説明

インクジェットによる液体の吐出方法およびインクジェット装置

【課題】ノズルの開口部が小さいインクジェット装置であっても、液体を高精度で吐出する方法を提供すること。
【解決手段】インクジェット装置のアクチュエータに、1駆動周期内に駆動パルスをn〔nは2以上の整数である〕回供給することで、前記液体を吐出する方法において:m〔mは1から(n−1)までの整数である〕回目の前記駆動パルスによってノズルから押し出され、かつ飛翔していない液滴を、m+1回目の前記駆動パルスによってノズルから押し出された液滴と合体させ、さらにn回目の前記駆動パルスによって前記合体した液滴を飛翔させ、液体を吐出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットによる液体の吐出方法およびインクジェット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット装置は、インクジェットヘッドに収容された液体を吐出することで印字を行う装置である。インクジェット装置に搭載されるインクジェットヘッドは、インクを収容する圧力室と、圧力室に連通するノズルと、ノズルからインクを吐出させるように圧力室内のインクに圧力を付与するアクチュエータとを備えている。また、インクジェット装置は、アクチュエータに駆動信号を供給する駆動信号供給手段を備えている。ヘッドの小型化等のため、アクチュエータとしては、圧電素子を有するものがよく用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近年このようなインクジェット装置は、有機ELディスプレイや液晶パネルなどの電子デバイスの製造に適用されている。インクジェット装置で、有機ELディスプレイや液晶パネルを製造するには、インクジェットヘッドに有機発光材料を含むインクや、液晶材料などの機能液を供給し、準備したパネルに印刷すればよい。
【0004】
インクジェット装置を電子デバイスの製造に適用する場合、インクジェット装置には、高い印刷精度が求められる。このため、インクジェット装置を電子デバイスの製造に適用する場合、印刷精度を上げるために、より小さい開口部を有するノズルを含むインクジェットヘッドが用いられる。
【0005】
また、ノズルから2以上の液滴を吐出し、後から吐出する液滴の吐出速度を先に吐出する液滴の吐出速度よりも速くすることにより、同一のノズルから吐出された2つの液滴同士を飛翔中に合体させ、一つの液滴にしてから着弾させる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。このような方法では、飛翔中に合体させる液滴の数を調整することで、記録媒体上のインクドッドの大きさを調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−205285号公報
【特許文献2】特開2003−175601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のように小さい開口部のノズルを有するインクジェットヘッドを用いて印刷した場合、印刷条件によって液体の吐出精度が低下することがあった。例えば、高分子有機EL材料を含む溶液など粘度の高い液体を吐出する場合や、吐出開始直後などは、液滴の吐出角度が安定せず、液滴の直進性が低下し、インクジェット装置の印刷精度が低下することがあった。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、小さい開口部のノズルを有するインクジェットヘッドから高精度で液体を吐出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ノズルから飛翔させる液滴の重量を増加させることで、飛翔する液滴の直進性が向上し、液体の吐出精度が向上することを見いだして本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明の第1は、以下に示す液体の吐出方法に関する。
