-2TSPS-4BIの組成を有する2種のその他の膜を調製した。
【0043】
その他の実施例
プロトン伝導率の向上した物質を提供するために、単純で効率的な求核置換反応により可撓性有機分岐でイミダゾール環をハイブリッド無機−有機コポリマー網目構造物に結合させた。
イミダゾール環末端アルコキシシラン及びH3PO4から製造した新規膜は、無水状態及び低相対湿度で良好な機械的性質及び高いプロトン伝導率を有し、少なくとも190℃まで熱的に安定である。プロトン伝導率は、100℃より高温の低相対湿度(<20%)条件下で10-2S/cmより高く、高温PEM燃料電池及びその他の電気化学的デバイスにおける適用に大きな可能性を有することを示す。
本明細書に記載したプロトン電解質膜(PEM)は、燃料電池、水素分離/精製、炭化水素燃料の改質/部分的酸化、汚染物質除去、ガス検出、及びエネルギー貯蔵及び変換に関するその他のプロセスにおいて使用しうる。
その他の前駆物質の実施例
改良されたプロトン伝導性膜は、前述の実施例において記載したように前駆物質から形成しうる。膜は、異なる分子構造の多くの前駆物質を、例えば共重合反応において反応させることにより形成しうる。本発明による新規前駆物質には、以下の一般式の化合物が含まれる。
X−Y−Z
(式中、Xは末端基であり、Yは結合基であり、Zは反応性基である。)
【0044】
末端基
末端基には、複素環、好ましくは孤立電子対を提供しうる原子を1個以上含む複素環が含まれうる。例には、2個以上の窒素原子を有する含窒素複素環のような含窒素複素環が含まれる。複素環にはイミダゾール、及びその誘導体が含まれる。
その他の例においては、複素環は、例えば、N、O、及び/又はS原子の組み合わせのような1個以上の窒素、硫黄及び/又は酸素原子、を含みうる。複素環は、複素脂肪族でも複素芳香族でもよい。
末端基にはまた、例えばフッ素化イミダゾールのようなハロゲン化複素環が含まれる。フッ素化イミダゾールの例は、そのすべての内容が参考として本明細書に導入されている米国仮特許願第60/539,641号に記載されている。
末端基には、1、2、3個、又はそれ以上の連結及び/又は縮合環構造が含まれうる。末端基が1個以上の環構造を含む場合には、1個以上の環は、含窒素複素環のような複素環でもよい。末端基は1個以上の複素環を含みうるが、それらは異なる構造を有してもよい。
本発明による化合物の末端基に含まれうる含窒素複素環の更なる例には、ベンズイミダゾール、フェニルイミダゾール(例えば、2-フェニルイミダゾール、PI)、ビニルイミダゾール、2-メチル-4-エチルイミダゾール、イミダゾール-2-カルボックスアルデヒド、ピラゾール、オキサゾール、カルバゾール、インドール、イソインドール、ジヒドロオキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンズイミダゾール、イミダゾリジン、インダゾール、4,5-ジヒドロピラゾール、1,2,3-オキサジアゾール、フラザン、1,2,3-チアジアゾール、1,2,4-チアジアゾール、1,2,3-トリアゾール、ベンゾトリアゾール、1,2,4-トリチアゾール、テトラゾール、ピロール、ピロリジン、及びピラゾール基、及びその誘導体が含まれる。
その他の例においては、末端基は、例えば1個以上のアミノ基のような、各々が孤立電子対を提供しうる1個以上の原子を含みうる。
末端基にはまた、環構造から延在するアルキル基のような1個以上の置換基が含まれうる。置換基は、例えば末端基の電気化学的性質の調整、他の化合物との混合の改良、熱的性質の調整等のような種々の理由のために含まれうる。
【0045】
結合基
結合基には、例えば1個以上のアルキル基に1乃至20個の炭素原子(例えば、2〜5個の炭素原子)を有するアルキル連鎖のようなアルキル連鎖が含まれうる。結合基にはまた、1個以上のベンゼン環のような芳香族環、又は1個以上の酸素(例えば、エーテル又はエステル結合)又は硫黄のような原子が含まれうる。結合基は、好ましくは、反応性基(又は重合性基)Zが反応してポリマー又はゾル−ゲル誘導網目構造物のような網目構造物を形成するときに末端基にある程度移動度を提供する。
結合基は、特に前駆物質が、例えばハロゲン及びシランを含む化合物、及びチオール基及び複素環(又はその他の末端基)を含む化合物間のような、チオール基及びハロゲン間の求核置換反応により合成される場合には、硫黄原子を含みうる。
反応性基
反応性基Z(例えば、重合性基)には、反応(例えば、重合又は1種以上のその他の前駆物質又はその他の化合物と共重合)してポリマーのような網目構造物を形成しうる基が含まれる。反応性基は、トリアルコキシシリル基のようなシラン基でもよい。反応性基はまた、ビニル、アクリレート等のような、従来のモノマー基でもよい。物質は、例えば無機(シランから)−有機ハイブリッド網目構造物、有機コポリマー網目構造物等を形成する異なる反応性基を有する前駆物質の混合物から形成されうる。あるいは、同一の反応性基を有するが、異なる末端及び/又は結合基を有する異なる前駆物質が使用されうる。
【0046】
その他の実施例
前駆物質の例には、下式のトリアルコキシシランのようなシランが含まれる。
T−L−Si(OR)3
(式中、Tは末端基であり、Lは結合基であり、Rはアルキル基、水素、又はその他の置換基である。)R基は同種でも異種でもよい。珪素原子に結合しているアルコキシ基の種類は、最終的な膜に重要な影響を及ぼさない。
シラン前駆物質はまた、T−L−SiRx(OR)3-x(式中、Rはアルキル基又はその他の置換基である。)の形でもよい。
別の例においては、結合基(のみ又はシラン基とともに)又はシラン基は、ポリシロキサン、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリエステル、又は本明細書の別の箇所に記載されているポリマーか化学業界において公知のポリマーのようなその他のポリマーのようなポリマー主鎖に結合されうる。可撓性結合基は、あらかじめ存在するポリマー主鎖に末端基を柔軟に結合させるために、あらかじめ存在するポリマー主鎖にグラフトさせうる。例えば、あらかじめ存在するポリマーは、1種以上の側鎖が結合しうるサイトを有しうる。側鎖は、例えば、含窒素複素環のような末端基を含む。例えば、2003年5月28日に出願された米国仮特許願第60/473,812号に記載されているようなグラフト方法を容易にするために、あらかじめ存在するポリマーは、例えばUV又はオゾンで処理しうる。
プロトン伝導性膜はまた、シラン前駆物質の混合物を加水分解して、1種以上の複素環が網目構造物の珪素原子に柔軟に結合している珪素原子を含む網目構造物を形成してもよい。
【0047】
従って、改良されたプロトン伝導性膜は、少なくとも第一のシラン及び第二のシランの共重合から形成された網目構造物を含み、第一のシランは第一のシラン基、末端基、及び末端基を第一のシラン基に結合させる結合基を含み、第一の末端基は孤立電子対を提供する原子を含む。例えば、原子は窒素でも、硫黄でも、酸素でもよい。末端基は、複素環、例えば、環内に2個の窒素原子(任意に非隣接原子)を有する複素環のような含窒素複素環でもよい。結合基は、例えば、前駆物質が含チオール化合物及び含ハロゲン化合物間の求核反応で形成される場合には硫黄原子を含み、化合物の一方はシラン基を含み、他方は末端基を含む。
好ましくは、末端基は網目構造物内の珪素原子に柔軟に結合している。例えば、結合基は少なくとも2個又は3個の炭素原子を含みうる。酸基もまた網目構造物に結合されうる。プロトン伝導性膜は更に無機酸(例えば、リン酸)又は有機酸(例えば、カルボン酸)のような遊離酸分子を含みうる。
膜は、1種以上の本発明による前駆物質の、その他の化合物の存在下又は不在下における共重合により形成されうる。例えば、プロトン伝導性膜は、第一の反応性基、第一の結合基、及び第一の末端基を含む第一の前駆物質と、第二の反応性基、第二の結合基、及び第二の末端基を含む第二の前駆物質との共重合により形成されうる。例えば、第一の末端基は、例えば含窒素複素環のような、孤立電子対を提供する1個、2個又はそれ以上の原子を提供する。第二の末端基は、例えば以下に記載するように、酸基を提供しうる。第一及び第二の反応性基はトリアルコキシシランでもよく、共重合はゾル−ゲル法でもよい。
前駆物質のシラン基には、例えばトリアルコキシシリル基のような、Si(OR1)(OR2)(OR3)(式中、R1、R2、及びR3の各々はアルキル基又は水素原子を表す)の形のシラン基が含まれる。アルケニル基のようなその他の置換基がアルキル基の代わりに使用しうる。別の例においては、1種以上のアルコキシ基がアルキル基と置換されうる。
別の例においては、本発明による含シラン前駆物質は熱可塑性ポリマーにグラフトされ、グラフトされたポリマーは、例えばアルコキシシランのようなその他のシラン又は本明細書に記載されているその他のシラン前駆物質とともにゾル−ゲル反応に含まれる。
【0048】
酸基
例えば、スルホン酸基(-SO3H)、リン酸基(-PO3H)、ホウ酸(-B(OH)2)等のような無機酸基、及び/又はカルボン酸基(-COOH)のような有機酸基もまた網目構造物に結合しうる。環境によっては、解離しうるプロトンを、アルカリ金属イオン、その他の金属イオン、アンモニウムイオン等のような別のイオンにより置換しうる。
網目構造物に結合しうるその他の基には、ビススルホニルアミド基のようなアミド基が含まれる。
適用
プロトン伝導性膜は、燃料電池内の膜として使用しうる。本発明による燃料電池は、正極、負極、及び別の箇所に記載されているプロトン伝導性物質から形成されたプロトン伝導性膜を含む。
膜の寸法は、公知のように、燃料電池の形状により決定されるであろう。プロトン伝導性物質は、更なる加工を必要とせず膜として使用するのに適する形で製造されるか、所望の形状に切断するか又は更に加工しうるテープ又はシートとして形成されうる。プロトン伝導性物質は、織物材料のような1種以上の強化シートを含むか、その上に付着されうる。
膜の機械的性質を改良するためには、例えば織物又は格子の形のような熱的に安定な材料が膜内又はその表面上に含まれうる。例えば、膜の脆性を低下させるためにNafionグリッドが含まれうる。
従って、本発明による燃料電池の一例には、正極、負極、及びそれらの間の以下に記載するプロトン伝導性物質から形成される膜が含まれる。
本明細書に記載されているプロトン電解質膜(PEM)又はその他の形のポリマー伝導性物質は、燃料電池、水素分離/精製、炭化水素燃料の改質/部分的酸化、汚染物質除去、ガス検出、及びエネルギー貯蔵及び変換に関するその他のプロセスにおいて使用しうる。
【0049】
任意の変更
本発明によるプロトン伝導性物質は更に、含金属粒子(例えば、ナノメートル寸法の吸湿性の金属酸化物)のような粒子、機械的性質を改良するための膜内に分散させたポリマー、主鎖内に孤立電子対を提供する原子を有する主鎖ポリマー、酸基で置換されたポリマー(例えば、-H3PO4のような無機酸基を含むポリマー)、及びZr(HPO4)2・H2O、珪タングステン酸(SiO2・12WO3・26H2O) のようなプロトン伝導性無機化合物、酸基(例えば、-SO3H、-PO3H2のような無機酸)、-SO2NHSO2CF3、及び-CF2SO2NHSO2CF3のような基、CsHSO4のような無機塩、及びZr(HPO4)2のような酸塩を含むその他の化合物、のようなドーパント、を含みうる。その他のプロトン源及びプロトン溶剤も含まれる。
別の例においては、例えば2個のシラン基が2〜20個の炭素原子を有するアルキル連鎖により相互に結合しているような、2種以上の柔軟に相互に結合されているシラン基のような追加の有機シランが、例えば機械的性質を改良するために膜の調製に使用されうる。例えばSi(A3-xBx)-R-Si(A3-xBx)(式中、Aはアルコキシ基、水素、又はその他の置換基でもよく、Bはアルキル基でもよく、Rは可撓性連鎖である)の形を有するシランのような、ビスアルコキシシリル末端ポリマー(オリゴマーを含む)、及び/又は短い有機連鎖が使用されうる。可撓性連鎖の例には、ポリプロピレンオキシド、ポリテトラエチレンオキシド、ポリ(1-ブテン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、及びポリビニルアルコールが含まれる。従って、例にはビス(アルコキシシリル)末端ポリマー化合物が含まれる。可撓性連鎖の別の例には、2〜20個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基、炭素、水素、及び任意に酸素を含むその他の連鎖、及びその他の連鎖が含まれる。
