説明

イリジウム又はイリジウム合金るつぼの製造方法

【解決課題】 使用時において、内部の溶湯の漏洩が生じ難いイリジウム製又はイリジウム合金製るつぼを製造する方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、イリジウム又はイリジウム合金からなる円筒形状の胴部と、イリジウム又はイリジウム合金からなる円板形状の底部とを溶接接合するるつぼの製造方法において、前記胴部と前記底部とを接合した後、るつぼ内面側の底コーナー部分の溶接部を再溶解・凝固させる工程を含む、イリジウム又はイリジウム合金るつぼの製造方法である。溶接部の再溶解は、溶接によるものが好ましく、このとき、溶接部の再溶解のための溶接の電流値を、胴部と底部とを溶接したとき電流値より低くことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イリジウム又はイリジウム合金からなるるつぼの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、LT素子やLN素子等の半導体素子の原材料となるタンタル酸リチウム単結晶、ニオブ酸リチウム単結晶のような金属酸化物単結晶は、チョクラルスキー法等により製造される。この方法では、タンタル酸リチウム等の金属酸化物をるつぼに投入して高周波誘導加熱等で溶解し、この溶湯から単結晶を引き上げるようにしている。
【0003】
これら金属酸化物単結晶を製造するためのるつぼとして、イリジウム又はイリジウム合金からなるるつぼ(以下、単にイリジウムるつぼと称するときがある。)が従来から使用されている。イリジウム及びその合金は、高温強度が高いことから、1400℃〜1900℃の温度域でも変形を生じさせることなく使用することができ、融点の高い金属酸化物の溶湯を保持するのに好適だからである。イリジウムるつぼについては、例えば、下記特許文献記載のものがある。
【特許文献1】特開2000−290739号公報
【特許文献2】特開2000−290740号公報
【0004】
図4は、イリジウムるつぼの一般的な製造方法を示す。溶解鋳造、圧延加工、切断等の各種加工方法を経てイリジウム等からなる板材及び丸板を成形し、板材を巻回し、両端部を突合せて溶接接合して円筒状の胴部を製造する。そして、この胴部に丸板を取り付け円周状に溶接接合して、有底円筒形状のるつぼとしている。尚、胴部の形成方法としては、上記のような板材の他、溶解鋳造により筒状のインゴットを製造し、これを回転させながら鍛錬しつつ成形しても良い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようにして製造される従来のイリジウムるつぼは、強度面からみれば十分な満足いくものである。しかしながら、従来のイリジウムるつぼにおいては、長期の使用に伴い、底部のコーナー部(隅部)からるつぼ内部の溶湯が漏洩することがある。かかる漏洩が発生した場合、金属酸化物単結晶の製造作業を一旦停止し、新品に交換する等の対応が必要となり効率的な製造の妨げになっていた。
【0006】
そこで、本発明は、上記のような溶湯の漏洩が生じ難いイリジウム製又はイリジウム合金製るつぼを製造するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記したるつぼ内の溶湯の漏洩について検討するに、溶接接合後のるつぼ内面の底コーナー部分に割れ、亀裂等が生じることがその要因と考えられる。即ち、胴部と底部とを溶接接合した際のるつぼ内面の底コーナー部分の溶接部には、図1(a)で示されるような突起が形成される。そして、この突起の根元部分は応力集中部となりうる。一方、金属酸化物単結晶の製造工程においては、開始時において金属酸化物の溶融のための加熱により熱膨張し、終了時の冷却により熱収縮するが、このようにして発生する熱応力の負荷が最も大きいのはるつぼ底部である。従って、底コーナー部分の溶接部は熱応力による破断が生じ易い。そして、破断が生じると、るつぼ断面を貫通する割れとなり、これが溶湯の漏洩の要因となる。
【0008】
上記のようなプロセスで生じる材料破断の発生を防止するためには、溶接部に生じた応力集中部となる突起を除去することが有効である。るつぼ内面へ突起が形成されること自体は、防止が困難だからである。そこで、本発明者等は、るつぼ内側底部に形成された突起を除去する方法として、溶接部を再度溶解し、凝固させるのが好適であるとして本発明に想到した。
【0009】
即ち、本発明は、イリジウム又はイリジウム合金からなる円筒形状の胴部と、イリジウム又はイリジウム合金からなる円板形状の底部とを溶接接合するるつぼの製造方法において、前記胴部と前記底部とを接合した後、るつぼ内面側の底コーナー部分の溶接部を再溶解・凝固させる工程を含む、イリジウム又はイリジウム合金るつぼの製造方法である。
【0010】
本発明により、再溶解・凝固後のるつぼ内面の底コーナー部分では、図1(b)で示すように、突起が消失し平滑となる。これにより応力集中部はなくなり、るつぼ底部に熱応力の負荷が掛かっても、破断し難くなり溶湯の漏洩を防止することができる。
【0011】
このるつぼ内面の底コーナー部分の溶接部の再溶解は、レーザービーム又は電子ビーム照射によっても可能であるが、溶接によるものが好ましい。作業雰囲気に制限がなく簡易に溶接部の再溶解が可能だからである。また、作業装置が低廉であり低コストで処理できる。
【0012】