[1]所定の液体を収容する圧力室と、前記圧力室と連通するノズルと、前記圧力室内の液体に圧力を付与するアクチュエータと、を有するインクジェットヘッドから、前記アクチュエータに1駆動周期内に駆動パルスをn回〔nは2以上の整数である〕供給することで、前記液体を吐出する方法であって、m回目〔mは1から(n−1)までの整数である〕の前記駆動パルスによってノズルから押し出され、かつ飛翔していない液滴を、m+1回目の前記駆動パルスによってノズルから押し出された液滴と合体させるステップ、およびn回目の前記駆動パルスによって前記合体した液滴を飛翔させて、前記液体を吐出するステップ、を有する液体の吐出方法。
[2]m回目の前記駆動パルスのパルス周期をTとし、m+1回目の前記駆動パルスのパルス周期をTm+1としたときに、T≦Tm+1である、[1]に記載の吐出方法。
[3]m回目の前記駆動パルスのパルス電圧をVとし、m+1回目の前記駆動パルスのパルス電圧をVm+1としたときに、V≦Vm+1である、[1]または[2]に記載の吐出方法。
[4]前記駆動パルスのパルス周期Tは、前記アクチュエータの固有振動周期Taに対して、0.5Ta≦T≦1.5Taである、[1]〜[3]のいずれか一つに記載の吐出方法。
[5]n回目の前記駆動パルスを前記アクチュエータに供給した後に、前記n回目の駆動パルスとは逆位相の波形を有するパルスを前記アクチュエータに供給するステップをさらに有する、[1]〜[4]のいずれか一つに記載の吐出方法。
【0011】
本発明の第2は、以下に示すインクジェット装置に関する。
[6]所定の液体を収容する圧力室と、前記圧力室と連通するノズルと、前記圧力室内の液体に圧力を付与するアクチュエータと、を有するインクジェットヘッド;および前記アクチュエータに1駆動周期内にn回〔nは2以上の整数である〕の駆動パルスを有する駆動信号を供給する駆動信号供給手段;を有するインクジェット装置であって、前記駆動信号は、m回目〔mは1から(n−1)までの整数である〕の前記駆動パルスによってノズルから押し出され、かつ飛翔していない液滴が、m+1回目の前記駆動パルスによってノズルから押し出された液滴と合体し、かつ、n回目の前記駆動パルスによって前記合体した液滴が飛翔するように調整されている、インクジェット装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ノズルの開口部が小さい場合であっても、ノズルから飛翔する液滴の重量を増大することができ、飛翔する液滴の直進性が向上し、インクジェット装置の印刷精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】液体の吐出角度を示す図
【図2】実施の形態1のインクジェット装置の構成図
【図3】実施の形態1の駆動信号供給手段が形成する駆動信号の波形を示す図
【図4】実施の形態1の吐出方法を示す図
【図5】実施の形態2の駆動供給手段が形成する駆動信号の波形を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.インクジェット装置について
本発明のインクジェット装置は、インクジェットヘッドと、駆動信号供給手段と、を有する。本発明のインクジェット装置は、後述するように駆動信号供給手段が供給する駆動信号の波形に特徴を有する。
【0015】
インクジェットヘッドは、インクジェット装置のうち、液体の吐出を行う部材である。インクジェットヘッドは、インクを収容する複数の圧力室と各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルと、各圧力室内の液体に圧力を付与する複数のアクチュエータとを有する。
【0016】
圧力室は、リザーバなどの液体補給部から供給された液体を収容するための空間である。圧力室は、通常供給口を介してリザーバに接続されている。
【0017】
圧力室に供給される液体は、印刷する対象物によって適宜選択される。例えば対象物が有機ELパネルである場合、圧力室に供給される液体は、PEDOT:PSSなどの正孔注入材料や、発光材料等の有機発光物質を含有する溶液である。また、対象物が液晶パネルである場合、圧力室に供給される液体は、液晶材料等の高粘度の機能液である。
【0018】