【0050】
本発明によるプロトン伝導性物質は、イミダゾール及びその誘導体(2-エチル、4-メチルイミダゾール及びベンズイミダゾールを含む)、又はその他の含窒素複素環及びそれらの誘導体のような、シラン前駆物質に関して前述した末端基に類似した低分子を更に含みうる。そのような化合物は物質のプロトン伝導率を改良するために添加しうる。
水誘導分解に対する膜の抵抗性は、硫酸水素セシウム(CsHSO4)又はリン酸水素セシウム(CsH2PO4)のような不溶性酸塩を膜中に含むことにより増大させうる。
本発明による物質から形成された膜は、機械的性質のような性質を改良するために、Nafion繊維のようなポリマー繊維を更に含みうる。これらの繊維は、無機−有機ハイブリッド網目構造物の残部に化学的に結合している必要はない。
酸基は、ゾル−ゲル反応に酸基を含むシランを含むことにより網目構造物に結合されうる。例には、PETHS(PO(OH)2-C2H4-Si(OH)3、ホスホリルエチルトリヒドロキシルシラン及びアルコキシ類似物)、酸置換フェニルトリアルコキシシラン(例えば、SPS(Si(EtO)3-Ph-SO2OH))等が含まれる。
本明細書に記載されている特許、公告、及び仮特許願は、個々の公告が参考として導入されていると明確及び個々に示されているのと同程度に、参考として本明細書に導入されている。特に、2003年5月28日に出願されたLiらによる同様な発明の名称の仮特許出願は、そのすべてが本明細書に導入されている。
本発明は、前述の例証となる実施例に限定されない。実施例は本発明の範囲の限定を意図しない。それらにおける変化、要素のその他の組み合わせ、及びその他の使用は当業者に発生するであろう。発明の範囲は、特許請求の範囲により定義される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】2-トリエトキシシリルプロピルチオメチル-1H-ベンズイミダゾール(BISSi)の合成の合成スキ−ムを示す。
【図2】2-[(p-2-トリエトキシシリルエチレン-フェニレンメチル)チオ]-1H-イミダゾール(ImSSi)の合成の合成スキ−ムを示す。
【図3】2-((3-トリエトキシシリルプロピル)チオ)-1H-イミダゾール(ImSSib)の合成の合成スキ−ムを示す。
【図4】2-メチルジエトキシシリル-プロピルチオメチル-1H-ベンズイミダゾールの合成の合成スキ−ムを示す。
【図5】膜内のプロトン輸送の略図を示す。
【図6】(A)2M-3T-1BiSSi-3P及び(B)2M-2Oc-1T-1ImSSi-5Pの組成を有する2種のハイブリッド無機−有機膜の31P NMRスペクトルを示す。
【図7A】乾燥空気中で得られた3種の試料2M-3T-1BI-xP(x=0、3、及び5)のTGA及びDSC曲線(加熱速度:5℃/分)を示す。
【図7B】乾燥アルゴン中で得られた試料2M-3T-1BI-xP(x=3、5、及び7)のプロトン伝導率を示す。
【図8A】乾燥空気中で得られた2種の試料2M-3T-1Im-xP(x=3、及び5)のTGA曲線(加熱速度:5℃/分)を示す。
【図8B】乾燥アルゴン中で得られた2種の試料2M-3T-1Im-xP(x=3、及び5)のプロトン伝導率を示す。
【図9】乾燥空気中、5℃/分の加熱速度で測定された数種の膜のTGA曲線を示す。
【図10】無水状態における2M-3T-xImSSi(ImSSib)-yP(x=0、y=5;x=1、y=3、5、及び7)のプロトン伝導率を示す。
【図11】無水状態における2M-3T-xBISSi-yP(x=1、y=3、5、及び7;x=2、及び3、y=5)のプロトン伝導率を示す。
【図12】MgCl2飽和水溶液の蒸気中における2M-2O(又はB)-1T-1BISSi-xP(x=4及び6)のプロトン伝導率安定性を示す。
【図13】周囲圧力下100℃及び130℃における2M-3T-1BISSi-7Pの電流密度に対する電池電圧及び電力密度を示す(室温において水蒸気で泡立てたH2/O2)。
【図14】OxImSSiのFTIRスペクトルを示す。
【図15】乾燥空気中、5℃/分の加熱速度で測定されたImSSiを用いた膜と比較したOxImSSiを用いた新規膜のTGA曲線を示す。
【図16】無水状態における2MDSPPO-3TEOS-1OxImSSi-5H3PO4及び2MDSPPO-3TEOS-1ImSSi-5H3PO4のプロトン伝導率を示す。
【図17】MgCl2飽和水溶液の蒸気中における2MDSPPO-2BTESO-1TEOS-1OxImSSi-5H3PO4及び2MDSPPO-2BTESO-1TEOS-1ImSSi-5H3PO4のプロトン伝導率を示す(計算された相対湿度は80℃において約26%及び100℃において22%である)。
【図18】-SO3H及びベンズイミダゾール環をグラフトした膜の分子構造を示す。
【図19】乾燥空気中、5℃/分の加熱速度で測定されたTGA曲線を示す。
【図20】異なる相対湿度(RH)を有する環境中における1M-2Oc-4S-4Bのプロトン伝導率を示す。
【図21】試料2M-2Oc-4S-2BIに関するプロトン伝導率の相対湿度及び温度依存性を示す。
【技術分野】
【0001】
関連出願との関係
本出願は、そのすべての内容が参考として本明細書に導入されている、2003年5月28日に出願された米国仮特許願第60/473,957号の優先権を主張する。
発明の分野
本発明は、プロトン伝導性物質、特に燃料電池のためのプロトン電解質膜(PEM)に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン電解質膜(PEM)は、燃料電池、炭化水素燃料の改質/部分的酸化、水素分離/精製、汚染物質除去、ガス検出、及びエネルギー貯蔵及び変換に関するその他のプロセスにおいて重要な構成要素である。100乃至200℃の温度範囲で、プロトン伝導率は高い(>0.01S/cm)が湿度依存性はほとんど又はまったくない膜が、エネルギー効率及び一酸化炭素毒に対するアノード触媒の許容度がずっと高いPEM燃料電池を新たに生み出すのに重要である。
しかしながら、Nafionのような従来のペルフルオロスルホン酸ポリマーは、低湿度及び高温領域における不十分なプロトン伝導率、種々の湿度における寸法変化、燃料の交差、高価格及び不十分な親水性を含む重要な不利点を有する。
近年開発されたすべてのプロトン伝導性膜のうち、ポリベンズイミダゾール(PBI)-H3PO4膜が最も高性能である。(PBI)-H3PO4膜は、150℃より高温におけるプロトン伝導率が高く(相対湿度10%の大気中で>10-2S/cm)、機械的性質が良好で熱安定性が高い(J Electrochem Soc 1995, Vol. 142, p. L121)。しかしながら(PBI)-H3PO4膜は、無水状態ではプロトン伝導率が非常に低い(160℃未満で1×10-4S/cm未満)と報告されている(Solid State Ion. 2002, vol. 147, p. 181及びProg. Polym. Sci. 2000, vol. 25, p. 1463)。その上、そのプロトン伝導率は水依存性であるため、電気化学的デバイスにおける適用は限定される。例えば、燃料電池が作業中に多量の水を製造しうる場合にのみ燃料電池においてPEM電解質として使用しうる。更に、H3PO4は、特にH3PO4含量が高い場合には、そのような純粋な有機ポリマー膜から容易に浸出しうる。H3PO4の含量が高すぎる場合には、機械的性質も低下する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、低湿度におけるプロトン伝導率が高く、構造の密度が高く、機械的性質の良好な新規電解質膜の開発は、依然として、高温PEM燃料電池及びその他の電気化学的デバイスの開発の成功の鍵である。
従来の材料は、Jacobらによる米国特許願公告第2003/0144450号、Kerresによる国際特許願第WO 01/93092号及び同第WO 01/84657号、Armandらによる米国特許第5,283,310号、Akitaらによる同第6,214,060号、及びKreuerらによる同第6,264,857号に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の要約
組成物は、珪素原子及び酸素原子を含むポリマー網目構造物、可撓性結合基及び末端基を含む、前記ポリマー網目構造物内の複数の珪素原子に結合された第一の有機側鎖を含み、前記末端基は孤立電子対を提供する1個一以上の原子を含む。組成物はプロトン伝導性膜の形成に使用しうる。例証となる実施例においては、前記ポリマー網目構造物は有機−無機ハイブリッド網目構造物であり、前記末端基は含窒素複素環を含みうる。
詳細な説明
新規プロトン伝導性膜は、単純なゾル−ゲル法を用いて製造された。イミダゾール環が有機−無機コポリマー網目構造物にグラフトさせた可撓性分岐に結合されているので、イミダゾール環が高度に局所的に運動しうる。無機Si-O-Si網目構造物は、膜内に有意量のH3PO4を吸収しうる。膜は優れたプロトン輸送特性を有する。
一方法においては、末端基が可撓性結合基により柔軟にシラン基に結合しているシラン前駆物質を合成した。
前駆物質の合成
イミダゾール環を末端に有するアルコキシシラン誘導体を合成した。イミダゾール環は、例えば、T. Hamaguchi et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 10, 2657(2000);J. F. Patoiseauらによる米国特許第5,091,415号のような文献に記載されている単純な求核置換反応によりアルコキシシランに結合させた。
求核置換反応は、それぞれ、-SH及び-X(X=Cl、Br、及びI)活性基を有するアルコキシシリル及びイミダゾール環を含む化学物質間で起こりうる。反応は、触媒としてKOH、CH3CH2OK、又はK2CO3を用い、室温乃至90℃で起こりうる。
前駆物質は、市販の化学物質から単純な求核付加反応又は求核置換反応により合成しうる。多くの例証となる実施例を以下に記載する。
【0005】
〔実施例1a〕
2-トリメトキシシリルプロピルチオメチル-1H-ベンズイミダゾールの合成
【0006】
【化1】
【0007】
冷却器及びArガスラインを具備する三口フラスコ中で攪拌しながら、0.01モルの2-(クロロメチル)ベンズイミダゾールを25mlのメタノール中に溶解させた。0.01モルの3-メルカプトプロピルトリメトキシシランを溶液に添加し、10分間攪拌し、次いで10mlのメタノールに溶解させた0.01モルのKOHを滴下した。Arの保護下室温において12時間の反応が完了した後、溶液を濾過し、白色沈殿物のKClを除去した。溶剤のエタノールを減圧下で濾液から蒸発させた後、褐色の粘性液体物質2-トリメトキシシリルプロピルチオメチル-1H-ベンズイミダゾールが得られた。得られた物質のFTIRによれば、640cm-1及び933cm-1における芳香族環-CH2-Clの特性ピークが消失し、596cm-1における-CH2-S-及び696cm-1におけるC-S-Cのピークが出現した。
【0008】
〔実施例1b〕
図1は、2-トリエトキシシリルプロピルチオメチル-1H-ベンズイミダゾール(BISSi、実施例1aのトリエトキシ類似物)を合成するのに使用されるスキームを更に説明する。