ここで、るつぼ製造時に胴部と底部とを接合する際には、図4で示したように、るつぼの外側から溶接するのが一般的であり、この場合に突起が生じ易いが、底コーナー部分の溶接部の再溶解を溶接により行なう場合、この再溶解のための溶接の電流値は、胴部と底部とを溶接したときの電流値より低くすることが好ましい。外側の溶接時の溶接条件より弱い条件で溶接することで突起を過不足なく再溶解することができるからである。具体的には、胴部と底部とを外側から接合する場合の条件は、170〜200Aの電流でなされることが多いことから、溶接部の再溶解のための溶接の電流値は、これより5〜15%低くするのが好ましく、150〜180Aの範囲とするのが好ましい。このとき、溶接速度(トーチの移動速度)は、外側と内側を略等しくするのが好ましい。
【0013】
尚、本発明に係る方法により製造可能なるつぼの構成材料は、イリジウムに限られず、イリジウム合金も対象とすることができる。イリジウム合金としては、イリジウム−白金合金、イリジウム−パラジウム合金、イリジウム−ロジウム合金等からなるるつぼが製造できる。これらイリジウム合金は、純イリジウムよりも高温強度が高く、高温での安定性が高い。従って、本発明に係る方法により製造されるイリジウム合金るつぼは、その材料特性と相まって、高温での耐久性により優れたものとなる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、イリジウムるつぼの製造後に内面の底コーナー部分に形成された応力集中部となる突起を消失させることができる。これにより、操業時の熱応力の負荷による割れ、材料破断を防止することが可能となり、るつぼの寿命を長期化することができる。そしてその結果、金属酸化物単結晶等の製造効率を確保し、製造コストを低廉なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を比較例と共に説明する。まず、イリジウムを溶解・鋳造してイリジウムインゴットを製造した。次に、このインゴットを鍛造、圧延し、厚さ2mmの平板に加工した。これらの平板から、それぞれ48mm(L)×150mm(W)×2mm(t)の平板と、50mm(Φ)×2mm(t)の円板を切り出した。そして、角板は巻回して端部をつき合わせ溶接して円筒(胴部)とし、この円筒の底に前記の円板を溶接した。溶接は、円筒と円板とを重ねて形成される角を、外側から180Aの電流にて、1分間で1周するようにして溶接した。そして、この溶接の結果、るつぼ内面の底コーナー部分に突起が形成されていた。
【0016】
以上の工程によりイリジウムるつぼを2つ製造し、1つは比較例として、そのまま以下の評価試験に供し、もう一つのるつぼについて、内面底部の処理を行なった。底部の処理は、170Aの電流値にて1分間で1周するように溶接することにより行なった。この処理により、るつぼ内面の底コーナー部分に突起は消失した。
【0017】
そして、製造した2種のイリジウムるつぼの耐久性を評価すべく、双方のるつぼを大気中、1700℃で2時間加熱した後、徐冷した。その結果、内面を溶接処理した本実施形態に係るるつぼでは内面に底コーナー部分に割れ等の欠陥は見られなかった。一方、比較例のるつぼは、徐冷後そのコーナー部において多数の割れが生じているのが確認された。この割れは、貫通はしていないものの、長期の使用に伴う熱応力の負荷によりやがて貫通することが予測される。図2は、加熱試験後の本実施形態のるつぼ内面底コーナー部分の写真を示す。また、図3は、加熱試験後の比較例のるつぼ内面底コーナー部分の写真を示す。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の方法(a)、及び、本発明に係る方法(b)により製造されるるつぼの底コーナー部分の断面を示す図。
【図2】本実施形態の加熱試験後のるつぼ内面の底コーナー部分の写真。
【図3】比較例の加熱試験後のるつぼ内面の底コーナー部分の写真。
【図4】従来のるつぼの製造工程を説明する図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリジウム又はイリジウム合金からなる円筒形状の胴部と、イリジウム又はイリジウム合金からなる円板形状の底部とを溶接接合するるつぼの製造方法において、
前記胴部と前記底部とを接合した後、るつぼ内面側の底コーナー部分の溶接部を再溶解・凝固させる工程を含む、イリジウム又はイリジウム合金るつぼの製造方法。
【請求項2】
溶接部の再溶解は、溶接によるものである請求項1記載のイリジウム又はイリジウム合金るつぼの製造方法。
【請求項3】
胴部と底部との接合は、るつぼの外側から溶接するものであり、
溶接部の再溶解のための溶接の電流値を、胴部と底部とを溶接したときの電流値より低くする請求項2記載のイリジウム又はイリジウム合金るつぼの製造方法。
【請求項4】
溶接部の再溶解のための溶接の電流値を、150〜180Aとする請求項3記載のイリジウム又はイリジウム合金るつぼの製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−205200(P2006−205200A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19753(P2005−19753)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
【Fターム(参考)】