本発明では、圧力室に供給される液体の粘度が高いことが好ましい。具体的には、圧力室に供給される液体の粘度は、1〜40mPasであることが好ましい。液体の粘度を上げるには溶質の濃度を上げるか、溶媒の粘度を上げればよい。また、圧力室に供給される液体の表面張力は、例えば10〜75mN/mであり、圧力室に供給される液体の密度は、例えば0.7〜1.2g/cmである。このような液体の例には、高分子有機EL材料を0.1〜2wt%含む溶液などが含まれる。圧力室に供給される液体の粘度が高いと、ある一の駆動パルスによってノズルから押出された液滴が飛翔する前に、次のパルスによって押出された液滴と合体することが容易になる(後述)。
【0019】
アクチュエータは、入力されたエネルギを物理的なエネルギへと変換し各圧力室内の液体に圧力を付与するための機構である。アクチュエータは、例えばヒータまたは圧電素子を有する。
【0020】
圧電素子を有するアクチュエータは、圧電素子と圧電素子に電圧を印加するための電極とを有するピエゾ式のアクチュエータであって、特に、たわみ振動型のアクチュエータであることが好ましい。この場合、アクチュエータは、圧力室を縮小または拡大させることで圧力室内の圧力を変化させ、ノズルの開口部から液滴を押し出したり、圧力室に液体を充填したりする。一方、ヒータを有するアクチュエータは、圧力室内の液体を気化させ、そのときに生じた泡の体積変化によって液体に圧力を付与する。
【0021】
ノズルは、圧力室と連通し、開口部を有する管である。ノズルの開口部からは液体が吐出される。本発明のノズルの開口部の径は10〜100μmであることが好ましい。
【0022】
駆動信号供給手段は、アクチュエータに接続されており、駆動信号をアクチュエータに供給する。駆動信号供給手段は、駆動信号発生回路および選択回路を有していてもよい。駆動信号発生回路は、外部から入力された駆動制御信号の指示に応じて、駆動信号を選択回路に出力する。選択回路は、選択すべき駆動信号の情報に基づいて、駆動信号発生回路から出力された複数の駆動信号のうち、所定の駆動信号を選択し、選択した駆動信号をアクチュエータに供給する。
【0023】
本発明のインクジェット装置を用いて有機ELパネルを製造する場合には、インクジェット装置を含む有機ELパネルの製造装置を用意し、有機ELパネルの製造装置を制御する主制御部から「駆動制御信号」および「選択すべき駆動信号の情報」を出力すればよい。
【0024】
本発明のインクジェット装置は、駆動信号供給手段によって供給される駆動信号が、1駆動周期内に2以上の駆動パルスを有することを特徴とする(図3参照)。ここで「1駆動周期」とは、ノズルの開口部から1つのドットパターンを印字するために、アクチュエータが動作する時間を意味する。「駆動パルス」とは、圧力室をいったん減圧してから加圧するようにアクチュエータを駆動し、かつノズルから液体を吐出するための最小の電圧以上のパルス電圧を有するパルスを意味する。駆動信号供給手段によって供給される駆動信号の詳細は、以下の吐出方法において説明する。
【0025】
2.液体の吐出方法について
本発明の液体の吐出方法は、上述のインクジェット装置を用いて、インクジェットヘッドから液体を吐出することを特徴とする。
【0026】
本発明の吐出方法は、
第1ステップ:n回(nは2以上の整数である)の駆動パルスのそれぞれによりノズルから押出される液滴を合体させるステップと、
第2ステップ:第1ステップで合体させた液滴を飛翔させて、液体を吐出するステップと、を有する(図4参照)。
【0027】
具体的には第1ステップにおいて、駆動信号供給手段に、1駆動周期内にn個の駆動パルスを有する駆動信号をアクチュエータに供給させる。ここでnは2以上の整数を意味する。つまり、1回の液体の吐出を、複数回の駆動パルスで実現する。そのために、m回目の駆動パルスによってノズルから押出された液滴が飛翔する前に、(m+1)回目の駆動パルスを供給する。それにより、m回目の駆動パルスによってノズルから押出された液滴が、飛翔前にm+1回目の駆動パルスによってノズルから押出された液滴と合体する。ここでmは、1から(n−1)までの整数を示し、n=2であれば前記合体は1回だけであるが;n=3以上であれば前記合体を(n−1)回繰り返す。
【0028】