1.9634gの3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン(10ミリモル)を10mlの無水エタノールに溶解させ、0.84gのカリウムエトキシド(10ミリモル、24%エチルアルコール溶液)と混合し、次いで10分間攪拌した。1.6661gの2-(クロロメチル)ベンズイミダゾール(10ミリモル)の20ml溶液を前述の混合物に滴下し、約12時間攪拌した。反応が完了したか否かを確認するためにはTLCを使用した。白色沈殿物のKClを濾過により除去した。酢酸エチル及びヘキサン(体積比50/50)で溶離させたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより濾液から約2.2gの2-トリエトキシシリルプロピルチオメチル-1H-ベンズイミダゾールが分離された(収率60%)。黄色のオイル様液体であった。CDCl3中の1H-NMR:δ=10.80(1H, brs), 7.17-7.66(4H, m), 3.95(2H, s), 3.75(6H, m), 2.50(2H, t, JH-H=7.30), 1.65(2H, m), 1.54(9H, t, JH-H=7.01), 0.65(2H, t, JH-H=8.18)。
【0009】
〔実施例2a〕
2-[(p-2-トリメトキシシリルエチルフェニルメチル)チオ]-1H-イミダゾール(ImSSi)の合成
【0010】
【化2】
【0011】
実施例1aにおいて前述した方法と同様な方法を用い、2-メルカプトイミダゾール及び((クロロメチル)フェニルエチル)-トリメトキシシランから2-[(p-2-トリメトキシシリルエチルフェニルメチル)チオ]-1H-イミダゾール(ImSSi)を合成した。
冷却器及びArガスラインを具備する三口フラスコ中で攪拌しながら、0.01モルの2-メルカプトイミダゾールを25mlのメタノール中に溶解させた。0.01モルの((クロロメチル)フェニルエチル)-トリメトキシシランを溶液に添加し、10分間攪拌し、次いで10mlのメタノールに溶解させた0.01モルのKOHを滴下した。Arの保護下室温において12時間の反応が完了した後、溶液を濾過し、白色沈殿物のKClを除去した。溶剤のエタノールを減圧下で濾液から蒸発させた。
得られたImSSiは、淡い黄色の粘性液体であった。BISSi(実施例1aを用いて調製した)及びImSSiをKBrで加水分解して濃縮した固体のFTIRによれば、試薬の640cm-1における-CH2-Clの特性ピークが消失したことが示され、693cm-1におけるBISSiの-CH2-S-CH2-及び596cm-1におけるImSSiの-S-CH2-基のピークが観察され、イミダゾール環がS-C結合によりアルコキシシランに結合したことが示された。
【0012】
〔実施例2b〕
図2は、2-[(p-2-トリエトキシシリルエチルフェニルメチル)チオ]-1H-イミダゾール(ImSSi、実施例2aのトリエトキシ類似物)を合成するのに使用されるスキームを更に説明する。
ImSSiは、前述した方法と同一の方法を用い、2-メルカプトイミダゾール及び((クロロメチル)フェニルエチル)-トリエトキシシランから合成した。1.0001gの2-メルカプトイミダゾール(10ミリモル)を20mlの無水エタノールに溶解させ、0.84gのカリウムエトキシド(10ミリモル、24%エチルアルコール溶液)と混合し、次いで10分間攪拌した。2.7482gの((クロロメチル)フェニルエチル)-トリエトキシシラン(10ミリモル)を混合物に滴下し、次いで6時間攪拌した。白色沈殿物のKClを濾過により除去した。酢酸エチル及びヘキサン(体積比50/50)で溶離させたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより濾液から約2.4gのImSSiが分離された(収率65%)。無色の粘性液体である。DMSO-d6中の1H-NMR:δ=12.20(1H, bs), 7.11(6H, m), 4.17(2H, s), 3.76(6H, m), 2.56(2H, m), 1.15(9H, t, JH-H=6.95), 0.84(2H, m)。
【0013】
〔実施例3〕
図3は、2-((3-トリエトキシシリルプロピル)チオ)-1H-イミダゾール(ImSSib)を合成するのに使用されるスキームを説明する。
ImSSibは、同一の方法を用い、2-メルカプトイミダゾール及び3-ヨードプロピルトリエトキシシランから合成した。1.0001gの2-メルカプトイミダゾール(10ミリモル)を20mlの無水エタノールに溶解させ、0.84gのカリウムエトキシド(10ミリモル、24%エチルアルコール溶液)と混合し、次いで10分間攪拌した。2.9017gの3-ヨードプロピルトリエトキシシラン(10ミリモル)を混合物に滴下し、次いで12時間攪拌した。
白色沈殿物のKClを濾過により除去した。酢酸エチル及びヘキサン(体積比50/50)で溶離させたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより濾液から約2.1gのImSSibが分離された(収率78%)。無色の粘性液体であった。DMSO-d6中の1H-NMR:δ=7.11(2H, s), 3.80(6H, m, JH-H=6.97), 3.00(2H, t, JH-H=7.05), 1.73(2H, m), 1.20(9H, t, JH-H=6.96), 0.76(2H, m)。
【0014】
〔実施例4〕
図4は、2-メチルジエトキシシリル-プロピルチオメチル-1H-ベンズイミダゾールを合成するのに使用されるスキームを説明する。
図4に示されるスキームは、実施例1bにおいて前述した方法と同様な方法を使用する。DMSO-d6中の前駆物質の1H-NMRデータ:δ=7.55(2H, m, Ar-H), 7.20(2H, m, Ar-H), 3.98(2H, s, BI-CH2-S), 3.66(4H, q, JH-H=6.98, -O-CH2-), 2.54(2H, t, JH-H=7.20, S-CH2-), 1.57(2H, m, -CH2-), 1.14(6H, t, JH-H=6.98, -CH3), 0.62(2H, t, JH-H=8.30, -CH2-), 0.01(3H, s, -CH3)。収率:65%。
【0015】
〔実施例5〕
2-トリメトキシシリルプロピルチオ-1H-イミダゾールの合成
【0016】
【化3】
【0017】
冷却器及びArガスラインを具備する三口フラスコ中で攪拌しながら、0.01モルの2-メルカプトイミダゾールを25mlのメタノール中に溶解させた。0.01モルの3-クロロプロピルトリエトキシシランを溶液に添加し、10分間攪拌し、次いで10mlのメタノールに溶解させた0.01モルのKOHを滴下した。フラスコを油浴に入れ、温度を75℃に上昇させた。Arの保護下室温において75℃で3時間の反応が完了した後、溶液を室温に冷却し、溶液を濾過して白色沈殿物のKClを除去した。溶剤のエタノールを減圧下で濾液から蒸発させた後、明るい黄色の粘性物質である2-トリメトキシシリルプロピルチオ-1H-イミダゾールが得られた。
【0018】
〔実施例6〕
2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)スルホニル]-1H-イミダゾール
【0019】
【化4】
【0020】
2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)スルホニル]-1H-イミダゾールの合成:10ミリモルの2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)チオール]-1H-イミダゾールを20mlのエタノールに溶解させ、次いで20ミリモルのm-クロロ過安息香酸のエタノール溶液を滴下した。6時間攪拌した後、減圧下で溶剤を除去し、m-クロロ安息香酸を除去するために白色固体をエーテルで抽出した。残存する粘性固体が生成物である。FTIRにより、1260cm-1にS=O基のピークが出現したことが示された。
前駆物質のその他の実施例
これらには、(i)3-(トリエトキシシリル)プロピル 3-(1H-イミダゾール-2-イルチオ)-2-メチルプロパノエート:
【0021】
【化5】
【0022】
及び(ii)3-(ジエトキシ(メチル)シリル)プロピル 3-(1H-イミダゾール-2-イルチオ)プロパノエート:
【0023】
【化6】
【0024】
が含まれる。
前駆物質の調製に使用しうる、イミダゾール環を含む化合物のその他の例には、2-(クロロメチル)ベンズイミダゾール、2-メルカプトイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプト-5-メチルベンズイミダゾール、4-ブロモ-1H-イミダゾール、又は2-クロロベンズイミダゾール等が含まれる。
前駆物質の合成に使用しうる、活性な-X又はSH基を有するアルコキシシランのその他の例には、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-ブロモプロピルトリメトキシシラン、11-ブロモウンデシルトリメトキシシラン、クロロメチルメチルジエトキシシラン、((クロロメチル)フェニルエチル)-トリメトキシシラン、(p-クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルジメチルメトキシシラン、3-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、及び3-ヨードプロピルトリメトキシシラン等が含まれる。
求核付加反応は、イミダゾール環を有する化合物のような複素環も含む化合物の-SH基、及びアルコキシシリルを含むアクリレート又はメタクリレート間で起こりうる。求核付加反応は塩基性溶剤中で起こりうる。例えば、少量のKOHを触媒として使用しうる。この反応は、室温において数分間で完了しうる。
【0025】
例えば、求核置換反応は以下のように記載しうる。
A-X+B-SH → A-S-B
式中、Xはハロゲンである。Aはアルコキシシランであり、Bは含窒素複素環を含む化合物であるか、又はその逆である(Aが含窒素複素環を含む化合物であり、Bがアルコキシシランである)。
-SH基を含む化合物の例には、2-メルカプトイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプト-5-メチルベンズイミダゾール、及びそれらの誘導体が含まれる。
アルコキシシリルを含むアクリレート又はメタクリレートには、(3-アクリルオキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3-アクリルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3-アクリルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタクリルオキシメチル)ジメチルエトキシシラン、メタクリルオキシメチルトリエトキシシラン、メタクリルオキシメチルトリメトキシシラン、メタクリルオキシプロピルジメチルエトキシシラン、メタクリルオキシプロピルジメチルメトキシシラン、メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン等がある。
硫黄原子がイミダゾール環(又は他の含窒素複素環)に直接結合している場合には、過酸化物により酸化されてスルホニル(-SO2-)基となり、-SO2-基が強い電子吸引効果を有するのでイミダゾール環上のプロトンの活性を増大させる。特定例には、2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)スルホニル]-1H-イミダゾール及び2-[(3-メチルジエトキシシリルプロピルプロピニル)スルホニル]-1H-イミダゾールが含まれる。
更なる前駆物質の例には、(iii)2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)スルホニル]-1H-イミダゾール:
【0026】
【化7】
【0027】
及び(iv)3-(ジエトキシ(メチル)シリル)プロピル 3-(1H-イミダゾール-2-イルスルホニル)プロパノエート:
【0028】
【化8】
【0029】
が含まれる。
グラフト化及びハイブリッド無機−有機ポリマー