各駆動パルスの強度(例えばパルス電圧)は、ノズルから液滴を吐出させることができる最小強度以上の強度であることが好ましい。各駆動パルスによりノズルから押出される液滴の量を十分な量とすることで、合体後の液滴の量を十分に多くするためである。ノズルから液滴を吐出させることができる最小強度は、液体の粘度や、圧力室やノズル形状などに応じて調整が必要である。
【0029】
前記液滴の合体を実現するには、駆動信号の「パルス電圧」や、駆動信号の「パルス周期」などを適切に設定すればよい。「パルス電圧」とは、押出し動作が始まる立下り部の始点と押出し動作が終わる立下り部の終点との間の電位差を意味する(図3参照)。また、「パルス電圧」とは、引き込み動作が終わる立上り部の終点と押出し動作が終わる立下り部の終点との間の電位差であってもよい(図3参照)。パルス周期とは、駆動パルスの電位維持部の始点と立下り部の終点との間の時間を意味する(図3参照)。
【0030】
具体的には、m回目の駆動パルスのパルス電圧をVとし、(m+1)回目の駆動パルスのパルス電圧をVm+1としたときに、V≦Vm+1になるように調整することが好ましい。パルス電圧を徐々に上げることで、m回目の駆動パルスによってノズルから押出された液滴が、飛翔する前に、m+1回目の駆動パルスによって押出された液滴に取り込まれて合体しやすくなる(図4参照)。前記の通り、全てのパルス電圧は、ノズルから液滴を吐出させることができる最小の電圧以上であればよい。また、パルス電圧の上限は、アクチュエータの破壊限界強度に応じて適宜調節されることが好ましい。
【0031】
次に、m回目の駆動パルスのパルス周期をTとし、m+1回目の駆動パルスのパルス周期をTm+1としたときに、T≦Tm+1になるように調整することが好ましい。つまり、駆動パルスのパルス周期を徐々に長くすることが好ましい。パルス周期を徐々に長くすることで、m回目の駆動パルスによってノズルから液滴を押出した後に、圧力室内に十分量の液体を補給(充填)することができ、かつm+1回目の駆動パルスによりノズルから押出される液適量が十分量となるので、m回目の駆動パルスによってノズルから押出された液滴と合体しやすい。
【0032】
さらに、駆動パルスのパルス周期Tはいずれも、アクチュエータの固有振動周期をTaとしたとき、0.5Ta≦T≦1.5Taであることが好ましい。ノズルから押出された液滴の液面の共振周期に同期して駆動パルスを供給するためである。それにより、ノズルから押出された液滴が安定するので、次の駆動パルスによりノズルから押出される液滴と合体しやすい。パルス周期Tが上記範囲を外れると、ノズルから液滴が押し出されなかったり、押し出された液滴がバラバラになったりする。アクチュエータの固有振動周期をTaは、通常1〜50μ秒である。
【0033】
また、駆動パルスの電圧変化時間をTcとしたとき、V/α≦Tc≦0.5Tであることが好ましい。ここで、αとはアクチュエータの追従可能限界勾配(V/μs)を意味する。また、駆動パルスの電圧変化時間とは、立上り部の始点と立上り部の終点との間の時間および立下り部の始点と立下り部の終点との間の時間を意味する(図3参照)。Tcが、V/α以上であると、駆動パルスの波形にアクチュエータの駆動が追従する。これにより、吐出する液体の量のコントロールが容易になる。一方、Tcが0.5T以上であると、十分なパルス電圧が得られなくなり、液体の吐出が困難になるので好ましくない。
【0034】
さらに、m回目の駆動パルスの供給が終了してから、(m+1)回目のパルスの供給が開始するまでのインターバル(電位維持部)の長さTiは、m回目のパルス周期(Tm)の0.5倍以下であることが好ましい(図3参照)。また、1パルス周期内における電位維持部の長さTiと、駆動パルスのパルス幅Tpとの比率は、1:1〜1:3であることが好ましい(図3参照)。
【0035】
上述のように、第1ステップにおいて、駆動信号におけるn個の駆動パルスのそれぞれのパルス周期やパルス電圧などを調整することで、m回目の駆動パルスによってノズルから押出された液滴が、飛翔する前に、m+1回目の駆動パルスによってノズルから押出された液滴と合体することができる。合体後の液滴の量は、各駆動パルスによってノズルから押出される液滴の量よりも大きくなる。例えば、第1ステップで得られる合体後の液滴の量は、2〜20plとすることができる。
【0036】
第2ステップにおいて、第1ステップでの合体により得られた液滴を、n回目の駆動パルスの供給後にノズルから飛翔させて液体を吐出する。n回目の駆動パルスの供給後に、液滴をノズルから飛翔させるには、n回目の駆動パルスの供給後に駆動パルスを供給せずに、駆動パルスの供給を停止すればよい。
【0037】
前記の通り、第1ステップで得られる合体後の液滴の量は、各駆動パルスによってノズルから押出された液滴の量よりも多くなる。したがって、ノズルから飛翔する液滴の重量も増大する。このように第2ステップでは、重量が増大した液滴をノズルから飛翔させることができるので;特に、ノズルの開口部が小さく、飛翔させる液滴を大きくすることが困難な場合であっても、ノズルから飛翔する液滴を大きくすることができる。
【0038】
ノズルから飛翔する液滴の重量が大きいと、液滴の吐出精度を向上させることができる。「液滴の吐出精度が向上する」とは、例えば、ノズルから飛翔した液滴の直進性が向上することをいう。
【0039】
表1には、粘度:1〜40mPas、表面張力:10〜75mN/m、密度:0.7〜1.2g/cmの液体を、本発明の吐出方法で吐出した場合と、従来の吐出方法(駆動信号が1駆動周期内に1つの駆動パルスのみを有する方法)で吐出した場合との、吐出された液滴の「径」、「体積」および「吐出角度範囲」についての比較結果が示される。ここで吐出角度とは図1に示されるように、ノズル101の中心軸Xと、ノズル101から吐出された液滴D10とのずれを表した角度αを意味する。したがって吐出角度の範囲が小さいほど吐出精度が高い。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示されるように、本発明の吐出方法では、吐出される液滴の径および体積が、従来の吐出方法で吐出される液滴よりも大きいことがわかる。そして、本発明の吐出方法によれば、吐出角度の範囲(8.7mrad)が、従来の吐出方法の吐出角度(22mrad)の範囲の半分以下にすることができることがわかる。これは、本発明の吐出方法による吐出を安定にすることができることを支持する。
【0042】
また本発明は、第2ステップ後に、第1ステップおよび第2ステップで印加した駆動パルスとは逆位相の波形を有する補助パルスを供給するステップを有していてもよい(実施の形態2参照)。最後の駆動パルス後に逆位相の補助パルスを印加することで、メニスカスを安定させることができる。
【0043】
以下、本発明のインクジェット装置およびインクジェットヘッドを用いた液体の吐出方法について、図面を参照しながら説明する。
【0044】
[実施の形態1]
図2に、本発明の液体吐出方法を実現するインクジェット式記録装置の主要部の概略構成を示す。図2に示されるようにインクジェット式記録装置10は、インクジェットヘッド100と、インクジェットヘッド100に駆動信号を供給する駆動信号供給手段150と、を有する。
【0045】
図2に示されるようにインクジェットヘッド100は、ノズル101が形成されたノズルプレート103と、圧力室105及びリザーバ107を区画する区画壁109とが積層されて構成されている。区画壁109の上には、アクチュエータ110が積層されている。ノズルプレート103は、例えば厚さ20μmのポリイミド板であり、区画壁109は、例えば厚さ480μmのステンレス製ラミネート板またはステンレスと感光性ガラスとのラミネート板である。圧力室105は、リザーバ107から供給された液体120が収容されている。
【0046】
アクチュエータ110は、圧力室105を覆う振動板111と、振動板111を振動させる薄膜の圧電素子113と、個別電極115とが順に積層されて構成されている。アクチュエータ110は圧電素子113の圧電効果を利用するものであって、いわゆる圧電アクチュエータである。振動板111は、例えば厚さ2μmのクロム板であり、個別電極115と共に圧電素子113に電圧を印加するための共通電極として機能する。
【0047】
圧電素子113は、例えば厚さ0.5μm〜5μmのPZT(ジルコル酸チタン酸鉛)である。個別電極115は、例えば厚さ0.1μmの白金板であり、アクチュエータ110の全体の厚さは、例えば約5μmである。
【0048】