使用しうる物質の例には、ビス(3-メチルジメトキシシリル)ポリプロピレンオキシド(MDSPPO)及び例えば、ポリ(ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)-g-トリメトキシシリルメタクリレート(TSMA)、ポリ(スチレンブタジエン)コポリマー(SBゴム)-g-トリメトキシシリルメタクリレート(TSMA)、及びスチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(SBS)-g-トリメトキシシリルメタクリレート(TSMA)等のようなアルコキシシラングラフトポリマーゴムが含まれる。
本発明による改良された膜を調製するのに使用しうる、シラングラフト熱可塑性物質のようなその他のシラングラフトポリマーはまた、そのすべての内容が参考として本明細書に導入されている2003年5月28日に出願された米国仮特許願第60/473,812号にも記載されている。
本明細書に記載されている前駆物質は、改良されたプロトン伝導性膜において使用するポリマー連鎖又は網目構造物を形成するのに使用しうる。
プロトン伝導性膜
水に代わるプロトン溶剤としてのイミダゾール環をグラフトしたハイブリッド無機−有機コポリマーを基剤とする新規一連のプロトン伝導性膜は、単純なゾル−ゲル法を用いて製造した。これらの膜においては、イミダゾール環が有機−無機コポリマー網目構造物にグラフトされた可撓性(短い、有機)分岐に結合しているので、イミダゾール環は高度に局部的に運動しうる。無機Si-O-Si網目構造物は、膜内に有意量のH3PO4を吸収しうる。従って、プロトンは、いわゆるグロータスタイプの機構により膜内を輸送されうる。
図5は、膜内のイミダゾール環及びH3PO4間に起こりうるプロトン輸送プロセスを模式的に示す。図は、複素環の一窒素原子がH3PO4からプロトンを受け、もう一方の窒素原子がプロトンを酸イオンに手放すことを示す。イミダゾール環は、無機網目構造物又はハイブリッド無機−有機コポリマー網目構造物のような網目構造物に柔軟に結合している。
【0030】
前節は、例えば、ハイブリッド無機−有機コポリマーの調製を容易にするために単純な求核置換反応でイミダゾール環をアルコキシシランにグラフトする前駆物質の合成を記載した。これらのコポリマー及びH3PO4を基剤とするプロトン伝導性膜(PEM)は、低い相対湿度における高いプロトン伝導率、優れた機械的性質、及び高温安定性を示す。
新規膜は無水状態で高いプロトン伝導率を有することが可能であるため、水の存在に依存しないプロトン伝導率を有する。又はイブリッド無機−有機コポリマーであるため、新規膜は良好な機械的性質及び高い熱安定性を有することが可能である。それらは、燃料電池及びその他の電気化学的デバイスにおける適用の可能性が大きい。
プロトン伝導率はH3PO4含量に伴い上昇し、1モルのイミダゾール環及び7モルのH3PO4を有する膜の場合には、乾燥雰囲気中110℃において3.2×10-3S/cmに達することが見いだされた。相対湿度(RH)が20%未満の環境においては、プロトン伝導率は110℃において4.3×10-2S/cmである。TGA分析によれば、これらの膜は乾燥空気中で250℃まで熱的に安定であることが示され、高温PEM燃料電池の膜として使用しうる良好な潜在能力があることが示された。
新規膜は無水状態及び低い相対湿度における高いプロトン伝導率、高い熱安定性、良好な機械的性質、及び良好な耐水性を有する。それらは、高温PEM燃料電池及びその他の電気化学的デバイスにおけるPEM電解質として卓越した潜在能力を有する。
新規ハイブリッド無機−有機コポリマープロトン伝導性膜の合成にはゾル−ゲル法を使用した。すべての前駆物質を(エタノール、メタノール、THF、酢酸エチル等のような)伝統的な溶剤に溶解させ、触媒として酸を用い水で加水分解させた。ゾルを数時間攪拌した後、所定量のH3PO4を添加し、さらに数時間攪拌した。ついで、得られたゾルをポリスチレン又はガラス製のペトリ皿に注ぎ、60℃において数日間乾燥させてゲルを形成し、溶剤を蒸発させた。溶剤の蒸発率は、実質的に膜の機械的性質に影響を及ぼしうるので制御しうる。
【0031】
イミダゾール環グラフト膜の31P NMRデータ
図6は、(A)2M-3T-1BISSi-3P(2M-3T-1BISSi-3H3PO4)及び(B)2M-2Oc-1T-1ImSSi-5Pの組成を有する2種のハイブリッド無機−有機膜の32P NMRスペクトルを示す。挿入図は、−11.3ppm及び−23.68ppm付近の弱いピークを示すための拡大強度スペクトルを示す。
3つの31P共鳴ピークが観察された。それらのうちの1つは弱すぎて完全なスペクトルでは明らかではない。δ=0ppmにおける主要なピークは、解離していないH3PO4及びH4PO4+及びH2PO4-のようなその他の解離種に帰属される。後者の2種は、解離していないH3PO4のシグナルの2ppm以内であることが知られている。δ≒−11ppm及び−24ppmにおける弱いピークは、ピロリン酸及びトリポリリン酸の末端単位に帰属される。これらの弱いピークは、P-O-Si結合により1個又は2個の珪素原子に結合しているホスフェートに帰属され、このことは、H3PO4がハイブリッド無機−有機コポリマーにおけるSi-O-Si網目構造に結合していることを意味する。2つの弱いピークの積分は、膜の総31P共鳴ピークの約20%である。このことは、リン酸の約80%が、解離していないH3PO4及びH4PO4+及びH2PO4-のような解離種を含む遊離した形で存在することを示唆する。
【0032】
TMSPBIを基剤とする膜
2-トリメトキシシリルプロピルチオメチル-1H-ベンズイミダゾール(TMSPBI)をグラフトしたハイブリッド無機−有機コポリマーを基剤とするプロトン伝導性膜の製造:MDSPPO(Gelest、96%;MW600〜900)、テトラエトキシシラン(TEOS)、及びTMSPBIをエタノールと混合することにより前駆物質溶液を調製した。組成は、1モルのMDSPPO、1〜2モルのTEOS、及び0.5モルのTMSPBIである。20分攪拌した後、前駆物質溶液に0.5N HCl水溶液を滴下し、更に30分間攪拌した。H3PO4を滴下した後、溶液を1〜3時間攪拌してゾルを形成した。ゾルをペトリ皿に注いだ。60℃において数日、80℃において3時間、及び100℃において1時間膜を乾燥させて有機溶剤及び水を蒸発させた。試料は、xM-yT-zBI-mP(式中、x、y、及びzは、それぞれMDSPPO、TEOS、及びTMSPBIにおけるSiのモル数を示し、mはH3PO4のモル数を示す)としてモル組成により表示した。
図7Aは、2M-3T-1BI-xP(x=0、3、5、7)の組成を有する試料の温度に対するTGA及びDSC曲線を示し、膜が210℃まで熱的に安定であることを示す。
試料は良好な機械的性質を有した。空気とのゲル接触面積を低下させることによりゲルをゆっくり乾燥させた。圧力は制御しなかったが、圧力制御は再現性のある性質を得るのに有用であろう。
図7Bは、無水条件下でインピーダンススペクトルを用いて測定されたこれらの試料のプロトン伝導率を示す。試料2M-3T-1BI-5P及び2M-3T-1BI-7Pの125℃におけるプロトン伝導率は、それぞれ1.0×10-3S/cm及び1.5×10-3S/cmである。プロトン伝導率は、膜をAr中60℃において5時間及び80℃において2時間乾燥させて水及び有機溶剤を除去した後にAr中で得られた。
【0033】
TMSPIを基剤とする膜
2-[(p-トリメトキシシリルエチルフェニルメチル)チオ]-1H-イミダゾール(TMSPI)をグラフトしたハイブリッド無機−有機コポリマーを基剤とするプロトン伝導性膜の製造:MDSPPO(Gelest、96%;MW600〜900)、TEOS(Ardrich、98%)、及びTMSPIをエタノールと混合することにより前駆物質溶液を調製した。組成は、1モルのMDSPPO、1〜2モルのTEOS、及び0.5モルのTMSPIである。20分攪拌した後、前駆物質溶液に0.5N HCl水溶液を滴下し、更に30分間攪拌した。H3PO4を滴下した後、溶液を1〜3時間攪拌してゾルを形成した。ゾルをペトリ皿に注いだ。60℃において数日、80℃において3時間、次いで100℃において1時間膜を乾燥させて有機溶剤及び水を蒸発させた。試料は、xM-yT-zIm-mP(式中、x、y、及びzは、それぞれMDSPPO、TEOS、及びTMSPIにおけるSiのモル数を示し、mはH3PO4のモル数を示す)としてモル組成により表示した。
図8Aは、2M-3T-1Im-xP(x=3及び5)の組成を有する試料のTGA曲線を示し、新規膜が250℃まで熱的に安定であることを示す。図4には、乾燥Ar中で測定された試料のプロトン伝導率が示されている。2M-3T-1Im-5Pの組成を有する試料のプロトン伝導率は250℃において1.0×10-3S/cmである。
図8Bは、膜を乾燥Ar中60℃において5時間及び80℃において2時間乾燥させて水及び有機溶剤を除去した後にAr中で得られた、2つの試料2M-3T-1Im-xP(x=3及び5)のプロトン伝導率を示す。
【0034】
BISSi、ImSSi、及びImSSibを基剤とする膜
前述のようにして調製して得られたBISSi、ImSSi、及びImSSibを、ビス(3-メチルジメトキシシリル)ポリプロピレンオキシド(MDSPPO、MW600〜900)、1,4-ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン(BTMSEB)、ビス(トリエトキシシリル)オクタン(BTESO)、及びテトラエトキシシラン(TEOS)と一緒にエタノール中に溶解させた。20分攪拌した後、前駆物質溶液に0.5N HCl水溶液を滴下し、更に12時間以上攪拌した。最後に、H3PO4を滴下し、溶液を更に1〜2時間攪拌して均一なゾルを形成した。
試料は、xM-yB(又はO)-zT-mBISSi(ImSSi/ImSSib)-nP(式中、x、y、z、及びmは、それぞれMDSPPO、BTMSEB(又はBTESO)、TEOS、及びBISSi(又はImSSi/ImSSib)におけるSiのモル数を示し、nはH3PO4のモル数を示す)としてモル組成により表示した。この研究においては、x=2、y=0又は2、z=3又は1、m=1、及びn=0、3、4、5、6、及び7である。膜は、60℃において3日、80℃において3時間、次いで100℃において1時間乾燥させて有機溶剤及び水を蒸発させた。
従って、組成物の表示に使用した省略形は、MDSPPO(ビス(3-メチルジメトキシシリル)ポリプロピレンオキシド)に関してはM、BTMSEB(1,4-ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン)に関してはB、TEOS(テトラエトキシシラン)に関してはT、及びリン酸(H3PO4)に関してはPである。
無水状態で加水分解及び縮合されたBISSiのプロトン伝導率は、80℃において2×10-7S/cm、及び100℃において7×10-7S/cmであり、加水分解及び縮合されたBISSiの50℃におけるそれは2×10-7S/cmであり、新規膜がイミダゾール末端エチレンオキシド(EO)と同様なプロトン伝導能力を有することが示された。プロトン伝導率は、対応する水素結合パターンを認識するイミダゾール環間のプロトン移動、その後のグロータスタイプの機構により生じる。
【0035】
組成2M-3T-1BISSi(又はImSSi)-nP(n=0、3、5、7)及び2M-2B(又はO)-1T-1BISSi-nP(n=4、及び6)を有するすべての膜は良好な機械的強さを有し、非常に可撓性である。厚さ0.1mm未満の自立性の膜は、型に依存して容易に大きな寸法に成形されうる。これらの膜は周囲空気中何日も非融解性を保持する。室温において2時間、次いで70℃で2時間水中に浸漬したのち、組成2M-2B-1T-1BISSi-6P及び2M-3T-1BISSi-5Pを有する試料においてわずか約30%のH3PO4が浸出した。