駆動信号供給手段150は、駆動信号発生回路151と選択回路153とを有する。駆動信号発生回路151は、主制御部から出力された駆動制御信号の指示に応じた駆動信号を選択回路153に出力する。駆動信号は、選択回路153によって選択され、アクチュエータ110に供給される。
【0049】
図3は実施の形態1の駆動信号供給手段150によってアクチュエータ110に供給される駆動信号の波形を示す。図3に示されるように、本実施の形態では、駆動信号Pは、第1駆動パルスP1および第2駆動パルスP2を有する。第1駆動パルスP1および第2駆動パルスP2は、圧力室105をいったん減圧してから加圧し、液体が吐出するようにアクチュエータ110を駆動するパルスである。
【0050】
第1駆動パルスP1は、基準電位Vmを維持する電位維持部P11と、立上り部P12と、ピークホールド部P13と、立下り部P14とからなる。立上り部P12は圧力室105内を減圧するようにアクチュエータ110を駆動する電位であり、立下り部P14は圧力室105内を加圧するようにアクチュエータ110を駆動する電位である。
【0051】
第2駆動パルスP2は、基準電位Vmを維持する電位維持部P21と、立上り部P22と、ピークホールド部P23と、立下り部P24とからなる。立上り部P22は圧力室105内を減圧するようにアクチュエータ110を駆動する電位であり、立下り部P24は圧力室105内を加圧するようにアクチュエータ110を駆動する電位である。
【0052】
図3に示されるように第1駆動パルスのパルス周期T1は、第2駆動パルスP2のパルス周期T2よりも短い。
【0053】
また、アクチュエータの固有振動周期をTaとしたとき、第1駆動パルスP1および第2駆動パルスP2のパルス周期T(T1とT2)は、いずれも以下の条件を満たす。
0.5Ta≦T≦1.5Ta
【0054】
また、第2駆動パルスP2の電位維持部P21の長さTi(第1駆動パルスP1と第2駆動パルスP2との間隔)はパルス周期T1の0.5倍以下である。また、電位維持部P21の長さTiと第2駆動パルスP2のパルス幅Tpとの比率は1:1〜1:3である。
【0055】
さらに、駆動パルスの電圧変化時間Tcは、V/α以上であり0.5T以下である。αとはアクチュエータの追従可能限界勾配(V/μs)を意味する。また、駆動パルスの電圧変化時間とは、立上り部(P12、P22)の始点と立上り部の終点との間の時間および立下り部(P14、P24)の始点と立下り部の終点との間の時間を意味する。
【0056】
また、図3に示されるように第1駆動パルスP1のパルス電圧V1は、第2駆動パルスP2のパルス電圧V2よりも小さい。また、第1駆動パルスP1および第2駆動パルスP2のパルス電圧Vは、いずれも吐出最小電圧以上である。
【0057】
次に、上述した駆動信号をアクチュエータに供給し、液体を吐出する方法について説明する。図4に示されるように、液体の吐出方法は、1)合体した液滴D10を形成する第1ステップ(図4A1〜図4A5)、2)合体した液滴D10を飛翔させ、液体を吐出する第2ステップ(図4B1、図4B2)を有する。以下、第1ステップと第2ステップとに分けて駆動信号と液体の挙動との関係について説明する。
【0058】
1)第1ステップについて
図4A1は、第1駆動パルスP1の電位維持部P11時点のノズル101の開口部付近の液体120の挙動を示す。図4A1に示されるように第1駆動パルスP1の電位維持部P11時点では、液体120は静止している。
【0059】
図4A2は、第1駆動パルスP1のピークホールド部P13時点のノズル101の開口部付近の液体120の挙動を示す。図4A2に示すように、ピークホールド部P13では、ピークホールド部P13の前の立上り部P12によって、圧力室105内が減圧されたことにより、ノズル101の開口部の液体120は、圧力室105内に引き込まれている。また、圧力室105内が減圧されたことにより、所定の液体120がリザーバ107から圧力室105内に供給される。
【0060】
図4A3は、第2駆動パルスP2の電位維持部P21時点のノズル101の開口部付近の液体120の挙動を示す。図4A3に示すように、電位維持部P21時点では、第1駆動パルスP1の立下り部P14によって、圧力室105内が加圧されたことにより、液体120がノズル101の開口部から押し出されて液滴D1が形成される。