膜におけるH3PO4の高い安定性は、良好なSi-O網目構造物親和性及びH3PO4及びMDSPPOにより導入されるPEO連鎖間の水素結合に帰する。イミダゾール環及びH3PO4間の相互作用は、グラフトされたイミダゾール環を有する膜におけるH3PO4の高い安定性のもう一つの理由である。イミダゾール環及びH3PO4間の強い相互作用は、強い幅広ピークが2500乃至3200cm-1に観察されるグラフトされたベンズイミダゾール及びH3PO4を有する膜のFTIRスペクトルにより確認された。
X線回折スペクトルは、得られたすべての膜が非晶質であることを示す。乾燥Ar中、100℃から140℃まで全部で6時間かけて加熱した後、XRDにはピークが観察されず、無機Si−H3PO4ゲルにおいてすでに報告されているように、Si-O-Si網目構造物及びH3PO4間には結晶化が起こらないことが示された。
H3PO4を有する膜のFTIRスペクトルは約2920cm-1にNH+基の特性吸収を示し、新規膜内のH3PO4がイミダゾール環にプロトンを加えることを示した。このことは、H3PO4が強い水素結合でPBIと相互作用するが、イミダゾール基にプロトンを加えない従来のPBI/ H3PO4膜とは異なる。2M-3T-1BISSi-3H3PO4の組成を有する一試料の31P MAS-NMRスペクトルは、膜内の約80%のH3PO4が、解離していないH3PO4及び(H4PO4+及びH2PO4-のような)解離種を含む遊離した形で存在し、その他のH3PO4はP-O-Si結合によりSi-O-Si網目構造物に結合していることを示した。
【0036】
図9は、室温から400℃まで乾燥空気中で3℃/分の加熱速度で測定された2M-3T-1BISSi-nP(n=3、5、及び7)及び2M-2B(又はO)-1T-1BISSi-6PのTGA曲線を示す。2M-3T-1BISSi-nPの膜の場合には、H3PO4含量の増大に伴って分解の開始温度が低下する。H3PO4含量n=0、3、5、及び7の膜の場合には、それぞれ、約300℃、230℃、220℃、及び190℃であり、H3PO4を添加すると、酸分子のハイブリッド無機−有機コポリマー網目構造物への錯化が徐々に弱くなり、PPOを基剤とするポリマー主鎖を酸化するので、膜の熱安定性を低下させることを示す。膜の熱安定性は、BTMSEB及びBTESOの添加により改良された。BTMSEB及びBTESOを有する膜の分解開始は約250℃である。BISSiの結合基内のベンゼン環は熱安定性を増大しうる。
無水状態におけるすべての膜のプロトン伝導率は、室温(RT)乃至約140℃において0.01Hz〜5MHzの周波数範囲でSolartron 1255/1286インピーダンス分析器を用いて測定した。すべての膜はあらかじめ乾燥Ar中60℃で6時間、80℃で3時間、及び100℃で2時間加熱し、膜内の大部分の水を除去した。プロトン伝導率データは、試料を乾燥Ar中で安定させるために少なくとも2時間その温度に保持した後に測定した。
図10は、膜2M-3T-1BISSi(ImSSi)-xP(x=3、5、及び7)、及びImSSbを基剤とする膜のプロトン伝導率を示す。すべての膜についてプロトン伝導率は温度とともに増大し、膜内のH3PO4含量が5より大きくなると100℃より高温で10-3S/cmに達する。2M-3T-1ImSSi-7Pの組成を有する試料については、110℃において3.2×10-3S/cmである。プロトン伝導率は、既報の従来のポリマー-H3PO4物質と同様にH3PO4含量とともに増大し、H3PO4自己解離に由来するプロトンが新規膜におけるプロトン伝導率の主要な発生源であることを示す。従来の自立性PBI-2.9H3PO4と比較して、新規膜は高いプロトン伝導率を有する(9-13)。このことは、PBI膜内のH3PO4はイミダゾール環と強い相互作用を有するが、新規膜内のそれは前述のように主として遊離した形で存在し、イミダゾール環にプロトンを加えるという事実に帰する。
【0037】
図11は、種々のH3PO4含量に関するBISSi-P膜のプロトン伝導率データを示す。イミダゾールグラフト膜2M-3T-1ImSSi-5Pを2M-3T-5Pの組成を有するそれと比較すると、イミダゾールグラフト膜のプロトン伝導率のほうが、特に低温範囲では小さいことを見出しうる。ベンズイミダゾール含量の増大に伴って、膜のプロトン伝導率は低下する(図11を参照されたい)。可能な理由の一は、PBI-H3PO4-イミダゾール系において観察されるように膜の粘度が高いためにイミダゾールの局所的移動度が圧迫されるということである。従って、水分子のようなプロトン輸送の媒体としてのイミダゾール環の作用は、プロトン伝導率を向上させるほど十分には大きくない。しかしながら、イミダゾール(Pka1=6.9)及びベンズイミダゾール(Pka1=5.3)は強塩基であるため、H3PO4はイミダゾール環にプロトンを加え、N-H+基を形成する。N-H+及びH2PO4-間又はN-H+基間のプロトン輸送速度は、H3PO4及びH2PO4-間のそれよりずっと低く、従って膜のプロトン伝導率は低下する。2M-3T-1ImSSib-5Pの組成を有する膜のプロトン伝導率が、2M-3T-1ImSSi-5Pの組成を有する膜のそれよりずっと高いことは注目に値する。ImSSi及びImSSibの分子構造を比較すると、イミダゾール環をSiと結合している有機連鎖が非常に異なることがわかる。ImSSiの連鎖にはベンゼン環が存在するので、ImSSibにおける連鎖はImSSiにおけるそれよりずっと柔軟である。従って、ImSSibを有する膜内のイミダゾール環の局所的移動度はImSSiを有するそれよりずっと容易である。柔軟な連鎖は構造物の拡散によるプロトンの迅速な輸送を許容するので、ImSSibを有する膜のほうがプロトン伝導率は高い。
新規膜の湿度感応性を調べるために、複数の試料をMgCl2飽和水溶液の蒸気中で70乃至120℃に保持した。MgCl2飽和水溶液を用いて密閉した室内の相対湿度の計算値は、70℃で26%、100℃で22.5%、及び120℃で15%未満である。測定されたプロトン伝導率の値が安定するまで試料を各温度において数時間保持した(23)。
図12は、計算された相対湿度における2M-2O(又はB)-1T-1BISSi-nP(n=4、及び6)の試料のプロトン伝導率を示す。すべての試料のプロトン伝導率は、100℃より高温で0.01S/cmより大きい。2M-2O-1T-1BISSi-6Pの試料に関しては、110℃で0.04S/cmである。湿った条件下におけるプロトン伝導率がずっと高いということは、プロトンの媒体としてのH3O+の移動度が高いためと考えられる。膜は、120℃において10時間以上湿った環境に保持した後もその機械的性質を保持した。
【0038】
燃料電池試験の結果
本発明による膜は種々の用途に使用しうる。例えば、膜は改良された燃料電池に使用しうる。
燃料電池試験においては、電解質としての新規膜2M-3T-1BISSi-7P及び電極としての市販のPtコートカーボン紙(1mg/cm2)を有する膜−電極集成体(MEA)は、100℃において約110バールの圧力下で2分間電極間に膜を熱圧することにより得た。
新規ハイブリッド無機−有機コポリマー膜を、燃料としてH2及び酸化剤としてO2を用いた燃料電池で試験した。入口気体の相対湿度は、100℃で2%及び130℃で1%であると計算された。膜の厚さは約200μmである。燃料電池は大気圧下で試験した。
図13は、電解質として膜2M-3T-1BISSi-7Pを用いた100℃及び130℃における電圧−電流及び電力密度−電流曲線を示す。図は、周囲圧力下100℃及び130℃における2M-3T-1BISSi-7Pの電流密度に対する電池電圧及び電力密度を示す。(室温において水蒸気で泡立てたH2/O2)。
130℃において開放電圧は約0.9Vであり、電力密度は3.2mW/cm2である。電力密度は、電解質としてPBI-H3PO4を用いる燃料電池のそれより大きさが1〜2位低い。電極及び電解質間の界面抵抗は45Ω/cm2より大きいことが見いだされた。このことは、たぶん不十分な燃料電池性能の理由の一である。膜−電極集成体(MEA)及び作業条件の最適化によりずっと高い性能が期待される。
OxImSSiの合成及びOxImSSiを用いる膜の製造
この節では、2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)スルホニル]-1H-イミダゾール(OxImSSi、以下に示す)の合成、及びOxImSSi及びH3PO4を用いた膜の製造を記載する。
【0039】
【化9】
【0040】
スルホニル基の電子吸引効果のために、スルホニル基の結合したイミダゾール環は一層酸性(N原子上のH+は一層活性)であり、従ってそれらを基剤とする膜はより高いプロトン伝導率を有しうる。この研究においては、2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)チオ]-1H-イミダゾール中の-S-基が過酸化物を用いて-SO2-基に酸化された。
2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)チオ]-1H-イミダゾールは、実施例2aにおいて前述したようにして合成した。10ミリモルの2-[(p-2-トリメトキシシリルエチレンフェニレンメチル)チオ]-1H-イミダゾールを20mlのエタノールに溶解させ、次いで20ミリモルのm-クロロ過安息香酸のエタノール溶液を滴下した。数時間攪拌した後、減圧下で溶剤を除去し、白色固体をエーテルで抽出してm-クロロ安息香酸を除去した。粘性固体として残存するOxImSSiをメタノール及びアセトンの混合物に溶解させた。
図14は、OxImSSiのFTIRスペクトルを示し、S=O基のピークが1260cm-1に出現することを示す。
OxImSSiを用い、2種の膜を製造した。
(1) 2MDSPPO-3TEOS-1OxImSSi-5H3PO4
(2) 2MDSPPO-2BTESO-1TEOS-1OxImSSi-5H3PO4
図15は、2MDSPPO-3TEOS-1OxImSSi-5H3PO4の組成を有する膜が、膜2MDSPPO-3TEOS-1ImSSi-5H3PO4のそれより約50℃低い190℃から迅速に質量を損失し始め、-SO2-基が膜の熱安定性を低下させることを示す。
【0041】
図16は、無水状態における2MDSPPO-3TEOS-1OxImSSi-5H3PO4及び2MDSPPO-3TEOS-1ImSSi-5H3PO4のプロトン伝導率を示す。2MDSPPO-3TEOS-1OxImSSi-5H3PO4の組成を有する膜のほうが、測定された温度において高いプロトン伝導率を有した。-SO2-基がイミダゾール環の酸性度を増大させ、膜のプロトン伝導率を増大させた。
図17は、MgCl2飽和水溶液の蒸気中における2MDSPPO-2BTESO-1TEOS-1OxImSSi-5H3PO4及び2MDSPPO-2BTESO-1TEOS-1ImSSi-5H3PO4のプロトン伝導率を示す(計算された相対湿度は80℃において約26%及び100℃において22%である)。これらのデータは、相対湿度の低い環境におけるプロトン伝導率を示す。2MDSPPO-2BTESO-1TEOS-1OxImSSi-5H3PO4の組成を有する膜のほうが、2MDSPPO-2BTESO-1TEOS-1ImSSi-5H3PO4のそれよりずっと高いプロトン伝導率を有し、-SO2-基がイミダゾール環の酸性度を増大させたことが更に確認された。
【0042】
グラフトされた-SO3H基及びイミダゾール環を有する新規ハイブリッド無機−有機膜の合成
イミダゾール環及び酸基を網目構造物にグラフトした膜は合成しうる。酸基は有機酸基(例えば、-COOH等)でも無機酸基(例えば、-SO3H、-PO3H2等)でもよい。
イミダゾール環末端の可撓性連鎖を、-SO3H基、-PO3H2基、-COOH基、及び/又はその他の酸基を含む連鎖とともにグラフトした前駆物質も合成しうる。
図18は、-SO3H及びベンズイミダゾール環をグラフトした一例の膜の分子構造を示す。-SO3H基を加えると、無水状態におけるプロトン伝導率がより高くなる。