【0061】
図4A4は、第2駆動パルスP2のピークホールド部P23時点のノズル101の開口部付近の液体120の挙動を示す。図4A4に示すように、ピークホールド部P23時点では、ピークホールド部P23の前の立上り部P22によって、圧力室105内が減圧されたことにより、ノズル101の開口部の液体120は、圧力室105内に引き込まれている。また、圧力室内が減圧されたことにより、所定の液体120がリザーバ107から圧力室105内に供給される。上述のように本実施の形態では第2駆動パルスP2のパルス周期T2が第1駆動パルスのパルス周期T1よりも長いことから、圧力室105内に液体120を供給するための時間が確保され、液滴D1の形成によって減少した分の液体120を圧力室105内に供給することができる。一方、液滴D1は飛翔していない。
【0062】
図4A5は、第2駆動パルスP2後の電位維持部P3時点のノズル101の開口部付近の液体120の挙動を示す。図4A5に示すように、電位維持部P3時点では、第2駆動パルスP2の立下り部P24によって、圧力室105内が加圧されたことにより、液体120がノズル101の開口部から押し出されて液滴D2が形成される。上述のように本実施の形態では第2駆動パルスP2のパルス電圧V2が第1駆動パルスのパルス電圧V1より大きいことから、液滴D2が押し出される速度は、液滴D1が押し出される速度よりも速い。これにより、液滴D2は、飛翔していない液滴D1と合体し、合体した液滴D10を形成することができる。このように第1ステップでは、第1駆動パルスP1によって形成された液滴D1と第2駆動パルスP2によって形成された液滴D2とを、飛翔前に合体させることで、重量の大きい液滴D10を形成する。
【0063】
2)第2ステップについて
第2ステップでは、図4B1および図4B2に示されるように、第2駆動パルスP2後、駆動パルスを停止することで、液滴D10がノズル101の開口部から飛翔し、液体が吐出される。
【0064】
このように本実施の形態では、2つの駆動パルスによって押し出された液滴を、液滴がノズルから飛翔する前に合体させることから、液滴の重量が増加する。これにより液体の吐出精度が向上する。
【0065】
[実施の形態2]
実施の形態2では、液体を吐出した後、メニスカス振動を抑制するために、圧電素子に補助パルスを印加するステップを有する態様について説明する。
【0066】
実施の形態2のインクジェット装置は、駆動信号供給手段が供給する駆動信号の波形が異なる以外は、実施の形態1のインクジェット装置と同じである。したがって、実施の形態2では、駆動信号形成手段が供給する駆動信号の波形について説明する。
【0067】
図5は実施の形態2の駆動信号形成手段によって形成された駆動信号を示す。図5に示されるように実施の形態2における駆動信号Pは、第1駆動パルスP1、第2駆動パルスP2、第1補助パルスPh1および第2補助パルスPh2を有する。第1駆動パルスP1および第2駆動パルスP2は実施の形態1と同じである。
【0068】
第1補助パルスPh1は、第2駆動パルスP2とは逆位相の波形を有するパルスであり、駆動パルスによって生じた残留振動を打ち消すための信号である。第1補助パルスPh1は、電位維持部Ph11と、立下り部Ph12と、ピークホールド部Ph13と、立上り部Ph14とからなる。第1補助パルスPh1のパルス電圧Vh1は、第2駆動パルスP2のパルス電圧V2よりも小さく、第2補助パルスPh2のパルス電圧Vh2よりも大きいことが好ましい。
【0069】
ここで、第1補助パルスPh1のパルス電圧Vh1とは、立上り部Ph14の始点と立上り部Ph14の終点との電位差を意味する。また、立下り部Ph11の始点と立下り部Ph11の終点との電位差Vh0は0であってもよい。すなわち第1補助パルスPh1は、電位維持部Ph11および立下り部Ph12を有さなくてもよい。
【0070】
第2補助パルスPh2は、第1補助パルスPh1によって新たに生じた残留振動を打ち消すための信号である。したがって、第1補助パルスPh1によって残留振動が新たに生じない場合は、第2駆動パルスPh2はなくてもよい。
【0071】