典型的なゾル−ゲル法により、1MDSPPO-2BTESO-4TSPS-4BIの組成を有する新規膜を調製した(TSPS:トリヒドロキシシリルプロピルスルホン酸、Gelestから購入した30質量%水溶液)。無水状態ではもろいが、水で飽和させると非常に可撓性である。
図19は、乾燥空気中、5℃/分の加熱速度で測定されたTGA曲線を示し、膜が乾燥空気中で300℃まで熱的に安定であることを示す。無水状態におけるプロトン伝導率は、RT乃至140℃において10-6S/cm未満である。このことは、ベンズイミダゾールの強塩基性のためと考えうる。
プロトン伝導率は、ベンズイミダゾール(BI)末端連鎖をPka値がずっと低いその他の複素環を末端に有する連鎖で置換することにより増大させうる。このことが無水状態におけるプロトン伝導率を増大させるであろう。
しかしながら、図20は、新規膜が水和状態で非常に高いプロトン伝導率を有することを示す。1M-2Oc-4S-4Bのプロトン伝導率が異なる相対湿度(RH)を有する環境において示されている。RH〜100%、100℃において0.05S/cmであり、Nafion 115に匹敵する。
図21は、試料2M-2Oc-4S-2BIに関するプロトン伝導率のRH及び温度依存性を示す。
2MDSPPO-2BTESO-4TSPS-2BI及び1MDSPPO-2BTESO-2TSPS-4BIの組成を有する2種のその他の膜を調製した。
【0043】
その他の実施例
プロトン伝導率の向上した物質を提供するために、単純で効率的な求核置換反応により可撓性有機分岐でイミダゾール環をハイブリッド無機−有機コポリマー網目構造物に結合させた。
イミダゾール環末端アルコキシシラン及びH3PO4から製造した新規膜は、無水状態及び低相対湿度で良好な機械的性質及び高いプロトン伝導率を有し、少なくとも190℃まで熱的に安定である。プロトン伝導率は、100℃より高温の低相対湿度(<20%)条件下で10-2S/cmより高く、高温PEM燃料電池及びその他の電気化学的デバイスにおける適用に大きな可能性を有することを示す。
本明細書に記載したプロトン電解質膜(PEM)は、燃料電池、水素分離/精製、炭化水素燃料の改質/部分的酸化、汚染物質除去、ガス検出、及びエネルギー貯蔵及び変換に関するその他のプロセスにおいて使用しうる。
その他の前駆物質の実施例
改良されたプロトン伝導性膜は、前述の実施例において記載したように前駆物質から形成しうる。膜は、異なる分子構造の多くの前駆物質を、例えば共重合反応において反応させることにより形成しうる。本発明による新規前駆物質には、以下の一般式の化合物が含まれる。
X−Y−Z
(式中、Xは末端基であり、Yは結合基であり、Zは反応性基である。)
【0044】
末端基
末端基には、複素環、好ましくは孤立電子対を提供しうる原子を1個以上含む複素環が含まれうる。例には、2個以上の窒素原子を有する含窒素複素環のような含窒素複素環が含まれる。複素環にはイミダゾール、及びその誘導体が含まれる。
その他の例においては、複素環は、例えば、N、O、及び/又はS原子の組み合わせのような1個以上の窒素、硫黄及び/又は酸素原子、を含みうる。複素環は、複素脂肪族でも複素芳香族でもよい。
末端基にはまた、例えばフッ素化イミダゾールのようなハロゲン化複素環が含まれる。フッ素化イミダゾールの例は、そのすべての内容が参考として本明細書に導入されている米国仮特許願第60/539,641号に記載されている。
末端基には、1、2、3個、又はそれ以上の連結及び/又は縮合環構造が含まれうる。末端基が1個以上の環構造を含む場合には、1個以上の環は、含窒素複素環のような複素環でもよい。末端基は1個以上の複素環を含みうるが、それらは異なる構造を有してもよい。
本発明による化合物の末端基に含まれうる含窒素複素環の更なる例には、ベンズイミダゾール、フェニルイミダゾール(例えば、2-フェニルイミダゾール、PI)、ビニルイミダゾール、2-メチル-4-エチルイミダゾール、イミダゾール-2-カルボックスアルデヒド、ピラゾール、オキサゾール、カルバゾール、インドール、イソインドール、ジヒドロオキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンズイミダゾール、イミダゾリジン、インダゾール、4,5-ジヒドロピラゾール、1,2,3-オキサジアゾール、フラザン、1,2,3-チアジアゾール、1,2,4-チアジアゾール、1,2,3-トリアゾール、ベンゾトリアゾール、1,2,4-トリチアゾール、テトラゾール、ピロール、ピロリジン、及びピラゾール基、及びその誘導体が含まれる。
その他の例においては、末端基は、例えば1個以上のアミノ基のような、各々が孤立電子対を提供しうる1個以上の原子を含みうる。
末端基にはまた、環構造から延在するアルキル基のような1個以上の置換基が含まれうる。置換基は、例えば末端基の電気化学的性質の調整、他の化合物との混合の改良、熱的性質の調整等のような種々の理由のために含まれうる。
【0045】
結合基
結合基には、例えば1個以上のアルキル基に1乃至20個の炭素原子(例えば、2〜5個の炭素原子)を有するアルキル連鎖のようなアルキル連鎖が含まれうる。結合基にはまた、1個以上のベンゼン環のような芳香族環、又は1個以上の酸素(例えば、エーテル又はエステル結合)又は硫黄のような原子が含まれうる。結合基は、好ましくは、反応性基(又は重合性基)Zが反応してポリマー又はゾル−ゲル誘導網目構造物のような網目構造物を形成するときに末端基にある程度移動度を提供する。
結合基は、特に前駆物質が、例えばハロゲン及びシランを含む化合物、及びチオール基及び複素環(又はその他の末端基)を含む化合物間のような、チオール基及びハロゲン間の求核置換反応により合成される場合には、硫黄原子を含みうる。
反応性基
反応性基Z(例えば、重合性基)には、反応(例えば、重合又は1種以上のその他の前駆物質又はその他の化合物と共重合)してポリマーのような網目構造物を形成しうる基が含まれる。反応性基は、トリアルコキシシリル基のようなシラン基でもよい。反応性基はまた、ビニル、アクリレート等のような、従来のモノマー基でもよい。物質は、例えば無機(シランから)−有機ハイブリッド網目構造物、有機コポリマー網目構造物等を形成する異なる反応性基を有する前駆物質の混合物から形成されうる。あるいは、同一の反応性基を有するが、異なる末端及び/又は結合基を有する異なる前駆物質が使用されうる。
【0046】
その他の実施例
前駆物質の例には、下式のトリアルコキシシランのようなシランが含まれる。
T−L−Si(OR)3
(式中、Tは末端基であり、Lは結合基であり、Rはアルキル基、水素、又はその他の置換基である。)R基は同種でも異種でもよい。珪素原子に結合しているアルコキシ基の種類は、最終的な膜に重要な影響を及ぼさない。
シラン前駆物質はまた、T−L−SiRx(OR)3-x(式中、Rはアルキル基又はその他の置換基である。)の形でもよい。
別の例においては、結合基(のみ又はシラン基とともに)又はシラン基は、ポリシロキサン、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリエステル、又は本明細書の別の箇所に記載されているポリマーか化学業界において公知のポリマーのようなその他のポリマーのようなポリマー主鎖に結合されうる。可撓性結合基は、あらかじめ存在するポリマー主鎖に末端基を柔軟に結合させるために、あらかじめ存在するポリマー主鎖にグラフトさせうる。例えば、あらかじめ存在するポリマーは、1種以上の側鎖が結合しうるサイトを有しうる。側鎖は、例えば、含窒素複素環のような末端基を含む。例えば、2003年5月28日に出願された米国仮特許願第60/473,812号に記載されているようなグラフト方法を容易にするために、あらかじめ存在するポリマーは、例えばUV又はオゾンで処理しうる。
プロトン伝導性膜はまた、シラン前駆物質の混合物を加水分解して、1種以上の複素環が網目構造物の珪素原子に柔軟に結合している珪素原子を含む網目構造物を形成してもよい。
【0047】
従って、改良されたプロトン伝導性膜は、少なくとも第一のシラン及び第二のシランの共重合から形成された網目構造物を含み、第一のシランは第一のシラン基、末端基、及び末端基を第一のシラン基に結合させる結合基を含み、第一の末端基は孤立電子対を提供する原子を含む。例えば、原子は窒素でも、硫黄でも、酸素でもよい。末端基は、複素環、例えば、環内に2個の窒素原子(任意に非隣接原子)を有する複素環のような含窒素複素環でもよい。結合基は、例えば、前駆物質が含チオール化合物及び含ハロゲン化合物間の求核反応で形成される場合には硫黄原子を含み、化合物の一方はシラン基を含み、他方は末端基を含む。
好ましくは、末端基は網目構造物内の珪素原子に柔軟に結合している。例えば、結合基は少なくとも2個又は3個の炭素原子を含みうる。酸基もまた網目構造物に結合されうる。プロトン伝導性膜は更に無機酸(例えば、リン酸)又は有機酸(例えば、カルボン酸)のような遊離酸分子を含みうる。
膜は、1種以上の本発明による前駆物質の、その他の化合物の存在下又は不在下における共重合により形成されうる。例えば、プロトン伝導性膜は、第一の反応性基、第一の結合基、及び第一の末端基を含む第一の前駆物質と、第二の反応性基、第二の結合基、及び第二の末端基を含む第二の前駆物質との共重合により形成されうる。例えば、第一の末端基は、例えば含窒素複素環のような、孤立電子対を提供する1個、2個又はそれ以上の原子を提供する。第二の末端基は、例えば以下に記載するように、酸基を提供しうる。第一及び第二の反応性基はトリアルコキシシランでもよく、共重合はゾル−ゲル法でもよい。
前駆物質のシラン基には、例えばトリアルコキシシリル基のような、Si(OR1)(OR2)(OR3)(式中、R1、R2、及びR3の各々はアルキル基又は水素原子を表す)の形のシラン基が含まれる。アルケニル基のようなその他の置換基がアルキル基の代わりに使用しうる。別の例においては、1種以上のアルコキシ基がアルキル基と置換されうる。
別の例においては、本発明による含シラン前駆物質は熱可塑性ポリマーにグラフトされ、グラフトされたポリマーは、例えばアルコキシシランのようなその他のシラン又は本明細書に記載されているその他のシラン前駆物質とともにゾル−ゲル反応に含まれる。
【0048】
酸基
例えば、スルホン酸基(-SO3H)、リン酸基(-PO3H)、ホウ酸(-B(OH)2)等のような無機酸基、及び/又はカルボン酸基(-COOH)のような有機酸基もまた網目構造物に結合しうる。環境によっては、解離しうるプロトンを、アルカリ金属イオン、その他の金属イオン、アンモニウムイオン等のような別のイオンにより置換しうる。
網目構造物に結合しうるその他の基には、ビススルホニルアミド基のようなアミド基が含まれる。
適用
プロトン伝導性膜は、燃料電池内の膜として使用しうる。本発明による燃料電池は、正極、負極、及び別の箇所に記載されているプロトン伝導性物質から形成されたプロトン伝導性膜を含む。
膜の寸法は、公知のように、燃料電池の形状により決定されるであろう。プロトン伝導性物質は、更なる加工を必要とせず膜として使用するのに適する形で製造されるか、所望の形状に切断するか又は更に加工しうるテープ又はシートとして形成されうる。プロトン伝導性物質は、織物材料のような1種以上の強化シートを含むか、その上に付着されうる。
膜の機械的性質を改良するためには、例えば織物又は格子の形のような熱的に安定な材料が膜内又はその表面上に含まれうる。例えば、膜の脆性を低下させるためにNafionグリッドが含まれうる。
従って、本発明による燃料電池の一例には、正極、負極、及びそれらの間の以下に記載するプロトン伝導性物質から形成される膜が含まれる。
本明細書に記載されているプロトン電解質膜(PEM)又はその他の形のポリマー伝導性物質は、燃料電池、水素分離/精製、炭化水素燃料の改質/部分的酸化、汚染物質除去、ガス検出、及びエネルギー貯蔵及び変換に関するその他のプロセスにおいて使用しうる。
【0049】
任意の変更