第2補助パルスPh2は、立上り部Ph21と、ピークホールド部Ph22と、立下りPh23とからなる。第2補助パルスPh2のパルス周期Th2は、アクチュエータの固有振動周期Ta以下であることが好ましい。また、第2補助パルスPh2のパルス電圧Vh2は、吐出最小電圧以下である。
【0072】
本発明では、1駆動周期内に複数の駆動パルスが供給されることから、1駆動周期内に駆動パルスのパルス周期が占める割合が大きい。このため最後の駆動パルスの供給後、次の駆動周期が始まるまでに液体の残留振動が停止しないことがある。液体の残留振動が停止する前に次の駆動周期が始まると、次の駆動周期で液体を適切に吐出できないおそれがある。一方、本実施の形態のように最後の駆動パルス後に、駆動パルスとは逆位相の波形を有するパルスをアクチュエータに供給すると、次の駆動周期までに残留振動を確実に停止させることができる。このため、本実施の形態によれば、連続的に安定して液滴を吐出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば高精度で液体を吐出することができることから、有機ELディスプレイや液晶パネルなどの電子デバイスの製造に適用されうる。
【符号の説明】
【0074】
10 インクジェット式記録装置
100 インクジェットヘッド
101 ノズル
103 ノズルプレート
105 圧力室
107 リザーバ
109 区画壁
110 アクチュエータ
111 振動板
113 圧電素子
115 個別電極
120 液体
150 駆動信号供給手段
151 駆動信号発生回路
153 選択回路




【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の液体を収容する圧力室と、前記圧力室と連通するノズルと、前記圧力室内の液体に圧力を付与するアクチュエータと、を有するインクジェットヘッドから、前記アクチュエータに1駆動周期内に駆動パルスをn回〔nは2以上の整数である〕供給することで、前記液体を吐出する方法であって、
m回目〔mは1から(n−1)までの整数である〕の前記駆動パルスによってノズルから押し出され、かつ飛翔していない液滴を、m+1回目の前記駆動パルスによってノズルから押し出された液滴と合体させるステップ、および
n回目の前記駆動パルスによって前記合体した液滴を飛翔させて、前記液体を吐出するステップ、を有する液体の吐出方法。
【請求項2】
m回目の前記駆動パルスのパルス周期をTとし、m+1回目の前記駆動パルスのパルス周期をTm+1としたときに、T≦Tm+1である、請求項1に記載の吐出方法。
【請求項3】
m回目の前記駆動パルスのパルス電圧をVとし、m+1回目の前記駆動パルスのパルス電圧をVm+1としたときに、V≦Vm+1である、請求項1に記載の吐出方法。
【請求項4】
前記駆動パルスのパルス周期Tは、前記アクチュエータの固有振動周期Taに対して、0.5Ta≦T≦1.5Taである、請求項1に記載の吐出方法。
【請求項5】
n回目の前記駆動パルスを前記アクチュエータに供給した後に、前記n回目の駆動パルスとは逆位相の波形を有するパルスを前記アクチュエータに供給するステップをさらに有する、請求項1に記載の吐出方法。
【請求項6】
所定の液体を収容する圧力室と、前記圧力室と連通するノズルと、前記圧力室内の液体に圧力を付与するアクチュエータと、を有するインクジェットヘッド;および
前記アクチュエータに1駆動周期内にn回〔nは2以上の整数である〕の駆動パルスを有する駆動信号を供給する駆動信号供給手段;を有するインクジェット装置であって、
前記駆動信号は、m回目〔mは1から(n−1)までの整数である〕の前記駆動パルスによってノズルから押し出され、かつ飛翔していない液滴が、m+1回目の前記駆動パルスによってノズルから押し出された液滴と合体し、かつ、n回目の前記駆動パルスによって前記合体した液滴が飛翔するように調整されている、インクジェット装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−253884(P2010−253884A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109468(P2009−109468)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】