本発明によるプロトン伝導性物質は更に、含金属粒子(例えば、ナノメートル寸法の吸湿性の金属酸化物)のような粒子、機械的性質を改良するための膜内に分散させたポリマー、主鎖内に孤立電子対を提供する原子を有する主鎖ポリマー、酸基で置換されたポリマー(例えば、-H3PO4のような無機酸基を含むポリマー)、及びZr(HPO4)2・H2O、珪タングステン酸(SiO2・12WO3・26H2O) のようなプロトン伝導性無機化合物、酸基(例えば、-SO3H、-PO3H2のような無機酸)、-SO2NHSO2CF3、及び-CF2SO2NHSO2CF3のような基、CsHSO4のような無機塩、及びZr(HPO4)2のような酸塩を含むその他の化合物、のようなドーパント、を含みうる。その他のプロトン源及びプロトン溶剤も含まれる。
別の例においては、例えば2個のシラン基が2〜20個の炭素原子を有するアルキル連鎖により相互に結合しているような、2種以上の柔軟に相互に結合されているシラン基のような追加の有機シランが、例えば機械的性質を改良するために膜の調製に使用されうる。例えばSi(A3-xBx)-R-Si(A3-xBx)(式中、Aはアルコキシ基、水素、又はその他の置換基でもよく、Bはアルキル基でもよく、Rは可撓性連鎖である)の形を有するシランのような、ビスアルコキシシリル末端ポリマー(オリゴマーを含む)、及び/又は短い有機連鎖が使用されうる。可撓性連鎖の例には、ポリプロピレンオキシド、ポリテトラエチレンオキシド、ポリ(1-ブテン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニル、及びポリビニルアルコールが含まれる。従って、例にはビス(アルコキシシリル)末端ポリマー化合物が含まれる。可撓性連鎖の別の例には、2〜20個の炭素原子を有する直鎖状アルキル基、炭素、水素、及び任意に酸素を含むその他の連鎖、及びその他の連鎖が含まれる。
【0050】
本発明によるプロトン伝導性物質は、イミダゾール及びその誘導体(2-エチル、4-メチルイミダゾール及びベンズイミダゾールを含む)、又はその他の含窒素複素環及びそれらの誘導体のような、シラン前駆物質に関して前述した末端基に類似した低分子を更に含みうる。そのような化合物は物質のプロトン伝導率を改良するために添加しうる。
水誘導分解に対する膜の抵抗性は、硫酸水素セシウム(CsHSO4)又はリン酸水素セシウム(CsH2PO4)のような不溶性酸塩を膜中に含むことにより増大させうる。
本発明による物質から形成された膜は、機械的性質のような性質を改良するために、Nafion繊維のようなポリマー繊維を更に含みうる。これらの繊維は、無機−有機ハイブリッド網目構造物の残部に化学的に結合している必要はない。
酸基は、ゾル−ゲル反応に酸基を含むシランを含むことにより網目構造物に結合されうる。例には、PETHS(PO(OH)2-C2H4-Si(OH)3、ホスホリルエチルトリヒドロキシルシラン及びアルコキシ類似物)、酸置換フェニルトリアルコキシシラン(例えば、SPS(Si(EtO)3-Ph-SO2OH))等が含まれる。
本明細書に記載されている特許、公告、及び仮特許願は、個々の公告が参考として導入されていると明確及び個々に示されているのと同程度に、参考として本明細書に導入されている。特に、2003年5月28日に出願されたLiらによる同様な発明の名称の仮特許出願は、そのすべてが本明細書に導入されている。
本発明は、前述の例証となる実施例に限定されない。実施例は本発明の範囲の限定を意図しない。それらにおける変化、要素のその他の組み合わせ、及びその他の使用は当業者に発生するであろう。発明の範囲は、特許請求の範囲により定義される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】2-トリエトキシシリルプロピルチオメチル-1H-ベンズイミダゾール(BISSi)の合成の合成スキ−ムを示す。
【図2】2-[(p-2-トリエトキシシリルエチレン-フェニレンメチル)チオ]-1H-イミダゾール(ImSSi)の合成の合成スキ−ムを示す。
【図3】2-((3-トリエトキシシリルプロピル)チオ)-1H-イミダゾール(ImSSib)の合成の合成スキ−ムを示す。
【図4】2-メチルジエトキシシリル-プロピルチオメチル-1H-ベンズイミダゾールの合成の合成スキ−ムを示す。
【図5】膜内のプロトン輸送の略図を示す。
【図6】(A)2M-3T-1BiSSi-3P及び(B)2M-2Oc-1T-1ImSSi-5Pの組成を有する2種のハイブリッド無機−有機膜の31P NMRスペクトルを示す。
【図7A】乾燥空気中で得られた3種の試料2M-3T-1BI-xP(x=0、3、及び5)のTGA及びDSC曲線(加熱速度:5℃/分)を示す。
【図7B】乾燥アルゴン中で得られた試料2M-3T-1BI-xP(x=3、5、及び7)のプロトン伝導率を示す。
【図8A】乾燥空気中で得られた2種の試料2M-3T-1Im-xP(x=3、及び5)のTGA曲線(加熱速度:5℃/分)を示す。
【図8B】乾燥アルゴン中で得られた2種の試料2M-3T-1Im-xP(x=3、及び5)のプロトン伝導率を示す。
【図9】乾燥空気中、5℃/分の加熱速度で測定された数種の膜のTGA曲線を示す。
【図10】無水状態における2M-3T-xImSSi(ImSSib)-yP(x=0、y=5;x=1、y=3、5、及び7)のプロトン伝導率を示す。
【図11】無水状態における2M-3T-xBISSi-yP(x=1、y=3、5、及び7;x=2、及び3、y=5)のプロトン伝導率を示す。
【図12】MgCl2飽和水溶液の蒸気中における2M-2O(又はB)-1T-1BISSi-xP(x=4及び6)のプロトン伝導率安定性を示す。
【図13】周囲圧力下100℃及び130℃における2M-3T-1BISSi-7Pの電流密度に対する電池電圧及び電力密度を示す(室温において水蒸気で泡立てたH2/O2)。
【図14】OxImSSiのFTIRスペクトルを示す。
【図15】乾燥空気中、5℃/分の加熱速度で測定されたImSSiを用いた膜と比較したOxImSSiを用いた新規膜のTGA曲線を示す。
【図16】無水状態における2MDSPPO-3TEOS-1OxImSSi-5H3PO4及び2MDSPPO-3TEOS-1ImSSi-5H3PO4のプロトン伝導率を示す。
【図17】MgCl2飽和水溶液の蒸気中における2MDSPPO-2BTESO-1TEOS-1OxImSSi-5H3PO4及び2MDSPPO-2BTESO-1TEOS-1ImSSi-5H3PO4のプロトン伝導率を示す(計算された相対湿度は80℃において約26%及び100℃において22%である)。
【図18】-SO3H及びベンズイミダゾール環をグラフトした膜の分子構造を示す。
【図19】乾燥空気中、5℃/分の加熱速度で測定されたTGA曲線を示す。
【図20】異なる相対湿度(RH)を有する環境中における1M-2Oc-4S-4Bのプロトン伝導率を示す。
【図21】試料2M-2Oc-4S-2BIに関するプロトン伝導率の相対湿度及び温度依存性を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第一のシラン及び第二のシランの共重合から形成された材料を含むプロトン伝導性膜であって、
前記第一シランが、第一のシラン基、末端基、及び前記末端基を第一シラン基に結合させる結合基を含み、
前記第一末端基が、孤立電子対を提供する1個以上の原子を含む、
ことを特徴とするプロトン伝導性膜。
【請求項2】
前記第一シラン基が、
-Si(OR1)(OR2)(OR3)
(式中、R1、R2、及びR3の各々は、アルキル基又は水素原子を表す。)
の形のアルコキシシリル基である請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項3】
前記孤立電子対を提供する原子が、窒素、酸素、及び硫黄からなる群から選択される請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項4】
前記末端基が、複素環を含む請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項5】
前記末端基が、含窒素複素環を含む請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項6】
前記末端基が、2個の非隣接窒素原子を有する複素環を含む請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項7】
前記結合基が、硫黄原子を含む請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項8】
前記結合基が、2個以上の炭素原子を含む請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項9】
前記第二のシランが、酸基を含む請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項10】
前記酸基が、無機酸基である請求項9記載のプロトン伝導性膜。
【請求項11】
前記第二シランが、テトラアルコキシシランである請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項12】
前記第二シランが、シラングラフトポリマーである請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項13】
前記第二シランが、ビスアルコキシシリル末端ポリマーである請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項14】
前記第二シランが、2個以上の可撓性をもって相互に結合されたシラン基を有する化合物である請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項15】
無機酸を更に含む請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項16】
3種以上のシランの共重合から形成された材料を含み、
第二シランが、酸基を含み、
第三のシランが、シラングラフトポリマーである、
請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項17】
正極、負極、及び請求項1記載のプロトン伝導性膜を含む燃料電池。
【請求項18】
珪素原子及び酸素原子を含むポリマー網目構造物、
前記網目構造物内の少なくともいくつかの珪素原子に結合された第一の有機側鎖、
を含む組成物であって、
前記第一の有機側鎖が、結合基及び末端基を含み、前記結合基が前記末端基を前記ポリマー網目構造物の珪素原子に結合させ、
前記末端基が、孤立電子対を提供する1個以上の原子を含む、
ことを特徴とする組成物。
【請求項19】
前記孤立電子対を提供する原子が、窒素、酸素、及び硫黄からなる群から選択される請求項18記載の組成物。
【請求項20】
前記末端基が、複素環を含む請求項18記載の組成物。
【請求項21】
前記末端基が、含窒素複素環を含む請求項18記載の組成物。
【請求項22】
前記複素環が、2個以上の窒素原子を含む請求項18記載の組成物。
【請求項23】
前記末端基が、2個の非隣接窒素原子を含む請求項18記載の組成物。
【請求項24】
前記結合基が、2個以上の炭素原子及び1個の硫黄原子を含む請求項18記載の組成物。
【請求項25】
前記第一の結合基が、3個以上の炭素原子を含む請求項18記載の組成物。
【請求項26】
前記網目構造物内の珪素原子に結合された第二の側鎖を更に含み、
前記第二の側鎖が酸基を含む、
請求項18記載の組成物。
【請求項27】
前記ポリマー網目構造物が、有機−無機ハイブリッド網目構造物である請求項18記載の組成物。
【請求項28】
請求項18記載の組成物を含むプロトン伝導性膜。
【請求項29】
正極、負極、及び請求項28記載のプロトン伝導性膜を含む燃料電池。
【請求項30】
シラン前駆物質を合成する方法であって、
末端基及び第一の反応性基を含む第一の化合物を提供する工程、
シラン基及び第二の反応性基を含む第二の化合物を提供する工程、
前記シラン前駆物質を提供するために前記第一の反応性基及び前記第二の反応性基間の反応を提供する工程、
を含み、
前記シラン前駆物質が、結合基によりシラン基に結合された末端基を有し、かつ前記シラン前駆物質が、有機−無機ハイブリッド網目構造物を形成するためのゾル−ゲル方法において重合性であることを特徴とする方法。
【請求項31】
前記反応が、求核置換反応又は求核付加反応である請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記反応がハロゲン原子及びチオール基間であるため、シラン前駆物質の結合基が、硫黄原子を含む請求項30記載の方法。
【請求項33】
前記末端基が、複素環である請求項30記載の方法。
【請求項34】
前記複素環が、含窒素複素環である請求項30記載の方法。
【請求項35】
前記複素環が、イミダゾール環である請求項30記載の方法。
【請求項36】
シラン基、
該シラン基に結合している結合基、及び
該結合基に結合している末端基、
を含み、
前記末端基が、孤立電子対を提供する1個以上の原子を含み、
前記原子が、窒素、硫黄、及び酸素からなる群から選択される、
ことを特徴とするシラン前駆物質。
【請求項37】
前記末端基が、含窒素複素環を含む請求項36記載のシラン前駆物質。
【請求項38】
前記結合基が、2個以上の炭素原子を含む請求項36記載のシラン前駆物質。
【請求項39】
前記シラン前駆物質が、前記シラン基を含む第一の化合物及び前記末端基を含む第二の化合物間の求核置換反応により合成される請求項36記載のシラン前駆物質。
【請求項40】
少なくとも第一の前駆物質及び第二の前駆物質の共重合から形成されたプロトン伝導性膜であって、
前記第一の前駆物質が、
第一の重合性基、
結合基、及び
末端基、
を含み、前記末端基が、結合基により第一の反応性基に結合していて、前記末端基が、孤立電子対を提供する1個以上の原子を含み、かつ
前記第二の前駆物質が、第二の重合性基を有する
ことを特徴とするプロトン伝導性膜。
【請求項41】
前記末端基が、複素環を含み、前記複素環が2個以上の窒素原子を含む請求項40記載のプロトン伝導性膜。
【請求項42】
前記末端基が、イミダゾール基又はベンズイミダゾール基を含む請求項40記載のプロトン伝導性膜。
【請求項43】
前記第一の前駆物質が、更に酸基を含む請求項40記載のプロトン伝導性膜。
【請求項44】
前記第二の前駆物質が、酸基を含む請求項40記載のプロトン伝導性膜。
【請求項45】
前記第一の重合性基及び第二の重合性基が、ともにシランであり、前記共重合がゾル−ゲル反応である請求項40記載のプロトン伝導性膜。
【請求項46】
無機−有機ハイブリッド網目構造物、
前記無機−有機ハイブリッド網目構造物に柔軟に結合した含窒素複素環、及び
前記無機−有機ハイブリッド網目構造物に結合した酸基、
を含む物質の組成物。
【請求項1】
少なくとも第一のシラン及び第二のシランの共重合から形成された材料を含むプロトン伝導性膜であって、
前記第一シランが、第一のシラン基、末端基、及び前記末端基を第一シラン基に結合させる結合基を含み、
前記第一末端基が、孤立電子対を提供する1個以上の原子を含む、
ことを特徴とするプロトン伝導性膜。
【請求項2】
前記第一シラン基が、
-Si(OR1)(OR2)(OR3)
(式中、R1、R2、及びR3の各々は、アルキル基又は水素原子を表す。)
の形のアルコキシシリル基である請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項3】
前記孤立電子対を提供する原子が、窒素、酸素、及び硫黄からなる群から選択される請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項4】
前記末端基が、複素環を含む請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項5】
前記末端基が、含窒素複素環を含む請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項6】
前記末端基が、2個の非隣接窒素原子を有する複素環を含む請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項7】
前記結合基が、硫黄原子を含む請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項8】
前記結合基が、2個以上の炭素原子を含む請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項9】
前記第二のシランが、酸基を含む請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項10】
前記酸基が、無機酸基である請求項9記載のプロトン伝導性膜。
【請求項11】
前記第二シランが、テトラアルコキシシランである請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項12】
前記第二シランが、シラングラフトポリマーである請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項13】
前記第二シランが、ビスアルコキシシリル末端ポリマーである請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項14】
前記第二シランが、2個以上の可撓性をもって相互に結合されたシラン基を有する化合物である請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項15】
無機酸を更に含む請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項16】
3種以上のシランの共重合から形成された材料を含み、
第二シランが、酸基を含み、
第三のシランが、シラングラフトポリマーである、
請求項1記載のプロトン伝導性膜。
【請求項17】
正極、負極、及び請求項1記載のプロトン伝導性膜を含む燃料電池。
【請求項18】
珪素原子及び酸素原子を含むポリマー網目構造物、
前記網目構造物内の少なくともいくつかの珪素原子に結合された第一の有機側鎖、
を含む組成物であって、
前記第一の有機側鎖が、結合基及び末端基を含み、前記結合基が前記末端基を前記ポリマー網目構造物の珪素原子に結合させ、
前記末端基が、孤立電子対を提供する1個以上の原子を含む、
ことを特徴とする組成物。
【請求項19】
前記孤立電子対を提供する原子が、窒素、酸素、及び硫黄からなる群から選択される請求項18記載の組成物。
【請求項20】
前記末端基が、複素環を含む請求項18記載の組成物。
【請求項21】
前記末端基が、含窒素複素環を含む請求項18記載の組成物。
【請求項22】
前記複素環が、2個以上の窒素原子を含む請求項18記載の組成物。
【請求項23】
前記末端基が、2個の非隣接窒素原子を含む請求項18記載の組成物。
【請求項24】
前記結合基が、2個以上の炭素原子及び1個の硫黄原子を含む請求項18記載の組成物。
【請求項25】
前記第一の結合基が、3個以上の炭素原子を含む請求項18記載の組成物。
【請求項26】
前記網目構造物内の珪素原子に結合された第二の側鎖を更に含み、
前記第二の側鎖が酸基を含む、
請求項18記載の組成物。
【請求項27】
前記ポリマー網目構造物が、有機−無機ハイブリッド網目構造物である請求項18記載の組成物。
【請求項28】
請求項18記載の組成物を含むプロトン伝導性膜。
【請求項29】
正極、負極、及び請求項28記載のプロトン伝導性膜を含む燃料電池。
【請求項30】
シラン前駆物質を合成する方法であって、
末端基及び第一の反応性基を含む第一の化合物を提供する工程、
シラン基及び第二の反応性基を含む第二の化合物を提供する工程、
前記シラン前駆物質を提供するために前記第一の反応性基及び前記第二の反応性基間の反応を提供する工程、
を含み、
前記シラン前駆物質が、結合基によりシラン基に結合された末端基を有し、かつ前記シラン前駆物質が、有機−無機ハイブリッド網目構造物を形成するためのゾル−ゲル方法において重合性であることを特徴とする方法。
【請求項31】
前記反応が、求核置換反応又は求核付加反応である請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記反応がハロゲン原子及びチオール基間であるため、シラン前駆物質の結合基が、硫黄原子を含む請求項30記載の方法。
【請求項33】
前記末端基が、複素環である請求項30記載の方法。
【請求項34】
前記複素環が、含窒素複素環である請求項30記載の方法。
【請求項35】
前記複素環が、イミダゾール環である請求項30記載の方法。
【請求項36】
シラン基、
該シラン基に結合している結合基、及び
該結合基に結合している末端基、
を含み、
前記末端基が、孤立電子対を提供する1個以上の原子を含み、
前記原子が、窒素、硫黄、及び酸素からなる群から選択される、
ことを特徴とするシラン前駆物質。
【請求項37】
前記末端基が、含窒素複素環を含む請求項36記載のシラン前駆物質。
【請求項38】
前記結合基が、2個以上の炭素原子を含む請求項36記載のシラン前駆物質。
【請求項39】
前記シラン前駆物質が、前記シラン基を含む第一の化合物及び前記末端基を含む第二の化合物間の求核置換反応により合成される請求項36記載のシラン前駆物質。
【請求項40】
少なくとも第一の前駆物質及び第二の前駆物質の共重合から形成されたプロトン伝導性膜であって、
前記第一の前駆物質が、
第一の重合性基、
結合基、及び
末端基、
を含み、前記末端基が、結合基により第一の反応性基に結合していて、前記末端基が、孤立電子対を提供する1個以上の原子を含み、かつ
前記第二の前駆物質が、第二の重合性基を有する
ことを特徴とするプロトン伝導性膜。
【請求項41】
前記末端基が、複素環を含み、前記複素環が2個以上の窒素原子を含む請求項40記載のプロトン伝導性膜。
【請求項42】
前記末端基が、イミダゾール基又はベンズイミダゾール基を含む請求項40記載のプロトン伝導性膜。
【請求項43】
前記第一の前駆物質が、更に酸基を含む請求項40記載のプロトン伝導性膜。
【請求項44】
前記第二の前駆物質が、酸基を含む請求項40記載のプロトン伝導性膜。
【請求項45】
前記第一の重合性基及び第二の重合性基が、ともにシランであり、前記共重合がゾル−ゲル反応である請求項40記載のプロトン伝導性膜。
【請求項46】
無機−有機ハイブリッド網目構造物、
前記無機−有機ハイブリッド網目構造物に柔軟に結合した含窒素複素環、及び
前記無機−有機ハイブリッド網目構造物に結合した酸基、
を含む物質の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2007−504637(P2007−504637A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533487(P2006−533487)
【出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【国際出願番号】PCT/US2004/016897
【国際公開番号】WO2004/107477
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(505438890)トヨタ テクニカル センター ユーエスエイ インコーポレイテッド (15)
【出願人】(504466834)ジョージア テック リサーチ コーポレイション (17)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年5月28日(2004.5.28)
【国際出願番号】PCT/US2004/016897
【国際公開番号】WO2004/107477
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(505438890)トヨタ テクニカル センター ユーエスエイ インコーポレイテッド (15)
【出願人】(504466834)ジョージア テック リサーチ コーポレイション (17)
【Fターム(参考)】
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